説明

洪水流量推定システムおよび方法

【課題】天然ダムの越流決壊による下流域の洪水流量の増減を、地理的および時系列的に数値シミュレーションする洪水流量推定システムおよび方法を提供する。
【解決手段】各種データを外部から入力させる入力部11と、入力部11に接続され、外部から入力された各種データを記録するシミュレーションデータベース16と、入力部11に接続された制御部12と、制御部12およびシミュレーションデータベース16に接続された運動方程式演算部13と、制御部12およびシミュレーションデータベース16に接続された連続式演算部14と、シミュレーションデータベース16に接続された情報出力部15とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ダムの越流決壊による下流域の洪水流量の増減を、地理的および時系列的に数値シミュレーションする洪水流量推定システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等により天然ダムが発生した場合、最悪の状態を考えてその決壊を想定し、下流域に危険情報を早々に伝達・広報する必要がある。そのためには、たとえば航空レーザ計測で新たな地形計測を行い、その成果をもとにある仮定のもとでリアルタイム的にシミュレーション計算を行って、土石流や洪水が発生した場合の下流域における氾濫範囲を予測する検討作業を大至急行わなければならない。
【0003】
天然ダムの決壊過程を整理すると、(1)越流侵食による決壊、(2)すべり崩壊による決壊、(3)進行性破壊による決壊の3種類に分類できる。これらのうち、(1)の越流侵食による決壊が一番多く、全体の8割を占めている。この越流決壊とは、越流による侵食によって堤体の崩壊が進行する現象である。
【0004】
天然ダムの決壊による下流域の災害予測を行うためには、決壊により発生する土石流あるいは洪水のピーク流量を算定しなければならない。これまで過去の天然ダム決壊のデータを整理して統計的にピーク流量を求める代表的な手法としてダムファクターを使用するコスタ(Costa)の方法や、田畑らにより天然ダム決壊時のピ−ク流量を算定する簡便式が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】田畑茂清・水山高久・井上公夫著、「天然ダムと災害」、古今書院、2002年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の方法や簡便式は、天然ダム決壊時点の天然ダム直下の洪水ピーク流量のみを想定する手法であり、これらはいずれも洪水流量の時間的推移を示すハイドログラフまで求めることは出来ず、天然ダムの決壊シミュレーションを行う場合には不十分である。
【0007】
そのため、(1)天然ダム直下のみならず、下流域の任意地点の洪水ピーク流量が予測できるとともに、(2)時間経過に伴って変化する洪水流量を推定し、下流域の任意地点への洪水到達時刻が予測でき、さらに、(3)洪水氾濫による被害範囲や最大水位、流速等が予測できるシステムが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の洪水流量推定システムは、シミュレーションデータベースと、シミュレーションデータベースに接続された入力部と、入力部に接続された制御部と、制御部およびシミュレーションデータベースに接続された運動方程式演算部と、制御部およびシミュレーションデータベースに接続された連続式演算部と、シミュレーションデータベースに接続された情報出力部とを含み、(イ)入力部は、下流域の河道上に単位距離ごとに予測地点を設定し、外部から入力される地形データ、流量データ、物性値データ、係数データを、予測地点とリンク付けた初期入力データテーブルとしてシミュレーションデータベースに保存し、(ロ)制御部は、シミュレーション開始時間から終了時間まで、単位時間Δt間隔の指定時間tに運動方程式演算部と連続式演算部を交互に繰り返し起動し、(ハ)運動方程式演算部は、指定時間tが開始時間のときは、全ての予測地点について、順次、予測地点の初期入力データテーブルの値を運動方程式に代入して、指定時間tの予測地点の流量と流速を算出し、指定時間tの予測データの第1算出データとして、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録し、指定時間tが開始時間以降のときは、全ての予測地点について、順次、予測地点の初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データの値を運動方程式に代入して、指定時間tの予測地点の流量と流速を算出し、指定時間tの予測データの第1算出データとして、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録し、(ニ)連続式演算部は、指定時間tが開始時間のときは、全ての予測地点について、順次、予測地点の初期入力データテーブルと指定時間tの予測データの第1算出データの値を連続式に代入して、指定時間tの予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、指定時間tの予測データの第2算出データとして、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録し、指定時間tが開始時間以降のときは、全ての予測地点について、順次、予測地点の初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データと指定時間tの予測データの第1算出データの値を連続式に代入して、指定時間tの予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、指定時間tの予測データの第2算出データとして、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録し、(ホ)情報出力部は、初期入力データテーブルと算出データテーブルのデータにより、予測地点のハイドログラフ、河床侵食速度の変化、側岸侵食速度の変化、川幅の変化、天然ダムおよび河道の河床変動、下流域の氾濫範囲の変化を画面に表示することを要旨とする。
【0009】
さらに、本発明の他の洪水流量推定システムは、シミュレーションデータベースと、シミュレーションデータベースに接続された入力部と、入力部に接続された制御部と、制御部およびシミュレーションデータベースに接続された運動方程式演算部と、制御部およびシミュレーションデータベースに接続された連続式演算部と、シミュレーションデータベースに接続された情報出力部とを含み、(イ)入力部は、下流域を単位区画のメッシュに分割し、メッシュを予測地点として設定し、外部から入力される地形データ、流量データ、物性値データ、係数データを、予測地点とリンク付けた初期入力データテーブルとしてシミュレーションデータベースに保存し、予測地点が下流域の河道上に存在する場合、初期入力データテーブルの当該予測地点のデータに対象フラグを設定して、(ロ)制御部は、シミュレーション開始時間から終了時間まで、単位時間Δt間隔の指定時間tに運動方程式演算部と連続式演算部を交互に繰り返し起動し、(ハ)運動方程式演算部は、指定時間tが開始時間のときは、初期入力データテーブルから対象フラグが設定された予測地点を検出し、当該予測地点の初期入力データテーブルの値を運動方程式に代入して、指定時間tの当該予測地点の流量と流速を算出し、指定時間tの予測データの第1算出データとして、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録し、指定時間が開始時間以降のときは、1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データから対象フラグが設定された予測地点を検出し、当該予測地点の水深が側岸の比高より大きい場合、指定時間tの予測データの当該予測地点の左右の予測地点に対象フラグを設定し、指定時間tの予測データから対象フラグが設定された予測地点を検出し、当該予測地点の初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データの値を運動方程式に代入して、指定時間tの当該予測地点の流量と流速を算出し、指定時間tの予測データの第1算出データとして、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録し、(ニ)連続式演算部は、指定時間tが開始時間のときは、初期入力データテーブルから対象フラグが設定された予測地点を検出し、当該予測地点の初期入力データテーブルと指定時間tの予測データの第1算出データの値を連続式に代入して、指定時間tの予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、指定時間tの予測データの第2算出データとして、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録し、指定時間tが開始時間以降のときは、指定時間tの予測データから対象フラグが設定された予測地点を検出し、当該予測地点の初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データと指定時間tの予測データの第1算出データの値を連続式に代入して、指定時間tの予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、指定時間tの予測データの第2算出データとして、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録し、(ホ)情報出力部は、初期入力データテーブルと算出データテーブルのデータにより、予測地点のハイドログラフ、河床侵食速度の変化、側岸侵食速度の変化、川幅の変化、天然ダムおよび河道の河床変動、下流域の氾濫範囲の変化を画面に表示することを要旨とする。
【0010】
また、本発明の洪水流量推定方法は、下流域の河道上に単位距離ごとに予測地点を設定し、外部から入力される地形データ、流量データ、物性値データ、係数データを、予測地点とリンク付けた初期入力データテーブルとしてシミュレーションデータベースに保存するステップと、シミュレーション開始時間から終了時間まで、単位時間Δt間隔の指定時間tごとに、運動方程式と連続式の演算を繰り返し実行させるステップと、指定時間tが開始時間のときは、全ての予測地点について、順次、予測地点の初期入力データテーブルの値を運動方程式に代入して、指定時間tの予測データの第1算出データとして流量と流速を算出し、予測地点の初期入力データテーブルと指定時間tの予測データの第1算出データの値を連続式に代入して、指定時間tの予測データの第2算出データとして水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録するステップと、指定時間tが開始時間以降のときは、全ての予測地点について、順次、予測地点の初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データの値を運動方程式に代入して、指定時間tの予測データの第1算出データとして流量と流速を算出し、予測地点の初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データと指定時間tの予測データの第1算出データの値を連続式に代入して、指定時間tの予測データの第2算出データとして水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録するステップと、初期入力データテーブルと算出データテーブルのデータにより、予測地点のハイドログラフ、河床侵食速度の変化、側岸侵食速度の変化、川幅の変化、天然ダムおよび河道の河床変動、下流域の氾濫範囲の変化を画面に表示するステップとを含むことを要旨とする。
【0011】
さらに、本発明の他の洪水流量推定方法は、下流域を単位区画のメッシュに分割し、メッシュを予測地点として設定し、外部から入力される地形データ、流量データ、物性値データ、係数データを、予測地点とリンク付けた初期入力データテーブルとしてシミュレーションデータベースに保存するステップと、予測地点が下流域の河道上に存在する場合、初期入力データテーブルの当該予測地点のデータに対象フラグを設定するステップと、シミュレーション開始時間から終了時間まで、単位時間Δt間隔の指定時間tごとに、運動方程式と連続式の演算を繰り返し実行させるステップと、指定時間tが開始時間のときは、初期入力データテーブルから対象フラグが設定された予測地点を検出し、当該予測地点の初期入力データテーブルの値を運動方程式に代入して、指定時間tの予測データの第1算出データとして流量と流速を算出し、当該予測地点の初期入力データテーブルと指定時間tの予測データの第1算出データの値を連続式に代入して、指定時間tの予測データの第2算出データとして水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録するステップと、指定時間tが開始時間以降のときは、1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データから対象フラグが設定された予測地点を検出し、当該予測地点の水深が側岸の比高より大きい場合、指定時間tの予測データの当該予測地点の左右の予測地点に対象フラグを設定するステップと、指定時間tが開始時間以降のときは、指定時間tの予測データから対象フラグが設定された予測地点を検出し、当該予測地点の初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データの値を運動方程式に代入して、指定時間tの予測データの第1算出データとして流量と流速を算出し、予測地点の初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データと指定時間tの予測データの第1算出データの値を連続式に代入して、指定時間tの予測データの第2算出データとして水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録するステップと、初期入力データテーブルと算出データテーブルのデータにより、予測地点のハイドログラフ、河床侵食速度の変化、側岸侵食速度の変化、川幅の変化、天然ダムおよび河道の河床変動、下流域の氾濫範囲の変化を画面に表示するステップとを含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、天然ダム下流域の任意地点のハイドログラフを作成することで、下流域の任意地点の洪水ピーク流量、下流域の任意地点への洪水到達時刻、洪水氾濫による被害範囲や最大水位、流速を予測できる。
【0013】
さらに、本発明によれば、川幅の変化、河床における侵食速度、側岸における侵食速度、および河床高の変化(河床変動)を予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の洪水流量推定システムの概略図
【図2】(a)天然ダム越流決壊過程の模式図、(b)ハイドログラフ
【図3】決壊直下地点、中流地点、下流地点のハイドログラフの一例
【図4】川幅の変化を表した一例
【図5】河床侵食速度の変化を表した一例
【図6】側岸侵食速度の変化を表した一例
【図7】天然ダム天端の河床変動を表した一例
【図8】二層流モデルの模式図
【図9】側岸侵食過程の河道の矩形断面図
【図10】本発明の洪水流量推定システムの全体シーケンス図
【図11】本発明の実施例1における予測地点の設定模式図
【図12】本発明の実施例1の演算工程シーケンス図(その1)
【図13】本発明の実施例1の演算工程シーケンス図(その2)
【図14】本発明の実施例1の演算工程シーケンス図(その3)
【図15】本発明の実施例1の演算工程シーケンス図(その4)
【図16】本発明の実施例1の初期入力データテーブル
【図17】本発明の実施例1の算出データテーブル
【図18】本発明の実施例2と3における予測地点(メッシュ)の設定模式図
【図19】本発明の実施例2の演算工程シーケンス図(その1)
【図20】本発明の実施例2の演算工程シーケンス図(その2)
【図21】本発明の実施例2の演算工程シーケンス図(その3)
【図22】本発明の実施例2の演算工程シーケンス図(その4)
【図23】本発明の実施例2の初期入力データテーブル
【図24】本発明の実施例2の算出データテーブル
【図25】本発明の実施例3の演算工程シーケンス図(その1)
【図26】本発明の実施例3の演算工程シーケンス図(その2)
【図27】本発明の実施例3の演算工程シーケンス図(その3)
【図28】本発明の実施例3の演算工程シーケンス図(その4)
【図29】本発明の実施例3の演算工程シーケンス図(その5)
【図30】本発明の実施例3の初期入力データテーブル
【図31】本発明の実施例3の算出データテーブル
【図32】本発明の実施例2と実施例3の表示例
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の洪水流量推定システム10は、図1に示すように、各種データを外部から入力させる入力部11と、入力部11に接続され、外部から入力された各種データを記録するシミュレーションデータベース16と、入力部11に接続された制御部12と、制御部12およびシミュレーションデータベース16に接続された運動方程式演算部13と、制御部12およびシミュレーションデータベース16に接続された連続式演算部14と、シミュレーションデータベース16に接続された情報出力部15とを含む。
【0016】
(各構成部の説明)
入力部11は、外部から入力される地形データ20、流量データ21、物性値データ22、係数データ23、およびオルソフォトデータ24をシミュレーションデータベース16に保存し、制御部12を起動する。
【0017】
制御部12は、入力されたデータから下流域の洪水氾濫の時系列的なシミュレーション結果を得るために、時間を変化させて、運動方程式演算部13と連続式演算部14を繰り返し起動する。
【0018】
運動方程式演算部13は、制御部12から設定された時間の各予測地点の流量と流速を、運動方程式によって算出し、シミュレーションデータベース16に記録する。
【0019】
連続式演算部14は、制御部12から設定された時間の各予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を、連続式によって算出し、シミュレーションデータベース16に記録する。
【0020】
情報出力部15は、入力部11によってシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20およびオルソフォトデータ24と、運動方程式演算部13と連続式演算部14によってシミュレーションデータベース16に記録された各予測地点の算出データから、ハイドログラフ、河床侵食速度の変化、側岸侵食速度の変化、川幅の変化、天然ダムおよび河道全体の河床変動、天然ダム下流全域の氾濫範囲の変化の情報を画面に表示し、また外部に出力する。
【0021】
(入力データの説明)
地形データ20には、地震等により天然ダムが形成された直後に、形成された天然ダム周囲の新たに地形に関して、航空レーザ計測等により計測される天然ダムの形状データや河道地形データが含まれ、天然ダムの位置、高さ、長さ、幅、河床勾配、川幅、側岸の比高等の地理的数値を得ることができる。
【0022】
流量データ21には、形成された天然ダム周囲で計測された降雨情報等から得られる湛水域の流入量が含まれる。
【0023】
物性値データ22には、形成された天然ダム周囲で調査された地質情報等から得られる天然ダムや河道を形成している砂礫の粒径、密度、堆積層濃度、内部摩擦角等が含まれる。
【0024】
係数データ23には、形成された天然ダムの特徴や周囲の状況を考慮してユーザによって設定される補正係数、側岸侵食速度係数等の数値計算に必要なパラメータが含まれる。
【0025】
オルソフォトデータ24には、航空レーザ計測時の撮影された天然ダム周囲の画像が含まれ、天然ダムの下流域に存在する人家や施設の把握に利用する。
【0026】
(出力データの説明)
ハイドログラフは、横軸に時間をとり、縦軸に流量をとり、その時間変化を表した図である。
【0027】
図2(a)に模式した天然ダムの越流決壊の過程と、図2(b)に図示した天然ダムの決壊直下地点の流量の時間的な変化を示したハイドログラフを対比させながら説明する。
【0028】
まず、図2(a)の(I)の過程では、形成された天然ダムに上流から水が流入して、水位が徐々に上昇する。この時点では、天然ダム決壊直下地点には水が流れて来ていないので、図2(b)に図示したハイドログラフの(I)の区間では、流量がゼロである。
【0029】
次に、図2(a)の(II)の過程では、水位が天然ダムの天端標高に達し、やがて天端を超えて越流が開始される。この時点の天然ダム決壊直下地点の流量は、図2(b)に図示したハイドログラフの(II)の区間に示すように、徐々に上昇する。
【0030】
さらに、図2(a)の(III)の過程では、越流により天然ダム天端が侵食されて、天然ダムに貯まった水が急激に流出しだす。この時点の天然ダム決壊直下地点の流量は、図2(b)に図示したハイドログラフの(III)の区間に示すように、急激に上昇しピークをむかえ、また急激に減少していく。なお、従来の手法では、このピーク時の流量のみを予測していた。
【0031】
最後に、図2(a)の(IV)の過程では、侵食により天然ダムの天端標高は低くなり、その標高より高く天然ダムに貯まっていた水は流出してしまったので、上流から流入してくる水とほぼ同量の水が天然ダムから流出し続ける。よって、この時期の天然ダム決壊直下地点の流量は、図2(b)に図示したハイドログラフの(IV)の区間に示すようにほぼ一定量となる。
【0032】
以上に示したように、ハイドログラフは洪水の流量の時間的な変化を表した図であり、本発明では、天然ダム決壊直下地点のみではなく、天然ダム下流域の各予測地点についてハイドログラフを生成する。
【0033】
したがって、一予測地点のハイドログラフにより、その地点でいつピーク流量となるかがわかるのみならず、各予測地点のハイドログラフを総合的に把握することで、各予測地点という点としてではなく、下流域という面として、さらに時系列で、洪水がどのような経路で下流域に到達するか、またその流量がどれだけになるかがわかる。
【0034】
ある天然ダムを対象に、天然ダム決壊直下地点、中流地点、下流地点の3予測地点について、本発明により予測した流量結果を情報出力部15により出力させたハイドログラフの一例を図3に示す。
【0035】
図3の3つのハイドログラフから、天然ダム決壊により、決壊直後の多量の水と土砂が下流へ伝播していくことが読み取れる。また、下流の地点ほどピークが明確ではなく、一定時間大きい流量が現れた後、流量が徐々に低下していく。
【0036】
川幅の変化は、洪水により河道の側岸が侵食されることにより川幅が広がる現象を、各予測地点の川幅の数値として算出し表したものである。洪水の前後を比較するため、初期の川幅と侵食後の川幅を同時に表した図として表示することが好ましい。
【0037】
図4に、天然ダムA、B、Cを対象に、本発明により予測した川幅の変化を表した一例を示す。また、図4には、参照のため、天然ダムA、B、Cの位置、初期河床高と初期水位を同時に示している。
【0038】
河床侵食速度の変化は、洪水により河床が侵食される現象を、各予測地点の河床侵食速度の数値として算出し表したものである。図5に、図4に示した天然ダムAとCについて、本発明により予測した河床侵食速度の変化を表した一例を示す。
【0039】
側岸侵食速度の変化は、洪水により河道の側岸が侵食されることにより川幅が広がる現象を、各予測地点の側岸侵食速度の数値として算出し表したものである。図6に、図4に示した天然ダムAとCについて、本発明により予測した側岸侵食速度の変化を表した一例を示す。
【0040】
河床変動は、流れの状態(流速,土砂濃度等)や地形条件(河床勾配等)によって、河床の土砂が流れに取り込まれることにより河床が侵食されたり、水とともに流れている土砂が堆積したりすることで発生する河床高の変化を、各予測地点の時間ごとの河床高の数値として算出し表したものである。
【0041】
図7に示した本発明により予測した天然ダム天端の河床変動を表した一例では、決壊前の元河床を破線で示し、決壊10秒後、30秒後、1分後、1時間後、および2、3、4時間後の河床高を実線で示している。
【0042】
図7に示した河床変動から、時間とともに天然ダム天端が急激に侵食され、侵食された土砂が天然ダム天端の下流に堆積していく様子がわかる。
【0043】
さらに、本発明では、河道全体について同様に河床高を算出し、下流域全体の河床変動として把握する。
【0044】
天然ダム下流全域の氾濫範囲の変化は、ハイドログラフにより浸水が発生した予測地点を特定し、浸水した予測地点を、他の予測地点と識別するため色分けする等して、氾濫範囲を時系列的に地図またはオルソフォトデータ24上に表示した画像データとして作成、表示される。
【0045】
また、ハイドログラフにより各予測地点の水深を特定し、水深を識別するため色分けしても構わない。
【0046】
河道上の予測地点についてのみハイドログラフを得る場合は、河道上の予測地点の予測水深や側岸の比高から溢れる水量を計算し、当該水量が流れ込むと想定される範囲を、周囲の標高等から特定し、氾濫範囲とする。
【0047】
さらに、作成された画像データをコマ送り表示することで、氾濫範囲の変化を動的に表現することができる。
【0048】
(運動方程式と連続式の説明)
本発明の洪水流量推定システム10では、天然ダムが越流決壊する際の急激な堤体侵食過程および流量増加を解析するために、二層流モデルを基本とした支配方程式を離散化し、数値計算にはリープフロッグスキーム法を使用して、任意断面の洪水流量,洪水高,土砂濃度等の時間的変化を求める。
【0049】
適用する二層流モデルでは、図8に示すように、全流動層(T)を、水のみが流れる水流層(W)と、水と砂礫の混合物が流れる砂礫移動層(S)とに分解し、土石流から掃流状集合流動への遷移過程を、各層毎の支配方程式に基づいて解析する。
【0050】
図8の河道の縦断面の模式図では、河道を、下から土壌や砂礫が堆積した堆積層(M)、水と砂礫の混合物が流れる砂礫移動層(S)、および水のみが流れる水流層(W)と表している。また、堆積層(M)と砂礫移動層(S)の境を河床(B)、砂礫移動層(S)と水流層(W)の境を境界(I)、そして水流層(W)と空中の境を自由表面(F)と表す。
【0051】
さらに、二層流モデルでは、境界(I)を通じて質量と体積の流束(フラックス)が介在し、図8に矢印で示したように、堆積層(M)と砂礫移動層(S)の間で水や砂礫などの流動物の移動が起こり、砂礫移動層(S)と水流層(W)の間でも水の移動が起こる。この移動により、単位時間・単位面積あたりの砂礫移動層(S)内へ湧き出す量をS、水流層(W)の獲得する体積量をSとして示している。
【0052】
また、図8には、河道の縦断面に重ねて、水の流れる方向をX軸、高さ(標高)をZ軸、河床勾配θとして、全流動層の濃度cのグラフと流速uのグラフを示している。
【0053】
本システムでは、越流による縦方向の侵食と同時に生じる横方向の侵食(側岸侵食)の進行も考慮し、側岸は図9に示すような過程で侵食されるものとする。
【0054】
図9の(1)は、侵食前の河道横断面の状態を近似した矩形断面を示し、川幅B、側岸の比高H、全流動層の厚さht1、x方向の流速uとする。
【0055】
図9の(2)は、予想される侵食箇所を破線で模式図に示す。河床は河床侵食量Vの分だけ底面方向にえぐり取られ、側岸は側岸侵食量Vの分だけ両側方向に削られる。つまり、側岸の片側では、V/2分、幅で表すとΔB分だけ削られる。
【0056】
図9の(3)は、侵食後の河道横断面の状態を近似した矩形断面を示し、川幅は両側にΔB分ずつ増加しBとなる。河床はdz分だけ低くなるため、側岸の比高はH+dzとなる。
【0057】
各層毎の支配方程式として、以下に示す連続式及び運動方程式を用いる。連続式は、圧縮による体積変化が生じない流体では、ある区間における質量が保存されるという考え方に基づいている。同様に運動方程式は、圧縮による体積変化が生じない流体では、ある区間における運動量が保存されるという考え方に基づいている。
【0058】
この連続式と運動方程式を連立させて、時間的には前進、空間的には上流から下流に向かって解き、ある地点X・ある時間Tの未知数(例えば洪水流量,洪水高,土砂濃度等)を求める。この際、四則演算のみの差分方程式の形にして、リープフロッグスキーム法という手法で数値計算を行って連立式を解いていく。
【0059】
例えば、ある地点X・ある時間Tの洪水高は、Δt時間前(T−Δt)の洪水高と、その上下流の断面(X−Δx/2及びX+Δx/2)の洪水流量を用いて求める。
【0060】
ここに、数式中のρは平均密度、θは河床勾配、Bは川幅、hは流動層厚、Hは側岸の比高、vは平均流速、gは重力加速度、cは全流動層平均濃度、cは砂礫移動層(S)の平均濃度、cは堆積層濃度、uは境界(I)におけるx方向の流速、Pは境界(I)から自由表面(F)にわたって積分した水流層(W)に作用する圧力、Pは河床から境界(I)にわたって積分した砂礫移動層(S)に作用する圧力、Pは境界(I)における圧力、τは境界(I)に作用するせん断応力、τは河床面せん断応力、sは河床面を通した砂礫移動層(S)内への湧き出し量(侵食速度)、zは河床高、γ、γ′、β、βは流速と濃度、密度が分布の形状を示すことに起因する分布補正係数、σは砂礫密度、θは全流動層平均濃度に対応する平衡勾配、φは砂礫の内部摩擦角、k=0.25、k=0.0828、eは反発係数、dは粒径、τext(z=zb)は河床面での外力としてのせん断応力、τyk(z=zb)は河床面直上面における降伏応力である。
【0061】
なお、添え字の1、2は時間ステップの前と後を示し、添え字のw、s、tはそれぞれ水流層(W)、砂礫移動層(S)、全流動層(T)についての値であることを示す。
【0062】
以下に連続式を示す。
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

【0063】
以下に運動方程式を示す。
【数7】

【数8】

【数9】

【0064】
(システムの処理工程)
図10に示した本システムの処理シーケンスを参照しながら、各処理工程について説明する。
【0065】
(イ)入力工程
本システムでは、まず、入力部11は、外部から入力される地形データ20、流量データ21、物性値データ22、係数データ23、およびオルソフォトデータ24をシミュレーションデータベース16に保存する(S10)。
【0066】
(ロ)演算工程
次に、入力部11により起動された制御部12は、シミュレーションを行う期間の開始時間から終了時間まで、所定の単位時間Δtごとに、運動方程式演算部13と連続式演算部14を起動して(S11)、計算を繰り返させる(S14)。
【0067】
運動方程式演算部13は、シミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23を読み出し、数式(7)から数式(18)の運動方程式を解いて、制御部12により設定された時間における各予測地点の流量と流速を算出し、計算結果を第1算出データR1としてシミュレーションデータベース16に記録する(S12)。
【0068】
連続式演算部14は、シミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23と、運動方程式演算部13によってシミュレーションデータベース16に記録された第1算出データR1を読み出し、数式(1)から数式(6)の連続式を解いて、制御部12により設定された時間における各予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、河床侵食速度、側岸侵食速度を算出し、計算結果を第2算出データR2としてシミュレーションデータベース16に記録する(S13)。
【0069】
(ハ)出力工程
情報出力部15は、入力部11によってシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20と、運動方程式演算部13と連続式演算部14によってシミュレーションデータベース16に記録された各予測地点の第1算出データR1と第2算出データR2を読み出し、ユーザの指示する情報を画面に表示し、また外部に出力する(S15)。
【0070】
ユーザの指示する情報の種類には、以下のようなものがある。
【0071】
・任意の予測地点の第1算出データR1の流量を、時間経過に従って表した当該予測地点のハイドログラフ
・任意の予測地点の第2算出データR2の河床侵食速度を、時間経過に従って表した当該予測地点の河床侵食速度変化
・任意の予測地点の第2算出データR2の側岸侵食速度を、時間経過に従って表した当該予測地点の側岸侵食速度変化
・ある時間の全予測地点の第2算出データR2の川幅を、決壊前の地形データ20の川幅上にプロットした河道全体またはある区間の川幅の変化
・任意の予測地点の第2算出データR2の河床高を、時間経過に従って表した当該予測地点の河床変動
・ある時間の全予測地点の第2算出データR2の河床高を、決壊前の地形データ20の河床高上にプロットした河道全体またはある区間の河床変動
また、情報出力部15は、ある時間の全予測地点の第2算出データR2の水深と、決壊前の地形データ20の標高から洪水高を計算し、天然ダム下流全域の氾濫範囲を特定し、シミュレーションデータベース16に保存されたオルソフォトデータ24上に、氾濫範囲を重ねて表示する。
【0072】
さらに、情報出力部15は、時間ごとの氾濫範囲を、時間経過に従ってオルソフォトデータ24上に重ねて連続表示していくことで、動画として氾濫範囲の変化を表示する。
【0073】
次に、実施例1、実施例2および実施例3を例示しながら、演算工程について詳しく説明する。
【実施例1】
【0074】
本発明の実施例1は、図11に示すように、河道に沿って予測地点d1、予測地点d2、・・・、予測地点dnを設定して、各予測地点について演算し、洪水流量等を推定する例である。
【0075】
実施例1の入力工程で、入力部11は、河道に沿って例えば10メートル間隔ごとに予測地点を設定し、各予測地点に予測地点番号di(i=1、2、・・・、n)を割りあて、各予測地点の河道の横断面を図9に図示したように矩形断面に近似させ、外部から入力する地形データ20等を、図16に示した初期入力データテーブル30aの例のようにシミュレーションデータベース16に保存する。
【0076】
なお、図16は、外部から入力する地形データ20等から得られるデータの一覧をテーブル形式で表した図であり、データ構造を限定したものではない。データを実際にシミュレーションデータベース16に保存する際は、リレーショナルデータベース機能を利用して、地形データ20、流量データ21、物性値データ22、係数データ23等の種別ごとにグループ化したテーブルとして保存し、予測地点番号diをキーとして各データをリンク付けて、関連を持たせても構わない。
【0077】
つづいて、図12から図15に示した実施例1の演算工程のシーケンス図を参照しながら、実施例1の演算工程について詳しく説明する。
【0078】
まず、図12に示すように、実施例1の演算工程で、制御部12はシミュレーションを行う期間の開始時間Tの状態について、運動方程式演算部13を起動して計算を実行させる(S100)。
【0079】
起動された運動方程式演算部13は、図16に示した初期入力データテーブル30aの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23を読み出し(S101)、予測地点番号diに初期値「1」を設定する(S102)。
【0080】
次に、運動方程式演算部13は、各予測地点についての運動方程式の繰り返し演算処理に移行するが、シーケンス図では、予測地点番号diの予測地点を予測地点diと記す。
【0081】
運動方程式演算部13は、第1回目の繰り返し演算処理では、図16に示した初期入力データテーブル30aの予測地点d1の欄に該当する予測地点d1に関する値を数式(7)から数式(18)の運動方程式に代入して、予測地点d1の流量(水流層(W)の流動層厚hと砂礫移動層(S)の流動層厚h)と流速(水流層(W)の平均流速vと砂礫移動層(S)の平均流速v)を算出する(S103)。
【0082】
運動方程式演算部13は、予測地点d1について算出が終わると、予測地点番号diに1を加算し(S104)、予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなったか判定する(S105)。
【0083】
予測地点番号diが最後の予測地点番号dn以下の場合、運動方程式演算部13は、繰り返し演算処理に戻り、図16に示した初期入力データテーブル30aの予測地点diの欄に該当する予測地点diに関する値を数式(7)から数式(18)の運動方程式に代入して、予測地点diの流量(水流層(W)の流動層厚hと砂礫移動層(S)の流動層厚h)と流速(水流層(W)の平均流速vと砂礫移動層(S)の平均流速v)を算出する(S103)。
【0084】
運動方程式演算部13は、さらに予測地点番号diに1を加算し(S104)、予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなったか判定し(S105)、予測地点dnになるまで同様に繰り返し演算処理を実行する。
【0085】
予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなった場合、運動方程式演算部13は、全予測地点(d1、d2、・・・、dn)の流量と流速の計算結果を、図17に示した算出データテーブル31aの開始時間Tの予測データの第1算出データR1としてシミュレーションデータベース16に記録し(S106)、開始時間Tの状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S107)。
【0086】
次に、図13に示すように、制御部12はシミュレーションを行う期間の開始時間Tの状態について、連続式演算部14を起動して計算を実行させる(S200)。
【0087】
起動された連続式演算部14は、図16に示した初期入力データテーブル30aの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23と、運動方程式演算部13によってシミュレーションデータベース16に記録された図17に示した算出データテーブル31aの開始時間Tの予測データの第1算出データR1を読み出す(S201)。
【0088】
次に、連続式演算部14は、予測地点番号diに初期値「1」を設定し(S202)、各予測地点についての連続式の繰り返し演算処理に移行する。
【0089】
連続式演算部14は、第1回目の繰り返し演算処理では、図16に示した初期入力データテーブル30aと図17に示した算出データテーブル31aの開始時間Tの予測データの第1算出データR1の予測地点d1の欄に該当する予測地点d1に関する値を数式(1)から数式(6)の連続式に代入して、水深(全流動層(T)の流動層厚h)、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssを算出する(S203)。
【0090】
連続式演算部14は、予測地点d1について算出が終わると、予測地点番号diに1を加算し(S204)、予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなったか判定する(S205)。
【0091】
予測地点番号diが最後の予測地点番号dn以下の場合、連続式演算部14は、繰り返し演算処理に戻り、図16に示した初期入力データテーブル30aと図17に示した算出データテーブル31aの開始時間Tの予測データの第1算出データR1の予測地点diの欄に該当する予測地点diに関する値を数式(1)から数式(6)の連続式に代入して、水深(全流動層(T)の流動層厚h)、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssを算出する(S203)。
【0092】
連続式演算部14は、さらに予測地点番号diに1を加算し(S204)、予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなったか判定し(S205)、予測地点dnになるまで同様に繰り返し演算処理を実行する。
【0093】
予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなった場合、連続式演算部14は、全予測地点(d1、d2、・・・、dn)の水深、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssの計算結果を、図17に示した算出データテーブル31aの開始時間Tの予測データの第2算出データR2としてシミュレーションデータベース16に記録し(S206)、開始時間Tの状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S207)。
【0094】
開始時間Tの状態についての演算が全て終了すると、図14に示すように、制御部12は、前回指定した時間(今回は開始時間T)から所定の単位時間Δt後の状態について、再び連続式演算部14を起動して計算を実行させる(S300)。
【0095】
再び起動された運動方程式演算部13は、図16に示した初期入力データテーブル30aの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23と、図17に示した算出データテーブル31aの予測データを読み出し(S301)、予測地点番号diに初期値「1」を設定し(S302)、各予測地点についての運動方程式の繰り返し演算処理に移行する。
【0096】
運動方程式演算部13は、第1回目の繰り返し演算処理では、図16に示した初期入力データテーブル30aと図17に示した算出データテーブル31a内の1単位時間前の指定時間の予測データの予測地点d1の欄に該当する予測地点d1に関する値を数式(7)から数式(18)の運動方程式に代入して、予測地点d1の流量(水流層(W)の流動層厚hと砂礫移動層(S)の流動層厚h)と流速(水流層(W)の平均流速vと砂礫移動層(S)の平均流速v)を算出する(S303)。
【0097】
運動方程式演算部13は、予測地点d1について算出が終わると、予測地点番号diに1を加算し(S304)、予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなったか判定する(S305)。
【0098】
予測地点番号diが最後の予測地点番号dn以下の場合、運動方程式演算部13は、繰り返し演算処理に戻り、図16に示した初期入力データテーブル30aと図17に示した算出データテーブル31a内の1単位時間前の指定時間の予測データの予測地点diの欄に該当する予測地点diに関する値を数式(7)から数式(18)の運動方程式に代入して、予測地点diの流量(水流層(W)の流動層厚hと砂礫移動層(S)の流動層厚h)と流速(水流層(W)の平均流速vと砂礫移動層(S)の平均流速v)を算出する(S303)。
【0099】
運動方程式演算部13は、さらに予測地点番号diに1を加算し(S304)、予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなったか判定し(S305)、予測地点dnになるまで同様に繰り返し演算処理を実行する。
【0100】
予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなった場合、運動方程式演算部13は、全予測地点(d1、d2、・・・、dn)の流量と流速の計算結果を、図17に示した算出データテーブル31aの指定時間の予測データの第1算出データR1としてシミュレーションデータベース16に記録し(S306)、指定時間の状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S307)。
【0101】
次に、図15に示すように、制御部12は前回指定した時間から所定の単位時間Δt後の状態について、再び連続式演算部14を起動して計算を実行させる(S400)。
【0102】
起動された連続式演算部14は、図16に示した初期入力データテーブル30aの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23と、図17に示した算出データテーブル31aの予測データを読み出し(S401)、予測地点番号diに初期値「1」を設定し(S402)、各予測地点についての連続式の繰り返し演算処理に移行する。
【0103】
連続式演算部14は、第1回目の繰り返し演算処理では、図16に示した初期入力データテーブル30aと、図17に示した算出データテーブル31a内の1単位時間前の指定時間の予測データと今回の指定時間の予測データの第1算出データR1の予測地点d1の欄に該当する予測地点d1に関する値を数式(1)から数式(6)の連続式に代入して、水深(全流動層(T)の流動層厚h)、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssを算出する(S403)。
【0104】
連続式演算部14は、予測地点d1について算出が終わると、予測地点番号diに1を加算し(S404)、予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなったか判定する(S405)。
【0105】
予測地点番号diが最後の予測地点番号dn以下の場合、連続式演算部14は、繰り返し演算処理に戻り、図16に示した初期入力データテーブル30aと、図17に示した算出データテーブル31a内の1単位時間前の指定時間の予測データと今回の指定時間の予測データの第1算出データR1の予測地点diの欄に該当する予測地点diに関する値を数式(1)から数式(6)の連続式に代入して、水深(全流動層(T)の流動層厚h)、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssを算出する(S403)。
【0106】
連続式演算部14は、さらに予測地点番号diに1を加算し(S404)、予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなったか判定し(S405)、予測地点dnになるまで同様に繰り返し演算処理を実行する。
【0107】
予測地点番号diが最後の予測地点番号dnより大きくなった場合、連続式演算部14は、全予測地点(d1、d2、・・・、dn)の水深、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssの計算結果を、図17に示した算出データテーブル31aの指定時間の予測データの第2算出データR2としてシミュレーションデータベース16に記録し(S406)、指定時間の状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S407)。
【0108】
制御部12は、今回指定した時間に単位時間Δtを加算し、終了時間(T+Δt×n)を超えたかを判定し(S408)、終了時間(T+Δt×n)を超えるまで、運動方程式演算部13と連続式演算部14を起動して計算を実行させる処理を繰り返す。
【0109】
以上の演算工程により、全予測地点(d1、d2、・・・、dn)について、開始時間Tから終了時間(T+Δt×n)までの単位時間Δt毎の第1算出データR1と第2算出データR2が、図17に示した算出データテーブル31aの各指定時間の予測データとしてシミュレーションデータベース16に記録される。
【実施例2】
【0110】
本発明の実施例2は、図18に示すように、天然ダム下流全域をメッシュに区画化し、メッシュm1、メッシュm2、・・・、メッシュmnを予測地点として設定して、各メッシュについて演算し、洪水流量を推定する例である。
【0111】
実施例2の入力工程で、入力部11は、予測地点であるメッシュを、天然ダム下流全域を例えば縦横各1メートルに区画分けして設定し、各メッシュにメッシュ番号mi(i=1、2、・・・、n)を割りあて、運動方程式と連続式を適用できるように、各メッシュの横断面を図9に図示したように矩形断面に近似させ、外部から入力する地形データ20等を、図23に示した初期入力データテーブル30bの例のようにシミュレーションデータベース16に保存する。
【0112】
なお、図23は、外部から入力する地形データ20等から得られるデータの一覧をテーブル形式で表した図であり、データ構造を限定したものではない。データを実際にシミュレーションデータベース16に保存する際は、リレーショナルデータベース機能を利用して、地形データ20、流量データ21、物性値データ22、係数データ23等の種別ごとにグループ化したテーブルとして保存し、メッシュ番号miをキーとして各データをリンク付けて、関連を持たせても構わない。
【0113】
つづいて、図19から図22に示した実施例2の演算工程のシーケンス図を参照しながら、実施例2の演算工程について詳しく説明する。
【0114】
まず、図19に示すように、実施例2の演算工程で、制御部12はシミュレーションを行う期間の開始時間Tの状態について、運動方程式演算部13を起動して計算を実行させる(S500)。
【0115】
起動された運動方程式演算部13は、図23に示した初期入力データテーブル30bの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23を読み出し(S501)、メッシュ番号miに初期値「1」を設定する(S502)。
【0116】
次に、運動方程式演算部13は、各メッシュについての運動方程式の繰り返し演算処理に移行するが、シーケンス図では、メッシュ番号miのメッシュをメッシュmiと記す。
【0117】
運動方程式演算部13は、第1回目の繰り返し演算処理では、図23に示した初期入力データテーブル30bのメッシュm1の欄に該当するメッシュm1に関する値を数式(7)から数式(18)の運動方程式に代入して、メッシュm1の流量(水流層(W)の流動層厚hと砂礫移動層(S)の流動層厚h)と流速(水流層(W)の平均流速vと砂礫移動層(S)の平均流速v)を算出する(S503)。
【0118】
運動方程式演算部13は、メッシュm1について算出が終わると、メッシュ番号miに1を加算し(S504)、メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mnより大きくなったか判定する(S505)。
【0119】
メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mn以下の場合、運動方程式演算部13は、繰り返し演算処理に戻り、図23に示した初期入力データテーブル30bのメッシュmiの欄に該当するメッシュmiに関する値を数式(7)から数式(18)の運動方程式に代入して、メッシュmiの流量(水流層(W)の流動層厚hと砂礫移動層(S)の流動層厚h)と流速(水流層(W)の平均流速vと砂礫移動層(S)の平均流速v)を算出する(S503)。
【0120】
運動方程式演算部13は、さらにメッシュ番号miに1を加算し(S504)、メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mnより大きくなったか判定し(S505)、メッシュ番号mnになるまで同様に繰り返し演算処理を実行する。
【0121】
メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mnより大きくなった場合、運動方程式演算部13は、全メッシュ(m1、m2、・・・、mn)の流量と流速の計算結果を、図24に示した算出データテーブル31bの開始時間Tの予測データの第1算出データR1としてシミュレーションデータベース16に記録し(S506)、開始時間Tの状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S507)。
【0122】
次に、図20に示すように、制御部12はシミュレーションを行う期間の開始時間Tの状態について、連続式演算部14を起動して計算を実行させる(S600)。
【0123】
起動された連続式演算部14は、図23に示した初期入力データテーブル30bの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23と、運動方程式演算部13によってシミュレーションデータベース16に記録された図24に示した算出データテーブル31bの開始時間Tの予測データの第1算出データR1を読み出す(S601)。
【0124】
次に、連続式演算部14は、メッシュ番号miに初期値「1」を設定し(S602)、各メッシュについての連続式の繰り返し演算処理に移行する。
【0125】
連続式演算部14は、第1回目の繰り返し演算処理では、図23に示した初期入力データテーブル30bと図24に示した算出データテーブル31bの開始時間Tの予測データの第1算出データR1のメッシュm1の欄に該当するメッシュm1に関する値を数式(1)から数式(6)の連続式に代入して、水深(全流動層(T)の流動層厚h)、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssを算出する(S603)。
【0126】
連続式演算部14は、メッシュm1について算出が終わると、メッシュ番号miに1を加算し(S604)、メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mnより大きくなったか判定する(S605)。
【0127】
メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mn以下の場合、連続式演算部14は、繰り返し演算処理に戻り、図23に示した初期入力データテーブル30bと図24に示した算出データテーブル31bの開始時間Tの予測データの第1算出データR1のメッシュmiの欄に該当するメッシュmiに関する値を数式(1)から数式(6)の連続式に代入して、水深(全流動層(T)の流動層厚h)、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssを算出する(S603)。
【0128】
連続式演算部14は、さらにメッシュ番号miに1を加算し(S604)、メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mnより大きくなったか判定し(S605)、メッシュ番号mnになるまで同様に繰り返し演算処理を実行する。
【0129】
メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mnより大きくなった場合、連続式演算部14は、全メッシュ(m1、m2、・・・、mn)の水深、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssの計算結果を、図24に示した算出データテーブル31bの開始時間Tの予測データの第2算出データR2としてシミュレーションデータベース16に記録し(S606)、開始時間Tの状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S607)。
【0130】
開始時間Tの状態についての演算が全て終了すると、図21に示すように、制御部12は、前回指定した時間(今回は開始時間T)から所定の単位時間Δt後の状態について、再び連続式演算部14を起動して計算を実行させる(S700)。
【0131】
再び起動された運動方程式演算部13は、図23に示した初期入力データテーブル30bの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23と、図24に示した算出データテーブル31bの予測データを読み出し(S701)、メッシュ番号miに初期値「1」を設定し(S702)、各メッシュについての運動方程式の繰り返し演算処理に移行する。
【0132】
運動方程式演算部13は、第1回目の繰り返し演算処理では、図23に示した初期入力データテーブル30bと図24に示した算出データテーブル31b内の1単位時間前の指定時間の予測データのメッシュm1の欄に該当するメッシュm1に関する値を数式(7)から数式(18)の運動方程式に代入して、メッシュm1の流量(水流層(W)の流動層厚hと砂礫移動層(S)の流動層厚h)と流速(水流層(W)の平均流速vと砂礫移動層(S)の平均流速v)を算出する(S703)。
【0133】
運動方程式演算部13は、メッシュm1について算出が終わると、メッシュ番号miに1を加算し(S704)、メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mnより大きくなったか判定する(S705)。
【0134】
メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mn以下の場合、運動方程式演算部13は、繰り返し演算処理に戻り、図23に示した初期入力データテーブル30bと図24に示した算出データテーブル31b内の1単位時間前の指定時間の予測データのメッシュmiの欄に該当するメッシュmiに関する値を数式(7)から数式(18)の運動方程式に代入して、メッシュmiの流量(水流層(W)の流動層厚hと砂礫移動層(S)の流動層厚h)と流速(水流層(W)の平均流速vと砂礫移動層(S)の平均流速v)を算出する(S703)。
【0135】
運動方程式演算部13は、さらにメッシュ番号miに1を加算し(S704)、メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mnより大きくなったか判定し(S705)、メッシュ番号mnになるまで同様に繰り返し演算処理を実行する。
【0136】
メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mnより大きくなった場合、運動方程式演算部13は、全メッシュ(m1、m2、・・・、mn)の流量と流速の計算結果を、図24に示した算出データテーブル31bの今回の指定時間の予測データの第1算出データR1としてシミュレーションデータベース16に記録し(S706)、今回の指定時間の状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S707)。
【0137】
次に、図22に示すように、制御部12は前回指定した時間から所定の単位時間Δt後の状態について、再び連続式演算部14を起動して計算を実行させる(S800)。
【0138】
起動された連続式演算部14は、図23に示した初期入力データテーブル30bの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23と、図24に示した算出データテーブル31bの予測データを読み出し(S801)、メッシュ番号miに初期値「1」を設定し(S802)、各メッシュについての連続式の繰り返し演算処理に移行する。
【0139】
連続式演算部14は、第1回目の繰り返し演算処理では、図23に示した初期入力データテーブル30bと、図24に示した算出データテーブル31b内の1単位時間前の指定時間の予測データと今回の指定時間の予測データの第1算出データR1のメッシュm1の欄に該当するメッシュm1に関する値を数式(1)から数式(6)の連続式に代入して、水深(全流動層(T)の流動層厚h)、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssを算出する(S803)。
【0140】
連続式演算部14は、メッシュm1について算出が終わると、メッシュ番号miに1を加算し(S804)、メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mnより大きくなったか判定し(S805)、メッシュ番号mnになるまで同様に繰り返し演算処理を実行する。
【0141】
メッシュ番号miが最後のメッシュ番号mnより大きくなった場合、連続式演算部14は、全メッシュ(m1、m2、・・・、mn)の水深、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssの計算結果を、図24に示した算出データテーブル31bの今回の指定時間の予測データの第2算出データR2としてシミュレーションデータベース16に記録し(S806)、今回の指定時間の状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S807)。
【0142】
制御部12は、今回指定した時間に単位時間Δtを加算し、終了時間(T+Δt×n)を超えたかを判定し(S808)、終了時間(T+Δt×n)を超えるまで、運動方程式演算部13と連続式演算部14を起動して計算を実行させる処理を繰り返す。
【0143】
以上の演算工程により、全メッシュ(m1、m2、・・・、mn)について、開始時間Tから終了時間(T+Δt×n)までの単位時間Δt毎の第1算出データR1と第2算出データR2が、図24に示した算出データテーブル31bの各指定時間の予測データとしてシミュレーションデータベース16に記録される。
【0144】
なお、実施例1では、河道に沿って予測地点を設定しているので、予測地点は線状に一次元配列されている。したがって上流側の予測地点から時系列に順番に洪水が到達する。
【0145】
一方、実施例2では、天然ダム下流全域をメッシュに区画化して予測地点を設定しているので、予測地点は面状に二次元配列されている。したがって河道上のメッシュについては、上流から下流へと時系列に順番に洪水が到達するが、河道周囲のメッシュについては、河道上のメッシュに洪水が到達してから、河道上の当該メッシュの左右および下方のメッシュへと洪水が伝播することになる。
【0146】
そこで、実施例2ではメッシュm1からメッシュmnまで順番に演算処理を実行していたのに対し、次に説明する実施例3では、まず河道上のメッシュについて演算処理を開始する。河道上のメッシュであるか否かは、地形データ20からユーザがあらかじめ指定しておく。
【実施例3】
【0147】
本発明の実施例3は、実施例2と同様に、図18に示すように、天然ダム下流全域をメッシュに区画化し、メッシュm1、メッシュm2、・・・、メッシュmnを予測地点として設定して、各メッシュについて演算し、洪水流量を推定する例である。
【0148】
実施例3の入力工程で、入力部11は、予測地点であるメッシュを、天然ダム下流全域を例えば縦横各1メートルに区画分けして設定し、各メッシュにメッシュ番号mi(i=1、2、・・・、n)を割りあて、運動方程式と連続式を適用できるように、各メッシュの横断面を図9に図示したように矩形断面に近似させ、外部から入力する地形データ20等を、図30に示した初期入力データテーブル30cの例のようにシミュレーションデータベース16に保存する。この際、河道上のメッシュである場合、初期入力データテーブル30cの対象フラグ欄にフラグ(F)を設定する。
【0149】
なお、図30は、外部から入力する地形データ20等から得られるデータの一覧をテーブル形式で表した図であり、データ構造を限定したものではない。データを実際にシミュレーションデータベース16に保存する際は、リレーショナルデータベース機能を利用して、地形データ20、流量データ21、物性値データ22、係数データ23等の種別ごとにグループ化したテーブルとして保存し、メッシュ番号miをキーとして各データをリンク付けて、関連を持たせても構わない。
【0150】
つづいて、図25から図29に示した実施例3の演算工程のシーケンス図を参照しながら、実施例3の演算工程について詳しく説明する。
【0151】
まず、図25に示すように、実施例3の演算工程で、制御部12はシミュレーションを行う期間の開始時間Tの状態について、運動方程式演算部13を起動して計算を実行させる(S550)。
【0152】
起動された運動方程式演算部13は、図30に示した初期入力データテーブル30cの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23を読み出し(S551)、初期入力データテーブル30c中の対象フラグ欄にフラグが設定された最初のメッシュ番号mi(河道上の最初のメッシュの番号)を検索する(S552)。
【0153】
次に、運動方程式演算部13は、各メッシュについての運動方程式の繰り返し演算処理に移行するが、シーケンス図では、メッシュ番号miのメッシュをメッシュmiと記す。
【0154】
運動方程式演算部13は、図30に示した初期入力データテーブル30cのメッシュmiの欄に該当するメッシュmiに関する値を数式(7)から数式(18)の運動方程式に代入して、メッシュmiの流量(水流層(W)の流動層厚hと砂礫移動層(S)の流動層厚h)と流速(水流層(W)の平均流速vと砂礫移動層(S)の平均流速v)を算出する(S553)。
【0155】
運動方程式演算部13は、メッシュmiについて算出が終わると、初期入力データテーブル30c中の対象フラグ欄にフラグが設定された次のメッシュを検索し(S554)、河道上のメッシュが他にないか判定し(S555)、河道上のメッシュがある場合、当該メッシュmiについて繰り返し演算処理に戻る。
【0156】
河道上のメッシュが終了した場合、運動方程式演算部13は、演算を行った河道上の全メッシュmiの流量と流速の計算結果を、図31に示した算出データテーブル31cの開始時間Tの予測データの第1算出データR1としてシミュレーションデータベース16に記録し(S556)、開始時間Tの状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S557)。
【0157】
次に、図26に示すように、制御部12はシミュレーションを行う期間の開始時間Tの状態について、連続式演算部14を起動して計算を実行させる(S650)。
【0158】
起動された連続式演算部14は、図30に示した初期入力データテーブル30cの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23と、図31に示した算出データテーブル31cの開始時間Tの予測データの第1算出データR1を読み出す(S651)。
【0159】
次に、連続式演算部14は、初期入力データテーブル30c中の対象フラグ欄にフラグが設定された最初のメッシュ番号mi(河道上の最初のメッシュの番号)を検索し(S652)、各メッシュについての連続式の繰り返し演算処理に移行する。
【0160】
連続式演算部14は、図30に示した初期入力データテーブル30cと図31に示した算出データテーブル31cの開始時間Tの予測データの第1算出データR1のメッシュmiの欄に該当するメッシュmiに関する値を数式(1)から数式(6)の連続式に代入して、水深(全流動層(T)の流動層厚h)、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssを算出する(S653)。
【0161】
連続式演算部14は、メッシュmiについて算出が終わると、初期入力データテーブル30c中の対象フラグ欄にフラグが設定された次のメッシュを検索し(S654)、河道上のメッシュが他にないか判定し(S655)、河道上のメッシュがある場合、当該メッシュmiについて繰り返し演算処理に戻る。
【0162】
河道上のメッシュが終了した場合、連続式演算部14は、演算を行った河道上の全メッシュmiの水深、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssの計算結果を、図31に示した算出データテーブル31cの開始時間Tの予測データの第2算出データR2としてシミュレーションデータベース16に記録し(S656)、開始時間Tの状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S657)。
【0163】
開始時間Tの状態についての演算が全て終了すると、図27に示すように、制御部12は、前回指定した時間(今回は開始時間T)から所定の単位時間Δt後の状態について、再び連続式演算部14を起動して計算を実行させる(S750)。
【0164】
再び起動された運動方程式演算部13は、図30に示した初期入力データテーブル30cの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23と、図31に示した算出データテーブル31cの予測データを読み出し(S751)、1単位時間前の指定時間の予測データの対象フラグ欄にフラグが設定された前回算出対象だった最初のメッシュmiを検索する(S752)。
【0165】
運動方程式演算部13は、検索したメッシュmiに関して、算出データテーブル31cの1単位時間前の指定時間の予測データから水深(全流動層(T)の流動層厚h)、初期入力データテーブルから側岸の比高Hを読み出し(S753)、メッシュmiの水深と側岸の比高Hを比較する(S754)。
【0166】
メッシュmiの水深が側岸の比高Hより大きい場合、運動方程式演算部13は、図31に示した算出データテーブル31c内の今回の指定時間の予測データに設けられたメッシュmiの左右のメッシュ(例えば、メッシュ番号mi−1とメッシュ番号mi+1)の対象フラグ欄にフラグを設定する(S755)。
【0167】
さらに、運動方程式演算部13は、図31に示した算出データテーブル31cの1単位時間前の指定時間の予測データの対象フラグ欄にフラグが設定された前回算出対象だった次のメッシュmiを検索し(S756)、前回算出対象だったメッシュmiが終了したかを判定する(S757)。
【0168】
まだ前回算出対象だったメッシュmiが存在する場合、運動方程式演算部13は、メッシュmiの水深と側岸の比高Hの比較処理に戻る。
【0169】
前回算出対象だったメッシュmiが終了すると、図28に示すように、運動方程式演算部13は、今回の指定時間の予測データに設けられた対象フラグ欄を検索し、フラグが設定された最初のメッシュmiを検出する(S758)。
【0170】
運動方程式演算部13は、図30に示した初期入力データテーブル30cと図31に示した算出データテーブル31c内の1単位時間前の指定時間の予測データのメッシュmiの欄に該当するメッシュmiに関する値を数式(7)から数式(18)の運動方程式に代入して、メッシュmiの流量(水流層(W)の流動層厚hと砂礫移動層(S)の流動層厚h)と流速(水流層(W)の平均流速vと砂礫移動層(S)の平均流速v)を算出する(S759)。
【0171】
運動方程式演算部13は、さらに今回の指定時間の予測データに設けられた対象フラグ欄にフラグが設定された次の算出対象のメッシュmiを検索し(S760)、算出対象のメッシュmiがないか判定し(S761)、算出対象のメッシュmiが検出された場合、繰り返し演算処理に戻る。
【0172】
算出対象のメッシュmiがなくなった場合、運動方程式演算部13は、算出対象の全メッシュmiの流量と流速の計算結果を、図31に示した算出データテーブル31cの今回の指定時間の予測データの第1算出データR1としてシミュレーションデータベース16に記録し(S762)、今回の指定時間の状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S763)。
【0173】
次に、図29に示すように、制御部12は前回指定した時間から所定の単位時間Δt後の状態について、再び連続式演算部14を起動して計算を実行させる(S850)。
【0174】
起動された連続式演算部14は、図30に示した初期入力データテーブル30cの要素であるシミュレーションデータベース16に保存された地形データ20、流量データ21、物性値データ22、および係数データ23と、図31に示した算出データテーブル31cの予測データを読み出す(S851)。
【0175】
連続式演算部14は、今回の指定時間の予測データに設けられた対象フラグ欄を検索し、フラグが設定された最初のメッシュmiを検出する(S852)。
【0176】
連続式演算部14は、図30に示した初期入力データテーブル30cと、図31に示した算出データテーブル31c内の1単位時間前の指定時間と今回の指定時間の予測データの第1算出データR1の予測データのメッシュmiの欄に該当するメッシュmiに関する値を数式(1)から数式(6)の連続式に代入して、水深(全流動層(T)の流動層厚h)、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssを算出する(S853)。
【0177】
連続式演算部14は、さらに今回の指定時間の予測データに設けられた対象フラグ欄にフラグが設定された次の算出対象のメッシュmiを検索し(S854)、算出対象のメッシュmiがないか判定し(S855)、算出対象のメッシュmiが検出された場合、繰り返し演算処理に戻る。
【0178】
算出対象のメッシュmiがなくなった場合、算出対象の全メッシュmiの水深、河床高z、川幅B、河床侵食速度s、側岸侵食(拡幅)速度ssの計算結果を、図31に示した算出データテーブル31cの今回の指定時間の予測データの第2算出データR2としてシミュレーションデータベース16に記録し(S856)、今回の指定時間の状態について演算を終了した旨を制御部12に通知する(S857)。
【0179】
制御部12は、今回指定した時間に単位時間Δtを加算し、終了時間(T+Δt×n)を超えたかを判定し(S858)、終了時間(T+Δt×n)を超えるまで、運動方程式演算部13と連続式演算部14を起動して計算を実行させる処理を繰り返す。
【0180】
以上の演算工程により、開始時間Tから終了時間(T+Δt×n)までの単位時間Δt毎の算出対象の全メッシュmiについて、第1算出データR1と第2算出データR2が、図31に示した算出データテーブル31cの各指定時間の予測データとしてシミュレーションデータベース16に記録される。
【0181】
なお、図31には、算出データテーブル31cの対象フラグ部分の変化のみを図示しているが、算出データテーブル31cの他の要素は、図24に示した算出データテーブル31bと同様である。
【0182】
図30と図31では、河道上のメッシュはメッシュm3とメッシュm50とし、図30に示した初期入力データテーブルでは、メッシュm3とメッシュm50の対象フラグ欄にフラグ(F)が設定されている。
【0183】
図31に示した算出データテーブル31cでは、開始時間Tの予測データを記録する際に、初期入力データテーブル30cの対象フラグ欄のデータをそのまま複写し、メッシュm3とメッシュm50の対象フラグ欄にフラグ(F)が設定されている。
【0184】
運動方程式演算部13は、時間(T+Δt)の予測データを演算する前に、開始時間Tの予測データに記録された水深と初期入力データテーブル30cに記録された側岸の比高を比較する。
【0185】
運動方程式演算部13は、図31では、メッシュm3の水深が側岸の比高より大きくなり、左右のメッシュに浸水が予測されるため、左右のメッシュ(メッシュm2とメッシュm4)を算出対象メッシュとして、時間(T+Δt)の予測データの対象フラグ欄にフラグを設定している。
【0186】
一方、メッシュm50では水深が側岸の比高より小さいので、左右のメッシュに影響がなく、算出対象メッシュとしていない。
【0187】
このように、時系列で予測データを演算する前に、前回算出した予測データに記録された水深と初期入力データテーブル30cに記録された側岸の比高を比較し、左右のメッシュに浸水が予測される場合、算出対象メッシュとして、予め今回の予測データの対象フラグ欄にフラグを設定する。
【0188】
図31に示した時間(T+Δt×n)の予測データでは、メッシュm2とメッシュm50でも水深が側岸の比高より大きくなり、左右のメッシュに浸水が予測されるため、対象フラグ欄にフラグを設定されている。ここで、既にフラグが設定されている対象フラグ欄は、新たにフラグで上書きしても構わない。
【0189】
実施例3では、常に全メッシュについて演算処理を行う実施例2と異なり、河道上のメッシュ以外は、影響が発生する時間から演算対象とすることにより、演算処理の効率を上げることができる。
【0190】
最後に、実施例2と実施例3の出力工程での情報出力部15による表示例を図32の(a)から(d)を参照して説明する。
【0191】
図32の(a)では、天然ダム直下で洪水が発生し、まず天然ダム直下のメッシュが色付けされて表示される。続いて、(b)、(c)、(d)と時系列的に、洪水が到達する氾濫範囲が拡大し、該当するメッシュが色付けされて表示される。
【0192】
さらに、メッシュを色付ける際に水深により色分けすることも可能であり、本発明では、洪水が到達する氾濫範囲の変化を視覚的に把握することができる。
【0193】
図32の(d)に示したように、表示された地図上の任意の位置にカーソルを合わせると、その地点への洪水の予測到達時間や予測水深等の詳細情報を表示し、さらにクリックすると、その地点のハイドログラフを表示する。
【0194】
また、入力データであるオルソフォトデータ24を背景に表示させることで、家屋や施設などの建築物の位置がわかるので、各建築物にカーソルを合わせて、各建築物に被害が及ぶまでの時間を把握し、避難対策を講じることもできる。
【符号の説明】
【0195】
10 洪水流量推定システム
11 入力部
12 制御部
13 運動方程式演算部
14 連続式演算部
15 情報出力部
16 シミュレーションデータベース
20 地形データ
21 流量データ
22 物性値データ
23 係数データ
24 オルソフォトデータ
30a、30b、30c 初期入力データテーブル
31a、31b、31c 算出データテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ダムの越流決壊による下流域の洪水流量の増減を、地理的および時系列的に数値シミュレーションする洪水流量推定システムであって、
シミュレーションデータベースと、
前記シミュレーションデータベースに接続された入力部と、
前記入力部に接続された制御部と、
前記制御部および前記シミュレーションデータベースに接続された運動方程式演算部と、
前記制御部および前記シミュレーションデータベースに接続された連続式演算部と、
前記シミュレーションデータベースに接続された情報出力部
とを含み、
前記入力部は、前記下流域の河道上に単位距離ごとに予測地点を設定し、外部から入力される地形データ、流量データ、物性値データ、係数データを、前記予測地点とリンク付けた初期入力データテーブルとして前記シミュレーションデータベースに保存し、
前記制御部は、シミュレーション開始時間から終了時間まで、単位時間Δt間隔の指定時間tに前記運動方程式演算部と前記連続式演算部を交互に繰り返し起動し、
前記運動方程式演算部は、
前記指定時間tが前記開始時間のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルの値を運動方程式に代入して、前記指定時間tの前記予測地点の流量と流速を算出し、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして、前記シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録し、
前記指定時間tが前記開始時間以降のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データの値を前記運動方程式に代入して、前記指定時間tの前記予測地点の流量と流速を算出し、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録し、
前記連続式演算部は、
前記指定時間tが前記開始時間のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を連続式に代入して、前記指定時間tの前記予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録し、
前記指定時間tが前記開始時間以降のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと前記1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を前記連続式に代入して、前記指定時間tの前記予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録し、
前記情報出力部は、前記初期入力データテーブルと前記算出データテーブルのデータにより、前記予測地点のハイドログラフ、河床侵食速度の変化、側岸侵食速度の変化、川幅の変化、前記天然ダムおよび前記河道の河床変動、前記下流域の氾濫範囲の変化を画面に表示する
ことを特徴とする洪水流量推定システム。
【請求項2】
前記入力部は、外部から入力されるオルソフォトデータを前記シミュレーションデータベースに保存し、
前記情報出力部は、前記オルソフォトデータを前記下流域の氾濫範囲の変化に重ねて表示する
ことを特徴とする請求項1に記載の洪水流量推定システム。
【請求項3】
天然ダムの越流決壊による下流域の洪水流量の増減を、地理的および時系列的に数値シミュレーションする洪水流量推定システムであって、
シミュレーションデータベースと、
前記シミュレーションデータベースに接続された入力部と、
前記入力部に接続された制御部と、
前記制御部および前記シミュレーションデータベースに接続された運動方程式演算部と、
前記制御部および前記シミュレーションデータベースに接続された連続式演算部と、
前記シミュレーションデータベースに接続された情報出力部
とを含み、
前記入力部は、前記下流域を単位区画のメッシュに分割し、前記メッシュを予測地点として設定し、外部から入力される地形データ、流量データ、物性値データ、係数データを、前記予測地点とリンク付けた初期入力データテーブルとして前記シミュレーションデータベースに保存し、
前記制御部は、シミュレーション開始時間から終了時間まで、単位時間Δt間隔の指定時間tに前記運動方程式演算部と前記連続式演算部を交互に繰り返し起動し、
前記運動方程式演算部は、
前記指定時間tが前記開始時間のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルの値を運動方程式に代入して、前記指定時間tの前記予測地点の流量と流速を算出し、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして、前記シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録し、
前記指定時間tが前記開始時間以降のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データの値を前記運動方程式に代入して、前記指定時間tの前記予測地点の流量と流速を算出し、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録し、
前記連続式演算部は、
前記指定時間tが前記開始時間のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を連続式に代入して、前記指定時間tの前記予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録し、
前記指定時間tが前記開始時間以降のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと前記1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を前記連続式に代入して、前記指定時間tの前記予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録し、
前記情報出力部は、前記初期入力データテーブルと前記算出データテーブルのデータにより、前記予測地点のハイドログラフ、河床侵食速度の変化、側岸侵食速度の変化、川幅の変化、前記天然ダムおよび前記河道の河床変動、前記下流域の氾濫範囲の変化を画面に表示する
ことを特徴とする洪水流量推定システム。
【請求項4】
前記入力部は、外部から入力されるオルソフォトデータを前記シミュレーションデータベースに保存し、
前記情報出力部は、前記オルソフォトデータを前記下流域の氾濫範囲の変化に重ねて表示する
ことを特徴とする請求項3に記載の洪水流量推定システム。
【請求項5】
天然ダムの越流決壊による下流域の洪水流量の増減を、地理的および時系列的に数値シミュレーションする洪水流量推定システムであって、
シミュレーションデータベースと、
前記シミュレーションデータベースに接続された入力部と、
前記入力部に接続された制御部と、
前記制御部および前記シミュレーションデータベースに接続された運動方程式演算部と、
前記制御部および前記シミュレーションデータベースに接続された連続式演算部と、
前記シミュレーションデータベースに接続された情報出力部
とを含み、
前記入力部は、
前記下流域を単位区画のメッシュに分割し、前記メッシュを予測地点として設定し、外部から入力される地形データ、流量データ、物性値データ、係数データを、前記予測地点とリンク付けた初期入力データテーブルとして前記シミュレーションデータベースに保存し、
前記予測地点が前記下流域の河道上に存在する場合、前記初期入力データテーブルの当該予測地点のデータに対象フラグを設定して、
前記制御部は、
シミュレーション開始時間から終了時間まで、単位時間Δt間隔の指定時間tに前記運動方程式演算部と前記連続式演算部を交互に繰り返し起動し、
前記運動方程式演算部は、
前記指定時間tが前記開始時間のときは、前記初期入力データテーブルから前記対象フラグが設定された前記予測地点を検出し、当該予測地点の前記初期入力データテーブルの値を運動方程式に代入して、前記指定時間tの当該予測地点の流量と流速を算出し、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして、前記シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録し、
前記指定時間が前記開始時間以降のときは、1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データから前記対象フラグが設定された前記予測地点を検出し、当該予測地点の水深が側岸の比高より大きい場合、前記指定時間tの予測データの当該予測地点の左右の予測地点に前記対象フラグを設定し、
前記指定時間tの予測データから前記対象フラグが設定された前記予測地点を検出し、当該予測地点の前記初期入力データテーブルと前記1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データの値を前記運動方程式に代入して、前記指定時間tの当該予測地点の流量と流速を算出し、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録し、
前記連続式演算部は、
前記指定時間tが前記開始時間のときは、前記初期入力データテーブルから前記対象フラグが設定された前記予測地点を検出し、当該予測地点の前記初期入力データテーブルと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を連続式に代入して、前記指定時間tの前記予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録し、
前記指定時間tが前記開始時間以降のときは、前記指定時間tの予測データから前記対象フラグが設定された前記予測地点を検出し、当該予測地点の前記初期入力データテーブルと前記1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を前記連続式に代入して、前記指定時間tの前記予測地点の水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録し、
前記情報出力部は、前記初期入力データテーブルと前記算出データテーブルのデータにより、前記予測地点のハイドログラフ、河床侵食速度の変化、側岸侵食速度の変化、川幅の変化、前記天然ダムおよび前記河道の河床変動、前記下流域の氾濫範囲の変化を画面に表示する
ことを特徴とする洪水流量推定システム。
【請求項6】
前記入力部は、外部から入力されるオルソフォトデータを前記シミュレーションデータベースに保存し、
前記情報出力部は、前記オルソフォトデータを前記下流域の氾濫範囲の変化に重ねて表示する
ことを特徴とする請求項5に記載の洪水流量推定システム。
【請求項7】
前記連続式は、数式(1)から数式(6)であり、前記運動方程式は、数式(7)から数式(18)である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の洪水流量推定システム。
数式中、添え字の1、2は時間ステップの前と後を、添え字のw、s、tはそれぞれ二層流モデルの水流層、砂礫移動層、全流動層を示し、ρは平均密度、θは河床勾配、Bは川幅、hは流動層厚、Hは側岸の比高、vは平均流速、gは重力加速度、cは全流動層平均濃度、cは砂礫移動層の平均濃度、cは堆積層濃度、uは境界におけるx方向の流速、Pは境界から自由表面にわたって積分した水流層に作用する圧力、Pは河床から境界にわたって積分した砂礫移動層に作用する圧力、Pは境界における圧力、τは境界に作用するせん断応力、τは河床面せん断応力、sは河床面を通した砂礫移動層内への湧き出し量、zは河床高、γ、γ′、β、βは流速と濃度、密度が分布の形状を示すことに起因する分布補正係数、σは砂礫密度、θは全流動層平均濃度に対応する平衡勾配、φは砂礫の内部摩擦角、k=0.25、k=0.0828、eは反発係数、dは粒径、τext(z=zb)は河床面での外力としてのせん断応力、τyk(z=zb)は河床面直上面における降伏応力を示す
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

【数7】

【数8】

【数9】

【請求項8】
天然ダムの越流決壊による下流域の洪水流量の増減を、地理的および時系列的に数値シミュレーションする洪水流量推定方法であって、
前記下流域の河道上に単位距離ごとに予測地点を設定し、外部から入力される地形データ、流量データ、物性値データ、係数データを、前記予測地点とリンク付けた初期入力データテーブルとしてシミュレーションデータベースに保存するステップと、
シミュレーション開始時間から終了時間まで、単位時間Δt間隔の指定時間tごとに、運動方程式と連続式の演算を繰り返し実行させるステップと、
前記指定時間tが前記開始時間のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルの値を前記運動方程式に代入して、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして流量と流速を算出し、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を前記連続式に代入して、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録するステップと、
前記指定時間tが前記開始時間以降のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データの値を前記運動方程式に代入して、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして流量と流速を算出し、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと前記1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を前記連続式に代入して、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録するステップと、
前記初期入力データテーブルと前記算出データテーブルのデータにより、前記予測地点のハイドログラフ、河床侵食速度の変化、側岸侵食速度の変化、川幅の変化、前記天然ダムおよび前記河道の河床変動、前記下流域の氾濫範囲の変化を画面に表示するステップ
とを含むことを特徴とする洪水流量推定方法。
【請求項9】
天然ダムの越流決壊による下流域の洪水流量の増減を、地理的および時系列的に数値シミュレーションする洪水流量推定方法であって、
前記下流域を単位区画のメッシュに分割し、前記メッシュを予測地点として設定し、外部から入力される地形データ、流量データ、物性値データ、係数データを、前記予測地点とリンク付けた初期入力データテーブルとしてシミュレーションデータベースに保存するステップと、
シミュレーション開始時間から終了時間まで、単位時間Δt間隔の指定時間tごとに、運動方程式と連続式の演算を繰り返し実行させるステップと、
前記指定時間tが前記開始時間のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルの値を前記運動方程式に代入して、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして流量と流速を算出し、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を前記連続式に代入して、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録するステップと、
前記指定時間tが前記開始時間以降のときは、全ての前記予測地点について、順次、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データの値を前記運動方程式に代入して、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして流量と流速を算出し、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと前記1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を前記連続式に代入して、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録するステップと、
前記初期入力データテーブルと前記算出データテーブルのデータにより、前記予測地点のハイドログラフ、河床侵食速度の変化、側岸侵食速度の変化、川幅の変化、前記天然ダムおよび前記河道の河床変動、前記下流域の氾濫範囲の変化を画面に表示するステップ
とを含むことを特徴とする洪水流量推定方法。
【請求項10】
天然ダムの越流決壊による下流域の洪水流量の増減を、地理的および時系列的に数値シミュレーションする洪水流量推定方法であって、
前記下流域を単位区画のメッシュに分割し、前記メッシュを予測地点として設定し、外部から入力される地形データ、流量データ、物性値データ、係数データを、前記予測地点とリンク付けた初期入力データテーブルとしてシミュレーションデータベースに保存するステップと、
前記予測地点が前記下流域の河道上に存在する場合、前記初期入力データテーブルの当該予測地点のデータに対象フラグを設定するステップと、
シミュレーション開始時間から終了時間まで、単位時間Δt間隔の指定時間tごとに、運動方程式と連続式の演算を繰り返し実行させるステップと、
前記指定時間tが前記開始時間のときは、前記初期入力データテーブルから前記対象フラグが設定された前記予測地点を検出し、当該予測地点の前記初期入力データテーブルの値を前記運動方程式に代入して、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして流量と流速を算出し、当該予測地点の前記初期入力データテーブルと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を前記連続式に代入して、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記シミュレーションデータベースの算出データテーブルに記録するステップと、
前記指定時間tが前記開始時間以降のときは、1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データから前記対象フラグが設定された前記予測地点を検出し、当該予測地点の水深が側岸の比高より大きい場合、前記指定時間tの予測データの当該予測地点の左右の予測地点に前記対象フラグを設定するステップと、
前記指定時間tが前記開始時間以降のときは、前記指定時間tの予測データから前記対象フラグが設定された前記予測地点を検出し、当該予測地点の前記初期入力データテーブルと1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データの値を前記運動方程式に代入して、前記指定時間tの予測データの第1算出データとして流量と流速を算出し、前記予測地点の前記初期入力データテーブルと前記1単位時間前の指定時間(t−Δt)の予測データと前記指定時間tの予測データの第1算出データの値を前記連続式に代入して、前記指定時間tの予測データの第2算出データとして水深、濃度、河床高、川幅、侵食速度を算出し、前記シミュレーションデータベースの前記算出データテーブルに記録するステップと、
前記初期入力データテーブルと前記算出データテーブルのデータにより、前記予測地点のハイドログラフ、河床侵食速度の変化、側岸侵食速度の変化、川幅の変化、前記天然ダムおよび前記河道の河床変動、前記下流域の氾濫範囲の変化を画面に表示するステップ
とを含むことを特徴とする洪水流量推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2012−17628(P2012−17628A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157008(P2010−157008)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(591074161)アジア航測株式会社 (48)