説明

活性酸素発生材料用組成物および活性酸素発生材料

【課題】優れた活性酸素発生能を有する活性酸素発生材料を与え得る活性酸素発生材料用組成物およびこれから得られる活性酸素発生材料を提供すること。
【解決手段】ポリアニリンおよび導電補助剤としてケッチェンブラックを、例えば、ポリアニリン:ケッチェンブラック=1:0.1〜1:1(質量比)で含む活性酸素発生材料用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素発生材料用組成物および活性酸素発生材料に関し、さらに詳述すると、活性酸素発生剤としてポリアニリンを含有する活性酸素発生材料用組成物およびこれから得られる活性酸素発生材料に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、それ単独で、あるいは過酸化水素を鉄イオンなどと接触させることによって、OHラジカルなどの活性酸素が発生することがわかっており、塩素、オゾン、紫外線、光触媒などとともに確実な効果が期待できるために、殺菌、消毒用薬品として様々な分野で使用されている。
【0003】
一方、ポリアニリンは、電子の授受により還元型と酸化型の形態が可逆的に変化する導電性高分子であり、これが陰極に存在すると、酸素を還元して活性酸素とする電極反応を促進するレドックス触媒として働くことから、水(中の溶存酸素)と接触させて活性酸素や過酸化水素を発生させるために用いられている。
例えば、特許文献1には、水中等に生息する微生物等の殺菌に有用な活性酸素を発生可能な、ポリアニリンを含有する活性酸素発生剤と、それを用いた活性酸素発生方法が開示されている。
特許文献2には、飲料水や冷却水等の用水中に、陽極と、表面にポリアニリンを接触させた陰極とを配置し、両極間に通電することで発生するスーパーオキシドを殺菌に利用する方法およびその処理装置が開示されている
【0004】
特許文献3および4には、導電性物質の表面を、導電性物質の粉末や繊維、バインダおよびポリアニリンからなる導電性組成物にて被覆し、この被覆を陰極として水中で通電を行って、スーパーオキシドアニオンラジカルを発生させる技術が開示されている。
特許文献5には、陽極と、活性酸素発生能を有するポリアニリンを担持した陰極とを備え、両電極の間に、液通過性または液浸透性で厚さ0.005〜5mmのスペーサを介在させた活性酸素発生装置が開示されている。
特許文献6には、電極と、活性酸素発生能を有するポリアニリンを表面に担持した粒子とを有する活性酸素発生装置が開示されている。
【0005】
ところで、上記特許文献1〜6で開示された技術のように、電圧の印加下において、未ドープのポリアニリンを活性酸素発生材料として用いる場合、導電補助剤が必須となる。
これら導電性の補助剤としては、一般的に、粒子状や繊維状のカーボン材料が用いられる。
しかし、この補助剤として、特許文献3に記載されているような一般的なカーボンブラックを用いた場合、活性酸素発生能が低い、もしくはほとんど示さないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−175801号公報
【特許文献2】特開平10−99863号公報
【特許文献3】特開平10−316403号公報
【特許文献4】特開平11−79708号公報
【特許文献5】特開平11−158675号公報
【特許文献6】特開2003−181191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、優れた活性酸素発生能を有する活性酸素発生材料を与え得る活性酸素発生材料用組成物およびこれから得られる活性酸素発生材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
高性能の活性酸素発生材料を得るには、系内で電荷移動が起こり易い状態でなければならず、材料自身の導電性が高いことが求められる。また、これと同時に、酸素の還元は電極表面で起こる反応であると考えられるため、効率的に酸素を還元するには、材料の表面積が大きいことが望まれる。
そこで、本発明者らは、従来のファーネス法で作製したカーボンブラックより比表面積が比較的高く、DBP(ジブチルフタレート)吸収量が大きいという特徴を有するケッチェンブラックに着目し、鋭意検討を重ねた結果、ポリアニリンの導電補助剤としてケッチェンブラックを用いることで、活性酸素発生能に優れた活性酸素発生材料が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. ポリアニリンおよびケッチェンブラックを含むことを特徴とする活性酸素発生材料用組成物、
2. 前記ポリアニリンおよびケッチェンブラックが、質量比でポリアニリン:ケッチェンブラック=1:0.1〜1:1で含まれる1の活性酸素発生材料用組成物、
3. 前記ポリアニリンおよびケッチェンブラックが、質量比でポリアニリン:ケッチェンブラック=1:0.4〜1:0.6で含まれる2の活性酸素発生材料用組成物、
4. 1〜3のいずれかの活性酸素発生材料用組成物を硬化させてなる活性酸素発生材料
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、活性酸素発生能に優れた活性酸素発生材料を与え得る活性酸素発生材料用組成物およびこれから得られる活性酸素発生能に優れた活性酸素発生材料を提供できる。
本発明の組成物を用いることで、活性酸素の発生能が大幅に向上したポリアニリン含有活性酸素発生材料の作製が可能になる。
また、この材料は、熱交換器、蒸発器、ヒーター、オイルクーラー、ラジエター、コンデンサーなどの各種機器へ好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】活性酸素発生能を測定するためのセルを示す模式図である。
【図2】実施例1および比較例1〜3で作製した被膜の活性酸素発生試験結果を示すグラフであり、縦軸は6時間2.5Vを印加した後の過酸化水素の発生濃度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る活性酸素発生材料用組成物は、ポリアニリンおよびケッチェンブラックを含むものである。
本発明において、ポリアニリンとしては、特に限定されるものではなく、従来公知の種々のポリアニリンを用いることができ、市販品や、例えば、特許第2855206号公報記載の製造方法等の酸化剤を用いる化学的重合法や、電気化学的重合法等の各種製法によって得られたポリアニリンを用いることができ、その形態は、酸化型、還元型のいずれでもよい。
【0013】
本発明の組成物は、導電補助剤としてケッチェンブラックを含有する。
上述のように、ケッチェンブラックは、比較的大きな比表面積およびDBP吸収量を有しているが、これにはケッチェンブラック自身の特異な構造が影響していると考えられる。通常、カーボンブラックでは、ストラクチャーが発達するほど粒子間空隙が増加し、それによりDBPの吸収量が増大するという経験則に基づいた代用特性であるが、ケッチェンブラックの場合は、ストラクチャーの発達レベルから想定されるDBP吸収量より高い値を示す。
この原因としては、粒子に細孔が多く、その分粒子が軽くなっているため、単位質量当たりの粒子個数が多いこと、また細孔の中で比較的大きい部分にもDBPが吸収されることが考えられる。
【0014】
さらに、この細孔容積が大きく、粒子密度が低いというケッチェンブラックの特徴は、ゴムや樹脂に一定量配合した場合の抵抗が他のカーボンブラックよりも低くなるという特性を生じさせている。
その原因としては、ケッチェンブラックの単位質量当たりの粒子個数が増加することや、一定量のポリマー分子が混在した場合、細孔にポリマー分子が入り込むことにより、粒子間の距離が小さくなることが考えられる。
以上のような特性から、ケッチェンブラックを添加することで、他のカーボン材料を添加した場合より高い性能を有する活性酸素発生材料の提供が可能になるものと考えられる。
【0015】
本発明の活性酸素発生材料用組成物において、ポリアニリンおよびケッチェンブラックの含有量は、特に限定されるものではないが、得られる活性酸素発生材料の活性酸素発生能を効率的に高めることを考慮すると、質量比でポリアニリン:ケッチェンブラック=1:0.1〜1:1が好ましく、1:0.4〜1:0.6がより好ましい。
【0016】
本発明の活性酸素発生材料用組成物は、上述した各成分を任意の順序で混合して調製することができるが、ポリアニリンと有機溶媒とを混合してなる液体中に、ケッチェンブラックを添加することが好ましい。
【0017】
使用可能な有機溶媒としては、例えば、トルエン、p−キシレン、o−キシレン、m−キシレン、エチルベンゼン、スチレン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコ−ルモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、1−オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、トリメチレングリコール、1−メトキシ−2−ブタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ベンジルアルコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクタム、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルノーマルブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸イソプロピルケトン、酢酸ノーマルプロピル、酢酸イソブチル、酢酸ノーマルブチル、乳酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール、アリルアルコール、ノーマルプロパノール、2−メチル−2−ブタノール、イソブタノール、ノーマルブタノール、2−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−エチルヘキサノール、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N−シクロヘキシル−2−ピロリジノン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N−ホルミルモルホリン、N−アセチルモルホリン、N−メチルモルホリン、N−アクリロイルモルホリン、N−(3−アミノ)モルホリン等が挙げられるが、ポリマーの溶解性の観点から、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、N−アクリロイルモルホリン等が好適である。
【0018】
組成物中の固形分濃度は、目的とする材料(膜)の厚みに応じて適宜設定すればよく、例えば、固形分濃度0.1〜50質量%程度、好ましくは0.1〜20質量%程度とすればよい。
なお、本発明においては、本発明の効果を損なわない限りにおいて、その他の成分、例えば、レベリング剤、界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0019】
以上説明した本発明の活性酸素発生材料用組成物は、加熱等によって溶媒を除去し、活性酸素発生材料とすることができ、例えば、基材に塗布し、その後、加熱することで所望の膜を形成することができる。
組成物の塗布方法は任意であり、例えば、スピンコート法、ディップ法、フローコート法、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、スリットコート法、ロールコート法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法等の方法を採用できる。
【0020】
また、基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック、ガラス、石英、セラミックス等からなる基材を挙げることができる。
加熱する場合、その温度は、用いる溶媒によって変動するものであるため一概には規定できないが、通常、40〜400℃程度である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
N−メチル−2−ピロリドン(純正化学(株)製、純正特級)(以下、NMPという)441g、およびエチレングリコールモノブチルエーテル(東京化成工業(株)製)50gの混合溶媒中に、特許第2855206号公報の参考例1記載の方法にて合成したエメラルジンベース型ポリアニリン(Mw:53000、Mn:19000)9gを加え、45分間撹拌した。
さらに、この液体に、導電補助剤としてケッチェンブラック4.5gを添加し、30分間撹拌した後、この液を容器ごと氷冷しながら、プローブ型超音波照射機(hielscher社製 UIP2000)で1000Wの超音波を5分間ずつ2回照射することでエメラルジンベース/ケッチェンブラックの混合分散液(活性酸素発生材料用組成物)を調製した。
これをPET基材にワイヤーバー((株)エスエムテー製、No.22、ウェット膜厚50μm)およびワイヤーバーコーター((株)エスエムテー製、PM−9050MC)を用いて塗布した後、100℃にて20分間乾燥し、活性酸素発生材料被膜を作製した。
【0023】
[比較例1]
ケッチェンブラックをカーボンブラックに変更した以外は、実施例1と同様にして活性酸素発生材料用組成物および活性酸素発生材料被膜を作製した。
【0024】
[比較例2]
ケッチェンブラックをマルチウォールカーボンナノチューブに変更した以外は、実施例1と同様にして活性酸素発生材料用組成物および活性酸素発生材料被膜を作製した。
【0025】
[比較例3]
NMP441g、エチレングリコールモノブチルエーテル50gの混合溶媒中に、実施例1と同一のエメラルジンベース型ポリアニリン(Mw:53000、Mn:19000)9gを加え、45分間撹拌を行った。この液を容器ごと氷冷しながら、プローブ型超音波照射機(hielscher社製 UIP2000)で1000Wの超音波を5分間ずつ2回照射することでエメラルジンベースの分散液(活性酸素発生材料用組成物)を調製した。
これをPET基材にワイヤーバー((株)エスエムテー製、No.22、ウェット膜厚50μm)およびワイヤーバーコーター((株)エスエムテー製、PM−9050MC)を用いて塗布した後、100℃にて20分間乾燥し、活性酸素発生材料被膜を作製した。
【0026】
〈表面抵抗値測定〉
上記実施例1および比較例1〜3で作製した被膜を、2.5cm×5.5cmで各2枚ずつ切り取って試験片とし、Loresta IP TCP−T250(三菱化学(株)製)を使用して表面抵抗値を測定した。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
〈活性酸素発生量測定〉
活性酸素の発生量を直接測定することは困難であるため、活性酸素によって発生する過酸化水素の発生量を、図1に示される測定セル1を用いて定量した。
上記実施例1および比較例1〜3で作製した被膜を、2.5cm×5.5cmで各2枚ずつ切り取って、試験片とした。切り取った試験片は塗工していない面同士を重ねて測定セル1の陰極部10に用い、陽極部20には、Carbon felt(A4サイズ,2t)(有限会社筑波物質情報研究所販売、日本カーボン(株)製)を用い、電源部30には、直流安定化電源(AD−8735D、(株)エー・アンド・デイ製)を用い、活性酸素発生槽40には水道水50gを入れた。
2.5Vの直流電圧を6時間印加した後の過酸化水素発生量を半定量イオン試験紙(Quautofix(登録商標) Peroxide25(MACHEREY−NAGEL GmbH&Co.KG製)の色の変化から読み取った。それぞれの活性酸素発生量を図2に示す。
【0029】
図2に示されるように、実施例1および比較例1で作製した被膜からは過酸化水素の発生が確認されたが、比較例2および3で作製した被膜からは過酸化水素の発生が確認されなかった。
また、図2に示されるように、導電補助剤としてカーボンブラックを用いている比較例1の被膜に比べ、ケッチェンブラックを用いている実施例1の被膜は、活性酸素の発生能が著しく向上していることがわかる。
さらに、実施例1および比較例1と比較例2および比較例3との結果から、活性酸素発生能を向上させるための導電補助剤としては、カーボンナノチューブのような繊維状のカーボン材料よりカーボンブラックやケッチェンブラックの方が有用であることがわかる。
【符号の説明】
【0030】
1 測定セル
10 陰極部
20 陽極部
30 電源部
40 活性酸素発生槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニリンおよびケッチェンブラックを含むことを特徴とする活性酸素発生材料用組成物。
【請求項2】
前記ポリアニリンおよびケッチェンブラックが、質量比でポリアニリン:ケッチェンブラック=1:0.1〜1:1で含まれる請求項1記載の活性酸素発生材料用組成物。
【請求項3】
前記ポリアニリンおよびケッチェンブラックが、質量比でポリアニリン:ケッチェンブラック=1:0.4〜1:0.6で含まれる請求項2記載の活性酸素発生材料用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の活性酸素発生材料用組成物を硬化させてなる活性酸素発生材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−42533(P2011−42533A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192072(P2009−192072)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】