流体噴射装置
【課題】狭い空間での溶媒蒸発によりノズル開口での流体の増粘を抑制することによってフラッシングを抑制することができる流体噴射装置を提供する。
【解決手段】プリンターは単位ヘッドを備え、単位ヘッドはインクを用紙に向かって噴射するノズルを有する。撚り糸30が、単位ヘッドのノズルが形成されたノズル形成面28と用紙との間においてノズル形成面28と対向し、ノズル29とは対向しない位置に配置され、水を保持している。
【解決手段】プリンターは単位ヘッドを備え、単位ヘッドはインクを用紙に向かって噴射するノズルを有する。撚り糸30が、単位ヘッドのノズルが形成されたノズル形成面28と用紙との間においてノズル形成面28と対向し、ノズル29とは対向しない位置に配置され、水を保持している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式プリンターなどの流体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクを記録紙(ターゲット)に対して噴射させる流体噴射装置として、インクジェットプリンター(以下、「プリンター」という。)が広く知られている。このようなプリンターにおいては、記録ヘッドのノズルからインクが蒸発することによるインクの増粘などによりノズルに目詰まりを生じるという問題があった。そこで、通常、プリンターは、記録紙に対しての噴射とは別に、ノズル内のインクを強制的に噴射させるフラッシング動作を行なうようになっている。他にも、特許文献1にはノズル内の液体が増粘し難い液体吐出装置が開示されている。この特許文献1の液体吐出装置においては、ノズルを覆わなくともノズル内の液体が増粘し難い流体噴射装置を実現するため、筐体内に設けられ、液体を吐出するためのノズルと、前記ノズル内の前記液体の増粘を抑えるために、前記ノズル外の液体を加熱または噴霧して前記筐体内を加湿するための加湿機構とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−6682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の液体吐出装置の場合は、広い範囲の筐体内を加湿するため、多くのエネルギーや蒸発媒体(水等)を必要としていた。特にラインヘッド式のプリンターや大型プリンターといった大きな容積を持つプリンターではこの問題はいっそう顕著であった。また、筐体内を加湿するため、印刷紙面や待機中の紙へも加湿されることになり、紙内部の湿度が上昇するため、印刷で噴射されたインクが乾燥しにくいという問題もあった。
【0005】
さらに、上述のフラッシング動作を行なうことは時間の無駄である。また、フラッシングを行なうための動作(フラッシング位置への移動)が必要であるとともにインクが無駄になってしまう。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、狭い空間での溶媒蒸発によりノズル開口での流体の増粘を抑制することによってフラッシングを抑制することができる流体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の流体噴射装置は、溶媒を含む流体をターゲットに向かって噴射するノズルを有する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置であって、前記流体噴射ヘッドのノズルが形成されたノズル形成面と前記ターゲットとの間において前記ノズル形成面と対向し、前記ノズルとは対向しない位置に配置され、前記流体に含まれる溶媒を保持する溶媒保持体を備えた。
【0008】
この構成によれば、流体に含まれる溶媒を保持する溶媒保持体が、流体噴射ヘッドのノズル形成面とターゲットとの間におけるノズル開口の近傍に配置されており、溶媒保持体の溶媒がノズル開口を含む狭い空間において蒸発して流体噴射ヘッドのノズル開口での流体の溶媒の蒸発が抑制される。これにより、ノズル開口での流体の増粘を抑制することができる。その結果、フラッシングを抑制することができる。
【0009】
本発明の流体噴射装置において、前記ノズルと前記溶媒保持体の距離は、前記溶媒保持体から前記溶媒が蒸発する範囲である蒸発境界層より小さい。
この構成によれば、溶媒保持体からの溶媒蒸発範囲内にノズルが位置する。そのため、蒸発した溶媒によりノズル開口での流体の溶媒の蒸発が確実に抑制される。
【0010】
本発明の流体噴射装置において、前記溶媒保持体は、前記ノズルの直径の10〜50倍の直径を有する糸状部材である。
この構成によれば、ノズルとターゲットの間の距離より糸状部材の方が小さいので、糸状部材はターゲットと接触せずに配置が可能である。また、増粘抑制できるだけの溶媒を含むことが可能である。
【0011】
本発明の流体噴射装置において、前記溶媒保持体は、撚り糸である。
この構成によれば、溶媒保持体は撚り糸であるので、交換が容易であり、交換性に優れている。
【0012】
本発明の流体噴射装置において、前記溶媒保持体は、多孔質体よりなり、前記流体噴射ヘッドのノズルに対応する部位には前記ノズルから噴射された流体が通る貫通孔が形成されている。
【0013】
この構成によれば、溶媒保持体は多孔質体よりなるので、溶媒の保持性能に優れている。
本発明の流体噴射装置において、前記多孔質体よりなる前記溶媒保持体における前記流体噴射ヘッドのノズルとは反対側の面には蒸発防止層が形成されている。
【0014】
この構成によれば、多孔質体よりなる溶媒保持体における流体噴射ヘッドのノズルとは反対側の面には蒸発防止層が形成されているので、貫通孔以外からの溶媒の蒸発を抑制することができる。
【0015】
本発明の流体噴射装置において、前記溶媒保持体に前記溶媒を供給する溶媒補給手段を更に備えた。
この構成によれば、溶媒補給手段により、溶媒が溶媒保持体に供給されて、継続的に溶媒保持体から溶媒を蒸発させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態のプリンターを模式的に示す正面図。
【図2】(a)は第1の実施形態のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は同プリンターの要部を模式的に示す側面図。
【図3】図2(a)のA−A線での断面図。
【図4】図2(b)のB部での断面および湿度分布を示す図。
【図5】水を保持した撚り糸をノズル開口の近傍に配置していない場合のノズル開口でのインクの時系列的な増粘変化を示すグラフ。
【図6】水を保持した撚り糸をノズル開口の近傍に配置した場合におけるノズル開口でのインクの時系列的な増粘変化を示すグラフ。
【図7】(a)は第2の実施形態のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は同プリンターの要部を模式的に示す側面図。
【図8】第3の実施形態のプリンターを模式的に示す正面図。
【図9】(a)は第3の実施形態のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は同プリンターの要部を模式的に示す側面図。
【図10】図7(a)のA−A線での断面図。
【図11】図7(b)のB部での断面図。
【図12】(a)は第4の実施形態のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は同プリンターの要部を模式的に示す側面図。
【図13】(a)は別例のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は(a)のA−A線での断面図。
【図14】(a)は別例のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は(a)のA−A線での断面図。
【図15】(a)は別例のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は(a)のA−A線での断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、本発明を流体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」という。)に具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。特に本実施形態では、用紙の幅方向の全域に亘って固定された記録ヘッドユニットを有するラインヘッド式のプリンターに具体化している。
【0018】
なお、以下の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は図1及び図2に矢印で示す前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれ示すものとする。
図1に示すように、記録装置としてのインクジェット式プリンター11は、ターゲットとしての用紙12を搬送するための搬送ユニット13と、記録ヘッドユニット15を備えている。搬送ユニット13の上方には、記録ヘッドユニット15が設けられている。
【0019】
搬送ユニット13は左右方向に長い矩形板状のプラテン17を備えている。プラテン17の右側には前後方向に延びる駆動ローラー18が駆動モーター19によって回転駆動可能に配置される一方、プラテン17の左側には前後方向に延びる従動ローラー20が回転可能に配置されている。さらに、プラテン17の下側には前後方向に延びるテンションローラー21が回転可能に配置されている。
【0020】
駆動ローラー18、従動ローラー20、及びテンションローラー21には、プラテン17を囲むように、多数の貫通孔を有する無端状の搬送ベルト22が巻き回されている。この場合、テンションローラー21は、図示しないばね部材によって下側に向かって付勢されており、搬送ベルト22にテンションを付与することで該搬送ベルト22の弛みを抑制するようになっている。
【0021】
そして、駆動ローラー18を前側から見て時計方向に回転駆動することで、搬送ベルト22が駆動ローラー18、テンションローラー21、及び従動ローラー20の外側を前側から見て時計方向に周回移動されるようになっている。この場合、搬送ベルト22の内側の面はプラテン17の上面を左側から右側に向かって摺動するとともに、搬送ベルト22上の用紙12は上流側である左側から下流側である右側に向かって搬送されるようになっている。
【0022】
また、用紙12は、プラテン17の上面と対向する位置にある場合、図示しない吸引手段によって搬送ベルト22越しにプラテン17側に吸引されるようになっている。即ち、プラテン17の上面と対向する位置にある用紙12は、プラテン17により搬送ベルト22を介して支持されるようになっている。
【0023】
また、従動ローラー20の左斜め上側には、未印刷の複数の用紙12を1枚ずつ順次搬送ベルト22上に給紙するための上下一対の給紙ローラー23が設けられている。一方、駆動ローラー18の右斜め上側には、印刷後の用紙12を1枚ずつ搬送ベルト22上から排紙するための上下一対の排紙ローラー24が設けられている。
【0024】
図1及び図2に示すように、記録ヘッドユニット15は、複数(本実施形態では5つ)の流体噴射ヘッドとしての単位ヘッド25(25A〜25E)と、各単位ヘッド25(25A〜25E)を支持する矩形板状のプレート27を備えている。プレート27はプラテン17と対向するように設けられている。
【0025】
また、プレート27には、各単位ヘッド25(25A〜25E)と対応した複数(本実施形態では5つ)の矩形状をなす嵌合孔が前後方向に千鳥状の配置となるように形成されている。そして、各単位ヘッド25は、プレート27の各嵌合孔に対して一つずつが嵌合状態で取り付けられている。各単位ヘッド25は、複数列(4列)のノズル29を有しており、ノズル29は単位ヘッド25の下面のノズル形成面28に開口している。ノズル29から、溶媒を含む流体としてのインクが用紙12に向かって噴射される。本実施形態では水性インクを使用している。記録ヘッドユニット15はプレート27が不図示のキャリアに固定され、これによってメンテナンス位置まで移動可能に構成されている。
【0026】
また、10本の溶媒保持体としての撚り糸30(30A〜30J)が備えられており、撚り糸30(30A〜30J)は用紙搬送方向に直交する前後方向において張設されている。各撚り糸30(30A〜30J)は、一端がプレート27の前側に配置された第1可動支持部材31に支持されているとともに、他端がプレート27の後ろ側に配置された第2可動支持部材32に支持されている。このとき、各撚り糸30にはテンションが付与されており、各撚り糸30の弛みを抑制している。つまり、各撚り糸30の前後方向の中央部でも撚り糸30が各単位ヘッド25のノズル形成面28に接近するようにしている。
【0027】
第1可動支持部材31及び第2可動支持部材32は、用紙12の搬送方向(左右方向)に移動して各撚り糸30を各単位ヘッド25のノズル形成面28から外れた退避位置に移動することができるようになっている。
【0028】
各撚り糸30(30A〜30J)は、図3に示すように単位ヘッド25のノズル29と用紙12との間におけるノズル形成面28と対向する領域であって、ノズル29とは対向しない領域に配置されている。詳しくは、各撚り糸30は上下方向においてノズル形成面28に接触または極めて接近している。各撚り糸30(30A〜30J)は、その径が300〜1000μm程度である。ノズル29の径は20〜30μm程度であるので、撚り糸30の直径はノズル径の10〜50倍である。なお、ノズル形成面28から用紙12までの距離は1500〜3000μm程度であるので、撚り糸30は用紙12とは接触しない大きさである。また撚り糸30は、複数本の繊維束が撚り合わされた、もしくは束ねられたものである。このような撚り糸の場合、各繊維束の間の空間部にも水を保持することができるため、同じ径の1本の繊維束の糸より水の保持量が増える。逆に水の保持量を同じにした場合は、撚り糸の方が直径を小さくすることが可能となる。さらに、図2(a)に示すごとく単位ヘッド25(25A〜25E)における4つのノズル列を挟むように10本の撚り糸30A〜30Jが張られている。
【0029】
即ち、5つの単位ヘッド25A〜25Eのうち用紙搬送方向の下流側に位置する2つの単位ヘッド25B,25Dにおいては、4つのノズル列の下流側に撚り糸30Aが配置され、4つのノズル列の上流側に撚り糸30Eが配置され、ノズル列の間に下流側から順に撚り糸30B,30C,30Dが配置されている。同様に、5つの単位ヘッド25A〜25Eのうち用紙搬送方向の上流側に位置する3つの単位ヘッド25A,25C,25Eにおいては、4つのノズル列の下流側に撚り糸30Fが配置され、4つのノズル列の上流側に撚り糸30Jが配置され、ノズル列の間に下流側から順に撚り糸30G,30H,30Iが配置されている。
【0030】
また、撚り糸30(30A〜30J)は、毛細管力でインクに含まれる溶媒としての水を保持している。この水が撚り糸30から周囲に蒸発して図4に示すように厚さδが1〜2mm(1000〜2000μm)程度の蒸発境界層Lbが形成される。この蒸発境界層Lbの内部に単位ヘッド25のノズル開口が位置している。
【0031】
このようにして、インクに含まれる水を保持する溶媒保持体としての撚り糸30が、単位ヘッドのノズルが形成されたノズル形成面28と用紙12との間においてノズル形成面28と対向し、ノズル29とは対向しない位置に配置されている。ノズル29と撚り糸30の距離は、撚り糸30から水が蒸発する範囲である蒸発境界層Lbより小さい。溶媒保持体は、ノズル29の直径の10〜50倍の直径を有する糸状部材である撚り糸30である。
【0032】
図2において、撚り糸30(30A〜30J)の一端側には、水を入れたタンク41が配置され、タンク41内の水がフェルト42を通して撚り糸30(30A〜30J)に供給される。即ち、フェルト42による毛細管現象でタンク41内の水を吸い上げて撚り糸30に供給している。タンク41とフェルト42により、撚り糸30に水に供給する溶媒補給手段としての水補給装置40が構成されている。
【0033】
次に、上記のように構成された本実施形態のプリンター11の作用について、撚り糸30を用いたノズルでのインクの増粘抑制作用を中心に説明する。
印刷動作時に、単位ヘッド25のノズル開口においてインクに含まれる水が蒸発しようとする。
【0034】
ここで、水を保持した撚り糸30をノズル開口の近傍に配置した場合と配置しない場合とのノズル開口のインクの増粘変化の違いについて図5,図6を参照しながら説明する。図5のグラフは、水を保持する撚り糸30(30A〜30J)が、各単位ヘッド25(25A〜25E)のノズル29と用紙12との間におけるノズル開口の近傍に配置されていない従来の場合のインクの増粘変化を示している。一方、図6のグラフは、水を保持する撚り糸30がノズル開口の近傍に配置されたことによって、撚り糸30からノズル形成面28に向けて厚さδが1mm(1000μm)程度の蒸発境界層Lbが形成された場合のノズル開口でのインクの増粘変化を示している。
【0035】
なお、図5,図6において、縦軸はインクの粘度(mPa・S)を示し、横軸は時間の経過を示している。そして、各図には、インク組成の違いにより初期粘度が異なる2種類のインク(インクAとインクB)の時系列的な各粘度変化が示されている。因みに、この場合のインクAは初期粘度が8.5mPa・S程度の顔料インクであり、インクBは初期粘度が4.0mPa・S程度の顔料インクである。
【0036】
さて、水を保持する撚り糸30がノズル開口の近傍に配置されていない場合には、図5に示すように、インクAは3秒程で初期粘度の8.5mPa・Sから15.0mPa・Sまで粘度が上昇する一方、インクBは約6秒経過時点で初期粘度の4.0mPa・Sから15.0mPa・Sまで粘度が上昇する。ここで、インク粘度が15.0mPa・S程度になると、ノズル29の目詰まりを生じる虞があるため、印刷とは関係なく強制的にノズル29からインクを吐出させる所謂フラッシングを行なうことが必要になる。そのため、水を保持する撚り糸30がノズル開口の近傍に配置されていない場合には、多数回のフラッシングに伴う時間的ロスやインクのロスが増えてしまうことになる。
【0037】
これに対し、水を保持する撚り糸30をノズル開口の近傍に配置した場合には、図5と同じプリンター周囲の温湿度環境でも、図6に示すように、インクAは凡そ36000秒(10時間)を経過する少し前の時点で15.0mPa・Sの粘度に達する一方、インクBは凡そ72000秒(20時間)を経過した時点で15.0mPa・Sの粘度に達する。これは、撚り糸30(30A〜30J)の水が周囲のノズル開口を含む狭い空間において蒸発し、ノズル29の周囲の湿度が高められるからである。つまり、ノズル開口に極めて近いところに水分が蒸発する撚り糸30が設けられていることによって、ノズル開口の周囲を優先的に加湿できるのである。これにより、単位ヘッド25のノズル開口でのインクの水の蒸発が抑制され、単位ヘッドのノズル29におけるノズルメニスカスからの水分蒸発を抑制でき、ノズル開口でのインクの増粘が抑制される。
【0038】
その結果、印刷時のフラッシングを無くす又は減らすことができる。このようにしてフラッシングを抑制してフラッシングに伴う時間的ロスやインクのロスを減らすことができる。
【0039】
より詳しくは、図4に示すようにノズルメニスカスの極めて近くに100%に近い水分(蒸発境界層)を配置でき、よりノズル29からの水分蒸発が抑制できる。従って、インク増粘の抑制効果を大きくできるので、印刷中のフラッシングなどを実質的に不要化することができる。また、ノズルメニスカス以外の不要な場所までも高い湿度に保つ必要がなくなり、水分蒸発を抑えることができるので、加湿に必要な蒸発媒体(水)の使用を少なくして水(蒸発媒体)の消費を極めて少なくできる。
【0040】
印刷動作が終了したメンテナンス時になると、可動支持部材31,32が用紙搬送方向に移動(退避)して撚り糸30(30A〜30J)が単位ヘッド25のノズル形成面28から外れる。そして、メンテナンス位置において単位ヘッド25のノズル形成面28にキャップが配置される。なお、吸引やワイピングも行なってもよい。
【0041】
上記第1の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ノズル開口の近傍に配置され水を保持した撚り糸30を用いてノズル開口を含む狭い空間に水を蒸発させてノズル開口でのインクの水の蒸発を抑制してフラッシングを抑制ことができる。
【0042】
(2)ノズル29からインクの水が蒸発しやすいときには撚り糸30からも水が蒸発しやすく、ノズルメニスカスの周辺の湿度に応じて撚り糸30から水分が蒸発して加湿するので、ノズルメニスカス周辺のインク増粘が進まない環境では加湿は小さい。このように、ノズルメニスカスの増粘状態に応じて自然蒸発するので、自動的に増粘抑制ができる。
【0043】
(3)ノズル29と撚り糸30の距離は、撚り糸30から水が蒸発する範囲である蒸発境界層より小さいので、撚り糸30からの水蒸発範囲内にノズル29が位置し、そのため、蒸発した水によりノズル開口でのインクの水の蒸発が確実に抑制される。
【0044】
(4)溶媒保持体として撚り糸30を用いているので、交換が容易であり、交換性に優れている。また、1本の糸ではなく複数本の糸を撚っており、各糸と糸の間でも水を保持できるので、保持できる水分量が多い。
【0045】
(5)撚り糸30の直径はノズル29の直径の10〜50倍の細さであり、ノズル29と用紙12の間に配置をしても、用紙12と接触せずに配置が可能である。また、増粘抑制できるだけの水分を含むことが可能である。
【0046】
このように溶媒保持体は、ノズル29の直径の10〜50倍の直径を有する糸状部材(撚り糸30)であり、ノズル29と用紙12の間の距離より糸状部材(撚り糸30)の方が小さいので、糸状部材(撚り糸30)は用紙12と接触せずに配置が可能であり、また、増粘抑制できるだけの水分を含むことが可能である。
【0047】
(6)水補給装置40により水が撚り糸30に供給されて、継続的に撚り糸30から水を蒸発させることができる。
なお、水補給装置において、撚り糸の毛細管力で保水し、水分を含んだ糸の送り出し手段や蒸発した糸を回収する巻き取り手段によって、単位ヘッド25の側方(単位ヘッド25から離れた位置)から撚り糸30の水分を平均化できるよう水タンクから補給するようにしてもよい。
【0048】
また、撚り糸30(30A〜30J)を一ノズル列に対して複数本用いてもよい。このようにすることにより、蒸発量が増加し、よりノズルのインク増粘を抑制できる。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を図7に従って説明する。なお、第2の実施形態は、第1の実施形態とは溶媒補給手段の構成を変更した点でのみ相違しており、その他の構成は共通しているため、同様の構成部分については同一の符号を付すことで、その詳細な説明を省略する。
【0049】
図7において、ライン状の印刷用の単位ヘッド25の他に、溶媒補給手段として水を吐出するヘッド54,55,56,57が印刷用の単位ヘッド25の両側に配置されている。また、撚り糸30(30A〜30J)はローラー50,51に巻回されている。ローラー50,51はモーター52,53により回転駆動する。さらに、撚り糸30に対し湿度センサー58を設けており、この湿度センサー58において撚り糸30に接触させて湿度を検出している。なお、重量変化で周波数変化を捉える方式により湿度を検出することも可能である。
【0050】
そして、湿度センサー58を用いて撚り糸30における湿度が低下すると、補給タイミングであるとして、ヘッド54,55,56,57から水を撚り糸30に吐出し、さらに、モーター52,53を駆動して撚り糸30を走査してヘッド54,55,56,57から吐出した水で濡れた撚り糸30を印刷用の単位ヘッド25A〜25Eの下まで移動させる。
【0051】
特に、高精度な水分補給が必要な場合、水を吐出するヘッドを用いるとよい。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を図8〜図11従って説明する。なお、第3の実施形態は、第1の実施形態とは溶媒保持体および溶媒補給手段の構成を変更した点でのみ相違しており、その他の構成は共通しているため、同様の構成部分については同一の符号を付すことで、その詳細な説明を省略する。
【0052】
図8,9に示すように、単位ヘッド25の下面には、2枚の溶媒保持体としての多孔質板60(60A,60B)が配置されている。多孔質板60はプレート27の前側に配置された第1可動支持部材63と、プレート27の後ろ側に配置された第2可動支持部材64により支持されている。第1可動支持部材63及び第2可動支持部材64は、用紙12の搬送方向に移動して多孔質板60(60A,60B)を各単位ヘッド25のノズル形成面28から外れた退避位置に移動することができるようになっている。
【0053】
各多孔質板60(60A,60B)は多孔質体よりなる平板であって、長方形状に形成されている。長方形の多孔質板60は用紙の搬送方向に直交する前後方向に延設されている。多孔質板60(60A,60B)は、図10に示すように厚さが100〜200μm程度である。また、多孔質板60(60A,60B)はその上面が単位ヘッド25のノズル形成面28と接触または近傍に位置するように配置されている。多孔質板60(60A,60B)は、毛細管力で水を保持している。
【0054】
多孔質板60(60A,60B)における単位ヘッド25のノズル29に対応する部位には円形の貫通孔61が形成されている。貫通孔61の径はノズル29の径よりも大きくなっている。この貫通孔61にノズル29から噴射されたインクが通り、用紙12に向かって吐出することができる。よって、多孔質板60(60A,60B)によりインク吐出が阻害されることはない。
【0055】
このようにして、紙搬送面とノズル29の間においてノズル29からのインク吐出を阻害しない程度の貫通孔61を有する多孔質板60(60A,60B)がノズル開口に極めて近い場所に配置されている。
【0056】
多孔質板60(60A,60B)は、インク用溶媒としての水を含んでおり、図11に示すように貫通孔61の側面から水分が蒸発して、蒸発境界層Lbが形成される。この蒸発境界層Lbの内部に単位ヘッド25のノズル開口が位置している。これにより、ノズルメニスカスからの水分蒸発を抑制できる。
【0057】
また、多孔質板60(60A,60B)における単位ヘッド25のノズル29とは反対側の面である下面(紙面と対向する面)には蒸発防止層62が形成されている。蒸発防止層62は、金属箔や金属板や水蒸気透過性の低いフィルムよりなる。この蒸発防止層62により多孔質板60の貫通孔61の側面以外からの水分の蒸発を抑制している。
【0058】
図9に示すように、多孔質板60(60A,60B)の一端側には、水を入れたタンク71が配置されている。多孔質板60の一端部はタンク71の水に浸漬され、毛細管力によりタンク71内の水が多孔質板60に補給される。これによって多孔質板60の内部の水分を平均化できる。タンク71と、多孔質板60から延びる吸い上げ部72により、溶媒補給手段としての水補給装置70が構成されている。
【0059】
次に、上記のように構成された本実施形態のプリンター11の作用について、多孔質板60を用いたノズルでのインクの増粘抑制作用を中心に説明する。
印刷動作時において、水を保持する多孔質板60(60A,60B)が単位ヘッド25のノズル29と用紙12との間におけるノズル開口の近傍、即ち、ノズル開口に極めて近い場所に配置される。
【0060】
そして、多孔質板60(60A,60B)の貫通孔61の側面から水分がノズル開口を含む狭い空間において蒸発してノズル29の周囲の湿度が高められる。つまり、ノズル開口に極めて近いところに水分が蒸発する多孔質板60が設けられていることによって、ノズル開口の周囲を優先的に加湿できる。これにより、単位ヘッドのノズル29におけるノズルメニスカスからの水分蒸発を抑制でき(ノズル開口でのインクの水の蒸発を抑制でき)、インクの増粘が抑制される。その結果、フラッシングを抑制することができる(印刷時のフラッシングを無くす又は減らすことができる)。
【0061】
より詳しくは、ノズルメニスカスの極めて近くに100%に近い水分を配置でき、よりノズル29からの水分蒸発が抑制できる。従って、インク増粘の抑制効果を大きくできるので、印刷中のフラッシングなどを実質的に不要化することができる。また、ノズルメニスカス以外の不要な場所までも高い湿度に保つ必要がなくなり、水分蒸発を抑えることができるので、加湿に必要な蒸発媒体(水)の使用を少なくすることができ、水(蒸発媒体)の消費を少なくできる。
【0062】
印刷動作が終了したメンテナンス時になると、可動支持部材63,64が用紙搬送方向に移動(退避)して多孔質板60(60A,60B)が単位ヘッド25のノズル形成面28から外れる。そして、メンテナンス位置において単位ヘッド25のノズル形成面28にキャップが配置される。なお、吸引やワイピングも行なってもよい。
【0063】
上記第3の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ノズル開口の近傍に配置され水を保持した多孔質板60を用いてノズル開口を含む狭い空間に水を蒸発させてノズル開口でのインクの水の蒸発を抑制してフラッシングを抑制ことができる。
【0064】
(2)紙面と対向する多孔質板60の面に蒸発防止層62を設けることで多孔質板60の貫通孔61以外からの水の蒸発を抑制することができるので、水(蒸発媒体)の消費を極めて少なくできる。
【0065】
(3)ノズル29から水が蒸発しやすいときには多孔質板60の貫通孔61の側面からも水が蒸発しやすく、ノズルメニスカスの周辺の湿度に応じて多孔質板60の貫通孔61の側面から水分が蒸発して加湿するので、ノズルメニスカス周辺のインク増粘が進まない環境では加湿も小さい。このように、ノズルメニスカスの増粘状態に応じて自然蒸発するので、自動的に増粘抑制ができる。
【0066】
(4)溶媒保持体(60)は多孔質体よりなるので、水の保持性能に優れている。
(5)水補給装置70により水が多孔質板60に供給されて、継続的に多孔質板60から水を蒸発させることができる。
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態を図12に従って説明する。なお、第4の実施形態は、第3の実施形態とは溶媒補給手段の構成を変更した点でのみ相違しており、その他の構成は共通しているため、同様の構成部分については同一の符号を付すことで、その詳細な説明を省略する。
【0067】
図12において、ライン状の印刷用の単位ヘッド25の他に、溶媒補給手段として水を吐出するヘッド80,81,82,83が印刷用の単位ヘッド25の両側に配置されている。また、多孔質板60に対し湿度センサー84を設けており、この湿度センサー84において多孔質板60に接触させて湿度を検出している。なお、重量変化で周波数変化を捉える方式により湿度を検出することも可能である。
【0068】
そして、湿度センサー84を用いて多孔質板60における湿度が低下すると、補給タイミングであるとして、ヘッド80,81,82,83から水を多孔質板60(60A,60B)に吐出させる。また、湿度に応じて補給量を調整するようにしてもよい。
【0069】
このようにして、ライン状の印刷用の単位ヘッド25の他に、水を吐出するヘッド80,81,82,83を両側に配置して、容易に多孔質板60(60A,60B)への水の補給ができる。また、湿度検出手段(湿度センサーなど)を用いてヘッド80〜83からの水の補給タイミングを制御したり補給量を制御したりできる。
【0070】
特に、高精度な水分補給が必要な場合、水を吐出するヘッドを用いるとよい。
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
・図9(a)に示したように多孔質板60(60A,60B)にノズル29毎に貫通孔61を形成したが、この変形例として、図13に示すように、ノズル29毎の貫通孔65が繋がっていてもよい。あるいは、図14に示すように、ノズル列に沿って延びる長方形の貫通孔66を形成してもよい。あるいは、図15に示すように、複数列(図15では2列分)のノズル列を含めてノズル列に沿って延びる長方形の貫通孔67を形成してもよい。
【0071】
・第1〜第4の各実施形態において、自然蒸発の他に、超音波や加熱などによって強制加湿も可能である。
・第1〜第4の各実施形態において、長尺や直線ではない場所への水分補給手段として撚り糸を用いるとよい。例えば、水タンクから水を撚り糸の毛細管力により水を送るようにしてもよい。
【0072】
・第3の実施形態及び第4の実施形態において、巻き取り可能な糸を用いて離れた場所から多孔質板60へ水分補給してもよい。これにより長尺なヘッドを備えた大型プリンターなどにも容易に対応でき、水分を含んだ糸を新たに送り出すことで水分補給できる。
【0073】
・上記実施形態では、水性インクを用いたが、非水系インクでもよく、この場合には水以外の溶媒を撚り糸や多孔質板に保持させるとともに当該溶媒を供給(補給)できるようにする。
【0074】
・上記実施形態では、流体噴射装置を用紙12の幅方向の全域に亘って固定された記録ヘッドユニット15を有するラインヘッド式のプリンター11に具体化したが、この限りではなく、記録ヘッドが用紙12の印刷が施される表面と平行な態様で前後方向もしくは左右方向のうち少なくとも一方に移動しながら用紙12に印刷を施すシリアル式のプリンターであってもよい。シリアル式のプリンターにおいて、第1の実施形態及び第2の実施形態についてはヘッドのノズル列と平行に糸を配置し、若干糸が走査できるよう走査手段を用いて、両側の水用のノズル(水用ノズル列)などから水分を吐出させて糸へ水分を補給してもよい。なお、印字中は所定の位置に戻す。また、シリアル式のプリンターにおいて、第3の実施形態及び第4の実施形態についてはヘッドの両側のノズルなどから水分を吐出させるようにしてもよい。
【0075】
・上記実施形態では、流体噴射装置をインクジェット式プリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射する流体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる流体噴射ヘッド等を備える各種の流体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記流体噴射装置から噴射される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、流体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液のような流体、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。流体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する流体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する流体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
11…プリンター(流体噴射装置)、12…用紙(ターゲット)、25…単位ヘッド(流体噴射ヘッド)、28…ノズル形成面、29…ノズル、30…撚り糸(溶媒保持体)、40…水補給装置(溶媒補給手段)、54〜57…ヘッド(溶媒補給手段)、60…多孔質板(溶媒保持体)、61…貫通孔、62…蒸発防止層、65…貫通孔、66…貫通孔、67…貫通孔、70…水補給装置(溶媒補給手段)、80〜83…ヘッド(溶媒補給手段)、Lb…蒸発境界層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式プリンターなどの流体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクを記録紙(ターゲット)に対して噴射させる流体噴射装置として、インクジェットプリンター(以下、「プリンター」という。)が広く知られている。このようなプリンターにおいては、記録ヘッドのノズルからインクが蒸発することによるインクの増粘などによりノズルに目詰まりを生じるという問題があった。そこで、通常、プリンターは、記録紙に対しての噴射とは別に、ノズル内のインクを強制的に噴射させるフラッシング動作を行なうようになっている。他にも、特許文献1にはノズル内の液体が増粘し難い液体吐出装置が開示されている。この特許文献1の液体吐出装置においては、ノズルを覆わなくともノズル内の液体が増粘し難い流体噴射装置を実現するため、筐体内に設けられ、液体を吐出するためのノズルと、前記ノズル内の前記液体の増粘を抑えるために、前記ノズル外の液体を加熱または噴霧して前記筐体内を加湿するための加湿機構とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−6682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の液体吐出装置の場合は、広い範囲の筐体内を加湿するため、多くのエネルギーや蒸発媒体(水等)を必要としていた。特にラインヘッド式のプリンターや大型プリンターといった大きな容積を持つプリンターではこの問題はいっそう顕著であった。また、筐体内を加湿するため、印刷紙面や待機中の紙へも加湿されることになり、紙内部の湿度が上昇するため、印刷で噴射されたインクが乾燥しにくいという問題もあった。
【0005】
さらに、上述のフラッシング動作を行なうことは時間の無駄である。また、フラッシングを行なうための動作(フラッシング位置への移動)が必要であるとともにインクが無駄になってしまう。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、狭い空間での溶媒蒸発によりノズル開口での流体の増粘を抑制することによってフラッシングを抑制することができる流体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の流体噴射装置は、溶媒を含む流体をターゲットに向かって噴射するノズルを有する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置であって、前記流体噴射ヘッドのノズルが形成されたノズル形成面と前記ターゲットとの間において前記ノズル形成面と対向し、前記ノズルとは対向しない位置に配置され、前記流体に含まれる溶媒を保持する溶媒保持体を備えた。
【0008】
この構成によれば、流体に含まれる溶媒を保持する溶媒保持体が、流体噴射ヘッドのノズル形成面とターゲットとの間におけるノズル開口の近傍に配置されており、溶媒保持体の溶媒がノズル開口を含む狭い空間において蒸発して流体噴射ヘッドのノズル開口での流体の溶媒の蒸発が抑制される。これにより、ノズル開口での流体の増粘を抑制することができる。その結果、フラッシングを抑制することができる。
【0009】
本発明の流体噴射装置において、前記ノズルと前記溶媒保持体の距離は、前記溶媒保持体から前記溶媒が蒸発する範囲である蒸発境界層より小さい。
この構成によれば、溶媒保持体からの溶媒蒸発範囲内にノズルが位置する。そのため、蒸発した溶媒によりノズル開口での流体の溶媒の蒸発が確実に抑制される。
【0010】
本発明の流体噴射装置において、前記溶媒保持体は、前記ノズルの直径の10〜50倍の直径を有する糸状部材である。
この構成によれば、ノズルとターゲットの間の距離より糸状部材の方が小さいので、糸状部材はターゲットと接触せずに配置が可能である。また、増粘抑制できるだけの溶媒を含むことが可能である。
【0011】
本発明の流体噴射装置において、前記溶媒保持体は、撚り糸である。
この構成によれば、溶媒保持体は撚り糸であるので、交換が容易であり、交換性に優れている。
【0012】
本発明の流体噴射装置において、前記溶媒保持体は、多孔質体よりなり、前記流体噴射ヘッドのノズルに対応する部位には前記ノズルから噴射された流体が通る貫通孔が形成されている。
【0013】
この構成によれば、溶媒保持体は多孔質体よりなるので、溶媒の保持性能に優れている。
本発明の流体噴射装置において、前記多孔質体よりなる前記溶媒保持体における前記流体噴射ヘッドのノズルとは反対側の面には蒸発防止層が形成されている。
【0014】
この構成によれば、多孔質体よりなる溶媒保持体における流体噴射ヘッドのノズルとは反対側の面には蒸発防止層が形成されているので、貫通孔以外からの溶媒の蒸発を抑制することができる。
【0015】
本発明の流体噴射装置において、前記溶媒保持体に前記溶媒を供給する溶媒補給手段を更に備えた。
この構成によれば、溶媒補給手段により、溶媒が溶媒保持体に供給されて、継続的に溶媒保持体から溶媒を蒸発させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態のプリンターを模式的に示す正面図。
【図2】(a)は第1の実施形態のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は同プリンターの要部を模式的に示す側面図。
【図3】図2(a)のA−A線での断面図。
【図4】図2(b)のB部での断面および湿度分布を示す図。
【図5】水を保持した撚り糸をノズル開口の近傍に配置していない場合のノズル開口でのインクの時系列的な増粘変化を示すグラフ。
【図6】水を保持した撚り糸をノズル開口の近傍に配置した場合におけるノズル開口でのインクの時系列的な増粘変化を示すグラフ。
【図7】(a)は第2の実施形態のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は同プリンターの要部を模式的に示す側面図。
【図8】第3の実施形態のプリンターを模式的に示す正面図。
【図9】(a)は第3の実施形態のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は同プリンターの要部を模式的に示す側面図。
【図10】図7(a)のA−A線での断面図。
【図11】図7(b)のB部での断面図。
【図12】(a)は第4の実施形態のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は同プリンターの要部を模式的に示す側面図。
【図13】(a)は別例のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は(a)のA−A線での断面図。
【図14】(a)は別例のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は(a)のA−A線での断面図。
【図15】(a)は別例のプリンターの要部を模式的に示す下面図、(b)は(a)のA−A線での断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、本発明を流体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」という。)に具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。特に本実施形態では、用紙の幅方向の全域に亘って固定された記録ヘッドユニットを有するラインヘッド式のプリンターに具体化している。
【0018】
なお、以下の説明において、「前後方向」、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は図1及び図2に矢印で示す前後方向、左右方向、上下方向をそれぞれ示すものとする。
図1に示すように、記録装置としてのインクジェット式プリンター11は、ターゲットとしての用紙12を搬送するための搬送ユニット13と、記録ヘッドユニット15を備えている。搬送ユニット13の上方には、記録ヘッドユニット15が設けられている。
【0019】
搬送ユニット13は左右方向に長い矩形板状のプラテン17を備えている。プラテン17の右側には前後方向に延びる駆動ローラー18が駆動モーター19によって回転駆動可能に配置される一方、プラテン17の左側には前後方向に延びる従動ローラー20が回転可能に配置されている。さらに、プラテン17の下側には前後方向に延びるテンションローラー21が回転可能に配置されている。
【0020】
駆動ローラー18、従動ローラー20、及びテンションローラー21には、プラテン17を囲むように、多数の貫通孔を有する無端状の搬送ベルト22が巻き回されている。この場合、テンションローラー21は、図示しないばね部材によって下側に向かって付勢されており、搬送ベルト22にテンションを付与することで該搬送ベルト22の弛みを抑制するようになっている。
【0021】
そして、駆動ローラー18を前側から見て時計方向に回転駆動することで、搬送ベルト22が駆動ローラー18、テンションローラー21、及び従動ローラー20の外側を前側から見て時計方向に周回移動されるようになっている。この場合、搬送ベルト22の内側の面はプラテン17の上面を左側から右側に向かって摺動するとともに、搬送ベルト22上の用紙12は上流側である左側から下流側である右側に向かって搬送されるようになっている。
【0022】
また、用紙12は、プラテン17の上面と対向する位置にある場合、図示しない吸引手段によって搬送ベルト22越しにプラテン17側に吸引されるようになっている。即ち、プラテン17の上面と対向する位置にある用紙12は、プラテン17により搬送ベルト22を介して支持されるようになっている。
【0023】
また、従動ローラー20の左斜め上側には、未印刷の複数の用紙12を1枚ずつ順次搬送ベルト22上に給紙するための上下一対の給紙ローラー23が設けられている。一方、駆動ローラー18の右斜め上側には、印刷後の用紙12を1枚ずつ搬送ベルト22上から排紙するための上下一対の排紙ローラー24が設けられている。
【0024】
図1及び図2に示すように、記録ヘッドユニット15は、複数(本実施形態では5つ)の流体噴射ヘッドとしての単位ヘッド25(25A〜25E)と、各単位ヘッド25(25A〜25E)を支持する矩形板状のプレート27を備えている。プレート27はプラテン17と対向するように設けられている。
【0025】
また、プレート27には、各単位ヘッド25(25A〜25E)と対応した複数(本実施形態では5つ)の矩形状をなす嵌合孔が前後方向に千鳥状の配置となるように形成されている。そして、各単位ヘッド25は、プレート27の各嵌合孔に対して一つずつが嵌合状態で取り付けられている。各単位ヘッド25は、複数列(4列)のノズル29を有しており、ノズル29は単位ヘッド25の下面のノズル形成面28に開口している。ノズル29から、溶媒を含む流体としてのインクが用紙12に向かって噴射される。本実施形態では水性インクを使用している。記録ヘッドユニット15はプレート27が不図示のキャリアに固定され、これによってメンテナンス位置まで移動可能に構成されている。
【0026】
また、10本の溶媒保持体としての撚り糸30(30A〜30J)が備えられており、撚り糸30(30A〜30J)は用紙搬送方向に直交する前後方向において張設されている。各撚り糸30(30A〜30J)は、一端がプレート27の前側に配置された第1可動支持部材31に支持されているとともに、他端がプレート27の後ろ側に配置された第2可動支持部材32に支持されている。このとき、各撚り糸30にはテンションが付与されており、各撚り糸30の弛みを抑制している。つまり、各撚り糸30の前後方向の中央部でも撚り糸30が各単位ヘッド25のノズル形成面28に接近するようにしている。
【0027】
第1可動支持部材31及び第2可動支持部材32は、用紙12の搬送方向(左右方向)に移動して各撚り糸30を各単位ヘッド25のノズル形成面28から外れた退避位置に移動することができるようになっている。
【0028】
各撚り糸30(30A〜30J)は、図3に示すように単位ヘッド25のノズル29と用紙12との間におけるノズル形成面28と対向する領域であって、ノズル29とは対向しない領域に配置されている。詳しくは、各撚り糸30は上下方向においてノズル形成面28に接触または極めて接近している。各撚り糸30(30A〜30J)は、その径が300〜1000μm程度である。ノズル29の径は20〜30μm程度であるので、撚り糸30の直径はノズル径の10〜50倍である。なお、ノズル形成面28から用紙12までの距離は1500〜3000μm程度であるので、撚り糸30は用紙12とは接触しない大きさである。また撚り糸30は、複数本の繊維束が撚り合わされた、もしくは束ねられたものである。このような撚り糸の場合、各繊維束の間の空間部にも水を保持することができるため、同じ径の1本の繊維束の糸より水の保持量が増える。逆に水の保持量を同じにした場合は、撚り糸の方が直径を小さくすることが可能となる。さらに、図2(a)に示すごとく単位ヘッド25(25A〜25E)における4つのノズル列を挟むように10本の撚り糸30A〜30Jが張られている。
【0029】
即ち、5つの単位ヘッド25A〜25Eのうち用紙搬送方向の下流側に位置する2つの単位ヘッド25B,25Dにおいては、4つのノズル列の下流側に撚り糸30Aが配置され、4つのノズル列の上流側に撚り糸30Eが配置され、ノズル列の間に下流側から順に撚り糸30B,30C,30Dが配置されている。同様に、5つの単位ヘッド25A〜25Eのうち用紙搬送方向の上流側に位置する3つの単位ヘッド25A,25C,25Eにおいては、4つのノズル列の下流側に撚り糸30Fが配置され、4つのノズル列の上流側に撚り糸30Jが配置され、ノズル列の間に下流側から順に撚り糸30G,30H,30Iが配置されている。
【0030】
また、撚り糸30(30A〜30J)は、毛細管力でインクに含まれる溶媒としての水を保持している。この水が撚り糸30から周囲に蒸発して図4に示すように厚さδが1〜2mm(1000〜2000μm)程度の蒸発境界層Lbが形成される。この蒸発境界層Lbの内部に単位ヘッド25のノズル開口が位置している。
【0031】
このようにして、インクに含まれる水を保持する溶媒保持体としての撚り糸30が、単位ヘッドのノズルが形成されたノズル形成面28と用紙12との間においてノズル形成面28と対向し、ノズル29とは対向しない位置に配置されている。ノズル29と撚り糸30の距離は、撚り糸30から水が蒸発する範囲である蒸発境界層Lbより小さい。溶媒保持体は、ノズル29の直径の10〜50倍の直径を有する糸状部材である撚り糸30である。
【0032】
図2において、撚り糸30(30A〜30J)の一端側には、水を入れたタンク41が配置され、タンク41内の水がフェルト42を通して撚り糸30(30A〜30J)に供給される。即ち、フェルト42による毛細管現象でタンク41内の水を吸い上げて撚り糸30に供給している。タンク41とフェルト42により、撚り糸30に水に供給する溶媒補給手段としての水補給装置40が構成されている。
【0033】
次に、上記のように構成された本実施形態のプリンター11の作用について、撚り糸30を用いたノズルでのインクの増粘抑制作用を中心に説明する。
印刷動作時に、単位ヘッド25のノズル開口においてインクに含まれる水が蒸発しようとする。
【0034】
ここで、水を保持した撚り糸30をノズル開口の近傍に配置した場合と配置しない場合とのノズル開口のインクの増粘変化の違いについて図5,図6を参照しながら説明する。図5のグラフは、水を保持する撚り糸30(30A〜30J)が、各単位ヘッド25(25A〜25E)のノズル29と用紙12との間におけるノズル開口の近傍に配置されていない従来の場合のインクの増粘変化を示している。一方、図6のグラフは、水を保持する撚り糸30がノズル開口の近傍に配置されたことによって、撚り糸30からノズル形成面28に向けて厚さδが1mm(1000μm)程度の蒸発境界層Lbが形成された場合のノズル開口でのインクの増粘変化を示している。
【0035】
なお、図5,図6において、縦軸はインクの粘度(mPa・S)を示し、横軸は時間の経過を示している。そして、各図には、インク組成の違いにより初期粘度が異なる2種類のインク(インクAとインクB)の時系列的な各粘度変化が示されている。因みに、この場合のインクAは初期粘度が8.5mPa・S程度の顔料インクであり、インクBは初期粘度が4.0mPa・S程度の顔料インクである。
【0036】
さて、水を保持する撚り糸30がノズル開口の近傍に配置されていない場合には、図5に示すように、インクAは3秒程で初期粘度の8.5mPa・Sから15.0mPa・Sまで粘度が上昇する一方、インクBは約6秒経過時点で初期粘度の4.0mPa・Sから15.0mPa・Sまで粘度が上昇する。ここで、インク粘度が15.0mPa・S程度になると、ノズル29の目詰まりを生じる虞があるため、印刷とは関係なく強制的にノズル29からインクを吐出させる所謂フラッシングを行なうことが必要になる。そのため、水を保持する撚り糸30がノズル開口の近傍に配置されていない場合には、多数回のフラッシングに伴う時間的ロスやインクのロスが増えてしまうことになる。
【0037】
これに対し、水を保持する撚り糸30をノズル開口の近傍に配置した場合には、図5と同じプリンター周囲の温湿度環境でも、図6に示すように、インクAは凡そ36000秒(10時間)を経過する少し前の時点で15.0mPa・Sの粘度に達する一方、インクBは凡そ72000秒(20時間)を経過した時点で15.0mPa・Sの粘度に達する。これは、撚り糸30(30A〜30J)の水が周囲のノズル開口を含む狭い空間において蒸発し、ノズル29の周囲の湿度が高められるからである。つまり、ノズル開口に極めて近いところに水分が蒸発する撚り糸30が設けられていることによって、ノズル開口の周囲を優先的に加湿できるのである。これにより、単位ヘッド25のノズル開口でのインクの水の蒸発が抑制され、単位ヘッドのノズル29におけるノズルメニスカスからの水分蒸発を抑制でき、ノズル開口でのインクの増粘が抑制される。
【0038】
その結果、印刷時のフラッシングを無くす又は減らすことができる。このようにしてフラッシングを抑制してフラッシングに伴う時間的ロスやインクのロスを減らすことができる。
【0039】
より詳しくは、図4に示すようにノズルメニスカスの極めて近くに100%に近い水分(蒸発境界層)を配置でき、よりノズル29からの水分蒸発が抑制できる。従って、インク増粘の抑制効果を大きくできるので、印刷中のフラッシングなどを実質的に不要化することができる。また、ノズルメニスカス以外の不要な場所までも高い湿度に保つ必要がなくなり、水分蒸発を抑えることができるので、加湿に必要な蒸発媒体(水)の使用を少なくして水(蒸発媒体)の消費を極めて少なくできる。
【0040】
印刷動作が終了したメンテナンス時になると、可動支持部材31,32が用紙搬送方向に移動(退避)して撚り糸30(30A〜30J)が単位ヘッド25のノズル形成面28から外れる。そして、メンテナンス位置において単位ヘッド25のノズル形成面28にキャップが配置される。なお、吸引やワイピングも行なってもよい。
【0041】
上記第1の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ノズル開口の近傍に配置され水を保持した撚り糸30を用いてノズル開口を含む狭い空間に水を蒸発させてノズル開口でのインクの水の蒸発を抑制してフラッシングを抑制ことができる。
【0042】
(2)ノズル29からインクの水が蒸発しやすいときには撚り糸30からも水が蒸発しやすく、ノズルメニスカスの周辺の湿度に応じて撚り糸30から水分が蒸発して加湿するので、ノズルメニスカス周辺のインク増粘が進まない環境では加湿は小さい。このように、ノズルメニスカスの増粘状態に応じて自然蒸発するので、自動的に増粘抑制ができる。
【0043】
(3)ノズル29と撚り糸30の距離は、撚り糸30から水が蒸発する範囲である蒸発境界層より小さいので、撚り糸30からの水蒸発範囲内にノズル29が位置し、そのため、蒸発した水によりノズル開口でのインクの水の蒸発が確実に抑制される。
【0044】
(4)溶媒保持体として撚り糸30を用いているので、交換が容易であり、交換性に優れている。また、1本の糸ではなく複数本の糸を撚っており、各糸と糸の間でも水を保持できるので、保持できる水分量が多い。
【0045】
(5)撚り糸30の直径はノズル29の直径の10〜50倍の細さであり、ノズル29と用紙12の間に配置をしても、用紙12と接触せずに配置が可能である。また、増粘抑制できるだけの水分を含むことが可能である。
【0046】
このように溶媒保持体は、ノズル29の直径の10〜50倍の直径を有する糸状部材(撚り糸30)であり、ノズル29と用紙12の間の距離より糸状部材(撚り糸30)の方が小さいので、糸状部材(撚り糸30)は用紙12と接触せずに配置が可能であり、また、増粘抑制できるだけの水分を含むことが可能である。
【0047】
(6)水補給装置40により水が撚り糸30に供給されて、継続的に撚り糸30から水を蒸発させることができる。
なお、水補給装置において、撚り糸の毛細管力で保水し、水分を含んだ糸の送り出し手段や蒸発した糸を回収する巻き取り手段によって、単位ヘッド25の側方(単位ヘッド25から離れた位置)から撚り糸30の水分を平均化できるよう水タンクから補給するようにしてもよい。
【0048】
また、撚り糸30(30A〜30J)を一ノズル列に対して複数本用いてもよい。このようにすることにより、蒸発量が増加し、よりノズルのインク増粘を抑制できる。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を図7に従って説明する。なお、第2の実施形態は、第1の実施形態とは溶媒補給手段の構成を変更した点でのみ相違しており、その他の構成は共通しているため、同様の構成部分については同一の符号を付すことで、その詳細な説明を省略する。
【0049】
図7において、ライン状の印刷用の単位ヘッド25の他に、溶媒補給手段として水を吐出するヘッド54,55,56,57が印刷用の単位ヘッド25の両側に配置されている。また、撚り糸30(30A〜30J)はローラー50,51に巻回されている。ローラー50,51はモーター52,53により回転駆動する。さらに、撚り糸30に対し湿度センサー58を設けており、この湿度センサー58において撚り糸30に接触させて湿度を検出している。なお、重量変化で周波数変化を捉える方式により湿度を検出することも可能である。
【0050】
そして、湿度センサー58を用いて撚り糸30における湿度が低下すると、補給タイミングであるとして、ヘッド54,55,56,57から水を撚り糸30に吐出し、さらに、モーター52,53を駆動して撚り糸30を走査してヘッド54,55,56,57から吐出した水で濡れた撚り糸30を印刷用の単位ヘッド25A〜25Eの下まで移動させる。
【0051】
特に、高精度な水分補給が必要な場合、水を吐出するヘッドを用いるとよい。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を図8〜図11従って説明する。なお、第3の実施形態は、第1の実施形態とは溶媒保持体および溶媒補給手段の構成を変更した点でのみ相違しており、その他の構成は共通しているため、同様の構成部分については同一の符号を付すことで、その詳細な説明を省略する。
【0052】
図8,9に示すように、単位ヘッド25の下面には、2枚の溶媒保持体としての多孔質板60(60A,60B)が配置されている。多孔質板60はプレート27の前側に配置された第1可動支持部材63と、プレート27の後ろ側に配置された第2可動支持部材64により支持されている。第1可動支持部材63及び第2可動支持部材64は、用紙12の搬送方向に移動して多孔質板60(60A,60B)を各単位ヘッド25のノズル形成面28から外れた退避位置に移動することができるようになっている。
【0053】
各多孔質板60(60A,60B)は多孔質体よりなる平板であって、長方形状に形成されている。長方形の多孔質板60は用紙の搬送方向に直交する前後方向に延設されている。多孔質板60(60A,60B)は、図10に示すように厚さが100〜200μm程度である。また、多孔質板60(60A,60B)はその上面が単位ヘッド25のノズル形成面28と接触または近傍に位置するように配置されている。多孔質板60(60A,60B)は、毛細管力で水を保持している。
【0054】
多孔質板60(60A,60B)における単位ヘッド25のノズル29に対応する部位には円形の貫通孔61が形成されている。貫通孔61の径はノズル29の径よりも大きくなっている。この貫通孔61にノズル29から噴射されたインクが通り、用紙12に向かって吐出することができる。よって、多孔質板60(60A,60B)によりインク吐出が阻害されることはない。
【0055】
このようにして、紙搬送面とノズル29の間においてノズル29からのインク吐出を阻害しない程度の貫通孔61を有する多孔質板60(60A,60B)がノズル開口に極めて近い場所に配置されている。
【0056】
多孔質板60(60A,60B)は、インク用溶媒としての水を含んでおり、図11に示すように貫通孔61の側面から水分が蒸発して、蒸発境界層Lbが形成される。この蒸発境界層Lbの内部に単位ヘッド25のノズル開口が位置している。これにより、ノズルメニスカスからの水分蒸発を抑制できる。
【0057】
また、多孔質板60(60A,60B)における単位ヘッド25のノズル29とは反対側の面である下面(紙面と対向する面)には蒸発防止層62が形成されている。蒸発防止層62は、金属箔や金属板や水蒸気透過性の低いフィルムよりなる。この蒸発防止層62により多孔質板60の貫通孔61の側面以外からの水分の蒸発を抑制している。
【0058】
図9に示すように、多孔質板60(60A,60B)の一端側には、水を入れたタンク71が配置されている。多孔質板60の一端部はタンク71の水に浸漬され、毛細管力によりタンク71内の水が多孔質板60に補給される。これによって多孔質板60の内部の水分を平均化できる。タンク71と、多孔質板60から延びる吸い上げ部72により、溶媒補給手段としての水補給装置70が構成されている。
【0059】
次に、上記のように構成された本実施形態のプリンター11の作用について、多孔質板60を用いたノズルでのインクの増粘抑制作用を中心に説明する。
印刷動作時において、水を保持する多孔質板60(60A,60B)が単位ヘッド25のノズル29と用紙12との間におけるノズル開口の近傍、即ち、ノズル開口に極めて近い場所に配置される。
【0060】
そして、多孔質板60(60A,60B)の貫通孔61の側面から水分がノズル開口を含む狭い空間において蒸発してノズル29の周囲の湿度が高められる。つまり、ノズル開口に極めて近いところに水分が蒸発する多孔質板60が設けられていることによって、ノズル開口の周囲を優先的に加湿できる。これにより、単位ヘッドのノズル29におけるノズルメニスカスからの水分蒸発を抑制でき(ノズル開口でのインクの水の蒸発を抑制でき)、インクの増粘が抑制される。その結果、フラッシングを抑制することができる(印刷時のフラッシングを無くす又は減らすことができる)。
【0061】
より詳しくは、ノズルメニスカスの極めて近くに100%に近い水分を配置でき、よりノズル29からの水分蒸発が抑制できる。従って、インク増粘の抑制効果を大きくできるので、印刷中のフラッシングなどを実質的に不要化することができる。また、ノズルメニスカス以外の不要な場所までも高い湿度に保つ必要がなくなり、水分蒸発を抑えることができるので、加湿に必要な蒸発媒体(水)の使用を少なくすることができ、水(蒸発媒体)の消費を少なくできる。
【0062】
印刷動作が終了したメンテナンス時になると、可動支持部材63,64が用紙搬送方向に移動(退避)して多孔質板60(60A,60B)が単位ヘッド25のノズル形成面28から外れる。そして、メンテナンス位置において単位ヘッド25のノズル形成面28にキャップが配置される。なお、吸引やワイピングも行なってもよい。
【0063】
上記第3の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ノズル開口の近傍に配置され水を保持した多孔質板60を用いてノズル開口を含む狭い空間に水を蒸発させてノズル開口でのインクの水の蒸発を抑制してフラッシングを抑制ことができる。
【0064】
(2)紙面と対向する多孔質板60の面に蒸発防止層62を設けることで多孔質板60の貫通孔61以外からの水の蒸発を抑制することができるので、水(蒸発媒体)の消費を極めて少なくできる。
【0065】
(3)ノズル29から水が蒸発しやすいときには多孔質板60の貫通孔61の側面からも水が蒸発しやすく、ノズルメニスカスの周辺の湿度に応じて多孔質板60の貫通孔61の側面から水分が蒸発して加湿するので、ノズルメニスカス周辺のインク増粘が進まない環境では加湿も小さい。このように、ノズルメニスカスの増粘状態に応じて自然蒸発するので、自動的に増粘抑制ができる。
【0066】
(4)溶媒保持体(60)は多孔質体よりなるので、水の保持性能に優れている。
(5)水補給装置70により水が多孔質板60に供給されて、継続的に多孔質板60から水を蒸発させることができる。
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態を図12に従って説明する。なお、第4の実施形態は、第3の実施形態とは溶媒補給手段の構成を変更した点でのみ相違しており、その他の構成は共通しているため、同様の構成部分については同一の符号を付すことで、その詳細な説明を省略する。
【0067】
図12において、ライン状の印刷用の単位ヘッド25の他に、溶媒補給手段として水を吐出するヘッド80,81,82,83が印刷用の単位ヘッド25の両側に配置されている。また、多孔質板60に対し湿度センサー84を設けており、この湿度センサー84において多孔質板60に接触させて湿度を検出している。なお、重量変化で周波数変化を捉える方式により湿度を検出することも可能である。
【0068】
そして、湿度センサー84を用いて多孔質板60における湿度が低下すると、補給タイミングであるとして、ヘッド80,81,82,83から水を多孔質板60(60A,60B)に吐出させる。また、湿度に応じて補給量を調整するようにしてもよい。
【0069】
このようにして、ライン状の印刷用の単位ヘッド25の他に、水を吐出するヘッド80,81,82,83を両側に配置して、容易に多孔質板60(60A,60B)への水の補給ができる。また、湿度検出手段(湿度センサーなど)を用いてヘッド80〜83からの水の補給タイミングを制御したり補給量を制御したりできる。
【0070】
特に、高精度な水分補給が必要な場合、水を吐出するヘッドを用いるとよい。
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
・図9(a)に示したように多孔質板60(60A,60B)にノズル29毎に貫通孔61を形成したが、この変形例として、図13に示すように、ノズル29毎の貫通孔65が繋がっていてもよい。あるいは、図14に示すように、ノズル列に沿って延びる長方形の貫通孔66を形成してもよい。あるいは、図15に示すように、複数列(図15では2列分)のノズル列を含めてノズル列に沿って延びる長方形の貫通孔67を形成してもよい。
【0071】
・第1〜第4の各実施形態において、自然蒸発の他に、超音波や加熱などによって強制加湿も可能である。
・第1〜第4の各実施形態において、長尺や直線ではない場所への水分補給手段として撚り糸を用いるとよい。例えば、水タンクから水を撚り糸の毛細管力により水を送るようにしてもよい。
【0072】
・第3の実施形態及び第4の実施形態において、巻き取り可能な糸を用いて離れた場所から多孔質板60へ水分補給してもよい。これにより長尺なヘッドを備えた大型プリンターなどにも容易に対応でき、水分を含んだ糸を新たに送り出すことで水分補給できる。
【0073】
・上記実施形態では、水性インクを用いたが、非水系インクでもよく、この場合には水以外の溶媒を撚り糸や多孔質板に保持させるとともに当該溶媒を供給(補給)できるようにする。
【0074】
・上記実施形態では、流体噴射装置を用紙12の幅方向の全域に亘って固定された記録ヘッドユニット15を有するラインヘッド式のプリンター11に具体化したが、この限りではなく、記録ヘッドが用紙12の印刷が施される表面と平行な態様で前後方向もしくは左右方向のうち少なくとも一方に移動しながら用紙12に印刷を施すシリアル式のプリンターであってもよい。シリアル式のプリンターにおいて、第1の実施形態及び第2の実施形態についてはヘッドのノズル列と平行に糸を配置し、若干糸が走査できるよう走査手段を用いて、両側の水用のノズル(水用ノズル列)などから水分を吐出させて糸へ水分を補給してもよい。なお、印字中は所定の位置に戻す。また、シリアル式のプリンターにおいて、第3の実施形態及び第4の実施形態についてはヘッドの両側のノズルなどから水分を吐出させるようにしてもよい。
【0075】
・上記実施形態では、流体噴射装置をインクジェット式プリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射する流体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる流体噴射ヘッド等を備える各種の流体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記流体噴射装置から噴射される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、流体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液のような流体、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。流体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する流体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する流体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
11…プリンター(流体噴射装置)、12…用紙(ターゲット)、25…単位ヘッド(流体噴射ヘッド)、28…ノズル形成面、29…ノズル、30…撚り糸(溶媒保持体)、40…水補給装置(溶媒補給手段)、54〜57…ヘッド(溶媒補給手段)、60…多孔質板(溶媒保持体)、61…貫通孔、62…蒸発防止層、65…貫通孔、66…貫通孔、67…貫通孔、70…水補給装置(溶媒補給手段)、80〜83…ヘッド(溶媒補給手段)、Lb…蒸発境界層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を含む流体をターゲットに向かって噴射するノズルを有する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置であって、
前記流体噴射ヘッドのノズルが形成されたノズル形成面と前記ターゲットとの間において前記ノズル形成面と対向し、前記ノズルとは対向しない位置に配置され、前記流体に含まれる溶媒を保持する溶媒保持体を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記ノズルと前記溶媒保持体の距離は、前記溶媒保持体から前記溶媒が蒸発する範囲である蒸発境界層より小さいことを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記溶媒保持体は、前記ノズルの直径の10〜50倍の直径を有する糸状部材であることを特徴とする請求項1または2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記溶媒保持体は、撚り糸であることを特徴とする請求項3に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記溶媒保持体は、多孔質体よりなり、前記流体噴射ヘッドのノズルに対応する部位には前記ノズルから噴射された流体が通る貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記多孔質体よりなる前記溶媒保持体における前記流体噴射ヘッドのノズルとは反対側の面には蒸発防止層が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の流体噴射装置。
【請求項7】
前記溶媒保持体に前記溶媒を供給する溶媒補給手段を更に備えたことを特徴とする請求項1〜6のうち何れか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項1】
溶媒を含む流体をターゲットに向かって噴射するノズルを有する流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置であって、
前記流体噴射ヘッドのノズルが形成されたノズル形成面と前記ターゲットとの間において前記ノズル形成面と対向し、前記ノズルとは対向しない位置に配置され、前記流体に含まれる溶媒を保持する溶媒保持体を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記ノズルと前記溶媒保持体の距離は、前記溶媒保持体から前記溶媒が蒸発する範囲である蒸発境界層より小さいことを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記溶媒保持体は、前記ノズルの直径の10〜50倍の直径を有する糸状部材であることを特徴とする請求項1または2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記溶媒保持体は、撚り糸であることを特徴とする請求項3に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記溶媒保持体は、多孔質体よりなり、前記流体噴射ヘッドのノズルに対応する部位には前記ノズルから噴射された流体が通る貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記多孔質体よりなる前記溶媒保持体における前記流体噴射ヘッドのノズルとは反対側の面には蒸発防止層が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の流体噴射装置。
【請求項7】
前記溶媒保持体に前記溶媒を供給する溶媒補給手段を更に備えたことを特徴とする請求項1〜6のうち何れか一項に記載の流体噴射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−156857(P2011−156857A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245972(P2010−245972)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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