波長選択フィルタ
【課題】従来よりも透過スペクトルの変調帯域が広い波長選択フィルタを提供すること。
【解決手段】波長選択フィルタは、対向配置された一対のミラー間のギャップ長さを変化させることのできる可変型のファブリペローフィルタを複数備え、複数のファブリペローフィルタが、ギャップ長さの変化方向を同じとして互いに積層されてなる。各ファブリペローフィルタにおいて、対をなすミラーの中心波長は互いに等しくされている。複数のファブリペローフィルタは、ミラーの中心波長が互いに異なるとともに、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有する。
【解決手段】波長選択フィルタは、対向配置された一対のミラー間のギャップ長さを変化させることのできる可変型のファブリペローフィルタを複数備え、複数のファブリペローフィルタが、ギャップ長さの変化方向を同じとして互いに積層されてなる。各ファブリペローフィルタにおいて、対をなすミラーの中心波長は互いに等しくされている。複数のファブリペローフィルタは、ミラーの中心波長が互いに異なるとともに、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変型のファブリペローフィルタを複数積層してなり、透過光波長の選択性を有する波長選択フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透過光波長の選択性を有する波長選択フィルタとして、特許文献1に示されるように、複数のファブリペローフィルタがギャップ長さの変化方向を同じとして互いに積層されてなるものが知られている。
【0003】
特許文献1では、3枚のミラーが対向配置され、中央のミラーが変位しない固定ミラー、両端のミラーがそれぞれ変位する可動ミラーとなっている。また、2つのファブリペローフィルタのギャップ長さが、それぞれ異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−31326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年、部品点数削減などの観点から、より広い波長域において光を選択的に透過できる波長選択フィルタが望まれている。すなわち、透過スペクトルの変調帯域が広い波長選択フィルタが望まれている。
【0006】
特許文献1では、2つのファブリペローフィルタのギャップ長さの比率を、変位前の初期状態の比率のまま保つように、それぞれの可動ミラーの変位が制御される。例えば初期状態のギャップ長さを、第1ファブリペローフィルタで3μm、第2ファブリペローフィルタで6μmの比率1:2とする。初期状態では、第1ファブリペローフィルタの1次干渉光(6μm)と、第2ファブリペローフィルタの2次干渉光(6μm)が一致する。また、ギャップ長さの比率を保つように各可動ミラーを変位させ、第1ファブリペローフィルタのギャップを2μm、第2ファブリペローフィルタのギャップを4μmとした場合、第1ファブリペローフィルタの1次干渉光(4μm)と、第2ファブリペローフィルタの2次干渉光(4μm)が一致する。
【0007】
このように、波長が一致する干渉光は、波長選択フィルタを透過する。一方、波長が一致しない干渉光は、該干渉光の波長において他方のファブリペローフィルタの透過率が低い(ミラーの反射率が高い)ため、波長選択フィルタを透過しない。これにより透過スペクトルの半値幅(FWHM)を狭くすることができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1では、ギャップ長さの比率を保つように各可動ミラーを変位させ、透過スペクトルを一致させるために、2つのファブリペローフィルタのミラーの構成(反射特性)を同じとしなければならない。具体的には、各フィルタを構成するミラーの中心波長及び反射帯域を同じとしなければならない。このように、2つのファブリペローフィルタのミラーの反射帯域が同じであり、上記のごとく波長が一致する干渉光のみを透過させるため、特許文献1に記載の波長選択フィルタにおける透過スペクトルの変調帯域は、1つのファブリペローフィルタを備える波長選択フィルタと同等以下となる。
【0009】
なお、ミラーの構成が同一のファブリペローフィルタを複数積層しても、各ファブリペローフィルタのミラーの反射帯域が同じであるため、透過スペクトルの変調帯域は、1つのファブリペローフィルタと殆ど変わらない。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑み、従来よりも透過スペクトルの変調帯域が広い波長選択フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する為に請求項1に記載の発明は、高屈折率層間に該高屈折率層を構成する材料よりも低屈折率の材料からなる低屈折率層が介在されてなるミラーがギャップを介して対向配置され、一対のミラー間のギャップ長さを変化させることのできる可変型のファブリペローフィルタを複数備え、複数のファブリペローフィルタが、ギャップ長さの変化方向を同じとして互いに積層されてなる波長選択フィルタであって、
各ファブリペローフィルタにおいて、対をなすミラーの中心波長が互いに等しくされ、
複数のファブリペローフィルタは、ミラーの中心波長が互いに異なるとともに、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有することを特徴とする。
【0012】
ここで、光学多層膜構造のミラーを構成する各層の光学膜厚は、中心波長の1/4倍の厚さとされる。換言すれば、中心波長は、各層の光学膜厚によって決定される。この中心波長により、ミラーの反射帯域の中心位置が決定される。また、反射帯域は、中心波長を中心とし、その幅が低屈折率層に対する高屈折率層の屈折率比に基づいて決定される。このため、屈折率比が大きいほど、反射帯域の幅が広くなる。
【0013】
また、ミラーは、反射帯域の波長の光に対して反射作用(高い反射率)を示し、反射帯域外の波長の光に対しては反射率が低く、反射作用を示さない。このミラーを用いて構成されたファブリペローフィルタでは、光を選択的に透過できる分光帯域がミラーの反射帯域に対応し、分光帯域外の領域がミラーの反射帯域外の領域に対応している。このため、分光帯域外の領域(ミラーの反射帯域外の領域)では、波長選択性は無いものの、光を透過する。
【0014】
本発明は、このミラーの反射帯域外の領域に着目し、各ファブリペローフィルタを構成するミラーの中心波長を互いに異ならせ、且つ、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有するように設定した。すなわち、ミラーの反射帯域、すなわちファブリペローフィルタの分光帯域を、各ファブリペローフィルタで意図的にずらした。このため、各ファブリペローフィルタのミラーの反射帯域が同じとされた従来の構成に較べて、波長選択フィルタ全体として分光帯域(ミラーの反射帯域)を広くすることができる。そして、任意のファブリペローフィルタにて分光された透過スペクトルを、他のファブリペローフィルタの反射帯域外(分光帯域外)の領域で透過させることができる。したがって、従来よりも透過スペクトルの変調帯域を広くすることができる。
【0015】
なお、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有する構成としては、ミラーの反射帯域の一部が、他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複し、残りの部分が重複しない構成、又は、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と全く重複しない構成(反射帯域の下限が、他のファブリペローフィルタの反射帯域の上限と接する状態も含む)がある。
【0016】
請求項2に記載のように、複数のファブリペローフィルタとして、2つのファブリペローフィルタを有し、
各ファブリペローフィルタを構成するミラーが、シリコンからなる高屈折率層間に、該高屈折率層を構成する材料よりも低屈折率の二酸化シリコンからなる低屈折率層が介在されてなり、
一方のファブリペローフィルタのミラーの中心波長をλ1、他方のファブリペローフィルタのミラーの中心波長をλ2とし、λ2≧1.4λ1を満たす構成とすることが好ましい。
【0017】
上記した光学多層膜構造のミラーを採用する場合、λ2<1.4λ1とすると、中心波長同士が近づくためミラーの反射帯域の重複する領域が広くなり、任意のファブリペローフィルタにて分光された透過スペクトルが、他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域(分光帯域)内に位置しやすくなる。分光帯域内においては、ギャップ長さに応じた透過スペクトルの波長のみ透過率が高く、それ以外の波長では反射率が高いため、任意のファブリペローフィルタで分光された透過スペクトルが、他のファブリペローフィルタを透過しがたくなる。
【0018】
これに対し、λ2≧1.4λ1とすると、反射帯域の重複する領域の幅が狭くなる、又は、反射帯域が重複する領域を有さないので、任意のファブリペローフィルタにて分光された透過スペクトルが、他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域外の領域に位置しやすくなる。このため、λ2<1.4λ1に較べて、分光された透過スペクトルの透過率を高めることができる。すなわち、透過スペクトルの変調帯域を広くすることができる。
【0019】
さらに、請求項3に記載のように、中心波長λ1,λ2がλ2≦2.3λ1を満たすことが好ましい。
【0020】
λ2>2.3λ1の場合、2つのファブリペローフィルタにおいて反射帯域が重複する領域を有さず、さらにλ2が2.3λ1程度の場合、隣接する2つの反射帯域において、一方の反射帯域の上限と他方の反射帯域の下限が近く、これら上限と下限との間の波長の光が、あたかも波長選択フィルタから選択的に透過されたかのようにピークを示す。このサブピークは所謂ノイズである。
【0021】
これに対し、λ2≦2.3λ1とすると、ノイズの透過率を5%以下(透過スペクトルの透過率の10%以下)とし、これにより波長選択性を向上することができる。
【0022】
具体的には、請求項4に記載のように、2つのファブリペローフィルタとして、第1ファブリペローフィルタと第2ファブリペローフィルタを有し、
第1ファブリペローフィルタのみに、静電気力を生じさせるべくミラーに対応して一対の電極が設けられ、
第1ファブリペローフィルタは、第2ファブリペローフィルタに近い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、第2ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、一対の電極間への電圧を印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりもギャップ長さが短くなり、
第2ファブリペローフィルタは、第1ファブリペローフィルタに近い側のミラーが可動ミラーと一体的に変位するミラー、第1ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが変位しないミラーとされて、一対の電極間への電圧の印加により、初期状態のギャップ長さDbiよりもギャップ長さが長くなる構成を採用すると良い。
【0023】
本発明では、2つのファブリペローフィルタのうちの一方に設けた電極によって、2つのファブリペローフィルタのギャップ長さをともに変化させることができる。このように電極は一方のみで良いので、波長選択フィルタの構成を簡素化することができる。
【0024】
この場合、請求項5に記載のように、第1ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をβ(正の整数)、第2ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をα(正の整数)とすると、ギャップ長さDai,Dbiが、
β×Dbi≦α×Dai≦3/2×β×(Dbi+1/3×Dai)
を満たすことが好ましい。
【0025】
このように初期状態のギャップ長さDai,Dbiが上記関係を満たすと、2つのファブリペローフィルタの透過スペクトルの変調帯域を隙間無く連続させることができる。このため、連続する1つの帯域として、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。
【0026】
さらには、請求項6に記載のように、ギャップ長さDai,Dbiが、Dai>Dbiを満たすことが好ましい。
【0027】
これによれば、電極を有さない第2ファブリペローフィルタのギャップ長さの変化量を、自身に電極を設けてギャップ長さを変化させるときのギャップ長さの変化量よりも大きくとることができる。これにより、第2ファブリペローフィルタにおける透過スペクトルの変調帯域を広くし、ひいては波長選択フィルタ全体で、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。
【0028】
一方、請求項7に記載のように、2つのファブリペローフィルタとして、第1ファブリペローフィルタと第2ファブリペローフィルタを有し、
各ファブリペローフィルタに、静電気力を生じさせるべくそれぞれのミラーに対応して一対の電極が設けられ、
第1ファブリペローフィルタは、第2ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、第2ファブリペローフィルタに近い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、該第1ファブリペローフィルタが有する電極間への電圧の印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりもギャップ長さが短くなり、
第2ファブリペローフィルタは、第1ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、第1ファブリペローフィルタに近い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、該第2ファブリペローフィルタが有する電極間への電圧の印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDbiよりもギャップ長さが短くなる構成としても良い。
【0029】
本発明では、2つのファブリペローフィルタを固定ミラー側で接続するので、請求項4に記載のように可動ミラー側で接続する構成に較べて波長選択フィルタを形成しやすい。
【0030】
この場合、請求項8に記載のように、第1ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をβ(正の整数)、第2ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をα(正の整数)とすると、
ギャップ長さDai,Dbiが、
β×Dbi×2/3≦α×Dai≦β×Dbi×3/2
を満たすことが好ましい。
【0031】
このように初期状態のギャップ長さDai,Dbiが上記関係を満たすと、2つのファブリペローフィルタの透過スペクトルの変調帯域を隙間無く連続させることができる。このため、連続する1つの帯域として、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。
【0032】
なお、請求項9に記載のように、第1基板の一面上に、固定電極側を載置面として第1ファブリペローフィルタが積層され、
第2基板の一面上に、固定電極側を載置面として前記第2ファブリペローフィルタが積層され、
第1基板と第2基板とが、対応するファブリペローフィルタの載置面と反対の面同士で貼り合わせられた構成とすると、製造工程を簡素化することができる。
【0033】
請求項10に記載のように、隣り合うファブリペローフィルタの間に位置する介在部材が、隣り合うファブリペローフィルタの互いに近い側のミラーとともに、高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に位置する周期性をなすように構成されると良い。
【0034】
これによれば、周期性がない場合に較べて、選択的に透過される光の透過率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】可変型のファブリペローフィルタの概略構成を示す断面図である。
【図2】(a)は、図1に示すファブリペローフィルタを構成するミラーの反射帯域を示す図、(b)は、ファブリペローフィルタの分光帯域を示す図である。
【図3】第1実施形態に係る波長選択フィルタの概略構成を示す断面図である。
【図4】各ファブリペローフィルタ及び波長選択フィルタの分光帯域の位置関係を示す図である。
【図5】重複領域を示す図である。
【図6】ミラーを構成する各層の膜厚比と、メインピークの透過率との関係を示す図である。
【図7】サブピークS3を示す図である。
【図8】ミラーを構成する各層の膜厚比と、サブピークS3の透過率との関係を示す図である。
【図9】各ファブリペローフィルタの変調帯域の位置関係を示す図である。
【図10】図3に示す波長選択フィルタにおいて、(a)は初期状態の透過スペクトル、(b)はプルイン限界での透過スペクトルを示す図である。
【図11】変形例において、(a)は初期状態の透過スペクトル、(b)はプルイン限界での透過スペクトルを示す図である。
【図12】変形例の概略構成を示す断面図である。
【図13】第2実施形態に係る波長選択フィルタの概略構成を示す断面図である。
【図14】図13に示す波長選択フィルタにおいて、(a)は初期状態の透過スペクトル、(b)はプルイン限界での透過スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下において、共通乃至関連する要素には同一の符号を付与するものとする。また、ファブリペローフィルタを構成する一対のミラー間のギャップがエアギャップ(空隙)である例を示す。また、エアギャップの長さ方向、換言すればメンブレンMEMの変位方向を単に長さ方向と示し、該長さ方向に垂直な方向を単に垂直方向と示す。
【0037】
本発明の実施の形態を説明する前に、先ず可変型のファブリペローフィルタFPの基本構成について説明する。
【0038】
図1に示すファブリペローフィルタFPは、例えばシリコンからなる基板20の一面上に配置され、固定ミラーを有する固定ミラー構造体30と、支持部材40を介して固定ミラー構造体30上に配置され、可動ミラーを有する可動ミラー構造体50と、を備える。可動ミラー構造体50のエアギャップAGを架橋する部分は変位可能なメンブレンMEMとなっており、図1に示す例では、可動ミラー構造体50のメンブレンMEM及び固定ミラー構造体30のメンブレンMEMに対応する部分の少なくとも一部が、対向配置された一対のミラーとして機能する。なお、図1に示す例では、ファブリペローフィルタFPが支持部材40を有するが、可動ミラー構造体50のメンブレンMEMの周辺部分が、支持部材40の機能を兼ねる構成を採用することもできる。
【0039】
また、固定ミラー構造体30及び可動ミラー構造体50には、図示しない電極がそれぞれ形成されている。そして、電極間に電圧を印加し、電極間に静電気力が生じると、これによりメンブレンMEMが変位し、エアギャップAGの長さが変化するようになっている。このメンブレンMEMの変位により、エアギャップAGを介して対向配置された各ミラーの距離Dが変化する。このようにしてファブリペローフィルタFPは、ミラー対向距離Dに応じた所望波長の光を選択的に透過させることができる。
【0040】
なお、図1に示す符号21は、基板20と固定ミラー構造体30を電気的に分離する絶縁膜である。符号31,32は、例えばシリコンからなる半導体薄膜を用いた高屈折率層、符号33は、高屈折率層31,32よりも低屈折率の材料、例えば二酸化シリコンからなり、高屈折率層31,32間に介在された低屈折率層である。また、符号51,52は、例えばシリコンからなる半導体薄膜を用いた高屈折率層、符号53は、高屈折率層51,52よりも低屈折率の材料、例えば二酸化シリコンからなり、高屈折率層51,52間に介在された低屈折率層である。このように、固定ミラー及び可動ミラーは光学多層膜構造を有している。
【0041】
そして、各ミラーを構成する層31〜33,51〜53の光学膜厚は、中心波長λcの1/4となっており、固定ミラーと可動ミラーとで、中心波長λcが互いに等しくなっている。このように、中心波長λcは、各層31〜33、51〜53の光学膜厚によって決定される。この中心波長λcは、図2(a)に示すようにミラーの反射帯域の中心位置をなす。また、反射帯域は、中心波長λcを中心とし、その幅が低屈折率層33(53)に対する高屈折率層31,32(51,52)の屈折率比で決定される。なお、同じ屈折率比でも、中心波長λcが長波長であるほど幅は広くなる。
【0042】
図2(a)に示すように、固定ミラー及び可動ミラーは、反射帯域の波長の光に対して反射作用(高い反射率)を示し、反射帯域外の波長の光に対しては反射率が低く、反射作用を示さない。このミラーを対向配置してなるファブリペローフィルタFPでは、図2(b)に示すように光を選択的に透過できる分光帯域がミラーの反射帯域に対応しており、分光帯域外の領域がミラーの反射帯域外の領域に対応している。したがって、分光帯域外の領域(ミラーの反射帯域外の領域)では、波長選択性は無いものの、光を透過する。
【0043】
ここで、ファブリペローフィルタFPを選択的に透過する透過スペクトル(干渉光)の波長λは次式で示される。Dは、ミラー間の対向距離であり、mは干渉光の次数を示す正の整数である。
(数1)λ=2×D/m
実際は、様々な次数の干渉光のうち、上記した分光帯域にピークを有するものが、ファブリペローフィルタFPを選択的に透過する。また、対向距離Dは、メンブレンMEMの変位にともなって変化する。したがって、メンブレンMEMの変位にともなって対向距離Dが取り得る範囲において、上記した分光帯域にピークを有する干渉光が、ファブリペローフィルタFPを通じて選択的に透過される。したがって、対向距離Dの取り得る範囲において、光が選択的に透過される波長域が、図2(b)に例示するように、透過スペクトルの変調帯域となる。
【0044】
なお、上記構成では、電圧が印加されない初期状態のミラーの対向距離をDiとし、電極の対向距離もDiとすると、DiからDi×2/3までの範囲がミラーの対向距離Dの取り得る範囲である。このように、ミラーの対向距離Dは、所謂プルイン現象が生じない限界点(プルイン限界)によって定まる。
【0045】
このように、透過スペクトルの変調帯域は、中心波長λcを中心とするミラーの反射帯域内(分光帯域内)に制限される。したがって、1つのファブリペローフィルタFPでは、透過スペクトルの変調帯域を広くすることに限界がある。また、ミラーの構成(材料構成及び光学膜厚)が同一のファブリペローフィルタFPを複数積層しても、各ファブリペローフィルタFPのミラーの中心波長λc及び反射帯域が同じであるので、透過スペクトルの変調帯域は、1つのファブリペローフィルタFPと殆ど変わらない。
【0046】
そこで、本発明者は、透過スペクトルの変調帯域を広くすべく、鋭意検討を行った。以下に示す実施形態は、上記検討により得られた知見に基づくものである。
【0047】
(第1実施形態)
図3に示すように、本実施形態に係る波長選択フィルタ10は、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2を有している。2つのファブリペローフィルタFP1,FP2は、それぞれのエアギャップAG1,AG2の変化方向を同じくして積層されている。
【0048】
ファブリペローフィルタFP1は、図1に示したファブリペローフィルタFPと同じ構成を有している。すなわち、ファブリペローフィルタFP1は、光学多層膜構造の固定ミラーを有する固定ミラー構造体30、支持部材40、光学多層膜構造の可動ミラーを有する可動ミラー構造体50を備える。また、各ミラー構造体30,50にはそれぞれ電極が設けられており、電極間に電圧を印加することで、エアギャップAG1の長さDaが変化するようになっている。具体的には、エアギャップAG1の長さDaが、電圧の印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりも短くなる。このファブリペローフィルタFP1が、特許請求の範囲に記載の第1ファブリペローフィルタに相当する。
【0049】
本実施形態では、シリコンからなる基板20の一面上に、二酸化シリコンからなる絶縁膜21を介して固定ミラー構造体30が配置されている。固定ミラー構造体30及び可動ミラー構造体50を構成する高屈折率層31,32,51,52は、ポリシリコンからなり、低屈折率層33,53は、二酸化シリコンからなる。また、支持部材40も、低屈折率層33,53同様、二酸化シリコンからなる。
【0050】
また、ファブリペローフィルタFP1の固定ミラー及び可動ミラーを構成する各層31〜33,51〜53の光学膜厚は、中心波長λ1の1/4倍の厚さとされている。
【0051】
一方、ファブリペローフィルタFP2は、ファブリペローフィルタFP1の可動ミラー構造体50上に積層配置されている。すなわち、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のうち、基板20に対して遠くに位置する。ファブリペローフィルタFP2も図1に示したファブリペローフィルタFPとほぼ同じ構成を有している。すなわち、ファブリペローフィルタFP2は、光学多層膜構造の可動ミラーを有する可動ミラー構造体70、支持部材80、光学多層膜構造の固定ミラーを有する固定ミラー構造体90を備える。具体的には、ファブリペローフィルタFP1の可動ミラー構造体50上に、接続層60を介して可動ミラー構造体70が積層配置されている。そして、可動ミラー構造体70上には、支持部材80を介して固定ミラー構造体90が配置されている。
【0052】
このように、可動ミラー構造体50,70同士が一体的に構成されている。また、可動ミラー構造体70と固定ミラー構造体90の間に構成されるエアギャップAG2は、垂直方向において、エアギャップAG1に対応して設けられている。したがって、ファブリペローフィルタFP2は電極を有さないものの、可動ミラー構造体70のメンブレンMEMに対応する部分が、第1ファブリペローフィルタFPのメンブレンMEMと一体的に変位することができる。この変位により、エアギャップAG2の長さDbは、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDbiよりも長くなる。このファブリペローフィルタFP2が、特許請求の範囲に記載の第2ファブリペローフィルタに相当する。
【0053】
本実施形態では、可動ミラー構造体70及び固定ミラー構造体90を構成する高屈折率層71,72,91,92がポリシリコンからなり、低屈折率層73,93が二酸化シリコンからなる。支持部材80も、低屈折率層73,93同様、二酸化シリコンからなる。また、接続層60として、高屈折率層51を構成するシリコンよりも屈折率の低い二酸化シリコンを採用している。このように、二酸化シリコンからなる接続層60を採用することで、長さ方向において、高屈折率層51、低屈折率層53、高屈折率層52、接続層60、高屈折率層71、低屈折率層73、高屈折率層72の順で、高屈折率層と低屈折率層とが交互となっている。
【0054】
また、ファブリペローフィルタFP2の固定ミラー及び可動ミラーを構成する各層71〜73,91〜93の光学膜厚は、上記した中心波長λ1とは異なる中心波長λ2の1/4倍の厚さとされている。このように、ファブリペローフィルタFP2の固定ミラー及び可動ミラーを構成する各層71〜73,91〜93の光学膜厚は、ファブリペローフィルタFP1の固定ミラー及び可動ミラーを構成する各層31〜33,51〜53の光学膜厚と異なっている。本実施形態では、図4に示すように、中心波長λ2が中心波長λ1よりも長波長となっている。このため、高屈折率層31,32,51,52と高屈折率層71,72,91,92の構成材料が同じで、と低屈折率層33,53と低屈折率層73,93の構成材料が同じでありながら、ファブリペローフィルタFP2の反射帯域(分光帯域)のほうが広くなっている。
【0055】
また、ファブリペローフィルタFP2のミラーの反射帯域と、ファブリペローフィルタFP1のミラーの反射帯域とが、互いに重複しない領域をそれぞれ有するように設定されている。図4に示す例では、ファブリペローフィルタFP1,FP2が、反射帯域の重複する重複領域を有さない、換言すれば、反射帯域の全てが互いに重複しない領域となっている。
【0056】
このように本実施形態では、図4に示すように、各ファブリペローフィルタFP1,FP2を構成するミラーの中心波長λ1,λ2が互いに異なり、且つ、ファブリペローフィルタFP2のミラーの反射帯域とファブリペローフィルタFP1のミラーの反射帯域とが、互いに重複しない領域をそれぞれ有する。すなわち、ミラーの反射帯域、すなわちファブリペローフィルタFP1,FP2の分光帯域が、各ファブリペローフィルタFP1,FP2でずれている。このため、各ファブリペローフィルタFP1,FP2のミラーの反射帯域が同じとされた従来の構成に較べて、波長選択フィルタ全体として分光帯域(ミラーの反射帯域)を広くすることができる。そして、任意のファブリペローフィルタにて分光された透過スペクトルを、他のファブリペローフィルタの反射帯域外(分光帯域外)の領域で透過させることができる。したがって、従来よりも透過スペクトルの変調帯域を広くすることができる。
【0057】
なお、図4では、ファブリペローフィルタFP1,FP2が、反射帯域の重複する重複領域を有さない例を示した。しかしながら、ファブリペローフィルタFP1,FP2がそれぞれ重複領域を有する構成としても良い。この場合、ファブリペローフィルタFP1,FP2が、反射帯域として互いに重複しない領域をそれぞれ有し、この重複しない領域に透過スペクトルの変調帯域の少なくとも一部が当たるように、初期状態のギャップ長さDa,Dbを設定することで、透過スペクトルの変調帯域を広くすることができる。
【0058】
また、本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のうちの一方(ファブリペローフィルタFP1)に設けた電極により、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のギャップ長さDa,Dbをともに変化させることができる。このように電極は一方のみで良いので、波長選択フィルタ10の構成を簡素化することができる。
【0059】
また、本実施形態では、ファブリペローフィルタFP1,FP2の間に位置する介在部材としての接続層60が、隣り合うファブリペローフィルタFP1,FP2の互いに近い側のミラー(本実施形態では、可動ミラー構造体50,70)とともに、高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に位置する周期性をなすように構成されている。このため、周期性がない場合に較べて、選択的に透過される光の透過率を高めることができる。
【0060】
なお、上記した波長選択フィルタ10は、光学多層膜構造の可変型ファブリペローフィルタの製造方法として周知のもの採用することで形成することができる。例えばCVDなどにより各層31〜33、後に支持部材40となる犠牲層、51〜53,60,71〜73、後に支持部材80となる犠牲層、91〜93を堆積形成する。そして、各犠牲層を一括でエッチングし、エアギャップAG1,AG2を形成するとともに、犠牲層エッチング残りの部分を支持部材40,80とすればよい。また、支持部材40,80を有さない場合は、エアギャップAG1,AG2に相当する部分のみに犠牲層を設け、犠牲層を覆うように、該犠牲層よりも上層を堆積形成し、その後、犠牲層をエッチングにより全て除去すれば良い。
【0061】
次に、上記した波長選択フィルタ10のより好ましい形態について説明する。
【0062】
1)本実施形態では、上記したように、各ファブリペローフィルタFP1,FP2を構成する固定ミラー及び可動ミラーが、シリコンからなる高屈折率層31,32,51,52,71,72,91,92の間に、低屈折率の二酸化シリコンからなる低屈折率層33,53,73,93が介在されてなる。その上で、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のうちの一方のミラーの中心波長が、他方のファブリペローフィルタのミラーの中心波長の1.4倍以上となっている。本実施形態では、上記したように、ファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2が、ファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1よりも長波長となっており、λ2≧1.4λ1となっている。
【0063】
以下にその理由を説明する。図5に示すように、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2において、ミラーの反射帯域の重複する領域(重複領域)が広いと、一方のファブリペローフィルタ(例えばファブリペローフィルタFP2)にて分光された透過スペクトルが、他方のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域(分光帯域)内に位置しやすくなる。このように他方のファブリペローフィルタの反射帯域内に位置する場合、他方のファブリペローフィルタの透過スペクトルと波長が一致すれば、波長選択フィルタ10から該波長の光が選択的に透過されるが、波長が一致しないと他方のファブリペローフィルタを透過しがたい。なお、図5では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2において、透過スペクトルの変調帯域の一部がそれぞれ重複領域に位置している。
【0064】
図6は、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2を構成する各ミラーの膜厚の比(換言すれば中心波長の比λ2/λ1)と、メインピークの透過率との関係を示す図である。なお、メインピークとは、図5中のS2に相当し、ファブリペローフィルタFP2の反射帯域から透過するスペクトルである。図6に示すように、λ2≧1.4λ1では、メインピークの透過率が80%以上となっており、λ2<1.4λ1では、メインピークの透過率が80%を大きく下回っている。これは、λ2<1.4λ1を満たし、中心波長λ1,λ2が互いに近づくことで、上記のごとくミラーの反射帯域において重複領域が広くなる。そして、図5の透過スペクトルS2のように、一方のファブリペローフィルタの変調帯域の少なくとも一部の光が、他方のファブリペローフィルタの分光帯域内に位置し、他方のファブリペローフィルタを透過しがたくなるためである。
【0065】
一方、本実施形態では、λ2≧1.4λ1となっている。これによれば、反射帯域における重複領域の幅が狭いか、又は、図4に示したように反射帯域が重複領域を有さない。したがって、一方のファブリペローフィルタにて分光された透過スペクトルを、確実に、他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域外(分光帯域外)の領域とすることができる。これにより、透過スペクトルの変調帯域を広くすることができる。
【0066】
2)本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のうちの一方のミラーの中心波長が、他方のファブリペローフィルタのミラーの中心波長の2.3倍以下となっている。本実施形態では、λ2≦2.3λ1となっている。
【0067】
λ2>2.3λ1の場合、中心波長λ1,λ2が互いに遠ざかることで、反射帯域が重複する領域を有さない。しかしながら、λ2>2.3λ1であってλ2が2.3λ1に近いと、図7に示すように、ファブリペローフィルタFP1の反射帯域(分光帯域)の上限と、ファブリペローフィルタFP2の反射帯域(分光帯域)の下限が近接し、これら上限と下限との間(図7の破線の間)の波長の光が、あたかも波長選択フィルタ10から選択的に透過されたかのようにピークS3を示す。このサブピークS3は所謂ノイズである。
【0068】
図8は、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2を構成する各ミラーの膜厚比(換言すれば中心波長の比λ2/λ1)と、サブピークS3の透過率との関係を示す図である。図8に示すように、サブピークS3の透過率は、膜厚比2.3以下において5%以下となる。本実施形態では、λ2≦2.3λ1となっているため、サブピークS3(ノイズ)の透過率を5%以下(透過スペクトルS1,S2の透過率の10%以下)とすることができる。そして、これにより、波長選択性を向上することができる。
【0069】
3)本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2における初期状態のギャップ長さDai,Dbiが、下記式を満たすように構成されている。なお、αはファブリペローフィルタFP1を透過する干渉光の次数(正の整数)、βはファブリペローフィルタFP2を透過する干渉光の次数(正の整数)である。
(数2)β×Dbi≦α×Dai≦3/2×β×(Dbi+1/3×Dai)
このように初期状態のギャップ長さDai,Dbiが数式2の関係を満たすと、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2の透過スペクトルの変調帯域を、図9に示すように隙間無く連続させることができる。このため、連続する1つの帯域として、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。以下にその理由を詳細に説明する。
【0070】
数式1で示した関係及びプルイン限界から、ファブリペローフィルタFP1における透過スペクトルの変調帯域λ1は、下記式の通りである。
(数3)2/3×2/β×Dai≦λ1≦2/β×Dai
同様に、ファブリペローフィルタFP2における透過スペクトルの変調帯域λ2は、下記式の通りである。
(数4)2/α×Dbi≦λ2≦2/α×(Dbi+1/3×Dai)
ここで、透過スペクトルの変調帯域λ1、λ2が1つの帯域として隙間無く繋がるためには、数式3,4から、透過スペクトルの変調帯域λ2の下限が透過スペクトルの変調帯域λ1の上限以下となり、且つ、透過スペクトルの変調帯域λ2の上限が透過スペクトルの変調帯域λ1の下限以上となれば良い。すなわち、下記式の関係を両立すれば良い。
(数5)2/α×Dbi≦2/β×Dai
(数6)2/3×2/β×Dai≦2/α×(Dbi+1/3×Dai)
そして、数式5,6をまとめると、数式2に示す関係となる。なお、図9では、ファブリペローフィルタFP1の透過スペクトルの変調帯域の上限と、ファブリペローフィルタFP2の透過スペクトルの変調帯域の下限が一致する例を示した。しかしながら、ファブリペローフィルタFP2の透過スペクトルの変調帯域の下限が、ファブリペローフィルタFP1の透過スペクトルの変調帯域の上限と下限の間に位置する、すなわち変調帯域の一部が重複する、ようにしても良い。
【0071】
4)より好ましくは、ギャップ長さDai,Dbiが、Dai>Dbiを満たすと良い。これによれば、電極を有さないファブリペローフィルタFP2のギャップ長さDbの変化量を、同じ初期長さDbiを有し、電極を有するファブリペローフィルタFP2を初期状態からプルイン限界まで変位させる場合よりも大きくとることができる。このため、ファブリペローフィルタFP2において透過スペクトルの変調帯域を広くすることができ、ひいては波長選択フィルタ10全体で、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。
【0072】
なお、図10は、図3に示す波長選択フィルタ10に、上記1)〜4)に示す条件を適用した構成についての透過スペクトルを示す図であり、a)初期状態、b)プルイン限界まで可動ミラー構造体50を変位させた状態を示す。なお、電極を有するファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1を3μm、初期状態のギャップ長さDaiを6μm、電極を有さないファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2を6μm、初期状態のギャップ長さDbiを2μmとした。このため、プルイン限界の状態で、ファブリペローフィルタFP1のギャップ長さDap、ファブリペローフィルタFP2のギャップ長さDbpはともに4μmである。また、ファブリペローフィルタFP1の分光帯域は2.4μm〜4.6μm、ファブリペローフィルタFP2の分光帯域は4.8μm〜9.1μmとなっている。
【0073】
図10(a)に示す初期状態において、4μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1の3次干渉光(m=3)とファブリペローフィルタFP2の1次干渉光(m=1)が重なって現れたものである。また、3μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1の4次干渉光(m=4)、2.4μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1の5次干渉光(m=5)である。なお、ファブリペローフィルタFP1の2次干渉光(m=2)は、ファブリペローフィルタFP2の分光帯域内に位置し、波長選択フィルタ10として透過が抑制されている。
【0074】
一方、図10(b)に示すプルイン限界において、7.3μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1,FP2の1次干渉光(m=1)が重なって現れたものである。また、4μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1,FP2の2次干渉光(m=2)が重なって現れたものである。また、2.7μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1,FP2の3次干渉光(m=3)が重なって現れたものである。
【0075】
このように、ファブリペローフィルタFP1の3次干渉光(m=3)とファブリペローフィルタFP2の1次干渉光(m=1)は、初期状態でともに4μm付近に位置する。また、ファブリペローフィルタFP1の3次干渉光(m=3)は、プルイン限界において2.7μm付近に位置する。すなわち、電圧の印加により短波長側にシフトする。一方、ファブリペローフィルタFP2の1次干渉光(m=1)は、プルイン限界において7.3μm付近に位置する。すなわち、電圧の印加により長波長側にシフトする。したがって、各ファブリペローフィルタFP1,FP2の透過スペクトルの変調帯域を、1つの帯域として繋げる(連続させる)ことができる。また、透過スペクトルの変調帯域を2.4μm以上7.3μm以下とすることができる。
【0076】
(変形例)
本実施形態では、電極を有するファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1が電極を有さないファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2よりも短い(λ1<λ2)例を示した。しかしながら、電極を有するファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1が電極を有さないファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2よりも長い(λ1>λ2)構成としても良い。例えば、電極を有するファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1を6μm、初期状態のギャップ長さDaiを4μm、電極を有さないファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2を3μm、初期状態のギャップ長さDbiを1μmとする。プルイン限界の状態で、ファブリペローフィルタFP1のギャップ長さDapは2.7μm、ファブリペローフィルタFP2のギャップ長さDbpは2.3μmとなる。また、ファブリペローフィルタFP1の分光帯域は4.6μm〜9.6μm、ファブリペローフィルタFP2の分光帯域は2.4μm〜4.8μmとなっている。
【0077】
図11は波長選択フィルタ10の透過スペクトルを示す図であり、(a)初期状態、(b)プルイン限界まで可動ミラー構造体50を変位させた状態を示す。図11(a)に示す初期状態において、7.3μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1,FP2の1次干渉光(m=1)である。また、2.4μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1の3次干渉光(m=3)である。一方、図11(b)に示すプルイン限界において、4.7μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1,FP2の1次干渉光(m=1)が重なって現れたものである。また、2.8μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1の2次干渉光(m=2)である。
【0078】
このように、ファブリペローフィルタFP1,FP2の1次干渉光(m=1)は、プルイン限界でともに4。7μm付近に位置する。また、ファブリペローフィルタFP1の1次干渉光(m=1)は、初期状態で7.3μm付近に位置する。すなわち、電圧の印加により短波長側にシフトする。一方、ファブリペローフィルタFP2の1次干渉光(m=1)は、初期状態では2μm付近(図11(a)では分光帯域外のため図示略)に位置する。すなわち、電圧の印加により長波長側にシフトする。
【0079】
したがって、各ファブリペローフィルタFP1,FP2の透過スペクトルの変調帯域を、1つの帯域として繋げる(連続させる)ことができる。また、図10(a),(b)に示す構成同様、透過スペクトルの変調帯域を2.4μm以上7.3μm以下とすることができる。また、図10(a),(b)に示す中心波長の大小関係(λ1<λ2)に較べて、同じ透過スペクトルの変調帯域としながらギャップ長さDa,Dbを短くすることができる。すなわち、波長選択フィルタ10の長さ方向の体格を小型化することもできる。
【0080】
本実施形態では、1つの基板20上にファブリペローフィルタFP1,FP2が形成される例を示した。しかしながら、例えば図12に示すように、基板20の一面上に形成してなるファブリペローフィルタFP1と、基板100の一面上に形成してなるファブリペローフィルタFP2とを、可動ミラー構造体50,70側において、接続層60により接続することで、波長選択フィルタ10としても良い。この場合、犠牲層エッチングによるエアギャップAG1,AG2の形成を一括でなく、別々に行うことができる。したがって、エッチング時間を削減することができる。なお、図12に示す符号101は、基板100と固定ミラー構造体90とを電気的に分離する絶縁膜である。
【0081】
本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のうち、ファブリペローフィルタFP1が電極を有する例を示した。しかしながら、ファブリペローフィルタFP2が電極を有する構成としても良い。
【0082】
本実施形態では、接続層60として、高屈折率層52,71よりも低屈折率の材料からなる1層構造の例を示した。しかしながら、接続層60として多層構造を採用することもできる。多層構造の場合も、可動ミラー構造体50,70とともに、高屈折率の層と低屈折率の層の交互配置の周期を維持するように構成することが好ましい。
【0083】
(第2実施形態)
本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2が、図示しない一対の電極をそれぞれ有する点を主たる特徴とする。
【0084】
図13に例示するように、ファブリペローフィルタFP1は、ファブリペローフィルタFP2に対して遠い側に可動ミラー構造体50、ファブリペローフィルタFP2に対して近い側に固定ミラー構造体30を有する。そして、各ミラー構造体30,50が有する電極間へ電圧を印加すると、ギャップ長さDaが、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりも短くなるようになっている。
【0085】
一方、ファブリペローフィルタFP2は、ファブリペローフィルタFP1に対して遠い側に可動ミラー構造体70、ファブリペローフィルタFP1に対して近い側に固定ミラー構造体90を有する。そして、各ミラー構造体70,90が有する電極間へ電圧を印加すると、ギャップ長さDbが、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDbiよりも短くなるようになっている。
【0086】
なお、図13に示す例では、基板20の一面上に絶縁膜21を介してファブリペローフィルタFP1が構成されており、基板100の一面上に絶縁膜101を介してファブリペローフィルタFP2が構成されている。この基板20,100が特許請求の範囲に記載の第1基板及び第2基板に相当する。そして、基板20,100が、それぞれファブリペローフィルタFP1,FP2の搭載面と反対の面にて、接続層60を介して接続されている。
【0087】
このように、本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2を固定ミラー構造体30,90側で接続するので、可動ミラー構造体50,70側で接続する構成に較べて波長選択フィルタ10を形成しやすい。特に本実施形態では、基板20,100上にそれぞれファブリペローフィルタFP1.FP2を形成しておき、その後、基板20,100同士を貼り合わせることで、波長選択フィルタ10とすることができる。したがって、製造工程をより簡素化することができる。
【0088】
また、本実施形態では、第1実施形態同様、高屈折率層31,32,51,52,71,72,91,92としてポリシリコン、低屈折率層33,53,73,93として二酸化シリコンを採用する。また、基板20,100としてシリコン基板、絶縁膜21,101として二酸化シリコン膜を採用し、接続層60として、シリコンからなる基板20,100を貼り合わせるべく二酸化シリコンを採用する。したがって、ファブリペローフィルタFP1,FP2の間に位置する介在部材としての絶縁膜21,101、基板20,100、及び接続層60が、隣り合うファブリペローフィルタFP1,FP2の互いに近い側のミラー(本実施形態では、固定ミラー構造体30,90)とともに、高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に位置する周期性をなすように構成されている。このため、周期性がない場合に較べて、選択的に透過される光の透過率を高めることができる。
【0089】
次に、上記した波長選択フィルタ10のより好ましい形態について説明する。
【0090】
本実施形態においても、ファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2が、ファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1よりも長波長となっており、第1実施形態で示した1)λ2≧1.4λ1、2)λ2≦2.3λ1を満たしている。このため、第1実施形態に示した効果と同等の効果を奏することができる。
【0091】
また、本実施形態では、5)2つのファブリペローフィルタFP1,FP2における初期状態のギャップ長さDai,Dbiが、下記式を満たすように構成されている。なお、αはファブリペローフィルタFP1を透過する干渉光の次数(正の整数)、βはファブリペローフィルタFP2を透過する干渉光の次数(正の整数)である。
(数7)β×Dbi×2/3≦α×Dai≦β×Dbi×3/2
このように初期状態のギャップ長さDai,Dbiが数式7の関係を満たすと、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2の透過スペクトルの変調帯域を、第1実施形態に示した図9に示すように隙間無く連続させることができる。このため、連続する1つの帯域として、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。以下にその理由を詳細に説明する。
【0092】
数式1で示した関係及びプルイン限界から、ファブリペローフィルタFP1における透過スペクトルの変調帯域λ1は、上記数式3で示す通りである。
【0093】
一方、本実施形態のファブリペローフィルタFP2における透過スペクトルの変調帯域λ2は、下記式の通りである。
(数8)2/3×2/α×Dbi≦λ2≦2/α×Dbi
ここで、透過スペクトルの変調帯域λ1、λ2が1つの帯域として隙間無く繋がるためには、数式3,8から、透過スペクトルの変調帯域λ2の下限が透過スペクトルの変調帯域λ1の上限以下となり、且つ、透過スペクトルの変調帯域λ2の上限が透過スペクトルの変調帯域λ1の下限以上となれば良い。すなわち、下記式の関係を両立すれば良い。
(数9)2/3×2/α×Dbi≦2/β×Dai
(数10)2/3×2/β×Dai≦2/α×Dbi
そして、数式9,10をまとめると、数式7に示す関係となる。
【0094】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0095】
本実施形態では、基板20,100として、一面上に絶縁膜21,101を備えた半導体基板の例を示した。しかしながら、基板20,100としては上記例に限定されるものではなく、ガラスなどの絶縁基板を採用することも可能である。その場合、絶縁膜21,101を不要とすることができる。
【0096】
本実施形態では、波長選択フィルタ10が2つのファブリペローフィルタFP1,FP2を有する例を示した。しかしながら、ファブリペローフィルタの個数は2つに限定されるものではない。可変型のファブリペローフィルタを3つ以上の有しても良い。この場合も、各ファブリペローフィルタにおいて、対をなすミラーの中心波長が互いに等しくされ、各ファブリペローフィルタは、ミラーの中心波長が互いに異なるとともに、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有せばよい。
【符号の説明】
【0097】
10・・・波長選択フィルタ
20,100・・・基板
30,90・・・固定ミラー構造体(固定ミラー)
50,70・・・可動ミラー構造体(可動ミラー)
40,80・・・支持部材
AG,AG1,AG2・・・エアギャップ(ギャップ)
FP,FP1,FP2・・・ファブリペローフィルタ
MEM・・・メンブレン
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変型のファブリペローフィルタを複数積層してなり、透過光波長の選択性を有する波長選択フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透過光波長の選択性を有する波長選択フィルタとして、特許文献1に示されるように、複数のファブリペローフィルタがギャップ長さの変化方向を同じとして互いに積層されてなるものが知られている。
【0003】
特許文献1では、3枚のミラーが対向配置され、中央のミラーが変位しない固定ミラー、両端のミラーがそれぞれ変位する可動ミラーとなっている。また、2つのファブリペローフィルタのギャップ長さが、それぞれ異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−31326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年、部品点数削減などの観点から、より広い波長域において光を選択的に透過できる波長選択フィルタが望まれている。すなわち、透過スペクトルの変調帯域が広い波長選択フィルタが望まれている。
【0006】
特許文献1では、2つのファブリペローフィルタのギャップ長さの比率を、変位前の初期状態の比率のまま保つように、それぞれの可動ミラーの変位が制御される。例えば初期状態のギャップ長さを、第1ファブリペローフィルタで3μm、第2ファブリペローフィルタで6μmの比率1:2とする。初期状態では、第1ファブリペローフィルタの1次干渉光(6μm)と、第2ファブリペローフィルタの2次干渉光(6μm)が一致する。また、ギャップ長さの比率を保つように各可動ミラーを変位させ、第1ファブリペローフィルタのギャップを2μm、第2ファブリペローフィルタのギャップを4μmとした場合、第1ファブリペローフィルタの1次干渉光(4μm)と、第2ファブリペローフィルタの2次干渉光(4μm)が一致する。
【0007】
このように、波長が一致する干渉光は、波長選択フィルタを透過する。一方、波長が一致しない干渉光は、該干渉光の波長において他方のファブリペローフィルタの透過率が低い(ミラーの反射率が高い)ため、波長選択フィルタを透過しない。これにより透過スペクトルの半値幅(FWHM)を狭くすることができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1では、ギャップ長さの比率を保つように各可動ミラーを変位させ、透過スペクトルを一致させるために、2つのファブリペローフィルタのミラーの構成(反射特性)を同じとしなければならない。具体的には、各フィルタを構成するミラーの中心波長及び反射帯域を同じとしなければならない。このように、2つのファブリペローフィルタのミラーの反射帯域が同じであり、上記のごとく波長が一致する干渉光のみを透過させるため、特許文献1に記載の波長選択フィルタにおける透過スペクトルの変調帯域は、1つのファブリペローフィルタを備える波長選択フィルタと同等以下となる。
【0009】
なお、ミラーの構成が同一のファブリペローフィルタを複数積層しても、各ファブリペローフィルタのミラーの反射帯域が同じであるため、透過スペクトルの変調帯域は、1つのファブリペローフィルタと殆ど変わらない。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑み、従来よりも透過スペクトルの変調帯域が広い波長選択フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する為に請求項1に記載の発明は、高屈折率層間に該高屈折率層を構成する材料よりも低屈折率の材料からなる低屈折率層が介在されてなるミラーがギャップを介して対向配置され、一対のミラー間のギャップ長さを変化させることのできる可変型のファブリペローフィルタを複数備え、複数のファブリペローフィルタが、ギャップ長さの変化方向を同じとして互いに積層されてなる波長選択フィルタであって、
各ファブリペローフィルタにおいて、対をなすミラーの中心波長が互いに等しくされ、
複数のファブリペローフィルタは、ミラーの中心波長が互いに異なるとともに、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有することを特徴とする。
【0012】
ここで、光学多層膜構造のミラーを構成する各層の光学膜厚は、中心波長の1/4倍の厚さとされる。換言すれば、中心波長は、各層の光学膜厚によって決定される。この中心波長により、ミラーの反射帯域の中心位置が決定される。また、反射帯域は、中心波長を中心とし、その幅が低屈折率層に対する高屈折率層の屈折率比に基づいて決定される。このため、屈折率比が大きいほど、反射帯域の幅が広くなる。
【0013】
また、ミラーは、反射帯域の波長の光に対して反射作用(高い反射率)を示し、反射帯域外の波長の光に対しては反射率が低く、反射作用を示さない。このミラーを用いて構成されたファブリペローフィルタでは、光を選択的に透過できる分光帯域がミラーの反射帯域に対応し、分光帯域外の領域がミラーの反射帯域外の領域に対応している。このため、分光帯域外の領域(ミラーの反射帯域外の領域)では、波長選択性は無いものの、光を透過する。
【0014】
本発明は、このミラーの反射帯域外の領域に着目し、各ファブリペローフィルタを構成するミラーの中心波長を互いに異ならせ、且つ、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有するように設定した。すなわち、ミラーの反射帯域、すなわちファブリペローフィルタの分光帯域を、各ファブリペローフィルタで意図的にずらした。このため、各ファブリペローフィルタのミラーの反射帯域が同じとされた従来の構成に較べて、波長選択フィルタ全体として分光帯域(ミラーの反射帯域)を広くすることができる。そして、任意のファブリペローフィルタにて分光された透過スペクトルを、他のファブリペローフィルタの反射帯域外(分光帯域外)の領域で透過させることができる。したがって、従来よりも透過スペクトルの変調帯域を広くすることができる。
【0015】
なお、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有する構成としては、ミラーの反射帯域の一部が、他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複し、残りの部分が重複しない構成、又は、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と全く重複しない構成(反射帯域の下限が、他のファブリペローフィルタの反射帯域の上限と接する状態も含む)がある。
【0016】
請求項2に記載のように、複数のファブリペローフィルタとして、2つのファブリペローフィルタを有し、
各ファブリペローフィルタを構成するミラーが、シリコンからなる高屈折率層間に、該高屈折率層を構成する材料よりも低屈折率の二酸化シリコンからなる低屈折率層が介在されてなり、
一方のファブリペローフィルタのミラーの中心波長をλ1、他方のファブリペローフィルタのミラーの中心波長をλ2とし、λ2≧1.4λ1を満たす構成とすることが好ましい。
【0017】
上記した光学多層膜構造のミラーを採用する場合、λ2<1.4λ1とすると、中心波長同士が近づくためミラーの反射帯域の重複する領域が広くなり、任意のファブリペローフィルタにて分光された透過スペクトルが、他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域(分光帯域)内に位置しやすくなる。分光帯域内においては、ギャップ長さに応じた透過スペクトルの波長のみ透過率が高く、それ以外の波長では反射率が高いため、任意のファブリペローフィルタで分光された透過スペクトルが、他のファブリペローフィルタを透過しがたくなる。
【0018】
これに対し、λ2≧1.4λ1とすると、反射帯域の重複する領域の幅が狭くなる、又は、反射帯域が重複する領域を有さないので、任意のファブリペローフィルタにて分光された透過スペクトルが、他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域外の領域に位置しやすくなる。このため、λ2<1.4λ1に較べて、分光された透過スペクトルの透過率を高めることができる。すなわち、透過スペクトルの変調帯域を広くすることができる。
【0019】
さらに、請求項3に記載のように、中心波長λ1,λ2がλ2≦2.3λ1を満たすことが好ましい。
【0020】
λ2>2.3λ1の場合、2つのファブリペローフィルタにおいて反射帯域が重複する領域を有さず、さらにλ2が2.3λ1程度の場合、隣接する2つの反射帯域において、一方の反射帯域の上限と他方の反射帯域の下限が近く、これら上限と下限との間の波長の光が、あたかも波長選択フィルタから選択的に透過されたかのようにピークを示す。このサブピークは所謂ノイズである。
【0021】
これに対し、λ2≦2.3λ1とすると、ノイズの透過率を5%以下(透過スペクトルの透過率の10%以下)とし、これにより波長選択性を向上することができる。
【0022】
具体的には、請求項4に記載のように、2つのファブリペローフィルタとして、第1ファブリペローフィルタと第2ファブリペローフィルタを有し、
第1ファブリペローフィルタのみに、静電気力を生じさせるべくミラーに対応して一対の電極が設けられ、
第1ファブリペローフィルタは、第2ファブリペローフィルタに近い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、第2ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、一対の電極間への電圧を印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりもギャップ長さが短くなり、
第2ファブリペローフィルタは、第1ファブリペローフィルタに近い側のミラーが可動ミラーと一体的に変位するミラー、第1ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが変位しないミラーとされて、一対の電極間への電圧の印加により、初期状態のギャップ長さDbiよりもギャップ長さが長くなる構成を採用すると良い。
【0023】
本発明では、2つのファブリペローフィルタのうちの一方に設けた電極によって、2つのファブリペローフィルタのギャップ長さをともに変化させることができる。このように電極は一方のみで良いので、波長選択フィルタの構成を簡素化することができる。
【0024】
この場合、請求項5に記載のように、第1ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をβ(正の整数)、第2ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をα(正の整数)とすると、ギャップ長さDai,Dbiが、
β×Dbi≦α×Dai≦3/2×β×(Dbi+1/3×Dai)
を満たすことが好ましい。
【0025】
このように初期状態のギャップ長さDai,Dbiが上記関係を満たすと、2つのファブリペローフィルタの透過スペクトルの変調帯域を隙間無く連続させることができる。このため、連続する1つの帯域として、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。
【0026】
さらには、請求項6に記載のように、ギャップ長さDai,Dbiが、Dai>Dbiを満たすことが好ましい。
【0027】
これによれば、電極を有さない第2ファブリペローフィルタのギャップ長さの変化量を、自身に電極を設けてギャップ長さを変化させるときのギャップ長さの変化量よりも大きくとることができる。これにより、第2ファブリペローフィルタにおける透過スペクトルの変調帯域を広くし、ひいては波長選択フィルタ全体で、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。
【0028】
一方、請求項7に記載のように、2つのファブリペローフィルタとして、第1ファブリペローフィルタと第2ファブリペローフィルタを有し、
各ファブリペローフィルタに、静電気力を生じさせるべくそれぞれのミラーに対応して一対の電極が設けられ、
第1ファブリペローフィルタは、第2ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、第2ファブリペローフィルタに近い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、該第1ファブリペローフィルタが有する電極間への電圧の印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりもギャップ長さが短くなり、
第2ファブリペローフィルタは、第1ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、第1ファブリペローフィルタに近い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、該第2ファブリペローフィルタが有する電極間への電圧の印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDbiよりもギャップ長さが短くなる構成としても良い。
【0029】
本発明では、2つのファブリペローフィルタを固定ミラー側で接続するので、請求項4に記載のように可動ミラー側で接続する構成に較べて波長選択フィルタを形成しやすい。
【0030】
この場合、請求項8に記載のように、第1ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をβ(正の整数)、第2ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をα(正の整数)とすると、
ギャップ長さDai,Dbiが、
β×Dbi×2/3≦α×Dai≦β×Dbi×3/2
を満たすことが好ましい。
【0031】
このように初期状態のギャップ長さDai,Dbiが上記関係を満たすと、2つのファブリペローフィルタの透過スペクトルの変調帯域を隙間無く連続させることができる。このため、連続する1つの帯域として、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。
【0032】
なお、請求項9に記載のように、第1基板の一面上に、固定電極側を載置面として第1ファブリペローフィルタが積層され、
第2基板の一面上に、固定電極側を載置面として前記第2ファブリペローフィルタが積層され、
第1基板と第2基板とが、対応するファブリペローフィルタの載置面と反対の面同士で貼り合わせられた構成とすると、製造工程を簡素化することができる。
【0033】
請求項10に記載のように、隣り合うファブリペローフィルタの間に位置する介在部材が、隣り合うファブリペローフィルタの互いに近い側のミラーとともに、高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に位置する周期性をなすように構成されると良い。
【0034】
これによれば、周期性がない場合に較べて、選択的に透過される光の透過率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】可変型のファブリペローフィルタの概略構成を示す断面図である。
【図2】(a)は、図1に示すファブリペローフィルタを構成するミラーの反射帯域を示す図、(b)は、ファブリペローフィルタの分光帯域を示す図である。
【図3】第1実施形態に係る波長選択フィルタの概略構成を示す断面図である。
【図4】各ファブリペローフィルタ及び波長選択フィルタの分光帯域の位置関係を示す図である。
【図5】重複領域を示す図である。
【図6】ミラーを構成する各層の膜厚比と、メインピークの透過率との関係を示す図である。
【図7】サブピークS3を示す図である。
【図8】ミラーを構成する各層の膜厚比と、サブピークS3の透過率との関係を示す図である。
【図9】各ファブリペローフィルタの変調帯域の位置関係を示す図である。
【図10】図3に示す波長選択フィルタにおいて、(a)は初期状態の透過スペクトル、(b)はプルイン限界での透過スペクトルを示す図である。
【図11】変形例において、(a)は初期状態の透過スペクトル、(b)はプルイン限界での透過スペクトルを示す図である。
【図12】変形例の概略構成を示す断面図である。
【図13】第2実施形態に係る波長選択フィルタの概略構成を示す断面図である。
【図14】図13に示す波長選択フィルタにおいて、(a)は初期状態の透過スペクトル、(b)はプルイン限界での透過スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下において、共通乃至関連する要素には同一の符号を付与するものとする。また、ファブリペローフィルタを構成する一対のミラー間のギャップがエアギャップ(空隙)である例を示す。また、エアギャップの長さ方向、換言すればメンブレンMEMの変位方向を単に長さ方向と示し、該長さ方向に垂直な方向を単に垂直方向と示す。
【0037】
本発明の実施の形態を説明する前に、先ず可変型のファブリペローフィルタFPの基本構成について説明する。
【0038】
図1に示すファブリペローフィルタFPは、例えばシリコンからなる基板20の一面上に配置され、固定ミラーを有する固定ミラー構造体30と、支持部材40を介して固定ミラー構造体30上に配置され、可動ミラーを有する可動ミラー構造体50と、を備える。可動ミラー構造体50のエアギャップAGを架橋する部分は変位可能なメンブレンMEMとなっており、図1に示す例では、可動ミラー構造体50のメンブレンMEM及び固定ミラー構造体30のメンブレンMEMに対応する部分の少なくとも一部が、対向配置された一対のミラーとして機能する。なお、図1に示す例では、ファブリペローフィルタFPが支持部材40を有するが、可動ミラー構造体50のメンブレンMEMの周辺部分が、支持部材40の機能を兼ねる構成を採用することもできる。
【0039】
また、固定ミラー構造体30及び可動ミラー構造体50には、図示しない電極がそれぞれ形成されている。そして、電極間に電圧を印加し、電極間に静電気力が生じると、これによりメンブレンMEMが変位し、エアギャップAGの長さが変化するようになっている。このメンブレンMEMの変位により、エアギャップAGを介して対向配置された各ミラーの距離Dが変化する。このようにしてファブリペローフィルタFPは、ミラー対向距離Dに応じた所望波長の光を選択的に透過させることができる。
【0040】
なお、図1に示す符号21は、基板20と固定ミラー構造体30を電気的に分離する絶縁膜である。符号31,32は、例えばシリコンからなる半導体薄膜を用いた高屈折率層、符号33は、高屈折率層31,32よりも低屈折率の材料、例えば二酸化シリコンからなり、高屈折率層31,32間に介在された低屈折率層である。また、符号51,52は、例えばシリコンからなる半導体薄膜を用いた高屈折率層、符号53は、高屈折率層51,52よりも低屈折率の材料、例えば二酸化シリコンからなり、高屈折率層51,52間に介在された低屈折率層である。このように、固定ミラー及び可動ミラーは光学多層膜構造を有している。
【0041】
そして、各ミラーを構成する層31〜33,51〜53の光学膜厚は、中心波長λcの1/4となっており、固定ミラーと可動ミラーとで、中心波長λcが互いに等しくなっている。このように、中心波長λcは、各層31〜33、51〜53の光学膜厚によって決定される。この中心波長λcは、図2(a)に示すようにミラーの反射帯域の中心位置をなす。また、反射帯域は、中心波長λcを中心とし、その幅が低屈折率層33(53)に対する高屈折率層31,32(51,52)の屈折率比で決定される。なお、同じ屈折率比でも、中心波長λcが長波長であるほど幅は広くなる。
【0042】
図2(a)に示すように、固定ミラー及び可動ミラーは、反射帯域の波長の光に対して反射作用(高い反射率)を示し、反射帯域外の波長の光に対しては反射率が低く、反射作用を示さない。このミラーを対向配置してなるファブリペローフィルタFPでは、図2(b)に示すように光を選択的に透過できる分光帯域がミラーの反射帯域に対応しており、分光帯域外の領域がミラーの反射帯域外の領域に対応している。したがって、分光帯域外の領域(ミラーの反射帯域外の領域)では、波長選択性は無いものの、光を透過する。
【0043】
ここで、ファブリペローフィルタFPを選択的に透過する透過スペクトル(干渉光)の波長λは次式で示される。Dは、ミラー間の対向距離であり、mは干渉光の次数を示す正の整数である。
(数1)λ=2×D/m
実際は、様々な次数の干渉光のうち、上記した分光帯域にピークを有するものが、ファブリペローフィルタFPを選択的に透過する。また、対向距離Dは、メンブレンMEMの変位にともなって変化する。したがって、メンブレンMEMの変位にともなって対向距離Dが取り得る範囲において、上記した分光帯域にピークを有する干渉光が、ファブリペローフィルタFPを通じて選択的に透過される。したがって、対向距離Dの取り得る範囲において、光が選択的に透過される波長域が、図2(b)に例示するように、透過スペクトルの変調帯域となる。
【0044】
なお、上記構成では、電圧が印加されない初期状態のミラーの対向距離をDiとし、電極の対向距離もDiとすると、DiからDi×2/3までの範囲がミラーの対向距離Dの取り得る範囲である。このように、ミラーの対向距離Dは、所謂プルイン現象が生じない限界点(プルイン限界)によって定まる。
【0045】
このように、透過スペクトルの変調帯域は、中心波長λcを中心とするミラーの反射帯域内(分光帯域内)に制限される。したがって、1つのファブリペローフィルタFPでは、透過スペクトルの変調帯域を広くすることに限界がある。また、ミラーの構成(材料構成及び光学膜厚)が同一のファブリペローフィルタFPを複数積層しても、各ファブリペローフィルタFPのミラーの中心波長λc及び反射帯域が同じであるので、透過スペクトルの変調帯域は、1つのファブリペローフィルタFPと殆ど変わらない。
【0046】
そこで、本発明者は、透過スペクトルの変調帯域を広くすべく、鋭意検討を行った。以下に示す実施形態は、上記検討により得られた知見に基づくものである。
【0047】
(第1実施形態)
図3に示すように、本実施形態に係る波長選択フィルタ10は、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2を有している。2つのファブリペローフィルタFP1,FP2は、それぞれのエアギャップAG1,AG2の変化方向を同じくして積層されている。
【0048】
ファブリペローフィルタFP1は、図1に示したファブリペローフィルタFPと同じ構成を有している。すなわち、ファブリペローフィルタFP1は、光学多層膜構造の固定ミラーを有する固定ミラー構造体30、支持部材40、光学多層膜構造の可動ミラーを有する可動ミラー構造体50を備える。また、各ミラー構造体30,50にはそれぞれ電極が設けられており、電極間に電圧を印加することで、エアギャップAG1の長さDaが変化するようになっている。具体的には、エアギャップAG1の長さDaが、電圧の印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりも短くなる。このファブリペローフィルタFP1が、特許請求の範囲に記載の第1ファブリペローフィルタに相当する。
【0049】
本実施形態では、シリコンからなる基板20の一面上に、二酸化シリコンからなる絶縁膜21を介して固定ミラー構造体30が配置されている。固定ミラー構造体30及び可動ミラー構造体50を構成する高屈折率層31,32,51,52は、ポリシリコンからなり、低屈折率層33,53は、二酸化シリコンからなる。また、支持部材40も、低屈折率層33,53同様、二酸化シリコンからなる。
【0050】
また、ファブリペローフィルタFP1の固定ミラー及び可動ミラーを構成する各層31〜33,51〜53の光学膜厚は、中心波長λ1の1/4倍の厚さとされている。
【0051】
一方、ファブリペローフィルタFP2は、ファブリペローフィルタFP1の可動ミラー構造体50上に積層配置されている。すなわち、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のうち、基板20に対して遠くに位置する。ファブリペローフィルタFP2も図1に示したファブリペローフィルタFPとほぼ同じ構成を有している。すなわち、ファブリペローフィルタFP2は、光学多層膜構造の可動ミラーを有する可動ミラー構造体70、支持部材80、光学多層膜構造の固定ミラーを有する固定ミラー構造体90を備える。具体的には、ファブリペローフィルタFP1の可動ミラー構造体50上に、接続層60を介して可動ミラー構造体70が積層配置されている。そして、可動ミラー構造体70上には、支持部材80を介して固定ミラー構造体90が配置されている。
【0052】
このように、可動ミラー構造体50,70同士が一体的に構成されている。また、可動ミラー構造体70と固定ミラー構造体90の間に構成されるエアギャップAG2は、垂直方向において、エアギャップAG1に対応して設けられている。したがって、ファブリペローフィルタFP2は電極を有さないものの、可動ミラー構造体70のメンブレンMEMに対応する部分が、第1ファブリペローフィルタFPのメンブレンMEMと一体的に変位することができる。この変位により、エアギャップAG2の長さDbは、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDbiよりも長くなる。このファブリペローフィルタFP2が、特許請求の範囲に記載の第2ファブリペローフィルタに相当する。
【0053】
本実施形態では、可動ミラー構造体70及び固定ミラー構造体90を構成する高屈折率層71,72,91,92がポリシリコンからなり、低屈折率層73,93が二酸化シリコンからなる。支持部材80も、低屈折率層73,93同様、二酸化シリコンからなる。また、接続層60として、高屈折率層51を構成するシリコンよりも屈折率の低い二酸化シリコンを採用している。このように、二酸化シリコンからなる接続層60を採用することで、長さ方向において、高屈折率層51、低屈折率層53、高屈折率層52、接続層60、高屈折率層71、低屈折率層73、高屈折率層72の順で、高屈折率層と低屈折率層とが交互となっている。
【0054】
また、ファブリペローフィルタFP2の固定ミラー及び可動ミラーを構成する各層71〜73,91〜93の光学膜厚は、上記した中心波長λ1とは異なる中心波長λ2の1/4倍の厚さとされている。このように、ファブリペローフィルタFP2の固定ミラー及び可動ミラーを構成する各層71〜73,91〜93の光学膜厚は、ファブリペローフィルタFP1の固定ミラー及び可動ミラーを構成する各層31〜33,51〜53の光学膜厚と異なっている。本実施形態では、図4に示すように、中心波長λ2が中心波長λ1よりも長波長となっている。このため、高屈折率層31,32,51,52と高屈折率層71,72,91,92の構成材料が同じで、と低屈折率層33,53と低屈折率層73,93の構成材料が同じでありながら、ファブリペローフィルタFP2の反射帯域(分光帯域)のほうが広くなっている。
【0055】
また、ファブリペローフィルタFP2のミラーの反射帯域と、ファブリペローフィルタFP1のミラーの反射帯域とが、互いに重複しない領域をそれぞれ有するように設定されている。図4に示す例では、ファブリペローフィルタFP1,FP2が、反射帯域の重複する重複領域を有さない、換言すれば、反射帯域の全てが互いに重複しない領域となっている。
【0056】
このように本実施形態では、図4に示すように、各ファブリペローフィルタFP1,FP2を構成するミラーの中心波長λ1,λ2が互いに異なり、且つ、ファブリペローフィルタFP2のミラーの反射帯域とファブリペローフィルタFP1のミラーの反射帯域とが、互いに重複しない領域をそれぞれ有する。すなわち、ミラーの反射帯域、すなわちファブリペローフィルタFP1,FP2の分光帯域が、各ファブリペローフィルタFP1,FP2でずれている。このため、各ファブリペローフィルタFP1,FP2のミラーの反射帯域が同じとされた従来の構成に較べて、波長選択フィルタ全体として分光帯域(ミラーの反射帯域)を広くすることができる。そして、任意のファブリペローフィルタにて分光された透過スペクトルを、他のファブリペローフィルタの反射帯域外(分光帯域外)の領域で透過させることができる。したがって、従来よりも透過スペクトルの変調帯域を広くすることができる。
【0057】
なお、図4では、ファブリペローフィルタFP1,FP2が、反射帯域の重複する重複領域を有さない例を示した。しかしながら、ファブリペローフィルタFP1,FP2がそれぞれ重複領域を有する構成としても良い。この場合、ファブリペローフィルタFP1,FP2が、反射帯域として互いに重複しない領域をそれぞれ有し、この重複しない領域に透過スペクトルの変調帯域の少なくとも一部が当たるように、初期状態のギャップ長さDa,Dbを設定することで、透過スペクトルの変調帯域を広くすることができる。
【0058】
また、本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のうちの一方(ファブリペローフィルタFP1)に設けた電極により、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のギャップ長さDa,Dbをともに変化させることができる。このように電極は一方のみで良いので、波長選択フィルタ10の構成を簡素化することができる。
【0059】
また、本実施形態では、ファブリペローフィルタFP1,FP2の間に位置する介在部材としての接続層60が、隣り合うファブリペローフィルタFP1,FP2の互いに近い側のミラー(本実施形態では、可動ミラー構造体50,70)とともに、高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に位置する周期性をなすように構成されている。このため、周期性がない場合に較べて、選択的に透過される光の透過率を高めることができる。
【0060】
なお、上記した波長選択フィルタ10は、光学多層膜構造の可変型ファブリペローフィルタの製造方法として周知のもの採用することで形成することができる。例えばCVDなどにより各層31〜33、後に支持部材40となる犠牲層、51〜53,60,71〜73、後に支持部材80となる犠牲層、91〜93を堆積形成する。そして、各犠牲層を一括でエッチングし、エアギャップAG1,AG2を形成するとともに、犠牲層エッチング残りの部分を支持部材40,80とすればよい。また、支持部材40,80を有さない場合は、エアギャップAG1,AG2に相当する部分のみに犠牲層を設け、犠牲層を覆うように、該犠牲層よりも上層を堆積形成し、その後、犠牲層をエッチングにより全て除去すれば良い。
【0061】
次に、上記した波長選択フィルタ10のより好ましい形態について説明する。
【0062】
1)本実施形態では、上記したように、各ファブリペローフィルタFP1,FP2を構成する固定ミラー及び可動ミラーが、シリコンからなる高屈折率層31,32,51,52,71,72,91,92の間に、低屈折率の二酸化シリコンからなる低屈折率層33,53,73,93が介在されてなる。その上で、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のうちの一方のミラーの中心波長が、他方のファブリペローフィルタのミラーの中心波長の1.4倍以上となっている。本実施形態では、上記したように、ファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2が、ファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1よりも長波長となっており、λ2≧1.4λ1となっている。
【0063】
以下にその理由を説明する。図5に示すように、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2において、ミラーの反射帯域の重複する領域(重複領域)が広いと、一方のファブリペローフィルタ(例えばファブリペローフィルタFP2)にて分光された透過スペクトルが、他方のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域(分光帯域)内に位置しやすくなる。このように他方のファブリペローフィルタの反射帯域内に位置する場合、他方のファブリペローフィルタの透過スペクトルと波長が一致すれば、波長選択フィルタ10から該波長の光が選択的に透過されるが、波長が一致しないと他方のファブリペローフィルタを透過しがたい。なお、図5では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2において、透過スペクトルの変調帯域の一部がそれぞれ重複領域に位置している。
【0064】
図6は、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2を構成する各ミラーの膜厚の比(換言すれば中心波長の比λ2/λ1)と、メインピークの透過率との関係を示す図である。なお、メインピークとは、図5中のS2に相当し、ファブリペローフィルタFP2の反射帯域から透過するスペクトルである。図6に示すように、λ2≧1.4λ1では、メインピークの透過率が80%以上となっており、λ2<1.4λ1では、メインピークの透過率が80%を大きく下回っている。これは、λ2<1.4λ1を満たし、中心波長λ1,λ2が互いに近づくことで、上記のごとくミラーの反射帯域において重複領域が広くなる。そして、図5の透過スペクトルS2のように、一方のファブリペローフィルタの変調帯域の少なくとも一部の光が、他方のファブリペローフィルタの分光帯域内に位置し、他方のファブリペローフィルタを透過しがたくなるためである。
【0065】
一方、本実施形態では、λ2≧1.4λ1となっている。これによれば、反射帯域における重複領域の幅が狭いか、又は、図4に示したように反射帯域が重複領域を有さない。したがって、一方のファブリペローフィルタにて分光された透過スペクトルを、確実に、他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域外(分光帯域外)の領域とすることができる。これにより、透過スペクトルの変調帯域を広くすることができる。
【0066】
2)本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のうちの一方のミラーの中心波長が、他方のファブリペローフィルタのミラーの中心波長の2.3倍以下となっている。本実施形態では、λ2≦2.3λ1となっている。
【0067】
λ2>2.3λ1の場合、中心波長λ1,λ2が互いに遠ざかることで、反射帯域が重複する領域を有さない。しかしながら、λ2>2.3λ1であってλ2が2.3λ1に近いと、図7に示すように、ファブリペローフィルタFP1の反射帯域(分光帯域)の上限と、ファブリペローフィルタFP2の反射帯域(分光帯域)の下限が近接し、これら上限と下限との間(図7の破線の間)の波長の光が、あたかも波長選択フィルタ10から選択的に透過されたかのようにピークS3を示す。このサブピークS3は所謂ノイズである。
【0068】
図8は、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2を構成する各ミラーの膜厚比(換言すれば中心波長の比λ2/λ1)と、サブピークS3の透過率との関係を示す図である。図8に示すように、サブピークS3の透過率は、膜厚比2.3以下において5%以下となる。本実施形態では、λ2≦2.3λ1となっているため、サブピークS3(ノイズ)の透過率を5%以下(透過スペクトルS1,S2の透過率の10%以下)とすることができる。そして、これにより、波長選択性を向上することができる。
【0069】
3)本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2における初期状態のギャップ長さDai,Dbiが、下記式を満たすように構成されている。なお、αはファブリペローフィルタFP1を透過する干渉光の次数(正の整数)、βはファブリペローフィルタFP2を透過する干渉光の次数(正の整数)である。
(数2)β×Dbi≦α×Dai≦3/2×β×(Dbi+1/3×Dai)
このように初期状態のギャップ長さDai,Dbiが数式2の関係を満たすと、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2の透過スペクトルの変調帯域を、図9に示すように隙間無く連続させることができる。このため、連続する1つの帯域として、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。以下にその理由を詳細に説明する。
【0070】
数式1で示した関係及びプルイン限界から、ファブリペローフィルタFP1における透過スペクトルの変調帯域λ1は、下記式の通りである。
(数3)2/3×2/β×Dai≦λ1≦2/β×Dai
同様に、ファブリペローフィルタFP2における透過スペクトルの変調帯域λ2は、下記式の通りである。
(数4)2/α×Dbi≦λ2≦2/α×(Dbi+1/3×Dai)
ここで、透過スペクトルの変調帯域λ1、λ2が1つの帯域として隙間無く繋がるためには、数式3,4から、透過スペクトルの変調帯域λ2の下限が透過スペクトルの変調帯域λ1の上限以下となり、且つ、透過スペクトルの変調帯域λ2の上限が透過スペクトルの変調帯域λ1の下限以上となれば良い。すなわち、下記式の関係を両立すれば良い。
(数5)2/α×Dbi≦2/β×Dai
(数6)2/3×2/β×Dai≦2/α×(Dbi+1/3×Dai)
そして、数式5,6をまとめると、数式2に示す関係となる。なお、図9では、ファブリペローフィルタFP1の透過スペクトルの変調帯域の上限と、ファブリペローフィルタFP2の透過スペクトルの変調帯域の下限が一致する例を示した。しかしながら、ファブリペローフィルタFP2の透過スペクトルの変調帯域の下限が、ファブリペローフィルタFP1の透過スペクトルの変調帯域の上限と下限の間に位置する、すなわち変調帯域の一部が重複する、ようにしても良い。
【0071】
4)より好ましくは、ギャップ長さDai,Dbiが、Dai>Dbiを満たすと良い。これによれば、電極を有さないファブリペローフィルタFP2のギャップ長さDbの変化量を、同じ初期長さDbiを有し、電極を有するファブリペローフィルタFP2を初期状態からプルイン限界まで変位させる場合よりも大きくとることができる。このため、ファブリペローフィルタFP2において透過スペクトルの変調帯域を広くすることができ、ひいては波長選択フィルタ10全体で、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。
【0072】
なお、図10は、図3に示す波長選択フィルタ10に、上記1)〜4)に示す条件を適用した構成についての透過スペクトルを示す図であり、a)初期状態、b)プルイン限界まで可動ミラー構造体50を変位させた状態を示す。なお、電極を有するファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1を3μm、初期状態のギャップ長さDaiを6μm、電極を有さないファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2を6μm、初期状態のギャップ長さDbiを2μmとした。このため、プルイン限界の状態で、ファブリペローフィルタFP1のギャップ長さDap、ファブリペローフィルタFP2のギャップ長さDbpはともに4μmである。また、ファブリペローフィルタFP1の分光帯域は2.4μm〜4.6μm、ファブリペローフィルタFP2の分光帯域は4.8μm〜9.1μmとなっている。
【0073】
図10(a)に示す初期状態において、4μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1の3次干渉光(m=3)とファブリペローフィルタFP2の1次干渉光(m=1)が重なって現れたものである。また、3μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1の4次干渉光(m=4)、2.4μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1の5次干渉光(m=5)である。なお、ファブリペローフィルタFP1の2次干渉光(m=2)は、ファブリペローフィルタFP2の分光帯域内に位置し、波長選択フィルタ10として透過が抑制されている。
【0074】
一方、図10(b)に示すプルイン限界において、7.3μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1,FP2の1次干渉光(m=1)が重なって現れたものである。また、4μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1,FP2の2次干渉光(m=2)が重なって現れたものである。また、2.7μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1,FP2の3次干渉光(m=3)が重なって現れたものである。
【0075】
このように、ファブリペローフィルタFP1の3次干渉光(m=3)とファブリペローフィルタFP2の1次干渉光(m=1)は、初期状態でともに4μm付近に位置する。また、ファブリペローフィルタFP1の3次干渉光(m=3)は、プルイン限界において2.7μm付近に位置する。すなわち、電圧の印加により短波長側にシフトする。一方、ファブリペローフィルタFP2の1次干渉光(m=1)は、プルイン限界において7.3μm付近に位置する。すなわち、電圧の印加により長波長側にシフトする。したがって、各ファブリペローフィルタFP1,FP2の透過スペクトルの変調帯域を、1つの帯域として繋げる(連続させる)ことができる。また、透過スペクトルの変調帯域を2.4μm以上7.3μm以下とすることができる。
【0076】
(変形例)
本実施形態では、電極を有するファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1が電極を有さないファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2よりも短い(λ1<λ2)例を示した。しかしながら、電極を有するファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1が電極を有さないファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2よりも長い(λ1>λ2)構成としても良い。例えば、電極を有するファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1を6μm、初期状態のギャップ長さDaiを4μm、電極を有さないファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2を3μm、初期状態のギャップ長さDbiを1μmとする。プルイン限界の状態で、ファブリペローフィルタFP1のギャップ長さDapは2.7μm、ファブリペローフィルタFP2のギャップ長さDbpは2.3μmとなる。また、ファブリペローフィルタFP1の分光帯域は4.6μm〜9.6μm、ファブリペローフィルタFP2の分光帯域は2.4μm〜4.8μmとなっている。
【0077】
図11は波長選択フィルタ10の透過スペクトルを示す図であり、(a)初期状態、(b)プルイン限界まで可動ミラー構造体50を変位させた状態を示す。図11(a)に示す初期状態において、7.3μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1,FP2の1次干渉光(m=1)である。また、2.4μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1の3次干渉光(m=3)である。一方、図11(b)に示すプルイン限界において、4.7μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1,FP2の1次干渉光(m=1)が重なって現れたものである。また、2.8μm付近の透過スペクトルは、ファブリペローフィルタFP1の2次干渉光(m=2)である。
【0078】
このように、ファブリペローフィルタFP1,FP2の1次干渉光(m=1)は、プルイン限界でともに4。7μm付近に位置する。また、ファブリペローフィルタFP1の1次干渉光(m=1)は、初期状態で7.3μm付近に位置する。すなわち、電圧の印加により短波長側にシフトする。一方、ファブリペローフィルタFP2の1次干渉光(m=1)は、初期状態では2μm付近(図11(a)では分光帯域外のため図示略)に位置する。すなわち、電圧の印加により長波長側にシフトする。
【0079】
したがって、各ファブリペローフィルタFP1,FP2の透過スペクトルの変調帯域を、1つの帯域として繋げる(連続させる)ことができる。また、図10(a),(b)に示す構成同様、透過スペクトルの変調帯域を2.4μm以上7.3μm以下とすることができる。また、図10(a),(b)に示す中心波長の大小関係(λ1<λ2)に較べて、同じ透過スペクトルの変調帯域としながらギャップ長さDa,Dbを短くすることができる。すなわち、波長選択フィルタ10の長さ方向の体格を小型化することもできる。
【0080】
本実施形態では、1つの基板20上にファブリペローフィルタFP1,FP2が形成される例を示した。しかしながら、例えば図12に示すように、基板20の一面上に形成してなるファブリペローフィルタFP1と、基板100の一面上に形成してなるファブリペローフィルタFP2とを、可動ミラー構造体50,70側において、接続層60により接続することで、波長選択フィルタ10としても良い。この場合、犠牲層エッチングによるエアギャップAG1,AG2の形成を一括でなく、別々に行うことができる。したがって、エッチング時間を削減することができる。なお、図12に示す符号101は、基板100と固定ミラー構造体90とを電気的に分離する絶縁膜である。
【0081】
本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2のうち、ファブリペローフィルタFP1が電極を有する例を示した。しかしながら、ファブリペローフィルタFP2が電極を有する構成としても良い。
【0082】
本実施形態では、接続層60として、高屈折率層52,71よりも低屈折率の材料からなる1層構造の例を示した。しかしながら、接続層60として多層構造を採用することもできる。多層構造の場合も、可動ミラー構造体50,70とともに、高屈折率の層と低屈折率の層の交互配置の周期を維持するように構成することが好ましい。
【0083】
(第2実施形態)
本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2が、図示しない一対の電極をそれぞれ有する点を主たる特徴とする。
【0084】
図13に例示するように、ファブリペローフィルタFP1は、ファブリペローフィルタFP2に対して遠い側に可動ミラー構造体50、ファブリペローフィルタFP2に対して近い側に固定ミラー構造体30を有する。そして、各ミラー構造体30,50が有する電極間へ電圧を印加すると、ギャップ長さDaが、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりも短くなるようになっている。
【0085】
一方、ファブリペローフィルタFP2は、ファブリペローフィルタFP1に対して遠い側に可動ミラー構造体70、ファブリペローフィルタFP1に対して近い側に固定ミラー構造体90を有する。そして、各ミラー構造体70,90が有する電極間へ電圧を印加すると、ギャップ長さDbが、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDbiよりも短くなるようになっている。
【0086】
なお、図13に示す例では、基板20の一面上に絶縁膜21を介してファブリペローフィルタFP1が構成されており、基板100の一面上に絶縁膜101を介してファブリペローフィルタFP2が構成されている。この基板20,100が特許請求の範囲に記載の第1基板及び第2基板に相当する。そして、基板20,100が、それぞれファブリペローフィルタFP1,FP2の搭載面と反対の面にて、接続層60を介して接続されている。
【0087】
このように、本実施形態では、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2を固定ミラー構造体30,90側で接続するので、可動ミラー構造体50,70側で接続する構成に較べて波長選択フィルタ10を形成しやすい。特に本実施形態では、基板20,100上にそれぞれファブリペローフィルタFP1.FP2を形成しておき、その後、基板20,100同士を貼り合わせることで、波長選択フィルタ10とすることができる。したがって、製造工程をより簡素化することができる。
【0088】
また、本実施形態では、第1実施形態同様、高屈折率層31,32,51,52,71,72,91,92としてポリシリコン、低屈折率層33,53,73,93として二酸化シリコンを採用する。また、基板20,100としてシリコン基板、絶縁膜21,101として二酸化シリコン膜を採用し、接続層60として、シリコンからなる基板20,100を貼り合わせるべく二酸化シリコンを採用する。したがって、ファブリペローフィルタFP1,FP2の間に位置する介在部材としての絶縁膜21,101、基板20,100、及び接続層60が、隣り合うファブリペローフィルタFP1,FP2の互いに近い側のミラー(本実施形態では、固定ミラー構造体30,90)とともに、高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に位置する周期性をなすように構成されている。このため、周期性がない場合に較べて、選択的に透過される光の透過率を高めることができる。
【0089】
次に、上記した波長選択フィルタ10のより好ましい形態について説明する。
【0090】
本実施形態においても、ファブリペローフィルタFP2の中心波長λ2が、ファブリペローフィルタFP1の中心波長λ1よりも長波長となっており、第1実施形態で示した1)λ2≧1.4λ1、2)λ2≦2.3λ1を満たしている。このため、第1実施形態に示した効果と同等の効果を奏することができる。
【0091】
また、本実施形態では、5)2つのファブリペローフィルタFP1,FP2における初期状態のギャップ長さDai,Dbiが、下記式を満たすように構成されている。なお、αはファブリペローフィルタFP1を透過する干渉光の次数(正の整数)、βはファブリペローフィルタFP2を透過する干渉光の次数(正の整数)である。
(数7)β×Dbi×2/3≦α×Dai≦β×Dbi×3/2
このように初期状態のギャップ長さDai,Dbiが数式7の関係を満たすと、2つのファブリペローフィルタFP1,FP2の透過スペクトルの変調帯域を、第1実施形態に示した図9に示すように隙間無く連続させることができる。このため、連続する1つの帯域として、透過スペクトルの変調帯域をより広くすることができる。以下にその理由を詳細に説明する。
【0092】
数式1で示した関係及びプルイン限界から、ファブリペローフィルタFP1における透過スペクトルの変調帯域λ1は、上記数式3で示す通りである。
【0093】
一方、本実施形態のファブリペローフィルタFP2における透過スペクトルの変調帯域λ2は、下記式の通りである。
(数8)2/3×2/α×Dbi≦λ2≦2/α×Dbi
ここで、透過スペクトルの変調帯域λ1、λ2が1つの帯域として隙間無く繋がるためには、数式3,8から、透過スペクトルの変調帯域λ2の下限が透過スペクトルの変調帯域λ1の上限以下となり、且つ、透過スペクトルの変調帯域λ2の上限が透過スペクトルの変調帯域λ1の下限以上となれば良い。すなわち、下記式の関係を両立すれば良い。
(数9)2/3×2/α×Dbi≦2/β×Dai
(数10)2/3×2/β×Dai≦2/α×Dbi
そして、数式9,10をまとめると、数式7に示す関係となる。
【0094】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0095】
本実施形態では、基板20,100として、一面上に絶縁膜21,101を備えた半導体基板の例を示した。しかしながら、基板20,100としては上記例に限定されるものではなく、ガラスなどの絶縁基板を採用することも可能である。その場合、絶縁膜21,101を不要とすることができる。
【0096】
本実施形態では、波長選択フィルタ10が2つのファブリペローフィルタFP1,FP2を有する例を示した。しかしながら、ファブリペローフィルタの個数は2つに限定されるものではない。可変型のファブリペローフィルタを3つ以上の有しても良い。この場合も、各ファブリペローフィルタにおいて、対をなすミラーの中心波長が互いに等しくされ、各ファブリペローフィルタは、ミラーの中心波長が互いに異なるとともに、ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有せばよい。
【符号の説明】
【0097】
10・・・波長選択フィルタ
20,100・・・基板
30,90・・・固定ミラー構造体(固定ミラー)
50,70・・・可動ミラー構造体(可動ミラー)
40,80・・・支持部材
AG,AG1,AG2・・・エアギャップ(ギャップ)
FP,FP1,FP2・・・ファブリペローフィルタ
MEM・・・メンブレン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高屈折率層間に該高屈折率層を構成する材料よりも低屈折率の材料からなる低屈折率層が介在されてなるミラーがギャップを介して対向配置され、一対の前記ミラー間のギャップ長さを変化させることのできる可変型のファブリペローフィルタを複数備え、複数の前記ファブリペローフィルタが、ギャップ長さの変化方向を同じとして互いに積層されてなる波長選択フィルタであって、
各ファブリペローフィルタにおいて、対をなす前記ミラーの中心波長が互いに等しくされ、
複数の前記ファブリペローフィルタは、前記ミラーの中心波長が互いに異なるとともに、前記ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有することを特徴とする波長選択フィルタ。
【請求項2】
複数の前記ファブリペローフィルタとして、2つのファブリペローフィルタを有し、
各ファブリペローフィルタを構成するミラーが、シリコンからなる前記高屈折率層間に、二酸化シリコンからなる前記低屈折率層が介在されてなり、
一方の前記ファブリペローフィルタのミラーの中心波長をλ1、他方の前記ファブリペローフィルタのミラーの中心波長をλ2とし、
λ2≧1.4λ1
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の波長選択フィルタ。
【請求項3】
前記中心波長λ1,λ2が、
λ2≦2.3λ1
を満たすことを特徴とする請求項2に記載の波長選択フィルタ。
【請求項4】
2つの前記ファブリペローフィルタとして、第1ファブリペローフィルタと第2ファブリペローフィルタを有し、
前記第1ファブリペローフィルタのみに、静電気力を生じさせるべく前記ミラーに対応して一対の電極が設けられ、
前記第1ファブリペローフィルタは、前記第2ファブリペローフィルタに近い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、前記第2ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、前記一対の電極間への電圧を印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりもギャップ長さが短くなり、
前記第2ファブリペローフィルタは、前記第1ファブリペローフィルタに近い側のミラーが前記可動ミラーと一体的に変位するミラー、前記第1ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが変位しないミラーとされて、前記一対の電極間への電圧の印加により、前記初期状態のギャップ長さDbiよりもギャップ長さが長くなることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の波長選択フィルタ。
【請求項5】
前記第1ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をβ(正の整数)、前記第2ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をα(正の整数)とすると、
前記ギャップ長さDai,Dbiが、
β×Dbi≦α×Dai≦3/2×β×(Dbi+1/3×Dai)
を満たすことを特徴とする請求項4に記載の波長選択フィルタ。
【請求項6】
前記ギャップ長さDai,Dbiが、
Dai>Dbi
を満たすことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の波長選択フィルタ。
【請求項7】
2つの前記ファブリペローフィルタとして、第1ファブリペローフィルタと第2ファブリペローフィルタを有し、
各ファブリペローフィルタに、静電気力を生じさせるべくそれぞれの前記ミラーに対応して一対の電極が設けられ、
前記第1ファブリペローフィルタは、前記第2ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、前記第2ファブリペローフィルタに近い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、該第1ファブリペローフィルタが有する電極間への電圧の印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりもギャップ長さが短くなり、
前記第2ファブリペローフィルタは、前記第1ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、前記第1ファブリペローフィルタに近い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、該第2ファブリペローフィルタが有する電極間への電圧の印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDbiよりもギャップ長さが短くなることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の波長選択フィルタ。
【請求項8】
前記第1ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をβ(正の整数)、前記第2ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をα(正の整数)とすると、
前記ギャップ長さDai,Dbiが、
β×Dbi×2/3≦α×Dai≦β×Dbi×3/2
を満たすことを特徴とする請求項7に記載の波長選択フィルタ。
【請求項9】
第1基板の一面上に、前記固定電極側を載置面として前記第1ファブリペローフィルタが積層され、
第2基板の一面上に、前記固定電極側を載置面として前記第2ファブリペローフィルタが積層され、
前記第1基板と前記第2基板とが、対応するファブリペローフィルタの載置面と反対の面同士で貼り合わせられていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の波長選択フィルタ。
【請求項10】
隣り合う前記ファブリペローフィルタの間に位置する介在部材が、隣り合う前記ファブリペローフィルタの互いに近い側のミラーとともに、高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に位置する周期性をなすように構成されていることを特徴とする請求項1〜9いずれか1項に記載の波長選択フィルタ。
【請求項1】
高屈折率層間に該高屈折率層を構成する材料よりも低屈折率の材料からなる低屈折率層が介在されてなるミラーがギャップを介して対向配置され、一対の前記ミラー間のギャップ長さを変化させることのできる可変型のファブリペローフィルタを複数備え、複数の前記ファブリペローフィルタが、ギャップ長さの変化方向を同じとして互いに積層されてなる波長選択フィルタであって、
各ファブリペローフィルタにおいて、対をなす前記ミラーの中心波長が互いに等しくされ、
複数の前記ファブリペローフィルタは、前記ミラーの中心波長が互いに異なるとともに、前記ミラーの反射帯域が他のファブリペローフィルタのミラーの反射帯域と重複しない領域をそれぞれ有することを特徴とする波長選択フィルタ。
【請求項2】
複数の前記ファブリペローフィルタとして、2つのファブリペローフィルタを有し、
各ファブリペローフィルタを構成するミラーが、シリコンからなる前記高屈折率層間に、二酸化シリコンからなる前記低屈折率層が介在されてなり、
一方の前記ファブリペローフィルタのミラーの中心波長をλ1、他方の前記ファブリペローフィルタのミラーの中心波長をλ2とし、
λ2≧1.4λ1
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の波長選択フィルタ。
【請求項3】
前記中心波長λ1,λ2が、
λ2≦2.3λ1
を満たすことを特徴とする請求項2に記載の波長選択フィルタ。
【請求項4】
2つの前記ファブリペローフィルタとして、第1ファブリペローフィルタと第2ファブリペローフィルタを有し、
前記第1ファブリペローフィルタのみに、静電気力を生じさせるべく前記ミラーに対応して一対の電極が設けられ、
前記第1ファブリペローフィルタは、前記第2ファブリペローフィルタに近い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、前記第2ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、前記一対の電極間への電圧を印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりもギャップ長さが短くなり、
前記第2ファブリペローフィルタは、前記第1ファブリペローフィルタに近い側のミラーが前記可動ミラーと一体的に変位するミラー、前記第1ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが変位しないミラーとされて、前記一対の電極間への電圧の印加により、前記初期状態のギャップ長さDbiよりもギャップ長さが長くなることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の波長選択フィルタ。
【請求項5】
前記第1ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をβ(正の整数)、前記第2ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をα(正の整数)とすると、
前記ギャップ長さDai,Dbiが、
β×Dbi≦α×Dai≦3/2×β×(Dbi+1/3×Dai)
を満たすことを特徴とする請求項4に記載の波長選択フィルタ。
【請求項6】
前記ギャップ長さDai,Dbiが、
Dai>Dbi
を満たすことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の波長選択フィルタ。
【請求項7】
2つの前記ファブリペローフィルタとして、第1ファブリペローフィルタと第2ファブリペローフィルタを有し、
各ファブリペローフィルタに、静電気力を生じさせるべくそれぞれの前記ミラーに対応して一対の電極が設けられ、
前記第1ファブリペローフィルタは、前記第2ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、前記第2ファブリペローフィルタに近い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、該第1ファブリペローフィルタが有する電極間への電圧の印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDaiよりもギャップ長さが短くなり、
前記第2ファブリペローフィルタは、前記第1ファブリペローフィルタに遠い側のミラーが静電気力により変位する可動ミラー、前記第1ファブリペローフィルタに近い側のミラーが変位しない固定ミラーとされて、該第2ファブリペローフィルタが有する電極間への電圧の印加により、電圧が印加されない初期状態のギャップ長さDbiよりもギャップ長さが短くなることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の波長選択フィルタ。
【請求項8】
前記第1ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をβ(正の整数)、前記第2ファブリペローフィルタを透過する干渉光の次数をα(正の整数)とすると、
前記ギャップ長さDai,Dbiが、
β×Dbi×2/3≦α×Dai≦β×Dbi×3/2
を満たすことを特徴とする請求項7に記載の波長選択フィルタ。
【請求項9】
第1基板の一面上に、前記固定電極側を載置面として前記第1ファブリペローフィルタが積層され、
第2基板の一面上に、前記固定電極側を載置面として前記第2ファブリペローフィルタが積層され、
前記第1基板と前記第2基板とが、対応するファブリペローフィルタの載置面と反対の面同士で貼り合わせられていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の波長選択フィルタ。
【請求項10】
隣り合う前記ファブリペローフィルタの間に位置する介在部材が、隣り合う前記ファブリペローフィルタの互いに近い側のミラーとともに、高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に位置する周期性をなすように構成されていることを特徴とする請求項1〜9いずれか1項に記載の波長選択フィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−108370(P2012−108370A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258027(P2010−258027)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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