説明

洗腸具

【課題】 患者自身が肛門部にあてがって薬液漏れを防止しつつ本人単独で浣腸等の洗腸操作を完遂可能な洗腸具であって、肛門のただれや腫れがあるなどの問題を伴っている場合であっても、痛みを伴わずに使用することの可能な洗腸具を提供すること。
【解決手段】 洗腸具10は、洗腸液を封入する袋部1と、洗腸液を搬送する搬送チューブ2と、洗腸液の流入量または速度を調節する送液調節部3と、肛門に挿入して洗腸液を注入する腸カテーテル部4とを備えており、腸カテーテル部4の手前側に洗腸液の液漏れを防ぐための臀部吸着部6が設けられている構成とする。腸カテーテル部4は、肛門への挿入深さの調節が可能に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗腸具に係り、特に、自然肛門の機能障害により高度な便失禁と排便障害を有する患者の排便コントロールを良好に保つ目的で行われる洗腸療法において、患者本人が単独で、かつ安全で簡易に浣腸等の洗腸操作を行うことを可能とする、洗腸具に関する。
【背景技術】
【0002】
結腸がん、直腸がん等において、術後の自然肛門の機能が高度に障害された状態では、失禁を基本とした高度な排便障害が生ずる。そのような患者のほとんどは、オムツ、下剤や整腸剤の内服により排便管理を行い、社会生活を行っている。しかしながら、管理は必ずしも満足すべき水準にならないことも多く、実際には、社会生活上相当の負担を強いられている現状である。
【0003】
たとえば、便失禁により肛門周囲皮膚のただれがひどい場合は、オムツ装着を強いられ、かつ頻繁にオムツ交換に迫られ、また肛門部の痛みのため、社会生活活動に制約がある。
【0004】
また自己洗腸法の場合は、朝のうちに自宅で洗腸すれば、たとえば出勤等の外出用務から帰宅するまでの間、自己の便を見ずに済むこともあり、オムツ装着に比べれば、社会生活上の負担は軽減できるといえる。また、患者の生活に合わせて行うことができるという利点もある。
【0005】
しかしながら従前の洗腸療法においては、介助者の介助により自然肛門から浣腸液を注入しても肛門から漏れてしまい、有効な洗腸が困難である等の課題があった。かかる問題の解決を目的として、患者自らが肛門部にあてがうシリコン製コーンを圧着させることで薬液の漏れを低減し、患者本人が単独で洗腸操作を完遂できるように工夫された補助具が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許公開2007−75232号公報「自己洗腸療法補助具」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて、洗腸療法は従来、肛門から微温湯を結腸内に注入する方法で行われてきた。浣腸においては一方、健常者における通常の便秘の場合であれば、直腸肛門の保持能によって薬液が直腸に停留し、これが排便の刺激となって、排便がなされる。しかし、結腸がんや直腸がん等により直腸肛門機能が高度に障害された場合は、薬液が注入する脇から漏れてしまい、浣腸の用をなさないことがあった。
【0008】
さらに、多くの患者においては、本人単独で浣腸器を肛門に圧着させることは困難であるため、介助者が必要であった。しかしこれは、介助者、患者の双方にとって負担が大きく、直腸肛門機能の高度傷害を基盤とする排便障害に対しては、満足すべき対処がほとんどなされていない状況であった。
【0009】
また、シリコン製コーンを肛門部にあてがうという上述の方法(特許文献1)では、肛門がただれていたり、あるいは肛門が腫れているなどの問題を伴っている患者の場合には、痛みを伴うこととなり、注入中に液漏れがあり、使用しにくく、更なる改良が必要なものであった。さらに従来の浣腸具や洗腸具は、使用後の洗浄が不便であった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の状況を踏まえ、患者その他の使用者自身が肛門部にあてがって薬液漏れを防止しつつ本人単独で浣腸等の洗腸操作を完遂可能な洗腸具であって、肛門のただれや腫れがあるなどの問題を伴っている場合であっても、痛みを伴わずに使用することの可能な洗腸具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、上記課題解決を達成すべく検討した結果、肛門部には密着することのないような液漏れ防止用吸盤を備え、当該吸盤により挿入深さを調節する機能を備え、使用者本人が単独で使用することができ、さらに洗浄可能なよう簡単に分解できる洗腸具を開発することができた。そして、その開発成果に基づいて、本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0012】
〔1〕 洗腸液を封入する袋部と、該洗腸液を搬送する搬送チューブと、該洗腸液の流入量または速度を調節する送液調節部と、肛門に挿入して該洗腸液を注入する腸カテーテル部とを備えた洗腸具であって、該腸カテーテル部の手前側に該洗腸液の液漏れを防ぐための臀部吸着部が設けられている、洗腸具。
なお、洗腸液には浣腸液が含まれる。以下も同様である。
〔2〕 前記腸カテーテル部の肛門への挿入深さの調節が可能に形成されていることを特徴とする、〔1〕に記載の洗腸具。
〔3〕 前記挿入深さの調節を行うための、使用者の腸長さ等に応じて前記腸カテーテル部の挿入深さを調節可能な深さ調節装置が設けられていることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の洗腸具。
〔4〕 前記腸カテーテル部の肛門への挿入深さの調節は、該腸カテーテル部と前記臀部吸着部との距離の調節によりなされることを特徴とする、〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の洗腸具。
〔5〕 前記腸カテーテル部と前記搬送チューブとは、相互の切り離しを可能とする係止部により連結されていることを特徴とする、〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の洗腸具。
〔6〕 前記腸カテーテル部の肛門への挿入深さの調節は、長さの異なる該腸カテーテル部を複数用意しておき、それを交換することによりなされることを特徴とする、〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の洗腸具。
〔7〕 洗腸液を封入する袋部と、該洗腸液を搬送する搬送チューブと、該洗腸液の流入量または速度を調節する送液調節部と、肛門に挿入して該洗腸液を注入する腸カテーテル部と、該腸カテーテル部の手前側に設けられた該洗腸液の液漏れを防ぐための臀部吸着部と、およびコネクタとを備えた洗腸具であって、該コネクタに該搬送チューブ、該臀部吸着部および該腸カテーテル部が接続されて構成されることを特徴とする、洗腸具。
〔8〕前記臀部吸着部は下記(A)のいずれかにより形成されていることを特徴とする、〔1〕ないし〔7〕のいずれかに記載の洗腸具。
(A)エラストマー粘着シート、PETフィルム
【発明の効果】
【0013】
本発明の洗腸具は上述のように構成されるため、これによれば、必要に応じて適宜、患者その他の使用者自身が単独で自分の肛門部にあてがって使用し、浣腸等の洗腸操作を完遂することができる。つまり、介助者が不要となる。また、薬液漏れを防止して、浣腸等の洗腸操作を完遂することができる。さらに、肛門のただれや腫れがあり痛みを伴っているなどの問題を伴っている患者の場合であっても、痛みを伴わずに使用することができる。しかも、係止部を備えた本発明洗腸具はこれを簡単に分解できるため、使用後の洗浄にも便利であり、また腸カテーテル部と搬送チューブの接続や交換も容易に行うことができる。
【0014】
従来、高度の排便障害を有する患者は、失禁や下着の汚染の不安が常につきまとうものであった。したがってかかる患者は、精神的な負担が大きく、生活の質の高度化の面および社会参加の面において著しく制限され、障害を被っていたといえる。しかし、本発明の洗腸具は上述のように患者にとって非常に使用しやすいものであるため、定期的な、あるいは適宜の効果的洗腸療法を患者単独で行うことができ、精神的負担を軽減できるとともに、生活の質の向上と積極的社会参加をも促すことが可能である。なお本発明は、患者のみならず健常者であっても、たとえば便秘の場合等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明洗腸具の基本構成を示す説明図である。
【図1B】図1Aに示した本発明洗腸具の使用方法を示す説明図である。
【図1−2】本発明洗腸具に係る臀部吸着部の構成例の平面図および断面図である。
【図2】本発明洗腸具の別の基本構成を示す説明図である。
【図3】本発明洗腸具の実施例(浣腸具)の構成を示す説明図である。
【図4A】実施例3の側面方向からの一部断面図である。
【図4B】図4Aの右側面図である。
【図4C】図4A中破線円で囲んだ部位の詳細断面図である。
【図4D】図4Aの斜視図である。
【図5A】図5Aは図4Aに示した浣腸具を構成する腸カテーテル例の端面図および側面方向断面図である。
【図5B】図4Aの浣腸具に使用可能な別の腸カテーテルの例の端面図および側面方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明について、詳細に説明する。
図1Aは、本発明洗腸具の基本構成を示す説明図である。また、図1Bは、図1Aに示した本発明洗腸具の使用方法を示す説明図である。これらに図示するように本洗腸具10は、洗腸液を封入する袋部1と、洗腸液を搬送する搬送チューブ2と、洗腸液の流入量または速度を調節する送液調節部3と、肛門に挿入して洗腸液を注入する腸カテーテル部4とを備えており、腸カテーテル部4の手前側に洗腸液の液漏れを防ぐための臀部吸着部6が設けられていることを、主たる構成とする。送液調節部3はたとえば、ローラークランプを用いて構成することができる。
【0017】
かかる構成により本洗腸具10は、袋部1に洗腸液が封入され、腸カテーテル部4が使用者Hの肛門に挿入され、そして洗腸液は、送液調節部3により流入量または速度が調節されつつ搬送チューブ2により搬送され、その先に設けられていて使用者Hの肛門に挿入されている腸カテーテル部4から体内に注入されるというように用いられるが、腸カテーテル部4の挿入の際に特徴的な手順がある。それは、腸カテーテル部4の手前側に設けられた臀部吸着部6が、使用者Hの臀部に吸着されることである。この臀部吸着部6は使用者Hの臀部に吸着可能に形成されたものであるため、臀部への吸着によって、洗腸液が肛門から漏れ出すことがあっても、それを臀部吸着部6内部に留めて、臀部吸着部6の外に漏れ出すことを、相当程度防止することができる。
【0018】
各図において、本洗腸具10の腸カテーテル部4は、肛門への挿入深さの調節が可能に形成されたものとすることができる。かかる構成により本洗腸具10においては、使用者Hおよびその使用状況に適した挿入深さに腸カテーテル部4を調節することができ、適切かつ快適な洗腸を実施することができる。
【0019】
挿入深さ調節の具体的な機構や構造は、特に限定せずに従来公知の如何なる機構・構造をも採ることができる。また深さ調節は、臀部吸着部6を臀部に吸着させると同時に腸カテーテル部4を挿入する手順が済んだ後に、適切な深さに調節する、という方法も採ることはできる。しかし、使用者Hの快適な使用のためには、腸カテーテル部4の挿入の前に予め、腸カテーテル部4と臀部吸着部6との距離を適切な距離に調節することをもって、挿入深さ調節とすることが、望ましい。
【0020】
臀部吸着部は、たとえば次のような仕様とすることができる。
材質:シリコンゴム
硬さ:ショアAで50〜70。特に50が望ましい。
大きさ:直径150mm
形状:図1−2に形状の一例の平面図および断面図を示す。
ただし、図中の寸法や素材名称は例であり、これらを含め、発明がここに述べた具体的仕様に限定されるものではない。図示する丸三角形の形状は、臀部の平らな部分との密着の確実性を高めることができ、臀部吸着部からの排泄物の漏れを防止効果を高めることができる。なお後述するように、臀部吸着部における漏れ防止効果を高める方法としては、適切な素材の選択も有効であり、併せ用いることができる。
【0021】
なお形状は、図1A等に示したように、湾曲した形状部分を設けたり、または皮膚に密着する形状とすることが望ましい。湾曲または皮膚に密着する形状としては、たとえば「貼着式バストアップシステム(特許第3721429号)」に開示された形状を参考にすることができる。
【0022】
また、臀部吸着部における漏れ防止をさらに重ねて確実なものとするために、皮膚接触部に粘着性を持たせる構成とすることができる。これにより、臀部吸着部を使用者の身体に完全に密着させて、臀部吸着部と使用者の肛門との間に形成される空間を高度に密閉し、外部への漏れを高度に防止することができる。かかる粘着性を備えた材料の例を、下記に示す。これらはいずれも、好適に用いることができる。
〔1〕エラストマー粘着シート
本材料の特徴は、透明の特赦エラストマーをベースに使用した粘着シートであり、粘着面に付着したゴミや埃を水洗いすることによって、繰り返し使用できることである。また、弱粘着剤は非移行性であり、相手側に粘着物質が付くことはない。
〔2〕PETフィルム(その1) 弱粘着材/再剥離型粘着材のもの。
〔3〕PETフィルム(その2) 強粘着材/アクリル系粘着材のもの。
【0023】
図2は、本発明洗腸具の別の基本構成を示す説明図である。図示するように本洗腸具210は、肛門への挿入深さの調節を行うことができるよう、使用者の腸長さ等、使用者およびその使用状況に応じて腸カテーテル部24の挿入深さを調節可能な深さ調節装置27が設けられた構成とすることができる。
【0024】
かかる構成により本洗腸具210では、深さ調節装置27により適宜の調節操作を行うことによって、使用者の腸長さ等に応じて腸カテーテル部24の挿入深さを調節することができ、そのように適切な深さに調節された挿入状態にて、適切かつ快適な洗腸を実施することができる。
【0025】
なお、深さ調節装置27の具体的な機構や構造は、たとえば簡便に手作業可能なネジ調節によるものや、臀部吸着部26を搬送チューブ22上でスライドできるようにした上でこれを適宜の位置で固定する締め付け具を用いた構造など、特に限定せずに従来公知の如何なる機構・構造をも採ることができる。また、使用者の快適な使用のために、腸カテーテル部24の挿入の前に予め、腸カテーテル部24と臀部吸着部26との距離を適切な距離に調節することをもって、挿入深さ調節とする深さ調節装置27であることが、望ましい。
【0026】
図示するように本発明洗腸具210は、腸カテーテル部24と搬送チューブ22とが、相互の切り離しを可能とする係止部25により連結された構成とすることができる。かかる構成により、係止部25による係止やその解除の操作を作することで、腸カテーテル部24と搬送チューブ22とを相互に切り離したり、また接続したり、自在に行うことができる。つまり、本構成の洗腸具210は簡単に分解できるため、使用後の洗浄にも便利であり、また腸カテーテル部24と搬送チューブ22の接続や交換も容易に行うことができる。
【0027】
臀部吸着部26と係止部25との位置関係は、特に限定されない。たとえば図示した構成に関わらず、臀部吸着部26は、係止部25のより近傍に設ける構成としてもよい。また、係止部は実施例に後述するようにある程度の長さを持つ形態でもよいし、臀部吸着部の先側に設けても手前側に設けることとしてもよい。要するに、搬送チューブと腸カテーテル部とを切り離し可能に連結する手段であればよい。
【0028】
臀部吸着部6(26)としては、使用者Hの臀部に容易に吸着できるとともに、これを除去する際も容易に行えるものを用いればよい。たとえば、シリコン製やゴム製、あるいはその他の吸着性のある材料を用いて形成された吸盤は、好適に用いることができる。
【0029】
また、使用者Hの臀部の皮膚に吸着する内側の面はより柔らかく、外側の面はより硬くするなどの物性設計、その他の設計は、適宜自由に行える。また、臀部吸着部6(26)の内側に、直接皮膚にあてて肛門周囲を被覆するための、使い捨て可能な部材を付けて用いることとしてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。
<実施例1 浣腸具>
図3は、本発明洗腸具の実施例(浣腸具)の構成を示す説明図である。図示するように本例浣腸具は、ガートル等の吊り下げ部に吊り下げられた浣腸用液(以下、「浣腸液」ともいう。)を封入する袋部(以下、「ボトル部」ともいう。)31と、ボトル部31に接合し浣腸液を搬送する搬送チューブ32と、搬送チューブ32上に設けた浣腸液の流入量・速度を調節するためのローラークランプ部33と、肛門に挿入して浣腸液を注入する腸カテーテル部34と、腸カテーテル部34と搬送チューブ32を切り離し可能とするための係止部35とを備え、さらに係止部35近傍には、浣腸液漏れ防止を目的として患者その他の使用者の臀部に吸着させるための臀部吸着部36を備えて構成される。なお図示しないが、肛門への腸カテーテル部34の挿入量が調節可能な手動操作仕様の深さ調節装置(以下、単に「調節装置」ともいう。)をも、本浣腸具は備えている。
【0031】
たとえば、大腸がん・直腸がんの術後においては、直腸の長さが患者により長さが異なるため、肛門に挿入される腸カテーテル部34の部分は、医師の指示に従い腸カテーテル挿入長さが決められる。患者は医師に指示された挿入長さに従って調節装置を調節し、挿入長さを決めた上で、臀部吸着部34を自身の臀部に吸着させていくとともに腸カテーテル部34を肛門に挿入していく。このようにして、介助者を要することなく、患者自身のみによって浣腸を行なうことができる。
【0032】
なお、調節装置による挿入深さの調節は、腸カテーテル部34の挿入の前に予め、腸カテーテル部34と臀部吸着部36との距離を適切な距離に調節する方式を、好適に用いることができる。
【0033】
以下、本実施例浣腸具の操作手順例を述べる。
トイレ内またはトイレに隣接する場所において、本洗腸具を以下の手順に従い接続する。
(A)まず、医師の指示に従い、腸カテーテル部34の挿入長を、調節装置の調節により決める。
(B)次に、ボトル部31と搬送チューブ32とを接続する。この時、ローラークランプ部33が「閉」(浣腸液が流れない状態)であることを確認する。もし「開」になっていた場合には、「閉」位置とする。
【0034】
(C)次に、ボトル部31をガートル等に吊り下げ、浣腸液の液面が腸カテーテル部34の先端部より50cmを超えない高さであることを確認する。50cmを超えると注入速度が速くなり、危険な状態となるからである。
(D)次に、洗浄のために浣腸液を準備する。これは、体温(37℃)程度のお湯を、医師の指示に従った量準備すればよい。通常、500ml以上1500ml以下の範囲が好ましい。外気温が低い場合は、1〜2℃程度音頭の高いお湯を準備する。なお事前に、ボトル部31と搬送チューブ32にお湯を通しておくと、温度変化を少なくすることができる(本発明洗腸具を使用する際の洗腸液の量はこのように、500ml以上1500ml以下の範囲が好ましい)。
【0035】
(E)ポリ手付きビーカー等に指定された浣腸液(お湯)を入れ、吊り下げられているボトル部31の中に入れる。
(F)ローラークランプ部33のクランプを開いて搬送チューブ32内の空気を抜き、再度「閉」にし、浣腸液(お湯)の流出を止める。
【0036】
(G)腸カテーテル部34の先端部にワセリン等の潤滑材を塗り、臀部吸着部36が臀部に密着するまで、腸カテーテル部34を肛門に挿入する。
(H)この時、無理に挿入すると肛門粘膜を傷つけるので注意する。
【0037】
なお、医師が指示した挿入量に従って挿入する場合、従来の浣腸具であれば、深く差し込み過ぎて直腸を傷つけたり、逆に、挿入が浅過ぎて浣腸液(お湯)が肛門から漏れたりすることがあった。しかし本発明の洗腸具(本実施例では浣腸具)によれば、臀部吸着部36が臀部に圧着する位置まで腸カテーテル部34を挿入すればよいとわかっているため、使用者にとっては挿入の過不足の心配がなく、安心して挿入することができる。
【0038】
(I)次いでローラークランプ部33を「開」にし、浣腸液(お湯)を流す。この時、無理せず注入できる液量で止めることが好ましい。
(J)浣腸液(お湯)の挿入が完了したら、ローラープランプ部33を「閉」にし、腸カテーテル部34をゆっくり引き抜く。
(K)後は、通常の浣腸と同様に、排泄する。
【0039】
<実施例2 浣腸具の臀部吸着部について>
上述したとおり、臀部吸着部を次のような仕様とすることができる。
材質:シリコンゴム
硬さ:ショアAで50〜70。特に50が望ましい。
大きさ:直径150mm
形状:図1−2のとおり。
また、臀部吸着部は、皮膚接触部に粘着性を持たせた構成とするために、既に述べた下記材料のいずれかを用いることが望ましい。
〔1〕エラストマー粘着シート
〔2〕PETフィルム(その1) 弱粘着材/再剥離型粘着材のもの。
〔3〕PETフィルム(その2) 強粘着材/アクリル系粘着材のもの。
【0040】
<実施例3 浣腸具_その2>
図4Aは、実施例3の側面方向からの一部断面図である。また、
図4Bは図4Aの右側面図、図4Cは図4A中破線円で囲んだ部位の詳細断面図、図4Dは図4Aの斜視図である。また、図5Aは図4Aに示した浣腸具を構成する腸カテーテル例の端面図および側面方向断面図、図5Bは図4Aの浣腸具に使用可能な別の腸カテーテルの例の端面図および側面方向断面図である。なお、これらの図において記載されている寸法や材質名称に本発明が限定されるものではない。また、図中「チューブ」と記されている構成要素は、腸カテーテルである。また、図中「シリコンゴム」と記されている構成要素は、臀部吸着部であるが、材質はシリコンゴムに限定されない。
【0041】
本例では、腸カテーテル部の肛門への挿入深さの調節は、長さの異なるカテーテルを用意しておいて、適宜交換することによって行うこととした。図では、外径8mm/内径5mm、または外径10mm/内径6mmであって、いずれも長さ5cmのカテーテルの例のみを示しているが、これらの外径/内径であって長さ7cmのものも用意し、5cmのものと7cmのものを交換することで、深さ調節を行うものとすることができる。もちろん内径/外径や長さサイズはこれらに限定されず、また用意する腸カテーテルの仕様を3種類以上としてもよい。
【0042】
図中「コネクタ」として示されている構成要素は、長さの異なる腸カテーテル(チューブ)を差替えて深さ調節を行うためのアタッチメントである。これには、臀部吸着部(「おしりパッド」ともいう。)を装着するための溝が設けられており、そこにおしりパッドを嵌める。また、コネクタに搬送チューブを接続し、さらにコネクタの本浣腸具装着側(おしり側)には適切な長さの腸カテーテル(チューブ)を接続する。このようにして浣腸具は組み立てられ、使用者の肛門に挿入されて使用される。腸カテーテルは使用時ごとに適切な長さのものに交換することができる。
【0043】
本例の臀部吸着部や腸カテーテルは、使い捨て型、すなわちディスポーザブル・タイプとすることができる。本例に限らず、本発明の洗腸具の同要素は、消耗品とすることができる。
【0044】
なお、図2等に示した深さ調節装置27等と係止部25等との間は、搬送チューブ22等と同種の輸液用管構造を用いて接続し、係止部25等に腸カテーテル部24等を接続する構成とすることができる。この場合において、当該輸液用管構造の長さを複数種類揃えておき、それによって深さ調節を行うこととしてもよい。
【0045】
なお、これとは異なり、臀部吸着部26等が取り付けられた深さ調節装置27等を搬送チューブ22等上でスライド可能な深さ調節装置として備えることとし、搬送チューブ22等の先端には係止部25等により腸カテーテル部24等を接続し、深さ調節装置27等(または臀部吸着部26等)を適宜前後にスライドさせることによって深さ調節を実現することとしてもよい。
【0046】
しかしながら本実施例のように、搬送チューブ・臀部吸着部・腸カテーテル部を接続・装着できるように構成されたコネクタを備えた洗腸具として、長さの異なる腸カテーテル部を適宜交換することで深さ調節する方式も好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の洗腸具によれば、必要に応じて適宜、患者その他の使用者自身が単独で自分の肛門部にあてがって使用し、浣腸等の洗腸操作を完遂することができ、介助者が不要となる。したがって、特に医療・福祉分野および関連産業において、利用性の高い発明である。
【符号の説明】
【0048】
10、210…洗腸具
1、21、31…袋部
2、22、32…搬送チューブ
3、23…送液調節部
33…ローラークランプ部
4、24、34…腸カテーテル部
6、26、36…臀部吸着部
25、35…係止部
27…深さ調節装置
H…使用者


【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗腸液を封入する袋部と、該洗腸液を搬送する搬送チューブと、該洗腸液の流入量または速度を調節する送液調節部と、肛門に挿入して該洗腸液を注入する腸カテーテル部とを備えた洗腸具であって、該腸カテーテル部の手前側に該洗腸液の液漏れを防ぐための臀部吸着部が設けられている、洗腸具。
【請求項2】
前記腸カテーテル部の肛門への挿入深さの調節が可能に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の洗腸具。
【請求項3】
前記挿入深さの調節を行うための、使用者の腸長さ等に応じて前記腸カテーテル部の挿入深さを調節可能な深さ調節装置が設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の洗腸具。
【請求項4】
前記腸カテーテル部の肛門への挿入深さの調節は、該腸カテーテル部と前記臀部吸着部との距離の調節によりなされることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の洗腸具。
【請求項5】
前記腸カテーテル部と前記搬送チューブとは、相互の切り離しを可能とする係止部により連結されていることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の洗腸具。
【請求項6】
前記腸カテーテル部の肛門への挿入深さの調節は、長さの異なる該腸カテーテル部を複数用意しておき、それを交換することによりなされることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の洗腸具。
【請求項7】
洗腸液を封入する袋部と、該洗腸液を搬送する搬送チューブと、該洗腸液の流入量または速度を調節する送液調節部と、肛門に挿入して該洗腸液を注入する腸カテーテル部と、該腸カテーテル部の手前側に設けられた該洗腸液の液漏れを防ぐための臀部吸着部と、およびコネクタとを備えた洗腸具であって、該コネクタに該搬送チューブ、該臀部吸着部および該腸カテーテル部が接続されて構成されることを特徴とする、洗腸具。
【請求項8】
前記臀部吸着部は下記(A)のいずれかにより形成されていることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の洗腸具。
(A)エラストマー粘着シート、PETフィルム


【図1A】
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【図1B】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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