説明

流入量予測装置及びプログラム並びにパラメータ変更方法

【課題】予測対象領域の土地利用状態が変化した場合に、この土地利用状態の変化を自動的に検知し、流入量の予測に用いられるパラメータを変更し、予測精度を確保する。
【解決手段】本発明の一態様において、流入量予測装置1は、予測対象領域の衛星画像データ11a〜11dを受け付ける手段2と、衛星画像データ11a〜11dに基づいて、土地の利用状態の種別を表す土地利用カテゴリに応じて予測対象領域を区分けした土地利用データ12を作成する分類手段3と、土地利用データ12に基づいて、土地利用カテゴリごとの面積を求める面積算出手段4と、面積に基づいて、予測対象領域における下水道への流入量の予測に用いられるパラメータを変更するパラメータ変更手段6とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばポンプ場などの下水道設備への下水の流入量を予測する流入量予測装置及びプログラム並びにパラメータ変更方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な流入量予測装置では、降雨量などの観測データと予め設定されているパラメータとに基づいて、下水道への流入量が自動的に予測される。
【0003】
パラメータを変更する必要が生じた場合、流入量予測装置は一旦停止され、オペレータの人為的作業により新規のパラメータが設定される。パラメータが変更されることにより、予測精度の確保が図られる。
【0004】
流入量予測装置に関連する技術として、下水道について測量・設計・施工段階のシステムと、GISシステムや図面管理システムとを連動させ、さらに敷設された下水道の管理についても一元化するための下水道敷設設計支援システムがある(特許文献1参照)。
【0005】
また、他の技術として、ランドサット衛星より得られた地上の画像データと、地形及び気象データとから観測対象地域の積雪量を推定する積雪量推定装置がある(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−325310号公報(段落[0010])
【特許文献2】特開昭58−60370号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来の流入量予測装置の予測精度は、予測対象の領域に降った雨のうち、下水道に流入する雨の割合(有効降雨)を精度よく把握できるか否かにより大きな影響を受ける。
【0007】
予測対象領域の土地利用状態は、経年により変化する。土地利用状態の変化に伴って、有効降雨も変化する。このため、従来の流入量予測装置においては、有効降雨の変化が原因で予測精度が低下する場合がある。
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1では、土地利用状態の変化による予測精度の低下に関しては何ら検討されていないといえる。
【0009】
また、上記の特許文献2では、積雪量は推定されるが、下水道設備への下水の流入量については予測されておらず、土地利用状態の変化についても何ら検討されていない。
【0010】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたもので、予測対象領域の土地利用状態が変化した場合に、この土地利用状態の変化を自動的に検知し、流入量の予測に用いられるパラメータを変更し、予測精度を確保する流入量予測装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、予測対象領域の衛星画像データを受け付ける手段と、衛星画像データに基づいて、土地の利用状態の種別を表す土地利用カテゴリに応じて予測対象領域を区分けした土地利用データを作成する分類手段と、土地利用データに基づいて、土地利用カテゴリごとの面積を求める面積算出手段と、面積に基づいて、予測対象領域における下水道への流入量の予測に用いられるパラメータを変更するパラメータ変更手段とを具備する流入量予測装置が提供される。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、コンピュータを、予測対象領域の衛星画像データを受け付ける手段、衛星画像データと分類アルゴリズムとに基づいて、土地の利用状態の種別を表す土地利用カテゴリに応じて予測対象領域を区分けした土地利用データを作成する手段、土地利用データに基づいて、土地利用カテゴリごとの面積を求める手段、面積に基づいて、予測対象領域における下水道への流入量を予測する流入量予測装置に用いられるパラメータを変更する手段として機能させるためのプログラムが提供される。
【0013】
本発明の第3の態様によれば、予測対象領域における下水道への流入量を予測する流入量予測装置に用いられるパラメータを変更するパラメータ変更方法において、予測対象領域の衛星画像データを受け付け、衛星画像データと分類アルゴリズムとに基づいて、土地の利用状態の種別を表す土地利用カテゴリに応じて予測対象領域を区分けした土地利用データを作成し、土地利用データに基づいて、土地利用カテゴリごとの面積を求め、面積に基づいて、下水道流入量予測装置に用いられるパラメータを変更するパラメータ変更方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、予測対象領域の土地利用状態が変化した場合に、この土地利用状態の変化を自動的に検知し、流入量の予測に用いられるパラメータを変更し、経年による土地利用状態の変化により予測精度が低下することを防止でき、流入量の予測精度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら実施の形態について説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
本実施の形態では、衛星画像データに基づいて予測対象領域の土地利用の種別を検出し、土地利用の種別を表す土地利用カテゴリごとの面積を求め、この面積に基づいて流入量の予測に用いられるパラメータを変更する流入量予測装置について説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係る流入量予測装置の一例を示すブロック図である。
【0018】
流入量予測装置1は、画像受付部2、分類部3、面積算出部4、比較部5、パラメータ変更部6、予測部7、出力部8、記憶部9を具備する。この流入量予測装置1における各種機能は、例えばコンピュータがプログラムを読み込み、実行することで実現されるとしてもよい。
【0019】
画像受付部2は、人工衛星10によって撮影された予測対象領域の衛星画像データ11a〜11dを受け付け、衛星画像データ11a〜11dを記憶部9に記憶する。衛星画像データ11a〜11dは、例えば、マルチスペクトルで構成される。本実施の形態において、衛星画像データ11a〜11cは、可視光域のマルチスペクトルデータであり、衛星画像データ11eは、近赤外域のマルチスペクトルデータであるとするが、他の種類の画像データであってもよい。
【0020】
可視光域のマルチスペクトルデータは、土地利用と地表面環境などの調査に利用されるバンド帯のデータである。
【0021】
なお、本実施の形態においては、可視光域のマルチスペクトルデータとして、可視光域における複数の波長について撮影されたマルチスペクトルデータを用いるとしているが、この数は任意に変更可能である。
【0022】
近赤外域のマルチスペクトルデータは、海、河川、湖、池などの水の領域と陸地との識別に使用されるバンド帯のデータである。
【0023】
分類部3は、記憶部9から衛星画像データ11a〜11dを読み出し、分類アルゴリズムに基づいて予測対象領域を各種の土地利用カテゴリC1〜Cnに応じて区分けした結果を表す土地利用データ12を記憶部9に記憶する。土地利用カテゴリC1〜Cnには、例えば、森林、空き地、田畑、住宅地、都市、山地、海、河川、湖、池などがあるとする。
【0024】
図2は、土地利用データ12の一例を示す図である。
【0025】
この土地利用データ12は、衛星画像データ11a〜11dの各画素(画像データを構成する最小単位)が、土地利用カテゴリC1〜Cnのいずれに該当するか判断することにより作成される。
【0026】
例えば、分類アルゴリズムとしては、教師付き分類アルゴリズムを適用できる。本実施の形態において、上記の各種の土地利用カテゴリC1〜Cnは予め定義されている。例えば、記憶部9は、土地利用カテゴリC1〜Cnの特徴を表す特徴データ13を記憶する。分類アルゴリズムは、特徴データ13に基づいて、各画素の特徴がどの各土地利用カテゴリC1〜Cnの特徴に最も整合するか判断し、各画素を最も整合すると判断された土地利用カテゴリに分類する。
【0027】
面積算出部4は、記憶部9に記憶されている土地利用データ12に基づいて、各土地利用カテゴリC1〜Cnの面積を示す新規の面積データ14を作成し、記憶部9に記憶する。
【0028】
比較部5は、記憶部9に記憶されている直前のパラメータ変更時における各土地利用カテゴリC1〜Cnの面積を示す直前変更面積データ15と新たに面積算出部4によって作成された新規の面積データ14とを比較する。
【0029】
そして、比較部5は、直前のパラメータ変更時における各土地利用カテゴリC1〜Cnの面積と現在の予測対象領域の各土地利用カテゴリC1〜Cnの面積との差が所定の範囲(面積差許容範囲)を超えるか否か判断する。
【0030】
パラメータ変更部6は、上記差が所定の範囲を超える場合、記憶部9から新規の面積データ14を読み出し、この新規の面積データ14の内容により直前変更面積データ15を更新するとともに、新規の面積データ14又は上記差に基づいて、予測部7における予測に用いられる新規のパラメータ(予測係数)を求め、このパラメータを予測部7に設定する。
【0031】
予測部7は、パラメータ変更部6によって設定されたパラメータと、例えば予測対象領域の降雨量などのような観測データとに基づいて、下水道への流入量を算出し、出力部8を用いて出力する。
【0032】
以下に、パラメータと流入量との第1の関係について説明する。
【0033】
例えば、図3に示すように、土地利用カテゴリC1〜Cnごとの下水道への流出係数が設定されているとする。土地利用カテゴリC1〜Cnごとの流出係数は、例えば過去の経験・実績や、シミュレーションに基づいて定義される。
【0034】
この場合、パラメータとして各土地利用カテゴリC1〜Cnの面積がパラメータ変更部6から予測部7に提供されると、予測部7は、以下の(1)式により、下水道への流入量を算出可能である。
【数1】

【0035】
以下に、パラメータと流入量との第2の関係について説明する。
【0036】
降雨のうち予測対象領域の下水道管に実際に流入する降雨分を有効降雨という。有効降雨を算出するためには、適切なパラメータを与えて降雨量と有効降雨量との関係を導く必要がある。
【0037】
降雨量と有効降雨量とパラメータとの関係には、以下の(2)、(3)式により定義される。
【0038】
R1(t)=R(t)−R2(t) …(2)
k(t)=R1(t)/R(t) …(3)
この(2)式、(3)式において、R(t)は降雨量、R1(t)は有効降雨量、R2(t)は損失降雨量、k(t)はパラメータである。
【0039】
なお、k(t)は、土地利用カテゴリC1〜Cnごとに、固有の非線型関数として定義される。
【0040】
図4は、本実施の形態に係る流入量予測装置1によるパラメータ変更処理の一例を示すフローチャートである。
【0041】
ステップS1において、画像受付部2は、人工衛星10によって撮影された予測対象領域の衛星画像データ11a〜11dを受け付ける。
【0042】
ステップS2において、分類部3は、衛星画像データ11a〜11dと特徴データ13とに基づいて、予測対象領域を各種の土地利用カテゴリC1〜Cnに分類した結果を示す土地利用データ12を作成する。
【0043】
ステップS3において、面積算出部4は、土地利用データ12に基づいて、各土地利用カテゴリC1〜Cnの面積を示す面積データ14を作成する。
【0044】
ステップS4において、比較部5は、面積データ14と直前変更面積データ15とに基づいて、直前のパラメータ変更時における各土地利用カテゴリC1〜Cnの面積(直前変更時の面積)と、新たに面積算出部4によって求められた各土地利用カテゴリC1〜Cnの面積(新規の面積)との差が、所定の範囲を超えるか判断する。
【0045】
差が所定の範囲を超える場合は、ステップS5において、パラメータ変更部6は、新規のパラメータを予測部7に対して設定する。
【0046】
差が所定の範囲を超えない場合は、処理は、ステップS6に移る。
【0047】
ステップS6において、流入量予測装置1は、処理を継続する場合には、ステップS1を実行し、他の場合に処理を終了する。
【0048】
以上説明した本実施の形態では、衛星画像データ11a〜11dに基づいて土地利用データ12が作成され、土地利用データ12の内容に所定の変化が現れた場合に、予測部7のパラメータが自動変更される。
【0049】
これにより、予測対象領域の土地利用状態が変更した場合であっても、下水道管への水の流入量の予測悪化を防止することができ、下水道への流入量を正確にかつ容易に予測することができ、メンテナンスの労力を軽減できる。また、システムを停止してパラメータを変更する必要もない。
【0050】
本実施の形態に係る流入量予測装置を用いることで、ポンプ場に流れ込む水量も予測可能であるため、下水道分野におけるポンプ場の運転を支援することができる。
【0051】
(第2の実施の形態)
本実施の形態では、オンラインシステムにより上記第1の実施の形態に係る流入量予測装置を実現する場合について説明する。
【0052】
図5は、本実施の形態に係るオンラインシステムの一例を示すブロック図である。
【0053】
本実施の形態において、雨量計16、分類処理装置17、予測装置18は、ネットワーク19経由でデータ送受信可能に接続されている。
【0054】
伝送装置20は、上記画像受付部2として機能し、分類処理装置17は、上記分類部3、面積算出部4、比較部5、パラメータ変更部6として機能し、記憶装置21は、上記記憶部9として機能し、予測装置18は、予測部7として機能し、表示装置22は出力部8として機能する。
【0055】
雨量計16は、予測対象領域の降雨量を示す降雨量データをネットワーク19経由で予測装置18に提供する。
【0056】
伝送装置20は、衛星画像データ11a〜11dを受け付け、分類処理装置17に提供する。
【0057】
分類処理装置17は、衛星画像データ11a〜11dと記憶装置21に記憶されている内容とに基づいて、パラメータを求め、パラメータをネットワーク19経由で予測装置18に提供する。
【0058】
予測装置18は、受け付けた降雨量データとパラメータとに基づいて、流入量を予測し、表示装置22に表示させる。
【0059】
これにより、流入量予測装置がオンラインシステムに組み込まれている場合であっても、上記第1と同様の作用により同様の効果を得ることができる。
【0060】
なお、上記各実施の形態において、各構成要素は同様の動作を実現可能であれば配置を変更させてもよく、また各構成要素を自由に組み合わせてもよく、各構成要素を自由に分割してもよく、いくつかの構成要素を削除してもよい。すなわち、上記各実施の形態については、上記の構成そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0061】
例えば、流入量予測装置1における記憶部9と出力部8のうち少なくとも一方は、流入量予測装置1の外付けの装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る流入量予測装置の一例を示すブロック図。
【図2】土地利用データの一例を示す回路図。
【図3】土地利用カテゴリごとの下水道への流出係数の一例を示す図。
【図4】同実施の形態に係る流入量予測装置によるパラメータ変更処理の一例を示すフローチャート。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るオンラインシステムの一例を示すブロック図。
【符号の説明】
【0063】
1…流入量予測装置、2…画像受付部、3…分類部、4…面積算出部、5…比較部、6…パラメータ変更部、7…予測部、8…出力部、9…記憶部、10…人工衛星、11a〜11d…衛星画像データ、12…土地利用データ、13…特徴データ、14…面積データ、15…直前変更面積データ、16…雨量計、17…分散処理装置、18…予測装置、19…ネットワーク、20…伝送装置、21…記憶装置、22…表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測対象領域の衛星画像データを受け付ける手段と、
前記衛星画像データに基づいて、土地の利用状態の種別を表す土地利用カテゴリに応じて前記予測対象領域を区分けした土地利用データを作成する分類手段と、
前記土地利用データに基づいて、前記土地利用カテゴリごとの面積を求める面積算出手段と、
前記面積に基づいて、前記予測対象領域における下水道への流入量の予測に用いられるパラメータを変更するパラメータ変更手段と
を具備する流入量予測装置。
【請求項2】
請求項1記載の流入量予測装置において、
前記衛星画像データは、可視光域のマルチスペクトルデータと赤外域のマルチスペクトルデータとを含む
ことを特徴とする流入量予測装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の流入量予測装置において、
直前のパラメータ変更時における土地利用カテゴリの面積と、前記面積算出手段によって新たに求められた前記土地利用カテゴリの面積との差が所定の範囲を超えるか判断する比較手段をさらに具備し、
前記パラメータ変更手段は、前記比較手段によって前記差が前記所定の範囲を超えると判断された場合に、前記パラメータを変更する
ことを特徴とする流入量予測装置。
【請求項4】
コンピュータを、
予測対象領域の衛星画像データを受け付ける手段、
前記衛星画像データと分類アルゴリズムとに基づいて、土地の利用状態の種別を表す土地利用カテゴリに応じて前記予測対象領域を区分けした土地利用データを作成する手段、
前記土地利用データに基づいて、前記土地利用カテゴリごとの面積を求める手段、
前記面積に基づいて、前記予測対象領域における下水道への流入量を予測する流入量予測装置に用いられるパラメータを変更する手段
として機能させるためのプログラム。
【請求項5】
予測対象領域における下水道への流入量を予測する流入量予測装置に用いられるパラメータを変更するパラメータ変更方法において、
前記予測対象領域の衛星画像データを受け付け、
前記衛星画像データと分類アルゴリズムとに基づいて、土地の利用状態の種別を表す土地利用カテゴリに応じて前記予測対象領域を区分けした土地利用データを作成し、
前記土地利用データに基づいて、前記土地利用カテゴリごとの面積を求め、
前記面積に基づいて、前記下水道流入量予測装置に用いられる前記パラメータを変更する
ことを特徴とするパラメータ変更方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−65680(P2006−65680A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249031(P2004−249031)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】