波長板の製造方法
【課題】高耐湿性を保持して耐久性及び安定性に優れた波長板を製造する。
【解決手段】基板上に誘電体材料を斜め蒸着し、誘電体材料の微粒子が柱状に積層された柱状部12とこの柱状部間に設けられた間隙部13とを有する複屈折層14を形成し、複屈折層14を100℃以上300℃以下の温度でアニール処理する。そして、アニール処理された複屈折層14上に無機化合物を高密度に形成することにより低湿度透過性の保護膜15を成膜する。
【解決手段】基板上に誘電体材料を斜め蒸着し、誘電体材料の微粒子が柱状に積層された柱状部12とこの柱状部間に設けられた間隙部13とを有する複屈折層14を形成し、複屈折層14を100℃以上300℃以下の温度でアニール処理する。そして、アニール処理された複屈折層14上に無機化合物を高密度に形成することにより低湿度透過性の保護膜15を成膜する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜め蒸着によって形成された複屈折層による複屈折率を有する波長板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波長板は、水晶などの無機化学単結晶や高分子延伸フィルムにより作られていることがほとんどであった。しかしながら、無機光学単結晶は、波長板として、性能、耐久性、信頼性に優れるものの、原材料費、加工コストが高い。また、高分子延伸フィルムは、熱やUV光線に対して劣化し易く、耐久性に難がある。
【0003】
そこで、例えば特許文献1〜4に記載されているように、基板面に対して斜め方向から粒子を蒸着して斜め柱状構造を形成し、この基板面に対して垂直に入射する光線に対して複屈折性を有する光学素子が提案されている。この斜め柱状構造を有する斜方蒸着膜が形成された斜方蒸着波長板は、原理的に膜厚を調整することによって任意の位相差を設定できる。また、大面積化が比較的可能であり、大量生産によって低コスト化の可能性がある。
【0004】
特許文献1には、位相差において高波長分散を示す材料と低波長分散を示す材料とを斜め蒸着した、少なくとも2層からなり、可視光線の広帯域での波長板に適用される斜方蒸着膜が記載されている。この特許文献1の斜方蒸着膜は、位相差において高波長分散を示す材料と低波長分散を示す材料とをそれぞれ用い、各層の誘電体材料の基板に対する蒸着方向が異なり、該蒸着膜の遅相軸が直交するように各層が積層されているものである。
【0005】
また、特許文献2には、斜方蒸着により稠密構造の複屈折層を備えることで高耐久性及び高安定性を有する光学リターダーが記載されている。また、特許文献3には、一次元格子上に高屈折材料を斜め蒸着して作製した光ピックアップ用のホログラム用偏光素子が記載されている。また、特許文献4には、周期的な凹凸形状を有する高屈折率媒質層と低屈折率媒質層との交互多層膜により、広い動作波長を設定可能としたフォトニック結晶型波長板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−23840号公報
【特許文献2】特開平2007−188060号公報
【特許文献3】特開平11−250483号公報
【特許文献4】WO2004/113974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような斜方蒸着膜が成膜された波長板は、高耐久性及び高安定性を得るために高耐湿性を有することが要請されている。しかしながら、斜方蒸着膜が成膜された波長板は、柱状組織を備えるため、材料の隙間に水分が入り込みやすく耐湿性を悪化させるといった課題があった。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、斜め蒸着によって形成された複屈折層による複屈折率を有する波長板において、高耐湿性を有し、耐久性及び安定性に優れた波長板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々の検討を重ねた結果、斜め蒸着によって基板上に蒸着された微粒子上に低湿度透過性の保護膜を成膜することにより、高耐湿性を有し、耐久性及び安定性に優れた波長板を製造できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明に係る波長板の製造方法は、基板上に誘電体材料を斜め蒸着し、誘電体材料の微粒子が柱状に積層された柱状部と柱状部間に設けられた間隙部とを有する複屈折層を形成する複屈折層形成工程と、複屈折層を100℃以上300℃以下の温度でアニール処理するアニール処理工程と、アニール処理された複屈折層上に無機化合物を高密度に形成することにより保護膜を成膜する保護膜成膜工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の波長板の製造方法によれば、高耐湿性を有し、耐久性及び安定性に優れた波長板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】誘電体材料の微粒子の形状異方性を説明するための図である。
【図2】本発明の一実施の形態における波長板の概略断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における波長板の概略断面図である。
【図4】基板の構成例を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態における波長板の概略断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態における波長板の概略断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態における波長板の要部を示す断面図である。
【図8】本発明の一実施の形態における波長板の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】斜め蒸着の概要を説明するための図である。
【図10】実施例1における波長板のサンプルについての完成直後の透過率、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率を示す図である。
【図11】アニール温度を変化させた波長板の透過率を示す図である。
【図12】比較例1における波長板のサンプルについての完成直後の透過率、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率を示す図である。
【図13】比較例2における波長板のサンプルについての完成直後の透過率、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率を示す図である。
【図14】一次元格子基板を用いた波長板と平坦基板を用いた波長板との複屈折量の比較を示す図である。
【図15】一次元格子基板を用いた波長板の断面のSEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.波長板の製造方法
2.変形例
2−1.変形例1
2−2.変形例2
2−3.変形例3
3.処理工程
4.実施例
【0014】
<1.波長板の製造方法>
本実施の形態における波長板の製造方法は、斜め蒸着による微粒子の複屈折を利用して複屈折量を増大させる波長板を製造するものであって、透明基板上に誘電体材料を斜め蒸着して複屈折層(斜方蒸着膜)を形成した後、複屈折層内部の水分をアニール処理によって蒸発させ、その後、複屈折層上に無機化合物を高密度に形成することにより低湿度透過性の保護膜を成膜するものである。この斜め蒸着による微粒子の複屈折は、例えば図1に示すように、誘電体材料の微粒子の形状異方性によって長軸方向n1と短軸方向n2とで屈折率に差が生じることにより発現される。
【0015】
本実施の形態における波長板の製造方法では、例えば図2の断面図に示す波長板を製造する。この図2に示す波長板は、基板11上に、誘電体材料を1方向から斜め蒸着させて柱状部12を形成する。これにより、複数の柱部12間には間隙部13が形成される。この柱状部12と間隙部13とからなる複屈折層14に対してアニール処理を行い、間隙部13内の水分を蒸発させる。その後、複屈折層14に無機化合物を高密度に形成することにより保護膜15を成膜する。
【0016】
基板11には、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板等の透明基板を使用することが可能である。中でも、可視光領域(波長範囲:380nm〜780nm)の吸収が少ない石英ガラス(SiO2)基板が好ましい。
【0017】
基板としては、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板等の透明基板が使用され、その中でも、可視光領域(波長範囲:380nm〜780nm)の吸収が少ない石英ガラス(SiO2)基板が好適に用いられる。また、基板の片面に反射防止膜が成膜された基板を用いるようにしてもよい。この場合、反射防止膜として、例えば一般的な高屈折膜と低屈折膜とからなる多層薄膜を成膜することができる。
【0018】
柱状部12は、誘電体材料の斜め蒸着によって微粒子を積層することにより形成される。誘電体材料としては、Ta2O5、TiO2、SiO2、Al2O3、Nb2O5、MaF2等を含有する高屈折材料を使用することが可能である。中でも、屈折率が2.25のTa2O5を含有する高屈折材料が好ましい。
【0019】
柱状部12は、x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、xy平面において誘電体材料を斜め蒸着させることにより形成される。この斜め蒸着は、z軸に対して例えば60°〜80°の蒸着角度で行い、z軸方向に微粒子の層を形成する。
【0020】
間隙部13は、柱状部12間に設けられた空気層である。この間隙部13は、誘電体材料の微粒子が斜め方向から飛来してくために誘電体材料が直接付着できない陰ができる、いわゆるセルフ・シャドーイング効果によって形成されたものである。この間隙部13は、斜め方向に設けられた空気層であるため、従来の斜め蒸着により複屈折層が形成された波長板では、例えば柱状部12側面に吸着した水分等、間隙部13内部の水分が複屈折層14外部に蒸発しにくく、湿度耐性が低いという問題があった。
【0021】
そこで、本実施の形態では、複屈折層14をアニール処理して間隙部13内部に存在する水分を蒸発させ、その後、複屈折層14上に低湿度透過性の保護膜15を成膜する。これにより、外部の湿度に対して優れた耐性を発揮する波長板を実現する。
【0022】
アニール処理は、水分が蒸発する100℃以上の温度で行うことが好ましい。また、アニール処理の温度が高すぎると、柱状組織同士が成長してコラム状となり、複屈折量の低下、透過率の低下等が生じるおそれがあるため、300℃以下であることが好ましい。
【0023】
保護膜15の材料としては、湿度透過性が低い、例えばSiO2、Ta2O5、TiO2、Al2O3、Nb2O5、LaO、MgF2等の無機化合物を使用することが好ましい。なお、高分子材料は、耐熱性に劣るため、保護膜15の材料としては好ましくない。
【0024】
保護膜15の成膜方法は、このような無機化合物を高密度に形成することとで低湿度透過性の保護膜を成膜することが可能な方法を採用する。このような保護膜15の成膜方法としては、例えば化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法を挙げることができる。CVD法により保護膜15を成膜する場合、大気圧〜中真空(100〜10−1Pa)とした容器内に複屈折層14が形成された基板を設置し、保護膜15の材料であるガス状の無機化合物をこの容器内に送り込み、熱、プラズマ、光等のエネルギーを与えてガス状の無機化合物と複屈折層14とを化学反応させる。このようなCVD法によれば、複屈折層14上に無機化合物を高密度に形成して低湿度透過性の保護膜15とすることができる。
【0025】
保護膜15の成膜方法は、このようなCVD法に替えて、例えばプラズマアシスト蒸着法、スパッタ法等、無機化合物を高密度に形成することが可能な何れの方法を採用するようにしてもよい。
【0026】
製造された波長板1は、斜め蒸着によって基板11上に蒸着された微粒子により複屈折量を増大させるとともに、微粒子上に低湿度透過性の保護膜15が成膜されることにより、高耐湿性を有し、優れた耐久性及び安定性を実現する。
【0027】
<2.変形例>
本実施の形態では、図2に示す構成に替え、例えば図3、5、6に示す構成の波長板を製造することも可能である。図3、5、6に示す構成において、図2と同様の構成については説明を省略する。
【0028】
(2−1.変形例1)
図3に示す波長板2は、斜め蒸着による微粒子の複屈折を利用するとともに、微細構造による複屈折をも利用して複屈折量を増大させるものである。この微細構造による複屈折は、例えば、誘電体の基板上に形成された周期的な凹凸の微細パターンの形状異方性によって複屈折を発現させるものである。
【0029】
波長板2の製造においては、利用光の波長以下の周期的な凸部24及び凹部25からなる微細パターンを基板21上に形成する。そして、誘電体材料の1方向からの斜め蒸着により凸部24上に誘電体材料の微粒子を柱状に積層して柱状部22を形成する。これにより、凹部25上且つ柱状部22間に間隙部23が形成される。そして、柱状部22及び間隙部23からなる複屈折層26に対し、上述の条件でアニール処理を行い、間隙部23内部に存在する水分を蒸発させる。その後、CVD法等により複屈折層26上に無機化合物を高密度に形成することにより低湿度透過性の保護膜27を成膜する。
【0030】
このように、基板21の凸部24上に柱状部22を形成し、基板2の凹部25上に間隙部23を形成した波長板2によれば、誘電体材料の微粒子による複屈折と基板21の凹凸による複屈折により、複屈折量をさらに増大させることができる。また、誘電体材料としてTa2O5を含有する高屈折材料を使用することにより、可視光領域における複屈折量が0.13以上である波長板とすることができる。
【0031】
図4(A)及び図4(B)は、それぞれ基板21の構成例を示す上面図及び断面図である。基板21には、x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、x軸方向に利用光の波長以下の周期(ピッチ)及び所定の深さで凸部24及び凹部25をパターン形成される。すなわち、基板21には、凹凸構造の行路差により長軸方向n1と短軸方向n2とで屈折率に差が生じる一次元格子(グリッド)が形成される。
【0032】
ピッチが波長以下の微細パターンを構成する凸部24上に、格子ラインと垂直で且つ基板面法線方向に対して蒸着源を所定角度とした斜め蒸着により誘電体材料を蒸着させる。これにより、微細パターンが形成されていない平坦な基板(以下、「平坦基板」ともいう。)上に直接誘電体材料を蒸着させた場合よりも波長板の複屈折量を増大させることができる。
【0033】
このように、微細パターンと斜め蒸着により形成された複屈折膜とを組み合わせることで、複屈折量が増大されて所望の位相特性を得ることが可能な波長板の薄膜化を実現することが可能となる。薄膜化は、生産工程の高速化及び効率化、成膜に使用する材料費の抑制等、多くの利点を有する。このように、微細パターン上に複屈折膜を成膜することで複屈折量が増大するのは、一次格子間に間隔ができることで構造複屈折の効果が加味されたことによると考えられる。
【0034】
なお、微細パターンの形成方法としては、ピッチが波長以下の微細パターンを形成できればよく、上述の一次元格子の他に、ランダムパターン、非特許文献1(東芝レビューvol60 No10 2005)に記載のブロックコポリマーを用いたパターン形成方法等が挙げられる。この非特許文献1のパターン形成方法は、ガラス基板上に例えばCVD法によってSiO2膜を成膜し、ブロックコポリマーによってパターン形成を行い、SiO2膜にブロックコポリマーのパターンを転写するものである。
【0035】
なお、ガラス基板上にSiO2膜を成膜せずに、直接微細パターンを形成してもよい。このように微細パターンが形成された波長板においても、蒸着膜上に低湿度透過性の保護膜を成膜することで、高耐湿性を有し安定性に優れた波長板とすることが可能となる。
【0036】
(2−2.変形例2)
図5に示す波長板3は、異なる2方向からの斜め蒸着による微粒子の複屈折を利用し、複屈折量を増大させるものである。波長板3の製造においては、異なる2方向からの斜め蒸着により基板31上に誘電体材料の微粒子を積層して微粒子層32a,32bからなる柱状部32を形成する。これにより、柱状部32間は間隙部33が形成される。そして、柱状部32及び間隙部33からなる複屈折層34に対し、上述の条件でアニール処理を行い、間隙部33内部に存在する水分を蒸発させる。その後、CVD法等により複屈折層34上に無機化合物を高密度に形成することにより低湿度透過性の保護膜35を成膜する。
【0037】
柱状部32は、x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、xy平面において180°異なる2方向から誘電体材料を順に斜め蒸着させる。すなわち、柱状部32は、基板31上に微粒子層32a,32bが順に積層されてなるものである。この斜め蒸着は、180°異なる2方向から順にz軸に対して例えば60°〜80°の蒸着角度で行われ、z軸方向に微粒子の層を形成する。ここで、一方の方向から斜め蒸着させた後、基板31を180°回転させることにより他方の方向から斜め蒸着させる作業を1サイクルとする。このサイクルを複数回行うことにより、2方向から蒸着された多層膜を得ることができる。
【0038】
柱状部32の各層(微粒子層32a,32b)の厚さは、50nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。このように、微粒子層32a,32bの厚さを薄くすることにより、微粒子層の層数をさらに増加した場合であっても、z軸方向に真っ直ぐに伸びた柱状形状を得ることができ、複屈折量をさらに増大させることができる。
【0039】
(2−3.変形例3)
図6に示す波長板4は、異なる2方向からの斜め蒸着による微粒子の複屈折を利用し、複屈折量を増大させるとともに、微細構造による複屈折をも利用して複屈折量を増大させるものである。この微細構造による複屈折は、例えば、誘電体の基板上に形成された凹凸による形状異方性によって、複屈折を発現させるものである。
【0040】
波長板4の製造においては、利用光の波長以下の周期的な凸部44及び凹部45を基板41に形成する。そして、異なる2方向からの斜め蒸着により凸部44上に誘電体材料の微粒子を積層して微粒子層42a,42bからなる柱状部42を形成する。これにより、凹部45上且つ柱状部42間に間隙部43が形成される。そして、柱状部42及び間隙部43からなる複屈折層46に対し、上述の条件でアニール処理を行い、間隙部43内部に存在する水分を蒸発させる。その後、CVD法等により複屈折層46上に無機化合物を高密度に形成することにより低湿度透過性の保護膜47を成膜する。
【0041】
このように基板41の凸部44上に柱状部46が基板面に対して垂直方向に形成され、基板41の凹部45上に間隙部43が形成された波長板4によれば、異なる2方向からの斜め蒸着による微粒子の複屈折を利用し、複屈折量を増大させるとともに、基板41の凹凸状の微細構造による複屈折をも利用して複屈折量を増大させることができる。また、誘電体材料としてTa2O5を含有する高屈折材料を使用することにより、可視光領域における複屈折量が0.13以上であるとともに、可視光領域の任意の2波長における複屈折量の差が、0.02以下である優れた波長分散性(波長依存性)を有する波長板とすることができる。
【0042】
なお、図5、6に示す例では、説明を簡単にするために、180°異なる2方向から誘電体材料を順に斜め蒸着させる斜め蒸着を1サイクル行うことで2層の微粒子層からなる柱状部を形成させたものについて述べたが、微粒子層の数は、これに限定されず数〜数百層とする可能である。微粒子層数を増加させるにつれて波長板の複屈折量をより増大させることができる。例えば図7に示すように、基板41に形成された凸部44上に、180°異なる2方向から誘電体材料を順に斜め蒸着させる斜め蒸着を4サイクル行うことにより、凸部44上に8層の微粒子層が基板に対して垂直方向に積層された柱状部48を形成し、この柱状部48と間隙部43とからなる複屈折層49を形成する。これにより、微粒子層数がこれよりも少ない波長板よりも複屈折量がより増大された波長板とすることができる。
【0043】
このように、微細パターンと複数層の微粒子層からなる複屈折層(斜方蒸着膜)とを組み合わせることにより、膜厚を薄くしながらも複屈折量をさらに増大させることができる。このようにして製造された波長板においても、斜方蒸着膜上に低湿度透過性の保護膜を成膜することで、高耐湿性を発揮し優れた安定性を有する波長板とすることが可能となる。
【0044】
特に、180°異なる2方向から誘電体材料が順に斜め蒸着されて微粒子層数が増加するにつれて、間隙部の構造は複雑化され、柱状部側面に吸着している水分が一段と蒸発されにくくなる。上述のアニール処理は、このように構造が複雑化された間隙部内の水分を蒸発させる方法として非常に有効である。
【0045】
なお、波長板の基板には、その両面又は片面に反射防止膜(AR:Anti Reflection)を設けるようにしてもよい。一般的に、ガラス基板上に斜め蒸着法により微粒子が蒸着されてなる波長板には、透過率向上の目的で反射防止膜が成膜される。反射防止膜としては、例えば一般的に用いられる高屈折膜と低屈折膜とからなる多層薄膜を挙げることができる。基板に反射防止膜を設けることで、基板の表面反射を軽減し、透過率を増加させることができる。なお、透過率を向上させるために、保護膜が、多層薄膜からなる反射防止膜の少なくとも一部を兼ねる構成としてもよい。
【0046】
例えば、保護膜としてSiO2(屈折率1.5)が成膜された場合、反射防止膜が高屈折膜と低屈折膜とからなる多層薄膜において、この保護膜は、低屈折膜として機能することができる。そして、これよりも屈折率が高いTiO2(屈折率2.4)等の高屈折の無機化合物が、SiO2保護膜からなる低屈折膜上に成膜されて高屈折膜として機能する。
【0047】
<3.処理工程>
図8は、本実施の形態における波長板の製造方法の処理工程の一例を示すフローチャートである。先ず、ステップS1において、基板上に、利用光の波長以下の周期的な凸部及び凹部の微細パターンを形成する。具体的には、x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、x軸方向に利用光の波長以下の周期(ピッチ)で凸部及び凹部からなる微細パターン、すなわち凹凸により行路差が生じる一次元格子(グリッド)を形成する。
【0048】
微細パターンの形成方法としては、CVD法により基板上にSiO2を堆積し、その後フォトリソグラフィによりフォトレジストピッチパターンを形成する。そして、CF4を反応性ガスとして用いた真空エッチングによりSiO2の微細パターンを形成する。なお、上述の図2、図5に示す微細パターンを形成しない波長板を製造する場合には、このステップS1は省略される。
【0049】
次に、ステップS2において、利用光の波長以下の周期的な凸部及び凹部が形成された基板上に誘電体材料を例えば60°〜80°の蒸着角度で斜め蒸着して複屈折膜を形成する。
【0050】
図9は、斜め蒸着の概要を説明するための図である。斜め蒸着は、基板面51の法線方向に対して蒸着角度αの方向に蒸着源6を設置して行われ、蒸着角度αを変更することにより堆積される膜の複屈折量を制御する。例えば、誘電体材料としてTa2O5を含有する高屈折材料を用いた場合、蒸着角度αを60°〜80°に設定することにより複屈折量を増大させることができる。
【0051】
また、誘電体材料は、基板51上の周期的な凸部及び凹部のライン、すなわち一次元格子のラインに対して垂直方向から蒸着させることにより、複屈折量を増大させることができる。
【0052】
また、複数層の蒸着の際は、x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、xy平面において180°異なる2方向から誘電体材料を斜め蒸着させて、先の図5、6に示すような複数層の微粒子層を製造するようにしてもよい。例えば、一方の方向から斜め蒸着させた後、基板を180°回転させることにより他方の方向から斜め蒸着させる作業を複数サイクル行うことにより、2方向から蒸着された多層膜を得ることができる。
【0053】
さらに、各層の厚さを50nm以下、より好ましくは10nm以下として蒸着を複数サイクル行うことにより、z軸方向に伸びた柱状形状を得ることができ、複屈折量を増大させることができる。
【0054】
ステップS3では、ステップS2で複屈折膜が形成された基板を所定のサイズに切断する。切断には、ガラススクライパーなどの切断装置を用いる。
【0055】
ステップS4では、ステップS3で切断された、複屈折膜が形成された基板に対し、CVD法によって複屈折膜上に保護膜を成膜する。なお、このステップS4では、複屈折膜上に成膜した保護膜上にさらに反射防止膜を成膜させてもよい。反射防止膜を高屈折膜と低屈折膜とからなる多層薄膜とした場合、複屈折膜上に成膜された保護膜は、反射防止膜の一部、すなわち高屈折膜又は低屈折膜として機能する。
【0056】
例えば、保護膜としてSiO2(屈折率1.5)を成膜した場合、高屈折膜と低屈折膜とからなる反射防止膜において、保護膜は、低屈折膜として機能する。この場合、このステップS4において、SiO2よりも屈折率が高いTiO2(屈折率2.4)等の高屈折の無機化合物をSiO2保護膜からなる低屈折膜上に成膜する。
【0057】
このように、斜め蒸着により柱状に積層された柱状部と間隙部とを有する複屈折膜を成膜し、複屈折層を100℃以上300℃以下の温度でアニール処理した後、この複屈折層上に無機化合物を高密度に形成してなる保護膜を成膜することで、複屈折量を増大させることができるとともに、従来よりも高耐湿性を発揮し優れた安定性を有する波長板とすることが可能となる。
【0058】
このようにして作製された本実施の形態における波長板は、液晶プロジェクタ等の光学機器に用いた場合、高い光密度に対応することができるため、光学ユニット部の小型化も実現することができる。
【0059】
以上、本実施の形態について説明してきたが、本発明が前述の実施の形態に限定されるものでないことは言うまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0060】
<4.実施例>
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
ガラス基板上に、誘電体材料としてTa2O5をガラス基板面の法線方向に対して蒸着源が70°になるように蒸着して柱状部を形成した。次に、200℃の温度でアニール処理を行い、柱状部と柱状部との間(間隙部)に吸着している水分を蒸発させた。ガラス基板上に形成した柱状部及び間隙部からなる複屈折膜上に、保護膜としてSiO2をCVD法により成膜し、実施例1の波長板のサンプルを作製した。
【0062】
作製した波長板のサンプルの安全性を調べるために、耐湿負荷試験として、温度60℃、湿度90%の環境下に100時間(h)保持した。図10に、実施例1における波長板のサンプルについて、サンプル完成直後の透過率(曲線(A))、及び、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率(曲線(B))を示す。この図10に示すように、実施例1における波長板のサンプルでは、サンプル完成直後と耐湿負荷試験後とで透過率に差が生じなかった。
【0063】
図11は、実施例1の波長板のサンプル、及び、アニール温度を25℃、100℃、300℃、400℃と変化させた以外は実施例1と同様に行って作製した波長板のサンプルにおける波長550nmでの透過率を示す図である。一般に、波長板の特性上、透過率が90%以上であることが要請されるが、この図11に示すように、実施例1の波長板のサンプルは、これらのサンプルの中で最も高い透過率(92%以上)を達成できた。
【0064】
実施例1では、200℃の温度でアニール処理を行った後、CVD法によってSiO2が高密度に形成されてなる低湿度透過性の保護膜を成膜することで、製造された波長板は、高耐湿性を有し、耐久性及び安定性に優れたものとなった。
【0065】
<比較例1>
ガラス基板上に形成した柱状部及び間隙部からなる複屈折層上に、保護膜としてSiO2を抵抗加熱蒸着法により成膜した以外は、実施例1と同様に行い、波長板のサンプルを作製した。具体的には、発熱した抵抗体にSiO2を供給して加熱及び蒸発させて基板上の複屈折層表面に蒸発したSiO2粒子を付着させて保護膜を形成し、比較例1の波長板のサンプルを作製した。
【0066】
この比較例1の波長板のサンプルを用いて実施例1と同様の耐湿負荷試験(温度60℃、湿度90%の環境下に100時間(h)保持)を行った。図12に、比較例1における波長板のサンプルについての完成直後の透過率(曲線(A))、及び、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率(曲線(B))を示す。この図12に示すように、比較例1における波長板のサンプルでは、波長約400nm以上850nm以下の領域で耐湿負荷試験後の透過率がサンプル完成直後の透過率よりも減少した。
【0067】
比較例1では、抵抗加熱蒸着法によって保護膜を成膜したため、SiO2を高密度に形成できず保護膜を低湿度透過性とすることができなかった。このため、製造された波長板は、耐湿性が低く耐久性及び安定性に劣るものとなった。
【0068】
<比較例2>
ガラス基板上に形成した柱状部及び間隙部からなる複屈折膜上に、保護膜を成膜しない以外は、実施例1と同様に行い、波長板のサンプルを作製した。
【0069】
実施例1と同様の耐湿負荷試験(温度60℃、湿度90%の環境下に100時間(h)保持)を行った。図13に、比較例2における波長板のサンプルについての完成直後の透過率(曲線(A))、及び、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率(曲線(B))を示す。図13に示すように、比較例2における波長板のサンプルでは、波長約350nm以上850nm以下の殆どの領域において耐湿負荷試験後の透過率がサンプル完成直後の透過率よりも減少した。また、比較例1の波長板のサンプルでは、柱状部の微粒子にクラックが生じていた。
【0070】
比較例2では、保護膜を成膜しなかったため、製造された波長板は、耐湿性が低く耐久性及び安定性に劣るものとなった。
【0071】
<応用例1>
ピッチ150nm、深さ50nmの一次元格子を設けたガラス基板上に、微細パターンを形成した波長板を作製した。そして、この微細パターンの効果について評価した。一次元格子のラインと垂直方向、且つ、ガラス基板面の法線方向に対する蒸着角度を70°とし、誘電体材料としてTa2O5を斜め蒸着させ、複屈折膜を1層形成した。複屈折膜の膜厚は、1.2μmとした。また、これと同様にして、微細パターンが形成されていない平坦基板を使用し、この平坦基板上に複屈折膜を形成した。
【0072】
図14は、一次元格子基板を用いた波長板と平坦基板を用いた波長板との複屈折量の比較を示すグラフである。また、図15は、一次元格子基板を用いた波長板の断面のSEM(Scanning Electron Microscope)像である。
【0073】
一次元格子基板を用いた波長板は、従来の平坦基板を用いた斜め蒸着に比べ複屈折量が2.8倍となった。これは、一次元格子基板上に成膜することにより、格子間に間隔ができ、構造複屈折の効果が加味されたものと考えられる。
【0074】
このように一次元格子基板を用いた波長板によれば、所望の位相特性を得るのに従来よりも薄膜化することができる。また、薄膜化により、生産工程の高速化及び効率化、成膜に使用する材料費の抑制等の多くのメリットを得ることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 波長板、11 基板、12 柱状部、13 間隙部、14 複屈折層、15 保護膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜め蒸着によって形成された複屈折層による複屈折率を有する波長板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波長板は、水晶などの無機化学単結晶や高分子延伸フィルムにより作られていることがほとんどであった。しかしながら、無機光学単結晶は、波長板として、性能、耐久性、信頼性に優れるものの、原材料費、加工コストが高い。また、高分子延伸フィルムは、熱やUV光線に対して劣化し易く、耐久性に難がある。
【0003】
そこで、例えば特許文献1〜4に記載されているように、基板面に対して斜め方向から粒子を蒸着して斜め柱状構造を形成し、この基板面に対して垂直に入射する光線に対して複屈折性を有する光学素子が提案されている。この斜め柱状構造を有する斜方蒸着膜が形成された斜方蒸着波長板は、原理的に膜厚を調整することによって任意の位相差を設定できる。また、大面積化が比較的可能であり、大量生産によって低コスト化の可能性がある。
【0004】
特許文献1には、位相差において高波長分散を示す材料と低波長分散を示す材料とを斜め蒸着した、少なくとも2層からなり、可視光線の広帯域での波長板に適用される斜方蒸着膜が記載されている。この特許文献1の斜方蒸着膜は、位相差において高波長分散を示す材料と低波長分散を示す材料とをそれぞれ用い、各層の誘電体材料の基板に対する蒸着方向が異なり、該蒸着膜の遅相軸が直交するように各層が積層されているものである。
【0005】
また、特許文献2には、斜方蒸着により稠密構造の複屈折層を備えることで高耐久性及び高安定性を有する光学リターダーが記載されている。また、特許文献3には、一次元格子上に高屈折材料を斜め蒸着して作製した光ピックアップ用のホログラム用偏光素子が記載されている。また、特許文献4には、周期的な凹凸形状を有する高屈折率媒質層と低屈折率媒質層との交互多層膜により、広い動作波長を設定可能としたフォトニック結晶型波長板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−23840号公報
【特許文献2】特開平2007−188060号公報
【特許文献3】特開平11−250483号公報
【特許文献4】WO2004/113974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような斜方蒸着膜が成膜された波長板は、高耐久性及び高安定性を得るために高耐湿性を有することが要請されている。しかしながら、斜方蒸着膜が成膜された波長板は、柱状組織を備えるため、材料の隙間に水分が入り込みやすく耐湿性を悪化させるといった課題があった。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、斜め蒸着によって形成された複屈折層による複屈折率を有する波長板において、高耐湿性を有し、耐久性及び安定性に優れた波長板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々の検討を重ねた結果、斜め蒸着によって基板上に蒸着された微粒子上に低湿度透過性の保護膜を成膜することにより、高耐湿性を有し、耐久性及び安定性に優れた波長板を製造できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明に係る波長板の製造方法は、基板上に誘電体材料を斜め蒸着し、誘電体材料の微粒子が柱状に積層された柱状部と柱状部間に設けられた間隙部とを有する複屈折層を形成する複屈折層形成工程と、複屈折層を100℃以上300℃以下の温度でアニール処理するアニール処理工程と、アニール処理された複屈折層上に無機化合物を高密度に形成することにより保護膜を成膜する保護膜成膜工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の波長板の製造方法によれば、高耐湿性を有し、耐久性及び安定性に優れた波長板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】誘電体材料の微粒子の形状異方性を説明するための図である。
【図2】本発明の一実施の形態における波長板の概略断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における波長板の概略断面図である。
【図4】基板の構成例を示す図である。
【図5】本発明の一実施の形態における波長板の概略断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態における波長板の概略断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態における波長板の要部を示す断面図である。
【図8】本発明の一実施の形態における波長板の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】斜め蒸着の概要を説明するための図である。
【図10】実施例1における波長板のサンプルについての完成直後の透過率、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率を示す図である。
【図11】アニール温度を変化させた波長板の透過率を示す図である。
【図12】比較例1における波長板のサンプルについての完成直後の透過率、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率を示す図である。
【図13】比較例2における波長板のサンプルについての完成直後の透過率、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率を示す図である。
【図14】一次元格子基板を用いた波長板と平坦基板を用いた波長板との複屈折量の比較を示す図である。
【図15】一次元格子基板を用いた波長板の断面のSEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照しながら下記順序にて詳細に説明する。
1.波長板の製造方法
2.変形例
2−1.変形例1
2−2.変形例2
2−3.変形例3
3.処理工程
4.実施例
【0014】
<1.波長板の製造方法>
本実施の形態における波長板の製造方法は、斜め蒸着による微粒子の複屈折を利用して複屈折量を増大させる波長板を製造するものであって、透明基板上に誘電体材料を斜め蒸着して複屈折層(斜方蒸着膜)を形成した後、複屈折層内部の水分をアニール処理によって蒸発させ、その後、複屈折層上に無機化合物を高密度に形成することにより低湿度透過性の保護膜を成膜するものである。この斜め蒸着による微粒子の複屈折は、例えば図1に示すように、誘電体材料の微粒子の形状異方性によって長軸方向n1と短軸方向n2とで屈折率に差が生じることにより発現される。
【0015】
本実施の形態における波長板の製造方法では、例えば図2の断面図に示す波長板を製造する。この図2に示す波長板は、基板11上に、誘電体材料を1方向から斜め蒸着させて柱状部12を形成する。これにより、複数の柱部12間には間隙部13が形成される。この柱状部12と間隙部13とからなる複屈折層14に対してアニール処理を行い、間隙部13内の水分を蒸発させる。その後、複屈折層14に無機化合物を高密度に形成することにより保護膜15を成膜する。
【0016】
基板11には、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板等の透明基板を使用することが可能である。中でも、可視光領域(波長範囲:380nm〜780nm)の吸収が少ない石英ガラス(SiO2)基板が好ましい。
【0017】
基板としては、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板等の透明基板が使用され、その中でも、可視光領域(波長範囲:380nm〜780nm)の吸収が少ない石英ガラス(SiO2)基板が好適に用いられる。また、基板の片面に反射防止膜が成膜された基板を用いるようにしてもよい。この場合、反射防止膜として、例えば一般的な高屈折膜と低屈折膜とからなる多層薄膜を成膜することができる。
【0018】
柱状部12は、誘電体材料の斜め蒸着によって微粒子を積層することにより形成される。誘電体材料としては、Ta2O5、TiO2、SiO2、Al2O3、Nb2O5、MaF2等を含有する高屈折材料を使用することが可能である。中でも、屈折率が2.25のTa2O5を含有する高屈折材料が好ましい。
【0019】
柱状部12は、x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、xy平面において誘電体材料を斜め蒸着させることにより形成される。この斜め蒸着は、z軸に対して例えば60°〜80°の蒸着角度で行い、z軸方向に微粒子の層を形成する。
【0020】
間隙部13は、柱状部12間に設けられた空気層である。この間隙部13は、誘電体材料の微粒子が斜め方向から飛来してくために誘電体材料が直接付着できない陰ができる、いわゆるセルフ・シャドーイング効果によって形成されたものである。この間隙部13は、斜め方向に設けられた空気層であるため、従来の斜め蒸着により複屈折層が形成された波長板では、例えば柱状部12側面に吸着した水分等、間隙部13内部の水分が複屈折層14外部に蒸発しにくく、湿度耐性が低いという問題があった。
【0021】
そこで、本実施の形態では、複屈折層14をアニール処理して間隙部13内部に存在する水分を蒸発させ、その後、複屈折層14上に低湿度透過性の保護膜15を成膜する。これにより、外部の湿度に対して優れた耐性を発揮する波長板を実現する。
【0022】
アニール処理は、水分が蒸発する100℃以上の温度で行うことが好ましい。また、アニール処理の温度が高すぎると、柱状組織同士が成長してコラム状となり、複屈折量の低下、透過率の低下等が生じるおそれがあるため、300℃以下であることが好ましい。
【0023】
保護膜15の材料としては、湿度透過性が低い、例えばSiO2、Ta2O5、TiO2、Al2O3、Nb2O5、LaO、MgF2等の無機化合物を使用することが好ましい。なお、高分子材料は、耐熱性に劣るため、保護膜15の材料としては好ましくない。
【0024】
保護膜15の成膜方法は、このような無機化合物を高密度に形成することとで低湿度透過性の保護膜を成膜することが可能な方法を採用する。このような保護膜15の成膜方法としては、例えば化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法を挙げることができる。CVD法により保護膜15を成膜する場合、大気圧〜中真空(100〜10−1Pa)とした容器内に複屈折層14が形成された基板を設置し、保護膜15の材料であるガス状の無機化合物をこの容器内に送り込み、熱、プラズマ、光等のエネルギーを与えてガス状の無機化合物と複屈折層14とを化学反応させる。このようなCVD法によれば、複屈折層14上に無機化合物を高密度に形成して低湿度透過性の保護膜15とすることができる。
【0025】
保護膜15の成膜方法は、このようなCVD法に替えて、例えばプラズマアシスト蒸着法、スパッタ法等、無機化合物を高密度に形成することが可能な何れの方法を採用するようにしてもよい。
【0026】
製造された波長板1は、斜め蒸着によって基板11上に蒸着された微粒子により複屈折量を増大させるとともに、微粒子上に低湿度透過性の保護膜15が成膜されることにより、高耐湿性を有し、優れた耐久性及び安定性を実現する。
【0027】
<2.変形例>
本実施の形態では、図2に示す構成に替え、例えば図3、5、6に示す構成の波長板を製造することも可能である。図3、5、6に示す構成において、図2と同様の構成については説明を省略する。
【0028】
(2−1.変形例1)
図3に示す波長板2は、斜め蒸着による微粒子の複屈折を利用するとともに、微細構造による複屈折をも利用して複屈折量を増大させるものである。この微細構造による複屈折は、例えば、誘電体の基板上に形成された周期的な凹凸の微細パターンの形状異方性によって複屈折を発現させるものである。
【0029】
波長板2の製造においては、利用光の波長以下の周期的な凸部24及び凹部25からなる微細パターンを基板21上に形成する。そして、誘電体材料の1方向からの斜め蒸着により凸部24上に誘電体材料の微粒子を柱状に積層して柱状部22を形成する。これにより、凹部25上且つ柱状部22間に間隙部23が形成される。そして、柱状部22及び間隙部23からなる複屈折層26に対し、上述の条件でアニール処理を行い、間隙部23内部に存在する水分を蒸発させる。その後、CVD法等により複屈折層26上に無機化合物を高密度に形成することにより低湿度透過性の保護膜27を成膜する。
【0030】
このように、基板21の凸部24上に柱状部22を形成し、基板2の凹部25上に間隙部23を形成した波長板2によれば、誘電体材料の微粒子による複屈折と基板21の凹凸による複屈折により、複屈折量をさらに増大させることができる。また、誘電体材料としてTa2O5を含有する高屈折材料を使用することにより、可視光領域における複屈折量が0.13以上である波長板とすることができる。
【0031】
図4(A)及び図4(B)は、それぞれ基板21の構成例を示す上面図及び断面図である。基板21には、x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、x軸方向に利用光の波長以下の周期(ピッチ)及び所定の深さで凸部24及び凹部25をパターン形成される。すなわち、基板21には、凹凸構造の行路差により長軸方向n1と短軸方向n2とで屈折率に差が生じる一次元格子(グリッド)が形成される。
【0032】
ピッチが波長以下の微細パターンを構成する凸部24上に、格子ラインと垂直で且つ基板面法線方向に対して蒸着源を所定角度とした斜め蒸着により誘電体材料を蒸着させる。これにより、微細パターンが形成されていない平坦な基板(以下、「平坦基板」ともいう。)上に直接誘電体材料を蒸着させた場合よりも波長板の複屈折量を増大させることができる。
【0033】
このように、微細パターンと斜め蒸着により形成された複屈折膜とを組み合わせることで、複屈折量が増大されて所望の位相特性を得ることが可能な波長板の薄膜化を実現することが可能となる。薄膜化は、生産工程の高速化及び効率化、成膜に使用する材料費の抑制等、多くの利点を有する。このように、微細パターン上に複屈折膜を成膜することで複屈折量が増大するのは、一次格子間に間隔ができることで構造複屈折の効果が加味されたことによると考えられる。
【0034】
なお、微細パターンの形成方法としては、ピッチが波長以下の微細パターンを形成できればよく、上述の一次元格子の他に、ランダムパターン、非特許文献1(東芝レビューvol60 No10 2005)に記載のブロックコポリマーを用いたパターン形成方法等が挙げられる。この非特許文献1のパターン形成方法は、ガラス基板上に例えばCVD法によってSiO2膜を成膜し、ブロックコポリマーによってパターン形成を行い、SiO2膜にブロックコポリマーのパターンを転写するものである。
【0035】
なお、ガラス基板上にSiO2膜を成膜せずに、直接微細パターンを形成してもよい。このように微細パターンが形成された波長板においても、蒸着膜上に低湿度透過性の保護膜を成膜することで、高耐湿性を有し安定性に優れた波長板とすることが可能となる。
【0036】
(2−2.変形例2)
図5に示す波長板3は、異なる2方向からの斜め蒸着による微粒子の複屈折を利用し、複屈折量を増大させるものである。波長板3の製造においては、異なる2方向からの斜め蒸着により基板31上に誘電体材料の微粒子を積層して微粒子層32a,32bからなる柱状部32を形成する。これにより、柱状部32間は間隙部33が形成される。そして、柱状部32及び間隙部33からなる複屈折層34に対し、上述の条件でアニール処理を行い、間隙部33内部に存在する水分を蒸発させる。その後、CVD法等により複屈折層34上に無機化合物を高密度に形成することにより低湿度透過性の保護膜35を成膜する。
【0037】
柱状部32は、x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、xy平面において180°異なる2方向から誘電体材料を順に斜め蒸着させる。すなわち、柱状部32は、基板31上に微粒子層32a,32bが順に積層されてなるものである。この斜め蒸着は、180°異なる2方向から順にz軸に対して例えば60°〜80°の蒸着角度で行われ、z軸方向に微粒子の層を形成する。ここで、一方の方向から斜め蒸着させた後、基板31を180°回転させることにより他方の方向から斜め蒸着させる作業を1サイクルとする。このサイクルを複数回行うことにより、2方向から蒸着された多層膜を得ることができる。
【0038】
柱状部32の各層(微粒子層32a,32b)の厚さは、50nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。このように、微粒子層32a,32bの厚さを薄くすることにより、微粒子層の層数をさらに増加した場合であっても、z軸方向に真っ直ぐに伸びた柱状形状を得ることができ、複屈折量をさらに増大させることができる。
【0039】
(2−3.変形例3)
図6に示す波長板4は、異なる2方向からの斜め蒸着による微粒子の複屈折を利用し、複屈折量を増大させるとともに、微細構造による複屈折をも利用して複屈折量を増大させるものである。この微細構造による複屈折は、例えば、誘電体の基板上に形成された凹凸による形状異方性によって、複屈折を発現させるものである。
【0040】
波長板4の製造においては、利用光の波長以下の周期的な凸部44及び凹部45を基板41に形成する。そして、異なる2方向からの斜め蒸着により凸部44上に誘電体材料の微粒子を積層して微粒子層42a,42bからなる柱状部42を形成する。これにより、凹部45上且つ柱状部42間に間隙部43が形成される。そして、柱状部42及び間隙部43からなる複屈折層46に対し、上述の条件でアニール処理を行い、間隙部43内部に存在する水分を蒸発させる。その後、CVD法等により複屈折層46上に無機化合物を高密度に形成することにより低湿度透過性の保護膜47を成膜する。
【0041】
このように基板41の凸部44上に柱状部46が基板面に対して垂直方向に形成され、基板41の凹部45上に間隙部43が形成された波長板4によれば、異なる2方向からの斜め蒸着による微粒子の複屈折を利用し、複屈折量を増大させるとともに、基板41の凹凸状の微細構造による複屈折をも利用して複屈折量を増大させることができる。また、誘電体材料としてTa2O5を含有する高屈折材料を使用することにより、可視光領域における複屈折量が0.13以上であるとともに、可視光領域の任意の2波長における複屈折量の差が、0.02以下である優れた波長分散性(波長依存性)を有する波長板とすることができる。
【0042】
なお、図5、6に示す例では、説明を簡単にするために、180°異なる2方向から誘電体材料を順に斜め蒸着させる斜め蒸着を1サイクル行うことで2層の微粒子層からなる柱状部を形成させたものについて述べたが、微粒子層の数は、これに限定されず数〜数百層とする可能である。微粒子層数を増加させるにつれて波長板の複屈折量をより増大させることができる。例えば図7に示すように、基板41に形成された凸部44上に、180°異なる2方向から誘電体材料を順に斜め蒸着させる斜め蒸着を4サイクル行うことにより、凸部44上に8層の微粒子層が基板に対して垂直方向に積層された柱状部48を形成し、この柱状部48と間隙部43とからなる複屈折層49を形成する。これにより、微粒子層数がこれよりも少ない波長板よりも複屈折量がより増大された波長板とすることができる。
【0043】
このように、微細パターンと複数層の微粒子層からなる複屈折層(斜方蒸着膜)とを組み合わせることにより、膜厚を薄くしながらも複屈折量をさらに増大させることができる。このようにして製造された波長板においても、斜方蒸着膜上に低湿度透過性の保護膜を成膜することで、高耐湿性を発揮し優れた安定性を有する波長板とすることが可能となる。
【0044】
特に、180°異なる2方向から誘電体材料が順に斜め蒸着されて微粒子層数が増加するにつれて、間隙部の構造は複雑化され、柱状部側面に吸着している水分が一段と蒸発されにくくなる。上述のアニール処理は、このように構造が複雑化された間隙部内の水分を蒸発させる方法として非常に有効である。
【0045】
なお、波長板の基板には、その両面又は片面に反射防止膜(AR:Anti Reflection)を設けるようにしてもよい。一般的に、ガラス基板上に斜め蒸着法により微粒子が蒸着されてなる波長板には、透過率向上の目的で反射防止膜が成膜される。反射防止膜としては、例えば一般的に用いられる高屈折膜と低屈折膜とからなる多層薄膜を挙げることができる。基板に反射防止膜を設けることで、基板の表面反射を軽減し、透過率を増加させることができる。なお、透過率を向上させるために、保護膜が、多層薄膜からなる反射防止膜の少なくとも一部を兼ねる構成としてもよい。
【0046】
例えば、保護膜としてSiO2(屈折率1.5)が成膜された場合、反射防止膜が高屈折膜と低屈折膜とからなる多層薄膜において、この保護膜は、低屈折膜として機能することができる。そして、これよりも屈折率が高いTiO2(屈折率2.4)等の高屈折の無機化合物が、SiO2保護膜からなる低屈折膜上に成膜されて高屈折膜として機能する。
【0047】
<3.処理工程>
図8は、本実施の形態における波長板の製造方法の処理工程の一例を示すフローチャートである。先ず、ステップS1において、基板上に、利用光の波長以下の周期的な凸部及び凹部の微細パターンを形成する。具体的には、x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、x軸方向に利用光の波長以下の周期(ピッチ)で凸部及び凹部からなる微細パターン、すなわち凹凸により行路差が生じる一次元格子(グリッド)を形成する。
【0048】
微細パターンの形成方法としては、CVD法により基板上にSiO2を堆積し、その後フォトリソグラフィによりフォトレジストピッチパターンを形成する。そして、CF4を反応性ガスとして用いた真空エッチングによりSiO2の微細パターンを形成する。なお、上述の図2、図5に示す微細パターンを形成しない波長板を製造する場合には、このステップS1は省略される。
【0049】
次に、ステップS2において、利用光の波長以下の周期的な凸部及び凹部が形成された基板上に誘電体材料を例えば60°〜80°の蒸着角度で斜め蒸着して複屈折膜を形成する。
【0050】
図9は、斜め蒸着の概要を説明するための図である。斜め蒸着は、基板面51の法線方向に対して蒸着角度αの方向に蒸着源6を設置して行われ、蒸着角度αを変更することにより堆積される膜の複屈折量を制御する。例えば、誘電体材料としてTa2O5を含有する高屈折材料を用いた場合、蒸着角度αを60°〜80°に設定することにより複屈折量を増大させることができる。
【0051】
また、誘電体材料は、基板51上の周期的な凸部及び凹部のライン、すなわち一次元格子のラインに対して垂直方向から蒸着させることにより、複屈折量を増大させることができる。
【0052】
また、複数層の蒸着の際は、x、y、z直交座標におけるxy平面を基板面としたとき、xy平面において180°異なる2方向から誘電体材料を斜め蒸着させて、先の図5、6に示すような複数層の微粒子層を製造するようにしてもよい。例えば、一方の方向から斜め蒸着させた後、基板を180°回転させることにより他方の方向から斜め蒸着させる作業を複数サイクル行うことにより、2方向から蒸着された多層膜を得ることができる。
【0053】
さらに、各層の厚さを50nm以下、より好ましくは10nm以下として蒸着を複数サイクル行うことにより、z軸方向に伸びた柱状形状を得ることができ、複屈折量を増大させることができる。
【0054】
ステップS3では、ステップS2で複屈折膜が形成された基板を所定のサイズに切断する。切断には、ガラススクライパーなどの切断装置を用いる。
【0055】
ステップS4では、ステップS3で切断された、複屈折膜が形成された基板に対し、CVD法によって複屈折膜上に保護膜を成膜する。なお、このステップS4では、複屈折膜上に成膜した保護膜上にさらに反射防止膜を成膜させてもよい。反射防止膜を高屈折膜と低屈折膜とからなる多層薄膜とした場合、複屈折膜上に成膜された保護膜は、反射防止膜の一部、すなわち高屈折膜又は低屈折膜として機能する。
【0056】
例えば、保護膜としてSiO2(屈折率1.5)を成膜した場合、高屈折膜と低屈折膜とからなる反射防止膜において、保護膜は、低屈折膜として機能する。この場合、このステップS4において、SiO2よりも屈折率が高いTiO2(屈折率2.4)等の高屈折の無機化合物をSiO2保護膜からなる低屈折膜上に成膜する。
【0057】
このように、斜め蒸着により柱状に積層された柱状部と間隙部とを有する複屈折膜を成膜し、複屈折層を100℃以上300℃以下の温度でアニール処理した後、この複屈折層上に無機化合物を高密度に形成してなる保護膜を成膜することで、複屈折量を増大させることができるとともに、従来よりも高耐湿性を発揮し優れた安定性を有する波長板とすることが可能となる。
【0058】
このようにして作製された本実施の形態における波長板は、液晶プロジェクタ等の光学機器に用いた場合、高い光密度に対応することができるため、光学ユニット部の小型化も実現することができる。
【0059】
以上、本実施の形態について説明してきたが、本発明が前述の実施の形態に限定されるものでないことは言うまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0060】
<4.実施例>
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
ガラス基板上に、誘電体材料としてTa2O5をガラス基板面の法線方向に対して蒸着源が70°になるように蒸着して柱状部を形成した。次に、200℃の温度でアニール処理を行い、柱状部と柱状部との間(間隙部)に吸着している水分を蒸発させた。ガラス基板上に形成した柱状部及び間隙部からなる複屈折膜上に、保護膜としてSiO2をCVD法により成膜し、実施例1の波長板のサンプルを作製した。
【0062】
作製した波長板のサンプルの安全性を調べるために、耐湿負荷試験として、温度60℃、湿度90%の環境下に100時間(h)保持した。図10に、実施例1における波長板のサンプルについて、サンプル完成直後の透過率(曲線(A))、及び、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率(曲線(B))を示す。この図10に示すように、実施例1における波長板のサンプルでは、サンプル完成直後と耐湿負荷試験後とで透過率に差が生じなかった。
【0063】
図11は、実施例1の波長板のサンプル、及び、アニール温度を25℃、100℃、300℃、400℃と変化させた以外は実施例1と同様に行って作製した波長板のサンプルにおける波長550nmでの透過率を示す図である。一般に、波長板の特性上、透過率が90%以上であることが要請されるが、この図11に示すように、実施例1の波長板のサンプルは、これらのサンプルの中で最も高い透過率(92%以上)を達成できた。
【0064】
実施例1では、200℃の温度でアニール処理を行った後、CVD法によってSiO2が高密度に形成されてなる低湿度透過性の保護膜を成膜することで、製造された波長板は、高耐湿性を有し、耐久性及び安定性に優れたものとなった。
【0065】
<比較例1>
ガラス基板上に形成した柱状部及び間隙部からなる複屈折層上に、保護膜としてSiO2を抵抗加熱蒸着法により成膜した以外は、実施例1と同様に行い、波長板のサンプルを作製した。具体的には、発熱した抵抗体にSiO2を供給して加熱及び蒸発させて基板上の複屈折層表面に蒸発したSiO2粒子を付着させて保護膜を形成し、比較例1の波長板のサンプルを作製した。
【0066】
この比較例1の波長板のサンプルを用いて実施例1と同様の耐湿負荷試験(温度60℃、湿度90%の環境下に100時間(h)保持)を行った。図12に、比較例1における波長板のサンプルについての完成直後の透過率(曲線(A))、及び、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率(曲線(B))を示す。この図12に示すように、比較例1における波長板のサンプルでは、波長約400nm以上850nm以下の領域で耐湿負荷試験後の透過率がサンプル完成直後の透過率よりも減少した。
【0067】
比較例1では、抵抗加熱蒸着法によって保護膜を成膜したため、SiO2を高密度に形成できず保護膜を低湿度透過性とすることができなかった。このため、製造された波長板は、耐湿性が低く耐久性及び安定性に劣るものとなった。
【0068】
<比較例2>
ガラス基板上に形成した柱状部及び間隙部からなる複屈折膜上に、保護膜を成膜しない以外は、実施例1と同様に行い、波長板のサンプルを作製した。
【0069】
実施例1と同様の耐湿負荷試験(温度60℃、湿度90%の環境下に100時間(h)保持)を行った。図13に、比較例2における波長板のサンプルについての完成直後の透過率(曲線(A))、及び、耐湿負荷試験において100時間保持させた後の透過率(曲線(B))を示す。図13に示すように、比較例2における波長板のサンプルでは、波長約350nm以上850nm以下の殆どの領域において耐湿負荷試験後の透過率がサンプル完成直後の透過率よりも減少した。また、比較例1の波長板のサンプルでは、柱状部の微粒子にクラックが生じていた。
【0070】
比較例2では、保護膜を成膜しなかったため、製造された波長板は、耐湿性が低く耐久性及び安定性に劣るものとなった。
【0071】
<応用例1>
ピッチ150nm、深さ50nmの一次元格子を設けたガラス基板上に、微細パターンを形成した波長板を作製した。そして、この微細パターンの効果について評価した。一次元格子のラインと垂直方向、且つ、ガラス基板面の法線方向に対する蒸着角度を70°とし、誘電体材料としてTa2O5を斜め蒸着させ、複屈折膜を1層形成した。複屈折膜の膜厚は、1.2μmとした。また、これと同様にして、微細パターンが形成されていない平坦基板を使用し、この平坦基板上に複屈折膜を形成した。
【0072】
図14は、一次元格子基板を用いた波長板と平坦基板を用いた波長板との複屈折量の比較を示すグラフである。また、図15は、一次元格子基板を用いた波長板の断面のSEM(Scanning Electron Microscope)像である。
【0073】
一次元格子基板を用いた波長板は、従来の平坦基板を用いた斜め蒸着に比べ複屈折量が2.8倍となった。これは、一次元格子基板上に成膜することにより、格子間に間隔ができ、構造複屈折の効果が加味されたものと考えられる。
【0074】
このように一次元格子基板を用いた波長板によれば、所望の位相特性を得るのに従来よりも薄膜化することができる。また、薄膜化により、生産工程の高速化及び効率化、成膜に使用する材料費の抑制等の多くのメリットを得ることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 波長板、11 基板、12 柱状部、13 間隙部、14 複屈折層、15 保護膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に誘電体材料を斜め蒸着し、該誘電体材料の微粒子が柱状に積層された柱状部と該柱状部間に設けられた間隙部とを有する複屈折層を形成する複屈折層形成工程と、
前記複屈折層を100℃以上300℃以下の温度でアニール処理するアニール処理工程と、
前記アニール処理された複屈折層上に無機化合物を高密度に形成することにより保護膜を成膜する保護膜成膜工程と
を有することを特徴とする波長板の製造方法。
【請求項2】
前記保護膜形成工程では、化学蒸着法、プラズマアシスト法、スパッタ法の何れか1つの方法によって前記複屈折層上に前記保護膜を形成することを特徴とする請求項1記載の波長板の製造方法。
【請求項3】
前記保護膜上に、該保護膜よりも屈折率が高い高屈折膜を成膜する高屈折膜成膜工程をさらに有し、
前記保護膜と前記高屈折膜とからなる反射防止膜を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の波長板の製造方法。
【請求項4】
前記無機化合物は、SiO2であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の波長板の製造方法。
【請求項5】
前記誘電体材料は、Ta2O5であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項記載の波長板の製造方法。
【請求項6】
前記基板は、利用光の波長以下の周期的な凹部及び凸部が形成されており、前記複屈折層形成工程では、該凸部上に前記誘電体材料を斜め蒸着させることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項記載の波長板の製造方法。
【請求項7】
前記複屈折層形成工程では、順に積層方向を180°反転させた前記複屈折層を少なくとも2以上積層させることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項記載の波長板の製造方法。
【請求項1】
基板上に誘電体材料を斜め蒸着し、該誘電体材料の微粒子が柱状に積層された柱状部と該柱状部間に設けられた間隙部とを有する複屈折層を形成する複屈折層形成工程と、
前記複屈折層を100℃以上300℃以下の温度でアニール処理するアニール処理工程と、
前記アニール処理された複屈折層上に無機化合物を高密度に形成することにより保護膜を成膜する保護膜成膜工程と
を有することを特徴とする波長板の製造方法。
【請求項2】
前記保護膜形成工程では、化学蒸着法、プラズマアシスト法、スパッタ法の何れか1つの方法によって前記複屈折層上に前記保護膜を形成することを特徴とする請求項1記載の波長板の製造方法。
【請求項3】
前記保護膜上に、該保護膜よりも屈折率が高い高屈折膜を成膜する高屈折膜成膜工程をさらに有し、
前記保護膜と前記高屈折膜とからなる反射防止膜を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の波長板の製造方法。
【請求項4】
前記無機化合物は、SiO2であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の波長板の製造方法。
【請求項5】
前記誘電体材料は、Ta2O5であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項記載の波長板の製造方法。
【請求項6】
前記基板は、利用光の波長以下の周期的な凹部及び凸部が形成されており、前記複屈折層形成工程では、該凸部上に前記誘電体材料を斜め蒸着させることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項記載の波長板の製造方法。
【請求項7】
前記複屈折層形成工程では、順に積層方向を180°反転させた前記複屈折層を少なくとも2以上積層させることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項記載の波長板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−8363(P2012−8363A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144559(P2010−144559)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】
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