洗浄媒体、洗浄媒体の製造方法及び乾式クリーニング装置
【課題】洗浄対象物が微細な穴や凹部を有していても洗浄ムラの発生を高精度に抑制でき、乾式クリーニングにおける洗浄能力向上に寄与できる洗浄媒体を提供する。
【解決手段】平行四辺形の洗浄媒体PC−1は、使用前の状態において微細な穴の内部に進入できる鋭角部SCを有しているとともに、その面形状内に、一辺に平行に形成されたライン状の割れ誘導部LYを複数有している。洗浄中に繰り返し加わる衝突等の応力により、割れ誘導部LYを境界に破断し、分離した分離片には、新たなエッジ及び鋭角部NSCが形成される。これにより、洗浄プロセス中全体に亘って、微細な穴の内部の汚れを除去できる洗浄能力が維持される。
【解決手段】平行四辺形の洗浄媒体PC−1は、使用前の状態において微細な穴の内部に進入できる鋭角部SCを有しているとともに、その面形状内に、一辺に平行に形成されたライン状の割れ誘導部LYを複数有している。洗浄中に繰り返し加わる衝突等の応力により、割れ誘導部LYを境界に破断し、分離した分離片には、新たなエッジ及び鋭角部NSCが形成される。これにより、洗浄プロセス中全体に亘って、微細な穴の内部の汚れを除去できる洗浄能力が維持される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片状の洗浄媒体を気流により飛翔させ、洗浄対象物に当てて該洗浄対象物(以下、「クリーニング対象物」ともいう)のクリーニングを行う乾式クリーニングに用いられる洗浄媒体、該洗浄媒体の製造方法及び該洗浄媒体を用いた乾式クリーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製造業において、製品あるいは製造に用いる治具を洗浄する工程では、洗浄液や溶剤を用いた洗浄方法が一般的であるが、乾燥工程や廃液処理が不要な乾式洗浄方式の1つとして、フィルム片等の薄片状の洗浄媒体を空気流により飛翔させ、洗浄対象物に当てて洗浄する技術が提案されている。
膜状に付着した強固な汚れを除去するためには、フィルム片等の鋭いエッジによる食い込み除去作用が有効であることが既に知られており、特許文献1には、洗浄に伴い適宜折れて新しいエッジを生成するような材質特性や、溝部を有する洗浄媒体の構造について開示されている。
特許文献1の図9乃至13には、矩形状の洗浄媒体の一面又は両面に、一辺に平行な溝を形成し、該溝の部分で折れて分離した各矩形片に新たなエッジが形成される構成が記載されている。分離前後における洗浄媒体の角部は略直角となっている。
特許文献1の図14、15、18、19には、溝の断面形状の変形例が記載されており、同図16、17には、同図12、13で示した断面矩形の溝を複数形成する例が記載されている。
特許文献1の図20からは、溝を気流の通路として利用し、静電気力で壁面に付着した洗浄媒体を剥離する内容が記載されているものと読み取れる。
また、特許文献1の段落「0032」には、洗浄媒体の面形状としては、円板状、三角形状、方形状、星形状等の種々の形状があり、それらが混在した形状でもよいことが記載されている。
このような乾式クリーニング方式は、製品のリサイクル工程や電子基板の自動はんだ付け工程で用いる治具の洗浄に活用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、今までの洗浄媒体では、広い面積を効率的に洗浄するには適していたが、微細な穴や凹部の内部まで洗浄することは難しいという問題があった。すなわち、洗浄対象物が微細で複雑な形状の洗浄面を有している場合には、洗浄ムラを避けられなかった。
具体的に説明すると、この種の洗浄対象物には微細な穴や凹部が存在する洗浄面を有するものが少なくないが、洗浄媒体の大きさが微細な穴や凹部よりも大きい場合、これらの内部には洗浄媒体の鋭角部しか進入できない上、洗浄媒体を繰り返し使用すると鋭角部は徐々に潰れていって、微細な穴等への進入機会は時間と共に低下してしまうことになる。
例えば、プリント基板の実装工程で使用されるメタルマスクの場合、穴は小さいもので直径0.2mm程度である。
一方、このような微細な穴などをターゲットとして洗浄媒体を小さくすると、質量に基づく飛翔エネルギー(洗浄対象物に対する衝突エネルギー)が小さくなって基本的な洗浄能力が低下することを避けられない。
【0004】
また、微細な穴や凹部の内部を洗浄するためにフィルム片等を微細に加工するにはコストがかかるという問題があった。
また、特許文献1に記載されているような、溝を形成して該溝部分で単に折れやすくした洗浄媒体では、新しいエッジの形状がランダムに生じてコントロールできず、微細な穴等の内部を洗浄するに適した鋭角の角部が洗浄中に生成される確率は極めて低いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたもので、洗浄対象物が微細な穴や凹部を有していても洗浄ムラの発生を高精度に抑制でき、乾式クリーニングにおける洗浄能力向上に寄与できる洗浄媒体の提供を、その主な目的とする。
また、そのような洗浄媒体を低コストで加工するのに適した製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、洗浄媒体が折れる(破断する)ときのランダム性を無くして規則性を持たせ、微細な穴や凹部に進入できる鋭角部が必然的に生じるようにした。
換言すれば、洗浄媒体の折れを意図的にコントロールするようにしたものである。
【0007】
具体的には、本発明は、薄片状の洗浄媒体を気流により飛翔させ、洗浄対象物に当てて該洗浄対象物のクリーニングを行う乾式クリーニングに用いられる洗浄媒体において、割れを誘導する割れ誘導部を有し、前記割れ誘導部は、該割れ誘導部を境界にして破断したときに、分離片の少なくとも一方に少なくとも1つ以上の鋭角の角部が生じるように形成されていることを特徴とする。
また、本発明は、洗浄媒体の製造方法において、帯状の基材に、該基材の長手方向に沿って前記割れ誘導部を複数形成した後、前記基材をその長手方向に対して斜めに切断して複数の洗浄媒体を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微細な穴や凹部の内部まで洗浄でき、且つ、その能力を洗浄プロセス全体に亘って維持できるので、洗浄ムラの無い高品質の乾式クリーニングを効率的に行うことができる。
また、そのような洗浄能力を持つ洗浄媒体を低コストで作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る洗浄媒体の平面図である。
【図2】洗浄媒体が脆弱部で折れることによって新たな鋭角部が生成する状態を示す図である。
【図3】洗浄媒体が脆弱部を有しない場合の鋭角部の経時的な磨耗状態を示す図である。
【図4】割れ誘導部が形成された洗浄媒体の写真画像による斜視図である。
【図5】割れた後の洗浄媒体の写真画像による図である。
【図6】洗浄媒体の鋭角部の角度と微細な穴の内部への到達しやすさとの関係を説明するための図である。
【図7】洗浄媒体の鋭角部の角度と細孔への進入確率との関係を示す実験グラフである。
【図8】図1で示した脆弱部の断面形状を示す図である。
【図9】洗浄媒体が脆弱部で折れる状態を示す図である。
【図10】脆弱部の変形例における断面形状を示す図である。
【図11】割れ誘導部の変形例を示す図で、(a)は割れが起きる前の初期状態を示す図、(b)は2つに割れた後の状態を示す図である。
【図12】割れ誘導部の他の変形例(ジグザグ)とその割れ方の順序を示す図である。
【図13】割れ誘導部の他の変形例(ミシン目)とその割れ方を示す図である。
【図14】平行四辺形の洗浄媒体の製造工程を示す図である。
【図15】台形状の洗浄媒体の製造工程を示す図である。
【図16】本実施形態に係る乾式クリーニング装置の要部を示す図である。
【図17】図10で示した乾式クリーニング装置におけるクリーニング動作を説明するための図である。
【図18】同乾式クリーニング装置によるクリーニングの一例を説明するための図である。
【図19】本発明に係る洗浄媒体を用いた実際の洗浄における洗浄前の状態を示す写真画像である。
【図20】洗浄後の状態を示す写真画像である。
【図21】特許文献1における洗浄媒体の衝突時のパターンを示す参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図を参照して説明する。
まず、本実施形態に係る洗浄媒体の特徴を説明する前に、乾式クリーニング装置による洗浄のメカニズムを説明する。
図16は、乾式クリーニング装置の実施の1形態を説明するための図である。図16において、符号10は乾式クリーニング筐体を示している。以下、乾式クリーニング筐体を単に「筐体」と称する。
筐体10は、図16の上下の図から明らかなように、円錐形状の中空体を、互いに逆向きにして、その底面側で合わせた形態となっている。図16の下図に示す符号10Aで示す部分を「上部筐体」、符号10Bで示す部分を「下部筐体」と称する。これら上部筐体10Aと下部筐体10Bとは一体として形成されている。
【0011】
上部筐体10Aと下部筐体10Bとの間には、これらの筐体の円錐形状の底面となる部分に板状の多孔手段としての分離板10Cが設けられている。
上部筐体10Aの内部には、上部筐体10Aの円錐軸を共通の軸とするように、円筒状の内筒部材10Dが筐体10の一部として設けられ、内筒部材10Dの、図における下の部分は分離板10Cに当接している。
下部筐体10Bの頂部側(図で下方の部分)は筒状に開口して吸気口を構成し、吸気ダクト20Bを介して吸引装置20Aに連結されている。
吸引装置20Aと吸気ダクト20Bとは吸気手段を構成する。吸引装置20Aとしては、真空モータや真空ポンプ、空気流や水流により低圧を発生させるタイプのものなどを適宜用いることができる。
【0012】
上部筐体10Aの底面に近い部分は円筒状となっており、この円筒状部分の一部に開口部10Eが形成されている。開口部10Eは、前記円筒状部分を円筒軸に平行な平断面により切断した形状であり矩形形状である。
上記円筒状部分は、中空シリンダ10Fにより貫通され、この中空シリンダ10Fは上部筐体10Aに一体化されている。以下、中空シリンダ10Fを「インレット10F」と称する。
インレット10Fの態位は、分離板10Cに略平行であり、その長手方向は、上部筐体10Aの円筒状部分の半径方向に対して傾き、内筒部材10Dの周面の接線に略平行な方向を持ち、上部筐体10A内に開いた出口側は、開口部10Eに対向するように位置している。インレット10Fの内部は通気路をなしている。
【0013】
分離板10Cはパンチングメタルのような穴が空いた円板状の部材であって、図16の下図に示すように、下部筐体10Bと上部筐体10Aとの境目の部分に設けられて、上部協体10A内と下部筐体10B内とを隔てている。
図16の上図に符号PCで示すのは「薄片状の洗浄片」であり、この洗浄片PCの集合体が洗浄媒体をなす。以下、PCを洗浄媒体としても表示する。
【0014】
以上のように構成される乾式クリーニング装置によるクリーニング対象物のクリーニング動作を、図17を参照して説明する。
図17の上下の図は、図16に即して説明した乾式クリーニング装置を、図16に倣って示している。図17(b)は、開口部10Eを解放した状態で吸気手段による吸気を行っている状態、図17(a)は、開口部10Eをクリーニング対象物COの表面で塞いだ状態を示している。
【0015】
クリーニング動作に先立って、洗浄媒体PCを乾式クリーニング筐体10内の上部筐体10A内に保持させる。このためには、薄片状の洗浄片PCの適量を、上部筐体10Aに形成された開口部10Eから上部筐体10A内に適宜の方法で取り込めば良い。
例えば、図17(b)に示すように、吸引装置20Aを駆動して吸気ダクト20Bにより下部筐体10B側から筐体内部の空気を吸気して、上部筐体10A内を負圧状態とし、この負圧による空気流AF(図17(b)上図)により、所望量の洗浄片PCを、開口部10Eから上部筐体10A内に吸引して「洗浄媒体」を上部筐体10A内に取り込むことができる。
【0016】
このように取り込まれた洗浄媒体は、図17(b)下図に示すように、多孔手段である分離板10Cに吸い付けられて上部筐体10A内に保持される。
上部筐体10A内の空気は吸気手段により吸気され、上部筐体10A内は負圧状態となっているので、筐体外部の空気がインレット10Fを通して上部筐体内に導入されるが、このときのインレット10F内の流れは流速・流量ともに小さいので、筐体内に発生する旋回空気流RFは洗浄媒体を飛翔させる強さには至らない。
【0017】
上部筐体10A内に吸い込まれた薄片状の洗浄片PCは、上記の如く分離板10Cに付着し、分離板10Cの穴の部分を塞ぐので、吸い込まれる洗浄片PCの量が増えるに従い、分離板10Cの空気を通し得る穴の総面積が次第に減少して吸引力が低下する。
従って、上部筐体10A内にある程度の量の洗浄片PCが吸い込まれると、洗浄片PCの吸い込みは実質的に停止する。
このようにして、吸気手段の吸気能力に応じた量の洗浄片PCが吸い込まれて上部筐体10A内に洗浄媒体として保持される。
【0018】
このように、上部筐体10A内に洗浄媒体が保持されたら、図17(a)に示すように、上部筐体10Aの開口部10Eに、クリーニング対象物COの表面(クリーニングすべき表面で「汚れ」が付着している。)を密接させる。
開口部10Eがクリーニング対象物COの表面で塞がれると、開口部10Eからの吸気が止まるので、上部筐体10A内の負圧は一気に増大し、インレット10Fを通じて吸い込まれる空気量・流速ともに増大し、インレット10F内で整流され、インレット出口から上部筐体10A内に強い空気流となって吹き出す。
吹き出した空気流は、分離板10C上に保持されている洗浄片PCを「開口部10Eを塞いでいるクリーニング対象物COの表面」に向けて飛翔させる。
上記空気流は、旋回空気流RFとなって、上部筐体10Aの内壁に沿って円環状に流れつつ、一部は分離板10Cの穴を通って吸気手段により吸気される。
【0019】
このように上部筐体10A内を円環状に流れた旋回空気流RFが、インレット10Fの出口部に戻ると、インレット10Fを通して導入され、インレット出口部から吹き出す空気流が旋回空気流RFに合流しつつ加速する。このようにして上部筐体10A内に安定した旋回空気流RFが形成される。
洗浄媒体をなす洗浄片PCは、この旋回空気流により上部筐体10A内で旋回し、クリーニング対象物COの表面(の汚れ)に繰り返し衝突する。この衝突による衝撃で、上記汚れがクリーニング対象物COの表面から微小粒状あるいは粉状となって分離する。
分離した汚れは、分離板10Cの穴を通って吸気手段により乾式クリーニング筐体10の外部へ排出される。
【0020】
上部筐体10A内に形成される旋回空気流RFは、その旋回軸が、分離板10Cの表面(上部筐体10A側の面)に直交しており、旋回空気流RFは分離板10Cの上記表面に平行方向の気流となる。
このため、旋回空気流は分離板表面に吸い着けられた洗浄片PCに、横方向から吹き付けて洗浄片PCと分離板10Cの間に入り込み、分離板10Cに吸い付けられている洗浄片PCを分離板10Cから引き剥がして再度飛翔させる効果が生じる。
また、開口部10Eが塞がれて上部筐体10A内の負圧が増大して、下部筐体10B内の負圧に近くなるため、洗浄片PCを分離板10C表面に吸い付ける力も低下して、洗浄片PCの飛翔がより容易になる効果が生じる。
【0021】
旋回空気流RFは、一定の方向に気流が加速されるため高速の気流が生成しやすく、洗浄片PCの高速運動も容易となる。また、旋回空気流は多孔手段から吸い出されるまでに、内部で何周も循環するため、旋回空気流の流量は通気路から流れこむ流量の5〜6倍に達することが気流シミュレーションにより確認されている。流量が大きいため、より多量の洗浄媒体を飛翔させることができる。高速で旋回移動する洗浄片PCは、分離板10Cに吸い付けられにくく、洗浄片に付着した汚れが、遠心力により洗浄片から分離され易い。
【0022】
図18に、図16に示した乾式クリーニング装置によるクリーニングの一例を示す。
クリーニング対象物は、はんだペースト塗布工程で用いられるメタルマスクであり、符号100で示す。メタルマスク100には、多数のマスク開口部101が開口しており、これらマスク開口部の穴周辺にはんだペーストSPが付着している。この付着したはんだペーストSPが除去すべき汚れである。
乾式クリーニング筐体の下部筐体10Bの、吸気ダクト20Bとの接合部を手HDで握り、吸気状態で、上部筐体10Aの開口部10Eを被クリーニング部位に押し当てる。
開口部10Eが被クリーニング部位に押し当てられる以前は、上部筐体10A内は吸気され、洗浄媒体の洗浄片PCは、分離板10Cに吸い付けられているので、開口部10Eは図18に示す如く下方を向いているが、上部筐体10A内から洗浄片PCが外部へ漏れることが無い。勿論、開口部10Eが被クリーニング部位に押し当てられた以後は、筐体内が気密状態となり、洗浄媒体の漏れ出しはない。
【0023】
開口部10Eを被クリーニング部位に押し当てると、インレット10Fにより導入される流入気流が急増し、上部筐体10A内に強い旋回空気流RFを発生させ、分離板10Cに吸い付けられた洗浄片PCを飛翔させ、メタルマスク100の被クリーニング部位に付着したはんだペーストに衝突させてはんだペーストを除去する。
クリーニング作業者は、上述の如く筐体10を手HDに持ち、メタルマスク100に対して移動させて、被クリーニング部位を順次移動させ、付着したはんだペーストを全て除去することができる。
本発明に後述の洗浄媒体を用いた実際のクリーニング前後の例を図19、図20に示す。両図を比較すると、マスク開口部の穴周辺に付着したはんだペーストがきれいに除去されているのがわかる。
【0024】
被クリーニング部位に対して開口部を移動させる時に被クリーニング部位から開口部が離されても、洗浄媒体吸着・飛翔効果により、洗浄片PCが筐体内から漏れ出さないため、洗浄媒体を構成する洗浄片PCの数が維持され、洗浄媒体量の減少によるクリーニング性能の低下は生じない。
【0025】
従来(特許文献1)における洗浄媒体PCの折れ方や衝突時のパターンを、参考例として図21に示す。
以下において、「鉛筆硬度」とは、JIS K−5600−5−4に準拠した手法で計測したものであって、評価した薄片状の洗浄媒体に傷、へこみが付かない最も硬い鉛筆の芯番のことを意味する。
また、「耐折性」とは、JIS P8115に準拠して計測したものであり、薄片状の洗浄媒体をR=0.38mmで135度に曲げる動作を繰り返し、破損にいたるまでの往復回数を意味する。
【0026】
洗浄媒体が耐折性10未満の脆性材料である場合、図21(a)に示すように、洗浄媒体はバリが発生する前に中央から折れて新しいエッジを生じさせる。
これにより、洗浄媒体のエッジが維持される効果がある。洗浄媒体のエッジが維持されることにより洗浄媒体の衝突時の食い込み量が低下しないため、洗浄媒体の膜状の付着物に対する除去能力が径時劣化しない。
耐折性52以下の脆性材料である洗浄媒体を用いると、図21(b)に示すように、洗浄媒体が繰り返し衝突することによって発生するバリが洗浄媒体に残留せずに折れて分離されて排出される。バリが残留しないため洗浄媒体のエッジが維持される。
塑性変形し易い洗浄媒体の場合、図21(c)に示すように、洗浄媒体の端部の変形が大きくなり、接触面積の増大や衝撃力の緩和が起こる。この結果、衝突時の端部における接触力が分散されてしまい、洗浄能力が低下してしまう。そのため膜状の付着物に対する食い込み量が低下し、洗浄装置の洗浄効率が低下してしまう。
延性破壊する洗浄媒体の場合も、図21(d)で示すように、洗浄媒体の破面端部の塑性変形が大きくなり、接触面積の増大や衝撃力の緩和が起こる。この結果、衝突時の端部における接触力が分散されてしまい、洗浄能力が低下してしまう。そのため、膜状の付着物に対する食い込み量が低下し、洗浄装置の洗浄効率が低下してしまう。
特許文献1では、適宜新たなエッジが形成されて洗浄能力が低下しないように、洗浄媒体の鉛筆硬度と耐折性を最適化する材料選択を行っている。
【0027】
以下に、本実施形態に係る洗浄媒体PCの構成を詳細に説明する。
図1に本実施形態に係る洗浄媒体PCの面形状を示す。図1(a)は平行四辺形の洗浄媒体PC−1を、図1(b)は台形の洗浄媒体PC−2を、図1(c)は三角形の洗浄媒体PC−3をそれぞれ示している。ここで、「面形状」とは、媒体の厚み方向と直交する方向の面の形状を意味する。
平行四辺形の洗浄媒体PC−1には、その一辺である短辺e1に略平行に、且つ、長手方向に略等間隔に、ライン状の割れ誘導部LYが複数形成されている。台形の洗浄媒体PC−2においても同様に、上底又は下底に略平行に、且つ、高さ方向に略等間隔に、ライン状の割れ誘導部LYが複数形成されている。三角形の洗浄媒体PC−3においても同様に、底辺に略平行に、且つ、高さ方向に略等間隔に、ライン状の割れ誘導部LYが複数形成されている。
割れ誘導部は、洗浄媒体に衝突等の応力が作用したときに洗浄媒体の割れを誘起させる概念であり、「脆弱部」の概念を含むものである。
換言すれば、割れ誘導部は、洗浄媒体が割れて鋭角の角部が生じることについての偶然性を排除して、意図的に鋭角の角部が生じるための割れ方をコントロールするためのファクタである。
割れ誘導部LYは、洗浄媒体が洗浄対象物に衝突したときの応力等、洗浄媒体に繰返し加わる応力によって破断するようにその強度が設定されている。この強度設定については後述する。
【0028】
これらの洗浄媒体は、いずれも多角形の面形状を有しており、それぞれ複数(ここでは2つ)の鋭角部SCを有している。
上記のように、洗浄媒体PCは繰り返し加わる応力によって割れ誘導部LYを境界に破断するが、本実施形態に係る洗浄媒体PCは、破断する前(使用前)の状態においても、洗浄対象物COの微細な穴や凹部に進入できる鋭角の角部(以下、「鋭角部」と略す)SCを複数備えている。
したがって、洗浄媒体PCの破断の発生が少ない洗浄開始初期においても、微細な穴や凹部に対する洗浄能力、すなわちその内部に進入して汚れを除去する能力を持っている。
【0029】
図2は、本実施形態に係る洗浄媒体の破断状態を示している。
図2(a)は平行四辺形の洗浄媒体PC−1が3つの片に破断した状態を、図2(b)は台形の洗浄媒体PC−2が2つの片に破断した状態を、図2(c)は三角形の洗浄媒体PC−3が2つの片に破断した状態をそれぞれ示している。
いずれの洗浄媒体においても、洗浄プロセス中の破断後に、新たな鋭角部NSCが生成する。
したがって、破断が生じるまでに鋭角部SCの潰れが進行しても、破断後に新たな鋭角部NSCが生成するため、微細な穴や凹部に対する洗浄能力が洗浄プロセス中維持されることになる。
【0030】
洗浄媒体PCが割れ誘導部LYを有しない場合には、図3に示すように、例え鋭角部SCを有する多角形状であっても、鋭角部SCは衝突を繰り返すうちに、先端が磨耗あるいは折損してその鋭さが失われてしまう。
微細な穴や凹部に対する洗浄能力を維持するためには、新たな洗浄媒体を投入する必要があり、大量の洗浄媒体を消耗することになる。
これに対し、本実施形態に係る洗浄媒体PCでは、1つの洗浄媒体で段階的(経時的)に多くの鋭角部を利用できるため、洗浄媒体の消耗量を大幅に低減することが可能になる。
より多くの鋭角部を利用できるようにするには、複数の割れ誘導部のピッチは1〜3mm程度が好ましい。
【0031】
図4、図5に、割れ誘導部で割れる前後の洗浄媒体の実際の写真画像を示す。
図4に示すように、筋状ないし線状の割れ誘導部を形成した樹脂フィルム(洗浄媒体)は、使用に伴って徐々に割れ誘導部で割れて、図5のようになる。すなわち、「割れ誘導部」の作用で洗浄媒体が割れ、新たな鋭角を生成していることがわかる。このように割れ誘導部を形成することで、樹脂フィルムを交換せずに長時間使い続けることができる。
【0032】
図6に、鋭角部の大きさが異なることによる微細な穴や凹部への進入度の違いを示す。
図6(a)に示すように、洗浄媒体の鋭角部SCの角度(頂角;以下同じ)が60度を超える場合には、洗浄対象物COの厚みtより大きい径の穴h1にも鋭角部SCが十分進入できなくなる。
図6(b)に示すように、洗浄媒体の鋭角部SCの角度が45度の場合には、洗浄対象物COの厚みtと同程度の穴h2の内部まで鋭角部SCが進入できる。
図6(c)に示すように、洗浄媒体の鋭角部SCの角度が20度より小さい場合には、洗浄対象物COの厚みtより小さい細長い穴h3の内部まで進入できるが、鋭角部SCの強度が必然的に低下し、鋭角形状を長時間保つことが難しくなる。
以上の観点から、微細な穴や凹部の内部へ進入するためには、鋭角部SCの角度は20度以上で45度以下であることが好ましい。
【0033】
一例として、厚みt=0.15mmのステンレス板に多数あけられた直径φd=0.3mmの細孔に対して、厚みが100μmの樹脂フィルム片(洗浄媒体)の鋭角部の角度と細孔への進入確率の関係を調べた結果を図7に示す。
細孔への進入確率は、ステンレス板の裏側に感圧紙を設置し、クリーニング筐体をステンレス板に対して2mm/sの速度で相対移動させたときに細孔の何%に進入できたかを感圧紙の発色で測定した。
図7より、鋭角の角度が30度では、高い確率で細孔に進入できるのに対し、60度では細孔への進入確率が非常に低いことがわかる。
また、鋭角を有する薄片洗浄媒体を繰り返し使用していると、衝突により鋭角部が潰れ、細孔への進入率が低下していくが、鋭角に割れる「割れ誘導部」を有する薄片洗浄媒体の場合、繰り返し使用による細孔への進入確率の低下が少なく、長時間にわたって細孔への進入確率を維持できることがわかる。
細孔への進入率の低下は、上述したメタルマスクに付着したはんだペーストの除去能力(洗浄能力)の低下を意味する。
以上より、細孔内の洗浄に使用する洗浄媒体は、鋭角の度合いを45度以下、より好ましくは30度以下とし、さらに鋭角に割れる「割れ誘導部」を形成しておくことにより、洗浄媒体の寿命を長くすることができる。
【0034】
図8に基づいて、割れ誘導部LYの構成を詳細に説明する。
図8に示す各割れ誘導部LYは、ライン状の溝又は変性部として形成されている。ここでの「溝」の大きさは、特許文献1で示したような、気流を通過させて壁面に付着した洗浄媒体を浮き上がらせる通路としても利用可能な大きさ、換言すれば、破断がランダムに生じるような余裕のある幅を持つ大きさではなく、破断ラインが画一的にライン状(直線状)となる極めて細い筋状の大きさを意味する。
但し、溝や変性部の断面が逆三角形(V字状)の場合には、破断は頂角部で決まるので、溝幅の大きさは関係がない。
ここで、「ライン状」とは、厳密な直線だけでなく、僅かに変化する波状やジグザク状を含み、また、連続したラインだけでなく不連続のラインを含む概念である。
但し、製造の容易性の観点からは、まっすぐで連続した直線が有利である。
【0035】
図8(a)に示す割れ誘導部LY−1は、刃物や工具により断面逆三角形の溝(ノッチ状の溝)として形成されている。
図8(b)に示す割れ誘導部LY−2は、刃物や工具により断面矩形状の溝として形成されている。
図8(c)に示す割れ誘導部LY−3は、熱や紫外線、レーザー等による物理的処理あるいは化学的処理により表面性状を変性(脆弱化)させて筋状の変性部を形成している。変性部の大きさも上記の溝と同様である。
脆弱加工した箇所には応力集中や強度低下が発生するため、洗浄媒体に繰り返し応力が加わることにより疲労破壊(破断)が発生する。
【0036】
図9は、洗浄媒体が破断する様子を、割れ誘導部LY−1を有する洗浄媒体を例に模式的に示している。
クリーニング対象物等への衝突を繰り返すことにより、洗浄媒体の割れ誘導部(溝部)に応力が繰り返し加わり、最終的に溝部で割れることになる。図9(a)に示すように中央部で割れる場合や、図9(b)に示すように端部に近い位置で割れる場合もある。
洗浄媒体の素材は、耐折性が0以上65未満である樹脂フィルムが好ましいが、割れ誘導部(溝部や変性部)の効果により、それ以上の耐折性を備えた素材でも使用可能である。
すなわち、割れ誘導部によって洗浄媒体の割れの仕方をコントロールできるので、特許文献1のように「鉛筆硬度」と「耐折性」を厳密に設定しなくても新たなエッジ及び鋭角部を生成させることができ、材質選定における自由度を大きくすることができる。
【0037】
図10に基づいて、割れ誘導部の変形例について説明する。
図10(a)に示す割れ誘導部LY−1は、洗浄媒体PCの厚み方向における深さと幅が異なる断面逆三角形の3種類の溝g1、g2、g3のパターンの繰り返しとして構成されている。
図10(b)に示す割れ誘導部LY−2は、洗浄媒体PCの厚み方向における深さと幅が異なる断面矩形状の3種類の溝g4、g5、g6のパターンの繰り返しとして構成されている。
図10(c)に示す割れ誘導部LY−3は、洗浄媒体PCの厚み方向における深さと幅が異なる3種類の変性部v1、v2、v3のパターンの繰り返しとして構成されている。幅を一定にし、深さのみを異ならせるパターンとしてもよい。
また、ここでは、溝または変性部を相似形として異ならせているが、それぞれ形状を異ならせて破断強度に差を設けてもよい。
【0038】
図11に割れ誘導部の他の変形例を示す。
上記実施形態では、割れ誘導部を直線状としたが、本実施形態では洗浄媒体PC−1の割れ誘導部LYを曲線状としている。
曲線状とした場合、直線状の割れ誘導部に比べ、より鋭い鋭角部を形成することができる。
図12に割れ誘導部がジグザグ状になっている例を示す。
この場合、(a)、(b)、(c)、(d)の順序で次々と割れていくため、図1(a)に示したように等間隔で平行に割れ誘導部を形成した場合に比べ、より多くの鋭角部を生成することができる。
図13に割れ誘導部が不連続な線(ミシン目)になっている例を示す。
この場合、割れ誘導部は図8のように厚み方向の深さをコントロールしたハーフカットである必要はなく、厚み方向に貫通した切りこみであっても良い。切り込み部aと非切り込み部bの長さの比率を変えることにより、割れやすさを制御することも可能である。
すなわち、切り込み部aと非切り込み部bの長さの比率の異なる割れ誘導部を形成しておくことで、異なるタイミングで徐々に割れるようにすることができる。
【0039】
溝や変性部の深さあるいは幅が異なるため、洗浄媒体を繰り返し使用した場合、まず深く幅の大きい溝や変性部で破断して新たなエッジと鋭角部を生じ、さらに使用を続けると浅く幅の小さい溝や変性部も破断して新たなエッジと鋭角部を生じることになる。
均一な溝あるいは変性部を形成した場合、複数の変性部が同時期に破断しやすい。すなわち、洗浄媒体が破断して新たなエッジを生成する時期が集中しやすい。
本変形例のように構成すれば、長時間の使用時でも徐々に新たなエッジを生成し続け、洗浄能力を安定させることができる。
すなわち、洗浄プロセスにおける経時的な破断順序をコントロールすることができ、新たなエッジ及び鋭角部の生成タイミングの集中を緩和できる。
【0040】
例えば、厚さ100μmの樹脂フィルムに図8の(a)のタイプの割れ誘導部を形成した場合、表1に示す結果が得られた。すなわち、割れ誘導部の深さを変えることにより、割れるまでの時間を制御することが可能である。
【0041】
【表1】
【0042】
図14及び図15に基づいて、上記した洗浄媒体の製造方法を説明する。
図14は、図1(a)で示した平行四辺形の洗浄媒体PC−1を製作する工程を示している。
まず、割れ誘導部加工工程で、基材としての帯状のフィルムTLを進行方向へ送りながら、進行方向に平行に筋状の割れ誘導部LYを形成する。この場合、図10で示したように、深さあるいは幅の異なる割れ誘導部を形成するようにすることがより好ましい。
次に、カット加工工程で、帯状のフィルムTLを進行方向へ送りながら、進行方向に対して斜めにカットする。斜めにカットすることにより、微細穴や凹部の内部の汚れを除去するのに必要な鋭角部SCを形成することができる。
【0043】
図15は、図1(c)で示した台形の洗浄媒体PC−3を製作する工程を示している。
まず、割れ誘導部加工工程で、基材としての帯状のフィルムTLを進行方向へ送りながら、進行方向に平行に筋状の割れ誘導部LYを形成する。この場合、図10で示したように、深さあるいは幅の異なる割れ誘導部を形成するようにすることがより好ましい。
次に、カット加工工程で、帯状のフィルムTLを進行方向へ送りながら、進行方向に対して斜めにカットする。カット加工工程(1)と、カット加工工程(1)とは角度が逆向きとなるカット加工工程(2)とを交互に行って斜めにカットすることで、台形形状の洗浄媒体PC−3となる。
フィルムの進行方向に対して斜めにカットすることにより、微細穴や凹部の内部の汚れを除去するのに必要な鋭角部SCを形成することができる。
【符号の説明】
【0044】
CO 洗浄対象物
LY 割れ誘導部
PC 洗浄媒体
SC 鋭角の角部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0045】
【特許文献1】特開2010−279850号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片状の洗浄媒体を気流により飛翔させ、洗浄対象物に当てて該洗浄対象物(以下、「クリーニング対象物」ともいう)のクリーニングを行う乾式クリーニングに用いられる洗浄媒体、該洗浄媒体の製造方法及び該洗浄媒体を用いた乾式クリーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製造業において、製品あるいは製造に用いる治具を洗浄する工程では、洗浄液や溶剤を用いた洗浄方法が一般的であるが、乾燥工程や廃液処理が不要な乾式洗浄方式の1つとして、フィルム片等の薄片状の洗浄媒体を空気流により飛翔させ、洗浄対象物に当てて洗浄する技術が提案されている。
膜状に付着した強固な汚れを除去するためには、フィルム片等の鋭いエッジによる食い込み除去作用が有効であることが既に知られており、特許文献1には、洗浄に伴い適宜折れて新しいエッジを生成するような材質特性や、溝部を有する洗浄媒体の構造について開示されている。
特許文献1の図9乃至13には、矩形状の洗浄媒体の一面又は両面に、一辺に平行な溝を形成し、該溝の部分で折れて分離した各矩形片に新たなエッジが形成される構成が記載されている。分離前後における洗浄媒体の角部は略直角となっている。
特許文献1の図14、15、18、19には、溝の断面形状の変形例が記載されており、同図16、17には、同図12、13で示した断面矩形の溝を複数形成する例が記載されている。
特許文献1の図20からは、溝を気流の通路として利用し、静電気力で壁面に付着した洗浄媒体を剥離する内容が記載されているものと読み取れる。
また、特許文献1の段落「0032」には、洗浄媒体の面形状としては、円板状、三角形状、方形状、星形状等の種々の形状があり、それらが混在した形状でもよいことが記載されている。
このような乾式クリーニング方式は、製品のリサイクル工程や電子基板の自動はんだ付け工程で用いる治具の洗浄に活用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、今までの洗浄媒体では、広い面積を効率的に洗浄するには適していたが、微細な穴や凹部の内部まで洗浄することは難しいという問題があった。すなわち、洗浄対象物が微細で複雑な形状の洗浄面を有している場合には、洗浄ムラを避けられなかった。
具体的に説明すると、この種の洗浄対象物には微細な穴や凹部が存在する洗浄面を有するものが少なくないが、洗浄媒体の大きさが微細な穴や凹部よりも大きい場合、これらの内部には洗浄媒体の鋭角部しか進入できない上、洗浄媒体を繰り返し使用すると鋭角部は徐々に潰れていって、微細な穴等への進入機会は時間と共に低下してしまうことになる。
例えば、プリント基板の実装工程で使用されるメタルマスクの場合、穴は小さいもので直径0.2mm程度である。
一方、このような微細な穴などをターゲットとして洗浄媒体を小さくすると、質量に基づく飛翔エネルギー(洗浄対象物に対する衝突エネルギー)が小さくなって基本的な洗浄能力が低下することを避けられない。
【0004】
また、微細な穴や凹部の内部を洗浄するためにフィルム片等を微細に加工するにはコストがかかるという問題があった。
また、特許文献1に記載されているような、溝を形成して該溝部分で単に折れやすくした洗浄媒体では、新しいエッジの形状がランダムに生じてコントロールできず、微細な穴等の内部を洗浄するに適した鋭角の角部が洗浄中に生成される確率は極めて低いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたもので、洗浄対象物が微細な穴や凹部を有していても洗浄ムラの発生を高精度に抑制でき、乾式クリーニングにおける洗浄能力向上に寄与できる洗浄媒体の提供を、その主な目的とする。
また、そのような洗浄媒体を低コストで加工するのに適した製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、洗浄媒体が折れる(破断する)ときのランダム性を無くして規則性を持たせ、微細な穴や凹部に進入できる鋭角部が必然的に生じるようにした。
換言すれば、洗浄媒体の折れを意図的にコントロールするようにしたものである。
【0007】
具体的には、本発明は、薄片状の洗浄媒体を気流により飛翔させ、洗浄対象物に当てて該洗浄対象物のクリーニングを行う乾式クリーニングに用いられる洗浄媒体において、割れを誘導する割れ誘導部を有し、前記割れ誘導部は、該割れ誘導部を境界にして破断したときに、分離片の少なくとも一方に少なくとも1つ以上の鋭角の角部が生じるように形成されていることを特徴とする。
また、本発明は、洗浄媒体の製造方法において、帯状の基材に、該基材の長手方向に沿って前記割れ誘導部を複数形成した後、前記基材をその長手方向に対して斜めに切断して複数の洗浄媒体を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微細な穴や凹部の内部まで洗浄でき、且つ、その能力を洗浄プロセス全体に亘って維持できるので、洗浄ムラの無い高品質の乾式クリーニングを効率的に行うことができる。
また、そのような洗浄能力を持つ洗浄媒体を低コストで作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る洗浄媒体の平面図である。
【図2】洗浄媒体が脆弱部で折れることによって新たな鋭角部が生成する状態を示す図である。
【図3】洗浄媒体が脆弱部を有しない場合の鋭角部の経時的な磨耗状態を示す図である。
【図4】割れ誘導部が形成された洗浄媒体の写真画像による斜視図である。
【図5】割れた後の洗浄媒体の写真画像による図である。
【図6】洗浄媒体の鋭角部の角度と微細な穴の内部への到達しやすさとの関係を説明するための図である。
【図7】洗浄媒体の鋭角部の角度と細孔への進入確率との関係を示す実験グラフである。
【図8】図1で示した脆弱部の断面形状を示す図である。
【図9】洗浄媒体が脆弱部で折れる状態を示す図である。
【図10】脆弱部の変形例における断面形状を示す図である。
【図11】割れ誘導部の変形例を示す図で、(a)は割れが起きる前の初期状態を示す図、(b)は2つに割れた後の状態を示す図である。
【図12】割れ誘導部の他の変形例(ジグザグ)とその割れ方の順序を示す図である。
【図13】割れ誘導部の他の変形例(ミシン目)とその割れ方を示す図である。
【図14】平行四辺形の洗浄媒体の製造工程を示す図である。
【図15】台形状の洗浄媒体の製造工程を示す図である。
【図16】本実施形態に係る乾式クリーニング装置の要部を示す図である。
【図17】図10で示した乾式クリーニング装置におけるクリーニング動作を説明するための図である。
【図18】同乾式クリーニング装置によるクリーニングの一例を説明するための図である。
【図19】本発明に係る洗浄媒体を用いた実際の洗浄における洗浄前の状態を示す写真画像である。
【図20】洗浄後の状態を示す写真画像である。
【図21】特許文献1における洗浄媒体の衝突時のパターンを示す参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図を参照して説明する。
まず、本実施形態に係る洗浄媒体の特徴を説明する前に、乾式クリーニング装置による洗浄のメカニズムを説明する。
図16は、乾式クリーニング装置の実施の1形態を説明するための図である。図16において、符号10は乾式クリーニング筐体を示している。以下、乾式クリーニング筐体を単に「筐体」と称する。
筐体10は、図16の上下の図から明らかなように、円錐形状の中空体を、互いに逆向きにして、その底面側で合わせた形態となっている。図16の下図に示す符号10Aで示す部分を「上部筐体」、符号10Bで示す部分を「下部筐体」と称する。これら上部筐体10Aと下部筐体10Bとは一体として形成されている。
【0011】
上部筐体10Aと下部筐体10Bとの間には、これらの筐体の円錐形状の底面となる部分に板状の多孔手段としての分離板10Cが設けられている。
上部筐体10Aの内部には、上部筐体10Aの円錐軸を共通の軸とするように、円筒状の内筒部材10Dが筐体10の一部として設けられ、内筒部材10Dの、図における下の部分は分離板10Cに当接している。
下部筐体10Bの頂部側(図で下方の部分)は筒状に開口して吸気口を構成し、吸気ダクト20Bを介して吸引装置20Aに連結されている。
吸引装置20Aと吸気ダクト20Bとは吸気手段を構成する。吸引装置20Aとしては、真空モータや真空ポンプ、空気流や水流により低圧を発生させるタイプのものなどを適宜用いることができる。
【0012】
上部筐体10Aの底面に近い部分は円筒状となっており、この円筒状部分の一部に開口部10Eが形成されている。開口部10Eは、前記円筒状部分を円筒軸に平行な平断面により切断した形状であり矩形形状である。
上記円筒状部分は、中空シリンダ10Fにより貫通され、この中空シリンダ10Fは上部筐体10Aに一体化されている。以下、中空シリンダ10Fを「インレット10F」と称する。
インレット10Fの態位は、分離板10Cに略平行であり、その長手方向は、上部筐体10Aの円筒状部分の半径方向に対して傾き、内筒部材10Dの周面の接線に略平行な方向を持ち、上部筐体10A内に開いた出口側は、開口部10Eに対向するように位置している。インレット10Fの内部は通気路をなしている。
【0013】
分離板10Cはパンチングメタルのような穴が空いた円板状の部材であって、図16の下図に示すように、下部筐体10Bと上部筐体10Aとの境目の部分に設けられて、上部協体10A内と下部筐体10B内とを隔てている。
図16の上図に符号PCで示すのは「薄片状の洗浄片」であり、この洗浄片PCの集合体が洗浄媒体をなす。以下、PCを洗浄媒体としても表示する。
【0014】
以上のように構成される乾式クリーニング装置によるクリーニング対象物のクリーニング動作を、図17を参照して説明する。
図17の上下の図は、図16に即して説明した乾式クリーニング装置を、図16に倣って示している。図17(b)は、開口部10Eを解放した状態で吸気手段による吸気を行っている状態、図17(a)は、開口部10Eをクリーニング対象物COの表面で塞いだ状態を示している。
【0015】
クリーニング動作に先立って、洗浄媒体PCを乾式クリーニング筐体10内の上部筐体10A内に保持させる。このためには、薄片状の洗浄片PCの適量を、上部筐体10Aに形成された開口部10Eから上部筐体10A内に適宜の方法で取り込めば良い。
例えば、図17(b)に示すように、吸引装置20Aを駆動して吸気ダクト20Bにより下部筐体10B側から筐体内部の空気を吸気して、上部筐体10A内を負圧状態とし、この負圧による空気流AF(図17(b)上図)により、所望量の洗浄片PCを、開口部10Eから上部筐体10A内に吸引して「洗浄媒体」を上部筐体10A内に取り込むことができる。
【0016】
このように取り込まれた洗浄媒体は、図17(b)下図に示すように、多孔手段である分離板10Cに吸い付けられて上部筐体10A内に保持される。
上部筐体10A内の空気は吸気手段により吸気され、上部筐体10A内は負圧状態となっているので、筐体外部の空気がインレット10Fを通して上部筐体内に導入されるが、このときのインレット10F内の流れは流速・流量ともに小さいので、筐体内に発生する旋回空気流RFは洗浄媒体を飛翔させる強さには至らない。
【0017】
上部筐体10A内に吸い込まれた薄片状の洗浄片PCは、上記の如く分離板10Cに付着し、分離板10Cの穴の部分を塞ぐので、吸い込まれる洗浄片PCの量が増えるに従い、分離板10Cの空気を通し得る穴の総面積が次第に減少して吸引力が低下する。
従って、上部筐体10A内にある程度の量の洗浄片PCが吸い込まれると、洗浄片PCの吸い込みは実質的に停止する。
このようにして、吸気手段の吸気能力に応じた量の洗浄片PCが吸い込まれて上部筐体10A内に洗浄媒体として保持される。
【0018】
このように、上部筐体10A内に洗浄媒体が保持されたら、図17(a)に示すように、上部筐体10Aの開口部10Eに、クリーニング対象物COの表面(クリーニングすべき表面で「汚れ」が付着している。)を密接させる。
開口部10Eがクリーニング対象物COの表面で塞がれると、開口部10Eからの吸気が止まるので、上部筐体10A内の負圧は一気に増大し、インレット10Fを通じて吸い込まれる空気量・流速ともに増大し、インレット10F内で整流され、インレット出口から上部筐体10A内に強い空気流となって吹き出す。
吹き出した空気流は、分離板10C上に保持されている洗浄片PCを「開口部10Eを塞いでいるクリーニング対象物COの表面」に向けて飛翔させる。
上記空気流は、旋回空気流RFとなって、上部筐体10Aの内壁に沿って円環状に流れつつ、一部は分離板10Cの穴を通って吸気手段により吸気される。
【0019】
このように上部筐体10A内を円環状に流れた旋回空気流RFが、インレット10Fの出口部に戻ると、インレット10Fを通して導入され、インレット出口部から吹き出す空気流が旋回空気流RFに合流しつつ加速する。このようにして上部筐体10A内に安定した旋回空気流RFが形成される。
洗浄媒体をなす洗浄片PCは、この旋回空気流により上部筐体10A内で旋回し、クリーニング対象物COの表面(の汚れ)に繰り返し衝突する。この衝突による衝撃で、上記汚れがクリーニング対象物COの表面から微小粒状あるいは粉状となって分離する。
分離した汚れは、分離板10Cの穴を通って吸気手段により乾式クリーニング筐体10の外部へ排出される。
【0020】
上部筐体10A内に形成される旋回空気流RFは、その旋回軸が、分離板10Cの表面(上部筐体10A側の面)に直交しており、旋回空気流RFは分離板10Cの上記表面に平行方向の気流となる。
このため、旋回空気流は分離板表面に吸い着けられた洗浄片PCに、横方向から吹き付けて洗浄片PCと分離板10Cの間に入り込み、分離板10Cに吸い付けられている洗浄片PCを分離板10Cから引き剥がして再度飛翔させる効果が生じる。
また、開口部10Eが塞がれて上部筐体10A内の負圧が増大して、下部筐体10B内の負圧に近くなるため、洗浄片PCを分離板10C表面に吸い付ける力も低下して、洗浄片PCの飛翔がより容易になる効果が生じる。
【0021】
旋回空気流RFは、一定の方向に気流が加速されるため高速の気流が生成しやすく、洗浄片PCの高速運動も容易となる。また、旋回空気流は多孔手段から吸い出されるまでに、内部で何周も循環するため、旋回空気流の流量は通気路から流れこむ流量の5〜6倍に達することが気流シミュレーションにより確認されている。流量が大きいため、より多量の洗浄媒体を飛翔させることができる。高速で旋回移動する洗浄片PCは、分離板10Cに吸い付けられにくく、洗浄片に付着した汚れが、遠心力により洗浄片から分離され易い。
【0022】
図18に、図16に示した乾式クリーニング装置によるクリーニングの一例を示す。
クリーニング対象物は、はんだペースト塗布工程で用いられるメタルマスクであり、符号100で示す。メタルマスク100には、多数のマスク開口部101が開口しており、これらマスク開口部の穴周辺にはんだペーストSPが付着している。この付着したはんだペーストSPが除去すべき汚れである。
乾式クリーニング筐体の下部筐体10Bの、吸気ダクト20Bとの接合部を手HDで握り、吸気状態で、上部筐体10Aの開口部10Eを被クリーニング部位に押し当てる。
開口部10Eが被クリーニング部位に押し当てられる以前は、上部筐体10A内は吸気され、洗浄媒体の洗浄片PCは、分離板10Cに吸い付けられているので、開口部10Eは図18に示す如く下方を向いているが、上部筐体10A内から洗浄片PCが外部へ漏れることが無い。勿論、開口部10Eが被クリーニング部位に押し当てられた以後は、筐体内が気密状態となり、洗浄媒体の漏れ出しはない。
【0023】
開口部10Eを被クリーニング部位に押し当てると、インレット10Fにより導入される流入気流が急増し、上部筐体10A内に強い旋回空気流RFを発生させ、分離板10Cに吸い付けられた洗浄片PCを飛翔させ、メタルマスク100の被クリーニング部位に付着したはんだペーストに衝突させてはんだペーストを除去する。
クリーニング作業者は、上述の如く筐体10を手HDに持ち、メタルマスク100に対して移動させて、被クリーニング部位を順次移動させ、付着したはんだペーストを全て除去することができる。
本発明に後述の洗浄媒体を用いた実際のクリーニング前後の例を図19、図20に示す。両図を比較すると、マスク開口部の穴周辺に付着したはんだペーストがきれいに除去されているのがわかる。
【0024】
被クリーニング部位に対して開口部を移動させる時に被クリーニング部位から開口部が離されても、洗浄媒体吸着・飛翔効果により、洗浄片PCが筐体内から漏れ出さないため、洗浄媒体を構成する洗浄片PCの数が維持され、洗浄媒体量の減少によるクリーニング性能の低下は生じない。
【0025】
従来(特許文献1)における洗浄媒体PCの折れ方や衝突時のパターンを、参考例として図21に示す。
以下において、「鉛筆硬度」とは、JIS K−5600−5−4に準拠した手法で計測したものであって、評価した薄片状の洗浄媒体に傷、へこみが付かない最も硬い鉛筆の芯番のことを意味する。
また、「耐折性」とは、JIS P8115に準拠して計測したものであり、薄片状の洗浄媒体をR=0.38mmで135度に曲げる動作を繰り返し、破損にいたるまでの往復回数を意味する。
【0026】
洗浄媒体が耐折性10未満の脆性材料である場合、図21(a)に示すように、洗浄媒体はバリが発生する前に中央から折れて新しいエッジを生じさせる。
これにより、洗浄媒体のエッジが維持される効果がある。洗浄媒体のエッジが維持されることにより洗浄媒体の衝突時の食い込み量が低下しないため、洗浄媒体の膜状の付着物に対する除去能力が径時劣化しない。
耐折性52以下の脆性材料である洗浄媒体を用いると、図21(b)に示すように、洗浄媒体が繰り返し衝突することによって発生するバリが洗浄媒体に残留せずに折れて分離されて排出される。バリが残留しないため洗浄媒体のエッジが維持される。
塑性変形し易い洗浄媒体の場合、図21(c)に示すように、洗浄媒体の端部の変形が大きくなり、接触面積の増大や衝撃力の緩和が起こる。この結果、衝突時の端部における接触力が分散されてしまい、洗浄能力が低下してしまう。そのため膜状の付着物に対する食い込み量が低下し、洗浄装置の洗浄効率が低下してしまう。
延性破壊する洗浄媒体の場合も、図21(d)で示すように、洗浄媒体の破面端部の塑性変形が大きくなり、接触面積の増大や衝撃力の緩和が起こる。この結果、衝突時の端部における接触力が分散されてしまい、洗浄能力が低下してしまう。そのため、膜状の付着物に対する食い込み量が低下し、洗浄装置の洗浄効率が低下してしまう。
特許文献1では、適宜新たなエッジが形成されて洗浄能力が低下しないように、洗浄媒体の鉛筆硬度と耐折性を最適化する材料選択を行っている。
【0027】
以下に、本実施形態に係る洗浄媒体PCの構成を詳細に説明する。
図1に本実施形態に係る洗浄媒体PCの面形状を示す。図1(a)は平行四辺形の洗浄媒体PC−1を、図1(b)は台形の洗浄媒体PC−2を、図1(c)は三角形の洗浄媒体PC−3をそれぞれ示している。ここで、「面形状」とは、媒体の厚み方向と直交する方向の面の形状を意味する。
平行四辺形の洗浄媒体PC−1には、その一辺である短辺e1に略平行に、且つ、長手方向に略等間隔に、ライン状の割れ誘導部LYが複数形成されている。台形の洗浄媒体PC−2においても同様に、上底又は下底に略平行に、且つ、高さ方向に略等間隔に、ライン状の割れ誘導部LYが複数形成されている。三角形の洗浄媒体PC−3においても同様に、底辺に略平行に、且つ、高さ方向に略等間隔に、ライン状の割れ誘導部LYが複数形成されている。
割れ誘導部は、洗浄媒体に衝突等の応力が作用したときに洗浄媒体の割れを誘起させる概念であり、「脆弱部」の概念を含むものである。
換言すれば、割れ誘導部は、洗浄媒体が割れて鋭角の角部が生じることについての偶然性を排除して、意図的に鋭角の角部が生じるための割れ方をコントロールするためのファクタである。
割れ誘導部LYは、洗浄媒体が洗浄対象物に衝突したときの応力等、洗浄媒体に繰返し加わる応力によって破断するようにその強度が設定されている。この強度設定については後述する。
【0028】
これらの洗浄媒体は、いずれも多角形の面形状を有しており、それぞれ複数(ここでは2つ)の鋭角部SCを有している。
上記のように、洗浄媒体PCは繰り返し加わる応力によって割れ誘導部LYを境界に破断するが、本実施形態に係る洗浄媒体PCは、破断する前(使用前)の状態においても、洗浄対象物COの微細な穴や凹部に進入できる鋭角の角部(以下、「鋭角部」と略す)SCを複数備えている。
したがって、洗浄媒体PCの破断の発生が少ない洗浄開始初期においても、微細な穴や凹部に対する洗浄能力、すなわちその内部に進入して汚れを除去する能力を持っている。
【0029】
図2は、本実施形態に係る洗浄媒体の破断状態を示している。
図2(a)は平行四辺形の洗浄媒体PC−1が3つの片に破断した状態を、図2(b)は台形の洗浄媒体PC−2が2つの片に破断した状態を、図2(c)は三角形の洗浄媒体PC−3が2つの片に破断した状態をそれぞれ示している。
いずれの洗浄媒体においても、洗浄プロセス中の破断後に、新たな鋭角部NSCが生成する。
したがって、破断が生じるまでに鋭角部SCの潰れが進行しても、破断後に新たな鋭角部NSCが生成するため、微細な穴や凹部に対する洗浄能力が洗浄プロセス中維持されることになる。
【0030】
洗浄媒体PCが割れ誘導部LYを有しない場合には、図3に示すように、例え鋭角部SCを有する多角形状であっても、鋭角部SCは衝突を繰り返すうちに、先端が磨耗あるいは折損してその鋭さが失われてしまう。
微細な穴や凹部に対する洗浄能力を維持するためには、新たな洗浄媒体を投入する必要があり、大量の洗浄媒体を消耗することになる。
これに対し、本実施形態に係る洗浄媒体PCでは、1つの洗浄媒体で段階的(経時的)に多くの鋭角部を利用できるため、洗浄媒体の消耗量を大幅に低減することが可能になる。
より多くの鋭角部を利用できるようにするには、複数の割れ誘導部のピッチは1〜3mm程度が好ましい。
【0031】
図4、図5に、割れ誘導部で割れる前後の洗浄媒体の実際の写真画像を示す。
図4に示すように、筋状ないし線状の割れ誘導部を形成した樹脂フィルム(洗浄媒体)は、使用に伴って徐々に割れ誘導部で割れて、図5のようになる。すなわち、「割れ誘導部」の作用で洗浄媒体が割れ、新たな鋭角を生成していることがわかる。このように割れ誘導部を形成することで、樹脂フィルムを交換せずに長時間使い続けることができる。
【0032】
図6に、鋭角部の大きさが異なることによる微細な穴や凹部への進入度の違いを示す。
図6(a)に示すように、洗浄媒体の鋭角部SCの角度(頂角;以下同じ)が60度を超える場合には、洗浄対象物COの厚みtより大きい径の穴h1にも鋭角部SCが十分進入できなくなる。
図6(b)に示すように、洗浄媒体の鋭角部SCの角度が45度の場合には、洗浄対象物COの厚みtと同程度の穴h2の内部まで鋭角部SCが進入できる。
図6(c)に示すように、洗浄媒体の鋭角部SCの角度が20度より小さい場合には、洗浄対象物COの厚みtより小さい細長い穴h3の内部まで進入できるが、鋭角部SCの強度が必然的に低下し、鋭角形状を長時間保つことが難しくなる。
以上の観点から、微細な穴や凹部の内部へ進入するためには、鋭角部SCの角度は20度以上で45度以下であることが好ましい。
【0033】
一例として、厚みt=0.15mmのステンレス板に多数あけられた直径φd=0.3mmの細孔に対して、厚みが100μmの樹脂フィルム片(洗浄媒体)の鋭角部の角度と細孔への進入確率の関係を調べた結果を図7に示す。
細孔への進入確率は、ステンレス板の裏側に感圧紙を設置し、クリーニング筐体をステンレス板に対して2mm/sの速度で相対移動させたときに細孔の何%に進入できたかを感圧紙の発色で測定した。
図7より、鋭角の角度が30度では、高い確率で細孔に進入できるのに対し、60度では細孔への進入確率が非常に低いことがわかる。
また、鋭角を有する薄片洗浄媒体を繰り返し使用していると、衝突により鋭角部が潰れ、細孔への進入率が低下していくが、鋭角に割れる「割れ誘導部」を有する薄片洗浄媒体の場合、繰り返し使用による細孔への進入確率の低下が少なく、長時間にわたって細孔への進入確率を維持できることがわかる。
細孔への進入率の低下は、上述したメタルマスクに付着したはんだペーストの除去能力(洗浄能力)の低下を意味する。
以上より、細孔内の洗浄に使用する洗浄媒体は、鋭角の度合いを45度以下、より好ましくは30度以下とし、さらに鋭角に割れる「割れ誘導部」を形成しておくことにより、洗浄媒体の寿命を長くすることができる。
【0034】
図8に基づいて、割れ誘導部LYの構成を詳細に説明する。
図8に示す各割れ誘導部LYは、ライン状の溝又は変性部として形成されている。ここでの「溝」の大きさは、特許文献1で示したような、気流を通過させて壁面に付着した洗浄媒体を浮き上がらせる通路としても利用可能な大きさ、換言すれば、破断がランダムに生じるような余裕のある幅を持つ大きさではなく、破断ラインが画一的にライン状(直線状)となる極めて細い筋状の大きさを意味する。
但し、溝や変性部の断面が逆三角形(V字状)の場合には、破断は頂角部で決まるので、溝幅の大きさは関係がない。
ここで、「ライン状」とは、厳密な直線だけでなく、僅かに変化する波状やジグザク状を含み、また、連続したラインだけでなく不連続のラインを含む概念である。
但し、製造の容易性の観点からは、まっすぐで連続した直線が有利である。
【0035】
図8(a)に示す割れ誘導部LY−1は、刃物や工具により断面逆三角形の溝(ノッチ状の溝)として形成されている。
図8(b)に示す割れ誘導部LY−2は、刃物や工具により断面矩形状の溝として形成されている。
図8(c)に示す割れ誘導部LY−3は、熱や紫外線、レーザー等による物理的処理あるいは化学的処理により表面性状を変性(脆弱化)させて筋状の変性部を形成している。変性部の大きさも上記の溝と同様である。
脆弱加工した箇所には応力集中や強度低下が発生するため、洗浄媒体に繰り返し応力が加わることにより疲労破壊(破断)が発生する。
【0036】
図9は、洗浄媒体が破断する様子を、割れ誘導部LY−1を有する洗浄媒体を例に模式的に示している。
クリーニング対象物等への衝突を繰り返すことにより、洗浄媒体の割れ誘導部(溝部)に応力が繰り返し加わり、最終的に溝部で割れることになる。図9(a)に示すように中央部で割れる場合や、図9(b)に示すように端部に近い位置で割れる場合もある。
洗浄媒体の素材は、耐折性が0以上65未満である樹脂フィルムが好ましいが、割れ誘導部(溝部や変性部)の効果により、それ以上の耐折性を備えた素材でも使用可能である。
すなわち、割れ誘導部によって洗浄媒体の割れの仕方をコントロールできるので、特許文献1のように「鉛筆硬度」と「耐折性」を厳密に設定しなくても新たなエッジ及び鋭角部を生成させることができ、材質選定における自由度を大きくすることができる。
【0037】
図10に基づいて、割れ誘導部の変形例について説明する。
図10(a)に示す割れ誘導部LY−1は、洗浄媒体PCの厚み方向における深さと幅が異なる断面逆三角形の3種類の溝g1、g2、g3のパターンの繰り返しとして構成されている。
図10(b)に示す割れ誘導部LY−2は、洗浄媒体PCの厚み方向における深さと幅が異なる断面矩形状の3種類の溝g4、g5、g6のパターンの繰り返しとして構成されている。
図10(c)に示す割れ誘導部LY−3は、洗浄媒体PCの厚み方向における深さと幅が異なる3種類の変性部v1、v2、v3のパターンの繰り返しとして構成されている。幅を一定にし、深さのみを異ならせるパターンとしてもよい。
また、ここでは、溝または変性部を相似形として異ならせているが、それぞれ形状を異ならせて破断強度に差を設けてもよい。
【0038】
図11に割れ誘導部の他の変形例を示す。
上記実施形態では、割れ誘導部を直線状としたが、本実施形態では洗浄媒体PC−1の割れ誘導部LYを曲線状としている。
曲線状とした場合、直線状の割れ誘導部に比べ、より鋭い鋭角部を形成することができる。
図12に割れ誘導部がジグザグ状になっている例を示す。
この場合、(a)、(b)、(c)、(d)の順序で次々と割れていくため、図1(a)に示したように等間隔で平行に割れ誘導部を形成した場合に比べ、より多くの鋭角部を生成することができる。
図13に割れ誘導部が不連続な線(ミシン目)になっている例を示す。
この場合、割れ誘導部は図8のように厚み方向の深さをコントロールしたハーフカットである必要はなく、厚み方向に貫通した切りこみであっても良い。切り込み部aと非切り込み部bの長さの比率を変えることにより、割れやすさを制御することも可能である。
すなわち、切り込み部aと非切り込み部bの長さの比率の異なる割れ誘導部を形成しておくことで、異なるタイミングで徐々に割れるようにすることができる。
【0039】
溝や変性部の深さあるいは幅が異なるため、洗浄媒体を繰り返し使用した場合、まず深く幅の大きい溝や変性部で破断して新たなエッジと鋭角部を生じ、さらに使用を続けると浅く幅の小さい溝や変性部も破断して新たなエッジと鋭角部を生じることになる。
均一な溝あるいは変性部を形成した場合、複数の変性部が同時期に破断しやすい。すなわち、洗浄媒体が破断して新たなエッジを生成する時期が集中しやすい。
本変形例のように構成すれば、長時間の使用時でも徐々に新たなエッジを生成し続け、洗浄能力を安定させることができる。
すなわち、洗浄プロセスにおける経時的な破断順序をコントロールすることができ、新たなエッジ及び鋭角部の生成タイミングの集中を緩和できる。
【0040】
例えば、厚さ100μmの樹脂フィルムに図8の(a)のタイプの割れ誘導部を形成した場合、表1に示す結果が得られた。すなわち、割れ誘導部の深さを変えることにより、割れるまでの時間を制御することが可能である。
【0041】
【表1】
【0042】
図14及び図15に基づいて、上記した洗浄媒体の製造方法を説明する。
図14は、図1(a)で示した平行四辺形の洗浄媒体PC−1を製作する工程を示している。
まず、割れ誘導部加工工程で、基材としての帯状のフィルムTLを進行方向へ送りながら、進行方向に平行に筋状の割れ誘導部LYを形成する。この場合、図10で示したように、深さあるいは幅の異なる割れ誘導部を形成するようにすることがより好ましい。
次に、カット加工工程で、帯状のフィルムTLを進行方向へ送りながら、進行方向に対して斜めにカットする。斜めにカットすることにより、微細穴や凹部の内部の汚れを除去するのに必要な鋭角部SCを形成することができる。
【0043】
図15は、図1(c)で示した台形の洗浄媒体PC−3を製作する工程を示している。
まず、割れ誘導部加工工程で、基材としての帯状のフィルムTLを進行方向へ送りながら、進行方向に平行に筋状の割れ誘導部LYを形成する。この場合、図10で示したように、深さあるいは幅の異なる割れ誘導部を形成するようにすることがより好ましい。
次に、カット加工工程で、帯状のフィルムTLを進行方向へ送りながら、進行方向に対して斜めにカットする。カット加工工程(1)と、カット加工工程(1)とは角度が逆向きとなるカット加工工程(2)とを交互に行って斜めにカットすることで、台形形状の洗浄媒体PC−3となる。
フィルムの進行方向に対して斜めにカットすることにより、微細穴や凹部の内部の汚れを除去するのに必要な鋭角部SCを形成することができる。
【符号の説明】
【0044】
CO 洗浄対象物
LY 割れ誘導部
PC 洗浄媒体
SC 鋭角の角部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0045】
【特許文献1】特開2010−279850号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄片状の洗浄媒体を気流により飛翔させ、洗浄対象物に当てて該洗浄対象物のクリーニングを行う乾式クリーニングに用いられる洗浄媒体において、
割れを誘導する割れ誘導部を有し、前記割れ誘導部は、該割れ誘導部を境界にして破断したときに、分離片の少なくとも一方に少なくとも1つ以上の鋭角の角部が生じるように形成されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄媒体において、
前記割れ誘導部が、溝加工によって形成されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項3】
請求項1に記載の洗浄媒体において、
前記割れ誘導部が、材質を変性させることによって形成されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の洗浄媒体において、
前記割れ誘導部が、線状又は不連続な線状に形成されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項5】
請求項4に記載の洗浄媒体において、
洗浄媒体の面形状が、平行四辺形、台形又は三角形の形状であることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項6】
請求項5に記載の洗浄媒体において、
前記割れ誘導部が、前記面形状の一辺に略平行に形成されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の洗浄媒体において、
前記割れ誘導部が複数形成され、少なくとも2つの割れ誘導部間で破断の先後を順序付ける破断強度の差を有していることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項8】
請求項7に記載の洗浄媒体において、
前記破断強度の差が、前記割れ誘導部の洗浄媒体厚み方向の深さを異ならせることによって設定されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の洗浄媒体の製造方法であって、
帯状の基材に、該基材の長手方向に沿って前記割れ誘導部を複数形成した後、前記基材をその長手方向に対して斜めに切断して複数の洗浄媒体を得ることを特徴とする洗浄媒体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の洗浄媒体の製造方法において、
前記斜めの切断角度を、前記移動方向で一定とし、前記面形状を平行四辺形とすることを特徴とする洗浄媒体の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の洗浄媒体の製造方法において、
前記斜めの切断角度を、前記移動方向で交互に逆向きとし、前記面形状を台形又は三角形とすることを特徴とする洗浄媒体の製造方法。
【請求項12】
薄片状の洗浄媒体を気流により飛翔させ、洗浄対象物に当てて該洗浄対象物のクリーニングを行う乾式クリーニング装置において、
前記洗浄媒体として、請求項1〜8のいずれか1つに記載の洗浄媒体を用いることを特徴とする乾式クリーニング装置。
【請求項1】
薄片状の洗浄媒体を気流により飛翔させ、洗浄対象物に当てて該洗浄対象物のクリーニングを行う乾式クリーニングに用いられる洗浄媒体において、
割れを誘導する割れ誘導部を有し、前記割れ誘導部は、該割れ誘導部を境界にして破断したときに、分離片の少なくとも一方に少なくとも1つ以上の鋭角の角部が生じるように形成されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄媒体において、
前記割れ誘導部が、溝加工によって形成されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項3】
請求項1に記載の洗浄媒体において、
前記割れ誘導部が、材質を変性させることによって形成されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の洗浄媒体において、
前記割れ誘導部が、線状又は不連続な線状に形成されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項5】
請求項4に記載の洗浄媒体において、
洗浄媒体の面形状が、平行四辺形、台形又は三角形の形状であることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項6】
請求項5に記載の洗浄媒体において、
前記割れ誘導部が、前記面形状の一辺に略平行に形成されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の洗浄媒体において、
前記割れ誘導部が複数形成され、少なくとも2つの割れ誘導部間で破断の先後を順序付ける破断強度の差を有していることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項8】
請求項7に記載の洗浄媒体において、
前記破断強度の差が、前記割れ誘導部の洗浄媒体厚み方向の深さを異ならせることによって設定されていることを特徴とする洗浄媒体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の洗浄媒体の製造方法であって、
帯状の基材に、該基材の長手方向に沿って前記割れ誘導部を複数形成した後、前記基材をその長手方向に対して斜めに切断して複数の洗浄媒体を得ることを特徴とする洗浄媒体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の洗浄媒体の製造方法において、
前記斜めの切断角度を、前記移動方向で一定とし、前記面形状を平行四辺形とすることを特徴とする洗浄媒体の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の洗浄媒体の製造方法において、
前記斜めの切断角度を、前記移動方向で交互に逆向きとし、前記面形状を台形又は三角形とすることを特徴とする洗浄媒体の製造方法。
【請求項12】
薄片状の洗浄媒体を気流により飛翔させ、洗浄対象物に当てて該洗浄対象物のクリーニングを行う乾式クリーニング装置において、
前記洗浄媒体として、請求項1〜8のいずれか1つに記載の洗浄媒体を用いることを特徴とする乾式クリーニング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−250227(P2012−250227A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−9262(P2012−9262)
【出願日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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