説明

活性酸素発生剤

【課題】大気中や土壌、或いは、水中に存在するアンモニアやノックスなどの無機化合物や、有機化合物有機金属化合物などを分解することができるスーパーオキシドラジカルや過酸化水素、或いは、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素を発生させることができる活性酸素発生剤、および当該活性酸素発生剤を備える製品を提供する。
【解決手段】本発明は、活性酸素を発生させることができる活性酸素発生剤であって、一価の銅化合物を有効成分として含む。本発明の活性酸素発生剤は、組成物や構造物の設計の自由度が従来よりも高い。また、添加剤や特殊な装置などを必要としないため、活性酸素が容易に大気中や水中、或いは、土壌中などの環境で発生させることができ、これらの環境に存在する無機化合物や有機物、有機金属化合物などを容易に酸化分解することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スーパーオキシドラジカルや過酸化水素、或いは、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素を発生させることのできる活性酸素発生剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無機化合物、有機化合物、有機金属化合物による環境汚染が深刻な問題となってきている。具体的には、アンモニアや窒素酸化物であるノックス(NOx)などの無機化合物による大気や土壌、或いは、水の汚染が増加している。また、解熱・鎮痛剤のイブプロフェン(IP)、メフェナム酸(MA)、ジクロフェナクナトリウム(DF)、抗てんかん剤のカルバマゼピン(CBZ) などの医薬品が環境水中から高濃度で検出されており、様々な医薬品による環境汚染が明らかになってきている。医薬品の中でも、特に細菌などの微生物に作用する薬が、ヒトや畜産動物を介して環境中に排出されると、これらの薬剤に耐性を持つ細菌(薬剤耐性菌)が出現し、その薬剤耐性菌の遺伝子が環境中に存在する他の細菌に次々と伝達され、薬剤耐性菌が環境中に広がっていくことが指摘されている。また、TBTやTPTなどの有機スズ系化合物は内分泌攪乱物質として作用することも知られており、海洋汚染の大きな要因となっている。さらに、建材や内装材などから放散するホルムアルデヒドやトルエンをはじめとする揮発性有機化合物による頭痛やめまいなどのシックハウス症候群や、あらゆる環境において化学物質に過敏に反応してしまう化学物質過敏症などの健康障害なども問題になってきている。さらにまた、土壌はトリクロロエチレンやトリクロロエタンなどの塩素系有機溶剤やダイオキシン類などにより汚染されてきている。
【0003】
最近、これらの無機化合物、有機化合物や有機金属化合物を分解する方法として、スーパーオキシドラジカルや過酸化水素、或いは、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素を利用する方法が提案されている。これらの活性酸素は極めて酸化活性が高く、また、それらの寿命は非常に短命であることも知られている。したがって、これらの活性酸素を大気中や水中、或いは、土壌中で使用しても環境中には残存しないことから、二次的な環境汚染がない新たな環境浄化方法として注目されている。
【0004】
これらの活性酸素を発生させる方法としては、酸性のpH域で過酸化水素水に鉄(II)化合物を接触させてヒドロキシラジカルを発生させるフェントン反応を利用する方法や、酸化チタンや酸化タングステンなどの半導体微粒子に紫外線や可視光線を照射してスーパーオキシドラジカルやヒドロキシラジカルを発生させる光触媒体を利用する方法や、空気中や水中に存在するオゾンに紫外線を照射してヒドロキシラジカルを発生させる促進酸化法や、液体に超音波を照射して過酸化水素やヒドロキシラジカルを発生させる超音波キャビテーションを利用する方法や、白金や金などの貴金属を担持した電極を用いて海水や水を電気分解して過酸化水素やヒドロキシラジカルを発生させる方法などが知られている。
【0005】
これらの方法を利用した、様々な具体的なアンモニアやノックスなどの無機化合物や有機化合物、有機金属化合物を酸化分解する方法が提案されている。例えば、活性炭とフェントン反応を利用して有機物含有廃水を処理する方法(例えば、特許文献1)や、金属材料表面に水と接触すると活性酸素が発生するポリアニリンまたはポリアニリンの誘導体を被覆する方法(例えば、特許文献2)や、光触媒を担持した不織布を用いて排水中の有機物を分解して脱色する方法(例えば、特許文献3)などが挙げられる。さらに、オゾンと紫外線を利用した促進酸化法により水中に含有する環境ホルモンやダイオキシン類を分解する方法(例えば、特許文献4)や、電気分解により過酸化水素を発生させ、発生させた過酸化水素からヒドロキシラジカルを生成させてダイオキシン類を分解する方法(例えば、特許文献5)などが挙げられる。
【特許文献1】特開平10−277568号公報
【特許文献2】特開2002−071296号公報
【特許文献3】特開2006−192427号公報
【特許文献4】特開2002−210479号公報
【特許文献5】特開2006−231177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の活性酸素を発生させる方法や材料では、以下のような様々な問題がある。例えば、活性炭とフェントン反応を利用する方法では、pHを酸性域にすることが必要となり、そのため、土壌に酸と多量の過酸化水素水を添加することが必要となる。よって、土壌中に未反応の過剰の過酸化水素水と酸が残留し、それらの中和処理が必要となる。また、ポリアニリンやその誘導体を利用する方法では、水に含まれる溶存酸素が必要であり、溶存酸素が少ない環境では有機物分解に必要な十分な活性酸素が供給できない場合がある。さらに、光触媒を利用する方法では、紫外線が吸収される物質が存在したり、或いは、紫外線が当たらない場所では、活性酸素の発生が少なくなり、有機物の分解が阻害されてしまう。さらにまた、オゾンと紫外線を利用する方法では、オゾンと紫外線を照射する装置が必要となり、使用する環境が制約されるなどの問題がある。さらにまた、電気分解を利用する方法では、アノードとカソードの2種類の電極や、直流電源、或いは、給電用の配線が必要であり、設備が煩雑となったり、また、電力が供給できない環境では使用できないなどの問題があった。
【0007】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、スーパーオキシドラジカルや過酸化水素、或いは、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素を発生させることのできる、活性酸素発生剤を提供することを第1の目的とする。また、当該活性酸素発生剤を備える製品を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、第1の発明は一価の銅化合物を有効成分として含むことを特徴とする活性酸素発生剤を提供するものである。
【0009】
また、第2の発明は、上記第1の発明において、上記一価の銅化合物が、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、シアン化物、酸化物、水酸化物、錯化合物、およびチオシアン酸塩からなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする活性酸素発生剤を提供するものである。
【0010】
さらに、第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記一価の銅化合物が、CuCl、Cu2(CH3COO)2、CuS 、CuI、CuBr、CuOH、CuSCN、およびCu2Oからなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする活性酸素発生剤を提供するものである。
【0011】
さらにまた、第4の発明は、上記第1から第3のいずれか1つの発明の活性酸素発生剤が含有されている、または外面に固定されていることを特徴とする成形体を提供するものである。
【0012】
さらにまた、第5の発明は、上記1から第3のいずれか1つの発明の活性酸素発生剤が含有されている、または外面に固定されていることを特徴とする繊維構造体を提供するものである。
【0013】
さらにまた、第6の発明は、上記第1から第3のいずれか1つの発明の活性酸素発生剤が含有されている、または外面に固定されていることを特徴とするシート状部材を提供するものである。
【0014】
さらにまた、第7の発明は、上記第1から第3のいずれか1つの発明の活性酸素発生剤が含有されている、または外面に固定されていることを特徴とするフィルターを提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スーパーオキシドラジカルや過酸化水素、或いは、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素を発生させることができる活性酸素発生剤、および当該活性酸素発生剤を備える製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ブランクから得られたスペクトルと、ヨウ化銅粉末から得られたDMPO−OHのスピンアダクトのスペクトルを示す図である。
【図2】実施例2の活性酸素発生材が外面に固定された不織布から得られたDMPO−OHのスピンアダクトのスペクトルを示す図である。
【図3】メチレンブルーの水溶液、塩化銅(I)またはヨウ化銅(I)を分散させた水溶液の吸光度スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の活性酸素発生剤は、一価の銅化合物を有効成分として含む。
【0018】
本実施形態の活性酸素発生剤による活性酸素の発生機構については現在のところ必ずしも明確ではないが、一価の銅化合物が空気中の水分などと接触、溶解し、一価の銅イオンになると電子を放出して、一価の銅イオンよりも安定な二価の銅イオンになろうとするため、その時に放出された電子が複雑な連鎖反応を起こし、水に作用してスーパーオキシドラジカルや過酸化水素、或いは、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素が発生し、アンモニアやノックスなどの無機化合物や有機化合物、有機金属化合物を効率よく分解することができるものと考えられる。
【0019】
本実施形態の活性酸素発生剤は、有効成分である一価の銅化合物が、安定剤等を混合しなくとも活性酸素を容易に発生することができる。すなわち、本実施形態の活性酸素発生剤は、二価の鉄イオンを利用するフェントン反応や、酸化チタンや酸化タングステンなどの光触媒や、促進酸化法や、水や海水の電気分解法などの従来の活性酸素を発生させる材料や方法と比較して、より自由な形態で活性酸素を発生させる組成物や構造物の設計が可能となる。
【0020】
本実施形態において、有効成分である一価の銅化合物の種類については特に限定されないが、一価の銅化合物が、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、シアン化物、酸化物、水酸化物、錯化合物、およびチオシアン酸塩からなる群から少なくとも1種類選択されることが好ましい。このうち、一価の銅化合物が、CuCl、Cu2(CH3COO)2、CuS、CuI、CuBr、CuOH、CuSCN、およびCu2Oからなる群から少なくとも1種類選択されることが一層好適である。なお、本実施形態の活性酸素発生剤における一価の銅化合物の割合は特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0021】
本実施形態において、含有される一価の銅化合物の大きさは特に限定されないが、効率よく活性酸素を発生させるためには平均粒子径が1000μm以下の微粒子とすることが好ましい。また、本実施形態においては特に限定されず、当業者が適宜設定可能であるが、一価の銅化合物の粒子の大きさは1nm以上とすることが、粒子の製造上、取扱上および化学的安定性の観点より好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。また、吸着性を有する材料、例えば、シリカゲルや、メソポーラスシリカや、ゼオライトや、珪藻土や、石膏や、パイロサイト、モンモリロナイトなどの活性白土や、ケイ酸カルシウムや、ケイ酸アルミニウムや、炭や、活性炭や、カーボンナオチューブや、カーボンナノホーンや、ハイドロキシアパタイトや、鉄アスコルビン酸や、鉄フタロシアニン誘導体や、ギブサイト、ベーマイト、ギブサイトなどのアルミニウム水酸化物や、γ-アルミナ、δ-アルミナ、κ-アルミナなどの活性アルミナや、過酸化チタンや、酸化チタンや、水酸化チタンや、セリウムや、ジルコニアや、酸化鉄や、酸化スズや、酸化亜鉛などと混合し、これらに吸着された状態で保持される態様とすることもできる。本実施形態の活性酸素発生剤の形態は、粉末状、顆粒状、ブロック状、板状、ハニカム状などの目的に合った様々な形態とすることができる。
【0022】
また、本実施形態において、一価の銅化合物は、シリコーン樹脂や、PTFE、PVF、PVDF、FEP、PFAなどのフッ素系樹脂や、ポリ塩化ビニル樹脂や、ポリフッ化ビニリデン樹脂や、ポリビニルアルコール樹脂や、ポリ酢酸ビニル樹脂や、ポリイミド樹脂や、ポリアミドイミド樹脂や、ポリエーテルケトン樹脂や、ポリエーテルスルホン樹脂や、ポリフェニレンスルフィド樹脂や、ポリアセタール樹脂や、ポリエチレン樹脂や、ABS樹脂や、AS樹脂や、ポリプロピレン樹脂や、ポリスチレン樹脂や、PET樹脂や、ナイロン樹脂や、ポリカーボネート樹脂などに混練することもできる。該混練物は、紡糸や、フィルム状、板状、ペレット状、ハニカム状、ブロック状などの様々な形態に成形することができる。この場合、効率よく水に作用してスーパーオキシドラジカルや過酸化水素、或いは、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素を発生させるために、一価の銅化合物が均一に分散していることが好ましい。そのため、一価の銅化合物の粒子径は平均で1nm以上から10μm以下であることが好ましい。
【0023】
さらにまた、本実施形態において、一価の銅化合物は、シラン系モノマーやシラン系オリゴマーなどのシラン化合物や、有機高分子や有機モノマー、或いはオリゴマーなどのバインダーと混合され、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニアなどの無機化合物やアルミニウム、チタニウム、鉄、銅、亜鉛、マグネシウム、SUSなどの金属材料、或いは、ポリアセタール樹脂や、ポリエチレン樹脂や、ABS樹脂や、AS樹脂や、ポリプロピレン樹脂や、ポリスチレン樹脂や、PET樹脂や、ナイロン樹脂や、ポリカーボネート樹脂などの合成樹脂や、麻、絹、綿、レーヨンなどの天然繊維などからなる織物、編物、不織布などの繊維構造体、フィルム、シートなどのシート状部材などからなる基材の外面に、点状、島状、薄膜状の形態で固定されるようにしてもよい(以下、基材の外面に固定されたこれら組成物を、外面固定組成物と称す)。
【0024】
外面固定組成物に含まれる一価の銅化合物の割合は、当業者が適宜設定できるが、1.0質量%から90.0質量%含まれていることが好ましい。1.0質量%未満では、アンモニアやノックスなどの無機化合物や有機化合物、有機金属化合物を効率よく分解することが難しくなる。また、90.0質量%より多い場合では、分解効率は高くなるものの、基材表面から一価の銅化合物を含む外面固定組成物が剥離し易くなるので好ましくはない。
【0025】
シラン系モノマーとしては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトシキシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトシキシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリアトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリアトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、Si(OR1)4(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を示す)で示されるアルコキシラン化合物、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランや、R2nSi(OR3)4n(式中、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、例えば、メチルトリルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0026】
また、シラン系オリゴマーとしては、市販されている信越化学工業株式会社製のKC-89S、KR-500、X-40-9225、KR-217、KR-9218、KR213、KR510などが挙げられる。これらのシラン系オリゴマーは単独、或いは2種類以上混合して用いることができ、さらに、前述のシランモノマーの1種または2種以上と混合して用いるようにしてもよい。
【0027】
さらに、有機高分子としては、例えば合成樹脂である、ポリエステル樹脂や、アミノ樹脂や、アミノアルキッド樹脂や、ニトロセルロース樹脂や、エポキシ樹脂や、メラミン樹脂や、フタル酸樹脂や、ポリウレタン樹脂や、アクリル樹脂や、水溶性樹脂や、ビニル系樹脂や、フッ素樹脂や、アクリルフッ素樹脂や、シリコ−ン樹脂や、シリコーンアクリル樹脂や、繊維素系樹脂や、フェノール樹脂や、キシレン樹脂や、トルエン樹脂や、ひまし油、亜麻仁油、桐油などの乾性油などを用いることができる。
【0028】
さらにまた、モノマー及びオリゴマーとしては、不飽和結合部を有する単官能、2官能、多官能のビニル系モノマー、例えば、アクリル酸、メチルエチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、イタコン酸、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどが用いられる。
【0029】
本実施形態の活性酸素発生剤は、公知の方法により、例えば成形体、繊維構造体、シート状部剤、およびフィルターに含有、またはその外面に固定させることができる。なお、本明細書において、活性酸素発生剤の含有とは、当該活性酸素発生剤が外面に露出している場合も含む概念である。
【0030】
このうち、フィルターを例に挙げて説明すると、フィルターの基材は、不織布や、マルチフィラメント、モノフィラメントで織られたメッシュや布、或いは、編み物や、フェルトや、繊維状の物質からなるシートで形成されたハニカム状構造体など、通気性を有する基材が用いられる。これらの通気性を有する基材は、アルミニウム、チタニウム、銅、真鍮、鉄、SUS、タングステンなどの金属や、カーボン繊維や、綿、麻、羊毛、絹、竹などの天然樹脂や、ポリエステルや、ポリエチレンや、ポリプロピレンや、ポリ塩化ビニルや、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートや、ポリテトラメチレンテレフタレートや、ナイロンや、アクリルや、ポリテトラフロロエチレンや、ポリビニルアルコールや、ケブラーや、ポリアクリル酸や、ポリメタクリル酸メチルや、レーヨンや、キュプラや、テンセルや、ポリノジックや、アセテートや、トリアセテートや、シリコーン樹脂や、PTFE、PVF、PVDFなどのフッ素樹脂などで形成することができる。
【0031】
本実施形態に係るフィルターの基材には、公知の方法により、活性酸素発生剤が含有または外面に固定されている。例えば、活性酸素発生剤を高分子材料に添加後、混練、紡糸し、その後にフィルターを形成するようにしてもよい。また、シラン化合物や、高分子からなる樹脂やプレポリマー、モノマー、オリゴマーなどと混合して、金属や高分子繊維などにより形成したフィルターの外面に、点状、島状、薄膜状の形態を有するように固定してもよい。さらに、ゼオライトやアルミナなどの多孔質無機材料へ固定した後に繊維構造物に固定して、フィルターを構成することもできる。
【0032】
このほか、成形体にあっては、例えば成形された基材の外面にバインダー等を用いて本実施形態の活性酸素発生剤を固定するようにしてもよい。また、繊維構造体にあっては、例えば本実施形態の活性酸素発生剤を高分子材料に添加後、混練、紡糸し、成形することにより、本実施形態の活性酸素発生剤が含有される繊維構造体とすることができる。さらに、フィルム部材にあっては、例えば、粉末状や顆粒状の活性酸素発生剤を用途に応じた配合条件のもとで配合し、フィルムの基材に塗工し、その後ロール圧延などの製法により成形して得ることができる。
【0033】
本実施形態の活性酸素発生剤において分解できる無機化合物、有機物や有機金属化合物は、例えば固体状や、液体状や、気体状などの様々な形態で、大気中や、水中や、土壌などの環境に存在するCO、アンモニア、ノックスなどの無機化合物やホルムアルデヒド、エタノール、アセトン、酢酸エチル、トルエン、キシレンなどのVOCや、エチレンガス、ダイオキシン類の有機化合物、トリクロロエチレン、トリクロロエタンなどの塩素系有機溶剤や、TBTやTPTなどの有機金属化合物、河川や湖水、或いは、海水中に含有する微量の抗生物質や、野菜を多量に保存する倉庫の鮮度を低下させるエチレンガスなどの分解など、様々な無機化合物や有機物、或いは、有機金属化合物などを挙げることができる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の活性酸素発生剤は、スーパーオキシドラジカルや過酸化水素、或いは、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素を効率よく発生することができる。よって、室内やトイレや冷蔵庫などの脱臭剤、マスク、防毒マスク、エアコン用フィルター、エアコン用フィン材、空気清浄機用フィルター、掃除機用フィルター、汚水処理用フィルター、下水道用フィルター、飲料水浄化用フィルター、ベッド用シーツ、ペット用消臭シートや消臭剤、カーペット、衣服、防虫網、鶏舎用ネット、壁紙や天井などの内装材、カーテン、ブラインド、かつら、靴の中敷き、靴下など、様々な種類の材料または製品に本実施形態の活性酸素発生剤を含有、または外面に固定させることで、該材料または製品において、スーパーオキシドラジカルや過酸化水素、或いは、ヒドロキシラジカルなどの活性酸素を発生させることができる。すなわち、本実施形態によれば、活性酸素を発生させることで、例えば付着するなどした様々な無機化合物や有機物、或いは、有機金属化合物などを分解できる、活性酸素発生剤を備える材料、或いは製品を提供することができる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
<ヒドロキシラジカル発生の検証>
ヒドロキシラジカル発生の検証はスピントラッピング法により、ラジカルトラップ剤として5,5 dimethyl-1-pyrrplinr-N-oxide(DMPO)(LABOTEC製) を用いて実施した。一価の銅化合物としては、市販されている塩化銅粉末、ヨウ化銅粉末、チオシアン化銅粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級)をジェットミルで粉砕した。はじめに、DMPOを超純水(和光純薬製 LC/MS 用)でまず4 倍に希釈して約2時間放置し、その後、さらに 30 倍希釈になるまで希釈してフラットセル (ES-LC12) を用い、日本電子(株)製、電子スピン共鳴装置 JES-RE3Xによりブランクを測定した(ブランク測定)。次に、DMPOを加えた超純水使用液を4 倍に希釈して約1時間放置し、溶液1とした。また、粉砕したそれぞれの一価の銅化合物の一部を用いて超純水中に超音波分散させた溶液を作成し、溶液2とした。その後、DMPOが 30 倍希釈・試料粉末が約 2.5 wt% となるように、溶液1と溶液2を混合し、3分程度軽く攪拌した後、遠心分離で上澄み液のみを採取し、約10分後にフラットセルにて、ヒドロキシラジカルの測定を行った。その結果、ブランク測定では、DMPO−OHのスピンアダクトのスペクトルが観測されなかったが、一価の銅化合物からは典型的なDMPO−OHのスピンアダクトのスペクトルが、全ての一価の銅化合物から観測され、ヒドロキシラジカルが発生していることが検証された。尚、図1にはブランクから得られたスペクトルと、例示としてヨウ化銅粉末から得られたDMPO−OHのスピンアダクトのスペクトルを示す。
【0037】
(実施例2)
<ヨウ化銅微粒子を固定した不織布の作製>
実施例1の粉砕したヨウ化銅微粒子と3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株製、KBM503)を7:3の重量比で混合した後、エタノールに混合物の割合が1.0質量%、3.0質量%になるようにホモジナイザーで分散し、ヨウ化銅微粒子を分散した2種類のスラリーを作製した。作製したスラリーに市販の20g目付のレ−ヨン製不織布を清漬し、過剰のスラリーを除去して120℃で5分間乾燥し、ヨウ化銅微粒子を固定した不織布を得た。尚、混合物の割合が1.0質量%であるスラリーを用いて得られた、ヨウ化銅微粒子を固定したレ−ヨン製不織布を実施例2−1と、また、混合物の割合が3.0質量%であるスラリーを用いて得られた、ヨウ化銅微粒子を固定したレ−ヨン製不織布を実施例2−2とし、試験に用いた。
【0038】
(比較例1)
実施例2で用いた市販の20g目付のレ−ヨン製不織布を処理せずにそのままの状態で試験に用いた。
【0039】
<ヒドロキシラジカルの発生の検証>
DMPOを加えた超純水使用液を30倍に希釈して約1時間放置した。次に、実施例2および比較例1の不織布をハサミでカットし、DMPOを30倍に希釈した溶液に、該カットした不織布を約2g浸した。次に、3分程度軽く攪拌した後、遠心分離で上澄み液のみを採取し、約10分後にフラットセルにて、ヒドロキシラジカルの測定を行った。その結果、ヨウ化銅微粒子を固定したレーヨン製不織布(実施例2−1、実施例2−2)からは典型的なDMPO−OHのスピンアダクトのスペクトルが観測されたが、比較例1のヨウ化銅微粒子が固定されていないレーヨン製不織布からは、DMPO−OHのスピンアダクトのスペクトルが観察させなかった。測定で得られたスペクトルを図2に示す。この結果より、実施例2−1、2−2共にラジカルの発生が認められ、さらに濃度によって発生量も増加していることが併せて確認できた。
【0040】
<メチレンブルーの分解試験>
メチレンブルー(和光純薬工業株式会社製 試薬特級)を希釈して、10mg/Lのメチレンブルー水溶液を作成した。次に、ディスポセル(型番BRA759007,10×10×45mm)の中に、メチレンブルー水溶液2.4mLと実施例1の粉砕した塩化銅微粒子またはヨウ化銅微粒を0.1gいれた。ディスポセルに栓をした後、軽く上下に振い、1時間静置させた。その後、分光光度計を用いて吸光度を調べることで、メチレンブルーの色素分解性を測定した。図3に、メチレンブルーの水溶液、塩化銅(I)またはヨウ化銅(I)を分散させた水溶液の吸光度スペクトルを示す。
【0041】
以上の結果より、塩化銅微粒子またはヨウ化銅微粒子を分散させた液ではメチレンブルーに由来する吸収による吸光度が低くなっている。したがって、両者の微粒子、すなわち本発明の活性酸素発生剤によってメチレンブルーが分解されたものと考えられる。
【0042】
<アンモニアガスの分解試験>
実施例2のヨウ化銅微粒子を固定したレーヨン製不織布(実施例2−1)、および比較例1のヨウ化銅微粒子を固定しない不織布を10×10cmの大きさに裁断してテドラーパックに入れた後、95.4ppmの濃度のアンモニアガス/窒素バランスを同テドラーパック内に5L注入した。次に、テドラーパック内のアンモニアガス濃度をアンモニアガス検知管(株式会社ガステック製,3La)を用いて測定した。尚、コントロールは不織布がない場合とし、結果を表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、実施例2−1のヨウ化銅微粒子を固定したレーヨン製不織布をいれたテドラーパックでは、比較例1をいれたテドラーパックと比較して、アンモニア濃度が大きく減少している。したがって、本発明の活性酸素発生剤によってアンモニアが分解されたものと考えられる。また、以上の結果より本発明の活性酸素発生剤は、水溶液中および気体中の様々な環境下で使用できることも理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一価の銅化合物を有効成分として含むことを特徴とする活性酸素発生剤。
【請求項2】
前記一価の銅化合物が、塩化物、酢酸物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、シアン化物、酸化物、水酸化物、錯化合物、およびチオシアン酸塩からなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする請求項1に記載の活性酸素発生剤。
【請求項3】
前記一価の銅化合物が、CuCl、Cu2(CH3COO)2、CuS、CuI、CuBr、CuOH、CuSCN、およびCu2Oからなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の活性酸素発生剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の活性酸素発生剤が含有されている、または外面に固定されていることを特徴とする成形体。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1つに記載の活性酸素発生剤が含有されている、または外面に固定されていることを特徴とする繊維構造体。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1つに記載の活性酸素発生剤が含有されている、または外面に固定されていることを特徴とするシート状部材。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1つに記載の活性酸素発生剤が含有されている、または外面に固定されていることを特徴とするフィルター。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−72692(P2011−72692A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229140(P2009−229140)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】