説明

津波用救命カプセル

【課題】 津波の破壊力が強い場合でも、収容者を収容室に動かないように保持し、しかも、衝撃力を吸収して、収容者の身体に損傷を与えないようにして安全の向上を図る。
【解決手段】 中心線Pに直交する一方面部1a及び他方面部1bを有し中空の円盤状に形成されたカプセル本体1と、カプセル本体1の内部に形成され収容者Mを収容可能な収容室10と、カプセル本体1に設けられ収容室10内に出入りするための開閉可能な扉8321を有したハッチ8020とを備え、収容室10に臥面41を有しカプセル本体1に固定されるベッド40を設け、収容室20に対して収容者Mを保持するエアバッグ装置50を備え、エアバッグ装置50を、ガスが注入されて膨出しベッド40の臥面41に臥した収容者Mを押さえるエアバッグ51と、エアバッグ51を支持する支持部52と、エアバッグ51にガスボンベ53からガスを注入するガス注入部54とを備えて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波が到来した際に人を収容して救命を行う津波用救命カプセルに係り、特に、津波で発生する流木や瓦礫から身体を保護して水に浮遊することができる津波用救命カプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の津波用救命カプセルとして、例えば、特許文献1(特開2004−322939号公報)に記載されたものが知られている。図13に示すように、この津波用救命カプセルCaは、中心線Pに直交する一方面部100a及び他方面部100bを有し中空の円盤状に形成されたカプセル本体100と、カプセル本体100の内部に形成され収容者を収容可能な収容室101とを備え、カプセル本体100の一方面部100aに収容室101内に出入りするための開閉可能な扉102を有したハッチ103を設けている。カプセル本体100の他方面部100b側には、バラスト水を収納するタンク104が設けられている。そして、収容室101内には、タンク104の上面部に、中心線Pに略直交する臥面105aを有したベッド105を設け、このベッド105に収容者が臥し、ベルト106で身体を固定して、保持するようにしている。
【0003】
そして、大きな地震による津波が到来するときは、一般に、地震発生から津波が到達するまでの短時間のうちに高台等の避難場所まで移動する必要があるが、津波の到来に気がつかなかったり、交通渋滞が生じたり、病人や老人等弱者がいる等の理由により、移動が困難で、逃避が不能になるようなときには、この津波用救命カプセルCaを用いる。ハッチ103の扉102を開けて収容室101に入り、ベッド105に臥してベルト106を締め、扉102を閉め、津波が行き過ぎて定常になるまで待機する。
【0004】
この際、津波が押し寄せて、津波用救命カプセルCaが水をかぶり、あるいは、流されても、津波用救命カプセルCaが水に浮遊するので水没を避けることができ、収容者の救命が図られる。この場合、津波用救命カプセルCaは円盤形状に形成されているので、高さ寸法に比して幅寸法が大きいことから、水上を浮遊する姿勢を安定させることができる。また、バラスト水により横転することなく浮遊することが可能になる。そしてまた、収容者は、ベッド105に身体を伸ばした状態で保持されるので、この点でも姿勢が安定して救命が図られる。
【0005】
また、従来においては、例えば、特許文献2(特開2007−331660号公報)に記載されたものも知られている。これは、カプセル本体が上記と異なって細長形状に形成されているが、上記と同様に、収容者は、ベッドに臥してベルトを締め、身体を伸ばした状態で保持できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−322939号公報
【特許文献2】特開2007−331660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この従来の津波用救命カプセルCaにおいては、収容者を、ベッド105に臥してベルト106を締め、身体を伸ばした状態で保持するようにして安定を図るようにしているが、津波の勢いがさほどではない場合には良いが、津波が巨大で破壊力が強い場合には、住宅やビルなどの建物、橋や道路などの各種施設等が破壊されて、瓦、石、コンクリート、金属、木材などの瓦礫が発生し、これらが津波とともに、津波用救命カプセルCaに激しく衝突することが生じることがあり、その場合には、カプセルCaが激しく反転したり、瓦礫などが衝突し、激しい衝撃を受ける。そのため、収容者はベルト106で押さえられているとは言っても、ベッド105から脱落したり、慣性力により身体が動いて身体が折り曲がる等して損傷することが生じ、十分に安全を図ることができない虞があった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みて為されたもので、津波の破壊力が強い場合でも、収容者を収容室に動かないように保持し、しかも、衝撃力を吸収して、収容者の身体に損傷を与えないようにして安全の向上を図った津波用救命カプセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するための本発明の津波用救命カプセルは、中心線に直交する一方面部及び他方面部を有し中空の円盤状に形成されたカプセル本体と、該カプセル本体の内部に形成され収容者を収容可能な収容室と、上記カプセル本体に設けられ上記収容室内に出入りするための開閉可能な扉を有したハッチとを備えた津波用救命カプセルにおいて、上記収容室に対して収容者を保持するエアバッグ装置を備えた構成としている。
【0010】
これにより、大きな地震による津波が到来するときは、短時間のうちに高台等の避難場所まで移動する必要があるが、移動が困難で、逃避が不能になるようなときには、この津波用救命カプセルを用いる。このときは、ハッチの扉を開けて収容室に入り、扉を閉めるとともに、エアバッグ装置を作動させて収容者を保持する。
【0011】
この際、津波が押し寄せて、津波用救命カプセルが水をかぶり、あるいは、流されても、津波用救命カプセルが水に浮遊するので水没を避けることができ、収容者の救命が図られる。この場合、津波用救命カプセルは円盤形状に形成されているので、高さ寸法に比して幅寸法が大きいことから、水上を浮遊する姿勢を安定させることができる。また、津波が巨大で破壊力が強い場合には、住宅やビルなどの建物、橋や道路などの各種施設等が破壊されて、瓦、石、コンクリート、金属、木材などの瓦礫が発生し、これらが津波とともに、津波用救命カプセルに激しく衝突することが生じることがあり、その場合には、カプセルが激しく反転したり、瓦礫などが衝突し、激しい衝撃を受ける。然し、収容者はエアバッグ装置によって収容室に保持されているので、従来に比較して、慣性力が生じても身体の動きが抑制され、そのため、収容室内に放り出されたり、身体が折り曲がる等して損傷する事態を防止することができ、十分に安全が図られ、確実に救命することができるようになる。また、反転しても収容者の保持が確実なので、従来のようにバラストを設けなくても良く、それだけ、収容室のスペースを広くできるとともに、軽量にすることができる。
【0012】
津波が収まったならば、適時にエアバッグ装置のエアを排気して、収容者の身体を解放し、扉を開けて外に出る。この場合、津波用救命カプセルが反転した状態で停止あるいは海などに浮遊している場合のために、ハッチは一方面部及び他方面部の両方に設けておくことが望ましい。
【0013】
そして、必要に応じ、上記収容室に、上記中心線に略直交する臥面を有しカプセル本体に固定されるベッドを設け、上記エアバッグ装置を、ガスが注入されて膨出し該膨出により上記ベッドの臥面に臥した収容者を該臥面に対して押さえるエアバッグと、上記カプセル本体に上記ベッドの臥面に対向して設けられ上記エアバッグを支持する支持部と、上記エアバッグにガスボンベからガスを注入するガス注入部とを備えて構成している。
【0014】
これにより、この津波用救命カプセルを用いるときは、扉を開けて収容室に入り、扉を閉めるとともに、ベッドに臥し、エアバッグ装置のガス注入部を操作してガスボンベからエアバッグにガスを注入する。これによりエアバッグが支持部から膨出し、臥した収容者をベッドの臥面に対して押さえる。そのため、収容者はエアバッグを介してベッドと支持部との間に謂わばサンドイッチ状態で保持されることになり、保持が確実になる。その結果、カプセルが激しく反転したり、瓦礫などが衝突し、激しい衝撃を受けても、ベッドから脱落して収容室内に放り出されたり、慣性力により身体が動いて身体が折り曲がる等して損傷してしまう事態を防止することができ、十分に安全が図られ、確実に救命することができるようになる。また、収容者は、ベッドに身体を伸ばした状態で保持されるので、この点でも姿勢が安定して救命が図られる。更に、津波用救命カプセルが反転して逆さになっても、収容者は今度はエアバッグを介して支持部側で支持されるので、支持さている状態に変わりはなく、保持が確実になる。この場合、逆さになっても違和感がないように、収容者は横向きになってベッドに臥すようにすると良い。
【0015】
また、必要に応じ、上記カプセル本体に固定され上記中心線に直交し上記収容室を上記一方面部側の一方室と上記他方面部側の他方室とに仕切る仕切部材を設け、該仕切部材の中央に、上記一方室及び他方室を連通し収容者が行き来可能な連通路を形成し、上記カプセル本体の一方面部に上記一方室に出入りするための一方ハッチを設け、上記カプセル本体の他方面部に上記他方室に出入りするための他方ハッチを設け、上記ベッドを該ベッドの臥面を一方面部側に向けて上記一方室及び他方室に夫々配設した構成としている。
【0016】
これにより、通常時は、津波用救命カプセルを、一方面部が設置面に対して上になり他方面が下になるように、且つ、他方面が設置面より人が入ることができるように上方に離間させて設置しておく。そして、津波用救命カプセルを使用するときは、収容者は一方面部の一方ハッチの扉を開けて上から一方室に入り、また、他方面部の他方ハッチの扉を開けて下から他方室に入り、各部屋のベッドに臥するようにする。仕切部材の中央に連通路があるので、この連通路を通って隣の収容室に入り込むこともできる。そのため、上下に出入用のハッチがあるので、収容者が素早く収容室に入ることができるようになる。また、ベッドはその臥面が全て一方面部側に向けて配設されているので、収容者が下向きにベッドに臥すことはない。
また、津波が収まってハッチの扉を開けて外に出る際に、津波用救命カプセルが反転した状態で停止あるいは海などに浮遊していても、ハッチは一方面部及び他方面部の両方に設けられているので、上側に位置する何れかのハッチの扉を開けて外に出ることができる。この場合、下側の収容室の収容者は連通路を通って上側の収容室に移動すればよい。
【0017】
更に、必要に応じ、上記収容室の一方面部側の内壁と他方面部側の内壁間に架設され上記中心線に平行な複数の支柱を設け、上記仕切部材を上記支柱に支持した構成としている。支柱を設けたので、カプセル本体の強度が増し、耐久性が向上させられる。また、支持部材の支持も確実になる。
【0018】
更にまた、必要に応じ、上記一方室及び他方室において、夫々、上記ベッドを複数設けるとともに、各ベッドを上記中心線を中心にした点対称に配置し、且つ、カプセル本体の内壁に沿わせて配置した構成としている。ベッドを点対称に配置したので、バランスが良く、浮遊を安定させることができる。また、収容者が、互いに向き合ってベッドに臥すことができ、互いの状態を見ながら会話もできるので、それだけ精神的安心を得られる。また、ベッドは、カプセル本体の内壁に沿わせて配置されているので、収容者の身体をこのカプセル本体の内壁でも支持することができ、それだけ保持が安定する。
【0019】
また、必要に応じ、上記ガスボンベを、酸素ボンベで構成し、該酸素ボンベからの酸素を収容室内に供給可能な酸素供給管路を設けた構成としている。浮遊時間が長く、内部の酸素が不足する場合、あるいは、外洋に流されて波が荒いような場合、ハッチを開けるなどして空気を取り入れることができないような場合には、酸素供給管路を通して酸素を得ることができるので、長時間の浮遊等に対応することができる。
【0020】
更に、必要に応じ、上記カプセル本体を、上記収容室を構成する外殻と、該外殻の周囲に付設されたフロートとを備えて構成している。フロートを設けたので浮遊し易くなる。また、フロートが外殻を保護するので、それだけ、瓦礫などの衝突の衝撃力を緩衝することができる。また、外殻の損傷も抑止することができる。
【0021】
この場合、上記フロートを、珠状に形成し、上記外殻の外周に沿って数珠状に複数列設して付帯させた構成といている。数珠状なので各フロートが浮力を分散して受けることができ、波の影響を受けにくく浮遊を確実にすることができる。
【0022】
また、必要に応じ、上記外殻を、上下に開放口を有した筒状の中央部と、該中央部の上側の開放口を覆う盆状の上部と、上記中央部の下側の開放口を覆う盆状の下部とを備えて構成し、上記上下の開放口の外周に夫々フランジを設け、上記上部及び下部の外周に夫々上記開放口のフランジに接合して固着されるフランジを設け、上記数珠状のフロート群を、上記上下のフランジ間に配置した構成としている。外殻を中央部,上部及び下部の3つの部材で構成したので、組立てが容易になる。また、フロートを上下のフランジ間に配置したので、外殻の中央部を覆ってこれを浮遊させることから姿勢を安定にすることができる。
【0023】
そしてまた、必要に応じ、上記ハッチを、上記カプセル本体に設けられ収容室に対して出入可能な出入口開口と、該出入口開口の外側にあるヒンジ機構に揺動可能に支持され揺動により該出入口開口を開閉する扉と、上記出入口開口の開口縁に沿って設けられ上記扉の閉時に該扉の外周縁部内側が接合する接合フランジと、上記扉の内側外周縁部及び接合フランジ間に介装されるパッキンと、上記扉を該扉の内側外周縁部を上記接合フランジに押圧してロックするロック機構とを備えて構成し、該ロック機構を、上記扉の中央に回転可能に設けられ雄ネジが形成された回転軸と、上記出入口開口の開口縁から内側に所要の間隔で突出する複数の係止片と、上記回転軸の雄ネジに螺合される雌ネジを有し該回転軸の回転により進退動する中心部及び該中心部から放射方向に上記出入口開口の開口縁近傍まで延びるとともに回動して先端部が上記各係止片に夫々対峙する対峙位置及び該各係止片に対して夫々非対峙の非対峙位置の2位置に位置する複数のアームを有した進退動体と、上記扉の外側であって上記回転軸の一端に設けられ該回転軸を回転させる外側ハンドルと、上記扉の内側であって上記回転軸の他端に設けられ該回転軸を回転させる内側ハンドルとを備え、上記扉の閉時に上記外側ハンドルまたは内側ハンドルにより上記回転軸を回転させることにより上記進退動体のアームの先端部を係止片に対峙させるとともに該扉側に押圧してロックするようにした構成としている。
【0024】
これにより、ハッチを開けるときは、外側ハンドルまたは内側ハンドルにより回転軸を回転させることにより、進退動体のアームの先端部を接合フランジから離間させるとともに、非対峙位置にして係止片から外す。この状態で、扉をヒンジ機構を介して揺動させ扉の内側外周縁部を接合フランジから離して開ける。この場合、進退動体は回転軸を介して扉と同動するが、アームの先端部は係止片に対して非対峙位置にあるので、係止片と干渉することがない。この場合、比較的簡易な機構で容易に扉を開くことができる。
一方、ハッチを閉めるときは、扉をヒンジ機構を介して揺動させ扉の内側外周縁部をパッキンを介して接合フランジに接合する。それから、外側ハンドルまたは内側ハンドルにより回転軸を回転させることにより、進退動体のアームの先端部を対峙位置にして係止片に対峙させるとともに、更に、進退動体を扉側に移動させると、アームの先端部が係止片を押圧するとともに、進退動体の中央部及び回転軸を介して扉を相対的に進退動体側に引き寄せることになることから、扉の内側外周縁部が接合フランジに押圧され、これにより扉がロックされる。また、扉の内側外周縁部が接合フランジにパッキンを介して押圧されて接合されるので、この部位でシールされ、水密性が図られる。この場合、比較的簡易な機構で容易に扉を閉じることができ、且つシールを行なうことができる。
【0025】
この場合、必要に応じ、上記扉に、上記進退動体の回動を規制してアームの先端部を対峙位置に位置決めする第一ストッパ部材と、上記進退動体の回動を規制してアームの先端を非対峙位置に位置決めする第二ストッパ部材とを設けたことが有効である。進退動体が回動しすぎることなく、アームを対峙位置もしくは非対峙位置に位置決めすることができ、操作を確実に行なうことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、津波が押し寄せて、津波用救命カプセルが水をかぶり、あるいは、流されても、津波用救命カプセルが水に浮遊するので水没を避けることができ、収容者の救命を図ることができる。この場合、津波が巨大で破壊力が強い場合には、住宅やビルなどの建物、橋や道路などの各種施設等が破壊されて、瓦、石、コンクリート、金属、木材などの瓦礫が発生し、これらが津波とともに、津波用救命カプセルに激しく衝突することが生じることがあり、その場合には、カプセルが激しく反転したり、瓦礫などが衝突し、激しい衝撃を受けるが、収容者はエアバッグ装置によって収容室に保持されているので、従来に比較して、慣性力が生じても身体の動きが抑制され、そのため、収容室内に放り出されたり、身体が折り曲がる等して損傷する事態を防止することができ、十分に安全が図られ、確実に救命することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る津波用救命カプセルを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る津波用救命カプセルを示す側面断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る津波用救命カプセルの一方室の状態を示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る津波用救命カプセルの他方室の状態を示す平面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る津波用救命カプセルの外殻の構成を示す分解斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る津波用救命カプセルのハッチのロック機構の構成例を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る津波用救命カプセルのエアバッグ装置を示す配管図である。
【図8】本発明の別の実施の形態に係る津波用救命カプセルを示す側面図である。
【図9】本発明の別の実施の形態に係る津波用救命カプセルを示す底面図である。
【図10】本発明の別の実施の形態に係る津波用救命カプセルのハッチの構造を示す断面図である。
【図11】本発明の別の実施の形態に係る津波用救命カプセルのハッチの構造を示す要部図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る津波用救命カプセルの仕切部材の別の例を示す斜視図である。
【図13】従来の津波用救命カプセルの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る津波用救命カプセルについて詳細に説明する。
図1乃至図5に示すように、本発明の実施の形態に係る津波用救命カプセルCは、中心線Pに直交する一方面部1a及び他方面部1bを有し中空の円盤状に形成されたカプセル本体1と、カプセル本体1の内部に形成され収容者Mを収容可能な収容室10とを備えている。また、図5に示すように、カプセル本体1に固定され中心線Pに直交し収容室10を一方面部1a側の一方室10aと他方面部1b側の他方室10bとに仕切る板状の仕切部材2が設けられている。仕切部材2の中央には、一方室10a及び他方室10bを連通し収容者Mが行き来可能な矩形状の連通路3が形成されている。
【0029】
カプセル本体1は、収容室10を構成する略矩形状の外殻4と、外殻4の周囲に付設されたフロート5とを備えて構成されている。図5に示すように、外殻4及び仕切部材2は、例えば、金属板あるいはガラス繊維と樹脂から形成されるFRP等で形成されている。外殻4は、略矩形カップ状の互いに対称な一対の外殻単体4a,4bを備えている。外殻単体4a,4bの開放縁にはフランジ6が形成されている。そして、各外殻単体4a,4bのフランジ6同士は、仕切部材2の外周縁2aを挟んで、且つ、シール材(図示せず)を介して接合されるとともに、ボルト7,ナット8あるいはリベット(図示せず)で締結されている。このため、外殻4は、外殻単体4a,4bを2つ合わせた構造なので、製作が容易であり、製造コストも比較的安価にすることができる。尚、外殻4の内面に断熱材や緩衝材を被覆した内装を施すことができる。外装は、防錆剤入りの塗料を塗布すると良い。
【0030】
収容室10の一方面部1a側の内壁と他方面部1b側の内壁間には、中心線Pに平行な複数の支柱9が架設されている。支柱9は、中心線Pを中心にした円周上であって、後述の出入口開口22を囲繞するように、等間隔で4本設けられている。支柱9は、木製,樹脂製,金属性の管等適宜の材質のもので形成される。そして、仕切部材2は、この支柱9にも支持されている。支柱9は、仕切部材2の連通路3も囲繞するように設けられている。
【0031】
また、フロート5は、外殻4の外周であって、略矩形を形成する4つの側面に付設されている。フロート5は、例えば、発泡スチロールやウレタン等の衝撃を吸収できる樹脂材料で形成されている。そして、このフロート5の外周を円弧面に形成することで、カプセル本体1全体を略円盤状に形成している。
【0032】
更に、カプセル本体1には、収容室10内に出入りするための開閉可能な扉21を有したハッチ20が設けられている。詳しくは、図2及び図6に示すようにカプセル本体1の一方面部1aに、一方室10aに出入りするための一方ハッチ20aが設けられ、カプセル本体1の他方面部1bに、他方室10bに出入りするための他方ハッチ20bが設けられている。一方面部1aの中央及び他方面部1bの中央には、夫々、円形の出入口開口22が形成されており、扉21はこの出入口開口22を開閉する。一方ハッチ20a及び他方ハッチ20bにおいて、扉21はヒンジ23により開閉可能に外殻4に支持され、外周には出入口開口22に弾接するシール部材24が設けられている。
【0033】
図6に示すように、30はロック装置であり、外殻4に回動可能に設けられた回動軸31と、回動軸31に設けられ回動により扉21の内側の係止凹部32に係止する係止凸部33と、回動軸31を回動させるための内外一対のハンドル34とを有して構成されている。一方ハッチ20a及び他方ハッチ20bにおいて、ロック装置30は、中心線Pを中心に等角度関係で、夫々、4つ設けられている。図1乃至図4に示すように、35は扉21の外側に設けられた把手である。扉21の中央には、収容室10の内圧が高くなった場合に空気を逃がす空気調整弁36が設けられている。
【0034】
更にまた、収容室10には、中心線Pに略直交する臥面を有しカプセル本体1に固定されるベッド40が設けられている。ベッド40は、ベッド40の臥面41を一方面部1a側に向けて、一方室10a及び他方室10bに夫々配設されている。一方室10a及び他方室10bにおいて、夫々、ベッド40は複数設けられている。各ベッド40は、中心線Pを中心にした点対称に配置され、且つ、カプセル本体1の外殻4の内壁に沿わせて配置されている。ベッドの40の臥面41は身体の外形に倣うように凹み形成されている。
【0035】
一方室10aにおいては、ベッド40が設けられるスペースが、所謂卍形になるように4区画形成され、各区画にベッド40が設けられている。仕切部材2上には木製のフロア42が形成されており、このフロア42上にベッド40が設けられる。ベッド40はクッション部材43で形成されている。また、ベッド40の臥した収容者Mに沿う外殻4の内面には、ベッド40と同様のクッション部材44が付設されている。更に、隣接する区画間にも仕切部材45が設けられ、この仕切部材45にもベッド40と同様のクッション部材46が付設されている。この仕切部材45のあるベッド40の一端部は、収容者Mの頭部が収納される頭部収納空間47を構成する。
【0036】
他方室10bにおいては、ベッド40が設けられるスペースが、所謂卍形になるように4区画形成され、そのうち、互いに向きあう2つの区画にベッド40が設けられている。他方室10bを構成する外殻4の他方面部1bの内面には木製のフロア42が形成されており、このフロア42上にベッド40が設けられる。ベッド40はクッション部材43で形成されている。また、ベッド40の臥した収容者Mに沿う外殻4の内面には、ベッド40と同様のクッション部材44が付設されている。更に、隣接する区画間にも仕切部材45が設けられ、この仕切部材45にもベッド40と同様のクッション部材46が付設されている。この仕切部材45のあるベッド40の一端部は、収容者Mの頭部が収納される頭部収納空間47を構成する。また、ベッド40が設けられない別の2つの区画は、救命用の資材を収納する資材収納スペース48として構成されている。
【0037】
そして、実施の形態に係る津波用救命カプセルCは、図2及び図7に示すように、収容室10に対して収容者Mを保持するエアバッグ装置50が備えられている。エアバッグ装置50は、ガスが注入されて膨出しこの膨出によりベッド40の臥面41に臥した収容者Mを臥面41に対して押さえるエアバッグ51と、カプセル本体1にベッド40の臥面41に対向して設けられエアバッグ51を支持する支持部52と、エアバッグ51にガスボンベ53からガスを注入するガス注入部54とを備えて構成されている。エアバッグ51は、例えば、樹脂シートを袋状に形成したもので、ベッド40に臥した収容者Mの頭を除く胴部を押さえる大きさのものであり、ベッド40の臥面41と反対側の面が支持部材52に接着剤などで固着されて、各ベッド40毎に夫々設けられている。エアバッグ51は、非使用時には、扁平にされて支持部材52にテープなどで止着されている。
【0038】
一方室10aにおいては、ベッド40に対面し一方室10aを構成する外殻4の一方面部1aの内面に、木製のフロア状の支持部52が設けられている。他方室10bにおいては、ベッド40に対面し他方室10bを構成する仕切部材2の内面に、木製のフロア状の支持部52が設けられている。
ガスボンベ53は、酸素ボンベで構成されており、上記他方室10bの資材収納スペース48に設置されている。図7に示すように、この酸素ボンベからなるガスボンベ53からは、各エアバッグ51に対してガスを供給するガス注入部54としてのエア供給管路56が設けられており、各ベッド40に対応して夫々設けた開閉バルブ55をベッド40に臥した収容者Mが操作して開にすることにより、エアバッグ51を膨らますことができるようになっている。また。酸素ボンベからの酸素を収容室10内に供給可能なエア供給管路57が設けられており、収容室10内の酸素が不足したときに、これに設けた開閉バルブ58を収容者Mが操作して開にすることにより、収容室10内に酸素を供給できるようにしている。尚、ベッド40に別途ベルトを設けて、このベルトによっても身体を固定するようにして良い。より一層保持が確実になる。
【0039】
また、カプセル本体1には、収容室10内に採光可能な窓60が設けられている。窓60は、外殻4において、収容者Mの頭部が収納される頭部収納空間47を構成する部位に、夫々設けられている。この窓60は開閉可能になっており、適時に開けて換気を行うことができる。必要に応じて、窓60の開時に、この窓60開口を通して強制的に喚起を行う手動式の「フイゴ」を備えることができる。
【0040】
また、上記の資材収納スペース48には、例えば、非常食(少なくとも人数分で、7〜10日分の水と食料品)、薬品等の医療品、衣料品、ラジオ、メガホン、救命ジャケット、ロープ、係留用鉤爪状の錘付きロープ、救命ブイ、黄色の旗、反射鏡、発煙筒、信号弾、照明弾、黄色の染料、手袋、望遠鏡、SOS発信器、電池類、手動式発電機、懐中電灯、ケミカルライトなどの種々の避難用品を格納しておくと良い。電池類は使用期限があるので、ライトやラジオなどの電気製品は手動発電型のものを搭載することが望ましい。
【0041】
従って、この実施の形態に係る津波用救命カプセルCにおいては、各家庭単位に1台あるいは複数台用意しておき、また、集合ビルや避難所等においても必要台数を用意しておき、図1に示すように、通常時は、津波用救命カプセルCを、一方面部1aが設置面に対して上になり他方面部1bが下になるように、且つ、他方面部1bが設置面より人が入ることができるように例えばスタンド61上に置いて上方に離間させて設置しておく。
【0042】
そして、津波用救命カプセルCを使用するときは以下のようになる。大きな地震による津波が到来するときは、一般に、地震発生から津波が到達するまでの短時間のうちに高台等の避難場所まで移動する必要があるが、津波の到来に気がつかなかったり、交通渋滞が生じたり、病人や老人等弱者がいる等の理由により、移動が困難で、逃避が不能になるようなときには、この津波用救命カプセルCを用いる。
【0043】
先ず、収容者Mは一方面部1aの一方ハッチ20aの扉21を開けて上から一方室10aに入り、また、他方面部1bの他方ハッチ20bの扉21を開けて下から他方室10bに入り、各部屋のベッド40に臥するようにする。仕切部材2の中央に連通路3があるので、この連通路3を通って隣の収容室10に入り込むこともできる。そのため、上下に出入用のハッチ20があるので、例えば、障害者,老人や子供等は他方ハッチ20bから収容室10に入るようにすれば、容易に収容室10に入ることができる。そのため、収容者Mが素早く収容室10に入ることができるようになる。また、ベッド40はその臥面41が全て一方面部1a側に向けて配設されているので、収容者Mが下向きにベッド40に臥すことはない。この場合、逆さになっても違和感がないように、収容者Mは横向きになってベッド40に臥すようにすると良い。収容者Mは安全のためヘルメットを着用することが望ましい。また、ペット類も収容室10に収容できる。必要に応じ、ペット類もエアバッグ装置50で押さえるようにして良い。
【0044】
次に、適時にハッチ20の扉21を閉め、ロック装置30でロックする。そして、ベッド40に臥した状態で、エアバッグ装置50のエアバッグ51の止着を解き、ガス注入部54を操作してガスボンベ53からエアバッグ51にガスを注入する。これにより、エアバッグ51が支持部52から膨出し、臥した収容者Mをベッド40の臥面41に対して押さえる。そのため、収容者Mはエアバッグ51を介してベッド40と支持部52との間に謂わばサンドイッチ状態で保持されることになり、保持が確実になる。尚、ベッド40に別途ベルトを設けて、このベルトによっても身体を固定するようにして良い。より一層保持が確実になる。
【0045】
この状態で、津波が押し寄せて、津波用救命カプセルCが水をかぶり、あるいは、流されても、津波用救命カプセルCが水に浮遊するので水没を避けることができ、収容者Mの救命が図られる。この場合、津波用救命カプセルCは円盤形状に形成されているので、高さ寸法に比して幅寸法が大きいことから、中心線Pを中心に回転するようにして水上を浮遊し、その姿勢を安定させることができる。また、浮遊中に木などの自然物や建物に衝突しても、フロート5が外殻4を保護するので、外殻4の損傷が抑止させられる。
【0046】
また、津波が巨大で破壊力が強い場合には、住宅やビルなどの建物、橋や道路などの各種施設等が破壊されて、瓦、石、コンクリート、金属、木材などの瓦礫が発生し、これらが津波とともに、津波用救命カプセルCに激しく衝突することが生じることがあり、その場合には、カプセルCが激しく反転したり、瓦礫などが衝突し、激しい衝撃を受ける。然し、収容者Mはエアバッグ装置50によって収容室10に保持されているので、従来に比較して、慣性力が生じても身体の動きが抑制され、そのため、収容室10内に放り出されたり、身体が折り曲がる等して損傷する事態を防止することができ、十分に安全が図られ、確実に救命することができるようになる。また、カプセル本体1の外殻4及び仕切部材2を支柱9で支持したので、カプセル本体1の強度が増し、耐久性が向上させられる。仕切部材2の支持も確実になる。更に、フロート5があるので、それだけ、瓦礫などの衝突の衝撃力を緩衝することができる。
【0047】
この場合、収容者Mは、ベッド40に身体を伸ばした状態で保持されるので、この点でも姿勢が安定して救命が図られる。更に、津波用救命カプセルCが反転して逆さになっても、収容者Mは今度はエアバッグ51を介して支持部52側で支持されるので、支持されている状態に変わりがなく、保持が確実になる。この場合、逆さになっても違和感がないように、収容者Mは横向きになってベッド40に臥すようにすると良い。また、ベッド40は、カプセル本体1の内壁に沿わせて配置されているので、収容者Mの身体をこのカプセル本体1の内壁でも支持することができ、それだけ保持が安定する。更にまた、ベッドの40の臥面41は身体の外形に倣うように凹み形成されているので、身体の動きがより一層抑止される。
【0048】
また、ベッド40を点対称に配置したので、バランスが良く、浮遊を安定させることができる。ベッド40はクッション部材43で形成され、ベッド40の臥した収容者Mに沿う外殻4の内面には、ベッド40と同様のクッション部材44が付設されているとともに、仕切部材45にもベッド40と同様のクッション部材46が付設されているので、これによっても衝撃が吸収され、身体の保護が図られる。特に、収容者Mの頭部は頭部収納空間47に収納されるので保護が確実になる。更に、ベッド40を点対称に配置したので、収容者Mが、互いに向き合ってベッド40に臥すことができ、互いの状態を見ながら会話もできるので、それだけ精神的安心を得られる。
【0049】
更にまた、収容室10内に採光可能な窓60を設けたので、光を収容室10内に採光できるとともに、外部の様子を見ることができる。収容室10が暗い場合には、初期照明には、例えば、ロープを引けばガラス管が折れて発光するタイプのケミカルライトを用いると良い。その後は、懐中電灯や手動発電式のLEDランプなどを用いる等すると良い。また、窓60は開閉可能になっており、適時に開けて換気を行うことができる。必要に応じて、窓60の開時に、この窓開口を通して強制的に喚起を行う手動式の「フイゴ」を備えることができる。また、窓60は、SOS信号発信器のアンテナ取付口にもなる。
【0050】
窓60は、津波が終息する前や、あるいは、外洋に流されて波が荒いような場合はできるだけ開けない方が良い。そのため、浮遊中に収容室10内の酸素が不足したならば、エア供給管路57に設けた開閉バルブ58を収容者Mが操作して開にすることにより、酸素ボンベからの酸素を収容室10内に供給する。収容室10内の内圧が上昇した場合には、扉21の中央に設けた空気調整弁36が作動し、空気を逃がすので、内圧が安定化する。
【0051】
津波が収まったならば、適時にエアバッグ装置50のエアをドレン(図示せず)を開にして排気して、収容者Mの身体を解放し、扉21を開けて外に出る。この場合、津波用救命カプセルCが反転した状態で停止あるいは海などに浮遊していても、ハッチ20は一方面部1a及び他方面部1bの両方に設けられているので、上側に位置する何れかのハッチ20の扉21を開けて外に出ることができる。この場合、下側の収容室10の収容者Mは連通路3を通って上側の収容室10に移動すればよい。また、津波用救命カプセルCが海などに浮遊している場合には、係留用鉤爪状の錘付きロープを投げて、流されるのを防止するようにすると良い。津波用救命カプセルCの周囲の破壊の度合いが高かったり、海上に流される等、上陸できない環境の場合には、この津波用救命カプセルCに留まり、救助を待つ。
【0052】
次に、本発明の別の実施の形態に係る津波用救命カプセルについて説明する。
図8乃至図11に示すように、本発明の実施の形態に係る津波用救命カプセルCは、中心線Pに直交する一方面部1a及び他方面部1bを有し中空の円盤状に形成されたカプセル本体1と、カプセル本体1の内部に形成され収容者Mを収容可能な収容室10とを備えている。カプセル本体1は、収容室10を構成する円盤状の外殻70と、外殻70の周囲に付設されたフロート75とを備えて構成されている。収容室10は、上記と同様に形成されているのでその説明を省略する。
【0053】
カプセル本体1の外殻70は、金属板あるいはガラス繊維と樹脂から形成されるFRP等で形成(実施の形態ではFRPで形成)され、上下に開放口を有した筒状の中央部71と、中央部71の上側の開放口を覆い一方面部1aを有した盆状の上部72と、中央部71の下側の開放口を覆い他方面部1bを有した盆状の下部73とを備えて構成されている。中央部71の上下の開放口の外周には夫々フランジ71aが設けられ、上部72及び下部73の外周には夫々開放口のフランジ71aに接合して固着されるフランジ72a,73aが設けられており、フランジ71aとフランジ72a,73a同士を図示外のシール部材を介して接合させ、これらを例えば図示外のリベットやボルト,ナットで締結している。外殻70を中央部71,上部72及び下部73の3つの部材で構成したので、組立てが容易になる。尚、上記の仕切部材2は中央部71の内側に接着溶剤等で固定されている。
【0054】
フロート75は、樹脂の中空体あるいは中実体からなり、例えば繭形の珠状に形成されており、外殻70の外周に沿って数珠状に固定ロープ76に引き通されて複数列設して付帯させられている。数珠状のフロート75群は、2列設けられ、上下のフランジ71a,間に配置され、互いにロープ77で連結されるとともに、上記のフランジ71a,72a,73aにロープ78で繋止されている。図8中、符号60は外殻70に設けられた採光可能な窓である。窓60は、開閉不能であり、外殻70の中央部71にその外周に沿って例えば等角度関係で4つ設けられている。また、図9に示すように、外殻70の上部72及び下部73には、夫々、後述のハッチ80を挟んで、一対の空気取入口部89が設けられている。空気取入口部89は、内部から開閉可能になっており、常時は閉じ、津波が収まったとき等の適時に開にして空気を取り入れることが可能になっている。
【0055】
カプセル本体1には、収容室10内に出入りするためのハッチ80が設けられている。ハッチ80としては、カプセル本体1の一方面部1aに設けられた一方ハッチ80a及び、カプセル本体1の他方面部1bに設けられた他方ハッチ80bの2つ設けられている。
ハッチ80は、図10及び図11に示すように、カプセル本体1に設けられ収容室10に対して出入可能な出入口開口81と、出入口開口81の外側にあるヒンジ機構82に揺動可能に支持され揺動により出入口開口81を開閉する盆状の扉83とを備えている。扉83には開閉するための把手83aが設けられている。出入口開口81は外殻70に接着溶剤等で固定される筒状体84で構成され、この出入口開口81の外側開口縁には、これに沿って設けられ扉83の閉時に扉83の内側外周縁部85が接合する接合フランジ86が一体形成されている。また、扉83の内側外周縁部85には、接合フランジ86との間に介装されるパッキン87が設けられている。
【0056】
ヒンジ機構82は、外殻70の外側に設けられる支持体82aと、扉83から突設される突出体82bと、支持体82a及び突出体82bの何れか一方に設けられるピン82cと、支持体82a及び突出体82bの何れか他方に設けられピン82cに回動可能に挿通される孔部82dとから構成されている。ピン82cと孔部82dとの間には所要のクリアランスが設けられ、揺動に自由度が付与されている。
【0057】
そして、ハッチ80は、扉83をこの扉83の外周縁部85の内側をパッキン87を介して接合フランジ86に押圧してロックするロック機構90を備えて構成されている。ロック機構90は、扉83の中央に回転可能に設けられ雄ネジ91aが形成された回転軸91を備えている。回転軸91は扉83に設けたスラストベアリング92に支持されて扉83に貫通配置されている。回転軸91は防水シール91bでシールされている。また、ロック機構90は、出入口開口81の開口縁から内側に所要の間隔(実施の形態では120°間隔)で突出する複数の係止片93を備えている。筒状体84の内側には、一片88aが接合フランジ86とは反対側に突出し、他片88bがボルト,ナット88cで筒状体84に固定された断面L字板状の金具88が設けられており、係止片93は、この金具88の一片88aで構成されている。
【0058】
また、ロック機構90は、進退動体94を備えている。この進退動体94は、回転軸91の雄ネジ91aに螺合される雌ネジ95aを有しこの回転軸91の回転により進退動する中心部95、及び、この中心部95から放射方向に(実施の形態では120°の角度関係で)出入口開口81の開口縁近傍まで延びるとともに回動して先端部96aが上記の各係止片93に夫々対峙する対峙位置X及び各係止片93に対して夫々非対峙の非対峙位置Yの2位置に位置する複数のアーム96を有して構成されている。スラストベアリング92と進退動体94の中心部95との間にはコイルスプリング95bが圧縮状態で介装されている。
【0059】
更に、扉83の外側であって回転軸91の一端には、回転軸91を回転させる外側ハンドル97が設けられ、扉83の内側であって回転軸91の他端には、回転軸91を回転させる内側ハンドル98が設けられている。これにより、ロック機構90は、扉83の閉時には、外側ハンドル97または内側ハンドル98で回転軸91を回転させることにより、進退動体94のアーム96の先端部96aを係止片93に対峙させるとともに扉83側に押圧してロックするようにしている。
【0060】
また、扉83には、進退動体94の回動を規制してアーム96の先端部96aを対峙位置Xに位置決めする第一ストッパ部材Xaと、上記進退動体94の回動を規制してアーム96の先端を非対峙位置Yに位置決めする第二ストッパ部材Yaとが設けられている。第一ストッパ部材Xa及び第二ストッパ部材Yaは棒状に形成され、各アーム96毎に対応して扉83の裏面に垂設されている。
更に、進退動体94のアーム96の収容室10側には、アーム96を覆い隠すカバー99が付設されている。
【0061】
従って、この別の実施の形態に係る津波用救命カプセルCを用いるときは、先ず、収容者Mは一方面部1aのハッチ80(一方ハッチ80a)の扉83を開けて収容室10内に入り、あるいは、他方面部1bのハッチ80(他方ハッチ80b)の扉83を開けて下から収容室10内に入る。このハッチ80を開けるときは、ロック機構90の外側ハンドル97により回転軸91を回転させることにより、進退動体94のアーム96の先端部96aを接合フランジ86から離間させるとともに、非対峙位置Yにして係止片93から外す。この場合、図11に示すように、進退動体94は、回動して第二ストッパ部材Yaに当接してその回動が規制され、そのため、進退動体94が回動しすぎることなく、アーム96を非対峙位置Yに位置決めすることができ、操作を確実に行なうことができる。この状態で、扉83をヒンジ機構82を介して揺動させ扉83の内側外周縁部85を接合フランジ86から離して開ける。この場合、進退動体94は回転軸91を介して扉83と同動するが、アーム96の先端部96aは係止片93に対して非対峙位置Yにあるので、係止片93と干渉することがない。この場合、比較的簡易な機構で容易に扉83を開くことができる。
【0062】
次に、適時にハッチ80の扉83を閉め、ロック機構90でロックする。この場合、ハッチ80を閉めるときは、扉83をヒンジ機構82を介して揺動させ扉83の内側外周縁部85をパッキン87を介して接合フランジ86に接合する。それから、図10及び図11に示すように、外側ハンドル97または内側ハンドル98により回転軸91を回転させることにより、進退動体94のアーム96の先端部96aを対峙位置Xにして係止片93に対峙させる。この場合、進退動体94は、回動して第一ストッパ部材Xaに当接してその回動が規制され、そのため、進退動体94が回動しすぎることなく、アーム96を対峙位置Xに位置決めすることができ、操作を確実に行なうことができる。
【0063】
そして、更に、進退動体94を扉83側に移動させると、アーム96の先端部96aが係止片93を押圧するとともに、進退動体94の中心部95及び回転軸91を介して扉83を相対的に進退動体94に引き寄せることになることから、扉83の内側外周縁部85が接合フランジ86に押圧され、これにより扉83がロックされる。また、扉83の内側外周縁部85が接合フランジ86にパッキン87を介して押圧されて接合されるので、この部位でシールされ、水密性が図られる。この場合、比較的簡易な機構で容易に扉83を閉じることができ、且つシールを行なうことができる。
【0064】
そして、収容室10内においては、上記と同様に対処する。この状態で、津波が押し寄せて、津波用救命カプセルCが水をかぶり、あるいは、流されても、津波用救命カプセルCが水に浮遊するので水没を避けることができ、収容者Mの救命が図られる。この場合、津波用救命カプセルCは円盤形状に形成されているので、高さ寸法に比して幅寸法が大きいことから、中心線Pを中心に回転するようにして水上を浮遊し、その姿勢を安定させることができる。また、浮遊中に木などの自然物や建物、あるいは瓦礫等に衝突しても、フロート75が外殻70を保護するので、外殻70の損傷が抑止させられる。また、瓦礫などの衝突の衝撃力を緩衝することができる。この場合、フロート75は、珠状に形成されて、外殻70の外周に沿って数珠状に複数列設して付帯させられているので、各フロート75が浮力を分散して受けることができ、波の影響を受けにくく浮遊を確実にすることができる。また、フロート75を上下のフランジ71a間に配置したので、外殻70の中央部71を覆ってこれを浮遊させることから姿勢を安定にすることができる。収容室10内での作用,効果は、上記と同様である。
【0065】
尚、上記実施の形態では、仕切部材2を板状に形成し、これにフロア42及び支持部52を設けているが、図12に示すように、仕切部材2をフロア42及び支持部52を兼ねた例えば木製の部材で構成し、これを支柱9で支持する構成としても良く適宜変更して差し支えない。また、上記実施の形態では、津波用救命カプセルCは、6人の利用のものを示したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、5人以下、あるいは7人以上の人が収容できるように、ベッド40の数やエアバッグ装置50を設けて良く、適宜変更して差し支えない。また、カプセル本体1の材質も上記に限定されるものではなく、適宜変更して差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
平成23年(2011年)3月11日の「東日本大震災」では、三陸沖を震源に国内観測史上最大のM9.0の地震が発生し、これに伴って巨大津波が来襲し、震源地にほど近い東北地方の沿岸に沿った広範囲の地域において、都市や漁村等の市街地の多くが破壊され、多数の人が犠牲となった。犠牲者の多くは津波によるものであり、瓦礫などの漂流物による圧死が直接の死因とされる場合が多く報告されている。そのため、本発明は、簡易な構造で設置も容易であり、操作性も良いことから、普及することにより、非常時に極めて有用に機能すると考えられる。
【符号の説明】
【0067】
C 津波用救命カプセル
M 収容者
P 中心線
1 カプセル本体
1a 一方面部
1b 他方面部
2 仕切部材
2a 外周縁
3 連通路
4 外殻
4a,4b 外殻単体
5 フロート
6 フランジ
7 ボルト
8 ナット
9 支柱
10 収容室
10a 一方室
10b 他方室
20 ハッチ
20a 一方ハッチ
20b 他方ハッチ
21 扉
22 出入口開口
23 ヒンジ
24 シール部材
30 ロック機構
31 回転軸
32 係止凹部
33 係止凸部
34 ハンドル
35 把手
36 空気調整弁
40 ベッド
41 臥面
42 フロア
43,44,46 クッション部材
45 仕切部材
47 頭部収納空間
48 資材収納スペース
50 エアバッグ装置
51 エアバッグ
52 支持部
53 ガスボンベ(酸素ボンベ)
54 ガス注入部
55 開閉バルブ
56 エア供給管路
57 エア供給管路
58 開閉バルブ
60 窓
61 スタンド
70 外殻
71 中央部
72 上部
73 下部
71a,72a,73a フランジ
75 フロート
76 固定ロープ
80 ハッチ
80a 一方ハッチ
80b 他方ハッチ
81 出入口開口
82 ヒンジ機構
83 扉
83a 把手
84 筒状体
85 外周縁部
86 接合フランジ
87 パッキン
89 空気取入口部
90 ロック機構
91 回転軸
91a 雄ネジ
93 係止片
95 進退動体
95a 雌ネジ
95b コイルスプリング
96 アーム
96a 先端部
X 対峙位置
Y 非対峙位置
97 外側ハンドル
98 内側ハンドル
Xa 第一ストッパ部材
Ya 第二ストッパ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線に直交する一方面部及び他方面部を有し中空の円盤状に形成されたカプセル本体と、該カプセル本体の内部に形成され収容者を収容可能な収容室と、上記カプセル本体に設けられ上記収容室内に出入りするための開閉可能な扉を有したハッチとを備えた津波用救命カプセルにおいて、
上記収容室に対して収容者を保持するエアバッグ装置を備えたことを特徴とする津波用救命カプセル。
【請求項2】
上記収容室に、上記中心線に略直交する臥面を有しカプセル本体に固定されるベッドを設け、上記エアバッグ装置を、ガスが注入されて膨出し該膨出により上記ベッドの臥面に臥した収容者を該臥面に対して押さえるエアバッグと、上記カプセル本体に上記ベッドの臥面に対向して設けられ上記エアバッグを支持する支持部と、上記エアバッグにガスボンベからガスを注入するガス注入部とを備えて構成したことを特徴とする請求項1記載の津波用救命カプセル。
【請求項3】
上記カプセル本体に固定され上記中心線に直交し上記収容室を上記一方面部側の一方室と上記他方面部側の他方室とに仕切る仕切部材を設け、該仕切部材の中央に、上記一方室及び他方室を連通し収容者が行き来可能な連通路を形成し、上記カプセル本体の一方面部に上記一方室に出入りするための一方ハッチを設け、上記カプセル本体の他方面部に上記他方室に出入りするための他方ハッチを設け、上記ベッドを該ベッドの臥面を一方面部側に向けて上記一方室及び他方室に夫々配設したことを特徴とする請求項2記載の津波用救命カプセル。
【請求項4】
上記収容室の一方面部側の内壁と他方面部側の内壁間に架設され上記中心線に平行な複数の支柱を設け、上記仕切部材を上記支柱に支持したことを特徴とする請求項3記載の津波用救命カプセル。
【請求項5】
上記一方室及び他方室において、夫々、上記ベッドを複数設けるとともに、各ベッドを上記中心線を中心にした点対称に配置し、且つ、カプセル本体の内壁に沿わせて配置したことを特徴とする請求項4記載の津波用救命カプセル。
【請求項6】
上記ガスボンベを、酸素ボンベで構成し、該酸素ボンベからの酸素を収容室内に供給可能な酸素供給管路を設けたことを特徴とする請求項2乃至5何れかに記載の津波用救命カプセル。
【請求項7】
上記カプセル本体を、上記収容室を構成する外殻と、該外殻の周囲に付設されたフロートとを備えて構成したことを特徴とする請求項1乃至6何れかに記載の津波用救命カプセル。
【請求項8】
上記フロートを、珠状に形成し、上記外殻の外周に沿って数珠状に複数列設して付帯させたことを特徴とする請求項7記載の津波用救命カプセル。
【請求項9】
上記外殻を、上下に開放口を有した筒状の中央部と、該中央部の上側の開放口を覆う盆状の上部と、上記中央部の下側の開放口を覆う盆状の下部とを備えて構成し、上記上下の開放口の外周に夫々フランジを設け、上記上部及び下部の外周に夫々上記開放口のフランジに接合して固着されるフランジを設け、上記数珠状のフロート群を、上記上下のフランジ間に配置したことを特徴とする請求項8記載の津波用救命カプセル。
【請求項10】
上記ハッチを、上記カプセル本体に設けられ収容室に対して出入可能な出入口開口と、該出入口開口の外側にあるヒンジ機構に揺動可能に支持され揺動により該出入口開口を開閉する扉と、上記出入口開口の開口縁に沿って設けられ上記扉の閉時に該扉の内側外周縁部が接合する接合フランジと、上記扉の内側外周縁部及び接合フランジ間に介装されるパッキンと、上記扉を該扉の外周縁部内側を上記接合フランジに押圧してロックするロック機構とを備えて構成し、
該ロック機構を、上記扉の中央に回転可能に設けられ雄ネジが形成された回転軸と、上記出入口開口の開口縁から内側に所要の間隔で突出する複数の係止片と、上記回転軸の雄ネジに螺合される雌ネジを有し該回転軸の回転により進退動する中心部及び該中心部から放射方向に上記出入口開口の開口縁近傍まで延びるとともに回動して先端部が上記各係止片に夫々対峙する対峙位置及び該各係止片に対して夫々非対峙の非対峙位置の2位置に位置する複数のアームを有した進退動体と、上記扉の外側であって上記回転軸の一端に設けられ該回転軸を回転させる外側ハンドルと、上記扉の内側であって上記回転軸の他端に設けられ該回転軸を回転させる内側ハンドルとを備え、上記扉の閉時に上記外側ハンドルまたは内側ハンドルにより上記回転軸を回転させることにより上記進退動体のアームの先端部を係止片に対峙させるとともに該扉側に押圧してロックするようにしたことを特徴とする請求項1乃至9何れかに記載の津波用救命カプセル。
【請求項11】
上記扉に、上記進退動体の回動を規制してアームの先端部を対峙位置に位置決めする第一ストッパ部材と、上記進退動体の回動を規制してアームの先端を非対峙位置に位置決めする第二ストッパ部材とを設けたことを特徴とする請求項10記載の津波用救命カプセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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