説明

流路断面形状の設計装置、その方法及びそのプログラム

【課題】流路の断面形状を効率的に設計することができる設計装置を提供する。
【解決手段】初期断面形状について流動性材料の流速分布を求め(S2)、得られた流速分布から速度勾配の高い領域を変更対象領域として特定する(S3)。初期断面形状に対するレベルセット関数の分布を求め(S4)、初期断面形状の境界線上に仮想点列を設定する(S5)。上記レベルセット関数の分布に基づき、変更対象領域においてレベルセット関数の値が高い領域が増えるように仮想点列を移動させて、断面形状を更新し、更新した断面形状について流速分布を求め(S9)、求めた流速分布から変更対象領域での速度勾配を求めて(S10)、その収束性を判定する(S11)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性材料が流れる流路の断面形状を設計するための設計装置、その方法及びそのプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴムやプラスチックなどの押出成形や射出成形などの分野においては、安定した成形を可能にするなどの目的で、押出ダイ(口金)などの金型の設計や、流路内における流動シミュレーションなどの技術が種々提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
例えば、タイヤのトレッドゴムなどのゴム部材の押し出しにおいては、粘弾性流体である未加硫ゴムを高精度に押し出す口金設計技術が求められている。しかしながら、従来、高精度な口金設計を行うため、シミュレーション、実験を問わず、大きくの設計候補領域を試行錯誤で変更し、目標値を達成するための解を求めており、高精度かつ効率的な設計は困難であった。
【0004】
ところで、レベルセット法の概念を構造体の最適形状設計に役立てる技術が提案されているが(非特許文献1参照)、レベルセット法の概念を利用して流体装置の設計に役立てる技術はこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−137610号公報
【特許文献2】特開2011−027593号公報
【特許文献3】特開2007−190827号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「レベルセット法に基づく機械構造物の構造最適化」山崎慎太郎ら、日本機械学会論文集(C編)第73巻第725号、2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、押し出し機の口金断面形状などの流路断面形状を効率的に設計することができる設計装置、その方法及びそのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、流動性材料が流れる流路の断面形状を設計するための設計装置において、流路の初期断面形状について流動性材料の流速分布を求める第1流速計算部と、得られた流速分布に基づいて、前記流路の断面形状に変更を加えるべき変更対象領域を特定する領域特定部と、前記初期断面形状に対するレベルセット関数の分布を求める初期関数計算部と、前記初期断面形状の境界線上に仮想点列を設定する仮想点列設定部と、前記レベルセット関数の分布に基づき、前記変更対象領域の前記仮想点列を移動させて、前記流路の断面形状を更新する形状更新部と、前記更新した断面形状について前記流動性材料の流速分布を求める第2流速計算部と、前記第2流速計算部で求めた流速分布に基づく特性の収束性を判定し、収束していなければ、前記形状更新部及び第2流速計算部の処理を繰り返すように制御し、収束していれば、収束した前記特性を与える断面形状を、最適化した断面形状と判定する判定部と、を有することを特徴とする流路断面形状の設計装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レベルセット関数の分布を利用することにより、流路の断面形状を効率的に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態に係る設計装置のブロック図である。
【図2】初期関数計算部のブロック図である。
【図3】形状更新部のブロック図である。
【図4】設計装置のフローチャートである。
【図5】初期関数計算部のフローチャートである。
【図6】形状更新部のフローチャートである。
【図7】(a)は口金の初期断面形状を示し、(b)は該初期断面形状での流速分布を示す図である。
【図8】(a)及び(b)は該流速分布から求める速度勾配を説明する図である。
【図9】初期断面形状に仮想セルを設定した状態の図である。
【図10】初期断面形状に境界点列を設定した状態の図である。
【図11】レベルセット関数を説明する図である。
【図12】等位線を求める図である。
【図13】レベルセット関数の分布を示す図である。
【図14】仮想点列を設定した状態の図である。
【図15】仮想点列の移動を説明する図である。
【図16】断面形状の更新を説明する図であり、(a)は初期断面形状において変更対象領域の仮想点列を示す図、(b)は初期断面形状について指定領域を示す図、(c)は更新した断面形状について指定領域を示す図である。
【図17】第2実施形態に係る設計装置のフローチャートである。
【図18】比較例に係る口金断面形状の更新例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0012】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る設計装置10について図1〜図16に基づいて説明する。
【0013】
第1実施形態では、粘弾性流体の押し出し機を想定し、その出口部である口金から、押し出し物を均一に押し出すために、高精度な口金形状を効率的に設計することを目的とする。より詳細には、未加硫ゴムを押出成形するための押し出し機の口金断面形状を最適化する。
【0014】
本実施形態の設計装置10は、押し出し機の口金の断面形状を設計するための装置であり、図1に示すように、設計装置10は、入力部12、第1流速計算部14、領域特定部16、初期関数計算部18、仮想点列設定部20、形状更新部22、第2流速計算部24、判定部26、及び出力部28を有する。
【0015】
なお、この設計装置10は、例えば、マウスとキーボードを有する汎用のコンピュータを基本ハードウェアとして用いることでも実現することが可能である。すなわち、入力部12、第1流速計算部14、領域特定部16、初期関数計算部18、仮想点列設定部20、形状更新部22、第2流速計算部24、判定部26、及び出力部28は、上記のコンピュータに搭載されたプロセッサにプログラムを実行させることにより実現することができる。このとき、設計装置10は、上記のプログラムをコンピュータに予めインストールすることで実現してもよいし、CD−ROM等の記憶媒体に記憶して、又はネットワークを介して上記のプログラムを配布して、このプログラムをコンピュータに適宜インストールすることで実現してもよい。
【0016】
以下、上記各部の構成と機能について順番に説明する。
【0017】
(1)入力部12
入力部12は、設計対象となる口金の初期断面形状を含めた押し出し機における流路の形状データを取得する。例えば、空気入りタイヤのトレッドゴムの押し出し用口金の場合、口金の初期断面形状としては、図7(a)に示すような台形状の断面形状Aであり、該断面形状を含めた押し出し機の流路を表すデータが入力される。図7(a)の例では、口金の断面形状Aにおける長手方向をx軸とし、これに垂直な断面形状Aの短い方向をy軸とし、口金断面に垂直な主流方向をz軸として、各座標データを入力する。
【0018】
(2)第1流速計算部14
第1流速計算部14は、上記初期断面形状について、流動性材料である未加硫ゴムの流速分布を求める。第1流速計算部14は、公知の流体ソルバーを用いて構成することができる。
【0019】
詳細には、流路に計算格子を生成し、流入部、流出部および壁面境界領域に各々の境界条件を与え、数値計算により流れ場の定常解を求める解析を実施することにより、流速分布が求められる。流れ場の解法は、流体の運動方程式であるナビエ・ストークス方程式を数値計算により解くものであり、有限要素法、有限差分法、有限体積法などの一般的な手法で行うことができる。その解法のためのソフトウェア(流体ソルバー)としては、例えば、ポリダイナミックス社製「POLYCAD」(特定ダイ設計用簡略評価ソフトウェア)、Fluent社製「POLYFLOW」(汎用流体解析ソフトウェア)、プラメディア社製「SUNDYXTRUD」(押出し解析専用ソフトウェア)などがあり、これらを使用して、各全体座標系の速度、圧力などの流れ場の解を求めることができる。
【0020】
図7(b)は、流速分布の一例を示す図であり、口金断面において、長手方向(x軸)の中央部ほど流速が大きく、両端部ほど流速が小さいことが示されている。
【0021】
(3)領域特定部16
領域特定部16は、上記で得られた流速分布に基づいて、口金の断面形状に変更を加えるべき変更対象領域ROを特定する。口金から均一に押し出すためには、上記流速分布において流速の小さい領域を特定し、該領域の流速を上げて速度勾配を小さくすればよい。
【0022】
そのため、本実施形態において、領域特定部16は、初期断面形状における長手方向(x軸方向)を、図8に示すように複数の領域R1、R2、R3、R4に分割し、分割した各領域の速度勾配を求め、速度勾配が所定以上の大きさの領域を、変更対象領域ROとして特定する。より詳細には、この例では、口金断面形状Aが左右対称形状であるため、該口金断面形状において、長手方向(x軸方向)に設計可能な領域の幅Δxを指定した上で、その中心線からΔxで等分割し、領域R1、R2、R3、R4とする。そして、分割した領域毎に、その一端部での流速U(I)と他端部での流速U(I+1)から、下記式(1)で表される速度勾配を求める。
【0023】
速度勾配(dU/dx)=│(U(I+1)−U(I))│/Δx …(1)
【0024】
各領域での速度勾配の計算結果から、速度勾配が最大となる領域を特定して、該領域を変更対象領域ROに決定する。
【0025】
(4)初期関数計算部18
初期関数計算部18は、上記初期断面形状Aに対するレベルセット関数の分布を求める。図2に示すように、初期関数計算部18は、仮想セル設定部40と、境界点列設定部42と、第1関数計算部44と、等位線計算部46を有する。
【0026】
仮想セル設定部40は、図9に示すように、複数の要素に分割した仮想セルCを口金の初期断面形状Aと重ね合わせることにより、仮想セルCを設定する。仮想セルCの各要素の形状は特に限定しないが、図9に示す格子状に分割されていることが好ましい。仮想セルCを定義するに際しては、横軸をx軸、縦軸をy軸とする直交座標からなる絶対座標系を定義し、初期断面形状Aの長手方向がx軸となるように重ね合わせることが好ましい。
【0027】
境界点列設定部42は、初期断面形状Aの境界線(即ち、外形線)上に、図10に示すように、複数の境界点Qを設定することにより境界点列を作成する。境界点列の設定方法は、ユーザーがマウス等によって人為的に設定してもよく、また、エッジ上の所定距離毎に境界点を発生させてもよい。各境界点Qは、直交座標系において(x,y)で表される。なお、境界点列の設定は、上記仮想セルの設定後に行ってもよく、また、同時に行ってもよく、更に仮想セルの設定前に行ってもよい。
【0028】
第1関数計算部44は、初期断面形状Aの内側における要素毎にレベルセット関数φを計算する。レベルセット関数φとは、図11に示すように、各要素の評価点Pと最短距離にある境界点Qを求め、これら点Pと点Qの間の最短距離を求める関数である。このレベルセット関数φについて更に詳しく説明する。
【0029】
レベルセット関数φは、各要素で値を持ち、その評価点Pを要素の中心点(重心点)に設定し、その中心点の位置ベクトルをP=(x,y)とすると、レベルセット関数はφ(P)で表される。任意の要素における評価点Pの位置ベクトルP(x,y)と、境界線を表す境界点の中で、位置ベクトルPに対して最短距離にある境界点Qの位置ベクトルをQ=(x,y)とすると、評価点Pにおけるレベルセット関数φ(P)は、次の式(2)で表せる。
【数1】

【0030】
そのため、第1関数計算部44は、式(2)を用いて、要素毎にレベルセット関数φ(P)を計算する。
【0031】
等位線計算部46は、境界線から所定の距離にある等位線を、レベルセット関数φの値を用いて計算することで、レベルセット関数の分布を求める。ここで、レベルセット関数φの分布とは、設計対象となる断面形状の内部でレベルセット関数がどのような値を有して存在しているかを表すものであり、例えば、図13に示すように、境界線から所定の距離にある等位線(等高線)を引くことで求めることができる。
【0032】
等位線計算部46での計算方法について説明する。図12には、各要素の評価点Pを結んだ仮想要素を示し、仮想要素の各節点は、要素における中心点(評価点)Pを示している。この仮想要素の辺を構成する節点に、第1関数計算部44で求めたレベルセット関数φ(P)の値が格納されている。但し、Pは各節点(評価点)における位置ベクトルである。このレベルセット関数φ(P)に基づいて、断面形状Aの内側であって、境界線から所定の距離にある等位線を計算する。
【0033】
等位線計算部46は、例えば、レベルセット関数φが5mmの等位線を求める場合、レベルセット関数φが5mmの近傍の値をとる節点を求め、隣り合う2つの節点に関して、レベルセット関数φの値で内分した5mmの位置をそれぞれ求め、それぞれを線で結ぶことにより等位線を得る。例えば図12において4.6mmの値を持つ節点と、5.4mmの値を持つ節点とを選び出し、この2つの値を内分して、5mmの位置を辺上に決定する。
【0034】
このようにして境界線から所定の距離毎に等位線を引いていくことで、図13に示すように複数の等位線を等高線状に引くことができ、レベルセット関数φの分布が得られる。図では、レベルセット関数φの値が大きいほど、濃度が濃くなるグレースケールで分布を示しており、境界線に近い周縁部に対して境界線から遠い中心側ほど、濃度が濃くなっている。
【0035】
なお、図13に示す例では、境界線から一定の距離毎(即ち、等間隔)に等位線を算出したが、必ずしもこのように複数の等位線を算出する必要はない。等位線を算出する際の境界線からの上記所定の距離としては、設計対象となる断面形状の大きさ等に応じて適宜に設定することができ、特に限定されないが、好ましくは、レベルセット関数φの最大値を100としたときに30以上、より好ましくは30〜70の範囲内に相当する距離で少なくとも1本の等位線を引くことである。そして、この範囲内にある1本の等位線を、後述する形状更新部22で使用する参照等位線として指定することが好ましい。
【0036】
(5)仮想点列設定部20
仮想点列設定部20は、初期断面形状Aの境界線上に、図14に示すように、複数の仮想点Fを設けることにより仮想点列を設定する。仮想点Fの数は、表現したい形状を再現できる分解能となるように設定すればよい。仮想点列の設定方法は、上記境界点列の設定と同様、ユーザーがマウス等によって人為的に設定してもよく、また、エッジ上の所定距離毎に仮想点Fを発生させてもよい。各仮想点Fは、直交座標系において(x,y)で表される。なお、上記で設定した境界点列をそのまま仮想点列として定めてもよい。
【0037】
仮想点列設定部20は、また、上記変更対象領域ROに含まれる仮想点列を特定する。図14において、黒丸で示した点が、変更対象領域ROに含まれる仮想点F1であり、後述する形状更新部22において、初期断面形状Aに変更を加えるために移動させる移動対象点となる。この例では、変更対象領域ROに含まれる仮想点のうち、初期断面形状Aにおける上側両端部の傾斜面を規定する境界線上の仮想点を、移動対象となる仮想点F1に設定している。また、この例では、初期断面形状Aが上記のように左右対称であるため、左右の変更対象領域ROについては、いずれか一方のみを選択して以下の最適化計算を行うことができる。
【0038】
なお、本実施形態においては、変更対象領域ROに含まれる上記仮想点F1の位置が、最適化問題の設計変数となる。また、この変更対象領域ROでの速度勾配を最小化することが目的関数となる。更に、口金の断面積が一定の範囲内にあることが制約条件となる。
【0039】
(6)形状更新部22
形状更新部22は、レベルセット関数φの分布に基づき、上記変更対象領域ROの仮想点列を移動させて、口金の断面形状を更新するものであり、レベルセット関数φの高い領域が増えるように仮想点列を移動させる。レベルセット関数φの値が低い領域は、流路壁面からの距離が近いため、壁面の抵抗の影響を受けやすく、流速が小さくなる。一方で、レベルセット関数φの値が高い領域は、流路壁面からの距離が遠いため、壁面の抵抗の影響を受けにくく、流速が大きくなる。そのため、レベルセット関数φの分布を参照することにより、壁面抵抗の影響が及ぼされる領域を明確に識別することができ、流速分布を均一化させる方向を探りやすいので、口金の断面形状を効率的に更新することができる。
【0040】
形状更新部22は、図3に示すように、仮想点列移動部50と、第2関数計算部52と、抽出部54と、制約条件判定部56とを有する。
【0041】
仮想点列移動部50は、変更対象領域ROにおいて、レベルセット関数φの値が所定以上である領域の面積が増えるように、仮想点列を移動させる。この例では、図15に示すように、上記した特定の仮想点列F1a、F1b、F1c、F1d、F1eを、初期断面形状Aにおける長手方向に対して垂直な方向のみに移動させる。すなわち、上記絶対座標系におけるy軸方向(鉛直方向)に移動させる。これにより、隣り合う仮想点同士が交差しないように移動させることができる。なお、図15において、右側の仮想点列を移動させた場合、左側の仮想点列を左右対称に移動させる。
【0042】
移動に際しては、図16に示すように、参照すべきレベルセット関数φの分布が予め指定される。詳細には、図16(b)に示す初期断面形状Aにおいて、ハッチングを付した中央部の領域Kは、レベルセット関数φの値が所定以上である等位線により囲まれた領域、即ち、上記の参照等位線Tの内側の領域であり、この領域Kが参照すべきレベルセット関数φの分布として指定されている。そのため、変更対象領域RO(図16(a)参照)において、この指定領域Kの面積が大きくなるように、仮想点列を移動させる。図16(b)に示すように初期断面形状におけるこの面積(細かくハッチングを入れた端部の面積)をMr0とし、図16(c)に示すように移動後の断面形状におけるこの面積(細かくハッチングを入れた端部の面積)をMr1とする。
【0043】
仮想点列の移動位置は、ユーザーがマウス等によって人為的に設定してもよく、あるいはまた、多元配置法などの実験計画法(DOE)の手法を用いて設定することができる。なお、仮想点列移動部50により生成する移動後の断面形状の数は、1個でも複数個でもよいが、実験計画法により複数個設ける方が効率がよい。
【0044】
第2関数計算部52は、仮想点列を移動させた1又は複数の断面形状についてレベルセット関数の分布を求める。詳細には、第1関数計算部44と同様に、口金断面形状の内側における要素毎にレベルセット関数φを計算してから、等位線計算部46と同様に、境界線から所定の距離にある参照等位線Tを、レベルセット関数φの値を用いて計算する。その際、第2関数計算部52は、変更対象領域ROにおける上記指定領域Kの面積Mr1を更に計算するとともに、仮想点列を移動させた断面形状の面積(移動後の断面積)Ma1も計算する。
【0045】
抽出部54は、仮想点列移動部50で複数個の断面形状を生成したときに、その中からレベルセット関数φの分布を参照して、1個の断面形状を抽出する。詳細には、変更対象領域ROにおける上記指定領域Kの面積Mr1が最大となる断面形状を抽出する。
【0046】
制約条件判定部56は、抽出した断面形状が所定の制約条件を満たしているかを判定する。この例では、抽出した断面形状についてその断面積Ma1が、制約条件として与えられた口金断面積の規定範囲内にあるかどうかを判定し、範囲内でなければ、仮想点列移動部50、第2関数計算部52及び抽出部54の処理を繰り返すように制御し、範囲内にあれば、抽出した断面形状を更新後の断面形状として特定する。
【0047】
(7)第2流速計算部24
第2流速計算部24は、上記で更新した断面形状について、流動性材料である未加硫ゴムの流速分布を求める。流速分布の計算は、第1流速計算部14と同様であり、公知の流体ソルバーを用いて実行することができる。
【0048】
(8)判定部26
判定部26は、第2流速計算部24で求めた流速分布に基づく特性の収束性を判定し、収束していなければ、レベルセット関数φの分布を上記で更新した断面形状のものに更新した上で、形状更新部22と第2流速計算部24の処理を繰り返すように制御し、収束していれば、収束した前記特性を与える断面形状を、最適化した断面形状と判定する。
【0049】
この実施形態では、判定部26は、上記特性として、第2流速計算部24で求めた流速分布から、変更対象領域ROの速度勾配を求め、この速度勾配が目標値としての所定の値以下となっているかどうかを判定し、所定の値以下であれば、収束していると判定して、その解を最適解として特定する。
【0050】
(9)出力部28
出力部28は、上記により得られた最適解としての断面形状を出力する。断面形状の出力は、ディスプレイによって表示したり、プリンタによって印刷したりすることにより行うことができる。
【0051】
次に、本実施形態に係る設計装置10の動作状態について、図4〜6のフローチャートに基づいて説明する。
【0052】
ステップS1において、入力部12が、設計対象となる口金の初期断面形状A(図7(a)参照)を含めた押し出し機における流路の形状データを取得する。
【0053】
次いで、ステップS2において、第1流速計算部14が、該初期断面形状Aでの流速分布(図7(b)参照)を求める。そしてステップS3に進む。
【0054】
ステップS3において、領域特定部16が、上記で得られた流速分布から、x軸方向で分割した各領域R1、R2、R3、R4の速度勾配(dU/dx)を計算し(図8参照)、速度勾配の高い領域を、断面形状に変更を加えるべき変更対象領域ROとして特定する。そしてステップS4に進む。
【0055】
ステップS4において、初期関数計算部18が、初期断面形状Aに対するレベルセット関数φの分布を求める。
【0056】
詳細には、図5に示すように、ステップS20において、仮想セル設定部40が、初期断面形状Aに対して、複数の要素に分割した格子状の仮想セルCを重ね合わせて、仮想セルCを設定するとともに、x−yの絶対座標系を定義する(図9参照)。
【0057】
また、ステップS21において、境界点列設定部42が、初期断面形状Aの境界線上に境界点列を作成する(図10参照)。
【0058】
そして、ステップS22において、第1関数計算部44が、初期断面形状Aの内側における要素毎に、要素の評価点Pと最短距離にある境界点Qを特定し、これら点Pと点Qの間の最短距離を値とするレベルセット関数φを計算する(図11参照)。
【0059】
次いで、ステップS23において、等位線計算部46が、境界線から所定の距離にある等位線を、レベルセット関数φの値を用いて計算することで、レベルセット関数の分布を求める(図13参照)。
【0060】
このようにしてレベルセット関数の分布を求めた後、図4に示すように、ステップS5において、仮想点列設定部20が、初期断面形状Aの境界線上に仮想点列を設定するとともに、上記変更対象領域ROに含まれる仮想点列F1を特定する(図14参照)。そして、以下の最適化問題に関連して、変更対象領域ROに含まれる仮想点F1の位置を設計変数とし、変更対象領域ROでの速度勾配を最小化することを目的関数とし、口金の断面積が一定の範囲内にあることを制約条件として定義する。
【0061】
次いで、ステップS6において、形状更新部22は、レベルセット関数φの分布に基づき、上記変更対象領域ROの仮想点列を移動させ(図15参照)、ステップS7において、移動させた断面形状に対してレベルセット関数の分布を計算し、ステップS8において、断面形状が制約条件を満たしているかの判定を行い、満たしていない場合にはステップS6に戻り、満たしている場合には当該断面形状を更新後の断面形状に設定してステップS9に進む。
【0062】
これらのステップS6〜S8について、より具体的な動作状態を図6に基づいて説明する。
【0063】
まず、ステップS30において、仮想点列移動部50が、多元配置法などのサンプリングにより、仮想点列の位置の組合せを決定する。ここで組合せ数をN個とする(Nは2以上の整数)。
【0064】
次いで、ステップS31において、第2関数計算部52が、各組合せについて、レベルセット関数の分布を求めるとともに、口金断面積Ma1と、上記変更対象領域ROにおける指定領域Kの面積Mr1を計算する(図16(c)参照)。すなわち、上記N組の組合せの全てについて、Ma1及びMr1の面積を計算する。その際、初期断面形状についても、変更対象領域ROにおける指定領域Kの面積Mr0を計算する(図16(b)参照)。
【0065】
そして、ステップS32において、抽出部54が、上記N組の組合せの中から、変更対象領域ROにおける指定領域Kの面積Mr1が最大となる断面形状を抽出する。
【0066】
その後、ステップS33において、制約条件判定部56は、抽出した断面形状が所定の制約条件を満たしているか、即ち、抽出した断面形状についての断面積Ma1が、制約条件として与えられた口金断面積の規定範囲内にあるかどうかを判定する。そして、範囲内でなければ、ステップS30に戻り、範囲内に入るまで、ステップS30〜S33を繰り返す。一方、範囲内にあれば、ステップS34に進み、上記で抽出した断面形状を更新後の断面形状として取得する。すなわち、制約条件を満たす仮想点列の位置データを取得する。
【0067】
このようにして更新した断面形状を取得した後、ステップS9において、第2流速計算部24が、上記で更新した断面形状での流速分布を求める。そして、ステップS10に進む。
【0068】
その後、ステップS10において、判定部26が、第2流速計算部24で求めた流速分布から、更新後の断面形状について、上記変更対象領域R0における速度勾配を求める。そして、ステップS11において、この速度勾配が目標値としての所定の値以下となっているかどうかを判定する。該速度勾配が所定の値以下でなければ、収束していないと判断して、ステップS6に戻り、ステップS6〜S11を繰り返す。一方、該速度勾配が所定の値以下であれば、収束していると判断して、その解を最適解として特定し、ステップS12に進む。なお、ステップS6〜S11の繰り返しには、最適化手法を用いることができる。
【0069】
ステップS12において、出力部28が、上記により得られた最適解としての断面形状を出力する。図16(c)が最適化した口金の断面形状の一例を示したものであり、均一な押し出しが可能な口金断面形状が得られた。
【0070】
以上よりなる本実施形態によれば、壁面からの距離が遠くなるほど、抵抗を受けにくくなって流速が大きくなるという現象に基づき、流速が小さい領域において、レベルセット関数φの分布を利用して、流速が大きくなるように形状を変化させるので、目標の流量配分となるように効率的に形状変更することができ、よって、口金の断面形状を効率的に設計することができる。
【0071】
また、レベルセット関数φを利用する場合、ゼロ等高線に相当する境界線上の仮想点列を用いて、該仮想点列を移動させることで形状を更新するので、断面形状の表現自由度が高く、そのため、高精度な断面形状の設計が可能である。例えば、従来、図18(a)に示す初期断面形状を修正する場合、図18(b)に示すように、肩部となる点Sを上方に移動させており、単に「点」での修正であったが、本実施形態によれば「点列」での修正が可能であり、より高精度な設計が可能である。
【0072】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る設計装置10について図17に基づいて説明する。
【0073】
本実施形態と第1実施形態の異なる点は、最適化問題において、変更対象領域ROの速度勾配を最小化することを目的関数とする代わりに、押し出し機の入口部での圧力ヘッドを最小化することを目的関数とした点である。
【0074】
すなわち、本実施形態では、粘弾性流体の押し出し機を想定し、押し出し機の入口部における圧力ヘッドを低減するために、高精度な口金形状を効率的に設計することを目的とする。入口部における圧力ヘッドを低減することができれば、出口部との差圧が小さくなって、粘弾性材料の剪断による発熱が抑えられ、エネルギーコストを低減することができる。
【0075】
一般的に圧力と速度の関係は,ベルヌーイの定理により理解できる。具体的には、流路内の入口から出口までの同一流線では、どの位置においても、速度ヘッド(速度のエネルギ)と圧力ヘッド(圧力エネルギ)と位置ヘッド(位置エネルギ)は保存されることが知られている。したがって、圧力ヘッドを低下させるには、速度ヘッドを高くすればよい。速度に関しては、第1実施形態で説明したように、壁面からの距離に応じて、壁面抵抗の影響が異なり、距離が遠いほど、流速が大きくなる傾向にある。そのため、第1実施形態と同様に流速が小さい領域を特定し、レベルセット関数φの分布を利用して、その領域で流速が大きくなるように形状を変化させれば、全体の流速が大きくなることで、圧力ヘッドを低下させることができる。
【0076】
本実施形態では、図17に示すように、上記ステップS2とS3の間に、ステップS41が挿入されている。ステップS41では、初期断面形状を持つ押し出し機について、その入口部での圧力(圧力ヘッド)を求める。圧力ヘッドは、上記した公知の流体ソルバーを用いて算出することができる。そのため、本実施形態では、上記第1流速計算部14が、流速分布とともに圧力ヘッドを算出する。
【0077】
ステップS3からステップS9までは第1実施形態と同じである。そして、ステップS10に替えて、本実施形態では、ステップS42において、更新した断面形状を持つ押し出し機について、その入口部での圧力ヘッドを求める。そのため、本実施形態では、判定部26が、第2流速計算部24で求めた流速分布から、入口部での圧力ヘッドを求める。
【0078】
そして、ステップS11において、判定部26は、この圧力ヘッドの値が目標値としての所定の値以下となっているかどうかを判定する。すなわち、判定部26において収束性の判定対象となる「流速分布に基づく特性」として、本実施形態では、入口部での圧力ヘッドを用いている。そして、該圧力ヘッドが所定の値以下でなければ、収束していないと判断して、ステップS6に戻り、ステップS6,S7,S8,S9,S42及びS11を繰り返す。一方、該圧力ヘッドが所定の値以下であれば、収束していると判断して、その解を最適解として特定し、ステップS12に進む。
【0079】
第2実施形態について、その他の構成は第1実施形態と同様であるため、説明は省略する。第2実施形態によれば、レベルセット関数の分布を利用することにより、押し出し機の入口部での圧力ヘッドを低減した高精度な口金形状を効率的に設計することができる。
【0080】
[その他の実施形態]
上記実施形態では、流動性材料として未加硫ゴムについて説明したが、壁面抵抗により壁面からの距離に応じて流速が低下しやすい流動性材料に対して好適に適用することができ、可塑化されたゴム及び/又は樹脂を含む粘弾性流体を始めとして、様々な流動性材料に適用することができる。
【0081】
また、上記実施形態では、押し出し機の口金断面形状に対する設計について説明したが、本発明は、これに限定されず、流動性材料が流れる各種流路の断面形状の設計に用いることができる。
【0082】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
10…設計装置 14…第1流速計算部 16…領域特定部
18…初期関数計算部 20…仮想点列設定部 22…形状更新部
24…第2流速計算部 26…判定部
A…初期断面形状 C…仮想セル F…仮想点
K…指定領域 P…評価点 Q…境界点
RO…変更対象領域 T…参照等位線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性材料が流れる流路の断面形状を設計するための設計装置において、
流路の初期断面形状について流動性材料の流速分布を求める第1流速計算部と、
得られた流速分布に基づいて、前記流路の断面形状に変更を加えるべき変更対象領域を特定する領域特定部と、
前記初期断面形状に対するレベルセット関数の分布を求める初期関数計算部と、
前記初期断面形状の境界線上に仮想点列を設定する仮想点列設定部と、
前記レベルセット関数の分布に基づき、前記変更対象領域の前記仮想点列を移動させて、前記流路の断面形状を更新する形状更新部と、
前記更新した断面形状について前記流動性材料の流速分布を求める第2流速計算部と、
前記第2流速計算部で求めた流速分布に基づく特性の収束性を判定し、収束していなければ、前記形状更新部及び第2流速計算部の処理を繰り返すように制御し、収束していれば、収束した前記特性を与える断面形状を、最適化した断面形状と判定する判定部と、
を有することを特徴とする流路断面形状の設計装置。
【請求項2】
前記初期関数計算部は、複数の要素に分割した仮想セルを前記初期断面形状と重ね合わせ、前記初期断面形状の境界線上に境界点列を作成し、前記初期断面形状の内側における前記各要素の評価点と最短距離にある境界点列の中の境界点を特定し、前記最短距離を値とするレベルセット関数を前記要素毎に計算し、前記境界線から所定の距離にある等位線を、レベルセット関数の値を用いて計算することで、前記レベルセット関数の分布を求めることを特徴とする請求項1記載の設計装置。
【請求項3】
前記形状更新部は、前記変更対象領域において、前記レベルセット関数の値が所定以上である領域の面積が増えるように、前記仮想点列を移動させることを特徴とする請求項1又は2記載の設計装置。
【請求項4】
前記形状更新部は、前記変更対象領域に含まれる前記仮想点列を、前記流路の断面形状における長手方向に対して垂直な方向のみに移動させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の設計装置。
【請求項5】
前記領域特定部は、前記流路の断面形状における長手方向を複数の領域に分割し、分割した各領域の速度勾配を求め、該速度勾配が所定以上の大きさの領域を前記変更対象領域として特定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の設計装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記第2流速計算部で求めた流速分布を用いて、前記変更対象領域での速度勾配を求め、該速度勾配が所定の値以下となっていれば、収束していると判定することを特徴とする請求項5記載の設計装置。
【請求項7】
前記流動性材料が可塑化されたゴム及び/又は樹脂を含む粘弾性流体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の設計装置。
【請求項8】
設計する流路の断面形状が押し出し機の出口部における口金断面形状である請求項7記載の設計装置。
【請求項9】
前記判定部は、前記第2流速計算部で求めた流速分布を用いて、前記押し出し機の入口部での圧力ヘッドを求め、該圧力ヘッドが所定の値以下となっていれば、収束していると判定することを特徴とする請求項8記載の設計装置。
【請求項10】
流動性材料が流れる流路の断面形状を設計する設計方法において、
流路の初期断面形状について流動性材料の流速分布を求める第1流速計算ステップと、
得られた流速分布に基づいて、前記流路の断面形状に変更を加えるべき変更対象領域を特定する領域特定ステップと、
前記初期断面形状に対するレベルセット関数の分布を求める初期関数計算ステップと、
前記初期断面形状の境界線上に仮想点列を設定する仮想点列設定ステップと、
前記レベルセット関数の分布に基づき、前記変更対象領域の前記仮想点列を移動させて、前記流路の断面形状を更新する形状更新ステップと、
前記更新した断面形状について前記流動性材料の流速分布を求める第2流速計算ステップと、
前記第2流速計算ステップで求めた流速分布に基づく特性の収束性を判定し、収束していなければ、前記形状更新ステップ及び第2流速計算ステップの処理を繰り返すように制御し、収束していれば、収束した前記特性を与える断面形状を、最適化した断面形状と判定する判定ステップと、
を有することを特徴とする流路断面形状の設計方法。
【請求項11】
流動性材料が流れる流路の断面形状を設計する設計プログラムにおいて、
コンピュータに、
流路の初期断面形状について流動性材料の流速分布を求める第1流速計算機能と、
得られた流速分布に基づいて、前記流路の断面形状に変更を加えるべき変更対象領域を特定する領域特定機能と、
前記初期断面形状に対するレベルセット関数の分布を求める初期関数計算機能と、
前記初期断面形状の境界線上に仮想点列を設定する仮想点列設定機能と、
前記レベルセット関数の分布に基づき、前記変更対象領域の前記仮想点列を移動させて、前記流路の断面形状を更新する形状更新機能と、
前記更新した断面形状について前記流動性材料の流速分布を求める第2流速計算機能と、
前記第2流速計算機能で求めた流速分布に基づく特性の収束性を判定し、収束していなければ、前記形状更新機能及び第2流速計算機能の処理を繰り返すように制御し、収束していれば、収束した前記特性を与える断面形状を、最適化した断面形状と判定する判定機能と、
を実現するための流路断面積形状の設計プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−105259(P2013−105259A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247698(P2011−247698)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】