説明

洗浄水タンク装置、及び、それを備えた水洗大便器

【課題】洗浄水タンクの排水口を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を安定させることができる洗浄水タンク装置、及び、それを備えた水洗大便器を提供する。
【解決手段】本発明の洗浄水タンク装置18は、上下方向に延びる排水口22が底面20aに形成された洗浄水タンク20と、この洗浄水タンクに洗浄水を給水する給水装置24と、洗浄水タンクの排水口を開閉する排水弁38と、を有し、洗浄水タンクは、排水口の上縁に形成されて排水弁の閉鎖によってシールされる排水口シール部48と、この排水口シール部から下方に延びる内周面に沿って縮径する流路面を形成する排水口縮径部50と、を備え、この排水口縮径部の流路面は、排水口シール部の流路面の表面粗さRz0よりも大きい所定の表面粗さRzで形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄水タンク装置、及び、それを備えた水洗大便器に係わり、特に、便器を洗浄する洗浄水を貯水する洗浄水タンク装置、及び、それを備えた水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水洗大便器においては、洗浄水量の節水化を達成させると共に、便器の洗浄性能をより向上させることが要請されている。
このような水洗大便器における要請に応ずるため、従来から、便器を洗浄する洗浄水を貯水する洗浄水タンク装置として、例えば、特許文献1に記載されているように、洗浄水タンク本体の底面から下方に延びる排水口にこの排水口上端から下方に縮径させる樹脂製のガイド管路を設け、洗浄水タンク本体内の洗浄水が排水口に排出されて樹脂製のガイド管路内を流れる際の洗浄水の瞬間流量を向上させたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−19471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らは、上述した従来の洗浄水タンク装置のように、洗浄水タンクの排水口に排水口上端から下方に縮径させる樹脂製のガイド管路を設けた場合、この樹脂製のガイド管路内を形成する表面が所定の表面粗さ以下の滑らかな表面に形成されていると、樹脂製のガイド管路内を流れる洗浄水の瞬間流量がばらつくという問題を見出した。
【0005】
そこで、本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、洗浄水タンクの排水口を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を安定させることができる洗浄水タンク装置、及び、それを備えた水洗大便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、便器を洗浄する洗浄水を貯水する洗浄水タンク装置であって、上下方向に延びる排水口が底面に形成された洗浄水タンクと、この洗浄水タンクに洗浄水を給水する給水手段と、上記洗浄水タンクの排水口を開閉する排水弁と、を有し、上記洗浄水タンクは、上記排水口の上縁に形成されて上記排水弁の閉鎖によってシールされる排水口シール部と、この排水口シール部から下方へ延びる内周面に沿って縮径する流路面を形成する排水口縮径部と、を備え、この排水口縮径部の流路面は、上記排水口シール部を形成する流路面の表面粗さよりも大きい所定の表面粗さで形成されていることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、排水弁が洗浄水タンクの排水口を開放し、洗浄水タンク内の洗浄水が洗浄水タンクの排水口から便器に排出される際、洗浄水は洗浄水タンクの排水口シール部から排水口縮径部の流路面に沿って下方に流れ、便器へと流れる。この際、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面が、洗浄水タンクの排水口シール部を形成する流路面の表面粗さよりも大きい所定の表面粗さで形成されているため、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面に沿って流れる洗浄水の流速を洗浄水タンクの排水口シール部を流れる洗浄水の流速よりも減速させることができる。したがって、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路内を流れる洗浄水は、排水口縮径部の流路面からの剥離が抑制された状態で安定して流れるため、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を安定させることができる。
【0007】
本発明において、好ましくは、上記洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面は、10μm〜40μmの所定の表面粗さで形成されている。
このように構成された本発明においては、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面が10μm〜40μmの所定の表面粗さで形成されているため、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面に沿って流れる洗浄水の流速を洗浄水タンクの排水口シール部を流れる洗浄水の流速よりも減速させることができる。したがって、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路内を流れる洗浄水は、排水口縮径部の流路面からの剥離が抑制された状態で安定して流れるため、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を安定させることができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、上記洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面は、上記排水口の縮径部の流路内の全周に亘って上記所定の表面粗さで形成されている。
このように構成された本発明においては、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面が排水口縮径部の流路内の全周に亘って所定の表面粗さで形成されているため、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面に沿って流れる洗浄水の流速を洗浄水タンクの排水口シール部を流れる洗浄水の流速よりも全周に亘って同程度に減速させることができる。したがって、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路内を流れる洗浄水は、排水口縮径部の流路面からの剥離が抑制された状態で安定して流れるため、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量をより安定させることができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、上記洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面は、上記排水口縮径部の流路面のすべての部分に上記所定の表面粗さで形成されている。
このように構成された本発明においては、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面が排水口縮径部の流路面のすべての部分に所定の表面粗さで形成されているため、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面に沿って流れる洗浄水の流速を洗浄水タンクの排水口シール部を流れる洗浄水の流速よりも減速させることができる。したがって、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路内を流れる洗浄水は、排水口縮径部の流路面からの剥離が抑制された状態で安定して流れるため、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量をより安定させることができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、上記洗浄水タンクは、更に、上記排水口縮径部の下流側にほぼ直線状の流路面を形成する排水口直線部を備え、この排水口直線部の流路面は、上記排水口縮径部の流路面の上記所定の表面粗さよりも小さい所定の表面粗さで形成されている。
このように構成された本発明においては、排水弁が洗浄水タンクの排水口を開放し、洗浄水タンク内の洗浄水が洗浄水タンクの排水口から便器に排出される際、洗浄水は洗浄水タンクの排水口シール部から排水口縮径部を経て排水口直線部から便器へと流れる。この際、排水口直線部の流路面が、排水口縮径部の流路面の所定の表面粗さよりも小さい所定の表面粗さで形成されているため、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面に沿って流れる洗浄水の流速を洗浄水タンクの排水口シール部を流れる洗浄水の流速よりも減速させて、排水口縮径部の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を安定させた後、洗浄水が排水口縮径部よりも下流側に位置する排水口直線部の流路内を流れる際には、排水口縮径部の流路面に沿って流れる洗浄水の流速よりも速い流速で流れるため、洗浄水タンクの排水口直線部の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を増加させることができる。
【0011】
また、本発明は、上記洗浄水タンク装置を備えた水洗大便器である。
このように構成された本発明においては、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路内を流れる洗浄水が、排水口縮径部の流路内の所定領域面からの剥離が抑制された状態で安定して流れるため、洗浄水タンクの排水口縮径部の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を安定させることができる水洗大便器を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の洗浄水タンク装置、及び、それを備えた水洗大便器によれば、洗浄水タンクの排水口を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態による洗浄水タンク装置が適用された水洗大便器を示す側面断面図である。
【図2】図1に示す水洗大便器から洗浄水タンク装置を取り外した状態の便器本体を示す平面図である。
【図3】図1に示す水洗大便器の便器本体及び洗浄水タンク装置を示す部分正面図である。
【図4】本発明の第1実施形態による洗浄水タンク装置の内部を示す平面図である。
【図5】図4のV−V線に沿って見た断面図である。
【図6】図4のVI−VI線に沿って見た断面図である。
【図7】図4に示す洗浄水タンク装置から排水装置を取り外した状態の洗浄水タンクを示す平面図である。
【図8】図7に示す洗浄水タンク装置の洗浄水タンクの排水口を示す部分拡大断面図である。
【図9】本発明の第1実施形態による洗浄水タンク装置を用いて、実験1の条件下で洗浄水タンクの排水口から排水される洗浄水の瞬間流量を測定した結果(実験結果1)のデータを示す図である。
【図10】本発明の第1実施形態による洗浄水タンク装置を用いて、実験2の条件下で洗浄水タンクの排水口から排水される洗浄水の瞬間流量を測定した結果(実験結果2)のデータを示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態による洗浄水タンク装置の洗浄水タンクの排水口を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面により、本発明の一実施形態による洗浄水タンク装置を説明する。
まず、図1〜図3により、本発明の第1実施形態による洗浄水タンク装置が適用された水洗便器を説明する。
図1は本発明の第1実施形態による洗浄水タンク装置が適用された水洗大便器を示す側面断面図であり、図2は図1に示す水洗大便器から洗浄水タンク装置を取り外した状態の便器本体を示す平面図であり、図3は図1に示す水洗大便器の便器本体及び洗浄水タンク装置を示す部分正面図である。
【0015】
図1〜図3に示すように、符号1は洗い落し式の水洗大便器を示し、この洗い落し式の水洗大便器1は、便器本体2を備え、この便器本体2の上部の前方側には、ボウル部4が形成され、後方側の上部には導水路6が、導水路6の下方にはボウル部4と連通する排水トラップ管路8が、それぞれ形成されている。
【0016】
便器本体2のボウル部4の上縁部内側にはオーバーハング形状のリム10が形成され、さらに、このリム10の一部には、導水路6から供給される洗浄水を吐水する第1吐水口12が形成され、第1吐水口12から吐水された洗浄水は、旋回しながら下降してボウル部4を洗浄するようになっている。
【0017】
排水トラップ管路8の近傍で且つボウル部4の下方には、一点鎖線で溜水面W0が示された溜水部14が形成されている。この溜水部14の下方には、上述した排水トラップ管路8の入口8aが開口し、この入口8aから上昇路8bが後方に延びている。この上昇路8bには下降路8cが連続し、下降路8cの下端は排水ソケット(図示せず)を介して床下の排出管(図示せず)に接続されている。
【0018】
また、ボウル部4の中心下部の溜水面W0の上方位置には、導水路6から供給される洗浄水を吐水する第2吐水口16が形成され、この第2吐水口16から吐水される洗浄水が溜水部14の溜水を上下方向に旋回させる旋回流を生じさせるようになっている。
【0019】
さらに、便器本体2の導水路6の上方には、便器本体2に供給する洗浄水を貯水する洗浄水タンク装置18が設けられている。この洗浄水タンク装置18は、洗浄水タンク20を備え、この洗浄水タンク20の底部には、上下方向に延びる排水口22(詳細は後述する)が形成され、この排水口22の下端は便器本体2の導水路6と連通し、洗浄水タンク20内の洗浄水が排水口22から便器本体2の導水路6に排水されるようになっている。
【0020】
つぎに、図4〜図6により、洗浄水タンク装置18について説明する。
図4は本発明の第1実施形態による洗浄水タンク装置の内部を示す平面図であり、図5は図4のV−V線に沿って見た断面図であり、図6は図4のVI−VI線に沿って見た断面図である。なお、図5において、洗浄水タンク20内の満水時の水位(止水水位)をWL1で示し、洗浄水タンク20内の排水時の最低水位をWL2で示している。
【0021】
図4〜図6に示すように、洗浄水タンク20内には、洗浄水タンク20内に洗浄水を供給する給水装置24、便器本体2へ洗浄水を供給する排水装置26、洗浄水タンク20内の洗浄水の水位Wが止水水位WL1となった状態を検知するフロートスイッチである水位センサ28が設けられ、また、洗浄水タンク20外には、種々の装置を制御するコントローラ(図示せず)及び、使用者が操作する操作ボタン(図示せず)が設けられている。この操作ボタン(図示せず)は、例えば、3種類の洗浄水量による洗浄モード(大洗浄モード、小洗浄モード、エコ小洗浄モード)の操作ボタンを備え、洗浄水量は、例えば、大洗浄モードで4.8リットル、小洗浄モードで4.0リットル、エコ洗浄モードで3.8リットルとなっている。
【0022】
給水装置24は、水道等の給水源(図示せず)に接続された定流量弁30、給水バルブ32、及び、給水口34を備えている。
給水バルブ32は、水位センサ28の水位検知情報に基づいてコントローラ(図示せず)からの指令により給水バルブ32の開閉動作が制御され、給水装置24の給水口34から洗浄水タンク20内への洗浄水の給水又は止水が切り替えられるようになっている。
【0023】
排水装置26は、オーバーフロー管36と、オーバーフロー管36の下端部に固着された排水弁38と、オーバーフロー管36を上下動させることにより排水弁38を開閉操作する駆動装置40を備えている。
また、洗浄水タンク20の排水口22の周辺部には、排水弁38の上下動をガイドし且つ高さ位置を規制するガイド部材42が取り付けられている。
【0024】
オーバーフロー管36は、洗浄水タンク20の排水口22と対向する下端開口部36aから上端開口部36bまで延びる円筒状の管部材である。そして、洗浄水タンク20内の洗浄水の水位Wが、満水時の止水水位WL1を超えてさらに水位WOFまで上昇し、オーバーフロー管36の上端開口部36bの高さ位置を上回ったときには、洗浄水がオーバーフローし、オーバーフロー管36の上端開口部36bから下端開口部36aを経て洗浄水タンク20の排水口22から便器本体2側に排水(供給)されるようになっている。
【0025】
さらに、駆動装置40は、DCモータであり、この駆動装置40から延びる回転軸44の先端には、玉鎖46が取り付けられている。この玉鎖46の下方部分は、オーバーフロー管36の下端開口部36aから下方に突出する玉鎖取付部36cに取り付けられている。
駆動装置40が玉鎖46を上方に引き上げるように回転軸44を回転させると、オーバーフロー管36が玉鎖46と共に上昇し、駆動装置40が玉鎖46を引き下げるように回転軸44を回転させると、オーバーフロー管36が玉鎖46と共に下降するようになっている。
【0026】
つぎに、図5〜図8により、洗浄水タンク20の排水口22について説明する。
図7は図4に示す洗浄水タンク装置から排水装置を取り外した状態の洗浄水タンクを示す平面図であり、図8は図7に示す洗浄水タンク装置の洗浄水タンクの排水口を示す部分拡大断面図である。
【0027】
図5〜図8に示すように、洗浄水タンク20は、ポリプロピレンの合成樹脂で成形され、便器本体2の横幅方向に延びたほぼ直方体の箱形形状からなり、洗浄水タンク20の排水口22は、洗浄水タンク20の材質と同一のポリプロピレンの合成樹脂で洗浄水タンク20の底面20aに一体に形成されて下方に延びている。
【0028】
また、洗浄水タンク20の排水口22は、この上縁に形成されて排水弁38の閉鎖によってシールされる排水口シール部48と、この排水口シール部48から下方へ延びる内周面に沿って縮径する流路面を形成する排水口縮径部50と、この排水口縮径部50の下方(下流側)にほぼ直線状の流路を形成する排水口直線部52を備えている。
【0029】
排水口シール部48は、最も排水口縮径部50側に位置して上方に突出する上方突起48aを備え、この排水口シール部48の上方突起48aと排水弁38の下面が当接することにより、排水口22が排水弁38によって閉鎖されるようになっている。
【0030】
また、排水口シール部48を形成する面は、洗浄水タンク20の材料と同一材料であるポリプロピレンの合成樹脂で成形され、上方突起48aから排水口22の半径方向外側に所定距離延びて、実質的には洗浄水タンク20の底面20aと一体に形成されている。
【0031】
さらに、図8に示すように、排水口縮径部50の流路内を全周に亘って形成する流路面面は、上端から下端にかけて曲面状に窄まるように縮径しているが、この排水口縮径部50の流路面は、洗浄水タンク20の材料と同一材料であるポリプロピレンの合成樹脂で成形された面にシボ加工が施された面となっており、排水口シール部48の流路面の表面粗さRz0よりも大きい所定の表面粗さRzで形成されている。そして、排水口シール部48を形成する面の表面粗さRz0よりも大きい所定の表面粗さRz(Rz>Rz0)で形成された洗浄水タンク20の排水口縮径部50の流路面に沿って流れる洗浄水の流速について、洗浄水タンク20の排水口シール部48を流れる洗浄水の流速よりも減速させることができるようになっている。
【0032】
また、排水口直線部52の流路面は、排水口縮径部50の流路面の所定の表面粗さRzよりも小さい表面粗さRz1で形成されており、下方に延びた下端が便器本体2の導水路6に接続されている。洗浄水タンク20の排水口直線部52の流路内を流れる洗浄水は、排水口縮径部50の流路面に沿って流れる洗浄水の流速よりも速い流速で流れるようになっている。
【0033】
ここで、排水口縮径部50のシボ加工が施された領域面の表面粗さRzについては、10μm〜40μmに設定するのが好ましく、30μm〜35μmに設定するのが最も好ましい。
一方、排水口シール部48を形成する面の表面粗さRz0及び排水口直線部52の流路面の表面粗さRz1については、20μm以下に設定するのが好ましく、5μm以下に設定するのが最も好ましい。
【0034】
さらに、本実施形態では、一例として、排水口縮径部50の流路面について、排水口シール部48の流路面の表面粗さRz0よりも大きい所定の表面粗さRzの流路面を形成するためにシボ加工を採用した形態について説明しているが、このような形態に限定されず、排水口シール部48の流路面の表面粗さRz0よりも大きい所定の表面粗さRzで形成することができるものであれば、例えば、光造形加工、その他の機械加工、親水コーティング等、シボ加工以外の加工法を採用してもよい。
【0035】
また、本実施形態では、一例として、排水口縮径部50の流路面の全周に亘って、且つ、排水口縮径部50の流路面のすべての部分について、排水口シール部48の流路面の表面粗さRz0よりも大きい所定の表面粗さRzで形成した形態について説明したが、このような形態に限定されず、排水口縮径部50の流路面の一部の所定領域については、所定の表面粗さRzで形成しなくてもよい。
【0036】
つぎに、本発明の第1実施形態による洗浄水タンク装置の動作(作用)を説明する。まず、洗浄水タンク20内には、止水水位WL1まで洗浄水が満たされている。この状態で使用者が、便器使用後に、例えば、大洗浄用の操作ボタン(図示せず)を押すと、この操作ボタン(図示せず)からの信号がコントローラ(図示せず)に送信され、駆動装置40が駆動する。そして、回転軸44が回転し、回転軸44の先端に取り付けられている玉鎖46が上方へ引き上げられ、オーバーフロー管36及び排水弁38が一体的に上昇し、排水口22(排水口シール部48)が開放され、洗浄水タンク20内の洗浄水が排水口22から便器本体2の導水路6に排出される。
【0037】
洗浄水タンク20内の洗浄水が排水口22内を流れる際、まず、洗浄水は洗浄水タンク20の排水口シール部48から排水口縮径部50の流路面に沿って下方に流れる。この際、洗浄水タンク20の排水口縮径部50の流路面が、排水口シール部48の流路面の表面粗さRz0よりも大きい所定の表面粗さRzで形成されているため、排水口縮径部50の流路面に沿って流れる洗浄水の流速が、排水口シール部48を流れる洗浄水の流速よりも減速する。
そして、洗浄水が排水口縮径部50よりも下流側に位置する排水口直線部52の流路内を流れる際には、排水口直線部52の流路面が、排水口縮径部50の流路面の所定の表面粗さRzよりも小さい所定の表面粗さで形成されているため、排水口縮径部50の流路面に沿って流れる洗浄水の流速よりも速い流速で流れる。
【0038】
ここで、本発明者らは、洗浄水タンク20の排水口縮径部50の流路面の表面粗さRzと洗浄水タンク20の排水口22から排水される洗浄水の瞬間流量のばらつきとの関係を調べるため、排水口縮径部50の流路面についてシボ加工を行った場合(実験1)とシボ加工を行わない場合(実験2)に関する排水口縮径部50の流路面の洗浄水の瞬間流量を測定する実験を行った。
図9及び図10は、本発明の第1実施形態による洗浄水タンク装置を用いて、各実験1〜4の条件下で洗浄水タンクの排水口から排水される洗浄水の瞬間流量を測定した結果(実験結果1及び実験結果2)のデータをそれぞれ示す図である。
【0039】
実験1及び実験2に際し、洗浄水の瞬間流量の測定方法として、大洗浄モードの4.8リットルの洗浄水量を洗浄水タンク20に貯水した状態で、大洗浄用の操作ボタン(図示せず)を押して排水弁38を上昇させ、排水口22(排水口シール部48)を開放させて洗浄水を排水口22(排水口縮径部50)に供給する。そして、瞬間流量計を用いて、排水口縮径部50を通過する洗浄水の瞬間流量及び総排水量を測定し、瞬間流量の最大値、瞬間流量の最小値、瞬間流量の変動幅(瞬間流量の最大値と最小値との差)、及び、平均瞬間流量を記録したが、これらについては、大洗浄用の操作ボタン(図示せず)から送信される信号をトリガーとして、20msec毎に10秒間サンプリングを行った。また、図9及び図10では、サンプリングを行う回数をNとした。
【0040】
まず、実験1の条件では、排水口縮径部50の流路面の表面粗さRzが、洗浄水タンク20を形成するポリプロピレン合成樹脂の表面粗さ(3〜4μm)よりも大きい表面粗さ(Rz=34.5μm)になるようにシボ加工による表面加工を行い、洗浄水タンク20の母材であるポリプロピレン合成樹脂のスキン層を除去した状態で、3つのサンプル(サンプルB1〜B3)について5回のサンプリング(N=5)を行い、図9に示す結果(実験結果1)を得られた。
すなわち、排水口縮径部50の流路面にシボ加工を行った場合の実験結果1では、瞬間流量の最大値が137.0L/min、瞬間流量の最小値が133.0L/min、瞬間流量の変動幅(瞬間流量の最大値と最小値との差)が4.0L/min、平均瞬間流量が135.8L/minという結果が得られた。
【0041】
つぎに、実験2の条件では、排水口縮径部50の流路面に表面加工を行わず、排水口縮径部50の流路面の表面粗さRzが、洗浄水タンク20を形成するポリプロピレン合成樹脂の表面粗さ(3〜4μm)と等しい2つのサンプル(サンプルD1、D2)について5回のサンプリング(N=5)を行い、図10に示す結果(実験結果2)を得た。
すなわち、排水口縮径部50の流路面にシボ加工を行っていない場合の実験結果2では、瞬間流量の最大値が143.0L/min、瞬間流量の最小値が135.0L/min、瞬間流量の変動幅(瞬間流量の最大値と最小値との差)が8.0L/min、平均瞬間流量が139.9L/minという結果が得られた。
【0042】
図9及び図10に示す実験結果1及び実験結果2から、排水口縮径部50の流路面にシボ加工を行った場合(Rz=34.5μm)の平均瞬間流量(135.8L/min)については、排水口縮径部50の流路面にシボ加工を行っていない場合(Rz=3〜4μm)の平均瞬間流量(139.9L/min)よりも小さく、また、排水口縮径部50の流路面にシボ加工を行った場合の瞬間流量の変動幅(4.0L/min)についても、排水口縮径部50の流路面にシボ加工を行っていない場合の瞬間流量の変動幅(8.0L/min)よりも小さくなっていることが明らかとなった。
また、これらの実験結果から、洗浄水タンク20の排水口縮径部50の流路面について、排水口シール部48の流路面の表面粗さRz0よりも大きい所定の表面粗さRzで形成されるようにシボ加工を行うことにより、排水口縮径部50の流路面に沿って流れる洗浄水の流速を排水口シール部48を流れる洗浄水の流速よりも減速させることができ、かつ、瞬間流量の変動幅(ばらつき)を抑制して、排水口縮径部50の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を安定させることができることを確認した。
【0043】
上述した本発明の第1実施形態による洗浄水タンク装置18によれば、洗浄水タンク20の排水口縮径部50の流路面が、全周に亘って排水口シール部48の流路面の表面粗さRz0よりも大きい所定の表面粗さRzで形成されているため、排水口縮径部50の流路面に沿って流れる洗浄水の流速を排水口シール部48を流れる洗浄水の流速よりも全周に亘って同程度に減速させることができる。したがって、排水口縮径部50の流路内を流れる洗浄水は、排水口縮径部50の流路面からの剥離が抑制された状態で安定して流れるため、排水口縮径部50の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を安定させることができる。
【0044】
本実施形態による洗浄水タンク装置18によれば、排水口直線部52の流路面が、排水口縮径部50の流路面の所定の表面粗さRzよりも小さい所定の表面粗さで形成されているため、洗浄水タンク20の排水口縮径部50の流路面に沿って流れる洗浄水の流速を洗浄水タンクの排水口シール部48を流れる洗浄水の流速よりも減速させて、排水口縮径部50の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を安定させた後、洗浄水が排水口縮径部50よりも下流側に位置する排水口直線部52の流路内を流れる際には、排水口縮径部50の流路面に沿って流れる洗浄水の流速よりも速い流速で流れるため、洗浄水タンク20の排水口直線部52の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を増加させることができる。
【0045】
つぎに、図11により、本発明の第2実施形態による洗浄水タンク装置を説明する。第2実施形態による洗浄水タンク装置の基本構造は、第1実施形態による洗浄水タンク装置と同じであるので、以下、異なる部分のみを説明する。
図11は、本発明の第2実施形態による洗浄水タンク装置の洗浄水タンクの排水口を示す部分拡大断面図である。また、図11において、図8と同一部分については、同一符号を付し、これらの説明についても省略する。
【0046】
図11に示すように、本発明の第2実施形態による洗浄水タンク装置60においては、洗浄水タンク20の排水口62の排水口縮径部64の流路面が上端から下端にかけてテーパー状に窄まるように縮径しており、第1実施形態の洗浄水タンク20の排水口22の排水口縮径部50における上端から下端にかけて曲面状に窄まるように縮径した面とは異なっている。
また、排水口縮径部64の流路面は、第1実施形態の排水口縮径部50の流路面と同様に、全周に亘って排水口シール部48を形成する面(排水口シール部48の流路面)の表面粗さRz0よりも大きい所定の表面粗さRzで形成されている。
【0047】
このように、第2実施形態においても、排水口縮径部64の流路面に沿って流れる洗浄水の流速を排水口シール部48を流れる洗浄水の流速よりも減速させることができる。したがって、排水口縮径部64の流路内を流れる洗浄水は、排水口縮径部64の流路面に沿って流れ、剥離が抑制された状態で安定して流れるため、排水口縮径部64の流路内を流れる洗浄水の洗浄毎の瞬間流量を安定させることができる。
【符号の説明】
【0048】
1 水洗大便器
2 便器本体
4 ボウル部
6 導水路
8 排水トラップ管路
8a 排水トラップ管路の入口
8b 排水トラップ管路の上昇路
8c 排水トラップ管路の下降路
10 リム
12 第1吐水口
14 溜水部
16 第2吐水口
18 洗浄水タンク装置
20 洗浄水タンク
20a 洗浄水タンクの底面
22 排水口
24 給水装置
26 排水装置
28 水位センサ
30 定流量弁
32 給水バルブ
34 給水口
36 オーバーフロー管
36a オーバーフロー管の下端開口部
36b オーバーフロー管の上端開口部
36c オーバーフロー管の玉鎖取付部
38 排水弁
40 駆動装置
42 ガイド部材
44 回転軸
46 玉鎖
48 排水口シール部
48a 排水口シール部の上方突起
50 排水口縮径部
52 排水口直線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器を洗浄する洗浄水を貯水する洗浄水タンク装置であって、
上下方向に延びる排水口が底面に形成された洗浄水タンクと、
この洗浄水タンクに洗浄水を給水する給水手段と、
上記洗浄水タンクの排水口を開閉する排水弁と、を有し、
上記洗浄水タンクは、上記排水口の上縁に形成されて上記排水弁の閉鎖によってシールされる排水口シール部と、この排水口シール部から下方へ延びる内周面に沿って縮径する流路面を形成する排水口縮径部と、を備え、この排水口縮径部の流路面は、上記排水口シール部を形成する流路面の表面粗さよりも大きい所定の表面粗さで形成されていることを特徴とする洗浄水タンク装置。
【請求項2】
上記洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面は、10μm〜40μmの所定の表面粗さで形成されている請求項1記載の洗浄水タンク装置。
【請求項3】
上記洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面は、上記排水口の縮径部の流路内の全周に亘って上記所定の表面粗さで形成されている請求項2記載の洗浄水タンク装置。
【請求項4】
上記洗浄水タンクの排水口縮径部の流路面は、上記排水口縮径部の流路面のすべての部分に上記所定の表面粗さで形成されている請求項2又は3に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項5】
上記洗浄水タンクは、更に、上記排水口縮径部の下流側にほぼ直線状の流路面を形成する排水口直線部を備え、この排水口直線部の流路面は、上記排水口縮径部の流路面の上記所定の表面粗さよりも小さい所定の表面粗さで形成されている請求項2乃至4の何れか1項に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項6】
上記請求項1乃至5の何れか1項に記載の洗浄水タンク装置を備えた水洗大便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−184993(P2011−184993A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53756(P2010−53756)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】