説明

流動性が向上した全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド及びその製造方法

全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド及びその製造方法を提供する。全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドは、低溶融点を有する第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂、高溶融点を有する第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂及び添加剤を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドであって、前記第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の含有量は、前記第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、5〜10重量部である。また、全芳香族液晶ポリエステル樹脂のコンパウンドの製造方法は、溶融点の異なる前記2種の全芳香族液晶ポリエステル樹脂及び添加剤を混合して溶融混練する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド及びその製造方法に係り、さらに詳細には、溶融点の異なる二種以上の全芳香族液晶ポリエステル樹脂及び添加剤を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、耐熱性及び寸法安定性にすぐれ、溶融時に流動性にすぐれ、精密射出成形材料として、電子部品分野を中心に広く使われている。特に、寸法安定性と電気絶縁性とにすぐれ、電子材料用フィルム及び基板用素材として、その用途が拡大している。
【0003】
精密射出成形材料として使われる全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドは、製品の軽薄短小化のために、優秀な流動性が必要である。流動性にすぐれる全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドを得るためには、低溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂を使用して、樹脂コンパウンドを製造せねばならないが、低溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂を使用して樹脂コンパウンドを製造する場合には、耐熱度が低下するという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一具現例は、溶融点の異なる二種以上の全芳香族液晶ポリエステル樹脂及び添加剤を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドを提供する。
【0005】
本発明の他の具現例は、前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、低溶融点を有する第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂と、高溶融点を有する第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂と、添加剤と、を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドであって、前記第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の含有量は、前記第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、5〜10重量部である全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドを提供する。
【0007】
前記第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の溶融点は、310〜320℃であって、前記第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂の溶融点は、360〜375℃でありうる。
【0008】
前記添加剤は、無機充填剤及び有機充填剤のうち少なくとも一つを含むことができる。
【0009】
前記無機充填剤は、ガラスファイバ、滑石、炭酸カルシウム、雲母、粘土またはそれらのうち2以上の混合物を含むことができ、前記有機充填剤は、炭素ファイバを含むことができる。
【0010】
本発明の他の側面は、低溶融点を有する第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂、高溶融点を有する第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂及び添加剤を混合して溶融混練する段階を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの製造方法であって、前記第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の使用量は、前記第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、5〜10重量部である全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一具現例によれば、溶融点の異なる二種以上の全芳香族液晶ポリエステル樹脂を含むことにより、流動性が向上した全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一具現例による全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド及びその製造方法について詳細に説明する。
【0013】
本発明の一具現例による全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドは、低溶融点を有する第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂、高溶融点を有する第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂及び添加剤を含み、前記第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の含有量は、前記第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、5〜10重量部である。前記第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の含有量が、前記第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、5重量部以上であるならば、最終製品である樹脂コンパウンドの流動性改善効果が顕著であり、10重量部以下であるならば、最終製品である樹脂コンパウンドの耐熱度低下の心配を低減させることができる。
【0014】
前記第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の溶融点は、310〜320℃であって、前記第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂の溶融点は、360〜375℃でありうる。前記第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の溶融点が310℃以上であるならば、最終製品である樹脂コンパウンドの耐熱度低下の心配が少なく、前記樹脂コンパウンドにブリスタ(blister)が発生せず、320℃以下であるならば、最終製品である樹脂コンパウンドの流動性向上効果が大きい。また、前記第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂の溶融点が360℃以上であるならば、最終製品である樹脂コンパウンドの耐熱度低下の心配が少なく、375℃以下であるならば、最終製品である樹脂コンパウンドの流動性低下の心配が少なく、射出成形が容易になる。
【0015】
前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの製造に使われる溶融点の異なる二種以上の全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、それぞれ下記段階を経て製造されうる:
(a)少なくとも二種の単量体を縮重合することにより、全芳香族液晶ポリエステルプレポリマーを合成する段階;
(b)前記プレポリマーを固相縮重合することにより、全芳香族液晶ポリエステル樹脂を合成する段階。
【0016】
前記(a)段階で使われる単量体は、芳香族ジオール、芳香族ジアミン及び芳香族ヒドロキシアミンからなる群から選択された少なくとも1種の化合物、及び芳香族ジカルボン酸を含む。また、前記単量体は、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/または芳香族アミノカルボン酸をさらに含むことができる。
【0017】
前記(a)段階の合成方法としては、溶液縮重合法、塊状縮重合法(bulk condensation polymerization)が使われうる。また、前記(a)段階で、縮合反応を促進するために、アシル化剤(特に、アセチル化剤)などの化学物質で前処理され、反応性が向上した単量体(すなわち、アシル化された単量体)を使用することができる。
【0018】
前記(b)段階の固相縮重合反応のためには、前記プレポリマーに適当な熱が提供されねばならず、かような熱提供方法としては、加熱板を利用する方法、熱風を利用する方法、高温の流体を利用する方法などがある。固相縮重合反応時に発生する副産物を除去するために、不活性ガスを利用したパージや、真空による除去を実施することができる。
【0019】
前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、それぞれ多様な反復単位を鎖内に含み、例えば、次のような反復単位を含むことができる。
【0020】
(1)芳香族ジオールから由来する反復単位:
−O−Ar−O−
(2)芳香族ジアミンから由来する反復単位:
−HN−Ar−NH−
(3)芳香族ヒドロキシアミンから由来する反復単位:
−HN−Ar−O−
(4)芳香族ジカルボン酸から由来する反復単位:
−OC−Ar−CO−
(5)芳香族ヒドロキシカルボン酸から由来する反復単位:
−O−Ar−CO−
(6)芳香族アミノカルボン酸から由来する反復単位:
−HN−Ar−CO−
【0021】
前記化学式で、Arは、フェニレン、ビフェニレン、ナフタレンまたは2個のフェニレンが炭素または炭素ではない元素に結合された芳香族化合物;またはフェニレン、ビフェニレン、ナフタレンまたは2個のフェニレンが炭素または炭素ではない元素に結合された芳香族化合物のうち1つ以上の水素が他の元素で置換された芳香族化合物でありうる。
【0022】
前記添加剤は、無機充填剤及び/または有機充填剤を含むことができる。前記無機充填剤は、ガラスファイバ、滑石、炭酸カルシウム、雲母、粘土またはそれらのうち2以上の混合物を含むことができ、前記有機充填剤は、炭素ファイバを含むことができる。前記無機充填剤と有機充填剤は、射出成形時に成形体の機械的強度を向上させる役割を行う。
【0023】
前記全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドは、溶融点の異なる少なくとも二種の全芳香族液晶ポリエステル樹脂と添加剤とを所定比率(すなわち、低溶融点を有する第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の使用量が、高溶融点を有する第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、5〜10重量部になるように調節)で混合して溶融混練することによって製造されうる。かような溶融混練のために、回分式混練機、二軸圧出機またはミキシングロールなどが使われうる。また、円滑な溶融混練のために、溶融混練時に滑剤を使用することができる。
【0024】
以下、実施例を挙げて、発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は、かような実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
実施例1
(1)全芳香族液晶ポリエステル樹脂の選択
低溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル組成物として、三星精密化学株式会社のKF
grade全芳香族ポリエステル樹脂を使用した。示差走査熱量計を使用して測定した前記樹脂の溶融点は、315℃であった。高溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂として、三星精密化学株式会社のKB grade全芳香族ポリエステル樹脂を使用した。示差走査熱量計を使用して測定した前記樹脂の溶融点は、363℃であった。
【0026】
(2)全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの製造
前記溶融点の異なる二種の全芳香族液晶ポリエステル樹脂及びガラスファイバ(直径が10μmであり、平均長が150μmである粉砕ガラスファイバ)を重量基準で6:4(樹脂:ガラスファイバ)の割合で混合し、二軸圧出機(L/D:40、直径:25mm)を使用して溶融混練することによって、全芳香族液晶ポリエステル樹脂のコンパウンドを製造した。このとき、低溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂(KF grade)及び高溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂(KB grade)の投入量を、それぞれ最終全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド100重量部に対して、3重量部及び57重量部に調節した。前記樹脂コンパウンド製造時に、前記二軸圧出機に真空を加えて副産物を除去した。
【0027】
実施例2
低溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂(KF grade)及び高溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂(KB grade)の投入量を、それぞれ最終全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド100重量部に対して、5重量部及び55重量部に調節したことを除いては、前記実施例1と同じ方法で、全芳香族液晶ポリエステル樹脂のコンパウンドを製造した。
【0028】
比較例1
低溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂(KF grade)を全く使用せず、高溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂(KB grade)の投入量を、最終全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド100重量部に対して、60重量部に調節したことを除いては、前記実施例1と同じ方法で、全芳香族液晶ポリエステル樹脂のコンパウンドを製造した。
【0029】
比較例2
低溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂(KF grade)及び高溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂(KB grade)の投入量を、それぞれ最終全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド100重量部に対して、1重量部及び59重量部に調節したことを除いては、前記実施例1と同じ方法で、全芳香族液晶ポリエステル樹脂のコンパウンドを製造した。
【0030】
比較例3
低溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂(KF grade)及び高溶融点を有する全芳香族液晶ポリエステル樹脂(KB grade)の投入量を、それぞれ最終全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド100重量部に対して、7重量部及び53重量部に調節したことを除いては、前記実施例1と同じ方法で、全芳香族液晶ポリエステル樹脂のコンパウンドを製造した。
【0031】
評価例
(流動性測定)
実施例1,2及び比較例1〜3で製造した全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの流動性を測定するために、それぞれの樹脂コンパウンドに対して、毛細管粘度計を使用し、温度380℃及び剪断速度1,000/sの条件下で溶融粘度を測定し、下記表1に示した。溶融粘度が低いほど、流動性にすぐれることを意味する。
【0032】
(耐熱度測定)
前記実施例1,2及び比較例1〜3で製造した全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドで射出成形試片を製造した後、前記試片の耐熱度を評価した。試片の形状及び耐熱度の測定方法は、ASTM
D648により、付与された圧力は、18.5kgf/cmである。
【0033】
【表1】

【0034】
前記表1を参照すれば、実施例1,2で製造した全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドは、耐熱度及び流動性にいずれもすぐれるということが分かる。一方、比較例1〜3で製造した全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドは、流動性及び耐熱度のうちいずれか1つの物性が過度に低いということが分かった。従って、本発明の一具現例による全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドは、精密射出成形材料として有用に使われうる。
【0035】
本発明は、具現例を参考にして説明したが、それらは例示的なものに過ぎず、本技術分野の当業者であるならば、それらから多様な変形及び均等な他の具現例が可能であるという点を理解することが可能であろう。従って、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決まるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低溶融点を有する第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂と、
高溶融点を有する第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂と、
添加剤と、を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドであって、
前記第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の含有量は、前記第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、5〜10重量部である全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド。
【請求項2】
前記第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の溶融点は、310〜320℃であり、前記第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂の溶融点は、360〜375℃である請求項1に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド。
【請求項3】
前記添加剤は、無機充填剤及び有機充填剤のうち少なくとも一つを含む請求項1に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド。
【請求項4】
前記無機充填剤は、ガラスファイバ、滑石、炭酸カルシウム、雲母、粘土またはそれらのうち2以上の混合物を含み、前記有機充填剤は、炭素ファイバを含む請求項3に記載の全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンド。
【請求項5】
低溶融点を有する第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂、高溶融点を有する第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂及び添加剤を混合して溶融混練する段階を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの製造方法であって、
前記第1全芳香族液晶ポリエステル樹脂の使用量は、前記第2全芳香族液晶ポリエステル樹脂100重量部に対して、5〜10重量部である全芳香族液晶ポリエステル樹脂コンパウンドの製造方法。

【公表番号】特表2012−522862(P2012−522862A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503338(P2012−503338)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際出願番号】PCT/KR2010/002034
【国際公開番号】WO2010/117164
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(508130188)サムスン ファイン ケミカルズ カンパニー リミテッド (28)
【Fターム(参考)】