説明

油脂硬化剤、それが添加された硬化油代替物及びそれが用いられた食品

【課題】水素添加を行なわずに油脂に添加することによって油脂を硬化させる油脂硬化剤、それが添加された硬化油代替物及びそれが用いられた食品を提供する。
【解決手段】サイクロデキストリン及び多糖類を含有することを特徴とする油脂硬化剤、その油脂硬化剤を油脂に添加することによって硬化された硬化油代替物及びそれが用いられた食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂に添加することによって水素添加を行なわずに油脂を硬化させる油脂硬化剤、それが添加された硬化油代替物及びそれが用いられた食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油脂を水素添加することによって硬化された硬化油が、ショートニングをはじめ多くの食品に使用されている。水素添加は、油脂(トリグリセリド)の分子中の脂肪酸部分において不飽和結合の一部あるいは全部を飽和結合に変えること、すなわち水素を付加することであり、水素添加により油脂は熱に対して安定となり融点が高くなる。水素添加は一般に水素ガスと、ラネーニッケルなどの触媒を使用した化学反応により行われている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−238597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水素添加の過程において、脂肪酸の不飽和結合に水素が付加されるだけでなく、水素が付加されずに脂肪酸が異性化してその異性体(トランス脂肪酸)もまた生成することが知られている。この異性化の仕方にも様々のケースがあることから、水素添加によって得られる油脂の組成は、複雑なものとなる。近年、このトランス脂肪酸が、健康に余り好ましくないという報告がなされることからトランス脂肪酸をなるべく含まない硬化油が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、水素添加を行なわずに油脂に添加することによって油脂を硬化させる油脂硬化剤、それが添加された硬化油代替物及びそれが用いられた食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、サイクロデキストリン及び多糖類を油脂に添加することによって水素添加を行なわずに油脂を硬化させることができることを見出した。すなわち、本発明は、サイクロデキストリン及び多糖類を含有することを特徴とする油脂硬化剤、その油脂硬化剤を油脂に添加することによって硬化された硬化油代替物及びそれが用いられた食品である。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明によれば、水素添加を行なわずに油脂に添加することによって油脂を硬化させる油脂硬化剤、それが添加された硬化油代替物及びそれが用いられた食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る硬化油代替物は、60〜70℃の比較的高温であっても、分離が生じず保形性を保ち、溶解して液状になることはないという特徴を有する。すなわち、従来の水素添加により得られた硬化油は、温度依存性が高く、室温においては、硬い蝋状を呈しているが、60〜70℃で溶解して液状になってしまうため、油脂により保形性を持たせている食品などの高温においての使用は、困難である。これに対し、本発明に係る硬化油代替物は、高温においても、保形性を保たせることが可能なので、様々な食品に用いることができる。
【0009】
本発明に係る油脂硬化剤において、サイクロデキストリンと多糖類の配合比は、1:0.008〜20であることが好ましく、1:0.05〜10であることがさらに好ましい。
【0010】
本発明に係る油脂硬化剤に含有されるサイクロデキストリンは、特に限定されず、α、β、γおよび分岐のα、β、γ等の様々なサイクロデキストリンを使用することができるが、これらのうち水への溶解度の高いαサイクロデキストリンが特に好ましい。本発明に係る硬化油代替物において、添加されるサイクロデキストリンの添加量は、0.1〜10%であることが好ましく、0.3〜7%であることがさらに好ましく、0.5〜5%であることがさらに好ましい。
【0011】
本発明に係る油脂硬化剤に含有される多糖類は、寒天、低強度寒天、κカラギナン、ιカラギナン、λカラギナン、ファーセレラン、アルギン酸ナトリウム、カシアガム、グアーガム、グアーガム分解物、ローカストビーンガム、タラガム、フェヌグリークガム、タマリンドガム、グルコマンナン、ペクチン、キサンタンガム、加熱処理したキサンタンガム、ジェランガム、ネーティブジェランガム、カードラン、デンプン、及び化工デンプンのうち少なくとも1以上であることが好ましい。低強度寒天とは、寒天を熱や酸などで処理することによって、分子量8000〜100000に調整されたものをいう。また加熱処理したキサンタンガムとは、特開平10−33125、特開2003−192703に示されたキサンタンガム等をいう。これら多糖類を使用することにより、硬化油代替物の保形性を増すことができ、また口腔内での溶解を遅くすることで油脂としてのボディー感が増し、より濃厚な食感を有するものにすることができる。本発明に係る硬化油代替物において、添加される多糖類の添加量は、0.05〜5%であることが好ましく、0.1〜2%であることがさらに好ましく、0.2〜1%であることがさらに好ましい。
【0012】
本発明に係る硬化油代替物に使用される油脂は、20℃で液体を呈する不飽和油(脂肪酸組成にリノール酸,リノレン酸,オレイン酸等)ならば特に限定されず、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、米油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油及び魚油などを使用することが出来る。また、ジアシルグリセロールなどの特殊の油を使用することができる。油脂の含量は、35%〜95%であることが好ましく、40〜80%であることがさらに好ましく、50〜75%であることがさらに好ましい。
【0013】
本発明に係る硬化油代替物は、20℃における強度が20g以上であり、且つ70℃においても油脂成分が溶解し保形性を保ち、分離することがないことが好ましい。
【0014】
本発明に係る硬化油代替物は、水に溶解された油脂硬化剤を添加し、撹拌することによって得ることができる。
【0015】
本発明に係る硬化油代替物は、通常の硬化油が使用されている様々な食品に適用することができ、例えば、スプレッド食品,パンやケーキの添加用油脂,チョコレートなどに用いることができる。
【実施例】
【0016】
実験例1
次に、本発明に係る油脂硬化剤及び硬化油代替物の実施例について説明する。先ず、α−サイクロデキストリン(シクロケム社製)と表1に示す多糖類を10:1の割合で配合することによって、本発明に係る油脂硬化剤の実施例1乃至25を用意した。次に、これら油脂硬化剤2.2部を水27.8部に分散させ、加熱溶解し、冷却後に、キャノーラ油(日清オイリオグループ社製)70部に添加し、高速撹拌機にて撹拌することによって、実施例1乃至25に係る硬化油代替物を作製した。また、比較例1として、水素添加処理された市販の硬化油、比較例2として、実施例に対して多糖類を含ませないもの、比較例3として、比較例2のα−サイクロデキストリンの添加量を11部としたものをそれぞれ用意した。
【0017】
【表1】

【0018】
次に、固形状態になったことを示すための指標として、これら実施例1乃至25に係る硬化油代替物、並び比較例1乃至3に係る硬化油の強度を測定した。強度の測定は、テクスチャーアナライザー TA−XTplaus(英弘精機社製)を使用して行なった(測定温度20℃、プランジャー直径20mm円柱状、進入速度20mm/分、進入距離10mm 最高強度を強度とした)。また、温度依存性を確認するため、70℃におけて固形状態を保っているかの観察を行なった。さらに、実施例1乃至25に係る硬化油代替物、並び比較例1及び2に係る硬化油それぞれの食感について、10名のパネラーによって口腔内の状態の評価をしてもらった。評価の基準は、A:クリーミーでボディー感があり口腔内で溶解、B:クリーミーで口腔内で溶解するがボディー感がなく物足りない、C:口溶けがわるいとした。これらの結果を表1に示す。
【0019】
表1に示すように、実施例1乃至25に係る硬化油代替物は、多糖類を添加することにより油脂の保形性(強度)が増し、官能検査による油脂のボディー感が増すことが確認された。α−サイクロデキストリンの添加量を増やした比較例3は、常温においても分離が発生した。また、70℃においては、比較例に係る硬化油は、溶解してしまったのに対し、実施例1乃至25に係る硬化油代替物は、70℃であっても、油が分離することなく保形性に優れていることが分かった。
【0020】
実験例2
次に、水30.5部にα−サイクロデキストリン(シクロケム社製) 2部、低強度寒天(AX−30伊那食品工業製)0.2部、食塩1部、脱脂粉乳1.3部を分散させ加熱溶解し、冷却した後、大豆油(Jオイルミルズ社製)65部を加え高速撹拌機にて撹拌することによって、実施例26に係る硬化油代替物を作製した。比較例4として低強度寒天を添加していないものを作製した。これらの強度の測定及び官能試験を実験例1と同様に行なった。その結果を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
表2に示すように、実施例26に係る硬化油代替物は、保形性がありボディー感があるが、比較例4に係る硬化油は、強度の弱いボディー感にかけるものになってしまった。また、比較例4に係る硬化油は、経時的に油脂の分離がごくわずかであるが確認された。
【0023】
実験例3
次に、α−サイクロデキストリンの添加量を変更して硬化油代替物を作製した。すなわち、合計で100部に調整される水に表3に示す添加量のα−サイクロデキストリン(シクロケム社製)と寒天(UP−37伊那食品工業製)0.08部を分散させ加熱溶解し、冷却した後、コーン油(Jオイルミルズ社製)70部を加え高速撹拌機にて撹拌した。これらの強度の測定を実験例1と同様に行なった。その結果を表3に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
表3に示すように、α−サイクロデキストリンの添加量が0.1〜10部のものは、強度に差がでるものの、硬化油代替物を作製することができたが、α−サイクロデキストリンを添加しなかったものは、液状のままであり、11部添加したものは、固形部分と液体部分の分離が生じた。
【0026】
実験例4
次に、多糖類である寒天の添加量を変更して硬化油代替物を作製した。すなわち、合計で100部に調整される水にα−サイクロデキストリン(シクロケム社製)2部と表4に示す添加量の寒天(UP−37伊那食品工業製)を分散させ加熱溶解し、冷却した後、キャノーラ油(日清オイリオグループ社製)50部を加え高速撹拌機にて撹拌した。これらの強度の測定及び官能試験を実験例1と同様に行なった。その結果を表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
表4に示すように、寒天の添加量が、0.05〜5部のものは、強度に差があるものの、硬化油代替物を作製することができたが、寒天を添加しなかったものは、若干の油脂の分離が生じ、ボディー感にもかけており、0.02部のものは、ボディー感に欠ける油脂代替物となり、8部のものは、ゲル状で一部油脂の分離が確認された。
【0029】
実験例5
次に、油脂の含有量を変更して硬化油代替物を作製した。すなわち、合計で100部に調整される水にα−サイクロデキストリン(シクロケム社製)2部と寒天(イーナ伊那食品工業製)を0.1部分散させ加熱溶解し、冷却した後、表5に示す量のキャノーラ油(日清オイリオグループ社製)を加え高速撹拌機にて撹拌した。これらの強度の測定を実験例1と同様に行なった。その結果を表5に示す。
【0030】
【表5】

【0031】
表5に示すように、油脂の添加量が35〜95部のものは、硬さに差があるものの、硬化油代替物を作製することができた。油脂の添加量が30部のものは、液状に近く硬化油のようには保形しなかった。油脂の添加量が97部のものは、油脂の分離が生じた。
【0032】
実験例6
次に、上記実施例に係る硬化油代替物を通常の硬化油が使用されている様々な食品に適用した。
【0033】
実施例26に係る硬化油代替物をスプレッド食品としてパンに塗布したところ、伸展性が良好であり、口溶けもよくまた常温においても柔らかくなりだれることがないスプレッドができた。
【0034】
また、ハンバーグを作る際に原料に実施例17に係る硬化油代替物を2%添加して焼き上げた。加熱により溶解し溶け出すことがなかったため、非常に濃く味のあるハンバーグが出来た。
【0035】
さらに、パン生地に実施例18に係る硬化油代替物を5%添加してパンを焼成した。固体状なので扱いやすく、また適度な伸展性を有しているため作業性が良好であった。また、焼成時に溶け出さないため油っぽくなく濃く味のあるパンが出来た。
【0036】
またさらに、実施例12に係る油脂代替物に干しぶどうを混ぜた。これは常温においておいても柔らかくなることがない、レーズンバター用食品が出来た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクロデキストリン及び多糖類を含有することを特徴とする油脂硬化剤。
【請求項2】
前記多糖類は、寒天、低強度寒天、κカラギナン、ιカラギナン、λカラギナン、ファーセレラン、アルギン酸ナトリウム、カシアガム、グアーガム、グアーガム分解物、ローカストビーンガム、タラガム、フェヌグリークガム、タマリンドガム、グルコマンナン、ペクチン、キサンタンガム、加熱処理したキサンタンガム、ジェランガム、ネーティブジェランガム、カードラン、デンプン、及び化工デンプンのうち少なくとも1以上であることを特徴とする請求項1の油脂硬化剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の油脂硬化剤を油脂に添加することによって硬化された硬化油代替物。
【請求項4】
油脂含量が35〜95%であることを特徴とする請求項3の硬化油代替物。
【請求項5】
20℃における強度が20g以上であり、且つ70℃においても油脂成分が溶解し、分離することがないことを特徴とする硬化油代替物。
【請求項6】
請求項3乃至5いずれか記載の硬化油代替物が用いられた食品。

【公開番号】特開2008−285595(P2008−285595A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132178(P2007−132178)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】