説明

浄水器フィルタカートリッジ

【課題】セラミック製のフィルタ本体とフィルタケースとからなる浄水器フィルタカートリッジにおいて、フィルタ本体の上端部周縁を保持するリング状パッキンとフィルタケースとの間隙Wを広げるという手段によらずに流路閉塞の問題を解消する。
【解決手段】本発明の浄水器フィルタカートリッジは、円柱状の多孔質セラミック体の軸線方向に、内周面をろ過面とした多数の貫通孔9を形成し、前記多孔質セラミック体の下端面を原水流入部、上端面を水流出阻止部とし、側面部に浄水排出部を形成したフィルタ本体1と、フィルタ本体1を収納するフィルタケース2とからなる。フィルタ本体1は下端部周縁と上端部周縁とをリング状パッキン5に保持された状態でフィルタケース2の内部にはめ込まれる。上部のリング状パッキン5の外周面には、パッキン形状保持部5aを周方向に所定ピッチで突設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として家庭において使用される浄水器に組み込まれ、セラミックフィルタによって水道水等のろ過を行う浄水器フィルタカートリッジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のような浄水器用のセラミックフィルタとしては、図1に示すように円柱状の多孔質セラミック体Sの軸線方向に、内周面をろ過面とした多数の上端封止孔を形成し、その下端X1から水道水Lを注入してろ過し、他方の端部X2から浄化水Jとして取り出す構造が一般的であった。なお多孔質セラミック体Sからなるフィルタ本体は、その下端部周縁と上端部周縁とをリング状パッキンに保持された状態でフィルタケースの内部にはめ込まれ、浄水器フィルタカートリッジを構成している。
【0003】
しかし、図1に示す構造では、一定期間の使用に伴い、浄化すべき水道水Lの中に泡として存在した気体(空気)や浄水器の内部に存在した気体(空気)が、フィルタ本体を構成する多孔質セラミックスの上端封止孔の内部に集積して集積気体Aとなり、フィルタの有効ろ過面積が減少することに伴い浄化量が減少するという問題があった。また、水道水の流入を停止した後にもこの集積気体Aの圧力によって浄水器から少量の浄化水が流出し、水切れが悪化するという問題があった。
【0004】
そこで本出願人は、多孔質セラミック体に上端封止孔ではなく、貫通孔を形成した図2に示す構造のフィルタ本体を用いたフィルタカートリッジ(特許文献1)を開発した。このフィルタ本体は、浄化すべき水道水Lを下端面Y1から供給し、貫通孔の内壁のろ過面を透過させることによって浄化し、フィルタ本体の側面部から浄化水Jとして取り出す構造である。なお多孔質セラミック体の上端面の貫通孔以外の部分は目封じされ、浄化すべき水道水Lと浄化水Jとが混ざり合わないようになっている。
【0005】
このフィルタカートリッジは、フィルタ本体1をその内部に収納するフィルタケース2を備え、図1と同様に下端部周縁と上端部周縁とをリング状パッキン5に保持された状態でフィルタケースの内部にはめ込まれている。またフィルタ本体1の上端部Y2の上方には、該上端部Y2を覆蓋して水道水Lの自由な流出を阻止する蓋部3が配設されている。この構造によって、フィルタ本体1の下端部Y1から供給される水道水Lはデッドエンドろ過されることとなり、浄化水Jはフィルタ本体1の側面部S側から取り出される。また蓋部3には、ナノサイズの孔を有する材料からなる気体選択透過膜4が配設され、蓋部3とフィルタ本体1の上端部Y2とによって形成される空間Rに集積する気体を、気体選択透過膜4を経由して外部に排出させることが可能となる。
【0006】
ところが、この構造はフィルタ本体1の側面部S側から浄化水Jを取り出す構造であるため、フィルタ本体1の上端部周縁を保持するリング状パッキン5とフィルタケース2との間隙Wが小さいと、側面部S側から流出した浄化水の水圧が上昇した場合、図3に示すように水流によってリング状パッキン5の端部がめくり上げられ、側面部S側から流出した浄化水の流路を閉塞してしまうという問題があった。なお、浄水器の浄水量はセラミックフィルタのサイズに比例し、一般家庭普及用の浄水器は、浄水量も確保しつつコンパクトに設置可能な構造を有することが求められる。このため、前記隙間Wはできる限り小さく抑えることが必要である。また、すでに家庭に設置されている浄水器サイズに対応可能とするために、フィルタケースのサイズは従来型と同一であることも求められる。したがって、フィルタ本体1の小型化とフィルタケース2の大型化により隙間Wを広げて、前記流路閉塞の問題を解消する方法は非実用的であり採用できないという問題があった。
【特許文献1】特開2006−272112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は前記した従来の問題を解決し、セラミック製のフィルタ本体とフィルタケースとからなる浄水器フィルタカートリッジにおいて、フィルタ本体の上端部周縁を保持するリング状パッキンとフィルタケースとの間隙Wを広げるという手段によらずに、浄化水の流路閉塞の問題を解消することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の浄水器フィルタカートリッジは、円柱状の多孔質セラミック体の軸線方向に、内周面をろ過面とした多数の貫通孔を形成し、前記多孔質セラミック体の下端面を原水流入部、上端面を水流出阻止部とし、側面部に浄水排出部を形成したフィルタ本体と、該フィルタ本体を収納するフィルタケースとからなる浄水器フィルタカートリッジであって、該フィルタ本体は下端部周縁と上端部周縁とをリング状パッキンに保持された状態でフィルタケースの内部にはめ込まれ、上部のリング状パッキンの外周面には、前記パッキン形状保持部を周方向に所定ピッチで突設したことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、これらのパッキン形状保持部が、フィルタケースと線接触する円弧状または三角状の水平断面を有することを特徴とするものである。
【0010】
さらに請求項3記載の発明は、請求項1記載の浄水器フィルタカートリッジにおいて、フィルタ本体の上部に、気体選択透過膜を備えた蓋部材を密着配置したことを特徴とするものであり、請求項4記載の発明は、蓋部材がドーム型であり、その中央部に気体選択透過膜を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の浄水器フィルタカートリッジは、上部のリング状パッキンの外周面にパッキン形状保持部を周方向に所定ピッチで突設した構造であるため、フィルタ本体の側面部S側から流出する浄化水の水圧が上昇した場合でも、水流はパッキン形状保持部の間に形成される流路を流れることができ、水流によってリング状パッキンの端部がめくり上げられ、側面部S側から流出した浄化水の流路を塞いでしまう問題を、フィルタ本体の上端部周縁を保持するリング状パッキンとフィルタケースとの間隙Wの間隔を広げるという手段によらずに解消することができる。
【0012】
また、リング状パッキンをフィルタとフィルタケースとの隙間にはめ込む作業は人手により行われるが、本発明ではリング状パッキンの外周面にパッキン形状保持部を周方向に所定ピッチで突設した構造とすることにより、リング状パッキンを面接触型とした場合に比べ、嵌め込み作業が容易になり作業効率の向上を図ることができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、嵌め込み時にパッキン形状保持部の先端部が変形し易くなり、フィルタケースへの嵌め込み作業が容易となる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、フィルタ本体の上部に気体が蓄積されることがなくなり、浄水器から浄化水を取り出す際に浄化水の水切れが悪化したり、フィルタ手段のフィルタ有効面積が減少することに伴い浄化量が減少するという問題を有効に回避することができる。また請求項4の発明によれば、蓋部材をドーム型としてその中央部に気体選択透過膜を設けたことにより、気体を中央部に集めて確実に排除することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図4は、本実施形態における浄水器用セラミックフィルタカートリッジの全体構成図、図5は、本実施形態における浄水器用セラミックフィルタカートリッジの模式的な断面説明図、図6は、図4のB−B方向矢視断面図、図7は本発明に用いられるフィルタ本体1の構造説明図であって、図7(a)は平面図、図7(b)は側面図である。
【0016】
図4および図5において、1はフィルタ本体、2はフィルタケース、3は蓋部材、4は気体選択透過膜、5は弾性材料からなるリング状パッキン、5aはリング状パッキン5の外周部に突設されたパッキン形状保持部を示している。また図4に示される7は外蓋、10は活性炭充填部である。
【0017】
本発明の浄水器用セラミックフィルタカートリッジは、フィルタ本体1をフィルタケース2に内部に嵌め込み、フィルタケース2の上部に螺合される外蓋7により固定した構造を有するものである。なお、フィルタケース2は成形性が容易で、かつ、使用後の回収リサイクルが容易な、PP、ABS、PVDF等の合成樹脂製のフィルタケースとすることが好ましい。
【0018】
図7に示すように、フィルタ本体1は円柱状の多孔質セラミック体からなり、その軸線方向に内周面をろ過面とした多数の貫通孔9を形成したモノリス構造を有する。多孔質セラミック体は例えばアルミナ質であり、その下端面が原水流入部である。フィルタケース2の下端の原水流入口11から供給された水道水等の原水は、下部の活性炭充填部10を通過する際に臭気成分や色度成分を除去されたうえでフィルタ本体1の下面から貫通孔9内に流入し、貫通孔9の内周面でろ過される。なお、フィルタ本体1の上端面のうち、貫通孔9以外の部分は全て目封じされた水流出阻止部となっている。フィルタ本体1の上部は蓋部材3により封鎖されているので、原水は外部に流出することができずにデッドエンドろ過されることとなる。ろ過水である浄化水は多孔質のフィルタ本体1の内部を通過し、側面に形成された浄水排出部Sから外周部に排出される。なお、フィルタ本体1の内部を浄化水が流れ易くするために、図7(a)に示すようにフィルタ本体1の内部には貫通孔9の形成されていない部分が所定幅で複数形成されている。
【0019】
図4に示すように、蓋部材3は好ましくは気体が中央部に集まり易いドーム型とし、その中央部に気体選択透過膜4が設けられている。気体選択透過膜4は複数の孔が開いた円板6の裏面に溶着されており、フィルタケース2の上端に螺合される外蓋7の裏面に突設したリブ8によって、蓋部材3の上面に押付けられている。なお蓋部材3はフィルタ本体1の上端面Z2の全体を覆うように配置されている。気体選択透過膜4の種類は、水を通過させずに気体(空気)のみを長期間有効に透過し得るものであれば特に制限はないが、例えば、5〜20nmの孔径を有する膜から構成されたものを好適例として挙げることができる。このようなナノサイズの孔を有する膜の具体例としては、例えば、(株)ナック製、商品名:モノトランフィルムを挙げることができる。これは、ポリプロピレン(PP)又はポリエチレンテレフタレート(PET)製で、厚さが25〜200μmのフィルムに、孔径が5〜20nmの連通孔が形成されたものである。この構成によって気体がフィルタカートリッジの内部に溜まることを防止し、水切れを良くするとともにろ過面積の減少を防止することができる。
【0020】
上記のようなフィルタ本体1は、下端部周縁と上端部周縁とをリング状パッキンに保持された状態でフィルタケース2の内部にはめ込まれ、外蓋7と蓋部材3によって下方に押し付けられている。下部のリング状パッキンは通常の形状であるが、上部のリング状パッキン5の外周面には前記フィルタケースと線接触または点接触するパッキン形状保持部が周方向に所定ピッチで突設されている。パッキン形状保持部5aは図6に示すように、フィルタケース2の内周面と線接触または点接触する水平断面形状を有するものであることが好ましい。なお、パッキン形状保持部5aの垂直断面形状は、図8に示すように、四角形(図8(a))、三角形(図8(b))、半円形(図8(c))等、いずれの形状であってもよい。パッキン形状保持部の形状を、このような水平断面形状とすることにより、水平断面形状を面接触形状(例えば四角形の断面等)とする場合に比べて、パッキン形状保持部5aの先端部が変形し易くなり、フィルタ本体1とフィルタケース2との隙間への押し込み作業を容易に行うことができる。なお、フィルタ本体の上端部周縁を保持するリング状パッキンとフィルタケースとの間隙Wは、家庭用浄水器の場合には0.5〜1.5mm程度である。
【0021】
パッキン形状保持部5aは、リング状パッキン5の外周面に10〜60個を均等に配置することが好ましい。10個未満では相互間の間隔が大きくなって水流によってリング状パッキンの端部がめくり上げられやすくなり、逆に60個よりも多くなると浄化水の流路断面積が不足して浄化水が流れにくくなるからである。
【0022】
下記の表1に、内径94.5mmのフィルタケースに収納されるフィルタの外周に24mmピッチで12個のパッキン形状保持部5aを設けた場合(実施例1)、同フィルタの外周に12mmピッチで24個のパッキン形状保持部5aを設けた場合(実施例2)、同フィルタの外周に8mmピッチで36個のパッキン形状保持部5aを設けた場合(実施例3)、及びパッキン形状保持部5aを設けない場合(比較例1)について、水圧0.5〜5MPaの下で通水試験を行った結果を示した。フィルタ本体1の上端部周縁を保持するリング状パッキン5とフィルタケース2との間隙Wは、全て1mmとした。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、線接触を設けない場合(比較例1)には、側面部S側から流出した浄化水の水圧が3.0MPa以上に上昇した段階で、リング状パッキンの端部がめくり上げられ、側面部S側から流出した浄化水の流路を塞いでしまい、通水が行われなくなる現象が生じた。これに対し、本発明により、パッキンリングの外周部を均等12分割以上とする間隔で線接触を設けた場合(実施例1〜3)には、側面部S側から流出した浄化水の水圧が3.0MPa以上に上昇した場合であっても、流路閉塞が防止された。特に、パッキンリングの外周部を均等36分割する間隔で線接触を設けた場合(実施例3)には、側面部S側から流出した浄化水の水圧が5.0MPaとした場合でも、リング状パッキンの端部がめくり上げられることがなく、完全にパッキン形状が保持されるため、高い浄水処理能力を安定的に実現することができた。
【0025】
なお、リング状パッキン5をフィルタ本体1とフィルタケース2との隙間へ嵌め込む作業は人手により行われるが、本発明ではリング状パッキン5の外周にパッキン形状保持部を配置したことにより、面接触の場合に比べて嵌め込み作業が容易になり、作業効率の向上を図ることができる。下記の表2に、パッキン形状保持部5aの形状を、フィルタケース2と線接触する半円形とした場合と、四角形とした場合とのそれぞれの場合につき、同一作業者による嵌め込み作業時間の比較を行った結果を示している。フィルタ本体1の上端部周縁を保持するリング状パッキン5とフィルタケース2との間隙Wは、全て1mmとした。
【0026】
【表2】

【0027】
上記したように、本発明の浄水器フィルタカートリッジによれば、フィルタ本体の上端部周縁を保持するリング状パッキンとフィルタケースとの間隙Wを広げるという手段によらずに、流路閉塞の問題を解消することができる。また気体選択透過膜を組み込んだことにより、浄化水の水切れが良くなり、フィルタ有効面積の減少に伴う浄化量の減少も防止することができる。これによってフィルタカートリッジのサイズを変更することなく、浄化水流量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】従来の浄水器用セラミックフィルタカートリッジの垂直断面説明図である。
【図2】従来の浄水器用セラミックフィルタカートリッジの垂直断面説明図である。
【図3】従来の浄水器用セラミックフィルタカートリッジの垂直断面説明図である。
【図4】本実施形態における浄水器用セラミックフィルタカートリッジの全体構成図である。
【図5】本発明の浄水器用セラミックフィルタカートリッジの垂直断面説明図である。
【図6】図4のB−B方向矢視断面図である。
【図7】フィルタ本体の構造説明図である。
【図8】パッキン形状保持部の垂直断面形状の説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 フィルタ本体
2 フィルタケース
3 蓋部材
4 気体選択透過膜
5 リング状パッキン
5a パッキン形状保持部
6 円板
7 外蓋
8 リブ
9 貫通孔
10 活性炭充填部
11 原水流入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の多孔質セラミック体の軸線方向に、内周面をろ過面とした多数の貫通孔を形成し、前記多孔質セラミック体の下端面を原水流入部、上端面を水流出阻止部とし、側面部に浄水排出部を形成したフィルタ本体と、該フィルタ本体を収納するフィルタケースとからなる浄水器フィルタカートリッジであって、
該フィルタ本体は下端部周縁と上端部周縁とをリング状パッキンに保持された状態でフィルタケースの内部にはめ込まれ、
上部のリング状パッキンの外周面には、前記フィルタケースと線接触または点接触するパッキン形状保持部を、周方向に所定ピッチで突設したことを特徴とする浄水器フィルタカートリッジ。
【請求項2】
パッキン形状保持部は、フィルタケースと線接触する円弧状または三角状の水平断面を有することを特徴とする請求項1記載の浄水器フィルタカートリッジ。
【請求項3】
フィルタ本体の上部には、気体選択透過膜を備えた蓋部材を密着配置したことを特徴とする請求項1記載の浄水器フィルタカートリッジ。
【請求項4】
蓋部材がドーム型であり、その中央部に気体選択透過膜を設けたことを特徴とする請求項3記載の浄水器フィルタカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−142764(P2010−142764A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324892(P2008−324892)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】