説明

波形等化回路の制御方法

【課題】探索時間を短くしつつ調整結果の精度も高くすることができる波形等化回路の制御方法を提供する。
【解決手段】カットオフ周波数、ゲイン又は群遅延量のいずれか一つの値について初期値と当該初期値を中心として所定の探索幅を加味した3点のみ変化させたときの収束させるべき指標として、波形等化回路の出力信号のジッタ、RF振幅レベル又はエラーレートのいずれか一つを検出して、最小ジッタ値、最大RF振幅レベル又は最小エラーレートのいずれか一つの指標が最良点となるカットオフ周波数、ゲイン又は群遅延量を基準値とし、基準値と前記3点のうち、基準値を除いた2点とを直線で結んだときの2つの傾きを求め、2つの傾きの比からジッタ値、RF振幅レベル又はエラーレートのいずれかが最適になるカットオフ周波数、ゲイン又は群遅延量を波形等化回路の調整値に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BD(ブルーレイ(登録商標)・ディスク)やDVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)などの信号が高密度で記録された光ディスクから復調された復調信号(RF信号)に対して波形等化を行う波形等化回路に係り、特に最適な波形等化を行うように制御する波形等化回路の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
BDやDVDなどの信号が高密度で記録された光ディスクに凹凸若しくは反射率の異なるピットとして記録されているデータは、光ディスク再生装置の光ピックアップにより光電変換されたアナログ信号(以下RF信号という)として読み出される。そして、このRF信号をA/D変換することでデジタル信号として再生されることになる。しかしながら、光ピックアップなどの再生光学系から出力される信号は周波数の高域部分が減衰されているので、低域信号の振幅(レベル)に対して高域信号の振幅が極端に低い信号となっている。
【0003】
このため、再生光学系から出力される信号を原波形のままでA/D変換による復調再生を行うと、ジッタの影響などにより再生信号の品質が極端に悪化することになる。したがって、再生光学系から出力される信号に対して、A/D変換を行う前に信号の波形等化を行うことが必須となる。
【0004】
図3は、従来の波形等化回路の構成を示すブロック図である(例えば、下記の特許文献1参照)。図3に示す波形等化回路は、再生光学系から出力されるRF信号の波形等化を行うもので、カットオフ周波数が制御可能な低次のローパスフィルタ(以下、LPFと称す)11及び高次のハイパスフィルタ(以下、HPFと称す)12と、HPF12から出力される高域成分の振幅のゲイン調整を行うゲイン制御可能なゲイン調整器(以下、ATTと称す)13と、ATT13からの出力に対して群遅延量が制御可能な群遅延量調整器(以下、DELAYと称す)14と、LPF11を介した低域部分と、HPF12とATT13及びDELAY14を介したゲイン制御及び群遅延量制御された高域部分とを合成して波形等化後の信号を出力する加算器15とを備えている。
【0005】
従来の波形等化回路の制御方法のうち、第1の方法として、図3に示す波形等価回路に対して、カットオフ周波数の調整とゲイン調整及び群遅延量の調整を行い、全ての調整ステップ値に対して、ジッタ、RF振幅レベル、又はエラーレートをモニタし、最良ジッタ値、最大RF振幅レベル又は最良エラーレートを得たときの各ステップ値を設定値としていた。
【0006】
また、第2の方法として、図3に示す波形等価回路に対して、カットオフ周波数とゲイン及び群遅延量の初期値を設定し、ゲインと群遅延量を固定した状態で、カットオフ周波数を可変していき、可変範囲内での暫定最良ジッタ値、暫定最大RF振幅レベル又は暫定最良エラーレートを得た後、そのときのカットオフ周波数の調整値と群遅延量を固定した状態で、ゲインを変化させていき、可変範囲内での暫定最良ジッタ値、暫定最大RF振幅レベル又は暫定最良エラーレートを得た後、そのときのゲイン調整値と前記カットオフ周波数の調整値を固定した状態で、群遅延量を変化させていき、可変範囲内での最良ジッタ値、最大RF振幅レベル又は最良エラーレートに追い込む方法があった。この第2の方法において、カットオフ周波数とゲイン及び群遅延量を変化させる順番は入れ替わってもよい。また、この第2の方法は、全数探索を行う第1の方法に比べ高速に探索を終了させることができるという利点がある。
【0007】
また、第3の方法として、図3に示す波形等化回路1に対して、カットオフ周波数、ゲイン又は群遅延のいずれか一つの値を変化させたときのジッタ、RF振幅レベル又はエラーレートを検出して、暫定最良ジッタ値、暫定最大RF振幅レベル又は暫定最良エラーレートとなるカットオフ周波数、ゲイン調整量又は群遅延量を暫定収束ポイントとし、この暫定収束ポイントを基準としてカットオフ周波数とゲイン及び群遅延量を所定範囲で変化させたときのジッタ、RF振幅レベル又はエラーレートを、第1の方法と同様に、全ての調整ステップ値に対して検出し、そのときの最良ジッタ値、最大RF振幅レベル又は最良エラーレートとなるカットオフ周波数とゲイン調整値と群遅延量を設定値とする方法があった。この第3の方法は、第1の方法に比べて高速に探索を終了させることができ、第2の方法に比べて最適な調整値となる状態へ収束させることができるという利点がある。
【特許文献1】特許第3775642号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、光ディスク再生装置で使用される波形等化回路において、ピックアップの特性バラツキや、再生系のフィルタ時定数のバラツキ、光ディスクの種別及び単層/二層の差、ディスクのスタンパごとにビット記録状態が異なるなどの要因により、ジッタ最良値、RF振幅最大値又はエラーレート最良値を与えるカットオフ周波数やゲイン及び群遅延量は、皆大きな範囲で変動している。
【0009】
したがって、これらの変動要因を考慮して、ジッタ最良値、RF振幅最大値又はエラーレート最良値を確実に特定するためには、光ディスクを再生装置に挿入するごとにカットオフ周波数やゲイン及び群遅延量を広い範囲で変化させて、そのときのジッタ最良値、RF振幅最大値又はエラーレート最良値となるカットオフ周波数やゲイン及び群遅延量を求めて設定する必要がある。
【0010】
従来の波形等化回路の制御方法では、精度の良い調整を行うためには広範囲で細かいステップ数で探索を行う必要があり、そのためのジッタ、RF振幅レベル又はエラーレートをモニタするのに膨大な時間がかかり、光ディスクの再生開始までにかなりの時間がかかってしまうという課題があった。逆に、光ディスクの再生開始までの時間を短くするためには範囲を狭くし、探索のためのステップ数を粗くする必要があり、そのため、調整結果の精度が低くなってしまうという課題があった。
【0011】
そこで、本発明は上述した点に鑑みてなされたもので、探索時間を短くしつつ調整結果の精度も高くすることができる波形等化回路の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するための手段として、本発明に係る波形等化回路の制御方法は、 カットオフ周波数とゲイン及び群遅延量とを独立して調整して、光ディスクからの復調信号の波形等化を行う波形等化回路の制御方法であって、前記カットオフ周波数、前記ゲイン又は前記群遅延量のいずれか一つの値について初期値と当該初期値を中心として所定の探索幅を加味した3点のみ変化させたときの収束させるべき指標として、前記波形等化回路の出力信号のジッタ、RF振幅レベル又はエラーレートのいずれか一つを検出して、最小ジッタ値、最大RF振幅レベル又は最小エラーレートのいずれか一つの指標が最良点となるカットオフ周波数、ゲイン又は群遅延量を基準値とし、前記基準値と前記3点のうち、前記基準値を除いた2点とを直線で結んだときの2つの傾きを求め、前記2つの傾きの比から前記ジッタ値、前記RF振幅レベル又は前記エラーレートのいずれかが最適になるカットオフ周波数、ゲイン又は群遅延量を前記波形等化回路の調整値に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、極めて短時間に探索を終了させることができ、かつ極めて最適に近いジッタ値、RF振幅レベル又はエラーレートとなる状態へ収束させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の波形等化回路の制御方法の一実施の形態について図1を参照しつつ説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る波形等化回路の制御方法を説明するためのフローチャートであり、例として、カットオフ周波数、ゲイン、群遅延量の順に変化させ、指標をジッタとする。ジッタの測定は毎回ディスク上の同じ場所で行う。
【0015】
最初に、カットオフ周波数とゲイン及び群遅延量の初期値を設定する(ステップS201)。次に、ゲインと群遅延量を初期値に固定して、カットオフ周波数の初期値と初期値を中心として所定の探索幅を加味した値である初期値±αとの3点を設定し、それら3点のカットオフ周波数におけるジッタを測定し記憶する(ステップS202)。そして、測定した3点のカットオフ周波数におけるジッタ値の内で最良ジッタ値のときのカットオフ周波数を基準値1とする(ステップS203)。
【0016】
次に、基準値1と他の2点を結ぶ直線を作りそれらの直線の傾きを求め、2つの傾きの比からグラフ上最良となるジッタ値を推測し、そこをカットオフ周波数の調整値とする(ステップS204)。
【0017】
図2は、ジッタ最良点を求める例を説明するためのカットオフ周波数−ジッタ特性図である。例えばカットオフ周波数の初期値を7LSB、α値を5LSBとする。カットオフ周波数−ジッタ特性が図3のような場合に、3点の測定値が、それぞれカットオフ周波数=2LSBのときジッタ=9%、カットオフ周波数=7LSBのときジッタ=7%、カットオフ周波数=12LSBのときジッタ=15%だったとする。このときの暫定最良ジッタ値は7%であり、そのときのカットオフ周波数は7LSBであり、これを基準値とする。
【0018】
基準値と他の2点を直線で結んだときの傾きを求めると、
(7−9)%/ (7−2)LSB=−5%/5LSB
(15−7)%/(12−7)LSB= 8%/5LSB
となる。このとき、ジッタが最良となるカットオフ周波数は基準値周辺で、且つ基準値を除く2点のうち、直線の傾きの絶対値が小さい方寄りであると推測できる。なぜならば、カットオフ周波数−ジッタ特性がジッタ最良点で左右対象とすると、前記予測の逆はあり得ないからである。
【0019】
ジッタが最良となるカットオフ周波数は、前記2つの傾きの比から推測できる。図2に示すカットオフ周波数−ジッタ特性において、基準値が+方向にずれたとすると、2つの傾きはどちらも+方向に大きくなる。逆に、−方向にずれたとすると、2つの傾きはどちらも−方向に大きくなる。以上のことから、傾きの比でジッタ最良点はほぼ推測できる。なお、基準値が3点のうち、最も右側の点又は最も左側の点だった場合も、2つの傾きからジッタ最良点はほぼ推測できる。
【0020】
同様な制御を、ゲイン及び群遅延量に対しても行うことで、最適なゲイン及び群遅延量を求めることができる。すなわち、ステップS202〜S204でのカットオフ周波数の調整値の設定制御と同様にして、ゲイン及び群遅延量の調整値の設定制御を行うことができる。
【0021】
ゲインの調整値の設定制御は、カットオフ周波数をステップS204で得られた調整値に固定するとともに、群遅延量をステップS201で設定した初期値に固定した状態で、ゲインの初期値と初期値を中心として所定の探索幅を加味した値である初期値±αとの3点を設定し、それら3点のゲインにおけるジッタを測定し記憶する(ステップS205)。そして、測定した3点のゲインにおけるジッタ値の内で最良ジッタ値のときのゲインを基準値2とする(ステップS206)。
【0022】
次に、基準値2と他の2点を結ぶ直線を作りそれらの直線の傾きを求め、2つの傾きの比からグラフ上最良となるジッタ値を推測し、そこをゲインの調整値とする(ステップS207)。
【0023】
同様に、群遅延量の調整値の設定制御は、カットオフ周波数をステップS204で得られた調整値に固定すると共に、ゲインをステップS207で得られた調整値に固定した状態で、群遅延量の初期値と初期値を中心として所定の探索幅を加味した値である初期値±αとの3点を設定し、それら3点の群遅延量におけるジッタを測定し記憶する(ステップS208)。そして、測定した3点の群遅延量におけるジッタ値の内で最良ジッタ値のときのゲインを基準値3とする(ステップS209)。
【0024】
次に、基準値3と他の2点を結ぶ直線を作りそれらの直線の傾きを求め、2つの傾きの比からグラフ上最良となるジッタ値を推測し、そこを群遅延量の調整値とする(ステップS210)。
【0025】
以上説明した本発明の制御方法において、カットオフ周波数とゲイン及び群遅延量の最適化の順番は入れ替えて実施してもよい。また、カットオフ周波数の最適化、ゲインの最適化、群遅延量の最適化を行った後に、再度ゲインの最適化をする、というように繰り返し実施してもよいし、逆に、最適化を行ってもあまり効果のないパラメータを省略しても構わない。
【0026】
さらに、上記実施の形態は、収束させるべき指標として、波形等価回路の出力信号のジッタについて述べたものであるが、本発明の制御方法は、RF振幅レベル又はエラーレートを指標として選択しても、同様にして極めて短時間に探索を終了させることができ、かつカットオフ周波数とゲイン及び群遅延量の最適化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係る波形等化回路の制御方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明の一実施の形態に係る波形等化回路の制御方法を説明するためのカットオフ周波数−ジッタ関係図である。
【図3】従来の波形等化回路の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0028】
11 ローパスフィルタ(LPF)
12 ハイパスフィルタ(HPF)
13 ゲイン調整器(ATT)
14 群遅延量調整器(DELAY)
15 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カットオフ周波数とゲイン及び群遅延量とを独立して調整して、光ディスクからの復調信号の波形等化を行う波形等化回路の制御方法であって、
前記カットオフ周波数、前記ゲイン又は前記群遅延量のいずれか一つの値について初期値と当該初期値を中心として所定の探索幅を加味した3点のみ変化させたときの収束させるべき指標として、前記波形等化回路の出力信号のジッタ、RF振幅レベル又はエラーレートのいずれか一つを検出して、最小ジッタ値、最大RF振幅レベル又は最小エラーレートのいずれか一つの指標が最良点となるカットオフ周波数、ゲイン又は群遅延量を基準値とし、
前記基準値と前記3点のうち、前記基準値を除いた2点とを直線で結んだときの2つの傾きを求め、前記2つの傾きの比から前記ジッタ値、前記RF振幅レベル又は前記エラーレートのいずれかが最適になるカットオフ周波数、ゲイン又は群遅延量を前記波形等化回路の調整値に設定する波形等化回路の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−251127(P2008−251127A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94682(P2007−94682)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】