説明

洗濯機

【課題】水槽を傾けたり直立状態にする際にセンサに不具合が生じていても吊り棒の暴走的な移動を阻止できる洗濯機を提供する。
【解決手段】筐体1内に配設された水槽2と、筐体1内の四隅から水槽2を吊り下げる吊り棒82、92をそれぞれ有し、その内、2本の吊り棒92には吊り棒92を軸方向に移動させる吊り棒駆動部91が設けられており、水槽2を傾けたり直立状態にするための吊り下げ手段8、9と、吊り棒駆動部91を駆動して吊り棒92を軸方向に移動させたときに、予め設定された上限位置あるいは下限位置の何れかを検知すると吊り棒駆動部91の駆動を停止させる制御部とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽傾斜方式の洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の洗濯機は、水槽の中に回転自在に配設された洗濯兼脱水槽の底部に攪拌翼が設けられ、その攪拌翼の回転によって渦流を発生させ、摩擦または振動などの機械的作用と洗剤による化学作用とによって汚れを除去するものである。洗濯された衣類の脱水には、洗濯兼脱水槽を回転させ、遠心力を利用している。さらに、脱水後の衣類の乾燥は、洗濯兼脱水槽に温風を吹きこみながら攪拌翼を回転させている。この種の洗濯機として、洗濯兼脱水槽が収納された水槽を筐体の四隅に配置された4本の吊り棒によって吊り下げている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−237491号公報(図1および図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の洗濯槽は、攪拌翼により発生した渦流は中央部に集中することから布同士が絡んだり、鉛直方向の流れや動きが形成され難いことから効果的な洗濯がなされないことがあった。
【0005】
そこで、洗い工程および乾燥行程において、前述した4本の吊り棒のうち、奧に配設された2本の吊り棒を駆動部(モーターとギア)と連動させて上方に移動させ、水槽を前方に傾かせる洗濯機が提案されている。水槽の傾斜角度は、センサなどを用いて判別しており、所定角度になったときに駆動部を停止させるようにしている。しかしながら、センサの感度が低下したり、ゴミやホコリなどの異物や故障により検出が不可能になった場合には、吊り棒が所定の位置になっても動作を継続してしまい、そのため、吊り棒の先端部が筐体を破損したり、モータロックによる過負荷でギアを損傷させてしまう恐れがあった。
【0006】
本発明は、前述のような課題を解決するためになされたもので、センサに不具合が生じていても吊り棒の暴走的な移動(吊り棒の軸方向)を阻止できる洗濯機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る洗濯機は、筐体内に配設された水槽と、水槽を吊り下げる吊り棒と、吊り棒を軸方向に移動させて水槽を傾斜させる吊り棒駆動部と、吊り棒駆動部を駆動して吊り棒を軸方向に移動させたときに、予め設定された上限位置あるいは下限位置の何れかを検知すると吊り棒駆動部の駆動を停止させる制御部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、筐体内に水槽を吊り下げる吊り棒のうち、吊り棒駆動部が設けられた吊り下げ手段により吊り棒が軸方向に移動させられたときに、予め設定された上限位置あるいは下限位置の何れかを検知すると吊り棒駆動部の駆動を停止させるようにしたので、センサに不具合が生じても吊り棒の暴走的な移動を阻止でき、このため、吊り棒による筐体の破損を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明の実施の形態に係る洗濯機を示す側面側の説明図、図2は洗濯機の上面側の説明図である。
洗濯機の筐体1は、図1、2に示すように外観が矩形状に形成され、上面にはトップカバー4が設置されている。トップカバー4には、外蓋5が開閉自在に設けられている。筺体1内に収納された水槽2は、上部に開口部が設けられた有底円筒状に形成され、その中に洗濯兼脱水槽(図示せず)が回転自在に配設されている。また、水槽2の開口部側には内蓋(図示せず)が設けられており、その内蓋は、機械的または電気的に外蓋5の開閉に連動して開いたり閉じたりするようになっている。
【0010】
水槽2内に配設された洗濯兼脱水槽の側面には脱水のための複数の通水孔(図示せず)が形成されている。また、洗濯兼脱水槽の内側底面には、投入された衣類および注水された水を攪拌する攪拌翼(図示せず)が回動自在に配置されている。水槽2の下方に配設されたモータ3は、ギア、クラッチなどの機構を介して攪拌翼や洗濯兼脱水槽と連結される。吊り下げ手段8、9は、上部側が筐体1の四隅に固定された吊り板6に、下部側が水槽2に固定されたフランジ7にそれぞれ揺動可能に取り付けられ、水槽2を懸架している。手前側の吊り下げ手段8は、支持部81と、吊り棒82と、防振部83とを備え、奧に設けられた吊り下げ手段9は、吊り棒駆動部91と、吊り棒92と、防振部93とを備えている。
【0011】
ここで、前述した吊り下げ手段8、9の構成について図3乃至図6を用いて詳述する。図3は吊り下げ手段の構成を説明するための図、図4は吊り下げ手段の吊り棒駆動部の構成図、図5は位置検出部および下限ストッパの構成を示す斜視図、図6は上限ストッパの構成を示す斜視図である。
吊り下げ手段8の支持部81は、図3に示すように、吊り板6の上面に形成された半球状の凹部(図示せず)に摺動可能に嵌合された上端受け部81aからなり、吊り棒82の一方の先端部が直角に折り曲げられて取り付けられている。防振部83は、フランジ7の下面に摺動可能に当接された下端受け部83aと、ゴムリング83bと、バネ83cと、そのゴムリング83bおよびバネ83cを覆うように取り付けられた筒状の弾性部材83dと、バネ受け部83eとからなり、吊り棒82のもう一方の先端部が直角に折り曲げられてバネ受け部83eの下面に当接している。
【0012】
吊り下げ手段9の吊り棒駆動部91は、図4に示すように、軸方向にネジにより吊り棒92が取り付けられ、外周面に雄ネジが切られた駆動ネジ部91aと、内周面に駆動ネジ部91aの雄ネジと螺合する雌ネジを有し、外周面に歯が切られた嵌合歯車部91bと、図示していないがDCモータおよびDCモータの回転を伝達する動力伝達部である各種の歯車よりなり、DCモータの回転を種々の歯車を介して嵌合歯車部91bに伝達する駆動機構部91cと、吊り板6の上面に形成された半球状の凹部(図示せず)に摺動可能に嵌合された上端受け部91dとを備えている。
【0013】
駆動ネジ部91aの上端外周部に下限ストッパピン11aが設けられ、後述する位置検出部13の下方の下限位置にストッパプレート11b(図5参照)が設置されており、また、駆動ネジ部91aの下端部には、図4および図6に示すようにリング状の上限ストッパ12が取り付けられている。前述したストッパプレート11bは、嵌合歯車部91bのケース(図示せず)などに取り付けられている。また、駆動部ケース91eおよびそのケース91eの上部に設置された防塵ケース91fには、下限ストッパピン11aを軸方向に案内する案内部(図示せず)が設けられている。これにより、嵌合歯車部91bの回転運動に対して駆動ネジ部91aが垂直運動(軸方向)をする。
【0014】
駆動ネジ部91aの下方への移動により下限ストッパピン11aがストッパプレート11bに接触した場合、駆動機構部91cのDCモータの駆動が停止し、また、駆動ネジ部91aの上方への移動により上限ストッパ12が上端受け部91dの溝に達した場合もDCモータの駆動が停止するようになっている。これについては、動作説明時に詳述する。なお、上限ストッパ12が上端受け部91dの溝に達したところを上限位置としている。
【0015】
前記の位置検出部13は、上限位置(上端受け部91d)と下限位置(ストッパプレート11b)の間の所定位置、例えばそのストッパプレート11bの上方に設置され、吊り棒92の軸方向の変位を軸方向とは異なる方向の変位に変換する移動方向変換部と、軸方向とは異なる方向の変位に基づいて位置検出を行う変位検出部とを備えている。変位検出部は、図5に示すように、発光ダイオードおよびフォトトランジスタからなるフォトインタラプタ13aと、発光ダイオードの照射光を遮断する遮光板13bとから構成されている。移動方向変換部は、遮光板13bを離脱方向に付勢するバネ13cと、遮光板13bに設けられた傾斜部と、吊り棒92に設けられ、吊り棒92の軸方向の移動により傾斜部を摺動して、バネ13cの付勢力に抗して遮光板13bをフォトインタラプタ13a側(挿入方向)に押し出す下限ストッパピン11aとを備えている。遮光板13bは、バネ13cの付勢によりストッパプレート11bの側面に当接しており、駆動ネジ部91aの下方への移動により下限ストッパピン11aが傾斜部に当たると、バネ13cの引っ張りに抗して前方に移動して、発光ダイオードの照射光を遮断する。この遮光板13bによって発光ダイオードの照射光を遮断されたときは、水槽2が直立状態となるように設定されている。
【0016】
ホールIC14aおよびマグネット14bは、嵌合歯車部91bの回転数を検出するためのもので、嵌合歯車部91bの上面に取り付けられたマグネット14bがホールIC14aの下を通過する毎に、ホールIC14aから1パルスの信号が出力される。このパルス数から水槽2の傾き角度が判別できるようにしている。
【0017】
次に、本実施の形態における吊り棒駆動部の動作について図7を用いて説明する。図7は実施の形態における吊り棒駆動部の駆動制御を説明するためのブロック図である。
本実施の形態の洗濯機は、例えば、洗い工程および乾燥工程において衣類の量が少ないとき水槽2を傾斜させ、また、洗濯終了時にも衣類が取り出し易いように水槽2を傾けるようになっている。水槽2を傾斜させる際、制御部23は、出力インタフェース24を介して駆動回路25に駆動信号を出力し、DCモータ26を所定の方向に回転させる。この時、駆動機構部91cを介して嵌合歯車部91bが回転し、これに連動して駆動ネジ部91aが上方へ移動する。
【0018】
一方、ホールIC14aは、嵌合歯車部91bが1回転する毎に1パルスの信号を出力し、制御部23は、そのパルス信号を入力インタフェース22を介して読み込んでパルス数を計測し、かつ、そのパルス数(回転数)から水槽2の傾斜角度を算出する。そして、傾斜角度が所定角度になったかどうかを判定し、所定角度まで達していないときは、入力インタフェース22を介して入力される電流測定部21からの電流値を読み込んで、所定の閾値を超えたかどうかを判定する。電流値が閾値を超えることなく、傾斜角度が所定角度と一致したときは、DCモータ26の駆動を駆動回路25を通じて停止させる。なお、前述した電流測定部21は、DCモータ26の電源線に挿入されたシャント抵抗20の両端の電圧降下を測定し、その測定値とシャント抵抗20の値とから電流値を判別する。
【0019】
また、制御部23は、パルス数から算出した水槽2の傾斜角度が所定角度になる前に、電流測定部21からの電流値が閾値を超えると、DCモータ26の駆動を停止させる。この状態は、駆動ネジ部91aの下端部に設けられた上限ストッパ12が上端受け部91dの溝に到達したときのDCモータ26への過負荷による電流値上昇を検知したときである。このような状態が起こる要因として、ホール素子14aの感度が低下して正確に検知できなかったときである。また、DCモータ26を駆動した際に、ホール素子14aが故障していた場合でも、上限ストッパ12による駆動ネジ部91aの停止によりDCモータ26に過負荷がかかるので、過負荷による電流値が閾値を超えたときにDCモータ26の駆動を停止させる。
【0020】
制御部23は、所定角度で傾いている水槽2を所定位置(直立状態)まで戻すとき、DCモータ26を逆回転させ、駆動ネジ部91aを下方へ移動させる。そして、入力インタフェース22を介して入力される位置検出部13からの信号が遮断されたかどうかを判定する。信号の入力が遮断されていないときは、入力インタフェース22を介して入力される電流測定部21からの電流値を読み込んで、閾値を超えたかどうかを判定する。電流値が閾値を超えることなく、位置検出部13からの信号の遮断を検知したときは、DCモータ26の駆動を駆動回路25を通じて停止させる。この状態は、駆動ネジ部91aの上端外周部に設けられた下限ストッパピン11aが位置検出部13の遮光板13bを前方へ押し出したときで、水槽2が直立状態で停止する。
【0021】
また、制御部23は、位置検出部13からの信号の遮断を検知することなく、電流測定部21からの電流値が閾値を超えたとき、DCモータ26の駆動を停止させる。この状態は、下限ストッパピン11aが位置検出部13を通過してストッパプレート11bに接触したときであり、駆動ネジ部91aの停止によるDCモータ26への過負荷で電流値上昇を検知したときである。このような状態が起こる要因として、位置検出部13のフォトインタラプタ13aの感度が低下して正確に作動しなかったり、塵、埃などの異物や故障によって検出が不可能になったときである。
【0022】
以上のように実施の形態によれば、駆動ネジ部91aの上端外周部に下限ストッパピン11aを設け、水槽2を所定位置に停止させる位置検出部13の下方に下限ストッパピン11aを受けるストッパプレート11bを設け、さらに、駆動ネジ部91aの下端部にリング状の上限ストッパ12を設けたので、位置検出部13やホールICの感度が低下したり、塵、埃などの異物や故障を起こしていたとしても駆動ネジ部91aの暴走的な移動を阻止でき、このため、駆動ネジ部91aの上方に突出している吊り棒92によって防塵ケース91fが破損するということがなくなり、また、DCモータ26のロックによる過負荷で駆動ネジ部91aや嵌合歯車部91b、駆動機構部で使用されている歯車などの損傷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る洗濯機を示す側面側の説明図である。
【図2】洗濯機の上面側の説明図である。
【図3】吊り下げ手段の構成を説明するための図である。
【図4】吊り下げ手段の吊り棒駆動部の構成図である。
【図5】位置検出部および下限ストッパの構成を示す斜視図である。
【図6】上限ストッパの構成を示す斜視図である。
【図7】実施の形態における吊り棒駆動部の駆動制御を説明するためのブロック図である。
【符号の説明】
【0024】
1 筐体、2 水槽、6 吊り板、7 フランジ、8 吊り下げ手段、81 支持部、82 吊り棒、83 防振部、9 吊り下げ手段、91 吊り棒駆動部、91a 駆動ネジ部、91b 嵌合歯車部、92 吊り棒、93 防振部、11a 下限ストッパピン、11b ストッパプレート、12 上限ストッパ、13 位置検出部、14a ホールIC、14b マグネット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に配設された水槽と、
該水槽を吊り下げる吊り棒と、
該吊り棒を軸方向に移動させて前記水槽を傾斜させる吊り棒駆動部と、
該吊り棒駆動部を駆動して吊り棒を軸方向に移動させたときに、予め設定された上限位置あるいは下限位置の何れかを検知すると前記吊り棒駆動部の駆動を停止させる制御部と
を備えたことを特徴とする洗濯機。
【請求項2】
前記吊り棒駆動部は、モータおよび該モータの回転を伝達する動力伝達部と、吊り棒の上部に取り付けられ、前記動力伝達部に連動して軸方向に移動する駆動ネジ部と、該駆動ネジ部の上端外周部に設けられた下限ストッパと、前記駆動ネジ部の下端部に設けられた上限ストッパとを備え、
前記制御部は、前記吊り棒駆動部を駆動して吊り棒を軸方向に移動させたときに、前記上限ストッパあるいは前記下限ストッパの何れかにより前記駆動ネジ部の停止を検知すると前記モータの回転を停止させることを特徴とする請求項1記載の洗濯機。
【請求項3】
前記制御部は、前記モータの電流が所定の閾値を超えたとき、前記駆動ネジ部が前記上限ストッパあるいは前記下限ストッパの何れかにより停止したと判断して前記モータを停止させることを特徴とする請求項2記載の洗濯機。
【請求項4】
前記吊り棒駆動部を収納する駆動部ケースおよび該駆動部ケースの上部に設けられた防塵ケースに前記下限ストッパを軸方向に案内する案内部が設けられていることを特徴とする請求項2又は3記載の洗濯機。
【請求項5】
前記上限位置と前記下限位置の間の所定位置に前記吊り棒が到達したことを検出する位置検出手段をさらに備え、
前記位置検出手段は、前記吊り棒の軸方向の変位を軸方向とは異なる方向の変位に変換する移動方向変換部と、軸方向とは異なる方向の変位に基づいて位置検出を行う変位検出部とを備えていることを特徴とする請求項2乃至4の何れかに記載の洗濯機。
【請求項6】
前記変位検出部は、測定領域における光の遮断を検出するフォトインタラプタと、前記測定領域に対して挿入離脱動作を行う遮光板とを備えていることを特徴とする請求項5記載の洗濯機。
【請求項7】
前記移動方向変換部は、前記遮光板を離脱方向に付勢するバネと、前記遮光板に設けられた傾斜部と、前記吊り棒に設けられ、該吊り棒の軸方向の移動により前記傾斜部を摺動して、前記バネの付勢力に抗して前記遮光板を挿入方向に押し出すストッパピンとを備えていることを特徴とする請求項5又は6記載の洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−206905(P2008−206905A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48694(P2007−48694)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000004422)日本建鐵株式会社 (152)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】