説明

流体透過膜

【課題】未だ開発されていない、透過流速が圧力に対して非線形特性を有する流体透過膜、又は流体透過膜と流体との摩擦係数が圧力により変化する流体透過膜の提供。
【解決手段】a)ポリマー;及びb)第1の環状分子の開口部が第1の直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる第1の擬ポリロタキサンの両端に第1の環状分子が脱離しないように第1の封鎖基を配置してなる第1のポリロタキサン;を有し、a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが架橋してなる架橋体を有する流体透過膜であって、流体の透過流速が圧力に対して非線形特性を有する流体透過膜により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるポリロタキサンを有する流体透過膜に関する。
【背景技術】
【0002】
本願の発明者の一部により、架橋ポリロタキサンが提案されている(特許文献1参照、なお、この文献は、その全てが参照として本明細書に組み込まれる)。架橋ポリロタキサンは、環状分子(回転子:rotator)の開口部が直鎖状分子(軸:axis)によって串刺し状に包接されてなる擬ポリロタキサンの両末端(直鎖状分子の両末端)に、環状分子が脱離しないように封鎖基を配置して成るポリロタキサンを複数架橋してなる。この架橋ポリロタキサンは、環状分子の移動によって生じる粘弾性を有する。このため、架橋ポリロタキサンに張力が加えられたとしても、この作用により該張力を架橋ポリロタキサン内で均一に分散させる。したがって、従来の架橋ポリマーとは異なり、張力を加えたとしてもクラック又は傷が生じることはないため、架橋ポリロタキサンは、種々の分野への応用が期待されている。
【0003】
一方、流体透過膜は、ポリアクリルアミドゲルなどの材料を用いて形成され(特許文献2及び非特許文献1など参照)。これらの材料を用いた流体透過膜は通常、ある流体について、その透過流速が圧力に対して線形性を有するのが一般的で、非線形特性を有する流体透過膜は未だ開発されていない。もし、非線形特性、特にオン−オフ特性を有する流体透過膜が提供されるならば、透過膜自体が「弁」の機能を兼ね備えるため、有用であることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3475252号公報。
【特許文献2】特許第2525407号公報。
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Membrane Science 305 (2007) 325-331。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、未だ開発されていない、透過流速が圧力に対して非線形特性を有する流体透過膜を提供することにある。
また、本発明は、上記目的の他に、又は上記目的に加えて、流体透過膜と流体との摩擦係数が圧力により変化する流体透過膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、架橋ポリロタキサンを有する材料;又はポリロタキサンとポリマーとが結合又は架橋してなる材料を有する材料;を用いることにより、透過流速が圧力に対して非線形特性を有する流体透過膜を提供できることを見出した。具体的には、本発明者らは、次の発明を見出した。
【0008】
<1> a)ポリマー;及びb)第1の環状分子の開口部が第1の直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる第1の擬ポリロタキサンの両端に第1の環状分子が脱離しないように第1の封鎖基を配置してなる第1のポリロタキサン;を有し、a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが架橋してなる架橋体を有する流体透過膜であって、
流体の透過流速が圧力に対して非線形特性、特にオン−オフ特性を有する、上記流体透過膜。
<2> 上記<1>において、非線形特性、特にオン−オフ特性が可逆性を有するのがよい。
【0009】
<3> a)ポリマー;及びb)第1の環状分子の開口部が第1の直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる第1の擬ポリロタキサンの両端に第1の環状分子が脱離しないように第1の封鎖基を配置してなる第1のポリロタキサン;を有し、a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが架橋してなる架橋体を有する流体透過膜であって、
該流体透過膜と流体との摩擦係数が圧力により変化する、上記流体透過膜。
<4> 上記<3>において、圧力変化が可逆性を有するのがよい。
【0010】
<5> 上記<1>〜<4>のいずれかにおいて、a)ポリマーが、b)第1のポリロタキサンと同じであっても異なってもよいb)第2のポリロタキサンであり、
該第2のポリロタキサンが、第2の環状分子の開口部が第2の直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる第2の擬ポリロタキサンの両端に第2の環状分子が脱離しないように第2の封鎖基を配置してなり、
第1のポリロタキサンと第2のポリロタキサンとが第1及び第2の環状分子を介して架橋してなるのがよい。
【0011】
<6> 上記<1>〜<5>のいずれかにおいて、流体は、水、ジメチルスルホキシド、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、ジメチルホルムアミド、アセトン、アセトニトリル、酢酸、エタノール、メタノール、ブタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ギ酸、およびこれらの混合液体、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、水素、およびこれらの混合気体からなる群から選ばれるのがよい。
【0012】
<7> 上記<1>〜<6>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の直鎖状分子が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれるのがよく、例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、特にポリエチレングリコールであるのがよい。
【0013】
<8> 上記<1>〜<7>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の直鎖状分子は、その分子量が500以上、好ましくは1000以上、より好ましくは2000以上であるのがよい。
<9> 上記<1>〜<8>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の封鎖基が、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はトリチル基類であるのがよい。
【0014】
<10> 上記<1>〜<9>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいシクロデキストリン分子であるのがよい。
<11> 上記<1>〜<10>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいシクロデキストリン分子であり、該シクロデキストリン分子がα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリン、並びにその誘導体からなる群から選ばれるのがよい。
【0015】
<12> 上記<1>〜<11>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいα−シクロデキストリンであり、第1及び/又は第2の直鎖状分子がポリエチレングリコールであるのがよい。
<13> 上記<1>〜<12>のいずれかにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が第1及び/又は第2の直鎖状分子により串刺し状に包接される際に第1及び/又は第2の環状分子が最大限に包接される量を1とした場合、第1及び/又は第2の環状分子が0.01〜0.99、好ましくは0.1〜0.9、より好ましくは0.2〜0.8の量で第1及び/又は第2の直鎖状分子に串刺し状に包接されるのがよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、透過流速が圧力に対して非線形特性を有する流体透過膜を提供することができる。
また、本発明により、上記効果の他に、又は上記効果に加えて、流体透過膜と流体との摩擦係数が圧力により変化する流体透過膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本願で用いる透過流体流量測定装置の概略図である。
【図2】透過膜としてH−RPG−5/water(実施例4)、透過流体として水を用いた場合の積算流量の時間変化を示す図であり、ある圧力下の定常状態の流量Qを求めるための図である。
【図3】透過膜としてPAAmG/water(比較例1)、透過流体として水を用いた場合の、流速νの圧力依存性を示す図である。
【図4】透過膜としてH−PRG−5/water(実施例4)、透過流体として水を用いた場合の、流速νの圧力依存性を示す図である。
【図5】透過膜としてPRG−5/DMSO(実施例1)、透過流体としてDMSOを用いた場合の、流速νの圧力依存性を示す図である。
【図6】透過膜としてPRG−5/DMSO(実施例1)、PRG−10/DMSO(実施例2)、及びPRG−15/DMSO(実施例3)、透過流体としてDMSOを用いた場合の、流速νの圧力依存性を示す図である。
【図7】透過膜としてH−PRG−5/water(実施例1)(●及び○。●は低圧領域から高圧領域へと観測した値、○は高圧領域から低圧領域へと観測した値)、及びPAAmG/water(比較例1)(■)を用いた場合の、摩擦係数の圧力依存性を示す図である。
【図8】透過膜としてPRG−5/DMSO(実施例1)、透過流体としてDMSOを用いた場合の、摩擦係数fの圧力(p/d)依存性を示す図である。
【図9】透過膜としてPRG−5/DMSO(実施例1)、PRG−10/DMSO(実施例2)、及びPRG−15/DMSO(実施例3)、透過流体としてDMSOを用いた場合の、摩擦係数fの圧力(p/d)依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本願は、a)ポリマー;及びb)第1の環状分子の開口部が第1の直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる第1の擬ポリロタキサンの両端に第1の環状分子が脱離しないように第1の封鎖基を配置してなる第1のポリロタキサン;を有し、a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが架橋してなる架橋体を有する流体透過膜を提供する。
【0019】
特に、本願は、I) a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが架橋してなる架橋体を有する流体透過膜であって、流体の透過流速が圧力に対して非線形特性を有する流体透過膜を提供する。
【0020】
また、本願は、II) a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが架橋してなる架橋体を有する流体透過膜であって、該流体透過膜と流体との摩擦係数が圧力により変化する流体透過膜を提供する。
以降、説明を簡単に行うために、それぞれ、単に「I)流体透過膜」又は「II」流体透過膜」と略記する場合がある。
【0021】
<I)流体透過膜>
本願の「I)流体透過膜」は、a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが架橋してなる架橋体を有する。これらの構成要素については、「II)流体透過膜」についても同じであるため、後述する。
本願の「I)流体透過膜」は、流体の透過流速が圧力に対して非線形特性を有する。
ここで、流体とは、液体及び気体を含み、外力によって形が変性して元に戻らないものをいう。例えば、流体として、水、ジメチルスルホキシド、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、ジメチルホルムアミド、アセトン、アセトニトリル、酢酸、エタノール、メタノール、ブタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ギ酸、およびこれらの混合液体、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、水素、およびこれらの混合気体を挙げることができるが、上記定義に含まれる限り、これらに限定されない。
透過流速は一般に、次のように求められる。
ある流体を用いた場合の該流体のある圧力下での積算流量の時間変化を求め、積算流量が時間の増加と共に増加するものの、時間の経過と共にそれが一定化した場合、即ち後述の図2に示す直線の傾きが一定化する。そこで、図2に示す傾きから、ある圧力下の定常状態の流量Qを求め、さらに、次式から透過流速νが求められる。なお、Aは試料の有効表面積であり、Qは定常状態の流量である。
【0022】
ν=Q/A。
【0023】
圧力とは、この場合、流体に与えた力を面積で割った物理量をいう。
「流体の透過流速が圧力に対して非線形特性を有する」とは、横軸に圧力、縦軸に透過流速、をそれぞれプロットした図において、該プロットが線形ではない特性を示すことをいう。後述の図3に示す特性は、すべてのプロットが直線上にあり、線形特性を示す。即ち、図3に示す特性は、本明細書でいう「非線形」とは異なるものである。一方、「非線形特性」は、具体的には、後述の図4に示すように、すべてのプロットが直線上に乗ることはない特性をいう。
「流体の透過流速が圧力に対して非線形特性を有する」ことにより、ある圧力下まで、流速が大とはならない透過膜を提供できる。即ち、このような透過膜は、ある圧力下まで「弁」が閉じた状態を示す一方、その圧力よりも大となると、流速が大となる「弁」を開けた状態を示す。要するに、本発明の透過膜は、流速をゼロ又は小とする(いわゆる「オフ」状態)か、もしくは流速をゼロ以外とするか又は大とする(いわゆる「オン」状態)「弁」の作用を奏することができる。即ち、本発明は、オン−オフ特性を有する「弁」機能を有する透過膜を提供することができる。
なお、「非線形特性」は、可逆性を有するのがよい。即ち、圧力を、小さい値から大きな値へと変化させる場合の透過流速と、圧力を、大きな値から小さな値から変化させる場合の透過流速と、で、双方が同じ値を奏するのがよい。
【0024】
<II)流体透過膜>
本願の「II)流体透過膜」は、a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが架橋してなる架橋体を有する。
本願の「II)流体透過膜」は、該流体透過膜と流体との摩擦係数が圧力により変化する。ここで、「流体」及び「圧力」の語は、上述した通りである。
「摩擦係数」とは、流体透過膜と流体との摩擦係数をいい、ある流体の、ある圧力p下での定常状態の流量Q、流体透過膜の厚さd、流体透過膜の有効透過表面積Aから、次式により求めることができる。
【0025】
f=(A/Q)・(p/d)。
【0026】
「該流体透過膜と流体との摩擦係数が圧力により変化する」とは、次のようなことをいう。即ち、従来の流体透過膜は、後述の図7の「■」で示すように、摩擦係数が圧力により変化することはなかった。しかしながら、本願の流体透過膜は、摩擦係数が圧力により変化する。例えば、本願の流体透過膜は、後述の図7の「○」又は「●」で示すように、摩擦係数が圧力により変化する。より具体的には、図7の「○」又は「●」で示す流体透過膜は、I及びIIの圧力領域では摩擦係数が減少し、IIIの圧力領域では摩擦係数が一定の値になるように、変化する。
このように、摩擦係数が圧力により変化することにより、非線形特性、特にオン−オフ特性、好ましくは可逆的な非線形特性、特に可逆的なオン−オフ特性を有する流体透過膜を提供することができる。
【0027】
以降は、本願の「I)流体透過膜」及び「II)流体透過膜」に共通する構成要素について述べる。
<<a)ポリマー>>
本願の流体透過膜は、a)ポリマーを有してなる。該a)ポリマーは、b)第1のポリロタキサンと同じであっても異なってもよい第2のポリロタキサンであってもよい。勿論、第2のポリロタキサン以外のポリマーであってもよい。
該a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとは、架橋又は結合するのがよい。特に、a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとは、第1のポリロタキサンの第1の環状分子を介して、架橋又は結合するのがよい。これにより、第1の環状分子が第1の直鎖状分子上を移動することにより、ポリロタキサンの有する伸縮特性、粘弾性などの効果を奏することができる。
なお、a)ポリマー同士が架橋していても、b)第1のポリロタキサン同士が架橋していてもよい。
【0028】
より具体的には、本願の流体透過膜は、大きく分けて、次の4種を有して成る。
即ち、i)a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが結合又は架橋し、a)ポリマー間が架橋し且つb)第1のポリロタキサン間が架橋するもの;
ii) a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが結合又は架橋し且つb)第1のポリロタキサン間が架橋する一方、a)ポリマー間は架橋しないもの;
iii) a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが結合又は架橋し且つa)ポリマー間が架橋する一方、b)第1のポリロタキサン間は架橋しないもの;
iv) a)ポリマーとb)第1のポリロタキサンとが結合又は架橋する一方、a)ポリマー間が架橋せず且つb)第1のポリロタキサン間が架橋しないもの;を提供することができる。
【0029】
本願の流体透過膜中にb)第1のポリロタキサンが存在することにより、上述した伸縮特性などの効果を奏することができる。
本願の流体透過膜において、b)第1のポリロタキサンの量は、流体透過膜に求められる性質に依存し、例えばb)第1のポリロタキサンとa)ポリマーとの重量比((第1のポリロタキサン)/(ポリマー))が1/1000以上、即ちポリマー1000に対してポリロタキサンが1以上存在するのがよい。
【0030】
本発明のa)ポリマーは、特に限定されないが、主鎖又は側鎖に−OH基、−NH基、−COOH基、エポキシ基、ビニル基、チオール基、及び光架橋基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有するのがよい。なお、光架橋基として、ケイ皮酸、クマリン、カルコン、アントラセン、スチリルピリジン、スチリルピリジニウム塩、スチリルキノリウム塩などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0031】
本発明のa)ポリマーは、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。2種以上のポリマーを有していてもよく、2種以上のポリマーを有する場合には、少なくとも1種のポリマーがb)第1のポリロタキサンと第1の環状分子を介して結合しているのがよい。本発明のa)ポリマーがコポリマーである場合には、2種、3種又はそれ以上のモノマーから成ってもよい。コポリマーである場合、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマー、グラフトコポリマーなどの1種であるのがよい。
【0032】
a)ポリマーの例として、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されない。なお、誘導体として、上述の基、即ち−OH基、−NH基、−COOH基、エポキシ基、ビニル基、チオール基、及び光架橋基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有するのがよい。
【0033】
<<ポリロタキサン>>
本発明の流体透過膜のポリロタキサンにおいて、第1及び/又は第2の直鎖状分子が、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース系樹脂(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷん等及び/またはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびその他オレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合樹脂などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等;及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロンなどのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、並びにこれらの誘導体からなる群から選ばれるのがよく、例えばポリエチレングリコール、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、好ましくはポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、及びポリプロピレンからなる群から選ばれるのがよく、特にポリエチレングリコールであるのがよい。
【0034】
また、第1及び/又は第2の直鎖状分子は、その分子量が500以上、好ましくは1000以上、より好ましくは2000以上であるのがよい。
【0035】
本発明の流体透過膜のポリロタキサンにおいて、第1及び/又は第2の封鎖基は、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを挙げることができるがこれらに限定されない。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類からなる群から選ばれるのがよい。なお、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はトリチル基類であるのがよい。
【0036】
本発明の流体透過膜のポリロタキサンにおいて、第1及び/又は第2の環状分子は、置換されていてもよいシクロデキストリン分子であるのがよい。特に、第1及び/又は第2の環状分子は、置換されていてもよいシクロデキストリン分子であり、該シクロデキストリン分子がα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリン、並びにその誘導体からなる群から選ばれるのがよい。
なお、b)第1のポリロタキサン中の環状分子の少なくとも一部は、上述のように、a)ポリマーの少なくとも一部と結合する。この際、第1の環状分子が有する基、例えば−OH基、−NH基、−COOH基、エポキシ基、ビニル基、チオール基、及び光架橋基などが、ポリマーが主鎖及び/又は側鎖に有する基、例えば−OH基、−NH基、−COOH基、エポキシ基、ビニル基、チオール基、及び光架橋基などと、化学反応を介して、結合するのがよい。したがって、第1の環状分子は、例えば−OH基、−NH基、−COOH基、エポキシ基、ビニル基、チオール基、及び光架橋基などを有してもよい。
また、a)ポリマーとして、b)第2のポリロタキサンを用いる場合、第2の環状分子は、例えば−OH基、−NH基、−COOH基、エポキシ基、ビニル基、チオール基、及び光架橋基などを有してもよい。
【0037】
本発明の流体透過膜のポリロタキサンにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が置換されていてもよいα−シクロデキストリンであり、第1及び/又は第2の直鎖状分子がポリエチレングリコールであるのがよい。なお、置換基は、上述した通りである。
【0038】
本発明の流体透過膜のポリロタキサンにおいて、第1及び/又は第2の環状分子が第1及び/又は第2の直鎖状分子により串刺し状に包接される際に第1及び/又は第2の環状分子が最大限に包接される量を1とした場合、第1及び/又は第2の環状分子が0.01〜0.99、好ましくは0.1〜0.9、より好ましくは0.2〜0.8の量で第1及び/又は第2の直鎖状分子に串刺し状に包接されるのがよい。
【0039】
環状分子の包接量が最大値に近い状態であると、直鎖状分子上の環状分子の移動距離が制限される傾向が生じる。移動距離が制限されると、ポリロタキサンの伸縮の度合いが制限される傾向が生じる。
なお、環状分子の最大包接量は、直鎖状分子の長さと環状分子との厚さにより、決定することができる。例えば、直鎖状分子がポリエチレングリコールであり且つ環状分子がα−シクロデキストリン分子の場合、最大包接量は、実験的に求められている(Macromolecules 1993, 26, 5698-5703を参照のこと。なお、この文献の内容はすべて本明細書に組み込まれる)。
【0040】
本願の流体透過膜は、ガス分離、濃縮、純水製造、アルコールと水の分離、人工透析、金属イオンの分離抽出、油エマルジョン分離、酵素・細菌・ウイルス分離、無菌ろ過、たんぱく質の分子量分画、海水脱塩、ジュースなどの濃縮、食塩製造、用水軟化、汚水処理、廃水処理などに用いることができるが、これらに限定されない。
【0041】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
<ポリロタキサンの調製>
直鎖状分子:ポリエチレングリコール(以下、単に「PEG」と略記する場合がある)(分子量:378,000);環状分子:α−シクロデキストリン(以下、単に「α−CD」と略記する場合がある);及び封鎖基:1-アダマンタンアミン;を用いて、ポリロタキサンA−1(α−CDの充填率:21%)を調製した。なお、調製に際して、PEGの両端の−OH基を2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(以下、単に「TEMPO」と略記する場合がある)を用いて−COOH基へと変換した(特開2005−154675号公報を参照のこと)ものを用いた。
【0043】
<架橋ポリロタキサンの調製>
得られたポリロタキサンA−1を、1.5N NaOH水溶液に溶解し、架橋剤:1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルを、5vol%となるように、加え、室温で20時間かけてポリロタキサン同士をα−CDを介して架橋させ、ポリロタキサンゲルPRG−5を得た。
【0044】
<透過膜の調製>
ポリロタキサンゲルPRG−5をジメチルスルホキシド(以下、単に「DMSO」と略記する場合がある)中に平衡膨潤させ、厚さ0.85mm;1cm×1cmの直方体状の透過膜試料PRG−5/DMSOを得た。
【実施例2】
【0045】
実施例1において、架橋剤:1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルを、10vol%とした以外、実施例1と同様の方法により、厚さ0.75mm;1cm×1cmの直方体状の透過膜試料PRG−10/DMSOを得た。
【実施例3】
【0046】
実施例1において、架橋剤:1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルを、15vol%とした以外、実施例1と同様の方法により、厚さ0.70mm;1cm×1cmの直方体状の透過膜試料PRG−15/DMSOを得た。
【実施例4】
【0047】
<ヒドロキシプロピルポリロタキサンの調製>
ポリロタキサンA−1のα−CDのOH基を酸化プロピレンによりヒドロキシプロピル基に置換したヒドロキシプロピルポリロタキサン(H−PR)を得た(WO2005/080469号公報を参照のこと)。
<架橋ポリロタキサンの調製>
実施例1の<架橋ポリロタキサンの調製>において、ポリロタキサンA−1の代わりに、H−PRを用いた以外、実施例1と同様の方法により、ポリロタキサンゲルH−PRG−5を得た。
【0048】
<透過膜の調製>
ポリロタキサンゲルH−PRG−5を純水中に平衡膨潤させ、厚さ4.0mm;1cm×1cmの直方体状の透過膜試料H−PRG−5/waterを得た。
【0049】
(比較例1)
<ポリアクリルアミドゲル試料の調製>
モノマー:アクリルアミド;及び架橋剤:N,N’-メチレンビスアクリルアミド;を、モル比400:1で混合し、モノマー濃度5wt%の水溶液を調製し、該水溶液を20分間、窒素置換した。これに、開始剤:ペルオキソ二硫酸アンモニウムが1.75×10−3mol/lとなるように、該開始剤及び促進剤(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)(24μl)を加えた。これを型に流し込み、5℃で24時間静置し、ポリアクリルアミドゲルPAAmGを得た。
得られたゲルPAAmGを純水中に平衡膨潤させ、厚さ0.9mm;1cm×1cmの直方体状の透過膜試料PAAmG/waterを得た。
【0050】
<流体透過膜の流量・流速測定>
各試料に関して、透過流体の積算流量を、図1の(c)に示す透過流体流量測定装置1を用いて測定した。なお、測定条件は、温度:25℃であり、流体が透過する有効径は、直径5mmの円であった。
試料2は、ラミナール・ディスク4内に配置した。詳細には、図1の(a)に示すように、試料2の外周に、スペーサとしてのシリコンラバー5が配置されるように、且つそれらをシリコンラバー/ポリテトラフルオロエチレンメッシュ複合体シート6a及び6bで挟まれるように、試料2を配置し、ラミナール・ディスク4を調製した。さらに、そのラミナール・ディスク4をアルミニウムプレート8a及び8bで挟み込み、該アルミニウムプレート8a及び8bをボルト10a及びb並びにナット11a及びbで固定し、測定試料部13を調製した。
【0051】
透過流体流量測定装置1は、測定試料部13、ポンプ15、タンク17、メスピペット19を有し、それらを図1の(c)に示すように、配置した。
透過流体の積算流量は、ポンプ15による一定の圧力を印加した際のメスピペット19の変位量により測定した。
【0052】
図2は、透過膜としてH−RPG−5/water(実施例4)、透過流体として水を用いた場合の積算流量の時間変化を示す図である。積算流量は、図2に示すように、時間の増加と共に増加するものの、時間の経過と共にそれが一定化、即ち図2に示す直線の傾きが一定化する。そこで、その傾きから、ある圧力下の定常状態の流量Qを求めた。
また、流速νを次式から求めた。なお、Aは試料の有効表面積であり、Qは定常状態の流量である。
【0053】
ν=Q/A。
【0054】
<流速の圧力依存性>
試料について、流速の圧力依存性を調べた。
図3は、透過膜としてPAAmG/water(比較例1)、透過流体として水を用いた場合の、流速νの圧力依存性を示す図である。なお、図3の縦軸は流速νを示し、横軸はp/d(p:圧力;d:膜厚)を示す。
図3から、PAAmG/water(比較例1)では、流速νが圧力p(正確には、p/d)に正比例し増加することがわかる。また、各プロットをつないだ点線は、原点を通ることがわかる。
【0055】
図4は、透過膜としてH−PRG−5/water(実施例4)、透過流体として水を用いた場合の、流速νの圧力依存性を示す図である。
図4を見ると、「III」で示す、比較的高い圧力下では、流速νが圧力p(正確には、p/d)に正比例し増加し、かつ各プロットをつないだ点線が原点を通ることがわかる。一方、「I」及び「II」で示す、比較的低い圧力下では、実測値(●は、低圧から高圧へと変化させた場合の流量・流速の測定値を示し、○は、●の観測後、高圧から低圧へと変化させた場合の流量・流速の測定値を示す)が点線から大きくはずれていることがわかる。即ち、H−PRG−5/water(実施例4)の透過膜は、流体の透過流速が圧力に対して非線形特性を有することがわかる。また、●と○との測定値から、該非線形特性が可逆性を有することがわかる。より詳細には、「I」領域では、p/dの増加に伴う流速νの増加率は比較的小さく、「II」領域では、p/dが増加するほど流速νは顕著に増加し、点線で示す傾きよりも急勾配であることがわかる。
なお、このような非線形特性を有すること、及びそれが可逆性を有することから、H−PRG−5/water(実施例4)の透過膜は、オン−オフ特性を有し、いわゆる弁としての機能を透過膜自体が担え得ることを示唆する。
【0056】
図5は、透過膜としてPRG−5/DMSO(実施例1)、透過流体としてDMSOを用いた場合の、流速νの圧力依存性を示す図である。
図5を見ると、図4と同様に、「I」、「II」及び「III」の領域を有することがわかる。即ち、PRG−5/DMSO(実施例1)の透過膜は、流体の透過流速が圧力に対して非線形特性を有することがわかる。
【0057】
図6は、透過膜としてPRG−5/DMSO(実施例1)、PRG−10/DMSO(実施例2)、及びPRG−15/DMSO(実施例3)、透過流体としてDMSOを用いた場合の、流速νの圧力依存性を示す図である。
図6から、PRG−10/DMSO(実施例2)及びPRG−15/DMSO(実施例3)の透過膜についても、PRG−5/DMSO(実施例1)の透過膜と同様に、流体の透過流速が圧力に対して非線形特性を有することがわかる。
また、これらの透過膜は、架橋剤の濃度、即ち架橋密度が異なるが、これが相違することにより、それぞれについての原点を通る点線が右にシフトしていることがわかる。これらの現象により、ポリロタキサンの架橋密度を変化することにより、非線形特性の特徴を変化させ得ることがわかる。これは、先の弁としての機能を所望により変化させ得ることを示唆する。
【0058】
<流体透過膜と流体との摩擦係数、及びその圧力依存性>
流体透過膜と流体との摩擦係数fを、次式により求めた(式中、p、d、A及びQは上記と同様である)。
f=(A/Q)・(p/d)。
この摩擦係数について、その圧力依存性を観測した。その結果を図7に示す。
図7は、縦軸が摩擦係数fを示し、横軸は(p/d)を示す。図7において、●及び○はH−PRG−5/water(実施例1)の結果を示し(●は低圧領域から高圧領域へと観測した値、○は高圧領域から低圧領域へと観測した値)、■はPAAmG/water(比較例1)を示す。
【0059】
図7を見ると、■(PAAmG/water(比較例1))の透過膜は、p/dの増加にかかわらず、摩擦係数fは、ほぼ一定であった。一方、H−PRG−5/water(実施例1)の透過膜は、摩擦係数fがp/dの値により変化した。より詳細には、p/dが比較的低い領域、「I」領域では、p/dが増加すればするほどfは少しずつ減少し、「II」領域では、p/dが増加すればするほどfは顕著に減少していることがわかる。さらに、p/dが比較的高い領域、「III」領域では、p/dにほとんど依存せず、ほぼ一定であった。
これらのことから、H−PRG−5/water(実施例1)の透過膜は、流体透過膜と流体との摩擦係数が圧力により変化すること、かつその変化が可逆性を有することがわかる。
【0060】
図8は、透過膜としてPRG−5/DMSO(実施例1)、透過流体としてDMSOを用いた場合の、摩擦係数fの圧力(p/d)依存性を示す図である。
図8を見ると、図7と同様に、「I」、「II」及び「III」の領域を有することがわかる。即ち、PRG−5/DMSO(実施例1)の透過膜は、流体透過膜と流体との摩擦係数が圧力により変化することがわかる。
【0061】
図9は、透過膜としてPRG−5/DMSO(実施例1)、PRG−10/DMSO(実施例2)、及びPRG−15/DMSO(実施例3)、透過流体としてDMSOを用いた場合の、摩擦係数fの圧力(p/d)依存性を示す図である。
図9から、PRG−10/DMSO(実施例2)及びPRG−15/DMSO(実施例3)の透過膜についても、PRG−5/DMSO(実施例1)の透過膜と同様に、流体の摩擦係数fが圧力(p/d)により変化することがわかる。
また、これらの透過膜は、架橋剤の濃度、即ち架橋密度が異なるが、これが相違することにより、摩擦係数fの挙動が変化していることがわかる。これらの現象により、ポリロタキサンの架橋密度を変化することにより、摩擦係数fの特徴を変化させ得ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリマー;及びb)第1の環状分子の開口部が第1の直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる第1の擬ポリロタキサンの両端に前記第1の環状分子が脱離しないように第1の封鎖基を配置してなる第1のポリロタキサン;を有し、前記a)ポリマーと前記b)第1のポリロタキサンとが架橋してなる架橋体を有する流体透過膜であって、
流体の透過流速が圧力に対して非線形特性を有する、上記流体透過膜。
【請求項2】
前記非線形特性が可逆性を有する請求項1記載の流体透過膜。
【請求項3】
a)ポリマー;及びb)第1の環状分子の開口部が第1の直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる第1の擬ポリロタキサンの両端に前記第1の環状分子が脱離しないように第1の封鎖基を配置してなる第1のポリロタキサン;を有し、前記a)ポリマーと前記b)第1のポリロタキサンとが架橋してなる架橋体を有する流体透過膜であって、
該流体透過膜と流体との摩擦係数が圧力により変化する、上記流体透過膜。
【請求項4】
前記圧力変化が可逆性を有する請求項3記載の流体透過膜。
【請求項5】
前記a)ポリマーが、前記b)第1のポリロタキサンと同じであっても異なってもよいb)第2のポリロタキサンであり、
該第2のポリロタキサンが、第2の環状分子の開口部が第2の直鎖状分子によって串刺し状に包接されてなる第2の擬ポリロタキサンの両端に前記第2の環状分子が脱離しないように第2の封鎖基を配置してなる請求項1〜4のいずれか1項記載の流体透過膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−86147(P2012−86147A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234741(P2010−234741)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】