説明

洗濯により消去可能な着色材組成物

【課題】 布、不織布などの繊維集合体に付着した場合に、滲みなどの問題を生ずることなく、簡単な水洗(洗濯)により消去することができる着色材組成物を提供する。
【解決手段】 少なくとも着色顔料、水溶性樹脂及び水を含む着色材組成物であって、
上記水溶性樹脂Rとして、酸価110〜220の樹脂Aが含まれており、
上記着色顔料が前記樹脂Aにより分散されており、
前記着色顔料Pと前記水溶性樹脂Rとの重量比(P/R比)が1/1〜1/30であり、
前記着色顔料Pと前記樹脂Aとの重量比(P/A比)が10/1〜1.5/1であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、墨汁、絵具、マーキングペン用インキ等として用いることができる着色材組成物に関する。さらに詳細には、紙に塗布した場合、高湿度下で滲みを生じることなく、また布、不織布などの繊維集合体に付着した場合に、簡単な水洗(洗濯)により消去することができる着色材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の墨汁は、衣服などの繊維に付着した場合、乾燥すると洗濯で消去することは困難であった。一方、現在洗濯で消去できる墨汁が提案されている。
【特許文献1】特開平9−316379
【特許文献2】特開平10−7957
【0003】
しかし、これらの着色材組成物は染料を使用したものであり、その構成要素から紙に塗布した場合、高湿度下での滲みの問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、紙に塗布した場合、高湿度下で滲みを生じることなく、また布、不織布などの繊維集合体に付着した場合に、簡単な水洗(洗濯)により消去することができる着色材組成物を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、少なくとも着色顔料、水溶性樹脂及び水を含む着色材組成物であって、
上記水溶性樹脂Rとして、酸価110〜220の樹脂Aが含まれており、
上記着色顔料が前記樹脂Aにより分散されており、
前記着色顔料Pと前記水溶性樹脂Rとの重量比(P/R比)が1/1〜1/30であり、
前記着色顔料Pと前記樹脂Aとの重量比(P/A比)が10/1〜1.5/1であることを特徴とする、洗濯により消去可能な着色材組成物である。
【0006】
また本発明のさらに好ましい態様は、少なくとも着色顔料、水溶性樹脂及び水を含む着色材組成物であって、
上記水溶性樹脂として、酸価110〜220の水溶性樹脂Aと酸価200〜260の水溶性樹脂Bが含まれており、
前記樹脂Bが前記樹脂Aより酸価が大きく、かつ
上記着色顔料が前記水溶性樹脂Aにより分散されている、洗濯により消去可能な着色材組成物である。
【0007】
なお、前記樹脂Bと前記樹脂Aの重量比(B/A)が0.9〜30である着色材組成物が好ましい。
【0008】
洗濯により消去可能な着色材組成物は、着色顔料、水溶性樹脂Aと水を少なくとも配合し分散して顔料分散体を得た後、この顔料分散体に、前記水溶性樹脂Aより酸価が大きい水溶性樹脂Bの水溶液を添加することにより得られる。
【発明の効果】
【0009】
これにより、染料を用いていないので高湿度下での滲みなどの問題が生ずることなくなって衣服などの繊維に上記着色材組成物が付着しても、洗濯による消去性が向上する。
従って、墨汁、サインペン用インキ、マーキングペン用インキなどの粘度が200mPa・s以下の着色材組成物のほか、高粘度の絵の具等の着色材組成物に適用して、洗濯により消去可能な着色材組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<着色顔料>
本発明で用いられる着色顔料は、粒径が細かく、着色効果を有することが求められる。具体的には粒径0.05〜0.5μmの顔料が好ましい。例えば、カーボンブラック、アニリンブラック、鉄黒、モノアゾ、アンスラキノン、キナクリドン、フタロシアニン、群青、紺青、アンスラキノンを用いることができる。
【0011】
着色顔料の配合量は、着色材組成物全量に対して1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%である。着色顔料が着色材組成物全量に対して1重量%未満の場合は、発色が低下する。着色顔料が着色材組成物全量に対して10重量%を越える場合は、粘度が上がって筆記や描画し難くなるほか、繊維に付着した後落ちにくくなる。
【0012】
<水溶性樹脂>
本発明では水溶性樹脂を用いる。その水溶性樹脂(以下、水溶性樹脂Rと称する場合がある。)としては、水に溶解可能で、着色顔料を顔料分散体として分散させ、かつ分散安定性に優れる樹脂Aを含有することが好ましい。この樹脂Aとしては酸価110〜220の樹脂、好ましくは酸価210〜220の樹脂を好適に用いることができる。例えば、酸価が110〜220、好ましくは酸価210〜220である、スチレンアクリル共重合体、スチレンマレイン酸共重合体、ポリアクリル酸、エチレン−マレイン酸共重合体などを挙げることができる。
そして、かかる樹脂Aを含む水溶性樹脂Rは、前記着色顔料Pと前記水溶性樹脂Rとの重量比(P/R)を1/1〜1/30とすることにより、着色顔料含有の着色材組成物において洗濯消去性を向上することが可能となる。
【0013】
なお、前記着色顔料Pと前記水溶性樹脂Rの重量比(P/R比)が1/1を超える場合は、洗濯による消去性が低下する。一方、前記着色顔料と前記水溶性樹脂の重量比(P/R比)が1/30未満となる場合は、粘度が高くなり、使用感が低下する。
【0014】
また、前記樹脂Aは、着色材組成物全量に対して0.1〜7.0重量%、特に0.2〜3.5重量%が好ましい。前記樹脂Aが着色材組成物全量に対して0.1重量%未満の場合、顔料の分散性が低下し、経時的に凝集し、洗濯による消去性が低下する。前記樹脂Aが着色材組成物全量に対して7.0重量%を超える場合、顔料の分散性は向上するが、粘度が高くなり、使用感が低下し、経時的にゲル化し易くなる。
【0015】
前記着色顔料Pと前記樹脂Aの重量比(P/A比)は10/1〜1.5/1、好ましくは5/1〜2/1である。前記着色顔料と前記樹脂Aの重量比(P/A比)が10/1を超える場合、顔料の分散性が低下し、経時的に凝集し、洗濯による消去性が低下する。前記着色顔料と前記樹脂Aの重量比(P/R比)が1.5/1未満の場合は、粘度が高くなり、使用感が低下し、経時的にゲル化し易くなる。
【0016】
また、本発明では、更に、この分散された着色顔料の顔料分散体に更に中性の水によって洗濯消去性を向上させる水溶性樹脂として、特に酸価が200〜260、好ましくは200〜240の樹脂Bを好適に用いることができる。例えば、酸価が200〜260、好ましくは200〜240である、スチレンアクリル共重合体、スチレンマレイン酸共重合体、ポリアクリル酸、エチレン−マレイン酸共重合体を挙げることができる。また、かかる水溶性樹脂として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイドなどの樹脂Cを用いることもできる。例えば、クラレ社製、商品名「PVA403」を挙げることができる。なおまた、前記樹脂Bと前記樹脂Cを混合することも可能である。
【0017】
前記樹脂Bは、前記水溶性樹脂を着色材組成物全量に対して1〜30重量%、好ましくは10〜25重量%含有する。前記水溶性樹脂が着色材組成物全量に対して1重量%未満の場合は、洗濯による消去性が低下する。また前記水溶性樹脂が着色材組成物全量に対して30重量%を越える場合は、粘度が高くなり、使用感が低下する。
【0018】
このように、酸価110〜220の樹脂で着色顔料を分散し、酸価200〜260の樹脂Bで水溶性を増大させることにより、着色顔料含有の着色材組成物において洗濯消去性を向上することが可能となる。
【0019】
なお、前記樹脂Bと前記樹脂Aの重量比(B/A)は0.9〜30が好ましい。このような範囲とすることにより、着色顔料が分散される樹脂Aと、水により洗濯消去性を発現する樹脂Bとの相乗作用を発揮することができる。
【0020】
また、水による洗濯消去性を増大させるために、前記水溶性樹脂、特にカルボン酸を有する樹脂Bの場合、これが水に溶解し、アルカリ性を呈し、中和したこれらの樹脂が塗布又は筆記して乾燥した後でも水に溶解する中和剤を含ませることが好ましい。具体的には、スチレンアクリル共重合体、スチレンマレイン酸共重合体、ポリアクリル酸及びエチレン−マレイン酸共重合体の群から選ばれる水溶性樹脂が樹脂Bである場合、上記中和剤を含ませることが好ましい。中和剤としては、無機塩類、アルカノールアミン類、アルキルアミン類及びジアミン類の群から選ばれる。無機塩類としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、アルカノールアミン類としてはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソパノールアミン、トリイソパノールアミンなどが挙げられ、ジアミン類としてはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンが挙げられる。特に、上記アルキルアミン類、無機塩類が中和した前記樹脂が乾燥した後でも、水による消去性が高く好ましい。なお、中和剤として水酸化アンモニウムを用いると、塗膜又は筆跡の乾燥の際、アンモニアが揮発するため、洗濯消去性が低下しやすい。
【0021】
前記中和剤は、前記水溶性樹脂を着色材組成物全量に対して0.1〜20重量%、好ましくは1.0〜15重量%含有する。前記中和剤が着色材組成物全量に対して0.1重量%未満の場合は、前記樹脂が水に溶解し難くなる。一方、前記水溶性樹脂が着色材組成物全量に対して20重量%を越える場合は、洗濯消去性が低下し、乾燥後に高湿度下での滲みが発生する。
【0022】
その他必要に応じて、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール等の多価アルコールや、防腐防黴剤を添加しても良い。
【0023】
なお、本発明の着色材組成物は、着色顔料、樹脂Aと水を少なくとも配合し分散してまず顔料分散体を得た後、この顔料分散体に樹脂Bの水溶液を添加することによって得ることができる。
【実施例】
【0024】
表1に示す組成にて、着色顔料、樹脂A、水、必要に応じて顔料濡れ剤を配合し、ビーズミル(ダイノーミル:シンマルエンタープライゼス社製)にて1時間分散を行う。次に、この顔料分散体に樹脂Bの水溶液を添加し30分攪拌して、墨汁の着色材組成物を得る。
【0025】
【表1】

【0026】
(表注)
1)商品名:Monarch800(カーボンブラック/CABOT社製) 17重量%、水溶性樹脂(スチレンアクリル共重合体、ジョンソンポリマー社製、商品名:Johncryl 683) 3.4重量%、樹脂中和剤(水酸化ナトリウム) 0.4重量%、残部が水の顔料分散体
2)商品名:シムラファーストレッド4127 17重量%、水溶性樹脂(スチレンアクリル共重合体、ジョンソンポリマー社製、商品名:Johncryl 683) 3.4重量%、樹脂中和剤(水酸化ナトリウム) 0.4重量%、残部が水の顔料分散体
3)商品名:ファーストゲンブルー TGR 17重量%、水溶性樹脂(スチレンアクリル共重合体、ジョンソンポリマー社製、商品名:Johncryl 683) 3.4重量%、樹脂中和剤(水酸化ナトリウム) 0.4重量%、残部が水の顔料分散体
4)商品名:Johncryl 690(スチレンアクリル共重合体/ジョンソンポリマー社製)の30%水溶液(水酸化ナトリウム中和)
5)商品名:PVA403(ポバール/クラレ社製)の30重量%水溶液
6)商品名:Johncryl 611(スチレンアクリル共重合体/ジョンソンポリマー社製)の20%水溶液(水酸化ナトリウム中和)
7)商品名:PVA102(ポバール/クラレ社製)の20重量%水溶液
8)商品名:Monarch800(カーボンブラック/CABOT社製) 17重量%、水溶性樹脂(スチレンアクリル共重合体、ジョンソンポリマー社製、商品名:Johncryl 678)の3.4重量%、樹脂中和剤(水酸化ナトリウム) 0.5重量%、残部が水の顔料分散体
9)商品名:Monarch800(カーボンブラック/CABOT社製) 17重量%、水溶性樹脂(スチレンアクリル共重合体、星光化学工業社製、商品名:X−1)の3.4重量%、樹脂中和剤(水酸化ナトリウム) 0.6重量%、残部が水の顔料分散体
10)商品名:X−1202S(スチレン−マレイン酸共重合体、星光化学工業社製)の30重量%水溶液(水酸化ナトリウム中和)
【0027】
なお、表に示す樹脂の酸価は、商品情報による値又は常法により測定した値である。
【0028】
次に、綿ブロード(晒)の試験布に水を含まない画筆(平筆4号)を用いて、この墨汁組成物を塗布し、室温で指触乾燥するまで放置した。その後、乾燥後の試験サンプルを洗濯機でpHが弱アルカリ性の合成洗剤を使用して(洗濯槽の水量に対して0.2重量%)20℃で15分間洗濯し、15分間水洗した。乾燥後に試験サンプルを目視で観察し、評価した。
【0029】
<消去性評価>
○が合格、△×が不合格である。
○:汚れが除去されている。
△:色、筆跡がはっきりわかる。
×:全く落ちない。
【0030】
<書き味評価>
○が合格、△×が不合格である。
○:非常になめらかである。
△:もたつき、ひっかかりがある。
×:もたつきがひどく、ほとんど書けない。
【0031】
表1より、本実施例の着色材組成物であれば、染料を用いていないので高湿度下での滲みなどの問題が生ずることなく、誤って衣服などの繊維に上記着色材組成物が付着しても、洗濯による消去性が向上する。また、書き味も良好である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の着色材組成物は、墨汁(墨液)、絵具のほか、マーキングペン用インキ等の水性インキ組成物として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着色顔料、水溶性樹脂及び水を含む着色材組成物であって、
上記水溶性樹脂Rとして、酸価110〜220の樹脂Aが含まれており、
上記着色顔料が前記樹脂Aにより分散されており、
前記着色顔料Pと前記水溶性樹脂Rとの重量比(P/R比)が1/1〜1/30であり、
前記着色顔料Pと前記樹脂Aとの重量比(P/A比)が10/1〜1.5/1であることを特徴とする、洗濯により消去可能な着色材組成物。
【請求項2】
前記水溶性樹脂Rが、前記樹脂Aと酸価200〜260の樹脂Bから構成されており、
前記樹脂Bが前記樹脂Aより酸価が大きく、かつ
前記樹脂Bと前記樹脂Aの重量比(B/A)が0.9〜30である請求項1記載の、洗濯により消去可能な着色材組成物。
【請求項3】
前記樹脂A及び前記樹脂Bが、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸及びエチレン−マレイン酸共重合体の群からそれぞれ選ばれる請求項1又は2記載の、洗濯により消去可能な着色材組成物。
【請求項4】
前記樹脂Bが、無機塩、アルカノールアミン、アルキルアミン及びジアミンの群から選ばれるいずれかの中和剤により中和されて水に溶解されている請求項2又は3記載の、洗濯により消去可能な着色材組成物。
【請求項5】
着色顔料、水溶性樹脂Aと水を少なくとも配合し分散して顔料分散体を得た後、この顔料分散体に、前記水溶性樹脂Aより酸価が大きい水溶性樹脂Bの水溶液を添加することを特徴とする、洗濯により消去可能な着色材組成物の製造方法。
【請求項6】
水溶性樹脂Aの酸価が110〜220、水溶性樹脂Bの酸価が200〜260の水溶性樹脂Bである請求項5記載の、洗濯により消去可能な着色材組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかの着色材組成物で構成された墨汁。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかの着色材組成物で構成された水性インキ組成物。

【公開番号】特開2006−57084(P2006−57084A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209768(P2005−209768)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】