説明

波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法及び装置

【課題】 動的な状態下で周方向の全域に亘り回転角度誤差を一様に抑える。
【解決手段】 駆動モータ6により波動歯車減速機5を介してブランケットロール1を回転駆動するときに、波動歯車減速機5の角度伝達誤差を検出し、それを高速フーリエ変換して得られる空間周波数の第1周波数から第4周波数に対応するsin関数を用いて、波動歯車減速機5の周期性誤差波形を近似した仮の補正式を立てる。次に、仮の補正式で補正して得られる波動歯車減速機5の角度伝達誤差の波形における振幅及び位相の波動歯車減速機5の出力側の回転角度に依存したぶれに関する修正を、仮の補正式における空間周波数の第1周波数に対応するsin関数に加えて、補正式を求める。ブランケットロール1の目標とする回転角度について、求めた補正式で補正を加え、補正された目標回転角度が得られるように、駆動モータ6を駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷装置のブランケットロール等のような回転体を波動歯車減速機を介して接続した駆動モータにより回転駆動する際に、上記波動歯車減速機における角度伝達誤差を補正するための波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
減速機の一つである波動歯車減速機(ハーモニックドライブ(登録商標)機構を用いた減速機)は、入力軸に取り付けられるウェーブ・ジェネレータと、出力軸に取り付けられるフレクスプラインと、ケーシングに固定されるサーキュラ・スプラインとからなる構成としてあり、小型軽量、高回転精度、高減速比、高トルク容量、高効率、バックラッシがない等の特徴を有することから、高い位置決め精度(回転角度の制御性)が要求される用途に広く利用されている。
【0003】
そのため、オフセット印刷装置において、ブランケットロールの回転駆動機構として、該ブランケットロールのロール軸の一端に、サーボモータの如き駆動モータを、波動歯車減速機を介して取り付けた構成とすることが従来考えられている。
【0004】
ところで、近年、金属蒸着膜のエッチング等による微細加工に代えて、導電性ペーストを印刷用のインクとして用いた印刷技術、たとえば、凹版オフセット印刷技術を用いて基板上に液晶ディスプレイ等の画像表示素子の電子回路を印刷して形成する手法が提案されてきている。
【0005】
上記基板上に電子回路を印刷により形成する場合は、電極となる線幅として、たとえば、10μm程度と微細なものが要求されることがあり、よって、紙等に文字や画像を印刷する通常のオフセット印刷に比して高い印刷精度が要求される。
【0006】
オフセット印刷装置では、ブランケットロールの回転精度は、印刷精度に直結するため、上記のような高い印刷精度が要求されるオフセット印刷装置では、上記印刷ロールの回転を高精度に制御する必要がある。
【0007】
しかし、波動歯車減速機は、その特性として、入力側に接続してある上記サーボモータの軸が2回転する毎に1周期となる周期的な角度伝達誤差が生じているのが実状である。
【0008】
この波動歯車減速機の角度伝達誤差については、通常は、出力側の回転角度を精密ロータリーエンコーダで計測し、制御装置により入力側へフィードバックすることで、精密な回転制御が可能であるとされている。しかし、回転速度が速い場合や、出力側の軸に接続された駆動対象によって出力側の軸の回転慣性がモータの出力に比べて大きい場合は、上記波動歯車減速機の有する角度伝達誤差分の誤差を修正しきれなくなってしまう。
【0009】
又、波動歯車減速機の角度伝達誤差は、その回転方向に先行する側と遅れ側の振れ幅がたとえば、0.01〜0.02度程度と小さいため、紙等に文字や画像を印刷する通常のオフセット印刷では問題にならないが、上記したように基板上に電子回路を印刷により形成する場合のような高い印刷精度が求められるような場合は上記波動歯車減速機の角度伝達誤差が影響する虞が懸念される。
【0010】
なお、モータと、該モータの回転を減速する波動歯車減速機と、該減速機で減速された回転駆動力により角度変更(揺動)される波長分散素子(回折格子)を備えた分光器について、特定波長を有する単色光を取り出す際の該分光器の波長誤差を補正するための手法として、上記モータと波長分散素子(回折格子)との間に介装してある波動歯車減速機の角度伝達誤差を、sin関数(周期関数)の重ね合わせとして表して補正量を計算し、得られた補正量に基づいて上記モータへ与える指令値を修正するようにする手法が従来提案されており、かかる手法によれば、モータと波長分散素子(回折格子)との間に介装してある上記波動歯車減速機に特有の周期性誤差を軽減できるとされている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4254454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、上記特許文献1に示された手法は、波動歯車減速機の周期性誤差波形を、周期性を有する2つ以上の周期関数の線形結合で表現した近似的な補正式を立てる際に、輝線スペクトルの測定結果に基づいて実験的に決まる2つの係数についてのsin関数のみ、具体的には、波動歯車減速機で生じる角度伝達誤差を高速フーリエ変換(FFT)したときの空間周波数のうち、第1周波数と第2周波数に対応するsin関数しか用いていないというのが実状であり、そのために、この手法を、モータにより波動歯車減速機を介して回転体を回転駆動する形式の構成を備えた装置について、該回転体の回転時における360度の全周に亘る波動歯車減速機の角度伝達誤差の補正に適用しようとすると、以下のような問題が生じてしまう。
【0013】
すなわち、上記特許文献1に示された手法は、モータにより波動歯車減速機を介して駆動する対象が、分光器における波長分散素子(回折格子)の角度変更(揺動)であるため、波動歯車減速機の出力側の軸は、回転するものではなく、或る限定された角度範囲内で往復動作するのみである。しかも、上記波動歯車減速機に求められる角度伝達誤差は、該波動歯車減速機の出力側の軸に取り付けてある波長分散素子(回折格子)を或る角度姿勢に固定しようとするときの静的な状態についての誤差に過ぎない。そのため、上述したように、波動歯車減速機の周期性誤差波形を近似した補正式を、該波動歯車減速機で生じる角度伝達誤差を高速フーリエ変換したときの第1周波数と第2周波数に対応するsin関数のみしか用いていないとしても、分光器より特定波長を有する単色光を取り出す際の該分光器の波長誤差を補正するという目的を達成する程度には十分な波動歯車減速機の角度補正効果を得ることが可能であった。
【0014】
しかし、本発明者の研究によれば、モータにより波動歯車減速機を介して回転体を回転駆動する形式の構成を備えた装置にて、上記回転体を回転駆動するときに上記波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正する場合は、動的な状態で角度伝達誤差を抑えることが必要とされるため、波動歯車減速機の周期性誤差波形を近似した補正式について、波動歯車減速機で生じる角度伝達誤差を高速フーリエ変換(FFT)したときの第1周波数と第2周波数に対応するsin関数のみでは十分に近似できないことが判明した。
【0015】
しかも、たとえ、特許文献1に示されたような手法によって求めた変形補正式を用いて波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正しても、該波動歯車減速機の出力側の軸の角度が360度回るときには、補正後の波動歯車減速機の周期性誤差波形の強さ(振幅)と、該波形の位相が、上記波動歯車減速機の出力側の軸の角度に依存して周期的に変化していることも判明した。
【0016】
そこで、本発明は、オフセット印刷装置のブランケットロール等のような回転体を、波動歯車減速機を介して接続した駆動モータにより回転駆動する際に、波動歯車減速機の出力側の軸を回転させるという動的な状態についても、波動歯車減速機の角度伝達誤差を効率よく補正することができると共に、該波動歯車減速機の出力側の軸を360度回すときの周方向の全域に亘り、回転角度誤差を一様に抑えることができるようにするための波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、駆動モータと回転駆動させる回転体との間に取り付けた波動歯車減速機の周期性角度伝達誤差波形を、該波動歯車減速機の入力軸側1回転分に相当する周期の1/n(nは波動歯車減速機の構造に依存する自然数)の周期性を有する2つ以上の周期関数の線形結合で近似してなる仮の補正式を、波動歯車減速機の角度伝達誤差を高速フーリエ変換するときに得られる第1周波数から少なくとも第4周波数に関する周期関数を用いて表し、更に、上記仮の補正式で波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正して得られる波形の振幅について、波動歯車減速機の出力側の軸の回転角度に依存した該振幅のぶれについての振幅と位相を周期関数で近似してなる補正量を加え、且つ上記補正式で波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正して得られる波形の位相について、波動歯車減速機の出力側の軸の回転角度に依存した該位相のぶれについての振幅と周期と位相を周期関数で近似してなる補正量を加えてなる補正式を求め、該求められた補正式により目標とする回転体の回転角度を補正して、該補正された回転体の目標回転角度が得られるように上記駆動モータへ制御指令を与えるようにする波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法とする。
【0018】
又、請求項2に対応して、駆動モータを波動歯車減速機を介して回転体に接続し、更に、上記波動歯車減速機の入力側の角度を検出する入力側角度検出手段と、上記波動歯車減速機の出力側の角度を検出する出力側角度検出手段と、制御装置を備え、且つ該制御装置を、上記駆動モータにより波動歯車減速機を介して回転体を回転させるときに上記入力側角度検出手段と上記出力側角度検出手段より入力される信号を基に波動歯車減速機の周期性角度伝達誤差波形を求める機能と、該波動歯車減速機の入力軸側1回転分に相当する周期の1/n(nは波動歯車減速機の構造に依存する自然数)の周期性を有する2つ以上の周期関数の線形結合で近似してなる仮の補正式を、波動歯車減速機の角度伝達誤差を高速フーリエ変換するときに得られる第1周波数から少なくとも第4周波数に関する周期関数を用いて表し、更に、上記仮の補正式で波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正して得られる波形の振幅について、波動歯車減速機の出力側の回転角度に依存した該振幅のぶれについての振幅と位相を周期関数で近似してなる補正量を加え、且つ上記仮の補正式で波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正して得られる波形の位相について、波動歯車減速機の出力側の回転角度に依存した該位相のぶれについての振幅と周期と位相を周期関数で近似してなる補正量を加えて求めた補正式を記憶する機能と、上記駆動モータを運転して波動歯車減速機を介して回転体を回転させるときに、目標とする回転体の回転角度を上記記憶してある補正式で補正して、該補正された回転体の目標回転角度が得られるように上記駆動モータへ制御指令を与える機能を備えてなる構成を有する波動歯車減速機の角度伝達誤差補正装置とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)駆動モータと回転駆動させる回転体との間に取り付けた波動歯車減速機の周期性角度伝達誤差波形を、該波動歯車減速機の入力軸側1回転分に相当する周期の1/n(nは波動歯車減速機の構造に依存する自然数)の周期性を有する2つ以上の周期関数の線形結合で近似してなる仮の補正式を、波動歯車減速機の角度伝達誤差を高速フーリエ変換するときに得られる第1周波数から少なくとも第4周波数に関する周期関数を用いて表し、更に、上記仮の補正式で波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正して得られる波形の振幅について、波動歯車減速機の出力側の軸の回転角度に依存した該振幅のぶれについての振幅と位相を周期関数で近似してなる補正量を加え、且つ上記補正式で波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正して得られる波形の位相について、波動歯車減速機の出力側の軸の回転角度に依存した該位相のぶれについての振幅と周期と位相を周期関数で近似してなる補正量を加えてなる補正式を求め、該求められた補正式により目標とする回転体の回転角度を補正して、該補正された回転体の目標回転角度が得られるように上記駆動モータへ制御指令を与えるようにする波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法及び装置としてあるので、駆動モータにより波動歯車減速機を介して回転体を回転駆動するときに、上記波動歯車減速機が特性として有する周期的な角度伝達誤差を、該波動歯車減速機にて回転駆動力を伝達しているという動的な状態の下で、効率よく補正することができる。更に、上記波動歯車減速機の出力側の軸の回転角度に依存せずに、すなわち、該軸を360度回すときの周方向の全域に亘り、回転角度誤差を一様に抑制することができる。よって、上記回転体の回転精度や位置決め精度を高めることができる。
(2)したがって、本発明の波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法及び装置を、駆動モータに波動歯車減速機を介してブランケットロールを接続したオフセット印刷装置に適用して、その波動歯車減速機の角度伝達誤差の補正を行うことにより、上記ブランケットロールの回転精度や位置決め精度を高めることができるようになるため、オフセット印刷処理における印刷精度の向上化を図ることが可能になり、基板上に電子回路を印刷により形成する場合のような高い印刷精度が要求される場合に有利なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法及び装置の実施の一形態として、オフセット印刷装置のブランケットロールの回転駆動部分に適用した例を示す概略図である。
【図2】図1の装置に対して本発明の波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法を適用することによって得られる波動歯車減速機の角度伝達誤差の抑制効果を示すもので、(イ)は波動歯車減速機の角度伝達誤差について、該波動歯車減速機の出力側の軸の回転角度を横軸としてプロットした図、(ロ)は波動歯車減速機の角度伝達誤差についてのFFTによる周波数分布を示す図である。
【図3】本発明の波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法の適用による効果の比較として、波動歯車減速機の角度伝達誤差について、波動歯車減速機の周期性誤差波形を近似した補正式として、角度伝達誤差を高速フーリエ変換した場合の空間周波数の第1周波数から第4周波数までに対応するsin関数を用いて表した補正式を用いた場合の角度伝達誤差の変化を示すもので、(イ)は波動歯車減速機の角度伝達誤差について、該波動歯車減速機の出力側の軸の回転角度を横軸としてプロットした図、(ロ)は波動歯車減速機の角度伝達誤差についてのFFTによる周波数分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0022】
図1及び図2は本発明の波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法及び装置の実施の一形態として、たとえば、図1に示す如きオフセット印刷装置のブランケットロールの駆動機構に適用する場合を示すもので、以下のようにしてある。
【0023】
ここで、図1に示したブランケットロールの駆動機構について概説すると、回転体としてのブランケットロール1の両端のロール軸2a,2bを、該ブランケットロール1の軸心方向に沿って延びるロールホルダ3の両端部に、個別の軸受4を介して回転自在に支持させる。
【0024】
上記ブランケットロール1の一端側(図1では左側)のロール軸2aの端部には、波動歯車減速機5の出力側の軸(図示せず)を取り付け、該波動歯車減速機5の入力側には、サーボモータの如き駆動モータ6の出力軸7を接続した構成としてある。
【0025】
上記構成としてあるブランケットロール1の駆動機構に適用する本発明の波動歯車減速機の角度伝達誤差補正装置は、上記駆動モータ6に、該駆動モータ6自身の出力軸の回転角度の検出を介して上記波動歯車減速機5の入力角度を検出するための入力側角度検出手段としての入力側角度検出用ロータリーエンコーダ8を設けると共に、上記回転体であるブランケットロール1の他端側(図1では右側)のロール軸2bに、該ブランケットロール1の回転角度の検出を介して上記波動歯車減速機5の出力角度を検出するための出力側角度検出手段としての出力側角度検出用ロータリーエンコーダ9を取り付ける。
【0026】
更に、上記波動歯車減速機5の入力側と出力側の各角度検出用ロータリーエンコーダ8と9より入力される信号を基に、上記駆動モータ6へ指令を与える制御装置10を備えた構成とする。
【0027】
以下、上記制御装置10における制御内容について詳述する。
【0028】
ここで、先ず、上記制御装置10における制御則の導出について説明する。
【0029】
上記駆動モータ6により波動歯車減速機5を介してブランケットロール1を回転駆動するときには、上記制御装置10では、入力側角度検出用ロータリーエンコーダ8より入力される上記波動歯車減速機5の入力側の角度検出信号と、上記出力側角度検出用ロータリーエンコーダ9より入力される上記波動歯車減速機5の出力側の角度検出信号に基づいて、上記波動歯車減速機5における角度伝達誤差が検出される。
【0030】
ところで、前述したように、特許文献1に示されたような、波動歯車減速機で生じる角度伝達誤差を高速フーリエ変換(FFT)したときの第1周波数と第2周波数に対応するsin関数を用いて表された波動歯車減速機の周期性誤差波形を近似した補正式では、上記駆動モータ6により波動歯車減速機5を介してブランケットロール1を回転駆動する場合に、上記波動歯車減速機5の動的な状態での角度伝達誤差を抑えることができないということが判明している。
【0031】
このことに鑑みて、先ず、波動歯車減速機5の周期性誤差波形を、特許文献1に示されたと同様の手法で周期性を有する2つ以上の周期関数の線形結合で表現した近似的な仮の補正式を立てるときに、上記波動歯車減速機5で生じる角度伝達誤差を高速フーリエ変換(FFT)したときの空間周波数に関する周期関数であるsin関数の項を増やすべく、たとえば、第1周波数ω1から第4周波数ω4に対応するsin関数を用いて、上記波動歯車減速機5の周期性誤差波形を近似した仮の補正式を立てることを考える。この場合、上記第1周波数ω1から第4周波数ω4に対応するsin関数を用いると、該仮の補正式は、以下の補正式(1)のようになる。
【数1】

【0032】
上記のようにして得られた補正式(1)を用いて、上記駆動モータ6へ与える角度制御指令を補正すると、上記各角度検出用ロータリーエンコーダ8と9より入力される上記波動歯車減速機5の入力側と出力側の角度検出信号に基づいて制御装置10で検出される該波動歯車減速機5における角度伝達誤差の結果は、該波動歯車減速機5の出力側の軸の回転角度を横軸としてプロットすると、図3(イ)に示す如き波形となる。又、この角度伝達誤差を高速フーリエ変換(FFT)すると、図3(ロ)に示すようになる。
【0033】
上記図3(イ)の結果について着目すると、上記補正式(1)によって補正した後の波動歯車減速機5における角度伝達誤差の波形は、その強さ、すなわち、振幅と、波形の位相が、上記波動歯車減速機5の出力側の軸の回転角度に依存して変動していること(ぶれを生じていること)が明らかとなった。
【0034】
そこで、上記図3(イ)のグラフのエンベロープのカーブを基に、上記仮の補正式である補正式(1)における第1項、すなわち、波動歯車減速機5で生じる角度伝達誤差を高速フーリエ変換(FFT)したときの空間周波数のうちの第1周波数ω1に関するsin関数の項であるA・sin(ω1・θ+θa)の項における振幅Aについて、該振幅Aのぶれ(変動)についての振幅(a1)と位相(θα)の波動歯車減速機5の出力側の軸に対する角度依存変化を周期関数としてのsin関数で近似してなる補正量sin(a1・θ+θα)を加えるようにする。
【0035】
更に、上記第1周波数ω1に関するsin関数の項であるA・sin(ω1・θ+θa)の項における位相θaについて、該位相θaのぶれ(変動)についての大きさ(振幅)(Δθa)と周期(dα1)と位相(dθ)の波動歯車減速機5の出力側の軸に対する角度依存変化に関する補正量(1−Δθasin(dα1・θ+dθα)を加えることにより、以下の補正式(2)を導出するようにしてある。
【数2】

【0036】
上記補正式(2)を用いて、上記駆動モータ6へ与える角度制御指令を補正すると、上記各角度検出用ロータリーエンコーダ8と9より入力される上記波動歯車減速機5の入力側と出力側の角度検出信号に基づいて制御装置10で検出される該波動歯車減速機5における角度伝達誤差の結果は、該波動歯車減速機5の出力側の軸の回転角度を横軸としてプロットすると、図2(イ)に示す如き波形となる。又、この角度伝達誤差を高速フーリエ変換(FFT)すると、図2(ロ)に示すようになる。
【0037】
上記図2(イ)の波形を、前述した図3(イ)の波形と比較すると、波動歯車減速機5における角度伝達誤差の振幅(強度)が低減されていると共に、該振幅の波動歯車減速機5の出力側の軸の回転角度に依存した(ぶれ)変動も低減されていることが明らかである。
【0038】
なお、前述した仮の補正式である式(1)から上記式(2)を導くときに、該式(2)における右辺の第2項から第4項にも、上記右辺第1項に加えたと同様の修正を加えるようにしてもよいが、独立には作用しないことが多いので、パラメータの調整が複雑になる一方、波動歯車減速機5の角度伝達誤差の抑制にはあまり貢献しない。よって、通常は、上記したように、式(2)における右辺第1項のみに修正を加えるようにすることが好ましい。
【0039】
上記式(2)で加えた修正項の各パラメータの設定は、上記補正式(1)による補正後に得られる図3(イ)に示したと同様の波形を、上記波動歯車減速機5における出力側の軸の360度の全周について求めて、その振幅と位相の変化を取得し、図3(イ)の波形のエンベロープを基に、上記振幅と位相の変動の大きさと空間周波数を読み取る(カーブフィッティングする)ことで、上記修正項に含まれる3つのパラメータの値を求めることが可能である。
【0040】
上記式(2)に加えた修正の効果は、波形を見ただけでは分かり難いとしても、角度伝達誤差の振幅や標準偏差を計算することで確認することができる。よって、その結果を上記パラメータの微調整に使用するようにしてもよい。
【0041】
以上に鑑みて、本発明では、上記制御装置10に、予め、上記手順で求めた補正式(2)を記憶させておくようにし、上記駆動モータ6の運転により波動歯車減速機5を介してブランケットロール1を回転駆動するときには、上記制御装置10にて、目標とする上記ブランケットロール1の回転角度を、上記補正式(2)を用いて補正し、該補正されたブランケットロール1の目標回転角度が得られるように、上記駆動モータ6へ制御指令を与えるようにしてある。
【0042】
更に、上記制御装置10は、上記補正式(2)により補正したブランケットロール1の目標回転角度を得るための制御指令を上記駆動モータ6へ与えるときに、上記入力側角度検出用ロータリーエンコーダ8より入力される上記波動歯車減速機5の入力側の角度検出信号が、上記駆動モータ6へ与えた角度制御指令に一致するように、該駆動モータ6について、フィードバック制御等の指令値追従用の制御を行うようにしてもよい。
【0043】
このように、本発明の波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法及び装置によれば、駆動モータ6により波動歯車減速機5を介して回転体であるブランケットロール1を回転駆動するときに、上記波動歯車減速機5が特性として有する周期的な角度伝達誤差を、該波動歯車減速機5を介して回転駆動力を伝達しているという動的な状態の下で、該波動歯車減速機5の角度伝達誤差を効率よく補正することができると共に、該波動歯車減速機5の出力側の軸の回転角度に依存せずに、すなわち、該軸を360度回すときの周方向の全域に亘り、回転角度誤差を一様に抑制することができる。
【0044】
よって、上記ブランケットロール1の回転精度や位置決め精度を高めることができて、オフセット印刷装置における印刷精度の向上化を図ることができることから、基板上に電子回路を印刷により形成する場合のような高い印刷精度が要求されるオフセット印刷装置におけるブランケットロール1を回転駆動するためのロール回転駆動装置に適したものとすることができる。
【0045】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、仮の補正式である上記補正式(1)を立てるときに、波動歯車減速機5で生じる角度伝達誤差を高速フーリエ変換(FFT)したときの空間周波数に関する周期関数における第5周波数に対応するsin関数を加えるようにしてもよい。
【0046】
本発明の波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法及び装置は、駆動モータの出力を波動歯車減速機を介して回転体に伝えて該回転体を回転駆動する形式の装置であれば、オフセット印刷装置におけるブランケットロール以外のいかなる回転体の駆動機構に適用してもよい。
【0047】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1 ブランケットロール(回転体)
5 波動歯車減速機
6 駆動モータ
8 入力側角度検出用ロータリーエンコーダ(入力側角度検出手段)
9 出力側角度検出用ロータリーエンコーダ(出力側角度検出手段)
10 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータと回転駆動させる回転体との間に取り付けた波動歯車減速機の周期性角度伝達誤差波形を、該波動歯車減速機の入力軸側1回転分に相当する周期の1/n(nは波動歯車減速機の構造に依存する自然数)の周期性を有する2つ以上の周期関数の線形結合で近似してなる仮の補正式を、波動歯車減速機の角度伝達誤差を高速フーリエ変換するときに得られる第1周波数から少なくとも第4周波数に関する周期関数を用いて表し、更に、上記仮の補正式で波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正して得られる波形の振幅について、波動歯車減速機の出力側の軸の回転角度に依存した該振幅のぶれについての振幅と位相を周期関数で近似してなる補正量を加え、且つ上記補正式で波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正して得られる波形の位相について、波動歯車減速機の出力側の軸の回転角度に依存した該位相のぶれについての振幅と周期と位相を周期関数で近似してなる補正量を加えてなる補正式を求め、該求められた補正式により目標とする回転体の回転角度を補正して、該補正された回転体の目標回転角度が得られるように上記駆動モータへ制御指令を与えるようにすることを特徴とする波動歯車減速機の角度伝達誤差補正方法。
【請求項2】
駆動モータを波動歯車減速機を介して回転体に接続し、更に、上記波動歯車減速機の入力側の角度を検出する入力側角度検出手段と、上記波動歯車減速機の出力側の角度を検出する出力側角度検出手段と、制御装置を備え、且つ該制御装置を、上記駆動モータにより波動歯車減速機を介して回転体を回転させるときに上記入力側角度検出手段と上記出力側角度検出手段より入力される信号を基に波動歯車減速機の周期性角度伝達誤差波形を求める機能と、該波動歯車減速機の入力軸側1回転分に相当する周期の1/n(nは波動歯車減速機の構造に依存する自然数)の周期性を有する2つ以上の周期関数の線形結合で近似してなる仮の補正式を、波動歯車減速機の角度伝達誤差を高速フーリエ変換するときに得られる第1周波数から少なくとも第4周波数に関する周期関数を用いて表し、更に、上記仮の補正式で波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正して得られる波形の振幅について、波動歯車減速機の出力側の回転角度に依存した該振幅のぶれについての振幅と位相を周期関数で近似してなる補正量を加え、且つ上記仮の補正式で波動歯車減速機の角度伝達誤差を補正して得られる波形の位相について、波動歯車減速機の出力側の回転角度に依存した該位相のぶれについての振幅と周期と位相を周期関数で近似してなる補正量を加えて求めた補正式を記憶する機能と、上記駆動モータを運転して波動歯車減速機を介して回転体を回転させるときに、目標とする回転体の回転角度を上記記憶してある補正式で補正して、該補正された回転体の目標回転角度が得られるように上記駆動モータへ制御指令を与える機能を備えてなる構成を有することを特徴とする波動歯車減速機の角度伝達誤差補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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