説明

津波に対応した小型船舶の係留システム

【課題】津波が襲来した際に、係留索が破断したり、船体が漂流したり、他の物体に損害を与えることがない係留システムを提供する。
【解決手段】船体1と係船岸の間を、緩衝材32を介在させた緩衝索3で連結し、船体1とマーカーブイ4の間を、係留索5で連結し、マーカーブイ4と海底のチェーン9の間を緩衝材62を介在させた緩衝索6とで連結し、チェーン9の他端はブロック7に連結して構成したことを特徴とする。さらに、上記の小型船舶の係留システムを複数組設置し、隣接するシステムの間に存在する海底のブロック7を共有するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波の来襲時の安全性を考慮した小型船舶(以下「船舶」)の係留システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本には漁船、遊漁船とプレジャーボート合わせて約100万隻ほどあり、そのうちの9割以上が5総トン未満の小型船舶と言われている。
これらの船舶の係留方法は、船首部分を係船岸に直角に向け、係船岸上の係船柱にロープでその船首部分だけを繋ぎとめる縦付け方法が一般的である。
あるいは図8に示すように、係船岸に余裕があって荷さばきをする場合一般的に船体bの舷側の前後の複数個所と係船岸上の桟橋aの複数の係船柱dにそれぞれ対応する形で係留索cで繋ぎとめる横着け方法を採用してきている。
いずれの係留方法も急激な海面の上昇、低下を伴う大きな津波が襲来した場合、衝撃的な大きな力が係留索に加わり、係留索が破断することが知られている。
その結果、船溜り、泊地など港内(以下港内)では多数の船舶が一挙に津浪とともに漂流を始める。
これが上げ潮時であると、船舶は波とともに互いに衝突しながら陸上に遡上し、住宅地や公共施設を襲う。
また引き潮時には座礁あるいは水路に打ち上げられながら外洋に潮とともに流され多大な損害を与えてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような従来の船舶の係留システムの課題は、港内の急激な海面上昇もしくは低下によって船首もしくは舷側と係船柱が離れようとする力が係留索に衝撃力として働き、係留索が切断されるか、船の係留金具であるビットの破断がおき、続いてくる急速な潮の流れで漂流を始めることにあった。
しかし従来は津波の現象としての研究、船舶へ働く外力の研究は行われてきたものの、現実に即した係留システムの開発が遅れており、特許文献を調査しても見つけることができない状態である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記のような課題を解決するために本発明の小型船舶の係留システムは、津波対策のために、船体と係船岸の間、および船体と海底のブロックの間を、緩衝材を介在させた緩衝索で連結して構成したことを特徴とする。
さらに本発明の小型船舶の係留システムは、津波対策のために、船体と係船岸の間を、緩衝材を介在させた緩衝索で連結し、船体とマーカーブイの間を、係留索で連結し、マーカーブイと海底のブロックの間を、緩衝材を介在させた緩衝索とで連結して構成したことを特徴とする。
さらに本発明の小型船舶の係留システムは、津波対策のために、船体と係船岸の間を、緩衝材を介在させた緩衝索で連結し、船体とマーカーブイの間を、係留索で連結し、マーカーブイと海底のチェーンの間を緩衝材を介在させた緩衝索とで連結し、チェーンの他端はブロックに連結して構成したことを特徴とする。
さらに本発明の小型船舶の係留システムは、上記の小型船舶の係留システムを複数組設置し、隣接するシステムの間に存在する海底のブロックを共有するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の小型船舶の係留システムは以上のようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 津波の最初の襲来によって海面が急激に変化し、衝撃力が係留索に働くが伸縮性のある緩衝索で衝撃張力の緩和と漂流エネルギーの吸収を行うことで係留索の破断を阻止する。津波の第二波、第三波が押し寄せるが同じように船舶の漂流を防止することができる。
<2> ブロックとチェーンを設置することで、その後に続く早い流れに抵抗できる。
<3> マ―カブイを設置することで、船から離れる時、乗船するときに、津波対策用の係留索の脱着が日常の習慣として容易にできる。
<4> 津波はときとして、想定以上の高い波が起き、ある時間を置いて数波繰り返し襲ってくる。最初の第一波、第二波で運悪く船が流出しても、予備の緩衝索を付ける、違うマ―カブイに着け直すことで被害を少なくできる。
<5> このシステムによって、津波による大量の船舶の喪失を防ぐとともに、港の背後の住宅や公的施設が漂流物による潜在的な破壊を受ける危険性を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の船舶の係留システムの実施例の説明図。
【図2】係留システムの他の実施例の説明図。
【図3】平常時の係船岸側面からの説明図。
【図4】津波襲来時の係船岸側面からの説明図。
【図5】船舶漂流時の側面からの説明図。
【図6】複数のシステムを平行に設置した状態の説明図。
【図7】複数のシステムの組み合わせの他の実施例の説明図。
【図8】従来の係留システムの実施例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0008】
<1>全体の構成。
本発明は5総トン未満の船舶を対象とし、係留索3、5、緩衝材32、62、マーカーブイ4、海側ブロック7などの技術を組み合わせて、津波の衝撃力、流圧力を科学的に克服する初めての係留システムである。
従来、船舶の揺れを防止するシステムなどの技術はあるが、津波時の小型船舶の被害を抑制するような技術は存在しない。
【0009】
<2>海側ブロック。
海側ブロック7とは船体1が流されないように海底に設置する錘である。
具体的にはコンクリート製造のブロックもしくは石などを詰めた袋で構成する。
このシステムでは、津浪の来襲時には、最初の衝撃力は船首側緩衝索3と船尾側緩衝索6の緩衝材で吸収するから、海側ブロック7は機能しない。
その後に、船体1に流圧力がかかると、それに対抗する抗力を生むのが海側ブロック7である。
海側ブロック7は、それ自体の重量と、さらに海底面との摩擦力によって抵抗する。
海側ブロック7は海底の土質によって引っ張る力、すなわち把駐力が、とくに砂と岩では対応が違うので、設置する前に現地でけん引実験を行い、材質、重量など考慮し設計することが望ましい。
【0010】
<3>チェーン。
海側ブロック7と後述する船尾側緩衝索6の間はチェーン9で連結する。
すなわち一端をマーカーブイ4に連結した船尾側緩衝索6の他端を、チェーン9に連結して構成する。
そのチェーン9の他端は、前記した海側ブロック7に連結する。
その際に、図1に示すように、船尾側緩衝索6とチェーン9と海側ブロック7とを一直線状に連結する構成、あるいは図2に示すように、船尾側緩衝索6の端部を、チェーン9の中間に連結し、そのチェーン9の両端は海側ブロック7に連結する構成を採用することもできる。
【0011】
<4>隣接するブロックの連結。
海側ブロック7は単独で海底に配置することもできるが、隣接する複数の海側ブロック7間をブロック間緩衝索8とチェーン9で連結することもできる。
このブロック間緩衝索8も、係留索の中間に緩衝材を介在させて構成し、船尾側緩衝索6とブロック間緩衝索8とを連結する。
すると、船尾側緩衝索6が一定の距離以上に伸長した場合に、ブロック間緩衝索8に引張力が作用して伸長することになる。
さらに船尾側緩衝索6は、海側ブロック7間を連結するチェーン9の中間に連結する。
すると、船尾側緩衝索6とブロック間緩衝索8が一定以上に伸長すると、チェーン9が引かれて抵抗として作用する。
さらにチェーン9がその限界まで引かれると、海側ブロック7を海底を移動させる力となって抵抗となる。
場合によっては、海側ブロック7が先に移動し、吊りあげられた後に、チェーン9が引かれるような寸法に構成することもできる。
【0012】
<5>係留索。
船体1とマーカーブイ4との間を船尾側係留索5で連結する。
この船尾側係留索5は、市販の繊維ロープ、鋼製ロープなど一般的な素材で構成する。
船舶の乗組員は、船を離れるときにその船尾側係留索5の端をマーカーブイ4に繋止するだけの慣習的な操作だけで簡単に津波対策が可能になる。
出港時には船岸にある係船柱2、マーカーブイ4に繋止しておいた係留索3.6を外して行う。
【0013】
<6>緩衝索。
本発明のシステムでは、船首側と係船柱2を連結する船首側緩衝索3、および船尾側と海側ブロック7を連結する船尾側緩衝索6を使用する。
各緩衝索3、6は、係留索の中間、あるいはその一端に緩衝材31、61を介在させて構成する。
介在させる緩衝材は、高い伸縮特性を備えた索または帯状の部材であり、高伸縮特性によって衝撃張力の緩和やエネルギーの吸収を行うものである。
その性能は、想定される津波の条件に基づいて決定し、船舶が津波によって漂流した場合のエネルギー吸収性能と漂流時に係留ロープに作用する最大張力について検討を行い、何れの条件にも対応可能な性能を有する機能とする。
【0014】
<7>緩衝材の伸び。
津波の漂流エネルギーと緩衝材に作用する張力は次の式で算定される。

A 漂流エネルギー
ここに、 E0 : 漂流エネルギー (t・m)
m : 船舶重量 (t)
' : 仮想重量 (t)
g : 重力加速度 (m/s2
0 : 漂流速度 (m/s)
ρ : 海水の単位体積重量 (t/m3
D : 喫水 (m)
B : 船幅 (m)
B 緩衝材に作用する最大張力

ここに、 Tmax : 緩衝材に作用する最大張力 (kgf)
E : 緩衝材のヤング率 (kgf/cm2
a : 緩衝材の断面積 (cm2
l0 : 索長さ (cm)
鴫原良典・藤間功司・大久保暢之・中村雅博・坪田幸雄・三宅健一・斎藤正文「津波船舶係留索に働く張力について」2008.11 地域安全学会論文集No10
pp387-392 引用
以上の(1)〜(3)式によって算出されるエネルギーや張力に対応可能な緩衝材を採用するが、津波の大きなエネルギーを吸収して係留索に作用する衝撃張力を緩和するためには伸びの非常に大きい緩衝材が必要となる。
津波の衝撃を受ける緩衝材は4〜5倍伸びることが想定される。
大津波は繰り返し5〜6波襲来するので、緩衝材を構成する材料はゴム弾性体やスプリングなどの繰り返し大きく伸縮できる特性を備えた材料を用いることが望ましい。
【0015】
<8>マーカーブイ。
マーカーブイは、水面に設置するブイである。
このマーカーブイによって、船尾から海中の海側ブロックと係留索を含む緩衝索の着脱を船尾から容易にすることができる。
マーカーブイは、夜間など緊急着脱を考えれば蛍光や蓄光もしくは自発光装置を備えるなどの夜間の視認性を高めたブイが望まれる。
【0016】
<9>複数の組み合わせ。
本発明では上記した係留システムを複数配置し、それを海底で結びあうことで海側ブロック7や、ブロック間緩衝索8を共有させることができる。
その際に、図6に示すように、各船尾側緩衝索6の端部を直接海側ブロック7に連結し、隣接する海側ブロック7の間はブロック間緩衝索8で連結して複数の組み合わせを採用することができる。
あるいは図7に示すように、各船尾側緩衝索6の端部を、ブロック間緩衝索8に連結し、隣接する海側ブロック7の間はブロック間緩衝索8とチェーン9で連結する組み合わせを採用することもできる。
このように複数の組み合わせを採用する結果、ネット状に隣接する船舶と外力が分散でき、港内全体の船舶の安全性を担保できる。
【0017】
<10>船舶の挙動の説明。
次に津波来襲時の本発明のシステムによる船舶挙動について説明する。
【0018】
<11>平常時。
平常時には船体1は通常の係留ロープとともに津波対策用の緩衝索3、6で係船柱2とマーカーブイ4に繋がれた状態にある。
【0019】
<12>津波第一波の到来
大津波の第一波は海面が急激に上昇するケースと海底が見えるまで潮が引いてゆく二つのケースがある。
前者の場合、船体1が波によって持ち上げられるが、係船柱2と船体1を繋いでいた長さ数十センチから1m程度の船首側緩衝索3の緩衝索32が数m伸びることで、船体1の漂流エネルギーを吸収して係留索31に作用する張力を小さくでき、係留索31の破断とそれに続く船体1の漂流を止めることができる。
引き波の場合、船体1は沖に流されようとして岸から離れ、港の海底が見える状態になるが、船首側緩衝索3は前述の海面が上昇する場合と同様の機能によって、切れることなく船体1は係船柱2に繋がれた状態でかく坐していることになる。
これが、もし緩衝材32が存在しない場合には、津波による衝撃的な張力が係留ロープに作用するために係留ロープが破断することになる。
【0020】
<13>津波の大きな早い潮の流れの状態。
津波によって海面が更なる上昇と早い流れが続くと船尾側緩衝索6の緩衝索62の伸びは限界に達する。
しかし次の段階で海底のチェーン9が引かれて荷重となり、さらにアンカーとしての海側ブロック7がその把駐力によって抵抗しながら移動することで、船体1の漂流を抑えることになる。
ここに把駐力とは、海底の錨やブロックが海底で引っ張られたときに抵抗する力のことである。
【0021】
<14>第二波、第三波と繰り返しの襲来と船体の位置補正。
第一波の海面の上昇が終わり、平常時の水位に戻り、第二波の襲来までの時間で伸びていた各部材は収縮して元の長さに戻り、船体1は安定した姿勢でその位置を復元できる。
【符号の説明】
【0022】
1:船体
2:係船柱
3:船首側緩衝索
4:マーカーブイ
5:船尾側係留索
6:船尾側緩衝索
7:海側ブロック
8:ブロック間緩衝索
9:チェーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
津波対策のために、
船体と係船岸の間、および船体と海底のブロックの間を、
緩衝材を介在させた緩衝索で連結して構成した、
小型船舶の係留システム。
【請求項2】
津波対策のために、
船体と係船岸の間を、緩衝材を介在させた緩衝索で連結し、
船体とマーカーブイの間を、係留索で連結し、
マーカーブイと海底のブロックの間を、緩衝材を介在させた緩衝索とで連結して構成した、
小型船舶の係留システム。
【請求項3】
津波対策のために、
船体と係船岸の間を、緩衝材を介在させた緩衝索で連結し、
船体とマーカーブイの間を、係留索で連結し、
マーカーブイと海底のチェーンの間を緩衝材を介在させた緩衝索とで連結し、
チェーンの他端はブロックに連結して構成した、
小型船舶の係留システム。
【請求項4】
請求項1記載の請求項1〜3に記載の小型船舶の係留システムを複数組設置し、
隣接するシステムの間に存在する海底のブロックを共有するように構成した、
小型船舶の係留システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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