説明

波形推定パラメータを求める方法、プログラム及びシステム

【課題】少ないフィルタパラメータ(従来の1/10程度)で最適な推定フィルタを構成し、精度良くリアルタイムで波形データの処理を行う技術を提供する。
【解決手段】推定元となる波形データと推定される波形データとの間での相対的な時間的位置関係を可変にし、推定元となる波形データと推定される波形データとの間のある相対的な時間的位置関係でフィルタパラメータを構成し、構成されたフィルタパラメータによる波形推定誤差を計算し、誤差評価を広い時間区間で行い、少ないフィルタパラメータで最適な推定フィルタを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音波波形、振動波形、スペクトル波形などの波形データの処理技術に関し、より詳細には、推定元となる第1の波形データと推定される第2の波形データがあり、第2の波形データを第1の波形データから推定するための処理技術及びその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
ノイズキャンセルおいては、FIR(Finite Impulse Response)フィルタがよく用いられている。図4に従来のノイズキャンセルの例を示す。同図の1は騒音を測定するマイクであり、その信号をUkとする。2は音声を測定するマイクであり、その信号をDkと表す。Dkには騒音が混入する。ノイズキャンセルでは、Dkに混入した騒音をUkより精度よく推定しキャンセルしなければならない。3、4はそれぞれ、減算器、デジタルフィルタであり、Ekは推定誤差である。5は、Ekを最小化するようにデジタルフィルタのパラメータを計算するための処理器である。Xkは4の出力値で、Dkに混入した騒音の推定値である。m個のフィルタパラメータW0,…,Wm−1 を用い、Xkを推定する計算は最小2乗推定法では数1のように行われる。
(数1)
Xk=θTUk

θ=(ΣUkUkT)-1(ΣDkUk)

θ=[W0,…,Wm−1]T
Uk=[Uk,…,Uk−m+1]T
【0003】
数1の方法では、自己相関行列の計算及び逆行列の計算、相互相関ベクトルの計算などが必要となる。数1の計算では、ある程度のフィルタ次数(数1のmで、タップ数ともいう)をとらなければならないため、処理時間が長くかかり、数1をそのまま使ってリアルタイム処理を行うことは不可能であった。
【0004】
そのためオンライン用の処理方法として、LMS(Least Mean Square)法などの逐次演算処理が用いられている。数2はLMS法におけるフィルタパラメータの計算とXkの計算式を示す。(数2のμは、ステップサイズとよばれ、最適なフィルタパラメータを求める上での収束性などをコントロールする。)
(数2)
θk=θk−1 +μEkUk
Xk=θkTUk
【0005】
しかしながら、従来の逐次演算処理方法では、良好なノイズキャンセル性能を実現するには、フィルタパラメータの数を数百程度と多く設定する必要がある。このように、従来のノイズキャンセル装置では、ハード規模が大きく、高価なものとなり、高性能なリアルタイム処理を実現することが難しく、適用範囲にも限界があった。フィルターパラメータの数を多くするということは、計算誤差の面で重大な問題を引き起こし、良好なノイズキャンセルを実現できないこともある。このように、従来では、高度なリアルタイム性(100μsから20μsのサンプリング内に、信号処理とデータ出力を終える)を実現するには、高性能な装置が必要で、高価なものとなっていた。
【0006】
近年、MRI装置下で、画像をみながら、手術を行う装置の開発がなされている。しかし、高騒音のMRI装置下で、手術がおこなわれる場合は、術者間での手術中の通話が非常に困難となっていた。これまで、騒音の大きいMRI装置の監視下で行われる手術中において術者間での通話用として有用性の高い通話装置はなかった。
【0007】
特許文献1では、MRI装置において、被験者との通話を明瞭に行うための通信装置が開示されているが、リミッタとローパスフィルタから構成され、簡単であるが、有効なノイズキャンセルを実現できるものではない。
【0008】
非特許文献1は、MRI騒音の周期性に着目してノイズキャンセル処理を行う方式について開示されている(3.2節4行目〜10行目参照)。しかし当該文献に記載の方法では、フィルタパラメータの数は百を越え、さらにMRI騒音の周期性を調べる必要があるため、新たな信号処理が必要となる。これらのためシステム規模も大きくなり、周期性の処理を行う結果として音声にエコーが付随するなどの問題が生じる可能性がある。さらにMRI装置はタイミングのずれなどがあり、必ずしも厳密に周期性があるとは言えないため、騒音波形を記憶してキャンセルに使うことは有効性に限界がある。加えて、マイク位置が変わると騒音波形も変わり、キャンセル効果を得ることが難しくなる。
【特許文献1】特開2000-339000
【非特許文献1】松本他、電子情報通信学会応用音響研究会技術報告,EA2003‐151,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような問題点をかんがみてなされるもので、従来では、数百ものフィルターパラメータを用いるため、装置コストや計算精度、リアルタイム性に問題が生じていたが、本発明では、少ないフィルタパラメータ(従来の1/10程度)で最適な推定フィルタを構成し、精度良くリアルタイムで波形データの処理を行う技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者が鋭意検討したところによれば、特に典型的な形状を有する波形に対しては、フィルタパラメータの数を増やすことよりも、推定元の波形と推定される波形との時間位置を調整することが、波形の推定精度を上げる上で重要であることが分かった。本願発明者が見いだしたところによれば、推定元の波形と推定される波形との時間位置を最適化することにより、従来考えられていたよりも、遙かに少ないパラメータ数で、精度の高い波形推定フィルタを作ることが可能である。例えば波形推定フィルタとしてFIRフィルタを採用する場合、タップ数を従来の1/10程度と大きく減少させても、高い推定精度を有する波形推定フィルタを作ることができた。
【0011】
時間位置の最適化は、例えば、推定元の波形と推定される波形との時間位置を変えてはフィルタパラメータを計算し、その都度推定誤差を計算して、推定誤差の少ない時間位置(時間シフト量)を探すことで行うことができる。推定誤差は、例えば、計算したパラメータを用いて推定元の波形をフィルタリングした波形と、推定される波形の実測データとの二乗誤差などと定義することができる。精度の良いフィルタをつくるためには推定誤差を厳密に評価することが好ましく、推定する波形の典型的な波長の2個分以上の長さをカバーするサンプル数を用いて誤差を計算することが好ましい。誤差計算は、より好ましくは2〜10個分、計算速度等も考慮すれば、2〜3個分に相当するサンプル数を用いて行われることが好ましい。
【0012】
上述のように、本発明による波形推定技術は、MRI装置の騒音など、典型的(基本的)な波形を有する波に対して特に適している。このような波形としては、MRI装置の騒音の他に、例えば、足音、ガラスの壊れる音、船のエンジン音、シュノーケルやアクアラングの音、など様々なものがある。また本発明による波形推定技術は、周期的な波に対しても良く適合する。しかし本発明による波形推定技術は、これら以外の波に対しても十分に使用しうる。
【0013】
本発明による波形推定技術の別の利点は、従来技術に比べて計算すべきパラメータの数を著しく減らすことができたために、パラメータ計算を、従来に比べてかなり高速に行うことができることである。
【0014】
さらに本発明による波形推定技術により得られる波形推定フィルタは、タップ数などパラメータの数が少ないため、これを用いたフィルタリング処理をも高速化することができる。これはすなわち、本発明による波形推定技術により得られる波形推定フィルタは、リアルタイム性が求められる分野において好適なフィルタと言える。
【0015】
さらに上述の波形推定技術によれば、複数騒音源に対する選択性を有するノイズキャンセル技術を提供することができる。従来、複数の騒音源が存在する場合のノイズキャンセルを実現することは困難であった。しかし、上述の波形データの処理技術を利用して、各騒音ごとにフィルタパラメータを構成すれば、複数騒音源に対する選択性を有するノイズキャンセルを実現することができる。従って本発明の実施形態は、複数騒音源に対する選択性を有するノイズキャンセル方法及びシステムを含む。かかるシステムには、例えば、ある波形データから複数の騒音を分別する手段と、別の波形データに存在する前記分別された各々の騒音の波形を推定する手段と、を有するノイズキャンセルシステムが含まれる。複数の騒音を分別し、個々に分別された騒音用のフィルタを適用することが可能であるので、複数の騒音が存在する場合でも、優れたノイズキャンセル性能を提供することができる。
【0016】
このような波形推定技術を必要とする分野は、ノイズキャンセリング分野をはじめとして数多く存在する。例えば上述の波形推定技術は、MRI装置使用中のノイズキャンセルにも適している。上述のように、MRI装置は強烈な騒音を発生するため、検査者と被験者(患者)との通話や手術中での術者間の通話が困難となる場合がしばしばおきる。そこで例えば、マイクを通して伝達される音声波形から、上述の波形推定技術を利用して推定したMRI騒音波形を減じることにより、MRI使用中においても検査者と被験者(患者)との通話や手術中での術者間での通話が可能となる。この場合においても、上述の波形推定技術により提供される、高速のフィルタパラメータ計算及び高速のフィルタリングという利点が、ほぼリアルタイムの通話という効果を生む。従って本発明の実施形態は、上述の波形推定技術を利用した、MRI装置用の通話システムを含む。
【0017】
なお、MRI装置では、使用されるマイク、ヘッドホン、スピーカといった音響機器は、MRI画像に影響しないことが必須である。そこで、このような音響機器に用いる発音体材料としては、非磁性で温度・湿度などの環境安定性にも優れる複合圧電体を用いることが好ましい。ある実施形態において、上述のMRI装置用通話システムは、複数の圧電体素子が有機物中に配置された構造を有するマイクロフォンを備える。
【0018】
上述の波形推定技術は、異常の感知や警告という技術分野にも利用することができる。例えば、上述の波形推定技術により予め異常音や異常振動に対する波形抽出フィルタを作った上で、リアルタイムに測定される波形データに対してこの波形抽出フィルタを使用したときに、キャンセル効果があれば、その波形データに異常波形が存在していることがわかる。これを利用して異常の感知や警告を行うことができる。従って本発明の実施形態は、上述の波形推定技術を利用した異常感知方法や異常感知システム、また異常警告方法や異常警告システムを含む。不審音や不審な振動などの波形を高精度にリアルタイムで自動抽出し、警報などのセキュリティ処置を行うようにできるため、不審音や不審振動に対する有用性の高いセキュリティ装置が提供される。
【0019】
このように本発明によれば、パラメータの数を従来より大きく減らしつつも高精度の波形推定を可能とする波形推定フィルタを提供することが可能である。さらにこのフィルタは、パラメータの数が少ないことからフィルタリングに必要な時間が短く、特にリアルタイム性が求められる分野で様々な応用が期待できる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態のいくつかの例は添付の特許請求の範囲に定義されている。しかし、本発明が取りうる実施形態はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本願明細書や特許請求の範囲及び図面に記載又は示唆される如何なる新規な特徴又は新規な組み合わせをも、その取りうる実施形態のあるものに含みうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、その実施形態に、第1波形から第2波形を推定するための波形推定パラメータを求めるための方法やシステムを含み、これらは、(ア)第1波形の実測データと第2波形の実測データとの間の時間シフト量を変化させつつ、各時間シフト量毎に、第1波形の実測データから第2波形の推定データを生成しうるフィルタパラメータを計算し、(イ)計算したフィルタパラメータ及びそれに対応する時間シフト量を用いて第1波形の実測データから第2波形の推定データを生成すると共に、生成した推定データと、第2波形の実測データとの誤差を計算すること、を特徴とする。
【0022】
最終的な波形推定パラメータは、誤差が所定の基準以下である、又は誤差が最も小さい、フィルタパラメータ及びそれに対応する時間シフト量などと定めることができる。そのほか実施形態によって、波形推定パラメータは、対象波形処理ID 、第1波形データ名、第2波形データ名、サンプリング時間などを含んでもよい。
【0023】
誤差は、第2波形の2波長以上に相当する数のデータポイント(データサンプル)を用いて計算することが好ましく、10波長分程度のデータポイントがあれば十分であるが、多くの場合は僅か2〜3波長分のデータポイントがあれば十分な波形推定精度を得ることが可能である。従って本発明による波形推定のための計算処理は、非常に高速に行うことができる。
【0024】
実施形態によっては、時間シフト量の初期値及び初期値に対応して計算されたフィルタパラメータを用いて生成された第2波形の推定データが、所定の基準以下の誤差を与える場合は、時間シフト量の変化及びフィルタパラメータをそれ以上行わず、初期値及びそれに対応するフィルタパラメータを波形推定パラメータと定めることとすることができる。
【0025】
本発明は、その実施形態の一つに、第3波形から第4波形を推定する方法又はシステムを含む。これらは、上述の方法又はシステムにより求められる波形推定パラメータを使用して、第3波形の実測データから第4波形の推定データを生成し、推定データと第4波形の実測データとの誤差を計算するステップと、誤差が所定の基準以上であった場合、上述の方法又はシステムにより新たな波形推定パラメータを求めることを特徴とする。
【0026】
本発明は、その実施形態の一つに、上述の波形推定パラメータ計算システムと協働するシステムであって、第3波形から第4波形を推定するシステムにおいて、互いに異なる形状を有する複数の波形に各々対応した、互いに異なる複数の波形推定パラメータが備えられ、複数の波形推定パラメータのそれぞれに対応した複数のフィルタリングを第3波形に対して行うことにより、第4波形を推定するように構成される、システムを含む。
【0027】
本発明は、その実施形態の一つに、上述の波形推定パラメータ計算システムにより求められる波形推定パラメータを使用するマイクロフォン・システムであって、所定の時間にマイクロフォンにより得られる波形データを、波形推定パラメータを使用して加工した上で、所定の時間以外の時間にマイクロフォンにより得られる波形データから差し引くように構成される、マイクロフォン・システムを含む。
【0028】
本発明は、その実施形態の一つに、上述の波形推定パラメータ計算システムにより求められる波形推定パラメータを使用するマイクロフォン・システムであって、第1のマイクロフォンにより得られる波形データを、波形推定パラメータを使用して加工した上で、第2のマイクロフォンにより得られる波形データから差し引くように構成される、マイクロフォン・システムを含む。
【0029】
これらのマイクロフォン・システムをMRI装置と共に使用する場合は、マイクロフォンとして、複数の圧電体素子が有機物中に配置された構造を有するマイクロフォンを使用することが好ましい。
【0030】
本発明は、その実施形態の一つに、上述の波形推定パラメータ計算システムにより求められる波形推定パラメータを使用する異常警告システムであって、マイクロフォンにより得られる波形データに対して波形推定パラメータを適用し、該適用後のデータから波形データの特徴が失われていると判断すると、警告を発するように構成される、異常警告システムを含む。
【0031】
本発明は、その実施形態に、コンピュータに、本発明の任意の実施形態に即した方法の各ステップを実行させる、コンピュータ・プログラムを含む。
【0032】
本発明は、その実施形態に、本明細書に説明される本発明の様々な実施形態によるシステムを組み合わせたシステムを含む。
【0033】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態における波形データの処理及び応用例について説明する。本発明の実施形態においてフィルタパラメータを最適化を行うための処理として典型的に含まれる処理としては、取得信号レベル最適化、波形シフト処理と誤差評価などがある。以下、添付図面を用いて詳述するが、以下では、波形推定の元となる波形データを第1波形データ、波形推定される波形データを第2波形データとする。
【0034】
まず図1を参照すると、S100は、取りこんだ波形データをオフライン処理してリアルタイム用の波形推定フィルタを構築するためのオフライン処理ブロックであり、S300は、構成された波形処理フィルタを用いてリアルタイムでフィルタリング処理などを行うオンライン処理ブロックを示す。S100では、S101からS113までの処理が行われる。
【0035】
S101では初期パラメータとして、フィルタパラメータの数、サンプリング時間(またはサンプリング周波数)、第1波形データと第2波形データの相対的な時間位置を変えるためのシフト量の初期値及び最終値、S102で取りこまれる波形データの個数や対象とする波形データIDなどの設定がなされる。S102では、決められたデータの数だけ波形データの取りこみが行われる。
【0036】
問題は、第1波形データから第2波形データをいかに精度良く、高速で推定するかということになる。波形データの取りこみの個数は、対象とする波形の2〜10波長程度で良く、典型的には数百個程度のデータとなる。ある実施例においては、波形データとして、主に音声などの波形を処理する場合を対象とする。この場合、50μsのサンプリング時間で波形データの計測がなされるとすれば、1回のS102に要する時間は、10ms程度となる。
【0037】
S102のデータ取りこみが終了すれば、S103で第1波形データと第2波形データの相対的な時間位置を変えるシフト量の初期値設定がなされ、次にS104で、第1波形データより第2波形データを推定するフィルタパラメータを計算する。このフィルタパラメータの計算はオフラインで行われるので、従来の数1の方法あるいは数2の方法、その他にも公知の推定アルゴリズムを用いることが可能である。
【0038】
次に、S105で第2波形データの推定値を計算し推定誤差を計算し、S106で推定誤差を評価する。S105では、S102で計測されたデータに対し、ある程度長い時間区間で推定計算と誤差計算を行う。S105の推定誤差計算の時間区間としては、対象とする波形の数波長程度で良い。通常は数十個程度の時間ポイントでの誤差を計算する。このように、S105では、取りこまれた波形データに対し、波形推定と推定誤差の計算シミュレーションが行われる。
【0039】
S106では、使われたフィルタごとに累積された誤差の値を評価し、一定の基準を満たしていれば、S107に移る。S107では、フィルタパラメータと、第1波形データと第2波形データの相対的位置を決定するためのシフト量が決定される。S106の結果が良くなければ、S108に移り、第1波形と第2波形の相対位置のシフト処理が終了かどうかを判定する。S108で、終了してなければ、S109において、フィルタを作る第1波形データと第2波形データの相対的な時間位置のシフト量を変更し、S104に移動し、新たにフィルタパラメータが計算され、S105、S106へと移る。S108でシフト処理が終了したと判定されれば、S110に移り、1つの波形処理に対する処理回数がオーバーしないかチェックされ、所定の処理回数を越えてなければ、S102に移り、波形データを取りなおし、さらに取りなおされた波形データに対し、同様にS103、S104などの処理が行われる。
【0040】
S110で、処理回数が終了していれば、これまでの誤差評価のなかで、第2波形データに対する最も良い推定値を与えるフィルタパラメータと波形シフト量を、現在の対象としている波形データに対する推定パラメータとして決定する。次に、S111で、決定された波形推定パラメータを記憶する。S112では、他に処理しなければならない対象波形があれば、S101に移動し、次の対象波形に対し同様な処理が行われる。S112で対象波形データの処理が終了していれば、S113に移り、オンライン処理用のフィルタを構築する。なお、対象波形データ処理が1つだけの場合が多く、このときは、S111とS112は省略されて、S107でフィルタパラメータとシフト量が決められれば、S113に移り、オンライン処理用のフィルタが構成されるようにすれば、時間的に有利となる。
【0041】
このようにS100では、第1波形データと第2波形データの相対的な時間的位置関係を最適化し、推定精度を評価する過程として、波形推定値と誤差の計算評価としてのシミュレーションをかなり長い区間で行い、誤差評価を厳密に行っているため、非常に少ないフィルタパラメータの数で、高精度の波形推定が実現できる。従来法の波形推定法では、高精度の波形推定を行うには数百程度のフィルタパラメータが必要となるが、本発明の実施例による処理方法では、数10程度(従来法の1/10程度)のフィルタパラメータで良い。このため、S100の処理時間は、非常に短くなり、1つの対象波形に対し、0.5s以下と、短時間に処理することが可能である。
【0042】
このため、マイクなどの不安定性や、マイク位置が変化するなどの原因で、S300の処理中にうまく波形推定ができなくなったような場合でも、再度、S100の処理を行うことで、オンライン処理用のフィルタを構築することが可能である。なぜならば、(通話)音声はそれほどひんぱんではなく、時間的には60%が無音声の状態と言われている。無音声の時に、オンライン処理用のフィルタを構築すれば良く、0.5s以下でS100を処理できるので、無音声時でのオンライン処理用フィルタの構築処理は十分に可能である。
【0043】
オンライン処理を行うS300では、S301からS306までの処理が行われる。S301では、対象とする波形に対する第1波形データと第2波形データの取りこみが行われる。S302では、S113で構築されたオンライン処理用フィルタを用い、第1波形データに対してフィルタリング処理が行われ、第2波形データに混入している対象波形データが推定される。S303では、対象波形データに対する推定誤差が計算されるが、音声が入っていない状態の第2波形データのときに実施される。S304では、S303の誤差計算の結果から、対象波形が精度良く推定されているかどうかの判定が行われ、良好であれば、S305で騒音波形をキャンセルしてスピーカやヘッドホンなどの通話機器や音声を記録する機器などに出力する。S306では、オンライン処理が終了したかの判定が行われ、終了していればオンライン処理を終わり、終了していなければS301の波形データの取りこみに戻る。
【0044】
S304で、誤差評価が悪い場合はS100の処理にもどり、オンライン処理用フィルタを再構築する。S100の処理は1つの対象波形に対し0.5s以下で行えるので、無音声の時に行えば良い。なお、通常は、マイク特性が使用中に変化したとか、マイク位置が変った場合とか騒音源の位置が変ったなどの場合以外、安定して波形推定処理が行える。S303及びS304は、頻繁に行われるものではなく、無音声のときを選んで、数十分おきに実行するようにしても良い。
【0045】
図2は、複数の対象波形を推定するパラメータをあらかじめデータとして記憶する場合のオフライン処理S100−1を示している。S100−1は、S101からS112までのステップからなる。図1のS100との違いは、S113がないということと、S100−1のS111では波形推定パラメータとして、図1のS100のS111より詳細な情報を記憶することである。S100−1のS111で記憶される波形推定パラメータのデータは、対象波形処理ID、第1波形データ名、第2波形データ名、フィルタパラメータ数、フィルタパラメータのデータ形式、決定されたフィルタパラメータ、第1波形データと第2波形データのシフト量、サンプリング時間(あるいはサンプリング周波数)などからなる。
【0046】
S100−1では、このS111以外の処理は、図1のS100に記載された対応する処理と同様である。即ち、S101では初期パラメータとして、フィルタパラメータの数、サンプリング時間(またはサンプリング周波数)、第1波形データと第2波形データの初期シフト量、S102で取りこまれる波形データの個数や対象とする波形データIDなどの設定がなされる。S102では、決められたデータの数だけ波形データの取りこみが行われる。
【0047】
S102のデータ取りこみが終了すれば、S103で第1波形データと第2波形データの相対的な時間位置を変えるシフト量の初期値設定がなされ、次にS104で、第1波形データより第2波形データを抽出するフィルタパラメータを計算する。次に、S105で第2波形データの推定値を計算し推定誤差を計算し、S106で推定誤差を評価する。S105では、S102で計測されたデータに対し、ある程度長い時間区間で推定計算と誤差計算を行う。
【0048】
S106では、使われたフィルタごとに累積された誤差の値を評価し、一定の基準を満たしていれば、S107に移る。S106の結果が良くなければ、S108に移り、第1波形と第2波形の相対位置のシフト処理が終了かどうかを判定する。S108で、終了してなければ、S109において、フィルタを作る第1波形データと第2波形データの相対的な時間位置のシフト量を変更し、S104に移動し、新たにフィルタパラメータが計算され、S105、S106へと移る。S108でシフト処理が終了したと判定されれば、S110に移り、1つの波形処理に対する処理回数がオーバーしないかチェックされ、所定の処理回数を越えてなければ、S102に移り、波形データを取りなおし、さらに取りなおされた波形データに対し、同様にS103、S104などの処理が行われる。
【0049】
S110で、処理回数が終了していれば、これまでの誤差評価のなかで、第2波形データに対する最も良い推定値を与えるフィルタパラメータと波形シフト量を、現在の対象としている波形データに対する推定パラメータとして決定する。次に、S111で、決定された波形推定パラメータを記憶する。S112では、他に処理しなければならない対象波形があれば、S101に移動し、次の対象波形に対し同様な処理が行われる。S112で対象波形データの処理が終了していれば、オフライン処理S100−1を終了する。
【0050】
図3は、図2のS100−1で記憶された波形推定パラメータを読み出してオンライン処理を行うための処理を示している。図3の処理は、オフライン処理S200とオンライン処理S300からなる。
【0051】
S201では、図2のS100−1での波形推定パラメータの記憶装置から処理対象とする波形推定パラメータを読み出し、その波形推定パラメータに基づきS202でオンライン処理用のフィルタを構築する。
【0052】
S301では、波形データを取りこみ、S302でフィルタリング処理を行い、S303で誤差計算を行い、S307で誤差計算、S305で処理結果を出力し、S306ではオンライン処理の終了判定を行う。
【0053】
図5〜図12は本発明の実施例による処理方法を用いて実現される波形処理装置を示す。
図5はマイクを1つ用いて実現される処理装置の概略図である。マイク10の信号をアンプ20で増幅し、ローパスフィルタ30を通しAD変換器40により、アナログ信号をデジタル信号に変換する。100は制御用のPCなどであり、1000はDSPなどである。また、2000をPCで構成することも可能であり、DSPなどで構成することも可能である。
【0054】
200はオフライン処理装置1であり、波形推定パラメータを決定する。300はオフライン処理2であり、リアルタイム用のフィルタを構成する。400はオンライン処理装置であり、リアルタイムで波形処理を行う。50は400からのデジタル出力信号をアナログ信号に変換するためのDA変換器であり、60はローパスフィルタ、70は増幅器、80は出力装置である。マイクが1つの場合、第1波形データは10によりそのまま計測される。推定対象となる波形は第1波形データの予測波形である。第2波形として、通常、第1波形データの数サンプル時間分未来の波形とする。要するに、図5は予測フィルタを構成することになる。
【0055】
図6はマイクが2つ用いられる場合の処理装置の概略図である。図6では、10は第1波形データを計測するためのマイクであり、11は第2波形データを計測するためのマイクである。11の信号は、10の信号と同じようにAMP21、LPF31、AD変換機41をへて、200に伝達される。100は制御装置であり、200はオフライン処理装置であり、10および11の2つの波形データから波形処理用のフィルタパラメータを決定する。300はオフライン処理2であり、リアルタイム用のフィルタを構成する。400はオンライン処理装置であり、リアルタイムで波形処理を行う。50は400からのデジタル出力信号をアナログ信号に変換するためのDA変換器であり、60はローパスフィルタ、70は増幅器、80は出力装置である。
【0056】
図5、図6で説明したように、本発明の実施例では、マイクが1つの場合でも、マイクが2つの場合でも同様に扱うことができる。
【0057】
図7はマイクが1つの場合の処理装置を示している。制御装置100よりのレベル信号が信号レベル比較部201に入り、201ではADC40からの信号レベルがチェックされ、所定のレベルを越えた信号が入っていることが認識されると、バッファメモリ部202に波形データが蓄積される。203では波形データ数がチェックされ、所定のデータ数が取りこまれていることが確認されると、202において第1波形データに対し、第2波形データが作られる。
【0058】
204では第1波形データに対し第2波形データをシフトさせるが、このとき、第2波形データが第1波形データの予測波形となるようにシフト量が決められる。次に、205では、第1波形データを元に、シフトされた第2波形データを推定するフィルタが計算される。206は205の推定フィルタを用いて推定される第2波形データを計算し、その第2波形データの推定誤差の評価部であり、所定の誤差レベルが満足されていないと、204で第1波形データと第2波形データのシフト量が変更され、それに応じて205で、第2波形データの推定フィルタが計算される。206で推定誤差が基準を満たしていれば、推定パラメータ決定部208で第1波形データから現在の第2波形データ値を推定するフィルタパラメータが決定される。
【0059】
処理回数チェック部207では、204、205、206の処理が所定回数を越えた場合は波形データそのものが不適であるとして、201、202、203に移り、波形データの取りなおしが行われる。そして、204〜206で前記と同様な処理がなされる。これらを繰り返しても、推定パラメータが決められなかった場合は、207で波形データの取りなおしの回数がチェックされ、所定の回数を越えていれば、これまでの中で、最も波形推定誤差の小さいシフト量と推定パラメータが208で決定され、推定パラメータの記憶部209に記憶される。210では対象波形データ処理が完了したかどうかをチェックし、完了していれば、211でリアルタイム処理用のフィルタを構築した後、400のオンライン処理装置に移る。
【0060】
なお、要素201〜211の1つ又は2つ以上の要素は、専用のハードウェア回路を用いて実装することも可能であるが、CPUやメモリ及びプログラムなどを利用したソフトウェア処理によっても実装可能である。当業者であれば、ハードウェア回路やソフトウェア処理を適宜選択して、適当な実装形態を選択しうることは当然であるが、次のオンライン処理装置400をはじめ、本明細書で説明される全ての機能要素についても同様であることを付言しておく。
【0061】
オンライン処理装置400では、バッファメモリ部401に第1波形データを取りこみながら、402では211で作られたフィルタを用い、フィルタ処理を行い、403は推定値の誤差が計算され、404で誤差評価がなされ405で処理結果が出力され、出力値は50のDACに送られ、出力される。406で終了判定がなされ、終了していなければ、401でデータを取りこみということで、以下、402、403、404、405、406と繰り返され、406で終了したということがわかれば、100が各装置の終了指令をだし、装置全体の動作が終了する。
【0062】
図8は、マイクが2つある場合の装置を示している。第2波形データの取りこみ用にバッファメモリ212が設けられ、誤差計算部403で、第2波形データが取りこまれる以外は、図7の装置と同じである。
【0063】
図9はマイクが1つの場合で、オフラインで各種の波形データの推定フィルタを計算し、波形推定パラメータを記憶する処理装置を示す。図9の209で推定波形パラメータとして記憶されるデータは、対象波形処理ID、第1波形データ名、第2波形データ名、フィルタパラメータ数、フィルタパラメータのデータ形式、フィルタパラメータ、第1波形データと第2波形データのシフト量、サンプリング時間(あるいはサンプリング周波数)などである。
【0064】
図10は、図9の装置で記憶された波形処理パラメータをオフライン処理装置300で構築し、オンライン処理装置400で処理する装置を示している。
【0065】
図11は2つのマイクを用いて、オフラインで各種の波形データの推定フィルタを計算し、波形推定パラメータを記憶する処理装置を示す。図11の209で推定波形パラメータとして記憶されるデータは、対象波形処理ID、第1波形データ名、第2波形データ名、フィルタパラメータ数、フィルタパラメータのデータ形式、フィルタパラメータ、第1波形データと第2波形データのシフト量、サンプリング時間(あるいはサンプリング周波数)などである。
【0066】
図12は、図11の装置で記憶された波形処理パラメータをオフライン処理装置300で構築し、オンライン処理装置400で処理する装置を示している。
【0067】
図14及び図15で、本発明の実施例による方法により、ノイズキャンセルならびに波形抽出を行った例を述べる。横軸は時間、縦軸は相対強度を示し、全波形とも、50μsのサンプリング間隔で、ほぼ同一の相対強度レベルで表示している。
【0068】
図14は、本発明の実施例により処理されることが可能な対象波形データの例である。1401はタップ音(マイクを叩いたときの波形)、1402はMRI騒音、1403は1401と1402の合成波形である。
【0069】
図15は、本発明の実施例による方法によりノイズキャンセルを行った結果の波形を示す。図9に描かれる装置を用いて波形推定パラメータを決定し、その波形推定パラメータを図10に描かれる装置に用いてノイズキャンセルを行った。ノイズキャンセルにおいては、サンプリング間隔は50μsとし、フィルタパラメータの数は20とした。1501は、1401に対するノイズキャンセル用のフィルタを作り、1401の波形に対してノイズキャンセルした例である。1502は、1402に対するノイズキャンセル用のフィルタを作り、1402の波形に対してノイズキャンセルした例で、本発明の実施例による方法により良好なキャンセル結果を得たことがわかる。
【0070】
1503は、1401に対し、1402のノイズキャンセル用のフィルタを適用しキャンセル処理した例であるが、1401の波形成分はあまり影響を受けていない。1504は、1402に対し、1401のフィルタを適用しキャンセル処理した例であるが、1402の波形成分はあまり影響を受けていないことがわかる。
【0071】
1505は、1403に対し、1401のノイズキャンセル用のフィルタと1402のノイズキャンセル用のフィルタを適用し、1401と1402の波形成分をキャンセルした例である。
【0072】
このように、本発明の実施例に係るフィルタは、波形選択性を有し、複数種類の騒音に対してもキャンセルすることが可能である。
【0073】
次に、図6、8、11のような2つのマイクを使用する場合で複数種類の騒音を取り扱う場合について述べる。これまでで述べた方法で、複数種類の騒音に対するノイズキャンセル用のフィルタはできているとする。リアルタイムで連続して入ってくる複数種類の騒音に対して、そのままでは、どのノイズキャンセル用フィルタを適用すべきかがわからない。そこで、あらかじめ上述の方法で各騒音波形に対する波形抽出用のフィルタを作り、リアルタイムで入ってくる騒音に対して、波形抽出処理を行うことにより、どの騒音波形か認識することができる。その後、対応するノイズキャンセルフィルタを適用すれば良い。
【0074】
図13は、公知である複合圧電体の構造を示す。有機物7の中にPZT(圧電セラミックス)6が埋め込まれた構造を示している。複合圧電体を用いてスピーカやマイクを作ることが可能で、非磁性のためMRI装置内でも使用できる。図16は、複合圧電体のマイクを用い、高騒音のMRI装置内の被験者の音声に混入した大きなMRI騒音を、本発明の実施例であるノイズキャンセル装置により、キャンセルし、被験者の音声を取りだし記録した例で、1601は50μsサンプリングで処理した3万点ほどのデータをプロットした結果を示す。1602はキャンセルされたMRI騒音のレベルを示し、1603は被験者の音声である。複合圧電体によるマイクやスピーカは、安定性が高く、オフライン処理で計算されたフィルタパラメータを変えることなく、長時間(10分以上)連続してノイズキャンセルすることができる。このように、本発明の実施例である波形データの処理方法によれば、有用性の高いMRI用のノイズキャンセル装置及びMRI装置内の被験者の音声記録装置が実現できる。
【0075】
さらに、複合圧電体により遮音性の高いヘッドホンを作り、被験者に装着すれば、MRI装置内にいる被験者にコンソール室側にいる検査者からの音声がヘッドホンを通じて被験者に伝えられ、逆に、本発明の実施例であるノイズキャンセル方法により、被験者に装着された複合圧電体によるマイクの受信波形から、MRI騒音をキャンセルしてコンソール室側の検査者へ、被験者の音声を伝えることが可能となる。このように、本発明の実施例である波形データの処理方法によれば、MRI装置内の被験者との有用性の高い音声通話装置が簡単に実現できる。
【0076】
また、MRI装置下のもとで、手術が行われる場合がある。MRI装置が高騒音である場合は、術者間での通話が困難となる。このような場合、複合圧電体による遮音性の高いヘッドホンと、複合圧電体によるマイクを術者に装着し、本発明の実施例であるノイズキャンセル方法により、術者に装着された複合圧電体マイクの受信波形から、MRI騒音をキャンセルして話している術者の音声を、他の術者のヘッドホンに伝達すれば、MRI装置の近くにいる術者間での通話が楽にできるようになる。このように、本発明の実施例である波形データの処理方法によれば、MRI装置下で手術中における術者間の有用性の高い通話装置が簡単に実現できる。
【0077】
さらに、本発明の実施例である方法で作られるフィルタの波形選択性を利用することで、対象とする波形の抽出や、図6、8、11のような2つのマイクを使用する場合の第1波形の分別、不審音の自動監視装置を実現することが可能となる。
【0078】
本発明の実施例によるノイズキャンセル用のフィルタを用いれば、そのまま対象とする波形を自動抽出できる。即ち、対象とする波形用のキャンセル(抽出)用のフィルタを作っておき、リアルタイムで連続して入ってくる任意の波形データに対して、対象波形のキャンセル用フィルタを使用したときに、キャンセル効果があれば、対象とする波形が、そのリアルタイムで入ってきている波形データに存在していることがわかる。推定誤差評価を行えば、簡単にキャンセル効果の判定をすることが可能である。このように、本発明の実施例によれば、リアルタイムで連続して入ってくる任意の波形データに対して、対象とする波形の自動抽出が可能となる。
【0079】
次に、本発明の実施例であるセキュリティ装置について述べる。本発明の実施例による方法により各種不審音に対する波形抽出フィルタを作っておく。不審音としては、家庭であれば足音、ガラスの壊れる音など、養殖場であれば、船のエンジン音、シュノーケルやアクアラングの音などであり、これらが、深夜に検出されれば、警戒を発するようにしておけば良い。図1、図3のS305や、図7、図8、図10、図12の405で処理結果を出力するが、このとき、記録装置にセキュリティ装置の稼動している間の波形データを記録するようにし、異常を検知した場合は警報を発するようにすれば良い。また、抽出された異常音がどういう音であるかとか、時刻なども同時に記録・警報表示することも可能である。このように本発明の実施例による波形データの処理方法を用いれば、有用性の高いセキュリティ装置を実現することが可能である。
【0080】
以上、本発明の好適な実施形態を例を挙げて説明したが、本発明の実施形態はここで説明された例にとどまるものではなく、本発明の思想の範囲内で様々な形態を取りうるものであることは言うまでもない。以上のごとく、本発明によれば、これまでにない少ないフィルタパラメータで高精度に波形推定を行うための処理方法が提供される。このため、本発明の様々な実施形態においては、ノイズキャンセル処理、波形抽出処理が実現され、さらに、種々の非磁性で温度・湿度などの環境安定性に優れたスピーカやマイクなどの音響機器を実現できる複合圧電体技術と結合することで、高騒音のMRI装置下での手術中の通話装置などMRI用の各種音声通話装置が実現でき、さらには、不審音や不審な振動波形を自動的抽出技術やそれを用いて警報を与えるなどのセキュリティ装置などが実現される。本発明に係るの処理方法にはスペクトル解析のような複雑な処理はなく、パソコンでも簡単に構成でき、安価で有用性の高い装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施例による波形データの処理方法
【図2】本発明の実施例による波形データの処理方法
【図3】本発明の実施例による波形データの処理方法
【図4】従来のノイズキャンセル処理方法
【図5】本発明の実施例による波形データの処理装置
【図6】本発明の実施例による波形データの処理装置
【図7】本発明の実施例による波形データの処理装置
【図8】本発明の実施例による波形データの処理装置
【図9】本発明の実施例による波形データの処理装置
【図10】本発明の実施例による波形データの処理装置
【図11】本発明の実施例による波形データの処理装置
【図12】本発明の実施例による波形データの処理装置
【図13】複合圧電体の構造を示す図
【図14】本発明の実施例による処理の有効性を示すための波形データ
【図15】図14の波形データに対する本発明の実施例の適用例
【図16】本発明の実施例によるMRI用音声通話装置
【符号の説明】
【0082】
S101 初期パラメータの設定ステップ
S102 波形データの取りこみステップ
S103 第1波形データと第2波形データの初期シフト量の設定ステップ
S104 第1波形データより第2波形データの推定フィルタパラメータの計算ステップ
S105 第2波形推定値と推定誤差の計算ステップ
S106 推定誤差の評価ステップ
S107 第2波形推定フィルタパラメータと相対波形シフト量の決定ステップ
S108 第1波形データと第2波形データの相対位置シフト処理終了判定ステップ
S109 第1波形データと第2波形データのシフト量の変更ステップ
S110 処理回数終了判定ステップ
S111 波形推定パラメータの記憶ステップ
S112 対象波形処理完了判定ステップ
S113 オンライン処理用フィルタ構築ステップ
S301 波形データの取りこみステップ
S302 フィルタリング処理ステップ
S303 誤差計算ステップ
S304 誤差評価ステップ
S305 処理結果出力ステップ
S306 終了判定ステップ
S201 処理対象波形の推定パラメータの読み出しステップ
S202 オンライン処理用フィルタの構築ステップ
10、11 マイク
20、21、70 アンプ
30、31、60 ローパスフィルタ
40、41 AD変換器
50 DA変換機
100 制御装置
200、300 オフライン処理装置
400 オンライン処理装置
80 出力装置
201 信号レベル比較部
201、212、401 バッファメモリ部
204 シフト量調整部
205 第1波形データより第2波形データを推定するフィルタの計算部
206 第2波形データ推定誤差評価部
207 処理回数チェック部
208 推定パラメータ決定部
209 推定パラメータ記憶部
210 対象波形データ処理完了チェック部
211 リアルタイム処理用フィルタ構成部
402 フィルタ処理部
403 誤差計算部
404 誤差評価部
405 処理結果出力部
406 終了判定部
1401、1402、1403 処理対象波形データ
1501、1502、1503、1504、1506、1061 処理結果波形
1602 キャンセル後のMRI騒音レベル
1603 音声信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波形から第2波形を推定するための波形推定パラメータを求める方法であって、
前記第1波形の実測データと前記第2波形の実測データとの間の時間シフト量を変化させつつ、各時間シフト量毎に、前記第1波形の実測データから前記第2波形の推定データを生成しうるフィルタパラメータを計算するステップと、
前記計算したフィルタパラメータ及びそれに対応する前記時間シフト量を用いて前記第1波形の実測データから前記第2波形の推定データを生成すると共に、前記生成した推定データと、前記第2波形の実測データとの誤差を計算するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記誤差が所定の基準以下である、又は前記誤差が最も小さい、前記フィルタパラメータ及びそれに対応する前記時間シフト量を前記波形推定パラメータと定めるステップを更に有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記誤差は、前記第2波形の2波長以上に相当する数のデータポイントを用いて計算される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記誤差は、前記第2波形の2〜10波長に相当する数のデータポイントを用いて計算される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記時間シフト量の初期値及び前記初期値に対応して計算された前記フィルタパラメータを用いて生成された前記第2波形の推定データが、前記所定の基準以下の誤差を与える場合は、前記時間シフト量の変化及び前記フィルタパラメータの計算をそれ以上行わず、前記初期値及びそれに対応するフィルタパラメータを前記波形推定パラメータと定める、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
第3波形から第4波形を推定する方法であって、
請求項2に記載の方法により求められる前記波形推定パラメータを使用して、前記第3波形の実測データから前記第4波形の推定データを生成するステップと、
前記推定データと前記第4波形の実測データとの誤差を計算するステップと、
前記誤差が所定の基準以上であった場合、請求項2に記載の方法により新たな前記波形推定パラメータを得るステップと、
を有する方法。
【請求項7】
コンピュータに、請求項1から6のいずれかに記載の各ステップを実行させるコンピュータ・プログラム。
【請求項8】
第1波形から第2波形を推定する波形推定パラメータを求めるシステムであって、
前記第1波形の実測データと前記第2波形の実測データとの間の時間シフト量を変化させつつ、各時間シフト量毎に、前記第1波形の実測データから前記第2波形の推定データを生成しうるフィルタパラメータを計算する手段と、
前記計算したフィルタパラメータ及びそれに対応する前記時間シフト量を用いて前記第1波形の実測データから前記第2波形の推定データを生成すると共に、前記生成した推定データと、前記第2波形の実測データとの誤差を計算する手段と、
を有するシステム。
【請求項9】
前記誤差が所定の基準以下である、又は前記誤差が最も小さい、前記フィルタパラメータ及びそれに対応する前記時間シフト量を前記波形推定パラメータと定める手段を更に有する請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
請求項9に記載のシステムと協働するシステムであって、第3波形から第4波形を推定するシステムにおいて、
請求項9に記載のシステムにより求められる前記波形推定パラメータを使用して、前記第3波形の実測データから前記第4波形の推定データを生成する手段と、
前記推定データと前記第4波形の実測データとの誤差を計算する手段と、
前記誤差が所定の基準以上であった場合、請求項9に記載のシステムを作動させて新たな前記波形推定パラメータを得る手段と、
を有するシステム。
【請求項11】
請求項9に記載のシステムと協働するシステムであって、第3波形から第4波形を推定するシステムにおいて、
互いに異なる形状を有する複数の波形に各々対応した、互いに異なる複数の前記波形推定パラメータが備えられ、
前記複数の波形推定パラメータのそれぞれに対応した複数のフィルタリングを前記第3波形に対して行うことにより、前記第4波形を推定するように構成される、システム。
【請求項12】
請求項9に記載のシステムにより求められる前記波形推定パラメータを使用するマイクロフォン・システムであって、
所定の時間にマイクロフォンにより得られる波形データを、前記波形推定パラメータを使用して加工した上で、前記所定の時間以外の時間に前記マイクロフォンにより得られる波形データから差し引くように構成される、マイクロフォン・システム。
【請求項13】
請求項9に記載のシステムにより求められる前記波形推定パラメータを使用するマイクロフォン・システムであって、
第1のマイクロフォンにより得られる波形データを、前記波形推定パラメータを使用して加工した上で、第2のマイクロフォンにより得られる波形データから差し引くように構成される、マイクロフォン・システム。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のマイクロフォン・システムであって、該マイクロフォン・システムは、複数の圧電体素子が有機物中に配置された構造を有するマイクロフォンを使用する、マイクロフォン・システム。
【請求項15】
請求項9に記載のシステムにより求められる前記波形推定パラメータを使用する異常警告システムであって、
マイクロフォンにより得られる波形データに対して前記波形推定パラメータを適用し、該適用後のデータから前記波形データの特徴が失われていると判断すると、警告を発するように構成される、異常警告システム。
【請求項16】
請求項9に記載のシステムと、請求項10又は11に記載のシステム又は請求項12〜14のいずれかに記載のマイクロフォン・システム又は請求項15に記載の異常警告システムと、を備えるシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2008−151911(P2008−151911A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338286(P2006−338286)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000153421)株式会社日立アドバンストシステムズ (9)
【Fターム(参考)】