説明

浄化処理剤及びこれを用いた浄化方法、構造成形体

【課題】各種廃棄物等に含まれる有害物質を効率的に除去し得る浄化処理剤を提供する。
【解決手段】スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルとを構成ユニットとして有し、且つ、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、−PO(OH)基、−CHPO(OH)基、−NO基、あるいはこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のイオン基が全構成ユニットに対して10〜70モル%導入されてなるポリマーを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物や排水、排ガス、土壌等に含まれる有害物質を浄化するための浄化処理剤に関するものであり、さらには浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルを含有する樹脂としては、ABS樹脂:SAN樹脂、AAS樹脂等に代表されるスチレン系樹脂と、NBRゴム等の合成ゴムとが挙げられる。
【0003】
これらの樹脂は、比較的安価であり、特に、前者のスチレン系樹脂は、剛性、寸法安定性、加工性等の特性に優れるため、各種用途のカバーやケース、電気機器や自動車の筐体及び各種部品材料等の樹脂材料として多用されている。また、後者の合成ゴムは、チューブやホース、各種緩衝材として多用されている。
【0004】
このような状況中で、これらの材料はさらなる用途拡大が期待されており、より付加価値の高いものへの改質に関する検討が望まれている。また、上述のような材料が用いられた製品は、生産量の増加に伴い、廃材として多大量に発生してしまう。近年では、これらの材料からなる廃材の発生量も増加する傾向があり、地球環境保全の関心の高まりから、廃材の有効利用についての二一ズも高まってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−106448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、使用済みとなったプラスチックの処理方法は、焼却や埋め立て処理が殆ど(約9割)を占め、そのほんの一部が加熱溶融する等して再利用されているに過ぎない。この加熱溶融によるリサイクルでは、熱による品質の劣化(分子量低下、樹脂の酸化等)や、ゴミ等の異物の混入、または、種々の着色剤を含有した樹脂が混入することにより色合わせが必要になる等の多くの問題があり、処理技術やコストが大きな障害となっている。
【0007】
一方、焼却により処理しようとすると、有毒ガスの発生が問題となり、現状では埋め立て処理に頼らざるを得ないのが実情である。しかしながら、廃プラスチックを含む廃棄物の発生量は年々増加する傾向にあり、これをそのまま埋め立て処分することは非効率的であり、埋め立て処分場の不足が深刻なわが国では、大きな問題となる。さらに最近では、埋め立て処分場からの有害物質(主に重金属)漏洩による環境破壊(土壌の汚染)がクローズアップされるようになってきている。これら有害物質は、廃棄物中に含まれる主に重金属分が酸性雨等により溶出することが汚染の原因と考えられている。
【0008】
以上に示したように、プラスチック廃材の発生量が年々増加しているためその有効利用が叫ばれていると共に、プラスチック廃材を含む廃棄物を処分した際の有害物漏洩による環境汚染の防止技術が望まれている。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、各種廃棄物等に含まれる有害物質を効率的に除去し得る浄化処理剤、浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前述の現状の問題点を克服せんものと鋭意研究を重ねた結果、スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルを含有する樹脂および同廃材を化学処理して得られるものが浄化処理剤、例えば廃棄物処理剤として優れた特性を有することを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の浄化処理剤は、スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルとを構成ユニットとして有し、且つ、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、−PO(OH)基、−CHPO(OH)基、−NO基、あるいはこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のイオン基が全構成ユニット対して10〜70モル%導入されてなるポリマーを含有することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の浄化方法は、有害物質を含む被処理物に対し、スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルとを構成ユニットとして有し、且つ、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、−PO(OH)基、−CHPO(OH)基、−NO基、あるいはこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のイオン基が全構成ユニット対して10〜70モル%導入されてなるポリマーを含有する浄化処理剤を接触させ、被処理物に含まれる有害物質を吸着除去することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の構造成形体は、木材、プラスチック、紙、ガラス、金属の少なくとも1種からなる原料に、スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルとを構成ユニットとして有し、且つ、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、−PO(OH)基、−CHPO(OH)基、−NO基、あるいはこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のイオン基が全構成ユニットに対して10〜70モル%導入されてなるポリマーを混入し、所定の形状に成形したことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の浄化処理剤の製造方法は、スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルとを構成ユニットとして有する樹脂を、酸及び/又はアルカリ処理し、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、−PO(OH)基、−CHPO(OH)基、−NO基、あるいはこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のイオン基を全構成ユニットに対して10〜70モル%導入することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルを含有する樹脂および同廃材の化学修飾により得られた改質物により、廃棄物中に含まれる有害物質の漏洩による環境破壊を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】浄化処理剤を充填したカラムの一例を示す概略斜視図である。
【図2】浄化処理剤を混入したフィルターの一例を示す概略斜視図である。
【図3】フィルターによるろ過方法を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の浄化処理剤の原料となるスチレン及び/又は共役ジエン(ブタジエン、イソプレン)とアクリロニトリルを含有する高分子材料としては、樹脂中にスチレン及び/又は共役ジエンの少なくとも1種類以上を20〜95モル%、好ましくは40〜85モル%、さらに好ましくは50〜80モル%含有しているものが望ましい。
【0018】
含有量がこれより少ないと、スルホン酸基等のイオン基の導入率が低くなるため、廃棄物処理剤として重要なイオン吸着のための活性点の数が少なくなってしまう。一方、多い場合は、後述のアクリロニトリルユニット分が少なくなり、酸およびアルカリ処理により親水基(アミド基やカルボン酸基)の導入率を上げることが出来なくなる。このため、水に対する浸透性が低くなり、廃棄物処理剤の有害物に対する吸着速度も低下することになってしまう。
【0019】
上記高分子材料は、スチレンまたは共役ジエン以外の構成単位としてアクリロニトリルを、5〜80モル%、好ましくは10〜60モル%、さらに好ましくは20〜50モル%含有していることが望ましい。このアクリロニトリルの構成単位は、酸及び/又はアルカリ処理を行うことにより、加水分解からアミド基やカルボン酸基のような親水性の置換基に転換されるか、もしくは、さらに中和によりカルボン酸塩基のようなイオン性の置換基が該高分子材料中に導入される。
【0020】
上でも述べたが、これにより化学修飾後の高分子材料の親水性とイオン吸着性が向上されるところとなり、廃棄物処理剤として優れた特性を有することになる。なお、含有量が少ないと、特に有害物(重金属イオン)に対する吸着速度が低下することになる。一方、多い場合は、高分子材料中のスチレン及び/又は共役ジエン部の構成比率が低下するため、イオン性置換基の導入率が低くなり、廃棄物処理剤としての有害物に対する吸着効果が低下することになってしまう。または、高分子材料が硬くなり小片に粉砕することが困難になったりする。
【0021】
上記スチレン、共役ジエン、アクリロニトリルが所定量含有されていれば、更に別の構成単位が該樹脂廃材中に含有されていても良い。これら他の単位としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、α−メチルスチレン、アクリルアミド、メタアクリルアミド、アクリル酸及びアクリル酸エステル(炭素数1〜10の飽和及び不飽和炭化水素)、メタアクリル酸及びメタアクリル酸工ステル(炭素数1〜10の飽和及び不飽和炭化水素)、酢酸ビニル、塩化ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ビニルピロリドン、ビニルピリジン等を挙げる事が出来る。上記高分子材料の分子量(Mw)としては、重量平均分子量(Mw)が1000〜20,000,000、さらには、10,000〜1,000,000が一般的である。分子量がこれより低いと化学処理した際に水溶性を示し、求める廃棄物処理剤を得ることが出来なくなる(水に溶けて回収出来なくなる)。分子量がこれより高いと化学処理した際の反応速度が遅くなり実用的ではない。
【0022】
なお、上記スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルを含有する高分子材料としては、ABS樹脂、SAN樹脂、ASA樹脂、ACS樹脂、AAS樹脂、NBRゴム等の高分子材料が好適である。これらの材料は、新たに製造されたバージンペレットであっても良いし、樹脂原料や成形品の生産過程での排出品(半端品)や、電気製品や自動車等に使用された筐体や各種部品材料、またはチューブやホース、各種緩衝材からの特定の用途を目的として成形された使用済み廃材であっても良い。排出場所としては、工場や販売店、家庭等からのいずれであっても良いが、家庭等からの一般廃棄物よりは、工場や販売店等から回収されたもの方が比較的組成がそろったものが多いためより望ましい。
【0023】
また、上記高分子材料は、他の樹脂とのアロイ物であっても良く、顔染料や安定剤、難燃剤、可塑剤、充填剤、その他補助剤等の添加剤を含んだ廃材であっても良い。または、使用済み廃材とバージン材料との混合物であっても良い。該高分子材料と混合可能な他の樹脂としては、酸処理を阻害しない樹脂であることが望ましく、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。
【0024】
なお、これらの樹脂は上記高分子材料に対して60重量%以下に混合されることが望ましい。これらの樹脂の含有量が多くなると、酸及び/又はアルカリによる化学反応が阻害されることになる。
【0025】
上記高分子材料は、化学処理する前にまず小片にしておく事が望ましい。小片にする方法としては以下のものを挙げることが出来る。
【0026】
(1)粉砕機による粉砕→振るい分け。該材料がゴム成分を含んでいる場合、凍結処理後に粉砕すると好適である。
【0027】
(2)加熱溶融して微少なビーズ状にペレタイズする。なお、上記高分子材料の小片のサイズとしては、3.5メッシュ以下にする事が望ましい。同径より大きいサイズとなると、被反応物の表面積が小さくなり化学処理されにくくなるため、反応時間がかかり実用的でないと共に、廃棄物処理剤としての性能(イオン吸着能)が大幅に低下することになる。
【0028】
また、上記高分子材料中には、以下の無機顔料及び/又は金属粉顔料が含有されていることが望ましい。無機顔料としては分散性の良好ものが好ましく、カーボンブラック、鉄黒、酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ、群青、紺青、コバルトブルー、リトポン、硫化亜鉛、酸化アンチモン、黄色酸化鉄、アンバー、ジェンナー、オーカー、ビリジアン等を挙げることが出来る。これらの中では、カーボンブラック、酸化チタンが好ましい。このカーボンブラックや酸化チタンは、着色剤の用途以外に補強剤、電気伝導性付与剤として一般に用いられているもので良い。カーボンブラックは、チャンネル法、ファーネス法、サーマル法のいずれの方法によって製造されたものでも良く、それぞれの単独及び/又は複数の併用で用いても良い。なお平均粒子径としては、5〜500mμで、好ましくは、10〜50mμである。一方、酸化チタンは、ルチル型、アナターゼ型、超微粒子チタンのいずれのタイプでも良く、それぞれの単独及び/又は複数の併用で用いても良い。なお平均粒子径としては、0.01〜50mμで、好ましくは、0.05〜10mμである。
【0029】
金属粉顔料としては、アルミニウム粉、真ちゅう粉、ブロンズ粉を挙げることが出来る。
【0030】
以上に示した無機顔料及び/又は金属粉顔料は、高分子材料中に単独で含有されていても良いし、2種類以上混合して含有されていても良い。また、本発明の廃棄物処理剤を製造することを目的として前述の高分子材料に添加されたものであっても良いし、もしくは、着色、隠蔽、帯電防止等の他の目的のために添加されたものであっても良い。もしくは、両方の目的のために添加されたものであっても良い。該無機顔料及び/又は金属粉顔料の高分子材料中への添加量としては、0.01〜20重量%、好ましくは、0.05〜10重量%である。添加量がこれより少ないと、高分子材料の改質反応に対する促進効果が低くなり、一方、多過ぎると経済的に不利となったり、改質反応のコントロールが難しくなったりする。上記顔料が高分子材料に含有されていると、酸及び/又はアルカリ処理反応の際に同顔料が材料表面からはずれ易くなり、これにより、ポーラス状の表面が発生(反応表面積が増加)するところとなり同反応は促進される。引き続いて、このポーラス状の表面は上記反応が活発化することで軟化状態となるため、これにより、さらに深部に存在する顔料までが同材料から脱離されることになるため反応はより加速化されることになる。
【0031】
以上の理由より、前述の顔料が任意の高分子材料中に含有されていると、該材料の改質反応の促進が図れる。さらに、改質後の高分子材料の表面は、深部までポーラスな状態となっているため、廃棄物処理剤として用いた場合、吸着表面積が多くなることから吸着率、吸着速度の点で飛躍的な向上効果が得られることになる。
【0032】
本発明では、上記スチレン及び/又は共役ジエンの少なくとも1種類以上とアクリロニトリルを構成ユニットとして含有するポリマーを酸及び/又はアルカリ処理することにより浄化処理剤への転換を行う。すなわち、同処理により、高分子材料中に、スルホン酸及び/又はその塩、カルボン酸及び/又はその塩、−OH及び/又はその塩、−PO(OH)及び/又はその塩、−CHPO(OH)及び/又はその塩、−NO等のイオン基や、アミド基等の親水性置換基が導入されることになる。
【0033】
これら親水性の置換基が該高分子材料に所定量導入されることにより、水に対する親和性と重金属等の有害物に対する吸着特性が付与されることになり、目的とする浄化処理剤としての性能を有するようになる。なお、該高分子材料が酸処理された場合は、スチレンや共役ジエン部にはスルホン酸に代表される酸性のイオン基が導入されることになり、一方、アクリロニトリル部は加水分解を受けてアミド基及び/又はカルボン酸基に転換されることになる。
【0034】
また、上記高分子材料がアルカリ処理された場合は、共役ジエン部には水酸基や同塩の置換基が導入されることになり、一方、アクリロニトリル部は加水分解を受けてアミド基やカルボン酸および同塩の置換基に転換されることになる。
【0035】
上記処理に使用される酸としては無機酸が好適で、濃硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸等のスルホン化剤や硝酸、発煙硝酸、燐酸、塩化燐、酸化燐、燐酸、炭酸ガス等が挙げられる。これらの中では、濃硫酸、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸が好ましく、特に、70重量%以上の濃硫酸が好ましい。
【0036】
上記処理に使用されるアルカリとしては、アルカリ金属(ナトリウム、リチウム、カリウム等)やアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)の酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の化合物および同水溶液や、アンモニア、第1〜3級アミン化合物が挙げられる。これらのアルカリのなかでは無機物が好適で、特に、アルカリ金属および同化合物が好適である。
【0037】
これらの酸及び/又はアルカリはそれぞれ単独で使用しても良いし、2種類以上で併用しても良い。併用する場合は、混合しても良いし、逐次添加しても良い。ただし、混合する場合は、酸は酸と、アルカリはアルカリと混合することが望ましい。例えば、該高分子材料をまず酸で処理をした後にアルカリで中和処理したり、もしくは、最初濃硫酸で処理した後に無水硫酸を追加添加する等の併用を行っても良い。
【0038】
本処理に使用する酸やアルカリの仕込み量は、該高分子材料中の全モノマーユニットに対して、0.1〜1000倍モル、好ましくは、10倍〜200倍モルである。添加量がこれより少ないと、該高分子材料への親水基の導入率が低下する所となり、廃棄物処理剤としての特性(有害物に対する吸着効果)が低下することになる。また、これより多いと、経済的にも作業的にも不利となり実用的でない。なお、上記処理は酸及び/又はアルカリそのものの中で行っても良いが、有機溶媒を用いた系で行っても良い。使用可能な有機溶媒としては、C1〜2の脂肪族ハロゲン化炭化水素(好ましくは1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1−ジクロロエタン)、脂肪族環状炭化水素(好ましくは、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタン)、ニトロメタン、ニトロベンゼン、二酸化イオウ、パラフィン系炭化水素(炭素数:1〜7)、アセトニトリル、二硫化炭素、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、アセトン、メチルエチルケトン、チオフェン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ピロリドン等が挙げられる。
【0039】
これら溶媒はそのもの単体で用いても良いし複数混合して用いても良い。上記溶媒内での混合においては、その混合比率は特に制限は無い。これら有機溶媒は、該高分子材料重量に対して200倍未満が好適である。有機溶媒の添加量がこれより多いと、酸処理の反応率が低くなると共に、経済的にも不利となる。なお、上記処理に一度使用した酸やアルカリ、有機溶媒は、反応終了後回収してそのまま、もしくは抜き取りや蒸留等の方法により回収して再度反応に使用しても良い。
【0040】
本発明は、前述の高分子材料を以上の酸及び/又はアルカリで処理し、該高分子材料中にイオン基を含む親水性の置換基を導入することで浄化処理剤、例えば廃棄物処理剤への転換を図るものである。
【0041】
例えば、上記高分子材料を熱濃硫酸中で反応を行い、固液分離後に固体分を水洗することでスルホン酸基を有する廃棄物処理剤を製造することが出来る。また、溶媒中の核高分子材料に三酸化燐を添加し、さらに加水分解することにより−PO(OH)基を有する廃棄物処理剤を製造することが出来る。または、上記高分子材料と、硫酸と硝酸の混合液とを反応させることにより、−NO基を有する廃棄物処理剤を製造することが出来る。
【0042】
さらには、上記高分子材料と水酸化ナトリウム水溶液中で煮沸することにより、カルボン酸または同ソーダ塩基を有する廃棄物処理剤を製造することが出来る。なお、該高分子材料中に導入される親水基は1種類だけであっても良いし、2種類以上であっても良い。ただし、廃棄物処理剤としての性能を満足するには、高分子材料中に含有される同イオン基の量(イオン基:ニトリル基、アミド基以外が対象)は、全ユニットに対して5〜95モル%、好ましくは10〜70モル%である。これよりイオン基の導入率が多くなると、高分子材料が水溶性を示してしまい廃棄物処理剤として使用出来なくなってしまう。一方、これより低いと有害物(主に重金属)に対する吸着効果が低下してしまう。
【0043】
上記処理は、以下の条件で行うことにより、高分子材料に所定量のイオン基を導入することが可能となる。処理反応温度は、有機溶媒の使用の有無で大きく異なるが、概ね0〜200℃、好ましくは30〜150℃である。反応温度が低く過ぎると反応速度が遅くなり実用的でないと共に、良好な性能を有する廃棄物処理剤が得られなくなる。また、高くなり過ぎると高分子材料の分子鎖が切断され易くなり(熱分解による)、水に対して溶解してしまう。反応時間は、反応温度によって大きく異なるが、概ね1分〜40時間、好ましくは5分〜2時間である。反応時間が短過ぎると反応が充分に進行しない。また、長すぎると生産効率が悪くなる。上記酸及び/又はアルカリで処理された反応物は、その後、洗浄により残留している酸やアルカリ分が取り除かれることが望ましい。反応物を洗浄する方法としては、多量の水による水洗や、逆性水溶液による中和が好適である。この際、反応物をまずフィルター等で反応系からろ過して取り出した後に、このものを多量の水や逆性水溶液に投入する等で洗浄を行う。なお、有機溶媒を使用した場合は、加熱蒸留による溶媒留去後に同洗浄を行っても良いし、または、同洗浄処理の後に溶媒留去を行っても良い。
【0044】
これら処理により得られた反応物はゲル状であり、この後、天日、加熱、減圧、遠心、プレス等の乾燥を行い求める浄化処理剤を得ることが出来る。
【0045】
以上により得られた改質物は、同材料中にスルホン基やカルボキシル基等のイオン基(親水性基)が含有されることになるため、重金属(Pb、Cd、Cu、Ni、Hg、Cr、Zn、Sn等のイオン)やアンモニア、アミン化合物等を含んだ廃棄物中の有害物を効果的(効率良く、迅速に)に吸着することが可能となる。
【0046】
本発明の浄化処理剤の使用方法を以下に示す。
【0047】
(1)Pb、Cd、Cu、Ni、Hg、Cr等の有害重金属を含有する(工場)排水中に同処理剤を添加し、これらのものを吸着させる。吸着後は排水中の重金属濃度を確認(分析装置や簡易水質分析試験紙や試験液を用いて)し、規制値を満たしていればフィルター等で固液を分離し、処理液は下水や河川に放流する。一方、固形物(重金属吸着物)の方は、自然、天日等の乾燥後、焼却および埋め立て処理を行う。なお、焼却処理した後は残留物から金属分を例えば希酸水溶液等で回収しても良い。なお上記処理の際に、凝集剤や脱臭剤、脱色剤等の他の薬剤を併用しても良い。
【0048】
(2)埋め立て処分場に同処理剤を添加する。添加する方法としては、埋め立て処分場の特に最下層部に同処理剤を層状に分布させる、廃棄物と混合しながら埋め立てを行う、前述の2者を併用する等が挙げられる。これにより、廃棄物から重金属等の有害物が洩れ出した際、本発明の処理剤が重金属を吸着することになるため、廃棄物処理場外(例えば土壌等)に有害物質が拡散することをくい止めることが可能となる。この際、キレート剤や吸水性樹脂等の他の薬剤と併用しても良い。
【0049】
(3)金属、プラスチック、木材、紙、ガラスやこれら複合物等の成形材料中に、予め本発明の浄化処理剤を混入させておく。これにより、同成形材料が廃棄された際に、有害物が水や土壌、大気中に拡散すること抑制することが出来る。同利用方法は、特に紙おむつや包装材等のワンウェイタイプの製品に適応されることが望ましい。
【0050】
(4)排便・小便時に本発明の浄化処理剤を、便器や直接便や尿に添加する。これにより、アンモニアガスの拡散をくい止めることが出来る。なお、野外での排便・小便時や、動物等への適用も効果的である。この際、消臭剤、殺菌剤等の他の薬剤と併用しても良い。
【0051】
(5)下水および活性汚泥、脱水ケーキ等に本発明の浄化処理剤を添加する。これにより、アンモニア臭の低減と、各廃棄物中に含まれる重金属やアミン化合物を固形物(ケーキ)として回収することが出来る(処理水の水質が向上)。なお上記処理の際に、凝集剤や脱臭剤、脱色剤等の他の薬剤を併用しても良い。
【0052】
(6)図1に示すように、本発明の浄化処理剤1をガラスやプラスチックからなる容器2に充填し、ガスや液体中の有害物の除去材(フィルター、カラム等)として使用する。あるいは、図2に示すように、紙や布からなるフィルター3に本発明の浄化処理剤1を混入し、これを図3に示すように、ろ過の際のフィルターとして使用する。容器4中の有害物質含有水5を漏斗6に配したフィルター3によりろ過すれば、フラスコ7内に浄化水8を得ることができる。
【0053】
(7)重金属等の有害物で汚染された土壌中に本発明の浄化処理剤を土壌改良剤として注入する。もしくは、汚染土壌の周りに本発明の浄化処理剤の充填層を設けて、有害物の拡散を防止する。
【0054】
以上に示した方法により、本発明の浄化処理剤を液体、気体、固体状の各種廃棄物の処理の際に利用することが可能となる。
【実施例】
【0055】
ここで、実際に浄化処理剤として実施例〜4を製造した。また、これら実施例と比較するために比較例1〜2も準備した。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0056】
製造例1
試薬のABS樹脂[構成単位として、スチレン部が63モル%、アクリロニトリル部が29モル%、ブタジエン部が8モル%を含有。]を冷凍粉砕し、16〜32メッシュの粉砕物を原料とした。次に、同粉砕物3gを、濃硫酸(90重量%)90g中に加え、100℃で20分間反応させた。
【0057】
反応終了後、系中の固形物をグラスフィルターでろ過し、水洗の後、循風乾燥器にて115℃で2時間乾燥を行った。同操作により廃棄物処理剤(実施例1)が得られた。同廃棄物処理剤(実施例1)中のスルホン酸基は全モノマーユニットの52モル%であった。
【0058】
製造例2
使用済みの8mmカッセトテーブガードパネル(透明部分)[SAN樹脂廃材:構成単位として、スチレン部が60モル%、アクリロニトリル部が40モル%を含有、顔料は含有せず]の粉砕を行い、16〜32メッシュの粉砕物とした。次に、この粉砕物3gを、濃硫酸(96重量%)90g中に加え、60℃で30分間反応させた。その後室温にまで冷却を行い、発煙硫酸(SO:60重量%含有)0.8gを追加添加し、さらに30分間反応を行った。反応終了後、系中の固形物をろ過し、水洗の後、乾燥器にて2時間乾燥を行った。同操作により廃棄物処理剤(実施例2)が得られた。同廃棄物処理剤(実施例2)中のスルホン酸基は全モノマーユニットの47モル%であった。
【0059】
製造例3
使用済みの8mmカッセトテープガードパネル:(黒色部分)[ABS樹脂廃材:構成単位として、スチレン部が50モル%、アクリロニトリル部が38モル%、ブタジエン部が12モル%を含有。無機顔料として、カーボンブラックを1重量%含有。]を原料として用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い廃棄物処理剤(実施例3)が得られた。同廃棄物処理剤(実施例3)中のスルホン酸基は全モノマーユニットの40モル%であった。
【0060】
製造例4
製造例2と同じSAN樹脂の粉砕を行い16〜32メッシュの粉砕物を原料とした。次に、同粉砕物3gを5重量%の水酸化ナトリウム水溶液100gに加え98℃で2時間反応させた。反応終了後、系中の固形物をろ過し、水洗の後、乾燥器にて2時間乾燥を行った。同操作により廃棄物処理剤(実施例4)が得られた。同廃棄物処理剤(実施例4)中のカルボン酸ソーダ基は全モノマーユニットの38モル%であった。
【0061】
比較例1
試薬HIPS樹脂[構成単位として、スチレン部が60モル%含有、ブタジエン部が40モル%含有。顔料は含有せず。]を原料として用いた以外は、実施例1と同様の方法にて処理を行った。同操作により比較サンプル(比較例1)が得られた。同サンプル(比較例1)中のスルホン酸基は全モノマーユニットの9モル%であった。
【0062】
比較例2
使用済みのCDケース材(透明)[ポリスチレン樹脂廃材:構成単位として、スチレン部が100モル%、顔料は含有せず。]を原料として用いた以外は、製造例2と同様の方法にて処理を行った。同操作により比較サンプル(比較例2)が得られた。同サンプル(比較例2)中のスルホン酸基は全モノマーユニットの7モル%であった。
【0063】
比較例3
市販のイオン交換樹脂(商品名ダウエックス1-X8)を比較用サンプル(比較例3)として準備した。
【0064】
以上のサンプル(実施例〜4、比較例1〜3)について、廃棄物処理剤としての特性を以下の方法により評価を行った。
【0065】
評価1
Pb、Cu、Ni、Cdのイオンを50ppmの濃度に溶解した各水溶液50mlに、上記各サンプル0.1gを添加して5分間攪枠を行った。この際の金属吸着率を、[(初期濃度一処理後濃度)/初期濃度]×100(%)の式により求めた。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
以上の結果より、本発明により製造した廃棄物処理剤は、重金属イオンを効果的に吸着することが判る。なお、酸もしくアルカリ処理する前の高分子材料が所定の組成を有していない場合は、改質物の金属吸着能は極端に低下することが判る(比較例1及び比較例2)。また、本廃棄物処理剤は、市販のイオン交換樹脂(比較例3)のような前処理(親水処理等)が不要であるため、使用上簡単で迅速な効果が期待出来る。
【0068】
評価2
下水処理場からの活性汚泥50mlに、各サンプル0.1gを投入、撹拌して5分後の臭気を比較した。結果として、実施例1〜3のサンプルを添加した活性汚泥はほぼ完全に脱臭されていた。また、実施例4については、かすかに臭気が残存していた。一方、比較例1〜3については、殆ど脱臭されていなかった。
【0069】
評価3
半導体製造における配線工程からの排水(Cuイオン:150ppm含有)20mlに、上記サンプル0.15gを添加して5分間撹拌を行い、処理液のCuイオン濃度を簡易水質試験紙にて測定した。結果として、実施例1〜4を添加した場合は、いずれも水質基準(対下水)の3ppm以下を満足していた。一方、比較例1〜3については、水質試験紙の結果から50ppm以上であった。
【0070】
以上の説明からも明らかなように、本発明によれば、各種廃棄物等に含まれる有害物質を効率的に吸着除去することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 浄化処理剤、 2 容器、 3 フィルター、 4 容器、 5 有害物質含有水、 6 漏斗、 7 フラスコ、 8 浄化水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルとを構成ユニットとして有し、且つ、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、−PO(OH)基、−CHPO(OH)基、−NO基、あるいはこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のイオン基が全構成ユニット対して10〜70モル%導入されてなるポリマーを含有することを特徴とする浄化処理剤。
【請求項2】
上記ポリマーは、20〜95モル%のスチレン及び/又は共役ジエンと5〜80モル%のアクリロニトリルとを構成ユニットとして有する請求項1記載の浄化処理剤。
【請求項3】
無機顔料及び/又は金属粉顔料を含有する請求項1又は2記載の浄化処理剤。
【請求項4】
上記ポリマーは、16〜32メッシュの小片である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の浄化処理剤。
【請求項5】
有害物質を含む被処理物に対し、スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルとを構成ユニットとして有し、且つ、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、−PO(OH)基、−CHPO(OH)基、−NO基、あるいはこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のイオン基が全構成ユニット対して10〜70モル%導入されてなるポリマーを含有する浄化処理剤を接触させ、被処理物に含まれる有害物質を吸着除去する浄化方法。
【請求項6】
上記有害物質が、金属、アンモニア、アミン化合物の少なくとも1種である請求項5記載の浄化方法。
【請求項7】
木材、プラスチック、紙、ガラス、金属の少なくとも1種からなる原料に、スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルとを構成ユニットとして有し、且つ、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、−PO(OH)基、−CHPO(OH)基、−NO基、あるいはこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のイオン基が全構成ユニットに対して10〜70モル%導入されてなるポリマーを混入し、所定の形状に成形した構造成形体。
【請求項8】
スチレン及び/又は共役ジエンとアクリロニトリルとを構成ユニットとして有する樹脂を、酸及び/又はアルカリ処理し、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、−PO(OH)基、−CHPO(OH)基、−NO基、あるいはこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のイオン基を全構成ユニットに対して10〜70モル%導入する浄化処理剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−240650(P2010−240650A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132856(P2010−132856)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【分割の表示】特願平10−46020の分割
【原出願日】平成10年2月26日(1998.2.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】