説明

流れ加速腐食減肉速度の算出方法及び余寿命診断法

【課題】温水による流れ加速腐食やエロージョン・コロージョンによる減肉速度のpH依存性を評価し、pHを変化させた場合の寿命を高精度に予測すること。
【解決手段】50〜250℃の流動水による流れ加速腐食(FAC)による減肉速度を算出する方法において、FAC減肉速度を、FAC減肉速度=A×Exp(B×pH)×Fe の式を用いて算出し、ここで、pHは流動水のpH値であり、Feは流動水中のFeイオン濃度であり、A,B,Cは係数であって、係数Aはプラントに特有のプラント係数であり、減肉量の実測値、運転時間、水質pH測定値及び水質Fe濃度測定値からなる過去の運転データから算定するものである。また、上記式で算出したFAC減肉速度と限界肉厚までの残肉厚とから余寿命を算定すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電設備、火力発電設備、ガスタービン発電を組合せたコンバインドサイクル排熱回収ボイラ、化学装置の熱交換器などにおいて、流動温水又は流動高温水による炭素鋼及びCr量1%以下のCrMo鋼配管や伝熱管での流れ加速腐食損傷の余寿命診断法並びに抑制法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電設備(加圧水型、沸騰水型、高速増殖炉、HTTR)、火力発電設備、排熱回収ボイラ(HRSG)、化学装置での熱交換器など流動温水又は流動高温水を取扱う機器、配管及び伝熱管では、流れ加速腐食(Flow Accelerated Corrosion:FAC、エロージョン・コロージョンと呼ばれることもある)と称される減肉損傷が生じる得る。この材料損傷は、温度が50〜250℃、材質が炭素鋼、水質が低溶存酸素、PHが9.3以下の流動水の組合せで生じるといわれているが詳細は明らかになっていない。
【0003】
同じ構造や水質条件においても、減肉速度は0から1mm/10kh程度にばらつき、局所的かつ突発的に生じるため、予測や管理が困難な状況にある。
【0004】
図8は、代表的な排熱回収ボイラのシステム構成と水−蒸気系統を示す。HRSGは、ガスタービンからの排ガス中の排熱を回収するため、節炭器、蒸発器、過熱器、ドラム、及び関連機器と配管を組合せ等から構成されている。図8によると、不図示のガスタービンからの排ガスの上流側から順に、高圧過熱器11、低圧過熱器10、高圧蒸発器9、脱硝装置14、高圧節炭器7、低圧蒸発器5、低圧節炭器3が配列設置され、蒸気タービン12から排出された蒸気を復水器13で復水して、低圧給水ポンプ2で低圧節炭器3に供給し、さらに、高圧給水ポンプ6で高圧節炭器7に供給してドラムDに送り込むように構成されている。
【0005】
HRSGの節炭器系では、流動高温水による流れ加速腐食(FAC)と称される減肉損傷が生じ得る。この材料損傷の詳細は必ずしも明らかになっておらず、特に、流動や流速の影響に関しては明確になっておらず、低流速域でも形状不連続部などで予想を越えてFACが発生することがある。
【0006】
図4は、ベンド管を代表とした場合の流れ加速腐食のモデルとその要因を示す。図4において、温度、溶存酸素濃度、pH及びN濃度などの水質条件で脆弱な酸化皮膜が生成することを表し、流動水によって酸化皮膜の離散及び腐食発生が生じ、減肉する現象を図示している。また、減肉は懸濁摩耗物質、渦流、偏流によって加速し、偏流部では、渦流や循環流ができやすく、損傷面はディンプルの並んだリップルマーク(風紋や砂紋状)を呈することが多い。
【0007】
エロージョン・コロージョンの防止又は寿命予測法の従来技術として、例えば、特許文献1に示すように、pH及びアンモニア濃度をコントロールしてアルカリ腐食及びエロージョン・コロージョンを防止することが提起されている。また、従来技術として、例えば、特許文献2に示すように、エロージョン・コロージョンによる配管板厚測定データをデータベース化管理し、寿命予測することが提案されている。
【特許文献1】特開2002−180804号公報
【特許文献2】特開2001−280599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5は、本願の発明者が調査収集した流動温水又は高温水による流れ加速腐食速度を温度で整理した結果である。流れ加速腐食は、Chexalらの報告(B.Chexal他:EPRI Report TR−106611−Rl 1998−7)と同様に、50〜250℃の温度範囲で顕著になっており、150℃でピークになっている。図5は、水質pH9.1〜9.2、平均流速2〜4m/sの部位のデータであるが、図5から明らかなように同じ温度でも減肉速度には大きなばらつきがあり、温度や水質条件から一概に減肉速度を算定できないという課題がある。
【0009】
定期検査などで減肉が検出された場合、設計上必要とする肉厚(設計必要肉厚又は限界肉厚)までの裕度で余寿命を診断する。例えば、初期肉厚12mm、設計必要肉厚(限界肉厚)6mm、10年間運転した後の肉厚8mmの場合、減肉速度=(12−8)/10=0.4mm/年、余寿命=(8−6)/0.4=5年というように算出される。
【0010】
次回定期検査までに設計必要肉厚以下になると想定される場合、現定検期間中に設備更新しなければならないが、定検期間や材料準備上、設備更新できないことがあり、その場合は、減肉速度の低下や運転時間の短縮などの延命策を施す必要がある。
【0011】
流れ加速腐食速度を低下させる最も一般的な手法は、水質pHの上昇であり、PHを9.4以上にすることにより実用上防止が可能であることが知られており、例えば、Bignold et al:Proc 8th International Conference on Metallic Corrosion、Mainz 1981を参照すればよい。そこで、原子力、火力及びHRSG等での水処理は、アンモニア(NH)及びヒドラジン(N)を添加し、pH調整と溶存酸素濃度の低減を図っている。しかしながら、高pHにし過ぎると、NH及びNが分解して生じたNHが系統上、蒸発器、過熱器及びタービンを経由して復水器に入り、復水器材料である鋼合金に対してアンモニアアタックを生じさせるので、pH上昇策を即採用することはできないという事情がある。また、復水純水器(コンデンサーデミネライザー:コンデミとも称される)を備えたプラントでは、pHの上昇はイオン化物の上昇に繋がり、イオン交換樹脂の再生頻度が増す課題が生じる。
【0012】
一方、従来から流れ加速腐食やエロージョン・コロージョンなどの流動水による減肉速度は経時的に変化しないとして、前述のように余寿命を計算してきたが、発明者らの経験では減肉速度が経時的に増加し、従来の定速度評価では非安全側の診断になるという事態が考えられる。
【0013】
また、上述した特許文献1及び2に開示の技術は、水処理による減肉防止法又は実側データの解析による寿命予測法であって、減肉速度の経時変化について考慮が払われていない。
【0014】
本発明の目的は、高温水による流れ加速腐食やエロージョン・コロージョンによる減肉速度のpH依存性を評価、診断し、pHを変化させた場合の寿命を高精度に予測する手法又は減肉速度の経時変化を考慮した高精度余寿命診断法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
50〜250℃の流動温水又は流動高温水による流れ加速腐食(FAC)による減肉速度を算出する方法において、
FAC減肉速度を、FAC減肉速度=A×Exp(B×pH)×Fe の式を用いて算出し、
ここで、pHは前記流動温水又は流動高温水中のpH値であり、Feは前記流動温水又は流動高温水中のFeイオン濃度であり、A,B,Cは係数であって、係数Aはプラントに特有のプラント係数である流れ加速腐食減肉速度の算出方法。
【0016】
また、前記流れ加速腐食減肉速度の算出方法において、プラント係数Aは、減肉量の実測値、運転時間、水質pH測定値及び水質Fe濃度測定値からなる過去の運転データから算定する加速腐食減肉速度の算出方法。
【0017】
また、50〜250℃の流動温水又は流動高温水による流れ加速腐食(FAC)の損傷による余寿命の診断法において、
FAC減肉速度を、FAC減肉速度=A×Exp(B×pH)×Fe の式を用いて算出し、
ここで、pHは前記流動温水又は流動高温水中のpH値であり、Feは前記流動温水又は流動高温水中のFeイオン濃度であり、A,B,Cは係数であって、係数Aはプラントに特有のプラント係数であり、前記プラント係数Aは、減肉量の実測値、運転時間、水質pH測定値及び水質Fe濃度測定値からなる過去の運転データから算定し、
前記FAC減肉速度、限界肉厚値及び測定肉厚値に基づいて余寿命を診断する流れ加速腐食損傷による余寿命診断法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、HRSG(排熱回収ボイラ)の節炭器などの流れ加速腐食のpH依存性を高精度に予測し、余寿命が確度高く判定できるため、材質変更や水処理薬品の過剰投与防止などが回避でき、発電設備を経済的且つ高信頼性で運転することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
まず、本発明の実施形態に係る流れ加速腐食減肉速度の算出法について、その基本的概念を説明する。高温水による炭素鋼の流れ加速腐食は、温度50〜250℃(150℃付近でピークになるといわれている)+低溶存酸素濃度(30ppb以下)+低pH(pH9.3以下)、という条件の水質と流動が組み合わさって生じる現象である。発電設備や工業プラントでは温度や流動条件は、変更できないため流れ加速腐食の防止又は抑制には溶存酸素濃度の増加、pHの上昇又はCrMo鋼への変更の手法が取られる。
【0020】
溶存酸素の増加は、JIS B−8223で規定されているボイラの給水及びボイラ水質での酸素処理に相当する手法であるが、不純物があると孔食が生じるので、給水及び復水の純度をあげる必要があり、PWR(加圧水型原子炉)の二次系、HRSG(排熱回収ボイラ)、化学装置、循環ボイラなどには使用し難い。また、CrMo鋼への変更も大型設備更新に繋がるため、工期や経済性の点で課題を伴う。
【0021】
流れ加速腐食速度と給水pHの間には相関性があり、給水pHを9.4以上にすることにより実質的に流れ加速腐食は防止できる。図6に、流れ加速腐食速度(減肉速度)のpH依存性を示す。種々の文献値の速度を無次元化して評価したもので、pHを9.0から9.4に上昇することにより、流れ加速腐食速度が1/10以下に低下している。
【0022】
PWR、火力及びHRSGなどの給水中には、微量ながらFe2+などの金属イオンが含まれている。これらの金属イオンは、pHの上昇(8.0以上)、温度の上昇でFeなどの酸化物に変化する。Feなどの金属酸化物は、一種のセラミックであり、高硬度のため流動水による流れ加速腐食を加速することを本発明者らは見い出している。給水中のFe2+濃度は、給水pHの影響を受け、回帰分析の結果、べき乗則になることがわかった。構成式は次のようになる。
【0023】
予測Fe濃度 Fe=a×pH …(1)
ここで、a,bは回帰係数である。pHの上昇により、Fe濃度は低下するため、指数bは負の値をとる。また、pHを変化した場合のFe濃度は、一義的に定まるものではなく、これまでのpH値とFe濃度値に依存するため、aはこれまでの実測値の関数である。
【0024】
図6に示す流れ加速腐食(FAC)速度のpH依存性は、Fe濃度を考慮していないため、実質的な流れ加速腐食(FAC)速度のpH依存性は、指数則であり次式となる。
【0025】
FAC速度=A×Exp(B×pH)×Fe …(2)
ここで、A,B,Cは、回帰指数又は係数であり、Feは、(1)式で予測したFe濃度(ppb)である。なお、前述したように流れ加速腐食速度は、pHやFe濃度以外に、流速又は物質移動係数、温度、溶存酸素濃度、材質中のCr濃度の影響を受けるが、これらは係数Aの中に含まれるものであり、後述するように、係数Aは、肉厚又は減肉量の実測値と運転条件(運転時間、pH測定値、Fe濃度測定値等)から逆算するそのプラントのその部位特有の係数(プラント係数)である。
【0026】
前記の(1)及び(2)式を構築することにより、pHを変化、特に上昇させた場合のFAC速度を高精度に予測できるようになる。なお、(2)式での係数Aは、これまでの運転によるFAC減肉速度の実測値により補正されるものである。なお、前記(1)及び(2)式は、それぞれ指数則又はべき乗則でも回帰でき、数式化できる。
【0027】
次に、本発明の実施形態に係る流れ加速腐食減肉速度の算出法と余寿命診断法においてpHを変化させた場合の具体例を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る流れ加速腐食(FAC)による減肉速度と寿命予測においてpHを変化させた場合の評価診断フローを示す。
【0028】
まず、現時点までの減肉速度、給水のpH値及びFe濃度を入力する。減肉速度(mm/h、mm/年)は、運転時間(運転年数)、初期肉厚及び評価時点の肉厚の測定結果を入力して算定することもできる。その際、肉厚は複数点測定し、統計的な最大減肉速度を求めておくことが望ましい。また、給水のpH及びFe濃度は、平均値をインプットするが、データ点数が偏っている場合は、時間を考慮した加重平均値や特別に偏移したデータをカットした代表平均値の入力が望ましい。
【0029】
次に、pHを変化させた場合のFe濃度を前記(1)式により算出する。FAC速度は、前記(2)式により算定する。図1に示すFAC速度式中のA1とA2の定義については後述する。余寿命は、火力原子力技術基準などで定められた設計必要肉厚(tsr)で代表される限界肉厚までの肉厚をFAC速度で除して算出する。年間の運転時間がほぼ一定であれば余寿命を年でも算出できる。余寿命が算定できれば、今後の運転年数から更新サイクルすなわち何回更新する必要があるかが求められる。
【0030】
今後のpH値に応じて余寿命や更新時期が決まれば、給水pHによる復水器の銅合金の損傷度を評価し、両者の経済性及び信頼性の診断から更新時期や適正pHを高精度に判定できる。
【0031】
以上説明した本実施形態に係る流れ加速腐食減肉速度の算出法と余寿命診断法を取り纏めると次のようになる。すなわち、現状水質でのプラントとその部位特有の減肉速度を求め、その速度をベースに予め回帰していたpH及びFe濃度依存性から算定することにより達成できる。具体的には次のようなステップから構成される。
【0032】
(1)運転時間、管肉厚測定(初期値と現時点肉厚値)結果から評価対象部位の減肉速度を算定する。信頼性向上のため複数点測定し、統計的最大減肉速度を求めておくことが望ましい。
【0033】
(2)現時点までの給水のpH及びFe濃度の平均値又は代表値を求める。途中でステップ的にやや多めに変化している場合は加重平均値としてもよい。
【0034】
(3)Fe濃度のpH依存性から、pHを変化させた場合のFe濃度を上記(1)式で予測する。
【0035】
(4)FAC減肉速度のpH依存性及びFe濃度依存性より、pHを変化させた場合の減肉速度を上記(2)式で算出する。
【0036】
(5)限界肉厚までの残肉厚と上記(4)で算出したFAC減肉速度から残余寿命を算定する。
【0037】
図2は、本発明の実施形態に係る余寿命の診断解析例及び水質pH上昇効果の解析結果を示す(FAC減肉速度が一定の場合)。初期肉厚12mm、15年運転後(現時点)の肉厚測定結果8mm、限界肉厚6mm、現状までの給水pH9.1、現状までのFe濃度10ppbでの解析例である。年間の運転時間がほぼ一定の例であり、運転時間が変化する場合は、運転時間で評価すればよい。
【0038】
15年の運転で、12−8=4mmの減肉であるため、その速度は4/15=0.27mm/年となり、限界肉厚(6mm)までの裕度が8−6=2mmなので、現状と同じ条件で運転を継続した場合、2/0.27=7.4で、7.4年が残余寿命と計算できる。そこで、pHを9.2,9.3及び9.4に上昇させると、残余寿命は、それぞれ15年、29年、40年以上と算定できる。
【0039】
図2のように流れ加速腐食速度が、運転時間や年数に対して変化しない場合は、直線的に減肉が進行することになり、余寿命20年を確保したい場合は、pHを9.3以上に上昇させればよいことになる。pHを9.4以上に上昇することにより、減肉速度をより低く抑制でき、余寿命も大幅に延長されることになるが、pHの上昇は、復水器のアンモニアアタックの助長及び復水純水器の再生頻度の点で望ましくなく、本発明では運転寿命に応じた最適のpH値を提供することができる。
【0040】
流れ加速腐食は、図4にそのモデルを示したように、減肉が進み、孔食状減肉となると渦流や循環流が形成され、その中に酸化鉄などの摩耗性懸濁物質がとりこまれると減肉速度が増加する。このことは、実機における減肉の経時変化でも観察され、直線則で解析評価すると非安全側の診断になることを幾度か経験している。
【0041】
図3は、運転及び測定データは図2と同様であるが、減肉速度が運転年数又は運転時間で変化し、経時的に加速される場合の流れ加速腐食の減肉進展線図及びpH上昇時の変化を示す。
【0042】
図3では、前記(2)式のFAC速度を次の(3)及び(4)式とし、係数AをA1×A2として、A1をプラント部位係数、A2を経時加速係数としたものである。
【0043】
FAC速度=A1×A2×Exp(B×pH)×Fe …(3)
ここで、A1:プラント部位係数、A2:経時加速係数である。
【0044】
A2=Y …(4)
ここで、Y:運転年数又は運転時間、D:経時加速指数で、Dは流れ加速腐食事例の回帰により算定される値であり、1.1から3.0の間の値をとる。また、前記(2)式でのAは、(3)式では、A1×A2であるため、A2を導入すると必然的にA1が逆算で求められる。図3での診断例では、限界肉厚までの余寿命は、水質が現状のままの場合3年、pH9.2で5年、pH9.3で9年と算定できる。
【0045】
以上のように、本発明の説明では、FAC速度のpH依存性を指数回帰(FAC=A×Exp(B×pH)×Fe)しているが、べき乗回帰(FAC=D×pH×Fe)でも同じ精度の予測が可能であり、更にFe濃度のpH依存性も指数回帰可能であるので、FAC速度のべき乗回帰およびFe濃度の指数回帰も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0046】
このように、本発明に係る診断解析法は、実測データに基づくため、より高精度という特徴がある。PWR、BWR、火力発電設備、HRSGをはじめとする流動温水及び流動高温水による流れ加速腐食は、水質環境(温度、pH、溶存酸素濃度)、流動及び材質の条件が同じでも、ほぼ同じ速度の減肉になることはまずなく、最大100倍の速度差が生じることがあるため、一概に減肉速度を算定することは非常に困難であったところ、本発明においてはその課題を解決したものである。
【0047】
図7は、Fe濃度のpH依存性を考慮に入れないでFe濃度を一定(10ppb)とした場合には、pHを9.1から9.4に上昇させた場合の流れ加速腐食速度をpH値のみで評価した結果であるが、PH9.4でも短期余寿命となり、実際とかけ離れた解析結果であり、診断できる解析結果にはならない。
【0048】
以上説明したように、本発明の実施形態では、温水及び高温水による流れ加速腐食(FAC)による減肉が、排熱回収ボイラの節炭器系のほかに加圧水型原子力(PWR)発電設備の二次系、沸騰水型原子力(BWR)の一次系及び火力発電設備の復水器から節炭器までの配管及び伝熱管において発生し、各種の管を含む機器を安全かつ高信頼性で運転していくためには、機器各部での減肉速度を高精度に把握するとともに要因の影響度を定量的に求める必要があり、また、更新までの間の信頼性を得るためには流れ加速腐食の抑制策の効果を高精度に評価することが求められていた。
【0049】
そこで、本発明では、その主たる技術思想として、50〜250℃の流動温水及び流動高温水による流れ加速腐食による減肉速度を給水pHの指数又はべき乗則回帰式とし、この式の係数にプラント係数A、給水Fe濃度による補正指数cを導入し、この流れ加速腐食減肉速度式において、プラント係数Aを、減肉量の実測値、運転時間、水質pH測定値及び水質Fe濃度測定値からなる過去の運転データから算定することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る流れ加速腐食(FAC)による減肉速度と寿命予測においてpHを変化させた場合の評価診断フローを示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る余寿命の診断解析例及び水質pH上昇効果の解析結果を示す図である(FAC減肉速度が一定の場合)。
【図3】本発明の実施形態に係る余寿命の診断解析例及び水質pH上昇効果の解析結果を示す図である(FAC減肉速度が経時的に加速される場合)。
【図4】ベンド管で発生する流れ加速腐食のモデルとその要因を示す説明図である。
【図5】流動温水及び高温水による流れ加速腐食の減肉速度と温水温度との関係を示す図である。
【図6】流れ加速腐食の減肉速度と水質pHとの関係を示す図である。
【図7】余寿命の診断解析においてFe濃度を一定とした場合における水質pH上昇時の解析結果を示す図である
【図8】従来の排熱回収ボイラシステムと水−蒸気系統を示す構成図である。
【符号の説明】
【0051】
1 補給水タンク
2 低圧給水ポンプ
3 低圧節炭器
4 低圧ドラム
5 低圧蒸発器
6 高圧給水ポンプ
7 高圧節炭器
8 高圧ドラム
9 高圧蒸発器
10 低圧過熱器
11 高圧過熱器
12 蒸気タービン
13 復水器
14 脱硝装置
15 給水薬注装置
16 清缶剤注入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50〜250℃の流動温水又は流動高温水による流れ加速腐食(FAC)による減肉速度を算出する方法において、
FAC減肉速度を、FAC減肉速度=A×Exp(B×pH)×Fe の式を用いて算出し、
ここで、pHは前記流動温水又は流動高温水中のpH値であり、Feは前記流動温水又は流動高温水中のFeイオン濃度であり、A,B,Cは係数であって、係数Aはプラントに特有のプラント係数である
ことを特徴とする流れ加速腐食減肉速度の算出方法。
【請求項2】
請求項1において、
プラント係数Aは、減肉量の実測値、運転時間、水質pH測定値及び水質Fe濃度測定値からなる過去の運転データから算定する
ことを特徴とする加速腐食減肉速度の算出方法。
【請求項3】
50〜250℃の流動温水又は流動高温水による流れ加速腐食(FAC)の損傷による余寿命の診断法において、
FAC減肉速度を、FAC減肉速度=A×Exp(B×pH)×Fe の式を用いて算出し、
ここで、pHは前記流動温水又は流動高温水中のpH値であり、Feは前記流動温水又は流動高温水中のFeイオン濃度であり、A,B,Cは係数であって、係数Aはプラントに特有のプラント係数であり、前記プラント係数Aは、減肉量の実測値、運転時間、水質pH測定値及び水質Fe濃度測定値からなる過去の運転データから算定し、
前記FAC減肉速度、限界肉厚値及び測定肉厚値に基づいて余寿命を診断する
ことを特徴とする流れ加速腐食損傷による余寿命診断法。
【請求項4】
管を流れる50〜250℃の流動水による流れ加速腐食(FAC)の損傷による余寿命の診断法において、
運転時間、管の初期肉厚測定値及び現時点肉厚測定値を元に診断評価の対象部位における減肉速度を算定する第1のステップと、
現時点までの水質のpH及びFe濃度の平均値又は代表値を求める第2のステップと、
Fe濃度のpH依存性から、pHを変化させた場合のFe濃度を、Fe=a×pHa,bは係数、の式を用いて予測する第3のステップと、
FAC減肉速度のpH依存性及びFe濃度依存性から、pHを変化させた場合の減肉速度を、FAC減肉速度=A×Exp(B×pH)×Fe の式を用いて算出する第4のステップと、ここで、A,B,Cは係数であって、係数Aはプラントに特有のプラント係数であり、運転時間、肉厚測定による減肉量の実測値、水質pH測定値及び水質Fe濃度測定値からなる運転データから算定するものであり、
限界肉厚までの残肉厚と前記第4のステップで算出したFAC減肉速度から余寿命を算定する第5のステップと、からなる
ことを特徴とする流れ加速腐食損傷による余寿命診断法。
【請求項5】
50〜250℃の流動温水又は流動高温水による流れ加速腐食(FAC)の損傷に対する抑制方法において、
FAC減肉速度を、FAC減肉速度=A×Exp(B×pH)×Fe の式を用いて算出し、
ここで、pHは前記流動温水又は流動高温水中のpH値であり、Feは前記流動温水又は流動高温水中のFeイオン濃度であり、A,B,Cは係数であって、係数Aはプラントに特有のプラント係数であり、前記プラント係数Aは、減肉量の実測値、運転時間、水質pH測定値及び水質中Fe濃度測定値からなる過去の運転データから算定し、
前記式の特性を利用して、前記FAC減肉速度を適宜に低下させるために必要な高さの水質pH値を求める
ことを特徴とする流れ加速腐食損傷抑制方法。
【請求項6】
50〜250℃の流動温水又は流動高温水による流れ加速腐食(FAC)の損傷による余寿命の診断法において、
FAC減肉速度を、FAC減肉速度=A1×A2×Exp(B×pH)×
Fe の式を用いて算出し、
ここで、pHは前記流動温水又は流動高温水中のpH値であり、Feは前記流動温水又は流動高温水中のFeイオン濃度であり、A1,A2,B,Cは係数であって、
係数A1はプラントに特有のプラント係数であり、前記プラント係数A1は、減肉量の実測値、運転時間、水質pH測定値及び水質中Fe濃度測定値からなる過去の運転データから算定し、係数A2は経時加速係数であり、A2=Yで求め、ここで、Yは運転年数又は運転時間、Dは経時加速指数であり、
上記FAC減肉速度は運転年数又は運転時間Yで変化し経時的に加速されることを表し、
前記経時的に加速するFAC減肉速度、限界肉厚値及び測定肉厚値に基づいて余寿命を診断する
ことを特徴とする流れ加速腐食損傷による余寿命診断法。
【請求項7】
請求項1または2において、
前記FAC減肉速度のpH依存性について、前記指数回帰式Exp(B×pH)に代えて、べき乗回帰式pH Eは係数、に基づいて算出する
ことを特徴とする流れ加速腐食減肉速度の算出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−17186(P2007−17186A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196356(P2005−196356)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】