説明

流体式動力伝達システム

【課題】流体式動力伝達装置の入口圧および出口圧を所定の範囲内に収めるための適切な手段を提供すること。
【解決手段】流体式動力伝達システムは、トルクコンバータ62と、制御手段2とを備えている。制御手段2は、入口圧センサ20と、リリーフ弁18を有している。入口圧センサ20は、トルクコンバータ62の入口における作動流体の圧力を検出する。リリーフ弁18は、トルクコンバータ62の出口に接続されており、トルクコンバータ62の入口における作動流体の圧力に応じてリリーフ圧を調整可能である。制御手段2は、トルクコンバータ62の入口における作動流体の圧力が低くなると、リリーフ圧を上昇させることによってトルクコンバータ62の出口における作動流体の圧力を上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体式動力伝達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータや流体継手は、車両に用いられる流体式動力伝達装置である。
トルクコンバータは、内部に充填された作動流体が循環することによって動力を伝達する機能を有しており、さらに速度比に応じてトルクを増幅する機能を有している。
トルクコンバータは、三種の羽根車(インペラー、タービンおよびステータ)から構成されている。インペラーは、例えば、エンジンのクランクシャフトに連結されている。タービンは、インペラーに対向して配置され、例えば、トランスミッションの入力シャフトに連結されている。タービンは、インペラーから流れる流体によって駆動される。ステータは、例えば、インペラーの内周部とタービンの内周部との間に配置されている。ステータは、例えば、ワンウェイクラッチを介して、トランスミッションから延びる固定シャフトに支持されている。
【0003】
トルクコンバータ内には油圧回路から作動流体が供給され、排出される。例えば、作動流体は、インペラーハブと固定シャフトの間から供給され、インペラーとステータの間からトルクコンバータ内に入り、タービンとステータの間からトルクコンバータ外に出て、固定シャフトとトランスミッション入力シャフトの間から排出される。トルクコンバータから排出された作動流体は、トランスミッションの潤滑油として用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
流体継手は、トルクコンバータと同様に、内部に充填された作動流体が循環することによって動力を伝達する機能を有している。しかし、流体継手は、ステータを有しておらず、そのためトルク増幅機能を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−263895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13に、トルクコンバータの速度比が0(ストール時)から1まで変化する間のトルクコンバータの入口圧と出口圧の変化の一例を模式的に示す。なお、本明細書中において「速度比」とは、トルクコンバータの入力回転速度に対する出力回転速度の比を指すものとして使用する。このトルクコンバータでは、トルクコンバータ性能を安定させるために、出口にリリーフ弁を接続して出口圧を一定に制御している。図13に示すように、入口圧は、速度比1から0に向かって徐々に低くなっている。このトルクコンバータでは、速度比1または速度比1近傍において入口圧を低い値に設定しているため、速度比0およびその近傍において入口圧は負圧になっている。入口圧が負圧になると、トルクコンバータ内を循環する作動流体にキャビテーションが生じる。トルクコンバータ内に生じるキャビテーションは、トルクコンバータの効率の低下や、羽根車の壊食といった問題を引き起こす。
【0007】
なお、この例では入口圧が負圧になっている場合を示しているが、入口圧が負圧にならなければ必ずしもキャビテーションの発生を抑えられるとは限らず、入口圧が低ければ、たとえそれが負圧でなくても条件によっては、トルクコンバータ内部にキャビテーションが発生する場合がある。
このような問題は、トルクコンバータの速度比の低い領域での運転頻度の高いホイルローダのような建設機械において顕著であり、特にトルクコンバータの外径が大きく、入力回転速度が高い場合に問題となりやすい。
【0008】
この問題を解決するための方策としては、例えば、トルクコンバータの出口に接続されたリリーフ弁のセット圧を高く設定することで、低速度比領域でのトルクコンバータ入口圧を高く保つことが考えられる。しかし、その場合は、高速度比領域での入口圧が必要以上に高くなってしまい、その結果、その圧力に耐えるためにトルクコンバータを強化する必要がある。また、スラスト荷重の増大などの弊害にも対処しなければならない。この結果、重量の増加やコストアップの問題が生じてしまう。
【0009】
したがって、トルクコンバータにおいては、入口圧および出口圧を所定の範囲内に収まるように設計することが重要である。
なお、ここで言う所定の範囲とは、上述の説明からも理解できるとおり、下限値がキャビテーションを防止するために必要な設計的に決められる値であり、上限値がトルクコンバータの強度や重量などの制約から設計的に決められる値である。
【0010】
本発明の課題は、流体式動力伝達装置の入口圧および出口圧を所定の範囲内に収めるための適切な手段を提供することである。すなわち、入口圧および出口圧の最大値を抑制しつつ、入口圧および出口圧の最小値を所定の必要圧以上に保持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明に係る流体式動力伝達システムは、流体式動力伝達装置と、制御手段とを備えている。流体式動力伝達装置は、作動流体の入口と出口を有し、内部で作動流体が循環することによって動力を伝達する。制御手段は、流体式動力伝達装置の出口における作動流体の圧力を調整することで、前記入口における前記作動流体の圧力を制御する。制御手段は、入口圧検出手段と、出口リリーフ弁を有している。入口圧検出手段は、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力を検出する。出口リリーフ弁は、流体式動力伝達装置の出口に接続されており、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力に応じてリリーフ圧を調整可能である。制御手段は、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が低くなると、リリーフ圧を上昇させることによって流体式動力伝達装置の出口における作動流体の圧力を上昇させる。
【0012】
この装置では、制御手段が流体式動力伝達装置の出口における作動流体の圧力を調整することで、入口における作動流体の圧力を制御する。その結果、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下に低下することを抑えることができる。
この装置では、入口圧検出手段が流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力を検出して、制御手段が入口における作動流体の圧力に応じて流体式動力伝達装置の出口における作動流体の圧力を調整する。その結果、入口における作動流体の圧力は、出口における作動流体の圧力を介して、フィードバック制御され、入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下になることを防ぐことができる。
【0013】
この装置では、入口における作動流体の圧力が低下すると、出口における作動流体の圧力が上昇し、その結果、出口における作動流体の圧力の上昇に伴って、入口における作動流体の圧力の値が従来よりも高くなる。したがって、入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下になることを抑えることができる。
この装置では、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が低くなると、出口リリーフ弁は出口における作動流体の圧力を上昇させる。これにより、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下になることを防ぐことができる。
【0014】
第2の発明に係る流体式動力伝達システムでは、第1の発明において、制御手段は、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が所定の値以下にならないように、出口における作動流体の圧力を調整する。
この装置では、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下にならない。
【0015】
第3の発明に係る流体式動力伝達システムでは、第1の発明において、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力は、流体式動力伝達装置の入力回転速度に対する出力回転速度の比である速度比が小さくなるときに低くなり、制御手段は、流体式動力伝達装置の速度比の全領域にわたって、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が所定の値以下にならないように、出口における作動流体の圧力を調整する。
この装置では、流体式動力伝達装置の速度比の全領域にわたって、入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下にならない。
【0016】
第4の発明に係る流体式動力伝達システムでは、第1の発明において、制御手段は、制御弁と、コントローラとを更に有している。制御弁は、出口リリーフ弁のリリーフ圧を制御可能である。コントローラは、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力に応じて制御弁を制御し、前記流体式動力伝達装置の入口における前記作動流体の圧力が低くなると、前記制御弁を動作させて前記出口リリーフ弁のリリーフ圧を上昇させる。
【0017】
この装置では、コントローラが入口における作動流体の圧力に応じて電気信号によって制御弁を制御し、制御弁が出口リリーフ弁のリリーフ圧を制御する。その結果、流体式動力伝達装置の出口における作動流体の圧力が調整される。つまり、コントローラによって、入口における作動流体の圧力は、出口における作動流体の圧力を介して、フィードバック制御され、入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下になることを防ぐことができ、さらには、入口における作動流体の圧力を所定の必要圧力範囲内に保つことができる。
【0018】
第5の発明に係る流体式動力伝達システムは、流体式動力伝達装置と、制御手段とを備えている。流体式動力伝達装置は、作動流体の入口と出口を有し、内部で作動流体が循環することによって動力を伝達する。制御手段は、流体式動力伝達装置の出口における作動流体の圧力を調整することで、入口における作動流体の圧力を制御する。制御手段は、比較手段と、出口リリーフ弁と、制御弁と、コントローラとを有している。比較手段は、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力と出口における作動流体の圧力とを比較する。出口リリーフ弁は、流体式動力伝達装置の出口に接続されており、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力に応じてリリーフ圧を調整可能である。制御弁は、出口リリーフ弁のリリーフ圧を制御可能である。コントローラは、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力と出口における作動流体の圧力の比較結果に応じて制御弁を制御し、出口における作動流体の圧力が入口における作動流体の圧力より高くなると、両者の差に応じて制御弁を制御して出口リリーフ弁のリリーフ圧を上昇させることによって流体式動力伝達装置の出口における作動流体の圧力を上昇させる。
【0019】
この装置では、制御手段が流体式動力伝達装置の出口における作動流体の圧力を調整することで、入口における作動流体の圧力を制御する。その結果、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下に低下することを抑えることができる。
この装置では、比較手段が流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力と出口における作動流体の圧力とを比較し、制御手段が入口における作動流体の圧力と出口における作動流体の圧力の比較結果に応じて流体式動力伝達装置の出口における作動流体の圧力を調整する。つまり、入口における作動流体の圧力と出口における作動流体の圧力の比較結果に応じて最終的に流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が制御され、入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下に低下することを抑えることができる。
【0020】
例えば、高い速度比領域では入口における作動流体の圧力が出口における作動流体の圧力より高いが、速度比の低下に伴い入口における作動流体の圧力が低下し、低い速度比領域では入口における作動流体の圧力が出口における作動流体の圧力より低くなる場合がある。このような場合、この装置では、高い速度比領域では出口における作動流体の圧力は従来と同じく一定に保たれるが、低い速度比領域では、制御手段が、出口における作動流体の圧力と入口における作動流体の圧力の差に応じて、出口における作動流体の圧力を上昇させる。この結果、低い速度比領域での出口における作動流体の圧力は速度比が低下するに連れて上昇していく。つまり、入口における作動流体の圧力と出口における作動流体の圧力の比較結果に応じて流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が制御され、入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下に低下することを抑えることができる。
【0021】
この装置では、コントローラは流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が出口における作動流体の圧力より低くなると、両者の差に応じて電気信号によって制御弁を制御し、制御弁が出口リリーフ弁のリリーフ圧を制御する。コントローラは、入口における作動流体の圧力が出口における作動流体の圧力より低く、両者の差が大きくなるほど、制御弁を介して出口リリーフ弁のリリーフ圧を上昇させる。つまり、コントローラによって、入口における作動流体の圧力は、入口における作動流体の圧力と出口における作動流体の圧力の差に応じて制御され、入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下になることを防ぐことができる。
【0022】
第6の発明に係る流体式動力伝達システムでは、第5の発明において、比較手段は、出入口圧差検出ピストンを有しており、制御手段は、流体式動力伝達装置の出口に接続された出口リリーフ弁を有しており、出口リリーフ弁は、弁と、弁に荷重を付与するスプリングとを有している。出口における作動流体の圧力が入口における作動流体の圧力より高くなると、出入口圧差検出ピストンがスプリングを圧縮して、それによりスプリングが弁に与える荷重が大きくなる。
【0023】
この装置では、入口における作動流体の圧力が出口における作動流体の圧力より低くなると、前記の出入口圧差検出ピストンとスプリングの働きにより、出口リリーフ弁のリリーフ圧が上昇し、流体式動力伝達装置の出口における作動流体の圧力が高くなる。流体式動力伝達装置の出口における作動流体の圧力が高くなると、それに伴い入口における作動流体の圧力も高くなる。出入口圧差検出ピストンは、入口と出口における作動流体の圧力差による荷重とスプリングの荷重が釣り合う位置で保持される。
【0024】
入口における作動流体の圧力と出口における作動流体の圧力の差がより大きくなると、出入口圧差検出ピストンはさらにスプリングを圧縮し、出口リリーフ弁のリリーフ圧をさらに上昇させる。
以上より、出入口圧差検出ピストンにより検出された入口における作動流体の圧力と出口における作動流体の圧力の比較結果に応じて流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が制御され、入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下に低下することを抑えることができる。
【0025】
第7の発明に係る流体式動力伝達システムでは、第5の発明において、制御手段は、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が所定の値以下にならないように、出口における作動流体の圧力を調整する。
この装置では、流体式動力伝達装置の入口における作動流体の圧力が所定の必要圧以下にならない。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る流体式動力伝達システムでは、流体式動力伝達装置の高速度比領域での出入口圧の上昇を抑制しつつ、低速度比領域での入口圧が所定の必要圧以下に低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例が採用されたホイルローダの側面図。
【図2】本発明の一実施例が採用されたホイルローダの走行側機構の模式図。
【図3】本発明の第1実施形態としてのトルクコンバータの圧力調整装置を示す模式図。
【図4】本発明の第1実施形態を適用した場合の、トルクコンバータ速度比に対するトルクコンバータの入口圧および出口圧の変化の一例を模式的に示すグラフ。
【図5】本発明の第2実施形態としてのトルクコンバータの圧力調整装置を示す模式図。
【図6】本発明の第2実施形態を適用した場合の、トルクコンバータ速度比に対するトルクコンバータの入口圧および出口圧の変化の一例を模式的に示すグラフ。
【図7】本発明の第2実施形態におけるコントローラの制御動作を示すフローチャート。
【図8】本発明の第3実施形態としてのトルクコンバータおよび油圧回路を示す模式図。
【図9】出口圧調圧弁の断面図の一例。
【図10】本発明の第3実施形態を適用した場合の、トルクコンバータ速度比に対するトルクコンバータの入口圧および出口圧の変化の一例を模式的に示すグラフ。
【図11】本発明の第4実施形態としてのトルクコンバータの圧力調整装置を示す模式図。
【図12】本発明の第4実施形態を適用した場合の、トルクコンバータ速度比に対するトルクコンバータの入口圧および出口圧の変化の一例を模式的に示すグラフ。
【図13】従来技術におけるトルクコンバータ速度比に対するトルクコンバータの入口圧および出口圧の変化の一例を模式的に示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.ホイルローダ50の構成
本発明の一実施形態に係るホイルローダ50は、図1に示すように、車体51と、車体の前部に装着されたリフトアーム52と、このリフトアーム52の先端に取り付けられたバケット53と、車体51を支持しながら回転して車体を走行させる4本のタイヤ54と、車体51の上部に搭載されたキャブ55と、を備えている。
【0029】
車体51は、エンジン61(図2参照)を収納するエンジンルームと、リフトアーム52およびバケット53を駆動するための制御バルブ、アクチュエータ等を制御するコントローラと、を有している。
リフトアーム52は、先端に取り付けられたバケット53を持ち上げるためのアーム部材であって、併設されたリフトシリンダによって駆動される。
バケット53は、リフトアーム52の先端に取り付けられており、バケットシリンダによってダンプおよびチルトされる。
キャブ55は、転倒時運転者保護構造(ROPS構造)を有し、複数の鋼管と鋼板とを組み合わせて構成されるオペレータ用の運転室を形成している。
【0030】
2.ホイルローダ50の内部構成
ホイルローダ50は、図2に示すように、主に、エンジン61と、このエンジン61によって駆動される走行側の機構および作業機側の機構や、これらの機構を制御するためのコントローラ等を含むエンジン負荷制御装置を、内部に備えている。
【0031】
走行側機構は、エンジン61の出力が入力されるトルクコンバータ62と、トルクコンバータ62に連結されたトランスミッション63と、トランスミッション63の出力軸に連結されたデファレンシャルギア64と、駆動輪65とを有している。トランスミッション63は、前進用油圧クラッチ、後進用油圧クラッチ、複数の変速用クラッチ等を備えており、各油圧クラッチをオン、オフ制御することにより、前後進の切り換えおよび変速が行われる。
このホイルローダ50は、エンジン61によって駆動される機構として、走行系の機構以外に、主に、ステアリング機構(図示せず)、車体の前部に設けられたリフトアーム52やバケット53等のローダ、およびファン(図示せず)を有している。
これらの各機構を駆動するために、複数の油圧ポンプが、PTO機構66を介してエンジン61に連結されている。
【0032】
3.流体式動力伝達システム(第1実施形態)
図3に、本発明の一実施形態としての流体式動力伝達システムの模式図を示す。この装置は、主に、トルクコンバータ62と、制御手段2とから構成されている。
【0033】
(1)トルクコンバータ
トルクコンバータ62は、エンジンのクランクシャフト4とトランスミッションの入力シャフト5との間で作動流体によって動力を伝達するための流体動力伝達装置である。トルクコンバータ62は、フロントカバー6とインペラー7によって流体室を形成している。フロントカバー6は、内周部がクランクシャフト4に固定され、外周部がインペラー7の外周部に固定されている。トルクコンバータ62は、流体室内に、インペラー7とタービン8とステータ9とを有している。トルクコンバータ62内部で作動流体が循環すると、インペラー7からタービン8に動力が伝達される。
【0034】
より具体的には、インペラー7は、インペラーシェル7aおよびインペラーコア7cとそれらに固定された複数のインペラーブレード7bとから構成されている。タービン8は、タービンシェル8aおよびタービンコア8cとそれらに固定された複数のタービンブレード8bとから構成されている。タービンシェル8aの内周部はタービンハブ32を介してトランスミッションの入力シャフト5に連結されている。ステータ9は、ステータシェル9aおよびステータコア9cとそれらに固定された複数のステータブレード9bを有している。ステータシェル9aはワンウェイクラッチ11を介して固定シャフト12に支持されている。固定シャフト12は、トランスミッションの壁面に固定されており、トランスミッションの入力シャフト5の周りに配置された筒状である。
【0035】
図示しない油圧回路は、作動流体をトルクコンバータ62内に送り込み、さらにトルクコンバータ62から作動流体を回収する。具体的には、作動流体は、インペラーハブ31と固定シャフト12の間から供給され、インペラー7とステータ9との間の入口13からトルクコンバータ62内に流入し、さらに、タービン8とステータ9との間からトルクコンバータ62外に流出し、固定シャフト12とトランスミッションの入力シャフト5の間の出口14から排出される。
トルクコンバータ62内では、作動流体は、インペラー7からタービン8に向かって流れることで、タービン8を回転させる。次に、作動流体は、タービン8からステータ9を通ってインペラー7に戻る。作動流体は、ステータ9によって流れの向きを変えられてから、インペラー7に戻る。
【0036】
(2)制御手段
制御手段2は、トルクコンバータ62の出口圧を調整することで、入口圧を制御するための手段である。より具体的には、トルクコンバータ62の出口14にはリリーフ弁18が接続されており、制御手段2の他の構成がリリーフ弁18を操作して出口圧を制御する。
【0037】
制御手段2は、コントローラ15と、入力回転センサ16と、出力回転センサ17と、リリーフ弁18と、比例制御弁19とを備えている。入力回転センサ16は、エンジンのクランクシャフト4の回転速度を検出するセンサである。出力回転センサ17は、トランスミッションの入力シャフト5の回転速度を検出するセンサである。リリーフ弁18は、出口14の圧力が設定圧力以下の時には弁が閉じて出口14の圧力を上昇させ、出口14の圧力が設定圧力以上になると弁が開いて逃し口より圧力を逃すことで、出口14の圧力が設定圧力とほぼ等しくなるように調整している。比例制御弁19は、コントローラ15からの制御信号を受けて、リリーフ弁18の設定圧力を制御するための弁である。コントローラ15は、入力回転センサ16から入力回転速度信号を受信して、さらに出力回転センサ17から出力回転速度信号を受信する。コントローラ15は、さらに、速度比(出力軸の回転速度を入力軸の回転速度で割った値)を計算する。コントローラ15は、速度比に応じて、または、入力回転速度信号と速度比に応じて比例制御弁19に適切な制御信号を送信する。
【0038】
(3)制御動作
コントローラ15は、入力回転センサ16から入力回転速度信号を受信する。また、コントローラ15は、入力回転センサ16から受信した入力回転速度信号と出力回転センサ17から受信した出力回転速度信号から速度比を算出する。コントローラ15は、速度比に応じて、または、入力回転速度信号と速度比に応じて、比例制御弁19に適切な制御信号を送信する。
【0039】
比例制御弁19は、コントローラ15から受信した制御信号にしたがって、リリーフ弁18の設定圧力を制御する。
リリーフ弁18は、比例制御弁19によって設定された圧力に出口14の圧力を調整する。
図4に、トルクコンバータ速度比1から0に向けて出口圧が徐々に上昇するように制御した例を示す。なお、図4は、トルクコンバータ速度比に対するトルクコンバータの入口圧および出口圧の変化の一例を模式的に示す図であり、本実施形態の入口圧と出口圧は実線で示してあり、従来の入口圧と出口圧は破線で示してある。
【0040】
入口圧は、トルクコンバータ速度比1から0に向かって徐々に低くなるが、トルクコンバータ速度比0〜1の全領域にわたって従来例に比べて高くなっている。その理由は、前述のように、出口圧が従来とは異なり一定ではなく、速度比が低下するにつれて上昇するように制御されているからである。
トルクコンバータ速度比に対するトルクコンバータの入口圧の変化は、入力回転速度によって異なるが、コントローラ15は、速度比だけでなく、入力回転速度信号に応じても適切な制御信号を比例制御弁19に送信する機能を有している。
【0041】
図4には、異なる入力回転速度N1とN2の場合のグラフを合わせて示してある。入力回転速度がN1とN2の場合で出口圧のグラフが異なるのは、入力回転速度信号によってコントローラ15が比例制御弁19に送信する制御信号が異なるからである。
コントローラ15は、トルクコンバータが運転される全ての入力回転速度および速度比において適切な制御信号を比例制御弁19に送信するようにプログラミングされている。
【0042】
この結果、入口圧は所定の必要圧(図4では、Psで表す)より高い値に保たれる。
したがって、入口圧の低下によるキャビテーションを抑えることができ、トルクコンバータ62の性能低下や羽根車の壊食といった問題が防止できる。また、この実施例では、高速度比領域におけるトルクコンバータ入口圧は従来と変わらないため、重量の増加などの問題を軽減することができる。
【0043】
(4)本実施形態の効果
(a)この装置では、制御手段2がトルクコンバータ62の出口圧を調整することで、入口圧を制御する。したがって、トルクコンバータ62の入口圧を比較的自由に制御できるので、トルクコンバータ62の入口圧の低下を抑えることができる。本実施形態においてはトルクコンバータ62の入口圧を所定の必要圧よりも高く保つことができる。その結果、作動流体にキャビテーションが生じにくく、トルクコンバータ62の性能低下や羽根車の壊食を防止できる。
【0044】
(b)流体式動力伝達システムは、トルクコンバータ62の入力回転速度と出力回転速度を検出する入力回転センサ16と出力回転センサ17をさらに備えている。制御手段2は、速度比、あるいは、入力回転速度と速度比に応じて、トルクコンバータ62の出口圧を調整する。
この装置では、入力回転センサ16と出力回転センサ17がトルクコンバータ62の入力回転速度と出力回転速度を検出して、制御手段2が両回転速度から得られる速度比、あるいは、入力回転速度と速度比に応じてトルクコンバータ62の出口圧を調整する。つまり、速度比、あるいは、入力回転速度と速度比に応じてトルクコンバータ62の入口圧が所定の必要圧以上に制御される。
【0045】
(c)制御手段2は、速度比が低下するにつれて、トルクコンバータ62の出口圧を上昇させる。その結果、出口圧の上昇に伴って、入口圧の値は従来よりも高くなる。また、制御手段2は、入力回転速度と速度比に応じて出口圧の上昇を制御する。
より具体的には、速度比0またはその近傍において、入口圧が極端に低くならず、所定の必要圧よりも高くできる。
【0046】
(d)制御手段2は、トルクコンバータ62の出口14に接続された出口リリーフ弁18と、出口リリーフ弁18のリリーフ圧を制御可能な比例制御弁19と、速度比、あるいは、入力回転速度と速度比に応じて比例制御弁19を制御するコントローラ15とを有している。この装置では、コントローラ15が速度比、あるいは、入力回転速度と速度比に応じて電気信号によって比例制御弁19を制御し、比例制御弁19が出口リリーフ弁18のリリーフ圧を制御する。その結果、トルクコンバータ62の出口圧が調整される。その結果、速度比、あるいは、入力回転速度と速度比に応じてトルクコンバータ62の入口圧が所定の必要圧以上に制御される。
【0047】
4.流体式動力伝達システム(第2実施形態)
図5に、本発明の一実施形態としての流体式動力伝達システムの模式図を示す。この装置は、主に、トルクコンバータ62と、制御手段2とから構成されている。
(1)トルクコンバータ
トルクコンバータ62の構成は第1実施形態と同じである。
【0048】
(2)制御手段
制御手段2は、トルクコンバータ62の出口圧を調整することで、入口圧を制御するための手段である。より具体的には、トルクコンバータ62の作動流体出口14にはリリーフ弁18が接続されており、制御手段2の他の構成がリリーフ弁18を操作して出口圧を制御する。
制御手段2は、コントローラ15と、入口圧センサ20と、比例制御弁19とを備えている。入口圧センサ20は、トルクコンバータ62の入口圧を検出するセンサである。リリーフ弁18は、作動流体出口14の圧力が設定圧力以下の時には弁が閉じて作動流体出口14の圧力を上昇させ、作動流体出口14の圧力が設定圧力以上になると弁が開いて逃し口より圧力を逃すことで、作動流体出口14の圧力が設定圧力とほぼ等しくなるように調整している。比例制御弁19は、コントローラ15からの制御信号を受けて、リリーフ弁18の設定圧力を制御するための弁である。コントローラ15は、入口圧センサ20から入口圧信号を受信する。コントローラ15は、さらに、入口圧に応じて、比例制御弁19に制御信号を送信する。
【0049】
(3)制御動作
図6に本実施形態におけるトルクコンバータ速度比に対するトルクコンバータの入口圧および出口圧の変化の一例を模式的に示す。本実施形態の入口圧と出口圧は実線で示しており、従来の入口圧と出口圧は破線で示してある。本実施形態では、出口圧は速度比の低い領域において、速度比の低下につれて上昇し、入口圧は、速度比の低い領域で、ほぼ一定になっている。より具体的には、入口圧は所定の必要圧力以上に保たれている。
【0050】
図7に本実施形態におけるコントローラ15による制御動作のフローチャートを示す。
コントローラ15は、図7のステップS1において入口圧P1を基準圧Psと比較する。ステップS1で、P1<Psと判断された場合は、ステップS2において比例制御弁19に対してリリーフ弁18の設定圧P2をΔPだけ上昇させるように電気信号を送る。
リリーフ弁18の設定圧P2がΔPだけ上昇することにより、出口圧もほぼΔPだけ上昇し、これにより、入口圧も上昇する。
【0051】
上記の各ステップは入口圧P1が、Ps≦P1を満足するまで繰り返される。この結果、トルクコンバータの速度比の全領域にわたって、入口圧P1は所定の必要圧(具体的には、本例の場合は、基準圧Ps)より低くなることはない。
したがって、入口圧の低下による作動流体のキャビテーションを抑えることができ、トルクコンバータ62の性能低下や羽根車の壊食といった問題が防止できる。また、この実施例では、高速度比領域におけるトルクコンバータ入口圧は従来と同等とすることができる。そのため、トルクコンバータの重量増加などの問題を軽減することができる。
【0052】
(4)本実施形態の効果
(a)この装置では、制御手段2がトルクコンバータ62の出口圧を調整することで、入口圧を制御する。したがって、トルクコンバータ62の入口圧を比較的自由に制御できるので、トルクコンバータ62の入口圧の低下を抑えることができる。本実施形態においてはトルクコンバータ62の入口圧を所定の必要圧よりも高く保つことができるので、作動流体にキャビテーションが生じにくく、トルクコンバータ62の性能低下や羽根車の壊食を防止できる。
【0053】
(b)流体式動力伝達システムは、トルクコンバータの入口圧を検出する入口圧センサ20をさらに備えている。制御手段2は、トルクコンバータ62の入口圧に応じて、トルクコンバータ62の出口圧を調整する。
この装置では、入口圧センサ20がトルクコンバータ62の入口圧を検出して、制御手段2が入口圧に応じてトルクコンバータ62の出口圧を調整する。その結果、トルクコンバータ62の入口圧は出口圧を介して、フィードバック制御され、入口圧が所定の必要圧以下になることを防ぐことができる。
【0054】
(c)制御手段2は、トルクコンバータ62の入口圧を所定の必要圧力以上に保つように、トルクコンバータ62の出口圧を調整する。
この装置では、トルクコンバータ62の入口圧が所定の必要圧力を下回ろうとするとトルクコンバータ62の出口圧を上昇させることで入口圧を上昇させる。その結果、入口圧の値は所定の必要圧力以上に保たれる。
【0055】
制御手段2は、トルクコンバータ62の出口に接続された出口リリーフ弁18と、出口リリーフ弁18のリリーフ圧を制御可能な比例制御弁19と、トルクコンバータ62の入口圧に応じて比例制御弁19を制御するコントローラ15とを有している。
この装置では、コントローラ15が入口圧に応じて電気信号によって比例制御弁19のソレノイドを制御し、比例制御弁19が出口リリーフ弁18のリリーフ圧を制御する。その結果、トルクコンバータ62の出口圧が調整される。つまり、コントローラによって、トルクコンバータ62の入口圧は、出口圧を介して、フィードバック制御され、入口圧が所定の必要圧以下になることを防ぐことができる。
【0056】
5.流体式動力伝達システム(第3実施形態)
(1)トルクコンバータおよび油圧回路
図8に、発明の一実施形態としての流体式動力伝達システムの油圧回路図の一部を示す。この装置は、主に、トルクコンバータ100と、出口圧調圧弁102とから構成されている。
トルクコンバータ100の構成は第1実施形態と同じである。
トルクコンバータ100の出口124には、オリフィス101と出口圧調圧弁102が互いに並列に接続されている。
出口圧調圧弁102は、トルクコンバータ100の出口124の圧を調整することで入口123の圧を制御するものであり、より詳細にはトルクコンバータ100の入口圧を検出して、それに応じて、トルクコンバータ100の出口圧を調整する機能を有している。
【0057】
(2)制御手段
図9に、制御手段としての出口圧調圧弁102の断面図の一例を示す。
出口圧調圧弁102は、主に、シリンダ111と、シリンダ111内に配置されたスプール112と、コイルスプリング113と、ピストン114と、を有している。シリンダ111は、主に、内部に、第1チャンバ116と、第2チャンバ117と、第3チャンバ118とを有している。第1チャンバ116には、トルクコンバータ100の出口124からの油路が接続される第1ポート111aが形成されている。第2チャンバ117は、第1チャンバ116に連続しており、さらに、オイルパンへの油路が接続される第2ポート111bが形成されている。第3チャンバ118は、第2チャンバ117に接続されており、さらに、トルクコンバータ100の入口123から入口圧を導入する第3ポート111cが形成されている。
【0058】
シリンダ111内に配置されたスプール112は、一方の端が第1チャンバ116側に、他方の端が第3チャンバ118側に位置している。スプール112は、第3チャンバ118側に大径部112aを有しており、大径部112aは第2チャンバ117と第3チャンバ118の間の環状の境界部分111dに摺動可能であり、第2チャンバ117と第3チャンバ118を遮断している。スプール112は、第1チャンバ116側に大径の筒状部112bを有している。筒状部112bは、第1チャンバ116と第2チャンバ117との間の環状の境界部分111eに摺動可能である。スプール112が第1チャンバ116側に移動すると、やがて、筒状部112bは境界部分111eから離れ、第1チャンバ116と第2チャンバ117とを連通させる。スプール112が最も第1チャンバ116側に移動した状態(図9の上側部分)では、第1チャンバ116と第2チャンバ117との間の連通開口部121の面積が最大になる。逆に、スプール112が最も第3チャンバ118側に移動した状態(図9の下側)では、筒状部112bは境界部分111eに当接した状態になり、第1チャンバ116と第2チャンバ117を遮断する。
【0059】
コイルスプリング113は、スプール112の筒状部112b内に配置され、プレート130に支持されて、スプール112に第3チャンバ118側への付勢力を与えている。一方、トルクコンバータ100の入口123から導入された入口圧による第3チャンバ118内の油圧力は、スプール112を第1チャンバ116側へ付勢している。したがって、スプール112は、第3チャンバ118内の油圧力とコイルスプリング113のばね力が釣り合う位置で保持される。
【0060】
第1チャンバ116と第2チャンバ117との間の連通開口部121の面積は、スプール112が保持される位置によって変化する。連通開口部121の面積が狭まる、もしくは、遮断されると、出口圧は上昇し、連通開口部121の面積が広がれば、出口圧は低下する。
【0061】
(3)制御動作
図10は、本実施形態におけるトルクコンバータ100の速度比に対するトルクコンバータ100の入口圧と出口圧の変化の一例を模式的に示す図である。なお、本実施形態の入口圧と出口圧は実線で示してあり、従来の入口圧と出口圧は破線で示してある。
図10の本実施形態(実線)では、出口圧は速度比が1から低下していくにしたがい、徐々に上昇していく。そのため、入口圧は、速度比が1から低下していくにしたがい、徐々に従来より高くなっている。その結果、入口圧は基準圧Psより高い値に保持される。
出口圧調圧弁102の動作について説明する。
トルクコンバータの速度比1及びその付近ではトルクコンバータ100の入口圧が高いため、第3チャンバ118で発生する油圧力が十分に大きい。したがって、スプール112は最も第1チャンバ116側に移動しており、筒状部112bの端部はプレート130に当接している。このため、第1チャンバ116と第2チャンバ117との間の開口部121の面積は最大になっている。(図9の上側の状態)
一方、速度比が低下するにつれてトルクコンバータ100の入口圧は低下していき、したがって第3チャンバ118の油圧力も低下する。やがて第3チャンバ118の油圧力がコイルスプリング113のばね力より小さくなると、スプール112はコイルスプリング113に押されて第3チャンバ118側に移動する。そのため、第1チャンバ116と第2チャンバ117との間の連通開口部121の面積が小さくなる。この結果、トルクコンバータ100の出口圧は上昇し、これに伴い入口圧も上昇する。このようにして、出口圧調圧弁102はトルクコンバータ100の入口圧と出口圧を調圧する。出口圧調圧弁102によって調圧された結果として、スプール112は、第3チャンバ118の油圧力とコイルスプリング113のばね力が釣り合う位置で保持される。
なお、トルクコンバータ100の入口圧が上昇すると、逆の動作が生じる。
出口圧調圧弁102の各部の寸法および第1コイルスプリング113のばね定数は、トルクコンバータ100の入口圧を必要圧(具体的には、本例の場合は、基準圧Ps)以上に保ち、さらに上記の調圧機能を有するように設計される。
【0062】
(4)本実施形態の効果
(a)この装置では、出口圧調圧弁102がトルクコンバータ100の出口124の圧を調整することで、入口123の圧を制御する。その結果、トルクコンバータ100の入口123の圧の低下を抑えることができる。本実施形態においてはトルクコンバータ100の入口123の圧を所定の必要圧よりも高く保つことができる。以上の結果、作動流体にキャビテーションが生じにくく、トルクコンバータ100の性能低下や羽根車の壊食といった問題が防止できる。
【0063】
(b)出口圧調圧弁102は、トルクコンバータ100の入口圧を検出して、入口圧に応じて、トルクコンバータ100の出口圧を調整する。その結果、トルクコンバータ100の入口圧は、出口圧調圧弁102よって、出口圧を介して、フィードバック制御され、入口圧が所定の必要圧以下になることを防ぐことができる。
(c)出口圧調圧弁102は、トルクコンバータ100の出口124に接続された出口リリーフ弁である。出口圧調圧弁102は、トルクコンバータ100の入口圧に応じて出口圧を調整可能であり、トルクコンバータ100の入口圧が低くなると出口圧を高くする。これにより、トルクコンバータ100の入口圧は、出口圧調圧弁102よって、出口圧を介して、フィードバック制御され、入口圧が所定の必要圧以下になることを防ぐことができる。
【0064】
6.流体式動力伝達システム(第4実施形態)
図11に、本発明の一実施形態としての流体式動力伝達システムの模式図を示す。この装置は、主に、トルクコンバータ62と制御手段21とから構成されている。
(1)トルクコンバータ
トルクコンバータ62の構成は第1実施形態と同じである。
【0065】
(2)制御手段
制御手段21は、トルクコンバータ62の出口圧を制御するための手段である。より具体的には、トルクコンバータ62の出口14にはリリーフ弁22が接続されており、制御手段21の他の構成がリリーフ弁22を操作して出口圧を制御する。
制御手段21は、リリーフ弁22と、それに設けられたロードスプリング23と、出入口圧差検出弁24とを備えている。ロードスプリング23はリリーフ弁22に荷重を付与し、リリーフ弁22のリリーフ圧を設定している。出入口圧差検出弁24は、入口圧と出口圧の差に応じて、ロードスプリング23を圧縮するための弁である。出入口圧差検出弁24は、シリンダ25と、その中に配置され前後に第1チャンバ27と第2チャンバ28を形成する出入口圧差検出ピストン26とを有している。第1チャンバ27には、出口14から出口圧が導入されている。第2チャンバ28には、入口13から入口圧が導入されている。出入口圧差検出ピストン26は突出部がロードスプリング23に当接している。以上の構造により、第1チャンバ27の圧力(出口圧)が第2チャンバ28の圧力(入口圧)より高くなると、出入口圧差検出ピストン26がロードスプリング23を圧縮する。ロードスプリング23は、第1チャンバ27と第2チャンバ28の圧力差によって出入口圧差検出ピストン26が押される力とロードスプリング23の荷重が釣り合う位置まで圧縮される。
【0066】
(3)制御動作
トルクコンバータの速度比1及びその付近では入口圧は出口圧より高いため、第1チャンバ27の圧力は第2チャンバ28の圧力より低い。したがって、出入口圧差検出弁24の出入口圧差検出ピストン26は図11の右方向に押され、ロードスプリング23を圧縮しない。
【0067】
しかし、速度比が低下するにつれて入口圧は低下していくため、やがて、入口圧が出口圧を下回る。すると、第1チャンバ27の圧力が第2チャンバ28の圧力より高くなり、出入口圧差検出ピストン26は、図11の左方向に押され、ロードスプリング23を圧縮する。ロードスプリング23は、第1チャンバ27と第2チャンバ28の圧力差によって出入口圧差検出ピストン26が押される力とロードスプリング23の荷重が釣り合う位置まで圧縮される。ロードスプリング23が圧縮されて荷重が増すことにより、リリーフ弁22のリリーフ設定圧が上昇し、結果としてリリーフ弁22によって調整される出口圧が上昇する。
【0068】
第1チャンバ27の圧力が第2チャンバ28の圧力より高く、その差が大きいほど、出入口圧差検出ピストン26が図11の左方向に押される力は大きくなり、ロードスプリング23の荷重がおおきくなり、出口圧の上昇も大きくなる。すなわち、出口圧が入口圧より高く、その差が大きいほど、出口圧の上昇も大きくなる。
図12に本実施形態におけるトルクコンバータ速度比に対するトルクコンバータの入口圧および出口圧の変化の一例を模式的に示す。本実施形態の入口圧と出口圧は実線で示しており、従来の入口圧と出口圧は破線で示してある。
【0069】
入口圧は、トルクコンバータ速度比0およびその近傍の領域にわたって従来例に比べて高くなり、入口圧が所定の必要圧(図12では、Psで表す)より低くなることはない。
したがって、入口圧の低下による作動流体のキャビテーションを抑えることができ、トルクコンバータ62の性能低下や羽根車の壊食といった問題が防止できる。また、この実施例では、高速度比領域におけるトルクコンバータ入口圧は従来と同等とすることができる。
【0070】
(4)本実施形態の効果
(a)この装置では、制御手段21がトルクコンバータ62の出口圧を調整することで、入口圧を制御する。その結果、トルクコンバータ62の入口圧の低下を抑えることができ、入口圧を所定の必要圧よりも高く保つことができる。したがって、作動流体にキャビテーションが生じにくく、トルクコンバータ62の性能低下や羽根車の壊食といった問題が防止できる。
【0071】
(b)流体式動力伝達システムは、トルクコンバータ62の入口圧と出口圧とを比較する出入口圧差検出弁24をさらに備えている。制御手段21は、比較結果に応じて、トルクコンバータ62の出口圧を調整する。この装置では、出入口圧差検出弁24がトルクコンバータの入口圧と出口圧とを比較し、制御手段21が入口圧と出口圧の比較結果に応じてトルクコンバータ62の出口圧を調整する。その結果、入口圧と出口圧の比較結果に応じてトルクコンバータ62の入口圧が制御され、入口圧が所定の必要圧以下になることを防ぐことができる。
【0072】
(c)制御手段21は、入口圧が出口圧より低くなると、両者の差に応じて、出口圧を上昇させる。この装置では、入口圧が出口圧より高いときには、出口圧は従来と同じであるが、入口圧が出口圧より低くなると、出口圧と入口圧の差に応じて、出口圧を上昇させる。
例えば、高い速度比領域では入口圧が出口圧より高いが、速度比の低下に伴い入口圧が低下し、低い速度比領域では入口圧が出口圧より低くなる場合がある。このような場合、この装置では、高い速度比領域では出口圧は従来と同じく一定に保たれるが、低い速度比領域では、制御手段が、入口圧と出口圧の差に応じて、出口圧を上昇させる。この結果、低い速度比領域での出口圧は速度比が低下するに連れて上昇していく。つまり、入口圧と出口圧の比較結果に応じて流体式動力伝達装置の入口圧が制御され、入口圧が所定の必要圧以下に低下することを抑えることができる。
【0073】
(d)出入口圧差検出弁24は、出入口圧差検出ピストン26を有している。制御手段21は、トルクコンバータ62の出口14に接続された出口リリーフ弁22を有している。出口リリーフ弁22は、弁(図示せず)と、弁に荷重を付与するロードスプリング23とを有している。出口圧が入口圧より高くなると、出入口圧差検出ピストン26がロードスプリング23を圧縮して、それによりロードスプリング23が弁に与える荷重が大きくなる。そのため、出口リリーフ弁22のリリーフ圧が高くなり、トルクコンバータ62の出口圧が高くなる。出口圧が入口圧より高く、その差が大きいほど、出入口圧差検出ピストン26はロードスプリング23をより圧縮し、ロードスプリング23が弁に与える荷重はより大きくなり、出口リリーフ弁22のリリーフ圧はより高くなる。
【0074】
例えば、高い速度比領域では入口圧が出口圧より高いが、速度比の低下に伴い入口圧が低下し、低い速度比領域では入口圧が出口圧より低くなり、速度比が0に近づくほど入口圧と出口圧の差が大きくなる場合がある。このような場合、この装置では、速度比が高く、入口圧が出口圧より高い速度比領域では出口圧は従来と同じく一定に保たれるが、速度比が低下し、入口圧が出口圧より低い速度比領域では、制御手段が、入口圧と出口圧の差に応じて、出口圧を上昇させる。この結果、低い速度比領域での出口圧は速度比が低下するに連れて上昇していく。つまり、入口圧と出口圧の比較結果に応じて流体式動力伝達装置の入口圧が制御され、入口圧が所定の必要圧以下に低下することを抑えることができる。
【0075】
7.他の実施形態
本発明の実施形態の説明は例示の目的のために示されたものであり、それの変更は可能である。つまり、本発明に係る流体式動力伝達システムは前記実施形態に限定されない。
また、前記実施形態の説明に用いた、トルクコンバータの速度比に対する入口圧と出口圧の関係の図は、説明のための模式的なものであり、本発明の適用は、速度比の低下に比例して入口圧が低下する場合に限られるものではない。つまり、トルクコンバータの速度比に対する入口圧と出口圧の関係がどのような場合であっても、本発明を適用することが可能である。
【0076】
前記実施形態ではトルクコンバータを開示したが、トルクコンバータの要素数や段数は前記実施形態に限定されない。
本発明は、例えば、ロックアップ装置付きトルクコンバータにも適用できる。
本発明は、流体継手(フルード・カップリング)にも適用できる。
本実施形態ではホイールローダを例に挙げて説明したが、ホイールローダ以外の建設機械、あるいは建設機械以外の他の車両(バス、トラック、乗用車や農業用の作業車両など)にも適用可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る流体式動力伝達システムは、出口圧を調整することによって入口圧を制御でき、各種車両、特に、建設機械や産業機械に利用可能である。
【符号の説明】
【0078】
2 制御手段
4 クランクシャフト
5 入力シャフト
6 フロントカバー
7 インペラー
8 タービン
9 ステータ
12 固定シャフト
13 トルクコンバータ入口
14 トルクコンバータ出口
15 コントローラ
16 入力回転センサ
17 出力回転センサ
18 リリーフ弁
19 比例制御弁
21 制御手段
22 リリーフ弁
23 ロードスプリング
24 出入口圧差検出弁
25 シリンダ
26 ピストン
62 トルクコンバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体の入口と出口を有し、内部で作動流体が循環することによって動力を伝達する流体式動力伝達装置と、
前記流体式動力伝達装置の前記出口における前記作動流体の圧力を調整することで、前記入口における前記作動流体の圧力を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記流体式動力伝達装置の前記入口における前記作動流体の圧力を検出する入口圧検出手段と、
前記流体式動力伝達装置の前記出口に接続され、前記流体式動力伝達装置の前記入口における前記作動流体の圧力に応じてリリーフ圧を調整可能な出口リリーフ弁を有しており、
前記制御手段は、前記流体式動力伝達装置の前記入口における前記作動流体の圧力が低くなると、リリーフ圧を上昇させることによって前記流体式動力伝達装置の前記出口における前記作動流体の圧力を上昇させる、
流体式動力伝達システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記流体式動力伝達装置の前記入口における前記作動流体の圧力が所定の値以下にならないように、前記出口における前記作動流体の圧力を調整する、
請求項1に記載の流体式動力伝達システム。
【請求項3】
前記流体式動力伝達装置の前記入口における前記作動流体の圧力は、前記流体式動力伝達装置の入力回転速度に対する出力回転速度の比である速度比が小さくなるときに低くなり、
前記制御手段は、前記流体式動力伝達装置の前記速度比の全領域にわたって、前記流体式動力伝達装置の前記入口における前記作動流体の圧力が所定の値以下にならないように、前記出口における前記作動流体の圧力を調整する、請求項1に記載の流体式動力伝達システム。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記出口リリーフ弁のリリーフ圧を制御可能な制御弁と、
前記流体式動力伝達装置の入口における前記作動流体の圧力に応じて前記制御弁を制御するコントローラとを更に有しており、
前記コントローラは、前記流体式動力伝達装置の入口における前記作動流体の圧力が低くなると、前記制御弁を動作させて前記出口リリーフ弁のリリーフ圧を上昇させる、請求項1に記載の流体式動力伝達システム。
【請求項5】
作動流体の入口と出口を有し、内部で作動流体が循環することによって動力を伝達する流体式動力伝達装置と、
前記流体式動力伝達装置の前記出口における前記作動流体の圧力を調整することで、前記入口における前記作動流体の圧力を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記流体式動力伝達装置の入口における前記作動流体の圧力と前記出口における前記作動流体の圧力とを比較する比較手段と、
前記流体式動力伝達装置の前記出口に接続され、前記流体式動力伝達装置の前記入口における前記作動流体の圧力に応じてリリーフ圧を調整可能な出口リリーフ弁と、
前記出口リリーフ弁のリリーフ圧を制御可能な制御弁と、
前記流体式動力伝達装置の前記入口における前記作動流体の圧力と前記出口における前記作動流体の圧力の比較結果に応じて前記制御弁を制御するコントローラとを有しており、
前記コントローラは、前記出口における前記作動流体の圧力が前記入口における前記作動流体の圧力より高くなると、両者の差に応じて前記制御弁を制御して前記出口リリーフ弁の前記リリーフ圧を上昇させることによって前記流体式動力伝達装置の前記出口における前記作動流体の圧力を上昇させる、
流体式動力伝達システム。
【請求項6】
前記比較手段は、出入口圧差検出ピストンを有しており、
前記制御手段は、前記流体式動力伝達装置の前記出口に接続された出口リリーフ弁を有しており、
前記出口リリーフ弁は、弁と、前記弁に荷重を付与するスプリングとを有しており、
前記出口における前記作動流体の圧力が前記入口における前記作動流体の圧力より高くなると、前記出入口圧差検出ピストンが前記スプリングを圧縮して、それにより前記スプリングが前記弁に与える荷重が大きくなる、
請求項5に記載の流体式動力伝達システム
【請求項7】
前記制御手段は、前記流体式動力伝達装置の前記入口における前記作動流体の圧力が所定の値以下にならないように、前記出口における前記作動流体の圧力を調整する、
請求項5に記載の流体式動力伝達システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−64512(P2013−64512A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−7836(P2013−7836)
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2008−15586(P2008−15586)の分割
【原出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】