説明

流下液膜式冷凍機用伝熱管及びその製造法

【課題】管外面に形成された溝やフィンによる伝熱性能向上効果を低下させることなく、管内部における圧力損失を有利に低減せしめた、軽単重の流下液膜式冷凍機用伝熱管を提供すること。
【解決手段】管外面に形成されたフィン12を、フィン高さ(H):0.15〜0.35mm、フィンピッチ(P1 ):0.9〜2.4mm、フィン頂部の最小幅(W):0.3〜0.7mm、管の底肉厚(t):0.40〜0.55mm、フィン根元の曲率半径(R):0.05〜0.3mmとすると共に、溝14を、溝深さ(D):0.1〜0.3mm、溝ピッチ(P2 ):0.5〜1.0mm、フィン高さと溝深さの差(d1 )とフィン高さ(H)との比(d1 /H):0.05〜0.25となるように管軸方向に形成し、管内面に形成される窪み16の深さ(d2 )が、0.03mm以下となるように、伝熱管10を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収式冷凍機の吸収器や蒸発器、吸着式冷凍機の蒸発器等に好適に用いられる伝熱管に関し、特に、管の単重を軽減するために管の肉厚を薄くした流下液膜式冷凍機用伝熱管の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、吸収式冷凍機の吸収器や蒸発器、或いは吸着式冷凍機の蒸発器等には、複数の伝熱管を管軸が水平方向になるようにして複数段及び/又は複数列設けて、格子状や千鳥状の配置とし、そしてそのような伝熱管に対して、作動媒体である臭化リチウム水溶液を上部の滴下トレーから滴下して、その水平な管上を膜状に流下させるようにした、所謂流下液膜式が、広く採用されてきている。
【0003】
そして、このような流下液膜式の吸収器に用いられる伝熱管としては、管内外周面が平滑な面とされた平滑管が、低コストで製造が可能であると共に、管内周面も平滑であるため、圧力損失が低いといった利点を有しているところから、広く用いられていた。しかしながら、そのような平滑管は、管外周面が平滑であるところから、臭化リチウム水溶液の液膜が、管周方向(重力方向)に流下し易く、管軸方向(水平方向)に広がり難いため、充分な伝熱性能が得られないといった問題を内在するものであった。
【0004】
そこで、伝熱性能の向上を目的として、伝熱管の外表面に各種の伝熱促進機能を付与した各種の伝熱管が開発され、採用されてきている。例えば、特開平1−134180号公報(特許文献1)や特開昭和62−206356号公報(特許文献2)においては、管外周面に、長手方向に延びる複数の溝と、それら溝間に微細なピッチの多数のフィンを形成した伝熱管が、それぞれ明らかにされている。このような伝熱管によれば、管外周面のフィンによって伝熱面積が拡大し、伝熱性能を向上させることが出来ると共に、管内面が平滑とされたままであるため、管内の圧力損失を平滑管と同程度とすることが出来るといった利点を有している。
【0005】
さらに、そのような管外周面に形成された溝(切り欠き)やフィンの寸法形状を適正化することによって、伝熱性能をより向上させた伝熱管としては、例えば、特開平10−318691号公報(特許文献3)において明らかにされている。このように、フィンの寸法や形状を適正化することによって、管外表面に滴下される液体の濡れ広がり性が一層良好となり、そのような管外部の液体と伝熱管内を流通せしめられる液体との間での熱交換が有利に促進され、伝熱性能を向上させることが可能となるのである。
【0006】
ところで、近年、このような流下液膜式冷凍機用伝熱管において、伝熱管の単重を軽減する要求が高まってきており、その軽量化のために、例えば管の肉厚が底肉厚で0.5mm以下という極めて薄肉なものも、採用され始めている。そして、そのような薄肉の管壁をもつ、管外面にフィンや溝が形成された伝熱管を作製する場合には、肉厚が0.6mm前後の原管を用いて、その原管の外周面に、転造加工等を施すことによって、所定の寸法とされた溝やフィンを形成し、目的とする伝熱管に仕上げられることとなる。
【0007】
しかしながら、そのような管壁の肉厚が薄い原管の外周面に対して、ディスク転造加工を施して、外周面に所定の溝やフィンを形成する場合にあっては、転造ディスクによる外面フィンの形成時に、管の内周面には、かかる外周面に形成されるフィンに対応して螺旋状に延びる窪みが形成されることとなる。つまり、ディスク転造加工を実施すると、フィンは管の外周面から隆起させられて形成せしめられることとなるところから、管壁の金属が、フィン形成位置においてその左右両側からフィンの形成される方向に流動させられ、そして、そのような金属の流動によって、フィン直下の管内面側に、形成されるフィンに沿った螺旋状の窪みが形成されてしまうといった現象が、惹起せしめられるようになるのである。
【0008】
このような管内面の螺旋状の窪みは、ディスク転造加工を施す原管の肉厚が厚い場合には発生し難いのであるが、軽単重の伝熱管を形成するために、肉厚の薄い原管を用いた場合には、その発生を抑制することが難しくなるのである。そして、このような管内面に形成される、フィン直下の螺旋状の窪みは、管内側の圧力損失を増大してしまうといった問題を新たに惹起することとなるのである。このため、単純に管外面に形成されるフィンの高さを低くすることにより、そのような管内面の窪みを小さくすることも可能であるが、そうすると、外面フィンによる伝熱面積の増加が充分でなくなり、伝熱性能の低下を惹起してしまう恐れがあった。そこで、外面フィンによる伝熱性能向上効果を発揮しつつ、そのような管内圧力損失の増大を効果的に抑制するために、管内面の窪み深さを出来るだけ小さくした流下液膜式冷凍機用伝熱管が、求められているのである。
【0009】
【特許文献1】特開平1−134180号公報
【特許文献2】特開昭62−206356号公報
【特許文献3】特開平10−318691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、管外面に形成された溝やフィンによる伝熱性能向上効果を低下させることなく、管内部における圧力損失を有利に低減せしめた、軽単重の流下液膜式冷凍機用伝熱管を提供することにある。また、本発明にあっては、このような流下液膜式冷凍機用伝熱管を有利に製造する方法を提供することも、その解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明にあっては、かくの如き課題の解決のために、管外面に吸収液が膜状に流下される一方、管内に冷却媒体が流通せしめられるようにした流下液膜式冷凍機用伝熱管にして、管外面に、管軸方向に延びる、横断面が台形形状を呈するフィンが、フィン高さ:0.15〜0.35mm、管軸方向のフィンピッチ:0.9〜2.4mm、フィン頂部の最小幅:0.3〜0.7mm、管の底肉厚:0.40〜0.55mm、フィンの管軸方向断面における根元R:0.05〜0.3mmにおいて、螺旋状に転造形成されていると共に、かかるフィンに対して、そのフィン高さよりも浅い溝深さを有する軸方向溝が、溝深さ:0.1〜0.3mm、管周方向の溝ピッチ:0.5〜1.0mm、フィン高さと溝深さの差(d1 )とフィン高さ(H)との比(d1 /H):0.05〜0.25において、管軸方向に形成されて、該フィンの配設部位に対応した管内面に形成される窪みの深さ(d2 )が、0.03mm以下となるように構成されていることを特徴とする流下液膜式冷凍機用伝熱管を、その要旨とするものである。
【0012】
さらに、本発明にあっては、かかる伝熱管の製造方法であって、単純円形断面形状の、内外面とも平滑な金属管を用いて、かかる金属管の外面に、先端のエッジ部の曲率半径が0.05mm以上である転造ディスクを押圧して、前記フィンを該金属管の外面に形成する工程と、その形成されたフィンに対して、歯車状の円盤工具を押圧して、前記軸方向溝を該フィンに形成する工程とを含むことを特徴とする流下液膜式冷凍機用伝熱管の製造法をも、その要旨としている。
【発明の効果】
【0013】
従って、このような本発明に従う構成とされた流下液膜式冷凍機用伝熱管によれば、伝熱管の外面側に管軸方向に延びるように形成された、横断面が台形形状を呈するフィンの高さやフィンピッチ、及びかかるフィンのフィン高さよりも浅い溝深さを有する軸方向溝の溝深さと溝ピッチ等が、適度な寸法とされているところから、充分な表面積を確保することが出来ると共に、管表面における高い濡れ広がり性が得られることとなり、以て、伝熱管の伝熱性能を有利に向上させることが可能となる。
【0014】
また、かかる伝熱管外面に形成されているフィンの管軸方向断面における根元Rの大きさを0.05mm以上、0.3mm以下としているところから、ディスク転造加工にて外面フィンを形成する際に、管壁を形成する金属材料の流動によって管内面に発生する窪みを効果的に抑制することが出来ると共に、フィン加工時におけるフィンの根元割れも有利に抑制することが出来る特徴が発揮される。
【0015】
そして、伝熱管の内面側に形成される窪みの深さが0.03mm以下とされていることによって、伝熱管内を流通せしめられる流体の圧力損失を、効果的に抑制することが可能となるのであり、以て、管外面にて与えられる伝熱促進効果を充分に発揮せしめ得ると共に、管内部における圧力損失を有利に低減せしめ得た流下液膜式冷凍機用伝熱管を有利に実現することが出来ることとなったのである。
【0016】
また、本発明に従う流下液膜式冷凍機用伝熱管を製造する方法として、内外面とも平滑な、断面が単純な円形形状の金属管の外面に、先端のエッジ部の曲率半径が0.05mm以上とされた転造ディスクを押圧して、フィンを形成すると共に、その形成されたフィンに対して、歯車状の円盤工具を押圧して、前記軸方向溝をフィンに形成するようにした方法を採用することによって、外面フィンの形成に伴って伝熱管の内面に形成される窪みの深さを、0.03mm以下に効果的に抑制することが可能となる。また、平滑管に対して転造加工を施すのみで、目的とする流下液膜式冷凍機用伝熱管を形成することが可能であるため、その生産性を有利に向上することが出来るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0018】
先ず、図1及び図2には、本発明に従う流下液膜式冷凍機用伝熱管の一実施形態が、それぞれ示されている。即ち、図1には、そのような流下液膜式冷凍機用伝熱管の管壁の一部を切り出した斜視図の形態において、また図2(a)には、管壁の管軸方向における断面図の形態において、更に図2(b)には、管壁の管周方向における断面図の形態において、それぞれ示されている。そして、それら図1,2に示されるように、伝熱管10は、その外表面に、管軸方向に螺旋状に延びるフィン12が、管軸方向に所定のピッチ(P1 )をもって形成されていると共に、かかるフィン12に対して、そのフィン高さよりも浅い溝深さとされた溝14が、軸方向に所定のピッチ(P2 )をもって形成されている。また、伝熱管10の内周面には、管外周面に形成されたフィン12に対応した窪み16が、不可避的に深さ:d2 をもって形成されるようになる。
【0019】
より詳細には、伝熱管10は、アルミニウムや銅及びそれらの合金等の金属材料を用いて形成された管体であって、その直径は、一般に10mm〜25mm程度とされ、また、伝熱管10を軽単重とするため、管の底肉厚(t)は、望ましくは0.55mm以下とされている。なお、かかる底肉厚は、伝熱管10の剛性や腐食性の観点から、望ましくは、一般に0.40mm以上とされることとなる。
【0020】
そして、その外周面には、図2(a)及び図2(b)の各断面図にも示される如く、管軸方向に螺旋状に延びるフィン12が、フィン高さ(H):0.15〜0.35mm、管軸方向のフィンピッチ(P1 ):0.9〜2.4mm、フィン頂部の最小幅(W):0.3〜0.7mmの大きさをもって、横断面(管軸方向断面)が台形形状を呈するように、形成されている。また、そのようなフィン12の根元18は、管軸方向における断面において、なめらかな円弧状とされて、その曲率半径(R)が0.05〜0.3mmの大きさとなるように、形成されている。
【0021】
一方、かかるフィン12の高さ(H)よりも浅い溝深さを有する、管軸方向に延びる溝14が、溝深さ(D):0.1〜0.3mm、管周方向の溝ピッチ(P2 ):0.5〜1.0mmの大きさとされて、フィン12を切り欠くように、形成されている。このような溝14の深さは、フィン12の高さ(H)と溝14の深さ(D)の差(d1 )と、フィン高さ(H)との比(d1 /H)が、0.05〜0.25となるようにされている。これは、この比が大きくなると、管の外周に滴下される吸収液の液膜の、管軸方向への濡れ拡がりが妨げられてしまい、伝熱性能が低下してしまう要因となるからである。一方、この比が、0.05未満となった場合にあっては、フィン12への溝14の加工時に、溝底部の割れを引き起こし易くなったり、管内周面に、溝加工に伴う凹凸が形成され易くなるといった問題を、惹起することとなる。
【0022】
さらに、伝熱管10の内周面には、外周面に対して、管軸方向に螺旋状に延びるように形成されたフィン12に対応した窪み16が、その深さ(d2 )が0.03mm以下となるようにされて、不可避的に形成されている。この窪み16は、フィン12と同様に、管軸方向に螺旋状に延びると共に、フィン12の直下、換言すればフィン12の幅方向の略中央部位に相当する箇所の内周面に、連続して形成されている。
【0023】
そして、このように構成された伝熱管10は、適正化された寸法をもって外周面に形成されたフィン12や溝14によって、フィン部の体積による伝熱管10の重量増加を抑えて、伝熱管10の単重を小さくすることが可能となると共に、その表面積が効果的に増大せしめられ得て、伝熱管10に滴下された吸収液と伝熱管10との接触面積を有利に拡大し、熱交換性能を向上することが可能となる。また、伝熱管10の外周面に滴下された吸収液が、かかるフィン12や溝14によって、管軸方向や管周方向に効果的に広がるようにされることとなり、伝熱管10の濡れ性が有利に高められ得、以て、伝熱管10の熱交換性能を更に向上することが出来るのである。
【0024】
また、かかる伝熱管10にあっては、それを構成する管体の底肉厚(t)が、0.40mm〜0.55mmとされているため、管単体の重量(単重)を、より軽量化することが可能となる。
【0025】
そして、フィン12の根元の曲率半径(R)を0.05mm以上としていることによって、このような底肉厚の小さい伝熱管10を、ディスク転造加工によって形成した際に、フィンの根元が割れてしまう恐れを回避することが可能となると共に、フィン12のディスク転造加工時にフィン12に対応して管内周面に形成されてしまう窪み16の深さを、効果的に0.03mm以下に抑えることが出来ることとなるのである。なお、このフィン12の根元の曲率半径(R)をあまり大きな値とすると、フィン12の実質的な厚さを増大してしまい、伝熱管10の単重の増加に繋がってしまうため、0.3mm以下とすることが、望ましいのである。
【0026】
さらに、フィン12の転造形成によって、伝熱管10の内周面に形成されるようになる窪み16の深さが、0.03mm以下に抑えられることによって、伝熱管10内部の圧力損失を効果的に抑制することが可能となるのである。
【0027】
このように、本発明に従う流下液膜式冷凍機用の伝熱管10によれば、管の底肉厚を低減して、軽単重の伝熱管とした場合にあっても、内周面に形成される窪み16の深さを効果的に小さくして、伝熱管10内部における圧力損失を有利に低減せしめると共に、伝熱管10の外周面に形成されたフィン12や溝14による伝熱性能向上効果を有利に発揮せしめ得て、高い熱交換性能を実現することが可能となる。そして、このような軽単重で高い伝熱性能をもつ伝熱管10を用いることによって、流下液膜式冷凍機の吸収器及び蒸発機、或いは吸着式冷凍機の蒸発機を、高性能化することが可能となると共に、機器の小型化や製造コストの低下といった効果も、有利に発揮されることとなるのである。
【0028】
ところで、このような構成とされた流下液膜式冷凍機用伝熱管10は、以下に示されるように、公知の転造加工法に従って、例えば、図3に示されるような転造加工装置を用いて、有利に製作されることとなる。
【0029】
すなわち、回転駆動軸34に同心的に所定間隔を隔てて取り付けられた、漸次径が増大する複数のフィン形成ディスク32からなる外面フィン転造用工具30が、図3に示される如く、目的とする流下液膜式冷凍機用伝熱管10を与える大きさとされた素管36の周りに、略120°の位相差をもって、3つ配置されている。また、かかる複数のフィン形成ディスク32は、図4に示されるように、素管36の外周面に形成されるフィン12のピッチを与える間隔で、回転駆動軸34にて同心的に且つ一体的に連結されている。更に、そのような回転駆動軸34は、素管36の管軸に対して、素管36の外面に形成されるフィン12のリード角に相当する角度をもって、位置せしめられている。また、素管36の内側には、それぞれのフィン形成ディスク32と対向する状態で、プラグ38が挿入されており、このプラグ38とフィン形成ディスク32との間で、素管36の変形が行われるようになっている。
【0030】
そして、このように配置された3つの外面フィン転造用工具30を用いて、そのフィン形成ディスク32を回転駆動軸34により回転させつつ、それら3つの外面フィン転造用工具30の中央部分を素管36が通過することにより、かかる素管36の外周面に、所定高さとされたフィン12が、径方向外方に突出して、管軸方向に連続して螺旋状に延びるように、漸次転造形成されることとなる。
【0031】
ところで、このような外面フィン転造用工具30によるフィン12の形成の際に用いられるフィン形成ディスク32は、図5(a)に示されるように、その先端のエッジ部42の曲率半径(R)を、0.05mm以上とすることによって、素管36の外面に形成されるフィン12の根本18の曲率半径(R)を、効果的に0.05mm以上とすることが出来るのであり、そしてその結果、フィン12の加工に伴って管の内側に形成されてしまう窪み16の深さを、効果的に小さくすることが可能となるのである。なお、このような窪み16は、図5(b)に示される如く、フィン12を形成する際に、フィン形成ディスク32,32によって、素管36の管壁の金属がフィン12の突出する方向に流動せしめられるために、必然的に発生してしまうようになる。
【0032】
その後、所望の断面形状と深さを与える形状とされた歯車状の円盤工具にて、かかるフィン12を押圧して、溝14を形成することによって、図1や図2に示されるような、外周面にフィン12と溝14とが形成された流下液膜式冷凍機用の伝熱管10が形成されることとなる。なお、このような溝14を形成する円盤工具は、かかる素管36の周りに配置された3つのフィン転造用工具30のうちの、最小で1つ、最大で3つの全ての工具に対して、フィン形成方向における下流側(図4における右側)の回転駆動軸34に取り付けられて、フィン12の加工が済んだ素管36のフィン12に対して、押圧されるようになっている。
【0033】
このような工程を経て、単純な円形断面の素管36から、目的とする流下液膜式冷凍機用の伝熱管10が、形成されるのであるが、このような流下液膜式冷凍機用の伝熱管10の製作方法によれば、製造工程が比較的容易な転造加工のみを用いて、単純な円形断面の素管36に対してフィン12と溝14とを形成すると共に、伝熱管10の内面に形成される窪み16の深さを効果的に小さくした伝熱管10を作製することが可能であるところから、伝熱管10の生産性を高め、その生産コストを、効果的に低減することが出来るのである。
【0034】
以上、本発明の代表的な実施形態の一つとその製作方法について詳述してきたが、それらは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。また、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施されるものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の代表的な実施例の一つを示し、本発明の特徴を更に明確にすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
【0036】
先ず、供試伝熱管として、図1や図2に示されるような外面形態とされた流下液膜式冷凍機用の伝熱管を形成するために、単純な円形の断面形状を呈する、外径:16mm、肉厚(管壁の厚さ):0.65mmの、りん脱酸銅(JIS H 3300 C1220)にて形成された素管を準備した。
【0037】
そして、このような素管に対して、前述した本発明に従う流下液膜式冷凍機用伝熱管の製作方法に従って、ディスク転造加工を施し、かかる素管外周面に、フィン12や溝14を形成して、それらフィン12や溝14のフィン高さやフィンピッチ、フィン根本R等の各値が、下記表1に示されるような、それぞれ異なる諸元とされた各種の伝熱管10を製作した。なお、それぞれの供試伝熱管において、各寸法値が本発明に従う範囲内とされたものを、実施例1〜実施例13とすると共に、本発明の範囲外の寸法値とされたものを、比較例1〜比較例12とした。
【0038】
【表1】

【0039】
このように準備された実施例1〜13、及び比較例1〜12の供試伝熱管について、従来より公知の吸収器、蒸発器、再生器、及び凝縮器から構成される一般的な試験機を用いて、器内圧力:840Pa、伝熱管の外部に滴下される臭化リチウム水溶液の入口温度:53.5℃、入口濃度:63.5%、液膜流量:0.015kg/(m・s)、伝熱管内を流通せしめられる冷却水の入口温度:32℃、管内流速:1.5m/s、の条件下において、吸収伝熱性能を測定する実験を行い、熱通過率と管内圧力損失をそれぞれ測定し、その結果を下記表2に示した。なお、かかる表2においては、比較例2の熱通過率及び管内圧力損失をそれぞれ100とした場合の、各供試伝熱管の熱通過率及び管内圧力損失を、それぞれ比率で示した。
【0040】
【表2】

【0041】
かかる表2の結果からも明らかなように、フィン12及び溝14の各諸元値が本発明の範囲内である実施例1〜13の伝熱管においては、その全てにおいて、熱通過率が向上していることが認められる。また、管内圧力損失にあっても、管内周面に形成される窪み深さ:d2 が本発明の範囲外である比較例1や比較例5の伝熱管よりも、本発明の範囲内とされた実施例1〜13の全ての伝熱管において、圧力損失が低下していることが確認出来るのである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に従う流下液膜式冷凍機用伝熱管の一例を、管壁の一部を切り欠いた状態にて示す斜視説明図である。
【図2】本発明に従う流下液膜式冷凍機用伝熱管の一例を、断面図の形態において示す説明図であって、(a)は、管壁を管軸方向に平行に切断した断面説明図であり、(b)は、外面フィンの延びる方向に平行な面にて切断した断面説明図である。
【図3】本発明に従う流下液膜式冷凍機用伝熱管を製作する転造加工装置の一例を、縦断面形態にて示す断面説明図である。
【図4】図3に示される転造加工装置の三つのフィン転造用工具のうちの一つを示す横断面説明図である。
【図5】ディスク転造加工にて流下液膜式冷凍機用伝熱管の外面フィンを形成する際の様子を概略的に説明する断面説明図であって、(a)は、転造ディスクの先端のエッジ部が本発明に従う製造方法に従う範囲内の大きさとされた場合を示しており、(b)は、従来の転造ディスクを用いた場合を示している。
【符号の説明】
【0043】
10 伝熱管
12 フィン
14 溝
16 窪み
18 フィン根元


【特許請求の範囲】
【請求項1】
管外面に吸収液が膜状に流下される一方、管内に冷却媒体が流通せしめられるようにした流下液膜式冷凍機用伝熱管にして、
管外面に、管軸方向に延びる、横断面が台形形状を呈するフィンが、フィン高さ:0.15〜0.35mm、管軸方向のフィンピッチ:0.9〜2.4mm、フィン頂部の最小幅:0.3〜0.7mm、管の底肉厚:0.40〜0.55mm、フィンの管軸方向断面における根元R:0.05〜0.3mmにおいて、螺旋状に転造形成されていると共に、
かかるフィンに対して、そのフィン高さよりも浅い溝深さを有する軸方向溝が、溝深さ:0.1〜0.3mm、管周方向の溝ピッチ:0.5〜1.0mm、フィン高さと溝深さの差(d1 )とフィン高さ(H)との比(d1 /H):0.05〜0.25において、管軸方向に形成されて、該フィンの配設部位に対応した管内面に形成される窪みの深さ(d2 )が、0.03mm以下となるように構成されていることを特徴とする流下液膜式冷凍機用伝熱管。
【請求項2】
請求項1に記載の伝熱管の製造方法であって、単純円形断面形状の、内外面とも平滑な金属管を用いて、かかる金属管の外面に、先端のエッジ部の曲率半径が0.05mm以上である転造ディスクを押圧して、前記フィンを該金属管の外面に形成する工程と、その形成されたフィンに対して、歯車状の円盤工具を押圧して、前記軸方向溝を該フィンに形成する工程とを含むことを特徴とする流下液膜式冷凍機用伝熱管の製造法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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