説明

流体デバイス

【課題】外部電源を必要としない自立型の流体デバイスを提供する。
【解決手段】基板2に形成された流路3の始端部に、測定対象の試料溶液を流路3に送液するためのポンプ5を設ける。また、流路3の途中には、試料溶液又はその中に含まれている成分を検出するための検出部6を設け、流路3の終端部には、分析後の試料溶液を排出するための排出孔7を設ける。更に、基板2に、ポンプ5及び検出部6を駆動させる動力源として酵素電池4を設け、酵素電池4とポンプ5及び検出部6とを電気的に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素電池を動力源として使用した流体デバイスに関する。より詳しくは、内部電源を備えた自立型の流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム解析に代表されるように、21世紀の生命科学や健康医療においては、膨大なゲノム情報を先駆けて獲得することが極めて重要な課題となっている。そこで、これらの分野では、従来の分析方法をより高速化、及びハイスループット化するための技術開発が進められている。近年、その有力な解決方法として、半導体技術を利用したナノ・マイクロ流体デバイスを用いる方法が注目されており、研究開発が盛んに行われている。その結果、ナノ・マイクロ流体デバイスを用いたDNAシークエンサーが実用化され、ゲノム解析のスピードが一変した。更に、このようなナノ・マイクロ流体デバイスを用いた研究開発は、DNAに代表されるゲノム解析のみならず、生化学、化学合成及び医学等のあらゆる分野で利用され始められている。
【0003】
例えば、代表的な腫瘍マーカーであるAFP(α‐fetoprotein)を分析する場合は、通常、血液を採取し、マーカーの分離・定量分析を行う。このとき、マーカーを分離するために、流路に流体サンプルを流す必要がある。また、マーカーの定量分析を行う際は、一般に、レーザ光を照射して、マーカー分子との相互作用により発生する蛍光を検出しているため、マーカー分子にレーザ光を照射するための光源、及び蛍光を検出するためのPMT(Photo Multiplier Tube:光電子増倍管)が必要となる。このため、従来の流体デバイスを使用して腫瘍マーカーの分析を行う場合は、外部装置が必須であり、装置が大型になるという問題点がある。
【0004】
そこで、従来、システム全体を小型化するため、デバイス内にポンプ機構を設けた流体デバイスが提案されている(特許文献1〜3参照)。例えば、特許文献1に記載のマイクロ流体デバイスでは、基板内に微小なダイヤフラム式ポンプ機構を形成し、外部から磁力を印加することにより、ダイヤフラムを変形させて、流路内に送液している。
【0005】
また、特許文献2及び3には、電気浸透流ポンプを備えた流体デバイスが開示されている。図4は特許文献2に記載された流体デバイスを示す斜視図である。図4に示すように、特許文献2に記載された流体デバイス100においては、マイクロ流体チップ101の上面に、電気浸透流ポンプ102がその内部に形成された流路とマイクロ流体チップ101に設けられた流路103とが連通するように取付けている。この流体デバイス100では、電気浸透流ポンプ102に設けられた電極に電圧を印加することにより、液溜部104内の液を流路103に送液している。
【0006】
これらの流体デバイスは、基板上に試料溶液を送液するためのポンプを設けているため、外部に送液装置を設ける必要がなくなり、測定装置を小型化することが可能となる。
【0007】
一方、駆動用電圧を発生させる電源電圧発生部を備えた流体デバイスも提案されている(特許文献4参照)。特許文献4に記載の生体物質の識別システムは、微細な流路が形成されたシリコン半導体チップ上に、アンテナ部及び電源電圧発生部が設けられており、外部から放射された高周波をアンテナ部で受信し、電源電圧部を介して各構成部位に電源電圧として供給している。
【0008】
【特許文献1】特開2003−083256号公報
【特許文献2】特開2006−022807号公報
【特許文献3】特開2006−311796号公報
【特許文献4】特開2004−325244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した従来の技術では、外部装置を完全になくすことはできないという問題点がある。例えば、特許文献1〜3記載された流体デバイスの場合、外部ポンプ並びにそれに付随する配管及び配線は不要になるが、デバイス内に設けられたポンプを駆動させるための電力又は磁力を発生させるための装置が別途必要になる。
【0010】
一方、特許文献4に記載の流体デバイスは、デバイス内に設けられた電源電圧発生部で電力を発生することができるが、発生できる電圧が小さいため、基板に実装されている全ての部品を駆動させることはできない。
【0011】
そこで、本発明は、外部電源を必要としない自立型の流体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る流体デバイスは、流路が形成された基板に、前記流路に送液するためのポンプと、少なくとも前記ポンプに電力を供給する酵素電池とが設けられている。
本発明においては、デバイス内に電源を設けているため、外部電源が不要となる。
この流体デバイスにおいては、前記酵素電池に燃料として測定対象の試料溶液が導入され、前記酵素電池で発生した電力に応じて前記ポンプが駆動して、前記流路内の圧力が変化してもよい。
また、前記基板には、更に、前記流路内を通流する試料溶液に光を照射する発光素子と、前記試料溶液から発せられた光を検出する受光素子とを備えた検出部が設けられており、前記検出部にも前記酵素電池から電力が供給されてもよい。
更に、前記ポンプとしては、例えば、電気浸透流ポンプを適用することができる。
更にまた、前記流路内に生体由来物質又は触媒等が固定化されていてもよい。前記生体由来物質としては、例えば核酸及びタンパク質等が挙げられる。
更にまた、前記基板には電気回路が形成されていてもよく、この電気回路を介して前記酵素電池と前記ポンプ及び/又は前記検出部とを電気的に接続することもできる。このような電気回路としては、例えば、昇圧回路、降圧回路及び整流回路等が挙げられる。
更にまた、前記基板上に検出結果を無線信号にして送信するデータ送信部を設けることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、デバイス内に電力源として酵素電池を設けているため、ポンプ等に駆動電力を供給するための外部電源が不要となり、自立型の流体デバイスを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0015】
先ず、本発明の第1の実施形態に係る流体デバイスについて説明する。図1は本実施形態の流体デバイスの構成を模式的に示す斜視図である。図1に示すように、本実施形態の流体デバイス1は、基板2に流路3が形成されており、この流路3の始端部には、流路3に測定対象の試料溶液を通流させるためのポンプ5が設けられている。また、流路3の途中には、試料溶液又はその中に含まれている各種成分を検出するための検出部6が設けられている。そして、流路3の終端部には、分析後の試料溶液を排出するための排出孔7が設けられている。
【0016】
更に、この流体デバイス1には、ポンプ5及び検出部6を駆動させる動力源として酵素電池4が設けられており、この酵素電池4とポンプ5及び検出部6とは電気的に接続されている。酵素電池4は、負極又は正極の少なくとも一方の電極上に触媒として酸化還元酵素を固定した燃料電池であり、例えばグルコース及びエタノール等のように通常の工業触媒では利用できない燃料から、効率よく電子を取り出すことができるため、高容量でかつ安全性が高い電池である。
【0017】
本実施形態の流体デバイス1に設けられる酵素電池4の構造は特に限定されるものではないが、例えば、負極と正極とが、プロトン伝導体を介して対向した構造とすることができる。図2は図1に示す酵素電池4の構造の一例を示す断面図である。図2に示す酵素電池4では、負極41a,41bとプロトン伝導体43a,43bとの間に、負極集電体44a,44bを備えている。なお、これら負極集電体44a,44bの配設箇所は特に限定されるものではなく、負極集電体44a,44bを燃料が透過可能な構造にすれば、負極41a,41bと後述する燃料供給部46との間に設けることも可能である。
【0018】
また、図2に示す酵素電池4では、正極42a,42bとプロトン伝導体43a,43bとの間に、正極集電体45a,45bを備えている。これら正極集電体45a,45bの配設箇所も特に限定されるものではなく、正極集電体45a,45bが酸素を含む空気等が透過可能な構造であれば、正極42a,42bの図面向かって上部側に設けることも可能である。
【0019】
更に、図2に示す酵素電池4では、2つの電極(負極41a,41b、正極42a,42b)を直列に接続しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、電極の数及び接続方法は必要な電力量に合わせて、適宜設定することができる。
【0020】
図2に示す酵素電池4では、負極41a,41bにおいて燃料47の酸化反応が生じて電子を放出し、この電子が負極集電体44a,44b及び正極集電体45a,45bを介して正極42a,42bに移動する。そして、正極42a,42bではこの電子と、外部から供給される酸素とにより還元反応が進行する。この一連の反応を進行させることにより、電気エネルギーが発生する。
【0021】
酵素電池4における負極41a,41bの材料には、公知のあらゆる素材を用いることができ、外部と電気的に接続可能な素材であれば特に限定されるものではないが、例えば、Pt、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Nb、Mo、In、Ir、Zn、Mn、Fe、Co、Ti、V、Cr、Pd、Re、Ta、W、Zr、Ge及びHf等の金属材料、アルメル、真ちゅう、ジュラルミン、青銅、ニッケリン、白金ロジウム、ハイパーコ、パーマロイ、パーメンダー、洋銀及びリン青銅等の合金類、ポリアセチレン類等の導電性高分子、グラファイト及びカーボンブラック等の炭素材、HfB、NbB、CrB及びBC等の硼化物、TiN及びZrN等の窒化物、VSi、NbSi、MoSi及びTaSi等の珪化物、並びにこれらの複合材料を用いることができる。
【0022】
また、負極41a,41bには、必要に応じて酵素を固定されるが、燃料として糖類を含む燃料を用いる場合には、糖類を酸化分解する酸化酵素を固定することが望ましい。酸化酵素の一例としては、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコネート5デヒドロゲナーゼ、グルコネート2デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドレダクターゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ、ヒドロキシパルベートレダクターゼ、グリセレートデヒドロゲナーゼ、フォルメートデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ガラクトースデヒドロゲナーゼ等が挙げられる。
【0023】
また、負極41a,41bには、上述した酸化酵素に加えて、酸化型補酵素及び補酵素酸化酵素を固定してもよい。酸化型補酵素としては、例えば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide;以下、NADと称する。)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate;以下、NADPと称する。)、フラビンアデニンジヌクレオチド(flavin adenine dinucleotide;以下、FADと称する。)、ピロロキノリンキノン(pyrrollo-quinoline quinone;以下、PQQ2+と称する。)等が挙げられる。補酵素酸化酵素としては、例えば、ジアホラーゼが挙げられる。
【0024】
そして、負極41a,41bでは、燃料の酸化分解に伴い、上述した酸化型補酵素が、それぞれの還元型であるNADH、NADPH、FADH及びPQQHに還元され、逆に、補酵素酸化酵素により、還元型補酵素から酸化型補酵素へ戻されるという酸化還元反応が繰り返される。このとき、還元型補酵素から酸化型補酵素へ戻る際に2電子が発生する。
【0025】
更に、負極41a,41bには、上記の酸化酵素及び酸化型補酵素に加え、電子伝達メディエーターを固定してもよい。上記で発生した電子の電極への受け渡しをスムーズにするためである。電子伝達メディエーターとしては、例えば、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)、ビタミンK3、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2、3−ジアミノ−1,4−ナフトキノン、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の金属錯体、ベンジルビオローゲン等のビオローゲン化合物、キノン骨格を有する化合物、ニコチンアミド構造を有する化合物、リボフラビン構造を有する化合物、ヌクレオチド−リン酸構造を有する化合物等が挙げられる。
【0026】
正極42a,42bに用いる材料も公知のあらゆる素材を用いることができ、外部と電気的に接続可能な素材であれば特に限定されるものではないが、例えば、Pt、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Nb、Mo、In、Ir、Zn、Mn、Fe、Co、Ti、V、Cr、Pd、Re、Ta、W、Zr、Ge及びHf等の金属材料、アルメル、真ちゅう、ジュラルミン、青銅、ニッケリン、白金ロジウム、ハイパーコ、パーマロイ、パーメンダー、洋銀及びリン青銅等の合金類、ポリアセチレン類等の導電性高分子、グラファイト及びカーボンブラック等の炭素材、HfB、NbB、CrB及びBC等の硼化物、TiN及びZrN等の窒化物、VSi、NbSi、MoSi及びTaSi等の珪化物、並びにこれらの複合材料を用いることができる。
【0027】
また、正極42a,42bには、必要に応じて酵素を固定することができる。その際、正極42a,42bに固定し得る酵素としては、酸素を反応基質とするオキシダーゼ活性を有する酵素であれば、その種類は特に限定されず、必要に応じて自由に選択することが可能である。具体的には、ラッカーゼ、ビリルビンオキシダーゼ及びアスコルビン酸オキシダーゼ等を用いることができる。
【0028】
更に、正極42a,42bには、上述した各酵素に加えて、電子伝達メディエーターを固定してもよい。これにより、負極41a,41bで発生し、負極集電体44a,44b及び正極集電体45a,45bを介して送り込まれる電子の受け取りを、スムーズにすることができる。なお、正極42a,42bに固定し得る電子伝達メディエーターの種類は特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜選択することができるが、例えば、ABTS(2,2'-azinobis (3-ethylbenzoline-6-sulfonate))及びK[Fe(CN)]等を用いることが可能である。
【0029】
正極42a,42bにおいては、負極41a,41bから負極集電体44a,44b及び正極集電体45a,45bを介して送り込まれる電子と、外部から供給される酸素を用いて還元反応が進行する。
【0030】
一方、プロトン伝導体43a,43bに用いる材料も特に限定されるものではなく、公知のあらゆる材料を用いることができるが、例えば、緩衝物質を含む電解質を用いることができる。緩衝物質としては、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)やリン酸二水素カリウム(KHPO)等が生成するリン酸二水素イオン(HPO)、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(略称トリス)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、カコジル酸、炭酸(HCO)、クエン酸水素イオン、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−3−プロパンスルホン酸(HEPPS)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(略称トリシン)、グリシルグリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(略称ビシン)、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、イミダゾール誘導体(ヒスチジン、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、イミダゾール−2−カルボン酸エチル、イミダゾール−2−カルボキシアルデヒド、イミダゾール−4−カルボン酸、イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、イミダゾール−1−イル−酢酸、2−アセチルベンズイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、N−アセチルイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール、N−(3−アミノプロピル) イミダゾール、5−アミノ−2−(トリフルオロメチル) ベンズイミダゾール、4−アザベンズイミダゾール、4−アザ−2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール)等のイミダゾール環を含む化合物等が挙げられる。
【0031】
更に、負極集電体44a,44b及び正極集電体45a,45bに用いる材料も公知のあらゆる素材を用いることができ、外部と電気的に接続可能な素材であれば特に限定されないが、例えば、Pt、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Nb、Mo、In、Ir、Zn、Mn、Fe、Co、Ti、V、Cr、Pd、Re、Ta、W、Zr、Ge及びHf等の金属材料、アルメル、真ちゅう、ジュラルミン、青銅、ニッケリン、白金ロジウム、ハイパーコ、パーマロイ、パーメンダー、洋銀及びリン青銅等の合金類、ポリアセチレン類等の導電性高分子、グラファイト及びカーボンブラック等の炭素材、HfB、NbB、CrB及びBC等の硼化物、TiN及びZrN等の窒化物、VSi、NbSi、MoSi及びTaSi等の珪化物、並びにこれらの複合材料を用いることができる。
【0032】
上述した酵素電池4において、燃料にグルコースを使用した場合、酵素電池4においては、負極でグルコース(Glucose)の酸化反応が進行し、正極で大気中の酸素(O)の還元反応が進行する。そして、負極では、グルコース(Glucose)、グルコース脱水素酵素(Glucose Dehydrogenase)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD;Nicotinamide Adenine Dinucleotide)、ジアホラーゼ(Diaphorase)、ミディエーター、電極の順に電子が受け渡される。
【0033】
本実施形態の流体デバイス1における基板2は、例えば、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリプロピレン等の高分子材料、ガラス及びシリコン等により形成することができる。
【0034】
また、ポンプ5としては、シリンジポンプ、ダイヤフラム式ポンプ、電気浸透流ポンプ等を適用することができるが、これらの中でも、特に、電気浸透流ポンプが好ましい。電気浸透流ポンプは、可動部がなく構造が単純であり、小型で高圧力を実現でき、駆動電圧が小さく、動作音もなく、電圧により容易に制御できるという特徴がある。また、電気浸透流ポンプは、水、エタノール、メタノール、高濃度の塩及び酸、アルカリ、ビーズ、染料並びに細胞等を含む溶液をも流すことが可能で、更に、脈動が少ないため、幅が数〜数百μmの微細な流路を備えるマイクロ流体デバイスに特に好適である。
【0035】
また、検出部6としては、例えば、発光素子と受光素子とを備え、発光素子から照射した光により発せられた光を、受光素子で検出する構成とすることができる。その場合、受光素子としては、半導体レーザ及び発光ダイオード等を使用することができるが、半導体レーザは比較的高い電圧を必要とするため、低電圧でも駆動する発光ダイオードを使用することが望ましい。発光ダイオードは、長寿命であることから、計測の分野では頻繁に使用されており、青色(470nm)及び赤色(645nm)等様々な波長の光を発することが可能であり、必要に応じて選択することができる。
【0036】
一方、受光素子としては、例えば、光電子倍増管及び半導体受光素子等を適用することができる。これらの受光素子のうち、半導体受光素子には、フォトダイオードと光起電素子の2種類があり、計測の分野では一般にフォトダイオードが使用されている。これらの素子は、光の信号を電気信号に変換する素子であり、電源を必要としないものもあるため、外部電源を使用しない本実施形態の流体デバイス1には、特に好適である。
【0037】
次に、本実施形態の流体デバイス1の動作について説明する。本実施形態の流体デバイス1においては、先ず、酵素電池4にグルコース等の燃料が導入され、それにより発生した電力がポンプ5及び検出部6に供給される。その際、ポンプ5を動作させるために必要な電圧は、通流させる溶液によって変化するが、例えば、ポンプ5が電気浸透流ポンプである場合は、駆動電圧は2〜3V程度であり、溶液を効率的に通流させるためには5V程度以上印加することが好ましい。そして、ポンプ5を5Vで駆動させた場合は、1mA程度の電流が必要となるため、消費電力は5mW程度となる。
【0038】
また、検出部6を動作させるために必要な電圧は、例えば、発光素子として発光ダイオードを使用した場合、駆動電圧は2〜3V程度である。そして、発光波長が青色(470nm)である場合は、順電圧が約3.6V、順電流が約20mAであり、また、発光波長が赤色(645nm)の場合は、順電圧が約1.6V、順電流が1mAである。従って、これらの消費電力は1.6〜60mW程度となる。なお、受光素子はフォトダイオード又は光起電素子を使用することにより、電源は不要となる。
【0039】
次に、酵素電池4から供給された電力により、ポンプ5が動作し、試料溶液が流路3に送液される。そして、検出部6では、発光素子により試料溶液に光を照射し、それにより発せられた光を受光素子で検出することにより、試料溶液の分析を行う。その後、試料溶液は排出孔7から排出される。
【0040】
上述した本実施形態の流体デバイス1を用いて血液を分析する場合は、酵素電池4の燃料導入孔に燃料を導入した後、電気浸透流ポンプ等からなるポンプ5に測定対象の血液サンプルを注入する。これにより、血液サンプルは、例えば電気浸透流等により、マイクロ流体デバイスの流路3に円滑に導入される。その後、血液サンプルは、流体デバイス1内に作製された分離機構により分離され、検出部6において定量的に測定される。
【0041】
このように、本実施形態の流体デバイス1は、基板2に、ポンプ5及び検出部6、更には、それらを動作させるための動力源となる酵素電池4が設けられているため、外部装置を使用せずに測定対象の試料溶液の分析を行うことができる。即ち、本実施形態の流体デバイス1は、外部装置、特に、外部電源を必要としない自立型の流体デバイスと言える。
【0042】
また、酵素電池4は小型化が可能であり、例えば、電気浸透流ポンプ等と共にマイクロチップ上に実装し、モジュール化することも可能であるため、本実施形態の流体デバイス1は、微細流路を備えるマイクロ流体デバイスへの適用も可能である。これにより、マイクロチップ状の自立型流体デバイスを実現することができる。
【0043】
更に、本実施形態の流体デバイス1の動力源である酵素電池4は、グルコース等のより安全な燃料を使用することができるため、場所を問わず使用することが可能である。
【0044】
なお、図1に示す流体デバイス1では、酵素電池4の数は1個であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、ポンプ5及び検出部6においてより高い電圧を必要とする場合は、複数の酵素電池4を設け、それらを直列に接続してもよい。また、本実施形態の流体デバイス1は、基板2上に各種電気回路を設け、この電気回路を介して酵素電池4とポンプ5及び/又は検出部6とを接続することもできる。例えば、基板2上に昇圧回路を形成し、この昇圧回路を介して接続することで、酵素電池4からポンプ5及び検出部6に供給する電圧を高めることができる。更に、基板2には、前述した昇圧回路以外に、例えば降圧回路及び整流回路等を設けることができる。
【0045】
次に、本発明の第2の実施形態に係る流体デバイスについて説明する。図3は本実施形態の流体デバイスの構成を模式的に示す斜視図である。なお、図3においては、図1に示す第1の実施形態の流体デバイス1の構成要素と同じものには同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0046】
図3に示すように、本実施形態の流体デバイス11は、基板12に流路13が形成されており、その中に液体16と気体17とが封入されている。この流路13の一方の端部には、流路13内に圧力をかけるためのポンプ15が設けられている。このポンプ15としては、例えば、シリンジポンプ、ダイヤフラム式ポンプ又は電気浸透流ポンプ等を適用することができる。また、基板12には、流路13に沿って目盛り14が形成されている。
【0047】
更に、この流体デバイス11には、ポンプ15を駆動させる動力源として酵素電池4が設けられており、酵素電池4はポンプ15と電気的に接続されている。なお、本実施形態の流体デバイス11における酵素電池4の構成は、前述した第1の実施形態の流体デバイスと同様である。
【0048】
次に、上述の如く構成された本実施形態の流体デバイス11の動作について説明する。本実施形態の流体デバイス11においては、測定対象の試料溶液はグルコース等の酵素電池の燃料となる成分(燃料成分)を含むものとする。そして、この試料溶液を酵素電池4に導入すると、酵素電池4では燃料成分の量に対応する電流が発生し、その値に応じてポンプ15が動作する。これにより、流路13内に液体16が導入されるため、流路13内の圧力が高まり、気体17が圧縮され、液体16と気体17との境界の位置が変化する。
【0049】
その際、液体16の導入量は酵素電池4で発生した電流値に比例することから、気体17の圧縮度合いも酵素電池4で発生した電流値に比例する。従って、これらの境界面の位置を目盛り14で読み取ることにより、試料溶液中の燃料成分の濃度を容易に測定することができる。
【0050】
このように本実施形態の流体デバイス11は、例えば、酵素電池4の燃料導入孔に血液サンプルを導入することにより、血液中のグルコース濃度を容易に測定することができるため、血糖値測定装置として使用することができる。
【0051】
なお、本実施形態の流体デバイス11においては、液体16と気体17との境界を見やすくするため、液体16を着色してもよい。また、流路13に封入される物質は、液体と気体の組合せに限定されるものではなく、例えば、混合しない二種類の液体を使用してもよい。
【0052】
上述の如く、本実施形態の流体デバイス11では、酵素電池4で発生した電流に応じてポンプ15を駆動させているため、外部電源を使用せずに、単独で試料溶液を分析することができる。即ち、本実施形態の流体デバイス11の構成とすることで、外部装置を必要としない自立型の流体デバイスを実現することができる。
【0053】
なお、本実施形態の流体デバイス11における上記以外の効果は、前述した第1の実施形態の流体デバイスと同様である。
【0054】
次に、本発明の第3の実施形態に係る流体デバイスについて説明する。本実施形態の流体デバイスは、発光素子及び受光素子を備える検出部を設けず、その代わりに、流路内に核酸若しくはタンパク質等の生体由来物質又は触媒等が固定化されている。そして、この流体デバイスにおいては、生体由来物質又は触媒等が固定化されている部分が検出部となる。
【0055】
本実施形態の流体デバイスにおいて、流路内に生体由来物質又は触媒等を固定化する方法としては、例えば、流路内にこれらが固定化された構造物を構築する方法がある。このような構造物は、流路内に生体由来物質又は触媒等が固定化されたポリスチレンビーズと光硬化性樹脂との混合物を導入し、これに所定のパターンが形成されたフォトマスクを通して紫外線を照射した後、未反応の樹脂を洗い流すことにより、構築することができる。そして、このように、流路内にマスクパターンを反映した構造物を形成することで、任意な位置に検出部を形成することができる。
【0056】
上述の如く構成された本実施形態の流体デバイスを使用して、抗原の測定を行う場合は、例えば流路内に一次抗体が固定化された構造物を形成しておく。そして、先ず、測定対象となる抗原を含む血清等の試料溶液を流路に導入し、一定時間構造物と接触させることにより1次抗体と反応させた後、バッファーで洗浄する。引き続き、流路内に二次抗体(酵素で標識した抗体)の溶液を導入して、一定時間反応させた後、バッファーで洗浄する。その後、流路に発色試薬を導入し、目視により反応状態を確認する。
【0057】
このように、本実施形態の流体デバイスは、測定対象物を補足する抗体等のタンパク質若しくは核酸等の生体由来物質又は触媒等を固定化し、流路内の任意の場所に任意の形状で高密度に集積化しているため、微量の試料で迅速に分析することができる。また、本実施形態の流体デバイスは、発色試薬を導入することで、分析結果を目視で確認することができるため、発光素子及び受光素子等の検出器が不要となる。これにより、流体デバイス自体をより小型化すると共に、低コスト化することが可能となる。更に、本実施形態の流体デバイスは、流路内に複数の反応領域を設けることで、複数の分析対象物を同時に分析することも可能となる。
【0058】
なお、本実施形態の流体デバイスにおける上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態の流体デバイスと同様である。
【0059】
次に、本発明の第4の実施形態に係る流体デバイスについて説明する。本実施形態の流体デバイスは、前述した第1〜第3の実施形態の流体デバイスに、更に、検出結果を無線信号にして送信するデータ送信部を設けたものである。このデータ送信部は、無線通信を行うためのアンテナ等を備えている。これにより、測定結果を離れた場所に迅速に伝達することが可能となる。その結果、例えば、健康医療の分野においては、離島・遠隔地等においても的確な医療判断が可能となる。また、複数箇所で測定した結果を一カ所に集めて、蓄積したり、モニターしたりすることが容易になるため、温湿度の管理、大気・水質汚染の測定についても簡便に行うことができるようになる。
【0060】
なお、本実施形態の流体デバイスにおける上記以外の構成及び効果は、前述した第1〜3の実施形態の流体デバイスと同様である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施形態の流体デバイスの構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示す酵素電池4の構造の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態の流体デバイスの構成を模式的に示す斜視図である。
【図4】特許文献2に記載された従来の流体デバイスを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
1、11、100 流体デバイス
2、12 基板
3、13 流路
4 酵素電池
5、15 ポンプ
6 検出部
7 排出孔
14 目盛り
16 液体
17 気体
41a、41b 負極
42a、42b 正極
43a、43b プロトン伝導体
44a、44b 負極集電体
45a、45b 正極集電体
46 燃料供給部
47 燃料
101 マイクロ流体チップ
102 電気浸透流ポンプ
103 流路
104 液溜部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路が形成された基板に、前記流路に送液するためのポンプと、少なくとも前記ポンプに電力を供給する酵素電池とが設けられている流体デバイス。
【請求項2】
前記酵素電池には燃料として測定対象の試料溶液が導入され、前記酵素電池で発生した電力に応じて前記ポンプが駆動し、前記流路内の圧力が変化することを特徴とする請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項3】
前記基板には、更に、前記流路内を通流する試料溶液に光を照射する発光素子と、前記試料溶液から発せられた光を検出する受光素子とを備えた検出部が設けられており、前記検出部にも前記酵素電池から電力が供給されることを特徴とする請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項4】
前記ポンプが電気浸透流ポンプであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の流体デバイス。
【請求項5】
前記流路内に生体由来物質又は触媒が固定化されていることを特徴とする請求項1又は3に記載の流体デバイス。
【請求項6】
前記基板には電気回路が形成されており、前記酵素電池と前記ポンプ及び/又は前記検出部とが前記電気回路を介して電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は3に記載の流体デバイス。
【請求項7】
更に、前記基板上に検出結果を無線信号にして送信するデータ送信部が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の流体デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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