説明

治療成分送達のための磁気共鳴イメージング剤

【課題】治療的活性成分の送達および/または活性化を検出する、新規な磁気共鳴イメージングコントラスト剤を提供する。
【解決手段】キレート剤およびキレート剤と薬物部分により配位的に飽和された常磁性金属イオンを含むMRI剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1997年10月27日に出願の米国特許出願第60/063,328号の継続出願である。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、新規磁気共鳴イメージングコントラスト剤、および治療的活性物質を送達する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
磁気共鳴映像法(MRI)は、イメージを作るために高磁場および無線周波数信号を使用する診断および研究法である。生物組織中で最も豊富な分子種は水である。全てのイメージング実験においてシグナルを最終的に発生させる水プロトン核の量子機械的“スピン”がある。MRIにおいて、イメージするサンプルを強い静止磁場(1−12テスラ)におき、スピンを無線周波数(RF)のパルスの放射により励起させ、サンプルで正味の磁化を作る。次いで、種々の磁場勾配および他のRFパルスがスピンに作用し、空間的情報を記録シグナルに暗号化する。MRIは、相対的に短い時間で3次元の構造情報を作ることができる。
【0004】
(イメージ)
MRイメージは、典型的に黒が最低で白が最高の測定強度(I)であるグレースケールで示される。これは、強度I=C*M(式中、Cはスピンの濃度(この場合、水濃度)およびMは測定時間中に存在する磁化の目盛り)を測定する。水濃度(C)の変化によりMRイメージに差異を発生させ得るが、MRIのイメージ強度変化の源である局所環境中のMの変化の速度に強い依存性がある。二つの特徴的緩和時間であるT1およびT2が、磁化が正確に測定できる速度を支配する。T1はRFパルスにより混乱させた後、減衰して平衡に戻るスピンの指数時間定数である。シグナル対ノイズ比(SNR)を増加させるために、典型的MRイメージングスキャン(RFおよび勾配パルス系列およびデータ獲得)を、予定した多くの時間およびデータ平均に関して一定速度で繰り返す。任意のスキャンで記録されたシグナル増幅は、先のスキャンから平衡に減衰して戻るまでのスピンの数に比例する。従って、急速に減衰するスピン(即ち、短T1値)の領域は、連続的スキャンの間でそのシグナル増幅の全てを回収する。
【0005】
最終イメージの測定強度は、スピン密度(即ち、水濃度)を正確に反映する。スキャンの間と比べて長いT1値の領域は、固定状態条件に到達するまで漸増的にシグナルを損失させ、最終イメージで暗い領域として見える。T2(スピン−スピン緩和時間)の変化は、シグナルライン幅(短いT2値)に変化をもたらし、より大きいライン幅を産生する。極端な条件下で、ライン幅が、シグナルがバックグラウンドノイズから区別がつかないほど大きくなり得る。臨床イメージングにおいて、水緩和特性は組織毎に異なり、組織タイプの識別を可能にする定数を提供する。更に、MRI実験は、短いT1値および/または長いT2値のサンプルの領域が、いわゆるT1−加重およびT2−加重イメージングプロトコールを優先的に増強するように構成できる。
【0006】
MRIコントラスト剤
常磁性コントラスト剤の臨床的有効性を証明する文献の内容が急速に成長している(現在、8種が臨床試験または使用されている)。磁気的には類似であるが、組織学的に異なり得る領域/組織を区別する能力は、これらの薬剤を調製する主な刺激である[1、2]。MRT剤の設計において、コントラスト増強を提供する能力とは別に、生理学的結果に最終的に作用する種々の特性を付与する徹底的な試みをすべきである[3]。考慮しなければならない二つの基本的な特性は、生体適合性およびプロトン緩和増強である。生体適合性は毒性、安定性(熱力学および動力学)、薬物動力学および体内分布を含む数個の因子により影響される。プロトン緩和増強(またはリラキシビティー)は、金属および回転相関時間の選択により主として支配される。
【0007】
設計段階中に考慮すべき最初の性質は、複合体の測定リラキシビティーを支配する金属原子の選択である。常磁性金属イオンは、その不対電子の結果、強力な緩和増強剤として作用する。それらは近くの(r6依存)スピンのT1およびT2緩和時間を減少させる。ある常磁性イオンは、実質的にライン幅に作用することなくT1を減少し(例えば、ガドリニウム(III)、(Gd3+))、一方他のものは劇的なライン拡大を誘導する(例えば、超常磁性酸化鉄)。T1緩和の機構は、一般に、金属内部配位圏での速い水分子との変換である、常磁性体(不対電子を有する金属)の不対電子と大量の水分子(金属原子に“結合”しない水分子)の間の空間双極子−双極子相互作用を介している。
【0008】
例えば、実験の連続的スキャンの時間が短い場合、Gd3+イオン(水の近く)に関連する領域は、MRイメージで明るく見え、一方通常の水性溶液は、暗いバックグラウンドとして見える(即ち、T1加重イメージ)。超常磁性粒子によりもたらされる局所T2短縮は、これらの粒子の大磁気モーメントに関連する局所磁場不均質性によるものであると考えられる。超常磁性酸化鉄粒子に関連する領域はMRイメージで暗く見え、通常水性溶液は、スピン−エコーパルス系列におけるエコー時間(TE)が長い場合、高強度バックグラウンドとして見える(即ち、T2加重イメージ)。ランタニド原子Gd3+は、非常に高い磁気モーメントを有し(u2=63BM2)、対称的電子的基底状態(S8)のため、現在までMRIコントラスト剤のために最も頻繁に選択される金属原子である。高スピンMn(II)およびFe(III)のような遷移金属も、その高い磁気モーメントのため、候補物である。
【0009】
適当な金属が選択されたら、適切なリガンドまたはキレートを、複合体を比毒性にするために選択しなければならない。キレート化剤なる用語は、金属原子上につかみ、保つために、その多くの“アーム”を使用する物質のための適当な記載である、“カニのハサミ”を意味するギリシャ語のcheleに由来する(下記DTPA参照)。キレート複合体の安定性に作用する数個の因子は、エンタルピーおよびエントロピー効果(例えば、配位基の数、電荷および塩基度、リガンド場および配座的効果)を含む。リガンドの種々の分子設計特性が、生理学的結果と直接関連し得る。例えば、一定リガンド構造上の一つのメチル基の存在が、クリアランス速度に明白な作用を有する。一方、臭素基の付加は、複合体を、純粋な細胞外の役割から、肝細胞に集まる有効剤とすることができる。
【0010】
ジエチレントリアミンペンタアセティック(DTPA)はキレート化し、従って解毒したランタニドイオンとして作用する。Gd(DTPA)2-の安定定数(K)は非常に高く(logK=22.4)、これは生成定数としてより一般的に知られている(logKが高いほど、複合体は安定である)。この熱力学パラメーターは、非結合状態では事実上小さく、金属の損失が起こる速度(動的安定性)で混乱されるべきでないGd3+イオンのフラクションを示す(kρ/kd)。水溶性Gd(DTPA)2-キレートは、安定であり、非毒性であり、実験および臨床イメージング研究において最も広く使用されているコントラスト増強剤の一つである。1988年6月に、成人患者への使用が認可された。還流支配法で組織に蓄積される細胞外剤である。
【0011】
今日まで、ジエチレントリアミンペンタアセティック(DTPA)、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N',N",N'"−四酢酸(DOTA)およびその誘導体を含む多くのキレート化剤が使用されている。米国特許第5,155,215号、第5,087,440号、第5,219,553号、第5,188,816号、第4,885,363号、第5,358,704号、第5,262,532号およびMeyer et al., Invest. Radiol. 25:S53 (1990)参照。
【0012】
Gd(DTPA)を使用したイメージ増強改善は、多くの出願(Runge et al., Magn, Reson. Imag. 3:85 (1991); Russell et al., AJR 152:813 (1983); Mayer et al., Invest. Radiol. 25:S53 (1990))に記載されており、占居性病変による血液脳関門崩壊の可視化および異常血管質の検出を含む。近年、局所的脳血行力学の定義により、ヒト視覚皮質の機能的地図作成が試みられている(Belliveau et al. (1991) 254:719)。
【0013】
Gdコントラスト剤で使用される他のキレート化剤は、大環状リガンド1,4,7,10−テトラアザシクロデカン−N,N',N"N'"−四酢酸(DOTA)である。Gd−DOTA複合体は、動物およびヒトが関与する実験室試験で徹底的に試験されている。本複合体は、配座が硬く、非常に高い生成定数(logK=28.5)を有し、生理学的pHで非常に遅い解離定数を有する。近年、GdDOTA複合体は、フランスで成人および幼児への使用のためのMRIコントラスト剤として認可され、4500名を超える患者に投与されている。
【0014】
先の研究は、生物学的または他のタイプのサンプル内の生理学的または代謝的処理が報告されたMRIコントラスト剤をもたらしている。米国特許第5,707,605号、PCTUS96/08549および米国特許出願第09/134,072号に記載されるように、MRIコントラスト剤は、薬剤に存在する遮断部分と標的物質の相互作用の結果、コントラストの増加を可能にするように組み立てられている。即ち、標的物質の存在下、コントラスト剤の内配位圏部位の1個またはそれ以上の水の交換が増加し、明るいシグナルを導く;標的物質非存在下では、水の交換は妨げられ、イメージは暗いままである。従って、先の研究は、構造のみよりむしろ生理学的事象のイメージングを可能にする。
【0015】
しかし、治療成分を送達させ、送達をそのMRIを介して追跡することが可能となれば更なる改善となろう。従って、動物、組織または細胞内での治療成分の送達の可視化および検出を可能にするMRIコントラストまたは増強剤の提供が本発明の目的である。
【発明の開示】
【0016】
(発明の要約)
上記目的に従って、本発明は、キレート化剤および、キレート化剤と治療的遮断部分により同等に飽和された常磁性金属イオンを含み、該治療的遮断部分が、少なくとも一つの配位部位における水の急速交換が妨害されるように該キレート化剤に共有結合的に結合しており、該治療的遮断部分が少なくとも一つの治療的活性成分を含み、少なくとも一つの配位部位における水の交換が、治療成分のその治療作用をもたらす生理学的標的部位への送達により増加する、MRI剤を提供する。
【0017】
更なる態様において、本発明は、式:
【化1】

〔式中、
MはGd(III)、Fe(III)、Mn(II)、Yt(III)、Cr(III)およびDy(III)からなる群から選択される常磁性金属イオン;
A、B、CおよびDは1重結合または2重結合;
1、X2、X3およびX4は−OH、−COO−、−CH2OH−CH2COO−、置換基、治療的遮断部分または標的部分;
1−R12は水素、置換基、治療的遮断部分または標的部分;
1−X4およびR1−R12の少なくとも一つは治療的遮断部分である〕
を有するMRI剤を提供する。
【0018】
更なる態様において、MRI剤は、式:
【化2】

〔式中、
MはGd(III)、Fe(III)、Mn(II)、Yt(III)、Cr(III)およびDy(III)からなる群から選択される常磁性金属イオン;
H、I、J、KおよびLは−OH、−COO−、−CH2OH−CH2COO−、置換基、治療的遮断部分または標的部分;
13−R21は水素、置換基、治療的遮断部分または標的部分;
H、I、J、KおよびLおよびR13−R21の少なくとも一つは治療的遮断部分である〕
を有する。
【0019】
更なる態様において、本発明は、細胞、組織または患者の磁気共鳴イメージを作るための本発明のMRI剤の投与を含む、治療的活性成分に関連する疾病の処置法を提供する。
【0020】
更なる態様において、本発明は、MRI剤を細胞、組織または患者に投与し、該細胞、組織または患者の磁気共鳴イメージを表わすことを含む、細胞、組織または患者の磁気共鳴イメージングの方法を提供する。
【0021】
(図面の簡単な説明)
図1A、1Bおよび1Cは、本発明の態様を記載する。図1Aは、医薬20が、キレート5中の金属イオン10(ここでは、Gdとして示す)に配位原子を提供するが、配位原子は、リンカー、配位部位バリアーまたは開裂部位を付与され得る状況を記載する(図1B)。生理学的標的30にさらすと、配座変化が起こり、水の急速交換をさせる。図1Bは、開裂部位40を使用した以外は同様であり、開裂剤にさらすことにより、医薬20を切離す。図1Cは、配位部位バリアー50の使用を記載し、酵素のような開裂剤非存在下で、水の交換を妨害する。しかし、開裂後、標的30は医薬20と相互作用が可能になる。記載していないが、標的部分を本明細書中にいずれの態様にも含み得る;例えば、医薬の標的に使用する標的部分を、金属キレートと医薬の間か、または医薬の“末端基”として図1Aの医薬20に結合させ得る。あるいは、標的部分を、他の位置でキレート5に結合させ得る。同様に、標的部分は、開裂部位40と医薬20の間に、または末端基として、図1Bおよび1C態様に結合させ得る。
【0022】
図2A、2Bおよび2Cは、配位部位バリアー60の使用を記載する。標的基の使用を含む、一般に図1に記載のような種々の配座を使用し得る。例えば、図2Cにおいて配座部位バリアー60から医薬20を開裂するための、更なる開裂部位をシステム内に入れ得ることにも注目すべきである。
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明は、生理学的標的剤と本発明のMRI剤との相互作用の結果、治療的活性成分の送達を検出できる、磁気共鳴造影法(MRI)コントラスト剤を提供する。本発明のMRI剤は、生理学的標的物質非存在下においてはコントラスト増強剤として、相対的に不活性であるか弱いリラキシビティーを有するが、治療的活性成分の送達により活性化し、従ってMRイメージを変えるものである。
【0024】
治療的活性成分の送達のイメージングは二つの基本的経路において生じ得る。一つの態様においては、それはMRI剤を下記のように“オン”にする、治療的活性成分とその標的との実際の相互作用である;即ち、生理学的標的の存在の結果、MRI剤は治療的活性成分をMRI剤の残部から開裂して離すことができる再編成に付され、内部配位部位での水の交換の増加の結果としてシグナルを増加させる。あるいは、それはイメージされる活性成分の送達事象である;即ち、治療的活性成分を、プロテアーゼのような開裂剤にさらすことによりMRI剤から開裂させ、治療的活性成分がその標的と相互作用するように遊離にする。一般に、本明細書に記載のものは前者であるが、当業者には明らかなように、いずれも起こり得ることがある。
【0025】
単純化して観ると、コントラスト剤が治療的活性成分の送達により“オンになる”(即ち、リラキシビティーが増加する)、この“トリガー”機構は、本発明のMRIコントラスト剤に含まれる常磁性金属イオンの1個またはそれ以上の配位部位における水分子交換の速度に作用する動的平衡に基づく。次ぎに、水分子の交換の速度は、MRI剤上への治療的遮断部分の存在または不存在により決定される。このように、治療的活性成分の存在下、常磁性イオンをキレート化する本発明の金属イオン複合体は、局所環境中の水分子と急速に交換できる利用可能な配位部位が減少している。このような状況において、水配位部位は実質的にキレート化剤の配位原子および少なくとも一つの治療的遮断部分により占拠されているか、遮断されている。このように、常磁性イオンは本質的に“内部配位圏”で水分子を有せず、すなわち、標的物質が不存在の場合、金属に実際に結合する。それは常磁性金属イオンと内部配位圏水分子上のプロトンとの相互作用および常磁性金属イオンの高い観察されるリラクシビティー従ってイメージング効果をもたらすような水分子の急速な交換である。従って、治療的遮断部分が存在する場合のように、金属イオン複合体中の金属イオンの全ての配位部位が水分子以外の部分で占拠されている場合、本発明の金属イオン複合体によるイメージングシグナルはあっても極僅かな正味の増強である。しかし、治療的活性成分が(その生理学的標的との相互作用の結果または開裂により)除去されたとき、これらは金属イオン複合体の内部配位圏部位の少なくとも一つを効率的に遊離させる。次いで、局所環境中の水分子は、内部配位圏(複数もある)の可逆的占拠により利用可能となり、これは水の交換の速度および金属イオン複合体の水に対するリラクシビティーの増加をもたらし、それにより治療的活性成分の送達の尺度であるイメージ増強を産生する。
【0026】
一般に、イメージを産生するのに使用するMRIシグナルの2から5%の変化が、検出するのに十分である。従って、本発明の薬剤が、治療的活性成分がMRI剤上に存在するときのシグナルと比較して、治療的活性成分の送達により、少なくとも2から5%のMRIシグナルの増加を示すことが好ましい。治療的活性成分の送達により各配位部位を利用可能とするのに、2から90%のシグナル増強が好ましく、10から50%がより好ましい。即ち、治療的遮断部分が2個またはそれ以上の配位部位を占拠するとき、治療的遮断部分の放出は、シグナル配位部位と比較して、シグナルの有意なまたはそれ以上の増加をもたらすことができる。
【0027】
治療的遮断部分の存在下でさえ、任意の特定配位部位で、治療的遮断部分の配位原子と水分子との間の1個またはそれ以上の部位との動的平衡があることは理解されるべきである。即ち、配位原子が金属に密接に結合しているときでさえ、その部位での水分子のある程度の交換がある。しかし、殆どの場合、この水分子の交換は、急速でも顕著でもなく、顕著なイメージ増強をもたらさない。しかし、治療的活性成分の送達により、治療的遮断部分が配位部位から移動し、水の交換が増加し、即ち、急速交換および従って、リラクシビティーの増加が、有意なイメージ増強と共に起こり得る。
【0028】
従って、本発明のMRI剤は、金属イオン複合体を含む。本発明の金属イオン複合体は、キレート化剤および治療的遮断部分を含む複合体に結合する常磁性金属イオンを含む。本明細書の“常磁性金属イオン”、“常磁性イオン”または“金属性イオン”は、場と釣り合った程度に磁場に平行または逆平行に磁化されている金属イオンを意味する。一般に、これらは不対電子を有する金属イオンである;これは、当分野で理解される用語である。適切な常磁性金属イオンの例は、ガドリニウムIII(Gd+3またはGd(III))、鉄III(Fe+3またはFe(III)、マンガンII(Mn+2またはMn(II))、イットリウムIII(Yt+3またはYt(III))、ジスプロシウム(Dy+3またはDy(III))、およびクロム(Cr(III)またはCr+3)を含むが、これらに限定されない。好ましい態様において、常磁性イオンは、その高い磁気モーメント(u2=63BM2)、対称的電子的基底状態(S8)、およびそのヒトの診断への適用が現在認可されていることのため、ランタニド原子Gd(III)である。
【0029】
金属イオンに加えて、本発明の金属イオン複合体は、キレート化剤および、キレート化剤に共有結合的に結合する治療的遮断部分を含む。多くの常磁性イオンの相対的に高い毒性のために、これらのイオンは、適当なキレート化剤との結合により、生理学的システムで非毒性を付与される。従って、キレート化剤の配位部位における治療的遮断部分の置換は、治療的活性成分の送達により、水分子のために配位部位を開け、金属イオン複合体の解離の半減期の減少により金属イオンにより毒性を付与する。従って、好ましい態様において、シグナル配位部位のみが治療的部分により占拠され、または遮断される。しかし、例えば、実験動物、組織サンプル等への使用のためのある適用では、金属イオン複合体の毒性は、最高の重要性ではないことがある。同様に、ある金属イオン複合体は、1個またはそれ以上の付加的配位原子の治療的遮断部分での置換でさえ、解離の半減期に作用しない程に安定である。例えば、下記のDOTAは、Gd(III)と複合体化したとき、非常に安定である。従って、DOTAがキレート化剤として作用するとき、キレート化剤の数個の配位原子を、毒性を顕著に増加させることなく、治療的遮断分子で置換し得る。更に、このような薬剤は、水を大量の溶媒と急速に交換する2個またはそれ以上の配位部位を有するため、大きなシグナルを産生する可能性がある。
【0030】
エンタルピーおよびエントロピー効果(例えば、配位グループの数、電荷および塩基度、リガンド場および配座的効果)を含む、キレート金属イオン複合体の選択および安定性に作用する種々の因子が存在する。
【0031】
一般に、キレート化剤は、金属イオンと結合する配位原子を含む多くの配位部位を有する。配位部位の数、即ち、キレート化剤の構造は、金属イオンに依存する。本発明の金属イオン複合体に使用するキレート化剤は、金属イオン複合体の少なくとも一つの配位部位が、下記のように治療的部分により占拠または遮断され、金属イオン複合体に官能性を付与するため、好ましくは、金属イオンが結合できる(n)よりも少なくとも一つ少ない配位原子(n−1)を有する。従って、例えば、Gd(III)は、8個の強く会合する配位原子またはリガンドを有し得、9番目のリガンドと弱く結合できる。従って、Gd(III)の適当なキレート化剤は、9個以下の配位原子を有する。好ましい態様において、Gd(III)キレート化剤は、8個の配位原子を有し、治療的部分が金属イオン複合体の残りの部位を占拠または遮断する。別の態様において、本発明の金属イオン複合体に使用するキレート化剤は、金属イオンが結合できる(n)よりも2個少ない配位原子(n−2)を有し、これらの配位部位は、1個またはそれ以上の治療的遮断部分により占拠されている。従って、別の態様は、少なくとも5個の配位原子(少なくとも6個が好ましく、少なくとも7個が特に好ましく、少なくとも8個が特別に好ましい)を有し、治療的遮断部分が残りの部位を占拠または遮断しているGd(III)キレート化剤を利用する。キレート化剤および治療的遮断部分の正確な構造は決定するのが困難であり、従って、配位原子の正確な数は不明のままであり得ることは理解される。例えば、キレート化剤が、配位原子に分数または非整数の配位原子を提供することが可能である;即ち、キレート化剤は7.5個の配位原子を提供し得、即ち、8個めの配位原子が、平均して、金属イオンに十分に結合していない。しかし、8個目の配位原子が、その部位での水の急速交換の防止のために十分結合するおよび/または治療的遮断部分がその部位での水の急速交換を妨害する場合、金属イオン複合体はまだ官能性である。
【0032】
ランタニドおよび常磁性イオンのキレート化に使用する、多くの既知の大環状キレート化剤またはリガンドがある。例えば、多くの大環状キレート化剤およびその合成を記載する、本明細書に引用して包含させるAlexander, Chem. Rev. 95:273-342 (1995)およびJackels, Pharm. Med. Imag. Section III, Chap. 20, p645 (1990)参照。同様に、全て本明細書にまた引用して包含させる米国特許第5,155,215号、第5,087,440号、第5,219,553号、第5,188,816号、第4,885,363号、第5,358,704号、第5,262,532号を含む本発明で使用するための適当なキレート化剤を記載する多くの特許、およびMeyer et al., Invest. Radiol. 25:S53 (1990)参照。従って、当業者には理解されるように、既知の常磁性金属イオンキレート化剤またはランタニドキレート化剤が、更に少なくとも一つの治療的遮断部分を含むように、本明細書の教示を使用して、容易に修飾できる。
【0033】
金属イオンがGd(III)である場合、好ましいキレート化剤は1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−N,N',N",N'"−四酢酸(DOTA)または置換DOTAである。DOTAは下記の構造を有する:
【化3】

【0034】
本明細書で、“置換DOTA”は、DOTAが、下式の任意の位置で置換されていてもよいDOTAを意味する:
【化4】

【0035】
適当なR置換基は、当業者に理解され、下に定義するような、広汎な基を含む。例えば、適当な置換基は、米国特許第5,262,532号、第4,885,363号および第5,358,704号のDOTAおよびDOTAタイプ化合物に関して記載の置換基を含む。これらの基は、水素、置換アルキル基およびヘテロアルキル基を含むアルキル基、置換アリールおよびヘテロアリール基を含むアリール基、塩素、臭素およびフッ素のようなハロゲン;アミン;アミド;エステル;エーテル;エチレングリコールを含むグリコール;ヒドロキシ基;アルデヒド;アルコール;カルボン酸;ニトロ基;スルホニル;シリコン部分;硫黄含有部分;リン含有部分;カルボニル基;標的部分;治療的遮断部分および化学的官能基を含む。当業者には明らかなように、上記の各位置は、結合した2つのR基(R'およびR")を有し得るが、好ましい態様において、一個のみの非水素R基が特定の位置に結合している;即ち、好ましくは、各位置の少なくとも一つのRは水素である。このように、Rがアルキルまたはアリール基である場合、一般に、炭素に結合した付加的水素が存在するが、本明細書には記載していない。好ましい態様において、一つのR基は治療的遮断部分および他方のR基は水素である。
【0036】
本明細書の“アルキル基”または文法上同等なものは、直鎖または分枝鎖アルキル基を意味し、直鎖アルキル基が好ましい。分枝鎖の場合、1個またはそれ以上の位置で、そして特記しない限り任意の位置で分枝し得る。アルキルの定義内にはヘテロアルキル基も含まれ、ヘテロ原子は窒素、酸素、リン、硫黄およびシリコンから選択される。アルキル基の定義内に含まれるのはまたC5およびC6環、およびヘテロシクロアルキルのようなシクロアルキル基である。
【0037】
更に適切なヘテロ環式置換環は、本明細書に包含させる米国特許第5,087,440号に記載されている。ある態様において、本明細書に包含させる、米国特許第5,358,704号に記載のように、二つの隣接R基が互いに結合し、キレート化剤の炭素原子と共に環構造を形成する。これらの環構造は、同様に置換され得る。
【0038】
アルキル基は、1から20炭素原子(C1−C20)の範囲であり得、好ましい態様では、約1から約10炭素原子(C1−C10)を使用し、約C1からC5が好ましい。しかし、ある態様において、例えば、アルキル基が配位部位バリアーである時、アルキル基は大きいことがある。
【0039】
本明細書の“アルキルアミン”または文法上同等なものは、任意の位置をアミン基で置換された、上記で定義のアルキル基を意味する。加えて、アルキルアミンは、上記アルキル基で概説のように、更に置換基を有し得る。アミンは、1級(−NH2R)、2級(−NHR2)または3級(−NR3)である。アミンが2級または3級アミンである時、適当なR基は上記で定義のアルキル基である。好ましいアルキルアミンはp−アミノベンジルである。アルキルアミンが、下記のように、配位部位バリアーとして働く場合、例えば、アルキルアミンがピリジンまたはピロリン環を含むとき、好ましい態様は、配位原子としてアミンの窒素原子を使用する。
【0040】
本明細書の“アリール基”または文法状文法上同等なものは、フェニルのような芳香族アリール環、ピリジン、フラン、チオフェン、ピロール、インドールおよびプリンのようなヘテロ環式芳香族環、および窒素、酸素、硫黄またはリンとのヘテロ環式環を意味する。
【0041】
“アルキル”および“アリール”の定義に含まれるのは、置換アルキルおよびアリール基である。即ち、アルキルおよびアリール基を、1個またはそれ以上の置換基で置換し得る。例えば、フェニル基は、置換フェニル基であり得る。適当な置換基は、塩素、臭素およびフッ素のようなハロゲン;アミン;アミド;エステル;エーテル;エチレングリコールを含むグリコール;ヒドロキシ基;アデヒド;アルコール;カルボン酸;ニトロ基;スルホニル;シリコン部分;硫黄含有部分;リン含有部分;カルボニルおよび本明細書で定義の他のアルキルおよびアリール基、標的部分、治療的遮断部分および化学的官能基を含むが、これらに限定されない。このように、アリールアルキルおよびヒドロキシアルキル基は、本発明での使用にまた適当である。好ましい置換基は、アルキルアミンおよびアルキルヒドロキシを含む。
【0042】
本明細書の“リン含有部分”は、−PO(OH)(R25)2基を含む、ホスフィンおよびホスフェートを含むが、これらに限定されないリン含有化合物を意味する。リンは、アルキルリンであり得る;例えば、DOTEPは、DOTA上の置換基としてエチルリンを使用する。R25は、アルキル、置換アルキル、ヒドロキシであり得る。好ましい態様は、−PO(OH)(R25)2基を有する。
【0043】
“アミノ基”または文法上同等なものは、Rが本明細書で定義したものである、−NH2、−NHRおよび−NR2基を意味する。
【0044】
本明細書の“ニトロ基”は、−NO2基を意味する。
本明細書の“硫黄含有部分”は、チア−、チオ−およびスルフォ−化合物、チオール(−SHおよび−SR)およびスルフィド(−RSR−)を含むが、これらに限定されない、硫黄原子含有化合物を意味する。
【0045】
本明細書の“シリコン含有部分”は、シリコン含有化合物を意味する。
本明細書の“エーテル”は、−O−R基を意味する。好ましいエーテルは、アルコキシ基を含み、−O−(CH2)2CH3および−O−(CH2)4CH3が好ましい。
本明細書の“エステル”は−COOR基を意味する。
【0046】
「ハロゲン」とは、本書では臭素、ヨー素、塩素またはフッ素を意味する。好ましい置換アルキルとしては、部分的にまたは全部ハロゲン化した例えばCF3等があげられる。
【0047】
「アルデヒド」とは、本書では−RCOHグループを意味する。
【0048】
「アルコール」とは、本書では−OHグループ、および、アルキルアルコール類−ROHを意味する。
【0049】
「アミド」とは、本書では−RCONH−またはRCONR−グループを意味する。
【0050】
「エチレングリコール」または「(ポリ)エチレングリコール」とは、本書では−(O−CH2−CH2)n−基を意味し、エチレン基の各炭素原子は一つまたは二つがさらに置換されていても、即ち、−(O−CR2−CR2)nであってもよく、Rは上記したとおりである。酸素の代わりに他のヘテロ原子を有する、(即ち、−(N−CH2−CH2)n−または−(S−CH2−CH2)n−、あるいは置換基を有する)エチレングリコール誘導体も好適である。
【0051】
本書では、「標的部分」の用語は、標的の役目を果たすか、または、特定の位置または組合わせ、即ち、ある特異的結合のイベントで、複合体を指向させる官能基を意味する。従って、例えば、ある標的部分は、ある分子を特定の標的蛋白質または酵素、あるいは特定の細胞位置、または特定の細胞の型を標的とさせるのに使用できる。好適な標的部分としては、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、蛋白性またはステロイドホルモンを含むホルモン類、成長因子、レセプターリガンド、抗原および抗体、その他の類似物があるが、それらに限定されない。例えば、詳しくは後述するが、下記コバルト化合物のような治療的に活性な因子は、特定の蛋白質と特異的に結合する標的部分を含有し得る。あるいは、詳しくは後述するが、本発明のMRI因子は、多くの腫瘍細胞がその表面に明かなトランスフェリンレセプターを有しているので、例えば腫瘍細胞のような特定細胞型に対して、該因子を標的化させる例えばトランスフェリン部分のような標的部分を含み得る。同様に、標的部分は、MRI因子または治療的に活性な因子(もし遊離していれば)を細胞下の特定位置に対して標的化するのに有用な構成成分を含み得る。当業者には明らかであるが、細胞内で蛋白質を局在化させることは単純な有効濃度増加法である。例えば、ある医薬を核内で往復させ、それを小スペース内に閉じ込めれば、濃度を増加させることとなる。結局、生理学的標的を単純に特定の区域に局在化させることにより、医薬を適切に局在化させるのである。
【0052】
それ故、好適な標的配列には、発現生成物の生物学的活性を保持しながら、予め定めた分子または分子のクラスのその場所との結合を起こさせ得る能力のある結合配列(例えば、関連酵素クラスを標的化するのに酵素阻害剤または基質配列を使用して);それ自身のまたは共結合蛋白質の選択的分解を信号する配列;及び、a)ゴルジ(Golgi)、小胞体、細胞核、核小体、核膜ミトコンドリア、クロルプラスト、分泌小胞、リゾソーム、及び細胞膜のような細胞下の位置;b)分泌信号を経由する細胞外の位置;を含む予め定めた位置に予定発現生成物を組織的に局在化する能力のある信号配列が含まれるが、それらに限定されない。特に好ましいのは各細胞下の位置に局在化させることである。
【0053】
他の好適な置換基のクラスは、詳しくは後述する、本発明の構成成分を加入するのに一緒に使用する化学的官能基である。それ故、一般的には、本発明の構成成分は、次いで結合のために使用し得る各位置上に官能基を使用することにより結合させる。結合に好適な官能基はアミノ基、カルボキシ基、オキソ基およびチオール基である。これらの官能基は、次いでリンカーを使用して直接的または間接的のいずれかで結合させ得る。リンカーは当業者によく知られているが、例えば、よく知られているホモ−またはヘテロ−2官能性リンカーである(引用して本書の一部とする 1994 Pierce Chemical Company catalog, technical section on cross-linkers, pages 155-200 参照)。好適なリンカーには、短いアルキル基を有するアルキル基(置換アルキル基およびヘテロ原子部分を含有するアルキル基を含む)、エステル類、アミド、アミン、エポキシ基、核酸、ペプチドおよびエチレングリコール及び好ましい誘導体が含まれるが、それらに限定されない。
【0054】
置換基は水素または以下に記載するような治療的遮断部分であってもよい。
【0055】
他の実施態様では、金属イオンがGd(III)であるとき、好ましいキレート化剤はジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)または置換DTPAである。DTPAは下記構造を有する:
【0056】
【化5】

【0057】
「置換DPTA」とは、本書において、下記式の任意の位置で置換されているDPTAを意味する。
【0058】
【化6】

例えば、米国特許No.5087440参照。
【0059】
好適なR置換基には、DOTAについて上記したものが含まれる。また、本書でそう記載しているように、当業者には理解されるはずであるが、上記各定義位置で少なくとも1つの基は水素であり、一般的には示さなくても各位置において2つのR基(R’およびR”)があり得る。
【0060】
別の実施態様では、金属イオンがGd(III)である場合、好ましいキレート化剤は1、4、7、10−テトラアザシクロドデカン−N,N’,N”,N’”−テトラエチルリン酸(DOTEP)または置換DOTEPである(米国特許No.5188816)。DOTEPは下記構造を有する。
【0061】
【化7】

DOTEP前記と同様のR置換基を有していてもよい。
【0062】
他の適切なGd(III)キレート化剤は、特に上記 Alexander, Jackelsらの米国特許No.5,155,215、5,087,440、5,219,553、5,188,816、4,885,363、5,358,704、5,262,532、および Meyer et al., Invest. Radiol. 25: S53 (1990) 等に記載されている。
【0063】
常磁性イオンがFe(III)である場合、Fe(III)が6つの配位原子を結合し得るので、好適なキレート化剤は6以下の配位原子を有するものである。Fe(III) イオンのキレート化剤として好適なのものは当業界でよく知られている。(Lauffer et al., J. Am. Chem. Soc. 109:1622 (1987); Lauffer, Chem. Rev. 87:901-927 (1987);および米国特許No.4,885,363、5,358,704、5,262,532参照。記載されているものはいずれもFe(III)のキレート剤として好適である。)
【0064】
常磁性イオンがMn(II)(Mn+2)である場合、Mn(II) が6つまたは7つの配位原子を結合し得るので、好適なキレート化剤は5または6以下の配位原子を有するものである。Mn(II)イオン のキレート化剤として好適なのものは当業界でよく知られている(Lauffer, Chem. Rev. 87:901-927 (1987)および米国特許No.4,885,363、5,358,704、5,262,532参照)。
【0065】
常磁性イオンがYt(III)である場合、Yt(III)は、8個または9個の配位原子を結合することができることから、適切なキレート化剤は、7個または8個未満の配位原子を有する。Yt(III)イオンに適したキレート化剤には、限定されるものではないが、DOTAおよびDPTA、並びにそれらの誘導体(Moiら、J. Am. Chem. Soc. 110:6266−6267(1988)を参照)、並びに上に概説した米国特許第4,885,363号および他の米国特許に記載されているキレート化剤が含まれる。
【0066】
常磁性イオンがDy+3(Dy(III))である場合、DyIIIは、8個または9個の配位原子を結合することができることから、適切なキレート化剤は、7個または8個未満の配位原子を有する。適当なキレート化剤は、上記のように、当業界で知られている。
【0067】
好ましい態様では、キレート化剤および治療的遮断部分が共有結合する;すなわち、治療的遮断部分は、キレート化剤での置換基である。この態様では、結合金属イオンをもつ置換キレート化剤は、標的物質の不存在下、占拠またはブロックされた全ての可能な配位部位を有する金属イオン複合体を含んでなる;すなわち、それは、配位上飽和されている。
【0068】
別の態様では、キレート化剤および治療的遮断部分は共有結合しない。この態様では、治療的遮断部分は、標的物質の不存在下、水分子の迅速な交換を妨げるのに十分な金属イオンに対する親和性を有する。しかしながら、この態様では、治療的遮断部分は、金属イオンに対してより標的物質に対して高い親和性を有する。従って、開裂剤または生理学的標的のいずれかの存在下、治療的遮断部分は、金属イオンから取り除かれて、標的物質と相互作用する傾向を有することで、金属イオン複合体における配位部位の自由度を上げて(freeing up)、水の迅速な交換および緩和性の増大を可能にする。
【0069】
重要なことは、治療的部分が金属イオンの分子内配位圏にある場合、金属イオン、キレート化剤、および治療的遮断部分を含んでなる金属イオン複合体は、水分子を容易に迅速に交換できないので、治療的遮断部分の存在下、実質的なイメージの増強があまりまたはほとんどないことである。
【0070】
本明細書中、「治療的遮断部分」という語または文法的同義語は、幾つかの必須機能をもつ部分を意味する。第一に、治療的遮断部分の幾つかの成分は、金属イオン複合体の金属イオンの少なくとも1つの分子内配位部位における水の交換を実質的に阻止することができなければならない。第二に、治療的遮断部分の幾つかの成分は、治療効果をあげる、すなわち、その生理学的標的物質の機能を変えることができなければならない。加えて、さらなる要件は、治療的遮断部分の生理学的標的物質との相互作用の結果として、または治療的遮断部分に存在する開裂部位に対するプロテアーゼのような分離酵素作用の結果として、金属イオンの少なくとも1つの分子内配位部位における水の交換が増大することである。以下により十分記載するように、これは、キレート化剤からの治療的遮断部分の幾つかまたは全ての開裂の結果として一般的に行われるが、他のタイプの相互作用もまた利用することができる。以下により十分記載するように、これらの機能は各々、単一成分により成し遂げられ得、または多成分を使用して、治療的遮断部分を一緒に形成する。すなわち、例えば、治療上活性な成分が配位原子を与え得る。さらにまた、以下により十分記載するように、治療的遮断部分は、ある特定の標的に対する薬物部分の標的化を可能とする標的部分を含んでなり得る。最後に、治療的遮断部分は、正しいスペーシングおよび必要とされる治療的遮断部分の成分の結合を与える1つまたはそれ以上のリンカー基を含んでなり得る。
【0071】
従って、治療的遮断部分は、本明細書中に概説するように、1つまたはそれ以上の幾つかの成分を含んでなり得る。最低でも、治療的遮断部分は、治療効果をもたらすことができる「治療上活性な成分」または「薬物部分」を含んでなり、すなわち、それは、生理学的標的物質の生物学的機能を変える。以下に概説するように、この薬物部分は、治療的遮断部分の配位原子を与え得るか、または与え得ない。本明細書中、「治療効果をもたらす」もしくは「治療上有効な」という語または文法的同義語は、薬物がその意図する生理学的標的の生物学的機能を治療および表現型効果をもたらすのに十分な方法で変えることを意味する。本明細書中、「変える」または「生物学的機能を調節する」という語は、生理学的標的がその生物学的活性の質または量のいずれかに変化を受けることを意味する;これには、活性の増大または減少が含まれる。そこで、治療上活性な成分には、広範囲にわたる様々な薬物が含まれ、アンタゴニスト(例えば、酵素阻害剤)およびアゴニスト(例えば、望ましい遺伝子産物の発現の増大を生ずる転写因子)(当業者により認識されるように、アンタゴニスト転写因子を使用することもできるが)を含め、全てが含まれる。
【0072】
好ましい態様では、以下により十分記載するように、治療上活性な成分をMRI剤から開裂する。この態様では、治療的遮断部分の開裂および治療上活性な成分の解離の結果として、MRI剤の配位部位は、これ以上配位原子により占拠されず、この部位において水が自由に交換され、シグナルの増強をもたらす。さらにまた、薬物は、ここで、その標的と自由に相互作用し、これは、開裂を行う分子と同じであってもよいし、または同じでなくてもよい;例えば、開裂部位は、例えば、HIVプロテアーゼの酵素基質を含んでいてもよいし、薬物は、該酵素の阻害剤を含んでいてもよい。従って、この態様では、相互作用の性質は不可逆的である;MRI剤から解離する配位原子は、再び会合せず、配位位置をブロックまたは占拠しない。この態様は、単一開裂剤が多くの活性金属イオン複合体、すなわち、治療的遮断部分が金属イオンの配位位置をこれ以上占拠またはブロックしない金属イオン複合体の生成をもたらすことから、イメージの増強の増幅を可能にする。
【0073】
別の態様では、治療上活性な成分を活性とするのにMRI剤から開裂する必要はない。従って、例えば、以下により十分記載するように、幾つかの成分は、MRI剤と会合したままであり得る;この場合に重要なことは、薬物のその標的との会合が治療的遮断部分由来の配位原子により元々占拠されていた配位位置に生ずる配座変化をもたらして、空となり、水の交換の増大を可能とすることで、イメージの増強を可能にすることである。すなわち、薬物のその標的に対する親和性は、治療的遮断部分のMRI剤に対する親和性より大きい。薬物のその生理学的標的との相互作用の性質により、これは可逆的相互作用であり得るか、または可逆的相互作用ではあり得ない。すなわち、幾つかの場合において、例えば、ある酵素阻害剤の場合において、相互作用は有効に不可逆的であり、MRI剤に結合した薬物で占拠されている酵素活性部位をもたらす。あるいはまた、幾つかの態様では、相互作用が可逆的であり、その標的と会合した薬物を有すること(イメージの増強をもたらすこと)と、MRI剤と会合した治療的遮断部分を有すること(水の交換を妨げることで、シグナルの損失を妨げること)との間で平衡が確立される。
【0074】
治療上活性な部分と生理学的標的物質との間の治療効果の性質は、生理学的標的物質および効果の性質の両方に依存する。一般に、適当な生理学的標的物質には、限定されるものではないが、なかでも、イオンチャンネルおよび酵素が含まれるタンパク質(ペプチドおよびオリゴペプチドを含む);核酸;Ca+2、Mg+2、Zn+2、K+、Cl−、Na+といったようなイオン、並びにFe、Pb、Hg、およびSeのイオンが含まれる毒性イオン;cAMP;Gタンパク質結合レセプターおよび細胞表面レセプターが含まれるレセプター、並びにリガンド;ホルモン;抗原;抗体;ATP;NADH;NADPH;FADH2;FNNH2;補酵素A(アシルCoAおよびアセチルCoA);およびビオチンが含まれる。生理学的標的物質には、オルソミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、呼吸器合胞体ウイルス、おたふく風邪ウイルス、はしかウイルス)、アデノウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、レオウイルス、トガウイルス(togaviruses)(例えば、風疹ウイルス)、パルボウイルス、ポックスウイルス(例えば、痘瘡ウイルス、ワクシニアウイルス)、エンテロウイルス(例えば、ポリオウイルス、コクスサッキーウイルス)、肝炎ウイルス(A、B、およびCを含む)、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルス)、ロタウイルス、ノーウォークウイルス、ハンタウイルス、アレナウイルス、ラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルス)、レトロウイルス(HIV、HTLV−IおよびIIを含む)、パポーバウイルス(例えば、パピローマウイルス)、ポリオーマウイルス、およびピコルナウイルス等が含まれる、広範囲にわたる様々なウイルスと関連のある酵素およびタンパク質が含まれる。同様に、細菌標的は、バシラス属;ビブリオ属、例えば、V. cholerae;大腸菌属、例えば、腸内毒素原性E. coli;赤痢菌属、例えば、S. dysenteriae;サルモネラ属、例えば、S. typhi;マイコバクテリウム属、例えば、M. tuberculosis、M. leprae;クロストリジウム属、例えば、C. botulinum、C. tetani、C. difficile、C. perfringens;コルニエバクテリウム属(Cornyebacterium)、例えば、C. diphtheriae;連鎖球菌属、S. pyogenes、S. pneumoniae;ブドウ球菌属、例えば、S. aureus;ヘモフィルス属、例えば、H. influenzae;ナイセリア属、例えば、N. meningitidis、N. gonorrhoeae;エルシニア属、例えば、G. lamblia、Y. pestis;シュードモナス属、例えば、P. aeruginosa、P. putida;クラミジア属、例えば、C. trachomatis;ボルデテラ属、例えば、B. pertussis;トレポネーマ属、例えば、T. palladium等が含まれる、広範囲にわたる様々な病原性および非病原性の重要な原核生物から得ることができる。
【0075】
生理学的標的物質を同定したら、対応する治療上活性な成分を選択する。これらの成分は、限定されるものではないが、酵素阻害剤、ホルモン、サイトカイン、成長因子、レセプターリガンド、抗体、抗原、クラウンエーテルおよび他のキレート化剤が含まれるイオン結合化合物、実質的に相補的な核酸、転写因子が含まれる核酸結合タンパク質、毒素等を含め、広範囲にわたる様々な薬物のいずれかである。適当な薬物には、エリスロポイエチン(EPO)、トロンボポイエチン(TPO)、インターロイキン(IL−1からIL−17まで含む)といったようなサイトカイン、インスリン、インスリン様成長因子(IGF−1および2を含む)、上皮成長因子(EGF)、腫瘍成長因子(TGF−αおよびTGF−βを含む)、ヒト成長ホルモン、トランスフェリン、上皮成長因子(EGF)、低密度リポタンパク質、高密度リポタンパク質、レプチン、VEGF、PDGF、毛様体神経栄養性因子、プロラクチン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、カルシトニン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、コルチゾール、エストラジオール、卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、プロゲステロン、テストステロン、リシンが含まれる毒素、およびPhysician's Desk Reference,Medical Economics Data Production Company,Montvale,NJ,1998に概説されているいずれかの薬物が含まれる。
【0076】
好ましい態様では、生理学的標的は、タンパク質の生物活性に重要であるヒスチジン残基を含むタンパク質である。この場合、治療上活性な成分は、PCT US95/16377、PCT US95/16377、PCT US96/19900、PCT US96/15527、およびその中で引用されている文献(これらに記載されている内容は全て、本発明の一部を明白に構成する)に一般的に記載されているような金属イオン複合体(MRI剤の金属イオン複合体と混同してはならない)であり得る。これらの複合体は、以下に概説する一般構造をとり、生物学的に重要なヒスチジン残基をもつタンパク質、特に酵素の生物活性を減少させるのに有効であることが示された。これらのコバルト複合体は、アキシャル位でのリガンドの置換または付加により、それらの生物学的活性を誘導するらしい。これらの化合物の生物学的活性は、新たなアキシャルリガンド、最も好ましくは標的タンパク質によりその生物学的活性に必要とされるヒスチジンの側鎖のイミダゾールの窒素原子の結合から生ずる。従って、活性部位におけるヒスチジンを利用する酵素のようなタンパク質、例えば、必須金属イオンを結合するためにヒスチジンを使用するタンパク質を、コバルト化合物のアキシャルリガンド位でのヒスチジンの結合により不活性化することで、ヒスチジンがその正常な生物学的機能に関与しないようにすることができる。
【0077】
構造6
【化8】

【0078】
構造6では、金属イオンをCoとして示し、これは、Co(II)もしくはCo(III)、またはFe、Au、およびCr(PCT US96/15527を参照)を含め、他の四座(tetradentate)金属イオンのいずれかであり得る。R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、およびR8は各々、本明細書中に定義する置換基であり、水素、アルキル、アリール、または標的部分が好ましい。一般に、少なくとも1つのR基には、コバルト複合体の残りのMRI剤への結合のための化学官能基が含まれる。
【0079】
好ましい態様では、生理学的標的タンパク質が酵素である。当業者により認識されるように、可能な酵素標的物質はかなり広範である。適当な酵素群には、限定されるものではないが、プロテアーゼのようなヒドラーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、およびヌクレアーゼ;ラセマーゼ、エピメラーゼ、、トートメラーゼ、またはムターゼといったようなイソメラーゼ、;トランスフェラーゼ、キナーゼ、およびホスファターゼが含まれる。本発明を使用して、循環系内での動脈効果性斑および病変、炎症、創傷、免疫応答、腫瘍、アポトーシス、エキソサイトーシス等の発生または維持と関連のある酵素を全て処理することができる。ラクターゼー、マルターゼ、スクラーゼまたはインベルターゼ、セルラーゼ、α−アミラーゼ、アルドラーゼ、グリコーゲンホスホリラーゼ、ヘキソキナーゼのようなキナーゼ、セリン、システイン、アスパルチル、およびメタロプロテアーゼのようなプロテアーゼといったような酵素を検出することもでき、限定されるものではないが、トリプシン、キモトリプシン、並びにtPAのような他の治療上関連のあるセリンプロテアーゼおよび血栓溶解カスケードの他のプロテアーゼ;カテプシンB、L、S、H、J、N、およびOを含め、カテプシン;およびカルパイン:が含まれるシステインプロテアーゼ;並びにカスパーゼ(caspases)−3、5、8といったようなカスパーゼ、およびインターロイキン変換酵素(ICE)のようなアポトーシス経路の他のカスパーゼが含まれる。同様に、細菌およびウイルス感染を特有の細菌およびウイルス酵素によって検出することができる。当業者で認識されるように、このリストは、限定することを意味するものではない。
【0080】
標的酵素を同定または選択したら、酵素基質特異性の周知のパラメーターを使用して、酵素阻害剤の治療上活性な成分を設計することができる。上に概説したように、阻害剤は、上に記載したコバルト複合体のような別の金属イオン複合体であってもよい。他の適当な酵素阻害剤には、限定されるものではないが、PCT US95/02252、PCT/US96/03844、およびPCT/US96/08559に記載されているシステインプロテアーゼ阻害剤、並びにHIVプロテアーゼの阻害剤といったような薬物として使用される既知のプロテアーゼ阻害剤が含まれる。
【0081】
ある態様では、治療的活性成分は、核酸であり、例えば、遺伝子治療またはアンチセンス治療(antisense therapy)を行うものである。“核酸”または“オリゴヌクレオチド”または本明細書中で用いる用法的に同等なものは、同時に共有結合した少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。ある場合には、以下に概略を示すように、核酸類似体は、例えばホスホルアミド(Beaucage et al., Tetrahedron 49(10):1925 (1993) およびその参考文献; Letsinger, J. Org. Chem. 35:3800 (1970); Sprinzl et al., Eur. J. Biochem. 81:579 (1977); Letsinger et al., Nucl. Acids Res. 14:3487 (1986); Sawai et al, Chem. Lett. 805 (1984), Letsinger et al., J. Am. Chem. Soc.110:4470 (1988); ならびに Pauwels et al., Chemica Scripta 26:141 91986))、ホスホロチオネート(Mag et al., Nucleic Acids Res.19:1437 (1991); および米国特許番号 5,644,048)、ホスホロジチオネート (Briu et al., J. Am. Chem. Soc.111:2321 (1989)、O-メチルホスホラミダイト連結 (Eckstein, Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, Oxford University Press参照)、ならびにペプチド核酸バックボーンおよび連結 (Egholm, J. Am. Chem. Soc. 114:1895 (1992); Meier et al., Chem. Int. Ed. Engl. 31:1008 (1992); Nielsen, Nature, 365:566 (1993); Carlsson et al., Nature 380:207 (1996)参照、すべて引用により本明細書に加える。)を含む他のバックボーンであり得ることを含むけれども、本発明の核酸は、通常ホスホジエステル結合を有する。他の類似核酸は、ポジティブバックボーン(Denpcy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:6097 (1995); 非イオン性バックボーン (米国特許番号 5,386,023, 5,637,684, 5,602,240, 5,216,141 および 4,469,863; Kiedrowshi et al., Angew. Chem. Intl. Ed. English 30:423 (1991); Letsinger et al., J. Am. Chem. Soc.110:4470 (1988); Letsinger et al., Nucleoside & Nucleotide 13:1597 (1994); 2章および3章、 ASC Symposium Series 580, "Carbohydrate Modifications in Antisense Research", Ed. Y.S. Sanghui and P. Dan Cook; Mesmaeker et al., Bioorganic & Medicinal Chem. Lett. 4:395 (1994); Jeffs et al., J. Biomolecular NMR 34:17 (1994); Tetrahedron Lett. 37:743 (1996))および非リボースバックボーンを有するものを含み、それには、米国特許番号5,235,033および5,034,506、ならびに6章および7章、ASC Symposium Series 580, "Carbobydrate Modifications in Antisense Research", Ed. Y.S. Sanghui and P. Dan Cookに記載されているものを含む。1以上の炭素環糖(carbocyclic sugar)を含む核酸はまた、核酸の定義の範囲内に含まれる(Jenkins et al., Chem. Soc. Rev. (1995) pp 169-176参照)。幾つかの核酸類似体はRawls, C & E News June 2, 1997 page 35に記載されている。これら引用はすべて、本明細書中に引用により明らかに含まれている。リボースホスフェートバックボーンのこれらの修飾により、その分子の生理学的条件下での安定性および半減期が増大し、例えば、PNAアンチセンスの実施態様が特に好ましい。
【0082】
当業者には、本発明によりこれらの核酸類似体のすべてが有用であることが理解されるはずである。加えて、天然に生じる核酸と類似体との混合物とすることができ、また、異なる核酸類似体の混合物とすることもでき得る。
【0083】
核酸は、一本鎖または二本鎖であり得る。生理学的標的分子は、実質的な相補性核酸またはタンパク質のような、核酸結合部分であり得る。
【0084】
好ましい実施態様では、生理学的標的物質は、生理学的に活性なイオンであり、治療的活性成分は、イオン結合リガンドまたはキレートである。例えば毒性金属イオンは、例えば、クラウンエーテルを含む多種の既知キレート化を用い、キレート化され、毒性が低下する。
【0085】
治療的活性成分に加えて、治療的遮断部分は、他の構成成分を含み得る。本明細書で概略を示すように、好ましい実施態様により、金属イオンの配位原子は、治療的活性成分により提供される。しかし、治療的活性成分が配位原子に寄与しなければ、治療的遮断部分は、治療的活性成分の送達において解離し得る方法で、複合体に共有結合的に連結される“配位部位バリアー”を更に含み得る。例えば、それは、1以上の酵素基質開裂部位により連結され得る。この実施態様では、配位部位バリアーは、標的物質がないと、金属イオンの配位部位の少なくとも1つをブロックするか、または占有する。配位原子がMRI剤の他の成分、即ち、治療的活性成分、開裂部位、標的部分、リンカーなどにより提供されないとき、配位部位バリアーが使用される。酵素開裂部位のような治療的遮断部分の他の構成成分は、配位部位バリアーを金属イオン複合体と共有結合的に連結する鎖としての役割をする。開裂または配置変化の何れかの結果が、治療的活性成分とその生理学的標的との相互作用に起因するため、配位部位は、もはやブロックしなくなり、バルク水は、金属イオンの配位部位の位置で自由に急速に交換され、そのためイメージを促進する。
【0086】
ある実施態様では、図2Aおよび2Bに示すように、配位部位バリアーは、一方の端で金属イオンに結合している。図2Aは、開裂点での酵素開裂が、配位部位バリアーを開放する場合を示している。図2Bは、配位部位バリアー除去を誘発する、薬剤と生理学的標的との相互作用の結果として配置が変化する場合である。他の実施態様では、2つ結合している場合である図2Cに示すように、配位部位バリアーは1箇所以上の開裂部位で金属イオン複合体と結合している。酵素標的は、片側だけを開裂し得、そのようにして、配位部位バリアーを除去し、配位部位で水を交換させるが、配位部位バリアーは金属イオン複合体に結合したままである。他に、酵素は、金属イオン複合体の配位部位バリアーを完全に開裂し得る。
【0087】
好ましい実施態様では、配位部位バリアーは、金属イオンの少なくとも1つの配位部位を占有する。即ち、配位部位バリアーは、金属イオンに対し、少なくとも1つの配位原子としての役割をする原子を少なくとも1つ含む。この実施態様では、配位部位バリアーは、上記定義のようなアルキルアミン基のような、ヘテロアルキル基であり得、アルキルピリジン、アルキルピロリン、アルキルピロリジンおよびアルキルピロール(alkyl pyrole)またはカルボキシル基またはカルボニル基を含む。配位原子に寄与しない配位部位バリアー部分はまた、リンカー基とみなされ得る。
【0088】
他の実施態様では、配位部位バリアーは配位部位を直接占有しないが、代わりにその部位を立体的にブロックする。これはまた、治療的活性成分でも真実であり得る。この実施態様では、配位部位バリアーは、上記のようなアルキルまたは置換基、またはペプチド、タンパク質、核酸などの他の基であり得る。
【0089】
この実施態様では、配位部位バリアーは、好ましくは2つの酵素基質を通じて金属イオン複合体の反対側と連結し、図2Cに示すように金属イオン複合体の配位部位上に配位部位バリアーを効果的に“伸張させている”(stretching)。
【0090】
幾つかの実施態様では、配位部位バリアーは、片側で酵素基質を通じて“伸張”させ金属イオン複合体に共有結合させ得、下記定義のように他方の側上でリンカー部分と結合させ得る。他の実施態様では、配位部位バリアーは、単一の酵素基質を介して片側に結合する。すなわち、金属イオンに対する配位部位バリアーの親和性は水とのそれよりも高く、そのため、配位部位バリアーおよび酵素基質を含む治療的遮断部分は、標的酵素がないと、利用可能な配位部位をブロックするか、または占有する。
【0091】
治療的活性成分および配位部位バリアーに加えて、治療的遮断部分はまた、開裂部位を含み得る。本明細書に記載したように、治療的活性成分を送達する一つの方法は、それをMRI剤から切離することである。図1Cに総括的に示しているように、配位部位バリアーを開裂し、治療的活性成分をMRI剤に結合させたまま残し、開裂前は行えなかった方法で薬剤がその標的と相互作用できるようになる配置において、本発明のMRI剤を形作ることも可能である。幾つかの実施態様では、配位部位における水の急速交換を弱める配位原子が開裂部位により寄与され得る。そのため、例えば、タンパク質分解性開裂部位が用いられるとき、配位原子はペプチド鎖の原子により提供され得る。
【0092】
好ましい実施態様では、生理学的標的は酵素であり、その開裂部位はその酵素に対応する。他の場合では、開裂部位は、生理学的標的とは無関係である。この実施態様では、所望により、開裂部位は病状に特異的であり、例えば開裂部位がHIVプロテアーゼ部位であり、治療的活性成分が別のウイルス機能(例えばウイルス複製)を妨げるように選択されるか、または、特異性のための別のメカニズムに依存して非特異的であるか、何れかであり得る。例えば、開裂部位は、“包括的な”細胞内プロテアーゼ部位であり得、特異性はMRI剤に連結した標的部分により提供され得、例えば細胞特異的リガンドが使用され得、腫瘍細胞のような特定の細胞セットを標的とするのに使用し得る。
【0093】
そのため、例えば、タンパク質分解性部位は、プロテアーゼによる開裂に使用され得る。そのため、開裂部位は、決められたプロテアーゼにより開裂され得るペプチドまたはポリペプチドを含む。本明細書中の“ペプチド”または“ポリペプチド”は、ペプチド結合により共有結合する約2ないし約15のアミノ酸残基の化合物を意味する。好ましい実施態様は、約2ないし約8のアミノ酸、最も好ましくは約2ないし約4のアミノ酸からなるポリペプチドを利用する。アミノ酸類似体および擬似ペプチド構造も有用であるけれども、好ましくは、アミノ酸は天然に生ずるアミノ酸である。ある環境下では、ペプチドは、単一アミノ酸残基のみであり得る。
【0094】
同様に、酵素がカルボヒドラーゼであるとき、開裂部位は、標的カルボヒドラーゼにより開裂され得る炭水化物基である。例えば、酵素がラクターゼまたはβ-ガラクトシダーゼであるとき、開裂部位はラクトースまたはガラクトースである。同様の対に、スクラーゼ/スクロース、マルターゼ/マルトース、およびα-アミラーゼ/アミロースが含まれる。
【0095】
好ましい実施態様では、開裂部位は、上記した、(OPO(OR2))n[式中、nは1ないし約10の、好ましくは1ないし5、特に好ましくは1ないし3の整数である。]のようなリン酸部分である。各Rは、独立して、水素であるか、または本書中で定義したような置換基であり、水素が好ましい。この実施態様は、開裂酵素がアルカリホスファターゼまたはホスホジエステラーゼであるとき、またはこれらのようなリン酸を含む部分を開裂することが知られている他の酵素であるときに、特に有用である。
【0096】
好ましい実施態様では、開裂部位に、光開裂性(photocleavable)部分を利用する。即ち、ある波長の光の照射にさらすことによって、開裂が生じ、その複合体の少なくとも1つの配位部位における水の交換速度が速くなる。この実施態様は、特定細胞の運命を追跡する能力が望まれる、特に発生学的生物学的分野(細胞系譜、ニューロン発生など)に有用である。適切な光開裂性部分は、光照射により開裂される“封じ込められた”薬剤に類似する。特に好ましいクラスの光開裂性部分は、O-ニトロベンジル化合物であり、それは、合成的に治療的遮断部分中に、エーテル、チオエーテル、エステル(リン酸エステルを含む)、アミン、またはヘテロ原子との同様な連結(特に酸素原子、窒素原子または硫黄原子)、を介して組込まれ得る。また、安息香を基礎とする光開裂性部分も使用される。多種の適切な光開裂性部分について、上記Molecular Probes Catalogで概略が説明されている。
【0097】
好ましい実施態様では、光開裂部位が以下の構造7に示す構造を有する。この中ではニトロベンジル光開裂性基を示しているが、当業者に認識されるとおり、様々な他の部分を使用することができる:
【0098】
【化9】

【0099】
構造7はDOTA型キレート化剤を示しているが、当業者に認識されるとおり、他のキレート化剤も同様に使用することができる。R26基は本明細書中で定義するリンカーである。X2基は、治療的活性成分および任意の配位部位バリアーなど、他の治療的遮断部分も含む。同様に、芳香環上には当業者に公知である置換基を含んでいても良い。
【0100】
上述の構成成分に加えて、本発明の治療的遮断部分が、さらに、官能的治療的遮断部分と同様にリンカー基を含んでいてもよい。また、治療的活性成分および開裂部位について本明細書中で概説したとおり、配位原子は実際にリンカーによって提供され得る。
【0101】
リンカー基(本明細書中ではたびたびR26で示される)は、金属イオン複合体の立体的要件を最適にするために使用することができる。即ち、治療的遮断部分と金属イオンとの相互作用を最適化するため、リンカーを導入して、配位部位を遮断する。一般的に、リンカー基は構造柔軟性をある程度もたせるように選択される。例えば、治療的活性成分が生理学的標的と相互作用するとき、治療的活性成分が複合体から開裂されない程度であるが、リンカーは治療的活性成分が複合体からいくらか移動して離れられるようでなければならない(少なくとも一配位部位での水分子の交換が増加するくらいに)。
【0102】
一般的に、適切なリンカー基は、上述のとおり、置換アルキルおよびアリール基を含むアルキルおよびアリール基、およびアルキルアミン基を含むヘテロアルキル基(部分的に酸素を含む基)およびヘテロアリール基を含むが、これらに限定する意図ではない。好ましいリンカー基としてp-アミノベンジル、置換p-アミノベンジル、ジフェニルおよび置換ジフェニル、ベンジルフランなどのアルキルフラン、カルボキシル基、および炭素数1から10の長さの直鎖アルキル基を含む。特に好ましいリンカー基として、p-アミノベンジル、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、酢酸、プロピオン酸、アミノブチル、p-アルキルフェノール類、4-アルキルイミダゾールを含む。リンカー基の選択を、よく知られている分子モデル技術を使用して一般的に行ない、配位部位および金属イオン部位の妨害を最適化する。加えてこのリンカーの長さは、最適結果を得るのに非常に重要である。
【0103】
従って、本発明の治療的遮断部分は、必要であれば、治療的活性成分および所望の開裂部位、配位部位バリアー、およびリンカーを含むものである。
【0104】
いくつかの実施態様では、本発明の金属イオン複合体は、単一の治療的遮断部分と会合または結合している。この実施態様で、単一の治療的遮断部分は、少なくとも一配位部位で水分子の交換を妨げる。あるいは、下記に示すように、単一治療的遮断部分が1以上の配位部位で水分子の交換を妨げることができる。
【0105】
他の実施態様では、2以上の治療的遮断部分が単一金属イオン複合体と会合し、少なくとも一またはそれ以上の配位部位で水分子の交換を妨げる。
【0106】
治療的遮断部分は様々な方法で金属イオン複合体に結合させることができ、それらのいくつかを図中に示す。好ましい実施態様では、上述のとおり、治療的遮断部分をリンカー基を介して金属イオン複合体に結合させる。あるいは、治療的遮断部分を、直接金属イオン複合体に結合させる;例えば、以下に示すように、治療的遮断部分はキレート化剤の置換基であり得る。
【0107】
好ましい実施態様では、少なくともR基の1つをキレート化剤の“アーム(arms)”部分に結合させる(例えば、DOTA構造のR9、R10、R11またはR12、またはDTPA構造のR13、R14、R17、R20またはR21で、アルキル(置換およびヘテロアルキル基を含む)、またはアリール(置換およびヘテロアルキル基を含む)を含み、すなわち水素より立体的にかさ高い基である)。これは、標準的なMRI造影剤について知られているように水分子の交換を妨げるのに適切な位置にアームの配位原子を“固定(locking)”するように平衡を誘導するのに特に有用である。好ましい基は、炭素数1から6のアルキル基を含むが、とりわけメチル基が好ましい。
【0108】
治療的遮断部分が“アーム”の1つを介して結合させる場合、例えば、治療的遮断部分が構造8の位置X1からX4、または構造9の位置H、I、JまたはKにある場合にとりわけ好ましい。
【0109】
しかし、多すぎる基を含むと、平衡が他の方向にずれて配位原子の効果的な固定ができなくしてしまう。従って、好ましい実施態様では、結合に対して平衡化させる他の方法を使用しない限り、これらの位置の1または2つのみが水素以外の基である。
【0110】
様々なパラメーターを使用して、治療的遮断部分を選択し、設計する。配位部位バリヤーを使用し、かつ、配位部位バリヤーが2面で固定しまたは動かないようにしてある実施態様においては、所定位に固定されているため、治療的遮断部分の金属イオン複合体に対する配位部位バリアーの親和力はそれほど大きくなくてもよい。すなわち、この実施態様では、開裂剤がないとき複合体が“オフ”状態である。しかし、治療的遮断部分がいくらか回転できまたは治療的遮断部分が柔軟な形で複合体と結合している実施態様、例えば、1面のみに結合しているときでは、治療的遮断部分はそれらが時間的に主として配位部位を占拠しているように設計すべきである。
【0111】
治療的遮断部分が2面に共有的に結合していないときは、治療的遮断部分の成分は、治療的遮断部分が十分に複合体と会合し、複合体の少なくとも一配位部位での水分子のすばやい交換を妨げるように、3つの基本的な相互作用が最大になるよう選択するべきである。第一は、治療的遮断部分を複合体と会合させる、治療的遮断部分と金属イオンの静電気相互作用である。第二はファンデルワールスおよび双極子間相互作用である。第三はリガンド相互作用であり、それは、治療的遮断部分の1つまたはそれ以上の官能性が金属に対する配位原子として作用する。さらに、ある構造に強制的になるようにまたは適するようにリンカー基を選択し、会合している治療的遮断部分方向に平衡化させる。同様に、分子内での脱離自由度は、特定の構造が優勢となるようにする。従って、例えば、アルキル基(特にメチル基)を、治療的遮断部分が“X”の位置に結合している構造6のR9からR12位と均等位置に加えると、治療的遮断部分が好ましい遮蔽位置になる。当業者に認識されるとおり、同様の制限を他の実施態様で行うこともできる。
【0112】
さらに、治療的遮断部分を金属イオン上に着座させる効果的な“結合(tethering)”も、以下に概説するように治療的遮断部分のキレート化剤複合体に対する親和力を増加させるように働く他の非共有相互作用で、工業的に行なうことができる。
【0113】
強力な治療的遮断部分が官能的であるかどうか、すなわち、それらが複合体の好ましい配位部位または配位部位群を十分に占拠しまたは遮断して、すばやい水分子の交換を妨げているかどうかを容易に試験して知ることができる。従って、例えば、複合体を強力な治療的遮断部分で作り、次いで治療的遮断部分を持たないキレート化剤と画像診断実験で比較する。一旦、治療的遮断部分が充分な“遮断剤”であることが示されると、生理学的標的(標的と医薬との間の相互作用であり、開裂または配座変化を起こし、配位部位上が開かれる場合)または開裂剤どちらかの存在下で実験が繰り返され、水分子交換の増加およびそれにともなう画像増強がみられる。
【0114】
従って、上述のとおり、本発明の金属複合体は、キレート化剤に結合している常磁性金属イオンと少なくとも1つの治療的遮断部分を含む。好ましい実施態様として、金属イオン複合体が構造8の式を有する:
【0115】
【化10】

【0116】
構造8で、Mは、Gd(III)、Fe(III)、Mn(II)、Yt(III)、およびDy(III)を含むグループから選択される常磁性金属イオンである。A、B、CおよびDはそれぞれ一重または二重結合である。R1からR12の基は上述の置換基であり、治療的遮断部分および標的部位を含む。X1からX4は-OH、-COO-、-(CH2)nOH(-CH2OHが好ましい)、-(CH2)nCOO-(-CH2COO-が好ましい)、または治療的遮断部分および標的部位を含む置換基である。nは1から10であり、1から5が好ましい。少なくともR1からR12およびX1からX4の1つは治療的遮断部分である。
【0117】
上記の構造のうち、A、B、CまたはDの何れかまたはすべてが一重または二重結合である。1つまたはそれ以上の結合が二重結合である場合、単一置換基のみが二重結合の炭素原子に結合していると理解されるべきである。例えば、Aが二重結合のとき、それぞれの炭素へ結合している単一のR1および単一のR2基のみが存在し得る;好ましい実施態様では、以下に記載するようにR1およびR2基は水素原子である。好ましい実施態様では、Aは単一結合であり、それぞれの炭素が2つのR1基および2つのR2基を有することが可能である。好ましい実施態様では、単一の治療的遮断部分を除いてこれらの基のすべてが水素原子であるが、別の実施態様では同じかまたは異なる2つのR基を使用する。すなわち、R1の位置に1つの水素および治療的遮断部分が結合しており、R2の位置に2つの水素、2つのアルキル基、または1つの水素原子と1つのアルキル基が結合していてもよい。
【0118】
1−X4基の正確な組成は金属イオンの存在に依存する。すなわち、これらの基は、金属イオンが存在しない場合、−OH、−COOH、−(CH2nOHまたは−(CH2nCOOHであり得るが、一方、金属イオンが存在する場合、−OH、−COO−、−(CH2nO−または−(CH2nCOO−であり得る。
【0119】
別の態様では、構造9の式を有する金属イオン複合体を使用する。
【0120】
【化11】

上記の式において、 H、I、J、KおよびL基の正確な組成は金属イオンの存在に依存する。すなわち、これらの基は、金属イオンが存在しない場合、−OH、−COOH、−(CH2nOHまたは−(CH2nCOOHであり得るが、一方、金属イオンが存在する場合、−OH、−COO−、−(CH2nO−または−(CH2nCOO−であり得る。
【0121】
この態様において、R13からR21は上記に定義した置換基である。好ましい態様において、R13からR21は水素である。少なくとも1つのR13−R21、H,I、J、KまたはLは上記に定義した治療的遮断部分である。
【0122】
さらに、本発明の複合体および金属イオン複合体は1以上の標的部分をさらに含み得る。すなわち、標的部分はR位置(または、リンカーまたは治療的遮断部分などに対して)のいずれかで結合し得るが、好ましい態様においては、標的部分は配位原子に取って代わらない。
【0123】
好ましい態様において、本発明の金属イオン複合体は水溶性または水性溶液可溶性である。「水性溶液可溶性」とは、MRI剤が水性溶媒や他の生理的緩衝液などの溶液に適当な溶解性を有することを意味する。溶解性は種々の方法で段階付けできる。ある態様において、米国薬局方の溶解性分類を用いて、金属イオン複合体を、きわめて溶けやすい(1部の溶質を溶かすのに1部未満の溶媒を要する)、溶けやすい(1部の溶質を溶かすのに1から10部の溶媒を要する)、やや溶けやすい(1部の溶質を溶かすのに10から30部の溶媒を要する)、やや溶けにくい(1部の溶質を溶かすのに30から100部の溶媒を要する)、または溶けにくい(1部の溶質を溶かすのに100から1000部の溶媒を要する)のいずれかに段階付けできる。
【0124】
特定の金属イオン複合体が水性溶液可溶性かどうかの試験は、日常的に行われており、当業者によく知られている。例えば、MRI剤の1部を溶かすのに要する溶媒の部数が測定され、gm/mlでの溶解度が決められる。
【0125】
本発明の複合体は、よく知られた方法で一般に合成される。参照、例えば、Moi et al., supra; Tsien et al., supra; Borch et al., J. Am. Chem. Soc., p2987 (1971); Alexander, (1995), supra; Jackels (1990), supra, U.S. Patent Nos. 5,155,215, 5,087,440, 5,219,553, 5,188,816, 4,885,363, 5,358,704, 5,262,532 および 5,707,605; Meyer et al., (1990), supra, Moi et al., (1988), and McMurray et al., Bioconjugate Chem. 3(2):108-117 (1992));参照、PCT US95/16377, PCT US96/19900,および PCT US96/15527(出典明示により本明細書の一部とする)。
【0126】
DOTA誘導体についての合成方法は、シクレン環状骨格の窒素置換を望むのか、炭素置換を望むのかによって変る。窒素置換の合成は、よく知られた方法でもって、シクレンまたはその誘導体で開始する。参照、例えば、U.S. Patent Nos. 4,885,363 および 5,358,704.
炭素置換には、よく知られた方法を用いる。参照、例えば、Moi et al., supra, および Gansow, supra.
【0127】
本発明のコントラスト剤は既知の適当な金属イオンと複合される。本明細書において表示したすべての構造は金属イオンを含むが、本発明のコントラスト剤が最初から存在する金属イオンを要するわけでない。金属イオンは、酸化物の形態または塩化物の形態で水に加えて、等量のコントラスト剤組成物と処理することができる。コントラスト剤の付加は水性の溶液または懸濁液として行い得る。中性のpHを維持する必要があるときには、希酸または希塩基を加えるとよい。温度を100℃まで加熱する必要があるかもしれない。
【0128】
本発明の複合体は、例えばHPLC系を用いて単離および精製し得る。
コントラスト剤の薬学的に許容される塩を含む医薬組成物も、複合体が溶液中に存在する間に塩基で中性にすることによりつくられる。複合体のいくつかは、電荷を形式的に帯びていないので、対イオンを必要としない。
【0129】
さらに、本発明のMRI剤はポリマーに付加できる。その方法は、PCT US95/14621 および U.S.S.N. 08/690,612 (allowed)(出典明示により本明細書の一部とする)に一般的に概記されている。簡単に述べると、化学的官能基をMRI剤に付加しておくと、複数のMRI剤がポリマーに化学結合できる。「ポリマー」は少なくとも2または3のサブユニットを含み、これらが共有結合する。少なくともいくつかのモノマーサブユニットは、MRI剤の共有結合のための官能基を含む。ある態様では、カプリング部分を利用して、サブユニットがMRI剤に共有結合される。当業者によく知られているように、多種のポリマーが使用可能である。適当なポリマーには、アミノスチレンなどの官能化スチレン、官能化デキストラン、ポリアミノ酸がある。好ましいポリマーはポリシリンなどのポリアミノ酸(ポリ−D−アミノ酸およびポリ−L−アミノ酸の両方)であり、リシンなどのアミノ酸を含有するポリマーが特に好ましい。他の適当なポリアミノ酸としては、ポリグルタミン酸、ポリアスパルギン酸、リシンとグルタミン酸またはアスパラギン酸とのコポリマー、リシンとアラニン、チロシン、フェニルアラニントリプトファンおよび/またはプロリンとのコポリマーがある。
【0130】
同様に、MRI剤の「多量体」をつくることが可能であり、直接結合するか、またはリンカーを使用して行う。この方法は、U.S.S.N. 08/690,612 (allowed)(出典明示により本明細書の一部とする)に一般的に概記されている。
【0131】
本発明の金属イオン複合剤は、合成されると、磁気共鳴造影コントラストまたは上昇剤として使用される。特に、本発明の官能性MRI剤はいくつかの重要な用途を有する。それには、薬剤送達の非侵襲的造影、生理的標的と薬剤との相互作用の造影、遺伝子療法の監視、インビボ遺伝子発現(アンチセンス)、遺伝子導入、薬剤送達の結果としての細胞内メッセンジャーの変更などがある。
【0132】
本発明の金属イオン複合体は、既知のガドリニウムMRI剤と同様にして用いることができる。参照、例えば、Meyer et al., supra; U.S. Patent No. 5,155,215; U.S. Patent No. 5,087,440; Margerstadt et al., Magn. Reson. Med. 3:808 (1986); Runge et al., Radiology 166:835 (1988); および Bousquet et al., Radiology 166:693 (1988)。金属イオン複合体の細胞、組織、患者への投与は既知の方法で行われる。本発明の目的における「患者」には、ヒトなどの動物および実験動物などの生物の両方が含まれる。このように、本方法は、ヒト治療的と獣医学的適用の両方で用いられる。さらに、本発明の金属イオン複合体を用いて、組織または細胞が造影され得る。参照、例えば、Aguayo et al., Nature 322:190 (1986)
【0133】
一般的に、本発明のコントラスト剤複合体の無菌水性溶液は、患者に種々の方法で投与される。経口投与または鞘内特に静脈内投与で、濃度が0.003から1.0モルで、用量が体重1kgにつき0.03、0.05、0.1、0.2および0.3ミリモルでなされることが推奨される。用量は造影される構造に依存的である。類似の複合体についての適当な用量レベルがU.S. Patents 4,885,363 および 5,358,704に概記されている。
【0134】
さらに、本発明のコントラスト剤の送達は専門化した送達系を介してなされる。例えば、リポソーム内(参照、Navon, Magn. Reson. Med. 3:876-880 (1986))やミクロスフェア内でなされる。これらは種々の臓器から選択的に採取される(参照、U.S. Patent No. 5,155,215)。
【0135】
ある態様において、望ましいのは、本発明のMRI剤の血中クレアランス時間(すなわち半減期)を増大することである。この増大には、例えば、炭水化物ポリマーをキレート剤に付加する(参照、U.S. Patent No. 5,155,215)。1つの実施態様では、本発明の組成物の置換R基として多糖類を用いる。
【0136】
好ましい態様では、血液脳関門を通過し得る複合体を使用する。すなわち、知られているように、DOTA誘導体のカルボン酸の1つをアルコールで置き換えると、中性DOTA誘導体が形成され、血液脳関門を通過するようになる。このようして、例えば、治療的遮断部分を有し、血液脳関門を通過する中性DOTAを設計し、脳の障害を処置する。
【0137】
出典明示をした文献は全体を本明細書の一部とする。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1A、1Bおよび1Cは、本発明の態様を記載する。
【図2】図2A、2Bおよび2Cは、配位部位バリアー60の使用を記載する。
【符号の説明】
【0139】
5……キレート
10……金属イオン
20……医薬
30……標的
40……開裂部位
50……配位部位バリアー
60……配位部位バリアー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート剤および該キレート剤と治療的遮断部分とによって配位的に飽和された常磁性金属イオンを含むMRI剤であって、該治療的遮断部分が該キレート剤に共有結合して、少なくとも1つの配位部位における迅速な水の交換が妨げられるようなり、該治療的遮断部分が少なくとも治療的活性成分を含み、少なくとも1つの配位部位における水の交換が、治療的効果をもたらす生理的な標的への該治療的活性成分の送達に際し増加される、MRI剤。
【請求項2】
該常磁性金属イオンがGd(III)イオンである、請求項1のMRI剤。
【請求項3】
該キレート剤がDOTAまたは置換DOTAである、請求項1のMRI剤。
【請求項4】
該キレート剤がDTPAまたは置換DTPAである、請求項1のMRI剤。
【請求項5】
MRI剤が下記式を有し、
【化1】

式中、
Mは、Gd(III)、Fe(III)、Mn(II)、Yt(III)、Cr(III)およびDy(III)よりなる群から選ばれる常磁性金属イオンであり、
A、B、CおよびDは、単一結合または二重結合のいずれかであり、
1、X2、XおよびX4は、−OH、−COO−、−CH2OH、−CH2COO−、置換基、治療的遮断部分または標的部分であり、
1−R12は、水素、置換基、治療的遮断部分または標的部分であり、
少なくとも1つのX1−X4およびR1−R12は、治療的遮断部分である、
MRI剤。
【請求項6】
9、R10、R11またはR12の少なくとも1つがアルキル基である、請求項5のMRI剤。
【請求項7】
が治療的遮断部分であり、Rがアルキル基である、請求項5のMRI剤。
【請求項8】
A、B、CおよびDが単一結合である、請求項5のMRI剤。
【請求項9】
MRI剤が下記式を有し、
【化2】

式中、
Mは、Gd(III)、Fe(III)、Mn(II)、Yt(III)、Cr(III)およびDy(III)よりなる群から選ばれる常磁性金属イオンであり、
H、I、J、KおよびLは、−OH、−COO−、−CH2OH、−CH2COO−、置換基、治療的遮断部分または標的部分であり、
13−R21は、水素、置換基、治療的遮断部分または標的部分であり、
少なくとも1つのH、I、J、K、LおよびR13−R21は、治療的遮断部分である、
MRI剤。
【請求項10】
該治療的活性成分が酵素阻害剤,トキシン、タンパク質、抗体、転写因子および核酸よりなる群から選ばれる、請求項1、5または9のMRI剤。
【請求項11】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項1、5または9のMRI剤。
【請求項12】
治療的活性成分に関連する障害を処置する方法であって、請求項1、5または9のMRI剤を細胞、組織または患者に投与して該細胞、組織または患者の磁気共鳴像をつくることを含む、方法。
【請求項13】
細胞、組織または患者の磁気共鳴像をつくる方法であって、請求項1、5または9のMRI剤を細胞、組織または患者に投与し、そして該細胞、組織または患者の磁気共鳴像を起こす、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−143907(P2008−143907A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2429(P2008−2429)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【分割の表示】特願2000−517750(P2000−517750)の分割
【原出願日】平成10年10月27日(1998.10.27)
【出願人】(594063278)リサーチ コーポレイション テクノロジーズ,インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】Research Corporation Technologies, Inc.
【Fターム(参考)】