説明

泥土の袋詰め脱水用袋

【課題】脱水時間を短くしつつ、濁水の発生を抑制することが可能な、泥土の袋詰め脱水用袋を提供すること
【解決手段】袋詰め脱水用袋は、透水性を有するとともに、泥土を注入するための注入ホースが接続される注入口2aが設けられた袋体2を有する。そして、この袋体2の注入口2aの周囲部分2bの透水性が、前記周囲部分2b以外の部分の透水性よりも低くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分を含有した泥土の袋詰め脱水を行う際に使用される、袋詰め脱水用袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、海、湖沼、河川、あるいは、水路等から浚渫した泥土やヘドロを処分する方法として、袋詰め脱水工法が知られている。この工法は、浚渫した泥土を透水性の袋体内にポンプで圧送して充填した後、一定期間放置して脱水し、脱水後には、住宅開発地や道路整備等の際に、土地を平坦にするための埋め戻し土として使用するものである。
【0003】
上記袋詰め脱水工法に使用される透水性の袋体としては、特許文献1,2に記載されているように、織布や不織布からなるものが通常使用される。また、この袋体には泥土注入用の注入口が設けられている。この袋体の注入口は注入ホースによりポンプと接続され、ポンプから圧送される泥土は注入ホースを介して注入口から袋体内に充填される。
【0004】
ところで、袋体への泥土の注入初期には、泥土内の細かな粒子が水分とともに袋体を通過して濁水(初期濁り)が発生する。但し、通常は、注入が進行するにつれて濁水の量は減少していく。この初期濁りの発生メカニズムは次のように考えられている。注入初期には、袋体の内面に接する部分において細かな粒子が流出する一方で、比較的大きな粒子が残留し、袋体内面にブリッジングゾーンと呼ばれる粗粒子の層が形成される。このブリッジングゾーンが形成されると、ブリッジングゾーンの手前において流速が遅くなり、細かな粒子が流出しにくくなって堆積する。これにより、フィルターゾーン(あるいはケーキ層)と呼ばれる、ブリッジングゾーンよりも細かい粒子の層が形成され、粒子の流出が止まる。つまり、このフィルターゾーンが形成されるまでの細粒子の流出が、初期濁りとなって現れると考えられる。
【0005】
特許文献2の袋体においては、比較的高い流速で注入口から注入された高含水比の泥土が、注入口と対向する部分に衝突したときに、その対向部分においてフィルターゾーンが消失することによる濁水発生が問題視されている。この問題を解消するために、特許文献2においては、袋体の、注入口と対向する部分に不織布等からなるシートが設けられることにより、細粒子の流出が防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−217378号公報
【特許文献2】特開平10−18264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に示されている従来の袋体において、注入口に注入ホースを接続し、ポンプで圧送された泥土を注入ホースを介して袋体内へ泥土を注入する場合、袋体の注入口の周囲部分には注入ホースの振動が伝わる。上述したように、袋体への注入が進むにつれて袋体の内面にフィルターゾーンが形成されるために、細かな粒子の流出(濁水)が止まるのであるが、前記注入ホースの振動によって注入口の周囲部分においてはフィルターゾーンが崩れやすく、注入口周囲から濁水が流出しやすい。つまり、袋体の注入口の周囲部分は、それ以外の部分と比べて濁水が生じやすい。このような注入口の周囲部分からの濁水の発生は、脱水作業の条件によっては大きな問題になることがある。
【0008】
海や河川等の浚渫を行う場合には、通常、浚渫した泥土をその浚渫場所に近い、砂浜や河川敷などの広い場所で袋体に充填し、放置して脱水する。この場合には、脱水時に袋体から多少の濁水が流れ出しても周囲に与える影響は少なく、濁水の発生はさほど問題ではない。また、浚渫場所に近い、広い場所で袋体を放置しておけるため、多量の泥土を一度に効率よく脱水作業を行うことができるように大きな袋体を使用することが多いが、このような大きな袋体では、注入口周辺から少量の濁水が発生してもほとんど問題にはならない。
【0009】
しかし、街中を流れる水路から泥土を浚渫する場合など、泥土の浚渫場所によっては、近距離に袋体の脱水に適した場所が存在しないことも多い。この場合は、浚渫現場から長距離離れた脱水場所まで、水路等から浚渫した泥土をバキュームカー等で運搬する必要があり、運搬に多くのコストがかかっていた。そのため、浚渫現場の近くにおいて袋体に泥土を充填し、ある程度脱水を行ってその重量を減らしてから、最終的な脱水場所まで運搬することが好ましい。
【0010】
しかしながら、上記のように、街中等の浚渫現場の近くである程度脱水を行う場合、本来は脱水作業にあまり適していない場所(例えば、公園等の公共の場所や、作業のしづらい狭い空き地等)で作業を行わざるを得ない。また、脱水作業が交通の妨げになることもある。従って、このような場所での脱水はできるだけ短期間で終了させる必要がある。一方で、街中等で脱水を行う場合には、上述した砂浜や河川敷などで行う場合とは違って、周囲への影響を考慮して、濁水の発生をできる限り抑えることが好ましい。また、最終的な脱水場所までトラック等で運搬することを考えると、それほど大きな袋体を使用することはできないため、大きな袋体を使用する場合とは違って、注入口の周囲部分からの濁水を無視できない。
【0011】
従って、街中等で脱水を行う場合には、脱水を短期間で終了するとともに、注入時における濁水の発生をできるだけ抑制することが必要になる。ここで、脱水を短期間で終了するには袋体の透水性を高くすればよいのであるが、そうすると袋体から泥土の粒子が流出しやすくなり、濁水の発生量が多くなる。一方、濁水の発生を抑制するためには袋体の透水性を低くすることが有効であるが、その場合には脱水の進行が遅くなって脱水に要する時間が長くなる。
【0012】
本発明の目的は、脱水時間を短くしつつ、濁水の発生を抑制することが可能な、泥土の袋詰め脱水用袋を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0013】
第1の発明の泥土の袋詰め脱水用袋は、透水性を有するとともに、泥土を注入するための注入ホースが接続される注入口が設けられた袋体を有し、前記袋体の前記注入口の周囲部分の透水性が、前記周囲部分以外の部分の透水性よりも低くなっていることを特徴とするものである。
【0014】
注入ホースが接続される注入口の周囲部分には、泥土注入時における注入ホースの振動が伝わるため、この振動によってフィルターゾーンが崩れて、濁水が流出しやすい。つまり、注入口の周囲部分は、それ以外の部分と比較して、注入時に濁水が発生しやすい部分であると言える。本発明においては、袋体の注入口の周囲部分の透水性が、それ以外の部分の透水性よりも低くなっていることから、注入ホースの振動によって注入口の周囲部分のフィルターゾーンが崩れた場合でも、濁水の発生が抑制される。また、注入口の周囲部分以外の部分においては透水性を高くしておくことで、袋体全体の透水性を低くする場合と比べて、脱水時間を短くすることができる。
【0015】
第2の発明の泥土の袋詰め脱水用袋は、前記第1の発明において、前記袋体は織布からなり、前記袋体の前記注入口の周囲部分のカバーファクターが、前記周囲部分以外の部分のカバーファクターよりも大きくなっていることを特徴とするものである。
【0016】
織布からなる袋体においては、注入口の周囲部分のカバーファクターを、それ以外の部分のカバーファクターよりも大きく(密に)することにより、この注入口の周囲部分の透水性をそれ以外の部分と比べて低くすることができる。また、袋体内に泥土が充填されて膨張したときに、注入口の周囲部分には力が集中して作用するため、この部分において破断が生じやすい。しかし、本発明では、この注入口の周囲部分においてカバーファクターが大きくなっているために強度が高くなっており、破断が防止されるという効果も生じる。さらに、強度が高くなっていることで、注入時に注入ホースから伝わる振動による摩耗が抑えられるという効果も奏する。
【0017】
ここで、前記袋体の前記注入口の周囲部分のカバーファクターが1700〜1900、前記周囲部分以外の部分のカバーファクターが1400〜1600であることが好ましい(第3の発明)。
【0018】
第4の発明の泥土の袋詰め脱水用袋は、前記第1の発明において、前記袋体は織布からなり、前記袋体の前記注入口の周囲部分にシート材が設けられることにより、前記周囲部分の透水性が、前記周囲部分以外の部分の透水性よりも低くなっていることを特徴とするものである。
【0019】
織布からなる袋体に対して、その注入口の周囲部分にシート材を設けることによって、この注入口の周囲部分の透水性を、それ以外の部分と比べて低くすることができる。尚、前記シート材は不織布からなるものであってよい(第5の発明)。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係る袋詰め脱水用袋の斜視図である。
【図2】図1の袋詰め脱水用袋の断面図である。
【図3】袋体の上面図である。
【図4】筒状体の平面図である。
【図5】袋詰め脱水処理を説明する図であり、(a)は注入時の状態、(b)は注入完了時の状態をそれぞれ示す。
【図6】変更形態1の袋詰め脱水用袋の断面図である。
【図7】変更形態2の袋詰め脱水用袋の断面図である。
【図8】変更形態3の袋体の上面図である。
【図9】変更形態4の袋体の上面図である。
【図10】変更形態5の袋体の上面図である。
【図11】図10の袋体と筒状体との縫製部分を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る袋詰め脱水用袋の斜視図、図2は、図1の袋詰め脱水用袋の断面図である。
【0022】
図1〜図3に示すように、本実施形態の袋詰め脱水用袋1は、泥土を注入するための注入口2aが設けられた袋体2と、袋体2の注入口2aに接続された筒状体3とを有する。
【0023】
図3は袋体2の上面図である。図1〜図3に示すように、袋体2は、ポリエステル繊維等の合成繊維の経糸及び緯糸によって織成された筒状織物10からなり、透水性を有する。また、筒状織物10の両端部はそれぞれ縫製加工が施されることによって共に閉塞されている(袋綴じ部10a)。また、袋体2の上部には注入口2aが形成されている。
【0024】
尚、浚渫場所付近において泥土が充填されて、ある程度の脱水が行われた後に、袋詰め脱水用袋1を最終的な脱水処理場所まで運搬することができるように、袋体2はトラック等に積載可能なサイズであることが好ましい。具体的には、袋体2を構成する筒状織物10として、4tトラックに積載可能な、長さが2〜5m、径が1〜2m程度のものを使用することが好ましい。
【0025】
また、図3に示すように、袋体2の注入口2aを取り囲む、注入口2aの周囲部分2bを含み、筒状織物10の長さ方向(筒軸方向)に延びる帯状領域2c(図3のハッチング領域)における透水性が、帯状領域2c以外における透水性よりも低くなっている。
【0026】
図4は筒状体3の平面図である。図2、図4に示すように、筒状体3は、小径部11aとこの小径部11aから径が拡大しながら延びる径拡大部11bとを有する異径筒状織物11からなる。そして、筒状体3は、その径拡大部11bが袋体2の注入口2aの周囲部分2bに縫製され、注入口2aと接続されている。このように、筒状体3は、径拡大部11bにおいて袋体2の注入口2aに接続されているため、この筒状体3と袋体2との接続状態が自然なものとなり、後述のように、袋体2内に泥土30が注入されて袋体2が膨張するときに、袋体2が局所的に膨張することがない。
【0027】
一方、小径部11aは、内側に折り返されて袋体2の内部に入り込んだ状態で、その先端部が、袋体2を形成する筒状織物10の袋綴じ部10aと一緒に縫製されて、先端が閉塞された状態で固定されている。また、小径部11aが折り返されて形成された折り返し部3aが、袋体2の注入口2aから上方へ突出している。この折り返し部3aに注入ホース21が挿入された状態で、図示しないバンド等で締め付けられることにより、注入ホース21が注入口2aに接続される。
【0028】
さらに、図2、図4に示すように、袋体2内に入り込んだ小径部11aの途中部における、図2の下側に位置する側部には、筒状体3の内部と袋体2の内部とを連通させるスリット3bが形成されている。そして、筒状体3の折り返し部3aに挿入された注入ホース21から小径部11a内に注入された泥土は、スリット3bから袋体2内に充填される(図5(a)参照)。
【0029】
次に、上述した袋詰め脱水用袋1を用いて高含水比の泥土30の袋詰め脱水処理を行う方法について図5を参照して説明する。
まず、図5(a)に示すように、折り返し部3aの内部に、図示しないポンプと接続される注入ホース21を挿入し、袋体2の注入口2aに接続する。そして、図示しないポンプによって圧送される泥土30を、注入ホース21から、小径部11aの途中部に形成されたスリット3bを介して、袋体2内へ泥土30を注入する。すると、泥土30は袋体2の下部から徐々に充填されていく。
【0030】
袋体2内への泥土の充填が完了すると、注入ホース21を折り返し部3aから抜き取る。すると、図5(b)に示すように、袋体2の内圧によって、小径部11aの内部空間が大気開放されて、袋体2の内圧で小径部11aが押し潰されるとともに、この小径部11a内に存在する泥土が袋体2外へ放出される。このとき、小径部11aが袋体2の内面に押しつけられ、小径部11aのスリット3bが形成されている部分が、スリット3bが形成されていない部分に密着し、スリット3bが閉止される。さらに、袋体2内の泥土の一部が折り返し部3aの一方側に集中して充填され、小径部11aが閉塞される。以上により、袋体2内に充填された泥土30の逆流が防止される。
その後、この袋詰め脱水用袋1を一定期間放置して、透水性の袋体2から外部へ水を排出することにより泥土30を脱水する。
【0031】
ところで、先にも述べたように、袋体2内への泥土30の注入初期には泥土中の細粒子が水分とともに袋体2を透過して排出されるため、多少の濁水(初期濁り)が発生する。しかし、通常は、注入が進行するにつれて袋体2の内面にフィルターゾーンが形成されていくため、細粒子の流出が止まって濁水も止まる。しかし、注入ホース21と接続される注入口2aの周囲部分2bにおいては、注入時における注入ホース21の振動が伝わるため、この振動によってフィルターゾーンが崩れてしまうと、注入口2aの周囲部分2bにおいて濁水の流出が継続することになる。
【0032】
また、上記袋詰め脱水処理においては、袋体2への泥土30の充填の完了後に放置し、ある程度脱水を進行させて泥水の容量を減少させた後に、泥土30を再注入することもあり得る。この場合、再注入時に注入ホース21を注入口2aに接続したときに、注入口2aの周囲部分2bのフィルターゾーンが崩れやすく、再注入開始時の濁水発生が多くなってしまう。
【0033】
しかしながら、本実施形態では、注入口2aの周囲部分2bを含む、図3の帯状領域2c(ハッチング部分)においては、それ以外の部分と比べて、経糸の密度が高くなっており、その結果、透水性が局所的に低くなっている。そのため、注入口2aの周囲部分2bにおいて、注入ホース21の振動によってフィルターゾーンが崩れたとしても、泥土中の細粒子が流出しにくく、濁水の発生が抑制される。また、透水性が低くなっているのは、注入口2aの周囲部分2bを含む帯状領域2cのみであって、それ以外の部分においては透水性が高いことから、地面に接していない袋体2の上部や側部からの排水量が一定以上確保され、脱水時間を短くすることが可能となる。
【0034】
また、袋体2内に泥土が充填されて膨張したときに、注入口2aの周囲部分2bには力が集中して作用するため、この部分2bにおいて破断が生じやすい。しかし、この注入口2aの周囲部分2bにおいて織り密度が高くなっていることで強度が高くなり、破断が防止されるという効果も生じる。さらに、強度が高くなっていることで、注入時に注入ホース21から伝わる振動による摩耗が抑えられるという効果も奏する。
【0035】
尚、袋体2が織布である場合には、カバーファクターを用いて透水性を定義できる。カバーファクターは、糸の太さと織り密度によって織物の空隙の程度を数値化したものであり、数字が大きいほど織布の単位面積に占める糸の比率が高いことを示す。詳細には、カバーファクターは下記式で算出される。
カバーファクター={織物を構成する経糸の繊度(単位:dtex)×0.9}1/2×{織物の経糸密度(本/インチ)}+{織物を構成する緯糸の繊度(単位:dtex)×0.9}1/2×{織物の緯糸密度(本/インチ)}
【0036】
そして、本実施形態において、注入口2aの周囲部分2bからの濁水発生を確実に抑制するとともに、それ以外の部分における排水量を一定以上に確保するために、注入口2aの周囲部分2b(帯状領域2c)のカバーファクターは、前記周囲部分2b(帯状領域2c)以外の部分のカバーファクターの1.2倍以上であることが好ましい。より具体的には、注入口2aの周囲部分2b(帯状領域2c)のカバーファクターが1700〜1900、前記周囲部分2b(帯状領域2c)以外の部分のカバーファクターが1400〜1600であることが好ましい。また、注入ホース21の振動が伝わっても、細粒子の流出を確実に抑制することができるように、透水性を低くする帯状領域2cの幅は注入口2aの径の1.1倍以上であることが好ましい。但し、帯状領域2cの幅を大きくしすぎると、袋体2全体の透水性が低下するため、帯状領域2cの幅は注入口2aの径の2倍以下であることが好ましい。
【0037】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0038】
(変更形態1)
前記実施形態(図2)では、注入口2aに一端が接続された筒状体3の、注入口2a側と反対側の端部が内側に折り返されて袋体2の内部に固定されていたが、図6に示すように、注入口2aに筒状体3が挿通された状態で、筒状体3と注入口2aの周囲部分2bとが縫製等により接合されるだけの簡単な構造を採用することもできる。
【0039】
(変更形態2)
図7に示すように、筒状体3が注入口2aの周囲部分2bと縫製等により接合された上で、さらに、周囲部分2bに、筒状体3の下端開口を覆うように布15が接合されてもよい。この場合、袋体2内に泥土が充填されていない状態では、図7に実線で示されるように布15が弛んでいるために筒状体3の下端開口との間に隙間が存在し、注入ホース21から注入された泥土は前記隙間から袋体2内に注入される。一方、袋体2内に泥土が充填されていくと、その充填圧力によって布15が押し上げられ、図7に2点鎖線で示されるように筒状体3の下端開口を塞ぐ。これによって泥土の袋体2からの逆流が防止される。この図7の変更形態2においては、袋体2への泥土充填が完了したときに、布15が注入口2aの周囲部分2bの内面に押しつけられるため、この周囲部分2bの内面に形成されるフィルターゾーンが崩れやすくなっているが、本発明が適用されることによって、周囲部分2bの透水性が低くなっていると、フィルターゾーンが崩れても周囲部分2bからの濁水の流出が抑えられる。
【0040】
(変更形態3)
透水性(カバーファクター)が局所的に高くなった帯状領域2cにおいては、繊度あるいは織り密度が高いために強度も高くなり、大きな荷重が作用しても破断しにくいため、この帯状領域2cに、運搬用の吊り具を取り付けるためのベルトが連結されてもよい。尚、この場合、安定した運搬を行うためには、複数本のベルトが連結されることが好ましい。そこで、図8に示すように、透水性が局所的に高くなった帯状領域2c’が、注入口2aの周囲部分2bを含む帯状領域2cとは別に設けられ、複数の帯状領域2c、2c’のそれぞれにベルト20が連結されてもよい。
【0041】
尚、複数(図8では2つ)の帯状領域2c(2c’)の一端部にのみベルト20を連結して、クレーンで上方(図中手前側)に吊り上げてもよいのだが、その場合、袋体2内の泥土がベルト20と連結された端部と反対側の端部に移動し、その反対側の端部のフィルターゾーンが崩れやすくなる。そこで、図8に示すように、1つの帯状領域2c(2c’)の両端部にそれぞれベルト20を連結し、吊り上げたときに袋体2内の泥土が左右に移動しないようにすることが好ましい。
【0042】
(変更形態4)
前記実施形態では、袋体2(筒状織物10)の一部領域(帯状領域2c)において経糸の密度を高くすることにより、透水性を局所的に低下させていたが、緯糸の密度を一部領域において高くしてもよい。具体的には、図9に示すように、一部領域の緯糸の密度を高くすることで、注入口2aの周囲部分2bを含み、且つ、周方向に延びる帯状領域2cの透水性が低くなっていてもよい。
【0043】
(変更形態5)
図10にハッチングで示されるように、注入口2aを取り囲む、注入口2aの周囲部分2bのみ局所的に透水性を小さくしてもよい。例えば、全体の透水性が均一(カバーファクターが均一)な袋体2に対して、その注入口2aの周囲部分2bに、注入口2aを取り囲むように、リング状に形成された透水性のシート材13を設けることで、注入口2aの周囲部分2bの透水性をそれ以外の部分と比べて低くすることができる。尚、シート材13は、袋体2の周囲部分2bの表面に設けられてもよいし、内面に設けられてもよい。また、この透水性のシート材13としては、例えば不織布製のシートを好適に使用できるが、織布からなるものであってもよい。
【0044】
尚、袋体2に泥土が充填されて膨張したときに、この袋体2と、注入ホース21と接続される筒状体3との縫製部に力が作用して袋体2の目が開き、泥土が漏れ出す虞がある。そこで、図10のように袋体2の周囲部分2bにシート材13が設けられる場合に、このシート材13を袋体2と筒状体3との縫製部における目止め材として機能させることも可能である。以下に、その具体例を挙げる。
【0045】
図11(a)では、袋体2の注入口2aに筒状体3が挿入されるとともに、袋体2の注入口2aの周囲部分2bは、その内側部分において、筒状体3の外側面に沿うように上方へ折り曲げられている。その上で、前記周囲部分2bの表面にリング状の不織布製のシート材13が被せられ、このシート材13の径方向内端部も筒状体3に沿うように上方に折り曲げられている。そして、シート材13の内端部、前記周囲部分2bの内側部分、及び、筒状体3が縫製されている。尚、シート材13の径方向外端部(注入口2aと反対側の端部)は、袋体2の表面に縫製や接着等によって接合される(接合部23)。このように、注入口2aの周囲部分2bと筒状体3との縫製部22がシート材13で覆われることによって、縫製部22において袋体2の目が開いた場合でも泥土の漏れが防止される。
【0046】
あるいは、図11(b)に示すように、注入口2aの周囲部分2bの内側部分が下方へ折り曲げられた上で、注入口2aに挿入された筒状体3と、この筒状体3に沿う前記周囲部分2bとの間にシート材13の径方向内端部が挟み込まれ、シート材13の内端部、前記周囲部分2bの内側部分、及び、筒状体3が縫製されてもよい。この場合でも、袋体2と筒状体3との縫製部からの泥土の漏れが、シート材13によって防止される。
【0047】
また、目止め材としてのシート材13の材質は、下記条件を満たすものが好ましい。
1)目止め材としてのシート材13の伸度が袋体2よりも小さいと、シート材13の外端部と袋体2との接合部23に力がかかって、この接合部23において袋体2の目が開いてしまう虞がある。そこで、シート材13の伸度は、袋体2よりも高いことが好ましい。具体的には、シート材13として、袋体2の伸度の3倍以上の材質のものを使用することが好ましい。
2)縫製部22において袋体2の目が開いたときに、シート材13によって泥土の流出を確実に防止するために、不透水性のもの、あるいは、袋体2よりも透水性が低いものを使用することが好ましい。具体的には、シート材13の透水係数が0.1cm/cm以下であることが好ましい。
3)縫製部22における縫製糸の隙間から泥土が漏れることを防止するため、シート材13は、クッション性を有し、縫製糸の隙間を塞ぐことが可能な材質のものが好ましい。
上記1)〜3)の条件を満たすシート材13の材質として、不織布、フェルト、ゴムを挙げることができる。
【実施例】
【0048】
本発明の袋詰め脱水用袋の実施例について説明する。
【0049】
ここでは、前記実施形態の図3に示される、筒状織物10の注入口2aの周囲部分2b(帯状領域2c)のカバーファクターがそれ以外の部分よりも大きい(透水性が低下した)ものを用いた。実施例の袋体のサイズ、注入口径、及び、帯状領域の幅を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
また、表2に、実施例で使用した織布の種類を示す。尚、経糸及び緯糸はそれぞれポリエステル糸であり、織り組織は平織りである。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示す織布を使用して、カバーファクターが異なる6種類の袋体(比較例、実施例1〜5)を作製し、これらの袋体に泥土を注入して脱水試験を行った。泥土としては、含水比200%の笠岡粘土を使用し、0.02MPaの圧力で袋体へ注入した後放置したときの、袋体から排出される水の濁度、及び、水量(透水量)を測定した。表3に6種類の袋体のカバーファクター、及び、脱水試験結果を示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表3において「注入口部カバーファクター」は注入口2aの周囲部分2b(帯状領域2c)のカバーファクターを示し、「通常部カバーファクター」はそれ以外の部分のカバーファクターを示す。
【0056】
袋体から排出された水の濁度については、濁度計で計測された濁度が、目標値(NTU100)未満であるか否かで良否を判定し、目標値を下回る場合は“○”、目標値以上である場合には“×”とした。但し、測定された濁度が目標値である100を上回っていても、目視判定で問題ないとされる場合については“△”とした。
【0057】
また、透水量については、目標値(120ml/min)以上であるか否かで判定し、目標値以上である場合には“○”、目標値を下回る場合には“×”とした。但し、透水量が目標値を下回っていても、大きく下回っているわけではなく使用可能な場合には“△”とした。
【0058】
(考察)
表3のように、注入口の周囲部分とそれ以外の部分とでカバーファクターが同じ(透水性が同じ)である比較例では、排水の濁度が高くなっていることがわかる。また、注入口部カバーファクターが1731の実施例2、及び、1855の実施例3では、濁度と透水量の両方で良好な結果が得られている。
【符号の説明】
【0059】
1 袋詰め脱水用袋
2 袋体
2a 注入口
2b 周囲部分
2c 帯状領域
10 筒状織物
13 シート材
21 注入ホース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性を有するとともに、泥土を注入するための注入ホースが接続される注入口が設けられた袋体を有し、
前記袋体の前記注入口の周囲部分の透水性が、前記周囲部分以外の部分の透水性よりも低くなっていることを特徴とする泥土の袋詰め脱水用袋。
【請求項2】
前記袋体は織布からなり、
前記袋体の前記注入口の周囲部分のカバーファクターが、前記周囲部分以外の部分のカバーファクターよりも大きくなっていることを特徴とする請求項1に記載の泥土の袋詰め脱水用袋。
【請求項3】
前記袋体の前記注入口の周囲部分のカバーファクターが1700〜1900、前記周囲部分以外の部分のカバーファクターが1400〜1600であることを特徴とする請求項2に記載の泥土の袋詰め脱水用袋。
【請求項4】
前記袋体は織布からなり、
前記袋体の前記注入口の周囲部分にシート材が設けられることにより、前記周囲部分の透水性が、前記周囲部分以外の部分の透水性よりも低くなっていることを特徴とする請求項1に記載の泥土の袋詰め脱水用袋。
【請求項5】
前記シート材が不織布からなることを特徴とする請求項4に記載の泥土の袋詰め脱水用袋。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−132217(P2012−132217A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285502(P2010−285502)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】