説明

流量計のための高速周波数・位相推定

【課題】1つのセンサ信号から周波数を決定すること。
【解決手段】流量計においてセンサ信号を処理し、質量流量、密度又は体積流量を計算する計器電子回路(20)は、第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取るインタフェース(201)と、インタフェース(201)と通信するとともにヒルベルト変換を用いて第1センサ信号から90°位相変位を生成し、90°位相変位、第1センサ信号及び第2センサ信号から位相差を計算するように構成された処理システム(203)とを備える。周波数は第1センサ信号及び90°位相変位から計算される。第2の90°位相変位は第2センサ信号から生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量計において1つ又は複数のセンサ信号を処理する計器電子回路及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1985年1月1日のJ.E.スムス他に発行された米国特許第4,491,025号及び1982年2月11日のJ.E.スミスに対する再発行特許第31,450号に開示されるように、パイプラインを通して流れる材料の質量流量、密度及び体積流量や他の情報を測定するためにコリオリ質量流量計を使用することが知られている。これらの流量計は異なる構成の1つ又は複数の流管を有する。各導管構成は、例えば、単純な曲げモード、捻れモード、ラジアルモード、連成モードを含む自然振動モードの組を有するものとみなされ得る。典型的なコリオリ質量流量測定の用途では、導管構成は、材料が導管を通して流れるときに1つ又は複数の振動モードで励振され、導管の運動が導管に沿って離間する地点において測定される。
【0003】
材料で充填されたシステムの振動モードは、流管の質量と流管内の材料の質量との組合せによって部分的には規定される。材料は流量計の入口側の接続パイプラインから流量計内に流れる。その後、材料は1つ又は複数の流管を通して送られ、流量計を出て、出口側に接続されたパイプラインに入る。
【0004】
駆動装置は流管に力を加える。力は流管を振動させる。流量計を通って流れる材料が存在しないとき、流管に沿う全ての地点は同相で振動する。材料が流管を通って流れ始めるにつれて、コリオリ加速によって、流管に沿う各地点は流管に沿う他の地点に対して異なる位相を有するようになる。流管の入口側の位相は駆動装置より遅れるが、出口側の位相は駆動装置より進む。センサが流管上の異なる地点に設置され、異なる地点において、流管の運動を表す正弦波信号を生成する。2つのセンサ信号間の位相差は、1つ又は複数の流管を通して流れる材料の質量流量に比例する。1つの従来技術の手法では、離散フーリエ変換(DFT)又は高速フーリエ変換(FFT)を使用してセンサ信号間の位相差を決定する。位相差と流管組立体の振動周波数応答とを使用して、質量流量が得られる。
【0005】
1つの従来技術の手法では、振動駆動装置系に送出される周波数を使用すること等により、独立した基準信号を使用してピックオフ信号周波数が決定される。別の従来技術の手法では、ピックオフセンサによって生成された振動応答周波数を、ノッチフィルタにおける当該周波数にセンタリングすることによって決定することができ、従来技術の流量計は、ノッチフィルタのノッチをピックオフセンサ周波数に維持しようと試みる。この従来技術の技法は、流量計内の流動材料が均一であり、得られるピックオフ信号周波数が比較的安定である静止状況下では、かなりうまく働く。しかし、従来技術の位相測定は、流動材料が液体と固体を含んでいたり液体流動材料内に気泡が存在する2相流などの、流動材料が均一でないときには不利を招く。こうした状況では、従来技術によって決定された周波数は、急速に変動する可能性がある。速く且つ大きな周波数遷移の状態の期間には、ピックオフ信号はフィルタ帯域幅の外に移動することができるので、間違った位相及び周波数測定が生じる。これは、流量計が空と充満の状況を交互に繰り返し動作する、空−充満−空バッチ処理においても問題となる。同様に、センサの周波数が急速に動く場合、復調プロセスは実際の周波数又は測定された周波数に追従することができないことになり、間違った周波数での復調を生じる。理解されるように、決定された周波数が間違っている又は不正確である場合、密度や体積流量などのその後導出される値もまた間違いであり、不正確であることになる。更に、その後の流量特性の決定において、誤差が混合され得る。
【0006】
従来技術においては、ピックオフ信号はデジタル化され、ノッチフィルタを実施するようデジタル的に操作されることができる。ノッチフィルタは狭い周波数帯域だけを許容する。したがって、目標周波数が変化しているとき、ノッチフィルタは或る期間にわたって目標信号に追従することができないことがある。典型的には、デジタルノッチフィルタの実施形態は、変動する目標信号に追従するのに1〜2秒かかる。従来技術は周波数を決定するための時間を必要とするので、結果として、周波数及び位相の決定は誤差を含むだけでなく、誤差測定は、誤差及び/又は2相流が実際に起こる時間範囲を超える時間範囲を包含することになる。これはノッチフィルタの応答の相対的な遅さによる。
【0007】
その結果、従来技術の流量計は、流量計における流動材料の2相流の期間に、ピックオフセンサ周波数を正確且つ迅速に首尾よく追跡又は決定することはできない。したがって、従来技術は決定されたピックオフ周波数を使用して位相差を導出するので、位相決定も同様に遅く且つ誤差を招きやすい。したがって、周波数決定におけるいずれの誤差も、位相決定に混合される。その結果、周波数決定及び位相決定における誤差が増加し、質量流量を決定するときの誤差の増加をもたらす。更に、決定された周波数値を使用して密度値を決定する(密度は、2乗された周波数にわたってほぼ1に等しい)ので、周波数決定における誤差は密度決定において反復され又は混合される。これは、質量流量を密度で割った値に等しい体積流量の決定についても当てはまる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術の計器電子回路は、ヨコイ等に対する米国特許第5,578,764号に示される。ヨコイの特許は、上流側と下流側のピックオフセンサ信号を受け取り、両信号を使用して信号間の位相差を計算するヒルベルト変換器21及び三角関数計算器31を開示する。ヒルベルト変換器21は両方のピックオフセンサ信号を90°だけ位相変位させ、両方の位相変位信号が位相差計算で使用される。ヨコイの特許においては、こうして得られた位相差は、独立に測定された外部周波数と共に、質量流量を計算するのに使用される。したがって、ヨコイの従来技術は、非常に正確な質量流量を計算するのに必要とされる周波数成分を迅速且つ正確に導出するものではない。更に、ヨコイの特許は周波数決定を待たなければならないため、質量流量を迅速に生成することができない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
流量計においてセンサ信号を処理する計器電子回路及び方法を提供することによって、上記及び他の問題が解決され、当技術分野の進歩が達成される。
流量計においてセンサ信号を処理する計器電子回路が、本発明の実施の形態に従って提供される。この計器電子回路は、第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取るインタフェース、及び、インタフェースと通信し、第1センサ信号から90°位相変位を生成し、90°位相変位を使用して位相差を計算するように構成された処理システムを備える。
【0010】
流量計においてセンサ信号を処理する計器電子回路が、本発明の実施の形態に従って提供される。この計器電子回路は、第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取るインタフェース、及び、インタフェースと通信し、第1センサ信号から第1の90°位相変位を生成し、第1の90°位相変位を使用して周波数を計算するように構成された処理システムを備える。
【0011】
流量計においてセンサ信号を処理する方法が、本発明の実施の形態に従って提供される。この方法は、第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取るステップと、第1センサ信号から90°位相変位を生成するステップと、90°位相変位を使用して位相差を計算するステップとを含む。
【0012】
流量計においてセンサ信号を処理する方法が、本発明の実施の形態に従って提供される。この方法は、第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取るステップと、第1センサ信号から90°位相変位を生成するステップと、90°位相変位を使用して周波数を計算するステップとを含む。
【0013】
流量計においてセンサ信号を処理する方法が、本発明の実施の形態に従って提供される。この方法は、第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取るステップと、第1センサ信号から90°位相変位を生成するステップと、90°位相変位を使用して位相差を計算するステップと、90°位相変位を使用して周波数を計算するステップとを含む。
【0014】
流量計においてセンサ信号を処理する方法が、本発明の実施の形態に従って提供される。この方法は、第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取るステップと、第1センサ信号から90°位相変位を生成するステップと、90°位相変位を使用して位相差を計算するステップと、90°位相変位を使用して周波数を計算するステップと、質量流量、密度又は体積流量のうちの1つ又は複数を計算するステップとを含む。
【0015】
流量計においてセンサ信号を処理する方法が、本発明の実施の形態に従って提供される。この方法は、第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取るステップと、第1センサ信号から第1の90°位相変位を生成し、第2センサ信号から第2の90°位相変位を生成するステップと、第1の90°位相変位又は第2の90°位相変位を使用して周波数を計算するステップとを含む。
【0016】
流量計においてセンサ信号を処理する方法が、本発明の実施の形態に従って提供される。この方法は、第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取るステップと、第1センサ信号から第1の90°位相変位を生成し、第2センサ信号から第2の90°位相変位を生成するステップと、第1の90°位相変位又は第2の90°位相変位を使用して周波数を計算するステップと、質量流量、密度又は体積流量のうちの1つ又は複数を計算するステップとを含む。
【0017】
流量計においてセンサ信号を処理する方法が、本発明の実施の形態に従って提供される。この方法は、第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取るステップと、第1センサ信号から第1の90°位相変位を生成し、第2センサ信号から第2の90°位相変位を生成するステップと、第1の90°位相変位又は第2の90°位相変位を使用して周波数を計算するステップと、第1の90°位相変位及び第2の90°位相変位を使用して位相差を計算するステップと、質量流量、密度又は体積流量のうちの1つ又は複数を計算するステップとを含む。
【0018】
同じ参照数字は全図面において同じ要素を表す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の例におけるコリオリ流量計を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る計器電子回路を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る、流量計においてセンサ信号を処理する方法のフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態に係る計器電子回路を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る、流量計において第1センサ信号及び第2センサ信号を処理する方法のフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態に係る処理システムの一部分のブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るヒルベルト変換ブロックの詳細を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る解析ブロックの独立な分岐のブロック図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る解析ブロックの独立な分岐のブロック図である。
【図10】正常状態の下での流量計のピックオフセンサ信号の電力スペクトル密度プロットである。
【図11】単一の位相変位の実施の形態に係るヒルベルト変換ブロックを示す図である。
【図12】単一の位相変位の実施の形態に対する解析ブロックを示す図である。
【図13】従来技術と比較しての本発明のセンサ処理を示しており、それぞれの時間差(Δt)値が比較される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1〜図13及び以下の説明は、本発明の最良の実施形態を製造し、使用する方法を当業者に教示するための特定の例を示す。本発明の原理を教示するために、いくつかの従来の態様は簡略化され又は省略された。本発明の範囲内に入るこれらの例からの変形を、当業者は理解するであろう。当業者は理解するように、以下で説明する特徴は、種々のやり方で組み合わされて、本発明の複数の変形を形成する。その結果、本発明は、以下で説明する特定の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲及びその均等物によってのみ限定される。
【0021】
図1は、計器組立体10及び計器電子回路20を備えるコリオリ流量計5を示す。計器組立体10はプロセス材料の質量流量と密度に応答する。計器電子回路20はリード線100を介して計器組立体10に接続され、経路26を通じて密度、質量流量、温度情報及び本発明に関連しない他の情報を提供する。コリオリ流量計の構造が記述されるが、当業者には明らかなように、本発明は、コリオリ質量流量計によって提供される更なる測定能力なしに、振動型管密度計として実施されることができる。
【0022】
計器組立体10は、一対のマミホールド150及び150’、フランジネック110及び110’を有するフランジ103及び103’、一対の平行な流管130及び130’、駆動機構180、温度センサ190、ならびに、一対の速度センサ170L及び170Rを備える。流管130及び130’は、流管取付けブロック120及び120’において互いに向かって収束する、本質的に真っ直ぐな2つの入口脚部131及び131’ならびに出口脚部134及び134’を有する。流管130及び130’は、流管の長さに沿って2つの対称な場所で曲がり、流管の長さ全体を通して本質的に平行である。ブレースバー140及び140’は、各流管がその周りに振動する軸W及びW’を規定するのに役立つ。
【0023】
流管130及び130’の側脚部131、131’及び134、134’は、流管取付けブロック120及び120’に固定的に取り付けられ、これらのブロックは、マニホールド150及び150’に固定的に取り付けられる。これは、コリオリ計器組立体10を通る連続した閉材料経路を提供する。
【0024】
穴102及び102’を有するフランジ103及び103’が、入口端104及び出口端104’を介して、測定されるプロセス材料を運ぶプロセスライン(図示せず)に接続されると、フランジ103内のオリフィス101を通して流量計の端104に入る材料は、マニホールド150を通って、表面121を有する流管取付けブロック120に送られる。マニホールド150内で材料は分割され、流管130及び130’を通るように送られる。流管130及び130’を出ると、プロセス材料はマニホールド150’内で単一の流れに再結合され、その後、ボルト穴102’を有するフランジ103’によって接続される出口端104’へ送られ、プロセスライン(図示せず)に入る。
【0025】
流管130及び130’は、それぞれの曲げ軸W−W及びW’−W’の周りに実質的に同じ質量分布、慣性モーメント及びヤング率を有するように選択され、流管取付けブロック120及び120’に適切に取り付けられる。これらの曲げ軸はブレースバー140及び140’を通る。流管のヤング率は温度と共に変化するが、この変化は流量及び密度の計算に影響を及ぼすので、流管の温度を連続して測定するために、抵抗性温度検出器(RTD)190が流管130’に取り付けられる。流管の温度、したがって、RTDを通過する所与の電流についてRTDの両端に現れる電圧は、流管を通過する材料の温度によって決まる。RTDの両端に現れる温度依存性の電圧は、流管の温度の任意の変化による流管130及び130’の弾性率の変化が補償されるよう、周知の方法で計器電子回路20によって使用される。RTDはリード線195によって計器電子回路20に接続される。
【0026】
流管130及び130’は、それぞれの曲げ軸W及びW’の周りに反対方向に、流量計のいわゆる第1の位相はずれ曲げモードで、駆動装置180によって駆動される。この駆動機構180は、流管130’に取り付けられた磁石と、流管130に取り付けられて両方の流管を振動させるよう交流電流が流される対向するコイルなどの、周知の多くの配置構成のうちのいずれか1つを備え得る。計器電子回路20によって、適切な駆動信号がリード線185を介して駆動機構180に印加される。
【0027】
計器電子回路20は、リード線195上のRTD温度信号と、リード線165L上に現れる左速度信号と、リード線165R上に現れる右速度信号とを受け取る。計器電子回路20は、要素180を駆動して管130及び130’を振動させるための、リード線185上に現れる駆動信号を生成する。計器電子回路20は左右の速度信号とRTD信号を処理し、計器組立体10を通過する材料の質量流量及び密度を計算する。この情報は、他の情報と共に、計器電子回路20により経路26を通じて利用手段29に与えられる。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態に係る計器電子回路20を示す。計器電子回路20はインタフェース201及び処理システム203を備えることができる。計器電子回路20は計器組立体10からピックオフ/速度センサ信号などの第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取る。計器電子回路20は質量流量計として動作することができ、又は、コリオリ流量計として動作することを含む密度計として動作することができる。計器電子回路20は第1センサ信号及び第2センサ信号を処理して、計器組立体10を通って流れる流動材料の流れ特性を得る。例えば、計器電子回路20は例えばセンサ信号から位相差、周波数、時間差(Δt)、密度、質量流量及び体積流量のうちの1つ又は複数を決定することができる。更に、本発明に従って、他の流れ特性を決定することができる。決定については以下で説明する。
【0029】
位相差決定及び周波数決定は、従来技術の決定よりも遙かに高速且つ正確で信頼性が高い。一つの実施の形態では、位相差決定及び周波数決定は、いかなる周波数基準信号をも必要とすることなく、唯一つのセンサ信号の位相変位から直接に導出される。これは、有利なことに、流れ特性を計算するのに必要とされる処理時間を減少させる。別の実施の形態では、位相差は両方のセンサ信号の位相変位から導出され、周波数は唯一つの位相変位信号から導出される。これは両方の流れ特性の精度を向上させることになり、両方の流れ特性を従来技術よりずっと速く決定することができる。
【0030】
典型的には、従来技術の周波数決定方法は実施に1〜2秒を要する。対照的に、本発明による周波数決定は50ミリ秒(ms)程度の短時間で実施されることができる。処理システムの型式及び構成、振動応答のサンプリング速度、フィルタのサイズ、デシメーション率などに依存して、更に高速な周波数決定が考えられる。50msの周波数決定速度において、本発明による計器電子回路20は従来技術より約40倍速い。
【0031】
インタフェース201は、図1のリード線100を介して速度センサ170L又は速度センサ170Rからセンサ信号を受け取る。インタフェース201は、任意の様式のフォーマッティング、増幅、バッファリングなどの、任意の必要な又は所望の信号調整を実施することができる。代わりに、信号調整の一部又は全てを理システム203で実施することができる。
【0032】
更に、インタフェース201は計器電子回路20と外部デバイスとの間の通信を可能にする。インタフェース201は電子通信、光通信又は無線通信の任意の様式を行うことができる。
【0033】
一つの実施の形態におけるインタフェース201はデジタイザ202と結合され、センサ信号はアナログセンサ信号を含む。デジタイザ202はアナログセンサ信号をサンプリングし、デジタル化してデジタルセンサ信号を生成する。また、デジタイザ202は所要の任意のデシメーションを実施することができ、デジタルセンサ信号は所要の信号処理量と処理時間を低減するためにデシメーションされる。デシメーションは、以下で一層詳細に説明される。
【0034】
処理システム203は計器電子回路20の動作を実行し、流量計組立体10からの流れ測定値を処理する。処理システム203は1つ又は複数の処理ルーチンを実行し、それによって流れ測定値を処理して1つ又は複数の流れ特性を生成する。
【0035】
処理システム203は、汎用コンピュータ、マイクロ処理システム、論理回路或いは他の汎用又は専用の処理デバイスを備えることができる。処理システム203は複数の処理デバイスに分散されることができる。処理システム203は、記憶システム204などの任意の様式の一体化された又は独立した電子記憶媒体を備えることができる。
【0036】
処理システム203は、センサ信号210を処理してセンサ信号210から1つ又は複数の流れ特性を決定する。1つ又は複数の流れ特性は、例えば、流動材料についての位相差、周波数、時間差(Δt)、質量流量及び/又は密度を含むことができる。
【0037】
図示する実施の形態においては、処理システム203は2つのセンサ信号210及び211と単一のセンサ信号位相変位213とから流れ特性を決定する。処理システム203は、2つのセンサ信号210及び211と単一の信号位相変位213から、少なくとも位相差と周波数を決定することができる。その結果、本発明による処理システム203は、第1又は第2の位相変位したセンサ信号(例えば、上流側又は下流側のピックオフ信号の一方)を処理して、流動材料についての位相差、周波数、時間差(Δt)及び/又は質量流量を決定することができる。
【0038】
記憶システム204は、流量計パラメータやデータ、ソフトウェアルーチン、定数値及び変数値を記憶することができる。一つの実施の形態においては、記憶システム204は処理システム203によって実行されるルーチンを含む。一つの実施の形態では、記憶システム204は、位相変位ルーチン212、位相差ルーチン215、周波数ルーチン216、時間差(Δt)ルーチン217、及び流れ特性ルーチン218を記憶する。
【0039】
一つの実施の形態では、記憶システム204は、コリオリ流量計5などの流量計を動作させるのに使用される変数を記憶する。一つの実施の形態における記憶システム204は、速度/ピックオフセンサ170L及び170Rから受け取られる第1センサ信号210及び第2センサ信号211などの変数を記憶する。更に、記憶システム204は、流れ特性を決定するために生成される90°位相変位213を記憶することができる。
【0040】
一つの実施の形態では、記憶システム204は、流れ測定値から得られた1つ又は複数の流れ特性を記憶する。一つの実施の形態の記憶システム204は、センサ信号210から全て決定される、位相差220、周波数221、時間差(Δt)222、質量流量223、密度224及び体積流量225などの流れ特性を記憶する。
【0041】
位相変位ルーチン212は入力信号すなわちセンサ信号210に対して90°位相変位を実施する。一つの実施の形態の位相変位ルーチン212はヒルベルト変換を実施する(これについては後述する)。
【0042】
位相差ルーチン215は単一の90°位相変位213を使用して位相差を決定する。位相差を計算するために更なる情報を使用することもできる。一つの実施の形態の位相差は、第1センサ信号210、第2センサ信号211及び90°位相変位213から計算される。決定された位相差は記憶システム204内の位相差220に記憶されることができる。位相差は、90°位相変位213から決定されるとき、従来技術よりずっと速く計算され取得されることができる。これは、流量が大きい流量計用途や多相流が起こる流量計用途において決定的な相違を提供することができる。加えて、位相差は、センサ信号210又は211の周波数に独立に決定されることができる。更に、位相差は周波数に独立に決定されるので、位相差の誤差成分は周波数決定の誤差成分を含まない。すなわち、位相差測定値に混合される誤差が存在しない。その結果、位相差誤差は従来技術の位相差と比べて減少する。
【0043】
周波数ルーチン216は90°位相変位213から(第1センサ信号210又は第2センサ信号211によって示されるような)周波数を決定する。決定された周波数は記憶システム204内の周波数221に記憶されることができる。周波数は、単一の90°位相変位213から計算されるとき、従来技術よりずっと速く計算され取得されることができる。これは、流量が大きい流量計用途又は多相流が起こる流量計用途において決定的な相違を提供することができる。
【0044】
時間差(Δt)ルーチン217は第1センサ信号210と第2センサ信号211との間の時間差(Δt)を決定する。時間差(Δt)は記憶システム204内の時間差(Δt)222に記憶されることができる。時間差(Δt)は、実質的には、決定された位相を決定された周波数で割った値を含むので、質量流量を決定するのに使用される。
【0045】
流れ特性ルーチン218は1つ又は複数の流れ特性を決定することができる。流れ特性ルーチン218は、例えばこれらの更なる流れ特性を得るために、決定された位相差220及び決定された周波数221を使用することができる。理解されるように、これらの決定のためには、例えば、質量流量又は密度などの更なる情報が必要とされる場合がある。流れ特性ルーチン218は時間差(Δt)222から、したがって位相差220及び周波数221から質量流量を決定することができる。質量流量を決定するための公式は、ティトロウ等に対する米国特許第5,027,662号に示され、参照により本明細書に援用される。質量流量は計器組立体10における流動材料の質量流量に関連付けられる。同様に、流れ特性ルーチン218は密度224及び/又は体積流量225をも決定することができる。決定された質量流量、密度及び体積流量は、それぞれ記憶システム204の質量流量223、密度224及び体積225に記憶されることができる。更に、流れ特性は計器電子回路20によって外部の装置に送信されることができる。
【0046】
図3は、本発明の実施の形態に係る流量計においてセンサ信号を処理する方法のフローチャート300である。ステップ301にて、第1センサ信号及び第2センサ信号が受け取られる。第1センサ信号は上流側又は下流側のピックオフセンサ信号を含むことができる。
【0047】
ステップ302において、センサ信号が調節される。一つの実施の形態では、調節は雑音及び不要の信号を除去するためのフィルタリングを含むことができる。一つの実施の形態では、フィルタリングは、流量計の予想される基本周波数を中心とするバンドパスフィルタリングを含むことができる。更に、増幅やバッファリングなどのような他の調節動作を実施することができる。センサ信号がアナログ信号を含む場合、ステップは、更に、デジタルセンサ信号を生成するために実施されるサンプリング、デジタル化及びデシメーションの任意の様式を含むことができる。
【0048】
ステップ303において、単一の90°位相変位が生成される。90°位相変位は、センサ信号の90°位相変位を含む。90°位相変位は、位相変位機構又は操作の任意の様式によって実施されることができる。一つの実施の形態では、90°位相変位はデジタルセンサ信号上で動作するヒルベルト変換を使用して実施される。
【0049】
ステップ304において、位相差は単一の90°位相変位を使用して計算される。位相差を計算するために、更なる情報も使用することができる。一つの実施の形態では、位相差は第1センサ信号、第2センサ信号及び単一の90°位相変位から決定される。位相差は、振動計器組立体10におけるコリオリ効果に起因して生じる応答信号の位相差すなわちピックオフセンサの位相差を含む。
【0050】
その結果の位相差は、計算において周波数値を必要とすることなく決定される。その結果の位相差は、周波数を使用して計算される位相差よりずっと速く取得することができる。結果の位相差は、周波数を使用して計算される位相差より高い精度を有する。
【0051】
ステップ305において、周波数が計算される。有利なことに、本発明による周波数は90°位相変位から計算される。一つの実施の形態における周波数は、90°位相変位と90°位相変位を導出する対応のセンサ信号とを使用する。周波数は第1センサ信号又は第2センサ信号の振動応答周波数である(2つのセンサ信号の周波数は動作時には実質的に同じである)。周波数は、駆動装置180によって生成される振動に対する1つ又は複数の流管の振動周波数応答を含む。
【0052】
こうして導出された周波数は、独立の周波数基準信号を必要とすることなく取得される。周波数は、従来技術よりずっと速い動作において単一の90°位相変位から取得される。その結果の周波数は、従来技術で計算される周波数より高い精度を有する。
【0053】
ステップ306において、流動材料の質量流量が計算される。質量流量は、ステップ304及び305で計算された結果としての位相差及び周波数から計算される。更に、質量流量計算は位相差と周波数から時間差(Δt)を計算することができ、時間差(Δt)は質量流量を計算するのに最終的に使用される。
【0054】
ステップ307において、オプションとして密度を決定することができる。密度は流れ特性の1つとして決定され、例えば周波数から決定されることができる。
ステップ308において、オプションとして体積流量を決定することができる。体積流量は流れ特性の1つとして決定され、例えば、質量流量と密度から決定されることができる。
【0055】
図4は、本発明の実施の形態に係る計器電子回路20を示す。図2と共通の要素は同一の参照数字を有する。この実施の形態における計器電子回路20は第1センサ信号210及び第2センサ信号211を含む。処理システム203は第1(デジタル)センサ信号210及び第2(デジタル)センサ信号211を処理して、これらの信号から1つ又は複数の流れ特性を決定する。先に説明したように、1つ又は複数の流れ特性は、流動材料に対する位相差、周波数、時間差(Δt)、質量流量、密度及び/又は体積流量を含むことができる。
【0056】
図示する実施の形態では、処理システム203は、外部周波数測定を必要とすることなく、また、外部周波数基準信号を必要とすることなく、2つのセンサ信号210及び211だけから流れ特性を決定する。処理システム203は2つのセンサ信号210及び211から少なくとも位相差と周波数とを決定することができる。
【0057】
先に説明したように、記憶システム204は位相変位ルーチン212、位相差ルーチン215、周波数ルーチン216、時間差(Δt)ルーチン217及び流れ特性ルーチン218を記憶する。記憶システム204は第1センサ信号210及び第2センサ信号211を記憶する。また、記憶システム204は、流れ特性を決定するために、センサ信号から生成される第1の90°位相変位213及び第2の90°位相変位を記憶する。先に検討したように、記憶システム204は位相差220、周波数221、時間差(Δt)222、質量流量223、密度224及び体積流量225を記憶する。
【0058】
位相変位ルーチン212は、第1センサ信号210及び第2センサ信号211を含む入力信号に対して90°位相変位を実施する。一つの実施の形態における位相変位ルーチン212はヒルベルト変換を実施する(これについては後述する)。
【0059】
位相差ルーチン215は第1の90°位相変位213及び第2の90°位相変位214を使用して位相差を決定する。位相差を計算するために、更なる情報を使用することもできる。一つの実施の形態における位相差は第1センサ信号210、第2センサ信号211、第1の90°位相変位212及び第2の90°位相変位213から計算される。決定された位相差は、先に説明したように、記憶システム204の位相差220に記憶されることができる。位相差は、第1及び第2の90°位相変位を使用して決定されるとき、従来技術よりずっと速く計算され、取得されることができる。これは、流量が大きい流量計用途や多相流が起こる流量計用途において決定的な相違を提供することができる。更に、位相差はセンサ信号210及び211の周波数に独立に決定されることができる。そのうえ、位相差は周波数とは独立に決定されるので、位相差の誤差成分は周波数決定の誤差成分に影響されない、すなわち、位相差測定値に混合される誤差が存在しない。その結果、位相差誤差は従来技術の位相差と比べて減少する。
【0060】
周波数ルーチン216は、第1の90°位相変位213及び第2の90°位相変位214から(第1センサ信号210又は第2センサ信号211によって示されるような)周波数を決定する。決定された周波数は、先に説明したように、記憶システム204の周波数221に記憶されることができる。周波数は、第1及び第2の90°位相変位から決定されるとき、従来技術よりずっと速く計算され、取得されることができる。これは、流量が大きい流量計用途や多相流が起こる流量計用途において決定的な相違を提供することができる。
【0061】
時間差(Δt)ルーチン217は第1センサ信号210と第2センサ信号211との間の時間差(Δt)を決定する。時間差(Δt)は、先に説明したように、記憶システム204の時間差(Δt)222に記憶されることができる。時間差(Δt)は、実質的には、決定された位相を決定された周波数で割った値を含むので、質量流量を決定するのに使用される。
【0062】
流れ特性ルーチン218は、先に説明したように、質量流量、密度及び/又は体積流量のうちの1つ又は複数を決定することができる。
図5は、本発明の実施の形態に係る流量計において第1センサ信号及び第2センサ信号を処理する方法のフローチャート500である。ステップ501にて、第1センサ信号が受け取られる。一つの実施の形態では、第1センサ信号は上流側又は下流側のピックオフセンサ信号を含む。
【0063】
ステップ502において、第2センサ信号が受け取られる。一つの実施の形態では、第2センサ信号は下流側又は上流側のピックオフセンサ信号(すなわち、第1センサ信号の逆)を含む。
【0064】
ステップ503において、センサ信号を調節することができる。一つの実施の形態では、調節は雑音や不要の信号を除去するためのフィルタリングを含むことができる。一つの実施の形態では、フィルタリングは、先に説明したように、バンドパスフィルタリングを含むことができる。更に、増幅、バッファリングなどのような他の調節動作を実施することができる。センサ信号がアナログ信号を含む場合、ステップは、更に、デジタルセンサ信号を生成するために実施されるサンプリング、デジタル化及びデシメーションの任意の様式を含むことができる。
【0065】
ステップ504において、第1の90°位相変位が生成される。第1の90°位相変位は第1センサ信号の90°位相変位を含む。90°位相変位は任意の様式の機構又は操作によって実施されることができる。一つの実施の形態では、90°位相変位は、デジタルセンサ信号上で動作するヒルベルト変換を使用して実施される。
【0066】
ステップ505にて、第2の90°位相変位が生成される。第2の90°位相変位は第2センサ信号の90°位相変位を含む。第1の90°位相変位と同様に、90°位相変位は任意の様式の機構又は操作によって実施されることができる。
【0067】
ステップ506にて、第1センサ信号と第2センサ信号との間の位相差が、第1の90°位相変位及び第2の90°位相変位を使用して計算される。位相差を計算するために、更なる情報も使用することができる。一つの実施の形態では、位相差は第1センサ信号、第2センサ信号、第1の90°位相変位及び第2の90°位相変位から決定される。位相差は、振動計器組立体10におけるコリオリ効果に起因して生じる応答信号すなわち2つのピックオフセンサの位相差を含む。
【0068】
その結果の位相差は計算に周波数値を必要とすることなく決定される。その結果の位相差は、周波数を使用して計算される位相差よりずっと速く取得することができる。その結果の位相差は、周波数を使用して計算される位相差より高い精度を有する。
【0069】
ステップ507において、周波数が計算される。本発明による周波数は、有利なことに、第1の90°位相変位及び第2の90°位相変位から計算される。一つの実施の形態における周波数は、90°位相変位と90°位相変位を導出する対応のセンサ信号とを使用する。周波数は第1センサ信号又は第2センサ信号の振動応答周波数である(2つのセンサ信号の周波数は動作時には実質的に同じである)。周波数は、駆動装置180によって生成される振動に対する1つ又は複数の流管の振動周波数応答を含む。
【0070】
こうして導出された周波数は、独立の周波数基準信号を必要とすることなく取得される。周波数は動作時に90°位相変位から取得されるが、これは従来技術よりずっと速い。その結果の周波数は、従来技術で計算される周波数より高い精度を有する。
【0071】
ステップ508において、流動材料の質量流量が計算される。質量流量は、ステップ506で計算された結果の位相差とステップ507で計算された結果の周波数とから計算される。更に、質量流量計算により位相差と周波数から時間差(Δt)を計算することができ、時間差(Δt)は質量流量を計算するのに最終的に使用される。
【0072】
ステップ509において、オプションとして、先に説明したように密度を決定することができる。ステップ510において、オプションとして、先に説明したように体積流量を決定することができる。
【0073】
図6は、本発明の実施の形態に係る処理システム203の一部分のブロック図600である。図では、ブロックは処理回路要素又は処理動作/ルーチンを表す。ブロック図600は第1段フィルタブロック601、第2段フィルタブロック602、ヒルベルト変換ブロック603及び解析ブロック604を含む。LPO入力は左ピックオフ信号入力を含み、RPO入力は右ピックオフ信号入力を含む。LPO又はRPOは第1センサ信号を構成することができる。
【0074】
一つの実施の形態においては、第1段フィルタブロック601及び第2段フィルタブロック602は、処理システム203で実施されるデジタル有限インパルス応答(FIR)多相デシメーションフィルタを備える。これらのフィルタは一方又は両方のセンサ信号をフィルタリングしてデシメーションする最適な方法を提供するが、フィルタリング及びデシメーションは同じ時系列的時刻且つ同じデシメーション率で実施される。あるいは、第1段フィルタブロック601及び第2段フィルタブロック602は、無限インパルス応答(IIR)フィルタその他の適宜のデジタルフィルタあるいはフィルタプロセスを含むことができる。しかし、理解されるように、他のフィルタリングプロセス及び/又はフィルタリングの実施の形態が想定され、これは説明及び特許請求の範囲内に入る。
【0075】
図7は、本発明の実施の形態に係るヒルベルト変換ブロック603の詳細を示す。図示する実施の形態では、ヒルベルト変換ブロック603はLPO分岐700とRPO分岐710を含む。LPO分岐700はLPOフィルタブロック702と並列のLPO遅延ブロック701を含む。同様に、RPO分岐はRPOフィルタブロック712と並列のRPO遅延ブロック711を含む。LPO遅延ブロック701及びRPO遅延ブロック711はサンプリング遅延を導入する。したがって、LPO遅延ブロック701及びRPO遅延ブロック711は、LPOフィルタブロック702及びRPOフィルタブロック712によってフィルタリングされたLPOデジタル信号サンプル及びRPOデジタル信号サンプルよりも時間的に遅いLPOデジタル信号サンプル及びRPOデジタル信号サンプルを選択する。LPOフィルタブロック702及びRPOフィルタブロック712は、入力されるデジタル信号サンプルに90°位相変位を実施する。
【0076】
ヒルベルト変換ブロック603は位相測定を提供する最初のステップである。ヒルベルト変換ブロック603は、フィルタリングされてデシメーションされたLPO信号及びRPO信号を受け取ってヒルベルト変換を実施する。ヒルベルト変換はLPO信号及びRPO信号の90°位相変位した信号を生成する。すなわち、ヒルベルト変換は元の同相(I)信号成分の直交(Q)成分を生成する。したがって、ヒルベルト変換ブロック603の出力は、元の同相(I)信号成分LPOI及びRPOIと共に、新しい直交(Q)成分LPOQ及びRPOQを提供する。
【0077】
ヒルベルト変換ブロック603への入力は
【0078】
【数1】

【0079】
として表すことができる。
ヒルベルト変換を使用すると、出力は
【0080】
【数2】

【0081】
となる。
元の項をヒルベルト変換の出力と組み合わせることによって、
【0082】
【数3】

【0083】
が得られる。
図8及び図9は、本発明の実施の形態に係る解析ブロック604の2つの独立した分岐のブロック図である。解析ブロック604は周波数、位相差、デルタT(Δt)の測定の最終段である。図8は、同相(I)成分及び直交(Q)成分から位相差を決定する第1分岐を備える位相部604aである。図9は、単一のセンサ信号の同相(I)成分及び直交(Q)成分から周波数を決定する周波数部604bである。単一のセンサ信号は図示のようにLPO信号を含むことができ、代わりにRPO信号を含むことができる。
【0084】
図8の実施の形態においては、解析ブロック604の位相部604aは結合ブロック801a及び801b、共役ブロック802、複素乗算ブロック803、フィルタブロック804及び位相角ブロック805を含む。
【0085】
結合ブロック801a及び801bは、センサ信号の同相(I)成分と直交(Q)成分を受け取り、それらの成分を伝える。共役ブロック802はセンサ信号(ここではLPO信号)に複素共役化を実施し、虚数信号の負数を形成する。複素乗算ブロック803はRPO信号とLPO信号とを乗算し、以下の式(8)を実施する。フィルタブロック804は先に説明したFIRフィルタなどのデジタルフィルタを実施する。フィルタブロック804は、センサ信号の同相(I)成分及び直交(Q)成分から高調波部分を除去すると共に信号をデシメーションするのに使用される多相デシメーションフィルタを備えることができる。フィルタ係数は、例えば率10のデシメーションなどの、入力信号のデシメーションを実現するように選択されることができる。位相角ブロック805はLPO信号及びRPO信号の同相(I)成分及び直交(Q)成分からの位相角を決定する。位相角ブロック805は以下に示す式(11)を実施する。
【0086】
図8に示す位相部604aは、以下の式、すなわち、
【0087】
【数4】

【0088】
を実施する。ここで、
【0089】
【数5】

【0090】
はLPOの複素共役である。
【0091】
【数6】

【0092】
と仮定すると、
【0093】
【数7】

【0094】
となる。
その結果の差動位相角は、
【0095】
【数8】

【0096】
となる。
図9は、本発明に係る解析ブロック604の周波数部604bのブロック図である。周波数部604bは左右いずれかのピックオフ信号(LPO又はRPO)に対して作用することができる。図示する実施の形態の周波数部604bは結合ブロック901、複素共役ブロック902、サンプリングブロック903、複素乗算ブロック904、フィルタブロック905、位相角ブロック906、定数ブロック907及び除算ブロック908を含む。
【0097】
先に説明したように、結合ブロック901はセンサ信号の同相(I)成分と直交(Q)成分とを受け取り、それらの成分を伝える。共役ブロック902はセンサ信号(ここではLPO信号)の複素共役化を実施し、虚数信号の負数を形成する。遅延ブロック903は周波数部604bにサンプリング遅延を導入するので、時系列的に古いデジタル信号サンプルを選択する。この古い方のデジタル信号サンプルは、複素乗算ブロック904においてそのときのデジタル信号と乗算される。複素乗算ブロック904はLPO信号とLPO共役信号とを乗算し、以下の式(12)を実施する。フィルタブロック905は先に説明したFIRフィルタなどのデジタルフィルタを実施する。フィルタブロック905は、センサ信号の同相(I)成分及び直交(Q)成分から高調波部分を除去すると共に信号をデシメーションするのに使用される多相デシメーションフィルタを備えることができる。フィルタ係数は、例えば率10のデシメーションなどの、入力信号のデシメーションを実現するように選択されることができる。位相角ブロック906はLPO信号の同相(I)成分及び直交(Q)成分から位相角を決定する。位相角ブロック906は以下の式(13)の一部分を実施する。定数ブロック907は、式(14)に示すように、サンプルレートFsを2πで割った値を含む係数を供給する。除算ブロック908は式(14)の除算を実施する。
【0098】
周波数部604bは、以下の式、すなわち、
【0099】
【数9】

【0100】
を実施する。したがって、2つの連続するサンプル間の角度は、
【0101】
【数10】

【0102】
であり、これは左ピックオフのラジアン周波数である。Hzに変換すると、
【0103】
【数11】

【0104】
となる。ここで、「Fs」はヒルベルト変換ブロック603の率である。先に説明した例では、「Fs」は約2kHzである。
図10は、正常な状態での流量計のピックオフセンサ信号の電力スペクトル密度のプロットである。流量計の基本周波数はグラフの最も高いスパイクであり、約135Hzに位置する。また、図は周波数スペクトル内の幾つかの他の大きなスパイクをも示している(第1の非基本モードは基本モードの周波数の約1.5倍の周波数の捻れモードである)。これらのスパイクは流量計の高調波周波数を含み、他の望ましくないセンサモード(すなわち、捻れモード、第2曲げモードなど)をも含んでいる。
【0105】
図11は、単一の位相変位の実施の形態に係る代替のヒルベルト変換ブロック603’を示している。この実施の形態のヒルベルト変換ブロック603’はLPO分岐1100及びRPO分岐1110を含む。LPO分岐1100はフィルタブロック702と並列の遅延ブロック701を含む。この実施の形態のRPO分岐1110は遅延ブロック701のみを含む。前と同様に、遅延ブロック701はサンプリング遅延を導入する。前と同様に、フィルタブロック702は、入力されるデジタル信号サンプルに90°位相変位を実施する。理解されるように、代わりに、ヒルベルト変換ブロック603’はRPO信号のみを位相変位させることができる。
【0106】
この処理の実施の形態は、周波数と位相差を導出するために唯一つのセンサ信号のヒルベルト変換/位相変位を使用する(図2〜3を参照されたい)。これは、位相測定を実施するのに必要とされる計算回数を大幅に低減し、質量流量を得るのに必要とされる計算回数を大幅に低減する。
【0107】
この実施の形態においては、ヒルベルト変換ブロック603’の出力は(両方ではなく)左又は右のセンサ信号の直交(Q)成分を提供する。以下の例、すなわち
【0108】
【数12】

【0109】
では、LPO信号が位相変位される。ヒルベルト変換を使用すると、出力は
【0110】
【数13】

【0111】
となる。LPOの元の項をヒルベルト変換の出力(すなわち、90°位相変位)と組み合わせることによって、
【0112】
【数14】

【0113】
が得られ、RPOは同じままである。すなわち、
【0114】
【数15】

【0115】
である。
図12は、単一の位相変位の実施の形態に対する解析ブロック604a’を示す。この実施の形態の解析ブロック604a’は1つの結合ブロック801、複素乗算ブロック803、ローパスフィルタブロック1201及び位相角ブロック805を含む。この実施の形態の解析ブロック604a’は、以下の式、すなわち、
【0116】
【数16】

【0117】
を実施する。
ローパスフィルタブロック1201は、複素乗算ブロック803によって生成された高周波成分を除去するローパスフィルタを備える。ローパスフィルタブロック1201は任意の様式のローパスフィルタリング処理を実施することができる。乗算演算の結果は2つの項を生成する。(−ωt+ωt+φ)の項は組み合わされ、位相だけの項φ(DCの結果)に簡略化される。これは(−ωt)項と(ωt)項が互いに相殺されるためである。(ωt+ωt+φ)は2倍の周波数の(2ωt+φ)の項に簡略化される。その結果は2つの項の和であるため、高い周波数の(2ωt+φ)の項を除去することができる。ここで対象となる唯一の信号はDC項である。高い周波数の(2ωt+φ)の項は、ローパスフィルタを使用して、結果から除去されることができる。ローパスフィルタのカットオフは、ゼロと2ωとの間のいずれかに位置することができる。
【0118】
フィルタリング後、その結果は
【0119】
【数17】

【0120】
となる。したがって、差動位相角は
【0121】
【数18】

【0122】
である。
2つのピックオフ信号の代わりに1つのピックオフ信号のヒルベルト変換を行うことによって、有利なことに、コリオリ質量流量計において位相及び周波数の推定を実施するのに必要とされる計算負荷が減少する。したがって、2つのセンサ信号を使用するが唯一つの90°位相変位を使用して、位相及び周波数を決定することができる。
【0123】
図13は、従来技術と比較しての本発明のセンサ処理を示しており、それぞれの時間差(Δt)値が比較される。グラフは気体流(すなわち、例えば気泡)を含む流動材料を示している。この条件下では、位相及び周波数の計算の率の故に、新しいアルゴリズムにおいて実質的に流れ雑音が低減される。グラフからわかるように、本発明によって導出された結果は、従来技術の(Δt)測定値において反映される大きなピーク及び谷を示さない。
【0124】
本発明は従来技術と異なる。第1に、典型的には、従来技術は、振動応答周波数を決定するために、駆動システムに送出される駆動装置信号などの独立した周波数源とピックオフ信号とを使用してピックオフ周波数を決定する。対照的に、本発明は2つのセンサ信号のうちの一方の信号の位相を変位させることによって周波数を決定する。従来技術はセンサ信号の位相変位から振動応答周波数を決定してはいない。
【0125】
第2に、ほとんどの従来技術の流量計は、従来技術の周波数決定を使用してピックオフ信号間の位相差を決定する。結果として、従来技術の周波数決定に含まれる誤差は従来技術の位相差決定に含まれることになり、従来技術の質量流量決定における全体の誤差を増大させる。対照的に、本発明は、いかなる周波数決定も使用することなく、1つ又は2つの位相変位したセンサ信号から直接に位相差を決定する。その結果、誤差項は位相差決定の位相操作及び位相測定だけの結果であり、周波数決定誤差による影響を受けない。
【0126】
第3に、従来技術は、独立に決定された外部周波数を使用して質量流量を決定する。典型的には、従来技術は、独立に決定された外部周波数を使用して得られた位相差も使用する。その結果、従来技術においては、質量流量は周波数決定における誤差によって2回影響を受ける可能性があり、したがって、満足がいくほどに正確で信頼性があるものではない。対照的に、本発明においては、周波数決定及び位相差決定は独立に導出される。したがって、本発明の周波数決定及び位相差決定は、ずっと小さい誤差成分を含む。その結果、本発明の計器電子回路及び方法を使用すると、質量流量決定における誤差量が著しく低減される。したがって、本発明による密度及び体積流量も精度及び信頼性が改善される。
【0127】
第4に、従来技術の周波数決定は比較的長い時間を要する。流動材料が、固体及び/又は気体(気泡など)を含有する液体のような2相流又は3相流を含む状況では、従来技術の周波数決定は、安定し且つ比較的正確な周波数測定を行うのに1〜2秒程度を要し得る。対照的に、本発明による周波数及び位相差決定はずっと速く、例えばミリ秒又は数百ミリ秒程度で取得することができる。周波数及び位相差から導出される全ての流れ特性も、ずっと短い時間で得ることができる。
【0128】
本発明に係る、センサ信号を処理する計器電子回路及び方法は、所望ならば若干の利点を得るように任意の実施の形態に従って実施されることができる。本発明は2つの位相変位したセンサ信号から位相差を計算することができる。本発明は精度及び信頼性が一層高い位相差決定を提供することができる。本発明は、少ない処理時間を消費しながら、従来技術よりも速く位相差決定を提供することができる。
【0129】
本発明は、位相変位した唯一つのセンサ信号から周波数を計算することができる。本発明は精度及び信頼性が一層高い周波数決定を提供することができる。本発明は、少ない処理時間を消費しながら、従来技術より速く周波数決定を提供することができる。
【0130】
本発明は、一つ又は二つのセンサ信号から、中でも質量流量、密度及び/又は体積流量を計算することができる。本発明は精度及び信頼性が一層高い質量流量決定を提供することができる。本発明は、少ない処理時間を消費しながら、従来技術よりも速く質量流量決定を提供することができる。したがって、本発明は、空気含有条件、空−充満−空条件、気体用途及び定常状態の条件に対して実質的に一層良好な性能を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ピックオフセンサ(170L)から第1ピックオフセンサ信号を、第2ピックオフセンサ(170R)から第2ピックオフセンサ信号をそれぞれ受け取るインタフェース(201)と、
前記インタフェース(201)と通信する処理システム(203)と
を備え、振動型流量計においてピックオフセンサ信号を処理する計器電子回路(20)であって、
前記処理システム(203)が、前記第1ピックオフセンサ信号から90°位相変位を生成し、前記第1ピックオフセンサ信号及び前記90°位相変位から、前記振動型流量計の振動周波数を含む周波数を計算するように構成される
ことを特徴とする計器電子回路(20)。
【請求項2】
第1ピックオフセンサ(170L)から第1ピックオフセンサ信号を、第2ピックオフセンサ(170R)から第2ピックオフセンサ信号をそれぞれ受け取るインタフェース(201)と、前記インタフェース(201)と通信する処理システム(203)とを備え、振動型流量計においてピックオフセンサ信号を処理する計器電子回路(20)であって、
前記処理システム(203)が、前記第1ピックオフセンサ信号から第1の90°位相変位を生成し、前記第1ピックオフセンサ信号及び前記第1の90°位相変位から、前記振動型流量計の振動周波数を含む周波数を計算し、前記第1ピックオフセンサ信号、前記第1の90°位相変位及び前記第2ピックオフセンサ信号から、前記振動型流量計の前記第1ピックオフセンサ信号と前記第2ピックオフセンサ信号との間の位相差を計算するように構成される
ことを特徴とする計器電子回路(20)。
【請求項3】
第1ピックオフセンサ信号及び第2ピックオフセンサ信号を受け取るステップを含み、振動型流量計においてピックオフセンサ信号を処理する方法であって、
前記第1ピックオフセンサ信号から90°位相変位を生成するステップと、
前記第1ピックオフセンサ信号及び前記90°位相変位から、前記振動型流量計の振動周波数を含む周波数を計算するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項4】
第1ピックオフセンサ信号及び第2ピックオフセンサ信号を受け取るステップを含み、振動型流量計においてピックオフセンサ信号を処理する方法であって、
前記第1ピックオフセンサ信号から90°位相変位を生成するステップと、
前記第1ピックオフセンサ信号及び前記90°位相変位から、前記振動型流量計の振動周波数を含む周波数を計算するステップと、
前記第1ピックオフセンサ信号、前記90°位相変位及び前記第2ピックオフセンサ信号から、前記振動型流量計の前記第1ピックオフセンサ信号と前記第2ピックオフセンサ信号との間の位相差を計算するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項5】
第1ピックオフセンサ信号及び第2ピックオフセンサ信号を受け取るステップを含み、振動型流量計においてピックオフセンサ信号を処理する方法であって、
前記第1ピックオフセンサ信号から90°位相変位を生成するステップと、
前記第1ピックオフセンサ信号、前記90°位相変位及び前記第2ピックオフセンサ信号から、前記振動型流量計の前記第1ピックオフセンサ信号と前記第2ピックオフセンサ信号との間の位相差を計算するステップと、
前記第1ピックオフセンサ信号及び前記90°位相変位から、前記振動型流量計の振動周波数を含む周波数を計算するステップと、
前記位相差を用いての質量流量の計算、前記周波数を用いての密度の計算、又は、前記密度と前記質量流量とを用いての体積流量の計算のうちの1つ又は複数を行うステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項6】
第1ピックオフセンサ信号及び第2ピックオフセンサ信号を受け取るステップを含み、振動型流量計においてピックオフセンサ信号を処理する方法であって、
前記第1ピックオフセンサ信号から第1の90°位相変位を生成し、前記第2ピックオフセンサ信号から第2の90°位相変位を生成するステップと、
前記第1ピックオフセンサ信号及び前記第1の90°位相変位から、前記振動型流量計の振動周波数を含む周波数を計算するステップ、又は、前記第2ピックオフセンサ信号及び前記第2の90°位相変位から前記周波数を計算するステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項7】
第1ピックオフセンサ信号及び第2ピックオフセンサ信号を受け取るステップを含み、振動型流量計においてピックオフセンサ信号を処理する方法であって、
前記第1ピックオフセンサ信号から第1の90°位相変位を生成し、前記第2ピックオフセンサ信号から第2の90°位相変位を生成するステップと、
前記第1ピックオフセンサ信号及び前記第1の90°位相変位から、前記振動型流量計の振動周波数を含む周波数を計算するステップ、又は前記第2ピックオフセンサ信号及び前記第2の90°位相変位から前記周波数を計算するステップと、
前記位相差を用いての質量流量の計算、前記周波数を用いての密度の計算、又は、前記密度と前記質量流量とを用いての体積流量の計算のうちの1つ又は複数を行うステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項8】
第1センサ信号及び第2センサ信号を受け取るステップを含み、流量計においてセンサ信号を処理する方法であって、
前記第1ピックオフセンサ信号から第1の90°位相変位を生成し、前記第2ピックオフセンサ信号から第2の90°位相変位を生成するステップと、
前記第1ピックオフセンサ信号及び前記第1の90°位相変位から、前記振動型流量計の振動周波数を含む周波数を計算するステップ、又は、前記第2ピックオフセンサ信号及び前記第2の90°位相変位から前記周波数を計算するステップと、
前記第1ピックオフセンサ信号、前記第1の90°位相変位及び前記第2ピックオフセンサ信号から、前記振動型流量計の前記第1ピックオフセンサ信号と前記第2ピックオフセンサ信号との間の位相差を計算するステップ、又は前記第1ピックオフセンサ信号、前記第2ピックオフセンサ信号及び前記第2の90°位相変位から前記位相差を計算するステップと、
前記位相差を用いての質量流量の計算、前記周波数を用いての密度の計算、又は、前記密度と前記質量流量とを用いての体積流量の計算のうちの1つ又は複数を行うステップと、
を備えることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−208131(P2012−208131A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168705(P2012−168705)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2007−549390(P2007−549390)の分割
【原出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(592225504)マイクロ・モーション・インコーポレーテッド (95)
【氏名又は名称原語表記】Micro Motion Incorporated
【Fターム(参考)】