説明

活性エネルギー線硬化性組成物、積層フィルム状物及び積層成形品

【課題】高い表面硬度と耐擦傷性を有すると共に延伸性に富む硬化皮膜を得ることができる活性エネルギー線硬化性組成物、その硬化皮膜がフィルム状物の表面に積層された積層フィルム状物、成形品の表面にその積層フィルム状物がフィルム状物の面と成形品の面が接するように積層された積層成形品及び成形品の表面にその硬化皮膜が積層された積層成形品を提供する。
【解決手段】特定のポリウレタン化合物(A)、光重合開始剤(B)及び無機粒子(C)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物、その硬化皮膜が積層された積層フィルム状物、成形品の少なくとも1表面に積層フィルム状物がフィルム状物の面と成形品の面が接するように積層された積層成形品及び成形品の表面に活性エネルギー線硬化性組成物の硬化皮膜が積層された積層成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性エネルギー線硬化性組成物、積層フィルム状物及び積層成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話やパーソナルコンピュータ等の筐体は、顔料等を練りこんだ熱可塑性樹脂を用いて成型又は成型後スプレー等で塗装することにより、加飾されてきた。しかしながら、これら既存の手法では近年の多彩な意匠性を求める市場の要求に対応することが難しくなってきていることから、成型品の加飾に、転写箔法、インサート成型法、インモールド成型法等の射出成型同時加飾法が多く用いられてきている。
【0003】
射出成型同時加飾法とは、例えばインサート成型法では、予め図柄等を印刷した加飾フィルム状物を真空成型したものを金型内に挿入した後に、金型内に熱可塑性樹脂を溶融射出し成型する方法が挙げられ、主に小型の自動車内部品等に用いられてきた加飾法である。
【0004】
このような加飾成型品においては、耐擦傷性を付与する目的で、前述の加飾フィルム状物にはハードコート性能を有する硬化皮膜層が設けられているものが使用されている場合がある。しかしながら、このような加飾フィルム状物を用いて、より大きな成型品を加飾するには、この硬化皮膜層に高い表面硬度の他に、様々な形状に成型されてもクラック等が生じない延伸性が要求される。
【0005】
硬化皮膜層の材料として、特許文献1では、分子内に2個の水酸基を有するエポキシ(メタ)アクリレートとジイソシアネート化合物から得られるポリウレタン化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物が提案されている。しかしながら、特許文献1の活性エネルギー線硬化性組成物をパーソナルコンピュータの筐体等の従来より大きな成型品の加飾用途に使用する場合には、得られる活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物の延伸性が十分ではない場合があり、更に延伸性の良好なものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−212938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い表面硬度と耐擦傷性を有すると共に延伸性に富む硬化皮膜を得ることができる活性エネルギー線硬化性組成物、その硬化皮膜がフィルム状物の表面に積層された積層フィルム状物、成形品の表面にその積層フィルム状物がフィルム状物の面と成形品の面が接するように積層された積層成形品及び成形品の表面にその硬化皮膜が積層された積層成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨とするところは、下記の(a1)、(a2)及び(a3)成分を反応させて得られるポリウレタン化合物(A)(以下、「(A)成分」という)、光重合開始剤(B)(以下、「(B)成分」という)及び無機粒子(C)(以下、「(C)成分」という)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物(以下、「本組成物」という)を第1の発明とする。
(a1)成分:分子内に環構造を有する数平均分子量(Mn)が50〜500のジオール
(a2)成分:ジイソシアネート
(a3)成分:分子内に1個の水酸基と1個以上の光重合性基を有する化合物
【0009】
また、本発明の要旨とするところは、フィルム状物の表面に本組成物の硬化皮膜(以下、「本硬化皮膜」という)が積層された積層フィルム状物(以下、「本積層フィルム状物」という)を第2の発明とする。
【0010】
更に、本発明の要旨とするところは、成形品の表面に本積層フィルム状物がフィルム状物の面と成形品の面が接するように積層された積層成形品(以下、「本フィルム状物積層成形品」という)を第3の発明とする。
【0011】
また、本発明の要旨とするところは、成形品の表面に本硬化皮膜が積層された積層成形品(以下、「本硬化皮膜積層成形品」という)を第4の発明とする。
【発明の効果】
【0012】
本組成物は高い表面硬度と耐擦傷性を有すると共に延伸性に富む硬化皮膜を得ることができることから、パーソナルコンピュータの筐体等の中型以上のサイズの成型品の射出成型同時加飾用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(a1)成分
本発明で使用される(a1)成分は後述する(A)成分を得るための成分で、分子内に環構造を有するMnが50〜500、好ましくは100〜400のジオールである。尚、本発明において、(a1)成分のMnは構造式から算出される数平均分子量を示す。
【0014】
(a1)成分のMnを50〜500とすることにより本硬化皮膜の表面硬度と延伸性を良好とすることができる。(a1)成分のMnを500以下とすることにより(a2)成分との反応性を良好とすることができ、得られる(A)成分を高分子量物とすることができることから、本硬化皮膜を延伸性に優れたものとすることができる。
【0015】
(a1)成分としては、例えば、芳香族グリコール及び脂環型グリコールが挙げられる。これらの中で、本硬化皮膜の耐候性の点で、脂環型グリコールが好ましい。
【0016】
芳香族グリコールの具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシン及びヒドロキノンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0017】
脂環型グリコールの具体例としては、水素添加ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールF、シクロペンタンジオール、シクロペンタンジメタノール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ノルボルナンジオール、ノルボルナンジメタノール、デカリンジオール、デカリンジメタノール、トリシクロデカンジオール及びトリシクロデカンジメタノールが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。これらの中で、水素添加ビスフェノールA、シクロペンタンジメタノール及びトリシクロデカンジメタノールが本硬化皮膜の表面硬度の点で好ましい。
【0018】
(a2)成分
本発明で使用される(a2)成分は(A)成分を得るためのジイソシアネートである。
【0019】
(a2)成分としては、例えば、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;脂肪族ジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;キシレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート;及びこれらのビューレット体又はアロハネート体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。これらの中で、着色の無い本硬化皮膜を得ることができる点で、脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートが好ましく、脂肪族ジイソシアネートがより好ましい。
【0020】
脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート及びリジントリイソシアネートが挙げられる。これらの中で、得られる(A)成分の硬化性の点で、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及び2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
【0021】
(a3)成分
本発明で使用される(a3)成分は(A)成分中に光重合性基を導入するための成分で、分子内に1個の水酸基と1個以上の光重合性基を有する化合物である。
【0022】
(a3)成分としては、例えば、水酸基を有するモノ(メタ)アクリレート又はそのアルキレンオキサイド付加物;モノヒドロキシポリ(メタ)アクリレート又はそのアルキレンオキサイド付加物;ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等のモノエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との付加反応物;ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールとモノ(メタ)アクリル酸との付加反応物;及びポリカプロラクトンジオール(n=1〜5)のモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。これらの中で、本硬化皮膜の表面硬度の点で、水酸基を有するモノ(メタ)アクリレート及びモノヒドロキシポリ(メタ)アクリレートが好ましい。尚、本発明において、「(メタ)アクリ」は「アクリ」又は「メタクリ」を示す。
【0023】
水酸基を有するモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及び4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0024】
モノヒドロキシポリ(メタ)アクリレートの具体例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0025】
水酸基を有するモノ(メタ)アクリレート及びモノヒドロキシポリ(メタ)アクリレートの中で、本硬化皮膜の表面硬度と延伸性の点で、2−ヒドロキシエチルアクリレート及び2−ヒドロキシプロピルアクリレートが好ましい。
【0026】
(A)成分
本発明で使用される(A)成分は本硬化皮膜に優れた表面硬度と延伸性を付与するための成分で、上述した(a1)成分、(a2)成分及び(a3)成分を反応させて得られるポリウレタン化合物である。
【0027】
(A)成分の合成法は特に限定されるものではなく、公知の各種ウレタン(メタ)アクリレート合成法を採用することができる。(A)成分の合成法としては、例えば、(a1)成分とポリウレタン化触媒との混合物中に(a2)成分、次いで(a3)成分を50〜90℃の条件下で順次滴下して(A)成分を得る方法が挙げられる。
【0028】
ポリウレタン化触媒としては、例えば、アミン系触媒及び有機金属系触媒が挙げられる。アミン系触媒の具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン及びジメタノールアミンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。有機金属系触媒の具体例としては、スタナスオクトエート、スタナスラウレート、ジ−n−ブチル錫ジラウレート、ジ−n−ブチル錫ジマレエート、ジ−n−ブチル錫ジアセテート、ジ−n−オクチル錫ジアセテート等の有機スズ化合物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。これらの中で、少量で高い触媒効果を得られる点で、有機金属系触媒が好ましく、ジ−n−ブチル錫ジラウレートがより好ましい。
【0029】
本発明において、(A)成分を得る際に、(A)成分の合成時の温度コントロールを容易にし、得られる(A)成分の粘度を低減して作業性を向上させる等の目的で、必要に応じて(a1)成分〜(a3)成分から選ばれる少なくとも1種を(A)成分用希釈溶剤に希釈して使用することができる。
【0030】
(A)成分用希釈溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;シクロヘキサン等の環状炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤及びエチルアセテート、n−ブチルアセテート等のアセテート系溶剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0031】
(A)成分を得るための反応の終点は、得られた(A)成分中のイソシアネート基の残存量で確認することができる。(A)成分中のイソシアネート基の残存量としては0.05モル%以下が好ましく、0.01モル%以下がより好ましい。本発明において、イソシアネート基の残存量は、アミンと塩酸を用いた逆滴定法で定量して得られる値を示す。具体的なイソシアネート基の定量法は以下の通りである。
【0032】
得られた(A)成分(W〔g〕)をクロロベンゼン等の溶媒25mlに溶解し、更に0.1Nジ−n−ブチルアミンのクロロベンゼン溶液25mlと混合する。得られた混合液にブロムフェノールブルー等の市販の指示薬を1〜2滴添加した後、市販の0.1N塩酸エタノール溶液で滴定する。青紫色から黄色になったら終点とし、滴下量(Y〔ml〕)を読み取る。同様の操作を(A)成分なしで行い、ブランクの滴下量(X〔ml〕)とする。下式を用いて、イソシアネート基の残存量を算出する。
(イソシアネート基の残存量〔%〕)=(Y−X)×F×0.42/W
Y:得られた(A)成分のサンプルについての0.1N塩酸エタノール溶液の滴下量〔ml〕
X:ブランクにおける0.1N塩酸エタノール溶液の滴下量〔ml〕
F:0.1N塩酸エタノール溶液のファクター値
W:(A)成分の質量〔g〕
【0033】
(A)成分の重量平均分子量(Mw)は1,000〜100,000が好ましく、1,500〜30,000がより好ましい。(A)成分のMwが1,000〜100,000であると、(A)成分をゲル化等することなく安定に製造できる点、(A)成分の作業性の点、及び得られる本硬化皮膜の延伸性の点で好ましい。尚、本発明において、(A)成分のMwは、本組成物のテトラヒドロフラン溶液(0.4質量%)を調整後、東ソー(株)製カラム(TSKゲル スーパーHZM−M及びTSKガードカラム スーパーHZ−L、商品名)が装着された東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置(HLC−8320GPC EcoSEC、商品名)に上記の溶液100μlを注入し、流量1ml/分、溶離液テトラヒドロフラン及びカラム温度40℃の条件で測定し、標準ポリスチレンで換算された値である。
【0034】
(A)成分のMwは(a1)成分、(a2)成分及び(a3)成分のモル比率により調整することができる。(a1)成分、(a2)成分及び(a3)成分のモル比率としては、次式において、0.8<M<1.2が好ましい。
M=(m×2+m)/m×2
但し、m、m及びmは、それぞれ(a1)成分、(a2)成分及び(a3)成分のモル量を示し、m=m−1である。
Mを上記の範囲内、好ましくはM=1とすることにより、(A)成分の粘度を低くすることができ、本硬化被膜の表面硬度と延伸性を良好とすることができる傾向にある。
【0035】
(B)成分
(B)成分は本組成物を効率よく活性エネルギー線により硬化させるための重合開始剤である。(B)成分としては、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物及びアシルホスフィンオキサイド系化合物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。(B)成分としては、本組成物の硬化性が良好となり、表面硬度と耐擦傷性に優れる本硬化皮膜が得られる点で、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンから選ばれる少なくとも1種の光重合開始剤が好ましい。
【0036】
(C)成分
(C)成分は本硬化皮膜に耐擦傷性を付与するための粒子である。(C)成分としては、例えば、シリカ、ジルコニア、アルミナ及び酸化亜鉛が挙げられる。本発明においては、(C)成分としては有機化合物によって変性されている無機粒子が好ましい。有機化合物によって変性されている無機粒子としては市販のものを使用することができる。無機粒子としては、平均一次粒子径が300nm以下の無機微粒子が好ましい。
【0037】
有機化合物によって変性されている無機粒子としては、例えば、無機微粒子(以下、「(c1)成分」という)と有機シラン化合物の加水分解生成物(以下、「(c2)成分」という)を縮合させて得られる有機無機微粒子が挙げられる。また、(c1)成分として市販のものを使用してもよい。
【0038】
(c1)成分としては、例えば、平均一次粒子径が1〜300nm、好ましくは5〜80nmで、水又は有機溶剤等の分散媒にコロイド状態に分散したものが挙げられる。(c1)成分の平均一次粒子径は、(c2)成分との反応時にゲル化を起こさない点で、1nm以上が好ましく、本硬化被膜の透明性の点で300nm以下が好ましい。また、(c1)成分としては、本硬化皮膜の耐擦傷性の点でシリカが好ましい。尚、本発明においては、(c1)成分の平均一次粒子径はガス吸着法(BET法によって求めた比表面積相当径)により求められた値である。
【0039】
(c2)成分としては、例えば、下式(1)や(2)で表されるシランカップリング剤の加水分解生成物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0040】
【化1】

【0041】
【化2】

【0042】
(式(1)及び式(2)中、Xは(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルフェニレン基、ビニル基、グリシジル基、アミノ基、メルカプト基又はイソシアネート基を示す。また、Rは炭素数1〜8の直鎖型又は分岐型アルキレン基を示す。R及びRは炭素数1〜8の直鎖型又は分岐型アルキル基を示す。mは1〜3の正の整数、nは0〜2の正の整数、m+nは1〜3の正の整数をそれぞれ示す。)
【0043】
また(c2)成分としては、上記化合物以外に例えば、式(1)で表されるシランカップリング剤の加水分解生成物のエポキシ基やグリシジル基に(メタ)アクリル酸を付加したシラン化合物、アミノ基に(メタ)アクリロイルオキシ基を2個有する化合物をマイケル付加したシラン化合物、アミノ基やメルカプト基に(メタ)アクリロイルオキシ基及びイソシアネート基を有する化合物を付加したシラン化合物並びにイソシアネート基に(メタ)アクリロイルオキシ基及び水酸基を有する化合物を付加したシラン化合物の加水分解生成物が挙げられる。
【0044】
(c2)成分としては、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルフェニレン基又はビニル基を有するシラン化合物が好ましい。これらシラン化合物を用いることにより耐擦傷性に優れる本硬化皮膜を得ることができる。好ましい(c2)成分の具体例としては、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルフェニレントリメトキシシラン、ビニルフェニレントリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン及びビニルトリエトキシシランが挙げられる。これらの中で、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン及び3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランが、活性エネルギー線照射による重合活性に優れる点で、より好ましい。
【0045】
(C)成分の製造方法としては、例えば、(c1)成分を分散媒に分散させた(c1)成分分散液と(c2)成分との混合物を得た後に、(c1)成分の分散媒を常圧又は減圧下で(c1)成分の分散媒より極性の低い媒体と共に共沸留出させて(c1)成分の分散媒を極性の低い媒体に置換し、次いで加熱下で(c1)成分と(c2)成分を縮合させる方法が挙げられる。上記の(C)成分の製造方法の詳細な条件の具体例を以下に示す。
【0046】
(c1)成分分散液と(c2)成分との混合物の調製方法としては、(c1)成分分散液と(c2)成分とを混合する方法、又は(c1)成分分散液と有機シラン化合物と加水分解触媒とを混合した状態で有機シラン化合物を加水分解させて(c2)成分を得る方法が挙げられる。
【0047】
有機シラン化合物を加水分解させて(c2)成分を得る方法としては、例えば、アルコール溶媒等の有機溶媒の存在下又は非存在下において、有機シラン化合物1モルに対して加水分解触媒として0.5〜6モルの水又は0.001〜0.1規定の塩酸又は酢酸水溶液を加えた後に加熱下で攪拌しつつ、加水分解で生じるアルコールを系外に除去する方法が挙げられる。
【0048】
上記の製造方法において、(c1)成分と(c2)成分の混合割合としては、(c1)成分と(c2)成分の合計を100質量%とした時、(c1)成分の含有量としては5〜90質量%が好ましく、20〜80質量%がより好ましい。(c1)成分の含有量が5質量%以上で、耐擦傷性に優れる本硬化皮膜を得ることができる傾向にある。また、(c1)成分の含有量が90質量%以下で、本組成物中における(C)成分の分散安定性が良好となり、延伸性に優れる本硬化皮膜を得ることができる傾向にある。
【0049】
(c1)成分と(c2)成分との縮合反応に際しては、まず、(c1)成分の分散媒と縮合反応で生じる水を、常圧又は減圧下、60〜100℃好ましくは70〜90℃の条件で共沸留出させ、(c1)成分と(c2)成分の反応液の固形分濃度を50〜90質量%とする。
【0050】
次いで、(c1)成分と(c2)成分の反応液中に(c1)成分の分散媒より極性の低い溶媒を加えた後、極性の低い溶媒、水及び(c1)成分の分散媒を60〜150℃好ましくは80〜130℃で更に共沸留出させながら(c1)成分と(c2)成分の反応液の固形分濃度を30〜90質量%好ましくは50〜80質量%に保持して0.5〜10時間攪拌しながら縮合反応を行い、(C)成分を得る。この際、縮合反応を促進させる目的で、(c1)成分と(c2)成分の反応液中に水、酸、塩基、塩等の触媒を用いてもよい。
【0051】
本組成物
本組成物は(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する。本発明においては、本硬化皮膜に表面硬度を付与する目的で、本組成物中に必要に応じて(A)成分以外の(メタ)アクリレート(D)(以下、「(D)成分」という)を配合することができる。
【0052】
(D)成分としては、例えば、モノ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート、3官能以上の多官能(メタ)アクリレート、エポキシポリ(メタ)アクリレート、ウレタンポリ(メタ)アクリレート及びポリエステルポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0053】
モノ(メタ)アクリレートの具体例としては、炭素数が1〜20の直鎖、分岐又は環構造を有するアルキルモノ(メタ)アクリレート;及び炭素数が1〜20の直鎖、分岐又は環構造を有するヒドロキシアルキルモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0054】
ジ(メタ)アクリレートの具体例としては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタンジオールジ(メタ)アクリレート等の直鎖、分岐又は環構造を有するアルカンジオールのジ(メタ)アクリレート及びそれらのアルキレンオキサイド付加物;並びにポリエチレングリコール(繰り返し単位n=2〜15)ジ(メタ)アクリレート等のポリエーテルジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0055】
3官能以上の多官能(メタ)アクリレートの具体例としては、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸変性物又はそのアルキレンオキサイド変性物;及びトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートの(メタ)アクリル酸変性物又はそのアルキレンオキサイド変性物が挙げられる。
【0056】
エポキシポリ(メタ)アクリレートの具体例としては、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの縮合反応で得られるビスフェノール型エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを反応させたビスフェノール型エポキシジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0057】
ウレタンポリ(メタ)アクリレートの具体例としては、少なくとも1種の有機イソシアネート化合物に、分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基と1個のヒドロキシ基を有するヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート並びに必要に応じてアルカンジオール、ポリエーテルジオール、ポリブタジエンジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール及びアミドジオールから選ばれる少なくとも1種のジオールを反応させたものが挙げられる。
【0058】
ポリエステルポリ(メタ)アクリレートの具体例としては、フタル酸等の多塩基酸とエチレングリコール等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸との反応で得られるものが挙げられる。
【0059】
(D)成分は単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0060】
(D)成分としては、本硬化皮膜の表面硬度の点で、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートが好ましい。
【0061】
好ましい3官能以上の多官能(メタ)アクリレートの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート及びビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレートが挙げられる。
【0062】
3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0063】
本組成物中の(A)成分の配合量としては、(A)成分、(C)成分及び(D)成分の合計量中に10〜95質量%が好ましく、20〜90質量%がより好ましい。(A)成分の配合量が10〜95質量%で作業性に優れる本組成物が得られ、表面硬度と延伸性に優れる本硬化皮膜を得ることができる傾向にある。
【0064】
本組成物中の(B)成分の配合量としては、(A)成分、(C)成分及び(D)成分の合計量100質量部に対して0.01〜50質量部が好ましく、0.1〜30質量部がより好ましい。(B)成分の配合量が0.01〜50質量部で本組成物の硬化性が良好となり、表面硬度と耐擦傷性に優れる本硬化皮膜を得ることができる傾向にある。
【0065】
本組成物中の(C)成分の配合量としては、(A)成分、(C)成分及び(D)成分の合計量中に5〜90質量%が好ましく、10〜80質量%がより好ましい。(C)成分の配合量が5〜90質量%で透明性、表面硬度、耐擦傷性及び延伸性に優れる本硬化皮膜を得ることができる傾向にある。
【0066】
本組成物中の(D)成分の配合量としては、(A)成分、(C)成分及び(D)成分の合計量中に0〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましい。(D)成分の配合量が50質量%以下で表面硬度と延伸性に優れる本硬化皮膜を得ることができる傾向にある。
【0067】
本組成物には必要に応じて重合禁止剤を配合することができる。重合禁止剤としては、例えば、ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩等のニトロソ系重合禁止剤;ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ベンゾキノン等のキノン系重合禁止剤;N,N−ジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)、トリフェニルメチル等のラジカル捕獲剤;及びベンゾトリアゾール系の酸化防止剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0068】
また、本組成物には必要に応じて非反応性熱可塑性高分子化合物、有機ベントン、ポリアミド、マイクロゲル、繊維素系樹脂等のレオロジー調節剤、シリコーンに代表される表面調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、重合禁止剤、シランカップリング剤、有機フィラー、垂れ止め剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0069】
更に、本組成物には、形状安定性、耐熱性若しくは易滑性の付与又は導電性向上を目的として、必要に応じて(C)成分以外の無機フィラーを配合することができる。無機フィラーの配合方法としては公知の方法を用いることができる。
【0070】
無機フィラーとしては、形状安定性、耐熱性、易滑性に優れる本硬化皮膜を得ることを目的として、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン等の金属酸化物又はそれらの複合酸化物、それら金属酸化物又は複合酸化物をシランカップリング剤等で表面被覆した表面処理金属酸化物又は表面処理複合酸化物及び水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム等の水酸化物が挙げられる。また、無機フィラーとしては、本硬化皮膜の導電性の向上を目的として、例えば、金、銀、銅、ニッケル又はそれらの合金等の金属粒子、カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン等の導電性粒子及びガラス、セラミック、プラスチック、金属酸化物等の表面に金属又はITO(酸化インジウムスズ)を被覆した粒子が挙げられる。上記の導電性粒子としては、導電性の点でアスペクト比が5以上のものが好ましい。尚、本発明において、アスペクト比は(長径)/(短径)で求められる。
【0071】
上記の無機フィラーの粒子径としては、本組成物の光学性能の点で、面積平均粒子径で1μm以下が好ましい。
【0072】
無機フィラーの配合量は本組成物が使用される用途、要求される機械的強度、流動性等に応じて調整できる。
【0073】
本発明においては、本組成物を後述するフィルム状物、成形品等の基材の表面に塗布する場合には、本組成物の粘度を塗布方法に応じて調整するために、必要に応じて、本組成物を有機溶剤で希釈することができる。有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤の他(A)成分用希釈溶剤と同様のものが挙げられる。本組成物中の有機溶剤の配合量としては、本組成物中の硬化性成分が塗装する際の最終組成物の20質量%以上となる量とすることが塗装作業性の点で好ましい。例えば、本組成物をスプレー塗装する場合には、通常、フォードカップNo.4粘度計を用いて20℃で15〜60秒程度の粘度となるように有機溶剤を添加することが好ましい。
【0074】
フィルム状物
本発明においては、フィルム状物の表面に本硬化皮膜を積層して本積層フィルム状物を得ることができる。
【0075】
フィルム状物を形成する樹脂としては、例えば、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、結晶性ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂及びポリメタクリルイミド樹脂が挙げられる。フィルム状物を形成する樹脂中には、目的に応じて酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、エステル交換防止剤、帯電防止剤等の各種添加剤を含有したものを用いることができる。
【0076】
フィルム状物としては、目的に応じて表面に柄、易接着層又は離型層を設けたものを使用することができる。フィルム状物の厚みとしては、後述する本積層フィルム状物の表面硬度の点で、0.05〜1mmが好ましい。
【0077】
本硬化皮膜
本硬化皮膜は本組成物をフィルム状物等の基材の表面に塗布した後に本組成物を活性エネルギー線で硬化して得られる皮膜である。本硬化皮膜の厚みとしては、本組成物の硬化性及び本硬化皮膜の表面硬度の点で、0.001〜0.1mmが好ましい。
【0078】
本組成物をフィルム状物等の基材の表面に塗布する方法としては、バーコーターコート法、メイヤーバーコート法、エアナイフコート法、グラビアコート法、リバースグラビアコート法、マイクログラビアコート法、ハケ塗り法、スプレーコート法、シャワーフローコート法、ディップコート法、カーテンコート法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法及びポッティング法が挙げられる。
【0079】
フィルム状物等の基材の表面に塗布された本組成物を硬化するための活性エネルギー線としては、例えば、α、β、γ線及び紫外線等が挙げられるが、汎用性の点で紫外線が好ましい。紫外線発生源としては、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、マグネトロンを利用した無電極UVランプ及びLEDが挙げられる。本組成物を硬化させる際の雰囲気としては、空気、窒素又はアルゴン等の不活性ガスのいずれでもよいが、実用性及び経済性の点で空気雰囲気が好ましい。本組成物の硬化条件としては、例えば、活性エネルギー線として紫外線を使用する場合には、高圧水銀灯を用いた積算光量で300mJ/cmの照射条件が挙げられる。
【0080】
本積層フィルム状物
本積層フィルム状物はフィルム状物の1表面に本硬化皮膜が積層されたものである。本積層フィルム状物は、1表面に表面硬度に優れた本硬化皮膜が積層されていることから、ハードコートフィルムに好適である。また、本積層フィルム状物は、1表面に延伸性に優れた本硬化皮膜が積層されていることから、射出成型時型内加飾用フィルムに好適である。
【0081】
本積層フィルム状物を射出成型時型内加飾用フィルムとして使用する場合には、フィルム状物の樹脂としては、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂及びポリカーボネート樹脂が好ましい。また、本積層フィルム状物を射出成型時型内加飾用フィルムとして使用する場合には、フィルム状物の厚みとしては、本積層フィルム状物の表面硬度の点で0.05〜1mmが好ましく、本積層フィルム状物の成形性の点で0.05〜0.2mmが好ましい。本積層フィルム状物を射出成型時型内加飾用フィルムとして使用する場合には、本硬化皮膜の厚みとしては本組成物の硬化性及び本積層フィルム状物の表面硬度の点で0.001〜0.1mmが好ましく、本積層フィルム状物の成形性の点で0.001〜0.01mmが好ましい。
【0082】
尚、本発明において、射出成型時型内加飾とは、プラスチック等の射出成型の際に、まず金型面にハードコート層や印刷層を有するフィルムを装着し、次いで射出成型することにより、金型内で成型物表面にハードコート層や印刷層を加飾する技術をいう。本発明においては射出成型時型内加飾としては、インサート成型法、インモールドラミネーション法及びインモールドデコレーション法が挙げられる。
【0083】
成形品
本発明においては、成形品の表面に本積層フィルム状物を積層することにより本フィルム状物積層成形品を得ることができる。成形品を形成するための樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)及びポリカーボネート樹脂を含むポリマーアロイが挙げられる。本発明においては、成形品を形成する樹脂中に、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、難燃剤、ガラス繊維、カーボン繊維、ドリップ防止剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0084】
本フィルム状物積層成形品
本発明においては、成形品の表面に本積層フィルム状物をフィルム状物の面と成形品の面が接するように積層して本フィルム状物積層成形品を得ることができる。本フィルム状物積層成形品の製造方法としては、例えば、射出成型時型内加飾法により得る方法が挙げられる。
【0085】
射出成型時型内加飾法により本フィルム状物積層成形品を得る際の成形品を形成する樹脂としてはフィルム状物と溶融一体化し得る熱可塑性樹脂が好ましい。フィルム状物と溶融一体化し得る熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂及びポリカーボネート樹脂を含むポリマーアロイが挙げられる。本発明においては、フィルム状物との密着性が良好ではない成形品を使用する場合には、フィルム状物と成形品との間に接着層を形成することができる。
【0086】
本発明においては、本積層フィルム状物のフィルム状物の面に印刷層等を設けることができる。この場合、印刷層との密着性が良好ではない成形品を使用するときには、フィルム状物の印刷面と成形品との間に接着層を形成することができる。
【0087】
本硬化膜積層成形品
本発明においては、成形品の表面に本硬化皮膜が積層された本硬化膜積層成形品を得ることができる。本硬化膜積層成形品の製造方法としては、例えば、成形品の表面に直接本組成物を塗布した後に活性エネルギー線で硬化して本硬化皮膜を成形品の表面に積層する方法及び射出成型時型内加飾法により本フィルム状物積層成形品を形成した後にフィルム状物を剥離することにより得る方法が挙げられる。
【0088】
本硬化膜積層成形品を成形品の表面に直接本組成物を塗布した後に活性エネルギー線で硬化して本硬化皮膜を成形品の表面に積層する方法により得る場合には、本硬化膜積層成形品の製造方法としては本硬化皮膜を得る際の本組成物をフィルム状物等の基材の表面に塗布する方法と同様の方法が挙げられる。
【0089】
本硬化膜積層成形品を射出成型時型内加飾法により本フィルム状物積層成形品を形成した後にフィルム状物を剥離することにより得る方法で得る場合には、フィルム状物を形成する樹脂としては本積層フィルム状物の本硬化皮膜からフィルム状物を剥離し易いものを使用することが好ましい。本発明においては、本積層フィルム状物の本硬化皮膜からフィルム状物の剥離を容易にするためにフィルム状物と本硬化皮膜との間に剥離層を形成することができる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例により説明する。尚、以下において、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ意味する。また、得られた硬化皮膜について以下の評価方法で評価した。
【0091】
(1)表面硬度
JIS K 5600に準拠し、フィルム状物の硬化皮膜の表面を三菱鉛筆ユニを用いて45度の角度で引っ掻き、傷のつかない最大硬度を鉛筆硬度で評価し、下記基準で表面硬度を判定した。
○:F以上。
×:F未満。
【0092】
(2)耐擦傷性
スチールウール#0000上にフィルム状物の硬化皮膜の表面が面するように積層フィルム状物を載せ、500g/cmの荷重をかけて20往復させた後の傷の状況を目視で観察し、下記の基準で耐擦傷性を評価した。
○:傷なし。
×:傷発生。
【0093】
(3)延伸性
積層フィルム状物について、(株)オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTC−1250Aを用いて引張試験(サンプル寸法:80mm×15mm、チャック間距離:50mm、引っ張り速度:20mm/min)を行い、硬化皮膜にクラックが発生した時点(目視判断)をその破断点伸度とし、下記基準により延伸性を評価した。
○:破断点伸度30%以上。
×:破断点伸度30%未満。
【0094】
(4)成形性
積層成形品を得る時の成形の際の金型追従性を目視で評価し、下記基準で成形性を判断した。
○:切頭面の端部及び切頭面にクラックが無い。
△:切頭面の端部のみにクラックが発生。
×:切頭面にクラックや白化が発生。
【0095】
[合成例1](A)成分(UA−1)の合成
2リットルの4つ口フラスコに、(a1)成分として1,4−シクロヘキサンジメタノール(新日本理化(株)製、商品名:SKY CHDM、Mn:144.2)144部、(a2)成分として2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(エボニック・デグサ・ジャパン(株)製、商品名:VESTANAT TMDI、Mn:210.1)420部及びポリウレタン化触媒としてジ−n−ブチル錫ジラウレート(DBTDL)0.24部を添加し、攪拌しながら80℃まで昇温させた。ペレット状の1,4−シクロヘキサンジメタノールが完全に溶解したことを確認した後、(a3)成分として2−ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製、商品名:HEA、Mn:116.1)232部を添加し、80℃に保持しで10時間反応を続け、(A)成分(UA−1)を得た。得られた(A)成分(UA−1)のMw及び外観を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1中の略号は以下の化合物を示す。
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール(新日本理化(株)製、商品名:SKY CHDM、Mn:144.2)
HB:水素添加ビスフェノールA(新日本理化(株)製、商品名:リカビノールHB、Mn:240)
TCDM:トリシクロデカンジメタノール(オクセア・ジャパン(株)製、商品名:TCD alcohol M、Mn:196.3)
TPG:トリプロピレングリコール(旭硝子(株)製、商品名:TPG、Mn:189)
PBA:ポリプロピレンオキサイド変性ビスフェノールA(旭電化工業(株)、商品名:アデカポーリエーテルBPX−1000、Mn:1,000(カタログ値))
TMDI:2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(エボニック・デグサ・ジャパン(株)製、商品名:VESTANAT TMDI、Mn:210.3)
IPDI:イソホロンジイソシアネート(エボニック・デグサ・ジャパン(株)製、商品名:VESTANAT IPDI、Mn:222.2)
PETA:ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亜合成(株)製、商品名:アロニックスM−306、MN:298)
DBTDL:ジ−n−ブチル錫ジラウレート
【0098】
[合成例2〜6](A)成分(UA−2)〜(A)成分(UA−6)の合成
表1に示す(A)成分の原料の種類及び配合量とする以外は合成例1と同様にして(A)成分(UA−2)〜(A)成分(UA−6)を得た。
【0099】
[合成例7](C)成分(CS−1)の合成
撹拌機、温度計及びコンデンサーを備えた3リットルの4つ口フラスコにイソプロパノールシリカゾル(日産化学工業(株)製、商品名:IPA−ST、分散媒;イソプロパノール、SiO濃度;30%、平均一次粒子径;12nm(原料メーカー開示データ:BET法によって求めた比表面積相当径))(以下、「IPA−ST」という)2,000部及び3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名:KBM−503)(以下、「KBM−503」という)382部を投入した。次いで、フラスコ内を撹拌しながら昇温させ、揮発成分の還流が始まると同時にイオン交換水150部を、還流温度を維持するように徐々に滴下させ、イオン交換水滴下終了後、還流下で2時間撹拌しながらKBM−503の加水分解を行った。
【0100】
KBM−503の加水分解終了後、常圧状態でアルコール、水等の揮発成分を留出させ、固形分(IPA−STのSiO600部とKBM−503の317部の合計量917部)濃度が約60%となる時点でトルエン600部を追加し、更にアルコール、水等をトルエンと一緒に共沸留出させた。再度フラスコ内にトルエン1,500部を追加し、完全に溶媒置換を行い、トルエン分散液を得た。このときの固形分濃度は約40%であった。更に、フラスコ内のトルエンを留出させながら、KBM−503のアルコキシシランの加水分解で得られたシラノール基とコロイダルシリカ表面の酸性水酸基とを110℃、4時間で反応させ、固形分濃度を約60%とし、重合性不飽和二重結合含有無機微粒子のトルエン溶液(以下、「CS−1」という)を得た。
【0101】
得られたCS−1は黄色状でニュートン流体の透明、粘稠な液体であり、25℃での粘度が30mPa・sであった。また、CS−1の固形分濃度は加熱残分で60.0%であった。固形分濃度は(加熱後の質量(g)/加熱前質量(g))×100(%)で示し、加熱条件は105℃で3時間とした。
【0102】
[合成例8](D)成分(EP−1)の合成
5リットルの4つ口フラスコにビスフェノールA型ジエポキシ樹脂(東都化成(株)製、商品名:エポトートYD8125)346部、アクリル酸(三菱化学(株)製、商品名:アクリル酸100%)144部、重合禁止剤としてヒドロキノンモノメチルエーテル0.5部及び触媒としてジメチルアミノエチルメタアクリレート(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリエステルDM)2.5部を添加し、攪拌しながら95℃まで昇温させ、95℃に保持した状態で14時間反応を続けた。フラスコ内の液の酸価が1mgKOH/g以下になったところで一段目の反応を終了し、2個の水酸基を有するエポキシアクリレートを得た。
【0103】
次いで、フラスコ内温を60℃まで降温した後に、フラスコ内に有機溶剤として酢酸エチル(EA)705部を添加し、ポリウレタン化触媒としてジ−n−ブチル錫ジラウレート(DBTDL)0.11部を添加し、攪拌しながら、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(住化バイエルウレタン(株)製、商品名:デスモジュールW)212部を2時間に渡って滴下した。ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートの滴下終了後5時間反応を続行し、Mw15,000のウレタンポリアクリレート溶液(EP−1)(固形分50%)を得た。
【0104】
[実施例1]
(A)成分としてUA−1を80部、(B)成分として2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(BASFジャパン(株)製、商品名:イルガキュア127)5部、(C)成分としてCS−1を33.3部及び有機溶剤として酢酸エチル(EA)215部を配合し、固形分濃度30%の活性エネルギー線硬化性組成物を得た。
【0105】
得られた活性エネルギー線硬化性組成物を、フィルム状物としての易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績(株)製、商品名:コスモシャインA4100、厚み0.188mm)の易接着処理面にバーコーター#10を用いて塗装した。活性エネルギー線硬化性組成物を塗装した易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを100℃の熱風乾燥機での30秒加熱により乾燥した後、高圧水銀灯を用いて積算光量300mJ/cm(波長320〜380nmの紫外線積算エネルギー量)の紫外線を照射して活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させることによって、厚み3μm(0.003mm)の平滑な活性エネルギー線硬化性組成物の硬化皮膜を有する積層フィルム状物(イ)を得た。得られた積層フィルム状物(イ)を用いて表面硬度、耐擦傷性及び延伸性の評価を行った。
【0106】
また、フィルム状物としてアクリルフィルム(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリプレンHBX−N47、厚み0.125mm)を用い、乾燥条件を80℃とした以外は積層フィルム状物(イ)と同様にして、厚み3μm(0.003mm)の平滑な活性エネルギー線硬化性組成物の硬化皮膜を有する積層フィルム状物(ロ)を得た。
【0107】
積層フィルム状物(ロ)を、フィルム状物(ロ)の硬化皮膜の面が金型の内壁面に向き合うように金型内に配置し、次いで赤外線ヒーターにより温度120℃で20秒間、フィルム状物(ロ)を予備加熱(ヒーターとフィルムの距離は30mm)した。この後、更に加熱を行いながらフィルム状物(ロ)が金型面に密着するように真空吸引して金型形状にフィルム状物(ロ)を追従させた。尚、使用した金型の形状は切頭角錐形状で、切頭面のサイズは100mm×100mmで、底面のサイズは108mm×117mm、深さは10mmであり、切頭面の端部の曲率半径は3mmであった。
【0108】
表面にフィルム状物(ロ)が密着した金型内に、成形温度220〜240℃及び金型温度70℃の条件でアクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリペットVH)を射出して成形を行い、活性エネルギー線硬化性組成物の硬化皮膜を有する積層成形品を得た。成形性の評価結果を表2に示す。
【0109】
[実施例2〜12及び比較例1]
表2に示す活性エネルギー線硬化性組成物の各成分の組成及び配合とする以外は実施例1と同様にして活性エネルギー線硬化性組成物を調製し、厚み3μmの硬化皮膜を有する積層フィルム状物及び積層成形品を得た。評価結果を表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
表2中における(C)成分及び(D)成分の括弧内の数値は固形分(部)を示す。
表2中の略号は以下の化合物を示す。
UA−1:合成例1のポリウレタン化合物
UA−2:合成例2のポリウレタン化合物
UA−3:合成例3のポリウレタン化合物
UA−4:合成例4のポリウレタン化合物
UA−5:合成例5のポリウレタン化合物
UA−6:合成例6のポリウレタン化合物
IT−1:2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(BASFジャパン(株)製、商品名:イルガキュア127)
CS−1:合成例7の重合性不飽和二重結合含有無機微粒子のトルエン溶液
CS−2:有機化合物変性コロイダルシリカ(ビックケミー・ジャパン(株)(株)製、商品名:NANOBYK−3650、有効成分32%)
TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート(大阪有機化学工業(株)製、商品名:ビスコート#295)
EP−1:合成例8のポリウレタン化合物
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製、商品名:カヤラッドDPHA)
EA:酢酸エチル
【0112】
実施例1〜12の結果から明らかなように、本発明で得られる活性エネルギー線硬化性組成物の硬化皮膜は表面硬度、耐擦傷性及び延伸性に優れ、積層成形品を得る際の成形性にも優れていることがわかる。これに対して、比較例1
では本発明における(A)成分及び(C)成分の要件を満足しない条件で得られた活性エネルギー線硬化性組成物の硬化皮膜は延伸性及び成形性において実施例のものに劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a1)、(a2)及び(a3)成分を反応させて得られるポリウレタン化合物(A)、光重合開始剤(B)及び無機粒子(C)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物。
(a1)成分:分子内に環構造を有する数平均分子量が50〜500のジオール
(a2)成分:ジイソシアネート
(a3)成分:分子内に1個の水酸基と1個以上の光重合性基を有する化合物
【請求項2】
フィルム状物の1表面に請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化皮膜が積層された積層フィルム状物。
【請求項3】
成形品の少なくとも1表面に請求項2に記載の積層フィルム状物がフィルム状物の面と成形品の面が接するように積層された積層成形品。
【請求項4】
成形品の表面に請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化皮膜が積層された積層成形品。

【公開番号】特開2012−167231(P2012−167231A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31073(P2011−31073)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】