説明

油脂組成物及びそれを用いたパンの製造方法

【課題】乳化剤を必要とせずパンのソフトさを維持することができるパン用の油脂組成物及びそれを用いたパンの製造方法の提供。
【解決手段】化工澱粉、アミラーゼ類、増粘剤を含有し、且つ乳化剤を含まない油脂組成物をパン生地に練り込むこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化剤を必要とせずパンのソフトさを維持することができるパン用の油脂組成物及びそれを用いたパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造直後のパンはソフトで風味も優れているが、製造後日が経つにつれて硬くなるとともに、ボソボソした感じになり商品価値が著しく低下する。そこで、製造直後のソフトさ、食感を維持することが大きな課題となっている。最近、ソフトなパン、口当たりのよいパンの指向が強くなってきている。例えば、チルド流通の発達から、サンドイッチ等の調理パンについても、よりおいしいものを消費者に提供するために具材の鮮度を保つべくチルド流通が行われてきており、これに合わせてパンについても冷蔵下において、ソフトさ、食感の良さが維持できるようなパン、或いはそのようなパンの製造方法が求められ、数多くの検討がなされてきている。
【0003】
その中で代表的なものとしてモノグリセライドとジアセチル酒石酸モノグリセライドを併用した油脂組成物を使用する方法や(特許文献1)、グリセリンジ脂肪酸エステル及びレシチン類を一定量含有する油脂組成物を使用する方法(特許文献2)が提案されている。これらは何れもグリセリン脂肪酸エステルをはじめとする各種乳化剤の使用が必須であり、乳化剤が主体のためパンはソフトになるものの、ねちゃつき感があり、口ごなれの良い食感は期待できない。
【0004】
近年、製パン業界においても自然志向が高まり、乳化剤不使用の傾向が高まってきている。このような動きの中で、油脂、乳清蛋白質等の蛋白質を含有し、pHが3.5〜5.0である乳化剤無添加の水中油型乳酸発酵乳化物を使用する方法が提案されている(特許文献3)。しかし、この方法では乳化剤を使っていないものの、乳化剤を使った場合のような良好なパンの老化防止効果がなく、pHが酸性のため風味への影響も懸念される。
【特許文献1】特開平5−219886号公報
【特許文献2】特開平5−227873号公報
【特許文献3】特開2001−299212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる実情に鑑み、乳化剤を必要とせずパンのソフトさを維持することができるパン用の油脂組成物及びそれを用いたパンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、化工澱粉、アミラーゼ類、増粘剤を特定組成含有する油脂組成物を使用することで乳化剤を使用せずともパンのソフトさを維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の第一は、化工澱粉、アミラーゼ類、増粘剤を含有し、且つ乳化剤を含まないことを特徴とする油脂組成物に関する。好ましい実施態様は、化工澱粉が、リン酸架橋処理、エーテル化処理、エステル化処理、リン酸架橋してからエーテル化処理、α化処理からなる群より選ばれる少なくとも1つの処理をしたものであり、その添加量がアミラーゼ類を除く油脂組成物全体に対して1〜30重量%である上記記載の油脂組成物に関する。より好ましくは、アミラーゼ類が、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、及びグルコアミラーゼからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、その添加量がアミラーゼ類を除く油脂組成物に対し500〜5000unit/kgの範囲である上記記載の油脂組成物、更に好ましくは、増粘剤が多糖類であり、その添加量がアミラーゼ類を除く油脂組成物全体に対して0.5〜10重量%である上記記載の油脂組成物、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、乳化剤を添加しなくてもパンのソフトさを維持することができるパン用の油脂組成物及びそれを用いたパンの製造方法を提供できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明に用いられる化工澱粉とは、天然澱粉に対し、リン酸架橋、エーテル化、エステル化等の化学変性処理したものや、α化処理等の物理的処理をした澱粉をいい、少なくとも1種が用いられる。また、上記処理方法を2種以上重複して施した化工澱粉を用いてもよく、例えばリン酸架橋し且つエーテル化処理したもの、リン酸架橋し且つエーテル化処理したものを更にα化処理したもの、エーテル化してからα化したもの、エステル化してからα化したもの等が好適に使用される。これらの化工澱粉のうち、リン酸架橋し且つエーテル化処理した澱粉、あるいは、それらの処理に更にα化処理した澱粉が好ましい。
【0010】
化工澱粉の含有量は、アミラーゼ類を除く油脂組成物全体に対し1〜30重量%が好ましい。10〜25重量%がより好ましい。1重量%より少ないと、澱粉自体の吸水量が少なく、油脂組成物をパン生地に練り込んだ時の吸水量の大幅な増加は望めず、その結果ソフト化の効果も期待できない場合がある。30重量%より多いとパン生地形成中のグルテン形成を阻害する場合がある。
【0011】
本発明で用いられるアミラーゼ類とは、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、及びグルコアミラーゼ等であり、これらは少なくとも1種用いられる。本発明におけるα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼとしては、Bacillus属、Aspergillus属、Rhizopus属由来のものが好ましく、イソアミラーゼとしてはPseudomonas属、Bacillus属由来のものが好ましい。アミラーゼ類の含有量としてはアミラーゼ類を除く油脂組成物1kgに対し500〜5000unitの範囲が好ましく、1500〜4500unitがより好ましい。500unitより少ないとパンをソフトにする上で効果が足りない場合がある。5000unitより多いとアミラーゼ類が過度に作用しすぎてパン組織に影響が出て逆に硬くなる場合がある。
【0012】
本発明で用いられる増粘剤とはカラギーナン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グァーガム、ペクチン、タマリンド種子多糖類等であり、これらは少なくとも1種用いられる。これらの増粘剤のうち、キサンタンガム、グァーガム、ペクチンが、焼成後パンの保型性を高め、かさ落ちを防ぐ点で好ましい。増粘剤の含有量としてはアミラーゼ類を除く油脂組成物全体に対して0.5〜10重量%が好ましく、1〜5重量%がより好ましい。0.5重量%より少ないと、パン組織の保型性向上に効果が不十分でかさ落ちする場合がある。また10重量%より多いと増粘剤自体の硬さが出てパンが硬くなってしまう場合がある。
【0013】
本発明に用いられる油脂としては、食用に適するものであれば特に限定は無く、動物性、植物性の油脂及びそれらの硬化油、エステル交換油、分別油等が挙げられ、これらは目的に応じて少なくとも1種用いられる。
【0014】
本発明の油脂組成物の製造例を以下に例示する。油脂を加熱溶解後、25〜45℃まで冷却し、前記の化工澱粉、アミラーゼ類、増粘剤を所定量加え、均一に分散させ、冷却、混捏して可塑化し、上記成分が均一に分散した油脂組成物を得ることができる。また、あらかじめ捏和された油脂に前記化工澱粉、アミラーゼ類、増粘剤を所定量加え、均一に分散させることによっても得ることができる。装置としては、ボテーター、オンレーター、コンビネーター、加熱冷却装置付きミキサー等を用いることができる。分散させる条件などは、常法に従えばよい。
【0015】
本発明の油脂組成物は、パンの製法にかかわらず、通常のパン用油脂組成物の代わりに用いることができる。その際のパンの製造方法は、常法に従えばよい。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0017】
(実施例1〜6)
表1に示すように、油脂を70℃で加熱溶解後、30℃まで冷却し、化工澱粉、アミラーゼ類、増粘剤を加え、均一に分散させ、さらに20℃まで冷却、混捏して可塑化し油脂組成物を得た。
【0018】
【表1】

【0019】
(比較例1〜7)
表2に示すように、油脂を70℃で加熱溶解後、30℃まで冷却し、化工澱粉、アミラーゼ類、増粘剤を加え、均一に分散させ、さらに20℃まで冷却、混捏して可塑化し同じように油脂組成物を得た。
【0020】
【表2】

【0021】
(実施例7〜12、比較例8〜15) 製パン試験
実施例1〜6及び比較例1〜7で得られた油脂組成物を用いて、表3の配合に従って生地を以下のように作製した。縦型ミキサー(関東ミキサー 20コート)ボールに中種配合材料を入れ、低速2分、中高速2分で混捏し、捏ね上げ温度を24℃として中種生地を調製した。次にこれを発酵(中種発酵)させた。このときの条件は、中種発酵温度:28℃、中種発酵時間:4時間であった。次に、この中種発酵生地に本捏配合材料を添加し、低速3分、中高速3分で混捏した後、実施例1〜6及び比較例1〜7で得られた油脂組成物を添加した。なお、加水量は生地状態を見て適宜調整を行った。更に低速3分、中高速3分30秒混捏し本捏生地とした。この時の生地温度は約27℃であった。
【0022】
【表3】

【0023】
次に、混捏でダメージを受けた生地を回復させるためにフロアタイムを20分とり、この後230gの生地に分割した。分割でダメージを受けた生地を回復させるために、ベンチタイムを20分とり、モルダーにて成形した。成形物をプルマンのパン型に入れ発酵(ホイロ)を行った。なお、ホイロの条件は、ホイロ温度:38℃、ホイロ相対湿度:80%、ホイロ時間:50分であった。比較例15では油脂組成物として、中種配合においてはチルド食パン用油脂(商品名:マークスチルド、カネカ社製、乳化剤13%配合)、本捏配合においてはパン練り込み用マーガリン(商品名:エルドフレッシュゼロV、カネカ社製)を用いた以外は実施例7と同様にしてパン生地を調整した。
【0024】
このようにして調製したパン生地を、上火195℃、下火200℃のオーブンで38分焼成し食パンを得た。20℃で約1時間冷却した後、ビニール袋に入れ密封し、更に20℃で48時間保存し食パンサンプルとした。この食パンサンプルについて官能評価を行った。評価基準は下記の通りである。◎:非常にソフトで食感最良、○:ソフトで食感良好、△:食べるとやや硬く食感やや不良、×:食べると硬く食感不良。
【0025】
表4に、実施例7〜12、比較例8〜15の食パンの評価結果を示す。表4から明らかなように実施例7〜12パンの方が、比較例8〜15のパンに比べてソフトで良好な食感のパンに仕上がっていた。
【0026】
【表4】

【0027】
また、実施例12及び比較例15で得た食パンを、焼成後20℃で約1時間冷却した後、ビニール袋に入れ密封し、食パンサンプルとした。これらを20℃で15時間保存した後の食パン(チルド保存前)、それをさらに10℃で24時間保存した後の食パン(チルド保存後)についてクラムの硬さをクリープメータ(商品名:レオナー、山電製)を用いて測定した。その際の条件は下記のとおり。食パンを厚さ2cm、たて、よこ各5cmにカットし、クリープメータで厚み方向を1cmになるまで圧縮したときの最大荷重[N]を測り、6検体の平均値で表した。さらに、24時間後の食パンについては官能評価をあわせて行い結果を表5に示した。官能評価の基準は、前記と同様にした。その結果、実施例6の油脂組成物を使用したパン(実施例12)は、乳化剤を使用した従来のパン(比較例15)よりソフトで良好な食感を示していた。
【0028】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化工澱粉、アミラーゼ類、増粘剤を含有し、且つ乳化剤を含まないことを特徴とする油脂組成物。
【請求項2】
化工澱粉が、リン酸架橋処理、エーテル化処理、エステル化処理、リン酸架橋してからエーテル化処理、α化処理からなる群より選ばれる少なくとも1つの処理をしたものであり、その添加量がアミラーゼ類を除く油脂組成物全体に対して1〜30重量%である請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
アミラーゼ類が、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、及びグルコアミラーゼからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、その添加量がアミラーゼ類を除く油脂組成物に対し500〜5000unit/kgの範囲である請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
増粘剤が多糖類であり、その添加量がアミラーゼ類を除く油脂組成物全体に対して0.5〜10重量%である請求項1〜3何れかに記載の油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4何れかに記載の油脂組成物を使用することを特徴とするパンの製造方法。

【公開番号】特開2006−211969(P2006−211969A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28809(P2005−28809)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】