説明

洗濯機

【課題】使用者が特別な剤を補給する必要なく、イオン交換材を連続使用可能な軟水化装置を搭載した洗濯機を実現すること。
【解決手段】洗濯槽1と給水手段3との間に荷電ゼロ点がpH7.5以上の弱酸性陽イオン交換基を有する弱酸性陽イオン交換材を充填した軟水化手段5と、給水手段3と軟水化手段5との間に弱酸性〜中性の水を調製するpH低下手段7とを備え、給水した水道水の硬度を軟水化手段5によって低下させて洗濯槽1に導入して洗濯に供給し、給水の終了後にpH低下手段7を作動させて生成した弱酸性〜中性の水を軟水化手段5に導入することによって弱酸性陽イオン交換材から硬水成分を脱離するようにしたので、使用者が再生のために特別な剤を補給する必要なく再生可能な軟水化装置を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟水化装置を備えた洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
洗濯機に利用される洗濯用水は通常水道水や地下水、井戸水などであり、洗濯機を使用する場所の水質の影響を大きく受ける。特に、カルシウム、マグネシウムなどの硬水成分は界面活性剤の洗浄力を低下させる性質があり、洗浄性能に対して負の影響を与える。また、硬水の場合、洗剤を溶解させにくいため、洗濯機の各部が洗剤カスで汚れやすくカビの発生などの原因になりうる。また、微量溶解している鉄やマンガン、アルミニウムなどの多価金属イオンも洗剤と相互作用して同様の問題を引き起こす。
【0003】
この課題に対処するため、市販洗剤には硬水成分を吸着するゼオライトなどの軟水化剤が配合される。ゼオライトは多価イオンを吸着しやすい特性があるためにある程度の軟水化効果を発揮するが、洗剤の溶けた洗浄水中に混ぜられた状態で使われるために一部の硬水成分や金属イオンは洗浄水中に再溶解して上記の問題を起こすので効果には限度がある。
【0004】
そのため、硬水地域では軟水地域に比べてより多くの洗剤を投入することによって洗浄性能を発揮している。硬水地域の洗剤のパッケージには硬度に応じて投入量が指示してあることが多い。しかし、洗剤の使用量が多くなることは環境に負担をかけるとの懸念がある。また、洗剤カスの問題については抜本的な対策にならない。
【0005】
洗濯機に陽イオン交換樹脂などの軟水化装置を搭載して硬水成分を除去するという技術がある(例えば、特許文献1、2参照)。最も一般的な陽イオン交換樹脂は、スルホン酸基などの酸性イオン交換基を表面に有し、静電気力によって陽イオンを吸着保持する。酸性イオン交換基は、イオンの価数やイオン半径に応じて吸着のしやすさが異なる。強酸性イオン交換基であるスルホン酸基の場合、3価イオン>2価イオン>1価イオンの順に、またイオンの価数が同じ場合イオン半径が大きいほど吸着されやすい。Na型のイオン交換樹脂に硬水を通水すると硬水成分であるCa2+やMg2+がNaよりも選択性が強いためにイオン交換樹脂に保持されて、代わりに等量のNaが流出する。
【0006】
陽イオン交換樹脂の軟水化作用は、酸性イオン交換基の表面荷電の大部分が硬水成分で飽和されたときに失われる。したがって、定期的に食塩(NaCl)などの再生剤を加えて、高濃度のNaを陽イオン交換樹脂に通水することによってCa2+やMg2+を交換再生する必要がある。
【0007】
一方、強酸性陽イオン交換樹脂の代わりに、弱酸性陽イオン交換樹脂やキレート樹脂を用いた軟水化装置も提案されている(例えば、特許文献3参照)。これらのイオン交換樹脂は、カルボキシル基をイオン交換基として有する。カルボキシル基は、上記のスルホン酸基と異なって、弱酸性イオン交換基は、Hイオン(酸)に対して大きな選択性を持つ(数式1)。
【0008】
【数1】

【0009】
カルボキシル基のpKa値は5〜6であるので、処理する水のpHの値がpKaよりも
通常0.5以上高い場合には大部分が解離して負電荷を発現し、Ca2+イオンやMg2+イオンを吸着するが、処理する水のpHの値がpKaよりも通常0.5以上低い場合にはHイオンが吸着して大部分が非解離型となりCa2+イオンやMg2+イオンを吸着しない。このようなHイオンに対する特異的な選択性を応用して、処理水のpHを制御することによりアルカリ性で軟水化作用を発揮させたり酸性で樹脂の再生をおこなったりすることができる。
【0010】
酸性水およびアルカリ水の生成を隔膜つき電解槽によっておこなえば、弱酸性イオン交換樹脂の再生のために剤を加える必要がなく、自動再生型の軟水化装置にすることが原理上可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−319383号公報
【特許文献2】特開平11−70296号公報
【特許文献3】特開2005−161144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
Naイオンは、Ca2+イオンやMg2+イオンに比べて陽イオン交換樹脂に対する選択性が低いため、通常、交換排出するCa2+イオンやMg2+イオンの量に比べて1000倍以上のNaイオンを再生剤として添加する必要がある。使用者は、食塩などの再生剤をたびたび補給しなければならないという手間を必要とする。本来、洗剤の使用量を少なく抑えたいという要求に対して再生剤という別の補給剤が必要になるため、本質的に使用者の欲求に応えることにならない。
【0013】
加えて、高濃度の食塩水が何らかの理由でこぼれたり手に付着したりすると、感電の危険が生じる。また、洗濯機の内部や排水管などの周辺設備に金属が使用されている場合、高濃度の食塩水によって腐食する懸念があり好ましくない。
【0014】
既存の弱酸性陽イオン交換樹脂やキレート樹脂はpKa値が5〜6のカルボキシル基を陽イオン交換基として有する。そのため、それらの樹脂を再生するためには、pHが4.5〜5.5以下の酸性水を生成する必要があり、再生剤を投入することなくそのようにpHの低い酸を生成するには水を電解する装置や直流電源を別途搭載することが必要である。一般に家庭用洗濯機の場合は、設置スペースの大きさに制約があるため、電解装置を必要とする上記の技術は実用上の課題が大きい。
【0015】
また、水道水は一般に数ppm以上の塩化物イオンを含むため、電解の際に必然的に酸化力のある次亜塩素酸が生じる。一般的な陽イオン交換樹脂は有機高分子素材で作られているために、次亜塩素酸によって長期的に酸化劣化が起こる。一般に家庭用洗濯機の場合、使用者が洗濯機の構成物を定期交換することは期待できないため、電気分解をおこなうと樹脂および軟水化装置の寿命を短くする恐れがある。
【0016】
本発明は、上記の課題を解決して、使用者が再生のために特別な剤を補給する必要なく、またイオン交換材を酸化劣化しない方法で再生可能な軟水化装置を搭載した洗濯機を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の洗濯機は、洗濯物を収納する洗濯槽と、前記洗濯槽内に収容された前記洗濯物を洗浄する洗浄手段と、前記洗濯槽内に水を給水する給水手段と、前記洗濯槽内の水を排
水する排水手段と、前記給水手段と前記洗濯槽との間に荷電ゼロ点がpH7.5以上の弱酸性陽イオン交換基を有する陽イオン交換材を充填した軟水化手段と、給水された水のpHを上昇させるためのpH上昇手段と、給水された水のpHを低下させるためのpH低下手段と、前記給水手段、洗浄手段、排水手段、pH上昇手段、pH低下手段を制御するための制御手段を備え、前記制御手段は、洗浄に用いる水を給水しながらpH上昇手段によってpHを上昇させた後で水を前記軟水化手段に導入して、水の硬度を低下させて前記洗濯槽に導入して洗濯に供給し、給水の終了後に前記pH低下手段を作動させて生成した弱酸性〜中性の水を前記軟水化手段に導入するようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって、使用者が新たな剤を補給する必要なく再生可能な軟水化装置を搭載した洗濯機が実現可能となる。再生剤の投入を必要としないため使用者は投入の手間を要することがない。また、洗濯機自体によって自動再生できるため、常に安定して軟水を供給することができて洗浄性能が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1における洗濯機の構成図
【図2】(a)同洗濯機の洗浄工程の前の給水時の水道水の供給の状況を示す図(b)同洗濯機のすすぎ工程の前の給水時の水道水の供給の状況を示す図
【図3】(a)本発明の実施の形態2における洗濯機の洗浄工程の前の給水時の水道水の供給の状況を示す図(b)同洗濯機のすすぎ工程の前の給水時の水道水の供給の状況を示す図
【図4】本発明の実施の形態3における洗濯機の軟水化手段の構成図
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1の発明は、洗濯物を収納する洗濯槽と、前記洗濯槽内に収容された前記洗濯物を洗浄する洗浄手段と、前記洗濯槽内に水を給水する給水手段と、前記洗濯槽内の水を排水する排水手段と、前記給水手段と前記洗濯槽との間に荷電ゼロ点がpH7.5以上の弱酸性陽イオン交換基を有する陽イオン交換材を充填した軟水化手段と、給水された水のpHを上昇させるためのpH上昇手段と、給水された水のpHを低下させるためのpH低下手段と、前記給水手段、洗浄手段、排水手段、pH上昇手段、pH低下手段を制御するための制御手段を備え、前記制御手段は、洗浄に用いる水を給水しながらpH上昇手段によってpHを上昇させた後で水を前記軟水化手段に導入して、水の硬度を低下させて前記洗濯槽に導入して洗濯に供給し、給水の終了後に前記pH低下手段を作動させて生成した弱酸性〜中性の水を前記軟水化手段に導入するようにした洗濯機である。
【0021】
荷電ゼロ点が7.5以上の陽イオン交換材は、Hイオン(酸)に対して大きな選択性を持ち、また、陽イオンの吸着力が弱いためにH型に再生しやすいという特長がある。陽イオン交換基としてカルボキシル基(COOH基)を持つ一般的な弱酸性陽イオン交換樹脂の荷電ゼロ点は5〜6であるが、それらのイオン交換樹脂に比べると本発明の洗濯機に用いる弱酸性陽イオン交換材はより高いpH(約pH7)でH型に再生できる。pH7程度の弱酸を生成するためには、化学剤や電解装置を用いなくても種々の手段によって可能であるため、再生剤として特別な剤を投入したり電解をおこなったりする必要がない軟水化装置を搭載した洗濯機を実現することができる。
【0022】
第2の発明は、特に、第1の発明の洗濯機において、陽イオン交換材は、水酸基を表面に有する無機材料であり、水酸基が弱酸性陽イオン交換基として作用するようにしたものである。特に、金属の非晶質水酸化物は弱酸性を示し、荷電ゼロ点がpH7.5以上にある場合がある。そのような材料は、pH7.5以上の水溶液中では表面に負電荷を発現して、陽イオン交換材としてふるまう。また、pH7.5以下の水溶液中では表面に正電荷
を発現して陰イオン交換樹脂としてふるまう。
【0023】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明の洗濯機において、陽イオン交換材は、水酸基を表面に有する無機材料を基材の表面に塗布したものであり、水酸基が弱酸性陽イオン交換基として作用するようにしたものである。特に、金属の非晶質水酸化物は弱酸性を示し、荷電ゼロ点がpH7.5以上にある場合がある。そのような材料は、pH7.5以上の水溶液中では表面に負電荷を発現して、陽イオン交換材としてふるまう。また、pH7.5以下の水溶液中では表面に正電荷を発現して陰イオン交換樹脂としてふるまう。
【0024】
第4の発明は、特に、第1〜3のいずれか1つの発明の洗濯機において、pH上昇手段は洗剤を投入する洗剤ケースとしたものである。一般的な洗濯用洗剤は、炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ剤を数%〜40%含んでいる。したがって、給水された水に洗剤を溶かすことによってpHを陽イオン交換材の荷電ゼロ点よりも上昇させる作用があり、陽イオン交換材に負電荷を発現させる効果がある。
【0025】
第5の発明は、特に、第1〜4のいずれか1つの発明の洗濯機において、pH低下手段は、柔軟剤を投入する柔軟剤ケースと、すすぎ時に前記柔軟剤ケースに給水するように給水手段の流路を切り替える給水切り替え弁であり、すすぎ時に前記柔軟剤ケースに給水された水道水が軟水化手段に流入するようにしたものである。衣類用柔軟剤は、一般に中性のpHをもちまたpH調整剤を含んでいるために、陽イオン交換材の荷電ゼロ点よりも水のpHを低く保つ作用があり、陽イオン交換材をH型に変換する効果がある。
【0026】
第6の発明は、特に、第1〜5のいずれか1つの発明の洗濯機において、pH低下手段は、水道水に空気中の二酸化炭素を溶解させる気体溶解手段であり、前記気体溶解手段によって弱酸性の希炭酸水を生成して軟水化手段に導入されるようにしたものである。空気中の二酸化炭素が純水に溶解した場合の平衡pHは5.6であり、陽イオン交換材の荷電ゼロ点よりも低いために、陽イオン交換材をH型に変換する効果がある。
【0027】
第7の発明は、特に、第1〜6のいずれか1つの発明の洗濯機において、pH低下手段は、陽極が陽イオン交換材に接する位置にある一対の電極と直流電圧印加機能を持つ制御手段であり、水の電気分解によって陽イオン交換材周囲の水のpHを下げるようにしたものである。硬水の直流電気分解によって陽極周辺の水はpHが低下し、周囲の陽イオン交換材の荷電ゼロ点よりも低下させることによって、陽イオン交換材をH型に変換する効果がある。
【0028】
第8の発明は、特に、第1〜7のいずれか1つの発明の洗濯機において、所定の使用時間ごとに、pH低下手段で生成するよりも強い酸を軟水化手段に供給してメンテナンスするものである。硬水成分の一部は、陽イオン交換材に微量に残留して蓄積することがあり、そのような場合、陽イオン交換容量が徐々に減少する。pH低下手段で生成するよりも強い酸を軟水化手段に供給することにより、硬水成分の蓄積を防いで軟水化手段の軟水化性能を長期間確保する効果がある。
【0029】
第9の発明は、特に、第1〜8のいずれか1つの発明の洗濯機において、所定の使用時間ごとに、キレート剤を軟水化手段に供給してメンテナンスするものである。硬水成分の一部は、陽イオン交換材に微量に残留して蓄積することがあり、そのような場合陽イオン交換容量が徐々に減少する。キレート剤を軟水化手段に供給することにより、硬水成分の蓄積を防いで軟水化手段の軟水化性能を長期間確保する効果がある。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における洗濯機の構成図を示す。
【0032】
図1において、実施の形態1における洗濯機は、洗濯物を収納する洗濯槽1と、洗濯槽1を撹拌して物理的洗浄作用を発揮するモーターなどの洗浄手段2と、洗浄槽1に給水をおこなう給水手段3と、洗浄槽1から排水をおこなう排水手段4と、給水手段3によって給水された水を軟水化する軟水化手段5と、給水手段3と軟水化手段5との間に設けられ洗剤を収容する洗剤ケース(pH上昇手段)6と、給水手段3と軟水化手段5との間で洗剤ケースとは別経路に設けられたpH低下手段7と、各構成物の動作を制御する制御手段8とからなる。
【0033】
軟水化手段5は、アルミ、鉄などの水酸化物からなる弱酸性陽イオン交換材を収納する。イオン交換材としては、他に酸化マンガン、酸化チタンなどの金属材料や、アロフェン、イモゴライトなどの弱酸性鉱物、あるいはこれらの材料を別の多孔質素材に塗布して焼結した材料でもよい。
【0034】
上記の材料は荷電ゼロ点が約8.0〜9.0であり、また有機高分子材料(アクリル、スチレン、ジビニルベンゼンなど)で作られた一般的な弱酸性陽イオン交換樹脂にくらべると酸化や加水分解に対する耐久性が強いという特長がある。水道水には殺菌目的で酸化作用のある次亜塩素酸が含まれることが多くの国の水道基準で定められているため、一般的な陽イオン交換樹脂では長期的に酸化劣化が起こりうる。一般に家庭用洗濯機の場合、使用者が洗濯機の構成物を定期交換することは期待できないため、製品寿命と同じくらい長く耐久性を発揮するイオン交換材料を用いる必要がある。その点で、本実施の形態1における洗濯機の弱酸性陽イオン交換材は家庭用洗濯機の軟水化材としてより適している。
【0035】
一例として、非晶質アルミナは水酸基が数式2のように解離して陽イオン交換作用を発揮する。
【0036】
【数2】

【0037】
アルミナの荷電ゼロ点は約8〜9であり、それ以上のpH域で上記の式がより右辺側に進行する。すなわち、大部分のアルミナが解離状態となり陽イオン交換能を発揮する。逆にpHがそれよりも酸性域であればアルミナやシリカは非解離、すなわち−OH型となる。この原理を利用して、pHを概ね荷電ゼロ点よりも0.5以上低くすれば、上記の陽イオン交換材を再生することができる。従来の弱酸性陽イオン交換樹脂の交換基はカルボキシル基であり、荷電ゼロ点が5〜6であるためにより強い酸性でなければ再生できない点が異なる。
【0038】
上記材料は鉱物として産出したものを比較的簡便な処理によって作成できるため原材料価格が、合成樹脂である従来の陽イオン交換樹脂よりも安くできるという特徴がある。これらの無機材料は酸化剤による酸化劣化や高温に対して従来の弱酸性陽イオン交換樹脂よりも耐久性が高い。
【0039】
本実施の形態1のpH低下手段7は、柔軟剤を収納して水道水に柔軟剤を投入することのできる柔軟剤供給手段である。硬水地域では洗濯後の衣類がゴワついた感触になりやすいため、柔軟剤を使用することが一般的である。一般に柔軟剤は、洗剤に含まれるアルカリ剤を中和する目的でpH調整剤または酸を含み、中性以下のpHである。通常、柔軟剤
を投入することによって液性は弱酸性陽イオン交換材の荷電ゼロ点よりも低いpH7.5〜6程度に調整される。このようなpHの液が軟水化手段5に流入することによって、本実施形態の弱酸性陽イオン交換材が再生される。
【0040】
本実施の形態1の特徴的な部分である軟水化手段5と洗剤ケース6とpH低下手段7について図2に動作の模式図を示して説明する。図2(a)は、洗浄工程の前の給水時の水道水の供給の状況を示す図、図2(b)は、すすぎ工程の前の給水時の水道水の供給の状況を示す図である。
【0041】
洗浄工程の前の給水時は、図2(a)に示すように、水道水の流路は給水切り替え弁9によって洗剤ケース(pH上昇手段)6方向(矢印イ)に設定される。洗剤を溶かして、洗剤の成分として含まれるアルカリ剤によってpHが10以上に上昇した水が、軟水化手段5に流入する。軟水化手段5に収納される弱酸性陽イオン交換材はアルカリ条件によって解離して、陽イオン交換作用を発揮する。その結果、水道水に含まれるカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの硬水成分は静電気力によって弱酸性陽イオン交換材の表面に吸着保持される。300ppmの硬水を500mlの弱酸性陽イオン交換材を含む軟水化手段5に流量5L/分で供給した場合、硬度が約100ppmまで低下する。このようにして軟水化された水が洗濯槽1に供給される。軟水は洗剤を溶解する能力が硬水よりも強く、また洗剤の洗浄力を発揮させやすいという特長を有する。
【0042】
一方、すすぎ工程の前の給水時は、図2(b)に示すように、給水の流路は給水切り替え弁9によってpH低下手段7の方向(矢印ロ)に設定される。pH低下手段7は、柔軟剤供給手段であるので、柔軟剤を溶かして、柔軟剤の成分として含まれるpH調整剤によってpHが7以下に緩衝された水が、軟水化手段5に流入する。軟水化手段5に収納される弱酸性陽イオン交換材はそのようなpH条件によって非解離状態となり再生される。軟水化手段5から脱離した硬水成分は、洗濯槽1に供給されてすすぎ終了後に排水として排出される。
【0043】
すなわち、本実施の形態1においては、通常の使用において、軟水化手段5が再生されるため、常に安定して軟水を供給することができて洗浄性能を安定させることができる。
【0044】
(実施の形態2)
本実施の形態2は、上記実施の形態1と共通の部分が多いため、異なる部分のみを説明する。図3(a)は、本実施の形態2の洗濯機の洗浄工程の前の給水時の水道水の供給の状況を示す図、図3(b)は、同洗濯機のすすぎ工程の前の給水時の水道水の供給の状況を示す図である。
【0045】
本実施の形態2の流路は、軟水化手段5と洗濯槽1との間に流路切り替え弁10を有し、流路を洗濯槽1方向と排水方向に切り替え可能としている。
【0046】
図3(a)に示すように、アルカリ条件によって軟水化手段5が軟水化をおこなう工程については実施の形態1と同じであり、その際流路切り替え弁10は矢印ハ方向に切り替えられて軟水化された水を洗濯槽1に供給する。
【0047】
図2(b)に示すように、すすぎ工程の前の給水時は、水道水の流路は給水切り替え弁9によってpH低下手段7の方向(矢印ロ)に設定される。本実施の形態2のpH低下手段7は、水道水に空気中を溶解させる気体溶解手段であり、給気部11から矢印ニ方向に取り込んだ空気を水道水に混入させる。気体溶解手段の例としてイジェクターがある。イジェクターは、水流によって生じた負圧によって空気を自ら吸い込み、水中に微細気泡を発生させて短時間に気体を水中に溶解させる。
【0048】
空中には濃度約360ppmの二酸化炭素が存在し、水道水と平衡させると水道水に溶解した二酸化炭素は炭酸を生じ(数式3)、炭酸が部分的に解離する(数式4)ことによって液性は弱酸性になる。
【0049】
【数3】

【0050】
【数4】

【0051】
純水と平衡させた場合で、平衡pHは約5.6となることが知られている。純水でなくても通常の水道水の場合、荷電ゼロ点が約7.5以上の弱酸性陽イオン交換基と組み合わせて用いれば、炭酸水によって再生することが可能である。
【0052】
軟水化手段を再生することにより軟水化手段が吸着保持していた硬水成分のCa2+やMg2+イオンが流出する。これら硬水成分が洗剤を含む洗浄水に流入すると洗剤カスが発生したり、すすぎ水に流入すると衣類の繊維がゴワついたりするため、なるべく洗剤や衣類、機体との接触は避けたい。そのため、軟水化手段からの再生流水は洗濯槽を通らないように切り替え弁10によって別経路(矢印ホ)で排出する。繊維のゴワつき防止に有利な一方で、再生に用いた水は利用されること無く捨てられるので、節水には不利である。
【0053】
(実施の形態3)
本実施の形態3は、上記実施の形態1と共通の部分が多いため、異なるのみ部分を説明する。図4は、本実施の形態3の洗濯機の洗浄工程の前の給水時の水道水の供給の状況を示す図である。
【0054】
本実施の形態3のpH低下手段7は、一対の電解電極と電圧印加機能を持つ制御手段8であり、陽極12は陽イオン交換材に囲まれた位置に、陰極13は隔離膜14を挟んで隣接する箇所に設けられている。
【0055】
洗浄水を給水する際は、上記の一対の電極に電圧は印加されない。アルカリ洗剤の作用で弱酸性陽イオン交換材の表面は負電荷を発現し、軟水化機能を発揮する。
【0056】
一方、すすぎ工程の前の給水時に、電極に直流電圧を印加すると、陽極の周辺の硬水は数式5の反応にしたがって酸を発生する。
【0057】
【数5】

【0058】
発生した酸によって、弱酸性陽イオン交換材の周囲の水は荷電ゼロ点よりも低下し、その結果、弱酸性イオン交換材は再度H型に戻る。
【0059】
従来の弱酸性イオン交換樹脂で酸性電解水によるH型への変換をおこなった場合、電解の副産物として生じる次亜塩素酸によってイオン交換樹脂が酸化劣化するという問題があった。本発明の、金属水酸化物などの陽イオン交換材を用いれば酸化劣化に対する耐久性
が大幅に向上する。また、pH7以下でH型に変換されるため電解に要するエネルギーが少なくてすむ。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明にかかる洗濯機の軟水化手段は、家庭用洗濯機に限らず産業用の洗濯機、食器洗い機、アルカリ洗剤をもちいた洗浄機器等の用途にも適用できる。特に、硬水地域において水道水や地表水を産業用に利用する場合においては、利用範囲が広いものである。
【符号の説明】
【0061】
1 洗濯槽
2 洗浄手段
3 給水手段
4 排水手段
5 軟水化手段
6 洗剤ケース
7 pH低下手段
8 制御手段
9 給水切り替え弁
10 流路切り替え弁
11 給気経路
12 陽極
13 陰極
14 隔膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗濯物を収納する洗濯槽と、前記洗濯槽を回転自在に内包する水槽と、前記水槽に取り付けられ前記水槽を回転駆動する駆動手段と、前記水槽および洗濯槽内に水を給水する給水手段と、前記水槽および洗濯槽内の水を排水する排水手段と、前記給水手段と前記水槽との間に設けられ荷電ゼロ点がpH7.5以上の弱酸性陽イオン交換基を有する陽イオン交換材を充填した軟水化手段と、給水された水のpHを上昇させるためのpH上昇手段と、給水された水のpHを低下させるためのpH低下手段と、前記給水手段、駆動手段、排水手段等を制御し洗い、すすぎ、脱水等の各行程を逐次制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、洗浄に用いる水を給水しながらpH上昇手段によってpHを上昇させた後で水を前記軟水化手段に導入して、水の硬度を低下させて前記洗濯槽に導入して洗濯に供給し、給水の終了後に前記pH低下手段を作動させて生成した弱酸性〜中性の水を前記軟水化手段に導入するようにした洗濯機。
【請求項2】
陽イオン交換材は、水酸基を表面に有する無機材料であり、水酸基が弱酸性陽イオン交換基として作用する請求項1記載の洗濯機。
【請求項3】
陽イオン交換材は、水酸基を表面に有する無機材料を基材の表面に塗布したものであり、水酸基が弱酸性陽イオン交換基として作用するようにした請求項1または2に記載の洗濯機。
【請求項4】
pH上昇手段は、洗剤を投入する洗剤ケースである請求項1〜3のいずれか1項に記載の洗濯機。
【請求項5】
pH低下手段は、柔軟剤を投入する柔軟剤ケースと、すすぎ時に前記柔軟剤ケースに給水するように給水手段の流路を切り替える給水切り替え弁であり、すすぎ時に前記柔軟剤ケースに給水された水道水が軟水化手段に流入するようにした請求項1〜4のいずれか1項に記載の洗濯機。
【請求項6】
pH低下手段は、水道水に空気中の二酸化炭素を溶解させる気体溶解手段であり、前記気体溶解手段によって弱酸性の希炭酸水を生成して軟水化手段に導入されるようにした請求項1〜5のいずれか1項に記載の洗濯機。
【請求項7】
pH低下手段は、陽極が陽イオン交換材に接する位置にある一対の電極と直流電圧印加機能を持つ制御手段であり、水の電気分解によって陽イオン交換材周囲の水のpHを下げるようにした請求項1〜6のいずれか1項に記載の洗濯機。
【請求項8】
所定の使用時間ごとに、pH低下手段で生成するよりも強い酸を軟水化手段に供給してメンテナンスする請求項1〜7のいずれか1項に記載の洗濯機。
【請求項9】
所定の使用時間ごとに、キレート剤を軟水化手段に供給してメンテナンスする請求項1〜8のいずれか1項に記載の洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−30973(P2011−30973A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183012(P2009−183012)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】