説明

波長変換装置及び波長変換方法

【課題】波長整形効果を有する波長変換機能を簡単な構成で実現し、波長変換装置を小型化する。
【解決手段】第1波長変換器40と第2波長変換器60とを備える。第1波長変換器及び第2波長変換器は、それぞれ、光増幅器、分散フラットファイバ、及び、波長フィルタを有している。第1波長変換器は、第1波長変換光の中心波長を、入力光の中心波長に対して第1波長シフト量Δλ1だけ変化させる。第2波長変換器は、第2波長変換光の中心波長を、第1波長変換光の中心波長に対して第2波長シフト量Δλ2だけ変化させる。第1波長シフト量Δλ1及び第2波長シフト量Δλ2が、Δλ1×Δλ2<0及び|Δλ1|<|Δλ2|を満たすように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、波長変換装置及び波長変換方法に関し、特に光通信システムに用いられる全光学的波長変換に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気信号に変換することなく光信号のまま信号処理を行う、すなわち全光学的信号処理を行う技術は、光通信システムにおいて重要である。
【0003】
図8を参照して、従来の差動位相変調(DPSK:Differntial Phase Shift Keying)信号再生器について説明する(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
DPSK信号再生器100に入力されたDPSK信号は、2分岐されて一方は遅延干渉計105に送られ、他方はクロック再生器180に送られる。
【0005】
遅延干渉計105は、DPSK信号を強度変調(OOK:On Off Keying)信号に変換する。遅延干渉計105で生成されたOOK信号は、全光波長変換器110に送られる。
【0006】
全光波長変換器110では、波長変換と光信号の振幅の安定化が施される。全光波長変換器110で波長変換された波長変換OOK信号は、位相変調器190に送られる。
【0007】
一方、クロック再生器180では、DPSK信号からクロックを抽出して、光クロックパルス信号を生成する。この光クロックパルス信号は、位相変調器190に送られる。
【0008】
位相変調器190は、高非線形ファイバとして、例えば分散フラットファイバ(DFF)を備えて構成され、波長変換OOK信号と光クロックパルス信号は、分散フラットファイバに入力される。分散フラットファイバを伝播中に生じる相互位相変調(XPM)により、光クロックパルス信号に、波長変換OOK信号の強度変調パターンに一致する位相変調パターンが重畳される。この結果、位相変調器190からは、波長変換されたDPSK信号が出力される。
【0009】
ここで、全光波長変換器110は、光増幅器142、高非線形ファイバとして分散フラットファイバ(DFF)146及び光バンドパスフィルタ148を備えて構成される。この全光波長変換器110の構成及び動作について、図9〜11を参照して説明する。
【0010】
図9は、全光波長変換器の構成を示す模式図である。図10及び図11は、全光波長変換器における波長変換を示す図である。
【0011】
光増幅器142は、入力されたOOK信号(図9中、矢印S141で示す。)を増幅して、増幅信号(図9中、矢印S143で示す。)を生成する(図10(A))。分散フラットファイバ146は、増幅信号S143の波長スペクトル幅を広げてDFF信号(図9中、矢印S147で示す。)を生成する。光バンドパスフィルタ148は、入力されたOOK信号S141の中心波長とは異なる中心波長の波長帯域を有している(図10(B))。このため、光バンドパスフィルタ148の出力である変換OOK信号(図9中、矢印S149で示す。)は、入力OOK信号S141とは、波長が位相シフト量Δλだけ異なるOOK信号に変換されることになる(図10(C))。
【0012】
図11(A)及び(B)を参照して、増幅信号S143の信号強度と、DFF信号S147の波長スペクトル幅の関係について説明する。
【0013】
図11(A)中、IIで示す増幅信号に対して、分散フラットファイバ146における自己位相変調により、図11(B)中、IIで示すDFF信号が得られているとする。ここで、増幅信号の信号強度を高くする(図11(A)中、Iで示す。)と、DFF信号の波長スペクトル幅は広くなる(図11(B)中、Iで示す)。一方、増幅信号の信号強度を低くする(図11(A)中、IIIで示す。)と、DFF信号の波長スペクトル幅は狭くなる(図11(B)中、IIIで示す)。
【0014】
また、分散フラットファイバ146では、図11(B)に示すように、平坦な波長スペクトルを得ることができる。これを利用すると、入力信号の強度揺らぎがあっても、DFF信号の強度はほぼ一定となるので、入力信号の強度揺らぎの影響を抑制して、雑音成分を除去することができる。
【0015】
図11(C)は、増幅信号の時間波形を示している。また、図11(D)は、波長変換器の出力となる波長変換OOK信号S149の時間波形を示している。図11(C)にIVで示す雑音成分は、波長変換OOK信号S149の時間波形には含まれない(図11(D))。
【0016】
このような特性から、全光波長変換器は、波長変換器に加えて、識別回路としても作用する。
【非特許文献1】松本正行著「ファイバの非線形効果を利用したDPSK信号の3R再生」2006年電子情報通信学会総合大会、B−10−22
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、データレートが40Gbps以上であるような高速光信号に対して、分散フラットファイバを利用して波長変換を行う場合、波長変換量を大きくすると波形整形機能が著しく損なわれる傾向がある。
【0018】
このため、上述した非特許文献1に開示されたDPSK信号再生器では、波長変換器を多段に接続して、各波長変換器では、波形整形機能が劣化しない程度に波長変換量を調節している。具体的には、10nmの波長変換を実現するために、波長変換器を5段接続して、各波長変換器での波長シフト量を2nmとしている。
【0019】
このことから、DPSK信号再生装置の小型化が困難であるとともに、経済性の面でも不利になる。
【0020】
また、データレートが増加すると、光パルスの幅を伝送レートに比例して狭くする必要があり、この場合、分散フラットファイバの分散値も小さく設定する必要がある。分散フラットファイバに要求される適切な分散値は、パルス幅の2乗に比例、すなわち、データレートの2乗に反比例する。このため、データレートが40Gbpsから160Gbpsに4倍に増加すると、分散フラットファイバに要求される分散値は1/16になる。これは、例えば非特許文献1で使用しているファイバの−0.5ps/nm/kmの分散値に対して、−0.03ps/nm/kmという絶対値が極めて小さい分散値が必要になることを意味するが、このような分散値の絶対値が小さい分散フラットファイバの製造は、困難である。
【0021】
そこで、この出願に係る発明者が鋭意研究を行ったところ、2段の波長変換器を用いて、第1波長変換器での波長シフトの方向と、第2波長変換器での波長シフトの方向とを逆方向にし、第2波長変換器での波長シフトの大きさを、第1波長変換器での波長シフトの大きさよりも大きくすることで、波長整形効果を有する波長変換機能を実現できることを見出した。
【0022】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、簡単な構成で、波長整形効果を有する波長変換機能を実現する波長変換装置及び波長変換方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述した目的を達成するために、この発明の第1の要旨によれば、入力光に対して、波長シフト量Δλの波長シフトを与える波長変換装置であって、第1波長変換器と第2波長変換器とを備える波長変換装置が提供される。
【0024】
第1波長変換器は、入力光を増幅して第1増幅光を生成する第1光増幅器、第1増幅光の波長スペクトル幅を広げて第1ファイバ出力光を生成する第1分散フラットファイバ、及び、前記第1ファイバ出力光の所定の波長帯域を透過させて第1波長変換光を生成する第1波長フィルタを有している。第1波長変換器は、第1波長変換光の中心波長を、入力光の中心波長に対して第1波長シフト量Δλ1だけ変化させる。
【0025】
第2波長変換器は、第1波長変換光を増幅して第2増幅光を生成する第2光増幅器、第2増幅光の波長スペクトル幅を広げて第2ファイバ出力光を生成する第2分散フラットファイバ、及び、第2ファイバ出力光の所定の波長帯域を透過させて第2波長変換光を生成する第2波長フィルタを有している。第2波長変換器は、第2波長変換光の中心波長を、第1波長変換光の中心波長に対して第2波長シフト量Δλ2だけ変化させる。
【0026】
ここで、第1波長シフト量Δλ1及び第2波長シフト量Δλ2が、Δλ1+Δλ2=Δλ、Δλ1×Δλ2<0及び|Δλ1|<|Δλ2|を満たすように設定されている。
【0027】
また、この発明の波長変換装置の好適実施例によれば、第1光増幅器の入力側及び出力側にさらに波長フィルタを備えるのが良い。
【0028】
また、上述の目的を達成するために、この発明の第2の要旨によれば、以下の過程を備える、入力光に対して波長シフト量Δλの波長シフトを与える波長変換方法が提供される。
【0029】
先ず、第1光増幅器、第1分散フラットファイバ、及び、第1波長フィルタを有する第1波長変換器において、入力光の中心波長を第1波長シフト量Δλ1だけ変化させて第1波長変換光を生成する。次に、第2光増幅器、第2分散フラットファイバ、及び、第2波長フィルタを有する第2波長変換器において、第1波長変換光の中心波長を第2波長シフト量Δλ2だけ変化させて第2波長変換光を生成する。
【0030】
このとき、第1波長シフト量Δλ1及び第2波長シフト量Δλ2が、Δλ1+Δλ2=Δλ、Δλ1×Δλ2<0及び|Δλ1|<|Δλ2|を満たしている。
【発明の効果】
【0031】
この発明の変換装置及び波長変換方法によれば、第1波長変換器における第1波長シフト量Δλ1と第2波長変換器における第2波長シフト量Δλ2を、Δλ1×Δλ2<0及び|Δλ1|<|Δλ2|を満たすように設定している。
【0032】
このように設定すると、第2ファイバ出力光は、第1波長変換における波長シフト方向とは、逆の波長領域において、平坦性に優れた波形となり、第2波長フィルタでは、この平坦性に優れた領域を透過させるので、品質に優れた波長変換光が得られる。
【0033】
また、第1波長変換における波長シフト方向とは逆の波長領域において、平坦性に優れた波形となることから、第2位相シフト量Δλ2を大きくすることが可能となる。この結果、例えば10nmの波長シフトを従来5段の波長変換を行っているのに対し、2段の波長変換で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0035】
図1を参照して、この発明の波長変換装置について説明する。ここでは、波長変換装置10への入力光(図中、矢印S11で示す。)は、伝送速度が160Gbpsであり、かつ、パルス幅が2.5psであるRZ(Return to Zero)信号であるものとする。
【0036】
この発明の波長変換装置10は、第1波長変換器40と第2波長変換器60を備えて構成される。また、波長変換装置10は、第1波長変換器40の入力側に、第1前段波長フィルタ(OBF1)20を具えている。この波長変換装置10は、入力光に対して全波長シフト量Δλの波長シフトを行う。
【0037】
第1波長変換器40は、第1光増幅器42、第2前段波長フィルタ(OBF2)44、第1分散フラットファイバ(DFF1)46及び第1波長フィルタ(OBF3)48を有している。
【0038】
第2波長変換器60は、第2光増幅器62、第2分散フラットファイバ(DFF2)66及び第2波長フィルタ(OBF4)68を有している。
【0039】
第1前段波長フィルタ20及び第2前段波長フィルタ44は、第1光増幅器42の入力端及び出力端にそれぞれ設けられていて、入力光S11に含まれる自然放出光(ASE)雑音を除去する。
【0040】
第1前段波長フィルタ20は、透過帯域幅(BW)が3nmである2次スーパーガウシアン形状のフィルタである。ここで、m次スーパーガウシアン形状は、f(t)=exp{−t^(2m)}の関数で表わされる。
【0041】
第2前段波長フィルタ44は、透過帯域幅(BW)が3nmであるガウシアン形状のフィルタである。
【0042】
第1光増幅器42は、第1前段波長フィルタ20を経て第1波長変換器40に入力された入力光(図中、矢印S21で示す。)を所望の光強度に増幅して、第1増幅光(図中、矢印S43で示す。)を生成する。この第1光増幅器42での増幅の際に付加されたASE雑音は、第2前段波長フィルタ44で除去される。
【0043】
第1分散フラットファイバ(DFF1)46は、自己位相変調(SPM)効果により、第2前段波長フィルタ44を経て送られた第1増幅光(図中、矢印S45で示す。)の波長スペクトル幅を広げて第1ファイバ出力光(図中、矢印S47で示す。)を生成する。
【0044】
第1波長フィルタ48は、第1ファイバ出力光S47の所定の波長帯域を透過させて第1波長変換光(図中、矢印S49で示す。)を生成する。ここでは、第1波長フィルタ48は、透過帯域幅(BW)が3nmであるガウシアン形状のフィルタである。また、透過帯域幅(BW)の中心波長λ1を、入力光の中心波長λ0に対して、第1波長シフト量Δλ1(=λ1−λ0)だけ変化させている。
【0045】
図2を参照して、第1波長変換器40における波長スペクトルについて説明する。図2は、第1波長変換器40における波長スペクトルの計算結果を示す図である。ここで、第1分散フラットファイバを、長さ1km、分散−0.15ps/nm/km、及び非線形定数10km−1−1とし、第1光増幅器42の出力パワーを23dBmとしている。図2では、横軸に、第1波長変換器40に入力される入力光S21の中心波長λ0を基準とした相対波長(nm)を取って示し、縦軸に、光強度(dBm)を取って示している。
【0046】
第1分散フラットファイバ46の出力である第1ファイバ出力光S47は、入力光S21に対して、波長スペクトル幅が広がっている。なお、第1ファイバ出力光S47の中心波長は、入力光とほぼ一致している。
【0047】
ここでは、第1位相シフト量Δλ1を1nmとして、入力光S21の中心波長λ0に対して、長波長側に波長シフトさせている。すなわち、第1波長フィルタ48(第1波長変換光S49)の中心波長λ1は、λ1=λ0+1で与えられる。
【0048】
図3は、入力光S21と第1波長変換光S49のアイパターンを示す図である。図3(A)は、入力光S21のアイパターンを示し、図3(B)は、第1波長変換光S49のアイパターンを示している。
【0049】
図3(A)と図3(B)を比較すると、図3(B)に示す第1波長変換光S49は、図3(A)に示す入力光S21と比べて、非対称な形状となっているが、パルス幅が狭くなっている。
【0050】
このパルス幅が狭くなっていることにより、第2波長変換器60において、より効率的かつ質の良い波長変換光を得ることができる。例えば、データレートが160Gbpsの場合、入力光のパルス幅は2〜3psであるが、第1波長変換光S49の幅は、1〜1.5psにするのが好ましい。
【0051】
第2光増幅器62は、第2波長変換器60に入力された第1波長変換光S49を所望の光強度に増幅して、第2増幅光(図1中、矢印S63で示す。)を生成する。第2分散フラットファイバ66は、自己位相変調(SPM)効果により、第2増幅光S63の波長スペクトル幅を広げて第2ファイバ出力光(図1中、矢印S67で示す。)を生成する。
【0052】
第2波長フィルタ68は、第2ファイバ出力光S67の所定の波長帯域を透過させて第2波長変換光(図1中、矢印S69で示す。)を生成する。ここでは、第2波長フィルタ68は、透過帯域幅(BW)が1nmであるガウシアン形状のフィルタとしている。
【0053】
また、透過帯域幅(BW)の中心波長λ2を、第1波長変換光S49の中心波長λ1に対して、第2波長シフト量Δλ2(=λ2−λ1)だけ変化させている。
【0054】
この波長変換装置10は、第1波長変換器40と第2波長変換器60の2段の波長変換により、全波長シフト量Δλに対応する波長シフトを実現する。すなわち、Δλ1+Δλ2=Δλとなる。
【0055】
また、第1波長シフト量Δλ1と第2波長シフト量Δλ2の一方を正とし、他方を負として、Δλ1×Δλ2<0を満たすように設定する。この実施形態では、第1波長シフト量Δλ1が正(Δλ1>0)、すなわち、長波長側への波長シフトとしている。従って、第2波長シフト量Δλ2を負(Δλ2<0)、すなわち、短波長側への波長シフトとする。また、第2波長変換器60での波長シフトの大きさ(|Δλ2|)を、第1波長変換器での波長シフトの大きさ(|Δλ1|)よりも大きくする(|Δλ1|<|Δλ2|)。
【0056】
図4を参照して、第2波長変換器60における波長スペクトルについて説明する。図4は、第2波長変換器60における波長スペクトルの計算結果を示す図である。ここで、第2分散フラットファイバ66を、第1分散フラットファイバ46と同一の構成とし、第2光増幅器62の出力パワーを26dBmとしている。図4では、横軸に、第1波長変換器40に入力される入力光S21の中心波長λ0を基準とした相対波長(nm)を取って示し、縦軸に、光強度(dBm)を取って示している。なお、ここでは、入力される160Gbpsのパルス幅と、第2波長変換光S69のパルス幅がほぼ等しくなるように、第2波長フィルタは、帯域幅1.3nmのガウシアン形状としている。
【0057】
第2分散フラットファイバ66の出力である第2ファイバ出力光S67は、第1波長変換光S49に対して、波長スペクトル幅が広がっている。ここで、第2ファイバ出力光S67のスペクトル形状は、入力される第1波長変換光S49の非対称性を反映して非対称となっている。第2ファイバ出力光S67の波長スペクトルを見ると、相対波長が負の領域、すなわち、第1波長変換器40における波長シフト方向(長波長側)とは、逆の波長領域(短波長側)において、非常に平坦性に優れた波形となっていることがわかる。図4に示すスペクトルでは、長波長側(相対波長が正の領域)では、強度(dBm)の変動が大きい。これに対し、短波長側(相対波長が負の領域)では、強度の変動は小さく、少なくとも、相対波長−10nm程度までは平坦な形状になっている。
【0058】
このことは、第2波長フィルタ68の中心波長Δλ2を、Δλ1×Δλ2<0の条件を満足するように設定することにより、品質に優れた第2波長変換光S69が得られることを示している。また、第1位相シフト量Δλ1に比べて、第2位相シフト量Δλ2を大きくできるので、効率的に波長変換を行えることがわかる。
【0059】
すなわち、Δλ1=1nm及びΔλ2=−10nmの2段階の波長変化で、全体として、Δλ=Δλ1+Δλ2=−9nmの波長シフトが可能になる。
【0060】
図5は、第1波長変換光と第2波長変換光のアイパターンを示す図である。図5(A)は、第1波長変換光S49のアイパターンを示し、図5(B)は、第2波長変換光S69のアイパターンを示している。
【0061】
第2波長変換光S69では波形劣化は見られず、第2波長変換光S69は、極めて良好なアイ開口を示している。この結果、データレートが160Gbpsの場合に、分散フラットファイバの分散値が−0.15ps程度であっても、優れた波形整形効果を示す。
【0062】
上述した実施形態は、単なる一例であって、何らこの条件に限定されるものではない。例えば、第1及び第2前段波長フィルタと、第1及び第2波長フィルタの透過帯域の形状及び幅は、入力される光パルスの幅などに応じて、任意好適に設定すれば良い。また、第1波長シフト量及び第2波長シフト量についても、所望の波長シフト量Δλに合わせて、Δλ1+Δλ2<Δλ、Δλ1×Δλ2<0及び|Δλ1|<|Δλ2|を満たす好適な組合せを採用すれば良い。
【0063】
次に、比較例として、図6を参照してΔλ1×Δλ2>0の場合について説明する。この場合、同じく9nmの波長シフトをさせるために、Δλ1=1nm及びΔλ2=8nmとする(図6(A))。この場合、第2波長フィルタ68では、相対波長が正の領域、すなわち第2ファイバ出力光の強度の変動が大きい領域を透過させることになる。
【0064】
図6(B)は、比較例における第2波長変換光のアイパターンを示す図である。Δλ1×Δλ2<0の場合(図5(B))に比べて、アイパターンの開口が小さくなっている。
【0065】
従って、Δλ1+Δλ2=Δλ及びΔλ1×Δλ2>0と設定すると、第2光増幅器での増幅量を最適化した場合であっても、良好な波長変換光を得ることができない。
【0066】
このように、Δλ1+Δλ2=Δλ及びΔλ1×Δλ2>0としたときに、良好な波長変換光が得られないのは、第1波長変換光の非対称性に起因する。図7を参照して、第1波長変換光が非対象になる原因について説明する。図7は、第1波長変換光の波形を説明するための模式図である。図7(A)は、単一の光パルスを入力した場合の、第1ファイバ出力光の波形及び周波数チャープ特性を計算した結果を示している。図7(B)は、第1波長変換光の波形及び周波数チャープ特性を計算した結果を示している。
【0067】
図7(A)では、曲線Aは入力光のパルス波形を示し、曲線Bは第1ファイバ出力光のパルス波形を示し、及び、曲線Cは第1ファイバ出力光の周波数チャープ特性を示している。また、図7(B)では、曲線Bは第1ファイバ出力光のパルス波形を示し、曲線Cは第1ファイバ出力光の周波数チャープ特性を示し、曲線Dは、第1波長変換光のパルス波形を示し、曲線Eは、第1波長変換光の周波数チャープ特性を示している。
【0068】
図7(A)中、Iで示す部分が、第1波長フィルタの透過帯域を示している。透過帯域は、第1波長シフト量Δλ1に対応する周波数分だけ周波数中心から低周波数側、すなわち、長波長側にずれている。第1波長フィルタの時間波形は、放物線形状に近く、パルス時間中心付近は、周波数が単調増加している。
【0069】
この周波数が単調増加している領域のみを第1波長フィルタで切りだすことができれば、理想的な波長変換パルスが得られる。しかしながら、実際には、第1ファイバ出力光のエッジに近い時間領域では、強い非線形を有するチャープ特性となっているため、第1ファイバ出力光に余分なエネルギーが漏れこんでしまう。パルスの立ち上がり(II)及び立ち下がり(III)を比較すると、第1波長フィルタの中心波長が、長波長(低周波数)側にずれている分だけ、第1ファイバ出力光の立ち上がり付近(II)のパルスエネルギーが透過帯域内により多く漏れこんでいることがわかる。
【0070】
第1ファイバ出力光の立ち上がり付近へのエネルギーの漏れこみにより、立ち上がり付近にペデスタル(IV)が発生する。このとき、短波長(高周波数)側では、エネルギーの漏れこみが小さいので、ペデスタル(V)は小さい。なお、ここでは、第1波長変換器において、長波長側に波長シフトをさせる例を示しているが、短波長側にシフトさせる場合は、逆に立ち上がり付近でペデスタルが小さく、立ち下がり付近でペデスタルが大きくなる。
【0071】
このペデスタル成分が、第1波長変換光の非対称性の主要因であり、160Gbpsのように、パルス間隔が狭い場合は符号間干渉が顕著になる。
【0072】
また、波長変換パルスの波長波長分布をみると、ペデスタルは、長波長側で生じているので、長波長側のスペクトル平坦性が損なわれる。このことから、同じ方向に2段階の波長変換を行う、すなわち、Δλ1×Δλ2>0の波長変換を行うことが困難であることがわかる。
【0073】
上述したように、この発明の波長変換装置及び波長変換方法によれば、第1波長変換器における第1波長シフト量Δλ1と第2波長変換器における第2波長シフト量Δλ2を、Δλ1×Δλ2<0及び|Δλ1|<|Δλ2|を満たすように設定している。
【0074】
このように設定すると、第2ファイバ出力光は、入力光の中心波長を基準として、第1波長変換器における波長シフト方向とは、逆の波長領域において、平坦性に優れた波形となり、第2波長フィルタでは、この平坦性に優れた領域を透過させるので、品質に優れた波長変換光が得られる。
【0075】
また、第2ファイバ出力光が、第1波長変換器における波長シフト方向とは逆の波長領域において、平坦性に優れた波形となることから、第2波長シフト量Δλ2を大きくすることが可能となる。この結果、例えば10nmの波長シフトを行うのに、従来は2nmの波長変換を5段階で行っていたのに対し、2段階の波長変換で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】この発明の波長変換装置を説明するための模式図である。
【図2】第1波長変換器における波長スペクトルの計算結果を示す図である。
【図3】入力光及び第1波長変換光のアイパターンを示す図である。
【図4】第2波長変換器における波長スペクトルの計算結果を示す図である。
【図5】第1波長変換光及び第2波長変換光のアイパターンを示す図である。
【図6】比較例の波長スペクトル及びアイパターンを示す図である。
【図7】第1波長変換光の非対称性を説明するための模式図である。
【図8】従来のDPSK信号再生器を説明するための模式図である。
【図9】全光波長変換器の構成を示す模式図である。
【図10】全光波長変換器における波長変換を示す図(1)である。
【図11】全光波長変換器における波長変換を示す図(2)である。
【符号の説明】
【0077】
10 波長変換装置
20 第1前段波長フィルタ
40 第1波長変換器
42 第1光増幅器
44 第2前段波長フィルタ
46 第1分散フラットファイバ
48 第1波長フィルタ
60 第2波長変換器
62 第2光増幅器
66 第2分散フラットファイバ
68 第2波長フィルタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力光に対して、波長シフト量Δλの波長シフトを与える波長変換装置であって、
前記入力光を増幅して第1増幅光を生成する第1光増幅器、前記第1増幅光の波長スペクトル幅を広げて第1ファイバ出力光を生成する第1分散フラットファイバ、及び、前記第1ファイバ出力光の所定の波長帯域を透過させて第1波長変換光を生成する第1波長フィルタを有し、前記第1波長変換光の中心波長を、前記入力光の中心波長に対して第1波長シフト量Δλ1だけ変化させる第1波長変換器と、
前記第1波長変換光を増幅して第2増幅光を生成する第2光増幅器、前記第2増幅光の波長スペクトル幅を広げて第2ファイバ出力光を生成する第2分散フラットファイバ、及び、前記第2ファイバ出力光の所定の波長帯域を透過させて第2波長変換光を生成する第2波長フィルタを有し、前記第2波長変換光の中心波長を、前記第1波長変換光の中心波長に対して第2波長シフト量Δλ2だけ変化させる第2波長変換器と
を備え、
前記第1波長シフト量Δλ1及び前記第2波長シフト量Δλ2が、Δλ1+Δλ2=Δλ、Δλ1×Δλ2<0及び|Δλ1|<|Δλ2|を満たす
ことを特徴とする波長変換装置。
【請求項2】
前記第1光増幅器の入力側及び出力側にさらに波長フィルタを備える
ことを特徴とする請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項3】
入力光に対して、波長シフト量Δλの波長シフトを与える波長変換方法であって、
第1光増幅器、第1分散フラットファイバ、及び、第1波長フィルタを有する第1波長変換器において、前記入力光の中心波長を第1波長シフト量Δλ1だけ変化させて第1波長変換光を生成する過程と、
第2光増幅器、第2分散フラットファイバ、及び、第2波長フィルタを有する第2波長変換器において、前記第1波長変換光の中心波長を第2波長シフト量Δλ2だけ変化させて第2波長変換光を生成する過程と
を備え、
前記第1波長シフト量Δλ1及び前記第2波長シフト量Δλ2が、Δλ1+Δλ2=Δλ、Δλ1×Δλ2<0及び|Δλ1|<|Δλ2|を満たす
ことを特徴とする波長変換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−205066(P2009−205066A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49406(P2008−49406)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人情報通信研究機構「λユーティリティ技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】