波長変換素子および波長変換素子駆動装置
【課題】消費電力が小さく、波長の変換効率を高めることが可能な波長変換素子および波長変換素子駆動装置を提供する。
【解決手段】活性層2は、InGaAsPから構成される量子井戸構造を有し、可飽和吸収領域4と、光増幅領域5,6とを含む。光増幅領域5,6には、p電極11,12を介して電流がそれぞれ注入される。可飽和吸収領域4には、p電極10を介して、光増幅領域5,6とは独立に電圧が印加される。入射面7から入射される入力光Pinは、「1」または「0」の2値の光強度からなる光信号に白色雑音の雑音光を付加して生成されている。可飽和吸収領域4および光増幅領域5,6は、波長変換素子1が双安定状態の半導体レーザとなる条件で構成されている。
【解決手段】活性層2は、InGaAsPから構成される量子井戸構造を有し、可飽和吸収領域4と、光増幅領域5,6とを含む。光増幅領域5,6には、p電極11,12を介して電流がそれぞれ注入される。可飽和吸収領域4には、p電極10を介して、光増幅領域5,6とは独立に電圧が印加される。入射面7から入射される入力光Pinは、「1」または「0」の2値の光強度からなる光信号に白色雑音の雑音光を付加して生成されている。可飽和吸収領域4および光増幅領域5,6は、波長変換素子1が双安定状態の半導体レーザとなる条件で構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、波長変換素子および波長変換素子駆動装置に関し、より特定的には、外部からの光信号を波長変換して増幅する波長変換素子およびその駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超大容量光通信時代に向けて、光信号を電気に変換せず光のまま高速に処理する全光処理が推進されるようになってきている。また、複数の波長を処理することで容量を飛躍的に増大させる波長分割多重(WDM)方式が実用化されている。このWDMにおいて、波長ごとに光源や受光器を用意することは、コスト・スペース・消費電力などの面において著しく効率が悪い。
【0003】
そこで、波長変換素子によって所望の波長の光を得る方式が用いられている。こうした光通信向けに、波長を数〜数十nm程度の幅で変換する技術には、以下で述べるように種々の形態がある。
【0004】
非特許文献1は、双安定半導体レーザの共振器内に活性領域、位相調整領域および回折格子を作りつけることで波長変換を行なう波長変換素子を開示している。この波長変換素子を用いた信号処理について以下に説明する。
【0005】
図15は、従来の双安定型半導体波長変換素子60の構造を示した断面図である。
図15を参照して、従来の双安定型半導体波長変換素子60は、活性層61a,61bと、可飽和吸収領域62と、光ガイド層63と、分布ブラッグ反射(DBR)型回折格子64と、p電極65〜68と、クラッド層69,82と、n電極81とを備える。双安定型半導体波長変換素子60は、活性層61aの端面から入射される入力光PINを波長変換し、DBR型回折格子64の端面から出力光POUTを出射する。
【0006】
可飽和吸収領域62は、光増幅領域となる活性層61aおよび活性層61bの間に形成され、可飽和の光吸収作用を有する。活性層61a,61b(活性層61とも総称する)は、双安定半導体レーザとして機能し、入出力特性においてヒステリシス特性を有する。光ガイド層63は、活性層61bの隣に形成され、入射する光の位相をシフトさせる。DBR型回折格子64は、波長変換された光の波長を制御する。
【0007】
クラッド層69,82は、活性層61、可飽和吸収領域62、光ガイド層63およびDBR型回折格子64をはさむように形成されている。クラッド層69上には、活性層61a,61b、可飽和吸収領域62、光ガイド層63およびDBR型回折格子64にそれぞれ独立に電流を注入できるように、p電極65〜68がそれぞれ設けられている。クラッド層82上には、p電極65〜68に対向してn電極81が設けられている。
【0008】
図16は、図15の双安定型半導体波長変換素子60における入力光PINと出力光POUTとの入出力特性曲線を示した図である。
【0009】
図16に示すように、入力光PINの強度が増加していくと、しきい値Pth1で可能和吸収領域62が飽和して光を吸収しなくなる。これにより、双安定半導体レーザとして機能する活性層61が発振して出力光POUTの強度が急激に増大する。この結果、図16の入出力特性曲線上に不連続な変化が現れる。可能和吸収領域62は、いったん飽和すると、光吸収効果が飽和して透明状態となり安定する。このため、図16の入出力特性曲線の傾きが再び連続的になり、入力光PINの強度が増加するにつれて光出力POUTの強度は単調に増加していく。
【0010】
次に、入力光PINの強度を低下させていく。可飽和吸収領域62は、しきい値Pth1を超えていったん発振した後は光を透過する状態となっていて光を吸収しないので、入力光PINの強度をしきい値Pth1まで低下させていっても、まだ発振状態が維持される。しかし、さらに入力光PINの強度を低下させると、しきい値Pth2において光吸収効果が回復し、光出力POUTの強度が急激に減少する。
【0011】
図15,16の双安定型半導体波長変換素子60では、入力光PINによって可飽和吸収領域62を励起させレーザ発振をさせている。このとき、出力光POUTの状態は、入力光PINの状態とは無関係にレーザの共振器モードで決定される。そのため、光ガイド層63およびDBR型回折格子64に電流を注入することにより、出力光POUTの波長を制御することができる。
【0012】
特許文献1は、半導体レーザの活性層の一部に活性層のバンドギャップエネルギー以下のバンドギャップエネルギーを有する可飽和吸収領域を形成して、入力光と出力光との波長を変換する技術を開示している。この波長変換技術について以下に説明する。
【0013】
図17は、従来の波長変換素子70の構造を示した断面図である。
図17を参照して、従来の波長変換素子70は、p電極71,72と、p型キャップ層73と、クラッド層74,77と、活性領域75と可飽和吸収領域76とを含む活性層80と、n型基板78と、n電極79とを備える。波長変換素子70は、可飽和吸収領域76に入射される入力光PIN0を波長変換し、活性領域75および可飽和吸収領域76から出力光POUT1,POUT2を出射する。
【0014】
クラッド層74,77は、活性層80をはさむように形成されている。クラッド層74上には、p型キャップ層73が形成されている。p型キャップ層73上には、活性領域75および可飽和吸収領域76にそれぞれ独立に電流を注入できるように、p電極71,72がそれぞれ設けられている。クラッド層77上には、n型基板78が形成されている。n型基板78上には、p電極71,72に対向してn電極79が設けられている。
【0015】
半導体レーザの発振波長域は、活性層のバンドギャップエネルギーで決まる。バンドギャップエネルギーの値は、活性層を構成する材料の組成によって決定される。波長変換素子70では、入力光PIN0によって励起される可飽和吸収領域76の組成、および励起されたことで発振し出力光POUT1,POUT2を出射する活性層80の組成を調整しながら作製される。波長変換素子70では、可飽和吸収領域76と活性層80とで発振波長域が異なるため、入力光PIN0と出力光POUT1,2とで波長を変えることができる。したがって、入力光PIN0のパワーが一定値以上であれば、ある波長の入力光PIN0が、活性層80の組成によって決まる一定波長の出力光POUT1,POUT2に変換されることになる。
【特許文献1】特開平1−235393号公報
【非特許文献1】山腰 茂伸,「波長変換レーザー」,O plus E,1989年10月,No.119,p.142−146
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
図15,16の双安定型半導体波長変換素子60は、光ガイド層63およびDBR型回折格子64を集積してp電極65〜68から電流を注入することで、所望の波長を持つ単一モードの出力光POUTを得ている。
【0017】
しかしながら、双安定型半導体波長変換素子60では、p電極65〜68からの電流注入によって半導体レーザを発振寸前の状態にしておき、入力光PINの入射によって出力光POUTを励起する。そのため、入力光PINが劣化して微弱な信号になっている場合には、より大きな一定電流を注入せねばならず、消費電力が大きくなってしまう。
【0018】
超高速光通信においては、信号が光ファイバの中で幾度も内壁に反射しながら進む。そのため、反射時の吸収損失や散乱損失により、反射するたびに光信号の強度が弱くなるという課題がある。光信号の強度が弱くなると、信号波形が崩れて信号の品質を表わす信号対雑音比(S/N比)が低下し、光信号の伝送品質が低くなる。この伝送損失は、反射の回数が多いほど、すなわち伝送距離が長いほど大きくなる。伝送損失の増大は、伝送距離を制限することにつながる。
【0019】
さらに、光ファイバ内だけでなく、中継機やスイッチなど多くの装置を経由する過程でも、様々な要因により光信号は劣化していく。光信号の劣化は、ビット誤り率(BER:ビットエラーレート)が増大する大きな原因となる。よって、微弱な信号でも波長変換でき、かつ光増幅できる波長変換素子の開発が課題となる。しかし、図15,16の双安定型半導体波長変換素子60では、劣化した微弱な信号を波長変換するのに大きな消費電力を必要とする。
【0020】
また、双安定型半導体波長変換素子60では、可飽和吸収領域62に入力光PINを入射している。この場合、可飽和吸収領域62が飽和しやすくなるため、図16のヒステリシスにおける幅および段差が小さくなる。ゆえに、双安定型半導体波長変換素子60は、ヒステリシス形状による光増幅効果を得にくくなる上、入力光PINの雑音によるリップルを受けて出力光POUTの強度変化がヒステリシスを上下する。その結果、劣化した波形が出力光POUTの強度変化にそのまま反映されてしまい、ビットエラーレートを低減しづらくなる。
【0021】
また、双安定型半導体波長変換素子60では、活性層61a,61b、可飽和吸収領域62、光ガイド層63、およびDBR型回折格子64を作り付けねばならず、特に、DBR型回折格子64は発振波長を制御するために精度よく作製する必要がある。このため、双安定型半導体波長変換素子60の作製手順が複雑となり、歩留まりが悪くなってしまうという課題がある。
【0022】
さらに、双安定型半導体波長変換素子60では、バルク型の活性層61を用いている。そのため、光の利得スペクトルの線幅が広がっており、波長ごとの利得が小さい。そのため、双安定型半導体波長変換素子60は、入力光PINの受信の感受率が悪くなる。また、入力光PINの強度に比べて出力光POUTの強度が得られないため、波長の変換効率が低くなる。
【0023】
また、図17の波長変換素子70では、活性領域75および可飽和吸収領域76という組成の異なる2つの領域を同一層内に予め作製しておく必要がある。このため、波長変換素子70の作製においては、結晶成長の手順が複雑となり、歩留まりが悪くなる。
【0024】
この発明は、上記の諸問題を解決するためになされたものであり、その目的は、消費電力が小さく、波長の変換効率を高めることが可能な波長変換素子および波長変換素子駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この発明は、光信号の波長を変換する波長変換素子であって、光増幅領域および可飽和吸収領域を含む活性層と、電流が注入されおよび/または電圧が印加される第1の極性の電極と、前記第1の極性の電極に対して設けられる第2の電極とを備える。前記第1の極性の電極および前記第2の極性の電極の少なくとも一方は、前記光増幅領域と前記可飽和吸収領域とに対して独立に電流を注入できるように分割されている。前記光増幅領域に注入される注入電流の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。前記活性層は、前記光信号を含む入力光を受けて、前記入力光の波長が変換され振幅が増幅された出力光を出射する。
【0026】
好ましくは、前記入力光に付加される雑音光が前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に入射され、前記雑音光の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。
【0027】
好ましくは、前記雑音光の最大値と最小値との差は、前記光信号の振幅の1/10以下である。
【0028】
好ましくは、前記雑音光は、ランダムな強度変換を有する。
好ましくは、前記第1の極性の電極を通じて雑音電流が前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に注入され、前記雑音電流の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。
【0029】
好ましくは、前記雑音電流の最大値と最小値との差は、前記注入電流の振幅の1/10以下である。
【0030】
好ましくは、前記雑音電流は、ランダムな強度変換を有する。
好ましくは、前記光増幅領域の利得スペクトルと前記可飽和吸収領域の吸収スペクトルとを合計した全体利得スペクトルを前記入力光の波長と合わせ、前記光増幅領域の利得スペクトルを前記出力光の波長と合わせるように、前記光増幅領域に注入される注入電流の強度が調整される。
【0031】
好ましくは、前記光増幅領域の利得スペクトルと前記可飽和吸収領域の吸収スペクトルとを合計した全体利得スペクトルを前記入力光の波長と合わせ、前記光増幅領域の利得スペクトルを前記出力光の波長と合わせるように、前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度が調整される。
【0032】
好ましくは、前記活性層は、量子井戸構造を有する。
好ましくは、前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に不純物が添加され、前記不純物の濃度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。
【0033】
好ましくは、前記波長変換素子は、入出力特性がヒステリシスを示す双安定半導体レーザである。
【0034】
好ましくは、前記波長変換素子は、入出力特性が不連続性を示す半導体レーザである。
好ましくは、前記光増幅領域は、前記可飽和吸収領域の両側にそれぞれ配置される第1および第2の光増幅領域を含む。前記第1および第2の光増幅領域の一方の端面から前記光信号が入射され、前記第1および第2の光増幅領域の他方の端面から前記出力光が出射される。
【0035】
好ましくは、前記可飽和吸収領域の共振器方向に占める長さの割合は、1%以上であり、かつ50%未満である。
【0036】
この発明の他の局面によれば、入力光を含む入力信号を受けて波長が変換された出力光を出力する波長変換素子を駆動する波長変換素子駆動装置であって、光信号の波長を変換する前記波長変換素子と前記出力光を検出して受信信号を出力する光電変換素子とを含む波長変換モジュールと、前記受信信号を受けて、前記波長変換素子の入出力特性を調整するための制御信号を出力するフィードバック制御回路とを備える。波長変換素子は、光増幅領域および可飽和吸収領域を含む活性層と、電流が注入されおよび/または電圧が印加される第1の極性の電極と、前記第1の極性の電極に対して設けられる第2の電極とを備える。前記第1の極性の電極および前記第2の極性の電極の少なくとも一方は、前記光増幅領域と前記可飽和吸収領域とに対して独立に電流を注入できるように分割されている。前記光増幅領域に注入される注入電流の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。前記活性層は、前記光信号を含む入力光を受けて、前記入力光の波長が変換され振幅が増幅された出力光を出射する。
【0037】
好ましくは、前記フィードバック制御回路からの制御信号に従って前記波長変換素子の温度を制御する温度制御回路をさらに備える。前記波長変換モジュールは、前記温度制御回路からの制御信号を受けて前記波長変換素子を含む前記波長変換モジュールの温度を調整する温度制御機構をさらに含む。
【0038】
好ましくは、前記温度制御機構は、前記波長変換素子の温度を検知し、該温度検知信号を前記フィードバック制御回路に出力するサーミスタを有する。
【0039】
好ましくは、前記温度制御機構は、前記温度制御回路からの制御信号を受けて、前記波長変換素子を昇温または冷却させるペルチェクーラーを有する。
【0040】
好ましくは、前記波長変換素子に接続されている可変抵抗と、前記フィードバック制御回路からの制御信号に従って前記可変抵抗の抵抗値を制御する可変抵抗制御部とをさらに備える。
【0041】
好ましくは、前記フィードバック制御回路は、前記波長変換素子の可飽和吸収領域から流れる電流を前記可変抵抗を介してモニターする。
【0042】
好ましくは、前記受信信号を受けて、確率共鳴効果が得られるように雑音が付加された電流を前記波長変換素子に供給するための制御信号を出力する確率共鳴制御回路と、前記確率共鳴制御回路からの制御信号を受けて、前記波長変換素子の入出力特性を調整するための電流を前記波長変換素子に供給する電流供給部とをさらに備える。
【0043】
好ましくは、前記波長変換素子の入出力特性を調整するための光を前記波長変換素子に供給するための光源をさらに備える。
【0044】
好ましくは、前記光源は、前記受信信号を受けて、確率共鳴効果が得られるように雑音が付加された光を前記波長変換素子に供給する。
【0045】
好ましくは、前記フィードバック制御回路からの制御信号に基づいて、前記波長変換素子の可飽和吸収領域に印加される電圧を制御する電圧制御回路と、前記電圧制御回路からの制御信号に従って前記波長変換素子に電圧を供給する電圧供給部とをさらに備える。
【0046】
好ましくは、前記受信信号に基づいて、前記入力光が前記波長変換素子の立ち上がりしきい値および立下がりしきい値を上下するように調整された電流を前記波長変換素子に供給する電流供給部をさらに備える。
【0047】
好ましくは、前記光電変換素子は、前記波長変換モジュールと同一基板上に集積化されている。
【発明の効果】
【0048】
この発明によれば、消費電力を小さくでき、波長の変換効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0050】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による波長変換素子1の共振器側面の概略的な構成を示した断面図である。
【0051】
図1を参照して、実施の形態1の波長変換素子1は、活性層2と、n型InP(インジウムリン)基板9と、n型InPクラッド層14と、p型InPクラッド層13と、p電極10〜12と、n電極15とを備える。n型InP基板9上に、n型InPクラッド層14が形成されている。n型InPクラッド層14上に、活性層2が形成されている。
【0052】
活性層2は、InGaAsP(インジウムガリウム砒素リン)から構成される量子井戸構造を有し、可飽和吸収領域4と、光増幅領域5,6とを含む。図1に模式的に示すように、量子井戸構造とは、半導体薄膜を複数層積層することで、電子および正孔の厚さ方向の運動を制限した構造をいう。可飽和吸収領域4および光増幅領域5,6の量子井戸構造は、InGaAsPの組成・層厚ともに同一の構造である。光増幅領域5,6は、波長変換素子1の共振器側面から見て、可飽和吸収領域4の両側にそれぞれ設けられている。光増幅領域5は、入力光Pinが入射される入射面7を有する。光増幅領域6は、出力光Poutが出射される出射面8を有する。
【0053】
活性層2上に、p型InPクラッド層13が形成されている。p型InPクラッド層13上に、p電極10〜12が設けられている。p電極10は、可飽和吸収領域4に対して設けられており、p電極11,12は、光増幅領域5,6に対してそれぞれ設けられている。p電極10〜12に対向して、n型InP基板9上にn電極15が設けられている。
【0054】
光増幅領域5,6には、p電極11,12を介して電流がそれぞれ注入される。可飽和吸収領域4には、p電極10を介して、光増幅領域5,6とは独立に電圧が印加される。入射面7から入射される入力光Pinは、「1」または「0」の2値の光強度からなる光信号に白色雑音の雑音光を付加して生成されている。
【0055】
可飽和吸収領域4および光増幅領域5,6は、波長変換素子1が双安定状態の半導体レーザとなる条件で構成されている。光増幅領域5,6へ電流を注入すると、波長変換素子1は双安定状態となって動作する。共振器方向における可飽和吸収領域4の長さは、たとえば、共振器長さ全体の約10%としている。
【0056】
実施の形態1の波長変換素子1は、活性層2が可飽和吸収領域4および光増幅領域5,6の3つに分割されているのに合わせて、p電極10〜12もそれぞれ3つに分割されている。つまり、波長変換素子1は、可飽和吸収領域4および光増幅領域5,6にそれぞれ注入される電流の制御をより独立に行ないやすい構造となっている。
【0057】
これにより、可飽和吸収領域4を流れる電流と光増幅領域5,6を流れる電流とが互いに干渉してしまうのを回避することができる。なお、図1ではn電極15が分割されていない例を示しているが、これは一例であり、n電極15もp電極10〜12に合わせて分割してもよい。この場合、波長変換素子1の製造時に電極分割の工程が増えるが、可飽和吸収領域4を流れる電流と光増幅領域5,6を流れる電流とが互いに干渉してしまうのをより確実に回避することができる。
【0058】
次に、波長変換素子1の動作について説明する。以下では、非周期的でランダムな強度変化を持ち、光信号に対する雑音として活性層に意図的に注入する光を「付加雑音光」と称し、伝送路等に起因する雑音とは区別している。
【0059】
図2〜4は、この発明の実施の形態1における波長変換素子1の活性層2への入力光Pinがどのように生成されるかを説明するための図である。
【0060】
図2は、「1」または「0」の2値を持つ劣化した光信号P0の時間波形を示す。図3は、付加雑音光Pnの時間波形を示す。以下では、付加雑音光Pnの最大値と最小値との差分ΔPnを付加雑音光Pnの雑音強度と呼ぶ。図4は、図2の光信号P0に図3の付加雑音光Pnを付加した入力光Pin=P0+Pnの時間波形を示している。こうして生成された入力光Pinは、図1の波長変換素子1の活性層2へと注入される。
【0061】
図5は、この発明の実施の形態1における波長変換素子1の動作特性を説明するための図である(図16の説明も参照)。
【0062】
図5において、(a)は図1の波長変換素子1における入力光−光出力特性、(b)は図4で説明した入力光Pinの時間波形、(c)は(b)の入力光Pinを波長変換素子1に注入した結果得られる出力光Poutの時間波形をそれぞれ示している。図5(a)において、横軸は入力光、縦軸は入力光に応じて得られる光出力をそれぞれ表わす。
【0063】
図5(a)において、PthONは、実線A1で示したヒステリシス下部の状態から破線B1で示したヒステリシス上部へ光出力の状態が移行する光強度、すなわちヒステリシスの立ち上がり閾値を示している。また、PthOFFは、ヒステリシス上部B1からヒステリシス下部A1へ移行するときの光強度、すなわちヒステリシスの立下り閾値を示している。ヒステリシスの立ち上がり閾値PthONおよび立下り閾値PthOFFは、図2および図4においても示されている。
【0064】
図2を参照して、付加雑音光Pnを印加する前の光信号P0の強度は、最大値がヒステリシスの立ち上がり閾値PthONより小さくなるほど劣化している。そのため、図2の光信号P0を図1の波長変換素子1の活性層2に注入しただけでは、光出力は図5(a)の入力光−光出力特性曲線上でヒステリシス下部A1に留まり、ヒステリシス上部B1へと移行することができない。
【0065】
図2の光信号P0に図3の付加雑音光Pnを印加した入力光Pinは、図4に示すように、光信号P0の最大値「1」近傍で光強度がヒステリシスの立ち上がり閾値PthONを越える。このとき、光出力は図5(a)の入力光−光出力特性曲線上でヒステリシス上部B1へ移行する。光信号P0の最大値を過ぎると再びPthON以下となり、さらに最小値「0」近傍ではPthOFF以下となる。このとき、光出力は図5(a)の入力光−光出力特性曲線上でヒステリシス下部A1へ移行する。
【0066】
このように、入力光Pinが立ち上がり/立ち下がり閾値を超えることによって、光出力がヒステリシスの上下を移行する。これにより、出力光Poutの光強度が急激に増減する。その結果、図5(c)に示すように、光信号P0の「1」および「0」が強調された、振幅の大きい出力光Poutを得ることができる。付加雑音光Pnは、光信号P0に付加される際、出力光Poutが伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果を得られるような雑音強度を有するように適度に調整される。
【0067】
なぜなら、付加雑音光Pnの雑音強度が小さすぎると、光出力がヒステリシスの上部へ移行することが出来ず、伝送路等に起因するビットエラーレートを低減するために必要な大きさの振幅を持つ出力光Poutを得られないからである。また、付加雑音光Pnの雑音強度が大きすぎると、光信号P0の「1」または「0」とは無関係に光出力がヒステリシスの上部へ移行するため、出力光Poutの強度変化がランダムになってしまい、ビットエラーレートを低減できないためである。
【0068】
このように、付加雑音光Pnは、ビットエラーレートの低減効果を得られるような雑音強度に適度に調整されて、光信号P0とともに、図1の波長変換素子1の光増幅領域5,6に注入される。波長変換素子1の立ち上がり閾値PthONの値は、光信号P0だけを光増幅領域5,6に注入しても伝送路等に起因する雑音を低減できない程度の値に調整される。すなわち、立ち上がり閾値PthONの値は、光信号P0だけを光増幅領域5,6に注入したときに得られる光出力が、ヒステリシス下部に対応した微小な値しか得られない程度に調整される。
【0069】
また、付加雑音光Pnの雑音強度を適度に調節して光信号P0に付加することにより、入力光Pinの値を、光信号P0の値を中心値としてランダムに変化させている。
【0070】
このとき、光信号P0の最大値および/または最小値と、光信号P0とともに光増幅領域5,6に注入される付加雑音光Pnの強度とが確率的に同期することで、光信号P0が「0」または「1」となるタイミングに光出力がヒステリシスの上下に移行する。これにより、ヒステリシス上下の強度差に応じて出力光の出力振幅が増大し、振幅の大きい出力光Poutを得ることができる。
【0071】
このように、雑音を適度に付加することで信号のS/N比が向上する現象は「確率共鳴」と呼ばれている。
【0072】
確率共鳴現象が起きているとき、波長変換素子1は、ヒステリシスの上部と下部とで発振波長が異なっているため波長変換素子として機能する。この波長変換の仕組みを図6〜9を参照して説明する。
【0073】
図6は、図1の活性層2にバルク活性層を用いた場合に入力光Pinが入射する前の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【0074】
図6に示すように、光増幅領域5,6の利得スペクトルGS1(点線)は、ピークPgs1において最高値をとり、左右がほぼ対称的となる。可飽和吸収領域4の吸収スペクトルAS1(破線)は、利得スペクトルGS1のピークPgs1近辺から吸収率が低下してゼロに漸近する。
【0075】
図1の波長変換素子1において、可飽和吸収領域4と光増幅領域5,6とでは、注入される電流量が異なっている。より注入電流の大きい光増幅領域5,6では、キャリアが多く存在するため、プラズマ効果によって利得スペクトルが可飽和吸収領域4に比べて長波長側に分布している。そのため、図6に示すように、吸収スペクトルAS1と利得スペクトルGS1とでは、ピーク波長が異なっている。
【0076】
スペクトルGAS1は、入力光Pinが入射する前において、利得スペクトルGS1と吸収スペクトルAS1とを合計した全体利得スペクトルである。全体利得スペクトルGAS1(実線)は、ピークPgas1において最高値をとり、吸収スペクトルAS1の影響で左右が非対称となる。波長変換素子1は、全体利得スペクトルGASのピークPgas1の波長において、最も素子の感受率が高くなっている。よって、ピークPgas1を入力光Pinの波長と合わせておくことにより、入力光Pinを最も効率よくキャリアに変換することができる。
【0077】
図7は、図1の活性層2にバルク活性層を用いた場合に入力光Pinが入射した後の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【0078】
図7に示すように、光増幅領域5,6の利得スペクトルGS10(点線)は、図6の利得スペクトルGS1と同様に、ピークPgs1において最高値をとり、左右がほぼ対称的となる。入力光Pinが入射した後は、可飽和吸収領域4が飽和して光を透過させる状態となるので、可飽和吸収領域4の吸収スペクトルはゼロに保たれる。その結果、入力光Pinが入射した後では、図7に示すように、利得スペクトルGS10のみが全体利得スペクトルに寄与し、波長ピークもPgas1からPgs1にシフトする。
【0079】
すなわち、入力光Pinが入射した後における図7の(全体)利得スペクトルGS10の波長ピークは、入力光Pinが入射する前における図6の光増幅領域5,6の利得スペクトルGS1と同じくPgs1となる。このピークPgs1において発振波長を有する出力光Poutの光パワーが最も大きくなる。つまり、ピークPgas1を入力光Pinの波長と合わせておき、ピークPgs1を出力光Poutの波長と合わせておくことによって、活性層2がバルク活性層の波長変換素子1は、入力光Pinの発振波長を効率よく出力光Poutの発振波長に変換することができる。
【0080】
図8は、図1の活性層2に量子井戸構造を用いた場合に入力光Pinが入射する前の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【0081】
図8に示すように、光増幅領域5,6の利得スペクトルGS2(点線)は、ピークPgs2において最高値をとり、左右がほぼ対称的となる。可飽和吸収領域4の吸収スペクトルAS2(破線)は、利得スペクトルGS2のピークPgs2近辺から吸収率が低下してゼロに漸近する。利得スペクトルGS2と吸収スペクトルAS2とを合計した全体利得スペクトルGAS2(実線)は、ピークPgas2において最高値をとり、吸収スペクトルAS2の影響で左右が非対称となる。
【0082】
図8では、活性層2に量子井戸構造を用いているため、図6のバルク活性層の場合と比べて、利得スペクトルGS2および吸収スペクトルAS2の幅が狭くなっている。その一方、図8の量子井戸構造では、ピーク波長Pgs2とPgas2とが区別できるほど明確に分かれて存在しており、効率のよい波長変換が可能となる。逆に、図6のバルク活性層では、図8と比べて、利得スペクトルGS1および吸収スペクトルAS1の幅が広がっており、かつピーク波長Pgs1とPgas1とは明確に分かれていない。そのため、図6のバルク活性層では、図8と比べて波長変換の効率は下がる。この発明の実施の形態では、図1の活性層2に量子井戸構造を用いている。
【0083】
図9は、図1の活性層2に量子井戸構造を用いた場合に入力光Pinが入射した後の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【0084】
図9に示すように、光増幅領域5,6の利得スペクトルGS20(点線)は、図8の利得スペクトルGS2と同様に、ピークPgs2において最高値をとり、左右がほぼ対称的となる。図7で説明したように、入力光Pinが入射した後は、可飽和吸収領域4が飽和して光を透過させる状態となるので、可飽和吸収領域4の吸収スペクトルはゼロに保たれる。その結果、入力光Pinが入射した後では、利得スペクトルGS20のみが全体利得スペクトルに寄与し、波長ピークもPgas2からPgs2にシフトする。
【0085】
すなわち、入力光Pinが入射した後における図9の(全体)利得スペクトルGS20の波長ピークは、入力光Pinが入射する前における図8の光増幅領域5,6の利得スペクトルGS2と同じくPgs2となる。このピークPgs2において発振波長を有する出力光Poutの光パワーが最も大きくなる。つまり、ピークPgas2を入力光Pinの波長と合わせておき、ピークPgs2を出力光Poutの波長と合わせておくことによって、活性層2が量子井戸構造の波長変換素子1は、入力光Pinの発振波長をより効率的に出力光Poutの発振波長に変換することができる。
【0086】
入力光Pinおよび出力光Poutで発振波長のピークを変えるには、波長変換素子1におけるヒステリシス形状を制御すればよい。ヒステリシス形状は、波長変換素子1への注入電流量、印加電圧、温度、不純物のドーピング量、接続抵抗知などのパラメータを変えて制御することができる。これにより、所望の波長変換効率が得られる。
【0087】
以上のように、実施の形態1の波長変換素子1は、微弱な光信号P0を増幅させることで、大きい振幅および高い光強度を有し、所望の波長を有する出力光Poutを得ることができる。これにより、出力光Poutを入力光Pinから所望の波長に変換でき、S/N比も向上する。その結果、伝送路等に起因する出力光Poutのビットエラーレートを低減することができる。
【0088】
さらに、図1の波長変換素子1では、光増幅領域5,6と可飽和吸収領域4とで独立に電流を注入しているので、電流注入によってヒステリシスを制御できる。これにより、出力光Poutの波長を所望の波長に調整したり、入力光Pinの波長に可飽和吸収領域4の吸収スペクトルのピークを合わせて波長の変換効率を向上させたりできる。また、出力光Poutの波長に光増幅領域5,6の利得スペクトルのピークに合わせて波長の変換効率を高めることができる。また、立ち上がり閾値PthONを低くしてより低電流で駆動したり、出力光Poutの振幅を調整したりできる。
【0089】
なお、付加雑音光Pnの代わりにクロック光または周期信号光を光信号P0に付加してヒステリシスの上部に移行させようとした場合、位相および周期が光信号P0と完全に同一か正確に倍数になっていて両者の最大値が同期しなければ、大きな振幅の出力光Poutは得られない。よって、回路の熱雑音などで光信号P0の波形がゆらぐと、伝送路等に起因する雑音の低減効果は減少してしまう。
【0090】
これに対し、ランダムな強度変化を持つ付加雑音光Pnは様々な周波数成分を有するので、信号波形のゆらぎにも強くなり、伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果を維持できる。また、周期信号光よりも雑音光の方が消費電力が少なくて済む。
【0091】
また、従来の双安定型波長変換素子のように、微弱な信号でもレーザを励起できるようにより大きな一定電流を注入するよりも、本願発明のように付加雑音光Pnを発生させる方が消費電力が少なくて済む。
【0092】
図10は、付加雑音光Pnの雑音強度を変化させたときの出力光Poutのビットエラーレート(BER)を示した図である。
【0093】
図10に示すように、BERは、最適な雑音強度Dmにおいて最小となる。実施の形態1では、この最適な雑音強度Dmを有する付加雑音光Pnを光信号P0に付加している。これにより、適度な付加雑音光Pnが微小な光信号P0をヒステリシスの上部に押し上げ、振幅が大きくS/N比が向上した出力光Poutの発生を可能にしている。実施の形態1では、出力光PoutのBERが最小である最適な雑音強度Dmを有するように、付加雑音光Pnを調整している。
【0094】
このように、実施の形態1の波長変換素子1を用いれば、素子の発振閾値以下にまで弱まった劣化した光信号P0も受信でき、入力光Pinを所望の波長に変換でき、さらに、増幅して2値が強調された出力光Poutを得ることができる。これにより、出力光PoutのS/N比が向上し、所望の波長に変換されるとともに伝送路等に起因する雑音が低減された出力光Poutを低電力で得ることができる。
【0095】
また、回路雑音や熱によって生じる信号の揺らぎにも強い付加雑音光Pnを用いるので、駆動時のパラメータ設定を広く取ることができる。これにより、伝送路等に起因する雑音の低減を容易に行なうことができ、その結果、出力光Poutのビットエラーレートを低減することが可能となる。
【0096】
なお、図1において、入射面7と出射面8とを別個に作らずとも、ビットエラーレートが低減された出力光Poutを得ることは可能である。しかしながら、図1のように入射面7と出射面8とを作り分けた方が、入力光Pinと出力光Poutとをそれぞれ制御しやすく、光学系の光軸の調整も容易となるので望ましい。
【0097】
また、図1において、可飽和吸収領域4の共振器方向に占める長さは、約10%でなくともビットエラーレートの低減効果を得ることは可能である。
【0098】
しかし、可飽和吸収領域4の共振器方向に占める長さの割合が小さくなると、それにともなって波長変換素子1の双安定状態が実現しにくくなる。特に、当該割合が1%未満で双安定状態の半導体素子を作製しようとすると、作製工程の手間や拡散材料の選定等が著しく困難となる。したがって、可飽和吸収領域4の共振器方向に占める長さの割合は、1%以上であることが望ましい。
【0099】
逆に、可飽和吸収領域4の共振器方向に占める長さの割合が大きくなると、ヒステリシスの形状を最適にするために注入電流を増やす必要が生じるので発振閾値も上昇する。特に、当該割合が50%より大きくなると、消費電力が著しく増大し、その結果、発熱が大きくなる。さらに、ヒステリシスの形状が最適でない場合には、伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果が減少し、出力光Poutの増幅も低減する。
【0100】
これらの理由により、共振器方向における可飽和吸収領域4の長さの割合は、1%以上で、かつ50%以下であることが望ましい。これにより、双安定状態を満足しやすくなり、かつ発振閾値を低くでき、またヒステリシスの形状も好適に決定できる。また、消費電力が少なくかつ少ない発熱で伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果を得やすくなり、さらに素子の作製条件を満たしやすくなるという利点がある。
【0101】
また、図10を参照して、付加雑音光Pnの強度は、BERが最小である最適雑音強度Dmとなるように調整されている。しかしながら、付加雑音光Pnの強度はこれに限るものではなく、得られる出力光Poutが、光通信で必要とされるBERの値を満たす範囲の雑音強度であればかまわない。その場合、付加雑音光Pnの雑音強度が波長変換素子1の入力光Pinの振幅の1/10以下であれば、ビットエラーレートが低減された出力光Poutが得られる。
【0102】
付加雑音光Pnの強度が強すぎると、出力光Poutの波形が崩れるので雑音の低減は起こらなくなる。少なくとも、付加雑音光Pnの雑音強度ΔPnが光信号P0の振幅より大きい場合、光信号P0の波形および周期を再現できなくなるため、光信号P0の検出ができなくなる。これに対し、付加雑音光Pnの雑音強度が入力光Pinの振幅の1/10以下であれば、さらに出力光Poutの振幅を大きくでき、BERの値を低減することができる。これにより、伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果を向上できるため、好ましい。
【0103】
なお、実施の形態1では付加雑音光Pnとして白色雑音を用いたが、強度変化が非周期的でランダムであれば、白色雑音でなくともビットエラーレートの低減効果を得ることは可能である。
【0104】
また、図1では3つのp電極10〜12を設ける場合について説明したが、電極の数はこれに限るものではなく、2つ以上のp電極を用いた双安定状態を有する他の波長変換素子についても、同様に伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果を得ることが可能である。しかし、図1に示した波長変換素子1のように、2つの光増幅領域5,6を設け、それぞれに対応したp電極11,12を作る方が、入力光Pinと出力光Poutとをそれぞれ制御しやすくなるというメリットがある。
【0105】
また、図1において、光増幅領域5,6ではなく可飽和吸収領域4に付加雑音光Pnを注入しても、波長変換効果を得ることができ、ビットエラーレートが低減された光出力を得ることができる。この場合、可飽和吸収領域4が飽和しやすくなるので光注入量の上限が低くなり、付加雑音光Pnの雑音強度を好適に決定しづらくなるものの、可飽和吸収領域4への付加雑音光Pnの注入によってヒステリシス形状を調整しやすくなる。
【0106】
また、付加雑音光Pnは、光信号P0に付加してから波長変換素子1の光増幅領域5,6に注入せずとも、光信号P0とは独立に光増幅領域5,6に注入してもよい。その場合、回路が余分に必要になり光軸の調整を要するものの、雑音強度の調整がやりやすくなるという利点がある。
【0107】
また、波長変換素子1は、InGaAsP系の半導体だけでなく、たとえば、AlGaAs(アルミニウムガリウム砒素)系、InP(インジウムリン)系、GaInNAs(ガリウム窒化インジウム砒素)系、GaN(窒化ガリウム)系、またはII−VI系の半導体など、他の材料を用いた半導体レーザであってもよい。
【0108】
また、実施の形態1の波長変換素子1において、可飽和吸収領域4に逆バイアスを印加してキャリアを引き抜くことにより、キャリアの再結合寿命に制限されずに信号処理の応答を高速にすることも可能である。
【0109】
また、図1の波長変換素子1において、可飽和吸収領域4に電圧を印加する代わりに電流を注入しても、所望のヒステリシス形状および波長変換効果を得られる。この場合、可飽和吸収領域4に逆バイアスをかけてキャリアを引き抜くことができなくなるが、発振しきい値を調整しやすくなるという利点が得られる。
【0110】
また、波長変換素子1の活性層2のうち可飽和吸収領域4の部分には、キャリア寿命を調整するために不純物としてSiを添加しても構わない。この場合、Siの添加量を調節することによって発振波長域を変えることができるため、所望の発振波長域を得ることが可能である。
【0111】
また、光信号P0は2値信号としているが、NRZ(Non-Return to Zero)符号およびRZ(Return to Zero)符号のいずれを用いた信号でもよく、またその他の方式の信号であってもよい。
【0112】
また、波長変換素子1から出力される光出力Poutを受光素子で受光してもよい。この場合、受光した光出力Poutの一部を光電変換素子などで電気信号に変換して利用できるというメリットがある。さらに、波長変換素子1と上記の受光素子とを同一基板上に集積すれば、個別に配置するよりもコストダウンとなり、波長変換素子1と当該受光素子との光軸合わせを行なう必要もなくなる。
【0113】
以上のように、実施の形態1によれば、光信号P0に付加雑音光Pnを印加した入力光Pinを双安定状態の波長変換素子1に注入することによって、消費電力が低く、回路への負担が少なく、かつ雑音特性にも優れた出力光Poutを得ることができる。これにより、入力光Pinを所望の波長に変換するとともに、伝送路等に起因した出力光Poutの雑音を低減することができる。その結果、ビットエラーレートが低減された波長変換光を得ることが可能となる。
【0114】
(実施の形態1の変形例1)
実施の形態1における波長変換素子1の変形例である波長変換素子1Aは、付加雑音光Pnが付加雑音電流Inに置き換えられた点において、図1の波長変換素子1と異なる。したがって、図1等と重複する部分の説明はここでは繰り返さない。ここでは、非周期的でランダムな強度変化を持ち、光信号P0に対する雑音として波長変換素子1Aの活性層2に注入される電流を「付加雑音電流」と称する。
【0115】
図11,12は、波長変換素子1Aの活性層2への光信号P0およびp電極11,12を通じて付加される付加雑音電流Inについて説明するための図である。
【0116】
図11は、波長変換素子1Aに入射される光信号P0の時間波形を示す。図11に示す光信号P0は、図2で説明したのと基本的に同一であり、波長変換素子1Aの立ち上がり閾値PthON以下である。
【0117】
図12は、波長変換素子1Aに注入される付加雑音電流Inの時間波形を示す。付加雑音電流Inには、白色雑音が用いられている。付加雑音電流Inは、波長変換素子1Aの電極11,12を通じて供給される電流とともに、光増幅領域5,6の活性層2へと注入される。
【0118】
付加雑音電流Inは、出力光Poutがビットエラーレートの低減効果を得られるような電流値に適度に調整されている。以下では、付加雑音電流Inの電流値の最大値と最小値との差分を、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInと呼ぶ。
【0119】
図10を参照して、ヒステリシスの立ち上がり閾値PthONは、光信号P0の強度より高くなるように設定されている。そのため、光信号P0を活性層2に注入しただけでは、出力光Poutは、図5(a)の入力光−光出力特性曲線上でヒステリシス下部A1に留まり、ヒステリシス上部B1へと移行することはできない。
【0120】
光信号P0によって波長変換素子1Aの活性層2に注入された光子には、付加雑音電流Inの注入により活性層2にキャリアが注入されて発生した光子が印加される。これにより、光増幅領域5,6の光子が増大し、出力光Poutが立ち上がり閾値PthONを越えやすくなる。
【0121】
このとき、付加雑音電流Inの変動に伴ってキャリアの増加量も変動する。したがって、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInを、光信号P0の「0」または「1」に応じて立ち上がり閾値PthONが上下するように最適に調整することで、所望の波長を有し、大きい振幅を持ち、かつS/N比が向上した出力光Poutが得られる。
【0122】
実施の形態1の変形例1では、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInを、ビットエラーレートの低減効果が最大に得られるよう最適に調整している。その結果、伝送路等に起因する雑音を大きく低減することができる。このとき、光信号P0は波長変換素子1Aの立ち上がり閾値PthON以下で良いので、微弱な光信号P0であっても波長変換し増幅することができる。
【0123】
さらに、波長変換素子1Aでは、光増幅領域5,6と可飽和吸収領域4とでそれぞれ独立に電流が注入されるので、電流注入によってヒステリシスを制御することができる。これにより、出力光Poutの波長を好適に調整したり、立ち上がり閾値PthONを低くしてより低電流で駆動したり、出力光Poutの振幅を調整したりできる。
【0124】
なお、波長変換素子1Aの光増幅領域5,6ではなく可飽和吸収領域4に付加雑音電流Inを注入しても、ビットエラーレートが低減された出力光Poutを得ることは可能である。この場合、可飽和吸収領域4が飽和しやすくなるので注入できる電流値の上限が低くなり、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInを好適に決定しづらいものの、可飽和吸収領域4への付加雑音電流Inの注入によってヒステリシス形状を調整しやすくなる。
【0125】
可飽和吸収領域4への付加雑音電流Inの注入量に応じて、波長変換素子1Aの閾値PthONまたはPthOFFを変動させ調整することができる。したがって、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInを、光信号P0の「0」または「1」に応じて立ち上がり閾値PthONが上下するように最適に調整することで、大きい振幅を持ち、所望の波長に変換され、かつS/N比が向上した出力光Poutが得られる。
【0126】
なお、付加雑音電流Inとして白色雑音を用いたが、強度変化が非周期的でランダムであれば、白色雑音でなくともビットエラーレートの低減効果を得ることは可能である。
【0127】
以上のように、実施の形態1の変形例1によれば、付加雑音光Pnの代わりに、付加雑音電流Inを波長変換素子1Aの活性層2へと注入することにより、所望の波長を有し、振幅が増幅され、S/N比が向上された出力光Poutを得ることができる。
【0128】
(実施の形態1の変形例2)
実施の形態1における波長変換素子1の他の変形例である波長変換素子1Bは、双安定状態の半導体素子とは入出力特性の異なる非線形の半導体光素子が用いられている点において、図1の波長変換素子1と異なる。したがって、図1等と重複する部分の説明はここでは繰り返さない。波長変換素子1Bは、たとえばInGaAsP系化合物半導体によって作製されている。
【0129】
図13は、波長変換素子1Bの入力光Pinと出力光Poutとの入出力特性の一例を示した図である。
【0130】
図13に示すように、波長変換素子1Bは、一例として、不連続性を有する入出力特性を示す。波長変換素子1Bの活性層2に電流または光を注入していくと、しきい値Pthで光出力Poutの強度が急峻に立上がる。図13の不連続特性において、立ち上がり前の下部C1および立ち上がり後の上部D1を利用することにより、入力光Pinと出力光Poutとで波長を変換することができる。
【0131】
なお、上記のような入出力特性の不連続性を有する波長変換素子1Bは、たとえば、光増幅領域5,6に対する可飽和吸収領域4の体積比を図1の波長変換素子1よりも小さくするか、一般的な双安定半導体レーザの可飽和吸収領域に適度な電流を注入することによって得られる。
【0132】
以上のように、実施の形態1の変形例2によれば、ヒステリシスを持たず不連続な入出力特性を有する波長変換素子1Bにおいて、入出力特性の立ち上がり前の下部C1および立ち上がり後の上部D1を利用することにより、入力光Pinと出力光Poutとで波長を変換することができる。これにより、変形例2の波長変換素子1Bにも、双安定半導体レーザを用いた実施の形態1の波長変換素子1と同様の機能を持たせることができ、入力光Pinの波長変換、S/N比の向上、波形整形などの効果が得られる。なお、実施の形態1の変形例2は、実施の形態1の変形例1および以下で説明する実施の形態2およびその変形例にも適用することが可能である。
【0133】
[実施の形態2]
図14は、この発明の実施の形態2による波長変換素子駆動装置20の概略的な構成を示した図である。
【0134】
図14を参照して、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20は、波長変換モジュール21と、フィードバック制御回路22と、温度制御回路23と、可変抵抗制御部24と、可変抵抗25と、確率共鳴制御回路26と、電流供給部27と、電圧制御回路28と、電圧供給部29とを備える。可変抵抗25は、位相を含めて制御可能な可変インピーダンス素子であってもよい。
【0135】
波長変換モジュール21は、実施の形態1で説明した波長変換素子1と、温度制御機構30と、ベース31,32,42と、光電変換素子33とを含む。波長変換モジュール21は、入射される入力光Pinを受けて内部で処理し、受信信号Sr、受信電流Ir1,Ir2などを出力する。
【0136】
温度制御機構30は、波長変換モジュール21に備え付けられており、たとえばペルチェクーラーおよびサーミスタから構成されている。温度制御機構30にペルチェクーラーが用いられていると、昇温および冷却の両方が行なえるので、外部の環境温度に関わらず波長変換素子1の温度を安定的に調整することができる。
【0137】
波長変換素子1は、光増幅領域34,36と可飽和吸収領域35とを含む活性層43と、p電極37〜39と、クラッド層40,44と、n電極41とを含む。活性層43は、量子井戸構造を有する。
【0138】
p電極37,39は、それぞれ光増幅領域34,36に対応するようにクラッド層44上に形成されている。p電極37,39は、電流供給部27から出力される付加雑音電流Inを受ける。p電極38は、可飽和吸収領域35に対応するようにクラッド層44上に形成されている。p電極38は、可変抵抗25に接続されており、電圧供給部29から電圧が印加される。n電極41は、クラッド層40とベース42との間に設けられている。n電極41は、電圧供給部29から電圧が印加されるとともに、接地ノードに接続されている。
【0139】
フィードバック制御回路22は、波長変換モジュール21の光電変換素子33から出力される受信電流Ir1を受けて、温度制御回路23および可変抵抗制御部24に制御信号を出力する。温度制御回路23は、フィードバック制御回路22からの制御信号を受けて、温度制御機構30に温度情報を出力する。温度制御機構30は、温度制御回路23からの温度情報に基づいて、波長変換モジュール21内の温度を制御する。
【0140】
可変抵抗制御部24は、フィードバック制御回路22からの制御信号に従って、波長変換素子1のp電極38に接続されている可変抵抗25の抵抗値を調整する。確率共鳴制御回路26は、光電変換素子33から出力される受信電流Ir2を受けて、電流供給部27に制御信号を出力する。電流供給部27は、確率共鳴制御回路26からの制御信号に従って、雑音を含む電流を波長変換素子1のp電極37,39に供給する。電圧制御回路28は、フィードバック制御回路22からの制御信号に基づいて、電圧供給部29に制御信号を出力する。電圧供給部29は、電圧制御回路28からの制御信号に従って、可変抵抗25を介してまたは直接に波長変換素子1のp電極38に電圧を印加する。
【0141】
温度制御回路23は、温度制御機構30に接続されている。温度制御機構30上に、ベース31が設けられている。ベース32,42は、ベース31上に設けられている。波長変換素子1は、ベース42上に搭載されている。光電変換素子33は、ベース32に取り付けられている。
【0142】
次に、波長変換素子駆動装置20の動作およびこれを用いた波長変換素子1の駆動方法について説明する。
【0143】
波長変換素子駆動装置20の波長変換素子1は、光増幅領域34において入力光Pinを受け、p電極37,39からの制御に応じて、光増幅領域36から出力光Poutを出射する。入力光Pinは、「1」または「0」の2値からなり、伝送路等に起因する雑音によって一般に劣化している。
【0144】
フィードバック制御回路22は、光電変換素子33を介して出力光Poutの状態をモニターしている。フィードバック制御回路22は、波長変換素子1の入出力特性を調整するための制御信号を、温度制御回路23、可変抵抗制御部24および電圧制御回路28ににそれぞれ出力する。なお、波長変換素子1の入出力特性は、図5に示されている特性と基本的には同じである。
【0145】
フィードバック制御回路22には、可変抵抗25の抵抗値および温度制御機構30の検出温度などの駆動条件に応じた波長変換素子1の入出力特性のデータが予め入力されている。フィードバック制御回路22は、当該入力データに基づいて、波長変換素子1の入出力特性のヒステリシスが所望の形状となるように、温度制御回路23での温度および可変抵抗制御部24での抵抗値を算出する。
【0146】
温度制御回路23は、フィードバック制御回路22からの制御信号に従って、温度制御機構30の温度を制御する。温度制御機構30は、温度制御回路23からの制御信号に基づいて波長変換素子1の温度を上下させる。
【0147】
波長変換素子1に含まれる半導体利得物質は一般に温度に敏感であるため、波長変換素子1の入出力特性も一般に温度に敏感である。そのため、波長変換素子1を温度制御することによって、波長変換素子1における入出力特性のヒステリシス形状を制御することができる。この波長変換素子1の温度特性により、波長変換素子駆動素子20は、小さい温度変化でも上記のヒステリシス形状を変化させることができる。そのため、制御に時間がかからず、消費電力も少なくて済む。
【0148】
一般に、半導体レーザは、動作温度が高くなると発振波長が長くなる。また、半導体レーザの発振波長は、注入電流または印加電圧によっても制御可能である。よって、波長変換素子駆動装置20は、波長変換素子1の出力波長を温度または電流で変化させ、ヒステリシス形状を抵抗値、印加電圧または注入電流で調整することにより、波長変換素子1の発振波長を制御することができる。
【0149】
可変抵抗制御部24は、フィードバック制御回路22からの制御信号に従って、波長変換素子1の所望の入出力特性が得られるように可変抵抗25の抵抗値を調整する。波長変換素子1は、可変抵抗25の抵抗値の増減によって、可飽和吸収領域35からの電流値が増減する。これにより、可飽和吸収領域35内のキャリア量が変化するので、光吸収効果を制御できる。よって、波長変換素子駆動装置20は、可変抵抗25の値によっても波長変換素子1の入出力特性のヒステリシス形状を制御することができる。
【0150】
電圧制御回路28は、フィードバック制御回路22からの制御信号に従って、電圧供給部29を制御する。電圧供給部29は、電圧制御回路28からの制御信号に基づいて、波長変換素子1に印加する電圧値を上下させる。波長変換素子駆動装置20は、電圧制御回路28および電圧供給部29を用いて波長変換素子1に与える電圧値を制御することで、波長変換素子1の立ち上がりしきい値および/または立下がりしきい値を上下させることができる。これにより、波長変換素子1に入射する入力光Pinの平均光強度が大きく変化した場合にも対応できる。
【0151】
上記のように、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20は、電流制御に加えて、温度制御、可変抵抗値制御および電圧制御によって、波長変換素子1のヒステリシス形状を調整している。波長変換素子駆動装置20は、波長変換を制御し所望の波長を幅広く得るとともに確率共鳴効果を得るために、波長変換素子1のヒステリシス形状を調整して入出力特性を最適化する。
【0152】
確率共鳴制御回路26は、光電変換素子33を介して出力光Poutの状態をモニターしている。確率共鳴制御回路26は、波長変換素子1の入出力特性を調整するための制御信号を電流供給部27に出力する。
【0153】
電流供給部27は、確率共鳴制御回路26からの制御信号に従って、雑音を含む電流をp電極37,39を介して波長変換素子1に注入する。この付加雑音電流Inは、確率共鳴効果によって振幅が増幅されビットエラーレートが低減された出力光Poutが得られるように雑音が調整された電流である。
【0154】
よって、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20は、確率共鳴による入力光Pinの波長変換および波形整形を行なうのに最適なヒステリシス形状の入出力特性で波長変換素子1を作動させることが可能となる。波長変換素子1によって波長変換および波形整形された出力光Poutは、光電変換素子33で検出される。これにより、波長変換素子駆動装置20の波長変換モジュール21は、通常の受信器では検出できないような微弱な信号を検知できる受信器としても機能する。
【0155】
なお、図14のようなp電極37〜39およびn電極41の構成は一例であって、光増幅領域34,36と可飽和吸収領域35とに対して独立に電流を注入できるのであれば、p電極37〜39およびn電極41はどのように分割されていても構わない。また、p電極37〜39からの制御および入力光Pinに応じて出力光Poutを出射できるのであれば、出力光Poutが光増幅領域34または可飽和吸収領域35から出射されても構わない。
【0156】
さらに、可飽和吸収領域35の体積比が活性層43全体の50%以上になると波長変換素子1の消費電力が増大するので、可飽和吸収領域35の活性層43に対する体積比は、できれば50%以下が望ましい。
【0157】
上記のように、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20は、温度、電圧および電流の制御、および可飽和吸収領域35に対して設けられたp電極38に接続されている可変抵抗25の抵抗値制御によって、波長変換素子1の入出力特性を調整している。
【0158】
波長変換素子駆動装置20は、温度制御回路23、可変抵抗制御部24、確率共鳴制御回路26、電圧制御回路28などからヒステリシスの形状を迅速に精度よく制御することによって、波長変換素子1の動作条件を精密に調整することができる。したがって、波長変換素子駆動装置20は、波長変換効果および確率共鳴効果を得るために最適化された波長変換素子1およびこれを含む波長変換モジュール21を駆動することができる。
【0159】
実施の形態2では、光電変換素子33からの受信信号Srの一部を受信電流Ir1としてフィードバック制御回路22に出力している。そのため、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20は、波長変換素子1の出力光Poutの状態をモニターしながら、波長変換素子1の入出力特性を変化させたり安定化させたりすることができる。これにより、波長変換素子1の出力光Poutが所望の波長および確率共鳴効果を得られる最適なヒステリシス形状を有するように出力光Poutを調整しやすくなる。
【0160】
また、波長変換素子駆動装置20において、フィードバック制御回路22、温度制御回路23、可変抵抗制御部24、確率共鳴制御回路26、電圧制御回路28などの制御回路(制御部)を、波長変換モジュール21の外側に接続するのではなく内部に集積してモジュールとして一体化してもよい。この場合、利用者が上記の制御回路の個別に調整をせずに済むので、波長変換素子駆動装置20の利用が簡単になる。
【0161】
また、実施の形態2では、波長変換モジュール21の全体を温度制御機構30で温度調整しているが、波長変換素子1のみを温度調整するようにしても構わない。しかし、波長変換モジュール21全体の温度を調整した方が、一体構成となってコンパクトであり、温度制御も一括して行なえるという利点がある。
【0162】
また、波長変換素子駆動装置20において、温度、抵抗値、電圧および雑音電流の強度を調整することにより、最適なパラメータの算出がやや複雑にはなるものの、波長変換素子1の入出力特性のヒステリシスをより最適な形状に精度よく制御できるという利点がある。また、ヒステリシスの立ち上がりしきい値を細かく上下させて低電流で駆動したり、出力光Poutの振幅をより精密に調整したりできるという利点もある。
【0163】
また、波長変換素子駆動装置20において、可飽和吸収領域35に逆バイアスを印加してキャリアを引き抜くことにより、キャリア寿命に制限されずに信号処理の応答を高速にすることも可能である。
【0164】
なお、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20では、可飽和吸収領域35に電圧を印加する代わりに電流を注入しても、波長変換素子1のヒステリシス形状を制御でき、波長変換効果が得られる。この場合、上述したように逆バイアスをかけてキャリアを引き抜いて応答速度を向上させることはできなくなるが、波長変換素子1の発振しきい値を調整しやすくなるという利点がある。
【0165】
以上のように、実施の形態2によれば、温度、抵抗値、電流、電圧などを介して波長変換素子1の入出力特性のヒステリシス形状を精度よく制御することにより、入力光Pinを所望の波長に変換したり、確率共鳴効果を利用した出力光Poutの劣化を補償したりすることができる。これにより、光増幅および波形整形を行なうために最適な双安定半導体レーザの入出力特性を得ることができる。
【0166】
(実施の形態2の変形例1)
実施の形態2における波長変換素子駆動装置20の変形例である波長変換素子駆動装置20Aは、波長変換素子1に供給される付加雑音電流Inが実施の形態1と同様の付加雑音光Pnに置き換えられた点において、図14の波長変換素子駆動装置20と異なる。したがって、図14と重複する部分の説明はここでは繰り返さない。
【0167】
波長変換素子駆動装置20Aにおいても、入力光Pinの波長を所望の波長に変換し、出力光Poutの劣化を補償して増幅することで、ビットエラーレートが低減された出力光Poutが得られる。この場合、確率共鳴制御回路26からの制御電流によって雑音光を発生させる光源が必要になるが、波長変換素子1の入力光Pinの強度とヒステリシスのしきい値との関係を制御しやすくなるという利点がある。
【0168】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】この発明の実施の形態1による波長変換素子1の共振器側面の概略的な構成を示した断面図である。
【図2】「1」または「0」の2値を持つ劣化した光信号P0の時間波形を示した波形図である。
【図3】光信号P0に付加される付加雑音光Pnの時間波形を示した波形図である。
【図4】図2の光信号P0に図3の付加雑音光Pnを付加した入力光Pinの時間波形を示した波形図である。
【図5】この発明の実施の形態1における波長変換素子1の動作特性を説明するための図である。
【図6】図1の活性層2にバルク活性層を用いた場合に入力光Pinが入射する前の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【図7】図1の活性層2にバルク活性層を用いた場合に入力光Pinが入射した後の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【図8】図1の活性層2に量子井戸構造を用いた場合に入力光Pinが入射する前の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【図9】図1の活性層2に量子井戸構造を用いた場合に入力光Pinが入射した後の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【図10】付加雑音光Pnの雑音強度を変化させたときの出力光Poutのビットエラーレート(BER)を示した図である。
【図11】波長変換素子1Aに入射される光信号P0の時間波形を示した波形図である。
【図12】波長変換素子1Aに注入される付加雑音電流Inの時間波形を示した波形図である。
【図13】波長変換素子1Bの入力光Pinと出力光Poutとの入出力特性の一例を示した図である。
【図14】この発明の実施の形態2による波長変換素子駆動装置20の概略的な構成を示した図である。
【図15】従来の双安定型半導体波長変換素子60の構造を示した断面図である。
【図16】図15の双安定型半導体波長変換素子60における入力光PINと出力光POUTとの入出力特性曲線を示した図である。
【図17】従来の波長変換素子70の構造を示した断面図である。
【符号の説明】
【0170】
1,1A,1B,70 波長変換素子、2,43,61a,61b,80 活性層、4,35,62,76 可飽和吸収領域、5,6,34,36 光増幅領域、7 入射面、8 出射面、9 n型InP基板、10〜12,37〜39,65〜68,71,72 p電極、13 p型InPクラッド層、14 n型InPクラッド層、15,41,79,81 n電極、20,20A 波長変換素子駆動装置、21 波長変換モジュール、22 フィードバック制御回路、23 温度制御回路、24 可変抵抗制御部、25 可変抵抗、26 確率共鳴制御回路、27 電流供給部、28 電圧制御回路、29 電圧供給部、30 温度制御機構、31,32,42 ベース、33 光電変換素子、40,44 クラッド層、60 双安定型半導体波長変換素子、63 光ガイド層、64 分布ブラッグ反射型回折格子、69,74,77,82 クラッド層、73 p型キャップ層73、75 活性領域、78 n型基板。
【技術分野】
【0001】
この発明は、波長変換素子および波長変換素子駆動装置に関し、より特定的には、外部からの光信号を波長変換して増幅する波長変換素子およびその駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超大容量光通信時代に向けて、光信号を電気に変換せず光のまま高速に処理する全光処理が推進されるようになってきている。また、複数の波長を処理することで容量を飛躍的に増大させる波長分割多重(WDM)方式が実用化されている。このWDMにおいて、波長ごとに光源や受光器を用意することは、コスト・スペース・消費電力などの面において著しく効率が悪い。
【0003】
そこで、波長変換素子によって所望の波長の光を得る方式が用いられている。こうした光通信向けに、波長を数〜数十nm程度の幅で変換する技術には、以下で述べるように種々の形態がある。
【0004】
非特許文献1は、双安定半導体レーザの共振器内に活性領域、位相調整領域および回折格子を作りつけることで波長変換を行なう波長変換素子を開示している。この波長変換素子を用いた信号処理について以下に説明する。
【0005】
図15は、従来の双安定型半導体波長変換素子60の構造を示した断面図である。
図15を参照して、従来の双安定型半導体波長変換素子60は、活性層61a,61bと、可飽和吸収領域62と、光ガイド層63と、分布ブラッグ反射(DBR)型回折格子64と、p電極65〜68と、クラッド層69,82と、n電極81とを備える。双安定型半導体波長変換素子60は、活性層61aの端面から入射される入力光PINを波長変換し、DBR型回折格子64の端面から出力光POUTを出射する。
【0006】
可飽和吸収領域62は、光増幅領域となる活性層61aおよび活性層61bの間に形成され、可飽和の光吸収作用を有する。活性層61a,61b(活性層61とも総称する)は、双安定半導体レーザとして機能し、入出力特性においてヒステリシス特性を有する。光ガイド層63は、活性層61bの隣に形成され、入射する光の位相をシフトさせる。DBR型回折格子64は、波長変換された光の波長を制御する。
【0007】
クラッド層69,82は、活性層61、可飽和吸収領域62、光ガイド層63およびDBR型回折格子64をはさむように形成されている。クラッド層69上には、活性層61a,61b、可飽和吸収領域62、光ガイド層63およびDBR型回折格子64にそれぞれ独立に電流を注入できるように、p電極65〜68がそれぞれ設けられている。クラッド層82上には、p電極65〜68に対向してn電極81が設けられている。
【0008】
図16は、図15の双安定型半導体波長変換素子60における入力光PINと出力光POUTとの入出力特性曲線を示した図である。
【0009】
図16に示すように、入力光PINの強度が増加していくと、しきい値Pth1で可能和吸収領域62が飽和して光を吸収しなくなる。これにより、双安定半導体レーザとして機能する活性層61が発振して出力光POUTの強度が急激に増大する。この結果、図16の入出力特性曲線上に不連続な変化が現れる。可能和吸収領域62は、いったん飽和すると、光吸収効果が飽和して透明状態となり安定する。このため、図16の入出力特性曲線の傾きが再び連続的になり、入力光PINの強度が増加するにつれて光出力POUTの強度は単調に増加していく。
【0010】
次に、入力光PINの強度を低下させていく。可飽和吸収領域62は、しきい値Pth1を超えていったん発振した後は光を透過する状態となっていて光を吸収しないので、入力光PINの強度をしきい値Pth1まで低下させていっても、まだ発振状態が維持される。しかし、さらに入力光PINの強度を低下させると、しきい値Pth2において光吸収効果が回復し、光出力POUTの強度が急激に減少する。
【0011】
図15,16の双安定型半導体波長変換素子60では、入力光PINによって可飽和吸収領域62を励起させレーザ発振をさせている。このとき、出力光POUTの状態は、入力光PINの状態とは無関係にレーザの共振器モードで決定される。そのため、光ガイド層63およびDBR型回折格子64に電流を注入することにより、出力光POUTの波長を制御することができる。
【0012】
特許文献1は、半導体レーザの活性層の一部に活性層のバンドギャップエネルギー以下のバンドギャップエネルギーを有する可飽和吸収領域を形成して、入力光と出力光との波長を変換する技術を開示している。この波長変換技術について以下に説明する。
【0013】
図17は、従来の波長変換素子70の構造を示した断面図である。
図17を参照して、従来の波長変換素子70は、p電極71,72と、p型キャップ層73と、クラッド層74,77と、活性領域75と可飽和吸収領域76とを含む活性層80と、n型基板78と、n電極79とを備える。波長変換素子70は、可飽和吸収領域76に入射される入力光PIN0を波長変換し、活性領域75および可飽和吸収領域76から出力光POUT1,POUT2を出射する。
【0014】
クラッド層74,77は、活性層80をはさむように形成されている。クラッド層74上には、p型キャップ層73が形成されている。p型キャップ層73上には、活性領域75および可飽和吸収領域76にそれぞれ独立に電流を注入できるように、p電極71,72がそれぞれ設けられている。クラッド層77上には、n型基板78が形成されている。n型基板78上には、p電極71,72に対向してn電極79が設けられている。
【0015】
半導体レーザの発振波長域は、活性層のバンドギャップエネルギーで決まる。バンドギャップエネルギーの値は、活性層を構成する材料の組成によって決定される。波長変換素子70では、入力光PIN0によって励起される可飽和吸収領域76の組成、および励起されたことで発振し出力光POUT1,POUT2を出射する活性層80の組成を調整しながら作製される。波長変換素子70では、可飽和吸収領域76と活性層80とで発振波長域が異なるため、入力光PIN0と出力光POUT1,2とで波長を変えることができる。したがって、入力光PIN0のパワーが一定値以上であれば、ある波長の入力光PIN0が、活性層80の組成によって決まる一定波長の出力光POUT1,POUT2に変換されることになる。
【特許文献1】特開平1−235393号公報
【非特許文献1】山腰 茂伸,「波長変換レーザー」,O plus E,1989年10月,No.119,p.142−146
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
図15,16の双安定型半導体波長変換素子60は、光ガイド層63およびDBR型回折格子64を集積してp電極65〜68から電流を注入することで、所望の波長を持つ単一モードの出力光POUTを得ている。
【0017】
しかしながら、双安定型半導体波長変換素子60では、p電極65〜68からの電流注入によって半導体レーザを発振寸前の状態にしておき、入力光PINの入射によって出力光POUTを励起する。そのため、入力光PINが劣化して微弱な信号になっている場合には、より大きな一定電流を注入せねばならず、消費電力が大きくなってしまう。
【0018】
超高速光通信においては、信号が光ファイバの中で幾度も内壁に反射しながら進む。そのため、反射時の吸収損失や散乱損失により、反射するたびに光信号の強度が弱くなるという課題がある。光信号の強度が弱くなると、信号波形が崩れて信号の品質を表わす信号対雑音比(S/N比)が低下し、光信号の伝送品質が低くなる。この伝送損失は、反射の回数が多いほど、すなわち伝送距離が長いほど大きくなる。伝送損失の増大は、伝送距離を制限することにつながる。
【0019】
さらに、光ファイバ内だけでなく、中継機やスイッチなど多くの装置を経由する過程でも、様々な要因により光信号は劣化していく。光信号の劣化は、ビット誤り率(BER:ビットエラーレート)が増大する大きな原因となる。よって、微弱な信号でも波長変換でき、かつ光増幅できる波長変換素子の開発が課題となる。しかし、図15,16の双安定型半導体波長変換素子60では、劣化した微弱な信号を波長変換するのに大きな消費電力を必要とする。
【0020】
また、双安定型半導体波長変換素子60では、可飽和吸収領域62に入力光PINを入射している。この場合、可飽和吸収領域62が飽和しやすくなるため、図16のヒステリシスにおける幅および段差が小さくなる。ゆえに、双安定型半導体波長変換素子60は、ヒステリシス形状による光増幅効果を得にくくなる上、入力光PINの雑音によるリップルを受けて出力光POUTの強度変化がヒステリシスを上下する。その結果、劣化した波形が出力光POUTの強度変化にそのまま反映されてしまい、ビットエラーレートを低減しづらくなる。
【0021】
また、双安定型半導体波長変換素子60では、活性層61a,61b、可飽和吸収領域62、光ガイド層63、およびDBR型回折格子64を作り付けねばならず、特に、DBR型回折格子64は発振波長を制御するために精度よく作製する必要がある。このため、双安定型半導体波長変換素子60の作製手順が複雑となり、歩留まりが悪くなってしまうという課題がある。
【0022】
さらに、双安定型半導体波長変換素子60では、バルク型の活性層61を用いている。そのため、光の利得スペクトルの線幅が広がっており、波長ごとの利得が小さい。そのため、双安定型半導体波長変換素子60は、入力光PINの受信の感受率が悪くなる。また、入力光PINの強度に比べて出力光POUTの強度が得られないため、波長の変換効率が低くなる。
【0023】
また、図17の波長変換素子70では、活性領域75および可飽和吸収領域76という組成の異なる2つの領域を同一層内に予め作製しておく必要がある。このため、波長変換素子70の作製においては、結晶成長の手順が複雑となり、歩留まりが悪くなる。
【0024】
この発明は、上記の諸問題を解決するためになされたものであり、その目的は、消費電力が小さく、波長の変換効率を高めることが可能な波長変換素子および波長変換素子駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この発明は、光信号の波長を変換する波長変換素子であって、光増幅領域および可飽和吸収領域を含む活性層と、電流が注入されおよび/または電圧が印加される第1の極性の電極と、前記第1の極性の電極に対して設けられる第2の電極とを備える。前記第1の極性の電極および前記第2の極性の電極の少なくとも一方は、前記光増幅領域と前記可飽和吸収領域とに対して独立に電流を注入できるように分割されている。前記光増幅領域に注入される注入電流の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。前記活性層は、前記光信号を含む入力光を受けて、前記入力光の波長が変換され振幅が増幅された出力光を出射する。
【0026】
好ましくは、前記入力光に付加される雑音光が前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に入射され、前記雑音光の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。
【0027】
好ましくは、前記雑音光の最大値と最小値との差は、前記光信号の振幅の1/10以下である。
【0028】
好ましくは、前記雑音光は、ランダムな強度変換を有する。
好ましくは、前記第1の極性の電極を通じて雑音電流が前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に注入され、前記雑音電流の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。
【0029】
好ましくは、前記雑音電流の最大値と最小値との差は、前記注入電流の振幅の1/10以下である。
【0030】
好ましくは、前記雑音電流は、ランダムな強度変換を有する。
好ましくは、前記光増幅領域の利得スペクトルと前記可飽和吸収領域の吸収スペクトルとを合計した全体利得スペクトルを前記入力光の波長と合わせ、前記光増幅領域の利得スペクトルを前記出力光の波長と合わせるように、前記光増幅領域に注入される注入電流の強度が調整される。
【0031】
好ましくは、前記光増幅領域の利得スペクトルと前記可飽和吸収領域の吸収スペクトルとを合計した全体利得スペクトルを前記入力光の波長と合わせ、前記光増幅領域の利得スペクトルを前記出力光の波長と合わせるように、前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度が調整される。
【0032】
好ましくは、前記活性層は、量子井戸構造を有する。
好ましくは、前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に不純物が添加され、前記不純物の濃度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。
【0033】
好ましくは、前記波長変換素子は、入出力特性がヒステリシスを示す双安定半導体レーザである。
【0034】
好ましくは、前記波長変換素子は、入出力特性が不連続性を示す半導体レーザである。
好ましくは、前記光増幅領域は、前記可飽和吸収領域の両側にそれぞれ配置される第1および第2の光増幅領域を含む。前記第1および第2の光増幅領域の一方の端面から前記光信号が入射され、前記第1および第2の光増幅領域の他方の端面から前記出力光が出射される。
【0035】
好ましくは、前記可飽和吸収領域の共振器方向に占める長さの割合は、1%以上であり、かつ50%未満である。
【0036】
この発明の他の局面によれば、入力光を含む入力信号を受けて波長が変換された出力光を出力する波長変換素子を駆動する波長変換素子駆動装置であって、光信号の波長を変換する前記波長変換素子と前記出力光を検出して受信信号を出力する光電変換素子とを含む波長変換モジュールと、前記受信信号を受けて、前記波長変換素子の入出力特性を調整するための制御信号を出力するフィードバック制御回路とを備える。波長変換素子は、光増幅領域および可飽和吸収領域を含む活性層と、電流が注入されおよび/または電圧が印加される第1の極性の電極と、前記第1の極性の電極に対して設けられる第2の電極とを備える。前記第1の極性の電極および前記第2の極性の電極の少なくとも一方は、前記光増幅領域と前記可飽和吸収領域とに対して独立に電流を注入できるように分割されている。前記光増幅領域に注入される注入電流の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される。前記活性層は、前記光信号を含む入力光を受けて、前記入力光の波長が変換され振幅が増幅された出力光を出射する。
【0037】
好ましくは、前記フィードバック制御回路からの制御信号に従って前記波長変換素子の温度を制御する温度制御回路をさらに備える。前記波長変換モジュールは、前記温度制御回路からの制御信号を受けて前記波長変換素子を含む前記波長変換モジュールの温度を調整する温度制御機構をさらに含む。
【0038】
好ましくは、前記温度制御機構は、前記波長変換素子の温度を検知し、該温度検知信号を前記フィードバック制御回路に出力するサーミスタを有する。
【0039】
好ましくは、前記温度制御機構は、前記温度制御回路からの制御信号を受けて、前記波長変換素子を昇温または冷却させるペルチェクーラーを有する。
【0040】
好ましくは、前記波長変換素子に接続されている可変抵抗と、前記フィードバック制御回路からの制御信号に従って前記可変抵抗の抵抗値を制御する可変抵抗制御部とをさらに備える。
【0041】
好ましくは、前記フィードバック制御回路は、前記波長変換素子の可飽和吸収領域から流れる電流を前記可変抵抗を介してモニターする。
【0042】
好ましくは、前記受信信号を受けて、確率共鳴効果が得られるように雑音が付加された電流を前記波長変換素子に供給するための制御信号を出力する確率共鳴制御回路と、前記確率共鳴制御回路からの制御信号を受けて、前記波長変換素子の入出力特性を調整するための電流を前記波長変換素子に供給する電流供給部とをさらに備える。
【0043】
好ましくは、前記波長変換素子の入出力特性を調整するための光を前記波長変換素子に供給するための光源をさらに備える。
【0044】
好ましくは、前記光源は、前記受信信号を受けて、確率共鳴効果が得られるように雑音が付加された光を前記波長変換素子に供給する。
【0045】
好ましくは、前記フィードバック制御回路からの制御信号に基づいて、前記波長変換素子の可飽和吸収領域に印加される電圧を制御する電圧制御回路と、前記電圧制御回路からの制御信号に従って前記波長変換素子に電圧を供給する電圧供給部とをさらに備える。
【0046】
好ましくは、前記受信信号に基づいて、前記入力光が前記波長変換素子の立ち上がりしきい値および立下がりしきい値を上下するように調整された電流を前記波長変換素子に供給する電流供給部をさらに備える。
【0047】
好ましくは、前記光電変換素子は、前記波長変換モジュールと同一基板上に集積化されている。
【発明の効果】
【0048】
この発明によれば、消費電力を小さくでき、波長の変換効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0050】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による波長変換素子1の共振器側面の概略的な構成を示した断面図である。
【0051】
図1を参照して、実施の形態1の波長変換素子1は、活性層2と、n型InP(インジウムリン)基板9と、n型InPクラッド層14と、p型InPクラッド層13と、p電極10〜12と、n電極15とを備える。n型InP基板9上に、n型InPクラッド層14が形成されている。n型InPクラッド層14上に、活性層2が形成されている。
【0052】
活性層2は、InGaAsP(インジウムガリウム砒素リン)から構成される量子井戸構造を有し、可飽和吸収領域4と、光増幅領域5,6とを含む。図1に模式的に示すように、量子井戸構造とは、半導体薄膜を複数層積層することで、電子および正孔の厚さ方向の運動を制限した構造をいう。可飽和吸収領域4および光増幅領域5,6の量子井戸構造は、InGaAsPの組成・層厚ともに同一の構造である。光増幅領域5,6は、波長変換素子1の共振器側面から見て、可飽和吸収領域4の両側にそれぞれ設けられている。光増幅領域5は、入力光Pinが入射される入射面7を有する。光増幅領域6は、出力光Poutが出射される出射面8を有する。
【0053】
活性層2上に、p型InPクラッド層13が形成されている。p型InPクラッド層13上に、p電極10〜12が設けられている。p電極10は、可飽和吸収領域4に対して設けられており、p電極11,12は、光増幅領域5,6に対してそれぞれ設けられている。p電極10〜12に対向して、n型InP基板9上にn電極15が設けられている。
【0054】
光増幅領域5,6には、p電極11,12を介して電流がそれぞれ注入される。可飽和吸収領域4には、p電極10を介して、光増幅領域5,6とは独立に電圧が印加される。入射面7から入射される入力光Pinは、「1」または「0」の2値の光強度からなる光信号に白色雑音の雑音光を付加して生成されている。
【0055】
可飽和吸収領域4および光増幅領域5,6は、波長変換素子1が双安定状態の半導体レーザとなる条件で構成されている。光増幅領域5,6へ電流を注入すると、波長変換素子1は双安定状態となって動作する。共振器方向における可飽和吸収領域4の長さは、たとえば、共振器長さ全体の約10%としている。
【0056】
実施の形態1の波長変換素子1は、活性層2が可飽和吸収領域4および光増幅領域5,6の3つに分割されているのに合わせて、p電極10〜12もそれぞれ3つに分割されている。つまり、波長変換素子1は、可飽和吸収領域4および光増幅領域5,6にそれぞれ注入される電流の制御をより独立に行ないやすい構造となっている。
【0057】
これにより、可飽和吸収領域4を流れる電流と光増幅領域5,6を流れる電流とが互いに干渉してしまうのを回避することができる。なお、図1ではn電極15が分割されていない例を示しているが、これは一例であり、n電極15もp電極10〜12に合わせて分割してもよい。この場合、波長変換素子1の製造時に電極分割の工程が増えるが、可飽和吸収領域4を流れる電流と光増幅領域5,6を流れる電流とが互いに干渉してしまうのをより確実に回避することができる。
【0058】
次に、波長変換素子1の動作について説明する。以下では、非周期的でランダムな強度変化を持ち、光信号に対する雑音として活性層に意図的に注入する光を「付加雑音光」と称し、伝送路等に起因する雑音とは区別している。
【0059】
図2〜4は、この発明の実施の形態1における波長変換素子1の活性層2への入力光Pinがどのように生成されるかを説明するための図である。
【0060】
図2は、「1」または「0」の2値を持つ劣化した光信号P0の時間波形を示す。図3は、付加雑音光Pnの時間波形を示す。以下では、付加雑音光Pnの最大値と最小値との差分ΔPnを付加雑音光Pnの雑音強度と呼ぶ。図4は、図2の光信号P0に図3の付加雑音光Pnを付加した入力光Pin=P0+Pnの時間波形を示している。こうして生成された入力光Pinは、図1の波長変換素子1の活性層2へと注入される。
【0061】
図5は、この発明の実施の形態1における波長変換素子1の動作特性を説明するための図である(図16の説明も参照)。
【0062】
図5において、(a)は図1の波長変換素子1における入力光−光出力特性、(b)は図4で説明した入力光Pinの時間波形、(c)は(b)の入力光Pinを波長変換素子1に注入した結果得られる出力光Poutの時間波形をそれぞれ示している。図5(a)において、横軸は入力光、縦軸は入力光に応じて得られる光出力をそれぞれ表わす。
【0063】
図5(a)において、PthONは、実線A1で示したヒステリシス下部の状態から破線B1で示したヒステリシス上部へ光出力の状態が移行する光強度、すなわちヒステリシスの立ち上がり閾値を示している。また、PthOFFは、ヒステリシス上部B1からヒステリシス下部A1へ移行するときの光強度、すなわちヒステリシスの立下り閾値を示している。ヒステリシスの立ち上がり閾値PthONおよび立下り閾値PthOFFは、図2および図4においても示されている。
【0064】
図2を参照して、付加雑音光Pnを印加する前の光信号P0の強度は、最大値がヒステリシスの立ち上がり閾値PthONより小さくなるほど劣化している。そのため、図2の光信号P0を図1の波長変換素子1の活性層2に注入しただけでは、光出力は図5(a)の入力光−光出力特性曲線上でヒステリシス下部A1に留まり、ヒステリシス上部B1へと移行することができない。
【0065】
図2の光信号P0に図3の付加雑音光Pnを印加した入力光Pinは、図4に示すように、光信号P0の最大値「1」近傍で光強度がヒステリシスの立ち上がり閾値PthONを越える。このとき、光出力は図5(a)の入力光−光出力特性曲線上でヒステリシス上部B1へ移行する。光信号P0の最大値を過ぎると再びPthON以下となり、さらに最小値「0」近傍ではPthOFF以下となる。このとき、光出力は図5(a)の入力光−光出力特性曲線上でヒステリシス下部A1へ移行する。
【0066】
このように、入力光Pinが立ち上がり/立ち下がり閾値を超えることによって、光出力がヒステリシスの上下を移行する。これにより、出力光Poutの光強度が急激に増減する。その結果、図5(c)に示すように、光信号P0の「1」および「0」が強調された、振幅の大きい出力光Poutを得ることができる。付加雑音光Pnは、光信号P0に付加される際、出力光Poutが伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果を得られるような雑音強度を有するように適度に調整される。
【0067】
なぜなら、付加雑音光Pnの雑音強度が小さすぎると、光出力がヒステリシスの上部へ移行することが出来ず、伝送路等に起因するビットエラーレートを低減するために必要な大きさの振幅を持つ出力光Poutを得られないからである。また、付加雑音光Pnの雑音強度が大きすぎると、光信号P0の「1」または「0」とは無関係に光出力がヒステリシスの上部へ移行するため、出力光Poutの強度変化がランダムになってしまい、ビットエラーレートを低減できないためである。
【0068】
このように、付加雑音光Pnは、ビットエラーレートの低減効果を得られるような雑音強度に適度に調整されて、光信号P0とともに、図1の波長変換素子1の光増幅領域5,6に注入される。波長変換素子1の立ち上がり閾値PthONの値は、光信号P0だけを光増幅領域5,6に注入しても伝送路等に起因する雑音を低減できない程度の値に調整される。すなわち、立ち上がり閾値PthONの値は、光信号P0だけを光増幅領域5,6に注入したときに得られる光出力が、ヒステリシス下部に対応した微小な値しか得られない程度に調整される。
【0069】
また、付加雑音光Pnの雑音強度を適度に調節して光信号P0に付加することにより、入力光Pinの値を、光信号P0の値を中心値としてランダムに変化させている。
【0070】
このとき、光信号P0の最大値および/または最小値と、光信号P0とともに光増幅領域5,6に注入される付加雑音光Pnの強度とが確率的に同期することで、光信号P0が「0」または「1」となるタイミングに光出力がヒステリシスの上下に移行する。これにより、ヒステリシス上下の強度差に応じて出力光の出力振幅が増大し、振幅の大きい出力光Poutを得ることができる。
【0071】
このように、雑音を適度に付加することで信号のS/N比が向上する現象は「確率共鳴」と呼ばれている。
【0072】
確率共鳴現象が起きているとき、波長変換素子1は、ヒステリシスの上部と下部とで発振波長が異なっているため波長変換素子として機能する。この波長変換の仕組みを図6〜9を参照して説明する。
【0073】
図6は、図1の活性層2にバルク活性層を用いた場合に入力光Pinが入射する前の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【0074】
図6に示すように、光増幅領域5,6の利得スペクトルGS1(点線)は、ピークPgs1において最高値をとり、左右がほぼ対称的となる。可飽和吸収領域4の吸収スペクトルAS1(破線)は、利得スペクトルGS1のピークPgs1近辺から吸収率が低下してゼロに漸近する。
【0075】
図1の波長変換素子1において、可飽和吸収領域4と光増幅領域5,6とでは、注入される電流量が異なっている。より注入電流の大きい光増幅領域5,6では、キャリアが多く存在するため、プラズマ効果によって利得スペクトルが可飽和吸収領域4に比べて長波長側に分布している。そのため、図6に示すように、吸収スペクトルAS1と利得スペクトルGS1とでは、ピーク波長が異なっている。
【0076】
スペクトルGAS1は、入力光Pinが入射する前において、利得スペクトルGS1と吸収スペクトルAS1とを合計した全体利得スペクトルである。全体利得スペクトルGAS1(実線)は、ピークPgas1において最高値をとり、吸収スペクトルAS1の影響で左右が非対称となる。波長変換素子1は、全体利得スペクトルGASのピークPgas1の波長において、最も素子の感受率が高くなっている。よって、ピークPgas1を入力光Pinの波長と合わせておくことにより、入力光Pinを最も効率よくキャリアに変換することができる。
【0077】
図7は、図1の活性層2にバルク活性層を用いた場合に入力光Pinが入射した後の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【0078】
図7に示すように、光増幅領域5,6の利得スペクトルGS10(点線)は、図6の利得スペクトルGS1と同様に、ピークPgs1において最高値をとり、左右がほぼ対称的となる。入力光Pinが入射した後は、可飽和吸収領域4が飽和して光を透過させる状態となるので、可飽和吸収領域4の吸収スペクトルはゼロに保たれる。その結果、入力光Pinが入射した後では、図7に示すように、利得スペクトルGS10のみが全体利得スペクトルに寄与し、波長ピークもPgas1からPgs1にシフトする。
【0079】
すなわち、入力光Pinが入射した後における図7の(全体)利得スペクトルGS10の波長ピークは、入力光Pinが入射する前における図6の光増幅領域5,6の利得スペクトルGS1と同じくPgs1となる。このピークPgs1において発振波長を有する出力光Poutの光パワーが最も大きくなる。つまり、ピークPgas1を入力光Pinの波長と合わせておき、ピークPgs1を出力光Poutの波長と合わせておくことによって、活性層2がバルク活性層の波長変換素子1は、入力光Pinの発振波長を効率よく出力光Poutの発振波長に変換することができる。
【0080】
図8は、図1の活性層2に量子井戸構造を用いた場合に入力光Pinが入射する前の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【0081】
図8に示すように、光増幅領域5,6の利得スペクトルGS2(点線)は、ピークPgs2において最高値をとり、左右がほぼ対称的となる。可飽和吸収領域4の吸収スペクトルAS2(破線)は、利得スペクトルGS2のピークPgs2近辺から吸収率が低下してゼロに漸近する。利得スペクトルGS2と吸収スペクトルAS2とを合計した全体利得スペクトルGAS2(実線)は、ピークPgas2において最高値をとり、吸収スペクトルAS2の影響で左右が非対称となる。
【0082】
図8では、活性層2に量子井戸構造を用いているため、図6のバルク活性層の場合と比べて、利得スペクトルGS2および吸収スペクトルAS2の幅が狭くなっている。その一方、図8の量子井戸構造では、ピーク波長Pgs2とPgas2とが区別できるほど明確に分かれて存在しており、効率のよい波長変換が可能となる。逆に、図6のバルク活性層では、図8と比べて、利得スペクトルGS1および吸収スペクトルAS1の幅が広がっており、かつピーク波長Pgs1とPgas1とは明確に分かれていない。そのため、図6のバルク活性層では、図8と比べて波長変換の効率は下がる。この発明の実施の形態では、図1の活性層2に量子井戸構造を用いている。
【0083】
図9は、図1の活性層2に量子井戸構造を用いた場合に入力光Pinが入射した後の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【0084】
図9に示すように、光増幅領域5,6の利得スペクトルGS20(点線)は、図8の利得スペクトルGS2と同様に、ピークPgs2において最高値をとり、左右がほぼ対称的となる。図7で説明したように、入力光Pinが入射した後は、可飽和吸収領域4が飽和して光を透過させる状態となるので、可飽和吸収領域4の吸収スペクトルはゼロに保たれる。その結果、入力光Pinが入射した後では、利得スペクトルGS20のみが全体利得スペクトルに寄与し、波長ピークもPgas2からPgs2にシフトする。
【0085】
すなわち、入力光Pinが入射した後における図9の(全体)利得スペクトルGS20の波長ピークは、入力光Pinが入射する前における図8の光増幅領域5,6の利得スペクトルGS2と同じくPgs2となる。このピークPgs2において発振波長を有する出力光Poutの光パワーが最も大きくなる。つまり、ピークPgas2を入力光Pinの波長と合わせておき、ピークPgs2を出力光Poutの波長と合わせておくことによって、活性層2が量子井戸構造の波長変換素子1は、入力光Pinの発振波長をより効率的に出力光Poutの発振波長に変換することができる。
【0086】
入力光Pinおよび出力光Poutで発振波長のピークを変えるには、波長変換素子1におけるヒステリシス形状を制御すればよい。ヒステリシス形状は、波長変換素子1への注入電流量、印加電圧、温度、不純物のドーピング量、接続抵抗知などのパラメータを変えて制御することができる。これにより、所望の波長変換効率が得られる。
【0087】
以上のように、実施の形態1の波長変換素子1は、微弱な光信号P0を増幅させることで、大きい振幅および高い光強度を有し、所望の波長を有する出力光Poutを得ることができる。これにより、出力光Poutを入力光Pinから所望の波長に変換でき、S/N比も向上する。その結果、伝送路等に起因する出力光Poutのビットエラーレートを低減することができる。
【0088】
さらに、図1の波長変換素子1では、光増幅領域5,6と可飽和吸収領域4とで独立に電流を注入しているので、電流注入によってヒステリシスを制御できる。これにより、出力光Poutの波長を所望の波長に調整したり、入力光Pinの波長に可飽和吸収領域4の吸収スペクトルのピークを合わせて波長の変換効率を向上させたりできる。また、出力光Poutの波長に光増幅領域5,6の利得スペクトルのピークに合わせて波長の変換効率を高めることができる。また、立ち上がり閾値PthONを低くしてより低電流で駆動したり、出力光Poutの振幅を調整したりできる。
【0089】
なお、付加雑音光Pnの代わりにクロック光または周期信号光を光信号P0に付加してヒステリシスの上部に移行させようとした場合、位相および周期が光信号P0と完全に同一か正確に倍数になっていて両者の最大値が同期しなければ、大きな振幅の出力光Poutは得られない。よって、回路の熱雑音などで光信号P0の波形がゆらぐと、伝送路等に起因する雑音の低減効果は減少してしまう。
【0090】
これに対し、ランダムな強度変化を持つ付加雑音光Pnは様々な周波数成分を有するので、信号波形のゆらぎにも強くなり、伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果を維持できる。また、周期信号光よりも雑音光の方が消費電力が少なくて済む。
【0091】
また、従来の双安定型波長変換素子のように、微弱な信号でもレーザを励起できるようにより大きな一定電流を注入するよりも、本願発明のように付加雑音光Pnを発生させる方が消費電力が少なくて済む。
【0092】
図10は、付加雑音光Pnの雑音強度を変化させたときの出力光Poutのビットエラーレート(BER)を示した図である。
【0093】
図10に示すように、BERは、最適な雑音強度Dmにおいて最小となる。実施の形態1では、この最適な雑音強度Dmを有する付加雑音光Pnを光信号P0に付加している。これにより、適度な付加雑音光Pnが微小な光信号P0をヒステリシスの上部に押し上げ、振幅が大きくS/N比が向上した出力光Poutの発生を可能にしている。実施の形態1では、出力光PoutのBERが最小である最適な雑音強度Dmを有するように、付加雑音光Pnを調整している。
【0094】
このように、実施の形態1の波長変換素子1を用いれば、素子の発振閾値以下にまで弱まった劣化した光信号P0も受信でき、入力光Pinを所望の波長に変換でき、さらに、増幅して2値が強調された出力光Poutを得ることができる。これにより、出力光PoutのS/N比が向上し、所望の波長に変換されるとともに伝送路等に起因する雑音が低減された出力光Poutを低電力で得ることができる。
【0095】
また、回路雑音や熱によって生じる信号の揺らぎにも強い付加雑音光Pnを用いるので、駆動時のパラメータ設定を広く取ることができる。これにより、伝送路等に起因する雑音の低減を容易に行なうことができ、その結果、出力光Poutのビットエラーレートを低減することが可能となる。
【0096】
なお、図1において、入射面7と出射面8とを別個に作らずとも、ビットエラーレートが低減された出力光Poutを得ることは可能である。しかしながら、図1のように入射面7と出射面8とを作り分けた方が、入力光Pinと出力光Poutとをそれぞれ制御しやすく、光学系の光軸の調整も容易となるので望ましい。
【0097】
また、図1において、可飽和吸収領域4の共振器方向に占める長さは、約10%でなくともビットエラーレートの低減効果を得ることは可能である。
【0098】
しかし、可飽和吸収領域4の共振器方向に占める長さの割合が小さくなると、それにともなって波長変換素子1の双安定状態が実現しにくくなる。特に、当該割合が1%未満で双安定状態の半導体素子を作製しようとすると、作製工程の手間や拡散材料の選定等が著しく困難となる。したがって、可飽和吸収領域4の共振器方向に占める長さの割合は、1%以上であることが望ましい。
【0099】
逆に、可飽和吸収領域4の共振器方向に占める長さの割合が大きくなると、ヒステリシスの形状を最適にするために注入電流を増やす必要が生じるので発振閾値も上昇する。特に、当該割合が50%より大きくなると、消費電力が著しく増大し、その結果、発熱が大きくなる。さらに、ヒステリシスの形状が最適でない場合には、伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果が減少し、出力光Poutの増幅も低減する。
【0100】
これらの理由により、共振器方向における可飽和吸収領域4の長さの割合は、1%以上で、かつ50%以下であることが望ましい。これにより、双安定状態を満足しやすくなり、かつ発振閾値を低くでき、またヒステリシスの形状も好適に決定できる。また、消費電力が少なくかつ少ない発熱で伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果を得やすくなり、さらに素子の作製条件を満たしやすくなるという利点がある。
【0101】
また、図10を参照して、付加雑音光Pnの強度は、BERが最小である最適雑音強度Dmとなるように調整されている。しかしながら、付加雑音光Pnの強度はこれに限るものではなく、得られる出力光Poutが、光通信で必要とされるBERの値を満たす範囲の雑音強度であればかまわない。その場合、付加雑音光Pnの雑音強度が波長変換素子1の入力光Pinの振幅の1/10以下であれば、ビットエラーレートが低減された出力光Poutが得られる。
【0102】
付加雑音光Pnの強度が強すぎると、出力光Poutの波形が崩れるので雑音の低減は起こらなくなる。少なくとも、付加雑音光Pnの雑音強度ΔPnが光信号P0の振幅より大きい場合、光信号P0の波形および周期を再現できなくなるため、光信号P0の検出ができなくなる。これに対し、付加雑音光Pnの雑音強度が入力光Pinの振幅の1/10以下であれば、さらに出力光Poutの振幅を大きくでき、BERの値を低減することができる。これにより、伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果を向上できるため、好ましい。
【0103】
なお、実施の形態1では付加雑音光Pnとして白色雑音を用いたが、強度変化が非周期的でランダムであれば、白色雑音でなくともビットエラーレートの低減効果を得ることは可能である。
【0104】
また、図1では3つのp電極10〜12を設ける場合について説明したが、電極の数はこれに限るものではなく、2つ以上のp電極を用いた双安定状態を有する他の波長変換素子についても、同様に伝送路等に起因するビットエラーレートの低減効果を得ることが可能である。しかし、図1に示した波長変換素子1のように、2つの光増幅領域5,6を設け、それぞれに対応したp電極11,12を作る方が、入力光Pinと出力光Poutとをそれぞれ制御しやすくなるというメリットがある。
【0105】
また、図1において、光増幅領域5,6ではなく可飽和吸収領域4に付加雑音光Pnを注入しても、波長変換効果を得ることができ、ビットエラーレートが低減された光出力を得ることができる。この場合、可飽和吸収領域4が飽和しやすくなるので光注入量の上限が低くなり、付加雑音光Pnの雑音強度を好適に決定しづらくなるものの、可飽和吸収領域4への付加雑音光Pnの注入によってヒステリシス形状を調整しやすくなる。
【0106】
また、付加雑音光Pnは、光信号P0に付加してから波長変換素子1の光増幅領域5,6に注入せずとも、光信号P0とは独立に光増幅領域5,6に注入してもよい。その場合、回路が余分に必要になり光軸の調整を要するものの、雑音強度の調整がやりやすくなるという利点がある。
【0107】
また、波長変換素子1は、InGaAsP系の半導体だけでなく、たとえば、AlGaAs(アルミニウムガリウム砒素)系、InP(インジウムリン)系、GaInNAs(ガリウム窒化インジウム砒素)系、GaN(窒化ガリウム)系、またはII−VI系の半導体など、他の材料を用いた半導体レーザであってもよい。
【0108】
また、実施の形態1の波長変換素子1において、可飽和吸収領域4に逆バイアスを印加してキャリアを引き抜くことにより、キャリアの再結合寿命に制限されずに信号処理の応答を高速にすることも可能である。
【0109】
また、図1の波長変換素子1において、可飽和吸収領域4に電圧を印加する代わりに電流を注入しても、所望のヒステリシス形状および波長変換効果を得られる。この場合、可飽和吸収領域4に逆バイアスをかけてキャリアを引き抜くことができなくなるが、発振しきい値を調整しやすくなるという利点が得られる。
【0110】
また、波長変換素子1の活性層2のうち可飽和吸収領域4の部分には、キャリア寿命を調整するために不純物としてSiを添加しても構わない。この場合、Siの添加量を調節することによって発振波長域を変えることができるため、所望の発振波長域を得ることが可能である。
【0111】
また、光信号P0は2値信号としているが、NRZ(Non-Return to Zero)符号およびRZ(Return to Zero)符号のいずれを用いた信号でもよく、またその他の方式の信号であってもよい。
【0112】
また、波長変換素子1から出力される光出力Poutを受光素子で受光してもよい。この場合、受光した光出力Poutの一部を光電変換素子などで電気信号に変換して利用できるというメリットがある。さらに、波長変換素子1と上記の受光素子とを同一基板上に集積すれば、個別に配置するよりもコストダウンとなり、波長変換素子1と当該受光素子との光軸合わせを行なう必要もなくなる。
【0113】
以上のように、実施の形態1によれば、光信号P0に付加雑音光Pnを印加した入力光Pinを双安定状態の波長変換素子1に注入することによって、消費電力が低く、回路への負担が少なく、かつ雑音特性にも優れた出力光Poutを得ることができる。これにより、入力光Pinを所望の波長に変換するとともに、伝送路等に起因した出力光Poutの雑音を低減することができる。その結果、ビットエラーレートが低減された波長変換光を得ることが可能となる。
【0114】
(実施の形態1の変形例1)
実施の形態1における波長変換素子1の変形例である波長変換素子1Aは、付加雑音光Pnが付加雑音電流Inに置き換えられた点において、図1の波長変換素子1と異なる。したがって、図1等と重複する部分の説明はここでは繰り返さない。ここでは、非周期的でランダムな強度変化を持ち、光信号P0に対する雑音として波長変換素子1Aの活性層2に注入される電流を「付加雑音電流」と称する。
【0115】
図11,12は、波長変換素子1Aの活性層2への光信号P0およびp電極11,12を通じて付加される付加雑音電流Inについて説明するための図である。
【0116】
図11は、波長変換素子1Aに入射される光信号P0の時間波形を示す。図11に示す光信号P0は、図2で説明したのと基本的に同一であり、波長変換素子1Aの立ち上がり閾値PthON以下である。
【0117】
図12は、波長変換素子1Aに注入される付加雑音電流Inの時間波形を示す。付加雑音電流Inには、白色雑音が用いられている。付加雑音電流Inは、波長変換素子1Aの電極11,12を通じて供給される電流とともに、光増幅領域5,6の活性層2へと注入される。
【0118】
付加雑音電流Inは、出力光Poutがビットエラーレートの低減効果を得られるような電流値に適度に調整されている。以下では、付加雑音電流Inの電流値の最大値と最小値との差分を、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInと呼ぶ。
【0119】
図10を参照して、ヒステリシスの立ち上がり閾値PthONは、光信号P0の強度より高くなるように設定されている。そのため、光信号P0を活性層2に注入しただけでは、出力光Poutは、図5(a)の入力光−光出力特性曲線上でヒステリシス下部A1に留まり、ヒステリシス上部B1へと移行することはできない。
【0120】
光信号P0によって波長変換素子1Aの活性層2に注入された光子には、付加雑音電流Inの注入により活性層2にキャリアが注入されて発生した光子が印加される。これにより、光増幅領域5,6の光子が増大し、出力光Poutが立ち上がり閾値PthONを越えやすくなる。
【0121】
このとき、付加雑音電流Inの変動に伴ってキャリアの増加量も変動する。したがって、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInを、光信号P0の「0」または「1」に応じて立ち上がり閾値PthONが上下するように最適に調整することで、所望の波長を有し、大きい振幅を持ち、かつS/N比が向上した出力光Poutが得られる。
【0122】
実施の形態1の変形例1では、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInを、ビットエラーレートの低減効果が最大に得られるよう最適に調整している。その結果、伝送路等に起因する雑音を大きく低減することができる。このとき、光信号P0は波長変換素子1Aの立ち上がり閾値PthON以下で良いので、微弱な光信号P0であっても波長変換し増幅することができる。
【0123】
さらに、波長変換素子1Aでは、光増幅領域5,6と可飽和吸収領域4とでそれぞれ独立に電流が注入されるので、電流注入によってヒステリシスを制御することができる。これにより、出力光Poutの波長を好適に調整したり、立ち上がり閾値PthONを低くしてより低電流で駆動したり、出力光Poutの振幅を調整したりできる。
【0124】
なお、波長変換素子1Aの光増幅領域5,6ではなく可飽和吸収領域4に付加雑音電流Inを注入しても、ビットエラーレートが低減された出力光Poutを得ることは可能である。この場合、可飽和吸収領域4が飽和しやすくなるので注入できる電流値の上限が低くなり、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInを好適に決定しづらいものの、可飽和吸収領域4への付加雑音電流Inの注入によってヒステリシス形状を調整しやすくなる。
【0125】
可飽和吸収領域4への付加雑音電流Inの注入量に応じて、波長変換素子1Aの閾値PthONまたはPthOFFを変動させ調整することができる。したがって、付加雑音電流Inの最大振幅ΔInを、光信号P0の「0」または「1」に応じて立ち上がり閾値PthONが上下するように最適に調整することで、大きい振幅を持ち、所望の波長に変換され、かつS/N比が向上した出力光Poutが得られる。
【0126】
なお、付加雑音電流Inとして白色雑音を用いたが、強度変化が非周期的でランダムであれば、白色雑音でなくともビットエラーレートの低減効果を得ることは可能である。
【0127】
以上のように、実施の形態1の変形例1によれば、付加雑音光Pnの代わりに、付加雑音電流Inを波長変換素子1Aの活性層2へと注入することにより、所望の波長を有し、振幅が増幅され、S/N比が向上された出力光Poutを得ることができる。
【0128】
(実施の形態1の変形例2)
実施の形態1における波長変換素子1の他の変形例である波長変換素子1Bは、双安定状態の半導体素子とは入出力特性の異なる非線形の半導体光素子が用いられている点において、図1の波長変換素子1と異なる。したがって、図1等と重複する部分の説明はここでは繰り返さない。波長変換素子1Bは、たとえばInGaAsP系化合物半導体によって作製されている。
【0129】
図13は、波長変換素子1Bの入力光Pinと出力光Poutとの入出力特性の一例を示した図である。
【0130】
図13に示すように、波長変換素子1Bは、一例として、不連続性を有する入出力特性を示す。波長変換素子1Bの活性層2に電流または光を注入していくと、しきい値Pthで光出力Poutの強度が急峻に立上がる。図13の不連続特性において、立ち上がり前の下部C1および立ち上がり後の上部D1を利用することにより、入力光Pinと出力光Poutとで波長を変換することができる。
【0131】
なお、上記のような入出力特性の不連続性を有する波長変換素子1Bは、たとえば、光増幅領域5,6に対する可飽和吸収領域4の体積比を図1の波長変換素子1よりも小さくするか、一般的な双安定半導体レーザの可飽和吸収領域に適度な電流を注入することによって得られる。
【0132】
以上のように、実施の形態1の変形例2によれば、ヒステリシスを持たず不連続な入出力特性を有する波長変換素子1Bにおいて、入出力特性の立ち上がり前の下部C1および立ち上がり後の上部D1を利用することにより、入力光Pinと出力光Poutとで波長を変換することができる。これにより、変形例2の波長変換素子1Bにも、双安定半導体レーザを用いた実施の形態1の波長変換素子1と同様の機能を持たせることができ、入力光Pinの波長変換、S/N比の向上、波形整形などの効果が得られる。なお、実施の形態1の変形例2は、実施の形態1の変形例1および以下で説明する実施の形態2およびその変形例にも適用することが可能である。
【0133】
[実施の形態2]
図14は、この発明の実施の形態2による波長変換素子駆動装置20の概略的な構成を示した図である。
【0134】
図14を参照して、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20は、波長変換モジュール21と、フィードバック制御回路22と、温度制御回路23と、可変抵抗制御部24と、可変抵抗25と、確率共鳴制御回路26と、電流供給部27と、電圧制御回路28と、電圧供給部29とを備える。可変抵抗25は、位相を含めて制御可能な可変インピーダンス素子であってもよい。
【0135】
波長変換モジュール21は、実施の形態1で説明した波長変換素子1と、温度制御機構30と、ベース31,32,42と、光電変換素子33とを含む。波長変換モジュール21は、入射される入力光Pinを受けて内部で処理し、受信信号Sr、受信電流Ir1,Ir2などを出力する。
【0136】
温度制御機構30は、波長変換モジュール21に備え付けられており、たとえばペルチェクーラーおよびサーミスタから構成されている。温度制御機構30にペルチェクーラーが用いられていると、昇温および冷却の両方が行なえるので、外部の環境温度に関わらず波長変換素子1の温度を安定的に調整することができる。
【0137】
波長変換素子1は、光増幅領域34,36と可飽和吸収領域35とを含む活性層43と、p電極37〜39と、クラッド層40,44と、n電極41とを含む。活性層43は、量子井戸構造を有する。
【0138】
p電極37,39は、それぞれ光増幅領域34,36に対応するようにクラッド層44上に形成されている。p電極37,39は、電流供給部27から出力される付加雑音電流Inを受ける。p電極38は、可飽和吸収領域35に対応するようにクラッド層44上に形成されている。p電極38は、可変抵抗25に接続されており、電圧供給部29から電圧が印加される。n電極41は、クラッド層40とベース42との間に設けられている。n電極41は、電圧供給部29から電圧が印加されるとともに、接地ノードに接続されている。
【0139】
フィードバック制御回路22は、波長変換モジュール21の光電変換素子33から出力される受信電流Ir1を受けて、温度制御回路23および可変抵抗制御部24に制御信号を出力する。温度制御回路23は、フィードバック制御回路22からの制御信号を受けて、温度制御機構30に温度情報を出力する。温度制御機構30は、温度制御回路23からの温度情報に基づいて、波長変換モジュール21内の温度を制御する。
【0140】
可変抵抗制御部24は、フィードバック制御回路22からの制御信号に従って、波長変換素子1のp電極38に接続されている可変抵抗25の抵抗値を調整する。確率共鳴制御回路26は、光電変換素子33から出力される受信電流Ir2を受けて、電流供給部27に制御信号を出力する。電流供給部27は、確率共鳴制御回路26からの制御信号に従って、雑音を含む電流を波長変換素子1のp電極37,39に供給する。電圧制御回路28は、フィードバック制御回路22からの制御信号に基づいて、電圧供給部29に制御信号を出力する。電圧供給部29は、電圧制御回路28からの制御信号に従って、可変抵抗25を介してまたは直接に波長変換素子1のp電極38に電圧を印加する。
【0141】
温度制御回路23は、温度制御機構30に接続されている。温度制御機構30上に、ベース31が設けられている。ベース32,42は、ベース31上に設けられている。波長変換素子1は、ベース42上に搭載されている。光電変換素子33は、ベース32に取り付けられている。
【0142】
次に、波長変換素子駆動装置20の動作およびこれを用いた波長変換素子1の駆動方法について説明する。
【0143】
波長変換素子駆動装置20の波長変換素子1は、光増幅領域34において入力光Pinを受け、p電極37,39からの制御に応じて、光増幅領域36から出力光Poutを出射する。入力光Pinは、「1」または「0」の2値からなり、伝送路等に起因する雑音によって一般に劣化している。
【0144】
フィードバック制御回路22は、光電変換素子33を介して出力光Poutの状態をモニターしている。フィードバック制御回路22は、波長変換素子1の入出力特性を調整するための制御信号を、温度制御回路23、可変抵抗制御部24および電圧制御回路28ににそれぞれ出力する。なお、波長変換素子1の入出力特性は、図5に示されている特性と基本的には同じである。
【0145】
フィードバック制御回路22には、可変抵抗25の抵抗値および温度制御機構30の検出温度などの駆動条件に応じた波長変換素子1の入出力特性のデータが予め入力されている。フィードバック制御回路22は、当該入力データに基づいて、波長変換素子1の入出力特性のヒステリシスが所望の形状となるように、温度制御回路23での温度および可変抵抗制御部24での抵抗値を算出する。
【0146】
温度制御回路23は、フィードバック制御回路22からの制御信号に従って、温度制御機構30の温度を制御する。温度制御機構30は、温度制御回路23からの制御信号に基づいて波長変換素子1の温度を上下させる。
【0147】
波長変換素子1に含まれる半導体利得物質は一般に温度に敏感であるため、波長変換素子1の入出力特性も一般に温度に敏感である。そのため、波長変換素子1を温度制御することによって、波長変換素子1における入出力特性のヒステリシス形状を制御することができる。この波長変換素子1の温度特性により、波長変換素子駆動素子20は、小さい温度変化でも上記のヒステリシス形状を変化させることができる。そのため、制御に時間がかからず、消費電力も少なくて済む。
【0148】
一般に、半導体レーザは、動作温度が高くなると発振波長が長くなる。また、半導体レーザの発振波長は、注入電流または印加電圧によっても制御可能である。よって、波長変換素子駆動装置20は、波長変換素子1の出力波長を温度または電流で変化させ、ヒステリシス形状を抵抗値、印加電圧または注入電流で調整することにより、波長変換素子1の発振波長を制御することができる。
【0149】
可変抵抗制御部24は、フィードバック制御回路22からの制御信号に従って、波長変換素子1の所望の入出力特性が得られるように可変抵抗25の抵抗値を調整する。波長変換素子1は、可変抵抗25の抵抗値の増減によって、可飽和吸収領域35からの電流値が増減する。これにより、可飽和吸収領域35内のキャリア量が変化するので、光吸収効果を制御できる。よって、波長変換素子駆動装置20は、可変抵抗25の値によっても波長変換素子1の入出力特性のヒステリシス形状を制御することができる。
【0150】
電圧制御回路28は、フィードバック制御回路22からの制御信号に従って、電圧供給部29を制御する。電圧供給部29は、電圧制御回路28からの制御信号に基づいて、波長変換素子1に印加する電圧値を上下させる。波長変換素子駆動装置20は、電圧制御回路28および電圧供給部29を用いて波長変換素子1に与える電圧値を制御することで、波長変換素子1の立ち上がりしきい値および/または立下がりしきい値を上下させることができる。これにより、波長変換素子1に入射する入力光Pinの平均光強度が大きく変化した場合にも対応できる。
【0151】
上記のように、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20は、電流制御に加えて、温度制御、可変抵抗値制御および電圧制御によって、波長変換素子1のヒステリシス形状を調整している。波長変換素子駆動装置20は、波長変換を制御し所望の波長を幅広く得るとともに確率共鳴効果を得るために、波長変換素子1のヒステリシス形状を調整して入出力特性を最適化する。
【0152】
確率共鳴制御回路26は、光電変換素子33を介して出力光Poutの状態をモニターしている。確率共鳴制御回路26は、波長変換素子1の入出力特性を調整するための制御信号を電流供給部27に出力する。
【0153】
電流供給部27は、確率共鳴制御回路26からの制御信号に従って、雑音を含む電流をp電極37,39を介して波長変換素子1に注入する。この付加雑音電流Inは、確率共鳴効果によって振幅が増幅されビットエラーレートが低減された出力光Poutが得られるように雑音が調整された電流である。
【0154】
よって、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20は、確率共鳴による入力光Pinの波長変換および波形整形を行なうのに最適なヒステリシス形状の入出力特性で波長変換素子1を作動させることが可能となる。波長変換素子1によって波長変換および波形整形された出力光Poutは、光電変換素子33で検出される。これにより、波長変換素子駆動装置20の波長変換モジュール21は、通常の受信器では検出できないような微弱な信号を検知できる受信器としても機能する。
【0155】
なお、図14のようなp電極37〜39およびn電極41の構成は一例であって、光増幅領域34,36と可飽和吸収領域35とに対して独立に電流を注入できるのであれば、p電極37〜39およびn電極41はどのように分割されていても構わない。また、p電極37〜39からの制御および入力光Pinに応じて出力光Poutを出射できるのであれば、出力光Poutが光増幅領域34または可飽和吸収領域35から出射されても構わない。
【0156】
さらに、可飽和吸収領域35の体積比が活性層43全体の50%以上になると波長変換素子1の消費電力が増大するので、可飽和吸収領域35の活性層43に対する体積比は、できれば50%以下が望ましい。
【0157】
上記のように、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20は、温度、電圧および電流の制御、および可飽和吸収領域35に対して設けられたp電極38に接続されている可変抵抗25の抵抗値制御によって、波長変換素子1の入出力特性を調整している。
【0158】
波長変換素子駆動装置20は、温度制御回路23、可変抵抗制御部24、確率共鳴制御回路26、電圧制御回路28などからヒステリシスの形状を迅速に精度よく制御することによって、波長変換素子1の動作条件を精密に調整することができる。したがって、波長変換素子駆動装置20は、波長変換効果および確率共鳴効果を得るために最適化された波長変換素子1およびこれを含む波長変換モジュール21を駆動することができる。
【0159】
実施の形態2では、光電変換素子33からの受信信号Srの一部を受信電流Ir1としてフィードバック制御回路22に出力している。そのため、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20は、波長変換素子1の出力光Poutの状態をモニターしながら、波長変換素子1の入出力特性を変化させたり安定化させたりすることができる。これにより、波長変換素子1の出力光Poutが所望の波長および確率共鳴効果を得られる最適なヒステリシス形状を有するように出力光Poutを調整しやすくなる。
【0160】
また、波長変換素子駆動装置20において、フィードバック制御回路22、温度制御回路23、可変抵抗制御部24、確率共鳴制御回路26、電圧制御回路28などの制御回路(制御部)を、波長変換モジュール21の外側に接続するのではなく内部に集積してモジュールとして一体化してもよい。この場合、利用者が上記の制御回路の個別に調整をせずに済むので、波長変換素子駆動装置20の利用が簡単になる。
【0161】
また、実施の形態2では、波長変換モジュール21の全体を温度制御機構30で温度調整しているが、波長変換素子1のみを温度調整するようにしても構わない。しかし、波長変換モジュール21全体の温度を調整した方が、一体構成となってコンパクトであり、温度制御も一括して行なえるという利点がある。
【0162】
また、波長変換素子駆動装置20において、温度、抵抗値、電圧および雑音電流の強度を調整することにより、最適なパラメータの算出がやや複雑にはなるものの、波長変換素子1の入出力特性のヒステリシスをより最適な形状に精度よく制御できるという利点がある。また、ヒステリシスの立ち上がりしきい値を細かく上下させて低電流で駆動したり、出力光Poutの振幅をより精密に調整したりできるという利点もある。
【0163】
また、波長変換素子駆動装置20において、可飽和吸収領域35に逆バイアスを印加してキャリアを引き抜くことにより、キャリア寿命に制限されずに信号処理の応答を高速にすることも可能である。
【0164】
なお、実施の形態2の波長変換素子駆動装置20では、可飽和吸収領域35に電圧を印加する代わりに電流を注入しても、波長変換素子1のヒステリシス形状を制御でき、波長変換効果が得られる。この場合、上述したように逆バイアスをかけてキャリアを引き抜いて応答速度を向上させることはできなくなるが、波長変換素子1の発振しきい値を調整しやすくなるという利点がある。
【0165】
以上のように、実施の形態2によれば、温度、抵抗値、電流、電圧などを介して波長変換素子1の入出力特性のヒステリシス形状を精度よく制御することにより、入力光Pinを所望の波長に変換したり、確率共鳴効果を利用した出力光Poutの劣化を補償したりすることができる。これにより、光増幅および波形整形を行なうために最適な双安定半導体レーザの入出力特性を得ることができる。
【0166】
(実施の形態2の変形例1)
実施の形態2における波長変換素子駆動装置20の変形例である波長変換素子駆動装置20Aは、波長変換素子1に供給される付加雑音電流Inが実施の形態1と同様の付加雑音光Pnに置き換えられた点において、図14の波長変換素子駆動装置20と異なる。したがって、図14と重複する部分の説明はここでは繰り返さない。
【0167】
波長変換素子駆動装置20Aにおいても、入力光Pinの波長を所望の波長に変換し、出力光Poutの劣化を補償して増幅することで、ビットエラーレートが低減された出力光Poutが得られる。この場合、確率共鳴制御回路26からの制御電流によって雑音光を発生させる光源が必要になるが、波長変換素子1の入力光Pinの強度とヒステリシスのしきい値との関係を制御しやすくなるという利点がある。
【0168】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】この発明の実施の形態1による波長変換素子1の共振器側面の概略的な構成を示した断面図である。
【図2】「1」または「0」の2値を持つ劣化した光信号P0の時間波形を示した波形図である。
【図3】光信号P0に付加される付加雑音光Pnの時間波形を示した波形図である。
【図4】図2の光信号P0に図3の付加雑音光Pnを付加した入力光Pinの時間波形を示した波形図である。
【図5】この発明の実施の形態1における波長変換素子1の動作特性を説明するための図である。
【図6】図1の活性層2にバルク活性層を用いた場合に入力光Pinが入射する前の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【図7】図1の活性層2にバルク活性層を用いた場合に入力光Pinが入射した後の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【図8】図1の活性層2に量子井戸構造を用いた場合に入力光Pinが入射する前の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【図9】図1の活性層2に量子井戸構造を用いた場合に入力光Pinが入射した後の波長とスペクトルとの関係を示した図である。
【図10】付加雑音光Pnの雑音強度を変化させたときの出力光Poutのビットエラーレート(BER)を示した図である。
【図11】波長変換素子1Aに入射される光信号P0の時間波形を示した波形図である。
【図12】波長変換素子1Aに注入される付加雑音電流Inの時間波形を示した波形図である。
【図13】波長変換素子1Bの入力光Pinと出力光Poutとの入出力特性の一例を示した図である。
【図14】この発明の実施の形態2による波長変換素子駆動装置20の概略的な構成を示した図である。
【図15】従来の双安定型半導体波長変換素子60の構造を示した断面図である。
【図16】図15の双安定型半導体波長変換素子60における入力光PINと出力光POUTとの入出力特性曲線を示した図である。
【図17】従来の波長変換素子70の構造を示した断面図である。
【符号の説明】
【0170】
1,1A,1B,70 波長変換素子、2,43,61a,61b,80 活性層、4,35,62,76 可飽和吸収領域、5,6,34,36 光増幅領域、7 入射面、8 出射面、9 n型InP基板、10〜12,37〜39,65〜68,71,72 p電極、13 p型InPクラッド層、14 n型InPクラッド層、15,41,79,81 n電極、20,20A 波長変換素子駆動装置、21 波長変換モジュール、22 フィードバック制御回路、23 温度制御回路、24 可変抵抗制御部、25 可変抵抗、26 確率共鳴制御回路、27 電流供給部、28 電圧制御回路、29 電圧供給部、30 温度制御機構、31,32,42 ベース、33 光電変換素子、40,44 クラッド層、60 双安定型半導体波長変換素子、63 光ガイド層、64 分布ブラッグ反射型回折格子、69,74,77,82 クラッド層、73 p型キャップ層73、75 活性領域、78 n型基板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号の波長を変換する波長変換素子であって、
光増幅領域および可飽和吸収領域を含む活性層と、
電流が注入されおよび/または電圧が印加される第1の極性の電極と、
前記第1の極性の電極に対して設けられる第2の電極とを備え、
前記第1の極性の電極および前記第2の極性の電極の少なくとも一方は、前記光増幅領域と前記可飽和吸収領域とに対して独立に電流を注入できるように分割され、
前記光増幅領域に注入される注入電流の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整され、
前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整され、
前記活性層は、前記光信号を含む入力光を受けて、前記入力光の波長が変換され振幅が増幅された出力光を出射する、波長変換素子。
【請求項2】
前記入力光に付加される雑音光が前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に入射され、前記雑音光の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項3】
前記雑音光の最大値と最小値との差は、前記光信号の振幅の1/10以下である、請求項2に記載の波長変換素子。
【請求項4】
前記雑音光は、ランダムな強度変換を有する、請求項2に記載の波長変換素子。
【請求項5】
前記第1の極性の電極を通じて雑音電流が前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に注入され、前記雑音電流の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項6】
前記雑音電流の最大値と最小値との差は、前記注入電流の振幅の1/10以下である、請求項5に記載の波長変換素子。
【請求項7】
前記雑音電流は、ランダムな強度変換を有する、請求項5に記載の波長変換素子。
【請求項8】
前記光増幅領域の利得スペクトルと前記可飽和吸収領域の吸収スペクトルとを合計した全体利得スペクトルを前記入力光の波長と合わせ、前記光増幅領域の利得スペクトルを前記出力光の波長と合わせるように、前記光増幅領域に注入される注入電流の強度が調整される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項9】
前記光増幅領域の利得スペクトルと前記可飽和吸収領域の吸収スペクトルとを合計した全体利得スペクトルを前記入力光の波長と合わせ、前記光増幅領域の利得スペクトルを前記出力光の波長と合わせるように、前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度が調整される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項10】
前記活性層は、量子井戸構造を有する、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項11】
前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に不純物が添加され、前記不純物の濃度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項12】
前記波長変換素子は、入出力特性がヒステリシスを示す双安定半導体レーザである、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項13】
前記波長変換素子は、入出力特性が不連続性を示す半導体レーザである、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項14】
前記光増幅領域は、前記可飽和吸収領域の両側にそれぞれ配置される第1および第2の光増幅領域を含み、
前記第1および第2の光増幅領域の一方の端面から前記光信号が入射され、前記第1および第2の光増幅領域の他方の端面から前記出力光が出射される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項15】
前記可飽和吸収領域の共振器方向に占める長さの割合は、1%以上であり、かつ50%未満である、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項16】
入力光を含む入力信号を受けて波長が変換された出力光を出力する波長変換素子を駆動する波長変換素子駆動装置であって、
請求項1〜15のいずれかに記載の前記波長変換素子と、前記出力光を検出して受信信号を出力する光電変換素子とを含む波長変換モジュールと、
前記受信信号を受けて、前記波長変換素子の入出力特性を調整するための制御信号を出力するフィードバック制御回路とを備える、波長変換素子駆動装置。
【請求項17】
前記フィードバック制御回路からの制御信号に従って前記波長変換素子の温度を制御する温度制御回路をさらに備え、
前記波長変換モジュールは、前記温度制御回路からの制御信号を受けて前記波長変換素子を含む前記波長変換モジュールの温度を調整する温度制御機構をさらに含む、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項18】
前記温度制御機構は、前記波長変換素子の温度を検知し、該温度検知信号を前記フィードバック制御回路に出力するサーミスタを有する、請求項17に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項19】
前記温度制御機構は、前記温度制御回路からの制御信号を受けて、前記波長変換素子を昇温または冷却させるペルチェクーラーを有する、請求項17に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項20】
前記波長変換素子に接続されている可変抵抗と、
前記フィードバック制御回路からの制御信号に従って前記可変抵抗の抵抗値を制御する可変抵抗制御部とをさらに備える、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項21】
前記フィードバック制御回路は、前記波長変換素子の可飽和吸収領域から流れる電流を前記可変抵抗を介してモニターする、請求項20に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項22】
前記受信信号を受けて、確率共鳴効果が得られるように雑音が付加された電流を前記波長変換素子に供給するための制御信号を出力する確率共鳴制御回路と、
前記確率共鳴制御回路からの制御信号を受けて、前記波長変換素子の入出力特性を調整するための電流を前記波長変換素子に供給する電流供給部とをさらに備える、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項23】
前記波長変換素子の入出力特性を調整するための光を前記波長変換素子に供給するための光源をさらに備える、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項24】
前記光源は、前記受信信号を受けて、確率共鳴効果が得られるように雑音が付加された光を前記波長変換素子に供給する、請求項23に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項25】
前記フィードバック制御回路からの制御信号に基づいて、前記波長変換素子の可飽和吸収領域に印加される電圧を制御する電圧制御回路と、
前記電圧制御回路からの制御信号に従って前記波長変換素子に電圧を供給する電圧供給部とをさらに備える、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項26】
前記受信信号に基づいて、前記入力光が前記波長変換素子の立ち上がりしきい値および立下がりしきい値を上下するように調整された電流を前記波長変換素子に供給する電流供給部をさらに備える、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項27】
前記光電変換素子は、前記波長変換モジュールと同一基板上に集積化されている、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項1】
光信号の波長を変換する波長変換素子であって、
光増幅領域および可飽和吸収領域を含む活性層と、
電流が注入されおよび/または電圧が印加される第1の極性の電極と、
前記第1の極性の電極に対して設けられる第2の電極とを備え、
前記第1の極性の電極および前記第2の極性の電極の少なくとも一方は、前記光増幅領域と前記可飽和吸収領域とに対して独立に電流を注入できるように分割され、
前記光増幅領域に注入される注入電流の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整され、
前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整され、
前記活性層は、前記光信号を含む入力光を受けて、前記入力光の波長が変換され振幅が増幅された出力光を出射する、波長変換素子。
【請求項2】
前記入力光に付加される雑音光が前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に入射され、前記雑音光の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項3】
前記雑音光の最大値と最小値との差は、前記光信号の振幅の1/10以下である、請求項2に記載の波長変換素子。
【請求項4】
前記雑音光は、ランダムな強度変換を有する、請求項2に記載の波長変換素子。
【請求項5】
前記第1の極性の電極を通じて雑音電流が前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に注入され、前記雑音電流の強度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項6】
前記雑音電流の最大値と最小値との差は、前記注入電流の振幅の1/10以下である、請求項5に記載の波長変換素子。
【請求項7】
前記雑音電流は、ランダムな強度変換を有する、請求項5に記載の波長変換素子。
【請求項8】
前記光増幅領域の利得スペクトルと前記可飽和吸収領域の吸収スペクトルとを合計した全体利得スペクトルを前記入力光の波長と合わせ、前記光増幅領域の利得スペクトルを前記出力光の波長と合わせるように、前記光増幅領域に注入される注入電流の強度が調整される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項9】
前記光増幅領域の利得スペクトルと前記可飽和吸収領域の吸収スペクトルとを合計した全体利得スペクトルを前記入力光の波長と合わせ、前記光増幅領域の利得スペクトルを前記出力光の波長と合わせるように、前記可飽和吸収領域に印加される印加電圧の強度が調整される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項10】
前記活性層は、量子井戸構造を有する、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項11】
前記光増幅領域および前記可飽和吸収領域の少なくとも一方に不純物が添加され、前記不純物の濃度は、前記出力光の振幅が増大し前記光信号のビットエラーレートが低減するように調整される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項12】
前記波長変換素子は、入出力特性がヒステリシスを示す双安定半導体レーザである、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項13】
前記波長変換素子は、入出力特性が不連続性を示す半導体レーザである、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項14】
前記光増幅領域は、前記可飽和吸収領域の両側にそれぞれ配置される第1および第2の光増幅領域を含み、
前記第1および第2の光増幅領域の一方の端面から前記光信号が入射され、前記第1および第2の光増幅領域の他方の端面から前記出力光が出射される、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項15】
前記可飽和吸収領域の共振器方向に占める長さの割合は、1%以上であり、かつ50%未満である、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項16】
入力光を含む入力信号を受けて波長が変換された出力光を出力する波長変換素子を駆動する波長変換素子駆動装置であって、
請求項1〜15のいずれかに記載の前記波長変換素子と、前記出力光を検出して受信信号を出力する光電変換素子とを含む波長変換モジュールと、
前記受信信号を受けて、前記波長変換素子の入出力特性を調整するための制御信号を出力するフィードバック制御回路とを備える、波長変換素子駆動装置。
【請求項17】
前記フィードバック制御回路からの制御信号に従って前記波長変換素子の温度を制御する温度制御回路をさらに備え、
前記波長変換モジュールは、前記温度制御回路からの制御信号を受けて前記波長変換素子を含む前記波長変換モジュールの温度を調整する温度制御機構をさらに含む、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項18】
前記温度制御機構は、前記波長変換素子の温度を検知し、該温度検知信号を前記フィードバック制御回路に出力するサーミスタを有する、請求項17に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項19】
前記温度制御機構は、前記温度制御回路からの制御信号を受けて、前記波長変換素子を昇温または冷却させるペルチェクーラーを有する、請求項17に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項20】
前記波長変換素子に接続されている可変抵抗と、
前記フィードバック制御回路からの制御信号に従って前記可変抵抗の抵抗値を制御する可変抵抗制御部とをさらに備える、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項21】
前記フィードバック制御回路は、前記波長変換素子の可飽和吸収領域から流れる電流を前記可変抵抗を介してモニターする、請求項20に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項22】
前記受信信号を受けて、確率共鳴効果が得られるように雑音が付加された電流を前記波長変換素子に供給するための制御信号を出力する確率共鳴制御回路と、
前記確率共鳴制御回路からの制御信号を受けて、前記波長変換素子の入出力特性を調整するための電流を前記波長変換素子に供給する電流供給部とをさらに備える、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項23】
前記波長変換素子の入出力特性を調整するための光を前記波長変換素子に供給するための光源をさらに備える、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項24】
前記光源は、前記受信信号を受けて、確率共鳴効果が得られるように雑音が付加された光を前記波長変換素子に供給する、請求項23に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項25】
前記フィードバック制御回路からの制御信号に基づいて、前記波長変換素子の可飽和吸収領域に印加される電圧を制御する電圧制御回路と、
前記電圧制御回路からの制御信号に従って前記波長変換素子に電圧を供給する電圧供給部とをさらに備える、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項26】
前記受信信号に基づいて、前記入力光が前記波長変換素子の立ち上がりしきい値および立下がりしきい値を上下するように調整された電流を前記波長変換素子に供給する電流供給部をさらに備える、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【請求項27】
前記光電変換素子は、前記波長変換モジュールと同一基板上に集積化されている、請求項16に記載の波長変換素子駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−15360(P2008−15360A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188398(P2006−188398)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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