説明

治療組織における滞留時間の長い酸化型アビジン

本発明は、野生型アビジンに比べて、治療組織において高い耐久性を有する、化学修飾されたアビジンを記載するものである。アビジンの酸化は、ビオチン結合部位を占め、酸化ステップの間タンパク質の変性を防ぐ、低親和性リガンドHABAの存在下、過ヨウ素酸塩のインキュベーションによって行われる。過ヨウ素酸塩の酸化により、アビジンのマンノースの開環からCHO基が生成され、これが注射されると組織のNH2残基と反応して安定なSchiff塩基を形成する。繋留されたアビジンは、手術中アビジン化放射性核種療法(IART(登録商標))などの近接照射療法、または変性疾患もしくは遺伝病に有用な、放射標識したビオチン、幹細胞、及び体細胞など、治療活性を与えられたビオチン化された薬剤に結合する能力を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載する本発明は、ビオチン化された化合物または細胞に結合し、これらを治療を必要とする部位中に維持するのに有用な修飾されたアビジンに関する。
【背景技術】
【0002】
アビジン-ビオチン系は、小分子と生物学的受容体の間の相互作用における定性試験及び定量試験に対する例外的なツールとして長年知られている(Wilchek,M.ら、Immunol.Today、1984年、6巻、39頁)。
【0003】
アビジンは卵白中に存在し、ビタミンHであるビオチンに高親和性を示す、約68kDaの糖タンパク質である。その解離定数(Kd約10-15M)は、天然で知られているもののうち最も低い(Green N.M.ら、Biochem.J.、1970年、118巻、67頁;Green,N.M.、Adv.Protein Chem.、1975年、29巻、85頁)。アビジンは、その各々がビオチン1分子に潜在的に結合することができる、同一のアミノ酸配列のサブユニット4個から構成されている。その分子量の約10%がグリコシル化によって占められ、サブユニット1個あたり平均4個から5個のマンノース及び3個のN-アセチルグルコサミン残基を有する(Bruch R.C.ら、Biochemistry、1982年、21巻、5334頁)。
【0004】
1988年に、放射標識したビオチン誘導体とアビジンの間の相互作用に関する研究が報告された(Garlick R.K.ら、J.Biol.Chem.、1988年、263巻、210頁)。
【0005】
本出願者の名における国際公開第04/093916号において、固形腫瘍の2ステップの手術前後の治療が、近接照射療法の新規な形態として記載された。第1のステップは、ビオチン化された特異的な抗体の手術領域内への投与を伴い、引き続き「人工受容体」を構築するための、天然またはペグ化したアビジンを注射した。次いで、第2のステップ内に、ビオチンに結合させた適当な抗がん剤を全身投与した。第2のステップは、腫瘍を外科的に除去してから4時間から72時間以内に行う必要があった。しかし、考えられる組織にアビジンを共有結合することによる直接的なアビジン化の示唆はなされなかった。
【0006】
第1のステップにおいてアビジンを用い、第2のステップにおいて放射標識したビオチン-DOTA(ST2210)を用いる、この2ステップの近接照射療法の臨床上の適用は、乳がん患者における外科手術領域に部分照射を送達するのに有効であることが判明した(Paganelli G.ら、The Breast、2007年、16巻、17頁;Paganelli G.ら、Clin.Canc.Res.、2007年、13巻、5646頁)。外科手術した指標四分円に放出される照射線量は、患者11人において、100mCiの適用線量に対して平均20Gyであった。このブーストは、現在の標準的な外照射放射線療法(EBR)によって、これらのタイプの患者に送達される予想の60Gyの約1/3を表す。
【0007】
悪性神経膠腫患者の治療における、ビオチン-放射性核種複合体とのストレプトアビジン抗体構築物の使用、及び癌胎児性抗原を表す腫瘍の治療におけるハプテン-放射性核種との二重特異性抗体の使用が、最近報告された(Goldenberg,D.M.ら、J.Clin.Oncol.、2006年、24巻、823頁)。しかし、極めて少数の症例において、腎臓を通過する線量が非常に高いために腎臓毒性が出現した。
【0008】
アビジンで治療する場合の主な問題点の1つは、それが身体から速やかに排除されることにある。近頃、半減期のより長い「修飾されたアビジン」を見出すことに研究の努力は絞られている。タンパク質を遊離アミノ基によってモノメトキシポリエチレングリコールに連結することにあるこのような取組みの1つによって、修飾されたアビジンの血漿半減期の延長がもたらされ、アビジンをPEG-20kDaと連結した場合に、5時間後にi.v.注射された投与量の8%が、72時間後に6%が依然として腫瘍中に存在した(Caliceti P.ら、J.Control.Release、2002年、83巻、97頁)。
【0009】
PEG部分のサイズの影響を実証する薬物動態学的試験によって、PEG単位が重いほど半減期が短い事実が強調されたが、ビオチン-アビジンの親和性の程度は反対の傾向に従っていた(Salmaso S.ら、Biochim.Phys.Acta、2005年、1726巻、57頁)。
【0010】
様々なペグ化したアビジンに対する、別の薬物動態学的な、及びビオチン結合性の特性の研究は、アビジンタンパク質1個あたりPEG部分7個が最良の比率であり、血漿の半減期の増大、及びアビジンの免疫原性の低減が可能になることを示していた。しかし、ビオチン化された薬物の腫瘍内への蓄積に関して、動物モデルにおいて詳細はもたらされなかった(Chinol M.ら、Br.J.Cancer、1998年、78巻、2、189頁)。
【0011】
PEG-アビジンに対する代替として、熱応答性ポリマーが調査されている。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-コ-アクリルアミド)-アビジンは、アビジンに比べて長い血流中の滞留時間を示し、より低い肝臓内への蓄積を示した(Salmaso S.ら、Int.J.Pharm.、2007年、340巻、20頁)。しかし、この場合においても、腫瘍内へのビオチン化された薬物の蓄積に関して動物モデルにおける詳細は報告されなかった。
【0012】
残念なことに、現在まで、治療薬を特異的に局在させるための有効かつ選択的な方法は入手できない。
【0013】
したがって、抗がん療法の改善は、依然として極めて必要とされており、製薬会社にとって主要な研究領域である。
【0014】
アビジン-ビオチン結合相互作用は、タンパク質部分に依存する。実際、脱グリコシル化されたアビジンは、ビオチン結合能力を保持している(Hiller Y.ら、Biochem.J.、1987年、248巻、167頁;Rosebrough S.F.ら、J.Nucl.Med.、1996年、37巻、8、1380頁)。
【0015】
治療すべき領域内への治療薬の蓄積及び耐久性の増大は、野生型アビジンに比べて高い組織耐久性を与えられた修飾されたアビジンでの、組織のアビジン化によって達成し得る。
【0016】
このような戦略によりアビジンを全身投与する必要性が回避され、したがってこのような療法に関連するあらゆる副作用が防止される。さらに、関係する組織のアビジン化を増大することで、関係しない器官中の抗がん剤の分布を低減することにより毒性のより低い治療がもたらされ、野生型アビジンと同じ効果を得るための抗がん剤の投与量の低減がもたらされる。
【0017】
現在、アビジンのグリコシル化されている部分を酸化することによって、周囲の腫瘍組織の安定したアビジン化を得ることができ、ビオチン化された抗がん剤をこのような領域により濃縮させることが見出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第04/093916号
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/0137125号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0191832号明細書
【特許文献4】国際公開第02/066075号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Wilchek,M.ら、Immunol.Today、1984年、6巻、39頁
【非特許文献2】Green N.M.ら、Biochem.J.、1970年、118巻、67頁
【非特許文献3】Green,N.M.、Adv.Protein Chem.、1975年、29巻、85頁
【非特許文献4】Bruch R.C.ら、Biochemistry、1982年、21巻、5334頁
【非特許文献5】Garlick R.K.ら、J.Biol.Chem.、1988年、263巻、210頁
【非特許文献6】Paganelli G.ら、The Breast、2007年、16巻、17頁
【非特許文献7】Paganelli G.ら、Clin.Canc.Res.、2007年、13巻、5646頁
【非特許文献8】Goldenberg,D.M.ら、J.Clin.Oncol.、2006年、24巻、823頁
【非特許文献9】Caliceti P.ら、J.Control.Release、2002年、83巻、97頁
【非特許文献10】Salmaso S.ら、Biochim.Phys.Acta、2005年、1726巻、57頁
【非特許文献11】Chinol M.ら、Br.J.Cancer、1998年、78巻、2、189頁
【非特許文献12】Salmaso S.ら、Int.J.Pharm.、2007年、340巻、20頁
【非特許文献13】Hiller Y.ら、Biochem.J.、1987年、248巻、167頁
【非特許文献14】Rosebrough S.F.ら、J.Nucl.Med.、1996年、37巻、8、1380頁
【非特許文献15】Zaborsky,O.R.ら、Biochem.Bioph.Res.Comm.、1974年、61巻、1、210頁
【非特許文献16】Green,N.M.、Biochem.J.、1963年、89巻、599頁
【非特許文献17】Julow J.ら、Prog.Neurol.Surg.、2007年、20巻、303頁
【非特許文献18】Saito Sら、Int.J.Clin.Oncol.、2007年、12巻、395頁
【非特許文献19】Remington's Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.、N.J.、1991年)
【非特許文献20】Avigad G.、Anal,Biochem.、1983年、134巻、2、499頁
【非特許文献21】Urbano N.ら、Eur.J Nucl.Med.Mol.Imaging、2007年、34巻、68頁
【非特許文献22】Caliceti P.ら、J.Control.Release、2002年、83巻、97頁
【非特許文献23】Salmaso S.ら、Int.J.Pharm.、2007年、340巻、20頁
【非特許文献24】Di Carlo E.ら、Lab.Invest.、1999年、79巻、10、1261頁
【非特許文献25】De Giovanni C.ら、Cancer Research、2004年、64巻、4001頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、可逆的な共有性の化学結合によって、その拡散を遅らせる様式でin vivoで組織と相互作用することができる、化学的に酸化されたアビジンに関する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
このような酸化型アビジンを、外科的なステップの間に、または治療を必要とする選択された器官もしくは組織に注射することによって投与する。
【0022】
10mM過ヨウ素酸ナトリウムによるアビジンの酸化は、最近報告された(米国特許出願公開第2002/0137125号明細書)。後者において、著者らは、酸化型アビジンを、ホスホペンタマンノース-ヒドラジンと連結して、次いでリソソームの酵素を修飾するために患者に投与することができる高度にリン酸化されたイミン誘導体を得、これはリソソームの疾患の酵素置換療法の有効性を増強するものであった。イミンの形成がin vivoで介在しないことは注目に値する。このような修飾されたアビジンの活性が、その出願において報告されていないことも注目しなければならない。
【0023】
とりわけ、本発明は、野生型アビジン(WTアビジン)に比べて組織における高い耐久性を表すが、先に報告されている修飾されたアビジンタンパク質を用いた場合に遭遇する副作用を最小にする、糖タンパク質の糖部分の酸化によって得られる酸化型アビジンに関する。
【0024】
酸化型アビジンの組織結合は高度に均一であり、腫瘍及び炎症組織に局在する正電荷を帯びたアビジンの能力にIARTにおけるほど依存しない。したがって、酸化型アビジンの作用は、腫瘍細胞との特異的な相互作用に限定されず、したがって野生型アビジンでの標的化を指示するのに容易に接近できない余分な腫瘍細胞を含んでいることが知られている、外科的に除去された腫瘍を囲む組織のアビジン化が可能になる。
【0025】
本発明の第1の実施形態は、ピラノシド性の糖の酸化的開環により、したがって関与する組織に存在するアミノ残基と相互作用するアルデヒド部分を生成する、化学的に修飾されている野生型アビジンに関する。
【0026】
酸性のpH(6.0未満)では、CHO基は、プロトン化されているNH3+型が存在するので、タンパク質のNH2に対して本質的に不活性である。しかし、pH≧7では、CHO基はタンパク質のNH2残基と反応してSchiff塩基を形成する。野生型アビジンの代表的なマンノース残基の化学的酸化、及び新たに形成されたCHO基の、アミノ基(R-NH2、ここでRは組織のタンパク質残基である)とのその後の反応の一例を、スキーム1に示す。
【0027】
【化1】

【0028】
この糖の酸化は、天然のアビジンの過ヨウ素酸ナトリウムとの反応に基づくよく知られている方法に従って実現される(Zaborsky,O.R.ら、Biochem.Bioph.Res.Comm.、1974年、61巻、1、210頁;Green,N.M.、Biochem.J.、1963年、89巻、599頁)。
【0029】
しかし、アビジンの酸化は、いくつかのタンパク質のアミノ酸残基に損傷をもたらすことが知られており、すなわち、ビオチン結合部位に関与するトリプトファンの酸化はビオチン及び/またはビオチン誘導体に対する親和性の低下をもたらす(米国特許出願公開第2004/0191832号明細書;Green,N.M.、Biochem.J.、1963年、89巻、599頁)。
【0030】
アビジンが酸化ステップの前に低親和性リガンド4-ヒドロキシアゾベンゼン-2'-カルボン酸(HABA)に結合することで、このような誘導体のUVスペクトル分析によって明らかにされるように、トリプトファン残基の酸化を防ぐ立体配置がアビジンにもたらされることが、現在見出されている。UVスペクトルにおける282及び291nmの特徴的な屈曲の低下は、トリプトファン酸化の程度に厳密に関与しており、一方、250〜260nm領域における吸収の増加は置換されているオキシインドールの形成に特徴的である。
【0031】
野生型アビジン(WTアビジン)の吸収スペクトルと比べた、酸化型アビジン(OXアビジン)及びHABAで飽和されている酸化型アビジン(OXアビジンHABA)の吸収スペクトルは、酸化の間にビオチン結合部位を保護するためにHABAを使用するとトリプトファン損傷の割合を大いに低減することを示す(図1)。
【0032】
本発明の好ましい一実施形態は、あるUVスペクトルを示す酸化型アビジンのものであり、282及び291nmの吸収度はWTアビジンに観察されるものに関してトリプトファン残基の酸化に特徴的な屈曲を示すものではない。
【0033】
本発明の別の好ましい一実施形態は、あるUVスペクトルを示す酸化型アビジンのものであり、250〜260nmの吸収度はWTアビジンに観察されるものに関していかなる増加を示すものではない。
【0034】
本発明の別のさらに好ましい一実施形態は、トリプトファン残基を酸化から防ぐリガンドHABAの存在下における、アビジン及び/またはアビジン誘導体を酸化する方法のものである。
【0035】
HABAの保護効果と厳密に一致して、OXアビジンHABAは、WTアビジンに非常によく似た、構造的及び熱力学的性質を示す。熱安定性及び立体配置の変化を、酸化の前後に、4当量のビオチンあり及びなしで、円偏光二色性分光法によって測定した。融解曲線を、25〜95℃の温度範囲において225nmの二色性シグナルの低下を追跡することによって記録した。屈曲点及びS字曲線の勾配(p)を、Origin(登録商標)7.0ソフトウェアのBoltzmanフィッティングモデルによって計算したが、これは変性条件による転移点を表す。
【0036】
各々の特異的な化合物に対して、熱安定性は、25〜95℃の温度範囲において登録された対応する曲線の屈曲点に一致する温度に対応する。
【0037】
データ(表1)は、融解温度(Tm)の低下によって、及びWTアビジンと比べたOXアビジンのS字曲線の勾配(p)によって測定して、酸化が熱安定性を低下させることを示す(それぞれ74.3対79.0℃、及び8.9対14.7)。
【0038】
驚くべきことに、78.1対79.0℃、及び11.2対14.7という、それぞれOXアビジンHABA及びアビジンのTm及びp値によって確認されるように、HABA-保護されたアビジンに対して酸化が行われる場合、不安定化効果はほとんど無視できる。
【0039】
【表1】

【0040】
熱変性は、ビオチンなしで加熱した場合OXアビジンHABA及びOXアビジン両方に対して不可逆性であるが、ビオチンの存在下で加熱/冷却した場合、WTアビジンと同様に、OXアビジンHABAだけがその2次構造を回復する(データは示さず)。これらの所見は、HABA飽和は化学的酸化に曝されたアビジンの立体配置を保つのに非常に効果的な方法であることを確証し、結果的に保持されるビオチン結合能力を説明するものである。
【0041】
本発明のさらに好ましい一実施形態は、78℃以上の熱安定性を示す酸化型アビジンのものである。
【0042】
本発明のより好ましい一実施形態は、S字曲線の勾配が10を超える、78℃を超え、またはそれに等しい熱安定性を示す酸化型アビジンである。
【0043】
先の所見は、表2に示すWTアビジンの結合能力に類似する、ビオチン化された付加化合物ST2210に対する、酸化型アビジン(OXアビジンHABA)の結合能力によっても確証される。
【0044】
【表2】

【0045】
最適化した方法に従って得られた酸化型アビジン(OXアビジンHABA)は、HABA保護なしで調製された酸化型アビジンに比べて、ST2210の結合に関して性質の改善を示し、治療組織において高度の耐久性を維持した(i.m.注射後のマウスの肢筋肉)。実際、アビジンを10mMのNaIO4で酸化すると、ST2210に関するその結合能力は、酸化前にHABAを加えた場合に大きくなる(HABAの非存在下の対応する酸化型アビジンに対して50.9%であるのに比べて86.3%)。より高濃度の(20mM)過ヨウ素酸ナトリウムの存在下で酸化が起きる場合、同様の結果が得られる(81.4%対49.1%)。
【0046】
本発明のさらに好ましい一実施形態は、WTアビジンに関して得られた97.4%に対して、75%以上のST2210との結合を示す酸化型アビジンのものである。
【0047】
さらに、HABAの存在下または非存在下においてそのような酸化が生じたという事実に関係なしに、マウス後肢における酸化型アビジンの組織耐久性は、WTアビジンに対するものよりもずっと高い。この挙動は、アビジンのグリコシル化された側鎖内のCHO基の存在に厳密に相関する。
【0048】
本発明のより好ましい一実施形態において、10及び20mMのNaIO4で酸化した後、(Purpald法によって推定して)アビジン1個あたり約8個から15個のCHO残基が生成される。
【0049】
本発明のさらにより好ましい一実施形態において、「HABA-保護された」酸化型アビジン誘導体(OXアビジンHABA)は、注射24時間後及び1週間後に、高いST2210結合能力を維持し、組織耐久性を示し、これはCHO基の数に相関する。
【0050】
このようなアビジン/ビオチンの相互作用の等温滴定熱量計(ITC)による物理化学的キャラクタリゼーションにより、ST2210は、WTアビジン及びOXアビジンHABAに、会合定数(KA)及びエンタルピー変化(ΔH)(それぞれ、3.45対2.50×106M-1、及び1.48対-1.71×104kcal mol-1)によって実証されるように、匹敵する様式で結合することができることが明らかにされた。これに反して、ST2210/OXアビジン相互作用は、より低いKA(6.45×105M-1)及びより高いΔH(-0.79×104kcal mol-1)を示す。
【0051】
ST2210の酸化型アビジンに対する結合のデータによると、実験誤差内で、測定された相互作用の化学量論は、WTアビジン、OXアビジンHABA、及びOXアビジン1分子あたり、それぞれ3.0、1.7、及び1.2分子のST2210である。
【0052】
【表3】

【0053】
本発明によると、酸化型アビジンは野生型アビジンのビオチン結合能力を実質的に維持し、一方組織タンパク質と可逆的に相互作用する性質を獲得し、したがってIART(登録商標)として近接照射療法で用いるのに理想的な候補となっている。
【0054】
本発明の好ましい一実施形態において、酸化型アビジンを手術中の段階において投与し、このようにしてその後の抗がん剤に対する「人工受容体」を産生する。
【0055】
本発明のより好ましい一実施形態は、治療組織における高耐久性を与えた、第1の近接照射療法剤として用いる化学的に酸化されたアビジンを、前記第1の酸化型アビジンに対する親和性を与えた第2の薬剤と組み合わせて提供することである。
【0056】
本発明のさらにより好ましい一実施形態は、治療組織における高耐久性を与えた、第1の近接照射療法剤として用いる化学的に酸化されたアビジンを、前記第1の酸化型アビジンに対する親和性を与えた第2の抗がん剤と組み合わせて提供することである。
【0057】
本発明の別の一実施形態は、第1の成分として前記化学修飾されたアビジン、及び第2の有効成分としてビオチン化された治療薬を含む医薬組成物である。
【0058】
本発明の好ましい1つの実現において、上記の医薬組成物の第2の有効成分は、ビオチン化された抗がん剤である。
【0059】
抗がん剤は、腫瘍に抗うことができる薬剤を意味する。抗がん剤の限定的な列挙は、化学療法剤、放射標識した化合物、エフェクター細胞、毒素、サイトカイン、及び抗がん細胞からなる。
【0060】
本発明の別の好ましい実現において、療法は放射線療法の形態をとる。
【0061】
本発明の別の好ましい一実施形態は、乳房、筋肉、肝臓、膵臓、膀胱、脳、肺、前立腺、卵巣、眼、及び他の器官の近接照射療法に有用なキットの調製からなる。
【0062】
キットの好ましい1つの実現において、2つの成分は2つの別々の容器中にある。
【0063】
より好ましい一実施形態において、化学修飾されたアビジンの容器は、適合性の酸性溶液中に配合された、または適切な賦形剤と凍結乾燥されてケークを形成した、十分量の生成物からなる。
【0064】
特に好ましい一実施形態において、上記に記載した容器は、生存器官の浸潤のために外科的に除去することができない切除断端または罹患している組織の残余中に複数の正確な体積を連続的に投与するのに適する特別なシリンジの形態をとる。
【0065】
容器が、化学修飾されたアビジンを噴射剤として投与するのに適する形態をとることもできると便利である。
【0066】
個々の成分の投与量をすでに含んでいる様々な容器を、投与様式に対する指示を有する単一の包装として作製するのが好ましい。
【0067】
様々な容器がシリンジの形態を有するのが、さらにより好ましい。
【0068】
別の特に好ましい一実施形態において、IART(登録商標)などの近接照射療法において用いるためのキットは、第1の成分を逐次的に局所領域的に投与し、引き続き第2の成分を全身または局所投与するのに適する。
【0069】
本発明の組成物の第2の成分を、それだけには限定されないが、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、くも膜下腔内、脳室内、経皮(transdermal)もしくは経皮(transcutaneous)の適用、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸内、局所、舌下、膣内、直腸内の手段を含むあらゆる数の経路によって、または罹患している組織に対して局所的に投与することができる。
【0070】
腫瘍塊(すなわち、Julow J.ら、Prog.Neurol.Surg.、2007年、20巻、303頁に記載されているような手術不可能な脳腫瘍)、または腫瘍が罹患している器官(すなわち、Saito Sら、Int.J.Clin.Oncol.、2007年、12巻、395頁に記載されているような前立腺)中に、直接放射性同位元素を投与することによって近接照射療法を行う臨床例が存在する。このような場合においては、理想的な近接照射療法装置は、治療部位内に均一な分布及び安定性を示すものである。
【0071】
実験データに基づくと、組織のアビジン化は、筋肉、乳房(本実施例において示す)などの様々な組織において、及び脳組織内に生じることが見出されている。
【0072】
別のさらに特に好ましい実施形態において、酸化型アビジン-ビオチン化された治療薬の複合体は、2成分を混合し、引き続き患者に投与することによって得られる。
【0073】
本発明の組成物は、手術可能な、もしくは可能ではない、または完全に切除可能ではない、例えば、排他的ではないが、乳房、膵臓、肺、胸膜、腹膜、顔及び頚部、膀胱、脳、前立腺、卵巣、眼、及び本出願者の名で出願した国際公開第04/093916号に記載される他の器官のがんなどの固形腫瘍の治療に有用な薬剤を構成する。
【0074】
本発明の好ましい一実施形態によると、本発明の方法によって得られる酸化型アビジンは、マンノース残基の少なくとも1個が、以下の式(I):
【化2】

の残基によって置換されている、化学修飾されたアビジンと定義することができる。
【0075】
本発明のさらなる一目的は、賦形剤及び/または薬理学的に許容できる希釈剤と組み合わせた、先に記載した医薬組成物である。
【0076】
本発明のさらなる一実施形態は、化学修飾されたアビジンを、適切な賦形剤、安定剤、及び/または薬学的に許容できる希釈剤と混合することを特徴とする医薬組成物を調製するためのプロセスである。
【0077】
賦形剤は、バルクを提供するために薬物に加えられる不活性な物質である。
【0078】
医薬組成物は、治療薬を投与するための、薬学的に許容できる担体も含むことができる。このような担体には、過度の毒性なしに担体を投与することができるならば、抗体及び他のポリペプチド、遺伝子、ならびに他の治療薬(例えば、リポソーム)が含まれる。
【0079】
適切な担体は、タンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーのアミノ酸、アミノ酸共重合体、及び不活性のウイルス粒子など、大型の、代謝の遅い巨大分子であってよい。
【0080】
薬学的に許容できる担体の徹底的な考察は、Remington's Pharmaceutical Sciences(Mack Pub.Co.、N.J.、1991年)において入手できる。
【0081】
治療用組成物における薬学的に許容できる担体は、水、食塩水、グリセロール、及びエタノールなどの液体をさらに含むことができる。
【0082】
さらに、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などの補助物質も、このような組成物中に存在してよい。このような担体は、医薬組成物が、患者が摂取するために、凍結乾燥ケーク、錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤などとして配合されるのを可能にする。
【0083】
治療すべき対象は動物であってよく、特にヒト対象を治療することができる。
【0084】
投与量治療は、単回投与量スケジュールであってもよく、または複数回投与量スケジュールであってもよい。
【0085】
投与量は、有効な治療作用を発揮する量を標的組織に送達するためなど、当業者によって決定される。
【0086】
一般的な投与量範囲は、3〜5mg/ml濃度の酸化型アビジン溶液10〜100mlの間であってよい。投与量の体積は、治療すべき標的組織の体積に依存し、すなわち、1/4切除の部位を取り囲む乳房領域の典型的な治療に対して30ml(Paganelli G.ら、The Breast、2007年、16巻、17頁)、または腹膜腔の治療に対して最高100mlである。
【0087】
酸化型アビジンの生化学的キャラクタリゼーションには、当業者には知られている、標準としてプロピオンアルデヒドを用いる、比色分析のPurpald(登録商標)法によるCHO基の推定が含まれる(Avigad G.、Anal,Biochem.、1983年、134巻、2、499頁)。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】3つの異なる形態のアビジンのUVスペクトルを示す図である。
【図2】曲線A、B、及びCは、室温で、流速1ml/分の、100mM酢酸ナトリウムバッファーpH5.5及び0.15M NaClでイソクラティック条件を用いた、サイズ排除クロマトグラフィー(Biosep-SEC-S3000カラム(Phenomenex(登録商標)、300×7.8mm、容積:14.3ml)上の、それぞれWTアビジン、OXアビジンHABA、及びOXアビジンの溶出プロファイルに関する。後者の2つは、WTアビジンから、NaIO4(20mM)を用いた酸化によって得た。280/260の比率は、トリプトファン残基の酸化及びオキシインドールの形成に関するアビジンの完全性に関する。
【図3】筋肉内投与後の治療マウスにおける酸化型アビジンの体内分布を示す図である。特に、図3aは、治療した肢における酸化型アビジンの量は、注射1時間後に天然アビジンの2倍を超えることを示している。差は時間とともに増大し、天然アビジンは24時間後及び48時間後にはほとんど検出できないが、酸化型アビジンは、組織100mgあたり注射された投与量の、それぞれ約22%及び15%を表す。治療した肢において、野生型アビジンに比べて酸化型アビジンの濃度が高いということは、結果として、図3b、c、及びdにおいてそれぞれ血液、腎臓、及び肝臓に対して示すように、特に最初の1時間において、酸化型アビジンの分布が低く、非標的の器官における野生型アビジンの分布が高いことに関連する。図3eは、対側(controlateral)肢における、酸化型アビジン及び野生型アビジンの分布を示す。
【図4】最高14週間の、治療した肢及び対側肢における、125I放射標識したWTアビジン及びOXアビジンHABAの組織耐久性を示す図である。このグラフは、1時間のレベルに関して、OXアビジンHABAの組織半減期は約2週間であり、それに対してWTアビジンでは2時間であることを示している。
【図5】100mM酢酸バッファーpH5.5に配合した125I放射標識したWTアビジン、PEGアビジン、またはOXアビジン45μg(15μl中)を、Balb/cマウスの片方の後肢に注射し24時間後の、WTアビジン、PEGアビジン、及びOXアビジンHABAの組織耐久性を示す図である。治療した肢における放射能をガンマカウンター(Camberra Packard、Schwadorf、オーストリア)によって測定した。
【図6】WTアビジン(パネルa)またはOXアビジンHABA(パネルb)を注射し、免疫蛍光用抗アビジン抗体:マウス抗アビジン腹水(A5680バッチ064K4826、Sigma Aldrich)で、その後抗マウスAlexa Fluor488(バッチ99E2.2、Molecular Probes)で染色したBalb/cマウス筋肉から得た切片を示す図である。パネルaは弱いドットの局在を示し、OXアビジンHABAを注射した筋肉からの切片は、強力な均一の分布を示している。両方の場合において、アビジンは間質に局在した。
【図7】WTアビジンまたはOXアビジンHABAの48時間前に治療したBalb/cマウス後肢における、i.v.注射した111In-ST2210の様々な時間点の耐久性を示す図である(パネルa)。パネルb、c、及びdは、111In-ST2210をi.v.注射した後の、それぞれ肝臓、腎臓、及び脾臓における111In-ST2210捕獲を意味する。パネルeは、組織アビジン化から48時間後の111In-ST2210捕獲を示す。第2のケースシナリオにおいて(111In-ST2210を繰り返した)動物に、最初に1投与量の冷ST2210を投与し、24時間後に第2の投与量の111In-ST2210を投与した。
【図8】片方の後肢に注射し、1週間後の、WTアビジンまたはOXアビジンHABAのST2210との複合体の組織滞留を示す図である。
【図9】頭蓋の左側を通して注射し、24時間後のOXアビジンHABAの脳組織滞留を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0089】
以下の実施例は、本発明を限定することなしにさらに説明するものである。
【0090】
(実施例)
(実施例1)
酸化型アビジンの合成及び生化学的キャラクタリゼーション
酸化の手順方法は、連続した以下の:
a)1モル過剰のHABAと予め混合した野生型のアビジンを、pH6.0未満の、50〜100mM酢酸バッファー中10〜20mM過ヨウ素酸ナトリウムなどの酸化剤と、4℃または室温で1〜5時間インキュベートするステップと、
b)酸化剤及びHABAを、クロマトグラフィー、限外ろ過、透析、または当業者であれば知っている他の精製方法によって除去することによって反応及び精製をブロックするステップと、
c)酸性のpHで凍結乾燥または配合するステップと
を含む。
【0091】
酸化型アビジンを、室温で、流速1ml/分の、100mM酢酸ナトリウムバッファーpH5.5及び0.15M NaClでのイソクラティック条件を用いた、Biosep-SEC-S3000カラム(Phenomenex(登録商標)、300×7.8mm、容積:14.3ml)上、サイズ排除クロマトグラフィーによって分子サイズに対してさらに分析した。
【0092】
図2に示すように、酸化型アビジンの溶出は天然のアビジンに比べてわずかに遅れる様子である。
【0093】
(実施例2)
治療マウスにおける酸化型アビジンの体内分布
酸化型アビジン(OXアビジン)を、治療組織における耐久性に対して、非治療の器官におけるその体内分布に対して、及び野生型アビジン(WTアビジン)と比べたIART(登録商標)刺激性のマウスモデルにおいて111In-ST2210を捕獲するその能力に対して評価した。
【0094】
マウスの片方の後肢において外科的切開を行い、切除断端及び周辺の組織中に放射標識したアビジンを浸潤させ、投与後様々な時間点に治療した肢における放射能を測定することによって、IART(登録商標)の動物モデルを設けた。平行の群のマウスにおいて、放射性アビジンを手術なしで肢に浸潤させた。
【0095】
投与1時間後及び24時間後の放射能の量は、手術的に治療した動物及び手術的に治療しなかった動物において同様であった。そこで、手術なしでアビジンを浸潤させることによって、さらなる試験を行った。WTアビジンを、Iodo-Gen法(Pierce、Rockford、IL)に従って、125I(Perkin Elmer、イタリア)で標識した。標識したアビジンを、PD-10カラム(Amersham Biosciences、Uppsala、Sweden)上のクロマトグラフィーによって遊離のヨウ素から分離し、HABAのあらゆる前保護なしに、実施例1において先に記載した通りに酸化した。
【0096】
国際公開第02/066075号に記載されているST2210(18頁、1-[2-[6-[5-[(3aS,4S,6aR)-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-4-イル]-1-ペンチルアミノ]-1-ヘキシルアミノ]-2-オキソエチル]-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-4,7,10-トリ酢酸五塩酸塩)を、先に記載されている方法に従って(Urbano N.ら、Eur.J Nucl.Med.Mol.Imaging、2007年、34巻、68頁)、111In(Perkin Elmer、イタリア)で標識した。
【0097】
Balb/c nu/nuマウス(Harlan Udine、イタリア)を、マウス5匹ずつ8群に分けた。125I標識したWTアビジンまたはOXアビジンを、各マウスの片方の後肢に筋肉内(i.m.)投与し(400μg/マウス、40μl)、1、24、または48時間後、マウスに111In-ST2210 16μgを静脈内(i.v.)投与した。
【0098】
111In-ST2210投与1、24、または48時間後にマウスを屠殺し、治療した肢及び対側肢、腎臓、肝臓、及び血液の試料を採取し、ガンマカウンター(Camberra Packard、Schwadorf、オーストリア)で計数した。
【0099】
図3aに示すように、治療した肢における酸化型アビジンの量は、注射1時間後、アビジンの2倍を超える。差は時間とともに増大し、WTアビジンは24時間及び48時間後にほとんど検出されないが、OXアビジンは組織100mgあたり注射した投与量のそれぞれ約22%及び15%であった。治療した肢における野生型アビジンに比べて酸化型アビジンの濃度が高かったのは、結果として、血液、腎臓、及び肝臓に対してそれぞれ図3b、c、及びdにおいて示すように、特に最初の1時間、酸化型アビジンの分布がより低く、非標的の器官において野生型アビジンの分布がより高かったことに関連していた。図3eは、対側肢におけるOXアビジン及びWTアビジンの分布を示す。
【0100】
国際公開第04/093916号に記載されているように、IART(登録商標)は、WTアビジンを局所投与(手術中注射)し、その後4〜72時間後に抗がん剤を静脈内注射することを予測しているので、本発明の実施例におけるもののように、化学修飾されたアビジンの使用が大きな利点をもたらすのは明らかである。
【0101】
(実施例3)
野生型及び酸化型アビジンの長期の組織耐久性
Balb/c nu/nuマウス(Charles River、Lecco、イタリア)の片方の後肢に、100mM酢酸バッファーpH5.5中、15μl中45μgの、125I標識したWTアビジンまたは125I標識したOXアビジンのいずれかを配合したものを注射し、指定の時点で動物を屠殺し、治療した肢における、及び他の非標的の器官における放射能をガンマカウンター(Camberra Packard、Schwadorf、オーストリア)によって測定した。
【0102】
WTアビジンまたはOXアビジンHABAの組織耐久性を、最高14週間モニターした。OXアビジンの組織半減期は、1時間レベルに対していうと約2週間であり、これに対してWTアビジンでは2時間であることが見出された(図4)。
【0103】
(実施例4)
乳房組織における酸化型アビジンの体内分布
OXアビジンHABAを、WTアビジンに比べて、乳房組織におけるその耐久性に対して評価した。実施例1に記載した一般的方法に従って調製した125I標識したWTアビジンまたはOXアビジンHABA50μg(15μl中)を、ウサギ(Francucci Enzo、Rieti、イタリア)の乳頭下の乳房領域に投与した(各アビジンに対して乳房3個)。注射24時間後に動物を屠殺し、注射領域の組織試料約200mgを採取し、先に記載したようにガンマカウンターで計数した。データは3回の測定の平均(+/-SD)である。
【0104】
表4におけるデータは、WTアビジン及びOXアビジンHABAのID8.5及び65.8%は、それぞれ乳房組織において24時間後に見出されることを示している。これらのデータは、ウサギ乳房組織において、マウス筋肉組織において先に観察されたWTアビジンに比べて、OXアビジンHABAの耐久性が高いことを確証している。
【0105】
【表4】

【0106】
(実施例5)
野生型、ペグ化、または酸化型アビジンの組織耐久性
化学修飾されたアビジンは、循環におけるアビジンの半減期を改善する目的で、他のグループが先に記載した(Caliceti P.ら、J.Control.Release、2002年、83巻、97頁;Salmaso S.ら、Int.J.Pharm.、2007年、340巻、20頁)。WTアビジン、Calicetiにより調製されたPEGアビジン、またはOXアビジンHABA(本発明による酸化型アビジン)の組織耐久性を、C57Bl/6マウス(Charles River、Lecco、イタリア)において評価した。動物に、100mM酢酸バッファーpH5.5中、15μl中45μgの125I標識したWTアビジン、PEGアビジン、またはOXアビジンHABAのいずれかを配合したものを片方の後肢中に注射(i.m.)した。注射24時間後、動物を屠殺し、治療した肢における放射能をガンマカウンター(Camberra Packard、Schwadorf、オーストリア)によって測定した。
【0107】
PEG複合化は、WTアビジンの組織耐久性に影響を及ぼさなかったが、組織耐久性の増大はOXアビジンHABAに対して確認された(図5)。
【0108】
(実施例6)
WTアビジンまたはOXアビジンHABAの組織局在
OXアビジンHABAを、Balb/cヌードマウス(Harlan、Udine、イタリア)の片方の後肢中に筋肉内注射後アビジン化した組織の凍結切片において、WTアビジンと比べて、組織局在に対して評価した。治療24時間後に筋肉を切除し、各試料から段階的な凍結切片を調製した。各スライドを、ヘマトキシリン/エオシンで染色して組織の形態学を評価し、またはマウス抗アビジン抗体(A5680、Sigma Aldrich、イタリア)と、その後抗マウスAlexa fluor 488(Invitrogen、Milan、イタリア)とインキュベートした。最後に、スライドにカバーガラスを搭載し、顕微鏡下で観察した。
【0109】
図6に示すように、WTアビジンを注射した筋肉から得られた切片(パネルa)は弱いドットの局在を示し、OXアビジンHABAを注射した筋肉からの切片(パネルb)は、強力な均一の分布を示している。両方の場合において、アビジンは間質に局在した。
【0110】
ヘマトキシリン/エオシン染色により、WTアビジンまたはOXアビジンHABAのいずれかを注射した24時間後に、筋肉の組織学的異常は示されなかった(データは示さず)。
【0111】
(実施例7)
111In-ST2210の単一及び繰返しの捕獲
OXアビジンHABAを、WTアビジンと比べた、マウスモデル刺激性のIART(登録商標)における111In-ST2210を捕獲する能力に対して評価した。
【0112】
Balb/c nu/nuマウス(Harlan Udine、イタリア)に、100mM酢酸バッファーpH5.5中、15μl中45μgのWTアビジンまたはOXアビジンHABAのいずれかを配合したものを片方の後肢に注射(i.m.)した。注射48時間後、動物に111In-ST2210 5μgを静脈内(i.v.)投与した。
【0113】
指定の時点で5匹の動物群を屠殺し、治療した肢における、及び他の非標的の器官における放射能をガンマカウンター(Camberra Packard、Schwadorf、オーストリア)によって測定した。
【0114】
図7aに示すように、i.v.注射から2時間後の111In-ST2210の特異的な捕獲は、WTアビジン治療組織よりもOXアビジンHABA治療組織に対してはるかに高い。放射能耐久性におけるこれらの差は、111In-ST2210のi.v.投与から最高24時間のその後の時間点に持続し、したがってOXアビジンHABAで得られた長時間持続性の組織アビジン化が確認される。非標的の器官における111In-ST2210の分布は、WTアビジン及びOXアビジンHABAでは類似する(図7b、c、d)。
【0115】
1群の動物に、5μgの冷ST2210の第1の静脈内投与量の24時間後に、5μgの第2の投与量の111In-ST2210を投与した。前者は、アビジン化24時間後に生じた。放射標識したST2210のi.v.注射の2時間後に動物を屠殺し、治療した肢における放射能を、先のようにガンマカウンターによって測定した。
【0116】
図7eに示すように、第2の投与量の111In-ST2210は、単回投与量で得たものに匹敵するレベルでOXアビジンHABA治療した肢によって捕獲された。この結果は、アビジン化した組織は、本試験において用いた単回投与量のST2210によって飽和されなかったこと、及び所与の意図した投与量の分割は実行可能であることを示唆している。
【0117】
(実施例8)
NeuTトランスジェニックマウスにおける111In/90Y-ST2210捕獲及び治療的有効性
活性化されたラットHER-2/neuがん遺伝子を有するBalb/cトランスジェニックマウス(Balb-NeuTマウス(Di Carlo E.ら、Lab.Invest.、1999年、79巻、10、1261頁)は、イタリア、Turin大学、Prof Guido Forniによって快く提供いただいた。動物が乳房10個すべてにin situで癌腫を発生する期間に相当する生後12週に、1群あたり動物4匹の両方のIVo乳房に、25μl(3.3mg/ml)の、ビヒクル、WTアビジン、またはOXアビジンHABAのいずれかを乳頭内注射した。48時間後、動物に、放射標識したST2210 4.4μgの投与量を投与(i.v.)した。この投与量は、処方学的な目的の111In-ST2210の400μCiのスパイクと一緒の、治療目的の90Yの800μCiに相当した。1群あたり動物2匹を投与3時間後に屠殺し、IVとIIIの両乳房を切除し、先のようにガンマカウンターで計数した。非標的器官も採取し、重量測定し、計数した。データを組織の%ID/gとして表す。腫瘍病変に対する、この予め標的にした近接照射療法の効果を、先に記載した通り、乳腺の全組織標本分析によって評価した(De Giovanni C.ら、Cancer Research、2004年、64巻、4001頁)。
【0118】
表5に示すデータは、放射標識したST2210の特異的な捕獲は、OXアビジンHABA治療したIV乳房において明らかであるが、WTアビジンのIV乳房にも、NeuTマウスのビヒクル治療した乳房にも明らかではなかったことを示している。全動物群からの乳房IIIはネガティブ(血液のバックグラウンドレベル)であり、アビジン化は治療された乳房に限られることを示している。全体に対するデータは、WTアビジン及びOXアビジンHABAに対して先に記載された組織耐久性における差と一致する。血液、ならびに腎臓、肝臓、及び脾臓を含めた非標的器官におけるバックグラウンドの放射能は、いかなる場合において組織1gあたり0.2%ID未満であった。したがって、現在のバージョンのIART(登録商標)に必要とされるようなビオチン化アルブミンでの追跡ステップを行う必要性がないことを示している。本発明のOXアビジンHABAベースの近接照射療法の、NeuTマウスの乳腺に対する効果は、ビヒクルのprWTアビジン治療乳房に比べて、OXアビジンHABA治療乳房におけるがん病変の著しい低減をもたらした(データは示さず)。
【0119】
【表5】

【0120】
(実施例9)
1ステップ近接照射療法
124I-OXアビジンHABAを、in vitroで、ST2210で飽和し、限外ろ過によって非結合のST2210から精製し、Balb/cマウスの片方の後肢中に筋肉内注射した。同じプロトコールを、WTアビジンに関して続けた。
【0121】
治療した肢における、ST2210で飽和したWTアビジンまたはOXアビジンHABAの量を、1週間後遊離のWTアビジンまたはOXアビジンHABAと比べた。
【0122】
図8における結果は、ST2210と複合化した、または複合化していないのいずれかのOXアビジンHABAは、注射1週間後に依然として存在したが(17%ID/100mg)、WTアビジンはほとんど完全に消失した(<0.5%ID/100mg)。したがってビオチン化剤で予め飽和したOXアビジンHABAは遊離のOXアビジンHABAと同じ挙動をし、1ステップ近接照射療法に用いることができる証拠がもたらされることを示している。
【0123】
(実施例10)
WTアビジンと比べたOXアビジンHABAの脳の耐久性
先に記載した通りに調製した125I-WTアビジンまたはOXアビジンHABAを、全身麻酔下のBalb/cマウスの脳中に5μlの体積(投与量16μg)を注射した。脳中への注射は、頭蓋の左側を通して、Hamiltonシリンジを用いることによって、4〜5mmの深さに行った。図9における結果は、筋肉及び乳房に対して同様に、注射24時間後、脳におけるOXアビジンHABAの滞留性は、組織100mgあたり約12.65±6.59%IDであることを示している。先に評価した他の組織におけるWTアビジンの量は、組織100mgあたり2.08±1.03%ID未満である。この結果は、OXアビジンHABAは、脳腫瘍の近接照射療法に、または脳のビオチン化治療法に対する標的に有用であり得ることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アビジン1分子あたり少なくとも1個のマンノース残基が、以下の式:
【化1】

の残基によって置換されている、酸化型アビジン。
【請求項2】
アルデヒド部分を約8個から15個含む、請求項1に記載の酸化型アビジン。
【請求項3】
78℃以上の熱安定性を有する、請求項1または2に記載の酸化型アビジン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化型アビジンと、ビオチン化された治療薬からなる複合体。
【請求項5】
ビオチン化された治療薬が抗がん剤である、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
薬物としての、請求項4または5に記載の複合体の使用。
【請求項7】
酸化型アビジンを治療の第1のステップにおいて投与し、その後ビオチン化された治療薬を投与する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化型アビジンの使用。
【請求項8】
がん疾患に罹患している患者を治療するための、近接照射療法における請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
がん疾患が、乳房、膵臓、肺、胸膜、腹膜、顔及び頚部、膀胱、脳、前立腺、卵巣、または眼のがんである、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
抗がん剤が、放射性同位元素、化学療法剤、サイトカイン、毒素、及び抗がん細胞からなる群から選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
治療薬が、がん、変性疾患、または遺伝病の治療のためのビオチン化された幹細胞または体細胞によって代表される、請求項6または7に記載の使用。
【請求項12】
糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、アルツハイマー病、脊髄損傷、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、心筋梗塞、及び脳卒中を含む自己免疫疾患/変性疾患/遺伝病の治療に有用な、組織の再生において適用するための請求項4または7に記載の酸化型アビジンの使用。
【請求項13】
前記放射性同位元素が、Fe-52、Mn-52m、Co-55、Cu-64、Ga-67、Ga-68、Tc-99m、In-111、I-123、I-125、I-131、P-32、Sc-47、Cu-67、Y-90、Pd-109、Ag-111、I-131、Pm-149、Re-186、Re-188、At-211、Pb-212、Bi-212、及びLu-177からなる群から選択される、請求項10に記載の使用。
【請求項14】
薬学的に許容できる賦形剤と一緒の、請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸化型アビジンまたは複合体を含む医薬組成物。
【請求項15】
容器中に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化型アビジンと、第2の容器中に、ビオチン化された治療薬とを含む、請求項14に記載の医薬組成物を含むキット。
【請求項16】
2つの容器がシリンジの形態を有する、2ステップの補助の、手術中及び手術前後の、局所領域的療法及び/または全身療法用の、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
酸化が、
a)1モル過剰の(HABA)と予め混合した野生型のアビジンを、pH6.0未満の50〜100mM酢酸バッファー中10〜20mM過ヨウ素酸ナトリウムなどの酸化剤と、4℃または室温で1〜5時間インキュベートするステップと、
b)酸化剤及びHABAを、クロマトグラフィー、限外ろ過、透析、または当業者に周知の他の精製方法によって除去することによって反応及び精製をブロックするステップと、
c)酸性のpHで凍結乾燥または配合するステップと
を含む、アビジンを酸化する方法。
【請求項18】
治療すべき組織または器官を、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化型アビジンで最初にアビジン化し、引き続きビオチン化された抗がん剤を投与し、または請求項4に記載の複合体を直接投与することを特徴とする、がん疾患に罹患している患者を治療する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−535166(P2010−535166A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518601(P2010−518601)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059260
【国際公開番号】WO2009/016031
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(591043248)シグマ−タウ・インドゥストリエ・ファルマチェウチケ・リウニテ・ソシエタ・ペル・アチオニ (92)
【氏名又は名称原語表記】SIGMA−TAU INDUSTRIE FARMACEUTICHE RIUNITE SOCIETA PER AZIONI
【Fターム(参考)】