説明

波長変換装置、検出装置

【課題】装置の複雑化やS/Nの悪化を防止できる波長変換装置およびこの波長変換装置を備えた検出装置を提供すること。
【解決手段】波長変換装置1は、信号光(波長λin)と、この信号光とは異なる周波数のポンプ光(波長λp)とが入射され、前記信号光の周波数を和周波変換する非線形メタマテリアル10を有する。非線形メタマテリアル10には、信号光と、前記ポンプ光とが相対する伝播方向で入射される。非線形メタマテリアル10は、前記信号光と、前記ポンプ光と、波長変換された信号光のうち、前記ポンプ光の周波数において位相速度の方向を伝播方向に対して逆向きとし、前記ポンプ光の位相速度の方向を、前記信号光の位相速度の方向と同一方向とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換装置、検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光や電子の量子力学的な状態を利用する量子情報技術は、安全性の高い暗号通信や、秘匿性の高い認証など、高度なセキュリティ技術を提供するものとして期待されている。例えば量子暗号通信では、量子力学的な2自由度を用いて表現される情報(以後、量子情報)を単一の光子に乗せて伝送することで、通信路上での盗聴者の存在を確実に検知することができ、安全な秘密鍵の配布が可能になる。
【0003】
しかし、このような量子情報技術を広く応用するには、まだいくつかの課題が残されている。その一つが、信号光としての単一光子、または単一光子レベルの微弱光を高効率で検出する技術である。
【0004】
量子通信では、一般的にファイバ損失が小さい1550nm付近の波長を利用するため、この波長帯で高効率に光子を検出する技術が極めて重要になる。しかし、高効率なSiフォトダイオードが使用可能な可視光帯に比べ、1550nm帯の光子検出はそれほど容易ではない。現状、この波長帯で有効な光子検出法として、以下に述べる3つの手法が考えられている。
【0005】
最も一般的な手法はInGaAsのアバランシェフォトダイオード(APD)を用いるもので、現在の量子鍵配布システムで広く採用されている。この場合、フォトダイオードにブレークダウン電圧以上のバイアス電圧を印加することで、単一光子レベルの微弱光の検出を行っている。しかし、検出効率の悪さが1つ目の大きな課題である。量子効率は10%程度で、10回に1回しか光子がカウントされない。2つ目の課題は、光子が来ていないのに誤ってカウントしてしまうダークカウントと呼ばれる過程が多い点で、量子鍵配布ではエラーの増加につながってしまう。さらに3つ目の課題は、光子検出後の過渡電流(アフターパルス)のために一定の時間間隔でゲート動作をさせる必要がある点で、光子検出の繰り返し速度をあげることが難しい。
【0006】
2つ目の手法として、超伝導単一光子検出器が近年注目されている。これは、単一光子の入射により超伝導体の一部を壊し、その抵抗変化を通して光子の到着を読み取る、というものである(特許文献1参照)。この検出器の場合、APDより高い量子効率が期待できるだけでなく、ダークカウントが非常に小さい点が特長である。また、ゲート動作が不要で応答速度も数10psと早いことから、大容量の通信にも適している。難点は、超伝導状態を維持するために、液体ヘリウム温度(4.2K)程度まで冷却が必要な点である。このため、低コスト化は原理的に困難である。
【0007】
このような中で、高性能化と低コスト化を同時に実現しうる3つ目の手法が、波長変換に基づく光子検出法である。図9にその概略図を示している。基本的な考え方は、1550nm帯の光子を直接検出するのは難しいため、周波数上方変換(アップコンバージョン)で一旦可視光領域の波長に変換した後、高効率なSi APDで検出する、というものである(特許文献2参照)。
【0008】
まず、通信波長帯λin=1550nmの信号光(単一光子)を、ポンプ光源92から射出されたポンプ光(波長λp)とWDMにより重ねあわせ、非線形光学媒体90に入射する。そして、この結晶中で起こる和周波変換の結果、λin=1550nmの光子は可視光帯の波長λoutの光子へとアップコンバージョンされる。ここで、1/λin+1/λp=1/λoutである。このような可視光波長帯であれば、例えば高量子効率・低ダークカウントを兼ね備えるSi APD94で確実に光子検出を行うことができる。
ここで、非線形光学媒体90としてPPLN(周期分極反転ニオブ酸リチウム)などの変換効率の良い結晶を用いれば、90%程度の効率で波長変換が可能であるため、全体として高い光子検出効率が得られる。また、Si APDの場合、ゲート動作が不要なため、高速化も可能である。
【0009】
非線形光学過程により信号光の波長変換を行う技術は、光子検出のためのキーとなる技術である。また、このような波長変換技術は、光子検出の他にも長距離量子通信のための量子中継などへの応用が期待されており、量子情報処理においてきわめて有用である。
【0010】
なお、近年非線形光学媒体の新たな範疇として、人工的な微細構造により光学応答を制御するメタマテリアルが注目されている。メタマテリアルでは、微細構造により、局所的に強い電磁場を作り出すことができ、物質の持つ固有の非線形性を高めることができるため(非特許文献1、非特許文献2参照)、高効率な波長変換も期待できる。また、負の屈折率(あるいは左手系の光伝播)を有するメタマテリアルでは、第二高調波生成において、生成された第二高調波が基本波に対して逆向きに伝播するという特異な性質も知られている(非特許文献3参照)。
しかしながら、一般にメタマテリアルでは、屈折率が負となる(あるいは左手系となる)波長において、吸収損失が急激に増えることが知られており、損失に弱い単一光子を扱うデバイスには不向きであると考えられている。
【0011】
【特許文献1】特開2002-94133
【特許文献2】特開2006-98130
【非特許文献1】M. W. Klein, et al., Opt. Express 15, 5238 (2007)
【非特許文献2】福井、大津、「光ナノテクノロジーの基礎」オーム社(2003)
【非特許文献3】I. V. Shadrivov, et al., J. Opt. Soc. Am. B 23, 529 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図9に示したような方法において、信号光の波長変換を行う方法では、信号光とともに、信号光レベルの光に比べて強いポンプ光を同時に非線形光学媒体90に入射する必要がある。しかし、このとき以下に述べる2点の問題が生じる。
第一の問題点は、変換後の信号光とポンプ光の分離に関するものである。通常PPLNなどで波長変換を効率的に行う場合、図9に示すように信号光とポンプ光を同じ方向に伝播させる必要がある。このため、波長変換後はプリズム91やピンホール93などを用いて波長変換された信号光とポンプ光を分離して、最終的に信号光のみを取り出さなければならない。
しかし、これはそれほど容易ではない。信号光として単一光子レベルの微弱光を扱う場合、強いポンプ光成分は完全に取り除かなければならず、わずかな混入、散乱も許されない。このため、厳密な光学システムの設計および調整が必要となり、システムの複雑化も問題となる。また、プリズムや波長フィルタを複数個重ねた場合、変換後の単一光子のロスも考えられ、結果的に効率が低下する。
【0013】
第二の問題点は、ファイバにおけるポンプ光のラマン散乱の影響である。図9において、ポンプ光源92から非線形光学媒体90にポンプ光が伝播するまでのファイバ中で、ポンプ光のラマン散乱が起こりえる。ラマン散乱は非弾性散乱の一種であり、ポンプ光が信号光と同じ波長に散乱されうるため、プリズム91やピンホール93でも取り除くことができない。このため、ダークカウントが増加してしまう。
【0014】
このように、装置の複雑化やS/Nの悪化なしに、光子レベルの微弱光の波長変換を行う方法はこれまで知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、信号光と、この信号光とは異なる周波数のポンプ光とが入射され、前記信号光の周波数を和周波変換する非線形メタマテリアルを有する波長変換装置であって、前記非線形メタマテリアルには、前記信号光と、前記ポンプ光とが相対する伝播方向で入射され、前記非線形メタマテリアルは、前記信号光と、前記ポンプ光と、波長変換された信号光のうち、前記ポンプ光の周波数において位相速度の方向を伝播方向に対して逆転させ、前記ポンプ光の位相速度の方向を、前記信号光の位相速度の方向と同一方向とする波長変換装置が提供される。
【0016】
従来の波長変換装置と異なる本発明の特徴は、波長変換を行う非線形光学媒体として、ポンプ光の波長で位相速度の方向と、伝播方向とが反対方向となる、いわゆる左手系となる非線形メタマテリアルを用いる点である。
通常、波長変換を行う場合、波長変換に関わる複数の光波の間に位相整合条件と呼ばれる運動量保存則が課される。この位相整合条件のため、一般的には信号光とポンプ光の位相速度が同じ向きを向いているときに効率的な波長変換が起こる。PPLNがその一例である。
このため、従来の波長変換装置では、効率的な波長変換を起こすためには信号光とポンプ光を同じ方向に伝播させる必要があり、その結果、変換後の信号光と強いポンプ光とを分離するための複雑な装置構成が必須となっていた。また、S/N比の悪化が懸念されていた。
これに対し本発明のように、ポンプ光の波長において左手系となるような非線形メタマテリアルを用いた場合、この波長において位相速度の向きは伝播方向に対し逆向きとなる。
一方で、この非線形メタマテリアルでは、信号光に対しては、右手系のままであり、信号光の伝播方向と、位相速度の方向とは同じ方向となっている。
従って、この場合信号光とポンプ光とを逆向きに伝播させたときに位相整合条件が達成され、効率的な波長変換が起こる。これにより、強いポンプ光が信号光と混じる心配は無く、装置の複雑化やS/Nの悪化を避けることができる。
従来、左手系物質として動作するような波長では、一般的に吸収による損失も増加することが多いため、信号光のような微弱光を扱うデバイスにはメタマテリアルは不向きであると考えられていた。しかし、本発明の場合、変換前の信号光、変換後の信号光、ポンプ光のうち、ポンプ光の波長において左手系となり、損失に敏感な信号光に対しては通常の右手系のままになるように設計している。このため、信号光の吸収損失の影響を最小限に抑えることができる。
【0017】
また、本発明によれば、上述した波長変換装置と、前記波長変換装置で変換された信号光を検出する検出器とを有する検出装置も提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、装置の複雑化やS/Nの悪化を防止できる波長変換装置およびこの波長変換装置を備えた検出装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
(第一実施形態)
はじめに、図1を参照して、本実施形態の概要について説明する。
本実施形態の波長変換装置1は、信号光(波長λin)と、この信号光とは異なる周波数のポンプ光(波長λp)とが入射され、前記信号光の周波数を和周波変換する非線形メタマテリアル(非線形光学媒体)10を有する。
非線形メタマテリアル10には、信号光と、前記ポンプ光とが相対する伝播方向で入射される。
非線形メタマテリアル10は、前記信号光と、前記ポンプ光と、波長変換された信号光のうち、前記ポンプ光の周波数において位相速度の方向を伝播方向に対して逆向きとし、前記ポンプ光の位相速度の方向を、前記信号光の位相速度の方向と同一方向とする。
【0020】
次に、本実施形態の波長変換装置1および検出装置3について詳細に説明する。
波長変換装置1は、前述した非線形メタマテリアル10と、この非線形メタマテリアル10へ単一光子である信号光を導く光ファイバ13と、ポンプ光を生成するポンプ光源2と、ポンプ光を非線形メタマテリアル10へ導く光ファイバ14と、分離素子11,12とを有する。
光ファイバ13と、光ファイバ14とは、非線形メタマテリアル10を挟んで配置されており、非線形メタマテリアル10には、信号光とポンプ光とが相対する方向から入射する。図1では、波長λin=1550nmの信号光が図面左側から右方向へと非線形メタマテリアル10へ入射している。
一方、ポンプ光源2から発生したポンプ光は、図面右側から左方向へと非線形メタマテリアル10に入射する。
非線形メタマテリアル10中では、ポンプ光の位相速度の方向が群速度の方向と反対方向となる。
一方で、非線形メタマテリアル10では変換前の信号光および変換後の信号光の位相速度、群速度の方向は変換されない。
従って、非線形メタマテリアル10中では、ポンプ光の位相速度の方向と、変換前の信号光の位相速度の方向とが同一方向となる。この状態で位相整合条件が成立し、信号光が波長λoutに周波数上方変換され、図面右方向へと伝播する。
【0021】
波長変換装置1の非線形メタマテリアル10から排出される変換後の信号光は、分離素子12を通り、変換後の信号光のみが分離されて、検出器(Si アバランシェフォトダイオード(APD))5に入射することとなる。そして、この検出器(Si アバランシェフォトダイオード(APD))5により変換後の信号光が検出されることとなる。なお、波長変換装置1と検出器5とを含んで検出装置3が構成される。
一方、ポンプ光は、非線形メタマテリアル10を通り、図面左側に伝播し、分離素子11に入射する。この分離素子11ではポンプ光が分離される。
【0022】
波長変換を行う場合、波長変換に関わる光波の波数ベクトルの間に位相整合条件と呼ばれる運動量保存の法則が課される。そして、一般的には、信号光の波数ベクトルと、ポンプ光の波数ベクトルとが揃っている場合に効率的な波長変換が生じる。通常の右手系物質の場合、波数ベクトルが同じ方向を向くというのは、図2(a)に示すように、信号光とポンプ光のエネルギー伝播方向(ポインティングベクトルの方向)が同じであることを意味している。このため、従来の波長変換装置では、効率的な波長変換を起こすためには信号光とポンプ光を同じ方向に伝播させる必要があり、その結果、変換後の信号光と強いポンプ光の分離が必須となる。
【0023】
これに対し、本実施形態のようないわゆる左手系の非線形メタマテリアル10を使用すれば、ポンプ光の波長において、位相速度の向き(すなわち波数ベクトルの向き)と群速度の向き(エネルギーの流れる向き)が逆転する。従って、図2(b)に示すように、信号光の伝播方向に対してポンプ光を逆向きに入射したときに、2つの波数ベクトルの向きが揃い、効率的な波長変換が起こる。このような構成であれば、強いポンプ光が変換後の信号光と混じる心配はなく、装置の複雑化やS/Nの悪化を避けることができる。
【0024】
非線形メタマテリアル10としては、スプリットリング共振器(非特許文献1参照)による構成や、カイラリティを有する物質の利用(J. B. Pendry, et al., Science 306, 1353 (2004)参照)など、いくつかのアプローチが考えられるが、ここでは微細加工プロセスの容易さなどから、特に導波路型メタマテリアルによる実現方法を以下に示す。
【0025】
導波路型メタマテリアルの基本的な構成は図3に示すようなスラブ型プラズモン導波路であり、誘電体層102の上下を金属層101,103で挟んだ構造を有している。換言すると、平板状の金属層103上に、金属層103に接する平板状の誘電体層102が積層され、この誘電体層102上に誘電体層102に接する平板状の金属層101が積層されている。
信号光およびポンプ光は、金属層101と誘電体層102との界面、金属層103と誘電体層102との界面を表面プラズモンモードとして伝播する。
【0026】
このとき誘電体層102厚dを、表面プラズモンモードの空間広がりと同程度、もしくはそれよりも小さくなるよう設計する。実用上は、dは、50nm以上、100nm以下が好ましい。このような状況では、上下の表面プラズモンモードが結合し、結合プラズモンモードが基本伝播モードとなる。このような結合プラズモンモードでは、プラズマ周波数近傍において分散の傾きが負になる異常分散が現れることが知られている(Phys. Rev. B 73, 035407 (2006))。そして、そのような異常分散の生じる周波数帯では、位相速度と群速度の向きが逆転し、左手系の光伝播が実現される。なお、このようなプラズモン導波路と外部との結合は、プリズムや回折格子などを用いる方法により効率的に行うことができる(非特許文献2参照)。
【0027】
なお、図4の実線の矢印Aは、信号光の伝播方向を示し、点線の矢印Bは電場の振動方向を示す。さらに、図4の曲線Cは、電場の分布を示しており、z軸が電場がゼロとなる位置を示している。金属層103と誘電体層102との界面、金属層101と誘電体層102との界面にて、電場が最も強くなる。なお、金属層103と誘電体層102との界面と、金属層101と誘電体層102とでは電場が逆位相となる。
【0028】
ここで図3の導波路型メタマテリアルにおいて、金属層101,103としては、可視光帯近傍にプラズマ周波数をもつ貴金属を用いる必要があり、特に可視光波長で動作させるために金(Au)の使用が好ましい。一方、誘電体層102としてはいろいろなものが使用可能であるが、中でも2次の非線形光学効果を発現させる材料が好ましい。このように2次の非線形光学効果を発現させる材料を使用することで、ポンプ光の位相速度の方向を、伝播方向に対して確実に逆転させ、和周波変換行うことができる。
例えば波長変換素子として一般的なニオブ酸リチウム(LiNbO)などの強誘電体のほか、MNA(2−メチル−4−ニトロアニリン)などの有機材料や、色素分子をPMMA(ポリメタクリル酸メチル)などの高分子樹脂の中に分散させたものなどが適している。
【0029】
図4のような導波路型メタマテリアルの場合、局所的(金属層103と誘電体層102との界面、金属層101と誘電体層102との界面)に強い電場が生成されるため、非線形光学効果が増強される。従って、バルクにおいて非線形効果がさほど大きくない材料を用いた場合でも、効率的な波長変換が起こることが期待される。
【0030】
ここで具体例として、図4の導波路型メタマテリアルにおいて非線形誘電体の比誘電率εを2と仮定して求めた、結合表面プラズモンの基本伝播モード(TM)の分散曲線を図5に示す。ここで、実線のグラフが幅d=50nm、破線のグラフが幅d=100nmとして計算したものである。この図で、横軸が伝播定数(波数の実部)βで、縦軸が発光エネルギー(周波数に該当)である。この図からわかるように、発光エネルギー2.45eV(波長506nm)付近において分散の傾き(グラフの傾き)が負になっている。ここで、群速度はvg=dω/dβで示され、位相速度は、vp=ω/βで示される。図5のグラフの傾きが正の場合には、群速度が正であり、図5のグラフの傾きが負の場合には群速度は負となる。
発光エネルギー2.45eV(波長506nm)付近において分散の傾き(グラフの傾き)が負になっていることは、この波長帯において位相速度vp=ω/βと群速度vg=dω/dβの符号が逆転し、左手系の光伝播が実現されていることに対応する。
【0031】
従って、通信波長帯の光子の周波数上方変換を行う場合、図6に示すような和周波変換が可能である。ここでは、ポンプ光のみが左手系として伝播するように、ポンプ波長をλp=506nmと選ぶ。こうすることで、λin=1550nmの入力光子に対してポンプ光を逆向きに伝播させることで、非線形メタマテリアル10中での和周波変換が効率的に起こり、光子がλout=382nmの可視光帯へと変換される。この波長であれば、短波長用のSi APD5を用いることで量子効率の高い光子検出が可能である。
また、本実施形態の構成であれば、ポンプ光はSi APD5から遠ざかる向きに伝播するため、図9の従来方式のようにプリズムやピンホールなどを用いた複雑な装置構成とする必要がなく、装置構成が簡略化される。さらに、ポンプ光源2から非線形メタマテリアル10までの間の光ファイバ14で発生したラマン散乱光は、Si APD5へは直接伝播しないため、ラマン散乱によるダークカウントも低減される。
【0032】
(第二の実施形態)
前記実施形態では、非線形メタマテリアルは、導波路型であった。これに対し、本実施形態では、非線形メタマテリアルは、ワイヤ状(ファイバ状)に形成されている。
図7にその構造について示す。基本構成は金属層201−誘電体層202−金属層203の3層構造を同心円状に積み上げたナノワイヤ20となっており、金属層201と誘電体層202との界面、金属層203と誘電体層202との界面上を表面プラズモンモードが伝播する。
より詳細に説明すると、ワイヤ状の金属層201を中心層とし、この金属層201の周囲をチューブ状の誘電体層202が被覆し、この誘電体層202の周囲をチューブ状の金属層203が被覆している。金属層201は、誘電体層202に接し、誘電体層202は金属層203に接している。
ここでも、金属層201,203としては貴金属層が好ましく、Auが特に好ましい。誘電体層202としては前記実施形態と同様の非線形性をもつ物質を採用する。誘電体層202厚としては、内径と外径のプラズモンモードが結合する程度に小さくする必要があり、第一の実施形態同様dは、50nm以上、100nm以下が好ましい。
【0033】
このようなナノワイヤ状の非線形メタマテリアル20を使用する場合、信号光およびポンプ光を伝播する光ファイバに対し、方向性結合器で利用されているような、近接場の染み出しを介したモード結合法が適している(例えば、Phys. Rev. Lett. 97, 053002 (2006)など参照)。
図8に示すように、非線形メタマテリアル20を挟んで、信号光が伝播する光ファイバ24と、ポンプ光が伝播する光ファイバ25とを配置する。ポンプ光の伝播方向と、信号光の伝播方向は逆方向である。
図8のように、非線形メタマテリアル20と信号光が伝播する光ファイバ24とを、変換前の信号光の波長以下の間隔aで一定距離Lだけ近接させることで、非線形メタマテリアル20から光ファイバ24へ、あるいは光ファイバ24から非線形メタマテリアル20への光エネルギーの移動が生じる。ここで、aとLがモード結合方程式で規定されるある関係を満たすときに、光エネルギーの移動効率が最大となる。
【0034】
一方、非線形メタマテリアル20とポンプ光が伝播する光ファイバ25とをポンプ光の波長以下の間隔a’で一定距離L’だけ接近させる。
これにより、非線形メタマテリアル20から光ファイバ25へ、あるいは光ファイバ25から非線形メタマテリアル20への光エネルギーの移動が生じる。このとき、非線形メタマテリアル20に入射したポンプ光の位相速度は、ポンプ光の伝播方向と反対方向となり、信号光の位相速度と同一方向となる。
【0035】
この状態で位相整合条件が成立し、信号光が波長λoutに周波数上方変換され、変換前の信号光と同様の方向に伝播する。変換後の信号光は、光ファイバ24に戻り、前記実施形態と同様検出器5で検出されることとなる。
なお、ファイバ24,25の伝播定数と非線形メタマテリアル20の伝播定数とが等しくなるように、ファイバ径、非線形メタマテリアル20のワイヤ径などのパラメータを調整することが好ましい。
このように伝播定数を揃えることで、2つのモードの間の光エネルギーの移動効率を最適化することができる。
このような本実施形態によれば、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0036】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
たとえば、前記実施形態では、非線形メタマテリアル10を挟んで分離素子を配置していたが、この分離素子はなくてもよい。このようにすることで波長変換装置の装置構成を簡略化することができる。
さらに、前記実施形態では、非線形メタマテリアルに入射する信号光の波長は1.55μm帯としたが、これに限らず、1.3μm帯としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる検出装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】ポンプ光の波長において、右手系となる非線形媒体と、左手系となる非線形メタマテリアルとで波長変換を行う様子を示す図である。
【図3】非線形メタマテリアルを示す図である。
【図4】非線形メタマテリアルの基本伝播モードを示す図である。
【図5】非線形メタマテリアルを用いた場合の波数と、発光エネルギーとの関係を示す図である。
【図6】非線形メタマテリアルを用いた場合の波長変換の様子を示す図である。
【図7】第二実施形態にかかる非線形メタマテリアルを示す図である。
【図8】第二実施形態にかかる波長変換装置を示す図である。
【図9】従来の波長変換装置を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 波長変換装置
2 ポンプ光源
3 検出装置
5 検出器
10 非線形メタマテリアル
11 分離素子
12 分離素子
13 光ファイバ
14 光ファイバ
20 非線形メタマテリアル
24 光ファイバ
25 光ファイバ
90 非線形光学媒体
91 プリズム
92 ポンプ光源
93 ピンホール
94 Si APD
101 金属層
102 誘電体層
103 金属層
201 金属層
202 誘電体層
203 金属層
d 幅
a 間隔
a’ 間隔
L 距離
L’ 距離
A 矢印
B 矢印
C 曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光と、この信号光とは異なる周波数のポンプ光とが入射され、前記信号光の周波数を和周波変換する非線形メタマテリアルを有する波長変換装置であって、
前記非線形メタマテリアルには、前記信号光と、前記ポンプ光とが相対する伝播方向で入射され、
前記非線形メタマテリアルは、前記信号光と、前記ポンプ光と、波長変換された信号光のうち、前記ポンプ光の周波数において位相速度の方向を伝播方向に対して逆転させ、前記ポンプ光の位相速度の方向を、前記信号光の位相速度の方向と同一方向とする波長変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の波長変換装置において、
前記非線形メタマテリアルは、第一の金属層と、この第一の金属層に接する誘電体層と、この誘電体層に接する第二の金属層とを有する波長変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の波長変換装置において、
前記第一の金属層および前記第二の金属層は貴金属層である波長変換装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の波長変換装置において、
前記誘電体層は2次の非線形光学効果を有する材料で構成されている波長変換装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載の波長変換装置において、
前記非線形メタマテリアルは、平板状の前記第一の金属層上に、平板状の前記誘電体層が積層され、前記誘電体層上に平板状の前記第二の金属層が積層された構造である波長変換装置。
【請求項6】
請求項2乃至4のいずれかに記載の波長変換装置において、
前記非線形メタマテリアルは、前記第一の金属層を中心層とし、この第一の金属層の周囲を前記誘電体層で被覆し、前記誘電体層の周囲を第二の金属層で被覆した構造である波長変換装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の波長変換装置において、
前記非線形メタマテリアルに入射する信号光の波長は1.55μm帯あるいは1.3μm帯の通信波長帯である波長変換装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の波長変換装置と、前記波長変換装置で変換された信号光を検出する検出器とを有する検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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