説明

油脂組成物

【課題】高濃度にフラボノイド類を溶解した油脂組成物の提供。
【解決手段】ジアシルグリセロールを15〜95質量%含有し、有機硫黄化合物が硫黄含有量として1〜2000μg/g及び糖と結合していないフラボノイド類が10μg/g以上溶解した油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラボノイド類を含有する油脂組成物、及びそれを含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化や車社会の隆盛に伴い肥満者の割合が増加している。肥満は動脈硬化や糖尿病、高脂血症、高血圧症などの原因ともなることから、その予防・改善のための薬剤、方法の開発は医学的にも社会的にも大きな課題となっている。肥満や動脈硬化、糖尿病、高脂血症、高血圧症などは遺伝的素因の他に、食生活のような生活習慣によりその発症が大きく影響されることから、これらは生活習慣病と呼ばれ、安全で、しかも高い生活習慣病予防・改善作用を有する食品が求められている。
【0003】
フラボノイド類には、アミラーゼ阻害作用(特許文献1)、リパーゼ阻害作用(特許文献2)、スーパーオキシドジスムターゼ様活性及び/又はスカベンジャー機能による糖尿病治療作用(特許文献3)等の様々な生理作用が知られている。天然には糖がフラボノイド骨格と結合していないアグリコンや糖が結合した配糖体がフラボノイド類として存在するが、フラボノイド類の油脂に対する溶解性は極めて低い。
【0004】
フラボノイド類の油脂への溶解・分散性を向上させる技術として、油脂としてジアシルグリセロールを用いること(特許文献4)が提案されている。
【特許文献1】特開平5−236910号公報
【特許文献2】特開平9−143070号公報
【特許文献3】特開平6−199695号公報
【特許文献4】特開2005−323504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ジアシルグリセロールにフラボノイド類を添加した場合、ある程度の溶解性、分散性が達成され、高血圧症、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の予防や改善などの生理効果は期待できる。しかし、高機能を目的としてフラボノイド類を高配合した場合には溶解又は分散状態が保てず、フラボノイド類が沈殿物や浮遊物として油層中に存在する場合が生じ得る。近年の消費者は、安全性への関心が高まると共に、このような状態の商品を手にした場合、異物やカビ等が混入していると認識してクレームとなる可能性がある。このため、透明性は重要視される物性の1つであり、特に、調理用油脂や分離型ドレッシングの油層に不溶分が存在することは好ましくない。また、フラボノイド類は天然には配糖体(アグリコンに糖が結合したもの)として存在するが、アグリコンの形態の方が体内吸収性が良いことが判明した。従って、本発明の目的は、さらに高濃度にフラボノイド類をアグリコンの形態で溶解した透明性の高い油脂組成物及びそれを用いた食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、上記の課題を解決すべく検討を行った結果、ジアシルグリセロールを含有する油脂にフラボノイド類を添加した際に、一定量の有機硫黄化合物を併用することでフラボノイド類の溶解性が向上するとともに、風味が良好で食用油脂として有用な油脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、ジアシルグリセロールを15〜95質量%含有し、有機硫黄化合物が硫黄含有量として1〜2000μg/g及び糖と結合していないフラボノイド類が10μg/g以上溶解した油脂組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記油脂組成物を含有する食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の油脂組成物は、フラボノイド類を高濃度溶解して含有するにも関わらず、透明感といった外観に優れ、また風味及び舌触りが良好であるため、種々の食用油脂として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、油脂組成物中のジアシルグリセロールの含有量は15〜95質量%(以下、単に「%」と記載する)の範囲でフラボノイド類の溶解性は向上するが、油脂組成物の風味、生理効果、工業的生産性の点で20〜95%であるのが好ましく、さらに50〜95%、特に70〜90%であるのが風味、体脂肪蓄積抑制効果等の生理効果、工業的生産性の点で望ましい。
【0010】
本発明において、ジアシルグリセロールの構成脂肪酸の80〜100%が不飽和脂肪酸であることが好ましく、より好ましくは90〜100%、さらに93〜100%、特に93〜98%、殊更94〜98%であるのが外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。ここで、この不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、さらに16〜22であるのが好ましい。
【0011】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、オレイン酸の含有量は20〜65%であることが好ましく、さらに25〜60%、特に30〜50%、殊更30〜45%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランスの点で好ましい。さらに外観、生理効果の点から、ジアシルグリセロール中のジオレイルグリセロールの含有量は、45%未満、さらに0〜40%が好ましい。
【0012】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうちリノール酸の含有量は15〜65%、好ましくは20〜60%、さらに30〜55%、特に35〜50%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランスの点で好ましい。さらに、酸化安定性、生理効果の点から、ジアシルグリセロール中のリノール酸/オレイン酸の含有質量比が0.01〜2、好ましくは0.1〜1.8、特に0.3〜1.7であることが好ましい。
【0013】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうちリノレン酸の含有量は15%未満、好ましくは0〜13%、さらに1〜10%、特に2〜9%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランス、酸化安定性の点で好ましい。リノレン酸には、異性体としてα−リノレン酸とγ−リノレン酸が知られているが、α−リノレン酸が好ましい。
【0014】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量は20%未満であることが好ましく、より好ましくは0〜10%、さらに0〜7%、特に2〜7%、殊更2〜6%であるのが、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数14〜24、特に16〜22のものが好ましく、パルミチン酸、ステアリン酸が特に好ましい。また、炭素数12以下の脂肪酸の含有量は、風味の点で5%以下であるのが好ましく、さらに0〜2%、特に0〜1%、実質的に含まないのがさらに好ましい。残余の構成脂肪酸は炭素数14〜24、特に16〜22であるのが好ましい。
【0015】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸の含有量は、0〜4%、好ましくは0.1〜3.5%、さらに0.2〜3%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0016】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、共役不飽和脂肪酸の含有量は1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.9%、さらに0.1〜0.8%、特に0.2〜0.75%、殊更0.3〜0.7%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0017】
また、生理効果、保存性、油脂の工業的生産性及び風味の点から、ジアシルグリセロール中の1,3−ジアシルグリセロールの割合が50%以上、さらに52〜100%、特に54〜90%、殊更56〜80%であるジアシルグリセロールを用いるのが好ましい。
【0018】
ジアシルグリセロールの起源としては、植物性、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、あまに油、米油、紅花油、綿実油、牛脂、魚油等を挙げることができる。またこれらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できるが、水素添加していないものであることが、食用油脂を構成する全脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。また、生理効果、製品が白濁せず外観が良好となる点から、不飽和脂肪酸含有量が高い植物油が好ましく、中でも菜種油、大豆油がより好ましい。
【0019】
本発明における油脂組成物は、トリアシルグリセロールを4.9〜84.9%含有することが好ましく、より好ましくは4.9〜64.9%、さらに6.9〜39.9%、特に6.9〜29.9%、殊更9.8〜19.8%含有するのが生理効果、油脂の工業的生産性、外観の点で好ましい。また、トリアシルグリセロールの構成脂肪酸は、ジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0020】
本発明における油脂組成物は、モノアシルグリセロールを0.1〜5%含有することが好ましく、より好ましくは0.1〜2%、さらに0.1〜1.5%、特に0.1〜1.3%、殊更0.2〜1.2%含有するのが風味、外観、油脂の工業的生産性等の点で好ましい。電子レンジ調理により加熱されやすいという点でモノアシルグリセロールは0.1%以上含有するのが好ましく、電子レンジ調理中の発煙等安全性の点から5%以下が好ましい。モノアシルグリセロールの構成脂肪酸はジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0021】
また、本発明における油脂組成物に含まれる遊離脂肪酸(塩)含量は、5%以下に低減されるのが好ましく、より好ましくは0〜3.5%、さらに0〜2%、特に0.01〜1%、特に0.05〜0.5%とするのが風味、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0022】
本発明における糖と結合していないフラボノイド(「アグリコン」ともいう)類としてフラバン類、フラバノン類、フラボン類、フラバノール類、フラボノール類、ロイコアントシアン類、アントシアン類に分類されるものが挙げられる。例えば、フラバノン類に属するアグリコンとして、エリオジクチオール、ヘスペレチン、イソサクラネチン、ナリゲニン等が挙げられる。また、フラボン類に属するアグリコンとして、アカセチン、アピゲニン、クリシン、ジオスメチン、ルテオニン、ノビレチン、ペクトナリゲニン、ポンカネチン、トリシン等が挙げられる。また、フラバノール類に属するアグリコンとして、カテキン、エピカテキン等が挙げられる。また、フラボノール類に属するアグリコンとして、フィセチン、ガランギン、ケンフェロール、イソラムネチン、モリン、ミリセチン、ケルセチン、ラムネチン、ロビネチン等が挙げられる。中でも、フラボノール類に属するアグリコンを含むものが風味の点から好ましく、さらに、ケルセチン、イソラムネチン及びケンフェロールから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0023】
これらのフラボノイド類は市販されており、それを使用することもできるが、バラ科、マメ科、アヤメ科、ユリ科、ウリ科など多岐の植物に多く含まれていることが知られており、これらの植物の抽出物を本発明に用いることができる。より具体的にはタマネギ、シャロット、長ネギ、ニラ、ニンニク、ニンジン、トマト、リンゴ、オレンジ、ミカン、ユズ、カボス、モモ、ブドウ、ブルーベリー、イチゴ、ラズベリー、クランベリー、メロン等の植物の抽出物を用いるのが好ましい。これらの植物からフラボノイド類を抽出するには、アルコール等による溶媒抽出法、アルコール含有水溶液による抽出法、超臨界抽出法等を用いて行うのが好ましい。また、植物からフラボノイド類を抽出する際、例えば、酸による加水分解を行えば、フラボノイド類に結合した糖が脱離し、アグリコンが効率的に抽出される。
【0024】
本発明における油脂組成物は、糖と結合していないフラボノイド類が10μg/g以上溶解したものであるが、さらに15〜45μg/g、特に20〜45μg/g溶解していることが、生理効果の点で好ましい。
【0025】
本発明における油脂組成物は、糖と結合していないフラボノイド類の溶解性を向上させるために、有機硫黄化合物を含有させる。その油脂組成物中の有機硫黄化合物の含有量は硫黄含有量として1〜2000μg/gであるが、さらに25〜1500μg/g、さらに50〜1200μg/gであることが風味、舌触りが良好となる点及びアグリコンの溶解性向上の点で好ましい。
【0026】
有機硫黄化合物としては、分子量中に硫黄原子を1〜3個含有し、炭素原子を2〜30個含有するものであることが、アグリコンの溶解性及び風味の点から好ましい。具体的化合物としては、チオフェン化合物、スルフィド化合物、ジスルフィド化合物及びトリスルフィド化合物から選ばれる1種又は2種以上がアグリコンの溶解性向上及び風味の点から好ましい。このうち、チオフェン化合物としては、3,4−ジメチルチオフェン、2,4−ジメチルチオフェン、2,5−ジメチルチオフェン、4,5−ジヒドロ−3−(2H)−チオフェノン等が挙げられる。スルフィド化合物としては、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、メチルエチルスルフィド、メチルプロピルスルフィド等のジアルキルスルフィド;ジアリルスルフィド;(1−ブテニル−1)メチルスルフィド、メチルプロペニルスルフィド等のアルキルアルケニルスルフィド;ジプロペニルスルフィド等のジアルケニルスルフィド等が挙げられる。ジスルフィド化合物としては、ジメチルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、メチルプロピルジスルフィド等のジアルキルジスルフィド;メチルプロペニルジスルフィド等のアルキルアルケニルジスルフィド;ジプロペニルジスルフィド等のジアルケニルジスルフィド等が挙げられる。トリスルフィド化合物としては、ジメチルトリスルフィド、ジプロピルトリスルフィド、メチルプロピルトリスルフィド等のジアルキルトリスルフィド;メチルプロペニルトリスルフィド等のアルキルアルケニルトリスルフィド;ジプロペニルトリスルフィド等のジアルケニルトリスルフィド;トリアルケニルトリスルフィド等が挙げられる。
【0027】
これらの有機硫黄化合物は市販されており、それを使用することもできるが、タマネギ、長ネギ、ニンニク、ニラ等の植物に多く含まれていることが知られており、これらの植物の抽出物を本発明に用いることができる。より具体的には、タマネギ、ニンニク、長ネギ等の植物の抽出物を用いるのが好ましい。これらの植物から有機硫黄化合物を抽出するには、アルコール等による溶媒抽出法、含水アルコールによる抽出法、超臨界抽出法による抽出物を用いて行うのが好ましい。
【0028】
本発明の油脂組成物は、ジアシルグリセロールを含有する油脂にアグリコン及び有機硫黄化合物を溶解させることにより製造できるが、ジアシルグリセロールを含有する油脂に、前記アグリコンを含有する植物抽出物及び有機硫黄化合物を含有する植物抽出物を溶解させることにより製造することもできる。
【0029】
本発明の油脂組成物には、酸化安定性を向上させるために、抗酸化剤を添加してもよい。抗酸化剤は通常、食品、医薬品に使用されるものであればいずれでもよいが、ビタミンA、アスコルビン酸、トコフェロール、リン脂質のうち1種又は2種以上の組み合わせが好ましい。ビタミンAとしては、レチノール、レチナール、デヒドロレチノイン酸、カロチン等が挙げられる。アスコルビン酸としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミチン酸エステル、アスコルビン酸ステアリン酸エステル等が挙げられる。トコフェロールとしては、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロールが挙げられるが、γ−トコフェロール、δ−トコフェロールが好ましい。リン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸等やこれらのリゾ体が挙げられる。
酸化安定性を向上させるためには、抗酸化剤を純分として本発明の油脂組成物に0.01〜5%、さらに0.02〜3%、特に0.05〜2%添加することが好ましい。
【0030】
本発明の油脂組成物には、コレステロール低下効果、外観、作業性の点で、植物ステロール類を0.05〜20%、さらに0.3〜10%、特に1.2〜4.7%含有するのが好ましい。ここで植物ステロールとしては、例えばα−シトステロール、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、スチグマスタノール、カンペスタノール、シクロアルテノール等のフリー体、及びこれらの脂肪酸エステル、フェルラ酸エステル、桂皮酸エステル等のエステル体が挙げられる。
【0031】
本発明の油脂組成物には、溶解性、分散性をさらに向上させるために、乳化剤を添加してもよい。乳化剤は通常、食品、医薬品に使用されるものであればいずれでもよいが、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、有機酸脂肪酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
なお、溶解性を評価する手法としては、溶解度を測定する方法以外に、積分球を用いた積分球式光電光度法を用い、濁度を測定することにより評価することもできる。この方法は、油の色や溶解する色素による着色の影響を受けずに測定可能な点から好ましい。
【0032】
本発明により得られる油脂組成物は、例えば、風味調味料、たれ類、ドレッシング、パスタソース等の液体調味料;スープ類;調理食品;総菜類;スナック類;珍味類等の広い食品に利用することができる。
【実施例】
【0033】
<試験油脂>
試験油脂1として、トリアシルグリセロール(以下「TAG」と表記する)を主体とする油脂(サミット精油製サワラワー油50%、サミット精油製菜種油45%及びサミット精油製紫蘇油5%を混合したもの)、試験油脂2として、ジアシルグリセロール(以下「DAG」と表記する)高含有油脂(花王(株))、試験油脂3として試験油脂1を80%及び試験油脂2を20%混合したものを使用した。各試験油脂のグリセリド組成を表1に示した。なお、表1中においてモノアシルグリセロールを「MAG」と表記した。
【0034】
【表1】

【0035】
<溶解性試験>
ガラススクリュー管3本に、フラボノイド類としてケルセチン2水和物(関東化学(株))100mgをそれぞれ計り取り、表1に示した組成の食用油脂3種類の100gをそれぞれ入れた。超音波洗浄器(ブランソン社4415、出力315W,4.2kHz)にて5分間超音波を照射し、ケルセチンを分散させた母液(A)をそれぞれ調製した。
有機硫黄化合物としてジメチルスルフィド(オックスフォードケミカルズ社、純度GC99%以上)を量り採り、10000μg/gの濃度の母液(B)を調製した。母液(A)を前記超音波照射した後、素早くガラススクリュー管に5g量り取り、これに母液(B)をジメチルスルフィドが表1に示した濃度となるように加えた。再び超音波処理を5分間行った。1時間静置後に透明な上澄みを採取し、0.2μmメンブランフィルターにて濾過して不溶成分を取り除いた。その濾過した油を2g採取し、2mLメタノール(和光純薬社、HPLCグレード)を加え、蓋をして上下倒立振倒(2秒で上下一往復の割合)を行いながら、乳白色化した状態にしてから、同様に倒立攪拌を1分間行った。その後一昼夜静止させて、油層とメタノール層の分離を行った。上層部のメタノール層を採取し、0.2μmメンブランフィルターにて濾過後、HPLC測定用ガラスバイアル管に入れて測定試料とした。アジレントテクノロジー社、高速液体クロマトグラフィ1100型紫外・可視検出器を用いて、波長370nmにて試料中のフラボノイド類を検出し、イナートジルODS−3 外径φ2.1mm×長さ150mm,粒子径5μm(ジーエルサイエンス社)カラム(カラム温度40℃)、移動相(A液:100mmol/Lギ酸水溶液,B液:メタノール、初期A液85%B液15%→20分A液0%B液100%グラジエント法)を用いて、試料中のフラボノイド類の定量測定を行った。検量線は、目的のフラボノイド標準試料のメタノール溶液(0.01〜100μg/mLの範囲で5段階の濃度の異なる標準液)にて作成し、外部標準法にて定量した。
【0036】
<官能試験>
専門パネル3名にて、試料を1滴口中に含み評価した。評価は、次に示す評価基準により、試験油脂1を基準として行った。
【0037】
<評価基準>
ケルセチンの苦味のマスキング効果、及び硫黄臭について次の基準に従って総合的に評価した。
×:硫黄臭は不快ではないが、苦味が目立ち不快であり摂取しにくい風味である
●:苦味がやや感じる程度にマスキングされていているが、硫黄臭が目立ち不快であり摂取しにくい風味である
△:苦味がやや目立つが、不快な硫黄臭がなく何とか摂取可能な風味である
○:苦味を感じるが、不快な硫黄臭がなく苦痛を感じずに摂取可能な風味である
◎:苦味がやや感じる程度にマスキングされており、不快な硫黄臭もなく、香りと苦味のバランスがよい風味を有している
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示す評価結果から、試験油脂1を用いた試験例1−1〜1−7においては、有機硫黄化合物の濃度を増加させるとフラボノイド類の溶解性は多少向上するが、著しい効果は認められなかった。また、風味に関しては、苦味の要因物質であるフラボノイド類の苦味が強く感じられ、苦味の抑制効果もなく、風味の改善がほとんど認められなかった。
それに対して、試験油脂2を用いた試験例2−1〜2−7においては、有機硫黄化合物の濃度を上げるに従い、フラボノイド類の溶解性の向上が認められた。また、フラボノド類が試験例1−2〜1−7よりも多く溶解しているにも関わらず、苦味を強く感じない傾向にあり、明らかな風味の改善効果が認められた。しかしながら、有機硫黄化合物濃度が硫黄含有量として2550μg/gとなるとやや有機硫黄化合物の臭いが強くなり過ぎ、好ましくなかった。
試験油脂3を用いた試験例3−1〜3−7においては、フラボノイド類の溶解性に関しては試験油脂2よりは低いが、試験油脂1よりは高かった。また、有機硫黄化合物の含有量が増加するに従い、フラボノイド類の溶解性の向上が試験油脂2の場合と同様に認められた。苦味抑制効果に関しては、試験油脂2の場合に比べてやや劣るが、試験油脂1より風味の改善効果が認められた。即ち、試験油脂1より高濃度でフラボノイド類を溶解しているにもかかわらず風味の改善効果が認められた。
以上から、一定量以上のジアシルグリセロールを含有する油脂に、一定量範囲の有機硫黄化合物が存在することにより、従来透明な状態とすることができなかった濃度領域でフラボノイド類を溶解することができ、舌触りが良好で、なおかつ苦味が抑制され、摂取しやすいフラボノイド類を高濃度で含有する油脂組成物を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアシルグリセロールを15〜95質量%含有し、有機硫黄化合物が硫黄含有量として1〜2000μg/g及び糖と結合していないフラボノイド類が10μg/g以上溶解した油脂組成物。
【請求項2】
前記糖と結合していないフラボノイド類が、フラバン類、フラバノン類、フラボン類、フラバノール類、フラボノール類、ロイコアントシアン類及びアントシアン類から選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
前記糖と結合していないフラボノイド類が、フラボノール類である請求項1又は2のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項4】
前記糖と結合していないフラボノイド類が、ケルセチン、イソラムネチン及びケンフェロールから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
前記有機硫黄化合物が、チオフェン化合物、スルフィド化合物、ジスルフィド化合物及びトリスルフィド化合物から選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の油脂組成物を含有する食品。

【公開番号】特開2009−254284(P2009−254284A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107247(P2008−107247)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】