流量計測装置
【課題】流体の圧力損失を可及的小さく抑えながら、流路の直管部が短くても流体の流量を正確に計測できるようにする。
【解決手段】流体通路を形成するダクト2内に設けられた流量計測部3と、ダクト2内であって前記流量計測部3より上流側に設けられた旋回流形成部4とを備える。前記旋回流形成部4は、ダクト2内に流体の旋回流を発生させるものである。
【解決手段】流体通路を形成するダクト2内に設けられた流量計測部3と、ダクト2内であって前記流量計測部3より上流側に設けられた旋回流形成部4とを備える。前記旋回流形成部4は、ダクト2内に流体の旋回流を発生させるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体通路内の流体の流量を計測するための流量計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーを図ったり二酸化炭素の排出量を低減できる空調システムが要請されている。このような要請に応えるためには、空調ダクト内を流れる流体の流量を正確に計測することが重要である。
【0003】
流体の流量を計測するための従来の流量計としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。この公報に開示された流量計は、気体や液体などの流体の流量を計測するためのもので、流体通路内に設けられた整流形成流路の上流側と下流側との差圧を用いて流量を求める構成が採られている。前記整流形成流路は、流体の流れを整流し、かつ層流を形成してその前後に差圧を発生させるもので、流体を通す多数の細管によって形成されている。
【0004】
一方、空調システムのダクトは、上下方向や水平方向に屈曲するような形状に形成されることが多い。すなわち、この種のダクトは、直管部分(一直線状に延びる部分)の長さを十分に長くとることが難しいものである。ダクトなどの流体通路の中を流れる流体の流速の分布は、図13および図14に示すようになることが知られている。図13は、直管部分が十分に長く、いわゆる「発達した流れ」となる状態を示す。図14は、流体通路の屈曲部分の下流側近傍において、流速の分布に「偏り」が生じている状態を示す。これらの図において、符号Aは流体通路を示し、矢印の長さは流体の流速の直進方向の大きさを示している。
【0005】
前記ダクトの直角あるいはそれに近い角度で屈曲して形成されている屈曲部分を流体が流れる場合、前記屈曲部分を通過した直後の流体の流速は、図14に示すように、曲がり部分の外側に最大流速部分が偏るようになる。すなわち、この場合は、流速の分布が図14において中心から見て対称ではなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3834534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている流量計では、空調システムのダクト内の流量(風量)を正確に計測することができないという問題があった。この理由は、上述したように空調システムのダクトは屈曲部分が多く形成されており、このようなダクトに流量計を設けるに当たっては、前記屈曲部分の下流側近傍に流量計を配置しなければならないことが多いからである。
【0008】
すなわち、流量計に流入する流体の圧力や流速の分布が水平方向や上下方向に大きく偏り、計測誤差が大きくなってしまうから、上述したように流量を正確に計測することができない。
このような「圧力や流速の偏り」を解消するためには、流量計の上流側近傍に整流機構を設けることが考えられる。しかし、前記「偏り」を解消できるような微細なメッシュの整流機構は、空気抵抗が大きくなるから、流体の圧力損失が大きくなってしまう。
【0009】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、流体の圧力損失を可及的小さく抑えながら、流体通路の直線部が短くても流体の流量を正確に計測できる流量計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明に係る流量計測装置は、流体通路内に設けられた流量計測部と、流体通路内であって前記流量計測部より上流側に設けられた旋回流形成部とを備え、前記旋回流形成部は、前記流体通路内に流体の旋回流を発生させるものであることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載した発明は、上述した発明において、前記流体通路の通路壁は断面円形状に形成され、前記旋回流形成部は、前記通路壁の内周面の周方向に所定の間隔をおいて並ぶ複数の羽根を備えているものである。
【0012】
請求項3に記載した発明は、上述した発明において、前記羽根は、前記通路壁の壁面から通路内側に延びるように形成されているものである。
【0013】
請求項5に記載した発明は、上述した発明において、前記旋回流形成部は、流体通路の上流側と下流側とにそれぞれ互いに近接するように設けられ、上流側に位置する旋回流形成部が発生させる旋回流の旋回方向と、下流側に位置する旋回流形成部が発生させる旋回流の旋回方向とは、流体の流れる方向から見て互いに逆方向であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、圧力や流速の分布に偏りがある流体が旋回流形成部内で旋回流に変えられるときに、流体の圧力が相対的に高い部分や流速が相対的に高い部分が旋回方向に分散させられると考えられる。このため、本発明によれば、流体の圧力や流速の分布の偏りが緩和されるから、流体通路の屈曲部分の下流側近傍において流量を正確に計測できる流量計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る流量計測装置の構成を示す断面図である。
【図2】本発明に係る流量計測装置の構成を示す斜視図で、同図においてはダクトの一部を破断した状態で描いてある。
【図3】旋回流形成部の一例を示す斜視図である。
【図4】旋回流形成部の一例を示す斜視図である。
【図5】旋回流形成部の一例を示す斜視図である。
【図6】旋回流形成部の下流側の圧力分布を示すグラフである。
【図7】旋回流形成部の下流側の水平方向の流速分布を示すグラフである。
【図8】旋回流形成部の下流側の上下方向の流速分布を示すグラフである。
【図9】実験時の状態を示す斜視図である。
【図10】第2の試作品を示す斜視図である。
【図11】第2の試作品を示す図で、同図(A)は下流側から見た正面図、同図(B)は側面図である。
【図12】第3の試作品を示す図で、同図(A)は上流側旋回流形成部の下流側から見た正面図、同図(B)は下流側旋回流形成部の下流側から見た正面図、同図(C)は上流側旋回流形成部と下流側旋回流形成部とを組み合わせた状態における側面図である。
【図13】発達した流れを説明するための模式図である。
【図14】「偏り」のある流れを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る流量計測装置の一実施の形態を図1〜図12によって詳細に説明する。
図1に示す流量計測装置1は、流体通路を形成するためのダクト2と、このダクト2の内部に設けられた流量計測部3および旋回流形成部4とによって構成されている。
前記ダクト2は、図示していない空調システムに設けられている空気ダクトの一部を構成するもので、図2に示すように、円筒状に形成されている。すなわち、このダクト2の通路壁5は断面円形状に形成されている。このダクト2の内部には、空気が図1において左から右へ流れる。
【0017】
前記流量計測部3は、前記ダクト2の内部に設けられた整流形成流路6を有する差圧式流量計7によって構成されている。
この差圧式流量計7は、前記整流形成流路6の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧を検出する差圧測定部8と、前記差圧に基づいて流体(空気)の流量を算出する流量算出部9とを備えている。差圧測定部8は、前記ダクト2に形成された上流側圧力測定口8aおよび下流側圧力測定口8bからダクト2内の圧力を検出する。前記整流形成流路6には、多孔形状の空気通路6aが形成されている。
【0018】
前記旋回流形成部4は、ダクト2内に空気の旋回流を発生させるためのもので、前記整流形成流路6から所定の距離だけ上流側に離間した位置に取付けられている。
この実施の形態による前記旋回流形成部4は、図2に示すように、複数の羽根11を備えている。これらの羽根11は、それぞれ金属製の板材によって形成されており、ダクト2の径方向の中心部から放射状に延びる状態でダクト2の通路壁5に溶接されている。すなわち、これらの羽根11は、断面円の外周壁面(通路壁5の内周面)から断面中心に延びるように形成されている。なお、ダクト2や羽根11の材料は、金属に限定されることはなく、プラスチックでもよい。また、ダクト2と羽根11とは、それぞれ別体に形成し、例えば溶接などによって互いに接続させることができる。さらに、ダクト2と羽根11とは、一体成形により一体に形成することもできる。
【0019】
また、これらの羽根11は、前記通路壁5の内周面の周方向に所定の間隔をおいて並べられている。この実施の形態においては、8枚の羽根11が放射線状に並ぶように、前記周方向に等間隔おいて並べられている。これらの羽根11における前記通路壁5とは反対側の端部(以下、この端部をダクト内側の端部11aという)は、前記ダクト2の中心線Cと平行に延びるように形成されており、前記中心線Cと同一軸線上に位置する連結用ロッド12に接続されている。この連結用ロッド12には、全ての羽根11のダクト内側の端部11aが接続されている。
【0020】
各羽根11における通路壁5に接続される端部(以下、この端部を単にダクト外側の端部11bという)は、ダクト2の長手方向に対して所定の角度で傾斜するように形成されている。詳述すると、各羽根11のダクト外側の端部11bは、ダクト2の上流側から下流側に向かうにしたがって漸次通路壁5の周方向の一方に位置するように形成されている。この周方向の一方とは、羽根11を下流側から見た状態で反時計方向である。
【0021】
また、この羽根11の上流側端部11cと下流側端部11dとは、このようにダクト外側の端部11bが傾斜しているにもかかわらず、いずれもダクト2の径方向(前記連結用ロッド12を中心として放射状)に延びるように形成されている。このため、この羽根11は、上流側から見て下流側が捻られた形状に形成されている。
このように構成された複数の羽根11を有する旋回流形成部4に上流側から流入した空気は、羽根11によって流れる方向が変えられ、旋回流となって旋回流形成部4から流出する。この旋回流の旋回する方向は、下流側から見て反時計方向である。
【0022】
このように構成された流量計測装置1は、流入する気体の圧力や流速の分布に「偏り」が生じているような場合であっても、この「偏り」を緩和して流量計測部3において正確な流量を計測することができる。前記「偏り」が緩和される理由は、圧力や流速の分布に偏りがある流体が旋回流形成部4内で旋回流に変えられるときに、流体の圧力が相対的に高い部分や、流速が相対的に高い部分が旋回方向に分散させられるからであると考えられる。
したがって、この実施の形態によれば、流体の圧力や流速の分布の偏りが緩和されるから、流体通路の屈曲部分の下流側近傍において流量を正確に計測できる流量計測装置1を提供することができる。
【0023】
この実施の形態においては、前記ダクト2の通路壁5は、断面円形状に形成され、前記旋回流形成部4は、前記通路壁5の内周面の周方向に所定の間隔をおいて並ぶ複数の羽根11を備えている。このため、この実施の形態によれば、羽根11の構成を変えることによって、旋回流形成部4の空気抵抗の大きさや、旋回流形成部4を通過することにより生じる旋回流の旋回方向などを簡単に変えることができる。すなわち、この実施の形態によれば、羽根11を使用して旋回流を発生させる構成を採っており、設計上の自由度が高くなるから、圧力損失の低減と計測精度の向上とを両立できる流量計測装置を提供することができる。
【0024】
また、この実施の形態による前記羽根11は、前記通路壁5の断面円の外周壁面から断面中心に延びるように形成されているから、通路壁5の壁面に沿って流れる空気が羽根11に確実に当たる。このため、空気通路の曲がり部分(図示せず)の外側を高速で流れる空気(例えば図14参照)の流速を効率よく減速させることができる。これは、羽根11の空気抵抗は、流体の流速の二乗に比例するからである。
したがって、この実施の形態によれば、流速の分布の偏りがより一層少なくなるから、より一層正確に流量を計測することが可能な流量計測装置を提供することができる。
【0025】
旋回流形成部は、例えば図3〜図5に示すように形成することができる。図3〜図5において、前記図1および図2によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図3に示す旋回流形成部21は、図1および図2に示した旋回流形成部4に較べて羽根11の数量を増加させたものである。この形態を採ることにより、流量計測部3に流入する空気の圧力や速度の分布の偏りをより一層緩和することができる。
【0026】
図4に示す旋回流形成部31の羽根11は、ダクト2の通路壁5に片持ち支持式に支持されている。図4に示す各羽根11のダクト内側の端部11aどうしは、互いに離間している。すなわち、この実施の形態による羽根11は、ダクト2の断面円の外周壁面(通路壁5の内周面)から断面中心に延びるようにかつ中心部は空洞に形成されている。この旋回流形成部31の中心部には、羽根11が存在していない空洞部分32が形成されている。
【0027】
この実施の形態による羽根11は、ダクト外側の端部11bとダクト内側の端部11aとがいずれもダクト2の長手方向に対して傾斜するように構成されている。ダクト外側の端部11bは、ダクト内側の端部11aに較べて、前記長手方向に対して傾斜する角度が大きくなるように形成されている。羽根11の前記両端部11a,11bがダクト2の長手方向に対して傾斜する方向は、下流側に向かうにしたがって漸次通路壁5の内周面の周方向の一方に位置するような方向である。前記周方向の一方とは、下流側から見て反時計方向である。また、この羽根11の上流側端部11cと下流側端部11dとは、何れもダクト2の径方向に延びるように形成されている。このため、図4に示す羽根11は、上流側から見て下流側が捻られた形状に形成されている。
【0028】
ダクト2の前記空洞部分32は、空気が流れるときの抵抗が相対的に小さくなるから、この空洞部分32を流れる空気の流速は相対的に高くなる。したがって、この実施の形態による旋回流形成部31を図1および図2に示す旋回流形成部4と替えることによって、図13に示すような、いわゆる「発達した流れ」に近い状態で流体が流量計測部3に流入するようになる。この結果、さらに高い精度で流体の流量を計測することが可能な流量計測装置を提供することができる。
【0029】
図5に示すダクト2には、二つの旋回流形成部41,42が設けられている。これらの旋回流形成部41,42は、ダクト2の上流側と下流側とにそれぞれ互いに近接するように位置付けられている。詳細は後述するが、上流側に位置する上流側旋回流形成部41が発生させる旋回流の旋回方向と、下流側に位置する下流側旋回流形成部42が発生させる旋回流の旋回方向とは、空気の流れる方向から見て互いに逆方向である。
【0030】
これらの上流側旋回流形成部41と下流側旋回流形成部42とは、いずれも前記図4に示したような片持ち支持式の羽根11を用いて構成されている。
上流側旋回流形成部41は、図4に示す旋回流形成部4と同等の構成が採られている。すなわち、上流側旋回流形成部41は、下流側から見て反時計方向に旋回する空気の旋回流を発生させるものである。
【0031】
一方、下流側旋回流形成部42は、下流側から見て時計方向に旋回する空気の旋回流を発生させるものである。この下流側旋回流形成部42の羽根11は、ダクト2の長手方向に対して傾斜する方向が図4に示す旋回流形成部4の羽根11や上流側旋回流形成部41の羽根11とは相違している。なお、下流側旋回流形成部42の羽根11は、上流側旋回流形成部41の羽根11とは前記傾斜する方向が異なる他は同等の構成が採られている。
【0032】
下流側旋回流形成部42に設けられている羽根11のダクト内側の端部11aとダクト外側の端部11bとがダクト2の長手方向に対して傾斜する方向は、下流側に向かうにしたがって、下流側から見て通路壁5の内周面に沿って時計方向に漸次位置するような方向である。また、この羽根11においても、上流側端部11cと下流側端部11dとがダクト2の径方向に延びるように形成されている。このため、下流側旋回流形成部42の羽根11は、上流側から見て下流側が捻られた形状に形成されている。
【0033】
図5に示す実施の形態によれば、上流側旋回流形成部41を通過して旋回を開始した空気は、下流側旋回流形成部42を通過することによって、旋回する方向が変えられて逆方向に旋回するようになる。
したがって、この実施の形態によれば、空気が上流側旋回流形成部41と下流側旋回流形成部42とを通過することによって攪拌されるようになり、圧力や流速の分布の均等化が図られると考えられる。このため、図5に示す上流側旋回流形成部41と下流側旋回流形成部42とを有するダクト2に流量計測部3を接続することによって、空気の流量をより一層正確に計測可能な流量計測装置を構成することができる。
【0034】
上述した図1〜図5に示す実施の形態においては、空調システムの空気ダクト2に本発明に係る流量計測装置1が設けられている。このため、上述した実施の形態によれば、空気ダクト2内を流れる空気の流量を正確に計測することが可能な空調システムを構成することができる。したがって、この実施の形態による流量計測装置1を装備した空調システムにおいては、動作の制御をより一層正確に行うことができるようになるから、省エネルギーが図られたり、二酸化炭素の排出量が減少するように動作を制御することが可能になる。
【0035】
上述した図3〜図5に示した旋回流形成部21,31,41,42を試作して実験を行ったところ、詳細は後述するが、図6〜図8に示すように、圧力と流速とについて「偏り」を緩和できることが分かった。この実験を行うに当たっては、図9に示すように、水平方向に延びるダクト2を用い、旋回流形成部21,31,41,42の下流側で空気の圧力と流速とを計測した。なお、図9は、旋回流形成部41,42を使用する状態で描いてある。旋回流形成部21,31,41,42は、ダクト2の屈曲部分2aの下流側に配置した。この屈曲部分2aは、ダクト2の中心線Cが水平方向に約90度曲がるように形成されている。
【0036】
ダクト2における旋回流形成部4の下流側近傍には、ダクト2内を流れる空気の圧力を検出するための第1〜第8の圧力センサ51〜58が取付けられている。これらの第1〜第8の圧力センサ51〜58は、ダクト2の通路壁5の周方向に等間隔おいて離間するように並べられている。これらの第1〜第8の圧力センサ51〜58は、ダクト2の内径の2倍の長さだけ旋回流形成部4より下流側に離間した位置に位置付けられている。
【0037】
ダクト2内を流れる空気の流速は、ダクト2の長手方向において前記圧力センサ51〜58と略同じ位置で例えばピトー管(図示せず)を使用して計測した。流速の計測は、JIS B 8330 (送風機の試験及び検査方法)に規定されている位置において行った。流速の計測は、図9中に一点鎖線で示す第1〜第4の仮想円61〜64と水平方向の中心線L1とが交差する8箇所の計測点65と、第1〜第4仮想円61〜64と上下方向の中心線L2とが交差する8箇所の計測点66とにおいてそれぞれ行った。
【0038】
前記第1〜第4の仮想円61〜64の半径r1〜r4は、JIS B 8330による規定にしたがって、以下のように設定した。以下において、Rは、ダクト2の内径の1/2(半径)である。
第1の仮想円61の半径r1=0.316R
第2の仮想円62の半径r2=0.548R
第3の仮想円63の半径r3=0.707R
第4の仮想円64の半径r4=0.837R
ダクト2内を流れる空気の流速は、上述した水平方向に並ぶ8箇所の計測点65と、上下方向に並ぶ8箇所の計測点66とにそれぞれピトー管を移動させて計測した。
【0039】
実験を行うに当たっては、図4に示す構成の旋回流形成部31を図10および図11に示すように試作し、図5に示す上流側旋回流形成部41を図12(A)示すように試作し、図5に示す下流側旋回流形成部42を図12(B)に示すように試作した。図10〜図12に示すダクト2には、図示していない上流側ダクトおよび下流側ダクトに接続するためのフランジ71が設けられている。
【0040】
図12(A)に示す上流側旋回流形成部41と、図12(B)に示す下流側旋回流形成部42とは、発生する旋回流の旋回方向が逆になるだけでなく、羽根11におけるダクト2の径方向の長さが異なっている。すなわち、上流側旋回流形成部41におけるダクト2の径方向の長さは、下流側旋回流形成部42の羽根11と較べて長く形成されている。
【0041】
図10〜図12に示したダクト2と羽根11の各部の具体的な寸法は、下記の表1に示す通りである。
【0042】
【表1】
【0043】
なお、図3に示す構成の旋回流形成部4は、図10に示す試作品の各羽根11のダクト内側の端部11aどうしが互いに接続されたような形状に試作した。以下においては、図3に示す構成を採る試作品を第1の試作品といい、図4に示す構成を採る試作品を第2の試作品といい、図5に示す構成の試作品を第3の試作品という。
【0044】
上述した実験は、旋回流形成部21,31,41,42を使用しない場合と、前記第1〜第3の試作品をそれぞれ使用した場合との合計4回行った。この実験の結果を図6〜図8に示す。
図6は、ダクト2内の圧力分布を表し、図7はダクト2内の流速の水平方向の分布を表し、図8はダクト2内の流速の上下方向の分布を表している。これらの図において、実線は旋回流形成部を使用しない場合の計測結果を示し、破線は第1の試作品を使用した場合の計測結果を示している。また、一点鎖線は第2の試作品を使用した場合の計測結果を示し、二点鎖線は第3の試作品を使用した場合の計測結果を示している。
【0045】
図6は、第1〜第8の圧力センサ51〜58で得られたセンサ毎の圧力データ(P/Pave)を結んでグラフ化したものである。この図6は、ダクト2内を下流側から見たときの圧力分布が分かるように描いてある。前記センサ毎の圧力データは、各圧力センサ51〜58の検出値(P)を8個の圧力センサの検出値の平均値(Pave)で除した値である。
図6から分かるように、旋回流形成部4を使用しない場合と第1の試作品を使用した場合は、第2の圧力センサ52の検出値が相対的に低く、圧力分布に「偏り」が見られる。しかし、第2の試作品と第3の試作品を使用した場合は、上記「偏り」は緩和されている。
【0046】
図7は、水平方向に並ぶ8箇所の計測点65毎の流速データ(U/Uave)を結んでグラフ化したものである。図8は、上下方向に並ぶ8箇所の計測点66毎の流速データ(U/Uave)を結んでグラフ化したものである。図7と図8は、ダクト2内を下流側から見たときの流速分布が分かるように描いてある。前記計測点毎の流速データは、各計測点65,66において計測して得られた計測値(U)を8箇所分の計測値の平均値(Uave)で除した値である。
【0047】
図7および図8から分かるように、旋回流形成部4を使用しない場合は、ダクト2の中心部において流速が相対的に低く、ダクト2の通路壁5に近い部分において流速が相対的に高くなっている。このような流速分布になる理由は、空気が屈曲部分2aを通過したときに自然に発生した旋回流の受けたからであると考えられる。
【0048】
第1の試作品は、ダクト2の中心部において空気の流路が相対的に狭くなる構造であるため、ダクト2の通路壁5に向けて空気を流すものとなった。このため、図7および図8から分かるように、第1の試作品を使用した場合は、ダクト2の中心部で流速が相対的に低く、通路壁5の近傍で流速が相対的に高くなっている。図8から分かるように、旋回流形成部4を使用しない場合は、ダクト2の下部で流速が相対的に高くなる。しかし、第1の試作品を使用することによって、ダクト2の下部において旋回流形成部4を使用しない場合より流速を低くすることができた。すなわち、第1の試作品を使用することによって、ダクト2内の空気の状態を上下方向において前記図13に示したような「発達した流れ」に近付けることが可能になる。
【0049】
第2の試作品は、ダクト2の中心部に空洞部分32が形成される構造である。このため、第2の試作品を使用することにより、旋回流形成部4を使用しない場合と較べてダクト2の中心部で流速が高くなった。また、第2の試作品を使用することによって、前記第1の試作品を使用した場合と同様に、ダクト2の下部において旋回流形成部4を使用しない場合より流速を低くすることができた。
【0050】
第3の試作品は、第2の試作品と同様にダクト2の中心部に空洞部分32が形成される構造である。このため、この第3の試作品を使用することにより、旋回流形成部4を使用しない場合と較べてダクト2の中心部で流速が高くなった。また、第3の試作品を使用することによって、前記第1、第2の試作品を使用した場合と同様に、ダクト2の下部において旋回流形成部4を使用しない場合より流速を低くすることができた。さらに、第3の試作品を使用することにより、図7に示すように、旋回流形成部4を使用しない場合と較べて、水平方向と上下方向の流速分布を図13に示す「発達した流れ」に近付けることができた。
【0051】
上述した実施の形態においては流量計測部3を差圧式流量計7によって構成する例を示した。しかし、流量計測部3を構成する流量計としては、差圧式流量計7に限定されることはなく、その他の流量計、例えば熱線式流量計やピトー管式流量計など、適宜変更することができる。
【0052】
また、本発明に係る流量計測装置1において、旋回流を発生させるに当たっては、上述した羽根11を用いる実施の形態に限定されることはない。旋回流を発生させるためには、図示してはいないが、例えばダクト2の通路壁5を羽根状に形成しても実現することが可能である。
【0053】
旋回流を発生させるに当たってダクト2に羽根11を設けて行う場合、羽根11の構成は上述した各実施例の構成に限定されることない。すなわち、羽根11の形状を流線形に変えたり、羽根11の数量や傾斜角度等を変えることが可能である。
さらに、上述した実施の形態においては、本発明を空調システムのダクト2に設けられる流量計測装置1について説明したが、本発明は、このような限定にとらわれることはなく、流体通路の屈曲部分の下流側近傍で流量を計測する必要がある装置であれば、どのような装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…流量計測装置、2…ダクト、3…流量計測部、4…旋回流形成部、11…羽根。
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体通路内の流体の流量を計測するための流量計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーを図ったり二酸化炭素の排出量を低減できる空調システムが要請されている。このような要請に応えるためには、空調ダクト内を流れる流体の流量を正確に計測することが重要である。
【0003】
流体の流量を計測するための従来の流量計としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。この公報に開示された流量計は、気体や液体などの流体の流量を計測するためのもので、流体通路内に設けられた整流形成流路の上流側と下流側との差圧を用いて流量を求める構成が採られている。前記整流形成流路は、流体の流れを整流し、かつ層流を形成してその前後に差圧を発生させるもので、流体を通す多数の細管によって形成されている。
【0004】
一方、空調システムのダクトは、上下方向や水平方向に屈曲するような形状に形成されることが多い。すなわち、この種のダクトは、直管部分(一直線状に延びる部分)の長さを十分に長くとることが難しいものである。ダクトなどの流体通路の中を流れる流体の流速の分布は、図13および図14に示すようになることが知られている。図13は、直管部分が十分に長く、いわゆる「発達した流れ」となる状態を示す。図14は、流体通路の屈曲部分の下流側近傍において、流速の分布に「偏り」が生じている状態を示す。これらの図において、符号Aは流体通路を示し、矢印の長さは流体の流速の直進方向の大きさを示している。
【0005】
前記ダクトの直角あるいはそれに近い角度で屈曲して形成されている屈曲部分を流体が流れる場合、前記屈曲部分を通過した直後の流体の流速は、図14に示すように、曲がり部分の外側に最大流速部分が偏るようになる。すなわち、この場合は、流速の分布が図14において中心から見て対称ではなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3834534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている流量計では、空調システムのダクト内の流量(風量)を正確に計測することができないという問題があった。この理由は、上述したように空調システムのダクトは屈曲部分が多く形成されており、このようなダクトに流量計を設けるに当たっては、前記屈曲部分の下流側近傍に流量計を配置しなければならないことが多いからである。
【0008】
すなわち、流量計に流入する流体の圧力や流速の分布が水平方向や上下方向に大きく偏り、計測誤差が大きくなってしまうから、上述したように流量を正確に計測することができない。
このような「圧力や流速の偏り」を解消するためには、流量計の上流側近傍に整流機構を設けることが考えられる。しかし、前記「偏り」を解消できるような微細なメッシュの整流機構は、空気抵抗が大きくなるから、流体の圧力損失が大きくなってしまう。
【0009】
本発明はこのような問題を解消するためになされたもので、流体の圧力損失を可及的小さく抑えながら、流体通路の直線部が短くても流体の流量を正確に計測できる流量計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明に係る流量計測装置は、流体通路内に設けられた流量計測部と、流体通路内であって前記流量計測部より上流側に設けられた旋回流形成部とを備え、前記旋回流形成部は、前記流体通路内に流体の旋回流を発生させるものであることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載した発明は、上述した発明において、前記流体通路の通路壁は断面円形状に形成され、前記旋回流形成部は、前記通路壁の内周面の周方向に所定の間隔をおいて並ぶ複数の羽根を備えているものである。
【0012】
請求項3に記載した発明は、上述した発明において、前記羽根は、前記通路壁の壁面から通路内側に延びるように形成されているものである。
【0013】
請求項5に記載した発明は、上述した発明において、前記旋回流形成部は、流体通路の上流側と下流側とにそれぞれ互いに近接するように設けられ、上流側に位置する旋回流形成部が発生させる旋回流の旋回方向と、下流側に位置する旋回流形成部が発生させる旋回流の旋回方向とは、流体の流れる方向から見て互いに逆方向であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、圧力や流速の分布に偏りがある流体が旋回流形成部内で旋回流に変えられるときに、流体の圧力が相対的に高い部分や流速が相対的に高い部分が旋回方向に分散させられると考えられる。このため、本発明によれば、流体の圧力や流速の分布の偏りが緩和されるから、流体通路の屈曲部分の下流側近傍において流量を正確に計測できる流量計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る流量計測装置の構成を示す断面図である。
【図2】本発明に係る流量計測装置の構成を示す斜視図で、同図においてはダクトの一部を破断した状態で描いてある。
【図3】旋回流形成部の一例を示す斜視図である。
【図4】旋回流形成部の一例を示す斜視図である。
【図5】旋回流形成部の一例を示す斜視図である。
【図6】旋回流形成部の下流側の圧力分布を示すグラフである。
【図7】旋回流形成部の下流側の水平方向の流速分布を示すグラフである。
【図8】旋回流形成部の下流側の上下方向の流速分布を示すグラフである。
【図9】実験時の状態を示す斜視図である。
【図10】第2の試作品を示す斜視図である。
【図11】第2の試作品を示す図で、同図(A)は下流側から見た正面図、同図(B)は側面図である。
【図12】第3の試作品を示す図で、同図(A)は上流側旋回流形成部の下流側から見た正面図、同図(B)は下流側旋回流形成部の下流側から見た正面図、同図(C)は上流側旋回流形成部と下流側旋回流形成部とを組み合わせた状態における側面図である。
【図13】発達した流れを説明するための模式図である。
【図14】「偏り」のある流れを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る流量計測装置の一実施の形態を図1〜図12によって詳細に説明する。
図1に示す流量計測装置1は、流体通路を形成するためのダクト2と、このダクト2の内部に設けられた流量計測部3および旋回流形成部4とによって構成されている。
前記ダクト2は、図示していない空調システムに設けられている空気ダクトの一部を構成するもので、図2に示すように、円筒状に形成されている。すなわち、このダクト2の通路壁5は断面円形状に形成されている。このダクト2の内部には、空気が図1において左から右へ流れる。
【0017】
前記流量計測部3は、前記ダクト2の内部に設けられた整流形成流路6を有する差圧式流量計7によって構成されている。
この差圧式流量計7は、前記整流形成流路6の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧を検出する差圧測定部8と、前記差圧に基づいて流体(空気)の流量を算出する流量算出部9とを備えている。差圧測定部8は、前記ダクト2に形成された上流側圧力測定口8aおよび下流側圧力測定口8bからダクト2内の圧力を検出する。前記整流形成流路6には、多孔形状の空気通路6aが形成されている。
【0018】
前記旋回流形成部4は、ダクト2内に空気の旋回流を発生させるためのもので、前記整流形成流路6から所定の距離だけ上流側に離間した位置に取付けられている。
この実施の形態による前記旋回流形成部4は、図2に示すように、複数の羽根11を備えている。これらの羽根11は、それぞれ金属製の板材によって形成されており、ダクト2の径方向の中心部から放射状に延びる状態でダクト2の通路壁5に溶接されている。すなわち、これらの羽根11は、断面円の外周壁面(通路壁5の内周面)から断面中心に延びるように形成されている。なお、ダクト2や羽根11の材料は、金属に限定されることはなく、プラスチックでもよい。また、ダクト2と羽根11とは、それぞれ別体に形成し、例えば溶接などによって互いに接続させることができる。さらに、ダクト2と羽根11とは、一体成形により一体に形成することもできる。
【0019】
また、これらの羽根11は、前記通路壁5の内周面の周方向に所定の間隔をおいて並べられている。この実施の形態においては、8枚の羽根11が放射線状に並ぶように、前記周方向に等間隔おいて並べられている。これらの羽根11における前記通路壁5とは反対側の端部(以下、この端部をダクト内側の端部11aという)は、前記ダクト2の中心線Cと平行に延びるように形成されており、前記中心線Cと同一軸線上に位置する連結用ロッド12に接続されている。この連結用ロッド12には、全ての羽根11のダクト内側の端部11aが接続されている。
【0020】
各羽根11における通路壁5に接続される端部(以下、この端部を単にダクト外側の端部11bという)は、ダクト2の長手方向に対して所定の角度で傾斜するように形成されている。詳述すると、各羽根11のダクト外側の端部11bは、ダクト2の上流側から下流側に向かうにしたがって漸次通路壁5の周方向の一方に位置するように形成されている。この周方向の一方とは、羽根11を下流側から見た状態で反時計方向である。
【0021】
また、この羽根11の上流側端部11cと下流側端部11dとは、このようにダクト外側の端部11bが傾斜しているにもかかわらず、いずれもダクト2の径方向(前記連結用ロッド12を中心として放射状)に延びるように形成されている。このため、この羽根11は、上流側から見て下流側が捻られた形状に形成されている。
このように構成された複数の羽根11を有する旋回流形成部4に上流側から流入した空気は、羽根11によって流れる方向が変えられ、旋回流となって旋回流形成部4から流出する。この旋回流の旋回する方向は、下流側から見て反時計方向である。
【0022】
このように構成された流量計測装置1は、流入する気体の圧力や流速の分布に「偏り」が生じているような場合であっても、この「偏り」を緩和して流量計測部3において正確な流量を計測することができる。前記「偏り」が緩和される理由は、圧力や流速の分布に偏りがある流体が旋回流形成部4内で旋回流に変えられるときに、流体の圧力が相対的に高い部分や、流速が相対的に高い部分が旋回方向に分散させられるからであると考えられる。
したがって、この実施の形態によれば、流体の圧力や流速の分布の偏りが緩和されるから、流体通路の屈曲部分の下流側近傍において流量を正確に計測できる流量計測装置1を提供することができる。
【0023】
この実施の形態においては、前記ダクト2の通路壁5は、断面円形状に形成され、前記旋回流形成部4は、前記通路壁5の内周面の周方向に所定の間隔をおいて並ぶ複数の羽根11を備えている。このため、この実施の形態によれば、羽根11の構成を変えることによって、旋回流形成部4の空気抵抗の大きさや、旋回流形成部4を通過することにより生じる旋回流の旋回方向などを簡単に変えることができる。すなわち、この実施の形態によれば、羽根11を使用して旋回流を発生させる構成を採っており、設計上の自由度が高くなるから、圧力損失の低減と計測精度の向上とを両立できる流量計測装置を提供することができる。
【0024】
また、この実施の形態による前記羽根11は、前記通路壁5の断面円の外周壁面から断面中心に延びるように形成されているから、通路壁5の壁面に沿って流れる空気が羽根11に確実に当たる。このため、空気通路の曲がり部分(図示せず)の外側を高速で流れる空気(例えば図14参照)の流速を効率よく減速させることができる。これは、羽根11の空気抵抗は、流体の流速の二乗に比例するからである。
したがって、この実施の形態によれば、流速の分布の偏りがより一層少なくなるから、より一層正確に流量を計測することが可能な流量計測装置を提供することができる。
【0025】
旋回流形成部は、例えば図3〜図5に示すように形成することができる。図3〜図5において、前記図1および図2によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
図3に示す旋回流形成部21は、図1および図2に示した旋回流形成部4に較べて羽根11の数量を増加させたものである。この形態を採ることにより、流量計測部3に流入する空気の圧力や速度の分布の偏りをより一層緩和することができる。
【0026】
図4に示す旋回流形成部31の羽根11は、ダクト2の通路壁5に片持ち支持式に支持されている。図4に示す各羽根11のダクト内側の端部11aどうしは、互いに離間している。すなわち、この実施の形態による羽根11は、ダクト2の断面円の外周壁面(通路壁5の内周面)から断面中心に延びるようにかつ中心部は空洞に形成されている。この旋回流形成部31の中心部には、羽根11が存在していない空洞部分32が形成されている。
【0027】
この実施の形態による羽根11は、ダクト外側の端部11bとダクト内側の端部11aとがいずれもダクト2の長手方向に対して傾斜するように構成されている。ダクト外側の端部11bは、ダクト内側の端部11aに較べて、前記長手方向に対して傾斜する角度が大きくなるように形成されている。羽根11の前記両端部11a,11bがダクト2の長手方向に対して傾斜する方向は、下流側に向かうにしたがって漸次通路壁5の内周面の周方向の一方に位置するような方向である。前記周方向の一方とは、下流側から見て反時計方向である。また、この羽根11の上流側端部11cと下流側端部11dとは、何れもダクト2の径方向に延びるように形成されている。このため、図4に示す羽根11は、上流側から見て下流側が捻られた形状に形成されている。
【0028】
ダクト2の前記空洞部分32は、空気が流れるときの抵抗が相対的に小さくなるから、この空洞部分32を流れる空気の流速は相対的に高くなる。したがって、この実施の形態による旋回流形成部31を図1および図2に示す旋回流形成部4と替えることによって、図13に示すような、いわゆる「発達した流れ」に近い状態で流体が流量計測部3に流入するようになる。この結果、さらに高い精度で流体の流量を計測することが可能な流量計測装置を提供することができる。
【0029】
図5に示すダクト2には、二つの旋回流形成部41,42が設けられている。これらの旋回流形成部41,42は、ダクト2の上流側と下流側とにそれぞれ互いに近接するように位置付けられている。詳細は後述するが、上流側に位置する上流側旋回流形成部41が発生させる旋回流の旋回方向と、下流側に位置する下流側旋回流形成部42が発生させる旋回流の旋回方向とは、空気の流れる方向から見て互いに逆方向である。
【0030】
これらの上流側旋回流形成部41と下流側旋回流形成部42とは、いずれも前記図4に示したような片持ち支持式の羽根11を用いて構成されている。
上流側旋回流形成部41は、図4に示す旋回流形成部4と同等の構成が採られている。すなわち、上流側旋回流形成部41は、下流側から見て反時計方向に旋回する空気の旋回流を発生させるものである。
【0031】
一方、下流側旋回流形成部42は、下流側から見て時計方向に旋回する空気の旋回流を発生させるものである。この下流側旋回流形成部42の羽根11は、ダクト2の長手方向に対して傾斜する方向が図4に示す旋回流形成部4の羽根11や上流側旋回流形成部41の羽根11とは相違している。なお、下流側旋回流形成部42の羽根11は、上流側旋回流形成部41の羽根11とは前記傾斜する方向が異なる他は同等の構成が採られている。
【0032】
下流側旋回流形成部42に設けられている羽根11のダクト内側の端部11aとダクト外側の端部11bとがダクト2の長手方向に対して傾斜する方向は、下流側に向かうにしたがって、下流側から見て通路壁5の内周面に沿って時計方向に漸次位置するような方向である。また、この羽根11においても、上流側端部11cと下流側端部11dとがダクト2の径方向に延びるように形成されている。このため、下流側旋回流形成部42の羽根11は、上流側から見て下流側が捻られた形状に形成されている。
【0033】
図5に示す実施の形態によれば、上流側旋回流形成部41を通過して旋回を開始した空気は、下流側旋回流形成部42を通過することによって、旋回する方向が変えられて逆方向に旋回するようになる。
したがって、この実施の形態によれば、空気が上流側旋回流形成部41と下流側旋回流形成部42とを通過することによって攪拌されるようになり、圧力や流速の分布の均等化が図られると考えられる。このため、図5に示す上流側旋回流形成部41と下流側旋回流形成部42とを有するダクト2に流量計測部3を接続することによって、空気の流量をより一層正確に計測可能な流量計測装置を構成することができる。
【0034】
上述した図1〜図5に示す実施の形態においては、空調システムの空気ダクト2に本発明に係る流量計測装置1が設けられている。このため、上述した実施の形態によれば、空気ダクト2内を流れる空気の流量を正確に計測することが可能な空調システムを構成することができる。したがって、この実施の形態による流量計測装置1を装備した空調システムにおいては、動作の制御をより一層正確に行うことができるようになるから、省エネルギーが図られたり、二酸化炭素の排出量が減少するように動作を制御することが可能になる。
【0035】
上述した図3〜図5に示した旋回流形成部21,31,41,42を試作して実験を行ったところ、詳細は後述するが、図6〜図8に示すように、圧力と流速とについて「偏り」を緩和できることが分かった。この実験を行うに当たっては、図9に示すように、水平方向に延びるダクト2を用い、旋回流形成部21,31,41,42の下流側で空気の圧力と流速とを計測した。なお、図9は、旋回流形成部41,42を使用する状態で描いてある。旋回流形成部21,31,41,42は、ダクト2の屈曲部分2aの下流側に配置した。この屈曲部分2aは、ダクト2の中心線Cが水平方向に約90度曲がるように形成されている。
【0036】
ダクト2における旋回流形成部4の下流側近傍には、ダクト2内を流れる空気の圧力を検出するための第1〜第8の圧力センサ51〜58が取付けられている。これらの第1〜第8の圧力センサ51〜58は、ダクト2の通路壁5の周方向に等間隔おいて離間するように並べられている。これらの第1〜第8の圧力センサ51〜58は、ダクト2の内径の2倍の長さだけ旋回流形成部4より下流側に離間した位置に位置付けられている。
【0037】
ダクト2内を流れる空気の流速は、ダクト2の長手方向において前記圧力センサ51〜58と略同じ位置で例えばピトー管(図示せず)を使用して計測した。流速の計測は、JIS B 8330 (送風機の試験及び検査方法)に規定されている位置において行った。流速の計測は、図9中に一点鎖線で示す第1〜第4の仮想円61〜64と水平方向の中心線L1とが交差する8箇所の計測点65と、第1〜第4仮想円61〜64と上下方向の中心線L2とが交差する8箇所の計測点66とにおいてそれぞれ行った。
【0038】
前記第1〜第4の仮想円61〜64の半径r1〜r4は、JIS B 8330による規定にしたがって、以下のように設定した。以下において、Rは、ダクト2の内径の1/2(半径)である。
第1の仮想円61の半径r1=0.316R
第2の仮想円62の半径r2=0.548R
第3の仮想円63の半径r3=0.707R
第4の仮想円64の半径r4=0.837R
ダクト2内を流れる空気の流速は、上述した水平方向に並ぶ8箇所の計測点65と、上下方向に並ぶ8箇所の計測点66とにそれぞれピトー管を移動させて計測した。
【0039】
実験を行うに当たっては、図4に示す構成の旋回流形成部31を図10および図11に示すように試作し、図5に示す上流側旋回流形成部41を図12(A)示すように試作し、図5に示す下流側旋回流形成部42を図12(B)に示すように試作した。図10〜図12に示すダクト2には、図示していない上流側ダクトおよび下流側ダクトに接続するためのフランジ71が設けられている。
【0040】
図12(A)に示す上流側旋回流形成部41と、図12(B)に示す下流側旋回流形成部42とは、発生する旋回流の旋回方向が逆になるだけでなく、羽根11におけるダクト2の径方向の長さが異なっている。すなわち、上流側旋回流形成部41におけるダクト2の径方向の長さは、下流側旋回流形成部42の羽根11と較べて長く形成されている。
【0041】
図10〜図12に示したダクト2と羽根11の各部の具体的な寸法は、下記の表1に示す通りである。
【0042】
【表1】
【0043】
なお、図3に示す構成の旋回流形成部4は、図10に示す試作品の各羽根11のダクト内側の端部11aどうしが互いに接続されたような形状に試作した。以下においては、図3に示す構成を採る試作品を第1の試作品といい、図4に示す構成を採る試作品を第2の試作品といい、図5に示す構成の試作品を第3の試作品という。
【0044】
上述した実験は、旋回流形成部21,31,41,42を使用しない場合と、前記第1〜第3の試作品をそれぞれ使用した場合との合計4回行った。この実験の結果を図6〜図8に示す。
図6は、ダクト2内の圧力分布を表し、図7はダクト2内の流速の水平方向の分布を表し、図8はダクト2内の流速の上下方向の分布を表している。これらの図において、実線は旋回流形成部を使用しない場合の計測結果を示し、破線は第1の試作品を使用した場合の計測結果を示している。また、一点鎖線は第2の試作品を使用した場合の計測結果を示し、二点鎖線は第3の試作品を使用した場合の計測結果を示している。
【0045】
図6は、第1〜第8の圧力センサ51〜58で得られたセンサ毎の圧力データ(P/Pave)を結んでグラフ化したものである。この図6は、ダクト2内を下流側から見たときの圧力分布が分かるように描いてある。前記センサ毎の圧力データは、各圧力センサ51〜58の検出値(P)を8個の圧力センサの検出値の平均値(Pave)で除した値である。
図6から分かるように、旋回流形成部4を使用しない場合と第1の試作品を使用した場合は、第2の圧力センサ52の検出値が相対的に低く、圧力分布に「偏り」が見られる。しかし、第2の試作品と第3の試作品を使用した場合は、上記「偏り」は緩和されている。
【0046】
図7は、水平方向に並ぶ8箇所の計測点65毎の流速データ(U/Uave)を結んでグラフ化したものである。図8は、上下方向に並ぶ8箇所の計測点66毎の流速データ(U/Uave)を結んでグラフ化したものである。図7と図8は、ダクト2内を下流側から見たときの流速分布が分かるように描いてある。前記計測点毎の流速データは、各計測点65,66において計測して得られた計測値(U)を8箇所分の計測値の平均値(Uave)で除した値である。
【0047】
図7および図8から分かるように、旋回流形成部4を使用しない場合は、ダクト2の中心部において流速が相対的に低く、ダクト2の通路壁5に近い部分において流速が相対的に高くなっている。このような流速分布になる理由は、空気が屈曲部分2aを通過したときに自然に発生した旋回流の受けたからであると考えられる。
【0048】
第1の試作品は、ダクト2の中心部において空気の流路が相対的に狭くなる構造であるため、ダクト2の通路壁5に向けて空気を流すものとなった。このため、図7および図8から分かるように、第1の試作品を使用した場合は、ダクト2の中心部で流速が相対的に低く、通路壁5の近傍で流速が相対的に高くなっている。図8から分かるように、旋回流形成部4を使用しない場合は、ダクト2の下部で流速が相対的に高くなる。しかし、第1の試作品を使用することによって、ダクト2の下部において旋回流形成部4を使用しない場合より流速を低くすることができた。すなわち、第1の試作品を使用することによって、ダクト2内の空気の状態を上下方向において前記図13に示したような「発達した流れ」に近付けることが可能になる。
【0049】
第2の試作品は、ダクト2の中心部に空洞部分32が形成される構造である。このため、第2の試作品を使用することにより、旋回流形成部4を使用しない場合と較べてダクト2の中心部で流速が高くなった。また、第2の試作品を使用することによって、前記第1の試作品を使用した場合と同様に、ダクト2の下部において旋回流形成部4を使用しない場合より流速を低くすることができた。
【0050】
第3の試作品は、第2の試作品と同様にダクト2の中心部に空洞部分32が形成される構造である。このため、この第3の試作品を使用することにより、旋回流形成部4を使用しない場合と較べてダクト2の中心部で流速が高くなった。また、第3の試作品を使用することによって、前記第1、第2の試作品を使用した場合と同様に、ダクト2の下部において旋回流形成部4を使用しない場合より流速を低くすることができた。さらに、第3の試作品を使用することにより、図7に示すように、旋回流形成部4を使用しない場合と較べて、水平方向と上下方向の流速分布を図13に示す「発達した流れ」に近付けることができた。
【0051】
上述した実施の形態においては流量計測部3を差圧式流量計7によって構成する例を示した。しかし、流量計測部3を構成する流量計としては、差圧式流量計7に限定されることはなく、その他の流量計、例えば熱線式流量計やピトー管式流量計など、適宜変更することができる。
【0052】
また、本発明に係る流量計測装置1において、旋回流を発生させるに当たっては、上述した羽根11を用いる実施の形態に限定されることはない。旋回流を発生させるためには、図示してはいないが、例えばダクト2の通路壁5を羽根状に形成しても実現することが可能である。
【0053】
旋回流を発生させるに当たってダクト2に羽根11を設けて行う場合、羽根11の構成は上述した各実施例の構成に限定されることない。すなわち、羽根11の形状を流線形に変えたり、羽根11の数量や傾斜角度等を変えることが可能である。
さらに、上述した実施の形態においては、本発明を空調システムのダクト2に設けられる流量計測装置1について説明したが、本発明は、このような限定にとらわれることはなく、流体通路の屈曲部分の下流側近傍で流量を計測する必要がある装置であれば、どのような装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…流量計測装置、2…ダクト、3…流量計測部、4…旋回流形成部、11…羽根。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路内に設けられた流量計測部と、
流体通路内であって前記流量計測部より上流側に設けられた旋回流形成部とを備え、
前記旋回流形成部は、前記流体通路内に流体の旋回流を発生させるものであることを特徴とする流量計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の流量計測装置において、前記流体通路の通路壁は断面円形状に形成され、
前記旋回流形成部は、前記通路壁の内周面の周方向に所定の間隔をおいて並ぶ複数の羽根を備えていることを特徴とする流量計測装置。
【請求項3】
請求項2記載の流量計測装置において、前記羽根は、前記通路壁の壁面から通路内側に延びるように形成されていることを特徴とする流量計測装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちいずれか一つに記載の流量計測装置において、前記旋回流形成部は、流体通路の上流側と下流側とにそれぞれ互いに近接するように設けられ、
上流側に位置する旋回流形成部が発生させる旋回流の旋回方向と、下流側に位置する旋回流形成部が発生させる旋回流の旋回方向とは、流体の流れる方向から見て互いに逆方向であることを特徴とする流量計測装置。
【請求項1】
流体通路内に設けられた流量計測部と、
流体通路内であって前記流量計測部より上流側に設けられた旋回流形成部とを備え、
前記旋回流形成部は、前記流体通路内に流体の旋回流を発生させるものであることを特徴とする流量計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の流量計測装置において、前記流体通路の通路壁は断面円形状に形成され、
前記旋回流形成部は、前記通路壁の内周面の周方向に所定の間隔をおいて並ぶ複数の羽根を備えていることを特徴とする流量計測装置。
【請求項3】
請求項2記載の流量計測装置において、前記羽根は、前記通路壁の壁面から通路内側に延びるように形成されていることを特徴とする流量計測装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちいずれか一つに記載の流量計測装置において、前記旋回流形成部は、流体通路の上流側と下流側とにそれぞれ互いに近接するように設けられ、
上流側に位置する旋回流形成部が発生させる旋回流の旋回方向と、下流側に位置する旋回流形成部が発生させる旋回流の旋回方向とは、流体の流れる方向から見て互いに逆方向であることを特徴とする流量計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−220707(P2011−220707A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86806(P2010−86806)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】
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