説明

波長変換モジュール

【課題】可視化された信号光を利用することにより、アライメント作業を簡略化する。
【解決手段】互いに波長の異なる波長λ1の励起光と波長λ2の信号光とを入力し、1/λ1−1/λ2=1/λ3を満たす波長λ3の変換光を発生させる波長変換モジュール30において、非線形光学結晶からなる波長変換素子31と、波長変換素子31の出力端に結合され、励起光を抑制し、信号光と変換光とを透過させるフィルタ37とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換モジュールに関し、より詳細には、環境ガスを計測するための中赤外光を発生する波長変換素子を内蔵する波長変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護、安全衛生上の観点から、NOx、SOx、アンモニア系等の環境ガス、水の吸収ピーク、多くの有機系ガスまたは残留農薬の極微量分析技術の確立が強く望まれている。ガス濃度を計測する一手法として、被測定ガスにレーザ光を当て、その吸収特性を観測する方法が知られている。ガスは、それぞれ特有の吸収線を有しているので、吸収線付近の波長を有するレーザ光をスキャンし、吸収スペクトルを観測することによりガス濃度を計測することができる。
【0003】
環境ガスの多くは、波長2μm以上の中赤外光領域に基本振動またはその低次の倍音の吸収線を有している。従って、波長2μm以上の中赤外領域において、室温で連続発振が可能な中赤外光光源の需要が高まっている。このような光源として、擬似位相整合型波長変換素子による差周波発生により、ガスの吸収線波長である中赤外領域のレーザ光を出力する光源が多数発表されている(例えば、非特許文献1参照)。この光源は、波長変換素子に励起光、信号光を入力するレーザとして、技術的に安定した波長2μm以下の半導体レーザを用いることができるので、実用化が容易である。
【0004】
【非特許文献1】D. G. Lancaster, et al., “High-power continuous-wave mid-infrared radiation generated by difference frequency mixing of diode-laser-seeded fiber amplifiers and its application to dual-beam spectroscopy”, Optics Lett., Vol.24, No.23, 1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
波長変換素子を利用した光源を、ガス計測装置に適用するためには、波長変換素子を内蔵する波長変換モジュール、励起光、信号光を出力するレーザモジュール、その他の光部品を1つのパッケージにまとめて実装する。このパッケージは、波長変換モジュールから出力された中赤外光が、被測定ガスセルの中を透過して、受光器に入射されるように、ガス計測装置内に設置される。
【0006】
図1に、従来の波長変換モジュールの構成を示す。波長変換モジュール10は、非線形光学結晶からなる波長変換素子11と、励起光λ1、信号光λ2を入力するための光学部品12と、出力される励起光λ1、信号光λ2、波長変換光λ3から励起光λ1、信号光λ2を取り除くための光学部品13とを備えている。
【0007】
ガス計測装置の組み立て工程においては、波長変換モジュールと受光器との光軸のアライメントが必要である。可視光を発生する波長変換モジュールでは、出力される波長変換光が目に見えるため、アライメント作業が容易であった。しかしながら、波長変換光λ3が中赤外光の場合には目に見えないために、波長変換モジュールからの出射方向がずれていた場合に、容易に調整することができなかった。そこで、ガス計測装置の受光器の代わりに、光軸調整用の受光器を用いて、光軸上をかざしながら波長変換モジュールの出射方向を確認し、波長変換モジュールを内蔵するパッケージを設置していた。しかし、光軸調整用受光器は、受光面が最大でも数ミリ角程度であり、このように小さな受光面に波長変換光を入射させながら、光軸を追っていく作業は、困難を要した。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、可視化された信号光を利用することにより、アライメント作業を簡略化することができる波長変換モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、互いに波長の異なる波長λ1の励起光と波長λ2の信号光とを入力し、1/λ1−1/λ2=1/λ3を満たす波長λ3の変換光を発生させる波長変換モジュールにおいて、非線形光学結晶からなる波長変換素子と、該波長変換素子の出力端に結合され、前記励起光を抑制し、前記信号光と前記変換光とを透過させるフィルタとを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の波長変換モジュールにおいて、λ1<1.11μm、1.11μm<λ2<1.70μmのとき、前記フィルタの材質をシリコンとし、λ1<0.92μm、0.92μm<λ2<1.70μmのとき、前記フィルタの材質をInPとし、λ1<0.87μm、0.87μm<λ2<1.70μmのとき、前記フィルタの材質を、GaAsとすることができる。
【0011】
請求項1に記載の前記非線形光学結晶は、周期的な分極反転構造を有し、さらに導波路構造を有することもできる。また、前記非線形光学結晶は、LiNbO、LiTaO、K(y)Li(1−y)Nb(x)Ta(1−x)(0<x<1,0<y<1)、KNbO、KTiOPOのいずれかであり、またはこれらにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として含有することもできる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、波長変換素子から出力される信号光を利用して、可視化することにより、アライメント作業を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図2に、本発明の一実施形態にかかる波長変換モジュールの構成を示す。本実施形態の波長変換モジュール20は、波長変換素子21から出力される光のうち、光部品23は、励起光λ1のみを抑制し、信号光λ2と波長変換光λ3とを透過させる。波長=1.7μm以下の近赤外光であれば、例えば、レーザ・センサ・カードを用いて可視化することができる。レーザ・センサ・カードは、5cm角程度の大きさのものがあり、光軸を確認するために、十分な大きさを有している。そこで、信号光λ2を可視化することにより光軸のアライメントを行い、その後、必要ならば信号光λ2を抑制する光部品を挿入すればよい。
【0014】
なお、光学部品であるレンズ等は、屈折率が波長に依存する。1/λ1−1/λ2=1/λ3を満たす差周波発生では、励起光λ1<信号光λ2の関係があるので、波長変換光λ3と波長差の少ない信号光λ2を可視化する方が、より正確にアライメント作業を行うことができる。
【実施例1】
【0015】
図3に、本発明の実施例1にかかる波長変換モジュールの構成を示す。図3(a)は上面図、3(b)は側面図である。波長変換モジュール30は、パッケージ38内部に、金属製サブマウント32の上面に載置された波長変換素子31と、金属製サブマウント32の下面に接合され波長変換素子31と熱的に結合されたペルチェ素子33とを備えている。また、金属製サブマウント32上には、波長変換素子31と熱的に結合されたサーミスタ34を備えている。
【0016】
波長変換素子31の入力側において、ファイバ支持ブロック35に固定された光ファイバ36のコアが、波長変換素子31の導波路31aと、光学的に直接結合されている。光ファイバ36から入力された励起光λ1と信号光λ2とは、波長変換素子31の非線形光学効果により、波長変換光λ3へ変換され、導波路31a端から出力される。波長変換素子31の出力側において、導波路31a端から出力された光は、励起光λ1のみを抑制し、信号光λ2と波長変換光λ3とを透過させる波長フィルタ37を通過する。波長フィルタ37を通過した光は、外部に配置されたレンズにより、平行光に変換されて、次段の光回路に入力される。
【0017】
波長変換素子31は、LiNbO、LiTaO、K(y)Li(1−y)Nb(x)Ta(1−x)(0<x<1,0<y<1)、KNbO、KTiOPOのいずれかであり、またはこれらにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として含有している非線形光学結晶を用いることができる。波長変換素子は、周期的な分極反転構造を有しており、さらに導波路構造を有することにより、波長変換効率を高めることができる。
【0018】
波長フィルタ37は、シリコン、またはInP、GaAsなどの化合物半導体からなる。波長フィルタ37の透過特性は、その材料のバンドギャップから求めることができる。バンドギャップから求めた波長xに対して、短い波長の光は吸収され、長い波長の光は吸収されにくい。上述の化合物半導体では、
シリコン:x=1.11μm
InP :x=0.92μm
GaAs:x=0.87μm
となり、
λ1<x<λ2 (1)
となるように材料を選択すればよい。なお、レーザ・センサ・カードを用いる場合は、λ2<1.70μmとする必要がある。また、波長フィルタ37は、反射損失を減少させるための反射防止膜として、ARコーティングが付されている。
【0019】
図4を参照して、実施例1にかかる波長変換モジュールのアライメント作業を説明する。ここで、励起光の波長λ1=1.064μmとし、信号光の波長λ2=1.56μmとすると、波長λ3=3.34μmの波長変換光が出力される。このとき、波長フィルタの材質は、上述した式(1)の関係から、シリコンを用いる。図4(a)に示したように、波長変換モジュール30は、基台101の上に固定され、信号光λ2と波長変換光λ3とを出力する。出力された光は、XYZ軸微動機構付レンズホルダ102に内蔵されたレンズ103により、平行光に変換されて、受光器104の方向に出力される。
【0020】
ここで、レンズ103から出力された光には、信号光λ2が含まれているので、レーザ・センサ・カード106aを用いて、可視化することができる。レンズ103と受光器104との間の光路に沿って、レーザ・センサ・カード106を106aから106bへ動かし、信号光λ2が受光器104の受光面に焦点を結ぶように、XYZ軸微動機構付レンズホルダ102を調整する。
【0021】
図4(b)に示したように、レンズ103の調整が終了したら、光路中に波長1.56μmの信号光を抑制し、波長変換光のみを出力するフィルタ107を挿入する。信号光λ2を出力する光源として、DFB−LDを使用して直接変調を行い、受光器104に接続されたロックインアンプ105でロックイン検波を行う。ここで、ロックインアンプ105の出力をモニタしながら、XYZ軸微動機構付レンズホルダ102を調整することにより、波長変換光に基づいてレンズ103の調整を行う。光路中に環境ガスが充填されたガスセル108をおくことにより、ガス濃度を計測することができる。
【0022】
信号光λ2を出力する光源として、波長可変光源を使用して、波長掃引することにより、吸収スペクトルを観測することもできる。また、固定波長の光源を用いて、光路中にチョッパを配置して変調を行ってもよい。
【実施例2】
【0023】
図5に、本発明の実施例2にかかる波長変換モジュールの構成を示す。波長変換モジュール40は、パッケージ48内部に、金属製サブマウント42の上面に載置された波長変換素子41と、金属製サブマウント42の下面に接合され波長変換素子41と熱的に結合されたペルチェ素子43とを備えている。また、金属製サブマウント42上には、波長変換素子41と熱的に結合されたサーミスタ44を備えている。
【0024】
波長変換素子41の入力側において、光ファイバ46は、ファイバ支持ブロック51に固定されている。レンズ支持ブロック52に固定されたレンズ53により、光ファイバ46から出射された光を、平行光に変換する。平行光は、金属製サブマウント42に固定されたレンズ54により、波長変換素子41の導波路41aと光学的に結合される。
【0025】
光ファイバ46から入力された励起光λ1と信号光λ2とは、波長変換素子41の非線形光学効果により、波長変換光λ3へ変換され、導波路41a端から出力される。波長変換素子41の出力側において、導波路41a端から出力された光は、励起光λ1のみを抑制し、信号光λ2と波長変換光λ3とを透過させる波長フィルタ47を通過する。波長フィルタ47を通過した光は、外部に配置されたレンズにより、平行光に変換されて、次段の光回路に入力される。
【実施例3】
【0026】
図6に、本発明の実施例3にかかる波長変換モジュールの構成を示す。波長変換モジュール60は、パッケージ68内部に、金属製サブマウント62の上面に載置された波長変換素子61と、金属製サブマウント62の下面に接合され波長変換素子61と熱的に結合されたペルチェ素子63とを備えている。また、金属製サブマウント62上には、波長変換素子61と熱的に結合されたサーミスタ64を備えている。
【0027】
波長変換素子61の入力側において、ファイバ支持ブロック65に固定された光ファイバ66のコアが、波長変換素子61の導波路61aと、光学的に直接結合されている。光ファイバ66から入力された励起光λ1と信号光λ2とは、波長変換素子61の非線形光学効果により、波長変換光λ3へ変換され、導波路61a端から出力される。
【0028】
波長変換素子61の出力側において、導波路61a端から出力された光は、金属製サブマウント62に固定されたレンズ75により、平行光に変換する。平行光は、励起光λ1のみを抑制し、信号光λ2と波長変換光λ3とを透過させる波長フィルタ87を通過して、次段の光回路に入力される。
【0029】
図7を参照して、実施例3にかかる波長変換モジュールのアライメント作業を説明する。ここで、励起光の波長λ1=1.064μmとし、信号光の波長λ2=1.56μmとすると、波長λ3=3.34μmの波長変換光が出力される。図7(a)に示したように、波長変換モジュール60は、基台111の上に固定され、信号光λ2と波長変換光λ3とを出力する。出力される光は平行光であり、受光器104の方向に出力される。
【0030】
ここで、波長変換モジュール60から出力された光には、信号光λ2が含まれているので、レーザ・センサ・カード106aを用いて、可視化することができる。波長変換モジュール60と受光器104との間の光路に沿って、レーザ・センサ・カード106を106aから106bへ動かし、信号光λ2が受光器104に入力されるように、受光器104が固定されたXYZ軸微動台112を調整する。
【0031】
図7(b)に示したように、XYZ軸微動台112の調整が終了したら、光路中に波長1.56μmの信号光を抑制し、波長変換光のみを出力するフィルタ107を挿入する。信号光λ2を出力する光源として、DFB−LDを使用して直接変調を行い、受光器104に接続されたロックインアンプ105でロックイン検波を行う。ここで、ロックインアンプ105の出力をモニタしながら、XYZ軸微動台112を調整することにより、波長変換光が受光器104に入力されるようにする。光路中に環境ガスが充填されたガスセル108をおくことにより、ガス濃度を計測することができる。
【0032】
信号光λ2を出力する光源として、波長可変光源を使用して、波長掃引することにより、吸収スペクトルを観測することもできる。また、固定波長の光源を用いて、光路中にチョッパを配置して変調を行ってもよい。
【実施例4】
【0033】
図8に、本発明の実施例4にかかる波長変換モジュールの構成を示す。実施例4では、実施例2に示した入力側の光学部品と、実施例3に示した出力側の光学部品とを併せて有している。ここで、励起光の波長λ1=0.808μmとし、信号光の波長λ2=1.064μmとすると、波長λ3=3.36μmの波長変換光が出力される。このとき、波長フィルタの材質は、上述した式(1)の関係から、InPまたはGaAsを用いる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】従来の波長変換モジュールの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる波長変換モジュールの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例1にかかる波長変換モジュールの構成を示すブロック図である。
【図4】実施例1にかかる波長変換モジュールのアライメント作業を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例2にかかる波長変換モジュールの構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例3にかかる波長変換モジュールの構成を示すブロック図である。
【図7】実施例3にかかる波長変換モジュールのアライメント作業を説明するための図である。
【図8】本発明の実施例4にかかる波長変換モジュールの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0035】
10,20,30,40,60,80 波長変換モジュール
11,21,31,41,61,81 波長変換素子
12,13,22,23 光学部品
31a,41a,61a,81a 導波路
32,42,62,82 金属製サブマウント
33,43,63,83 ペルチェ素子
34,44,64,84 サーミスタ
35,51,65,91 ファイバ支持ブロック
36,46,66,86 光ファイバ
37,47,67,87 波長フィルタ
38,48,68,88 パッケージ
52,92 レンズ支持ブロック
53,54,75,93,94,95,103,107 レンズ
101,111 基台
102 XYZ軸微動機構付レンズホルダ
104 受光器
105 ロックインアンプ
106 レーザ・センサ・カード
108 ガスセル
112 XYZ軸微動台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに波長の異なる波長λ1の励起光と波長λ2の信号光とを入力し、1/λ1−1/λ2=1/λ3を満たす波長λ3の変換光を発生させる波長変換モジュールにおいて、
非線形光学結晶からなる波長変換素子と、
該波長変換素子の出力端に結合され、前記励起光を抑制し、前記信号光と前記変換光とを透過させるフィルタと
を備えたことを特徴とする波長変換モジュール。
【請求項2】
λ1<1.11μm、1.11μm<λ2<1.70μmのとき、前記フィルタの材質は、シリコンであることを特徴とする請求項1に記載の波長変換モジュール。
【請求項3】
λ1<0.92μm、0.92μm<λ2<1.70μmのとき、前記フィルタの材質は、InPであることを特徴とする請求項1に記載の波長変換モジュール。
【請求項4】
λ1<0.87μm、0.87μm<λ2<1.70μmのとき、前記フィルタの材質は、GaAsであることを特徴とする請求項1に記載の波長変換モジュール。
【請求項5】
前記非線形光学結晶は、周期的な分極反転構造を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の波長変換モジュール。
【請求項6】
前記非線形光学結晶は、導波路構造を有することを特徴とする請求項5に記載の波長変換モジュール。
【請求項7】
前記非線形光学結晶は、LiNbO、LiTaO、K(y)Li(1−y)Nb(x)Ta(1−x)(0<x<1,0<y<1)、KNbO、KTiOPOのいずれかであり、またはこれらにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として含有していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の波長変換モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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