説明

活性線硬化型インクジェット用インク、および画像記録方法

【課題】余分な金属イオンに起因するゲル化不良が抑制され、高速で高精細な画像を形成しうる活性線硬化型インクジェット用インクを提供する。
【解決手段】重合性化合物、顔料、酸性基を有する顔料分散剤、ゲル化剤、および光重合開始剤を含み、前記重合性化合物、顔料、酸性基を有する顔料分散剤、ゲル化剤または光重合開始剤を構成する金属イオン以外の金属イオンの含有量が10質量ppm未満であり、かつ直径75mm、コーン角1.0°のコーンプレート型レオメータにより、25℃、剪断速度11.7/sにおいて測定される粘度が1000mPa・s以上である、活性線硬化型インクジェット用インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性線硬化型インクジェット用インク、および画像記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線や電子線などの活性エネルギー線の照射によって硬化する活性光線硬化型組成物は、プラスチックや紙、無機材料への塗布に用いられる塗料や、接着剤、印刷インキ、印刷回路基板材料および電気絶縁基板材料などの種々の用途に実用化されている。また、活性光線硬化組成物は、インクジェット用インクにも用いられている。このようなインクは、硬化速度が大きく、かつインクの吸収性を有しない記録媒体への記録ができる点で、近年注目されている。
【0003】
活性光線硬化型組成物からなるインクジェット用インクとして、紫外線で硬化する紫外線硬化型インクがある。紫外線硬化型インクを用いたインクジェットは、硬化速度が大きいことを活かして、高速記録を行うことが検討されている。しかしながら、高速記録を行う場合、隣り合うインク滴(ドット)同士の間隔が小さくなるため、隣り合うドットが合一しやすく、画質が低下しやすいという問題があった。隣り合うドットの合一を抑制するため、紫外線硬化型インクのピニング性を高めることが検討されている。インクのピニング性を高める方法として、ゲル化剤を含む紫外線硬化型インクが提案されている(例えば特許文献1〜3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−193745号公報
【特許文献2】特表2009−510184号公報
【特許文献3】米国公開2009/0046134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらのインクは、一定温度以下でインクがゲル化することで、ピニング性を得ている。しかしながら、上述した特許文献に記載のインクは、ゲル形成能が十分ではないため、連続して記録を行ったときに高細精な画像を形成できるものではなかった。
【0006】
発明者らの検討の結果、上述の不具合はインクに用いられる顔料の種類によって変化し、レーキ顔料を用いた場合に特に悪化することが明らかになった。レーキ顔料は通常の顔料に比べ、耐光性が劣るものの安価であるため、屋内用等用途を限定することによってコストダウンが可能であるというメリットを有している。しかしながら、レーキ顔料を有する紫外線硬化型インクは、ピニング性を高めるためにインク中にゲル化剤を添加しても、インクのピニング性が向上しないという問題があった。そのため、高精細な画像が形成できず、紫外線硬化型インクの顔料として使用しにくいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ゲル化不良が抑制され、高速で高精細な画像を形成しうる活性線硬化型インクジェット用インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一は、以下の活性線硬化型インクジェット用インクに関する。
[1] 重合性化合物、顔料、酸性基を有する顔料分散剤、ゲル化剤および光重合開始剤を含み、前記重合性化合物、顔料、酸性基を有する顔料分散剤、ゲル化剤および光重合開始剤のうちいずれかを構成する金属イオン以外の金属イオンの含有量が10質量ppm未満であり、かつ直径75mm、コーン角1.0°のコーンプレート型レオメータにより、25℃、剪断速度11.7/sにおいて測定される粘度が1000mPa・s以上である、活性線硬化型インクジェット用インク。
[2] 前記酸性基を有する顔料分散剤の酸価が、5mgKOH/g以上50mgKOH/g未満である、[1]に記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
[3] 前記ゲル化剤の酸価とアミン価の合計が、0.01mgKOH/g以上10mgKOH/g未満である、[1]または[2]に記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
[4] 前記ゲル化剤は、ジアルキルケトンまたは脂肪酸アミドである、[1]〜[3]のいずれかに記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
[5] 前記顔料は、レーキ顔料である、[1]〜[4]のいずれかに記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
[6] 前記インクが、温度によって可逆的にゾルゲル相転移するものであり、直径75mm、コーン角1.0°のコーンプレート型レオメータにより、100℃から、降温速度0.1℃/s、剪断速度11.7/sで20℃に降温したときに、粘度が200mPa・sとなるゲル化温度が30℃以上100℃未満である、[1]〜[5]のいずれかに記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
[7] 前記顔料の含有量は、前記インクに対して0.1〜15質量%である、[1]〜[6]のいずれかに記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
【0009】
本発明の第二は、以下の画像記録方法に関する。
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載の活性線硬化型インクジェット用インクの液滴を、記録ヘッドから吐出させて記録媒体上に付着させる工程と、前記記録媒体上に付着したインク滴に、活性線を照射して硬化させる工程と、を含む、画像記録方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の活性線硬化型インクジェット用インクは、余分な金属イオンに起因するゲル化不良が抑制され、良好なピニング性を有する。それにより、高速で高精細な画像を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ライン記録方式のインクジェット記録装置の要部の構成の一例を示す図である。
【図2】シリアル記録方式のインクジェット記録装置の要部の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.活性線硬化型インクジェット用インク
本発明の活性線硬化型インクジェット用インクは、少なくとも重合性化合物と、顔料と、酸性基を有する顔料分散剤と、ゲル化剤と、光重合開始剤とを含む。本発明において、「インクに含まれる余分な金属イオン」とは、「重合性化合物、顔料、酸性基を有する顔料分散剤、ゲル化剤および光重合開始剤のうちいずれかを構成する金属イオン以外の金属イオンであって、酸性基を有する顔料分散剤と塩を形成しうる金属イオン」である。「重合性化合物、顔料、酸性基を有する顔料分散剤、ゲル化剤および光重合開始剤のうちいずれかを構成する金属イオン以外の金属イオン」とは、典型的には「顔料を構成する金属イオン以外の金属イオン」である。
【0013】
重合性化合物について
重合性化合物は、活性光線の照射により架橋または重合する重合性化合物である。活性光線は、例えば電子線、紫外線、α線、γ線、およびエックス線などであり、好ましくは紫外線または電子線である。重合性化合物は、カチオン重合性化合物、ラジカル重合性化合物、またはそれらの混合物である。
【0014】
ラジカル重合性化合物の例には、(メタ)アクリレート化合物が含まれる。(メタ)アクリレート化合物は、単官能モノマー、二官能モノマーまたは三官能以上の多官能モノマーでありうる。
【0015】
単官能モノマーの例には、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0016】
二官能モノマーの例には、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0017】
三官能以上の多官能モノマーの例には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0018】
これらのなかでも、光感度が高いことなどから、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソステアリルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、イソボルニルアクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレートが特に好ましい。
【0019】
(メタ)アクリレート化合物は、変性物であってもよい。(メタ)アクリレート化合物の変性物の例には、エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物;プロピレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物;カプロラクトン変性(メタ)アクリレート化合物;カプロラクタム変性(メタ)アクリレート化合物などが含まれ、好ましくはエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物である。エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物は、分子内に(−CH−CH−O−)m(mは4〜14の整数)で表される構造を有する2官能〜6官能の(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。
【0020】
そのようなエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物の例には、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートおよびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる2官能〜6官能の(メタ)アクリレート化合物1モルに対して、4〜6モルのエチレンオキサイドを付加して得られるエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物が含まれる。エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物は、感光性が高く、ゲル化温度超で、後述するゲル化剤を良好に溶解しうる。
【0021】
エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物の市販品の例には、Sartomer社製の4EO変性ヘキサンジオールジアクリレートCD561(分子量358)、3EO変性トリメチロールプロパントリアクリレートSR454(分子量429)、6EO変性トリメチロールプロパントリアクリレートSR499(分子量560)、4EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレートSR494(分子量528);新中村化学社製のポリエチレングリコールジアクリレートNKエステルA−400(分子量508)、ポリエチレングリコールジアクリレートNKエステルA−600(分子量742)、ポリエチレングリコールジメタクリレートNKエステル9G(分子量536)、ポリエチレングリコールジメタクリレートNKエステル14G(分子量770);大阪有機化学社製のテトラエチレングリコールジアクリレートV#335HP(分子量302)等が含まれる。
【0022】
エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物の分子量は、400〜1500であることが好ましい。分子量が400未満であると、インクのゲル化が十分でないことがある。一方、分子量が1500を超えると、インクの粘度が高くなりすぎて射出性が低下することがある。
【0023】
(メタ)アクリレート化合物は、重合性オリゴマーであってもよく、そのような重合性オリゴマーの例には、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、および直鎖(メタ)アクリルオリゴマー等が含まれる。
【0024】
これらの(メタ)アクリレート化合物のなかでも、エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物が好ましい。エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物の含有量は、インク全体に対して10〜40質量%であることが好ましい。エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物の含有量が10質量%未満であると、インク硬化膜の柔軟性が十分でないことがあり、40質量%超であると、高速硬化性が十分でないことがある。
【0025】
カチオン重合性化合物の例には、スチレン誘導体、ビニルエーテル化合物、オキシラン化合物、オキセタン化合物などが含まれる。
【0026】
ビニルエーテル化合物は、単官能ビニルエーテル化合物であっても、多官能ビニルエーテル化合物であってもよい。
【0027】
単官能ビニルエーテル化合物の例には、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4−メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ジシクロペンテニルビニルエーテル、2−ジシクロペンテノキシエチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ブトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、テトラヒドロフリフリルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、クロルブチルビニルエーテル、クロルエトキシエチルビニルエーテル、フェニルエチルビニルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールビニルエーテル等が含まれる。
【0028】
多官能ビニルエーテル化合物の例には、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ブチレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジビニルエーテル、ビスフェノールFアルキレンオキサイドジビニルエーテルなどのジビニルエーテル類;
トリメチロールエタントリビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、グリセリントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテルなどの多官能ビニルエーテル類等が含まれる。
【0029】
ビニルエーテル化合物は、分子内に(−C(=O)−O−)n(nは2〜5の整数)で表される構造を有するビニルエーテル化合物であってもよい。
【0030】
分子内に(−C(=O)−O−)n(nは2〜5の整数)で表される構造を有するビニルエーテル化合物の例には、分子内に(−C(=O)−O−)n(nは2または3)で表される構造を有する2官能のビニルエーテル化合物が含まれる。そのようなビニルエーテル化合物の市販品の例には、VEctomer4010、VEctomer4020、VEctomer4040、VEctomer4060、VEctomer5015(ALDRICH社製、VEctomerシリーズ)などが含まれ、なかでも以下のA−1〜A−8の化合物がより好ましい。
【化1】

【0031】
分子内に(−C(=O)−O−)n(nは2〜5の整数)で表される構造を有するビニルエーテル化合物の分子量は、300〜1000であることが好ましい。分子量が300未満であると、インクのゲル化が十分でないことがある。一方、分子量が1000超であると、インクの粘度が高くなりすぎて射出性が低下することがある。
【0032】
オキシラン化合物は、公知のエポキシ化合物であってよく、単官能エポキシ化合物であっても、多官能エポキシ化合物であってもよい。単官能エポキシ化合物の例には、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブタジエンモノオキサイド、1,2−エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2−エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイド等が含まれる。
【0033】
多官能エポキシ化合物の例には、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3′,4′−エポキシ−6′−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類;
1,1,3−テトラデカジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン等が含まれる。
【0034】
オキセタン化合物(オキセタン環を有する化合物)は、特開2001−220526号公報、特開2001−310937号公報に記載のオキセタン化合物が含まれる。単官能オキセタン化合物の例には、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−(メタ)アリルオキシメチル−3−エチルオキセタン、(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン、4−フルオロ−〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、4−メトキシ−〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、〔1−(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)エチル〕フェニルエーテル、イソブトキシメチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、イソボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−エチルヘキシル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンタジエン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルオキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラヒドロフルフリル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−テトラブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−トリブロモフェノキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、2−ヒドロキシプロピル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ブトキシエチル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタクロロフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタブロモフェニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ボルニル(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が含まれる。
【0035】
多官能オキセタン化合物の例には、3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、3,3′−(1,3−(2−メチレニル)プロパンジイルビス(オキシメチレン))ビス−(3−エチルオキセタン)、1,4−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル〕ベンゼン、1,2−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]エタン、1,3−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]プロパン、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジシクロペンテニルビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリシクロデカンジイルジメチレン(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ブタン、1,6−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)ヘキサン、ペンタエリスリトールトリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジトリメチロールプロパンテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、PO変性ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、PO変性水添ビスフェノールAビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、EO変性ビスフェノールF(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等が含まれる。
【0036】
これらのカチオン重合性化合物のなかでも、硬化性が高いことなどから、ビニルエーテル化合物が好ましく、前述の分子内に(−C(=O)−O−)n(nは2〜5の整数)で表される構造を有するビニルエーテル化合物がより好ましい。
【0037】
分子内に(−C(=O)−O−)n(nは2〜5の整数)で表される構造を有するビニルエーテル化合物の含有量は、インク全体に対して20〜60質量%であることが好ましい。分子内に(−C(=O)−O−)n(nは2〜5の整数)で表される構造を有するビニルエーテル化合物の含有量が20質量%未満であると、インクの硬化性が十分でないことがあり、60質量%超であるとインク硬化膜の柔軟性が低くなることがある。
【0038】
高速で硬化でき、かつ硬化膜の柔軟性を高めるために、カチオン重合性化合物とラジカル重合性化合物とを組み合わせて用いてもよい。その場合、ラジカル重合性化合物は(A)「分子内に(−CH−CH−O−)m(mは4〜14の整数)で表される構造を有する、2官能〜6官能の(メタ)アクリレート化合物」を含み;カチオン重合性化合物は(B)「分子内に(−C(=O)−O−)n(nは2〜5の整数)で表される構造を有するビニルエーテル化合物」を含むことが好ましい。(A)(メタ)アクリレート化合物は、記録媒体との密着性や、硬化物の柔軟性は高いが、硬化速度は若干低いことがある。一方、(B)ビニルエーテル化合物は、硬化速度が高いが、記録媒体との密着性や、硬化物の柔軟性は十分でないことがある。これに対して、(A)(メタ)アクリレート化合物と(B)ビニルエーテル化合物の混合物は、硬化速度が高く、かつ得られる硬化物の柔軟性も高くすることができる。
【0039】
さらに、(A)(メタ)アクリレート化合物と(B)ビニルエーテル化合物の混合物と、後述のゲル化剤とを含む本発明のインクは、再現性よくゲル化しうる。その理由は、必ずしも明らかではないが、(A)(メタ)アクリレート化合物に含まれる4以上のエチレンオキサイド基(極性基)と(B)ビニルエーテル化合物に含まれる2以上のエステル基(極性基)とに、ゲル化剤が配向しやすく、ゲル状態が均一になるためと考えられる。
【0040】
重合性化合物の合計含有量は、インク全体に対して1〜97質量%であることが好ましく、30〜95質量%であることがより好ましい。
【0041】
光重合開始剤について
光重合開始剤は、「UV・EB硬化技術の応用と市場」(シーエムシー出版、田畑米穂監修/ラドテック研究会編集)などに記載された公知の光重合開始剤であってよい。光重合開始剤は、光ラジカル発生剤または光酸発生剤でありうる。
【0042】
光ラジカル開始剤は、分子内結合開裂型と分子内水素引き抜き型とがある。分子内結合開裂型の光重合開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン系;
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン類;
2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系;
ベンジルおよびメチルフェニルグリオキシエステル等が含まれる。
【0043】
分子内水素引き抜き型の光重合開始剤の例には、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノン、4,4′−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;
2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系;
ミヒラ−ケトン、4,4′−ジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン系;
10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン等が含まれる。
【0044】
光酸発生剤は、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に用いられる化合物であってよい(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ参照)。光酸発生剤の例には、芳香族オニウム塩や、光スルホン酸発生剤、光塩酸発生剤、光臭酸発生剤、鉄アレン錯体などが含まれる。
【0045】
芳香族オニウム塩を構成する芳香族オニウムの例には、芳香族ジアゾニウム、芳香族アンモニウム、芳香族ヨードニウム、芳香族スルホニウム、芳香族ホスホニウムなどが含まれる。
【0046】
芳香族ジアゾニウムの例には、以下のものが含まれる。
【化2】

【0047】
芳香族アンモニウムの例には、以下のものが含まれる。
【化3】

【0048】
芳香族ヨードニウムの例には、以下のものが含まれる。
【化4】

【0049】
芳香族スルホニウムの例には、以下のものが含まれる。
【化5】

【0050】
芳香族ホスホニウムの例には、以下のものが含まれる。
【化6】

【0051】
芳香族オニウム塩を構成するカウンタアニオンの例には、B(C4−、PF6−、AsF6−、SbF6−、CFSO3−などが含まれる。
【0052】
光スルホン酸発生剤の例には、以下のものが含まれる。
【化7】

【0053】
光塩酸発生剤および光臭酸発生剤の例には、以下のものが含まれる。
【化8】

【0054】
鉄アレン錯体の例には、以下のものが含まれる。
【化9】

【0055】
光酸発生剤を本発明のインクに含有させるには、光酸発生剤を溶媒に溶解させて含有させることが好ましい。光酸発生剤を常温(25℃程度)で容易に溶解させる溶媒として、環状エステル化合物、炭酸エステル化合物などがある。環状エステル化合物の例には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、α−メチル−β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、およびγ−ヘプタノラクトンなどが含まれる。
【0056】
光重合開始剤の含有量は、活性光線や重合性化合物の種類などにもよるが、インク全体に対して1〜10質量%であることが好ましく、2〜8質量%であることがより好ましい。
【0057】
色材について
本発明のインクに含まれる顔料の例には、以下のものが含まれる。
【0058】
C.I.Pigment Yellow 1,2,3,4,5,6,7,9,10,12,13,14,15,16,17,24,55,60,61,62,63,65,73,74,75,77,81,83,87,93,94,95,97,98,99,100,101,104,105,106,108,109,110,111,113,114,116,117,120,123,124,126,127,128,129,130,133,138,139,150,151,153,154,155,165,167,168,169,170,172,173,174,175,176,179,180,181,182,183,185,191,193,194,199,205,206,209,212,213,214,215,219
【0059】
C.I.Pigment Red 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,14,15,16,17,18,21,22,23,31,32,38,41,48:1,48:2,48:4,49:1,52:1,52:2,53:1,54,57:1,58:1,58:2,58:3,58:4,60:1,63:1,64:1,68,81:1,83,88,89,95,101,112,114,119,122,123,136,144,146,147,149,150,164,166,168,169,170,171,172,175,176,177,178,179,181,182,183,184,185,187,188,190,193,194,200,202,206,207,208,209,210,211,213,214,216,220,221,224,226,237,238,239,242,245,247,248,251,253,254,255,256,257,258,260,262,263,264,266,268,269,270,271,272,279,282
【0060】
C.I.Pigment Violet 1,2,3,5:1,13,17,19,23,25,27,29,31,32,36,37,38,42,50
【0061】
C.I.Pigment Blue 1,2,3:1,3:3,5:1,13,15:1,15:2,15:3,15:4,15:5,15:6,16,17:1,18,22,24:1,25,26,27,29,56,60,61,62,63,75,79,80
【0062】
C.I.Pigment Green 1,4,7,8,10,36
【0063】
C.I.Pigment White 1,2,4,5,6,7,11,12,18,19,21,22,23,26,27,28
【0064】
C.I.Pigment Black 1,7,10,20,31,32
【0065】
これらの顔料のなかでも、インクに高い耐候性が求められない場合は、以下のレーキ顔料が好ましく用いられる。
C.I.Pigmet Yellow 61,62,100,104,133,150,153,168,169,179,183,191,206,209,212;
C.I.Pigmet Red 48:1,48:2,48:4,49:1,52:1,52:2,53:1,57:1,58:1,58:2,58:3,58:4,60:1,63:1,64:1,68,81:1,193,200,237,247,257;
C.I.Pigment Blue 1,2,3:1,3:3,5:1,15:1,15:2,15:3,15:4,15:5,15:6,17:1,24:1,56,61,62,63,75,79;
C.I.Pigment Green 1,4,7,8,10,36;
C.I.Pigment Black 1など。
【0066】
これらのレーキ顔料は、染料の金属塩であるため、顔料を構成する金属イオン以外の金属イオン;具体的には、Caイオン、Mgイオン、Srイオンなどの多価金属イオンが比較的多く含まれる。また、レーキ顔料に限らず、ソルトミリング法による粉砕工程などを経て得られる顔料にも、Naイオンなどの金属イオンが含まれることがある。このような顔料を構成する金属イオン以外の金属イオン(余分な金属イオン)は、後述する顔料分散剤に含まれる酸性基と塩を形成し、分散剤塩となる。分散剤塩は、ゲル化剤の結晶化を阻害し、インクをゲル化させにくくすると考えられる。
【0067】
即ち、本発明者らは、インクがゲル化しにくくなる要因の一つが、インク中に含まれる余分な金属イオンと顔料分散剤中の酸性基との相互作用であることを見出した。相互作用によってインクがゲル化しにくくなるメカニズムは、以下のとおりであると推測している。一般的に、紫外線硬化型インクにおいては、酸性基を有する顔料分散剤によって顔料を分散させている。インク中に余分な金属イオンが存在すると、余分な金属イオンは、インクに含まれる顔料分散剤の酸性基と塩を形成する。顔料分散剤の酸性基が余分な金属イオンと塩を形成して分散剤塩となると、この分散剤塩とゲル化剤の極性基とのインタラクションが生じ、インク中におけるゲル化剤の分布にムラが生じる。また、ゲル化剤の非極性部位同士が集合して結晶構造を形成する際に、分散剤塩の非極性部位も集合する。そして、分散剤塩の極性部位が、ゲル化剤の非極性部位の集合を阻害することによって、ゲル化剤が、本来の編目構造よりも小さい編目構造しか形成できなくなる。その結果、インクがゲル化温度以下になっても、インクのゲル化が前述の分散剤塩によって阻害されるため、インクのゲル強度が低下し、インクのピニングができなくなると考えられる。
【0068】
前述の通り、レーキ顔料は、染料を金属塩化することによって不溶化しているため、他の顔料に比べて余分な金属イオンを多く含むと考えられる。このような余分な金属イオンは、レーキ顔料に限らず、例えばソルトミリング法などによる粉砕工程を経て得られる顔料にも含まれることがあり、これらの余分な金属イオンによってインク中におけるゲル化剤の機能が阻害されることを、本発明者らは見出した。
【0069】
そこで、本発明では、インクにおける余分な金属イオンの含有量を一定以下にすることで、インクのゲル化が阻害されないようにしている。具体的には、インクに含まれる、顔料を構成する金属イオン以外の余分な金属イオンの量を、顔料全体に対して10質量ppm以下とすることが好ましい。そのためには、顔料に含まれる、顔料を構成する金属イオン以外の余分な金属イオンの量を、顔料全体に対して60質量ppm以下とすることが好ましい。
【0070】
顔料に含まれる余分な金属イオンの量は、以下の手順で測定することができる。
1)顔料に水を加えて希釈し、液体試料とする。この液状試料を、遠心分離装置によって遠心分離し、固体成分と液体成分とに分離する。
2)前記1)で得られた溶液成分に含まれる金属イオン量をICP−AESで測定する。得られた金属イオン量を「顔料に含まれる余分な金属イオン量」とする。
【0071】
顔料に含まれる余分な金属イオン量の調整は、インクに含有させる前の顔料をイオン交換水で洗浄するなどの方法によって行うことができる。
【0072】
顔料の含有量は、インク全体に対して0.1〜15質量%であることが好ましく、3〜5質量%であることがより好ましい。顔料の含有量が少なすぎると、得られる画像の発色が十分ではなく、多すぎるとインクの粘度が高くなり、射出性が低下するからである。
【0073】
顔料分散剤について
本発明のインクに含まれる顔料分散剤は、顔料の分散性を高める観点から、酸性基を有することが好ましい。酸性基を有する顔料分散剤の例には、ポリアリルアミン誘導体、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアミドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアミドと極性酸エステルの塩等が含まれ、好ましくはポリアリルアミン誘導体である。
【0074】
ポリアリルアミン誘導体は、下記式(I)で表される化合物であることが好ましい。下記式(I)のXおよびYはそれぞれ独立に水素原子、重合開始剤由来の基または連鎖移動触媒由来の基を示す。Rは遊離のアミノ基または下記式(II)もしくは(III)で示される基を示し;Rのうち少なくとも1つは下記式(III)で示される基を示す。nは2〜1000の整数を示す。下記式(II)もしくは(III)のRは、遊離のカルボン酸を有するポリエステル、遊離のカルボン酸を有するポリアミド、または遊離のカルボン酸を有するポリエステルアミドのいずれかからカルボキシル基を除いて得られる基を示す。
【化10】

【化11】

【0075】
式(I)で表されるポリアリルアミン誘導体は、例えばポリアリルアミンと、遊離のカルボキシル基を有するポリエステル、遊離のカルボキシル基を有するポリアミドまたは遊離のカルボキシル基を有するポリエステルアミドと、を反応させて得られる。
【0076】
ポリアリルアミンは、アリルアミンを、重合開始剤の存在下、必要に応じて連鎖移動触媒の存在下で重合させて得られる。重合開始剤の例には、メチルエチルケトンなどのケトンパーオキシド類;ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキシド類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類;1、1−ビス(t−ブチルパーロキシ)シクロヘキサンなどのパーオキシケタール類;t−ブチルヒドロパーオキシドなどのヒドロパーオキシド類;t−ブチルパーオキシピバレートなどのパーオキシエステル類等が含まれる。
【0077】
連鎖移勤触媒の例には、ラウリルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン類;メルカプト酢酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸などのチオカルボン酸類;チオグリコール酸ブチル、チオグリコール酸2−エチルヘキシルなどのチオカルボン酸エステル等が含まれる。
【0078】
ポリアリルアミンと反応させる、遊離のカルボキシル基を有するポリエステルは、式(IV)または式(V)で表されるポリエステル化合物であることが好ましい。下記式(IV)のRは炭素原子数2〜20の直鎖状もしくは分岐のアルキレン基を示し;aは2〜100の整数を示す。下記式(V)のRは炭素原子数2〜20の直鎖状もしくは分岐のアルキレン基、フェニレン基または−CH=CH−を示し;Rは炭素原子数2〜20の直鎖状もしくは分岐のアルキレン基、またはポリアルキレングリコールから2つの水酸基を除いて得られる基を示し;bは2〜100の整数を示す。
【化12】

【0079】
式(IV)で表されるポリエステル化合物の具体例には、ポリカプロラクトンなどが含まれる。
【0080】
ポリアリルアミンと反応させる、遊離のカルボキシル基を有するポリアミドは、式(VI)または式(VII)で表されるポリアミド化合物であることが好ましい。式(VI)のRは炭素原子数2〜20の直鎖状もしくは分岐のアルキレン基を示し;cは2〜100の整数を示す。式(VII)のRは式(V)のRと同様であり;Rは炭素原子数2〜20の直鎖状もしくは分岐のアルキレン基を示し;dは2〜100の整数を示す。
【化13】

【0081】
ポリアリルアミン誘導体の市販品の例には、味の素ファインテクノ社製PBシリーズ(例えばアジスパーPB824など)が含まれる。
【0082】
顔料分散剤の酸価は、顔料を分散させ易くする観点から、5mgKOH/g以上50mgKOH/g未満であることが好ましい。顔料分散剤の酸価は、顔料分散剤1g中に含まれる酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数として定義される。顔料分散剤の酸価は、JIS K 0070に準拠して測定される。
【0083】
顔料分散剤の分子量は、インク成分に溶解させやすく、かつ顔料分散剤として機能させる観点から、2000〜100000であることが好ましい。
【0084】
顔料分散剤の合計量は、顔料に対して1〜50質量%であることが好ましく、15〜40質量%であることがより好ましい。1質量%未満であると、顔料を十分に分散させることができず、50質量%超であると、インクの粘度が高くなることがある。
【0085】
本発明の活性線硬化型インクジェット用インクは、必要に応じて分散助剤をさらに含んでもよい。分散助剤は、顔料に応じて選択されればよい。
【0086】
活性線硬化型インクジェット用インクは、必要に応じて顔料を分散させるための分散媒体をさらに含んでもよい。分散媒体として溶剤をインクに含ませてもよいが、形成された画像における溶剤の残留を抑制するためには、前述のような重合性化合物(特に粘度の低いモノマー)を分散媒体として用いることが好ましい。
【0087】
顔料の分散は、顔料粒子の平均粒径が、好ましくは0.08〜0.2μm、最大粒径が好ましくは0.3〜10μm、より好ましくは0.3〜3μmとなるように行われることが好ましい。顔料の分散は、顔料、分散剤、および分散媒体の選定、分散条件、およびろ過条件等によって調整される。
【0088】
顔料の分散は、例えばボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、およびペイントシェーカー等により行うことができる。
【0089】
ゲル化剤について
ゲル化剤は、インクを温度により可逆的にゾルゲル相転移させる機能を付与する。即ち、ゲル化剤を含む本発明のインクは、高温下では流動性のある溶液(ゾル)となり、低温下では流動性のない半固形状(ゲル)となり、ゲルとゾルの間で熱可逆的に遷移しうる。
【0090】
本発明のインクによって形成されるゲルは、ラメラ構造または高分子網目構造に、重合性化合物などが内包され、独立した運動性を失って集合した構造を有する。ゲルを構成する高分子網目構造は、ゲル化剤が共有結合または水素結合して得られる構造であっても、ゲル化剤の物理的な凝集によって形成される構造であってもよい。そのような構造を有するゲルは、粘度や弾性が高く、固化または半固化している。
【0091】
なかでも、本発明のインクによって形成されるゲルは、ゲル化剤の結晶化物である板状結晶が三次元的に囲む空間に重合性化合物が内包された構造(カードハウス構造)を有することが好ましい。カードハウス構造が形成されると、液状の重合性化合物を保持することができ、インク液滴をピニングすることができる。それにより、液滴同士の合一を抑制することができる。
【0092】
ゲル化剤は、ゲル化温度よりも高い温度で重合性化合物に溶解し、かつゲル化温度またはそれ以下の温度で結晶化するものであればよく、高分子化合物と、低分子化合物とがある。
【0093】
高分子化合物のゲル化剤の例には、ステアリン酸イヌリン等の脂肪酸イヌリン;パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン等の脂肪酸デキストリン(千葉製粉社製 レオパールシリーズ等);ベヘン酸エイコサン二酸グリセリル、ベヘン酸エイコサンポリグリセリル等(日清オイリオ社製 ノムコートシリーズ等);L−グルタミン酸誘導体(味の素ファインテクノ社製)などが含まれる。
【0094】
低分子化合物のゲル化剤の例には、18−ペンタトリアコンタノン(ステアロン)、16−ヘントリアコンタノン、12−トリコサノンなどのジアルキルケトン;UNILIN425などの脂肪酸アルコール;ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸パルミチル、ミリスチン酸ミリスチルなどの脂肪酸エステル;エルカ酸アミド(花王社製、FATTY AMID E)、オレイン酸アミド(花王社製、FATTY AMID T)、硬化牛脂酸アミド(花王社製、FATTY AMID O−N)、ステアリン酸アミド(日本化成社製、ニッカアマイドAP1)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド(味の素ファイテクノ社製、GP−1)などの脂肪酸アミド;ベヘニン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、オレイン酸、およびエルカ酸等の高級脂肪酸;ホホバエステル(池田物産社製、Floraester70)などのオイルワックス;特開2005−126507号公報や特開2005−255821号公報に記載のオイルゲル化剤などが含まれる。これらのゲル化剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
なかでも、インクの射出性を高める観点などから、低分子化合物;特に分子量1000未満の低分子化合物が好ましい。低分子化合物のなかでも、重合性化合物と良好なゲル状態を形成しやすく、余分な金属イオンによってゲル化が阻害されにくいなどの観点から、ジアルキルケトンまたは脂肪酸エステルが好ましい。ジアルキルケトンを構成する2つのアルキル基の炭素原子数は、それぞれ独立に10〜20であることが好ましい。一方、高級脂肪酸や脂肪酸アミドなどのような高い極性を有するゲル化剤は、余分な金属イオンによってゲル化(結晶化)が阻害されやすい。
【0096】
ゲル化剤の酸価とアミン価の合計は、0.01mgKOH/g以上10mgKOH/g未満であることが好ましく、0.01〜3mgKOH/gであることがより好ましい。ゲル化剤の酸価とアミン価の合計が10mgKOH/g以上であると、余分な金属イオンと塩を形成しやすく、本来のゲル構造の形成が阻害されやすい。また、ゲル化剤のアミン価が高すぎると、インク成分(モノマーや重合開始剤など)や不純物と相互作用しやすい。一方、不純物は、顔料粒子に吸着された顔料分散剤とも相互作用するため、顔料粒子の分散性が低下し、凝集しやすくなる。
【0097】
ゲル化剤の酸価は、ゲル化剤1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数として定義される。ゲル化剤の酸価は、JIS K 0070に準拠して測定されうる。
【0098】
ゲル化剤のアミン価は、ゲル化剤1g中に含まれる全塩基性窒素を中和するのに必要な過塩素酸と等量の水酸化カリウムのmg数として定義される。ゲル化剤のアミン価は、JIS K 7237(1995)に記載されている電位差滴定法で測定することができる。
【0099】
ゲル化剤の含有量は、インク全体に対して2〜10質量%であることが好ましく、3〜7質量%であることがより好ましい。ゲル化剤の含有量が2質量%未満であると、インクをゲル化(温度によるゾルゲル相転移)させることができず、10質量%を超えると、インク中に十分に溶解できず、インクの射出性が低下することがある。
【0100】
その他の成分について
活性光線硬化型インクジェット用インクは、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分は、各種添加剤や他の樹脂等であってよい。添加剤の例には、界面活性剤、レベリング添加剤、マット剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗菌剤、インクの保存安定性を高めるための塩基性化合物等も含まれる。塩基性化合物の例には、塩基性アルカリ金属化合物、塩基性アルカリ土類金属化合物、アミンなどの塩基性有機化合物などが含まれる。他の樹脂の例には、硬化膜の物性を調整するための樹脂などが含まれ、例えばポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、およびワックス類等が含まれる。
【0101】
活性線硬化型インクジェット用インクは、前述のゲル化剤を含むため、温度により可逆的にゾルゲル相転移する。ゾルゲル相転移する活性光線硬化型インクは、高温(例えば80℃程度)では液体であるため、インクジェット記録ヘッドから吐出することができる。高温下で活性光線硬化型インクジェット用インクを吐出すると、インク滴(ドット)が記録媒体に着弾した後、自然冷却されてゲル化する。これにより、隣り合うドット同士の合一を抑制し、画質を高めることができる。
【0102】
インクの射出性を高めるためには、高温下におけるインクの粘度が一定以下であることが好ましい。具体的には、活性線硬化型インクジェット用インクの、100℃における粘度が3〜20mPa・sであることが好ましい。一方、隣り合うドットの合一を抑制するためには、着弾後の常温下におけるインクの粘度が一定以上であることが好ましい。具体的には、活性線硬化型インクジェット用インクの25℃における粘度は1000mPa・s以上であることが好ましい。
【0103】
インクのゲル化温度は、30℃以上100℃未満であることが好ましく、40℃以上70℃以下であることがより好ましく、50℃以上65℃以下であることがさらに好ましい。射出温度が100℃近傍である場合に、インクのゲル化温度が100℃以上であると、射出時にゲル化が生じやすいため射出性が低くなり、ゲル化温度が30℃未満であると、記録媒体に着弾後、速やかにゲル化しないからである。ゲル化温度とは、ゾル状態にあるインクを冷却する過程において、ゲル化して流動性が低下するときの温度である。
【0104】
インクの100℃における粘度、25℃における粘度およびゲル化温度は、レオメータにより、インクの動的粘弾性の温度変化を測定することにより求めることができる。具体的には、インクを100℃に加熱し、剪断速度11.7(/s)、降温速度0.1℃/sの条件で20℃まで冷却したときの、粘度の温度変化曲線を得る。そして、100℃における粘度と25℃における粘度は、粘度の温度変化曲線において100℃、25℃における粘度をそれぞれ読み取ることで求めることができる。ゲル化温度は、粘度の温度変化曲線において、粘度が200mPa・sとなる温度として求めることができる。
【0105】
レオメータは、Anton Paar社製 ストレス制御型レオメータ PhysicaMCRシリーズを用いることができる。コーンプレートの直径は75mm、コーン角は1.0°とすることができる。
【0106】
本発明の活性線硬化型インクジェット用インクは、顔料を構成する金属イオン以外の余分な金属イオン(不純物金属イオン)の含有量が10質量ppm未満であり;実質的に含まれないことが好ましい。
【0107】
インクにおける(顔料を構成する金属イオン以外の)余分な金属イオンの含有量は、以下の手順で測定することができる。
1)インクに重合性化合物を加えて希釈し、液状試料とする。そして、液状試料を遠心分離装置によって遠心分離し、固体成分と液体成分とに分離する。
2)乾燥させた固体成分を、密閉式マイクロ波分解装置で、濃塩酸で溶液化する。得られた濃塩酸溶液中の金属イオン量を、ICP−AESで測定し、固体成分に含まれる金属イオン量を求める。
3)同様にして、溶液成分に含まれる金属イオン量をICP−AESで測定し、溶液成分に含まれる金属イオン量を求める。
4)前記2)で得られる固体成分の金属イオン量と、前記3)で得られる溶液成分の金属イオン量とを合算して「インクに含まれる金属イオンの総量」とする。
5−1)顔料がレーキ顔料でない場合には、「インクに含まれる金属イオンの総量」が「インクに含まれる余分な金属イオンの量」となる。
5−2)一方、顔料がレーキ顔料である場合には、「インクに含まれる金属イオンの総量」から「顔料を構成する金属イオンの量」を差し引いたものが「インクに含まれる余分な金属イオンの量」となる。「顔料を構成する金属イオンの量」は、上記2)で得られた溶液に含まれるキレート(染料)の量を紫外線可視光光度計によって測定した後;得られたキレート(染料)の量との量論比から、「キレートと塩を形成する金属イオンの量」を算出する。
【0108】
また、インクにおける(顔料を構成する金属イオン以外の)余分な金属イオンの含有量は、以下の手順によっても測定することができる。
1)インクに重合性化合物を加えて希釈し、液状試料とする。そして、液体試料を、ゲル化温度よりも高温(約80℃)に加熱した状態で遠心分離する。それにより、余分な金属イオンと分散剤との塩(分散剤塩)を溶液成分として分離し;顔料を固形分として分離する。
2)得られた溶液成分に含まれる金属イオン量を、ICP−AESなどで測定する。
【0109】
本発明の活性線硬化型インクジェット用インクは、前述のように、顔料由来の余分な金属イオン量が一定以下に低減されている。そのため、顔料由来の余分な金属イオンが、顔料分散剤の酸性基と塩を形成するのを抑制し;ゲル化剤の結晶化が阻害されるのを抑制できる。したがって、本発明のインクは、高いピニング性を有し、隣り合うドット同士の合一を抑制し、画質を向上させることができる。
【0110】
2.活性線硬化型インクジェット用インクの製造方法
本発明の活性線硬化型インクジェット用インクは、1)顔料中の不純物金属イオンの含有量が60質量ppm以下である顔料を準備する工程と、2)準備した顔料と、重合性化合物と、酸性基を有する顔料分散剤と、ゲル化剤とを加熱下において混合する工程と、を経て製造することができる。
【0111】
顔料中の不純物金属イオンの含有量が60質量ppm以下である顔料は、市販品であってもよいし、市販品の顔料を精製したものであってもよい。得られるインクにおける顔料の含有量は、前述の通り、1〜10質量%であることが好ましい。
【0112】
3.インクジェット記録装置とそれを用いた画像記録方法
本発明に用いられる活性線硬化型インクジェット方式のインクジェット記録装置について説明する。活性線硬化型インクジェット方式のインクジェット記録装置には、ライン記録方式(シングルパス記録方式)のものと、シリアル記録方式のものと、がある。求められる画像の解像度や記録速度に応じて選択されればよいが、高速記録の観点では、ライン記録方式(シングルパス記録方式)が好ましい。
【0113】
図1は、ライン記録方式のインクジェット記録装置の要部の構成の一例を示す図である。このうち、図1(a)は側面図であり、図1(b)は上面図である。図1に示されるように、インクジェット記録装置10は、複数の吐出用記録ヘッド14を収容するヘッドキャリッジ16と、ヘッドキャリッジ16の(記録媒体の搬送方向)下流側に配置された活性線照射部18と、記録媒体12の下面に配置された温度制御部19と、を有する。
【0114】
ヘッドキャリッジ16は、記録媒体12の全幅を覆うように固定配置されており、各色毎に設けられた複数の吐出用記録ヘッド14を収容する。吐出用記録ヘッド14にはインクが供給されるようになっている。たとえば、インクジェット記録装置10に着脱自在に装着された不図示のインクカートリッジなどから、直接または不図示のインク供給手段によりインクが供給されるようになっていてもよい。
【0115】
吐出用記録ヘッド14は、各色ごとに、記録媒体12の搬送方向に複数配置される。記録媒体12の搬送方向に配置される吐出用記録ヘッド14の数は、吐出用記録ヘッド14のノズル密度と、印刷画像の解像度によって設定される。例えば、液滴量2pl、ノズル密度360dpiの吐出用記録ヘッド14を用いて1440dpiの解像度の画像を形成する場合には、記録媒体12の搬送方向に対して4つの吐出用記録ヘッド14をずらして配置すればよい。また、液滴量6pl、ノズル密度360dpiの吐出用記録ヘッド14を用いて720×720dpiの解像度の画像を形成する場合には、2つの吐出用記録ヘッド14をずらして配置すればよい。dpiとは、2.54cm当たりのインク滴(ドット)の数を表す。
【0116】
活性線照射部18は、記録媒体12の全幅を覆い、かつ記録媒体の搬送方向についてヘッドキャリッジ16の下流側に配置されている。活性線照射部18は、吐出用記録ヘッド14により吐出されて、記録媒体に着弾した液滴に活性線を照射し、液滴を硬化させる。
【0117】
活性線が紫外線である場合、活性線照射部18(紫外線照射手段)の例には、照度100mW/cm以上の紫外線を照射できることなどから、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプおよびLEDなどが好ましく、消費電力の少ないことからLEDがより好ましい。具体的には、Phoseon Technology社製 395nm、水冷LEDを用いることができる。
【0118】
活性光線が電子線である場合、活性線照射部18(電子線照射手段)の例には、スキャニング方式、カーテンビーム方式、ブロードビーム方式等の電子線照射手段が含まれるが、処理能力の観点から、カーテンビーム方式の電子線照射手段が好ましい。電子線照射手段の例には、日新ハイボルテージ(株)製の「キュアトロンEBC−200−20−30」、AIT(株)製の「Min−EB」等が含まれる。
【0119】
温度制御部19は、記録媒体12の下面に配置されており、記録媒体12を所定の温度に維持する。温度制御部19は、例えば各種ヒータ等でありうる。
【0120】
以下、ライン記録方式のインクジェット記録装置10を用いた画像記録方法を説明する。記録媒体12を、インクジェット記録装置10のヘッドキャリッジ16と温度制御部19との間に搬送する。一方で、記録媒体12を、温度制御部19により所定の温度に調整する。次いで、ヘッドキャリッジ16のインク吐出用記録ヘッド14から高温のインクを吐出して、記録媒体12上に付着(着弾)させる。そして、活性線照射部18により、記録媒体12上に付着したインク滴に活性線を照射して硬化させる。
【0121】
インク吐出用記録ヘッド14からインクを吐出する際の、吐出用記録ヘッド14内のインクの温度は、インクの射出性を高めるためには、80〜140℃であることが好ましい。吐出用記録ヘッド14内のインク温度が、80℃未満であると、吐出用記録ヘッド14内もしくはノズル表面でインクがゲル化して、インクの射出性が低下しやすい。一方、吐出用記録ヘッド14内のインクの温度が140℃を超えると、インクが高温になりすぎるため、インク成分が劣化することがある。
【0122】
インク吐出用記録ヘッド14の各ノズルから吐出される1滴あたりの液滴量は、画像の解像度にもよるが、高解像度の画像を形成するためには、0.5pl〜2.5plであることが好ましい。
【0123】
活性線の照射は、隣り合うインク滴同士が合一するのを抑制するために、インク滴が記録媒体上に付着した後、0.001〜1秒以内、好ましくは0.001〜0.5秒以内に行うことが好ましい。活性線の照射は、ヘッドキャリッジ16に収容された全てのインク吐出用記録ヘッド14からインクを吐出した後に行われることが好ましい。
【0124】
活性線が電子線である場合、電子線照射の加速電圧は、十分な硬化を行うためには、30〜250kVとすることが好ましく、30〜100kVとすることがより好ましい。加速電圧が100〜250kVである場合、電子線照射量は30〜100kGyであることが好ましく、30〜60kGyであることがより好ましい。
【0125】
硬化後のインク膜厚は2〜25μmであることが好ましい。
【0126】
本発明の活性線硬化型インクジェット用インクは、前述したように、顔料由来の余分な金属イオンが低減されている。そのため、本発明の活性線硬化型インクジェット用インクは、吐出用記録ヘッド14から吐出されて記録媒体12上に着弾し、ゲル化温度以下となると、直ちにゲルとなる。そのため、良好なピニング性が得られ、ドットの合一が抑制される。そして、記録媒体12上でゲルとなった本発明のインクの液滴は、活性光線の照射によって硬化し、記録媒体上に定着する。それにより、高速で画像形成する際でも、高品位な画像を形成することができる。
【0127】
図2は、シリアル記録方式のインクジェット記録装置20の要部の構成の一例を示す図である。図2に示されるように、インクジェット記録装置20は、記録媒体の全幅を覆うように固定配置されたヘッドキャリッジ16の代わりに、記録媒体の全幅よりも狭い幅であり、かつ複数のインク吐出用記録ヘッド24を収容するヘッドキャリッジ26と、ヘッドキャリッジ26を記録媒体12の幅方向に可動させるためのガイド部27と、を有する以外は図1と同様に構成されうる。
【0128】
シリアル記録方式のインクジェット記録装置20では、ヘッドキャリッジ26がガイド部27に沿って記録媒体12の幅方向に移動しながら、ヘッドキャリッジ26に収容された吐出用記録ヘッド24からインクを吐出する。ヘッドキャリッジ26が記録媒体12の幅方向に移動しきった後(パス毎に)、記録媒体12を搬送方向に送る。これらの操作以外は、前述のライン記録方式のインクジェット記録装置10とほぼ同様にして画像を記録する。
【実施例】
【0129】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0130】
1.顔料分散液の調製
1)顔料分散液1の調製
下記顔料分散剤と重合性化合物とを、ステンレスビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間加熱攪拌して溶解させた。得られた溶液を室温まで冷却後、下記顔料を加えて、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gとともにガラス瓶に入れて密栓し、ペイントシェーカーにて8時間分散処理した。その後、ジルコニアビーズを除去して、下記組成の顔料分散液1を調製した。
【0131】
〔顔料分散液1の組成〕
顔料分散剤:アジスパーPB824(味の素ファインテクノ社製、ポリアリルアミン誘導体、酸価40mgKOH/g)
9質量部
重合性化合物:NKエステル4G(新中村化学社製 ポリエチレングリコール#200ジメタクリレート) 71質量部
顔料:Pigment Red 57:1(大日精化製、レッドNo.8、顔料を構成する金属イオンの含有量:10.3質量%、顔料を構成する金属イオン以外の金属イオン(余分な金属イオン)の含有量:洗浄前806質量ppm(Fe43、Ca491、Mg204、Sr2、Ba1、Al15、Mo50ppm)、洗浄後46質量ppm)
20質量部
【0132】
2)顔料分散液2の調製
顔料分散液1の調製において、顔料の種類を以下のように変更した以外は、同様にして以下の組成の顔料分散液2を調製した。
〔顔料分散液2の組成〕
顔料分散剤:アジスパーPB824(味の素ファインテクノ社製)
9質量部
重合性化合物:NKエステル4G(新中村化学社製 ポリエチレングリコール#200ジメタクリレート) 71質量部
顔料:Pigment Red 57:1(クラリアント製、PermanentRubine L5B 01、顔料を構成する金属イオンの含有量:10.3質量%、顔料を構成する金属イオン以外の金属イオン(余分な金属イオン)の含有量:洗浄前750質量ppm(Fe41、Cu4、Ni3、Ca482、Mg195、Al25ppm)、洗浄後58質量ppm)
20質量部
【0133】
3)顔料分散液3の調製
顔料分散液1の調製において、顔料の種類を以下のように変更した以外は、同様にして以下の組成の顔料分散液3を調製した。
〔顔料分散液3の組成〕
顔料分散剤:アジスパーPB824(味の素ファインテクノ社製)
9質量部
重合性化合物:NKエステル4G(新中村化学社製 ポリエチレングリコール#200ジメタクリレート) 71質量部
顔料:Pigment Red 48:2(冨士色素製、FujiRed 5R 758、顔料を構成する金属イオンの含有量:8.7質量%、顔料を構成する金属イオン以外の金属イオン(余分な金属イオン)の含有量:洗浄前843質量ppm(Fe39、Cu3、Ni2.5、Ca543、Mg217、Al38ppm)、洗浄後57質量ppm)
20質量部
【0134】
4)顔料分散液4の調製
顔料分散液1の調製において、顔料の種類を以下のように変更し、かつペイントシェーカーでの分散処理時間を5時間とした以外は、同様にして以下の組成の顔料分散液4を調製した。
〔顔料分散液4の組成〕
顔料分散剤:アジスパーPB824(味の素ファインテクノ社製)
9質量部
重合性化合物:NKエステル4G(新中村化学社製 ポリエチレングリコール#200ジメタクリレート) 71質量部
顔料:Pigment 150(Lanxess製、Lavascreen GelbG01、顔料を構成する金属イオンの含有量:18.7質量%、顔料を構成する金属イオン以外の金属イオン(余分な金属イオン)の含有量:洗浄前274質量ppm(Fe64、Ca44、Mg142、Al20ppm)、洗浄後24質量ppm)
20質量部
【0135】
5)顔料分散液5の調製
顔料分散液1の調製において、顔料の種類を以下のように変更し、かつペイントシェーカーでの分散処理時間を5時間とした以外は、同様にして以下の組成の顔料分散液5を調製した。
〔顔料分散液5の組成〕
顔料分散剤:アジスパーPB824(味の素ファインテクノ社製)
9質量部
重合性化合物:NKエステル4G(新中村化学社製 ポリエチレングリコール#200ジメタクリレート) 71質量部
顔料:Pigment Blue 15:4(大日精化製、クロモファインブルー6332JC、顔料を構成する金属イオンの含有量:12.4質量%、顔料を構成する金属イオン以外の金属イオン(余分な金属イオン)の含有量:洗浄前1345質量ppm(Fe164、Ni7、Mg398、Ca776ppm)、洗浄後32質量ppm)
20質量部
【0136】
6)顔料分散剤6の調製
顔料分散液1の調製において、顔料分散剤の種類を、Disperbyk−111(ビックケミー・ジャパン社製、酸価:100mgKOH/g)に変更した以外は同様にして顔料分散液6を調製した。
【0137】
7)顔料分散液7の調製
顔料分散液1において、金属塩として炭酸マグネシウムを添加して、顔料を構成する金属イオン以外の金属イオン(余分な金属イオン)の含有量が2000質量ppmである顔料分散液7を得た。
【0138】
2.インクの調製
(実施例1)
下記成分を混合して、50℃で攪拌した。得られた溶液をADVATEC社製テフロン(登録商標)3μmメンブランフィルタで濾過して、インクを調製した。
【0139】
〔インクの組成〕
重合性化合物:APG−200(新中村化学社製 トリプロピレングリコールジアクリレート) 25質量部
A−400(新中村化学社製 ポリエチレングリコール#400ジアクリレート 40質量部
ゲル化剤:18−ペンタトリアコンタノン(酸価:3mgKOH/g、アミン価:0mgKOH/g) 3質量部
光重合開始剤:DAROCURE TPO(Chiba社製) 5質量部
ITX(DKSH社製) 2質量部
顔料分散液:顔料分散液1 25質量部
【0140】
(実施例2〜5)
顔料分散液の種類を表1に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0141】
(実施例6〜7)
ゲル化剤の種類を表1に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0142】
(実施例8)
顔料分散剤の種類を表1に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0143】
(比較例1〜2)
顔料分散液の種類、またはゲル化剤の有無を表1に示されるように変更した以外は実施例1と同様にしてインクを調製した。
【0144】
各実施例および比較例で得られたインクの粘度、ゲル化温度、インクの保存安定性、および顔料粒子の粒径変動率を、以下の方法で測定した。
【0145】
インクの粘度・ゲル化温度の測定
得られたインクを、温度制御可能なストレス制御型レオメータ(PhysicaMCR300、Anton Paar社製)にセットした。次いで、インクを100℃に加熱した後、降温速度0.1℃/s、剪断速度11.7(/s)の条件で20℃に冷却し、降温時の動的粘弾性を測定した。動的粘弾性の測定は、直径75.033mm、コーン角1.017°のコーンプレート(CP75−1、Anton Paar社製)を用いた。また、温度制御は、PhysicaMCR300に付属のペルチェ素子型温度制御装置(TEK150P/MC1)により行った。
【0146】
得られた動的粘弾性の温度変化曲線において、25℃における粘度を読み取り、「25℃における粘度」とした。得られたインクの粘度を、以下の基準に基づいて評価した。
◎:25℃での粘度が50000mPa・s以上
○:25℃での粘度が10000mPa・s以上50000mPa・s未満
△:25℃での粘度が5000mPa・s以上10000mPa・s未満
×:25℃での粘度が5000mPa・s未満
【0147】
さらに、得られた動的粘弾性の温度変化曲線から、粘度が200mPa・s以上となる温度を読み取り、ゲル化温度(℃)とした。
【0148】
インクの保存安定性の測定
まず、インクを容器に入れ、インクの80℃における粘度(初期粘度)を前述と同様にして測定した。次いで、インクの入った容器を、恒温槽にて100℃で14日間保存し、1日毎にインクの80℃における粘度を測定した。そして、80℃における保存後の粘度が、保存前の初期粘度に対して1mPa・s上昇するまでに要する日数を評価した。そして、インクの保存安定性を、以下の基準に基づいて評価した。
◎:粘度が1mPa・s上昇するまでに要する日数が14日以上
○:粘度が1mPa・s上昇するまでに要する日数が7日以上14日未満
△:粘度が1mPa・s上昇するまでに要する日数が3日以上7日未満
×:粘度が1mPa・s上昇するまでに要する日数が3日未満
【0149】
顔料の粒径変動率の測定
調製直後のインクに含まれる顔料の平均粒子径rと、100℃で3日間保存後のインクに含まれる顔料の平均粒子径rとを、ゼータサイザーナノ S90(マルバーン社)で測定した。得られた調製直後のインクに含まれる顔料の平均粒子径r、保存後のインクに含まれる顔料の平均粒子径rを、それぞれ下記式に当てはめて、粒径変動率を求めた。
粒径変動率(%)=(r−r)/r×100
【0150】
そして、顔料粒子の粒径変動率を、以下の基準に基づいて評価した。
◎:粒径変動率が10%未満
○:粒径変動率が10%以上20%未満
△:粒径変動率が20%以上30%未満
×:粒径変動率が30%以上
【0151】
また、各実施例および比較例で得られたインクを用いて、ライン型インクジェット記録装置により、以下の方法で画像を形成した。
【0152】
画像形成方法
図1に示されるライン記録方式のインクジェット記録装置を用いて、単色画像を形成した。インクジェット記録装置のインク供給系は、インクタンク、供給パイプ、ヘッド直前のサブインクタンク、フィルタ付き配管、およびピエゾヘッド(吐出用記録ヘッド)がこの順に連通して構成されている。そして、得られたインクを、インクジェット記録装置のインク供給系に供給し、インクタンクからヘッド部分までのインク供給系の全体を100℃に加温した。
【0153】
一方で、記録媒体として印刷用コート紙Aを準備し、温度制御部により25℃に調温した。そして、印刷用コート紙A上にインク滴を吐出させて、抜き文字と、5cm×5cmのベタ画像を形成した。その後、インクジェット記録装置の下流部に配置したLEDランプ(Phoseon Technology社製、8W/cm、395nm、water cooled unit)により紫外線を照射して、インクを硬化させて、画像を形成した。紫外線の照射は、コート紙表面から5mm離れた位置から行った。
【0154】
ピエゾヘッドは、解像度が360dpiのものを用いて、1滴の液滴量が2.0plとなるように印加電圧を調整し、1440dpi×1440dpiの解像度の画像を記録した。dpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。画像の形成は、23℃、55%RHの環境下で行った。
【0155】
そして、1)インクの出射安定性、2)文字画質、および3)ベタ画像の均一性を、以下の方法で評価した。
【0156】
1)インクの出射安定性
得られたインクを、インクジェット記録装置のピエゾヘッドから出射させたときの、ノズル欠を目視観察した。出射安定性は、以下の基準に基づいて評価した。
○:ノズル欠の発生が全く認められなかった
△:512個の全ノズルのうち、1〜4個のノズルでノズル欠が認められた
×:512個の全ノズルのうち、5個以上のノズルでノズル欠が認められた
【0157】
2)文字画質
前述の画像形成方法で、印刷用コート紙A上に、漢字「口、四、日、回、因、困、固、国、目、図、國」の抜き文字を印字した。抜き文字は、解像度1400dpi×1440dpi、3ポイント、4ポイントおよび5ポイントのMS明朝体とした。印字した文字画像を目視観察した。文字品質は、以下の基準に基づいて評価した。
◎:3ポイントの抜き文字全てが、細部まで明瞭に記録されている
○:3ポイントの抜き文字は一部しか判読できないが、4ポイントの抜き文字全てが判読可能である
△:4ポイントの抜き文字は一部しか判読できないが、5ポイントの抜き文字全てが判読可能である
×:5ポイントの抜き文字の中にも判読できないものがある
【0158】
3)ベタ画像の均一性
前述の画像形成方法で、印刷用コート紙A上に、1440×1440dpiの単色ベタ画像を形成した。得られた各画像について、1m印刷後に得られるベタ画像と、500m印刷後に得られるベタ画像のそれぞれに、白ヌケ(ドットの合一による未印字部分)がないかどうかを目視観察した。ベタ画像の画質の評価は、以下の基準で行った。△以上が実用上良好な範囲である。
○:白ヌケ無し
△:1箇所または2箇所で白ヌケが認められるが、実用上問題ないレベル
×:白ヌケが多数発生
【0159】
実施例1〜8および比較例1〜2の評価結果を表1に示す。表1における「余分な金属イオンの含有量」は、顔料の仕込み量から算出した値である。
【表1】

【0160】
表1に示されるように、顔料由来の余分な金属イオンの含有量が10質量ppm未満である実施例1〜8のインクは、いずれもゲル化温度が高く、25℃での粘度が比較的高いことがわかる。それにより、インクのピニング性が良好であり、得られる画像の画質も高いことがわかる。
【0161】
一方、顔料由来の余分な金属イオンの含有量が10質量ppm以上である比較例1のインクはゲル化温度が低く、ゲル化剤を含まない比較例2のインクはそもそもゲル化しないため、いずれも25℃での粘度が低いことがわかる。それにより、インクのピニング性が低下し、得られる画像の画質も低いことがわかる。
【0162】
実施例1〜8のインクのなかでも、実施例6〜8のインクはゲル化温度が低く、25℃での粘度も若干低めであることがわかる。実施例6および7インクは、ゲル化剤単体の融点が低いためと考えられる。実施例8のインクは、顔料分散剤の酸価とアミン価の合計が高すぎることから、顔料分散剤が余分な金属イオンと塩を形成し、ゲル化剤の融点を降下させているためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明の活性線硬化型インクジェット用インクは、余分な金属イオンに起因するゲル化不良が抑制され、良好なピニング性を有する。それにより、高速で高精細な画像を形成することができる。
【符号の説明】
【0164】
10、20 インクジェット記録装置
12 記録媒体
14、24 インク吐出用記録ヘッド
16、26 ヘッドキャリッジ
18 活性線照射部
19 温度制御部
27 ガイド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物、顔料、酸性基を有する顔料分散剤、ゲル化剤および光重合開始剤を含み、
前記重合性化合物、顔料、酸性基を有する顔料分散剤、ゲル化剤および光重合開始剤のうちいずれかを構成する金属イオン以外の金属イオンの含有量が10質量ppm未満であり、かつ
直径75mm、コーン角1.0°のコーンプレート型レオメータにより、25℃、剪断速度11.7/sにおいて測定される粘度が1000mPa・s以上である、活性線硬化型インクジェット用インク。
【請求項2】
前記酸性基を有する顔料分散剤の酸価が、5mgKOH/g以上50mgKOH/g未満である、請求項1に記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
【請求項3】
前記ゲル化剤の酸価とアミン価の合計が、0.01mgKOH/g以上10mgKOH/g未満である、請求項1または2に記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
【請求項4】
前記ゲル化剤は、ジアルキルケトンまたは脂肪酸エステルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
【請求項5】
前記顔料は、レーキ顔料である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
【請求項6】
前記インクが、温度によって可逆的にゾルゲル相転移するものであり、
直径75mm、コーン角1.0°のコーンプレート型レオメータにより、100℃から、降温速度0.1℃/s、剪断速度11.7/sで20℃に降温したときに、粘度が200mPa・sとなるゲル化温度が30℃以上100℃未満である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
【請求項7】
前記顔料の含有量は、前記インクに対して0.1〜15質量%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の活性線硬化型インクジェット用インク。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の活性線硬化型インクジェット用インクの液滴を、記録ヘッドから吐出させて記録媒体上に付着させる工程と、
前記記録媒体上に付着したインク滴に、活性線を照射して硬化させる工程と、
を含む、画像記録方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−64092(P2013−64092A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204754(P2011−204754)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】