説明

流動層式抗菌装置

【課題】細菌又は微生物の死骸等が抗菌性ガラスの粒体外面に付着するのを防止し、銀イオン又は銅イオンを抗菌性ガラスから持続的且つ効果的に溶出せしめ、水槽内の菌類発生、藻類発生等を効果的に防止する。
【解決手段】抗菌装置(10)は、ケーシング(11)内に収容された多数の抗菌性ガラスの粒体(T)を支持する有孔底板(42)と、有孔底板の下側に形成された流入チャンバ(16)と、ケーシングの上部に設けられたオーバーフロー部(30)とを有する。有孔底板は、ケーシング内領域と流入チャンバとを相互連通する噴流口(43)を備える。水槽の水が圧力下に流入チャンバに導入され、水の上向き噴流(F)がケーシング内領域に形成される。粒体は、ケーシング内に発生する水の渦流又は乱流により流動化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動層式抗菌装置に関するものであり、より詳細には、抗菌性ガラスの溶解によって水に溶出した銀イオン又は銅イオンによって菌類又は藻類の発生等を防止する流動層式抗菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化還元機能を有する球状セラミックを網状の袋内に収容し、これを冷却塔の水槽内に浸漬してスケールの発生、藻の発生等を防止するように構成されたセラミック活水器が、特開平11−319846号公報に記載されている。
【0003】
また、水に接触して銀イオン又は銅イオンを溶出する抗菌性ガラスをタブレット状又はペレット状に成形してなる抗菌性ガラスの粒体が、PCT国際公開公報WO2005/087675号等に記載されている。タブレット状又はペレット状(以下、粒状という)の抗菌性ガラスは、多数の小径通水孔が穿設された通水性ケーシング又はハウジング等の中に収容される。粒状の抗菌性ガラスを収容したケーシング等は、特開平11−319846号公報の活水器と同様、水槽内に浸漬することができる。抗菌性ガラスは水に接触して溶解し、銀イオン又は銅イオンを長期間に亘って徐々に溶出する。水中に放出された銀イオン又は銅イオンは抗菌作用を発揮し、これにより、細菌又は微生物等の活動を不活性化し又は抑制して、菌類又は藻類の発生等を防止する。
【0004】
近年の半導体生産施設や、医療施設、或いは、動植物の生産又は研究施設等においては、空調設備の冷却水や、給排水衛生設備の給排水系の水に比較的多量の有機物が含有されることがあり、このため、この種の設備を構成する冷却塔、空調機、除湿器、加湿器等の水槽内には、多量の菌類又は藻類が発生する傾向がある。このような菌類又は藻類等は、一般には、藻類由来の有機物等を主成分とするスライム(slime)として観察される事例が多い。
【0005】
冷却塔、空調機等の水槽における菌類又は藻類の発生は、粒状の抗菌性ガラスを充填した上述の通水性ケーシングを水槽の水に浸漬し、抗菌性ガラスの溶解によって銀イオン又は銅イオンを水に溶出させることによって防止することが可能である。
【0006】
本発明者は、このような抗菌装置において、銀イオンを溶出可能な多数の粒状抗菌性ガラスを筒状の有孔ケーシング内に充填したユニット型の抗菌装置を開発し、これを空調機の水槽等の水に浸漬することにより、菌類・藻類の発生を有効に防止し得ることを確認した。
【0007】
図12は、このような従来の抗菌装置の構造を例示する縦断面図及び横断面図である。図12に示す如く、抗菌装置101は、空調設備又は給排水衛生設備を構成する水槽110の水中に完全に浸漬される。抗菌装置101は、多数の粒状抗菌性ガラスの粒体Tを充填した筒状ケーシング102からなる。ケーシング102の両端部は、円形板105等によって閉塞され、ケーシングの環状壁には、多数の小径通水孔106が穿設されている。ケーシング102内の粒状抗菌性ガラスは長期間に亘って水に溶解し、銀イオン又は銅イオンを水に溶出する。銀イオン又は銅イオンは、主に水の自然対流により、ケーシング102に穿設された多数の小径通水孔106から水槽内の水に拡散し、水槽内の菌類発生、藻類発生等を防止する。
【0008】
本発明者等は、このような構造の抗菌装置において、細菌又は微生物の死骸等がケーシング102の外面に堆積し又は付着し、通水孔を部分的又は完全に閉塞する現象を知見したことから、細菌又は微生物の死骸等がケーシングの通水孔を閉塞するのを防止することができる抗菌装置を開発し、特願2008−259380号(特開2010−88980号公報)において提案している。この抗菌装置は、多数の通水孔を穿設した外筒及び内筒からなる二重管構造のケーシングを有する。抗菌性ガラスの粒体が、内筒及び外筒の間に形成された環状領域に充填される。内筒に導入された水は、通水孔及び環状領域を介して外筒の外側に流出し、抗菌性ガラスから溶出した銀イオン又は銅イオンは、水の流れによって抗菌装置外の水に流出する。抗菌装置外に流出した銀イオン又は銅イオンは水槽内の水に拡散し、水槽内の菌類発生、藻類発生等を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−319846号公報
【特許文献2】PCT国際公開公報WO2005/087675号
【特許文献3】特開2010−88980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、細菌又は微生物の死骸等が多量に発生する場合、環状領域に充填された抗菌性ガラスの粒体の外面に死骸等が付着し、これが環状領域の通水性を妨げる現象、即ち、環状領域に充填された粒体層の目詰り現象が発生することが本発明者等によって確認された。
【0011】
また、このように粒体外面に死骸等が付着すると、抗菌性ガラスから溶出する銀イオン又は銅イオンの量が徐々に減少するため、水槽内の水に拡散する銀イオン又は銅イオンの量が低減し、この結果、水槽内の菌類発生、藻類発生等を効果的に防止し難い状況が生じることが判明した。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、細菌又は微生物の死骸等が抗菌性ガラスの粒体外面に付着するのを防止し、銀イオン又は銅イオンを抗菌性ガラスから持続的且つ効果的に溶出せしめ、これにより、水槽内の菌類発生、藻類発生等を効果的に防止することができる抗菌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成すべく、本発明は、水と接触して銀イオン又は銅イオンを溶出可能な抗菌性ガラスの粒体をケーシング内に収容し、前記抗菌性ガラスの溶解によって溶出した銀イオン又は銅イオンを含む前記ケーシング内の水を水槽内に供給し、該水槽内における菌類又は藻類の発生を防止する抗菌装置において、
前記ケーシング内に収容された多数の前記粒体を支持し且つ貫通孔からなる噴流口を備えた有孔底板と、
該有孔底板の下側に形成され且つ前記水槽の水が圧力下に導入される流入チャンバと、
前記ケーシングの上部に設けられ、前記ケーシング内の水のオーバーフロー水を前記水槽に還流するオーバーフロー部とを有し、
前記噴流口は、ケーシング内領域と前記流入チャンバとを相互連通し、前記流入チャンバ内の水の上向き噴流をケーシング内領域に形成し、前記ケーシング内に水の渦流又は乱流を発生させて前記粒体を流動化することを特徴とする流動層式抗菌装置を提供する。
【0014】
本発明の上記構成によれば、抗菌性ガラスの粒体(タブレット又はペレット)は、噴流口が形成する上向き噴流によって流動してケーシング内の水流と混合接触し、この結果、粒体と水との接触面積が実質的に増大するので、抗菌性ガラスは、ケーシング内の水に銀イオン又は銅イオンを効率的に溶出する。噴流によって流動し続ける粒体には、目詰り現象は発生しない。また、細菌又は微生物の死骸等を含む水槽の水がケーシング内に流入するが、細菌又は微生物の死骸等は、粒体の流動のために粒体に付着せず、従って、粒体から溶出する銀イオン又は銅イオンの量は、長期間に亘って安定する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の抗菌装置によれば、細菌又は微生物の死骸等が抗菌性ガラスの粒体外面に付着するのを防止し、銀イオン又は銅イオンを抗菌性ガラスから持続的且つ効果的に溶出せしめ、これにより、水槽内の菌類発生、藻類発生等を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施例に係る抗菌装置を備えた空調機の概略ブロック図である。
【図2】図2は、本発明の実施例に係る抗菌装置を備えた冷却塔の概略ブロック図である。
【図3】図3は、本発明の実施例に係る抗菌装置を備えた廃熱回収システムの概略ブロック図である。
【図4】図4は、本発明の実施例に係る抗菌装置を備えた他の廃熱回収システムの概略ブロック図である。
【図5】図5は、図1〜図4に示す抗菌装置の構造を示す正面図である。
【図6】図6(A)及び図6(B)は、図5に示す抗菌装置の平面図及び底面図である。
【図7】図7は、図5に示す抗菌装置の縦断面図である。
【図8】図8(A)及び図8(B)は、図7のI−I線及びII−II線における抗菌装置の断面図である。
【図9】図9(A)及び図9(B)は、図7のIII−III線及びIV−IV線における抗菌装置の断面図である。
【図10】図10は、抗菌装置の作動形態を示す抗菌装置の縦断面図である。
【図11】図11は、高速噴流の噴射形態を概念的に示す断面図である。
【図12】従来の抗菌装置の構造を例示する縦断面図及び横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好適な実施形態によれば、上記オーバーフロー部は、上記ケーシング内の粒体がオーバーフロー水とともに流出するのを阻止するための網又は有孔板と、該網又は有孔板の上方に形成された流出チャンバとを有する。本発明の或る実施形態においては、抗菌性ガラスの各粒体の初期平均寸法又は初期直径は約5mm程度であり、抗菌性ガラスの外形寸法(直径)は、約3年程度で4mm程度に減少する。抗菌性ガラスは、一般に約1〜2年程度の期間で交換されるので、網又は有孔板の最大開口寸法は、4mm以下の寸法、例えば、約3mmに設定される。
【0018】
本発明の他の好適な実施形態によれば、上記噴流口は、1.0m/秒以上、好ましくは、1.2m/秒以上、更に好ましくは、1.4m/秒以上の流速の上向き噴流を上記ケーシング内に形成する。噴流の最大速度(上限速度)は、特に限定されるものではないが、最大流速は、水槽水が必要とする銀イオン又は銅イオンの量や、循環装置の電力消費量等との関係で自ずと定まるものと考えられる。
【0019】
好ましくは、各噴流口は、2〜3mmの直径を有する円形開口からなり、有孔底板は、水平な円形プレートからなる。好ましくは、噴流口は、円形プレートの半径×0.2の範囲内の中央領域には配置されず、また、噴流口同士の中心間隔は、噴流口の直径の2〜4倍の距離に設定される。中央領域を除く円形プレートの領域に噴流口を配置するとともに、噴流口同士の間隔を適当に離間させることにより、ケーシング内に水の渦流を効果的に形成することができる。渦流は、粒体と水流との混合接触作用を促進するとともに、細菌又は微生物の死骸等が粒体に付着するのを効果的に防止することができる。本発明の好適な実施形態においては、噴流口は、円形プレートに放射状に配列され、噴流口の各列は、30〜60度の角度間隔を隔てて離間する。
【0020】
本発明の好適な実施形態によれば、抗菌装置は、水槽の水を吸引して上記流入チャンバに給送する配管系を有する。本発明の他の好適な実施形態によれば、抗菌装置は、水槽の水を循環する空調機、冷却塔又は廃熱回収システムの水槽水循環配管系から分岐した循環水給送管を有し、循環配管系の水が循環水給送管を介して上記流入チャンバに供給される。好ましくは、流入チャンバに供給された水を浄化する濾過器が抗菌装置の配管系、或いは、上記循環水給送管に介装される。更に好ましくは、抗菌装置は、上記オーバフロー部に接続したオーバーフロー管を有し、オーバーフロー管は、銀イオン又は銅イオンを含む水を重力下に水槽に送出する。
【実施例1】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0022】
図1〜図4は、本発明の実施例に係る抗菌装置を備えた空調機、冷却塔及び廃熱回収システムの概略ブロック図である。図1〜図4には、水槽内に抗菌装置を設置した空調機、冷却塔及び廃熱回収システムの構成が概略的に示されている。
【0023】
図1(A)に示す空調機5は、外気又は室内空気等の取入れ空気を浄化するフィルタ51と、空気を予熱、冷却又は再熱する伝熱コイル52と、凝縮水等の水滴を除去するエリミネータ53と、空気に水を噴霧するエアワッシャ54と、温湿度を調整した空気を給気系ダクトに圧送する給気ファン58とを備える。エアワッシャ54の下方には、噴霧用の水を貯留する水槽50が配設される。水槽50には、槽内に貯留した水をエアワッシャ54のノズル部に圧送する噴霧水循環配管系55が接続される。配管系55には、循環ポンプ56及び熱交換器57が介装され、配管系55の先端部は、エアワッシャ54の基端部54aに接続される。
【0024】
空調機5は、例えば、半導体工場又は電子部品工場等に空調設備機器として設置され、空調用空気の絶対湿度を調節するとともに、室内から還流したリターン空気(再循環空気)に含まれる有機溶剤等の化学成分を除去する。水槽50内の水は比較的多量の有機分等を含み、菌類、藻類等が発生し易い環境にあるので、循環ポンプ2、濾過器3及び抗菌装置10を介装した水槽水循環用の配管系1が空調機5に配設される。抗菌装置10内には、粒状の抗菌性ガラス(図示せず)が収容される。
【0025】
配管系1は、循環ポンプ2の吸引口に接続した吸引管1aと、循環ポンプ2の吐出口に接続した吐出管1bと、抗菌装置10の上部に接続されたオーバーフロー管1cとを有する。吸引管1aの取水口1dが、水槽50内の水面下に配置される。吐出管1bは、濾過器3を介して抗菌装置10の下部に接続される。オーバーフロー管1cは、抗菌装置10の上部から水槽50の上方域に延び、オーバーフロー管1cの開口端1eが、水槽50の水面上方に開口する。
【0026】
水槽50内の水は、循環ポンプ2の吸引圧力下に取水口1dから取水され、吸引管1aによって循環ポンプ2に吸引される。循環ポンプ2内に吸引された水は、循環ポンプ2の吐出圧力下に吐出管1bに送出され、濾過器3を介して抗菌装置10に給送される。抗菌装置1内の抗菌性ガラス(図示せず)は、抗菌装置10に供給された水に銀イオン又は銅イオンを溶出する。銀イオン又は銅イオンを含む水は、オーバーフロー管1cを介して水槽50内に還流する。
【0027】
図1(B)には、図1(A)に示す空調機5の変形例が示されている。図1(B)に示す空調機5’は、循環水給送管1fを介してエアワッシャ54の基端部54a又は配管系55に接続された抗菌装置10を備える。循環水給送管1fの端部は、抗菌装置10の下部に接続される。循環ポンプ56の吐出圧力下にエアワッシャ54のノズル部に圧送される水の一部が、循環水給送管1fを介して抗菌装置10に給送される。抗菌装置1内の抗菌性ガラス(図示せず)は、抗菌装置10に供給された水に銀イオン又は銅イオンを溶出し、銀イオン又は銅イオンを含む水は、オーバーフロー管1cを介して水槽50内に還流する。図1(B)に示す空調機5’の他の構成は、図1(A)に示す空調機5の構成と同一であるので、説明を省略する。
【0028】
図2(A)に示す冷却塔6は、外気取入口61及び充填材62を介して外気を冷却塔6内に誘引する空気循環ファン63を有する。冷却水循環ポンプ65及び冷凍機66を含む冷却水循環配管系64が冷却塔6の水槽60に接続される。水槽60内の水は、循環ポンプ65の吸引圧力下に水槽60から配管系64に吸引され、冷凍機66における熱交換によって温度上昇した後、冷却塔6に再循環する。再循環水は、冷却塔6内に通風された外気との接触により気化・冷却され、水槽60内に貯留される。
【0029】
大気開放した水槽60内の水も又、菌類、藻類等が発生し易い環境にあることから、菌類、藻類等の発生を防止すべく、抗菌装置10を介装した水槽水循環用の配管系1が、冷却塔6に配設される。水槽60内の水は、循環ポンプ2の吸引圧力下に取水口1dから取水され、吸引管1aによって循環ポンプ2に吸引され、循環ポンプ2の吐出圧力下に吐出管1bに送出され、濾過器3を介して抗菌装置10に給送される。抗菌装置1内の抗菌性ガラス(図示せず)は、抗菌装置10に供給された水に銀イオン又は銅イオンを溶出する。銀イオン又は銅イオンを含む水は、オーバーフロー管1cを介して水槽60内に還流する。
【0030】
図2(B)には、図2(A)に示す冷却塔6の変形例が示されている。図2(B)に示す冷却塔6’は、循環水給送管1fを介して冷却水循環配管系64に接続された抗菌装置10を備える。循環水給送管1fの端部は、抗菌装置10の下部に接続される。冷却水循環ポンプ65の吐出圧力下に冷却水循環配管系64に給送される水槽60の水の一部が、循環水給送管1fを介して抗菌装置10に給送される。抗菌装置1内の抗菌性ガラス(図示せず)は、抗菌装置10に供給された水に銀イオン又は銅イオンを溶出し、銀イオン又は銅イオンを含む水は、オーバーフロー管1cを介して水槽60内に還流する。図2(B)に示す冷却塔6’の他の構成は、図2(A)に示す冷却塔6の構成と同一であるので、説明を省略する。
【0031】
図3には、全熱(顕熱・潜熱)交換による熱回収を意図した空調空気循環系の廃熱回収システム7が示されている。
【0032】
一対の熱交換ユニット71が給気ダクト77及び還気ダクト78に夫々配置される。各ユニット71は、給気流又は排気流と伝熱接触する伝熱コイル72と、各ユニット71の伝熱コイル72の間で熱媒体液を強制循環する熱媒体液循環配管系73と、伝熱コイル72に散水して水の気化を促す散水配管系74とから構成される。熱媒体液循環配管系73には、循環ポンプ73aが介装される。
【0033】
散水配管系74の吸引部(上流端)は、水を貯留する水槽70内に配置され、水槽70の水は、循環ポンプ75の圧力下にノズル部76に圧送される。この方式の廃熱回収システムは、商品名「エコラック」(カスタムエース株式会社製品)として市場に供給されている公知のシステムであるので、システムの全体構成に関する更なる詳細な説明は、省略する。
【0034】
熱交換ユニット71が、例えば、半導体工場又は電子部品工場や、動植物・飲食物・薬品等を取り扱う施設等の空調空気循環ダクトに組み込まれた場合、水槽70内の水には、菌類、藻類等が比較的発生し易い。このため、菌類、藻類等の発生を防止すべく、抗菌装置10を介装した水槽水循環用の配管系1が各熱交換ユニット71に配設される。水槽70内の水は、循環ポンプ2の吸引圧力下に取水口1dから取水され、吸引管1aによって循環ポンプ2に吸引され、循環ポンプ2の吐出圧力下に吐出管1bに送出され、濾過器3を介して抗菌装置10に給送される。抗菌装置1内の抗菌性ガラス(図示せず)は、抗菌装置10に供給された水に銀イオン又は銅イオンを溶出する。銀イオン又は銅イオンを含む水は、オーバーフロー管1cを介して水槽70内に還流する。
【0035】
図4には、図3に示す廃熱回収システム7の変形例が示されている。
【0036】
図4に示す廃熱回収システム7’は、循環水給送管1fを介して散水配管系74に接続された抗菌装置10を備える。循環水給送管1fの端部は、抗菌装置10の下部に接続される。循環ポンプ75の吐出圧力下にノズル部76に圧送される水槽70の水の一部が、循環水給送管1fを介して抗菌装置10に給送される。抗菌装置1内の抗菌性ガラス(図示せず)は、抗菌装置10に供給された水に銀イオン又は銅イオンを溶出し、銀イオン又は銅イオンを含む水は、オーバーフロー管1cを介して水槽70内に還流する。図4に示す廃熱回収システム7’の他の構成は、図3に示す廃熱回収システム7の構成と同一であるので、説明を省略する。
【0037】
図5は、抗菌装置10の構造を示す正面図であり、図6(A)及び図6(B)は、抗菌装置10の平面図及び底面図である。図7は、抗菌装置10の縦断面図である。図8(A)及び図8(B)は、図7のI−I線及びII−II線における断面図であり、図9(A)及び図9(B)は、図7のIII−III線及びIV−IV線における断面図である。
【0038】
抗菌装置10は、多数の抗菌性ガラスの粒体Tを収容可能な管内領域15を備えた円筒11と、円筒11の下端部及び上端部に連結された流入部20及びオーバーフロー部30とから構成される。円筒11は、多数の抗菌性ガラスの粒体Tを収容するケーシングを構成する。図5及び図7には、粒体Tを管内領域15に収容し、管内領域15に水を満たした状態が示されている。但し、吐出管1b又は循環水給送管1fは、抗菌装置10に水を連続給送しておらず、或いは、微小流量の水流を抗菌装置10に供給するにすぎず、粒体Tは、管内領域15の最下部に沈積又は沈殿し、静止状態の粒体沈積層Sを管内領域15に形成している。
【0039】
円筒11は、鉛直中心軸線Xを有する内径D=約65mmの透明樹脂管からなり、均一な円形断面を全高に亘って有する。円筒11の下端部は、流入部20の円環部21内に嵌入し、円環部21と一体化しており、円筒11の下端円形開口12は、円環部21内に形成された流入チャンバ16内に開放している。円筒11の上端部は、オーバーフロー部30の円環部31内に嵌入し、円環部31と一体化しており、円筒11の上端円形開口13は、円環部41内に形成された流出チャンバ17内に開放している。
【0040】
流入部20は、円環部21の下端部を溶接又は溶着した上側円形フランジ22と、ソケット部23を固定した下側円形フランジ24と、フランジ22、24の間に介挿した円形のEPDM製パッキン25と、流入チャンバ16内に配設した噴流形成装置40とから構成される。円環部21及びフランジ22、24は、金属成形品又は樹脂成形品からなり、噴流形成装置40は、金属成形品又は樹脂成形品の組立体からなる。円環部21、フランジ22、24及び噴流形成装置40は、鉛直中心軸線X廻りに同心状に整列する。複数のボルト・ナット組立体27が、上下のフランジ22、24及びパッキン25を貫通する。上下のフランジ22、24及びパッキン25は、ボルト・ナット組立体27の締付けにより一体化する。
【0041】
ソケット部23には、吐出管1b又は循環水給送管1fが接続される。ソケット部23は、フランジ24及びパッキン25を貫通する。フランジ22を貫通する管状流入ポート32の下端部が、ソケット部23の上端部に連接する。流入ポート26は、フランジ22の上面から上方に突出する。噴流形成装置40は、流入ポート26の上部に固定した複数の支持アーム41と、支持アーム41の上端部に接続した水平な円形プレート42とを備える。支持アーム41は、互いに90度の角度間隔を隔てて配置された帯板部材からなり、径方向外方に流路領域を拡開するように流入ポート26から上方に延びる。支持アーム41の上端部は、円形プレート42の下面に接続され、円形プレート42を水平に支持する。円形プレート42は、ケーシング内に収容された粒体Tを支持する有孔底板を構成する。なお、吐出管1b又は循環水給送管1fには、抗菌装置10に対する水槽水の供給を制御する手動操作弁、自動制御弁、流量計等が、必要に応じて適宜介装される。
【0042】
図8に示すように、円形プレート42は、放射状に配列された円形噴流口43を備える。複数(本例で3箇所)の噴流口43を有する各列は、所定の角度間隔θ(本例では45度)を隔てて離間する。各噴流口43の直径dは、約2mmに設定される。噴流口43は、円形プレート42の半径×約0.2の範囲内の中心領域、即ち、流入ポート26の直上に位置する円形プレート42の中心領域には配置されておらず、また、噴流口43同士の中心間隔pは、噴流口43の直径dの2〜4倍(約4〜8mm)に設定される。円形プレート42は円筒11内に位置し、円筒11の管内領域15に収容した多数の粒体Tを支持する。円形プレート42の外周縁と円筒11の内周面とは僅かに離間し、約0.5mm程度の間隙(クリアランス)44が円形プレート42の外周縁と円筒11の内周面との間に形成される。なお、図8(A)において、粒体Tの図示は、省略されている。
【0043】
図5及び図7に示すように、オーバーフロー部30は、円環部31の上端部を溶接又は溶着した下側円形フランジ32と、ソケット部33を固定した上側円形フランジ34と、フランジ32、34の間に介挿した円形のEPDM製パッキン35と、流出チャンバ17内に配設したオーバーフロー装置45とから構成される。円環部31及びフランジ32、34は、金属成形品又は樹脂成形品からなり、オーバーフロー装置45は、金属成形品又は樹脂成形品の組立体からなる。円環部31、フランジ32、34及びオーバーフロー装置45は、鉛直中心軸線X廻りに同心状に整列する。複数のボルト・ナット組立体37が、上下のフランジ32、34及びパッキン35を貫通する。上下のフランジ32、34及びパッキン35は、ボルト・ナット組立体37の締付けにより一体化する。
【0044】
ソケット部33には、オーバーフロー管1cが接続される。ソケット部33は、フランジ34及びパッキン35を貫通する。ソケット部33の下端部は、フランジ32を貫通する管状流出ポート36の上端部に連接する。流出ポート36は、フランジ32の下面から下方に突出する。オーバーフロー装置45は、流出ポート36の下部に固定した複数の支持アーム46と、支持アーム46の下端部に接続した水平な金属網47とを備える。支持アーム46は、互いに90度の角度間隔を隔てて配置された帯板部材からなり、径方向外方に流路領域を拡開するように流出ポート36から下方に延び、金属網47に接続され、金属網47を水平に懸吊する。金属網47は全体的に円形輪郭を有し、円筒11内に位置する。図9に示す金属網47は、金属線材47aの方形メッシュからなり、金属線材47aの相互間隔qは、約3mmに設定される。金属網47は、粒体Tが流出チャンバ17に流出するのを阻止するためのものであり、間隔qは、粒体Tの寸法に相応して設定される。
【0045】
次に、抗菌装置10の作動について説明する。
【0046】
図1(A)、図2(A)及び図3に示す循環ポンプ2が作動すると、水槽50、60、70内の水は、ポンプ2の吸引圧力下に取水口1dから取水され、ポンプ2の吐出圧力下に吐出管1bから流入チャンバ16内に導入される。また、図1(B)、図2(B)及び図4に示すポンプ56、65、75が作動すると、水槽50、60、70内の水は、ポンプ56、65、75の吸引圧力下に取水口1dから取水され、ポンプ56、65、75の吐出圧力下に吐出管1bから流入チャンバ16内に導入される。
【0047】
図10は、抗菌装置の作動形態を示す抗菌装置の縦断面図であり、図11は、高速噴流の噴射形態を概念的に示す断面図である。
【0048】
流入チャンバ16と管内領域15との間の流路は、円形プレート42の噴流口43と、円形プレート42の外周の間隙44のみに制限されているので、流入チャンバ16に流入した水の動水圧は実質的に静水圧に転換し、流入チャンバ16内の静水圧は上昇する。この結果、流入チャンバ16の静水圧下に噴流口43及び間隙44から管内領域15に流出する高速噴流F、Gが形成される。
【0049】
高速噴流F、Gは、円形プレート42上の粒体沈積層Sに作用し、粒体Tを流動化する。高速噴流F、Gは、管内領域15の水を攪拌し、管内領域15に渦流又は乱流を形成し、粒体Tは、高速噴流Fのモーメンタムにより、管内領域15内において流動する。かくして、粒体Tの流動層Rが管内領域15に形成される。
【0050】
高速噴流F、Gの供給により管内領域15の水量が増量するので、増量分の水は、金属網47を介して流出チャンバ17に流出し、オーバフロー管1cを介して水槽50、60、70に還流する。
【0051】
粒体Tの抗菌性ガラスは、水に徐々に溶解し、銀イオン又は銅イオンが粒体Tから溶出する。銀イオン又は銅イオンは、オーバフロー管1cから水槽50、60、70に還流する水と一緒に水槽50、60、70内に流入する。銀イオン又は銅イオンは、水槽50、60、70内に拡散し、水槽50、60、70内の菌類発生、藻類発生等を防止する。なお、長期間の使用によって粒体Tのサイズ及び容積が縮小するので、粒体Tは、適切な時期に交換される。本例においては、金属網47のメッシュ寸法(開口寸法q)が粒体交換時期の目安となる。
【0052】
本発明者は、上記構成の抗菌装置10の実証試験を実施し、水槽50、60、70に還流する水に含まれる銀イオン溶出量を長時間に亘って計測した。実証試験の条件は、以下のとおりである。
・粒体T:銀イオン溶出型の無機系抗菌剤ガラスタブレット
・管内領域15の直径D:65mm
・噴流口43の直径d:2mm
・円形プレート42の外周間隙44:0.5mm
【0053】
実証試験においては、流入チャンバ16内に導入される供給水量を30L/分に設定し、噴流Fの平均流速1.4m/秒に設定した場合、100時間を超える連続運転試験においても、銀イオン溶出量はほとんど変動せず、実質的に一定の銀イオン溶出量が持続した。他方、供給水量を20L/分未満、噴流Fの平均流速を1.0m/秒未満に設定した場合、銀イオン溶出量は、時間経過とともに低下した。従って、供給水量は、20L/分以上、好ましくは、25L/分以上に設定され、噴流Fの平均流速は、1.0m/秒以上、好ましくは、1.2m/秒以上に設定される。なお、本例において管内領域15の横断面積は、約3300mm2であるので、供給水量30L/分、25L/分及び20L/分は、金属網47を通過する上昇水(オーバーフロー水)の平均流速=約0.15m/秒、約0.125m/秒及び約0.1m/秒に相当する。
【0054】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能であり、該変形例又は変更例も又、本発明の範囲内に含まれるものであることは、いうまでもない。
【0055】
例えば、ケーシングの断面形状は、真円形断面の円筒に限定されるものではなく、長円形、楕円形、方形又は多角形等の他の断面形状を有する筒体等をケーシングとして採用しても良い。
【0056】
噴流口の開口形状も又、真円形に限定されるものではなく、長円形、楕円形、方形又は多角形等の開口形状を採用しても良く、また、円形プレートの外周に間隙を形成せず、噴流口の噴流のみによりケーシング内領域に渦流又は乱流を形成するように設計しても良い。
【0057】
更には、本発明の抗菌装置は、空調機、冷却塔及び廃熱回収システムの水槽又は配管のみならず、空調設備又は給排水衛生設備を構成する各種の水槽又は配管等に配設することが可能である。
【0058】
また、金属網は、必ずしも方形メッシュ形状のものに限定されず、また、オーバーフロー水の流出を妨げない構造を有する有孔板等を金属網に換えて用いることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、空調設備又は給排水衛生設備を構成する水槽又は配管の中に収容される抗菌装置に適用される。抗菌装置内に収容された粒状の抗菌性ガラスは、水に接触して溶解する。水に溶出した銀イオン又は銅イオンは、水槽の水等に拡散して菌類又は藻類の発生等を防止する。本発明の抗菌装置は、従来の固定層式の抗菌装置と異なり、流動層式の抗菌装置であるので、粒体層の目詰まり等の問題は解消し、所期の抗菌性能を長期に亘って発揮する。このため、本発明の抗菌装置によれば、抗菌装置の維持管理に伴う人為作業は大幅に軽減するので、その実用的効果は顕著である。
【符号の説明】
【0060】
10 抗菌装置
11 円筒
15 管内領域
16 流入チャンバ
17 流出チャンバ
20 流入部
30 オーバーフロー部
40 噴流形成装置
41 支持アーム
42 円形プレート
43 円形噴流口
44 外周間隙
45 オーバーフロー装置
46 支持アーム
47 金属網
F、G 高速噴流
R 流動層
S 粒体沈積層
T 粒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と接触して銀イオン又は銅イオンを溶出可能な抗菌性ガラスの粒体をケーシング内に収容し、前記抗菌性ガラスの溶解によって溶出した銀イオン又は銅イオンを含む前記ケーシング内の水を水槽内に供給し、該水槽内における菌類又は藻類の発生を防止する抗菌装置において、
前記ケーシング内に収容された多数の前記粒体を支持し且つ貫通孔からなる噴流口を備えた有孔底板と、
該有孔底板の下側に形成され且つ前記水槽の水が圧力下に導入される流入チャンバと、
前記ケーシングの上部に設けられ、前記ケーシング内の水のオーバーフロー水を前記水槽に還流するオーバーフロー部とを有し、
前記噴流口は、ケーシング内領域と前記流入チャンバとを相互連通し、前記流入チャンバ内の水の上向き噴流をケーシング内領域に形成し、前記ケーシング内に水の渦流又は乱流を発生させて前記粒体を流動化することを特徴とする流動層式抗菌装置。
【請求項2】
前記オーバーフロー部は、前記粒体がオーバーフロー水とともに前記ケーシングから流出するのを阻止する網又は有孔板と、該網又は有孔板の上方に形成された流出チャンバとを有することを特徴とする請求項1に記載の流動層式抗菌装置。
【請求項3】
前記噴流口は、1.0m/秒以上の流速の上向き噴流を前記ケーシング内に噴射することを特徴とする請求項1又は2に記載の流動層式抗菌装置。
【請求項4】
前記噴流口は、2〜3mmの直径を有する複数の円形開口からなり、該円形開口の中心は、少なくとも前記円形開口の直径の2倍の距離を互いに隔てて配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の流動層式抗菌装置。
【請求項5】
前記水槽の水を吸引して前記流入チャンバに給送する配管系を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の流動層式抗菌装置。
【請求項6】
前記流入チャンバに接続された循環水給送管を有し、循環水給送管は、前記水槽の水を循環するように構成された空調機、冷却塔又は廃熱回収システムの水槽水循環配管系に接続されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の流動層式抗菌装置。
【請求項7】
前記オーバフロー部に接続したオーバーフロー管を有し、該オーバーフロー管は、銀イオン又は銅イオンを含む水を重力下に前記水槽に還流させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の流動層式抗菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−161728(P2012−161728A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23416(P2011−23416)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(511032350)
【Fターム(参考)】