説明

波長板、偏光変換素子、偏光変換ユニット及び投射装置

【課題】旋光能の影響を補正し、広範囲の波長帯に対して確実に1/2波長板として機能する波長板を実現する。
【解決手段】複屈折性と旋光性とを有する材料から構成され、所定の設計波長λの光に対して、位相差Γ1=180の第1波長板と、位相差Γ2=180の第2波長板と、を各々の光学軸が交差するように配置し、各波長板において主面法線と光学軸とのなす角度βは、A(deg)≦β<90(deg)を満足し、第1波長板の光学軸方位角θ1、2波長板の光学軸方位角θ2は、θ1=22.5(deg)+a、θ2=67.5(deg)−bを満足し、A=0.0019a−0.0078a−0.0062a+0.0113a+0.5333a−1.938a+23.345、−4.0(deg)≦a≦4.5(deg)を満足するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光の直線偏光の偏光面を回転させて出射する波長板及びそれを備えた偏光変換素子、偏光変換ユニット及び投射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクター等の投影型映像装置(投射装置)は、光源装置から出射された光を画像情報に応じて変調し、この変調された光学像をスクリーン上に拡大投射する装置である。
この投射装置では、光の利用効率を向上させるために、光源装置から出射されたランダムな偏光(互いに偏光面が直交するP偏光とS偏光や、偏光面の方向が様々な直線偏光が混在した光、円偏光、楕円偏光、等の偏光)を有する光(以下、ランダム光と称す)を複数の中間光束に分割し、この分割された中間光束を1種類の直線偏光光に変換し、統一して出射するために偏光変換素子が用いられている。
かかる偏光変換素子は、一般に、両主面にPBS膜(互いに直交関係のP偏光とS偏光のうち、何れか一方の直線偏光を透過させ、他方の直線偏光を反射させる機能を有する光学機能膜、所謂、偏光分離膜)と反射ミラー膜とが夫々形成された無色透明なガラス等の透光性基板を幾重にも交互に積層してなる積層体を作成し、入射面(積層面)に対して所定の角度、例えば45(deg)(あるいは135(deg))の角度に切断して得た偏光ビームスプリッター(PBS:Polarizing Beam Splitter)アレイ(プリズムアレイ)の出射側表面に、有機系材料、例えばポリカーボネートフィルム製の1/2波長板を有機系の接着剤により接着した構成を備えており、光源から出射されたランダム光は、光路上に配置された遮光板により選択的にPBS膜に入射してS偏光光束とP偏光光束とに分離され、例えばP偏光光束は、前記PBS膜を透過し、S偏光光束は、前記PBS膜を反射する。
【0003】
前記PBS膜を透過したP偏光光束は、1/2波長板に入射すると、位相が180(deg)ずれることにより、S偏光の光に変換されて前記1/2波長板から出射し、前記PBS膜を反射したS偏光光束は、反射ミラー膜でさらに反射して、前記PBSアレイの1/2波長板が配置されていない領域の出射面から出射する。
結果として、前記偏光変換素子から出射する光はS偏光の光に統一されることとなる。
このような前記偏光変換素子に用いられる1/2波長板(位相差板)としては、光の三原色であるR、G、Bの3波長帯を用いる液晶プロジェクターに適用可能なように、広帯域の波長で位相差が180(deg)となり、偏光変換効率が1となって確実にP偏光をS偏光に変換し、あるいはS偏光をP偏光に変換可能な仕様を有する広帯域若しくは波長選択型の1/2波長板が求められている。
特許文献1には、R、G、Bのそれぞれの帯域の光が透過したときに1/2波長板として機能する複数枚の1/2波長板を、各々の光学軸が互いに所定の角度で交差するように積層することにより、広帯域で1/2波長板として機能する積層1/2波長板が提案されているが、これによっても、すべての波長において偏光変換効率は0.85を下回っており、R、G、Bの各波長帯において完全に1/2波長板として機能しているとは言い難い。引用文献2についても同様である。
特許文献3は、材料に水晶を用いた積層型の広帯域1/2波長板において、積層する第1、第2の波長板の厚みの加工誤差を補正し合うように、各波長板の前記加工誤差に起因した位相ズレ量ΔΓaとΔΓbが所定の関係式を満足するような第1、第2の波長板を積層することにより所定の偏光変換効率を満足することができることが記載されている。
それに対し特許文献4には、R、G、Bのそれぞれの帯域の光が透過したときに1/2波長板として機能する、複数枚の水晶よりなる1/2波長板を、各々の光学軸が互いに所定の角度で交差するように積層し、波長板の光学軸方位角や多次モードを調整することで全ての波長帯(R、G、B帯域)において選択的に、高い偏光変換効率を実現した1/2波長板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−100114号公報
【特許文献2】特開昭59−60408号公報
【特許文献3】特開2008−268901公報
【特許文献4】特開2007−304572公報
【特許文献5】特開2005−158121公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水晶を用いた1/4波長板について提案されている特許文献5において課題として掲げられているように、水晶等の複屈折性を有する光学結晶材料(主に単結晶よりなる材料)は、旋光能を有するため、特に、各波長板の切断角度(水晶板の主面における法線方向と光学軸(Z軸)との交差角度)が90deg(90degZともいう)ではない場合などは、この旋光能の影響により、偏光変換効率が低下し、ある波長範囲では所望の偏光変換効率を満足するような1/2波長板として機能しないという問題がある。
そこで、本発明は、上記のように旋光性及び複屈折性を有する水晶板における旋光能の影響を補正して、広帯域の波長帯において高い偏光変換効率(例えば0.8以上)を実現可能な1/2波長板を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例は、複屈折性と旋光性とを有する材料から構成され、所定の設計波長λの光に対して、位相差Γ1の第1波長板と、位相差Γ2の第2波長板と、を各々の光学軸が交差するように配置し、波長λ1〜λ2(λ1<λ2)の範囲の光に対して、入射する光の直線偏光の偏光面を90(deg)回転させて出射する波長板であって、前記設計波長λは、前記λ1≦λ≦λ2を満足し、
前記位相差Γ1及び前記位相差Γ2は、以下の関係を満足し、
Γ1=2π/λ×(ne−no)×t1
Γ2=2π/λ×(ne−no)×t2
Γ1=Γ2=180(deg)
但し、neは異常光屈折率、noは常光屈折率、t1は、前記第1波長板の主面法線方向の厚み、t2は、前記第2波長板の主面法線方向の厚み
前記各波長板において前記主面法線と前記光学軸とのなす角度βは、当該角度βの下限値をAとした時に、A≦β<90(deg)を満足し、前記第1波長板の光学軸方位角θ1、前記第2波長板の光学軸方位角θ2は、前記光学軸方位角θ1の補正値をaとし、前記光学軸方位角θ2の補正値をbとした時に、
θ1=22.5(deg)+a
θ2=67.5(deg)−b
但し、a=b≠0(deg)
を満足し、
前記角度βの下限値Aは、20(deg)<Aを満足する波長板を特徴とする。
【0008】
本適用例によれば、旋光性及び複屈折性を有する水晶板における旋光能の影響を補正して、広帯域の波長帯において高い偏光変換効率(例えば0.8以上)を実現可能な1/2波長板とすることが出来る。
【0009】
[適用例2]本適用例は、適用例1に記載の波長板において、前記角度βの下限値Aは、A=0.0019a−0.0078a−0.0062a+0.0113a+0.5333a−1.938a+23.345を満足し、前記光学軸方位角θ1の補正値aは、−4.0(deg)≦a≦4.5(deg)を満足することを特徴とする。
【0010】
本適用例によれば、波長400nm乃至波長700nmの範囲において、偏光変換効率の平均ロスが20パーセント以下となり、波長500nm乃至600nmの範囲において変更変換効率の平均ロスが10パーセント以下となる高い偏光変換効率を実現可能な1/2波長板とすることが出来る。
【0011】
[適用例3]本適用例は、適用例1又は2に記載の波長板において、前記波長λ1は、400nmであり、前記波長λ2は、700nmであり、前記設計波長λは、λ=(λ1+λ2)/2=550nmを満足することを特徴とする。
【0012】
本適用例によれば、設計波長が、G帯域の中心となるようにして、プロジェクターにおいて最も良好な特性が求められるG帯域において最も偏光変換効率を高くすることが出来る。
【0013】
[適用例4]本適用例は、適用例1又は2に記載の波長板において、前記設計波長λは、波長λ1<波長λ3≦λ≦波長λ4<波長λ2を満足し、前記波長λ3は、500nmであり、前記波長λ4は、600nmであることを特徴とする。
【0014】
本適用例によれば、設計波長が、G帯域の中心となるようにして、プロジェクターにおいて最も良好な特性が求められるG帯域において最も偏光変換効率を高くすることが出来る。
【0015】
[適用例5]本適用例は、互いに略平行な光入射面及び光出射面を有し、前記光入射面あるいは前記光出射面に対して所定の傾斜角度を有する接合面によって接着剤を介して接合された複数の透光性基板と、複数の前記透光性基板の間の境界部に交互に設けられ、前記光入射面に入射した光を偏光方向が互いに直交する異なる2種類の直線偏光に分離して一方の直線偏光を透過させ、他方の直線偏光を反射する偏光分離部と、反射された前記他方の直線偏光光束を反射し、光路の向きを変える反射部と、を有する光学素子と、前記光出射面であって、前記偏光分離部の上部の領域又は前記反射部の上部の領域に配置され、前記2種類の直線偏光のうち何れか一方の直線偏光の偏光面を回転させて他方の直線偏光の偏光面と平行な直線偏光に変換して出射する波長板と、を備え、前記波長板は、適用例1乃至4の何れかに記載の波長板であり、前記接着層は、紫外線硬化型の接着剤であり、厚みが5μm以上10μm以下でありることを特徴とする。
【0016】
本適用例によれば、光学素子を作成する際の接着剤として耐熱・耐光性能に優れた紫外線硬化製樹脂接着剤を用いることで高耐熱・高耐光性であり、更に、光学軸方位角を上記のように設定し、且つ旋光能の影響を補正するようにしたことで、広帯域の光に対して確実に1/2波長板として機能する位相差板を備えた偏光変換素子の構造を実現することが出来る。
また、接着層の厚みが10μm以下であり、十分に薄いため、光入射面などを研磨する際に透光性基板の角部が削られてしまうことがない。従って、光の透過領域が狭くなるという問題もない。
【0017】
[適用例6]本適用例は、適用例5に記載の偏光変換素子において、前記接着層は、変性アクリレート又は変性メタクリレートを主成分とすることを特徴とする。
【0018】
本適用例によれば、透明基板の接着に耐熱・耐光性能に優れた紫外線硬化製樹脂接着剤を用いることで、偏光変換素子を高耐熱性・高耐光性として長寿命とすることが出来る。
【0019】
[適用例7]本適用例は、適用例5又は6に記載の偏光変換素子と、当該偏光変換素子を固定する固定枠と、を備える偏光変換ユニットを特徴とする。
【0020】
本適用例によれば、本発明の偏光変換素子を備えることで、長寿命で光学特性に優れた偏光変換ユニットとすることが出来る。
【0021】
[適用例8]本適用例は、光を出射する光源装置と、該光源装置からの光を、1種類の偏光光に変換する適用例7に記載の偏光変換ユニットと、当該偏光変換ユニットからの偏光光を画像情報に応じて光学像を形成する光変調装置と、該光変調装置にて形成された前記光学像を拡大投射する投射光学装置と、を備える投射装置を特徴とする。
【0022】
本適用例によれば、本発明の偏光変換素子を備えることで、長寿命で光学特性に優れた偏光変換ユニットとすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る位相差板の一例としての積層1/2波長板の構成を示す図。
【図2】図1に示す積層1/2波長板1における偏光状態を説明する図。
【図3】波長板の旋光能を考慮した場合の偏光状態を示す図。
【図4】切断角度の下限値と、光学軸方位角の補正値と、厚みのシミュレーション結果を示すグラフ図。
【図5】波長400nmから700nmに対する積層1/2波長板の変換効率を示す図。
【図6】波長400nmから700nmに対する積層1/2波長板の変換効率を示す図。
【図7】波長400nmから700nmに対する積層1/2波長板の変換効率を示す図。
【図8】本発明の積層波長板を適用した偏光変換素子の一例を示す図。
【図9】従来の偏光変換素子の問題点を詳細に説明する図。
【図10】従来の偏光変換素子の問題点を詳細に説明する図。
【図11】プラズマ重合膜の組成を説明する概略図。
【図12】他の実施形態に係る偏光変換素子を示す分解斜視図。
【図13】図12の偏光変換素子の一部分を拡大して示した断面図。
【図14】偏光変換素子の製造工程を説明する図。
【図15】偏光変換素子の製造工程を説明する図。
【図16】偏光変換素子の製造工程を説明する図。
【図17】偏光変換素子の製造工程を説明する図。
【図18】偏光変換素子の製造工程を説明する図。
【図19】偏光変換素子の製造工程を説明する図。
【図20】偏光変換素子の製造工程を説明する図。
【図21】実施例1及び従来例1の耐熱性試験を示す図。
【図22】本発明に係る実施例2から実施例6までの平坦度試験の結果を示す図。
【図23】本発明に係る実施例7から実施例11までの平坦度試験の結果を示す図。
【図24】比較例2の平坦度試験の結果を示す図。
【図25】本発明の実施の形態に係る偏光変換素子を組み込んだ偏光変換ユニットの外観を示す図。
【図26】図25の偏光変換ユニットの分解斜視図。
【図27】本発明の実施の形態に係る偏光変換素子を適用した投光装置の一例としての液晶プロジェクターを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
【0025】
[波長板の構造]
以下に、本発明の実施の形態に係る位相差板の構成を説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る位相差板の一例としての積層1/2波長板の構成を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は分解斜視図、(c)は、側面図である。
図1(a)に示すように、本発明に係る積層1/2波長板1は、旋光性及び複屈折性を有する水晶等の無機光学結晶を用いた第1の波長板2と、第2の波長板4と、を夫々の光学軸3、光学軸5が交差するように貼り合わせた構成を備え、全体として、光源側から入射する直線偏光光Aの位相を180(deg)ずらし、偏光面をθ=90(deg)回転させた直線偏光光Bに変換して出射する1/2波長板として機能するように構成する。
図1(b)に示すように、第1の波長板2の光学軸方位角をθ1、第2の波長板4の光学軸方位角をθ2とする。光学軸方位角とは、結晶光学軸と、積層波長板に入射する直線偏光光の偏光面とのなす角度である。
尚、本実施例では、第1の波長板2と、第2の波長板4と、を積層しているが、これに限らず、前記θ1、θ2を本発明が提案する光学設計条件に基づいて設定しさえすればよく、第1の波長板2と、第2の波長板4とを積層せず、空間的に配置してもよいことは言うまでもない。
【0026】
さらに、図1(c)に示すように、第1の波長板2の切断角度(水晶板の主面における法線方向と結晶光学軸(Z軸)との交差角度)と、第2の波長板4の切断角度は、ともにβ(deg)Z(β<90(deg))としている。
これは、水晶等から構成される波長板においては、切断角度βを90(deg)Zより小さくすることで厚みが増加し、製造工程や組立工程における取り扱いが容易になるためである。
ところで、本発明の積層1/2波長板1を液晶プロジェクターに組み込む偏光変換素子に用いる場合、液晶プロジェクターに必要な各波長帯(R(赤:400nm帯)、G(緑:500nm帯)、B(青:675nm))において、偏光変換効率が1となり、位相差が180(deg)となることが求められる。
そこで、所定の設計波長λ、例えば520nmの光(緑)に対する第1の波長板2の位相差をΓ1、第2の波長板4の位相差をΓ2としたときに、
Γ1=180(deg)・・・(1)
Γ2=180(deg)・・・(2)
を満足するように、第1及び第2の波長板2、4の厚みを設定する。
【0027】
波長λの光に対する位相差Γと波長板の厚みtとの関係は、
Γ=2π/λ×(ne−no)×t
但し、neは異常光の屈折率、neは常光の屈折率
で表すことができる。
従って、第1の波長板2の厚みをt1、第2の波長板4の厚みをt2とした場合、
Γ1=2π/λ×(ne−no)×t1
Γ2=2π/λ×(ne−no)×t2
となる。
また、neとnoの値は、設計波長λの値に依存し、neは更に波長板の切断角度βにも依存しているので、前記切断角度βや前記設計波長λの値に応じて、neとnoが変化するため、(ne−no)の値は変化することとなる。
【0028】
ところで、図1に示す場合において、水晶板が有する旋光能を考慮しない場合を想定したとき、直線偏光の偏光面をθ(deg)回転させるには、2つの波長板の光学軸方位角の差が|θ1−θ2|=θ/2となればよい。
本発明の積層波長板は、例えば、偏光変換素子に用いる場合は、入射するP偏光をS偏光に変換させる1/2波長板として作用すべきものであるので、θ=90(deg)となるから、求められる光学軸方位角の差は、|θ1−θ2|=45(deg)である。
従って、例えば、θ1=22.5(deg)、θ2=67.5(deg)とすることで、1/2波長板として作用することが可能となる。
なお、光学軸方位角θ1、θ2の範囲は、要求仕様に応じて或いは許容誤差として、設定角度から±2(deg)の範囲で有効である。
しかしながら、図1(c)について説明したように、切断角度βを90(deg)よりも小さくしていくことで、水晶等光学結晶体の有する旋光能の影響を受けやすくなり、かかる旋光能によって各波長板を通過するときに旋光回転してしまうので積層波長板全体として所望の偏光変換効率が得られないという問題が生じる。
【0029】
本願発明者は、この旋光能の影響を補正するためには、即ち、水晶板が有する旋光能を考慮する場合には、両波長板の光学軸方位角θ1、θ2を調整して回転軸(光軸)を補正する必要があることに思い至った。
これに基づき、第1の波長板の光学軸方位角θ1、第2の波長板の光学軸方位角θ2を調整値補正値a、bにより調整し、
θ1=22.5(deg)+a(deg)・・・(3)
θ2=67.5(deg)−b(deg)・・・(4)
但し、a=b
を満足するように設定する。
この場合、|θ1−θ2|<45(deg)となる。
ただし、切断角度βの値に起因する旋光能の影響の大小(波長板における旋光回転による直線偏光の回転のズレ量)によっては、上記の光学軸方位角の調整によっては、旋光能の影響を補正仕切れない場合もある。
従って、本発明では、光学軸方位角の調整によって旋光能の影響を補正し得る切断角度βの最小値(下限値)Aと、切断角度βが、A≦β<90(deg)を満たす場合に光学軸方位角の調整量aが取り得る値の範囲を種々のシミュレーションを行うことによって見いだした。
さらに、切断角度βの最適な範囲として、加工工程時や組立工程時の波長板の割れや破損を防ぐために波長板の厚みが取り扱い上問題とならない値となる切断角度を上限として設定することで、旋光能への対策と取り扱い上最適な厚みの確保を両立させた波長板を得ることが出来る。
【0030】
まず、第1の波長板2と、第2の波長板4と、から構成される本発明に係る1/2波長板において、光源側から入射する直線偏光光Aの偏光面を90(deg)回転させた直線偏光光Bに変換して出射することを実現するために、基本となる補正前の構成について考える。
すなわち、第1の波長板2と第2の波長板4において、旋光能の影響を考慮せず、第1の波長板2の光学軸方位角θ1と第2の波長板4の光学軸方位角θ2の値を、調整前の値とする。
【0031】
上記の式(1)、(2)における位相差、光学軸方位角の値は、第1及び第2の波長板2、4を用いて全体として1/2波長板1を構成する場合に所望する広範囲の波長帯で位相差を180(deg)とするために、積層1/2波長板1を構成する第1及び第2の波長板2、4について、所定の波長(例えば、520nm)での夫々の位相差Γ1、Γ2、夫々の光学軸方位角θ1、θ2といったパラメータを種々変化させて最適な位相差、変換効率等を求める手法をとる。
そして、
Γ1=180(deg)・・・(5)
Γ2=180(deg)・・・(6)
θ1=22.5(deg)・・・(7)
θ2=67.5(deg)・・・(8)
式(5)〜(8)の値を満足する場合に、上記RGB3波長帯の光に対して位相差が180(deg)となり、偏光変換効率がほぼ1となることが見出された。
ここで、設計波長λの取りうる値の範囲は、510≦λ≦530(nm)となる。
なお、図1において、第1の波長板2と第2の波長板4の光学軸方位角を入れ替えても良い。言い換えれば、光の入射方向に対して、第1の波長板2と、第2の波長板4の積層順を入れ替えてもよい。
具体的には、第1の波長板2の光学軸方位角θ1と、第2の波長板4の光学軸方位角θ2を
θ1=67.5(deg)・・・(7)’
θ2=22.5(deg)・・・(8)’
とすることが出来る。
【0032】
また、図1における第1の波長板2の光学軸方位角θ1、第2の波長板4の光学軸方位角θ2を互いに鈍角としてもよい。
この場合、第1の波長板2の光学軸方位角θ1と、第2の波長板の光学軸方位角θ2が、
θ1=112.5(deg)・・・(9)
θ2=157.5(deg)・・・(10)
を満足することにより、上記3波長帯の光に対して位相差が180(deg)となり、偏光変換効率がほぼ1となる。
また、この場合も、第1の波長板2と第2の波長板4の光学軸方位角を下記式(5)’、(6)’のように入れ替えても、偏光変換効率をほぼ1とすることが出来る。
θ1=157.5(deg)・・・(9)’
θ2=112.5(deg)・・・(10)’
【0033】
次に、上記の光学軸方位角θ1、θ2を以下にして見出したかを説明する。
はじめに、本発明に係る積層1/2波長板の実施例を見つけ出した計算手法を簡単に説明する。直線偏光が2枚の波長板を透過した後の偏光状態は、ミューラ行列、又はジョンズ行列を用いて表すことができる。
E=R2・R1・I・・・(11)
ここで、Iは入射光の偏光状態、Eは出射光の偏光状態を表すベクトルである。R1は積層1/2波長板1における第1の波長板2のミューラ行列、R2は第2の波長板4のミューラ行列で、夫々次式で表される。

・・・(12)

・・・(13)
第1及び第2の波長板2、4夫々の位相差Γ1、Γ2、光学軸方位角度θ1、θ2を設定して、式(12)、(13)よりミューラ行列R1、R2を求める。
【0034】
そして、入射光の偏光状態Iを設定すると、式(11)より出射光の偏光状態Eを算出することができる。
行列としてミューラ行列を用いた場合について説明すると、出射光の偏光状態Eは次式で表される。

・・・(14)
Eの行列要素S01、S11、S21、S31はストークスパラメータと呼ばれ、偏光状態を表している。このストークスパラメータを用いて、波長板の位相差Γは次式のように表される。

・・・(15)
Γ=(2m−1)×π 但し、mは正の整数
このように、式(15)を用いて位相差を算出することができる。
また、上記のように、図1に示す積層1/2波長板1は、直線偏光の偏光面を、所定の回転角度θだけ回転させる機能を有しており、例えば、水平方向の振動面を持つ直線偏光Aを入力光として、偏光面をθ=90(deg)だけ回転(位相変調)させて水平方向の振動面を持つ直線偏光Bとして出射させる。
【0035】
図2は、図1に示す積層1/2波長板1における偏光状態を説明する図であり、(a)は、偏光状態の軌跡をポアンカレ球上に示す図、(b)は、(a)における偏光状態の軌跡をS1S3平面に投影した図である。
この位相変調(90(deg)回転)は図2のポアンカレ球で考えると、入射、偏光状態P0からP2へ変調させることであり、このとき必要な位相差は180(deg)である。
積層1/2波長板1が、完全に1/2波長板として機能している場合、赤道上の所定の位置P0から偏光方向が赤道に対して平行な方向となる直線偏光Aとして光線が入射すると、第1の波長板2によって光軸R1(2・θ1)を中心にして180(deg)回転しP1(赤道上)へ移され、さらに第2の波長板4によって光軸R2(2・θ2)を中心にして180(deg)回転しP2(赤道上)に到達し、直線偏光Aに対してθ=90(deg)だけ回転した直線偏光Bとなって1/2波長板1を出射することになる。
なお、P2は、P0から180(deg)回転した赤道上の点である。
図2(a)、(b)から分かるように、ここでは水晶板の旋光能を考慮していないため、光軸R1、光軸R2は赤道と交差している。
【0036】
図2(c)は、図2(a)に示したポアンカレ球において1/2波長板1に入射した光線の偏光状態の軌跡をS3軸方向から見た図(S1S2平面に投影した図)である。
第1の波長板2の光学軸方位角θ1、第2の波長板4の光学軸方位角θ2及び直線偏光A(入射光)に対する直線偏光B(出射光)の回転角θの関係は、ポアンカレ球上では図18(c)のように表すことができる。
点O、P0、P1を結んでなる三角形OP0P1は点Oを頂点とする二等辺三角形であり光軸R1は三角形OP0P1の二等分線となり、辺OP0と光軸R1とのなす角及び辺OP1と光軸R1とのなす角は2θ1となる。点O、P1、P2を結んでなる三角形OP1P2は点Oを頂点とする二等辺三角形であり、光軸R2は三角形OP1P2の二等分線となる。
【0037】
ここで、辺OP1と光軸R2とのなす角α及び辺OP2と光軸R2とのなす角αは、以下のように求められる。
2θ=2×2θ1+2α
α=θ−2θ1
従って、辺OP0と光軸R2とのなす角2θ2は、以下のように表すことができる。
2θ2=α+2×2θ1=θ−2θ1+2×2θ1=θ+2θ1
従って、θ2は、
θ2=θ1+θ/2・・・(16)
と表すことができる。
【0038】
しかしながら、図2のポアンカレ球において、P0からPaへ、P0からPbへ変調させた場合も、位相差は同じく180(deg)となる。即ち、位相差を用いて評価した場合、必要な偏光状態に変調されているかを判断することができない。ポアンカレ球上(赤道上)のP2と異なるPa、Pbの点は偏光面の方位である。
これを検出するため、出射光の偏光状態を表す行列Eと、偏光子の行列Pとの積を計算し、得られた光量を評価値とすれば、偏光状態を正確に判定することができる。これを変換効率と定義する。
具体的には、偏光子の行列Pの透過軸を90(deg)に設定し、行列Pと出射光偏光状態を表す行列Eとの積から得られる行列Tのストークスパラメータより、90(deg)方向の偏光面成分の光量を算出することができる。出射光偏光状態を表す行列Eと、偏光子の行列Pとの、積は次式のようになる。
即ち、偏光子の行列Pの透過軸を所定の角度に設定し、前記光射光の偏光状態Eを表わす行列Eと偏光子の行列Pとの積をTとすると、Tは次式で表される。
【0039】
T=P・E ・・・(17)
ここで、行列Tは変換効率を表し、その要素のストークスパラメータで表すと次式のように表される。

・・・(18)
ここで、ベクトルTのストークスパラメータのS02が光量を表している。入射光量を1に設定すればS02が変換効率となる。
ここで、ベクトルTのストークスパラメータS02が光量を表し、入射光量を1に設定すると、ストークスパラメータS02が変換効率となる。従って、積層1/2波長板1の変換効率Tは、第1及び第2の波長板2、3の、所定の波長(例えば波長が、設計波長λ=520nmのとき)での位相差Γ1、Γ2、光学軸方位角θ1、θ2を様々に変化させて、シミュレーションすることができる。
位相差、変換効率とも積層1/2波長板を透過した後の偏光状態を表す行列Eから求めることができる。
【0040】
上記の変換効率を評価基準とし、積層1/2波長板の諸パラメータである第1及び第2の波長板2、4の、所定の波長(例えば波長520nm)での夫々の位相差Γ1、Γ2、夫々の光学軸方位角θ1、θ2を種々変化させ、計算機を用いてシミュレーションした。
シミュレーションを繰り返し行い、所望の複数の波長帯において、変換効率が良い場合の上記パラメータを選び出した。
【0041】
その結果を以下に説明する。
図16に示す積層1/2波長板1の第1及び第2の波長板3、4の切断角度が夫々90(deg)Z(水晶板の主面における法線方向と光学軸(Z軸)との交差角度が90(deg))、波長λを520nmとしたとき、第1の波長板2の位相差Γ1、光学軸方位角θ1が夫々180(deg)、22.5(deg)、第2の波長板の位相差Γ2、光学軸方位角θ2が夫々180(deg)、67.5(deg)に設定した場合に、積層1/2波長板1の変換効率をシミュレーションにより求めた結果良好な波長−変換効率(偏光変換効率)が得られた。
なお、光学軸方位角θ1、θ2の範囲は、要求仕様に応じて或いは許容誤差として、設定角度から±2(deg)の範囲で有効である。
【0042】
次に、波長板の旋光能を考慮する場合の偏光状態について説明する。
図3は、波長板の旋光能を考慮した場合の偏光状態を示す図であり、(a)は、波長板の旋光能を考慮した場合の偏光状態の偏光状態を、ポアンカレ球を用いて示す図、(b)は、(a)における偏光状態の軌跡をS1S3平面に投影した図である。
図2について説明したように、積層1/2波長板1が、完全に1/2波長板として機能している場合、赤道上の所定の位置P0から偏光方向が赤道に対して平行な方向となる直線偏光Aとして光線が入射すると、第1の波長板2によって光軸R1を中心にして180(deg)回転しP1(赤道上)へ移され、さらに第2の波長板4によって光軸R2を中心にして180(deg)回転しP2(赤道上)に到達し、直線偏光Aに対してθ=90(deg)°だけ回転した直線偏光Bとなって1/2波長板1を出射することになる。
【0043】
しかし、図3における場合、図3(b)に示すように、光軸R1、R2は、旋光能の影響により図3(a)と比べて北極側に持ち上がっている(光軸R1’、光軸R2’)。
光軸R1、R2の持ち上がり量である角度は、2ρとなりえる。ここで、ρは水晶の旋光角であり、ρは切断角度βの値に依存し、βの値が少なくなるほど持ち上がり量は増加し、旋光能の影響は大きくなっている。
このため、光軸R1’、R2’を中心に180(deg)回転した光は、図3(a)における赤道上の点P1、P2に到達できず、北極側にずれた点P1’(≠P1)、P2’(≠P2)に到達する。
従って、この状態では、図3のポアンカレ球が表現する積層波長板は、1/2波長板として完全には機能出来ていない。
この場合は、各波長板の光学軸方位角を調整することにより、光軸R1’、光軸R2’を図3(c)のようにずらして(光軸R1’’、光軸R2’’)、直線偏光が点P2に到達するようにする。
具体的には、図1で説明したように、第1の波長板2の光学軸方位角θ1、第2の波長板4の光学軸方位角θ2が、
θ1=22.5(deg)+a(deg)
θ2=67.5(deg)−b(deg)
a=b≠0(deg)
を満たすようにする。この場合、光軸R1(光軸R1’’)、光軸R2(光軸R2’’)は、図2(b)に示す場合に比べP1側に寄ることになる。
なお、光学軸方位角θ1、θ2の範囲は、要求仕様に応じて或いは許容誤差として、設定角度から±2(deg)の範囲で有効である。
【0044】
次に、波長板における旋光能を考慮して、第1の波長板2、第2の波長板4におけるパラメータとして、旋光能の補正が可能な(光学軸方位角を調整値して、広帯域の波長帯において高い平均偏光変換効率(例えば0.8以上)を実現可能な1/2波長板を実現し得る)切断角度βの下限値A、及び切断角度βが下限値A≦β<90を満たす場合に光学軸方位角θ1、θ2の補正値a、bが取り得る値を求めた。
詳しくは、波長λ1=400nmから波長λ2=700nmにおいて、偏光変換効率の平均ロスが20%以下であり、且つ、波長λ3=500nmから波長λ4=600nmにおいて、偏光変換効率の平均ロスが10%以下となる上記パラメータの範囲を求めた。
なお、偏光変換効率は、上記ストークスパラメータを用いたシミュレーションによって求めることが出来る。
波長500nm〜600nmで偏光変換効率が良好となるようにして演算したため、G(グリーン)帯域を重視するプロジェクターに好適な波長板とすることが出来る。
【0045】
図4は、切断角度の下限値Aと、光学軸方位角の補正値a(=b)と、厚みt(t1、t2)のシミュレーション結果を示すグラフ図である。
図4のグラフは、切断角度の値を減らして波長板の厚みを増やして行く毎に、光学軸方位角の調整によって旋光能の補正が可能な切断角度βの下限値Aが、小さくなっていることを示している。なお、旋光能補正のために必要な光学軸方位角の補正値(a、b)は、波長板の厚みが増えるのに従い増加している。
シミュレーションの結果、切断角度βの下限値Aが20(deg)<Aを満たす場合、光学軸方位角の調整によって旋光能が補正可能であることが見出された。
特に、図4のグラフに示すように、切断角度の下限値Aが、以下の近似(6次)多項式を満足する場合に、上記のシミュレーション条件を満たす(波長λ1=400nmから波長λ2=700nmにおいて、偏光変換効率の平均ロスが20%以下であり、且つ、波長λ3=500nmから波長λ4=600nmにおいて、偏光変換効率の平均ロスが10%以下となる)ように、旋光能を補正することが出来る。
A=0.0019a−0.0078a−0.0062a+0.0113a+0.5333a−1.938a+23.345
この場合の補正値aは、−4.0(deg)≦a≦4.5(deg)を満足する。
また、下限値Aは、a=−4.0(deg)の時、A=53(deg)となり、a=2.5(deg)の時、A=21.5(deg)、a=4.5(deg)の時、A=25(deg)となる。
また、第1の波長板2、第2の波長板4の板厚t1,t2について、t1=t2=tとしたとき、板厚tは補正値aとの以下の近似(6次)多項式を満足する。
t=−4E−06a−6E−06a+8E−05a−0.0004a−0.0043a+0.0258a+0.1806
この場合、a=−4.0(deg)の時、板厚tは0.0443(mm)となり、a=2.5(deg)の時、板厚t=0.2111(mm)となる。さらに、a=4.5では、板厚t=0.1589(mm)である。
【0046】
図5は波長400nmから700nmに対する本発明の積層1/2波長板1の変換効率を示す図であり、各波長板の設計波長λを520nmとして、入射角を−10(deg)から+10(deg)まで変化させた場合の、波長毎の偏光変換効率の変化を示すグラフ図である。
本発明の積層1/2波長板1は、全体としては、設計波長520nmでは各入射角において偏光変換効率が0.6以上となり、特に入射角が−10deg〜5degでは、400nmから700nmの範囲全体の設計波長において、高い偏光変換効率を示している。
また、500nm〜600nmの範囲(G帯域)において、偏光変換効率が、0.9以上となっている。
この場合、切断角度βは、最小値Aは21.5(deg)であり、光学軸方位角aの調整値補正値aは、2.5(deg)である。また、その際、各波長板の厚みt1、t2は、0.2111mmである。
液晶プロジェクターで用いる青、緑、赤の波長は夫々400nm帯、500nm帯、675nm帯であるので、上記パラメータの積層1/2波長板1は、液晶プロジェクター等に良好に適用可能である。
なお、切断角度βの上限は、図4の場合と同様に、ハンドリング上好ましい例えば0.3mm以上となるように、
Γ=2π/λ×(ne−no)×t
の式から導き出せば良い。
【0047】
図6は波長400nmから700nmに対する本発明の積層1/2波長板1の変換効率を示す図であり、各波長板の設計波長λを510nmとして、入射角を−10(deg)から+10(deg)まで変化させた場合の、波長毎の偏光変換効率の変化を示すグラフ図である。
本発明の積層1/2波長板1は、全体としては、設計波長510nmでは各入射角において偏光変換効率が0.6以上となり、特に入射角が−10deg〜5degでは、400nmから700nmの範囲全体の設計波長において、高い偏光変換効率を示している。
また、500nm〜600nmの範囲(G帯域)において、偏光変換効率が、0.9以上となっている。
この場合、切断角度βは、最小値Aは53.0(deg)であり、光学軸方位角の調整値補正値aは、−4.0(deg)である。また、その際、各波長板の厚みt1、t2は、0.0443mmである。
液晶プロジェクターで用いる青、緑、赤の波長は夫々400nm帯、500nm帯、675nm帯であるので、上記パラメータの積層1/2波長板1は、液晶プロジェクター等に良好に適用可能である。
なお、切断角度βの上限は、図4の場合と同様にハンドリング上好ましい例えば0.3mm以上となるように、Γ=2π/λ×(ne−no)×tの式から導き出せば良い。
【0048】
図7は波長400nmから700nmに対する本発明の積層1/2波長板1の変換効率を示す図であり、各波長板の設計波長λを530nmとして、入射角を−10(deg)から+10(deg)まで変化させた場合の、波長毎の偏光変換効率の変化を示すグラフ図である。
本発明の積層1/2波長板1は、全体としては、設計波長530nmでは各入射角において偏光変換効率が0.5以上となり、特に入射角が−10deg〜5degでは、400nmから700nmの範囲全体の設計波長において、高い偏光変換効率を示している。
また、500nm〜600nmの範囲(G帯域)において、偏光変換効率が、0.9以上となっている。
この場合、切断角度βは、最小値Aは25.0(deg)であり、光学軸方位角aの調整値補正値aは、4.5(deg)である。また、その際、各波長板の厚みt1、t2は、0.1589mmである。
液晶プロジェクターで用いる青、緑、赤の波長は夫々400nm帯、500nm帯、675nm帯であるので、上記パラメータの積層1/2波長板1は、液晶プロジェクター等に良好に適用可能である。
なお、切断角度βの上限は、例えば、ハンドリング上好ましい例えば0.3mm以上となるように、Γ=2π/λ×(ne−no)×tの式から導き出せば良い。
積層1/2波長板が対応すべき波長帯は、RGBのみならず、他の波長の色を加えた、4波長、5波長にも対応可能としてもよい。
また、設計波長λを、550nmとして設計すれば、G帯域の中心波長にて最も偏光変換効率を良好にして、プロジェクターに用いるためのより好適な波長板を実現出来る。
【0049】
図8は、本発明の積層波長板を適用した偏光変換素子の一例を示す図である。
図8に示す偏光変換素子は、上述のPBSアレイである素子本体(光学素子)10と、素子本体10に選択的に接合された、水晶等の無機光学結晶からなる位相差板(積層1/2波長板)1と、を備える。
水晶等の無機光学結晶は、熱伝導性に優れるため、背景技術で述べた有機系材料で作製した位相板に比べ、耐熱性に優れ、高熱による光学特性の劣化の懸念がない。
また、位相差板の材質としては、水晶の他に、リチウムタンタレート、サファイアなども適用可能である。
なお、後述する図26に示すように、偏光変換素子においては、2つの素子本体10を連結して組み込むが、図8では、一部のみを表示している。
図1に示すように、素子本体10は、複数の透光性基板11と、複数の透光性基板11の間に交互に設けられた偏光分離膜(偏光分離部)12及び反射膜(反射部)13と、複数の透光性基板11の間にそれぞれ設けられて、透光性基板11を接着する接着層14と、を備えている。
【0050】
また、素子本体10は、互いに略平行な光入射面16と、光出射面17と、を有する。
また、素子本体10は、光入射面16あるいは光出射面17に対して所定の傾斜角度を有する接合面11aにより複数の透光性基板11を偏光分離膜(偏光分離部)12と反射膜(反射部)13とを交互に挟んで接着層14により接合されている。
偏光分離膜12は、外部からの入力光(S偏光光及びP偏光光)のうち、P偏光光を選択的に透過させ、S偏光光を反射させる。
反射膜13は、偏光分離膜12により反射されたS偏光光を、光出射面17に向けて反射させる。
ここで、接着層14は、その厚みが5μm以上10μm以下である。
接着層14は、変性アクリレート又は変性メタクリレートを主成分とする紫外線硬化型の接着剤により形成されるため、上記のような厚みとすることが出来る。
従来の紫外線硬化型の接着剤では、変性アクレート又は変性メタクリレートを主成分としていなかったために、粘度が高く、接着層の厚みが10μm以上20μm以下となってしまっていた。
【0051】
このように、接着層の厚みが10μmを超える場合、後に図14乃至図20を用いて説明する偏光変換素子の製造工程において、接着層の端部に歪みが生じてしまう。そのため、光入射面16及び光出射面17を研磨する(図20)際に、歪み近傍の透光性基板11の角部が削られてしまう。その結果、透光性基板11の光出射面17に、位相差板1を接合する際に、透光性基板11と、位相差板1との間に隙間が生じ、気泡が発生してしまう。
これにより、透光性基板11と位相差板1とが十分に接合されず、位相差板1が、剥がれやすくなる。
また、透光性基板11と、位相差板1との間に発生した気泡により光の透過率が落ちる。
図9、10は、従来の偏光変換素子の問題点を詳細に説明する図である。
また、図9に示す従来の偏光変換素子においては、上記のように接着層93が厚くなるが、このように接着層93が厚い状態で積層体が切り出されると、接着層93の端部に歪みが生じてしまう。この歪みが生じた状態で、切断面が研磨されると、図10に示すように接着層93近傍における透光性基板98の角部981が削られてしまう。これにより、素子本体95に位相差板97を接合するための接合層96に隙間が生じて、位相差板97が剥がれやすくなり、また気泡961が形成されて、光の透過率が低下するなどの問題もある。
また、接着層93近傍における透光性基板98の角部981が削られることで、光が有効に透過する領域が小さくなるという問題もある。
【0052】
一方、接着層の厚みが、5μm未満の場合は、接着層にごみなどが混入した場合、ごみなどによって、接着層の接着強度が低下する。
しかし、接着層の厚みが5μm以上10μm以下であれば、透光性基板11の角部が削れにくい為に気泡が発生せず、位相差板1が透光性基板11から剥がれやすくなったり、光の透過率が落ちたりする不具合を解消することが出来る。
なお、本実施形態に用いられる接着剤としては、例えば、UT20、HR54(商品名、株式会社アーデル製)などが挙げられる。
【0053】
また、図8において、位相差板1は、接合層21により、透光性基板11の光出射面17おける偏光分離膜12の上部の領域に接合されている。
この位相差板1は、上記のように水晶により作製された1/2波長板であり、偏光分離膜12を透過したP偏光光をS偏光光に変換する。
ただし、偏光変換素子1において、P偏光光に統一して出射する場合には、位相差板1を反射膜13の上部に設けるようにする。
なお、接合層21は、分子接合するプラズマ重合膜であり、その主材料は、ポリオルガノシロキサンである。プラズマ重合膜は、プラズマ重合法により形成されてシロキサン結合を含み、結晶化度が45%以下であるSi骨格と、このSi骨格に結合する有機基からなる脱離機とを含む。そして、エネルギーを付与して表面付近に存在する脱離基がSi骨格から脱離することにより、接着性を発現する。
【0054】
図11は、プラズマ重合膜の組成を説明する概略図であり、(A)は、エネルギーを付与する前の組成を示し、(B)は、エネルギーを付与した後の組成を示している。
上記したが、図11(A)に示すように、プラズマ重合膜は、Si骨格21Bを含むシロキサン結合(Si−O)21Aと、Si骨格21Bと結合している脱離基21Cと、を含む。
図11(A)に示すようなプラズマ重合膜よりなる接合層21にエネルギーが付与されると、図2(B)に示す通り、図11(A)に示されていた脱離基21Cが、Si骨格21Bから脱離する。これにより、接合層21の表面及び内部に、活性手21Dが生じ、活性化される。
その結果、接合層21の表面に接着性が発現する。このような接着性が発現すると、接合層21は強固に接合可能となる。なお、接合層21のSi骨格21Bの結晶化度は45%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。これにより、Si骨格21Bは充分にランダムな原子構造を含むものとなり、これにより、Si骨格21Bの特性が顕在化する。
ここで、「活性化させる」とは、接合層21の表面及び内部の脱離基21Cが脱離して、Si骨格21Bにおいて終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」ともいう。)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことをいう。
従って、活性手21Dとは、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことをいい、このような活性手21Dによれば、接合層21の強固な接合が可能となる。
【0055】
前述の通り、このプラズマ重合膜は、エネルギーが付与されると、その表面及び内部に活性手が生じるため、プラズマ重合膜に強力な接着性が発現する。
また、接着剤を用いない無機的な接合方法であるので、接着剤の劣化によって光学特性が影響を受けることがない。
また、接着層14の厚みが5μm以上10μ以下であることで、透光性基板11の角部が削れにくいことで、プラズマ重合法により隙間無く接合層21を形成して、透光性基板11と位相差板1とを強力に接合出来る。
なお、位相差板1と光出射面17との接合方法は、このプラズマ重合法に限ることはなく、上記した変性メタクリレート又は変性アクリレートを主成分とする接着剤によって接合してもよい。
【0056】
また、接合層21は、プラズマ重合法のみならず、原子拡散接合法により形成してもよい。
原子拡散接合法とは、まず、真空容器内におけるスパッタリングやイオンプレーティング等の真空成膜により、素子本体10を構成する透光性基板11及び位相差板1に、それぞれ微結晶連続薄膜を成膜する。そして、微結晶連続薄膜同士を、成膜中又は成膜後に重ね合わせて、接合界面及び結晶粒界において原子拡散を生じさせることにより、透光性基板11及び位相差板1の間で強固に接合する方法である。
なお、微結晶連続薄膜同士を重ね合わせるだけでなく、透光性基板11及び位相差板1のいずれか一方に微結晶連続薄膜を形成し、他方に微結晶構造を形成し、そしてこれらの微結晶連続薄膜と微結晶構造とを重ね合わせることにより、原子拡散接合を実施することも出来る。
この場合も、接着剤を用いない無機的な接合方法であるので、接着剤の劣化によって光学特性が影響を受けることがない。
【0057】
図12は、他の実施形態に係る偏光変換素子を示す分解斜視図である。
図13は、図12の偏光変換素子の一部分を拡大して示した断面図である。
なお、図1と同様の構成については、同じ符号を付して詳細な説明を省略している。
図12、図13に示す偏光変換素子は、PBSアレイとしての素子本体10と、素子本体10に接合され、1/2波長板として機能し、入射した直線偏光の偏光面を90(deg)回転させて出射する水晶製の位相差板1と、を備える。
素子本体10は、略直方体形状であり、2つの素子本体10A、10Bが向かい合う長手方向の端部同士を互いに接合し、接合面10Cに対して対称関係となっている。
この素子本体10は、互いに略平行な光入射面10Dと光出射面10Eとを有する。
また、素子本体10は、複数の透光性基板11との間に、長手方向に沿って交互に並んで配置された偏光分離膜12と反射膜13とを有する。
また、複数の透光性基板11は、それぞれ光入射面10D或いは、光出射面10Eに対して所定の傾斜角度を有した接合面11aによって接合されている。
【0058】
偏光分離膜12と反射膜13とは、複数の透光性基板11との間の境界部11Bに交互に設けられている。
偏光分離膜12は、光入射面10Dに入射した光を、偏光方向が互いに直交する異なる2種類の直線偏光に分離して一方の直線偏光を透過させ、他方の直線偏光を反射させる。
本実施形態では、偏光分離膜12は、光入射面10Dに入射したランダム偏光光のうちP偏光光を選択的に透過させ、S偏光光を反射させる。
反射膜13は、偏光分離膜12により反射された他方の直線偏光を反射し、光路の向きを変える。即ち、反射膜13は、偏光分離膜12にて反射されたS偏光光を光出射面10Eに向けて反射させる。
素子本体10は、図13に示すように、複数の透光性基板11を互いに接合する接着層14を有する。
【0059】
ここで、接着層14は、紫外線硬化型等の光学系接着剤を用いることが出来る。紫外線硬化型の接着剤を用いた場合、粘度が高く、接着層14の厚みは、およそ10μm以上20μm以下程度となる。
更に、変性アクリレート又は変性メタクリレートを主成分とする紫外線硬化型の接着剤を用いると、接着層14の厚みを5μm以上10μmと薄くできる。変性アクリレート又は変性メタクリレートを主成分とする紫外線硬化型の接着剤としては、例えば、UT20、HR154(商品名、株式会社アーデル製)などが挙げられる。
接着層14は、所定の厚さW1を有する。
【0060】
位相差板1(20A、20B)は、2つの素子本体10A、10Bの光出射面10Eに夫々配置されている。
位相差板1は、偏光分離膜12を透過したP偏光光に180(deg)の位相差を生じさせて当該P偏光光の偏光面を90(deg)回転させるので、反射膜13により反射されたS偏光光の偏光面と平行な直線偏光、即ち、S偏光光に変換して出射する。
また、図12に示すように、位相差板1は、櫛状(すだれ状)である。
この位相差板1(20A、20B)は素子本体10に接合されて光が透過しない基部20C(1C1、1C2)と、この基部20Cから延在され、光が透過する位相差部1D(1D1、1D2)と、を有する。
即ち、基部20Cは、素子本体10の光学領域である有効エリア(E)の外に配置されている。基部20Cの長手方向、即ち、偏光分離膜12と反射膜13とが交互に並べられた方向に沿って、接合されている。
【0061】
そして、一方の位相差板1Aの基部1C1は、素子本体10における長手方向に平行な端縁部のうち一方の端縁部10Fに接合され、他方の位相差板1Bの基部1C2は、一方の位相差板1Aにおける位相差部1D1の先端部1E1に接近している。
即ち、一方の位相差板1Aの基部1C1は、他方の位相差板1Bにおける位相差部1D2の先端部1E2に接近しており、他方の位相差板1Bの基部1C2は、一方の位相差板1Aにおける位相差部1D1の先端部1E1に接近している。
なお、基部20Cは、その主平面が、長尺の矩形状であり、その幅は、例えば3mmから4mm程度である。
【0062】
基部20Cは、素子本体10に、図示しない接合膜により接合されている。
この接合膜は、接着層14と同様に、紫外線硬化型等の光学系接着剤やプラズマ重合膜により設けられている。接合膜は、光路上に配置されない、光学領域である有効エリアEの外側に配置されることが望ましいため、基部20Cと素子本体10の長手方向に並行な端縁部10F、10Gとの間にのみ形成されていることが望ましい。
位相差板1(位相差部1D)は、いわば短冊状であり、その厚さは基部20Cと同じである。位相差部1Dは、基部20Cから延在され、素子本体10の光出射面10Eにおける偏光分離膜12の上部の領域に配置されている。隣り合う複数の位相差部1Dは、互いに所定幅の隙間W2をもって配置されており、隙間W2には、反射膜13で反射されたS偏光光がそのまま通過する。
位相差部1Dは、図13に示すように、それぞれ素子本体10の光出射面10Eに対向する光入射面1Fを有する。
【0063】
この位相差部1Dの光入射面1Fと、素子本体10の光出射面10Eとの間には、僅かな隙間W3が設けられている。そのため、位相差部1Dの光入射面1Fと光学素子310の光出射面10Eとには、それぞれ図示しない反射防止膜が形成されていることが望ましい。
図12、図13の構成によれば、位相差板1の位相差部1Dが、素子本体10に接着剤により接着されないので、接着剤の劣化による光学特性の劣化を回避することが出来る。
また、複数の位相差部1Dが、基部20Cと一体となっているため、位相差板1の素子本体10への組み付けも容易である。
【0064】
次に、素子本体10の製造工程をより詳しく説明する。
製造工程は、大きく分けて膜形成工程と、接着工程と、切断工程と、研磨工程と、から成っている。
図14乃至図19は、本実施形態にかかる偏光変換素子、特に素子本体の製造工程を説明する図である。
[膜形成工程]
最初の膜形成工程では、図14に示すように、まず複数の透光性基板(ガラス等の無色透明基板)11Aが準備される。これらの透光性基板11Aは、互いに略平行な第1面11A1及び第2面11A2を有している。
複数の透光性基板11Aのうち、いくつかの透光性基板11Aの第1面11A1には、偏光分離膜12が形成され、第2面11A2には、反射膜13が形成される。
その他の透光性基板11Aの第1面11A1及び第2面11A2には、これらの膜の何れかが形成されるか、あるいは何れの膜も形成されていない。
【0065】
[接着工程]
図15に示す接着工程では、偏光分離膜12及び反射膜13が形成された透光性基板11Aと、これらの膜が形成されていない透光性基板11Aと、が接着剤14Aによって交互に貼り合わされる。このとき、偏光分離膜12と反射膜13とが透光性基板11Aを挟んで交互に積層されるようにする。
ここで、接着剤14Aとして変成アクリレート又は変性メタクリレートを主成分とする接着剤を使用し、その塗布量は、硬化後の厚みが5〜10μmとなるように調整する。
【0066】
次に、図16に示すように、透光性基板11Aの第1面11A1にほぼ垂直な方向から紫外線が照射される。なお、紫外線は、偏光分離膜12及び反射膜13を通過するため、図16中全ての接着剤14Aは同時に硬化される。
これにより、偏光分離膜12と透光性基板11Aの間と、反射膜13及び第2の透光性基板の間に、それぞれ接着層14が形成される。そして、複数の透光性基板11Aが接合された積層体400が形成される。
なお、透光性基板11Aの第1面11A1にほぼ平行な方向から紫外線を照射してもよい。
【0067】
ここで、接着剤14Aの硬化条件と、各硬化条件によって得られる接着層14の接着強度との関係について説明する。
下記の表1に示したように、紫外線(UV)照射量を変化させて硬化試験1から硬化試験7までを実施した。その結果、引張強度については、表1、図17(A)、(B)に示すようになり、せん断強度については、表1、図18(A)、(B)に示すようになった。
すなわち、図17(A)、(B)に示すように、紫外線照射量が15,000mJ/cm以上45,000mJ/cm以下、特に20,000mJ/cm以上35,000mJ/cm以下の場合、接着層14の引張強度が高くなるため好ましい。また、図9(A)、(B)に示すように、紫外線照射量が15,000mJ/cm以上60,000mJ/cm以下、特に25,000mJ/cm以上50,000mJ/cm以下の場合は、接着層14のせん断強度が高くなるために好ましい。なお、表1中、各硬化試験は、2回ずつ実施している。
【0068】
引張強度試験、せん断強度試験は、以下の試験方法で実施した。すなわち、10mm×10mmの大きさの白色ガラス板2枚を接着剤14Aで接着して作成した試験品を、引張試験機で、接着面に対し垂直あるいは平行方向に引張加重をかけ、2枚の白色ガラス板が分離した時の加重を測定した。
[表1]

【0069】
次に、図19に示すように、切断工程として、第1面11A1と所定の角度θ(約45度)をなす切断面でほぼ平行に積層体400が切断されて、積層ブロック410が切り出される。
図20に示す、続く研磨工程では、切り出された積層ブロック410の切断面410Aを研磨装置500で研磨することにより、偏光変換素子1の素子本体10が得られる。
【0070】
[耐熱性試験]
実施例1及び比較例1により、本発明に用いる接着剤(接着層)の耐熱性について評価した。
図21は、実施例1及び従来例1の耐熱性試験を示す図である。
実施例1では、接着剤(UT20 株式会社アーデル製)により、2枚のガラス板を貼り合わせ、所定量の紫外線を照射した。これにより、実施例1の試験片600を作製した。
一方、比較例1では、従来の接着剤(PHOTOボンド300 サンライズMSI株式会社製)により2枚のガラス板を貼り合わせ、所定量の紫外線を照射した。これにより、比較例1の試験片601を作製した。
これら試験片600、601を固定枠610内に固定した後、試験片600、601をプロジェクターの偏光変換素子を設置すべき場所に組み込み、試験片600、601に光源ランプの光が照射された時、試験片の温度が120℃となるようにプロジェクターの冷却機構を調整した。図21では、3800時間この環境下に放置した場合の試験結果が示されている。
【0071】
図21に示すように、試験片601の接着層では、一部に黄変620が見られた一方で、試験片600の接着層では、黄変が見られなかった。
さらに、試験片600、601をこの環境下に放置し続けた結果、4800時間後に、試験601の接着層では激しい黄変が見られた。一方で、試験片600の接着層では、光学特性に影響のない程度の若干の黄変が見られるに留まった。
従って、本発明の接着剤により形成された接着層は耐熱性に優れていることが分かる。
【0072】
[平坦度試験]
(実施例2から実施例11まで、及び比較例2)
実施例2から実施例11まで、及び比較例2により、本発明の偏光変換素子における光入射面及び光出射面の平坦度を評価した。
図22は、本発明に係る実施例2から実施例6までの平坦度試験の結果を示す図であり、図23は、本発明に係る実施例7から実施例11までの平坦度試験の結果を示す図であり、図24は、比較例2の平坦度試験の結果を示す図である。
(実施例2から実施例6まで)
実施例2では、実施例1と同様の接着剤を用いて、後述する図26に示すような素子本体10を作製した。そして、図26に示される左右の2つの素子本体10のうち、左側の素子本体10を用いた。そして、下記の測定方法により、その素子本体10の光入射面16の略中央における断面図を得た。ここで、断面図では、図26の左右方向の断面図である。
得られた断面図において、比較的上側に大きく膨らんだ凸部を選び、その凸部の左右近傍の凹部の頂点を線で結んだ。この線から、凸部の頂点までの距離を縦軸のスケールで換算して、「高低差」を算出した。
【0073】
実施例3から実施例6でも、実施例2と同様に素子本体10を作製して、その光入射面16について測定し、断面図を得た。そして、断面図より、実施例2と同様に、「高低差」を2点算出した。図22には、それらの結果が示されている。
(実施例7から実施例11まで、及び比較例2)
実施例7から実施例11まででは、それぞれ実施例2から実施例6までで作製した素子本体10の光出射面17について、実施例2と同様に断面図を得た。得られた断面図により、実施例2と同様にして、「高低差」を2点算出した。
比較例2では、接着剤として、比較例1と同様の接着剤を用いた以外は、実施例2と同様にして素子本体を作製し、その光出射面を測定した断面図を得た。得られた断面図より実施例2と同様にして、「高低差」を2点算出した。
【0074】
実施例7から、実施例11まで及び比較例2の結果を、図23、図24に示す。
断面図の測定方法としては、レーザー干渉計G102S(フジノン株式会社(現富士フイルム株式会社製))により、素子本体の光入射面又は光出射面を照射して、素子本体からの反射光と元々の平行光とを干渉させることによって、干渉縞を得る。なお、レーザー干渉計で設定した光の波長は、685nmである。
得られた干渉縞を干渉縞解析ソフトウェア(フジノン株式会社(現富士フイルム株式会社製))で解析することにより、光入射面又は光出射面の断面図を得る。
図22、図23で示すように、本発明の接着剤を用いた実施例2から実施例11まででは、光入射面及び光出射面における高低差が小さいため、平坦度が優れていることがわかった。
一方、図24に示すように、従来の接着剤を用いた比較例では、光入射面における高低差が大きいため、平坦度が悪いことが分かった。
【0075】
図25は、本発明の実施の形態に係る偏光変換素子を組み込んだ偏光変換ユニットの外観を示す図である。
図26は、図25の偏光変換ユニットの分解斜視図である。
図25、図26に示す偏光変換ユニット120は、ユニット枠200と、本発明の偏光変換素子1と、遮光板210と、レンズアレイ220と、クリップ230と、を備えている。ユニット枠200の一方の開口面(図26では下面)側からは、後述する2つの偏光変換素子本体を有する偏光変換素子1が挿入され、もう一方の開口面(図26では上面)側からは、遮光板210とレンズアレイ220とがこの順に挿入される。これらの光学素子210、220は、ユニット枠200に収納された状態で、4つのクリップ230で上下2方向から挟持される。クリップ230は弾性体で形成されているので容易に着脱することができ、偏光変換ユニット120の各部品もユニット枠に容易に着脱することができる。
かかるユニット枠200によって、偏光変換素子1を、光源からの光束が偏光変換素子1(特に後述のPBS膜)に入射する角度が常に一定になってPS変換が正確に行える姿勢で、液晶プロジェクターに組み込むことが出来る。
【0076】
図27は、本発明の実施の形態に係る偏光変換素子を適用した投光装置の一例としての液晶プロジェクターを示す図である。
図27に示す投写型表示装置(液晶プロジェクター)100は、光源110と、第1のレンズアレイ111と、本発明に係る偏光変換素子を組み込んだ偏光変換ユニット120と、重畳レンズ121と、で構成される照明光学系を備えている。また、ダイクロイックミラー131、132と、反射ミラー133とを含む色光分離光学系130を備えている。さらに、入射側レンズ140と、リレーレンズ141と、反射ミラー142、143とを含む導光光学系を備えている。また、3枚のフィールドレンズ144、145、146と、3枚の液晶ライトバルブ150R、150G、150Bと、クロスダイクロイックプリズム160と、投写レンズ170と、を備えている。
反射ミラー146は、重畳レンズ121から射出された光を色光分離光学系130の方向に反射する機能を有している。色光分離光学系130は、2枚のダイクロイックミラー131、132により、重畳レンズ121から射出される光を、赤、緑、青の3色の色光に分離する機能を有している。第1のダイクロイックミラー131は、重畳レンズ121から射出される光のうち赤色光成分を透過させるとともに、青色光成分と緑色光成分とを反射する。第1のダイクロイックミラー131を透過した赤色光は、反射ミラー133で反射され、フィールドレンズ144を通って赤光用の液晶ライトバルブ150Rに達する。このフィールドレンズ144は、重畳レンズ121から射出された各部分光束をその中心軸(主光線)に対して平行な光束に変換する。他の液晶ライトバルブの前に設けられたフィールドレンズ145、146も同様である。
【0077】
第1のダイクロイックミラー131で反射された青色光と緑色光のうちで、緑色光は第2のダイクロイックミラー132によって反射され、フィールドレンズ145を通って緑光用の液晶ライトバルブ150Gに達する。一方、青色光は、第2のダイクロイックミラー132を透過し、導光光学系、すなわち、入射側レンズ140、反射ミラー142、リレーレンズ141、反射ミラー143を通り、さらに、フィールドレンズ146を通って青色光用の液晶ライトバルブ150Bに達する。
なお、青色光に導光光学系が用いられているのは、青色光の光路の長さが他の色光の光路の長さよりも長いため、光の拡散等による光の利用効率の低下を防止するためである。すなわち、入射側レンズ140に入射した光束をそのまま、フィールドレンズ146に伝えるためである。
【0078】
3つの液晶ライトバルブ150R、150G、150Bは、入射した光を、与えられた画像情報(画像信号)に従って変調する光変調手段としての機能を有している。これにより、3つの液晶ライトバルブ150R、150G、150Bに入射した各色光は、与えられた画像情報に従って変調されて各色光の画像を形成する。
3つの液晶ライトバルブ150R、150G、150Bから射出された3色の変調光は、クロスダイクロイックプリズム160に入射する。
クロスダイクロイックプリズム160は、3色の変調光を合成してカラー画像を形成する色光合成部としての機能を有している。クロスダイクロイックプリズム160には、赤光を反射する誘電体多層膜と、青光を反射する誘電体多層膜と、が4つの直角プリズムの界面に略X字状に形成されている。これらの誘電体多層膜によって3色の変調光が合成されて、カラー画像を投写するための合成光が形成される。クロスダイクロイックプリズム160で生成された合成光は、投写レンズ170の方向に射出される。投写レンズ170は、この合成光を投写スクリーン上に投写する機能を有し、投写スクリーン上にカラー画像を表示する。
【0079】
また、後述するような、耐熱・耐光性能に優れた本発明の偏光変換素子を備えた偏光変換ユニットを組み込むことで、高輝度・高発熱の光源を使って鮮明な映像を長時間投影可能な液晶プロジェクターとすることが出来る。
また、本発明にように、本発明の偏光変換素子は、広範囲の波長帯で、確実に1/2波長板として機能する位相差板(積層1/2波長板)を備えているので、高輝度で鮮明な映像を投射可能な液晶プロジェクターを実現できる。
【符号の説明】
【0080】
1 1/2波長板、10 PBSアレイ(素子本体)、10A 素子本体、10C 接合面、10D 光入射面、10E 光出射面、10F 端縁部、11 透光性基板、11A 透光性板材、12 偏光分離膜、13 反射膜、14 接着層、14A 接着剤、16 光入射面、17 光出射面、20 波長板、20A 位相差板1B 位相差板1C 基部、1C1 基部、1C2 基部、1D 位相差部、1D1 位相差部、1D2 位相差部、1E 先端部、1E1 先端部、1E2 先端部、1F 光入射面、21 接合層、30 波長板、31 光学軸3A 接合面、31A1 境界部、40 波長板、91 偏光分離膜、92 反射膜、93 接着層、95 素子本体、96 接合層、97 位相差板、98 透光性基板、110 光源、111 レンズアレイ、120 偏光変換ユニット、121 重畳レンズ、130 色光分離光学系、131 ダイクロイックミラー、132 ダイクロイックミラー、133 反射ミラー、140 入射側レンズ、141 リレーレンズ、142 反射ミラー、143 反射ミラー、144 フィールドレンズ、145 フィールドレンズ、146 フィールドレンズ、146 反射ミラー、150B 液晶ライトバルブ、150G 液晶ライトバルブ、150R 液晶ライトバルブ、160 クロスダイクロイックプリズム、170 投写レンズ、200 ユニット枠、210 光学素子、210 遮光板、220 レンズアレイ、230 クリップ、310 光学素子、400 積層体、410 積層ブロック、410A 切断面、500 研磨装置、600 試験片、601 試験、601 試験片、610 固定枠、620 黄変、951 光入射面、952 光出射面、961 気泡、981 角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複屈折性と旋光性とを有する材料から構成され、
所定の設計波長λの光に対して、位相差Γ1の第1波長板と、位相差Γ2の第2波長板と、を各々の光学軸が交差するように配置し、
波長λ1〜λ2(λ1<λ2)の範囲の光に対して、入射する光の直線偏光の偏光面を90(deg)回転させて出射する波長板であって、
前記設計波長λは、
前記λ1≦λ≦λ2
を満足し、
前記位相差Γ1及び前記位相差Γ2は、以下の関係を満足し、
Γ1=2π/λ×(ne−no)×t1
Γ2=2π/λ×(ne−no)×t2
Γ1=Γ2=180(deg)
但し、neは異常光屈折率、noは常光屈折率、t1は、前記第1波長板の主面法線方向の厚み、t2は、前記第2波長板の主面法線方向の厚み
前記各波長板において前記主面法線と前記光学軸とのなす角度βは、当該角度βの下限値をAとした時に、
A≦β<90(deg)を満足し、
前記第1波長板の光学軸方位角θ1、前記第2波長板の光学軸方位角θ2は、前記光学軸方位角θ1の補正値をaとし、前記光学軸方位角θ2の補正値をbとした時に、
θ1=22.5(deg)+a
θ2=67.5(deg)−b
但し、a=b≠0(deg)
を満足し、
前記角度βの下限値Aは、20(deg)<A
を満足することを特徴とする波長板。
【請求項2】
請求項1に記載の波長板において、
前記角度βの下限値Aは、A=0.0019a−0.0078a−0.0062a+0.0113a+0.5333a−1.938a+23.345を満足し、
前記光学軸方位角θ1の補正値aは、−4.0(deg)≦a≦4.5(deg)
を満足することを特徴とする波長板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の波長板において、
前記波長λ1は、400nmであり、
前記波長λ2は、700nmであり、
前記設計波長λは、λ=(λ1+λ2)/2=550nmを満足することを特徴とする波長板。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の波長板において、前記設計波長λは、波長λ1<波長λ3≦λ≦波長λ4<波長λ2を満足し、前記波長λ3は、500nmであり、前記波長λ4は、600nmであることを特徴とする波長板。
【請求項5】
互いに略平行な光入射面及び光出射面を有し、前記光入射面あるいは前記光出射面に対して所定の傾斜角度を有する接合面によって接着剤を介して接合された複数の透光性基板と、複数の前記透光性基板の間の境界部に交互に設けられ、前記光入射面に入射した光を偏光方向が互いに直交する異なる2種類の直線偏光に分離して一方の直線偏光を透過させ、他方の直線偏光を反射する偏光分離部と、反射された前記他方の直線偏光光束を反射し、光路の向きを変える反射部と、を有する光学素子と、前記光出射面であって、前記偏光分離部の上部の領域又は前記反射部の上部の領域に配置され、前記2種類の直線偏光のうち何れか一方の直線偏光の偏光面を回転させて他方の直線偏光の偏光面と平行な直線偏光に変換して出射する波長板と、を備え、前記波長板は、請求項1乃至4の何れかに記載の波長板であり、前記接着層は、紫外線硬化型の接着剤であり、厚みが5μm以上10μm以下であることを特徴とする偏光変換素子。
【請求項6】
請求項5に記載の偏光変換素子において、前記接着層は、変性アクリレート又は変性メタクリレートを主成分とすることを特徴とする偏光変換素子。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の偏光変換素子と、当該偏光変換素子を固定する固定枠と、を備えることを特徴とする偏光変換ユニット。
【請求項8】
光を出射する光源装置と、該光源装置からの光を、1種類の偏光光に変換する請求項7に記載の偏光変換ユニットと、当該偏光変換ユニットからの偏光光を画像情報に応じて光学像を形成する光変調装置と、該光変調装置にて形成された前記光学像を拡大投射する投射光学装置と、を備えることを特徴とする投射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2013−7939(P2013−7939A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141481(P2011−141481)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】