説明

注入可能な骨空隙充填剤

本発明は、骨粗鬆症、手術、骨嚢胞、腫瘍摘出、または外傷性骨損傷の結果であり得る骨欠損部または空隙部への注入のための生分解性フィブリン系組成物に関する。本発明は1つの実施形態において、注入可能な骨空隙充填剤組成物のための多成分系であって、フィブリノゲンを含む成分(a);トロンビンを含む成分(b);少なくとも1つの可塑剤を含む成分(c);および直径約200μm以下の粒子を含む成分(d)を含む多成分系に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、骨粗鬆症、手術、骨嚢胞、腫瘍摘出、または外傷性骨損傷の結果であり得る骨欠損部または空隙部への注入のための生分解性フィブリン系組成物(下記において、「骨空隙充填剤組成物」または「骨空隙充填剤」とも呼ばれる)に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
注入可能な骨空隙充填剤の例がいくつか文献に出ている。国際公開第95/21634号は、骨組織の再吸収・置換のための生体材料を開示する。この組成物は注入可能であり、カルボキシメチルセルロースを含む液相中リン酸カルシウム粒子を含む。米国特許第6,287,341号は、骨欠損部を修復する方法であって、2つのリン酸カルシウムを緩衝剤と混合して、欠損部に塗布するペーストまたはパテを提供する方法を詳述する。パテは、欠損部において化学反応により硬化する。国際公開第00/07639号は、骨欠損部への注入のためのカルシウムセメントを開示する。セメントは、リン酸二水素カルシウム一水和物およびβ−リン酸三カルシウムをベースとするものであり、さらに生体高分子を含んでもよい。リン酸カルシウムセメントは、注入後に硬化する必要がある。米国特許出願公開第2004/048947号は、手術中に硬化する、インビボにおける体液中で硬化される能力を有する注入可能な骨ミネラル代用材料組成物を詳述する。米国特許第2004/101960号は、軟質マトリックスを含む組成物または硬化性材料を含む組成物内に生細胞混合物を含む注入可能な骨代用材料を詳述する。この特許に記載される軟質材料としては、コラーゲンゲル、ゼラチン、アルギナート、アガロース、多糖、ヒドロゲル、および粘性ポリマーが挙げられる。チスコル(TissuCol)(バクスター(Baxter))やベリプラスト(Beriplast)(アベンティス(Aventis))などの市販のフィブリン糊を使用することが可能であるが、これらは好ましくないことも記載されている。最近、510(k)を受理した注入可能な骨空隙充填剤がいくつかある。これらのうち、Jax−TCP(スミス・アンド・ネフュー(Smith & Nephew))およびトリコス(Tricos) T(バクスター(Baxter))は、パテ/ペーストとして塗布されるバイオゲル中のリン酸カルシウム顆粒を提供する。
【0003】
現在の慣行は、骨空隙に骨移植片(自家または同種移植片)、代用骨移植片、骨セメント、具体的にはポリメチルメタクリラート(PMMA)または注入可能なカルシウム塩空隙充填剤を充填することである。自家移植は、この用途の「ゴールドスタンダード」な選択であるが、ドナー組織の制限、外傷、感染、および罹患状態の問題がある。同種移植に直面する問題は、疾患伝播および免疫原性のリスクを含めてさらにいくつかある。自家移植片と同種移植片は、二次的リモデリングにより生物学的および機械的特性が喪失される。これらの制限によって、骨移植片の代替材料への関心が高まっている(Parikh S. N.、2002年、J. Postgrad. Med.、48巻:142−148頁)。
【0004】
PMMAは、非再吸収性高分子材料である。その重合中に、未反応モノマー、触媒、および低分子量オリゴマーはポリマーに捕捉される。これらの化学物質は、材料から浸出して、局所細胞毒性および免疫反応を招く可能性がある。PMMA重合は高発熱性であり、熱壊死を潜在的に引き起こす可能性がある。この発熱性は、PMMAの任意の薬理作用剤または化学療法剤を組み込む能力も制限する。欠損部からのPMMAの漏出は、隣接臓器の圧迫(さらなる手術を必要とする)および/または塞栓を含めて、非常に重篤な合併症を招く恐れがある。
【0005】
上述のように、先行技術にはいくつかのカルシウム塩系「注入可能な空隙充填剤」がある。しかし、成形用ペーストもこの部類に入る。パテおよびペーストは、欠損部の外科的留置を必要とする。実際には、これは欠損部を外科的に曝露する必要がある。残念なことには、欠損部が大きいほど、手術創部位が大きくなる(特許文献1)。カルシウム塩について別の重大な問題は、カルシウム塩がインビボにおける硬化のために必要とされていることである。これは、通常は化学反応で実現される。したがって、充填剤に組み込まれた任意の生物製剤および薬剤、具体的には細胞および薬理作用剤を潜在的に損傷する可能性がある。さらに、充填剤が「流動的」過ぎる場合、欠損部から隣接空間に漏出して、構造の圧縮を招く可能性がある。関節の近位にある欠損部から漏出が起こると、潜在的に関節機能を損なう可能性がある。
【0006】
経皮経路を介して送達するためのカルシウム塩組成物の要件は、以前に特許文献2に詳述されている。これらの要件としては、材料は滅菌可能であるべきであり、インビトロで無毒性でなければならず、レオロジーは注入を可能にするようなものでなければならず、使用は容易でなければならず、また強い石灰化前線がなければならないことが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/136038号明細書
【特許文献2】国際公開第95/21634号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、滅菌することができ、潜在毒性が低く、漏出の傾向が低く、生分解性であり、注入を可能にするレオロジーを有し、使用が容易である新規の注入可能な骨空隙充填剤に対してかなりの必要性がある。
【0009】
したがって、本発明の一目的は、例えば骨粗鬆症、手術、骨嚢胞、腫瘍摘出、または外傷性骨損傷に起因する骨欠損部または空隙部に注入するための新規の注入可能な骨空隙充填剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明は、治癒過程において骨で再吸収・置換される骨空隙充填剤としての、注入可能で完全再吸収性の微細孔性フィブリン系組成物に関する。
【0011】
本願の前記骨空隙充填剤組成物は、フィブリン単独よりも優れている特性、具体的にはエラストマー類で通常見られる機械的諸特性および機械的安定性を示す。本発明によれば、前記骨空隙充填剤の様々な特性は、前記骨空隙充填剤組成物に含まれている粒子および可塑剤のタイプおよび含有量を調整することによって効果的に微調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】30%の可塑剤イオジキサノールおよび75IU/mlのトロンビンを含有する組成物のレオロジー解析を示すグラフである。組成物中のリン酸カルシウムの増加効果がはっきりと見られる。複素粘度を常数目盛りでプロットする。
【図2】可塑剤の濃度の増加および/または粒子含有量の結果として複素粘度の相違を示すグラフである。
【図3】本発明に従う注入可能な骨空隙充填剤のウサギ長骨の骨空隙への送達を示す図である。カテーテルを挿入し、空隙を充填する。手順に従って、カテーテルを容易に除去する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明の一態様は、注入可能な骨空隙充填剤組成物のための多成分系であって、
フィブリノゲンを含む成分(a);
トロンビンを含む成分(b);
少なくとも1つの可塑剤を含む成分(c);および
直径約200μm以下の粒子を含む成分(d)
を含む多成分系に関する。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、上記に定義する多成分系の成分(a)〜(d)はそれぞれ、溶液で存在し、少なくとも成分(a)は、成分(b)から空間的に分離されている。
【0015】
上記に定義する注入可能な骨空隙充填剤組成物のための多成分系はさらに、骨を例えば増強、強化、支持、修復、再建、治癒、または充填するのに適した任意の他の成分、具体的には骨誘導剤、成長因子、化学療法剤または薬理作用剤、生物活性剤、硬化および/または接着化合物、ならびに鉱物質添加剤を含んでもよい。これらの化合物は、本発明に従う多成分系の成分(a)〜(d)のいずれの中に含まれていてもよく、または追加の成分として含まれていてもよい。
【0016】
本発明の一例によれば、上記に定義する多成分系のフィブリノゲン成分(a)はさらに、細胞外マトリックスタンパク質類、例えばフィブロネクチン、細胞関連タンパク質類、他の血漿由来タンパク質類、例えば血液凝固因子XIII(FXIII)およびプロテアーゼ類、およびプロテアーゼ阻害剤、ならびにそれらの混合物の1つまたは複数を含んでもよい。本発明に従うフィブリノゲン溶液は、科学的および/または市販のフィブリノゲン組成物、例えば市販のフィブリノゲン溶液のための最新技術において含まれている任意の添加剤も含んでよい。
【0017】
用語「フィブリノゲン」は、フィブリノゲン自体だけでなく、任意の凝固形成性物質、具体的には凝固形成性フィブリノゲン誘導体、例えば「フィブリン1」も包含する。
【0018】
多成分系の成分(a)中のフィブリノゲンの量は、例えば約10〜約200mg/ml、具体的には約30〜約150mg/mlまたは約75〜約115mg/mlである。
【0019】
本発明に従う多成分系のトロンビン成分(b)はさらに、当技術分野で知られている追加の化合物、および成分(c)と(d)の一方または両方、特に可塑剤成分(c)を含んでもよい。トロンビンの使用量に対して、特定の制限はない。本発明の一例では、前記トロンビン成分(b)中のトロンビンの量は、最終凝固組成物において少なくとも約1IU/ml、具体的には約30IU/mlであるような量である。
【0020】
用語「トロンビン」は、トロンビン自体だけでなく、成分(a)に対して任意のゲル化誘導または凝固誘導物質、例えば生理的に許容できるアルカリ性緩衝系も包含する。
【0021】
本明細書では、用語「可塑剤」は、最終凝固組成物の特性、例えば粘性、弾性挙動、または機械的安定性を改変するのに有用である任意の適切な物質を包含する。本発明の一実施形態では、上記に定義する多成分系の可塑剤は、オスモル濃度が低く、フィブリン集合が適切な程度で起こり得る。
【0022】
本発明の一例では、本発明に従う多成分系の適切な可塑剤は、少なくとも1つの生分解性水溶性有機化合物を含む。
【0023】
本明細書では、「生分解性水溶性有機化合物」という表現はさらに、生物学的環境で分解することができ、水に例えば約10℃〜約40℃の範囲の温度で少なくとも十分に可溶であるすべての化合物を包含する。
【0024】
上記に定義する多成分系の可塑剤の例は、水溶性造影剤、ポリエチレングリコール類、多価アルコール類、具体的にはグリセロール、単糖類、二糖類、三糖類、および多糖類、ならびにそれらの任意の組合せからなる群から選択される。
【0025】
本発明の一例では、本発明に従う多成分系の適切な造影剤は、少なくとも1つのヨウ素含有有機化合物を含む。本発明のさらなる例では、ガドリニウムなどの希土類を含有する有機化合物を使用することができる。
【0026】
本明細書では、用語「ヨウ素含有有機化合物」は、物理的結合または化学的結合、例えば共有結合または配位結合している少なくとも1つのヨウ素原子および/またはヨウ素イオンを含有するすべての化合物を包含する。必要に応じて変更を加えて、同じ定義を上記の希土類を含有する有機化合物に適用する。
【0027】
造影剤の例は、ジアトリゾエート(メグルミン)、ヨーデコール、イオジキサノール、イオフラトール、イオグルアミド、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオプロミド、イオトロール、イオベルソール、イオキサグレート、およびメトリザミド、ならびにそれらの混合物であるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の一例によれば、成分(c)中の可塑剤の量は、最終凝固組成物において、約10w/v%〜約80w/v%、具体的には約15w/v%〜約60w/v%または約20w/v%〜約40w/v%の範囲の量である。
【0029】
用語「粒子」は、当技術分野で知られている粒子形状または形態の任意のタイプ、例えば球状、角状、または中空を包含する。
【0030】
本発明の一実施形態では、本発明に従う多成分系の粒子は、生分解性および/または生体適合性、無毒性、非水溶性、無機性および/または有機性である。粒子は、例えばカルシウム塩、具体的にはリン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムの多形体、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、高分子化合物、具体的にはポリアクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリトリメチレンカーボネート、ポリエチレングリコール、およびそれらのランダムまたは規則性コポリマー、生分解性または生体適合性のガラス、およびセラミック、ならびにそれらの任意の組合せからなる群から選択される物質を含む。一例では、粒子は、Ca/P比が約1.5〜約2の範囲である、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、およびリン酸カルシウム、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。本発明の粒子としてはさらに、成分(d)の意味で使用することが当技術分野で知られているすべての市販化合物および/または混合物が挙げられる。別の例によれば、本発明の多成分系の前記粒子は、直径が約100μm未満、例えば約50μm未満である。本発明の一具体例では、成分(d)中の粒子の量は、最終凝固組成物に対して約1w/w%〜約50w/w%、具体的には約10w/w%〜約45w/w%または約30w/w%〜約40w/w%の範囲である。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、上記に定義する多成分系の成分(a)中のフィブリノゲンの量は、約10mg/ml〜約200mg/mlであり、成分(b)中のトロンビンの量は、最終凝固組成物において少なくとも約1IU/mlであるような量であり、成分(c)中に含まれる可塑剤の量は、最終凝固組成物において約10w/v%〜約80w/v%であるような量であり、成分(d)中の粒子の量は、最終凝固組成物に対して約1w/w%〜約50w/w%である。
【0032】
本発明の一具体例によれば、上記に定義する多成分系の成分(a)中のフィブリノゲンの量は、約75mg/ml〜約115mg/mlであり、成分(b)中のトロンビンの量は、最終凝固組成物において約25IU/ml〜約50IU/mlであるような量であり、成分(c)中の可塑剤の量は、最終凝固組成物中約30w/v%〜約50w/v%であるような量であり、成分(d)中の粒子の量は、最終凝固組成物に対して約30w/w%〜約40w/w%である。
【0033】
本発明の別の実施形態では、注入可能な骨空隙充填剤組成物のための多成分系は、
フィブリノゲンを含む成分(a);
トロンビンを含む成分(b);
少なくとも1つの可塑剤を含む成分(c);および
直径約200μm以下の粒子を含む成分(d)
を含み、成分(a)〜(d)の1つもしくは複数またはすべては固体の形で存在する。
【0034】
本発明によれば多成分系は、溶液または分散液または固体、例えば凍結乾燥物、あるいはそれらの任意の組合せの形の成分を含有することができる。さらに、前記多成分系中の各成分は、前記多成分系の貯蔵、輸送、または使用に適した容器中に存在してもよい。本発明に従う多成分系で使用することができる容器は全く限定されないが、任意のサイズ、材料、または形状の容器、例えばバイアルまたは注射器が挙げられる。
【0035】
さらに、前記多成分系の各成分は、例えば異なる容器に入れておいてもよく、あるいは任意の組合せで同じ容器に存在させてもよい。例えば、成分(b)と(c)の組合せで1つの容器に存在してもよく、また成分(a)と(d)の組合せでそれぞれに異なる容器に存在してもよい。
【0036】
本発明によれば、容器は、例えば1つまたは複数の固体成分、および前記容器において分離手段によって前記成分から分離された溶媒を含んでもよく、1つまたは複数の成分のそれぞれの溶液は前記分離手段を中断または取り除くことによって調製することができる。本発明の多成分系の成分(a)〜(d)は、すぐに使用できる状態の混合物として存在することもできる。
【0037】
さらに、1つまたは複数の容器中に存在する前記成分(a)〜(d)は、上記に定義する多成分系を含むキットの一部分としてもよい。キットはさらに、本発明の多成分系で使用することができる任意の追加の化合物、例えば助剤、緩衝塩、または緩衝溶液を含んでもよい。上記に定義するキットは、成分を混合するための手段、例えば注射器、ルアーアダプタ、チューブ、外容器なども含んでもよい。
【0038】
本発明の別の態様は、注入可能な骨空隙充填剤組成物であって、
フィブリンを含む成分(a);
トロンビンを含む成分(b);
少なくとも1つの可塑剤を含む成分(c);および
直径約200μm以下の粒子を含む成分(d)
を含む組成物に関する。
【0039】
本発明の一例によれば、注射可能な骨空隙充填剤組成物は、上記に定義する多成分系から、例えば前記多成分系の成分同士を混合し、かつ/または前記成分を均質化することによって調製される。注入可能な骨空隙充填剤組成物の調製は、任意の適切な温度、具体的には約18℃〜約37℃の範囲の温度、例えば25℃で実施することができる。
【0040】
上記に定義する注入可能な骨空隙充填剤組成物はさらに、骨を例えば増強、強化、支持、修復、再建、治癒、または充填するのに適した任意の他の成分、具体的には骨誘導剤、成長因子、化学療法剤または薬理作用剤、生物活性剤、硬化および/または接着化合物、ならびに鉱物質添加剤を含んでもよい。これらの化合物および/または作用剤は、マトリックスに化学的に結合し、粒子状成分、例えばカルシウム塩含有粒子に吸着し、フィブリンマトリックスに捕捉され、または自由分子/薬物粒子、例えば粉末として含有される可能性がある。
【0041】
本発明に従う注入可能な骨空隙充填剤組成物の成分(b)〜(d)は、上記に特徴付けられた多成分系について定義されたものと同じである。
【0042】
用語「フィブリン」は、完全凝固フィブリノゲンを意味するだけでなく、さらにトロンビンを使用してフィブリノゲンからフィブリンを生成中に生じることがあるフィブリンとフィブリノゲンの任意の混合物も包含し、したがって任意の比のフィブリノゲン/フィブリン、ならびに骨の非石灰化部分または中空部分に注入された最終組成物に悪影響を与えない限り考え得る任意のグレードのゲル化および/または凝固を包含する。本発明の注入可能な骨空隙充填剤組成物のフィブリン成分(a)にはさらに、フィブリノゲンを少量しか含まないフィブリン、または前記フィブリンに残されたフィブリノゲンが全くないフィブリンが含まれる。さらに、用語「フィブリン」はさらに、上記に定義する成分(a)の部分的または完全にゲル化または凝固した形も包含する。
【0043】
本発明の一例によれば、上記に定義する注入可能な骨空隙充填剤組成物の前記フィブリン成分(a)中のフィブリンの量は、最終凝固組成物において約5mg/ml〜約100mg/ml、具体的には約15mg/ml〜65mg/ml、または約30mg/ml〜65mg/mlである。
【0044】
別の実施例によれば、本発明の注入可能な骨空隙充填剤組成物の前記フィブリン 成分(a)中のフィブリンの量は、最終凝固組成物において約5mg/ml〜約100mg/mlであり、成分(b)中のトロンビンの量は、最終凝固組成物において少なくとも約1IU/mlであり、成分(c)中に含まれる可塑剤の量は、最終凝固組成物中約10w/v%〜約80w/v%であり、成分(d)中の粒子の量は、最終凝固組成物に対して約1w/w%〜約50w/w%である。
【0045】
本発明によれば、上記に定義する注入可能な骨空隙充填剤組成物は、ゲル化または凝固した状態であり、骨の非石灰化部分または中空部分に注入するのに適した粘性を有し、前凝固を行った液体、ゲル化、または凝固した状態において適用してもよい。
【0046】
本明細書では、用語「ゲル化」は、初期状態に比べた場合に高粘性である任意の状態を意味する。これは、例えばフィブリンのフィブリノゲンからの生成、または少なくとも1つの固相および少なくとも1つの液相の微細分散系、具体的にはコロイドにおいて観察することができる。さらに、用語「ゲル化」は、当技術分野で知られているゲル化のすべての状態を包含する。
【0047】
用語「凝固した」は、例えばフィブリンを含むゲルを意味し、当技術分野で知られている任意の種類の凝固状態を包含する。
【0048】
本発明によれば、注入可能な骨空隙充填剤組成物の粘性は、用途、すなわち治療対象の骨障害に依存し、当業者の常識の範囲内で調整される。例えば、骨嚢胞を充填するための注入可能な組成物は、より低量のフィブリンおよび/またはより低量のカルシウム塩含有粒子を含有する。骨の非石灰化部分を置換するための注入可能な組成物は、より高量のフィブリンおよび/またはより高量のカルシウム塩含有粒子を含有する。本発明の一例によれば、本発明の骨空隙充填剤組成物の粘性は、約100mPas〜約1000Pasである。
【0049】
本発明の別の態様は、骨障害患者において骨空隙を充填する方法であって、上記に特徴付けしたような注入可能な骨空隙充填剤組成物を前記骨の非石灰化または中空部分に注入することを含む方法に関する。
【0050】
本明細書では、用語「患者」は、骨障害対象者を意味し、哺乳動物、特にヒトを包含する。
【0051】
上記に定義する骨空隙を充填する方法は、ある特定の治療モードに限定されず、任意の種類の注入技法、例えば経皮注入を含む。本発明の一具体例によれば、上記に定義する骨空隙を充填する方法は、経皮的骨造成であり、椎体形成術および椎骨形成術を含む。
【0052】
さらに、骨、例えば外傷または骨折を含めて骨障害を患っているヒトにおける骨を強化、支持、修復、再建、治癒、造成、または充填するために、本発明に従う骨空隙を充填する方法を使用することができる。別の用途分野は、例えば脊椎固定である。
【0053】
このような骨障害の例は、骨粗鬆症、骨粗鬆症性骨折、任意のタイプの骨の外傷性骨折、良性および悪性の病変、ならびに外科的に作製された欠損である。
【0054】
本発明に従う骨空隙充填剤組成物は、骨欠損部または空隙部の治療で使用できる組成物の要件をすべて満たしていることは有利である。骨空隙充填剤組成物は、滅菌可能であり、使用が容易であり、そのレオロジーによって、注入が可能になる。驚くべきことに、カルシウム塩を組成物中の粒子状成分として使用する場合、上述したように骨障害の治癒過程において非常に有益である強い石灰化前線を実現することが可能である。さらに、本発明の骨空隙充填剤は、完全再吸収性であり、治癒過程において骨で置換される。有利なことには、前記骨空隙充填剤組成物は、発熱性が実質的になく、フィブリン単独より優れた機械的諸特性、具体的には通常はエラストマーで見られる機械的挙動を示す。驚くべきことに、本質的な特性、例えば粘性、機械的安定性、再吸収性などはすべて、前記骨空隙充填剤組成物に含まれている粒子および可塑剤のタイプおよび含有量を調整することによって効果的に微調整することができる。
【0055】
本発明を下記の実施例でさらに説明するが、これらに限定されない。
【実施例】
【0056】
(実施例1 フィブリン、グリセロール、およびリン酸カルシウムを含有する骨空隙充填剤組成物の調製)
材料:
フィブリンシーラント溶液:凍結乾燥フィブリノゲン粉末をアプロチニン溶液で全凝固性タンパク質濃度91mg/mlに再構成
イオジキサノール:5−[アセチル−[3−[アセチル−[3,5−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピルカルバモイル)−2,4,6−トリヨード−フェニル]−アミノ]−2−ヒドロキシ−プロピル]−アミノ]−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2)4,6−トリヨード−ベンゼン−1,3−ジカルボキサミド
イオヘキソール:5−(アセチル−(2,3−ジヒドロキシプロピル)アミノ)−N,N’−ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,4,6−トリヨード−ベンゼン−1,3−ジカルボキサミド
粒子:リン酸三カルシウム粒子(TCP)、35μm、球状(プラズマバイオタル、英国ダービー(Plasma Biotal, Derby UK))
トロンビン500IU/ml:凍結乾燥トロンビン粉末を5mlのトロンビン緩衝液で濃度500IU/mlに再構成
トロンビン緩衝液:HO中40mM CaCl
【0057】
40%の可塑剤(グリセロール)および10IU/mlトロンビン溶液を、トロンビン希釈緩衝液(再蒸留水中40mM CaCl)中で調製する。次いで、溶液を均質化する。この溶液を遠心にかけて、気泡を除去して、0.22μmのフィルターで濾過することによって滅菌する。フィブリノゲンを、トロンビン/可塑剤(1:1の比)と混合する(したがって、ゲル化凝固体中の可塑剤濃度は半分になる)。これに対して、2mlのグリセロール/トロンビン溶液を5mlの注射器に移す。2mlのフィブリノゲン(91mg/ml)を5mlの別の注射器に移す。粒子(約2μm)を最終凝固体積の重量百分率(w/v)で組み込む。これらを計量し、別の5mlの注射器に入れる。
【0058】
粒子およびトロンビンを含む注射器をルアーアダプタを介して連結し、トロンビン/グリセロールおよび粒子を注射器から注射器に内容物を慎重に移すことによって均質化する。
【0059】
トロンビン/グリセロール/粒子およびフィブリノゲンを含有する注射器をルアーアダプタを介して連結し、内容物を均質化する。
【0060】
材料は約1分間液体のままである。この時間に、欠損部に注入することができ、あるいは数分間後、予形成ゲルとして送達することができる。
【0061】
(実施例2 フィブリン、造影剤、およびリン酸カルシウムを含有する骨空隙充填剤組成物の調製)
80%または60%の可塑剤(造影剤イオジキサノールまたはイオヘキソール)および75IU/mlのトロンビン溶液をトロンビン希釈緩衝液(再蒸留水中40mM CaCl)中で調製する。次いで、溶液を均質化する。この溶液を遠心にかけて、気泡を除去して、0.22μmのフィルターで濾過することによって滅菌する。フィブリノゲンを、1:1の比のトロンビン/造影剤(CA)と混合する(したがって、ゲル化凝固体中の可塑剤濃度は40%または30%に半減する)。これに対して、ロンビン/造影剤溶液2mlを5mlの注射器に移す。2mlのフィブリノゲン(91mg/ml)を5mlの別の注射器に移す。粒子(約2μm)を最終凝固体積の重量百分率(w/v)で組み込む。これらを計量し、別の5mlの注射器に入れる。
【0062】
粒子およびトロンビンを含む注射器をルアーアダプタを介して連結し、トロンビン/CAおよび粒子を注射器から注射器に内容物を慎重に移すことによって均質化する。
【0063】
トロンビン/CA/粒子およびフィブリノゲンを含有する注射器をルアーアダプタを介して連結し、内容物を均質化する。
【0064】
材料は約1分間液体のままである。この時間に、欠損部に注入することができ、あるいは数分間後、予形成ゲルとして送達することができる。
【0065】
異なる濃度の造影剤およTCPのそれぞれの凝固体の粘性が図1からわかる。可塑剤としてイオジキサノールを含有する組成物のレオロジーデータおよびカルシウム塩の増加量が、図2からわかる。
【0066】
(実施例3 ウサギ長骨の骨空隙を充填するための使用)
注入可能な骨空隙充填剤を実施例2に従って調製した。
【0067】
ウサギ長骨から骨髄を除去して、中空骨を生成する。次いで、プラスチック製カテーテルを使用して、注入可能な骨空隙充填剤を中空骨に注入する。この手順の後、プラスチック製カテーテルは前記骨の中空部分から容易に取り外される(図3参照)。
【0068】
(実施例4 ヒツジにおける注入可能な骨空隙充填剤組成物のインビボ試験)
脛骨体の内筋膜を摘出し、脛骨を曝露する。プレートを脛骨体の輪郭に合わせ、ネジを使用して骨に固定する。プレートを再び取り外し、1cmの標準化全層欠損部が生成される。セグメントを除去し、プレートを再配置し、ネジを再挿入する。その後、注入可能な骨造成組成物を欠損部に充填し、創傷を縫合で閉じる。
【0069】
動物は、4週間、8週間、および12週間(X線評価)フォローアップする。12週時点に、動物を屠殺し、脛骨を最終分析のために摘出する(μCTおよび組織診断)。
【0070】
本発明に従う骨空隙充填剤組成物および得られた凝固体は優れた特性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入可能な骨空隙充填剤組成物のための多成分系であって、
フィブリノゲンを含む成分(a);
トロンビンを含む成分(b);
少なくとも1つの可塑剤を含む成分(c);および
直径約200μm以下の粒子を含む成分(d)
を含む多成分系。
【請求項2】
前記成分(a)〜(d)が溶液で存在し、少なくとも成分(a)は成分(b)から空間的に分離されている、請求項1に記載の多成分系。
【請求項3】
前記可塑剤が少なくとも1つの生分解性水溶性有機化合物を含む、請求項1に記載の多成分系。
【請求項4】
前記可塑剤が、造影剤、ポリエチレングリコール、多価アルコール、グリセロール、単糖類、二糖類、三糖類、および多糖類、ならびにそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項3に記載の多成分系。
【請求項5】
前記粒子が、カルシウム塩、高分子化合物、生分解性または生体適合性のガラス、およびセラミックからなる群から選択される物質を含む、請求項1に記載の多成分系。
【請求項6】
前記物質が、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムの多形体、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリトリメチレンカーボネート、ポリエチレングリコール、およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項5に記載の多成分系。
【請求項7】
前記物質が、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、およびリン酸カルシウム、ならびにそれらの混合物からなる群から選択され、かつ/または前記粒子のCa/P比が約1.5〜約2の範囲である、請求項6に記載の多成分系。
【請求項8】
成分(a)中のフィブリノゲンの量が、約10mg/ml〜約200mg/mlである、請求項1に記載の多成分系。
【請求項9】
成分(b)中のトロンビンの量が、最終凝固組成物において少なくとも約1IU/mlであるような量である、請求項1に記載の多成分系。
【請求項10】
成分(c)中の可塑剤は、最終凝固組成物において約10%〜約80w/vであるような量である、請求項1に記載の多成分系。
【請求項11】
成分(d)中の粒子の量が、最終凝固組成物に対して約1〜約50w/w%である、請求項1に記載の多成分系。
【請求項12】
成分(a)中のフィブリノゲンの量が、約10mg/ml〜約200mg/mlであり、成分(b)中のトロンビンの量が、最終凝固組成物において少なくとも約1IU/mlであるような量であり、成分(c)中に含まれる可塑剤の量が、最終凝固組成物において約10w/v%〜約80w/v%であるような量であり、成分(d)中の粒子の量が、最終凝固組成物に対して約1w/w%〜約50w/w%である、請求項1に記載の多成分系。
【請求項13】
前記粒子の直径が約100μm未満である、請求項1に記載の多成分系。
【請求項14】
前記粒子の直径が約50μm未満である、請求項12に記載の多成分系。
【請求項15】
注入可能な骨空隙充填剤組成物のための多成分系であって、
フィブリノゲンを含む成分(a);
トロンビンを含む成分(b);
少なくとも1つの可塑剤を含む成分(c);および
直径約200μm以下の粒子を含む成分(d)
を含み、成分(a)〜(d)の1つもしくは複数またはすべてが固体の形で存在する多成分系。
【請求項16】
注入可能な骨空隙充填剤組成物であって、
フィブリンを含む成分(a);
トロンビンを含む成分(b);
少なくとも1つの可塑剤を含む成分(c);および
直径約200μm以下の粒子を含む成分(d)
を含む組成物。
【請求項17】
前記可塑剤が少なくとも1つの生分解性水溶性有機化合物を含む、請求項16に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項18】
前記可塑剤が、造影剤、ポリエチレングリコール類、多価アルコール類、単糖類、二糖類、三糖類、および多糖類、ならびにそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項16に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項19】
前記粒子が、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムの多形体、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリトリメチレンカーボネート、ポリエチレングリコール、およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項16に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項20】
前記粒子が、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、およびリン酸カルシウム、ならびにそれらの混合物からなる群から選択され、かつ/または前記粒子のCa/P比が約1.5〜約2の範囲である、請求項19に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項21】
成分(a)中のフィブリンの量が、最終凝固組成物において約5mg/ml〜約100mg/mlである、請求項16に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項22】
成分(b)中のフィブリンの量が、最終凝固組成物中に少なくとも約1IU/mlである、請求項16に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項23】
成分(c)中の可塑剤の量が、最終凝固組成物において約10w/v%〜約80w/v%である、請求項16に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項24】
成分(d)中の粒子の量が、最終凝固組成物に対して約1w/v%〜約50w/v%である、請求項16に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項25】
成分(a)中のフィブリンの量が、最終凝固組成物において約5mg/ml〜約100mg/mlであり、成分(b)中のトロンビンの量が、最終凝固組成物において少なくとも約1IU/mlであり、成分(c)中に含まれる可塑剤の量が、最終凝固組成物において約10w/v%〜約80w/v%であり、成分(d)中の粒子の量が、最終凝固組成物に対して約1w/w%〜約50w/w%である、請求項16に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項26】
前記粒子の直径が約100μm未満である、請求項16に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項27】
前記粒子の直径が約50μm未満である、請求項26に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項28】
前記組成物が、ゲル化または凝固した状態であり、骨の非石灰化部分または中空部分に注入するのに適した粘性を有する、請求項16に記載の注入可能な骨空隙充填剤組成物。
【請求項29】
骨障害患者において骨空隙を充填する方法であって、
フィブリンを含む成分(a);
トロンビンを含む成分(b);
少なくとも1つの可塑剤を含む成分(c);および
直径約200μm以下の粒子を含む成分(d)
を含む組成物を前記骨の非石灰化部分または中空部分に注入することを含む方法。
【請求項30】
前記骨障害が、骨粗鬆症、骨粗鬆症性骨折、任意のタイプの骨の外傷性骨折、良性および悪性の病変、ならびに外科的に作製された欠損からなる群から選択される、請求項29に記載の骨空隙を充填する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−538162(P2009−538162A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511353(P2009−511353)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003381
【国際公開番号】WO2007/137652
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】