流量計測装置
【課題】 潤滑油の供給流量が数mL/hと極微少である場合、信頼性あるインラインの流量計測法がなかった。
【解決手段】 軸方向にマイクロ波の共振方向が配向される導波管型の空洞共振器10と、この空洞共振器10を貫通する貫通管路と、当該貫通管路を取り囲む誘電性の管路支持体と、この空洞共振器10の内部でマイクロ波の定在波あるいは進行波を形成する送信アンテナ15aと同形成されたマイクロ波を受信する受信アンテナ15bとを備える。すなわち、導波管型の空洞共振器10の軸芯に誘電体からなる貫通管路を形成し、マイクロ波の定在波による作用空間を上記貫通管路の中空部に形成し、定在波空間フィルタ内を流れる流体の速度と体積とを求めることで、流量を計測する。
【解決手段】 軸方向にマイクロ波の共振方向が配向される導波管型の空洞共振器10と、この空洞共振器10を貫通する貫通管路と、当該貫通管路を取り囲む誘電性の管路支持体と、この空洞共振器10の内部でマイクロ波の定在波あるいは進行波を形成する送信アンテナ15aと同形成されたマイクロ波を受信する受信アンテナ15bとを備える。すなわち、導波管型の空洞共振器10の軸芯に誘電体からなる貫通管路を形成し、マイクロ波の定在波による作用空間を上記貫通管路の中空部に形成し、定在波空間フィルタ内を流れる流体の速度と体積とを求めることで、流量を計測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流量計測装置に関し、特に、微量給油分野および粉粒体等の搬送分野において利用して好適な流量計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、切削加工のセミドライ化や軸受け潤滑の適正化が提唱されている。これらの用途においては潤滑油の供給流量は高々数mL/hと極微少であり、連続飽和流れによる供給が困難である事から霧化や間欠滴下による多相送り方式が用いられている。一方、微量給油分野の多くの部分を占めている間欠滴下によるオイルエアー方式に対しては、流れの特殊性から流量をインラインで測定する手段が提供されていない。このため、電気式あるいは空気タイマーによる容積ポンプの作動周期のみを頼りにして供給しているのが現状である。ところで、上述した前者の微量液体の気相送りに対しては信頼性ある流量の計測法が確立されていない。また、後者の容積ポンプの吐出量は容積が微小な為に安定性に欠け、その吐出量の安定性は業界では20%程度とされている。
このような状況に鑑みて、マイクロ波を利用した微量粉流量計が提案されている(特許文献1、参照)。かかる構成において、誘電体で充填した空洞内を貫通する微粉流路に対してマイクロ波ビームを照射することにより、微粉流量に応じた干渉縞パターンの変化を検知し、当該変化に基づいて微粉流量を解析する。
【特許文献1】特許第2573645号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した微量粉流量計においては、微粉流路の断面方向(軸方向の直交方向)に対して均一なマイクロ波による場を形成することができず、計測結果が微粉流路において微粉が通過する位置の影響を受けてしまうという問題があった。
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、マイクロ波の定在波あるいは進行波による空間フィルタを構成して観測時間中の通過油滴の体積を測定して流量を求めるなど、微量な液体や粉末の搬送といった分野で正確な流量計測を実現させる流量計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
こうした目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、導波管型の空洞共振器と、この空洞共振器を貫通する貫通管路と、誘電体で形成されるとともに上記空洞共振器の内部において上記貫通管路の外側を取り巻く管路支持体と、この空洞共振器の内部における上記管路支持体の外側の空洞において上記空洞共振器の軸方向に進行するマイクロ波を送信し、当該マイクロ波の定在波あるいは進行波を形成する送信アンテナと、同形成された定在波あるいは進行波を受信する受信アンテナと、を具備する構成としてある。
【0005】
また、請求項2に記載の発明では、上記空洞共振器における上記貫通管路の開口部から外方に向けて突出する同空洞共振器の内径より小さい開口径の金属筒体を有する構成としてある。
また、請求項3に記載の発明では、上記空洞共振器は、上記貫通管路を完全に露出するように分離可能に形成されている構成としてある。
また、請求項4に記載の発明では、上記空洞共振器内において定在波を形成するとともに、上記受信アンテナから得られる受信電力の交流成分の周波数に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の流速を算出する構成としてある。
【0006】
また、請求項5に記載の発明では、上記空洞共振器内において定在波を形成するとともに、上記受信アンテナから得られる受信電力の交流成分の振幅に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の体積を算出する構成としてある。
また、請求項6に記載の発明では、上記体積を算出するにあたり、上記受信アンテナから得られる受信電力の直流成分に基づいて上記体積を補正する構成としてある。
また、請求項7に記載の発明では、上記空洞共振器内において進行波を形成するとともに、上記受信アンテナにて受信されるマイクロ波のドップラー周波数に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の流速を算出する構成としてある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、給油分野を始めとする微量な液体や粉末の搬送において正確に流量を計測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
(1)第1の実施形態:
(1−1)装置構成:
(1−2)解析理論:
(2)第2の実施形態:
(3)第3の実施形態
【0009】
(1)第1の実施形態
(1−1)装置構成
図1は、流量計測装置を断面図により示している。図において、定在波型の空洞共振器10は、金属素材により概略円筒形形状に形成されている。空洞共振器10は、円筒形の本体筒部11と、当該本体筒部11の両端を概ね閉塞する端部壁材12a,12bと、同端部壁材12a,12bの軸芯と一致するように配置されて外方へ突出する金属筒体13a,13bと、本体筒部11の内部で軸芯と一致しつつ両端部を上記金属製筒体13a,13bに連結される誘電素材の管路支持体14とから構成されている。ここで、上記金属製筒体13a,13bと誘電体の素材からなる管路支持体14とは内径が一致するように形成されている。この結果、当該空洞共振器10はその軸芯に貫通管路を有することになる。なお、本体筒部11と、端部壁材12a,12bと、金属筒体13a,13bとは、一体で形成することもできるし、それぞれを個別に形成して組み付ける構成とすることもできる。
【0010】
また、当該空洞共振器10はその軸芯を通過する平面で分離可能となっている。すなわち、空洞共振器10は、上記貫通管路を完全に露出するように分離可能に形成されている。平面で分離されることにより、既存の輸送管路Pを上記金属製筒体13a,13bと誘電素材の管路支持体14の内部に挟み込むようにして、同輸送管路Pに対して装着できる。金属製筒体13a,13bは、後述するように上記空洞共振器10内外での電波の侵入および漏洩を防止して、精度の高い計測を実現させるに足る長さとなるように形成してある。
【0011】
基本的構造としては、円筒形の本体筒部11とその両端を概ね閉塞する端部壁材12a,12bとで、貫通管路を形成しつつ、当該貫通管路の開口部には、空洞共振器の内径より小さい開口径の金属筒体13a,13bが備えられている。また、管路支持体14は上記貫通管路を取り巻くようになり、当該貫通管路内に挿入されることになる輸送管路Pを保持できる。また、これらにより導波管型の空洞共振器を形成し、マイクロ波の伝播方向は軸方向に配向されることになる。
【0012】
空洞共振器10内には、マイクロ波帯域に対応した1ターンループの送信アンテナ15aと受信アンテナ15bとが独立して配置されている。送信アンテナ15aから送信されるマイクロ波は当該空洞共振器10を導波管としてTM01モードで送信される。これにより、当該空洞共振器10内では軸方向にマイクロ波が進行し、端部壁材12a,12bおよび金属筒体13a,13bにおける空洞共振器10の内側に臨む壁面においてマイクロ波が反射する。そして、反射波との共振によって、空洞共振器10の内部に定在波が平成される。ここでは空洞共振器10の有効長を上記送信アンテナ15aにて出力されるマイクロ波の管内1/2波長の整数倍とすることで定在波を形成することが出来る。
【0013】
図2は、空洞共振器10の内部の共振空間に形成される定在波をシミュレーションした結果を示している。同図において、横軸は空洞共振器10の軸方向の位置を示し、縦軸は定在波が示す電界強度を示している。なお、代表的なオイルエアー用の管路である外径4mm、内径2mmのウレタンチューブを輸送管路Pとして貫通させた状態で、24.15GHzのマイクロ波を励振して軸方向の定在波を実現させた場合をシミュレーションしている。同図に示すように、空洞共振器10内には2.5波長の正弦波状の定在波が軸方向に形成されている。
【0014】
図3は、空洞共振器10の内部の共振空間に形成される定在波をシミュレーションした結果を示している。同図において、横軸は空洞共振器10において軸方向に直交する位置(軸方向の位置は一定位置)を示し、縦軸は定在波が示す電界強度を示している。同図に示すように、軸方向に直交する位置にかかわらず、ほぼ一定の電界強度が得られている。空洞共振器10内において軸方向に直交する方向には、所定の誘電率を有する管路支持体14と内部の空気層との境界と、当該管路支持体14と金属性の本体筒部11との境界において、互いに誘電率の異なる界面が形成されることとなる。これらの界面においてはマイクロ波の反射が生じる。また、所定の誘電率を有する管路支持体14においては、マイクロ波の吸収が生じる。このような反射や吸収の相互作用によって、空洞共振器10の軸方向に直交する方向においてほぼ一定の電界強度を得ることができる。以上説明したように、空洞共振器10の軸方向には正弦波状に電界強度が変動し、当該軸方向に直交する方向には一様な電界強度となる電磁界の場を形成することができる。例えば、管路支持体14の厚みを徐々に変更していき、軸方向に直交する方向に関する電界強度が最も平坦化される管路支持体14の厚みを適用するようにしてもよい。受信アンテナ15bがマイクロ波を受信することにより、上述した定在波による電磁界の場の状態を計測することができる。
【0015】
図4は上記空洞共振器10の送信アンテナ15aと受信アンテナ15bに接続する計測回路20をブロック図により示している。送信アンテナ15aにはマイクロ波発信器21が接続される。同マイクロ波発信器21が発信するマイクロ波の波長は図1に示す空洞共振器10内で定在波を形成しえる周波数および波長とする。本実施形態の送信アンテナ15aが発振するマイクロ波は、速度測定用の周波数帯として許可されている24.15GHzのものとする。また、送信アンテナ15aへの供給電力が10mW以下であれば大気中への漏洩電波は規制対象とはならない。上記空洞共振器10を利用した場合の漏洩電波強度の計算値は1.5μV/mで、一般規制値である3m遠方の強度35μV/mを十分下回っているが、漏洩電波の減衰は規制法のみならず検査空間外の物体による外乱を低減する効果もあるので出来るだけ低くするのが望ましい。一方、受信アンテナ15bには検波器22が接続され、同検波器22の出力を低周波増幅回路23にて増幅し、さらにアナログデジタル変換器(A/D変換器)24にてデジタル化し、デジタルデータをマイクロコンピュータ25にて取り込み、解析処理をする。
【0016】
(1−2)解析理論
以下、上記のように構成した流量計測装置によって、輸送管路Pを空気とともに流動するオイルエアーに含まれる油滴の流速を解析するための理論について説明する。なお、オイルエアーは不飽和の油滴を供給するための空気流であり、各種機械に対する微量の給油に用いられる。オイルエアーによる給油方式は、空気が高速に流れる輸送管路Pに微少体積の油滴を容積ポンプなどで間欠的に滴下することにより行われ、通常、給油量の調節は油滴の滴下周期の調節によって実現されている。油滴はオイルエアーの下流に行くに従って平準化されるが、滴下直後においては油滴による空間斑が数メートルにわたって保持される。このオイルエアーは管路を通しての撮影が困難である事から模式的に誇張して示すと図5の様である。このようにオイルエアーにおける油滴の流れは輸送管路Pの管壁に沿うこととなり、当該輸送管路Pの軸方向に沿った一筋の流れとなるが、当該軸方向に直交する断面において油滴が存在する位置は定まらない。
【0017】
受信アンテナ15bがマイクロ波を常時受信しており、当該マイクロ波の電界強度の変動をマイクロコンピュータ25が検波器22と低周波増幅回路23とA/D変換器24を介して常時計測している。上述したとおり、受信されるマイクロ波は定在波であるため、基本的には一定の電界強度がマイクロコンピュータ25にて計測されることとなる。すなわち、誘電率が空気と異なる油滴等の粒子を一切含まないエアーを輸送管路Pにて流動させた場合には、電界強度が一定となり、電界強度の変動はマイクロコンピュータ25にて計測されないこととなる。しかしながら、上述した電磁界の場の中央を軸方向に貫通する輸送管路Pにオイルエアーを流動させると、オイルエアー中に点在する油滴によって電磁界の場が乱れ、受信アンテナ15bにて場の乱れに応じた電界強度(受信電力)の変動が計測されることとなる。油滴は空気と異なる誘電率および所定の誘電損失角を有しているため、油滴によってマイクロ波が吸収されるからである。一般の粉粒体流れにおいては複数の油滴が存在するが、まずここでは単一の油滴の流速を解析する手順および理論を説明する。
【0018】
マイクロ波の定在波により正弦波状に電界強度Eが分布する電磁界の場を、体積q,誘電率ε,誘電損失角δの油滴OMが一定の速度Uで輸送管路Pの軸方向に進行している場合を考える。なお、油滴OMの物性は予め調査しておくことができるため、誘電率ε,誘電体損失角δは既知の値である。ある電界強度Eにおいて油滴OMが存在する場合、油滴OMはマイクロ波を吸収し、それによりマイクロ波の電力が吸収されることとなる。なお、油滴OMにおける吸収電力は主に熱エネルギーに変換されることとなり、このような現象は電子レンジ等の加熱技術に応用されている。fをマイクロ波の周波数とし、Sを油滴OMによる吸収電力とすると、単位体積の油滴OMによる吸収電力Sは下記の(1)式で表しことができる(普及版 マイクロ波加熱技術集成 8ページ参照)。
【数1】
【0019】
上記の(1)式では、油滴OMによる吸収電力Sは、油滴OMの吸収による損失がない場合の電力E2に対して、誘電率εと誘電正接tanδを乗算することにより得ることができる。なお、マイクロ波の吸収は誘電体に対するマイクロ波の浸透深さに依存するが、油滴OMは微粒子であり、その全体積が浅い位置にあるであると考えることができるため、油滴OM内における浸透深さの影響は無視することができる。従って、体積qを乗算することにより、体積qを有する油滴OM全体による吸収電力Sを得ることができる。
【0020】
ここで、図2に示すように電界強度Eが輸送管路Pにおいて正弦波状に分布することがシミュレーションされているため、電界強度Eは油滴OMが存在する輸送管路Pの軸方向の位置xを使用して下記の(2)式によって表すことができる。
【数2】
上記の(2)式において、Aは電界強度Eの振幅を示し、λは電界強度E(定在波)の波長を示している。ここで、油滴OMの軸方向の流速をUとすると、油滴OMが存在する輸送管路Pの軸方向の位置xは、時間tを使用して下記の(3)式のように表すことができる。
【0021】
【数3】
上記の(2)式と(3)式を上記の(1)に代入すると、下記の(4)式を得ることができる。
【数4】
上記の(4)式によれば、吸収電力Sが時間tの周期関数で表せたこととなる。同時に、吸収電力Sが位置xの周期関数であるということも言える。ここで、cosθの倍角定理より、任意の角度θについて下記の(5)式が成立する。
【0022】
【数5】
上記の(5)式の関係によって、上記の(4)式を整理すると、下記の(6)式を得ることができる。
【数6】
上記の(6)の第1項は位置xおよび時間tにかかわらず一定の値を示す直流成分となる。一方、第2項は余弦関数で表され、位置x=Ut=λ/2の空間ごとに周期的な変動を示す交流成分となる。すなわち、油滴OMがマイクロ波(定在波)の波長λの半分の長さλ/2だけ進むごとに吸収電力Sの交流成分は周期的に変動することとなる。また、この交流成分の振幅は、体積qに比例した値となっている。以上の考察から、定在波による電磁界の場を通過する油滴OMによる吸収電力Sは、油滴OMの軸方向の長さλ/2において周期的な交流成分を含み、当該交流成分の振幅は油滴OMの体積qに比例することが分かる。なお、図3に示すように軸方向に直交する方向の位置に関しては、電界強度Eが一定に保たれているため、当該方向のいずれの位置に油滴OMが流動していても上記の(6)式が成立すると考えることができる。
【0023】
受信アンテナ15bはマイクロ波を受信しており、その電界強度Eをマイクロコンピュータ25にて取得することができる。ここで、エネルギー保存則により、マイクロコンピュータ25が取得する電界強度を2乗して得られる受信電力RPと、上述した吸収電力Sとの間には相互補完関係が成立すると考えることができる。従って、受信電力RPにおいても吸収電力Sと同様に、油滴OMの流速Uに応じた周期的な変動が観測できるとともに、当該変動の振幅も油滴OMの体積qに比例したものとなる。従って、マイクロコンピュータ25が取得した受信電力RPから、周期的に変動する交流成分を抽出することにより、上記の(6)式の第2項に対応する交流成分を抽出することができる。さらに、交流成分の周波数と振幅に基づいて油滴OMの流速Uと油滴OMの体積qを得ることができる。
【0024】
以上においては、単一の油滴OMについての原理を説明したが、一般的な粉粒体流れにおいては同時に複数の油滴OMが含まれるため、複数の油滴OMについて同時に解析を行う必要がある。図6は受信アンテナ15bが受信して検波器22にて検波された受信電力RPを示し、図7はさらに低周波増幅回路23にて増幅を行った受信電力RPを示している。これらの図において、縦軸は受信電力RPを示し、横軸は時間tを示している。これらの図が示すように、一般的な粉粒体についての計測を行うと、流速Uが異なる複数の油滴OMに起因した複数の周波数成分の合成波が得られることとなる。本実施形態においては、これらの周波数成分について統計的な解析を行うために高速フーリエ変換(FFT)を利用する。なお、油滴OMが流動していない状態においても、定在波(油滴OMによって乱されていない状態の電磁界の場)の受信が受信アンテナ15bにて行われるため、受信電力RPの直流成分DCが定常的に計測されることとなる。この直流成分DCには、主として送信アンテナ15aが発信したマイクロ波の電界強度が反映されることとなる。また、当該直流成分DCには、時間に依存しない静止要素、すなわち管路支持体14や輸送管路Pによる吸収電力成分も加味されていることとなる。
【0025】
図8は、FFTを行った後の受信電力RPのスペクトルを示している。同図において、横軸が周波数区分fi(iはフーリエ空間における周波数区分を識別する自然数を示す。)を示しており、縦軸が各周波数区分fiごとの受信電力RPの交流成分の振幅の合計値aiを示している。このようにFFTを行うことにより、受信電力RPの交流成分を構成する各成分の周波数(周波数区分fi)を容易に解析することができる。また、受信電力RPの交流成分は、各油滴OMに起因した複数の成分によって構成されるが、各成分の振幅を各周波数区分fiごとに合計して解析することができる。上記の(6)式によって、受信電力RPの交流成分は、マイクロ波(定在波)の波長λの半分の長さλ/2の空間において周期的となることが判明しているため、FFTによって得られた各周波数区分fiごとに油滴OMが長さλ/2だけ進行していると言うことができる。すなわち、長さλ/2の距離を単位時間あたりに周波数区分fiの回数だけ油滴OMが進行していることとなる。従って、各周波数区分fiごとの油滴OMの流速Ui(単位時間あたりに進行する距離)は下記の(7)式によって求めることができる。
【数7】
【0026】
以上によりオイルエアーに含まれる油滴OMがどのような流速Uiを有しているかを把握することができる。次に、体積流量Qを下記の(8)式によって算出する。
【数8】
上記の(8)式においては、各周波数区分fiついて流速Uiと受信電力RPの交流成分の振幅の合計値aiを乗算し、当該乗算値を全周波数fiについて合計し、さらに所定の校正係数kを乗算することによって体積流量Qを算出している。上記の(6)式により、受信電力RPの交流成分の振幅は油滴OMの体積qに比例することが分かっているため、各周波数区分fiついての振幅の合計値aiは、各周波数区分fiに属する複数の油滴OMの体積qの合計値に比例した値であると考えることができる。一方、流速Uiは、当該流速Uiに対応する周波数区分fiに属する油滴OMが軸方向の単位長さに存在する確率相当値であると考えることができるため、Ui×aiは、軸方向の単位長さに存在する各周波数区分fiに属する複数の油滴OMの体積qの合計値に比例する値であると考えることができる。従って、Ui×aiを全周波数区分fiについて合計したΣUi×aiは、全体積流量Qに比例した値となる。
【0027】
受信電力RPの交流成分の振幅の値の絶対的な意味は上記の(6)式で明らかであるため、校正定数kの理論値を誘電率εと誘電正接tanδ等の物性値に基づいて特定することも原理的には可能である。しかしながら、本実施形態においては、校正定数kを予備実験によって求めるものとする。予備実験においては、上述した手順で解析を行うことにより上記の(8)式の一部ΣUi×aiを算出しておくとともに、同時にオイルエアーをトラップ等することにより、そのときの実際の体積流量Qを測定する。そして、実際の体積流量QをΣUi×aiで除算することにより、校正定数kを算出する。なお、一回の予備実験では誤差の影響を大きく受けるため、複数の予備実験の結果を総合した上で体積流量QとΣUi×aiの相関が高くなる校正定数kを算出するのが望ましい。
【0028】
ところで、上記の(6)式における電界強度Eの振幅Aは、送信アンテナ15aが発信するマイクロ波の電界強度に基づいて得ることができる質のものであるが、送信アンテナ15aから発信する電界強度を安定化することはかなり困難となる。一般に市販されているMDU(Microwave Doppler Unit)の室温環境における電力安定性の実測結果は10%以上の変動が観測される。この中には電力を検波するダイオードの温度特性も含まれる。従って、校正定数kを算出するための予備実験において送信アンテナ15aが発信したマイクロ波の電界強度と、実際の計測時において送信アンテナ15aが発信するマイクロ波の電界強度との差が、測定誤差となることが懸念される。そこで、下記の(9)式による補正を行うことにより、上記の測定誤差を抑制することができる。
【0029】
【数9】
上記の(9)式において、D0は校正定数kを算出した際の受信電力RPの直流成分DCの大きさを示し、D1は実際の計測時の受信電力RPの直流成分DCの大きさを示している。上述したとおり、直流成分DCは送信アンテナ15aが発信したマイクロ波の電界強度を反映した値であると考えられるため、送信アンテナ15aが発信したマイクロ波の電界強度に依存しない体積流量Qを求めることが可能となる。なお、上記の(6)式が示すように、受信電力RPの交流成分の振幅は油滴OMの誘電率εと誘電正接tanδに依存するため、校正係数kは油滴OMの種類ごとに算出しておく必要がある。
【0030】
一方、輸送管路Pの作用空間に存在する油滴OMの全体積は、より簡易な手法によって計測することができる。すなわち、輸送管路Pに油滴OMが完全に存在しない場合も含め、複数の既知の体積の油滴OMを輸送管路Pに存在させた場合について、受信アンテナ15bによる受信電力を予め調査しておく。そして、吸収電力(輸送管路Pに各体積の油滴OMが存在する場合の受信電力から、輸送管路Pに油滴OMが完全に存在しない場合の受信電力を差し引いた分)と、油滴OMの体積との対応関係をテーブル化しておき、当該テーブルを参照して計測時点での吸収電力に対応する体積を特定することができる。むろん、この場合にも、送信アンテナ15aからの出力電力と変動に応じて補正を行うことが望ましい。
【0031】
例えば、体積Voを輸送管路内に配置したとき、送信電力がPo、受信電力がRPiになるとする。体積Voを正確に計測しつつ所定の範囲で少しずつ変化させていき、テーブル化する。油滴OMが存在しないときの吸収電力と、油滴OMの体積Voが存在する場合における吸収電力との差が同流体の電波吸収量Goといえる。従って、電波吸収量Goと体積Voとの対応関係をプロットしておき、以後は基準の吸収電力と各計測時点で計測された吸収電力との差を算出することで、その時点での体積Vを求めることができる。
【0032】
同様の計測は、油滴OMによる反射電力を利用することでも同様に実現できる。一方、管路内に存在する誘電体(油滴OM)の量によって共振周波数に微小な変化が認められることが分かっている。このため、共振周波数を計測することでその変動分から各時点での流体の量を特定するようにしても良い。すなわち、流体が存在しないときの共振周波数をfs、流体の体積Voが存在する場合にはこの共振周波数が、△foだけ変化する。従って、変動分△foと体積Voとの対応関係をプロットしておき、以後は各計測時点での共振周波数の変動分△fを計測することで、その時点での体積Vを求めることができる。
【0033】
なお、本実施形態において、油滴OMが輸送管路Pの管壁に沿うオイルエアーについて解析を行うものを例示したが、輸送管路P内を霧化した状態で流動するオイルミストについても同様の手法によって流速を計測することができる。さらに、本発明は、一定の誘電率を有する粉粒体について適用することができ、オイル以外の粉粒体に対しても適用することができる。また、上記の実施形態では吸収電力を計測することによって粉粒体の流速等を解析するものを例示したが、所定の反射率を有する粉粒体による反射電力を解析することにより、当該粉粒体の流速等を計測することも可能である。
【0034】
(2)第2の実施形態
図9は、図1に示す上記の全ての構成に加えて端部壁材12aの軸端側内壁面に電波吸収体16を配設して無反射面を形成してある。これにより、上記空洞共振器10内に進行波を形成することが出来る。進行波においても当該空洞共振器10の軸方向に直交する方向にかんして略均一な電界強度となる電磁界の場を形成することができる。そして、輸送管路Pに誘電体たる油滴OMを不飽和に含んだオイルエアーを流動させることにより、同油滴OMによる電磁界の場の変化を受信アンテナ15bを介して検出することができる。ただし、進行波においては受信アンテナ15bが受信するマイクロ波の電界強度が絶えず変動するため、上記解析とは異なる手法によって解析を行う必要がある。
【0035】
マイクロ波の進行波が空洞共振器10内において軸方向に進行する速度は油滴OMの噴射速度よりもはるかに大きいため、進行波が油滴OMに到達し、反射波が生成されることとなる。この反射波は、受信アンテナ15bに到達し、受信アンテナ15bにて受信されることとなる受信アンテナ15bにおいては、送信波と反射波との混合波が受信される。この混合波の電界強度は下記の(10)式によって表すことができる。
【数10】
なお、上記の(10)式において、Aは送信波の振幅を示し、Bは反射波の振幅を示し、f1は送信波の周波数を示し、f2は反射波の周波数を示している。上記の(10)式の左辺に示すように混合波は送信波と反射波を乗算したものであり、右辺のように展開することができる。右辺の第1項では送信波と反射波の周波数の差(f1−f2)を意味するビート周波数δfが表れ、右辺の第2項では送信波と反射波の周波数の和(f1+f2)が表れる。すなわち、混合波には低周波成分と高周波成分が含まれるということができる。
【0036】
ここで、油滴OMにおける反射波はドップラー効果によって周波数変調された変調波(ドップラー波)であると考えることができる。従って、マイクロ波の速度をC(光速)とし、油滴OMの速度をUとして、マイクロ波と油滴OMの進行方向がなす角をθとすると、送信波と反射波の周波数f1,f2との間には下記の(11)式が成り立つ。なお、進行波の進行方向と油滴OMの進行方向はともに輸送管路Pの軸方向であるため、θ=0,cosθ=1が代入できる。
【0037】
【数11】
C>>Uであるため、上記の(11)式を下記の(12)式で表すことができる。
【数12】
上記の(12)式によれば、混合波におけるビート周波数δfと油滴OMの速度Uとの関係を得ることができる。従って、アンテナ13にて受信された混合波のうち低周波成分の周波数(ビート周波数)を解析することにより、油滴OMの速度Uを算出することができる。
【0038】
すなわち、受信アンテナ15bにおける電界強度の変動に対してFFTを行い、FFTにより得られた周波数のスペクトルから、ビート周波数δfを得る。さらに当該ビート周波数δfを上記の(3)式に代入することにより、油滴OMの速度Uを得ることができる。ここまでは、受信アンテナ15bにおける受信状態に基づき油滴OMの速度Uを計測する処理を説明したが、さらに受信アンテナ15bにおけるドップラー波の受信状態に基づき油滴OMの体積を求めることにより、油滴OMの体積流量を算出することも可能である。
【0039】
空気と油滴OM界面における反射波が受信アンテナ15bにて受信されるが、このときの反射率は油滴OMの物性値(透磁率,誘電率)および体積によって決定づけられることが知られている。潤滑油として使用する油滴OMの物性値は既知の定数であるため、送信波の電界強度(振幅A)と受信波の電界強度(振幅B)との比である振幅反射率を特定することによって、油滴OMの体積を求めることができる。予め振幅反射率と油滴OMの体積との対応関係を調査しておき、当該対応関係を規定したテーブルをマイクロコンピュータ25の図示しないROMに格納し、参照するようにすれば、油滴OMの体積を求めることができる。油滴OMの体積が特定できると、上述した流速Uと体積の乗算によって単位時間あたりの流量を算出することができる。
【0040】
(3)第3の実施形態
図10は、上記一対の送信アンテナ15aと受信アンテナ15bとに代えて、ヘリカルアンテナからなる送受信アンテナ17で形成した変形例を示し、図11は端部壁材12bの側に平面のスパイラルアンテナで形成した送受信アンテナ18で形成した変形例を示している。なお、これらの送受信アンテナ17,18を利用する場合は空洞共振器10を分離可能に形成しつつ、合体時には相対面する導線の端部同士が電気的に接続し、一定長の連続する電路を形成して所定長のアンテナとして作動するようにする。このようにしても、第1の実施形態と同様の解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明に係る流量計測装置で使用する空洞共振器の断面図である。
【図2】空洞共振器内のマイクロ波定在波をシミュレーションした図である。
【図3】空洞共振器内のマイクロ波定在波をシミュレーションした図である。
【図4】処理回路のブロック図である。
【図5】油滴流れの状況を示す模式図である。
【図6】受信電力のバンドパスフィルタ入力前の信号を示す図である。
【図7】受信電力のバンドパスフィルタ入力後の信号を示す図である。
【図8】バンドパスフィルタ通過後の受信電力のFFTスペクトルを示す図である。
【図9】変形例にかかる空洞共振器の断面図である。
【図10】他の変形例にかかる空洞共振器の断面図である。
【図11】他の変形例にかかる空洞共振器の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
10…空洞共振器、11…本体筒部、12a,12b…端部壁材、13a,13b…金属筒体、14…管路支持体、15a…送信アンテナ、15b…受信アンテナ、16…電波吸収体、17,18…送受信アンテナ、20…計測回路、21…マイクロ波発信器、22…検波器、23…低周波増幅回路、24…アナログデジタル変換器(A/D変換器)、25…マイクロコンピュータ。
【技術分野】
【0001】
この発明は、流量計測装置に関し、特に、微量給油分野および粉粒体等の搬送分野において利用して好適な流量計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、切削加工のセミドライ化や軸受け潤滑の適正化が提唱されている。これらの用途においては潤滑油の供給流量は高々数mL/hと極微少であり、連続飽和流れによる供給が困難である事から霧化や間欠滴下による多相送り方式が用いられている。一方、微量給油分野の多くの部分を占めている間欠滴下によるオイルエアー方式に対しては、流れの特殊性から流量をインラインで測定する手段が提供されていない。このため、電気式あるいは空気タイマーによる容積ポンプの作動周期のみを頼りにして供給しているのが現状である。ところで、上述した前者の微量液体の気相送りに対しては信頼性ある流量の計測法が確立されていない。また、後者の容積ポンプの吐出量は容積が微小な為に安定性に欠け、その吐出量の安定性は業界では20%程度とされている。
このような状況に鑑みて、マイクロ波を利用した微量粉流量計が提案されている(特許文献1、参照)。かかる構成において、誘電体で充填した空洞内を貫通する微粉流路に対してマイクロ波ビームを照射することにより、微粉流量に応じた干渉縞パターンの変化を検知し、当該変化に基づいて微粉流量を解析する。
【特許文献1】特許第2573645号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した微量粉流量計においては、微粉流路の断面方向(軸方向の直交方向)に対して均一なマイクロ波による場を形成することができず、計測結果が微粉流路において微粉が通過する位置の影響を受けてしまうという問題があった。
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、マイクロ波の定在波あるいは進行波による空間フィルタを構成して観測時間中の通過油滴の体積を測定して流量を求めるなど、微量な液体や粉末の搬送といった分野で正確な流量計測を実現させる流量計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
こうした目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、導波管型の空洞共振器と、この空洞共振器を貫通する貫通管路と、誘電体で形成されるとともに上記空洞共振器の内部において上記貫通管路の外側を取り巻く管路支持体と、この空洞共振器の内部における上記管路支持体の外側の空洞において上記空洞共振器の軸方向に進行するマイクロ波を送信し、当該マイクロ波の定在波あるいは進行波を形成する送信アンテナと、同形成された定在波あるいは進行波を受信する受信アンテナと、を具備する構成としてある。
【0005】
また、請求項2に記載の発明では、上記空洞共振器における上記貫通管路の開口部から外方に向けて突出する同空洞共振器の内径より小さい開口径の金属筒体を有する構成としてある。
また、請求項3に記載の発明では、上記空洞共振器は、上記貫通管路を完全に露出するように分離可能に形成されている構成としてある。
また、請求項4に記載の発明では、上記空洞共振器内において定在波を形成するとともに、上記受信アンテナから得られる受信電力の交流成分の周波数に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の流速を算出する構成としてある。
【0006】
また、請求項5に記載の発明では、上記空洞共振器内において定在波を形成するとともに、上記受信アンテナから得られる受信電力の交流成分の振幅に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の体積を算出する構成としてある。
また、請求項6に記載の発明では、上記体積を算出するにあたり、上記受信アンテナから得られる受信電力の直流成分に基づいて上記体積を補正する構成としてある。
また、請求項7に記載の発明では、上記空洞共振器内において進行波を形成するとともに、上記受信アンテナにて受信されるマイクロ波のドップラー周波数に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の流速を算出する構成としてある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、給油分野を始めとする微量な液体や粉末の搬送において正確に流量を計測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
(1)第1の実施形態:
(1−1)装置構成:
(1−2)解析理論:
(2)第2の実施形態:
(3)第3の実施形態
【0009】
(1)第1の実施形態
(1−1)装置構成
図1は、流量計測装置を断面図により示している。図において、定在波型の空洞共振器10は、金属素材により概略円筒形形状に形成されている。空洞共振器10は、円筒形の本体筒部11と、当該本体筒部11の両端を概ね閉塞する端部壁材12a,12bと、同端部壁材12a,12bの軸芯と一致するように配置されて外方へ突出する金属筒体13a,13bと、本体筒部11の内部で軸芯と一致しつつ両端部を上記金属製筒体13a,13bに連結される誘電素材の管路支持体14とから構成されている。ここで、上記金属製筒体13a,13bと誘電体の素材からなる管路支持体14とは内径が一致するように形成されている。この結果、当該空洞共振器10はその軸芯に貫通管路を有することになる。なお、本体筒部11と、端部壁材12a,12bと、金属筒体13a,13bとは、一体で形成することもできるし、それぞれを個別に形成して組み付ける構成とすることもできる。
【0010】
また、当該空洞共振器10はその軸芯を通過する平面で分離可能となっている。すなわち、空洞共振器10は、上記貫通管路を完全に露出するように分離可能に形成されている。平面で分離されることにより、既存の輸送管路Pを上記金属製筒体13a,13bと誘電素材の管路支持体14の内部に挟み込むようにして、同輸送管路Pに対して装着できる。金属製筒体13a,13bは、後述するように上記空洞共振器10内外での電波の侵入および漏洩を防止して、精度の高い計測を実現させるに足る長さとなるように形成してある。
【0011】
基本的構造としては、円筒形の本体筒部11とその両端を概ね閉塞する端部壁材12a,12bとで、貫通管路を形成しつつ、当該貫通管路の開口部には、空洞共振器の内径より小さい開口径の金属筒体13a,13bが備えられている。また、管路支持体14は上記貫通管路を取り巻くようになり、当該貫通管路内に挿入されることになる輸送管路Pを保持できる。また、これらにより導波管型の空洞共振器を形成し、マイクロ波の伝播方向は軸方向に配向されることになる。
【0012】
空洞共振器10内には、マイクロ波帯域に対応した1ターンループの送信アンテナ15aと受信アンテナ15bとが独立して配置されている。送信アンテナ15aから送信されるマイクロ波は当該空洞共振器10を導波管としてTM01モードで送信される。これにより、当該空洞共振器10内では軸方向にマイクロ波が進行し、端部壁材12a,12bおよび金属筒体13a,13bにおける空洞共振器10の内側に臨む壁面においてマイクロ波が反射する。そして、反射波との共振によって、空洞共振器10の内部に定在波が平成される。ここでは空洞共振器10の有効長を上記送信アンテナ15aにて出力されるマイクロ波の管内1/2波長の整数倍とすることで定在波を形成することが出来る。
【0013】
図2は、空洞共振器10の内部の共振空間に形成される定在波をシミュレーションした結果を示している。同図において、横軸は空洞共振器10の軸方向の位置を示し、縦軸は定在波が示す電界強度を示している。なお、代表的なオイルエアー用の管路である外径4mm、内径2mmのウレタンチューブを輸送管路Pとして貫通させた状態で、24.15GHzのマイクロ波を励振して軸方向の定在波を実現させた場合をシミュレーションしている。同図に示すように、空洞共振器10内には2.5波長の正弦波状の定在波が軸方向に形成されている。
【0014】
図3は、空洞共振器10の内部の共振空間に形成される定在波をシミュレーションした結果を示している。同図において、横軸は空洞共振器10において軸方向に直交する位置(軸方向の位置は一定位置)を示し、縦軸は定在波が示す電界強度を示している。同図に示すように、軸方向に直交する位置にかかわらず、ほぼ一定の電界強度が得られている。空洞共振器10内において軸方向に直交する方向には、所定の誘電率を有する管路支持体14と内部の空気層との境界と、当該管路支持体14と金属性の本体筒部11との境界において、互いに誘電率の異なる界面が形成されることとなる。これらの界面においてはマイクロ波の反射が生じる。また、所定の誘電率を有する管路支持体14においては、マイクロ波の吸収が生じる。このような反射や吸収の相互作用によって、空洞共振器10の軸方向に直交する方向においてほぼ一定の電界強度を得ることができる。以上説明したように、空洞共振器10の軸方向には正弦波状に電界強度が変動し、当該軸方向に直交する方向には一様な電界強度となる電磁界の場を形成することができる。例えば、管路支持体14の厚みを徐々に変更していき、軸方向に直交する方向に関する電界強度が最も平坦化される管路支持体14の厚みを適用するようにしてもよい。受信アンテナ15bがマイクロ波を受信することにより、上述した定在波による電磁界の場の状態を計測することができる。
【0015】
図4は上記空洞共振器10の送信アンテナ15aと受信アンテナ15bに接続する計測回路20をブロック図により示している。送信アンテナ15aにはマイクロ波発信器21が接続される。同マイクロ波発信器21が発信するマイクロ波の波長は図1に示す空洞共振器10内で定在波を形成しえる周波数および波長とする。本実施形態の送信アンテナ15aが発振するマイクロ波は、速度測定用の周波数帯として許可されている24.15GHzのものとする。また、送信アンテナ15aへの供給電力が10mW以下であれば大気中への漏洩電波は規制対象とはならない。上記空洞共振器10を利用した場合の漏洩電波強度の計算値は1.5μV/mで、一般規制値である3m遠方の強度35μV/mを十分下回っているが、漏洩電波の減衰は規制法のみならず検査空間外の物体による外乱を低減する効果もあるので出来るだけ低くするのが望ましい。一方、受信アンテナ15bには検波器22が接続され、同検波器22の出力を低周波増幅回路23にて増幅し、さらにアナログデジタル変換器(A/D変換器)24にてデジタル化し、デジタルデータをマイクロコンピュータ25にて取り込み、解析処理をする。
【0016】
(1−2)解析理論
以下、上記のように構成した流量計測装置によって、輸送管路Pを空気とともに流動するオイルエアーに含まれる油滴の流速を解析するための理論について説明する。なお、オイルエアーは不飽和の油滴を供給するための空気流であり、各種機械に対する微量の給油に用いられる。オイルエアーによる給油方式は、空気が高速に流れる輸送管路Pに微少体積の油滴を容積ポンプなどで間欠的に滴下することにより行われ、通常、給油量の調節は油滴の滴下周期の調節によって実現されている。油滴はオイルエアーの下流に行くに従って平準化されるが、滴下直後においては油滴による空間斑が数メートルにわたって保持される。このオイルエアーは管路を通しての撮影が困難である事から模式的に誇張して示すと図5の様である。このようにオイルエアーにおける油滴の流れは輸送管路Pの管壁に沿うこととなり、当該輸送管路Pの軸方向に沿った一筋の流れとなるが、当該軸方向に直交する断面において油滴が存在する位置は定まらない。
【0017】
受信アンテナ15bがマイクロ波を常時受信しており、当該マイクロ波の電界強度の変動をマイクロコンピュータ25が検波器22と低周波増幅回路23とA/D変換器24を介して常時計測している。上述したとおり、受信されるマイクロ波は定在波であるため、基本的には一定の電界強度がマイクロコンピュータ25にて計測されることとなる。すなわち、誘電率が空気と異なる油滴等の粒子を一切含まないエアーを輸送管路Pにて流動させた場合には、電界強度が一定となり、電界強度の変動はマイクロコンピュータ25にて計測されないこととなる。しかしながら、上述した電磁界の場の中央を軸方向に貫通する輸送管路Pにオイルエアーを流動させると、オイルエアー中に点在する油滴によって電磁界の場が乱れ、受信アンテナ15bにて場の乱れに応じた電界強度(受信電力)の変動が計測されることとなる。油滴は空気と異なる誘電率および所定の誘電損失角を有しているため、油滴によってマイクロ波が吸収されるからである。一般の粉粒体流れにおいては複数の油滴が存在するが、まずここでは単一の油滴の流速を解析する手順および理論を説明する。
【0018】
マイクロ波の定在波により正弦波状に電界強度Eが分布する電磁界の場を、体積q,誘電率ε,誘電損失角δの油滴OMが一定の速度Uで輸送管路Pの軸方向に進行している場合を考える。なお、油滴OMの物性は予め調査しておくことができるため、誘電率ε,誘電体損失角δは既知の値である。ある電界強度Eにおいて油滴OMが存在する場合、油滴OMはマイクロ波を吸収し、それによりマイクロ波の電力が吸収されることとなる。なお、油滴OMにおける吸収電力は主に熱エネルギーに変換されることとなり、このような現象は電子レンジ等の加熱技術に応用されている。fをマイクロ波の周波数とし、Sを油滴OMによる吸収電力とすると、単位体積の油滴OMによる吸収電力Sは下記の(1)式で表しことができる(普及版 マイクロ波加熱技術集成 8ページ参照)。
【数1】
【0019】
上記の(1)式では、油滴OMによる吸収電力Sは、油滴OMの吸収による損失がない場合の電力E2に対して、誘電率εと誘電正接tanδを乗算することにより得ることができる。なお、マイクロ波の吸収は誘電体に対するマイクロ波の浸透深さに依存するが、油滴OMは微粒子であり、その全体積が浅い位置にあるであると考えることができるため、油滴OM内における浸透深さの影響は無視することができる。従って、体積qを乗算することにより、体積qを有する油滴OM全体による吸収電力Sを得ることができる。
【0020】
ここで、図2に示すように電界強度Eが輸送管路Pにおいて正弦波状に分布することがシミュレーションされているため、電界強度Eは油滴OMが存在する輸送管路Pの軸方向の位置xを使用して下記の(2)式によって表すことができる。
【数2】
上記の(2)式において、Aは電界強度Eの振幅を示し、λは電界強度E(定在波)の波長を示している。ここで、油滴OMの軸方向の流速をUとすると、油滴OMが存在する輸送管路Pの軸方向の位置xは、時間tを使用して下記の(3)式のように表すことができる。
【0021】
【数3】
上記の(2)式と(3)式を上記の(1)に代入すると、下記の(4)式を得ることができる。
【数4】
上記の(4)式によれば、吸収電力Sが時間tの周期関数で表せたこととなる。同時に、吸収電力Sが位置xの周期関数であるということも言える。ここで、cosθの倍角定理より、任意の角度θについて下記の(5)式が成立する。
【0022】
【数5】
上記の(5)式の関係によって、上記の(4)式を整理すると、下記の(6)式を得ることができる。
【数6】
上記の(6)の第1項は位置xおよび時間tにかかわらず一定の値を示す直流成分となる。一方、第2項は余弦関数で表され、位置x=Ut=λ/2の空間ごとに周期的な変動を示す交流成分となる。すなわち、油滴OMがマイクロ波(定在波)の波長λの半分の長さλ/2だけ進むごとに吸収電力Sの交流成分は周期的に変動することとなる。また、この交流成分の振幅は、体積qに比例した値となっている。以上の考察から、定在波による電磁界の場を通過する油滴OMによる吸収電力Sは、油滴OMの軸方向の長さλ/2において周期的な交流成分を含み、当該交流成分の振幅は油滴OMの体積qに比例することが分かる。なお、図3に示すように軸方向に直交する方向の位置に関しては、電界強度Eが一定に保たれているため、当該方向のいずれの位置に油滴OMが流動していても上記の(6)式が成立すると考えることができる。
【0023】
受信アンテナ15bはマイクロ波を受信しており、その電界強度Eをマイクロコンピュータ25にて取得することができる。ここで、エネルギー保存則により、マイクロコンピュータ25が取得する電界強度を2乗して得られる受信電力RPと、上述した吸収電力Sとの間には相互補完関係が成立すると考えることができる。従って、受信電力RPにおいても吸収電力Sと同様に、油滴OMの流速Uに応じた周期的な変動が観測できるとともに、当該変動の振幅も油滴OMの体積qに比例したものとなる。従って、マイクロコンピュータ25が取得した受信電力RPから、周期的に変動する交流成分を抽出することにより、上記の(6)式の第2項に対応する交流成分を抽出することができる。さらに、交流成分の周波数と振幅に基づいて油滴OMの流速Uと油滴OMの体積qを得ることができる。
【0024】
以上においては、単一の油滴OMについての原理を説明したが、一般的な粉粒体流れにおいては同時に複数の油滴OMが含まれるため、複数の油滴OMについて同時に解析を行う必要がある。図6は受信アンテナ15bが受信して検波器22にて検波された受信電力RPを示し、図7はさらに低周波増幅回路23にて増幅を行った受信電力RPを示している。これらの図において、縦軸は受信電力RPを示し、横軸は時間tを示している。これらの図が示すように、一般的な粉粒体についての計測を行うと、流速Uが異なる複数の油滴OMに起因した複数の周波数成分の合成波が得られることとなる。本実施形態においては、これらの周波数成分について統計的な解析を行うために高速フーリエ変換(FFT)を利用する。なお、油滴OMが流動していない状態においても、定在波(油滴OMによって乱されていない状態の電磁界の場)の受信が受信アンテナ15bにて行われるため、受信電力RPの直流成分DCが定常的に計測されることとなる。この直流成分DCには、主として送信アンテナ15aが発信したマイクロ波の電界強度が反映されることとなる。また、当該直流成分DCには、時間に依存しない静止要素、すなわち管路支持体14や輸送管路Pによる吸収電力成分も加味されていることとなる。
【0025】
図8は、FFTを行った後の受信電力RPのスペクトルを示している。同図において、横軸が周波数区分fi(iはフーリエ空間における周波数区分を識別する自然数を示す。)を示しており、縦軸が各周波数区分fiごとの受信電力RPの交流成分の振幅の合計値aiを示している。このようにFFTを行うことにより、受信電力RPの交流成分を構成する各成分の周波数(周波数区分fi)を容易に解析することができる。また、受信電力RPの交流成分は、各油滴OMに起因した複数の成分によって構成されるが、各成分の振幅を各周波数区分fiごとに合計して解析することができる。上記の(6)式によって、受信電力RPの交流成分は、マイクロ波(定在波)の波長λの半分の長さλ/2の空間において周期的となることが判明しているため、FFTによって得られた各周波数区分fiごとに油滴OMが長さλ/2だけ進行していると言うことができる。すなわち、長さλ/2の距離を単位時間あたりに周波数区分fiの回数だけ油滴OMが進行していることとなる。従って、各周波数区分fiごとの油滴OMの流速Ui(単位時間あたりに進行する距離)は下記の(7)式によって求めることができる。
【数7】
【0026】
以上によりオイルエアーに含まれる油滴OMがどのような流速Uiを有しているかを把握することができる。次に、体積流量Qを下記の(8)式によって算出する。
【数8】
上記の(8)式においては、各周波数区分fiついて流速Uiと受信電力RPの交流成分の振幅の合計値aiを乗算し、当該乗算値を全周波数fiについて合計し、さらに所定の校正係数kを乗算することによって体積流量Qを算出している。上記の(6)式により、受信電力RPの交流成分の振幅は油滴OMの体積qに比例することが分かっているため、各周波数区分fiついての振幅の合計値aiは、各周波数区分fiに属する複数の油滴OMの体積qの合計値に比例した値であると考えることができる。一方、流速Uiは、当該流速Uiに対応する周波数区分fiに属する油滴OMが軸方向の単位長さに存在する確率相当値であると考えることができるため、Ui×aiは、軸方向の単位長さに存在する各周波数区分fiに属する複数の油滴OMの体積qの合計値に比例する値であると考えることができる。従って、Ui×aiを全周波数区分fiについて合計したΣUi×aiは、全体積流量Qに比例した値となる。
【0027】
受信電力RPの交流成分の振幅の値の絶対的な意味は上記の(6)式で明らかであるため、校正定数kの理論値を誘電率εと誘電正接tanδ等の物性値に基づいて特定することも原理的には可能である。しかしながら、本実施形態においては、校正定数kを予備実験によって求めるものとする。予備実験においては、上述した手順で解析を行うことにより上記の(8)式の一部ΣUi×aiを算出しておくとともに、同時にオイルエアーをトラップ等することにより、そのときの実際の体積流量Qを測定する。そして、実際の体積流量QをΣUi×aiで除算することにより、校正定数kを算出する。なお、一回の予備実験では誤差の影響を大きく受けるため、複数の予備実験の結果を総合した上で体積流量QとΣUi×aiの相関が高くなる校正定数kを算出するのが望ましい。
【0028】
ところで、上記の(6)式における電界強度Eの振幅Aは、送信アンテナ15aが発信するマイクロ波の電界強度に基づいて得ることができる質のものであるが、送信アンテナ15aから発信する電界強度を安定化することはかなり困難となる。一般に市販されているMDU(Microwave Doppler Unit)の室温環境における電力安定性の実測結果は10%以上の変動が観測される。この中には電力を検波するダイオードの温度特性も含まれる。従って、校正定数kを算出するための予備実験において送信アンテナ15aが発信したマイクロ波の電界強度と、実際の計測時において送信アンテナ15aが発信するマイクロ波の電界強度との差が、測定誤差となることが懸念される。そこで、下記の(9)式による補正を行うことにより、上記の測定誤差を抑制することができる。
【0029】
【数9】
上記の(9)式において、D0は校正定数kを算出した際の受信電力RPの直流成分DCの大きさを示し、D1は実際の計測時の受信電力RPの直流成分DCの大きさを示している。上述したとおり、直流成分DCは送信アンテナ15aが発信したマイクロ波の電界強度を反映した値であると考えられるため、送信アンテナ15aが発信したマイクロ波の電界強度に依存しない体積流量Qを求めることが可能となる。なお、上記の(6)式が示すように、受信電力RPの交流成分の振幅は油滴OMの誘電率εと誘電正接tanδに依存するため、校正係数kは油滴OMの種類ごとに算出しておく必要がある。
【0030】
一方、輸送管路Pの作用空間に存在する油滴OMの全体積は、より簡易な手法によって計測することができる。すなわち、輸送管路Pに油滴OMが完全に存在しない場合も含め、複数の既知の体積の油滴OMを輸送管路Pに存在させた場合について、受信アンテナ15bによる受信電力を予め調査しておく。そして、吸収電力(輸送管路Pに各体積の油滴OMが存在する場合の受信電力から、輸送管路Pに油滴OMが完全に存在しない場合の受信電力を差し引いた分)と、油滴OMの体積との対応関係をテーブル化しておき、当該テーブルを参照して計測時点での吸収電力に対応する体積を特定することができる。むろん、この場合にも、送信アンテナ15aからの出力電力と変動に応じて補正を行うことが望ましい。
【0031】
例えば、体積Voを輸送管路内に配置したとき、送信電力がPo、受信電力がRPiになるとする。体積Voを正確に計測しつつ所定の範囲で少しずつ変化させていき、テーブル化する。油滴OMが存在しないときの吸収電力と、油滴OMの体積Voが存在する場合における吸収電力との差が同流体の電波吸収量Goといえる。従って、電波吸収量Goと体積Voとの対応関係をプロットしておき、以後は基準の吸収電力と各計測時点で計測された吸収電力との差を算出することで、その時点での体積Vを求めることができる。
【0032】
同様の計測は、油滴OMによる反射電力を利用することでも同様に実現できる。一方、管路内に存在する誘電体(油滴OM)の量によって共振周波数に微小な変化が認められることが分かっている。このため、共振周波数を計測することでその変動分から各時点での流体の量を特定するようにしても良い。すなわち、流体が存在しないときの共振周波数をfs、流体の体積Voが存在する場合にはこの共振周波数が、△foだけ変化する。従って、変動分△foと体積Voとの対応関係をプロットしておき、以後は各計測時点での共振周波数の変動分△fを計測することで、その時点での体積Vを求めることができる。
【0033】
なお、本実施形態において、油滴OMが輸送管路Pの管壁に沿うオイルエアーについて解析を行うものを例示したが、輸送管路P内を霧化した状態で流動するオイルミストについても同様の手法によって流速を計測することができる。さらに、本発明は、一定の誘電率を有する粉粒体について適用することができ、オイル以外の粉粒体に対しても適用することができる。また、上記の実施形態では吸収電力を計測することによって粉粒体の流速等を解析するものを例示したが、所定の反射率を有する粉粒体による反射電力を解析することにより、当該粉粒体の流速等を計測することも可能である。
【0034】
(2)第2の実施形態
図9は、図1に示す上記の全ての構成に加えて端部壁材12aの軸端側内壁面に電波吸収体16を配設して無反射面を形成してある。これにより、上記空洞共振器10内に進行波を形成することが出来る。進行波においても当該空洞共振器10の軸方向に直交する方向にかんして略均一な電界強度となる電磁界の場を形成することができる。そして、輸送管路Pに誘電体たる油滴OMを不飽和に含んだオイルエアーを流動させることにより、同油滴OMによる電磁界の場の変化を受信アンテナ15bを介して検出することができる。ただし、進行波においては受信アンテナ15bが受信するマイクロ波の電界強度が絶えず変動するため、上記解析とは異なる手法によって解析を行う必要がある。
【0035】
マイクロ波の進行波が空洞共振器10内において軸方向に進行する速度は油滴OMの噴射速度よりもはるかに大きいため、進行波が油滴OMに到達し、反射波が生成されることとなる。この反射波は、受信アンテナ15bに到達し、受信アンテナ15bにて受信されることとなる受信アンテナ15bにおいては、送信波と反射波との混合波が受信される。この混合波の電界強度は下記の(10)式によって表すことができる。
【数10】
なお、上記の(10)式において、Aは送信波の振幅を示し、Bは反射波の振幅を示し、f1は送信波の周波数を示し、f2は反射波の周波数を示している。上記の(10)式の左辺に示すように混合波は送信波と反射波を乗算したものであり、右辺のように展開することができる。右辺の第1項では送信波と反射波の周波数の差(f1−f2)を意味するビート周波数δfが表れ、右辺の第2項では送信波と反射波の周波数の和(f1+f2)が表れる。すなわち、混合波には低周波成分と高周波成分が含まれるということができる。
【0036】
ここで、油滴OMにおける反射波はドップラー効果によって周波数変調された変調波(ドップラー波)であると考えることができる。従って、マイクロ波の速度をC(光速)とし、油滴OMの速度をUとして、マイクロ波と油滴OMの進行方向がなす角をθとすると、送信波と反射波の周波数f1,f2との間には下記の(11)式が成り立つ。なお、進行波の進行方向と油滴OMの進行方向はともに輸送管路Pの軸方向であるため、θ=0,cosθ=1が代入できる。
【0037】
【数11】
C>>Uであるため、上記の(11)式を下記の(12)式で表すことができる。
【数12】
上記の(12)式によれば、混合波におけるビート周波数δfと油滴OMの速度Uとの関係を得ることができる。従って、アンテナ13にて受信された混合波のうち低周波成分の周波数(ビート周波数)を解析することにより、油滴OMの速度Uを算出することができる。
【0038】
すなわち、受信アンテナ15bにおける電界強度の変動に対してFFTを行い、FFTにより得られた周波数のスペクトルから、ビート周波数δfを得る。さらに当該ビート周波数δfを上記の(3)式に代入することにより、油滴OMの速度Uを得ることができる。ここまでは、受信アンテナ15bにおける受信状態に基づき油滴OMの速度Uを計測する処理を説明したが、さらに受信アンテナ15bにおけるドップラー波の受信状態に基づき油滴OMの体積を求めることにより、油滴OMの体積流量を算出することも可能である。
【0039】
空気と油滴OM界面における反射波が受信アンテナ15bにて受信されるが、このときの反射率は油滴OMの物性値(透磁率,誘電率)および体積によって決定づけられることが知られている。潤滑油として使用する油滴OMの物性値は既知の定数であるため、送信波の電界強度(振幅A)と受信波の電界強度(振幅B)との比である振幅反射率を特定することによって、油滴OMの体積を求めることができる。予め振幅反射率と油滴OMの体積との対応関係を調査しておき、当該対応関係を規定したテーブルをマイクロコンピュータ25の図示しないROMに格納し、参照するようにすれば、油滴OMの体積を求めることができる。油滴OMの体積が特定できると、上述した流速Uと体積の乗算によって単位時間あたりの流量を算出することができる。
【0040】
(3)第3の実施形態
図10は、上記一対の送信アンテナ15aと受信アンテナ15bとに代えて、ヘリカルアンテナからなる送受信アンテナ17で形成した変形例を示し、図11は端部壁材12bの側に平面のスパイラルアンテナで形成した送受信アンテナ18で形成した変形例を示している。なお、これらの送受信アンテナ17,18を利用する場合は空洞共振器10を分離可能に形成しつつ、合体時には相対面する導線の端部同士が電気的に接続し、一定長の連続する電路を形成して所定長のアンテナとして作動するようにする。このようにしても、第1の実施形態と同様の解析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明に係る流量計測装置で使用する空洞共振器の断面図である。
【図2】空洞共振器内のマイクロ波定在波をシミュレーションした図である。
【図3】空洞共振器内のマイクロ波定在波をシミュレーションした図である。
【図4】処理回路のブロック図である。
【図5】油滴流れの状況を示す模式図である。
【図6】受信電力のバンドパスフィルタ入力前の信号を示す図である。
【図7】受信電力のバンドパスフィルタ入力後の信号を示す図である。
【図8】バンドパスフィルタ通過後の受信電力のFFTスペクトルを示す図である。
【図9】変形例にかかる空洞共振器の断面図である。
【図10】他の変形例にかかる空洞共振器の断面図である。
【図11】他の変形例にかかる空洞共振器の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
10…空洞共振器、11…本体筒部、12a,12b…端部壁材、13a,13b…金属筒体、14…管路支持体、15a…送信アンテナ、15b…受信アンテナ、16…電波吸収体、17,18…送受信アンテナ、20…計測回路、21…マイクロ波発信器、22…検波器、23…低周波増幅回路、24…アナログデジタル変換器(A/D変換器)、25…マイクロコンピュータ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波管型の空洞共振器と、
この空洞共振器を貫通する貫通管路と、
誘電体で形成されるとともに上記空洞共振器の内部において上記貫通管路の外側を取り巻く管路支持体と、
この空洞共振器の内部における上記管路支持体の外側の空洞において上記空洞共振器の軸方向に進行するマイクロ波を送信し、当該マイクロ波の定在波あるいは進行波を形成する送信アンテナと、
同形成された定在波あるいは進行波を受信する受信アンテナと
を具備することを特徴とする流量計測装置。
【請求項2】
上記空洞共振器における上記貫通管路の開口部から外方に向けて突出する同空洞共振器の内径より小さい開口径の金属筒体を有することを特徴とする請求項1に記載の流量計測装置。
【請求項3】
上記空洞共振器は、上記貫通管路を完全に露出するように分離可能に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の流量計測装置。
【請求項4】
上記空洞共振器内において定在波を形成するとともに、
上記受信アンテナから得られる受信電力の交流成分の周波数に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の流速を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の流量計測装置。
【請求項5】
上記空洞共振器内において定在波を形成するとともに、
上記受信アンテナから得られる受信電力の交流成分の振幅に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の体積を算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の流量計測装置。
【請求項6】
上記体積を算出するにあたり、上記受信アンテナから得られる受信電力の直流成分に基づいて上記体積を補正することを特徴とする請求項5に記載の流量計測装置。
【請求項7】
上記空洞共振器内において進行波を形成するとともに、
上記受信アンテナにて受信されるマイクロ波のドップラー周波数に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の流速を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の流量計測装置。
【請求項1】
導波管型の空洞共振器と、
この空洞共振器を貫通する貫通管路と、
誘電体で形成されるとともに上記空洞共振器の内部において上記貫通管路の外側を取り巻く管路支持体と、
この空洞共振器の内部における上記管路支持体の外側の空洞において上記空洞共振器の軸方向に進行するマイクロ波を送信し、当該マイクロ波の定在波あるいは進行波を形成する送信アンテナと、
同形成された定在波あるいは進行波を受信する受信アンテナと
を具備することを特徴とする流量計測装置。
【請求項2】
上記空洞共振器における上記貫通管路の開口部から外方に向けて突出する同空洞共振器の内径より小さい開口径の金属筒体を有することを特徴とする請求項1に記載の流量計測装置。
【請求項3】
上記空洞共振器は、上記貫通管路を完全に露出するように分離可能に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の流量計測装置。
【請求項4】
上記空洞共振器内において定在波を形成するとともに、
上記受信アンテナから得られる受信電力の交流成分の周波数に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の流速を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の流量計測装置。
【請求項5】
上記空洞共振器内において定在波を形成するとともに、
上記受信アンテナから得られる受信電力の交流成分の振幅に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の体積を算出することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の流量計測装置。
【請求項6】
上記体積を算出するにあたり、上記受信アンテナから得られる受信電力の直流成分に基づいて上記体積を補正することを特徴とする請求項5に記載の流量計測装置。
【請求項7】
上記空洞共振器内において進行波を形成するとともに、
上記受信アンテナにて受信されるマイクロ波のドップラー周波数に基づいて上記貫通管路を流動する誘電性の流体の流速を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の流量計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−139288(P2008−139288A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283784(P2007−283784)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の規定を受けるもの)
【出願人】(591113437)オーム電機株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の規定を受けるもの)
【出願人】(591113437)オーム電機株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
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