説明

流動床ボイラ

【課題】流動層内伝熱管の摩耗を効果的に抑えることができる流動床ボイラを提供すること。
【解決手段】流動媒体1を流動させて供給された燃料を燃焼する流動層と、該流動層内に設置されて上記燃料の燃焼熱を回収する層内伝熱管2とを有する。流動媒体1として、SiO2が45ないし72重量部、Al23が7ないし14重量部、Fe23が8ないし16重量部、MgOが5ないし11重量部、CaOが5ないし10重量部、Na2Oが2ないし3重量部、K2Oが1重量部であり、これら成分の合計が100重量部である組成のものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流動床ボイラに関し、特に、流動層内伝熱管の摩耗を効果的に抑えることができる流動床ボイラに関する。
【背景技術】
【0002】
流動床ボイラは、炉床部に珪砂等の流動媒体を有する流動層を備え、炉床から空気等の気体を噴出させて流動媒体を浮遊流動させながら、炉内に投入した燃料を流動媒体と混合させながら効率的に燃焼し、その燃焼熱をボイラの熱源として利用するものである。
【0003】
図4は流動床ボイラの流動状態を示す図である。図4において、流動層31は、珪砂等の流動媒体32に、空気33がその底部に設けた分散板34から均一に吹き込まれることにより形成され、吹き込まれた空気33の気泡35により流動媒体32を浮遊流動化させる。この流動層31に小径に粉砕されたゴミ、固形燃料、バイオマス燃料などの燃料を投入すると、この燃料は流動層内で効率よく燃焼する。流動層で発生した燃焼熱は流動層内に設置した層内伝熱管(紙面に対して直交する方向に設置されている)36に伝達される。層内伝熱管36の内部には水等の冷媒が流通しているので、燃焼熱をボイラ熱源として回収することができる。
【0004】
ところで、流動床ボイラにおいては流動状態を安定に維持するため、所定の空塔速度で運転されるが、機構上、層内伝熱管36は流動媒体32との衝突を避けることができず、層内伝熱管36の表面は非常に摩耗しやすい状況下におかれている。
【0005】
この種の流動床ボイラに関する先行技術として、特許文献1には、伝熱管の摩耗しやすい位置でH2Sを発生させない流動床ボイラが開示されている。というのは、燃焼排ガス中の窒素酸化物の低減を目的として燃焼空気の空気過剰率を小さくする傾向にあるので(酸素濃度が低いので)、流動床ボイラの燃料として微粉炭のような硫黄分を含有する燃料を使用した場合、流動床内には硫化水素(H2S)が生成しやすい。この硫化水素は伝熱管などの金属との反応性が高く、伝熱管表面には硫化物層が形成される。硫化物層はメタル単体に比べ非常に脆いので、伝熱管表面は短期間のうちに摩耗してしまう。そこで、特許文献1には、図5に示すように、微粉CaCO3を、流動床内に配置した気流搬送管を経て、層内伝熱管41の下部に取り付けられた噴出チューブ42に導く構成が開示されている。この構成によれば、CaCO3は気流搬送管内を通過する過程で流動床内の燃焼ガスによって加熱され、脱炭酸反応が生じてCaOになる。このCaOが噴出チューブ42から噴出されると、短時間のうちにH2Sと反応するというものである。
【0006】
また、特許文献2には、石灰石やドロマイトなどの天然鉱物はヒートショックにより粉化、飛散しやすいので、天然鉱物を流動媒体として使用した場合、流動層の層高を所定の高さに維持するため、継続的に大量の流動媒体を補給する必要があり、流動媒体として硬度の高い珪砂を使用すると、伝熱管を損耗しやすいという理由で、流動媒体のコスト低減と飛散ダストの減少を図るとともに伝熱管の摩耗を抑えるために、粒径を0.2ないし0.4mmに整粒したマグネシウム珪酸塩鉱物を焼成して得られる焼結体を流動媒体として使用することが開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、流動媒体の焼結化(流動媒体の塊状化)の危険性が小さく、添加物を必要とせずに各種の燃料の下で使用することができる流動層材料として、石英の含有量が10重量%以下である鉱物を用いることが記載されている。
【特許文献1】特開平5−288307号公報
【特許文献2】特開平6−86929号公報
【特許文献3】国際公開第99/57488号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示されたものは、流動媒体とは別にCaCO3を使用する必要があり、CaOの噴出機構が必要であるなど、ランニングコストおよび設備コストの増大が懸念される。
【0009】
また、特許文献2に開示されたものは、特別の粒径のマグネシウム珪酸塩鉱物を使用する必要があるなど、製造コストが高くなる。
【0010】
さらに、特許文献3に開示されたものは、流動媒体の塊状化を防止することを目的としており、層内伝熱管の摩耗低減については考慮されていない。また、石英の含有量が10重量%以下と非常に少なく、石英含有量が通常の流動媒体からかけ離れている。
【0011】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、流動層内伝熱管の摩耗を効果的に抑えることができる流動床ボイラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明の流動床ボイラは、流動媒体を流動させて供給された燃料を燃焼する流動層と、該流動層内に設置されて上記燃料の燃焼熱を回収する層内伝熱管とを有する流動床ボイラにおいて、流動媒体として、SiO2が45ないし72重量部、Al23が7ないし14重量部、Fe23が8ないし16重量部、MgOが5ないし11重量部、CaOが5ないし10重量部、Na2Oが2ないし3重量部、K2Oが1重量部であり、これら成分の合計が100重量部である組成のものを用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の成分組成の流動媒体を使用することにより、層内伝熱管表面に好ましい性状の保護被膜が形成されるので、層内伝熱管の摩耗を効果的に抑えることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の流動床ボイラの好ましい実施形態について説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものでない。本発明の成分組成の流動媒体は、図1および図2のいずれの形式の流動床ボイラでも使用可能である。
【0015】
図1は、本発明の流動床ボイラの一実施形態の縦断面を概略的に示す図である。図1において、1は流動媒体、2は層内伝熱管、3aは空気分散板3に多数設けられた空気ノズル、4は空気供給口、5は燃料供給口、6と7は流動媒体貯留タンク、6aと7aは排出量調整弁、8は流動媒体供給配管、9は流動媒体排出口、10は燃焼排ガスの出口である。この流動床ボイラは、層内伝熱管を設置している燃焼熱回収部と燃焼部とを分離しない、いわゆるバブリング型流動床ボイラである。
【0016】
図2は、本発明の流動床ボイラの別の実施形態の縦断面を概略的に示す図であり、層内伝熱管を設置している燃焼熱回収部と燃焼部とを分離した、いわゆる内部循環式流動床ボイラに属するものである。
【0017】
図2において、図1と共通する構成要素には同じ参照番号を付して説明を省略する。図1との大きな違いは、仕切板11によって、燃焼部12と、層内伝熱管2aを設置した燃焼熱回収部13とに流動層が分離された点である。また、図1の流動床ボイラの風箱14は一つであるが、図2の流動床ボイラは隔壁15によって仕切られた風箱16と17からなる。従って、空気供給口は4と18の2箇所に設けられている。燃焼排ガスの出口19は燃焼部12の上部に設けられている。
【実施例】
【0018】
次に、流動媒体の成分組成が層内伝熱管の摩耗に及ぼす影響についての基礎データを得るために、以下のような内容の高温腐食摩耗促進模擬試験を行ったので、説明する。
【0019】
図3は、その試験装置を概略的に示す図である。図3において、円筒形の容器21の下部には多数の空気吹き出し口が設けられた分散板22が設置されている。分散板22の下方の底部空間23には図示しない開口が設けられており、この開口から空気と塩化水素ガスを底部空間23内に供給する。24は後記する組成の流動媒体である。流動媒体24が充填された層には合成灰(実際の流動床炉を真似て、NaClとKClとCaCl2を主として含有する物質)が添加されている。25は中実丸棒形状の試験片であり、流動媒体24の層の中に埋設されている。試験片25はモータ26に直結された回転軸27に取り付けられた固定プレート28に固定されている。29は電気ヒータであり、電気ヒータ29は容器21を覆っている。30は排気口である。以上のように構成される試験装置を用いて、流動媒体の成分組成が層内伝熱管の摩耗に及ぼす影響を調査するための高温腐食摩耗促進模擬試験を行った。
(試験方法と試験結果)
図3に示す装置の流動媒体24として後記する表1の3種類の組成の中のいずれかを使用し、試験片25の材質を後記する表2のように変化させて、電気ヒータ29のスイッチを投入して容器21内の流動媒体24の温度を上昇させた。そして、流動媒体24の温度を容器21の内壁面に設置した温度センサ(図示せず)で検知しながら、325℃まで上昇させた。そして、325℃に達した時点でモータ26を駆動させて回転軸27の回転を開始し、最終的に0.6m/秒の回転速度で試験片25を回転させた。試験片25の回転中は、底部空間23内に上記開口から塩化水素ガスを適宜供給した。合成灰を流動媒体が充填された層に添加し、塩化水素ガスを底部空間23内に供給するのは、実際の流動床ボイラの燃焼ガスには各種腐食成分が含まれており、また燃焼の結果、灰分が生成するので、実際の流動床ボイラの層内部に近い状態を再現するためである。なお、試験中において、容器21上部の雰囲気ガスの一部は容器内外の圧力差により、排気口30より排出された。
【0020】
かくして、試験片25が流動媒体24中を上記速度で回転することにより、流動媒体24の層は試験片25の回転方向にゆっくりとかき回される。その結果、試験片25は、流動媒体24との摩擦や塩化水素ガスによる腐食の影響で摩耗が進行する。
【0021】
以上の高温腐食摩耗促進模擬試験を100時間行った結果、試験片25の摩耗による減肉量(直径変化)について、流動媒体として珪砂を使用した場合の減肉量に対する相対値として表2に示す。表2において、例えば、炭素鋼試験片の流動媒体Bの数値0.30とは、珪砂を流動媒体として使用したときの炭素鋼試験片25の直径の減少量(当初の直径から試験後の直径の数値を差し引いたもの)を100とすれば、流動媒体Bを流動媒体として使用したときの炭素鋼試験片25の直径の減少量が30であるという意味である。この表2の数値が小さい方が摩耗しにくいことを示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表2に明らかなように、流動媒体Aと流動媒体Bを流動媒体として使用することにより、珪砂を流動媒体とする場合に比べて明らかに減肉量は少なくなっている。
【0025】
以上の結果に基づいて、図1の流動床ボイラにおいて、本発明の範囲内の成分組成の流動媒体1からなる層を備え、空気供給口4から風箱14および空気ノズル3aを経て供給された空気により流動媒体1を浮遊流動させて流動層を形成するとともに燃料供給口5から供給された燃料を燃焼させ、その燃焼熱を層内伝熱管2で回収し、燃焼後の排ガスを出口10から排出する。
【0026】
この流動媒体1の浮遊流動状態において流動媒体1が層内伝熱管2に衝突しても、流動媒体1は特定の成分組成の流動媒体(流動媒体Aと流動媒体Bの成分組成を上限または下限とするもの)からなるので、層内伝熱管2の摩耗が抑えられる。
【0027】
そして、排出量調整弁6aと7aを調整して流動媒体貯留タンク6と7に貯留された本発明の範囲内の成分組成の適正量の流動媒体を供給配管8を経て流動床ボイラ内に供給し、流動媒体排出口9から適正量の流動媒体を適宜排出することにより、安定して操業を続けることができる。
【0028】
図2の流動床ボイラにおいても、同様にして安定して操業を続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の流動床ボイラの一実施形態の縦断面を概略的に示す図である。
【図2】本発明の流動床ボイラの別の実施形態の縦断面を概略的に示す図である。
【図3】高温腐食摩耗促進模擬試験の試験装置を概略的に示す図である。
【図4】流動床ボイラの流動状態を説明する図である。
【図5】従来の流動床ボイラの層内伝熱管の摩耗防止手段の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 流動媒体
2 層内伝熱管
2a 層内伝熱管
3 空気分散板
3a 空気ノズル
4 空気供給口
5 燃料供給口
6 流動媒体貯留タンク
6a 排出量調整弁
7 流動媒体貯留タンク
7a 排出量調整弁
8 流動媒体供給配管
9 流動媒体排出口
10 燃焼排ガス出口
11 仕切板
12 燃焼部
13 燃焼熱回収部
14 風箱
15 隔壁
16 風箱
17 風箱
18 空気供給口
19 燃焼排ガス出口
21 容器
22 分散板
23 底部空間
24 流動媒体
25 試験片
26 モータ
27 回転軸
28 固定プレート
29 電気ヒータ
30 排気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動媒体を流動させて供給された燃料を燃焼する流動層と、該流動層内に設置されて上記燃料の燃焼熱を回収する層内伝熱管とを有する流動床ボイラにおいて、流動媒体として、SiO2が45ないし72重量部、Al23が7ないし14重量部、Fe23が8ないし16重量部、MgOが5ないし11重量部、CaOが5ないし10重量部、Na2Oが2ないし3重量部、K2Oが1重量部であり、これら成分の合計が100重量部である組成のものを用いることを特徴とする流動床ボイラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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