説明

流体伝達装置

【課題】ロックアップクラッチの制御性を向上させる。
【解決手段】タービンシェル32の内周部に油孔32aを形成すると共にステータハブ42の内周面に油溝42bを形成し、ロックアップ室80内の作動油をコンバータ室48をバイパスして直接に排出用油路78aに供給するためのバイパス路を形成する。これにより、ポンプインペラ20とタービンランナ30との回転速度差が比較的高いときでも、バイパス路によりロックアップ室80内の作動油の流れを良くし、ロックアップ室80の内圧を適切な状態に保持することができる。この結果、ロックアップ室80内の油圧と係合油圧室79の油圧との圧力差によってロックアップクラッチをスリップ係合する際にロックアップクラッチ機構60が急係合するなどの不具合の発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力要素に接続されたポンプインペラと、出力要素に接続され前記ポンプインペラと対向して配置されたタービンランナと、内周部にワンウェイクラッチが組み込まれたステータと、前記タービンランナの背面側に配置され前記入力要素と前記出力要素とを駆動連結する多板式のロックアップクラッチとを備え、前記ポンプインペラと前記タービンランナと前記ステータとによりトーラスを形成し、作動流体を導入用流路から導入し前記ロックアップクラッチの摩擦板と前記トーラスとを順に通過させて排出用流路から排出し、前記導入用流路とは独立した係合用流路に作動流体を導入することにより前記ロックアップクラッチが作動するよう構成された流体伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の流体伝達装置としては、ポンプインペラとタービンランナとステータとからなるトルクコンバータと、フロントカバーとタービンランナとの間の空間に配置された多板式のロックアップクラッチとを備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、フロントカバーの内周端から軸方向に延びる円筒部とタービンハブの内周部との間にポート溝が形成されており、ポート溝から導入された作動油は、ロックアップクラッチのクラッチ部(摩擦板)を経由して、コンバータ本体内(トーラス)に送られ、ステータとポンプインペラとの境目から排出されるようになっている。なお、ロックアップクラッチは、クラッチ部の空間とは独立した空間として係合油圧室が設けられ、係合油圧室に作動油を導入することにより、係合油圧室の内圧とクラッチ部の空間の内圧との圧力差によってピストン部材を移動させてロックアップ(係合)する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−317848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した装置では、低車速時などポンプインペラとタービンランナとの回転速度差が比較的大きいときには、クラッチ部からトーラス内に流入される作動油の量が減少すると共にトーラスから流出される作動油の量も減少する傾向にあるため、クラッチ部の空間の内圧が高くなり易い。いま、ポンプインペラとタービンランナとの回転速度差が比較的大きい状態から滑りを伴ってロックアップクラッチを係合(スリップ係合)する場合を考えると、クラッチ部の空間の内圧が高いため、係合油圧室の内圧が高くなるまでピストン部材が移動しない。一方、ピストン部材が移動してロックアップクラッチがスリップ係合すると、ポンプインペラとタービンランナとの回転速度差が小さくなってトーラス内を循環していた大量の作動油が排出されるため、クラッチ部の空間の内圧が急減する。このため、クラッチの係合途中に係合油圧室の内圧とクラッチ部の空間の内圧との圧力差が急増し、クラッチが急係合するなど、ロックアップクラッチの制御性が悪化する場合が生じる。
【0005】
本発明の流体伝達装置は、ロックアップクラッチの制御性を向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の流体伝達装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の流体伝達装置は、
入力要素に接続されたポンプインペラと、出力要素に接続され前記ポンプインペラと対向して配置されたタービンランナと、内周部にワンウェイクラッチが組み込まれたステータと、前記タービンランナの背面側に配置され前記入力要素と前記出力要素とを駆動連結する多板式のロックアップクラッチとを備え、前記ポンプインペラと前記タービンランナと前記ステータとによりトーラスを形成し、作動流体を導入用流路から導入し前記ロックアップクラッチの摩擦板と前記トーラスとを順に通過させて排出用流路から排出し、前記導入用流路とは独立した係合用流路に作動流体を導入することにより前記ロックアップクラッチが作動するよう構成された流体伝達装置であって、
前記導入用流路から前記摩擦板を通過した作動流体を、前記トーラスを介さずに前記ワンウェイクラッチを通過させてから前記排出用流路に供給するワンウェイクラッチ潤滑用流路と、
前記導入用流路から前記摩擦板を通過した作動流体を、前記トーラスと前記ワンウェイクラッチ潤滑用流路とを介さずに前記排出用流路に直接に供給するバイパス流路と、
が形成されてなることを要旨とする。
【0008】
この本発明の流体伝達装置では、タービンランナの背面側にロックアップクラッチが配置され、ポンプインペラとタービンランナとステータとによりトーラスを形成し、作動流体を導入用流路から導入しロックアップクラッチの摩擦板とトーラスとを順に通過させて排出用流路から排出し、導入用流路とは独立した係合用流路に作動流体を導入することによりロックアップクラッチが作動するよう構成されたものにおいて、導入用流路から摩擦板を通過した作動流体をトーラスを介さずにワンウェイクラッチを通過させてから排出用流路に供給するワンウェイクラッチ潤滑用流路と、導入用流路から摩擦板を通過した作動流体をトーラスとワンウェイクラッチ潤滑用流路とを介さずに排出用流路に直接に供給するバイパス流路とを形成する。これにより、ポンプインペラとタービンランナの回転速度差が比較的高いときでも、摩擦板が配置された空間の内圧はバイパス流路によって調圧されるため、摩擦板が配置された空間の内圧とワンウェイクラッチのピストンを作動させるための係合油圧室の内圧との圧力差を適切に制御することができる。この結果、ロックアップクラッチの制御性をより向上させることができる。
【0009】
こうした本発明の流体伝達装置において、前記ポンプインペラは、ポンプシェルの内周部に接合されたポンプハブを有し、前記タービンランナは、タービンシェルの内周部に接合されたタービンハブを有し、前記ワンウェイクラッチは、前記ポンプハブと前記タービンハブとの間に配置され、前記排出用流路は、前記ワンウェイクラッチと前記ポンプハブとの間に形成された流路を含み、前記ワンウェイクラッチ潤滑用流路は、前記ワンウェイクラッチと前記タービンハブとの間に形成された第1の流路と、該第1の流路と前記排出用流路とが前記ワンウェイクラッチを介して連通するよう形成された第2の流路とを含み、前記タービンランナにおける前記トーラス領域外に、前記摩擦板を通過した作動流体を前記ワンウェイクラッチ潤滑用流路と前記バイパス流路とに導く連絡孔が形成され、前記バイパス流路は、前記排出用流路に対して前記ワンウェイクラッチ潤滑用流路と並列に接続されるよう形成されてなるものとすることもできる。こうすれば、比較的簡易な構成で摩擦板が配置された空間の内圧を調圧することができる。この態様の本発明の流体伝達装置において、前記ワンウェイクラッチの軸方向の両端には、スラスト軸受けが該スラスト軸受けを支持する支持部材を介して設けられ、前記排出用流路は、前記ロックアップクラッチとは反対側に設けられた支持部材に形成され、前記ワンウェイクラッチ潤滑用流路は、前記ロックアップクラッチ側に設けられた支持部材に形成されてなるものとすることもできる。
【0010】
また、前記ワンウェイクラッチが前記ステータにスプライン係合された本発明の流体伝達装置において、前記ワンウェイクラッチの外周部と前記ステータの内周部の一方に、スプライン歯が形成され、前記ワンウェイクラッチの外周部と前記ステータの内周部の他方に、前記スプライン歯が係合される第1の溝と、前記スプライン歯が係合されない第2の溝とが形成され、前記バイパス流路は、前記第2の溝を含む流路であるものとすることもできるし、本発明の流体伝達装置において、前記バイパス流路は、前記ステータのステータハブに形成され、前記ロックアップクラッチ側から前記排出用流路に向かって貫通する貫通孔を含む流路であるものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例としての流体伝達装置10の構成の概略を示す構成図である。
【図2】アウターレース54とステータハブ42とがスプライン係合された状態の正面図である。
【図3】変形例の流体伝達装置110の構成の概略を示す構成図である。
【図4】変形例の流体伝達装置210の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例としての流体伝達装置10の構成の概略を示す構成図であり、図2は、ステータ40の正面図である。
【0014】
実施例の流体伝達装置10は、車両に搭載された図示しないエンジンからのトルクを伝達するトルクコンバータであり、図示するように、エンジンのクランクシャフトにフロントハブ14を介して連結されたフロントカバー12と、フロントカバー12の外周部に接合されたポンプインペラ20と、ポンプインペラ20と同軸上に対向して配置されたタービンランナ30と、タービンランナ30からポンプインペラ20に向かう作動油の流れを整流するステータ40と、ロックアップ室80に収容されフロントハブ14に接続された多板式のロックアップクラッチ機構60と、ロックアップ室80に収容されタービンランナ30の内周部に接合されたタービンハブ36とロックアップクラッチ機構60とに接続されたダンパ装置70と、を備える。実施例では、タービンハブ36には、図示しない有段の自動変速機(AT)や無段変速機などの変速装置のインプットシャフトが接続されている。
【0015】
フロントカバー12の内周部は、エンジンのクランクシャフトに連結されたフロントハブ14の外周部に溶接により接合されている。また、フロントカバー12の外周部は、ポンプインペラ20側に向かって軸方向に円筒状に延伸されており、その円筒端部がポンプインペラ20の外周部に溶接により接合されている。
【0016】
ポンプインペラ20は、外郭を構成するポンプシェル22と、ポンプシェル22の内面に配設された複数のポンプブレード24と、ポンプシェル22の内周部に接合されたポンプハブ26とを備える。ポンプハブ26は、円筒部26aと、円筒部26aの端部から径方向に延伸されたフランジ部26bとからなり、フランジ部26bの外周部にポンプシェル22の内周部が溶接により接合されている。
【0017】
タービンランナ30は、外郭を構成するタービンシェル32と、タービンシェル32の内面に配設された複数のタービンブレード34と、タービンシェル32の内周部に嵌合されると共にリベット38により固定されたタービンハブ36とを備える。タービンシェル32は、内周部の断面がL字型に屈曲されており、軸方向に略平行な面にステータ40側に向けて油孔32aが形成されている。タービンハブ36は、円筒部36aと、円筒部36aの端部から径方向に延伸されたフランジ部36bとからなり、フランジ部36bの外周部にタービンシェル32の内周部が固定されている。このタービンハブ36には、円筒部36aとフランジ部36bとの境界をなす部位に導入用ポート16から導入された作動油をロックアップクラッチ機構60(ロックアップ室80)に供給するための油孔36cが形成されている。なお、導入用ポート16には、エンジンにより駆動される図示しないオイルポンプやオイルポンプから圧送された作動油を調圧する調圧バルブや調圧バルブを駆動するリニアソレノイドなどを含む油圧制御装置からの作動油が供給されるようになっている。
【0018】
ステータ40は、環状のステータハブ42と、ステータハブ42の外周面に複数配設されたステータブレード44とを備える。ステータハブ42の内周側には、ワンウェイクラッチ50が組み込まれており、ステータ40の回転を一方向のみに規制している。実施例の流体伝達装置10は、ポンプインペラ20とタービンランナ30とステータ40とで囲まれる空間によりコンバータ室48(トーラス)を形成している。
【0019】
ワンウェイクラッチ50は、内周側の環状のインナーレース52が流体伝達装置の図示しないケースに固定されており、外周側の環状のアウターレース54がステータハブ42にスプライン係合されている。図2は、アウターレース54とステータハブ42とがスプライン係合された状態の正面図である。図示するように、ステータハブ42は、その内周面に所定角度間隔毎にスプライン溝42aと油溝42bとが交互に形成(実施例では、それぞれ8つずつ形成)されている。一方、アウターレース54は、その外周面にステータハブ42のスプライン溝42aに係合されるスプライン歯54aがスプライン溝42aと同じ角度間隔毎に形成されている。ステータハブ42の油溝42bは、アウターレース54の外周面(歯のない面)と共にステータハブ42とアウターレース54の間を軸方向に作動油が流れる油路を形成する。
【0020】
また、ワンウェイクラッチ50には、軸方向の両端に、スラスト荷重を受けるためのスラストベアリング72,74が配置されている。スラストベアリング72は、スラストベアリング支持部材76に支持された状態でポンプハブ26のフランジ部26bとワンウェイクラッチ50との間に配置され、スラストベアリング74は、スラストベアリング支持部材78に支持された状態でタービンハブ36のフランジ部36bとワンウェイクラッチ50との間に配置されている。
【0021】
スラストベアリング支持部材76は、ポンプハブ26とインナーレース52との間に形成された排出用ポート18に連通するよう径方向に形成された排出用油路76aを有し、コンバータ室48内の作動油を排出用油路76aを介して排出用ポート18から排出できるようになっている。また、スラストベアリング支持部材76には、ワンウェイクラッチ50に軸方向に連通すると共に排出用油路76aに連通する連通孔76bも形成されている。
【0022】
スラストベアリング支持部材78は、径方向に形成されたワンウェイクラッチ用油路78aと、ワンウェイクラッチ用油路78aからワンウェイクラッチ50に向かって軸方向に連通するよう形成された連通孔78bとを有する。
【0023】
ロックアップクラッチ機構60は、入力要素としてのフロントカバー12と出力要素としてのタービンハブ36とを駆動連結可能な機構であり、ダンパ装置70よりも内周側に配置されている。このロックアップクラッチ機構60は、複数の環状の摩擦板61と複数の環状のセパレータ63とが軸方向に沿って交互に配置された多板クラッチとして構成されており、摩擦板61はアウターハブ62の内周面に形成されたスプライン溝にスプライン係合され、セパレータ63はインナーハブ64の外周面に形成されたスプライン溝にスプライン係合されている。インナーハブ64は、摩擦板61およびセパレータ63の軸方向の圧縮圧力を受けるリテーニングプレート66に固定され、リテーニングプレート66の内周部は、フロントカバー12にスプライン係合されている。また、ロックアップクラッチ機構60は、フロントカバー12およびフロントハブ14の内壁に油密状態で軸方向に移動自在に支持されたロックアップピストン68が配置されており、フロントカバー12およびフロントハブ14の内壁をシリンダとして用いてこの内壁とロックアップピストン68の背面とにより囲まれる空間とにより係合油圧室69を形成する。係合油圧室69は、ロックアップピストン68を押圧するためにロックアップ室80とは独立した空間であり、フロントハブ14に形成された係合用ポート14aに連通している。したがって、係合用ポート14aに作動油を供給することにより、係合油圧室69の内圧とロックアップ室80の内圧との圧力差によってロックアップピストン68を軸方向に移動させ、摩擦板61とセパレータ63とを押圧してロックアップすることができる。なお、係合用ポート14aには、油圧制御装置から導入用ポート16とは独立した油路により作動油が供給されるようになっている。
【0024】
リテーニングプレート66には、導入用ポート16からタービンハブ36の油孔36cを介して導入された作動油をロックアップクラッチ機構60のインナーハブ64に送るための油孔66aが形成されている。また、インナーハブ64には、リテーニングプレート66の油孔66aから送られた作動油を、フロントハブ14の回転に伴って発生する遠心力によってインナーハブ64の外周側に配置されている摩擦板61およびセパレータ63に送ってこれらの潤滑や冷却を行なうための油孔64aが形成されている。摩擦板61およびセパレータ63を通過した後の作動油は、ロックアップピストン68とアウターハブ62との間に形成された隙間を通り、ダンパ装置70に送られる。
【0025】
ダンパ装置70は、ロックアップクラッチ機構60のアウターハブ62とタービンハブ36とにトーションスプリング71を介して接続されており、アウターハブ62に入力されたトルクをトルク変動を吸収しながらタービンハブ36に伝達する。
【0026】
こうして構成された実施例の流体伝達装置10では、導入用ポート16はタービンハブ36の油孔36cとリテーニングプレート66の油孔66aとを介してロックアップクラッチ機構60とダンパ装置70とが収容されたロックアップ室80に連通し、ロックアップ室80はポンプシェル22およびタービンシェル32の外周部における両者の隙間を介してコンバータ室48に連通し、コンバータ室48は排出用油路78aを介して排出用ポート18に連通する。こうした導入用ポート16からロックアップ室80とコンバータ室48とを経由して排出用ポート18に至る油路は、油圧制御装置から供給される作動油が循環する循環路を形成する。また、実施例の流体伝達装置10では、コンバータ室48内の作動油がワンウェイクラッチ50に供給されると共にロックアップ室80内の作動油がタービンシェル32の油孔32aを介してワンウェイクラッチ50に供給されるように、スラストベアリング支持部材78のワンウェイクラッチ用油路78aおよび連通孔78bと、スラストベアリング支持部材76の連通孔76bとによりワンウェイクラッチ用潤滑路を形成している。さらに、実施例の流体伝達装置10では、ロックアップ室80内の作動油がコンバータ室48をバイパスして直接に排出用油路78aから排出されるように、タービンシェル32の油孔32aと、ステータハブ42の油溝42bとによりバイパス路を形成している。このバイパス路を形成している理由については後述する。
【0027】
次に、実施例の流体伝達装置10の動作について説明する。実施例の流体伝達装置10では、ロックアップクラッチ機構60の係合が解除されているときには、エンジンからのトルクをフロントハブ14およびフロントカバー12を介してポンプインペラ20に伝達し、伝達されたトルクをポンプインペラ20が作動油の流れに変換し、ポンプインペラ20と向かい合うタービンランナ30が作動油の流れを受けてトルクに変換することによりトルクの伝達を行なう。この際、ステータ40がタービンランナ30からの作動油の戻りを整流しポンプインペラ20に還元することによりトルク増幅作用を発揮し、ポンプインペラ20とタービンランナ30との回転速度差が小さくなると、トルク増幅作用はなくなり、単なる流体継手となる。また、実施例の流体伝達装置10は、ロックアップ室80やコンバータ室48に作動油が循環するよう油圧制御装置から導入用ポート16に作動油を供給している。
【0028】
また、実施例の流体伝達装置10では、低車速時に、ロックアップクラッチ機構60をスリップ係合するスリップ制御が行なわれている。なお、スリップ制御は、ロックアップクラッチ機構60の入力側(エンジンのクランクシャフト)と出力側(変速装置のインプットシャフト)とが目標とするスリップ率となるように目標エンジン回転速度を設定し、図示しない回転速度センサにより実エンジン回転速度を検出し、目標エンジン回転速度と実エンジン回転速度との偏差に基づいてフィードバック制御により行なわれる。こうしたスリップ制御は、ポンプインペラ20とタービンランナ30との回転速度差が比較的高い状態で行なわれる。
【0029】
いま、実施例の流体伝達装置10におけるバイパス路のない構成、即ち、タービンシェル32の油孔32aやステータハブ42の油溝44bのない構成でロックアップクラッチ機構60をスリップ係合する場合を考える。この場合、ポンプインペラ20とタービンランナ30との回転速度差が比較的高いときには、コンバータ室48内を循環する作動油の流れが強くなるから、ロックアップ室80からコンバータ室48に流入される作動油の量が減少すると共にコンバータ室48から排出される作動油の量も減少し、ロックアップ室80内の油圧が高くなり易い。ロックアップクラッチ機構60の係合はロックアップ室80の内圧と係合油圧室69の内圧との圧力差によって行なわれるから、ロックアップ室80の内圧が高い場合には、スリップ制御中のロックアップピストン68は係合油圧室69の内圧が高くなるまで移動しない。一方、ロックアップクラッチ機構60がスリップ係合すると、これに伴ってポンプインペラ20とタービンランナ30との回転速度差が小さくなるから、コンバータ室48内を循環する作動油の流れは弱まり、作動油の排出が進む。そして、ロックアップ室80からコンバータ室48への作動油が流入し易くなり、ロックアップ室80内の圧力は急減する。このため、スリップ係合中に、係合油圧室69の内圧とロックアップ室80の内圧との圧力差が急増し、ロックアップクラッチ機構60が急係合し、車両にショックが生じるおそれがある。実施例では、ロックアップ室80内の作動油がコンバータ室48をバイパスしてタービンシェル32の油孔32a,ステータハブ42の油溝42bを介して直接に排出用油路78aに供給されるようバイパス路を形成したから、ポンプインペラ20とタービンランナ30との回転速度差が高いときでも、ロックアップ室80内の作動油の流れを良くし、ロックアップ室80の内圧をスリップ係合に適した状態に維持することができる。したがって、スリップ係合中にロックアップクラッチ機構60が急係合するなどの不具合は生じない。
【0030】
以上説明した実施例の流体伝達装置10によれば、タービンシェル32の内周部に油孔32aを形成すると共にステータハブ42の内周面に油溝42bを形成することにより、ロックアップ室80内の作動油がコンバータ室48をバイパスして直接に排出用油路78aに供給されるようバイパス路を形成するから、ポンプインペラ20とタービンランナ30との回転速度差が比較的高いときでも、バイパス路によりロックアップ室80内の作動油の流れを良くし、ロックアップ室80の内圧をスリップ係合に適した状態に保持することができる。この結果、スリップ係合中にロックアップクラッチ機構60が急係合するなどの不具合は生じない。また、ロックアップ室80内の作動油がタービンシェル32の油孔32aを介してワンウェイクラッチ50に供給されるように、スラストベアリング支持部材78のワンウェイクラッチ用油路78aおよび連通孔78bと、スラストベアリング支持部材76の連通孔76bとによりワンウェイクラッチ用潤滑路を形成するから、ワンウェイクラッチ50の潤滑性能を良好なものにすることができる。
【0031】
実施例の流体伝達装置10では、ステータハブ42の内周面に形成した油溝42bをバイパス路の一部として形成したが、図3に示す変形例の流体伝達装置110に示すように、油溝42bに代えて、ロックアップ室80から排出用油路76aに向けてステータハブ42内を貫通する貫通孔144bをバイパス路の一部として形成するものとしてもよい。この場合、バイパス路はタービンシェル32の油孔32aとステータハブ42の貫通孔144bとを含む油路となり、ロックアップ室80内の作動油はコンバータ室48をバイパスするよう油孔32aと貫通孔144bとスラストベアリング支持部材76の排出用油路76aとを順に通過して排出用ポート18から排出されることになる。
【0032】
実施例の流体伝達装置10では、フロントカバー12およびフロントハブ14を、ロックアップクラッチ機構60のシリンダの一部として用いてロックアップピストン68が油密状態で移動可能に形成するものとしたが、シリンダを別途設けるものとしてもよい。図4は、変形例の流体伝達装置210の構成の概略を示す構成図である。変形例の流体伝達装置210では、図示するように、ロックアップクラッチ機構260がフロントカバー212とダンパ装置270との間に挟まれるように配置されている。このロックアップクラッチ機構260は、複数の摩擦板261と、ダンパ装置270に接続され内周面に摩擦板261がスプライン係合されたアウターハブ262と、複数のセパレータ263と、フロントカバー212に固定され外周面にセパレータ263がスプライン係合されたインナーハブ264と、摩擦板261およびセパレータ263をダンパ装置270側からフロントカバー212側に向けて軸方向に押圧するよう配置されたロックアップピストン268と、ロックアップピストン268を油密状態で軸方向に摺動自在に支持するシリンダ265と、を備える。このロックアップクラッチ機構260では、ロックアップピストン268とシリンダ265とにより囲まれる空間(係合油圧室269)に図示しない係合用ポートを介して作動油を導入することにより、係合油圧室269の内圧とロックアップ室280の内圧との圧力差によってロックアップピストン268を軸方向に移動させ、摩擦板261とセパレータ263とを押圧して係合する。フロントハブ214には導入用ポート216から導入された作動油をロックアップ室280に供給するための油孔214aが形成されており、油孔214aを介して導入された作動油はフロントハブ214の回転に伴って発生する遠心力によってフロントカバー212とロックアップピストン268との間の隙間を通り、摩擦板261およりセパレータ263に供給される。摩擦板261およりセパレータ263を通過した作動油は、ダンパ装置270を経由し、一部がポンプインペラ220とタービンランナ230とステータ240とにより囲まれるコンバータ室248を介してスラストベアリング支持部材276に形成された排出用油路276aに流れ、一部がタービンシェル232の油孔232aとスラストベアリング支持部材278に形成されたワンウェイクラッチ用油路278aと連通孔278bとワンウェイクラッチ250とスラストベアリング支持部材276に形成された連通孔276bとを介して排出用油路276aに流れ、一部がタービンシェル232の油孔232aとステータハブ242の貫通孔242bとを介して排出用油路276aに流れる。
【0033】
実施例の流体伝達装置10では、摩擦板61をアウターハブ62に係合すると共にセパレータ63をインナーハブ64に係合するものとしたが、摩擦板をインナーハブに係合すると共にセパレータをアウターハブに係合するものとしてもよい。
【0034】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、フロントカバー212およびフロントハブ214が「入力要素」に相当し、タービンハブ36が「出力要素」に相当し、ポンプインペラ20,220が「ポンプインペラ」に相当し、タービンランナ30,230が「タービンランナ」に相当し、ステータ40,240が「ステータ」に相当し、ロックアップクラッチ機構60,260が「ロックアップクラッチ」に相当し、導入用ポート16,216やフロントハブ214の油孔214a,リテーニングプレート66の油孔66aが「導入用流路」に相当し、排出用油路76a,276aや排出用ポート18が「排出用流路」に相当し、フロントハブ14の係合用ポート14aが「係合用流路」に相当し、タービンシェル32の油孔32aとワンウェイクラッチ用油路78aと連通孔76b,78bとを含む油路が「ワンウェイクラッチ潤滑用流路」に相当し、タービンシェル32の油孔32aとステータハブ42の油溝42bとを含む油路が「バイパス流路」に相当する。また、ワンウェイクラッチ用油路78aが「第1の流路」に相当し、連通孔76b,78bが「第2の流路」に相当し、タービンシェル32の油孔32aが「連絡孔」に相当する。また、スラストベアリング72,74が「スラスト軸受け」に相当し、スラストベアリング支持部材76,78が「支持部材」に相当する。また、ステータハブ42のスプライン溝42aが「第1の溝」に相当し、ステータ40の油溝42bが「第2の溝」に相当する。また、ステータハブ42の貫通孔142bが「貫通孔」に相当する。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである
【0035】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、流体伝達装置の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
10,110,210 流体伝達装置、12,212 フロントカバー、14,214 フロントハブ、14a 係合用ポート、16,216 導入用ポート、18,218 排出用ポート、20,220 ポンプインペラ、22 ポンプシェル、24 ポンプブレード、26 ポンプハブ、26a 円筒部、26b フランジ部、30,230 タービンランナ、32 タービンシェル、32a 油孔、34 タービンブレード、36,236 タービンハブ、36a 円筒部、36b フランジ部、36c 油孔、40,140,240 ステータ、42,142,242 ステータハブ、42a スプライン溝、42b 油溝、142b,242b 貫通孔 44 ステータブレード、48,248 コンバータ室、50 ワンウェイクラッチ、52 インナーレース、54 アウターレース、60,260 ロックアップクラッチ機構、61,261 摩擦板、62,262 アウターハブ、63,263 セパレータ、64,264 インナーハブ、64a 油孔、66 リテーニングプレート、66a 油孔、68,268 ロックアップピストン、69,269 係合油圧室、70 ダンパ装置、71 トーションスプリング、72,74 スラストベアリング、76,78 スラストベアリング支持部材、76a,276a 排出用油路、76b,276b 連通孔、78a,278a ワンウェイクラッチ用油路、78b,278b 連通孔、80,280 ロックアップ室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力要素に接続されたポンプインペラと、出力要素に接続され前記ポンプインペラと対向して配置されたタービンランナと、内周部にワンウェイクラッチが組み込まれたステータと、前記タービンランナの背面側に配置され前記入力要素と前記出力要素とを駆動連結する多板式のロックアップクラッチとを備え、前記ポンプインペラと前記タービンランナと前記ステータとによりトーラスを形成し、作動流体を導入用流路から導入し前記ロックアップクラッチの摩擦板と前記トーラスとを順に通過させて排出用流路から排出し、前記導入用流路とは独立した係合用流路に作動流体を導入することにより前記ロックアップクラッチが作動するよう構成された流体伝達装置であって、
前記導入用流路から前記摩擦板を通過した作動流体を、前記トーラスを介さずに前記ワンウェイクラッチを通過させてから前記排出用流路に供給するワンウェイクラッチ潤滑用流路と、
前記導入用流路から前記摩擦板を通過した作動流体を、前記トーラスと前記ワンウェイクラッチ潤滑用流路とを介さずに前記排出用流路に直接に供給するバイパス流路と、
が形成されてなることを特徴とする流体伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の流体伝達装置であって、
前記ポンプインペラは、ポンプシェルの内周部に接合されたポンプハブを有し、
前記タービンランナは、タービンシェルの内周部に接合されたタービンハブを有し、
前記ワンウェイクラッチは、前記ポンプハブと前記タービンハブとの間に配置され、
前記排出用流路は、前記ワンウェイクラッチと前記ポンプハブとの間に形成された流路を含み、
前記ワンウェイクラッチ潤滑用流路は、前記ワンウェイクラッチと前記タービンハブとの間に形成された第1の流路と、該第1の流路と前記排出用流路とが前記ワンウェイクラッチを介して連通するよう形成された第2の流路とを含み、
前記タービンランナにおける前記トーラス領域外に、前記摩擦板を通過した作動流体を前記ワンウェイクラッチ潤滑用流路と前記バイパス流路とに導く連絡孔が形成され、
前記バイパス流路は、前記排出用流路に対して前記ワンウェイクラッチ潤滑用流路と並列に接続されるよう形成されてなる
流体伝達装置。
【請求項3】
請求項2記載の流体伝達装置であって、
前記ワンウェイクラッチの軸方向の両端には、スラスト軸受けが該スラスト軸受けを支持する支持部材を介して設けられ、
前記排出用流路は、前記ロックアップクラッチとは反対側に設けられた支持部材に形成され、
前記ワンウェイクラッチ潤滑用流路は、前記ロックアップクラッチ側に設けられた支持部材に形成されてなる
流体伝達装置。
【請求項4】
前記ワンウェイクラッチが前記ステータにスプライン係合された請求項1ないし3いずれか1項に記載の流体伝達装置であって、
前記ワンウェイクラッチの外周部と前記ステータの内周部の一方に、スプライン歯が形成され、
前記ワンウェイクラッチの外周部と前記ステータの内周部の他方に、前記スプライン歯が係合される第1の溝と、前記スプライン歯が係合されない第2の溝とが形成され、
前記バイパス流路は、前記第2の溝を含む流路である
ことを特徴とする流体伝達装置。
【請求項5】
前記バイパス流路は、前記ステータのステータハブに形成され、前記ロックアップクラッチ側から前記排出用流路に向かって貫通する貫通孔を含む流路であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項に記載の流体伝達装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−72552(P2013−72552A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214713(P2011−214713)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)