説明

油脂組成物の製造方法

【課題】 安価で、トランス酸含量が少なく、ロールインマーガリンの原料となる油脂の製造方法及び該油脂を用いてなる製造時の成型性やロールイン物性が良好なロールインマーガリンを提供すること。
【解決手段】 油脂組成物全体中、SSSを2〜13重量%含有し、SSUとSUSを合計で34〜54重量%含有し、(SSUとSUSの合計含量)/SSS含量の重量比率が4〜20且つSSU含量/SUS含量の重量比率が1以上である油脂組成物を特定の製法等に従って作製し、それを30重量%以上含有させてロールインマーガリンを作製すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トランス脂肪酸の影響が懸念されている背景もあり、トランス酸を含む硬化油の使用が減少している。そのため、マーガリン、ショートニングなどの可塑性油脂原料としては、パーム油や極度硬化油、液状油などを組み合わせて用いられることが多い。中でもパーム油は、安価で非常に有用であるが、そのまま可塑性油脂の原料として用いると、結晶化の遅い1,3−パルミチン酸−2−オレイン酸グリセリド(POP)成分が捏和後に結晶化することで非常に可塑性の悪い製品になる場合があり、また、POP成分が室温付近で経時的に結晶転移することにより物性が変化する現象も知られている。
【0003】
一方、菜種油や大豆油などの極度硬化油は融点が高く、そのままでは可塑性油脂原料として多用できない。これらの問題はエステル交換や分別等の改質により、ある程度改善できることが報告されている。
【0004】
具体的には、トリパルミチン酸グリセリド(PPP)含量が4〜18重量%、1,2−パルミチン酸−3−オレイン酸グリセリド(PPO、光学異性体を含む)+POPが15〜55重量%、PPO/POP重量比が1以上、(PPO+POP)/PPP重量比が1.8以上の油脂(特許文献1)、パームステアリンのエステル交換油の中融点部(特許文献2)、パーム軟質部のエステル交換油脂(特許文献3)などが挙げられる。
【0005】
しかし、特許文献1では、パーム油をエステル交換した組成、またはエステル交換後に溶剤分別した組成が示されているが、溶剤分別のためコストが高く、ロールインマーガリンに有効な組成の範囲が十分に示されていなかった。また可塑性油脂原料として有効な組成の範囲が十分に示されていなかった。特許文献2は、パームステアリンをエステル交換して溶剤分別を2回行うことで高融点部と低融点部を除去してパームステアリンの中融点部を得る方法であるが、溶剤分別であるため乾式分別よりコストが高く、得られた該中融点部はロールインマーガリンには不向きな組成であった。特許文献3はパーム軟質部をエステル交換する方法であるが、軟質部をエステル交換すると1−パルミチン酸−2,3−オレイン酸グリセリド(POO、光学異性体を含む)が多くなるため、経時的な物性変化が大きくなる。また、パーム軟質部は一般に硬質部よりも高価であるためコストメリットが少ない。
【0006】
また、エステル交換した油脂を分別する方法として、C14以上の飽和脂肪酸の含有量が55〜85重量%、不飽和脂肪酸の含有量が15〜45重量%の油脂をランダムエステル交換して乾式分別した軟質部(特許文献4)が挙げられるが、パーム極度硬化油など使用する原料が高価であり、安価に1,2−ジ飽和脂肪酸−3−モノ不飽和脂肪酸グリセリド(SSU、光学異性体を含む)を高含有する油脂を得る方法が示されていなかった。また同様にロールインマーガリンに有効な組成の範囲が十分に示されていなかった。
【0007】
さらに、パーム油のエステル交換油など、G2U及びGU2を含有する油脂(A)(G:飽和またはトランス酸型脂肪酸残基、U:シス型不飽和脂肪酸残基、G2U:二つの飽和またはトランス酸型脂肪酸残基及び一つのシス型不飽和脂肪酸残基が結合したトリグリセリド、GU2:一つの飽和またはトランス酸型脂肪酸残基及び二つのシス型不飽和脂肪酸残基が結合したトリグリセリド)を晶析・固液分離(乾式分別)することにより、G2Uの濃縮された結晶画分(AF)を得る方法があるが(特許文献5)、該晶析の条件では結晶画分にG2Uが濃縮されていた。
【特許文献1】特開2007−177100号公報
【特許文献2】特開平9−285255号公報
【特許文献3】特開2007−135443号公報
【特許文献4】特開2010−77244号公報
【特許文献5】国際公開第05/028601号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、安価で、トランス酸含量が少なく、ロールインマーガリンの原料となる油脂の製造方法及び該油脂を用いてなる製造時の成型性やロールイン物性が良好なロールインマーガリンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、SSSを特定量含有し、SSUとSUSを合計で特定量含有し、それらの重量比率が特定の油脂組成物は、トランス酸含量が少なくても可塑性油脂の原料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の第一は、SSSを2〜13重量%含有し、SSUとSUSを合計で34〜54重量%含有し、(SSUとSUSの合計含量)/SSS含量の重量比率が4〜20且つSSU含量/SUS含量の重量比率が1以上である油脂組成物の製造方法であって、(SSUとSUSの合計含量)/SSS含量の重量比率が1〜4、SSU含量/SUS含量の重量比率が1以上であり、SSSを8〜35重量%、SSUとSUSを合計で25〜45重量%含む油脂混合物を原料とし、該原料をエステル交換した後、エステル交換後の油脂中のSSSの含有量(X、重量%)、晶析時の固体脂含量(Y、%)の差(X−Y)が2〜13になるまで溶剤を用いずに晶析し、分別することを特徴とする油脂組成物の製造方法(SSS:トリ飽和脂肪酸グリセリド、SSU:1,2−ジ飽和脂肪酸−3−モノ不飽和脂肪酸グリセリド(光学異性体を含む)、SUS:1,3−ジ飽和脂肪酸−2−モノ不飽和脂肪酸グリセリド)に関する。本発明の第二は、油脂組成物全体中、SSSを2〜13重量%含有し、SSUとSUSを合計で34〜54重量%含有し、(SSUとSUSの合計含量)/SSS含量の重量比率が4〜20且つSSU含量/SUS含量の重量比率が1以上である油脂組成物を、ロールインマーガリンに含まれる油相全体中30重量%以上含有するロールインマーガリンに関する。好ましい実施態様は、油脂組成物の構成脂肪酸全体中、C18以上の飽和脂肪酸/C18未満の飽和脂肪酸(重量比率)が0.14〜0.8である上記記載のロールインマーガリンに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従えば、安価で、トランス酸含量が少なく、ロールインマーガリンの原料となる油脂の製造方法及び該油脂を用いてなる製造時の成型性やロールイン物性が良好なロールインマーガリンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明は、SSSを2〜13重量%含有し、SSUとSUSを合計で34〜54重量%含有し、(SSUとSUSの合計含量)/SSS含量の重量比率が4〜20且つSSU含量/SUS含量の重量比率が1以上である油脂組成物を製造する方法であり、特定の油脂混合物をエステル交換した後、溶剤を用いずに特定の状態になるまで晶析し、分別することを特徴とする。なお、本発明における油脂構造の表記は、以下の通りである。
SSS:トリ飽和脂肪酸グリセリド
SSU:1,2−ジ飽和脂肪酸−3−モノ不飽和脂肪酸グリセリド(光学異性体を含む)
SUS:1,3−ジ飽和脂肪酸−2−モノ不飽和脂肪酸グリセリド
【0013】
<油脂混合物の作製>
エステル交換に供する原料となる油脂混合物は、(SSUとSUSの合計含量)/SSS含量の重量比率が1〜4、SSU含量/SUS含量の重量比率が1以上であり、SSSを油脂混合物全体中8〜35重量%含有し、SSUとSUSを合計で油脂混合物全体中25〜45重量%含有することが好ましく、食用油脂を上記組成になるように調合すればよい。
【0014】
SSS含量は、前記のように油脂混合物全体中8〜35重量%が好ましく、9〜27重量%であることがより好ましい。8〜35重量%の範囲にないと、分別の効率が落ちたり、目的とする組成の油脂が得られない場合がある。
【0015】
SSUとSUSの合計含有量は、前記のように油脂混合物全体中25〜45重量%が好ましいが、該範囲にない原料を用いると分別後に目的とする組成が得られない場合がある。
【0016】
前記食用油脂としては、パーム油やパーム油の分別油をエステル交換した油脂、大豆油、菜種油、ひまわり油、豚脂、牛脂などとそれらの極度硬化油とのエステル交換油などが挙げられるが、価格面などの利点からパーム油、パーム分別油及びそれらのエステル交換油を用いることが好ましく、パーム油がより好ましい。
【0017】
<エステル交換>
前記で得られた油脂混合物を、常法に従ってエステル交換すればよく、食品用途に用いられる触媒であれば種類を問わずに使用でき、例えばナトリウムメチラートやリパーゼを用いて行えばよい。リパーゼは通常トリグリセリドのエステル交換に用いられるリパーゼなら特に種類は選ばないが、パーム油を原料に用いる場合には、対称型のSUSを減少させるため、1、3位だけでなく2位に対してもエステル交換活性を持つものが好ましい。具体的にはThermomyces属由来、Alcaligenes属由来のリパーゼなどが挙げられる。
【0018】
<晶析>
エステル交換後の油脂中に含まれるSSS含量をX(重量%)とし、晶析時の固体脂含量をY(%)とすると、(X−Y)の値が2〜13の範囲になるように晶析することが好ましい。そのように晶析したものを分別すれば、容易に本発明の油脂組成物を得ることができる。(X−Y)値が2より小さいと、分別される液状部のSSS含量が少ないために、可塑性油脂原料として用いた場合に温度耐性が低くなったり、SSUも一部結晶化する場合があるため分別効率が悪くなる場合がある。また(X−Y)値が13より大きいと、可塑性油脂の原料として用いた場合に口溶けが悪くなる場合がある。(X−Y)値を2〜13にするには、エステル交換に供した油脂混合物の種類にもよるが、晶析温度を晶析に用いる原料油脂の融点よりも概ね2℃〜14℃低い温度に設定すればよい。
【0019】
ここで、固体脂含量の測定は、BRUKER製minispecシリーズ「mq20 NMR Analyzer(解析ソフト:BRUKER the MINISPEC)」を用いて概ね5〜48時間程度晶析する間に適宜行い、(X−Y)の値が2〜13の間にある時点であればいつでも分別すればよい。
【0020】
<分別>
前記で晶析した油脂を、常法に従って分別し、液状部を分取することで本発明の油脂組成物を得ることができる。本発明における分別では、安全性の問題やコストの観点から溶剤を使用しない乾式分別が好ましい。分別時の温度条件は、晶析温度±3℃程度であれば容易に本発明の油脂組成物を得ることができる。また通常、乾式分別では分別精度が劣るが、本発明の製造方法に従えば、容易且つ効率よく所望の油脂組成物を得ることができる。
【0021】
本発明においては、油脂組成物全体中、SSSを2〜13重量%含有し、SSUとSUSを合計で34〜54重量%含有し、(SSUとSUSの合計含量)/SSS含量の重量比率が4〜20且つSSU含量/SUS含量の重量比率が1以上であることが特徴である。
【0022】
前記SSS含量は、2重量%未満であると可塑性油脂原料として保型性が低くなる場合があり、13重量%を超えると可塑性油脂原料とした場合に口溶けが悪くなる場合がある。また前記SSUとSUSの合計含量は、34重量%未満では結晶速度が遅く可塑性油脂原料とした場合に経時変化が大きくなる場合があり、54重量%を超えると可塑性油脂原料とした場合に硬くなり可塑性が悪くなる場合がある。
【0023】
また(SSUとSUSの合計含量)/SSS含量の重量比率は、4より小さいと可塑性油脂原料として用いる場合にSSSが多く口溶けが悪くなるか、もしくはSSS、SSU、SUSの合計量が少ないために結晶速度の遅い軟質の油脂となる場合があり、20より大きくなると、可塑性油脂原料として用いた場合に結晶核となるSSSが相対的に少ないために粗大結晶となり物性が悪化する場合がある。
【0024】
前記SSU含量/SUS含量の重量比率は1未満であると、SSUに対してSUSが多くなり結晶速度が遅く経時的に物性変化が大きくなり好ましくない場合がある。
【0025】
本発明の油脂組成物は、食用油脂原料として、マーガリン等の油中水型乳化組成物やホイップクリーム等の水中油型乳化組成物、或いはショートニングやチョコレートなどの用途に用いられるが、中でもロールインマーガリンに好適である。本発明の油脂組成物をロールインマーガリンに配合する場合には、油相全体中30重量%以上が好ましく、より好ましくは50重量%以上であり、更に好ましくは50〜100重量%である。30重量%未満であるとロールイン物性が低下する場合がある。
【0026】
また、本発明の油脂組成物をロールインマーガリンに配合する場合には、油脂組成物の構成脂肪酸全体中、C18以上の飽和脂肪酸/C18未満の飽和脂肪酸(重量比率)が0.14〜0.8であることが好ましい。0.14未満であると結晶がβ型に転移し物性が悪化する場合があり、0.8を越えるとコストが高くなり、また口溶けが悪化する場合がある。飽和脂肪酸比率を上記範囲にするためには、エステル交換に供する油脂混合物の原料として、パーム油、菜種油、大豆油、コーン油、豚脂、牛脂などの極度硬化油を用いればよく、コストやC18以上の飽和脂肪酸の含有量を考慮すると、極度硬化パーム油、極度硬化菜種油、極度硬化大豆油が好ましい。
【0027】
前記ロールインマーガリンにおいて、本発明の油脂組成物以外に配合する油脂は特に限定されないが、パーム油、ラード、牛脂、菜種油、大豆油、コーン油、パーム核油、やし油、もしくはこれらの硬化油、分別油、エステル交換油などが配合できる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0029】
<SSS含量及びSSU/SUS合計含量の測定>
実施例・比較例における各トリグリセリド含量は、「AOCS Official Method Ce 5c-93」に準拠して、HPLCを用いてODSカラムにより分析した。
【0030】
<SSU/SUS重量比率の分析>
SSU/SUS重量比率の分析は、HPLCを用いて硝酸銀カラムにより分析した。分析条件は「Journal of the American Oil Chemists Society, 68, 289-293, 1991」に記載の方法に準拠して実施した。
【0031】
<脂肪酸組成の測定>
FID恒温ガスクロマトグラフ法とは、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法2.4.2.1-1996」に記載されたFID恒温ガスクロマトグラフ法に準拠して行った。
【0032】
<固体脂含量の測定>
晶析中の油脂をピペットで晶析温度と同じ温度で温調した試験管に採取し、BRUKER製minispecシリーズ「mq20 NMR Analyzer(解析ソフト:BRUKER the MINISPEC)」により測定した。
【0033】
<ロールインマーガリンのシート成型性評価>
実施例・比較例において、成型器を通して成型されたロールインマーガリンのシート成型性を目視で評価した。その際の評価基準は以下の通りとした。◎:可塑性があり且つしっかりとした触感、○:やや軟らかいが良好な成形性、△:軟らかい触感だが成型は可能、×:軟らかく成型が困難。
【0034】
<クロワッサン製造時のロールインマーガリンのコシの評価>
実施例・比較例におけるクロワッサンの作製時に、ロールインマーガリンが生地に折り込まれた際にロールインマーガリンが生地を支えて縮みを抑える度合いをコシとして評価した。その際の評価基準は以下の通りとした。◎:生地の縮みが殆ど無く生地の触感も良好、○:生地にわずかな縮みはあるが良好、△:生地にやや縮みが見られロールインマーガリンが練りこまれる傾向がある、×:生地が縮みロールインマーガリンが練りこまれ層が出ない状態。
【0035】
<クロワッサン製造時のロールインマーガリンのノビの評価>
実施例・比較例でクロワッサンを作製した時、ロールインマーガリンのノビを以下の基準に従って評価した。◎:生地の中でロールインマーガリンが均一に伸びる、○:ロールインマーガリンの伸び方にわずかに偏りが見られる、△:ロールインマーガリンが均一に伸びていない部分が見られる状態、×:ロールインマーガリンが伸びず生地にロールインマーガリンの塊が見られる状態。
【0036】
<クロワッサンの比容積評価>
実施例・比較例で作製したクロワッサンの比容積は菜種置換法でクロワッサンの容積を各々10個計測し、焼成前に同様に測定した生地容積との体積比を計算してその平均値をとり、相対的に以下のように評価した。◎:5.1以上、○:4.7以上且つ5.1未満、△:4.2以上且つ4.7未満、×:4.2未満。
【0037】
(実施例1) 油脂組成物の作製
パームステアリン100重量部を500Paの減圧下90℃に加熱し、0.2重量部のナトリウムメチラートを加えて30分攪拌してランダムエステル交換し、水洗した後、500Paの減圧下、90℃で2重量部の白土を加えて脱色した。脱色後の油脂を、70℃に加熱して完全に溶解し、46℃で攪拌しながら24時間晶析した。晶析後3.0MPaでフィルタープレスして液状部を得た。得られた液状部を240℃、200Paの条件で1時間脱臭して油脂組成物1を得た。原料油脂と油脂組成物1の油脂組成は表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
(実施例2) 油脂組成物の作製
極度硬化菜種油50重量部と菜種油50重量部を実施例1と同様にナトリウムメチラートによりランダムエステル交換及び脱色した。脱色後の油脂を70℃に過熱して完全に溶解し、49℃で攪拌しながら24時間晶析した。晶析後3.0MPaでフィルタープレスして液状部を得た。得られた液状部を実施例1と同様に脱臭して油脂組成物2を得た。原料油脂と油脂組成物2の油脂組成は表1に示す。
【0040】
(実施例3) 油脂組成物の作製
極度硬化ハイエルシン菜種油20重量部とパームステアリン50重量部、菜種油30重量部を実施例1と同様にナトリウムメチラートによりランダムエステル交換及び脱色した。脱色後の油脂を70℃に加熱して完全に溶解し、42℃で攪拌しながら24時間晶析した。晶析後3.0MPaでフィルタープレスして液状部を得た。得られた液状部を実施例1と同様に脱臭して油脂組成物3を得た。原料油脂と油脂組成物3の油脂組成は表1に示す。
【0041】
(実施例4) 油脂組成物の作製
パームステアリン80重量部に極度硬化菜種油10重量部と菜種油10重量部を混合した油脂を60℃に温調したカラムに詰めたLipozymeTL−IMに酵素1gあたり1g/hの流量で流した。脱色後の油脂を70℃に加熱して完全に溶解し、42℃で攪拌しながら24時間晶析した。晶析後3.0MPaでフィルタープレスして液状部を得た。得られた液状部を実施例1と同様に脱臭して油脂組成物4を得た。原料油脂と油脂組成物4の油脂組成は表1に示す。
【0042】
(比較例1) 油脂組成物の作製
パーム油を実施例1と同様にナトリウムメチラートによりランダムエステル交換し、脱色して得られた油脂を油脂組成物5とした。
【0043】
(比較例2) 油脂組成物の作製
パームオレインを実施例1と同様にナトリウムメチラートによりランダムエステル交換し、脱色した油脂を、70℃に加熱して完全に溶解し、37℃で攪拌しながら24時間晶析した。晶析後3.0MPaでフィルタープレスして液状部を得た。得られた液状部を油脂組成物6とした。
【0044】
(比較例3) 油脂組成物の作製
パーム核油30重量部とパームステアリン50重量部、菜種油20重量部を混合し、実施例1と同様にナトリウムメチラートによりエステル交換し、脱色して得られた油脂を油脂組成物7とした。
【0045】
(実施例5〜10、比較例4〜6) ロールインマーガリンの作製
表2の配合に従って、実施例5〜10及び比較例4〜6のロールインマーガリンを作製した。具体的には、油脂を70℃で溶解し、レシチン及びモノグリセリドを添加して攪拌しながら溶解させた。溶解後、水を添加して乳化させ、急冷捏和装置で急冷して捏和し、成型器を通して成型し、ロールインマーガリン1〜9を得た。得られたロールインマーガリンの成型性評価については表3に示した。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
(実施例11〜16及び比較例7〜9) クロワッサンの作製
表3の配合に従って、ロールインマーガリンと練りこみ用油脂を除いた原料をミキサーにて低速2分、中高速3分ミキシングした後、練りこみ用油脂を混合しさらに低速2分間、中高速4分間ミキシングした。24℃で30分間生地を発酵させた後、生地を5℃まで冷却した。この生地にロールインマーガリンを3つ折りで3回折り込み、生地を成型後35℃、湿度75%のホイロで55分間最終発酵し、200℃のオーブンで17分間焼成した。実施例5〜10及び比較例4〜6のロールインマーガリンについて製パン時の作業性(ノビ、コシ)及びクロワッサンの比容積を比較し、その結果を表3にまとめた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SSSを2〜13重量%含有し、SSUとSUSを合計で34〜54重量%含有し、(SSUとSUSの合計含量)/SSS含量の重量比率が4〜20且つSSU含量/SUS含量の重量比率が1以上である油脂組成物の製造方法であって、
(SSUとSUSの合計含量)/SSS含量の重量比率が1〜4、SSU含量/SUS含量の重量比率が1以上であり、SSSを8〜35重量%、SSUとSUSを合計で25〜45重量%含む油脂混合物を原料とし、該原料をエステル交換した後、エステル交換後の油脂中のSSSの含有量(X、重量%)、晶析時の固体脂含量(Y、%)の差(X−Y)が2〜13になるまで溶剤を用いずに晶析し、分別することを特徴とする油脂組成物の製造方法。
SSS:トリ飽和脂肪酸グリセリド
SSU:1,2−ジ飽和脂肪酸−3−モノ不飽和脂肪酸グリセリド(光学異性体を含む)
SUS:1,3−ジ飽和脂肪酸−2−モノ不飽和脂肪酸グリセリド
【請求項2】
油脂組成物全体中、SSSを2〜13重量%含有し、SSUとSUSを合計で34〜54重量%含有し、(SSUとSUSの合計含量)/SSS含量の重量比率が4〜20且つSSU含量/SUS含量の重量比率が1以上である油脂組成物を、ロールインマーガリンに含まれる油相全体中30重量%以上含有するロールインマーガリン。
【請求項3】
油脂組成物の構成脂肪酸全体中、C18以上の飽和脂肪酸/C18未満の飽和脂肪酸(重量比率)が0.14〜0.8である請求項2に記載のロールインマーガリン。