説明

治療用ポリペプチドのインビボでの回収を増大させる方法

本発明は、修飾されていない親ポリペプチドと比較して、インビボでの回収が増大した、修飾された治療用ポリペプチドの分野に関する。すなわち、本発明は、直接的に連結された又は場合によりリンカーペプチドによって連結された回収増大用ポリペプチドと治療用ポリペプチドとの融合体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾されていない親ポリペプチドと比較して、インビボでの回収(in vivo recovery)が増大した、修飾された治療用ポリペプチドの分野に関する。すなわち、本発明は、直接的に連結された又は場合によりリンカーペプチドによって連結された回収増大用ポリペプチドと治療用ポリペプチドとの融合体に関する。
【0002】
本発明の要旨は、特に、治療用ポリペプチドとして、例えばヒト第VII因子、ヒト第VIIa因子、ヒト第IX因子、及びヒトタンパク質CのようなビタミンK依存性ポリペプチド、並びに回収増大ポリペプチドとして、アルブミンによって証明される。それゆえ、特に、本発明は、介在性ペプチドリンカーをコードするオリゴヌクレオチドによって連結され得る、ヒト血清アルブミンをコードするcDNAに遺伝子的に融合された、ビタミンK依存性ポリペプチド及び誘導体の何れかをコードするcDNA配列、このようにコードされた誘導体は改良されたインビボでの回収を示し、このようなcDNA配列を含有する組換え発現ベクター、このような組換え発現ベクターで形質転換された宿主細胞、修飾されていない野生型ポリペプチドに匹敵する生物学的活性を有しながらインビボでの回収が改良された組換えポリペプチド及び誘導体、並びにこのような組換えポリペプチド及びそれらの誘導体の製造のための方法にも関する。本発明は、また、インビボで生成物レベルを増大させるのに有用なこのような修飾されたDNA配列を含む、ヒト遺伝子治療において使用するための転送ベクターも包含する。
【背景技術】
【0003】
治療用ポリペプチド
本発明における治療用ポリペプチドとは、ヒト又は動物への適用に際して、予防上の又は治療上の効果を生じることが可能なタンパク質又はポリペプチドである。これらの治療用ポリペプチドは、ヒト又は動物へ、経口的、局所的、非経口的又は他の経路を介して適用される。すなわち、本発明の実施例によって包含される治療用ポリペプチドの特定のクラスは、ある程度までその血漿由来又は組換え型として商業的に入手可能なビタミンK依存性ポリペプチドである。
【0004】
回収増大用ポリペプチド
本発明における回収増大用ポリペプチドとは、修飾されていない治療用ポリペプチドと比較して、治療用ポリペプチドへ融合させることにより、融合体のインビボでの回収を増大させる全てのポリペプチド又はタンパク質である。このような回収増大用ポリペプチドの具体的な例は、アルブミン、その変異体又は断片、及び免疫グロブリン、その変異体又は断片である。
【0005】
インビボでの回収
インビボでの回収は、適用後の短い時間(5〜10分間)の後に血流中で検出可能な治療用ポリペプチドの、投与される治療用ポリペプチドの総量に対する割合として定義される。血流中で予測される治療用ポリペプチド濃度の算出の根拠として、1kgあたり40mLの血漿容積が一般的に想定される。
【0006】
融合タンパク質又は融合ポリペプチド
本発明における融合タンパク質又は融合ポリペプチドとは、治療用ポリペプチド又はその変異体をコードする核酸と、回収増大用ポリペプチドをコードする核酸とを含む遺伝子構築体から発現可能なタンパク質であり、この構築体中で、回収増大用ポリペプチドとのペプチド結合によって治療用ポリペプチドが連結されるタンパク質を、該遺伝子構築体が導入される宿主細胞中での発現が生じるようなやり方で、フレームを合わせて両核酸が連結される。場合により、治療用ポリペプチド及び回収増大ポリペプチドは、短いペプチドリンカーによっても連結可能である。
【0007】
ビタミンK依存性ポリペプチド
ビタミンK依存性ポリペプチドは、γ−カルボキシル化によって翻訳後修飾され、例えば、血液凝固第II因子(プロトロンビン)、第VII因子、第IX因子、及び第X因子、抗凝血タンパク質C及びS、及びトロンビン標的タンパク質Z、骨タンパク質オステオカルシン、石灰化阻害マトリックスタンパク質、細胞増殖を制御する増殖抑止特異的遺伝子6タンパク質(Gas6)及びその機能が現段階では未知である4つの膜貫通Glaタンパク質(TMGP)を含む。それらのポリペプチドのうち、幾つかは、特定の種類の血友病及び出血性障害を治療するために使用される。血友病Aは、遺伝性出血性障害である。血友病Aは、血液凝固第VIII因子のX染色体連鎖型欠損の結果として生じるものであり、臨床的な徴候は、増大した出血傾向である。この疾病は、血漿由来又は組換え体由来のFVIII濃縮物の注入によって治療される。血友病Bは、非機能性の又は欠損している第IX因子によって生じ、第IX因子の血漿由来又は組換え体態由来の第IX因子濃縮物で治療される。血友病A及び血友病Bの両者において、前記疾病を治療する上で最も深刻な医学上の問題は、補充した因子に対する同種抗体の生成である。血友病A患者全体の約30%までが、第VIII因子に対する抗体を生成させる。第IX因子に対する抗体の頻度は低い。
【0008】
凝固の生理学的引き金が、血管の外側に通常存在するTF発現細胞の表面上での組織因子(TF)と第VIIa因子(FVIIa)との間の複合体形成であると、凝固状態の最新のモデルは述べている。これにより第IX因子及び第X因子が活性化され、若干のトロンビンを最終的に生成させる。正のフィードバックループにおいて、トロンビンは、血液凝固カスケードのいわゆる「内因性の」経路である第VIII因子及び第IX因子を直接的に又は間接的に活性化し、それにより、完全な止血を達成するための完全なトロンビンバーストの発生に必要な、第Xa因子の生成を増幅させる。第VIIa因子の超生理学的濃度を投与することによって、第VIIIa因子及び第IXa因子の要求性を回避して、止血が達成可能であることが示された。第VII因子のcDNAのクローニング(米国特許第4,784,950号)によって、医薬として活性化型第VII因子を開発することが可能になった。第VIIa因子は、1988年に初めて投与に成功した。それ以来、第VIIa因子の適応数が着実に伸び、出血を止めるための普遍的な止血薬となる可能性を示した(Erhardtsen,2002)。しかしながら、約2時間という第VIIa因子の短い半減期及びインビボでの回収の低下によって、その適用が限定されている。
【0009】
第VII因子及び第VIIa因子
第VII因子は、分子量50kDaの単鎖糖タンパク質であり、406個のアミノ酸の不活性型酵素前駆体として、肝細胞によって血流中へ分泌される。第VII因子は、ポリペプチドのN末端側Glaドメイン中に局在する10個のγ−カルボキシ−グルタミン酸残基を含有する。Gla残基は、その生合成のためにビタミンKを必要とする。GlaドメインのC末端側に、2つの上皮増殖因子ドメイン、そしてその後にトリプシン型セリンプロテアーゼドメインが存在する。第VII因子のさらなる翻訳後修飾は、ヒドロキシル化(Asp63)、N型グリコシル化(Asn145及びAsn322)及びO型グリコシル化(Ser52及びSer60)を包含する。
【0010】
第VII因子は、Arg152−Ile153での単一のペプチド結合のタンパク質分解によってその活性型の第VIIa因子へと変換され、それにより2つのポリペプチド鎖、すなわちN末端側軽鎖(24kDa)及びC末端側重鎖(28kDa)が形成され、それらは互いに1つのジスルフィド架橋によって保持される。他のビタミンK依存性凝固因子とは対照的に、これらの他のビタミンK依存性凝固因子の活性化中に切断される活性化ペプチドは、第VII因子に関しては記載されていない。第VIIa因子の活性型高次構造を得るために不可欠なのは、Ile153とAsp343との間の活性化切断後の塩架橋の形成である。第VII因子の活性化切断は、第Xa因子、第XIIa因子、第IXa因子、第VIIa因子、第VII因子活性化プロテアーゼ(FSAP)及びトロンビンによってインビトロで達成可能である。Mollerupら(Biotechnol.Bioeng.(1995)48:501−505)は、Arg290及び又はArg315でも重鎖に切断が幾つか生じると報告した。
【0011】
第VII因子は、約500ng/mLの濃度で血漿中に存在する。第VII因子約1%又は5ng/mLは、第VIIa因子として存在する。第VII因子の血漿半減期は、約4時間であり、第VIIa因子の血漿半減期は、約2時間であることが観察された。止血を達成するための複数回の静脈内注射又は連続注入が必要となるために、第VIIa因子の2時間の半減期は、第VIIa因子の治療用途に関して重大な欠点となる。この結果、患者にとって非常に高い治療経費及び不便さが生じる。血漿半減期及びインビボでの回収の両者の改良は、患者に対して利点をもたらすであろう。これまで、インビボでの回収が改良された第VIIa因子の医薬調製物は、市販されておらず、インビボでの回収が改良された第VII因子/第VIIa因子変異体を示すデータも全く発表されていない。第VII/VIIa因子は、普遍的な止血剤として使用される可能性があるため、インビボでの回収が改良された第VIIa因子の形態を開発する高い医学的必要性が、なおも存在する。
【0012】
第IX因子
ヒト第IX因子は、分子量57kDaの単鎖糖タンパク質であり、415個のアミノ酸の不活性型酵素前駆体として、肝細胞によって血流中へ分泌される。ヒト第IX因子は、ポリペプチドのN末端側Glaドメイン中に局在する12個のγ−カルボキシ−グルタミン酸残基を含有する。Gla残基は、その生合成のためにビタミンKを必要とする。GlaドメインのC末端側に局在するのは、2つの上皮増殖因子ドメイン及び1つの活性化ペプチド、そしてその後にトリプシン型セリンプロテアーゼドメインが存在する。第IX因子のさらなる翻訳後修飾は、ヒドロキシル化(Asp64)、N型グリコシル化(Asn157及びAsn167)及びO型グリコシル化(Ser53、Ser61、Thr159、Thr169、及びThr172)、硫酸化(Tyr155)、並びにリン酸化(Ser158)を包含する。
【0013】
第IX因子は、Arg145−Ala146及びArg180−Val181での活性化ペプチド結合のタンパク質分解によってその活性型の第IXa因子へと変換され、それにより2つのポリペプチド鎖、すなわちN末端側軽鎖(18kDa)及びC末端側重鎖(28kDa)が形成され、それらは互いに1つのジスルフィド架橋によって保持される。第IX因子の活性化切断は、例えば第XIa因子又は第VIIa因子/TFによってインビトロで達成可能である。
【0014】
第IX因子は、約5〜10μg/mLの濃度でヒト血漿中に存在する。ヒトにおける第IX因子の血漿半減期は、約15〜18時間であることが観察された(White GC et al.1997.Thromb Haemost.78:261−265;Ewenstein BM et al.2002.Transfusion 42:190−197)。
【0015】
血友病B患者はしばしば、自発的な出血を回避するために、第IX因子の予防的投与を隔週で受けるために、適用される第IX因子生成物のインビボでの回収を増大させることによって、適用の間隔を低下させることが望ましい。血漿半減期及びインビボでの回収の両者の改良は、患者に対して有意な利点をもたらすであろう。これまで、血漿半減期又はインビボでの回収が改良された第IX因子の医薬調製物は、市販されておらず、インビボでの半減期を延長しそしてインビボでの回収が改良された第IX因子の変異体を示すデータも全く発表されていない。それゆえ、インビボでの機能的半減期のより長い及び/又はインビボでの回収が改良された第IX因子の形態を開発することに対する高い医学的必要性がなおも存在する。
【0016】
組換え体の治療用ポリペプチド薬物は通常、高価であり、このような薬物をベースとした治療法は全ての国で安価に利用可能というわけではない。このような薬物のインビボでの回収を増大させることはまた、従来技術の治療をより安価にし、従って、より多くの患者が、インビボでの回収の増大の利点を得るであろう。
【0017】
Ballanceら(WO01/79271)は、ヒト血清アルブミンに融合される場合、インビボでの機能的半減期が増大し、保存期間が延長されると予測される、異なる多数の治療用タンパク質の融合ポリペプチドについて記載している。可能性のある融合パートナーの長いリストが、これらのタンパク質のほぼ全てに関して、それぞれのアルブミン融合ポリペプチドが実際に生物活性を保持し、改良された特性を有することを、実験データによって示すことなく記載されている。この治療用ポリペプチドのリストには、第IX因子及び第VII因子/第VIIa因子もまた、該発明の例として言及されている。Ballanceらは、このような融合タンパク質のインビボでの回収については何も述べていない。
【0018】
ビタミンK依存性ポリペプチドのインビボでの回収
IU/kgあたり0.84〜0.86IU/dLの組換え第IX因子(BeneFIX,Genetics Institute)のインビボでの回収は、IU/kgあたり1.17〜1.71IU/dLのモノニン(Mononine)のような血漿由来の第IX因子のインビボでの回収と比べて、血友病B患者において有意に低いことが報告されている(White G.et al.,Semin Hematol 35(Suppl.2):33−38(1998);Ewenstein B.M.et al.,Transfusion 42(2):190−197(2002))。結果として、血友病Bの同等に効率的な治療を達成するために血漿由来の第IX因子と比較して、組換え第IX因子は少なくとも20%多い量が適用される。
【0019】
Sheffield(Sheffield WP et al.(2004)Br.J.Haematol.126:565−573)は、ヒト第IX因子アルブミン融合ポリペプチドを発現させており、第IX因子ノックアウトマウスにおいて、ヒト第IX因子−アルブミン融合タンパク質のインビボでの回収が、非融合型のヒト第IX因子分子よりも有意に低い(半分未満である)ということを薬物動態学的実験において示した。
【0020】
組換え第VIIa因子(NovoSeven,Novo Nordisk)のインビボでの回収は、第VII因子欠損患者で約19〜22%(Berrettini M et al.2001.Haematologica 86:640−645)、血友病患者で約46〜48%(Lindley CM et al,1994.Clin.Pharmacol.Ther.55:638−648)であることが報告されている。同様に、組換え第VIIa因子のインビボでの回収は、血友病Aイヌで約34%、血友病Bイヌで約44%と、それぞれ記載された(Brinkhous KM et al.,1989.Proc.Natl.Acad.Sci.86:1382−1386)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
一般に、治療用ポリペプチドは、その製造方法に費用がかかることにより、かなり高価であるため、インビボでの回収の増大は、より安価な価格でこのような製品を提供し、現に可能であるよりも多くの人々を治療するのに役立つであろう。さらに、適用頻度を低下することによって、患者の利便性が改良されるであろう。
【0022】
それゆえ、本発明の基礎にある技術的な課題は、治療用ポリペプチド、特に、インビボでの回収の増大を示し、それにより、製品が適用される用量又は頻度の低減を促進するビタミンK依存性ポリペプチドを開発することであった。
【課題を解決するための手段】
【0023】
驚くべきことに、アルブミンとの融合タンパク質として発現する場合、ビタミンK依存性ポリペプチドが、インビボでの改良された回収を示すことが発見された。非限定的な例によって、本発明者は、Sheffieldら(Sheffields WP et al.(2004)Br.J.Haematol.126:565−573)によって発表された第IX因子アルブミン融合タンパク質による結果とは対照的に、ヒト第IX因子アルブミン融合タンパク質が、非融合型第IX因子と比較して、インビボでの改良された回収を示すことを発見した。さらに、ヒト血清アルブミンへの第VII/VIIa因子の融合によって、第VII因子/第VIIa因子融合タンパク質を生じ、それが第XII因子/第VIIa因子生物活性を保持し、インビボでの増大した回収を示すに至ることも発見した。
【0024】
本発明の一局面はそれゆえ、アルブミンのN末端若しくはC末端又はその他の回収増大用ポリペプチドへ融合された治療用ポリペプチドであり、治療用ポリペプチドにおいて、融合タンパク質は、組換え方法で製造されたそれぞれの非融合型治療用ポリペプチド又はペプチドのインビボでの回収が少なくとも110%、好ましくは125%以上、さらにより好ましくは140%以上を示す。
【0025】
本発明の別の局面は、アルブミン又は何れかの他の回収増大用ポリペプチドのN末端又はC末端に融合されたビタミンK依存性ポリペプチドである。融合タンパク質は、組換え方法で製造されたそれぞれの野生型ビタミンK依存性ポリペプチドのインビボでの回収に対して有意な増大を示す。
【0026】
本発明のさらなる局面は、非融合型組換え第VII因子/第VIIa因子と比較して、インビボでの回収の有意な増大を示す、第VII因子/第VIIa因子ポリペプチドがアルブミンのN末端に融合された融合タンパク質である。
【0027】
本発明の別の局面は、非融合型第IX因子と比較して、第IX因子ポリペプチドが、インビボでの回収が有意な増大を示すアルブミンのN末端に融合された融合タンパク質である。
【0028】
本発明の一局面はそれゆえ、対応する組換え非融合型ポリペプチドと比較してインビボでの回収が少なくとも10%、好ましくは25%を超えて、さらにより好ましくは40%を超えて増大するアルブミンのN末端又はC末端に融合されたビタミンK依存性ポリペプチドである。
【0029】
本発明は、治療用ポリペプチド、特に、アルブミンのような回収増大用ポリペプチドのN末端又はC末端に連結されたビタミンK依存性ポリペプチド、組成物、医薬組成物、製剤及びキットを包含する。本発明はまた、非融合型治療用ポリペプチドも適用可能であろう特定の医療適適応症における、治療用ポリペプチドを連結した該回収増大用ポリペプチドの使用も包含する。本発明はまた、本発明の治療用ポリペプチドを連結した回収増大用ポリペプチドをコードする核酸分子、並びにこれらの核酸を含有するベクター、これらの核酸及びベクターで形質転換された宿主細胞、これらの核酸、ベクター及び/又は宿主細胞を使用して本発明の治療用ポリペプチドを連結した回収増大用ポリペプチドを製造する方法も包含する。
【0030】
本発明はまた、ビタミンK依存性ポリペプチド又はその断片若しくは変異体、場合によりペプチドリンカー、及びアルブミン又はその断片若しくは変異体、及び医薬的に許容される担体とを含む組成物も提供する。本発明の別の目的は、出血性障害を有する患者を治療する方法を提供することである。この方法は、ビタミンK依存性ポリペプチドを含む融合ポリペプチドの有効量を投与する工程を含む。
【0031】
本発明の別の局面は、ビタミンK依存性ポリペプチド又はその断片若しくは変異体、場合によりペプチドリンカー、及びアルブミン又はその断片若しくは変異体を含むアルブミン融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含む核酸分子、並びにこのような核酸分子を含むベクターを提供することである。
【0032】
本発明はまた、ビタミンK依存性ポリペプチド又はその断片若しくは変異体、ペプチドリンカー、及びアルブミン又はその断片若しくは変異体とを含むアルブミン融合ポリペプチドを製造するための方法も提供し、ここで該方法は、
(a)哺乳動物細胞において発現可能なアルブミンポリペプチドに連結されたビタミンK依存性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を提供すること;
(b)生物体において核酸を発現させ、アルブミンポリペプチドに連結されたビタミンK依存性ポリペプチドを生成すること;及び
(c)アルブミンポリペプチドに連結されたビタミンK依存性ポリペプチドを精製すること
を含む。
【0033】
本発明のアルブミン融合ポリペプチドは好ましくは、ビタミンK依存性ポリペプチドの少なくとも1つの断片若しくは変異体と、遺伝的融合等によって互いに連結した、ヒト血清アルブミンの少なくとも1つの断片若しくは変異体とを含む(すなわち、ビタミンK依存性ポリペプチド部分とアルブミン部分との間にリンカーペプチドを導入して、リンカー配列をコードするポリヌクレオチドによって場合により連結されるアルブミンの全部又は一部をコードするポリヌクレオチドの5’末端へフレームをそろえて、ビタミンKの全部又は一部をコードするポリヌクレオチドが連接される核酸の翻訳によって、アルブミン融合ポリペプチドが生成する)。
【0034】
一実施態様において、本発明は、血清アルブミンポリペプチドのN末端に融合された、生物活性があるか若しくは生物学的に活性化可能な、及び/又は治療活性があるか若しくは治療的に活性化可能なビタミンK依存性ポリペプチドを含むか、又はそれらからなる、ビタミンK依存性ポリペプチドアルブミン融合ポリペプチドを提供する。
【0035】
他の実施態様において、本発明は、生物活性があるか若しくは生物学的に活性化可能な、及び/又は治療活性があるか若しくは治療的に活性化可能なビタミンK依存性ポリペプチドの断片と血清アルブミンのN末端に融合されたペプチドリンカーとを含むか、又はそれらからなる、アルブミン融合ポリペプチドを提供する。
【0036】
他の実施態様において、本発明は、血清アルブミンポリペプチドのN末端に融合された、生物活性があるか若しくは生物学的に活性化可能な、及び/又は治療活性があるか若しくは治療的に活性化可能な、ビタミンK依存性ポリペプチドの変異体と場合によりペプチドリンカーを含むか、又はそれらからなる、ビタミンK依存性ポリペプチドアルブミン融合ポリペプチドを提供する。
【0037】
さらなる実施態様において、本発明は、血清アルブミンの断片若しくは変異体のN末端に融合されたビタミンK依存性ポリペプチドの、生物活性があるか若しくは生物学的に活性化可能な、及び/又は治療活性があるか若しくは治療的に活性化可能な断片若しくは変異体と、場合によりペプチドリンカーを含むか、又はそれらからなる、ビタミンK依存性ポリペプチドアルブミン融合ポリペプチドを提供する。
【0038】
幾つかの実施態様において、本発明は、血清アルブミンの成熟部分のN末端に融合されたビタミンK依存性ポリペプチドの成熟部分及び場合によりペプチドリンカーを含むか、又はそれらからなる、アルブミン融合ポリペプチドを提供する。
【0039】
本発明の融合タンパク質は、非融合型ポリペプチド又はタンパク質が適用可能である全ての適応症において治療的に使用され得る。
【0040】
本発明の詳細な記述
本発明の目的は、特にヒトアルブミン又はその断片若しくは変異体のような回収増大用ポリペプチドのN末端又はC末端への融合によって、治療用ポリペプチド、特にビタミンK依存性ポリペプチド又はその断片若しくは変異体のインビボでの回収を、非融合型治療用ポリペプチドと比較して増大させる方法を提供することである。本発明の非制限的例として、治療用ポリペプチド、特にビタミンK依存性ポリペプチドの、血清アルブミンのN末端への融合は、場合により、ビタミンK依存性ポリペプチドとアルブミンとの間の介入ペプチドリンカーと共に提供される。
【0041】
ヒト血清アルブミン(HSA)及びヒトアルブミン(HA)という語は、本明細書において同じ意味で使用される。「アルブミン」及び「血清アルブミン」という語は、より広義であり、ヒト血清アルブミン(及びその断片及び変異体)及び他の種由来のアルブミン(及びその断片及び変異体)を包含する。
【0042】
本明細書で使用される場合、「アルブミン」とは、アルブミンの1つ又はそれ以上の機能的活性(例えば、生物活性)を有するアルブミンのポリペプチド又はアミノ酸配列、又はアルブミンの断片若しくは変異体を集約的に指す。特に、「アルブミン」とは、ヒトアルブミン又はその断片、本明細書で配列番号20において示されるようなヒトアルブミンの成熟型、又は他の脊椎動物由来のアルブミン若しくはその断片、又はこれらの分子の類縁体若しくは変異体又はその断片を指す。
【0043】
アルブミンの連結したポリペプチドのアルブミン部分は、上述のようなHA配列の全長を含み得るか、又は治療活性を安定化若しくは長期化できる前記HA配列の1つ若しくはそれ以上の断片を含み得る。このような断片は、長さ10個又はそれ以上のアミノ酸であり得るか、又はHA配列由来の約15、20、25、30、50個、又はそれ以上の連続したアミノ酸を含み得るか、又はHAの特異的ドメインの一部又は全部を含み得る。
【0044】
本発明のアルブミンの連結したポリペプチドのアルブミン部分は、正常なHAの変異体であってもいい。本発明のアルブミンの連結したポリペプチドのビタミンK依存性ポリペプチド部分はまた、本明細書に記載されるようなビタミンK依存性ポリペプチドの変異体であってもいい。「変異体」という表現には、挿入体、欠失体及び置換体が含まれ、保存的又は非保存的の何れかであり、このような改変は、ビタミンK依存性ポリペプチドの治療活性を付与する活性部位又は活性ドメインを実質的に変化させない。
【0045】
特に、本発明のアルブミンの連結されたポリペプチドには、ヒトアルブミンの天然の多型変異体及びヒトアルブミンの断片が含まれ得る。アルブミンは、何れかの脊椎動物由来であり、特に何れかの哺乳動物、例えば、ヒト、雌ウシ、ヒツジ、又はブタ由来であり得る。非哺乳動物アルブミンには、雌トリ及びサケが含まれるが、それらに限定されるわけではない。アルブミンの連結されたポリペプチドのアルブミン部分は、ビタミンK依存性ポリペプチド部分とは異なる動物に由来してもいい。
【0046】
一般的に言えば、アルブミン断片又は変異体は、少なくとも20個、好ましくは少なくとも40個、最も好ましくは70個を超えるアミノ酸の長さであろう。アルブミン変異体は選択的に、アルブミンの少なくとも1つの全ドメイン又は該ドメインの断片、例えば、ドメイン1(配列番号20の1〜194番目のアミノ酸)、ドメイン2(配列番号20の195〜387番目のアミノ酸)、ドメイン3(配列番号20の388〜585番目のアミノ酸)、ドメイン1+2(配列番号20の1〜387番目)、2+3(配列番号20の195〜585番目)、又は1+3(配列番号20の1〜194番目のアミノ酸+配列番号20の388〜585番目のアミノ酸)からなるか、又はそれらを含む。各ドメインはそれ自体、Lys106〜Glu119、Glu292〜Val315及びGlu492〜Ala511の残基を含む、柔軟性のあるサブドメイン間リンカー領域を有する2つの相同的なサブドメイン、すなわち1〜105、120〜194、195〜291、316〜387、388〜491及び512〜585からなる。
【0047】
本発明のアルブミン融合ポリペプチドのアルブミン部分は、HAの少なくとも1つのサブドメイン若しくはドメイン、又はその保存的修飾体を含み得る。
【0048】
本発明は、修飾型ビタミンK依存性ポリペプチドのインビボでの回収が、アルブミンに連結されていないビタミンK依存性ポリペプチドと比較して増大するよう、介入ペプチドリンカーが、修飾されたビタミンK依存性ポリペプチドとアルブミンとの間に場合により導入されるよう、ビタミンK依存性ポリペプチド又はその断片若しくは変異体をアルブミンポリペプチド又はその断片若しくは変異体のN末端又はC末端に連結することを含む、修飾型ビタミンK依存性ポリペプチドに関する。
【0049】
本願において使用される「ビタミンK依存性ポリペプチド」には、第VII因子、第VIIa因子、第IX因子、第IXa因子、第X因子、第Xa因子、第II因子(プロトロンビン)、プロテインC、活性型プロテインC、プロテインS、活性型プロテインS、GAS6、活性型GAS6、プロテインZ、活性型プロテインZ等が含まれるが、それらに限定されるわけではない。さらに、有用なビタミンK依存性ポリペプチドは、野生型であり得るか又は変異体を含有し得る。グリコシル化又は他の翻訳後修飾の程度及び位置は、選択された宿主細胞及び宿主細胞の環境の性質に応じて変動し得る。特定のアミノ酸配列を言及する場合、このような配列の翻訳後修飾は、本願において包含される。
【0050】
上述の定義内の「ビタミンK依存性ポリペプチド」には、天然アミノ酸配列を有するポリペプチドが含まれる。前記ビタミンK依存性ポリペプチドには、わずかに修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチド、例えば、個々のビタミンK依存性ポリペプチドの活性を前記ポリペプチドが実質的に保持する限り、末端のアミノ酸欠失又は付加を含む修飾されたN末端又はC末端を有するポリペプチドも含まれる。上述の定義内の「ビタミンK依存性ポリペプチド」にはまた、個体毎に存在及び発生し得る天然対立遺伝子由来の変異も含まれる。上述の定義内の「ビタミンK依存性ポリペプチド」にはさらに、ビタミンK依存性ポリペプチドの変異体も含まれる。このような変異体は、野生型の配列から1つ又はそれ以上のアミノ酸残基が異なる。このような差異の例には、N末端及び/又はC末端の1つ又はそれ以上のアミノ酸残基(例えば、1〜10個のアミノ酸残基)の短縮、又はN末端及び/又はC末端での1つ又はそれ以上の余分な残基の付加、及び保存的アミノ酸置換、すなわち、同様の特徴、例えば、(1)小分子アミノ酸、(2)酸性アミノ酸、(3)極性アミノ酸、(4)塩基性アミノ酸、(5)疎水性アミノ酸、及び(6)芳香族アミノ酸を有するアミノ酸の群内で実施される置換が含まれ得る。このような保存された置換の例を、表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
本発明のビタミンK依存性ポリペプチドとアルブミンとの融合によるインビボでの回収は、非融合型ビタミンK依存性ポリペプチドのインビボでの回収と比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、及びより好ましくは少なくとも40%増大している。
【0053】
本発明の第VII因子とアルブミンの連結されたポリペプチドのインビボでの回収は通常、ヒト第VII因子の野生型のインビボでの回収よりも、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約40%高い。
【0054】
本発明の第VIIa因子とアルブミンの連結されたポリペプチドのインビボでの回収は通常、ヒト第VIIa因子の野生型のインビボでの回収よりも、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約40%高い。
【0055】
本発明の第IX因子とアルブミンの連結されたポリペプチドのインビボでの回収は通常、ヒト第IX因子の野生型のインビボでの回収よりも、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約40%高い。
【0056】
本発明によると、ビタミンK依存性ポリペプチド部分は、ペプチドリンカーによってアルブミン部分へ連結される。リンカーは、柔軟であり、非免疫原性であるべきである。典型的なリンカーには、(GGGGS)n又は(GGGS)n又は(GGS)nが含まれ、式中、nは、1よりも大きな又は1に等しい整数であり、Gは、グリシンを表し、Sは、セリンを表す。
【0057】
本発明の別の実施態様において、ビタミンK依存性ポリペプチド部分とアルブミン部分との間のペプチドリンカーは、翻訳後修飾の付加のためのコンセンサス部位を含有する。好ましくは、このような修飾は、グリコシル化部位からなる。より好ましくは、このような修飾は、Asn−X−Ser/Thr構造(Xが、プロリン以外の何れかのアミノ酸を示す)の少なくとも1つのN−グリコシル化部位からなる。さらにより好ましくは、このようなN−グリコシル化部位は、ペプチドリンカーのアミノ末端及び/又はカルボキシ末端近くに挿入され、それにより、それぞれ、ビタミンK依存性ポリペプチド部分がペプチドリンカー中に移行しており、ペプチドリンカーがアルブミン部分の配列中に移行している配列で生じ得る新生エピトープ(neoepitope)を、前記N−グリコシル化部位が遮蔽できる。
【0058】
本発明はさらに、本願において記載されるビタミンK依存性ポリペプチドとアルブミンとの融合体をコードするポリヌクレオチドに関する。「ポリヌクレオチド」という表現は一般的に、修飾されていないRNA若しくはDNA又は修飾されたRNA若しくはDNAであり得る何れかのポリリボヌクレオチド若しくはポリデオキシリボヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖DNA、一本鎖又は二本鎖RNAであり得る。本明細書において、「ポリヌクレオチド」という表現には、1つ又はそれ以上の修飾された塩基及び/又はイノシン等の非通常型塩基を含むDNA又はRNAが含まれる。DNA及びRNAに対して、当業者に公知の多くの有用な目的を供する多様な修飾がなされ得ることは理解されるであろう。本明細書において、「ポリヌクレオチド」という表現は、このように化学的に、酵素的に又は代謝的に修飾されるポリヌクレオチドの形態、並びにウイルス及び、例えば単純な及び複雑な細胞を含む細胞のDNA及びRNAの特徴を有する化学的形態を包含する。
【0059】
当業者は、遺伝暗号の縮重に応じて、付与されたポリペプチドが、異なるポリヌクレオチドによってコード可能であることを理解するであろう。これらの「変異体」は、本発明によって包含される。
【0060】
好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、単離されたポリヌクレオチドである。「単離された」ポリヌクレオチドという表現は、それに限定されるわけではないが、他の染色体及び染色体外DNA及びRNAのような他の核酸配列を実質的に含まないポリヌクレオチドを指す。単離されたポリヌクレオチドは、宿主細胞から精製され得る。当業者に公知の従来の核酸精製方法は、単離されたポリヌクレオチドを得るために使用され得る。この表現にはまた、組換えポリヌクレオチド及び化学的に合成されたポリヌクレオチドが含まれる。
【0061】
本発明のさらに別の局面は、本発明に従ったポリヌクレオチドを含むプラスミド又はベクターである。好ましくは、プラスミド又はベクターは、発現ベクターである。具体的な実施態様において、ベクターは、ヒト遺伝子の治療において使用するための転送ベクターである。
【0062】
本発明のさらに別の局面は、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のプラスミド若しくはベクターを含む宿主細胞である。
【0063】
本発明の宿主細胞は、本発明の一部であるビタミンK依存性ポリペプチドとアルブミンの融合体を製造する方法において用いられる。この方法は、
- ビタミンK依存性ポリペプチドアルブミン融合体が発現するような条件下で、本発明の宿主細胞を培養すること;及び
- 場合により、ビタミンK依存性ポリペプチドアルブミン融合体を培地から回収すること、
を含む。
【0064】
提唱されるポリペプチドの発現
適切な宿主細胞における組換えタンパク質の高レベルの産生は、当業者に公知の方法に従って、多様な発現系において増殖可能な組換え発現ベクター中の適切な調節エレメントとともに、上述の修飾されたcDNAを効率的な転写単位へと組み入れることを必要とする。効率的な転写調節エレメントは、その天然宿主として動物細胞を有するウイルス由来であり得るか、又は動物細胞の染色体DNA由来であり得る。好ましくは、サルウイルス40、アデノウイルス、BKポリオーマウイルス、ヒトサイトメガロウイルス、又はラウス肉腫ウイルスの末端反復配列、又はβ−アクチン若しくはGRP78のような動物細胞中で強力に構成的に転写される遺伝子を含む、プロモーターとエンハンサーとの組み合わせが使用可能である。cDNAから転写されたmRNAの安定した高いレベルを達成するために、転写単位は、その3’近位部分において、転写終結−ポリアデニル化配列をコードするDNA領域を含有する。好ましくは、この配列は、サルウイルス40初期転写領域、ウサギβ−グロビン遺伝子、又はヒト組織プラスミノーゲン活性化因子遺伝子に由来する。
【0065】
次に、cDNAは、治療用ポリペプチドアルブミン融合ポリペプチドの発現に適切な宿主細胞系のゲノム中に組み込まれる。好ましくは、この細胞系は、正確な折りたたみ、Glaドメイン内でのグルタミン酸残基のγ−カルボキシル化、ジスルフィド結合形成、アスパラギン連結型グリコシル化、O連結型グリコシル化、及び他の翻訳後修飾、並びに培地中への分泌を確実にするために、脊椎動物由来の動物細胞系であるべきである。他の翻訳後修飾の例は、チロシンO−硫酸化、ヒドロキシル化、リン酸化、新生ポリペプチド鎖のタンパク質分解加工、及びプロペプチド領域の切断である。使用可能な細胞系の例は、サルCOS細胞、マウスL細胞、マウスC127細胞、ハムスターBHK−21細胞、ヒト胚性腎293細胞、及びハムスターCHO細胞である。
【0066】
対応するcDNAをコードする組換え発現ベクターは、幾つもの異なる方法で動物細胞中に導入可能である。例えば、組換え発現ベクターは、異なる動物ウイルスに基づくベクターから作製可能である。これらの例は、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、及び好ましくはウシパピローマウイルスに基づくベクターである。
【0067】
組換えDNAをゲノムに組み込んだ特異的細胞クローンの単離を容易にするため、対応するDNAをコードする転写単位を動物細胞中に、これらの細胞中で優性選択可能なマーカーとして機能し得る別の組換え遺伝子と共に導入することも可能である。この種の優性選択可能なマーカー遺伝子の例は、ジェネテシン(G418)に対する抵抗性を与えるTn5アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ハイグロマイシンに対する抵抗性を与えるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ、及びピューロマイシンに対する抵抗性を与えるピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼである。このような選択可能なマーカーをコードする組換え発現ベクターは、所望のポリペプチドのcDNAをコードするものと同一のベクター上に存在しても良く、又は宿主細胞のゲノムに同時に導入及び組み込まれる別のベクター上でコードされ、その結果、異なる転写単位間で密接な物理的連結が頻繁に生じ得るようなものでも良い。
【0068】
所望のタンパク質のcDNAと共に使用可能な選択可能なマーカー遺伝子の他の種類は、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)をコードする多様な転写単位に基づいている。この種の遺伝子を、内在性dhfr活性を欠失する細胞、好ましくはCHO細胞(DUKX−B11、DG−44)中に導入した後、ヌクレオシドを欠失する培地中で前記細胞が増殖可能となる。このような培地の一例は、ヒポキサンチン、チミジン及びグリシンを含まないHamのF12である。これらのdhfr遺伝子は、血液凝固因子cDNA転写単位とともに、同一のベクター又は異別のベクターの何れかに連結されて、上述の種類のCHO細胞中に導入でき、それにより、組換えタンパク質を産生するdhfr陽性細胞系が作製される。
【0069】
上述の細胞系が、細胞毒性のdhfr阻害剤メトトレキサートの存在下で増殖する場合、メトトレキサートに対して抵抗性のある新たな細胞系が生じる。これらの細胞系は、連結されたdhfr及び所望のタンパク質の転写単位の増幅数に応じて増大した速度で、組換えタンパク質を産生し得る。メトトレキサートの増大する濃度(1〜10000nM)でこれらの細胞系を増殖する場合、非常に速やかに所望のタンパク質を産生する新たな細胞系が得られ得る。
【0070】
所望のタンパク質を産生する上述の細胞系は、懸濁培養物中で又は種々の固体支持体上での何れかで、大規模な増殖が可能である。これらの支持体の例は、デキストラン又はコラーゲンマトリックスベースのマイクロキャリア、又は中空繊維若しくは多様なセラミック材料の形態にある固体支持体である。細胞懸濁培養物中で、又はマイクロキャリア上で増殖される場合、上述の細胞系の培養は、バッチ培養として、又は長時間にわたって条件培地の連続的な生成による還流培養としての何れかで実施可能である。従って、本発明によると、上述の細胞系は、所望の組換えタンパク質の産生のための工業的方法の開発に非常に適している。
【0071】
上述の種類の分泌細胞の培地中に蓄積する組換えタンパク質は、細胞培地中の所望のタンパク質と他の物質との間の大きさ、電荷、疎水性、溶解度、特異的親和性等の差異を利用する方法を含む、多様な生化学的方法及びクロマトグラフィー法によって、濃縮及び精製が可能である。
【0072】
このような精製の一例は、固体支持体上に固定されたモノクローナル抗体又は結合ペプチドへの組換えタンパク質の吸着である。吸着後、タンパク質は、上述の特性をベースとした多様なクロマトグラフィー技術によってさらに精製可能である。
【0073】
治療用ポリペプチド、例えば、本発明のビタミンK依存性ポリペプチドアルブミン融合体を、80%以上の純度まで、より好ましくは95%以上の純度まで精製することが好ましく、特に好ましいのは、夾雑高分子、特に他のタンパク質及び核酸に対して99.9%以上の純度であり、そして感染性物質及び発熱性物質を含まない製薬的に純粋な状態である。好ましくは、単離又は精製された治療用ポリペプチド、例えば、本発明のビタミンK依存性ポリペプチドアルブミン融合体は、実質的に他のポリペプチドを含まない。
【0074】
それぞれ本発明に記載されているビタミンK依存性ポリペプチドアルブミン融合体である治療用ポリペプチドは、治療上の使用のため、医薬調製物中に製剤可能である。精製されたタンパク質は、従来の生理学的に適合性のある水性緩衝水溶液中に溶解され得、場合により、そこに医薬賦形剤が添加され、医薬調製物を提供し得る。
【0075】
このような医薬担体及び賦形剤並びに適切な医薬製剤は、本分野で周知である(例えば、「Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins」、Frokjaerら、Taylor & Francis(2000)又は「Handbook of Pharmaceutical Excipients」、第3版、Kibbeら、Pharmaceutical Press(2000)参照)。特に、本発明のポリペプチド変異体を含む医薬組成物は、凍結乾燥された形態又は安定した可溶性形態で製剤され得る。治療用ポリペプチドは、当該分野で公知の多様な手法によって凍結乾燥され得る。凍結乾燥された製剤は、注射用滅菌水又は滅菌生理塩類溶液のような医薬的に許容される希釈剤を1つ又はそれ以上添加することによって再構成された後、使用される。
【0076】
組成物の製剤は、医薬的に適切な何れかの投与手段によって個体に送達される。多様な送達システムが公知であり、何れかの簡便な経路によって組成物を投与するのに使用可能である。好ましくは、本発明の組成物は、全身投与される。全身使用のため、アルブミンの連結された本発明の融合タンパク質は、従来の方法に従って、非経口的(例えば、静脈内、皮下的、筋肉内、腹腔内、脳内、肺内、鼻腔内又は経皮的)送達用に又は経腸(例えば、経口、膣内又は直腸内)送達用に製剤される。投与の最も好ましい経路は、静脈内投与である。製剤は、注入によって又はボーラス投与によって連続的に投与可能である。幾つかの製剤は、遅延放出系を包含する。
【0077】
それぞれアルブミンの連結された本発明のビタミンK依存性ポリペプチドである、本発明の治療用ポリペプチドは、所望の効果を生じるのに十分な用量を意味する、治療有効量で患者に投与され、耐えられない負の副作用を生じる用量に到達することなく、治療されている症例又は適応症を予防又はその重度若しくは広がりを軽減する。実際の用量は、例えば、適応症、製剤及び投与様式のような多くの因子に依存しており、各個々の適応症に関して前臨床試験及び臨床治験において決定されなければならない。
【0078】
本発明の医薬組成物は、単独で又は他の治療薬と共に投与され得る。これらの薬剤は、同一の医薬品の一部として組み込まれ得る。
【0079】
本発明の多様な製剤は、医薬品として有用である。従って、本発明は、本明細書に記載されているアルブミンの連結されたビタミンK依存性ポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のプラスミド若しくはベクターを含む医薬組成物に関する。
【0080】
本発明の修飾されたDNAもまた、ヒト遺伝子治療において使用するための転送ベクター中に組み込まれ得る。
【0081】
本発明の別の局面は、出血性障害の治療又は予防のための医薬の製造のための、本発明の治療用ポリペプチド、例えば、本明細書に記載されているアルブミンの連結されたビタミンK依存性ポリペプチドの使用、本発明のポリヌクレオチドの使用、本発明のプラスミド若しくはベクターの使用、本発明の宿主細胞の使用である。出血性障害には、血友病Aが含まれるが、それに限定されるわけではない。本発明の別の実施態様において、治療は、ヒト遺伝子治療を含む。
【0082】
本発明はまた、以下の適応症の1つ又はそれ以上において個体を治療する方法にも関する:「血友病A又はB」、「遺伝性又は後天性血液凝固欠乏を有する患者における出血性エピソード」、「例えば、遺伝性又は後天性因子欠乏を有する患者における血栓症のような血管閉塞性エピソード」、「敗血症」、「血液凝固因子(第VIII因子又は第IX因子)に対する阻害物質を伴う遺伝性又は後天性血友病を有する患者における出血性エピソード及び手術」、「抗血小板薬又は抗凝固薬等の薬物治療の結果として生じた止血不全の反転」、「二次止血の改善」、「感染中又はビタミンK欠乏症または重度肝臓疾患のような疾患中に生じた止血不全」、「肝臓切除」、「蛇にかまれた結果として生じた止血不全」、「胃腸性出血」。また、「外傷」、「大量輸血の帰結(希釈性凝固障害)」、「第VIII因子及び第IX因子以外の血液凝固因子欠乏」、「VWD」、「第I因子欠乏」、「第V因子欠乏」、「第VII因子欠乏」、「第X因子欠乏」、「第XIII因子欠乏」、「HUS」、「血小板減少症、ITP、TTP、HELLP症候群、ベルナール・スーリエ症候群、グランツマン血小板無力症、HITのような遺伝性又は後天性血小板疾患及び障害」、「シェディアック・東症候群」、「ヘルマンスキー・パドラック症候群」、「ランデュー・オスラー症候群」、「ヘノッホ・シェーンライン紫斑病」、「創傷治癒」、及び「敗血症」も、好ましい徴候である。この方法は、本明細書に記載のビタミンK依存性のアルブミンの連結されたポリペプチドの有効量を該個体に投与することを含む。別の実施形態において、この方法は、本発明のポリヌクレオチド又は本発明のプラスミド若しくはベクターの有効量を個体に投与することを含む。あるいは、この方法は、本明細書に記載されている本発明の宿主細胞の有効量を個体に投与することを含み得る。
【実施例】
【0083】
実施例1:第VII因子及び第VII因子−アルブミン融合タンパク質をコードするcDNAの作成
プライマーWe1303及びWe1304(配列番号1及び2)を使用して、ヒト肝臓cDNAライブラリ(ProQuest,Invitrogen)から、PCRによって、第VII因子をコードする配列を増幅した。プライマーWe1286及びWe1287(配列番号3及び4)を使用したPCRの第2ラウンドの後、得られた断片をpCR4TOPO(Invitrogen)中にクローン化した。そこから、内部XhoI部位が既に欠失されているpIRESpuro3(BD Biosciences)のEcoRI部位中に、第VII因子cDNAをEcoRI断片として組み込んだ。得られたプラスミドをpFVII−659と命名した。
【0084】
続いて、オリゴヌクレオチドWe1643及びWe1644(配列番号5及び6)を使用して、標準的なプロトコールに従った部位特異的変異誘発(QuickChange XL Site Directed Mutagenesis Kit,Stratagene)によって、天然第VII因子の終止コドンの部位(図1)においてXhoI制限部位をpFVII−659中に導入した。得られたプラスミドをpFVII−700と命名した。
【0085】
標準的なPCR条件下で、等モル濃度(10pmol)のオリゴヌクレオチドWe1731及びWe1732(配列番号7及び8)をアニールし、2分間のPCRプロトコールを使用して、充填及び増幅した。94℃で初期変性した後、94℃で15秒間の変性、55℃で15秒間のアニーリング、72℃で15秒間の伸長を7回繰返し、最後に、72℃、5分間で伸長停止を行った。得られた断片を制限エンドヌクレアーゼXhoI及びNotIで消化し、同一酵素で消化しておいたpFVII−700中に連結した。第VII因子をコードする配列及びトロンビン切断可能なグリシン/セリンリンカーのC末端伸長部を含有する得られたプラスミドをpFVII−733と命名した。
【0086】
pFVII−733を基にして、トロンビン切断部位及びさらなるNグリコシル化部位を含まない他のリンカーを挿入した。そのため、プライマー対We2148及びWe2149(配列番号9及び10)、We2148及びWe2151(配列番号9及び11)、We2152及びWe2154(配列番号12及び13)、We2152及びWe2155(配列番号12及び14)並びにWe2156及びWe2157(配列番号15及び16)をそれぞれ、上述のようにアニールし増幅した。個々のPCR断片を制限エンドヌクレアーゼXhoI及びBamH1で消化し、同一酵素で消化しておいたpFVII−733中に挿入した。得られたプラスミドのBamH1部位中に、及びpFVII−733のBamH1部位中に、成熟ヒトアルブミンのcDNAを含有するBamH1断片を挿入した。標準的な条件下でプライマーWe1862及びWe1902(配列番号17及び18)を使用する、アルブミンcDNA配列に対するPCRによって、この断片を生成した。最終的なプラスミドをそれぞれ、pFVII−935、pFVII−937、pFVII−939、pFVII−940、pFVII−941及びpFVII−834と命名した。
【0087】
リンカーを含まない第VII因子アルブミン融合タンパク質を生成するため、プライマーWe2181及びWe2182(配列番号25及び26)を使用して、プラスミドpFVII−935上に、上述のとおり、欠失変異誘発を適用した。得られたプラスミドをpFVII−974と命名した。リンカー配列並びにこれらのプラスミドのC末端FVII配列及びN末端アルブミン配列を図2に概略した。
【0088】
実施例2:第IX因子及び第IX因子−アルブミン融合タンパク質をコードするcDNAの作成
プライマーWe1403及びWe1404(配列番号27及び28)を使用して、ヒト肝臓cDNAライブラリ(ProQuest,Invitrogen)から、PCRによって、第IX因子をコードする配列を増幅した。プライマーWe1405及びWe1406(配列番号29及び30)を使用したPCRの第2ラウンドの後、得られた断片をpCR4TOPO(Invitrogen)中にクローン化した。そこから、内部XhoI部位が既に欠失されている発現ベクターpIRESpuro3(BD Biosciences)のEcoRI部位中に、第IX因子cDNAをEcoRI断片として転移させた。得られたプラスミドをpFIX−496と命名し、第IX因子の野生型のための発現ベクターとした。
【0089】
アルブミン融合構築体の作成のため、終止コドンを欠失し、代わりにXhoI部位を導入するプライマーWe2610及びWe2611(配列番号31及び32)を使用する標準的な条件下でのPCRによって、第IX因子cDNAを再度増幅した。得られた第IX因子断片を制限エンドヌクレアーゼEcoRI及びXhoIで消化し、EcoRI/BamH1で消化しておいたpIRESpuro3中へ、XhoI/BamH1で消化しておいた以下に記載される1つのリンカー断片とともに連結した。
【0090】
2つの異なるグリシン/セリンリンカー断片を生成した。標準的なPCR条件下で、等モル濃度(10pmol)でオリゴヌクレオチドWe2148及びWe2150(配列番号9及び33)をアニールし、2分間のPCRプロトコールを使用して、充填及び増幅した。94℃で初期変性した後、94℃で15秒間の変性、55℃で15秒間のアニーリング、72℃で15秒間の伸長を7回繰返し、最後に、72℃、5分間で伸長停止を行った。オリゴヌクレオチドWe2156及びWe2157(配列番号15及び16)を使用して、同一手法を行った。
【0091】
得られたリンカー断片を制限エンドヌクレアーゼXhoI及びBamH1で消化し、上述の連結反応において別個に使用した。得られた2つのプラスミドはそれゆえ、第IX因子をコードする配列と、グリシン/セリンリンカーのC末端伸長部とを含有した。次のクローニング工程において、これらのプラスミドをBamH1で消化し、成熟ヒトアルブミンのcDNAを含有するBamH1断片を挿入した。標準的な条件下でプライマーWe1862及びWe1902(配列番号17及び18)を使用する、アルブミンcDNA配列に対するPCRによって、この断片を生成した。最終的なプラスミドをpFIX−980及びpFIX−986とそれぞれ命名した。それらのリンカー配列並びにC末端FIX配列及びN末端アルブミン配列を図3に概略した。
【0092】
多量に第IX因子を発現している細胞中でプロペプチドを効率的に加工するには、フューリン(furin)の共発現を必要とした(Wasley LC et al.1993.PACE/Furin can process the vitamin K−dependent pro−factor IX precursor within the secretory pathway.J.Biol.Chem.268:8458−8465)。プライマーWe1791及びWe1792(配列番号34及び35)を使用して、肝臓cDNAライブラリ(Ambion)からフューリンを増幅した。プライマーWe1808及びWe1809(配列番号36及び37)を使用するPCRの第二のラウンドでは、カルボキシ末端の膜貫通ドメイン(TM)が欠失し、終止コドンが導入されているフューリン断片を生じ、この断片をpCR4TOPO(Invitrogen)中にクローン化した。そこから、内部XhoI部位が既に欠失されているpIRESpuro3(BD Biosciences)のEcoRI/NotI部位中に、フューリンΔTMcDNAをEcoRI/NotI断片として組み込んだ。得られたプラスミドをpFu−797と命名した。pFu−797によってコードされた分泌型フューリンのアミノ酸配列を、配列番号38として付与した。
【0093】
実施例3:第VII因子、第IX因子及び個々のアルブミン融合タンパク質の形質移入及び発現
プラスミドを大腸菌(E.coli)TOP10(Invitrogen)中で増殖し、標準的なプロトコール(Qiagen)を使用して精製した。リポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を使用してHEK−293細胞に形質移入し、50ng/mLのビタミンK及び4μg/mLのピューロマイシンの存在下で、無血清培地(Invitrogen 293 Express)中で増殖した。フューリンΔTMcDNAの共形質移入を、1:5(pFu−797:個々のpFIX構築体)モル比で実施した。T字型フラスコを通して回転瓶又は小規模発酵槽中へ、形質移入された細胞集団を拡散し、そこから精製のために上清を回収した。
【0094】
実施例4:第VII因子及び第VII因子−アルブミン融合ポリペプチドの精製
第VII因子又は第VII因子アルブミン融合タンパク質を含有する細胞培養回収物を、20mM Hepes緩衝液(pH7.4)であらかじめ平衡化しておいた2.06mLのQ−セファロースFFカラム上に適用した。その後、Hepesと呼ばれる緩衝液10容積でカラムを洗浄した。20mM Hepes緩衝液中の0〜1.0M NaClの線形勾配を20カラム容積内で実施することによって、結合した第VII因子分子の溶出を達成した。溶出液は、タンパク質濃度0.5〜1g/Lで、適用された第VII因子抗原の約85〜90%を含有した。
【0095】
あるいは、欧州特許第0770625(B1)号に記載されるとおり、固定された組織因子を使用するクロマトグラフィーによって、第VII因子を精製した。
【0096】
実施例5に記載されるとおり、第VII因子抗原及び活性を測定した。
【0097】
実施例5:第VII因子活性及び抗原の測定
Seligsohnら,Blood(1978)52:978−988によって記載されている方法に基づいて、市販の色素生産性検査キット(Chromogenix Coaset FVII)を使用して、第VII因子活性を測定した。
【0098】
Moorisseyら,(1993)Blood 81:734−744によって記載されている方法に基づいて、市販の検査キット(STACLOT(登録商標)VIIa−rTF,Diagnostica Stago)を使用して、第VII因子活性を測定した。
【0099】
性能が当業者に公知であるELISAによって、第VII因子抗原を測定した。簡潔に述べれば、マイクロプレートを1ウェルあたり捕捉抗体(ヒツジ抗ヒトFVII IgG、Cedarlane CL20030AP、緩衝液A[Sigma C3041]中で1:1000に希釈)120μLと共に、室温で一晩インキュベートした。緩衝液B(Sigma P3563)でプレートを3回洗浄した後、各ウェルを200μLの緩衝液C(Sigma P3688)と共に、室温で1時間インキュベートした。緩衝液によるさらなる3回の洗浄工程の後、緩衝液B中の検査試料の連続希釈物及び緩衝液B中の標準的なヒト血漿の連続希釈物(Dade Behring;50〜0.5mU/mL、ウェルあたりの容積:100μL)を室温で2時間インキュベートした。緩衝液Bによる3回の洗浄工程の後、検出抗体(ヒツジ抗ヒトFVII IgG、Cedarlane CL20030K,ペルオキシダーゼ標識済み)の緩衝液B中での1:5000希釈物100μLを各ウェルに添加し、室温でさらに2時間インキュベートした。緩衝液Bによる3回の洗浄工程の後、基質溶液(TMB,Dade Behring,OUVF)100μLを各ウェルに添加し、暗所において室温で30分間インキュベートした。100μLの希釈されていない停止溶液(Dade Behring,OSFA)の添加によって、適切なマイクロプレートリーダーにおいて450nm波長で読み取るための試料が調製された。次に、標準的なヒト血漿による標準曲線を基準として使用して、検査試料の濃度を算出した。
【0100】
実施例6:第IX因子及び第IX因子−アルブミン融合ポリペプチドの精製
第IX因子又は第IX因子アルブミン融合タンパク質を含有する細胞培養回収物を、50mMトリスxHCl/100mMNaCl緩衝液(pH8.0)であらかじめ平衡化しておいたQ−セファロースFFカラム上に適用した。その後、200mM NaClを含有する平衡化緩衝液で、カラムを洗浄した。塩勾配を実施することによって、結合した第IX因子又は第IX因子融合ポリペプチドの溶出を達成した。カラムクロマトグラフィーによって、ヒドロキシルアパタイト溶離液をさらに精製した。この目的のため、50mMトリスxHCl/100mM NaCl緩衝液(pH7.2)で平衡化しておいたヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーカラムに、Q−セファロースFFの溶離液を負荷した。同一緩衝液でカラムを洗浄し、リン酸塩勾配を使用して、第IX因子又は第IX因子−HASを溶出した。溶出液を透析して、塩濃度を低下させ、生化学的分析に及びインビボでの回収を測定するために使用した。実施例7に記載されているとおり、第IX因子抗原及び活性を測定した。
【0101】
実施例7:第IX因子抗原及び活性の測定
市販のaPTT試薬を使用して、FIX活性を凝固活性として測定した(Dade Behring,Pathromtin SL及びFIX枯渇血漿)。
【0102】
当業者に公知の標準的なプロトコールに従ったELISAによって、第IX因子抗原を測定した。簡潔には、1ウェルあたり捕捉抗体(FIX ELISAに関して対形成された抗体1:200、Cedarlane)100μLと共にマイクロプレートを室温で一晩インキュベートした。ブロッキング緩衝液B(Sigma P3563)でプレートを3回洗浄した後、各ウェルを200μLの緩衝液C(Sigma P3688)と共に、室温で1時間インキュベートした。緩衝液Bによるさらなる3回の洗浄工程の後、緩衝液B中の検査試料の連続希釈物及び緩衝液B中の標準以下(SHP)の連続希釈物(ウェルあたりの容積:100μL)を室温で2時間インキュベートした。緩衝液Bによる3回の洗浄工程の後、検出抗体(FIX ELISAに関して対形成された抗体、ペルオキシダーゼ標識済み、1:200、Cedarlane)の緩衝液B中での1:200希釈物100μLを各ウェルに添加し、室温でさらに2時間インキュベートした。緩衝液Bによる3回の洗浄工程の後、基質溶液(TMB,Dade Behring,OUVF)100μLを各ウェルに添加し、暗所において室温で30分間インキュベートした。希釈されていない100μLの停止溶液(Dade Behring,OSFA)の添加によって試料が調製され、適切なマイクロプレートリーダーにおいて450nm波長で読み取った。次に、標準的なヒト血漿による標準曲線を基準として使用して、検査試料の濃度を算出した。
【0103】
実施例8:インビボでの回収に関する第VII因子及び第VII因子−アルブミン融合タンパク質の比較
上述の組換え第VII因子野生型及び第VII因子アルブミン融合ポリペプチドを、体重1kgあたり100μgの用量で、麻酔をかけたCD/ルイスラット(1物質あたり6匹)に静脈内投与した。検査物質の適用5分後に開始する適切な間隔で、頸動脈から血液試料を採取した。その後、ヒト第VII因子に特異的なELISAアッセイ(上述)によって、第VII因子抗原含有量を定量した。個々のラットの群の平均値を使用して、インビボでの回収を算出した。
【0104】
上記生成物の適用5分後に、インビボでの回収を測定した(表2)。尾静脈を介する静脈内適用の5分後に、血漿1mLあたりで測定された第VIIa因子抗原レベルを、1kgあたりで適用された生成物の量と関連付けた。あるいは、注入5分後に測定される抗原レベル(IU/mL)を、100%の回収時に予測される理論的な生成物レベル(1kgあたりの40mLの理論的な血漿容積によって除される、1kgあたりに適用される生成物)と関連付けることによって、百分率を算出した。
【0105】
ラットで適宜測定された第VII因子融合タンパク質のインビボでの回収は、非融合型組換え野生型第VII因子と比較して顕著に増大することが見いだされた。使用される構築体に応じて、野生型第VII因子を2.3〜7.9倍上回って増大した。
【0106】
【表2】

【0107】
実施例9:インビボでの回収に関する第IX因子及び第IX因子−アルブミン融合タンパク質の比較
上述の市販の組換え第IX因子(BeneFIX、Wyeth、及びrFIX野生型)及び第IX因子−アルブミン融合ポリペプチド(rFIX−L−HSA980/797及びrFIX−L−HSA986/797)を、麻酔したウサギ(1つの物質あたり4匹)及びCD/ルイスラット(1つの物質あたり6匹)にそれぞれ、体重1kgあたり50IUの用量で静脈内投与した。検査物質の適用5分後に開始する適切な間隔で、頸動脈から血液試料を採取した。その後、ヒト第IX因子に特異的なELISAアッセイ(上述)によって、第IX因子抗原含有量を定量した。個々の群の平均値を使用して、5分後のインビボでの回収を算出した。
【0108】
注入5分後のインビボでの算出された回収を表3に要約した。尾静脈を介する静脈内適用の5分後に血漿1mLあたりで測定された第IX因子抗原レベルを、1kgあたりで適用された生成物の量と関連付けた。あるいは、注入5分後に測定される抗原レベル(IU/mL)を、100%の回収時に予測される理論的な生成物レベル(1kgあたりの40mLの想定される血漿容積によって除される、1kgあたりに適用される生成物)と関連付けることによって、百分率を算出した。
【0109】
ラット及びウサギにおいて、第IX因子融合タンパク質のインビボでの回収は、社内で調製された非融合型組換え第IX因子又は市販の第IX因子製品のBeneFIXと比較して顕著に増大することが発見された。BeneFIXを上回る増大は、使用される動物種又は構築体に応じて、49.7%、69.4%又は87.5%であった。対応する野生型第IX因子と比較して、第IX因子融合タンパク質の回収の増大は、さらにより高かった。
【0110】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】TCGによってTAGを置換することによって、天然型第VII因子終止コドンの部位で導入されたXhoI制限部位。変異を受けた塩基は、太字で示されている。さらなる構築に使用されたNotI部位は、二重下線を付されている。第VII因子のC末端のアミノ酸配列は、3文字表記(マス囲み)で付与されている。
【図2】種々のpFVII構築体中の、第VII因子のC末端とアルブミンのN末端との間に挿入されたリンカー配列の概略。Nグリコシル化部位のアスパラギンは、二重下線を付されている。
【図3】種々のpFIX構築体中の、第IX因子のC末端とアルブミンのN末端との間に挿入されたリンカー配列の概略。Nグリコシル化部位のアスパラギンは、二重下線を付されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト又は動物において治療用ポリペプチドのインビボでの回収を増大させる方法であって、
a)治療用ポリペプチドが、回収増大用タンパク質と直接的に又はリンカーペプチドを介して融合され、そして
b)インビボでの回収が、非融合型治療用ポリペプチドのインビボでの回収の少なくとも110%まで増大する、
上記方法。
【請求項2】
回収増大用ポリペプチドが、アルブミン、その変異体又は断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
治療用ポリペプチドが、ビタミンK依存性タンパク質を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
治療用ポリペプチドが、第IX因子、第VII因子若しくは第VIIa因子又はそれらの断片若しくは変異体を含む、請求項1〜3に記載の方法。
【請求項5】
治療用ポリペプチド部分が、アルブミン部分のN末端に融合される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
治療用ポリペプチドが、第VII因子又は第VIIa因子である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ペプチドリンカーが、アルブミン部分から第VII因子又は第VIIa因子部分を分離することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ペプチドリンカーが、翻訳後修飾のための部位の挿入によって修飾されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
翻訳後修飾が、1つ又はそれ以上のAsn−X−Ser/Thr構造のN−グリコシル化部位を含み、Xが、プロリン以外の何れかのアミノ酸を示すことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第VII因子ポリペプチド部分が、凝固促進活性を有することを特徴とする、請求項6〜9に記載の方法。
【請求項11】
治療用ポリペプチドが、第IX因子である、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
ペプチドリンカーが、アルブミン部分から第IX因子部分を分離することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ペプチドリンカーが、翻訳後修飾のための部位の挿入によって修飾されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
翻訳後修飾が、1つ又はそれ以上のAsn−X−Ser/Thr構造のN−グリコシル化部位を含み、Xが、プロリン以外の何れかのアミノ酸を示すことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
第IX因子ポリペプチド部分が、凝固促進活性を有することを特徴とする、請求項11〜14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−533364(P2009−533364A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504607(P2009−504607)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/002948
【国際公開番号】WO2007/115724
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(597070264)ツェー・エス・エル・ベーリング・ゲー・エム・ベー・ハー (32)
【Fターム(参考)】