説明

洗浄液及びノズルプレート洗浄方法

【課題】無機顔料や金属酸化物をポリマーに混合させたインクを使用するインクジェットプリンタにおいて、ノズルプレートに付着したインクを洗浄して除去する場合の使用に適した弱アルカリ性の洗浄液を提供する。
【解決手段】洗浄液において、pH8〜pH12の弱アルカリ溶液に、炭酸塩が添加されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液及びノズルプレート洗浄方法に関し、特に、インクジェットヘッドのノズルプレートを洗浄する洗浄方法、及び、このノズルプレートの洗浄に適した洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載されているように、インクジェットプリンタのインクジェットヘッドには、複数のノズルが形成されたノズルプレートが設けられている。このようなインクジェットプリンタでは、ノズルプレートのノズルからインク滴を噴射させて記録媒体に付着させることにより印刷を行っている。ノズルからインク滴が噴射された場合、インクの一部がノズルプレートの表面に付着するので、ノズルプレートの表面を定期的にクリーニングし、付着したインクを除去する必要がある。
【0003】
特許文献1に記載されたインクジェットプリンタでは、ノズルプレートの表面にワイプ部材を当接させ、このワイプ部材をノズルプレートの表面に沿って移動させることにより付着したインクを拭き取っている。
【0004】
特許文献1に記載されたインクジェットプリンタは民生用の機器であり、紙を主な記録媒体として使用される。このため、使用されるインクは、紙への浸透性を重視した成分であって、ノズルプレートの材料となる金属や樹脂に付着した場合には容易に拭き取ることが可能な成分により生成されている。したがって、特許文献1に記載されたように、ノズルプレートの表面に当接させたワイプ部材をノズルプレートの表面に沿って移動させることにより、付着したインクを拭き取ることができる。
【特許文献1】特開2005−145054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されたノズルプレートのクリーニング方法では、以下の点について配慮がなされていない。
【0006】
工業用のインクジェットプリンタでは、記録媒体としてガラスや樹脂を対象としており、使用されるインクは、ガラスや樹脂に対する付着性が良好なものが使用されている。例えば、無機顔料や金属酸化物をポリマーに混合させたインクが使用されている。このため、このようなインクがノズルプレートに付着した場合、除去することが困難であるという問題がある。特に、ノズルプレートに付着したインクをワイプ部材を用いて拭き取ろうとすると、ノズルプレートへのインクの付着を抑制するためにインクプレートの表面に塗布してあるフッ素系樹脂からなる撥インク膜が磨耗する。この原因は、インク中に含まれる無機顔料や金属酸化物が、研磨剤と同じように作用するためと考えられる。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、その目的は、無機顔料や金属酸化物をポリマーに混合させたインクを使用するインクジェットプリンタにおいて、ノズルプレートに付着したインクを洗浄する場合に使用する洗浄液及びこの洗浄液を使用して行うノズルプレートの洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施の形態に係る第1の特徴は、洗浄液において、pH8〜pH12の弱アルカリ溶液に、炭酸塩が添加されていることである。
【0009】
本発明の実施の形態に係る第2の特徴は、無機顔料と金属酸化物との少なくとも一方をポリマーに混合させたインクが付着したノズルプレートをポリマー溶解溶液により洗浄する工程と、前記ポリマー溶解溶液による洗浄を行った後の前記ノズルプレートをpH8〜pH12の弱アルカリ性の洗浄液により洗浄する工程と、を備えることである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インクが付着したノズルプレートの洗浄を良好に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態を図面を用いて説明する。
【0012】
図1に示すインクジェットプリンタ1は、無機顔料と金属酸化物との少なくとも一方をポリマーに混合させたインクを使用する工業用のインクジェットプリンタであり、ベース2と、支持体3と、移動機構4と、洗浄ユニット5とを備えている。支持体3と移動機構4と洗浄ユニット5とは、ベース2上に設置されている。
【0013】
支持体3は、横軸3aと横軸3aの両端に設けられた一対の脚部3bとを有する門型に形成され、移動機構4を跨ぐ位置に配置されている。支持体3には可動部材6が取付けられ、この可動部材6にインクジェットヘッド7が取付けられている。可動部材6は、Z軸方向(上下方向)に昇降可能に取付けられ、及び、支持体3の横軸3aに沿ってX軸方向(左右方向)に移動可能に取付けられている。
【0014】
移動機構4は、Y軸方向ガイド板8と、Y軸方向移動テーブル9と、X軸方向移動テーブル10と、基板保持テーブル11とを有している。
【0015】
Y軸方向ガイド板8は、ベース2の上面に固定されている。Y軸方向ガイド板8の上面には、Y軸方向に延出するガイド溝8aが形成されている。
【0016】
Y軸方向移動テーブル9は、Y軸方向ガイド板8の上に配置され、Y軸方向移動テーブル9の下面にはガイド溝8aにスライド可能に係合する凸部(図示せず)が形成されている。Y軸方向移動テーブル9は、送りネジと駆動モータとを用いた送り機構(図示せず)により、ガイド溝8aに沿ってY軸方向へスライド可能とされている。Y軸方向移動テーブル9の上面には、X軸方向に延出するガイド溝9aが形成されている。
【0017】
X軸方向移動テーブル10は、Y軸方向移動テーブル9の上に配置され、X軸方向移動テーブル10の下面にはガイド溝9aにスライド可能に係合する凸部(図示せず)が形成されている。X軸方向移動テーブル10は、送りネジと駆動モータとを用いた送り機構(図示せず)により、ガイド溝9aに沿ってX軸方向へ移動可能とされている。
【0018】
基板保持テーブル11は、X軸方向移動テーブル10の上面に固定されている。基板保持テーブル11の上面には、インクが塗付される基板12が載せ降ろし可能に載置されている。基板保持テーブル11の上面に載置された基板12は、基板保持テーブル11に設けられた吸着機構(図示せず)により吸着され、位置固定に保持されている。なお、基板保持テーブル11は、X軸方向移動テーブル10及びY軸方向移動テーブル9と共にY軸方向ガイド板8上をY軸方向に移動可能とされている。Y軸方向へ移動する基板保持テーブル11は、基板保持テーブル11上に載置された基板12がインクジェットヘッド7の下方に位置してインク滴の塗布が行われる位置(図1に示す位置)と、基板保持テーブル11がインクジェットヘッド7の下方位置から外れて基板保持テーブル11上への基板12の載せ降ろしを行える位置とに移動可能とされている。
【0019】
洗浄ユニット5は、インクジェットヘッド7の一部を構成する後述するノズルプレートを洗浄する部位である。洗浄ユニット5は、洗浄用の液体が注入される洗浄槽5aと、洗浄槽5a内に洗浄用の液体を出し入れする機構(図示せず)と、洗浄槽5a内の洗浄用の液体に対して超音波振動を印加する超音波振動装置(図示せず)とを備えている。
【0020】
インクジェットヘッド7は、図2に示すように、無機顔料と金属酸化物との少なくとも一方をポリマーに混合させたインクをインクタンク(図示せず)から供給される複数のインク室13と、各インク室13の壁の一部を形成するダイヤフラム14と、各インク室13に対応してダイヤフラム14に当接する位置に設けられた複数の圧電素子15と、各インク室13の壁の一部を形成するノズルプレート16とを備えている。ノズルプレート16には、各インク室13に連通する複数のノズル17が形成されている。
【0021】
インクジェットヘッド7では、圧電素子15に電圧が印加されることにより圧電素子15が縮む方向に変形し、この変形によりダイヤフラム14がインク室13の容積を大きくする方向に撓む。容積が大きくなったインク室13内にインクが流入し、インク室13内に収容されるインク量が増える。その後、電圧の印加を遮断することにより縮んでいた圧電素子15を復元させ、インク室13の容積を復元させるとともにインク室13内のインクの一部をノズル17からインク滴Eとして噴射させる。ノズル17から噴射されたインク滴Eは、基板12上の目的とする位置に塗布される。
【0022】
ノズル17からのインク滴Eの噴射を繰り返すうち、ノズルプレート16の表面におけるノズル17の周辺部分には、インクが付着する。ノズルプレート16の表面に付着したインクの洗浄は、洗浄ユニット5において行う。洗浄ユニット5においてインクジェットヘッド7を洗浄する場合は、インクジェットヘッド7を可動部材6と共に支持体3の横軸3aに沿って洗浄ユニット5の上方に移動させる。ついで、インクジェットヘッド7を下降させて洗浄槽5aの中に位置させ、洗浄槽5a内でポリマー溶解溶液による洗浄と、弱アルカリ溶液による洗浄とを2段階に行う。
【0023】
なお、この洗浄作業は、プログラムに従って自動的に行うようにしてもよく、又は、オペレータのスイッチ操作によって行うようにしてもよい。プログラムに従って行う場合としては、例えば、一日の作業終了後に行うようにしてもよく、又は、ノズルプレート16の汚れ状態を検知するセンサの検知結果に基づいて行うようにしてもよい。
【0024】
ノズルプレート16の洗浄作業工程を図3に示す。ノズルプレート16の洗浄作業は2工程に分けて行われ、まず、ポリマー溶解溶液による洗浄が行われる。ポリマー溶解溶液としては、例えば、PGMEA(ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート)とCHN(シクロヘキサン)とを混合した溶液を用いることができる。PGMEAとCHNとの混合比は、例えば、1:1の重量比とすることができる。CHNはインクを構成しているポリマーを溶解する働きがあり、PGMEAはポリマー間の隙間に入り込む働きがある。PGMEAとCHNとを混合したポリマー溶解溶液を洗浄槽5aに注入し、このポリマー溶解溶液中にインクジェットヘッド7のノズルプレート16を浸漬し、超音波洗浄を設定時間(例えば、3分)行う。
【0025】
ポリマー溶解溶液による洗浄(超音波洗浄)を行うことにより、インクを構成しているポリマーが溶解され、ノズルプレート16の表面にはインクを構成している無機顔料や金属酸化物が残留する状態となる。
【0026】
つぎに、洗浄槽5a内からポリマー溶解溶液を排出し、洗浄槽5a内にpH8〜pH12の弱アルカリ性の洗浄液を注入し、超音波洗浄を設定時間(例えば、3分)行う。この弱アルカリ性の洗浄液を用いた洗浄(超音波洗浄)を行うことにより、ノズルプレート16上に残留している無機顔料や金属酸化物、及び、その他の塵埃などが除去される。弱アルカリ性の洗浄液は、ノズルプレート16の表面に塗布してあるフッ素系樹脂からなる撥インク膜を傷めることなく無機顔料や金属酸化物を除去することができる。
【0027】
インクが付着したノズルプレート16の洗浄を、ポリマー溶解溶液による洗浄と、弱アルカリ性の洗浄液による洗浄との2段階に分けて行うことにより、無機顔料や金属酸化物をポリマーに混合させて生成され、ガラスや樹脂に対する付着性が良好なインクをノズルプレート16から確実に除去することができる。しかも、ノズルプレート16の表面に塗布してあるフッ素系樹脂からなる撥インク膜を傷めることなくインクを除去することができる。
【0028】
洗浄作業の2番目の工程で使用する弱アルカリ性の洗浄液は、pH8〜pH12の弱アルカリ溶液に、5ppm〜1%の炭酸塩を添加することにより生成されている。例えば、TMAH(トリメチルアンモニウムハイドライド)のpH11溶液に、200ppmのTMAH炭酸塩を添加することにより生成されている。弱アルカリ溶液は、空気中の二酸化炭素を吸収してpH値が下がり易いが、炭酸塩を添加することにより、緩衝作用によってpH値が変動しにくくなり、洗浄液として適したpH値を維持することができる。
【0029】
従って、弱アルカリ性の洗浄液として、炭酸塩を添加した洗浄液を用いることにより、この洗浄液のpH値を長期間に亘って弱アルカリ性の状態に維持することができる。これにより、準備した弱アルカリ性の洗浄液のpH値が時間の経過に伴って中性側に変化するということを防止することができ、準備した弱アルカリ性の洗浄液のpH値を長期間に亘って弱アルカリ性に維持することができ、この洗浄液の洗浄性能を長期間に亘って維持することができる。なお、添加する炭酸塩の量は、洗浄液の弱アルカリのpH値を維持したい期間によって変えればよく、pH値を維持したい期間が長くなる程炭酸塩の量を増加させる。
【0030】
図4は、炭酸塩を添加したpH11の弱アルカリ洗浄液と、炭酸塩を添加しないpH11の弱アルカリ洗浄液とのpH値の変動を測定した結果を示すグラフである。炭酸塩を添加しない場合は、測定を開始してから20日程度でpH値が8以下となり、洗浄液として機能しなくなることが判明した。これと比較して、炭酸塩を添加した場合は、測定を開始してから60日を経過してもpH8以上に維持され、洗浄液として機能することが判明した。
【0031】
これにより、ノズルプレート16の洗浄に炭酸塩を添加した弱アルカリ洗浄液を用いることにより、弱アルカリ洗浄液が洗浄液として機能できる期間を延ばすことができ、使用している弱アルカリ洗浄液が経時変化してpH値が下がり、ノズルプレート16の洗浄が不十分になるという事態の発生を防止することができる。
【0032】
なお、本実施の形態では、炭酸塩を添加した弱アルカリ洗浄液として、ノズルプレート16の洗浄に使用する場合を例に挙げて説明したが、この洗浄液の用途としてはノズルプレート16の洗浄用に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施の形態のインクジェットプリンタの概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示すインクジェットプリンタが備えるインクジェットヘッドを示す断面図である。
【図3】ノズルプレートの洗浄工程を示す工程図である。
【図4】炭酸塩を添加した弱アルカリ洗浄液と添加しない弱アルカリ洗浄液とのpH値の経時変化の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
16 ノズルプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH8〜pH12の弱アルカリ溶液に、炭酸塩が添加されていることを特徴とする洗浄液。
【請求項2】
無機顔料と金属酸化物との少なくとも一方をポリマーに混合させたインクが付着したノズルプレートをポリマー溶解溶液により洗浄する工程と、
前記ポリマー溶解溶液による洗浄を行った後の前記ノズルプレートをpH8〜pH12の弱アルカリ性の洗浄液により洗浄する工程と、
を備えることを特徴とするノズルプレート洗浄方法。
【請求項3】
前記弱アルカリ性の洗浄液に、炭酸塩が添加されていることを特徴とする請求項2記載のノズルプレート洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−73942(P2008−73942A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255512(P2006−255512)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】